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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083081
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】発電システムおよび制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/14 20060101AFI20240613BHJP
   H02M 7/487 20070101ALI20240613BHJP
   H02P 9/30 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H02P9/14 B
H02M7/487
H02P9/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197389
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】児山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】金田 大成
(72)【発明者】
【氏名】石月 照之
(72)【発明者】
【氏名】森 淳二
【テーマコード(参考)】
5H590
5H770
【Fターム(参考)】
5H590AB01
5H590CA12
5H590CA14
5H590CC10
5H590CD01
5H590CD03
5H590CE01
5H590FA08
5H590FC12
5H590FC26
5H590GA07
5H590HA02
5H590HA27
5H770CA02
5H770CA03
5H770CA08
5H770DA32
5H770JA17Z
(57)【要約】
【課題】中性点の電位変動の影響を排除して安定に運転することが可能な発電システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る発電システムは、電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、インバータに接続される誘導発電機と、電力系統の系統電圧および誘導発電機から電力系統へ出力される無効電力の少なくとも一方と、誘導発電機のすべりとの関係に応じて、すべりの絶対値を低下させるように電力変換器を制御する制御装置と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、
前記インバータに接続される誘導発電機と、
前記電力系統の系統電圧および前記誘導発電機から前記電力系統へ出力される無効電力の少なくとも一方と、前記誘導発電機のすべりとの関係に応じて、前記すべりの絶対値を低下させるように前記電力変換器を制御する制御装置と、
を備える、発電システム。
【請求項2】
前記系統電圧および前記すべりが許容範囲外である場合に、前記制御装置は、前記すべりの絶対値を前記許容範囲内に低下させるように前記電力変換器を制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記系統電圧に対応する前記誘導発電機の固定子電圧および前記すべりが許容範囲外である場合に、前記制御装置は、前記すべりの絶対値を前記許容範囲内に低下させるように前記電力変換器を制御する、請求項2に記載の発電システム。
【請求項4】
前記無効電力および前記すべりが許容範囲外である場合に、前記制御装置は、前記すべりの絶対値を前記許容範囲内に低下させるように前記電力変換器を制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記系統電圧および前記すべりが第1許容範囲内であるか否か判定し、かつ、前記無効電力および前記すべりが第2許容範囲外であるか否かを判定し、
前記系統電圧および前記すべりが前記第1許容範囲外である場合、または前記無効電力および前記すべりが前記第2許容範囲外である場合に、前記制御装置は、前記すべりの絶対値を前記第1許容範囲内および前記第2許容範囲内に低下させるように前記電力変換器を制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項6】
前記発電システムの運転モードが、前記無効電力を前記電力系統に出力する調相運転であるときに、前記制御装置は、前記すべりの絶対値を低下させるように前記電力変換器を制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記発電システムの運転モードが前記調相運転であるか否かを判定する処理を省略して、前記すべりの絶対値を低下させるように前記電力変換器を制御する、請求項6に記載の発電システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記すべりの絶対値を予め定められた値に低下させる、請求項1に記載の発電システム。
【請求項9】
電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、前記インバータに接続される誘導発電機と、を備える発電システムに設けられる制御装置であって、
前記電力系統の系統電圧および前記誘導発電機から前記電力系統へ出力される無効電力の少なくとも一方と、前記誘導発電機のすべりとの関係に応じて、前記すべりの絶対値を低下させるすべり設定部と、
前記すべりが、前記すべり設定部で設定された値となるように前記電力変換器を制御する駆動制御部と、
を備える制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発電システムおよび制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速な出力制御で電力系統の安定化に寄与する可変速揚水発電システムが、世界的に開発されて導入されている。可変速揚水発電システムには、誘導発電機の二次(回転子)巻線に二次励磁変換器を接続する二次励磁変換器方式が知られている。
【0003】
二次励磁変換器には、インバータおよびコンバータ等の電力変換器が設けられている。インバータは、誘導発電機の固定子巻線に励磁電流を供給する。一方、コンバータは、インバータの直流電圧を維持するよう動作する。
【0004】
電力変換器の回路構成として中性点クランプ型(NPC:Neutral Point Clamped)が採用される場合がある。中性点クランプ型では、誘導発電機30の相毎に6つの半導体スイッチング素子が設けられるとともに、電源電圧を分圧する2つのコンデンサが設けられる。中性点クランプ型の電力変換器では、2つのコンデンサ間における中性点の電位が変動する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7068015号公報
【特許文献2】特許第7005417号公報
【特許文献3】特許第7002985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中性点の電位変動が大きいと、電力変換器を構成する半導体スイッチング素子に定格を超える電圧が印加される場合がある。この場合、半導体スイッチング素子に定格よりも大きな電圧が印加されて素子が破壊する恐れがあることに加えて、出力電圧が歪む、運転が不安定なるといった技術的課題が生じ得る。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、中性点の電位変動の影響を排除して安定に運転することが可能な発電システムおよび制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る発電システムは、電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、インバータに接続される誘導発電機と、電力系統の系統電圧および誘導発電機から電力系統へ出力される無効電力の少なくとも一方と、誘導発電機のすべりとの関係に応じて、すべりの絶対値を低下させるように電力変換器を制御する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、中性点の電位変動の影響を排除して安定に運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る発電システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】二次励磁変換器の回路構成の一例を示す図である。
図3】第1実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。
図4】中性点NPの電位変動を説明するための図である。
図5】系統電圧およびすべりの許容範囲の一例を示す図である。
図6】第2実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。
図7】無効電力およびすべりの許容範囲の一例を示す図である。
図8】第3実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。
図9】第4実施形態に係る発電システムの構成の一例を示すブロック図である。
図10】第4実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る発電システムの構成の一例を示すブロック図である。図1に示す発電システム1は、二次励磁変換器10と、制御装置20と、誘導発電機30と、水車40と、変圧器50と、遮断器60と、を備える。この発電システム1は、水車40の回転で発電する可変速揚水発電システムである。ただし、本発明に係る発電システムは、可変速揚水発電システムを含む水力発電システムだけでなく、例えば風力発電システム等の他の発電システムにも適用できる。発電システム1が、風力発電システムである場合、風車が水車40の代わりに設置される。以下、発電システム1の構成について説明する。
【0013】
二次励磁変換器10は、中性点クランプ型の電力変換器の一例であり、インバータ11、コンバータ12、第1コンデンサ13a、第2コンデンサ13b、および変圧器14を有する。ここで、図2を参照して二次励磁変換器10の回路構成について説明する。
【0014】
図2は、二次励磁変換器10の回路構成の一例を示す図である。図12に示すインバータ11およびコンバータ12の回路構成は、中性点クランプ型である。具体的には、インバータ11は、誘導発電機30の各相に対応する3つの交流端子u1、v1、w1ごとに、6つ半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S16を有する。各半導体素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。また、各半導体素子には、ダイオードが逆並列に接続されている。
【0015】
半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S14は、高電位点Pと低電位点Nとの間で直列に接続されている。そのため、半導体スイッチング素子S11のコレクタ端子が直流端子として高電位点Pに接続され、半導体スイッチング素子S14のエミッタ端子が直流端子として低電位点Nに接続される。
【0016】
また、半導体スイッチング素子S15および半導体スイッチング素子S16は、直列に接続されている。このとき、半導体スイッチング素子S15と半導体スイッチング素子S16の接続点は、高電位点Pと低電位点Nとの中間に位置する中性点NPに接続される。さらに、半導体スイッチング素子S15および半導体スイッチング素子S16は、半導体スイッチング素子S12および半導体スイッチング素子S13に対して並列に接続されている。
【0017】
半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S16の各々は、制御装置20から各素子のゲートに入力される信号に基づいてオンおよびオフする。これにより、直流端子に入力された直流電力が、交流電力に変換される。この交流電力は、交流端子u1、v1、w1から誘導発電機30に供給される。なお、半導体スイッチング素子S11~S16は、図2では1つの半導体スイッチング素子として表記されているが、複数の半導体スイッチング素子を直列接続し、同一のゲート信号で駆動することで事実上1つの素子として動作させてもよい。また、インバータ11は、同じ回路が複数並列接続されて構成されていてもよい。
【0018】
一方、コンバータ12は、3つの交流端子u2、v2、w2ごとに、6つ半導体スイッチング素子S21~半導体スイッチング素子S26を有する。各半導体素子は、インバータ11と同様に、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。また、半導体スイッチング素子S21~半導体スイッチング素子S26の各々にもダイオードが逆並列に接続されている。半導体スイッチング素子S21~半導体スイッチング素子S26の接続形態は、インバータ11と同じである。半導体スイッチング素子S21~半導体スイッチング素子S26の各々も、制御装置20から各素子のゲートに入力される信号に基づいてオンおよびオフする。これにより、電力系統90から変圧器50を介して交流端子u2、v2、w2に入力された交流電力が、インバータ11の運転に必要な直流電力に変換される。なお、半導体スイッチング素子S21~S26は、図2では1つの半導体スイッチング素子として表記されているが、複数の半導体スイッチング素子を直列接続し、同一のゲート信号で駆動することで事実上1つの素子として動作させてもよい。また、コンバータ12は、同じ回路が複数並列接続されて構成されていてもよい。
【0019】
第1コンデンサ13aは、高電位点Pと中性点NPとの間に接続される。第2コンデンサ13bは、中性点NPと低電位点Nとの間に接続される。第1コンデンサ13aおよび第2コンデンサ13bは、高電位点Pと中性点NPとの間における電源電圧VPNを、電圧Vと電圧Vとに分圧する。
【0020】
図1に戻って、変圧器14はコンバータ12の入力側に接続される。変圧器14は、入力電圧を所定の電圧に変圧する。変圧された電圧が、コンバータ12に入力される。
【0021】
続いて、制御装置20について説明する。制御装置20は、運転モード判定部21、すべり設定部22、および駆動制御部23を有する。運転モード判定部21は、二次励磁変換器10の運転モードが、調相運転モードか否かを判定する。すべり設定部22は、電力系統90の系統電圧および誘導発電機30のすべりに基づいて、誘導発電機30のすべり値を、第1すべり値または第2すべり値に設定する。第1すべり値または第2すべり値については後述する。駆動制御部23は、誘導発電機30がすべり設定部22で設定されたすべり値で回転するように、インバータ11の半導体スイッチング素子S11~S16およびコンバータ12の半導体スイッチング素子S21~S26のスイッチング動作をそれぞれ制御する。
【0022】
誘導発電機30は、巻線型の三相誘導発電機である。誘導発電機30の二次励磁巻線は、インバータ11の交流端子u、v、wに接続される。誘導発電機30の固定子巻線は、遮断器60を介して変圧器50に接続される。
【0023】
水車40は、誘導発電機30の回転軸に接続される。水車40は、ダムの放流によって生成される水流で回転する。水車40の回転力は、誘導発電機30に伝達されて電力に変換される。
【0024】
変圧器50は、誘導発電機30の出力電圧を変圧する。変圧された電圧は、遮断器70を介して送電線80で電力系統90に送電される。また、変圧器50は、電力系統90から送電線80を介して供給された交流電圧を変圧する。変圧された交流電圧は、コンバータ12に供給される。
【0025】
遮断器60は、誘導発電機30と変圧器50との間に接続される。遮断器60は、発電システム1内で異常が発生した場合に誘導発電機30と変圧器50との接続を遮断する。
【0026】
遮断器70は、変圧器50と送電線80との間に接続される。遮断器70は、電力系統90で異常が発生した場合に変圧器50と送電線80との接続を遮断する。なお、本実施形態では、変圧器14、変圧器50、遮断器60、および遮断器70は、設置されていなくてもよい。
【0027】
次に、上記のように構成された本実施形態に係る発電システム1の動作について説明する。
【0028】
図3は、第1実施形態に係る発電システム1の動作手順を示すフローチャートである。ここでは、制御装置20の動作を中心に説明する。
【0029】
まず、制御装置20の運転モード判定部21が、発電システム1が調相運転モードであるか否かを判定する(ステップS101)。ステップS101では、運転モード判定部21によって、発電システム1の運転モードが、調相運転モードまたは調相運転モード以外の運転モードに切り分けられる。調相運転モードは、二次励磁変換器10の制御によって誘導発電機30から無効電力のみを電力系統90に出力する運転モードである。調相運転モード以外の運転モードには、例えば、水車40の回転力を誘導発電機30で電力に変換する発電運転モードがある。
【0030】
発電システム1の運転モードは、オペレータの操作によって外部の中央制御指令装置(不図示)から出力される運転指令100によって決定される。この運転指令100は、制御装置20に入力される。そのため、ステップS101では、運転モード判定部21は、運転指令100の内容に基づいて、調相運転モードであるか否かを判定する。
【0031】
図4は、中性点NPの電位変動を説明するための図である。図4には、第1コンデンサ13a両端の電圧V、第2コンデンサ13b両端の電圧V、電源電圧VPNの波形が示されている。図4に示すように、電源電圧VPNは、一定であるのに対して、電圧V、電圧Vは各コンデンサの充放電に伴って変動する。これにより、中性点NPの電位も変動する。中性点NPの電位変動は、調相運転モードで大きくなる。そのため、本実施形態では、まず、運転モード判定部21が、発電システム1が調相運転モードであるか否かを判定する。
【0032】
運転モード判定部21が、発電システム1の運転モードを調相運転モードであると判定した場合(ステップS101:YES)、制御装置20のすべり設定部22が、電力系統90の系統電圧および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS102)。ステップS102では、系統電圧およびすべりの値は、運転指令100に示されている。なお、すべり設定部22は、例えば、電力系統90に設置された電圧センサの計測値から系統電圧の値を取得してもよい。さらに、すべり設定部22は、例えば、誘導発電機30に設置された速度センサの計測値からすべりの値を取得してもよいし、インバータ11の制御に使用する周波数情報からすべりの値を取得してもよい。
【0033】
図5は、系統電圧およびすべりの許容範囲の一例を示す図である。図5では、横軸は、誘導発電機30のすべり、換言すると誘導発電機30の回転速度を示す。すべり0は系統との同期速度であることを表す。一方、縦軸は、系統電圧、すなわち、電力系統90の出力電圧を示す。図5に示す領域R11が第1許容範囲に相当する。また、領域R11の外側の領域R12が、第1許容範囲外になる。
【0034】
本実施形態に係る発電システム1では、誘導発電機30のすべりの絶対値が大きくなるにつれて、中性点NPの電位変動は大きくなってしまう。また、発電システム1では、変圧器50を介して電力系統90と誘導発電機30が接続されている。そのため、電力系統90の系統電圧が高くなるにつれて、誘導発電機30の固定子電圧が高くなる。その結果、中性点NPの電位変動は大きくなってしまう。つまり、系統電圧およびすべりで特定される運転点が、図5に示す領域R11内に存在すれば、中性点NPの電位変動が発電システム1の運転に及ぼす影響は小さい。しかし、上記運転点が領域R12に存在すれば、中性点NPの電位変動が、発電システム1の運転に支障をきたすおそれがある。
【0035】
そこで、ステップS102では、図5に示す座標系の中で電力系統90の系統電圧の値と、誘導発電機30のすべりの値とで特定される運転点が、領域R11に存在する場合、すべり設定部22は、系統電圧およびすべりが許容範囲内であると判定する。反対に、この運転点が領域R12に存在する場合、すべり設定部22は、系統電圧およびすべりが許容範囲外であると判定する。なお、すべり設定部22は、すべりと系統電圧の値をパラメータとする関数式に基づいて判定してもよい。または、すべり設定部22は、すべりと系統電圧の許容値を互いに対応付けたデータテーブルを用いて判定してもよい。なお、ステップS102では、すべり設定部22は、系統電圧の代わりに誘導発電機30の固定子の電圧に基づいて判定してもよい。
【0036】
図3に戻って、ステップS101で発電システム1の運転モードが調相運転モードでない(ステップS101:NO)、すなわち発電運転モードである場合、またはステップS102で系統電圧およびすべりが許容範囲内である場合(ステップS102:YES)、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第1すべり値に設定する(ステップS103)。第1すべり値は、運転指令100で初期設定されるすべりの指令値であり、図5に示す領域R11内に存在する。
【0037】
一方、系統電圧およびすべりが許容範囲外である場合(ステップS102:NO)、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第2すべり値に設定する(ステップS104)。例えば、図5に示すように、現状のすべり値が、上限値よりも大きなすべり値sである場合、すべり設定部22は、このすべり値sを、領域R11に存在するすべり値sに変更する。このすべり値sが第2すべり値である。すべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。この場合、駆動制御部23は、誘導発電機30の回転速度を減速させるようにインバータ11およびコンバータ12を制御する。例えば、駆動制御部23は、インバータ11の出力電圧値が減少するように半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S16のゲートに入力される電圧指令値を調整する。
【0038】
また、図5に示すように、現状のすべり値が、下限値よりも小さなすべり値sである場合、すべり設定部22は、このすべり値sを、領域R11に存在するすべり値sに変更する。このすべり値sも第2すべり値に該当する。すべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。この場合、駆動制御部23は、誘導発電機30の回転速度を加速させるようにインバータ11およびコンバータ12を制御する。例えば、駆動制御部23は、インバータ11の出力電圧値が増加するように半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S16のゲートに入力される電圧指令値を調整する。
【0039】
上述したすべり値sおよびすべり値s等の第2すべり値は、事前の計算や解析による検討によって予め定められ、すべり設定部22内に数値として記憶されている。または、すべり設定部22は、第2すべり値を求める数式を保持していてもよい。この場合、すべり設定部22は、この数式に基づいて第2すべり値を算出する。
【0040】
上述したようにすべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。また、すべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。このようにすべりの絶対値が小さくなると、インバータ11の出力電圧の振幅が小さくなる。これにより、中性点NPの電位変動を抑制するための零相電圧の重畳に余裕が生まれる。そのため、中性点NPの電位変動を抑制しやすくなる。
【0041】
以上説明した本実施形態では、誘導発電機30のすべり(回転速度)が、二次励磁変換器10の中性点NPの電位変動を引き起こしやすい条件に設定されていると、すべり設定部22が、すべり値を是正する。よって、本実施形態によれば、中性点の電位変動の影響を排除して発電システム1を安定に運転することが可能となる。
【0042】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。本実施形態に係る発電システムの構成は、上述した第1実施形態に係る発電システム1(図1参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0043】
図6は、第2実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。図6に示すフローチャートのうち、ステップS202を除くステップS201、S203、およびS204の動作内容については、上述した第1実施形態のステップS101、S103、およびS104とそれぞれ同じであるため説明を省略する。以下、本実施形態に係るステップS202の動作について説明する。
【0044】
ステップS202では、制御装置20のすべり設定部22が、発電システムから電力系統90へ出力する無効電力および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する。無効電力の値は、すべり値とともに運転指令100に示されている。
【0045】
図7は、無効電力およびすべりの許容範囲の一例を示す図である。図7では、横軸は、誘導発電機30のすべり、換言すると誘導発電機30の回転速度を示す。一方、縦軸は、誘導発電機30およびインバータ11から電力系統90へ出力される無効電力を示す。図7に示す領域R21が第2許容範囲に相当する。また、領域R21の外側の領域R22が、第2許容範囲外になる。
【0046】
駆動制御部23からインバータ11に与えられる無効電力指令値が大きいと、インバータ11から誘導発電機30に供給される無効電流が大きくなる。そのため、中性点NPの電位変動が大きくなってしまう。つまり、無効電力およびすべりで特定される運転点が、図7に示す領域R21内に存在すれば、中性点NPの電位変動が発電システムの運転に及ぼす影響は小さい。しかし、上記運転点が領域R22に存在すれば、中性点NPの電位変動が、発電システムの運転に支障をきたすおそれがある。
【0047】
そこで、ステップS202では、図7に示す座標系の中で無効電力の値と、誘導発電機30のすべりの値とで特定される運転点が、領域R21に存在する場合、すべり設定部22は、無効電力およびすべりが許容範囲内であると判定する。反対に、この運転点が領域R22に存在する場合、すべり設定部22は、無効電力およびすべりが許容範囲外であると判定する。なお、すべり設定部22は、すべりと無効電力の値をパラメータとする関数式に基づいて判定してもよい。または、すべり設定部22は、すべりと無効電力の許容値を互いに対応付けたデータテーブルを用いて判定してもよい。
【0048】
ステップS202で無効電力およびすべりが許容範囲内である場合(ステップS202:YES)、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第1すべり値に設定する(ステップS203)。
【0049】
一方、ステップS202で無効電力およびすべりが許容範囲外である場合(ステップS202:NO)、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第2すべり値に設定する(ステップS204)。例えば、図7に示すように、現状のすべり値が、上限値よりも大きなすべり値sである場合、すべり設定部22は、このすべり値sを、領域R21に存在するすべり値sに変更する。このすべり値sが第2すべり値である。すべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。この場合、駆動制御部23は、誘導発電機30の回転速度を減速させるようにインバータ11およびコンバータ12を制御する。例えば、駆動制御部23は、インバータ11の出力電圧値が減少するように半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S16のゲートに入力される電圧指令値を調整する。
【0050】
また、図7に示すように、現状のすべり値が、下限値よりも小さなすべり値sである場合、すべり設定部22は、このすべり値sを、領域R11に存在するすべり値sに変更する。このすべり値sも第2すべり値に該当する。すべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。この場合、駆動制御部23は、誘導発電機30の回転速度を加速させるようにインバータ11およびコンバータ12を制御する。例えば、駆動制御部23は、インバータ11の出力電圧値が増加するように半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S16のゲートに入力される電圧指令値を調整する。
【0051】
上述したすべり値sおよびすべり値s等の第2すべり値は、事前の計算や解析による検討によって予め定められ、すべり設定部22内に数値として記憶されている。または、すべり設定部22は、第2すべり値を求める数式を保持していてもよい。この場合、すべり設定部22は、この数式に基づいて第2すべり値を算出する。
【0052】
上述したようにすべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。また、すべり値sの絶対値は、すべり値sの絶対値よりも小さい。このようにすべりの絶対値が小さくなると、インバータ11の出力電圧の振幅が小さくなる。これにより、中性点NPの電位変動を抑制するための零相電圧の重畳に余裕が生まれる。そのため、中性点NPの電位変動を抑制しやすくなる。
【0053】
以上説明した本実施形態でも、第1実施形態と同様に、誘導発電機30のすべり(回転速度)が、二次励磁変換器10の中性点NPの電位変動を引き起こしやすい条件に設定されていると、すべり設定部22が、すべり値を是正する。よって、本実施形態においても、中性点の電位変動の影響を排除して発電システムを安定に運転することが可能となる。
【0054】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。本実施形態に係る発電システムの構成は、上述した第1実施形態に係る発電システム1(図1参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
図8は、第3実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、まず、制御装置20の運転モード判定部21が、発電システムが調相運転モードであるか否かを判定する(ステップS301)。ステップS301の内容は、第1実施形態で説明したステップS101と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0056】
運転モード判定部21が、発電システムの運転モードを調相運転モードであると判定した場合(ステップS301:YES)、制御装置20のすべり設定部22が、電力系統90の系統電圧および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS302)。ステップS302の内容は、第1実施形態で説明したステップS102と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0057】
系統電圧およびすべりが許容範囲内である場合(ステップS302:YES)、すべり設定部22は、発電システムから電力系統90へ出力する無効電力および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS303)。ステップS303の内容は、第2実施形態で説明したステップS202と同じであるため、詳細な説明を省略する。なお、すべり設定部22は、ステップS303の動作をステップS302の動作よりも先に行ってもよい。すなわち、すべり設定部22は、無効電力およびすべりに基づく判定動作を、系統電圧およびすべりに基づく判定動作よりも先に行ってもよい。
【0058】
発電システムの運転モードが調相運転モードでない(ステップS301:NO)、すなわち発電運転モードである場合、または、系統電圧およびすべりが許容範囲内であり(ステップS302:YES)、かつ無効電力およびすべりが許容範囲内である(ステップS302:YES)場合、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第1すべり値に設定する(ステップS304)。第1すべり値は、運転指令100で初期設定されるすべりの指令値であり、図5に示す領域R11かつ図7に示す領域R21内に存在する。
【0059】
一方、系統電圧およびすべりが許容範囲外である場合(ステップS302:NO)、または無効電力およびすべりが許容範囲外である場合(ステップS303:NO)、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第2すべり値に設定する(ステップS305)。ステップS305では、すべり設定部22は、誘導発電機30の現状のすべり値を、図5に示す領域R11かつ図7に示す領域R21内に存在するすべり値に変更する。このとき、すべり設定部22は、例えば第1実施形態または第2実施形態で説明したようにインバータ11の各半導体スイッチング素子のゲートに入力される電圧指令値を調整して第2すべり値を設定する。
【0060】
以上説明した本実施形態では、すべり設定部22は、電力系統90の系統電圧、発電システムから電力系統へ出力する無効電力、および誘導発電機30のすべりという3つの運転条件に基づいて判定することによって、すべり値を設定する。二次励磁変換器10の中性点NPの電位変動には、これら3つの運転条件の全てが影響する。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態よび第2実施形態に比べて、中性点NPの電位変動が発生する運転条件であるか否かをより的確に判定することが可能となる。
【0061】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態に係る発電システムの構成の一例を示すブロック図である。図9では、上述した第1実施形態に係る発電システム1(図1参照)と同じ構成要素には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施形態に係る発電システム4では、制御装置20の構成が第1実施形態と異なる。具体的には、図9に示す制御装置20は、運転モード判定部21を有していない。
【0062】
図10は、第4実施形態に係る発電システムの動作手順を示すフローチャートである。上記のように、本実施形態に係る制御装置20は、運転モード判定部21を有していないので、発電システム4が調相運転であるか否かの判定動作は行われない。そのため、このフローチャートでは、まず、制御装置20のすべり設定部22が、電力系統90の系統電圧および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS401)。ステップS401の内容は、第1実施形態で説明したステップS102と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0063】
系統電圧およびすべりが許容範囲内である場合(ステップS401:YES)、すべり設定部22は、発電システム4から電力系統90へ出力する無効電力および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS402)。ステップS402の内容は、第2実施形態で説明したステップS202と同じであるため、詳細な説明を省略する。なお、本実施形態では、すべり設定部22は、ステップS402の動作をステップS401の動作よりも先に行ってもよい。すなわち、すべり設定部22は、無効電力およびすべりに基づく判定動作を、系統電圧およびすべりに基づく判定動作よりも先に行ってもよい。
【0064】
系統電圧およびすべりが許容範囲内であり(ステップS401:YES)、かつ無効電力およびすべりが許容範囲内である(ステップS402:YES)場合、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第1すべり値に設定する(ステップS403)。第1すべり値は、第3実施形態と同様に、運転指令100で初期設定されるすべりの指令値であり、図5に示す領域R11かつ図7に示す領域R21内に存在する。
【0065】
一方、系統電圧およびすべりが許容範囲外である場合(ステップS401:NO)、または無効電力およびすべりが許容範囲外である場合(ステップS402:NO)、すべり設定部22は、誘導発電機30のすべりの値を第2すべり値に設定する(ステップS404)。ステップS404では、第3実施形態と同様に、すべり設定部22は、誘導発電機30の現状のすべり値を、図5に示す領域R11かつ図7に示す領域R21内に存在するすべり値に変更する。このとき、すべり設定部22は、例えば第1実施形態または第2実施形態で説明したようにインバータ11の各半導体スイッチング素子のゲートに入力される電圧指令値を調整して第2すべり値を設定する。
【0066】
以上説明した本実施形態では、すべり設定部22は、電力系統90の系統電圧、発電システムから電力系統へ出力する無効電力、および誘導発電機30のすべりという3つの運転条件に基づいて判定することによって、すべり値を設定する。二次励磁変換器10の中性点NPの電位変動には、これら3つの運転条件の全てが影響する。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態よび第2実施形態に比べて、中性点NPの電位変動が発生する運転条件であるか否かをより的確に判定することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、発電システム4の運転モードを判定する処理が不要になる。そのため、すべり値を設定するまでの処理時間が短縮される。これにより、より迅速に発電システム4の運転を安定させることが可能となる。なお、本実施形態では、すべり設定部22は、系統電圧または無効電力のいずれか一方と、すべりに基づいてすべり値を設定してもよい。すなわち、上述した第1実施形態においてステップS101の処理を省略してもよいし、上述した第2実施形態においてステップS201の動作を省略してもよい。この場合も、制御装置20の処理時間を短縮して、発電システムの運転を迅速に安定させることが可能となる。
【0068】
以上、実施形態を幾つか説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0069】
1:発電システム
10:二次励磁変換器(中性点クランプ型の電力変換器)
11:インバータ
12:コンバータ
20:制御装置
22:すべり設定部
23:駆動制御部
30:誘導発電機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10