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特開2024-83082電池セル、およびレドックスフロー電池システム
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  • 特開-電池セル、およびレドックスフロー電池システム 図1
  • 特開-電池セル、およびレドックスフロー電池システム 図2
  • 特開-電池セル、およびレドックスフロー電池システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083082
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電池セル、およびレドックスフロー電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20240613BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197391
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康一
(72)【発明者】
【氏名】川越 吉恭
(72)【発明者】
【氏名】大矢 正幸
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018BB01
5H018DD06
5H018EE05
5H018EE06
5H018HH02
5H018HH05
5H126BB10
(57)【要約】
【課題】セル抵抗が小さく、長寿命な電池セルを提供する。
【解決手段】活物質としてバナジウムイオンを含む電解液が循環されるレドックスフロー電池システム用の電池セルであって、多孔質の正極電極と、多孔質の負極電極とを備え、前記正極電極の表面における酸素比率が、前記負極電極の表面における酸素比率よりも小さく、前記正極電極のBET比表面積が、前記負極電極のBET比表面積よりも小さい、電池セル。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質としてバナジウムイオンを含む電解液が循環されるレドックスフロー電池システム用の電池セルであって、
多孔質の正極電極と、多孔質の負極電極とを備え、
前記正極電極の表面における酸素比率が、前記負極電極の表面における酸素比率よりも小さく、
前記正極電極のBET比表面積が、前記負極電極のBET比表面積よりも小さい、
電池セル。
【請求項2】
前記正極電極の前記BET比表面積が0.1m/g以上2m/g以下であり、
前記負極電極の前記BET比表面積が5m/g以上200m/g以下である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
前記正極電極の前記BET比表面積と前記負極電極の前記BET比表面積との差が25m/g以上である、請求項2に記載の電池セル。
【請求項4】
前記正極電極の前記酸素比率が0.1%以上5%以下であり、
前記負極電極の前記酸素比率が5.5%以上15%以下である、請求項1または請求項2に記載の電池セル。
【請求項5】
前記正極電極の前記酸素比率と前記負極電極の前記酸素比率との差が4.5%以上である、請求項4に記載の電池セル。
【請求項6】
前記正極電極の目付量、および前記負極電極の目付量が共に、25g/m以上400g/m以下である、請求項1または請求項2に記載の電池セル。
【請求項7】
前記正極電極と前記負極電極はそれぞれ、複数の炭素繊維を含む炭素繊維集合体によって構成されており、
前記炭素繊維は表面に複数の襞を有し、
前記炭素繊維の断面の周長L1と、前記炭素繊維の断面に外接する仮想矩形の周長L2との比L1/L2が1超である、請求項1または請求項2に記載の電池セル。
【請求項8】
前記断面の円相当直径が5μm以上20μm以下である、請求項7に記載の電池セル。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載の電池セルと、
前記電池セルに正極電解液を循環させる第一循環機構と、
前記電池セルに負極電解液を循環させる第二循環機構と、を備え、
前記正極電解液は、正極活物質としてバナジウムイオンを含み、
前記負極電解液は、負極活物質としてバナジウムイオンを含む、
レドックスフロー電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池セル、およびレドックスフロー電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、レドックスフロー電池システムの電池セルに用いられる電極を開示する。この電池セルには、活物質としてバナジウムイオンを含む電解液が循環される。特許文献1に開示される電極は親水化されている。親水化された電極は、電解液との濡れ性に優れている。濡れ性に優れた電極と電解液との間で電荷のやり取りが円滑に行われる。そのため、親水化された電極は、電池セルのセル抵抗の増加を抑制できる。電池セルのセル抵抗が小さいと、電池セルの高出力化が可能である。
【0003】
ここで、本明細書において、電池セルの正極に用いられる電極は『正極電極』、負極に用いられる電極は『負極電極』と表記する。正極電極と負極電極とを区別しない場合、単に『電極』と表記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-030715号公報
【特許文献2】国際公開第2019/167283号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池セルの使用に伴って電池セルの性能が低下することを抑制することが望まれている。そのため、セル抵抗が小さく、かつ長期にわたって性能を維持できる長寿命な電池セルが望まれている。
【0006】
本開示は、セル抵抗が小さく、長寿命な電池セルを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電池セルは、
活物質としてバナジウムイオンを含む電解液が循環されるレドックスフロー電池システム用の電池セルであって、
多孔質の正極電極と、多孔質の負極電極とを備え、
前記正極電極の表面における酸素比率が、前記負極電極の表面における酸素比率よりも小さく、
前記正極電極のBET比表面積が、前記負極電極のBET比表面積よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電池セルは、セル抵抗が小さく、長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に記載されるレドックスフロー電池システムの動作原理図である。
図2図2は、実施形態に記載されるレドックスフロー電池システムの概略構成図である。
図3図3は、実施形態に記載される電極に含まれる炭素繊維の断面の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、活物質としてバナジウムイオンを含む電解液が循環されるレドックスフロー電池システム用の電池セルの構成を再検討した。その結果、本発明者らは、親水化された負極電極と、親水化されていない正極電極とを備える電池セルでは、電池セルのセル抵抗の増加が抑制され、かつ電池セルの性能が長期にわたって維持されるとの知見を得た。本発明者らは、この知見に基づき本開示の電池セルおよびレドックスフロー電池システムを完成させた。
【0011】
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
<1>本開示の電池セルは、
活物質としてバナジウムイオンを含む電解液が循環されるレドックスフロー電池システム用の電池セルであって、
多孔質の正極電極と、多孔質の負極電極とを備え、
前記正極電極の表面における酸素比率が、前記負極電極の表面における酸素比率よりも小さく、
前記正極電極のBET比表面積が、前記負極電極のBET比表面積よりも小さい。
【0013】
多孔質の電極は、3次元網目構造を有する骨格と、骨格の隙間によって構成される空孔とを有する。電極の親水化は例えば、酸素を含む雰囲気下で電極を熱処理することで実施される。この場合、多孔質の電極の表面に酸素官能基が付加される。電極の表面には、電極の外形を形成する外面だけでなく、電極の内部における骨格の表面も含まれる。電極の表面に付加された酸素官能基が、電極と電解液との濡れ性を向上させる。電解液との濡れ性を向上させる酸素官能基は酸素を含む官能基である。従って、電極の表面に付加された酸素原子の量によって、電極が親水化されたものか、親水化されていないものかが判断できる。本開示では、電極の表面に付加された酸素原子の量は、酸素比率によって評価される。酸素比率は、電極の表面における全ての原子の数を100%(パーセント)としたときの酸素原子の数の割合である。酸素比率は例えば、X線光電子分光法(X-Ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)によって測定され得る。
【0014】
電極の親水化によって電極の表面に微細な細孔が形成され、電極の表面積が増加する。つまり、電極の表面積は、親水化された電極と親水化されていない電極とを区別する指標の一つである。電極の表面積が大きくなるほど、電極と電解液との接触面積が大きくなる。接触面積の増加に伴い、電極の反応性が向上する。本開示では、電極の表面積の大きさが、BET比表面積によって評価される。BET比表面積は、市販の比表面積測定装置によって測定され得る。
【0015】
上記<1>に記載の電池セルでは、正極電極の酸素比率が負極電極の酸素比率よりも小さく、かつ正極電極のBET比表面積が負極電極のBET比表面積よりも小さい。代表的には、上記<1>に記載の電池セルは、親水化されていない正極電極と、親水化された負極電極とを備える。後述する試験例に示されるように、本開示の電池セルのセル抵抗は、上記<1>に規定する酸素比率の条件およびBET比表面積の条件を満たさない従来の電池セルのセル抵抗と同等程度である。
【0016】
後述する試験例に示されるように、バナジウムイオンを活物質として含む電解液が循環される電池セルでは、正極電解液の酸化力が高く、正極電極が消耗し易い。しかし、本開示の電池セルに備わる正極電極の酸素比率が低いことで、正極電極が正極電解液に濡れ難い。そのため、上記<1>に規定する条件を満たす正極電極は、バナジウムイオンを含む正極電解液によって消耗し難く、耐久性に優れる。一方、負極電解液の酸化力は正極電極の酸化力よりも低いため、負極電極が濡れ易くても負極電極は消耗し難い。消耗し難い正極電極と負極電極とを備える本開示の電池セルは、長寿命である。
【0017】
<2>上記<1>に記載される電池セルにおいて、
前記正極電極の前記BET比表面積が0.1m/g以上2m/g以下であり、
前記負極電極の前記BET比表面積が5m/g以上200m/g以下であっても良い。
【0018】
正極電極のBET比表面積が0.1m/g以上であれば、正極電極と正極電解液とが十分に接触する。そのため、正極電極と正極電解液との間の電荷のやり取りが円滑になり、正極電極の反応性が確保される。正極電極のBET比表面積が2m/g以下であれば、酸化力が高い正極電解液に正極電極が過剰に接触することを抑制できる。そのため、正極電極が消耗し難い。
【0019】
負極電極のBET比表面積が5m/g以上であれば、負極電極と負極電解液とが十分に接触する。そのため、負極電極と負極電解液との間の電荷のやり取りが円滑になり、負極電極の反応性が確保される。バナジウムイオンを含む負極電解液の酸化力は、バナジウムイオンを含む正極電解液の酸化力よりも低い。そのため、負極電解液によって負極電極は消耗し難い。負極電極のBET比表面積が200m/g以下であれば、負極電極が消耗し難い。
【0020】
<3>上記<1>または<2>に記載される電池セルにおいて、
前記正極電極の前記BET比表面積と前記負極電極の前記BET比表面積との差が25m/g以上であっても良い。
【0021】
正極電極のBET比表面積と負極電極のBET比表面積の差が25m/g以上であれば、電池セルのセル抵抗の増加が抑制され易く、電池セルの寿命が延び易い。
【0022】
<4>上記<1>から<3>のいずれかに記載される電池セルにおいて、
前記正極電極の前記酸素比率が0.1%以上5%以下であり、
前記負極電極の前記酸素比率が5.5%以上15%以下であっても良い。
【0023】
正極電極の酸素比率が0.1%以上であれば、正極電極に対して正極電解液が適度に濡れる。そのため、正極電極が消耗し難く、正極電極と正極電解液との間の電荷のやり取りも円滑になる。正極電極の酸素比率が5%以下であれば、正極電極に対して正極電解液が過剰に濡れることが抑制される。
【0024】
負極電極の酸素比率が5.5%以上であれば、負極電極に対する負極電解液の濡れ性が向上する。そのため、負極電極と負極電解液との間の電荷のやり取りが円滑になる。負極電極の酸素比率が15%以下であれば、負極電極の消耗が抑制され易い。
【0025】
<5>上記<1>から<4>のいずれかに記載される電池セルにおいて、
前記正極電極の前記酸素比率と前記負極電極の前記酸素比率との差が4.5%以上であっても良い。
【0026】
正極電極の酸素比率と負極電極の酸素比率との差が4.5%以上であれば、電池セルのセル抵抗の増加が抑制され易く、電池セルの寿命が延び易い。
【0027】
<6>上記<1>から<5>のいずれかに記載される電池セルにおいて、
前記正極電極の目付量、および前記負極電極の目付量が共に、25g/m以上400g/m以下であっても良い。
【0028】
目付量は、電極の単位面積当たりの質量である。電極の目付量が25g/m以上であれば、電極の導電性が確保され易い。電極の目付量が400g/m以下であれば、電極における空隙が確保され易い。
【0029】
<7>上記<1>から<6>のいずれかに記載される電池セルにおいて、
前記正極電極と前記負極電極はそれぞれ、複数の炭素繊維を含む炭素繊維集合体によって構成されており、
前記炭素繊維は表面に複数の襞を有し、
前記炭素繊維の断面の周長L1と、前記炭素繊維の断面に外接する仮想矩形の周長L2との比L1/L2が1超であっても良い。
【0030】
炭素繊維は導電性に優れる。表面に複数の襞を有する炭素繊維は電解液に適度に接触する。そのため、電極の反応性が向上し易い。炭素繊維集合体によって構成される電極は十分な空隙を備える。そのため、電極の内部に十分に電解液が浸透する。これらの要因によって、上記<7>に記載の電池セルでは、セル抵抗の増加が抑制され易い。
【0031】
<8>上記<7>に記載される電池セルにおいて、
前記断面の円相当直径が5μm以上20μm以下であっても良い。
【0032】
炭素繊維の断面の円相当直径は、炭素繊維の断面の面積に等しい円の直径である。円相当直径が5μm以上であれば、炭素繊維の強度が十分に確保される。円相当直径が20μm以下であれば、炭素繊維集合体の空隙が小さくなり過ぎず、電極に電解液が浸透し易い。
【0033】
<9>本開示のレドックスフロー電池システムは、
上記<1>から<8>のいずれかに記載の電池セルと、
前記電池セルに正極電解液を循環させる第一循環機構と、
前記電池セルに負極電解液を循環させる第二循環機構と、を備え、
前記正極電解液は、正極活物質としてバナジウムイオンを含み、
前記負極電解液は、負極活物質としてバナジウムイオンを含む。
【0034】
本開示のレドックスフロー電池は、本開示の電池セルを備える。本開示の電池セルのセル抵抗は低く、本開示の電池セルに含まれる正極電極と負極電極は消耗し難い。従って、本開示のレドックスフロー電池は、高出力でかつ長寿命である。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の電池セルおよびレドックスフロー電池システムの具体例を図面に基づいて説明する。実施形態では、レドックスフロー電池をRF電池システムと表記する。図中の同一符号は同一または相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0036】
<実施形態1>
≪RF電池システムの概要≫
図1および図2に基づいて、実施形態1に係るRF電池システム1を説明する。RF電池システム1は、電解液循環型の蓄電池の一つである。図1に示されるRF電池システム1は、正極電解液に含まれる正極活物質と、負極電解液に含まれる負極活物質の価数変化によって充電および放電を行う。本例における正極活物質および負極活物質は、酸化還元により価数が変化するバナジウムイオンである。図1における実線矢印は充電を意味し、破線矢印は放電を意味する。
【0037】
RF電池システム1は、図1に示されるように、電力変換器80を介して電力系統90に接続される。図1では、電力変換器80は、電力系統の変電設備81に接続されている。電力変換器80は、交流/直流変換器、または直流/直流変換器などである。RF電池システム1は、発電部91で発電された電力を充電する、あるいは充電した電力を負荷92に放電する。発電部91は例えば、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを利用した発電設備、または一般の発電所である。RF電池システム1は例えば、負荷平準化用途、瞬低補償、非常用電源などの用途、または自然エネルギー発電の出力平滑化用途に利用される。
【0038】
≪RF電池システムの構造≫
RF電池システム1は、電池セル10と第一循環機構11と第二循環機構12とを備える。電池セル10は充電および放電を担う。第一循環機構11は正極電解液を循環させる。第二循環機構12は負極電解液を循環させる。
【0039】
電池セル10は、隔膜101によって正極セル102と負極セル103とに分離されている。隔膜101は、電子を透過しないが、例えば水素イオン(Hイオン)を透過するイオン交換膜である。水素イオンによって正極セル102と負極セル103との間で電荷がやり取りされる。正極セル102には多孔質の正極電極2が内蔵されている。負極セル103には多孔質の負極電極3が内蔵されている。正極セル102には、第一循環機構11によって正極電解液が供給される。負極セル103には、第二循環機構12によって負極電解液が供給される。
【0040】
第一循環機構11は、図1および図2に示されるように、タンク110と第一配管111と第二配管112とポンプ113とを備える。タンク110には、正極活物質としてバナジウムイオンを含む正極電解液が貯留される。第一配管111は、タンク110から電池セル10に向かう正極電解液の流路である。第二配管112は、電池セル10からタンク110に向かう正極電解液の流路である。ポンプ113は第一配管111の途中に設けられている。タンク110内の正極電解液は、ポンプ113によって第一配管111を通って正極セル102に供給される。正極セル102から排出された正極電解液は、第二配管112を通ってタンク110に戻される。
【0041】
第二循環機構12は、タンク120と第一配管121と第二配管122とポンプ123とを備える。タンク120には、負極活物質としてバナジウムイオンを含む負極電解液が貯留される。第一配管121は、タンク120から電池セル10に向かう負極電解液の流路である。第二配管122は、電池セル10からタンク120に向かう負極電解液の流路である。ポンプ123は第一配管121の途中に設けられている。タンク120内の負極電解液は、ポンプ123によって第一配管121を通って負極セル103に供給される。負極セル103から排出された負極電解液は、第二配管122を通ってタンク120に戻される。
【0042】
RF電池システム1は通常、図2に示されるように、複数の電池セル10が積層されたセルスタック100を備える。セルスタック100は、セルフレーム4、正極電極2、隔膜101、負極電極3の順に繰り返し積層された積層体を備える。その積層体の両端には給排板200が配置されている。給排板200には、第一循環機構11の第一配管111と第二配管112、および第二循環機構12の第一配管121と第二配管122が接続される。セルスタック100における電池セル10の積層数は適宜選択できる。
【0043】
図2に示されるように、セルフレーム4は、双極板41と枠体42とを備える。双極板41の第一の面には、正極電極2が向かい合うように配置される。双極板41の第二の面には、負極電極3が向かい合うように配置される。枠体42は、双極板41の外周縁を支持する。枠体42の内側には、正極電極2および負極電極3が双極板41を挟んで収納される。隣り合う二つのセルフレーム4の双極板41の間に、隔膜101を挟んで正極電極2および負極電極3が配置されることにより、1つの電池セル10が形成される。
【0044】
≪正極電解液と負極電解液≫
正極電解液および負極電解液は活物質を含む溶液であって、例えば、硫酸(HSO)水溶液、リン酸(HPO)水溶液、または硝酸(HNO)水溶液である。硫酸、リン酸、および硝酸は、電池反応に関与する水素イオンの濃度を増加させる。硫酸水溶液にリン酸が含まれていても良い。
【0045】
正極電解液に含まれる正極活物質は、バナジウム(V)イオンである。Vイオンは具体的には、V4+およびV5+である。充電時にV4+が酸化され、V5+になる。放電時にV5+が還元され、V4+になる。負極電解液に含まれる負極活物質は、V2+およびV3+である。充電時にV3+が還元され、V2+になる。放電時にV2+が酸化され、V3+になる。正極電解液の酸化力は、負極電解液の酸化力よりも高い。
【0046】
≪正極電極と負極電極≫
多孔質の正極電極2および負極電極3は、3次元網目構造を有する骨格と、骨格の隙間によって構成される空孔とを備える。本例では、正極電極2の酸素比率が負極電極3の酸素比率よりも小さく、正極電極のBET比表面積が負極電極3のBET比表面積よりも小さい。本例の正極電極2および負極電極3は、複数の炭素繊維を含む。
【0047】
負極電極3は、代表的には負極電極3を親水化することで作製される。負極電極3の親水化は、負極電極3の表面に酸素官能基を導入するために行われる。酸素官能基は例えば、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、またはフリーラジカル的な酸化物である。酸素官能基は、負極電解液に対する負極電極3の濡れ性を向上させる。酸素官能基は酸素を含む。親水化は例えば、酸素を含む雰囲気下で負極電極3を熱処理することで実施される。その他、親水化は、湿式の化学酸化、または電解酸化によって実施されても良い。
【0048】
負極電極3が親水化されると、負極電極3の表面の酸素比率が大きくなる。そのため、負極電極3の表面の酸素原子の量を測定することで、負極電極3が親水化されていることを判別し得る。負極電極3の表面は、負極電極3を構成する骨格の表面である。つまり、負極電極3の表面には、負極電極3の外形を形成する外面だけでなく、負極電極3の内部の空孔を形成する骨格の表面も含まれる。本例では、負極電極3の表面に付加された酸素原子の量は、酸素比率よって評価される。負極電極3の酸素比率は、負極電極3の表面における全ての原子の数を100%(パーセント)としたときの酸素原子の数の割合である。酸素比率は例えば、XPSによって測定される。
【0049】
負極電極3の酸素比率は例えば、5.5%以上15%以下である。負極電極3の酸素比率が5.5%以上であれば、負極電極3に対する負極電解液の濡れ性が向上する。そのため、負極電極3と負極電解液との間の電荷のやり取りが円滑になる。負極電極3の酸素比率が15%以下であれば、負極電極3の消耗が抑制され易い。負極電極3の酸素比率は例えば、6%以上12%以下でも良いし、7%以上10%以下でも良い。
【0050】
負極電極3が親水化されると、負極電極3のBET比表面積が大きくなる。そのため、負極電極3のBET比表面積を測定することで、負極電極3が親水化されていることを判断し得る。親水化における熱処理によって、炭素繊維によって構成される負極電極3の表面に微細な細孔が形成され、負極電極3の表面積が増加する。BET比表面積は例えば、市販の比表面積測定装置によって測定される。
【0051】
負極電極3のBET比表面積は例えば、5m/g以上200m/g以下である。負極電極3のBET比表面積が5m/g以上であれば、負極電極3と負極電解液とが十分に接触する。そのため、負極電極3と負極電解液との間の電荷のやり取りが円滑になり、負極電極3の反応性が確保される。バナジウムイオンを含む負極電解液の酸化力は、バナジウムイオンを含む正極電解液の酸化力よりも低い。そのため、負極電解液によって負極電極3は消耗し難い。負極電極3のBET比表面積が200m/g以下であれば、負極電極3が負極電解液によって消耗し難い。負極電極3のBET比表面積は例えば、10m/g以上150m/g以下でも良いし、20m/g以上100m/g以下でも良い。
【0052】
正極電極2の表面における酸素官能基は、負極電極3よりも少ない。そのため、正極電極2の表面の酸素比率は、負極電極3の表面の酸素比率よりも小さい。このような正極電極2は例えば、正極電極2を親水化しないことで製造できる。正極電極2の表面の酸素原子の量を測定することで、正極電極2が親水化されていることを判別し得る。
【0053】
正極電極2の酸素比率は例えば、0.1%以上5%以下である。正極電極2の酸素比率が0.1%以上であれば、正極電極2に対して正極電解液が適度に濡れる。そのため、正極電極2が消耗し難く、正極電極2と正極電解液との間の電荷のやり取りも円滑になる。正極電極2の酸素比率が5%以下であれば、正極電極2に対して正極電解液が過剰に濡れることが抑制される。正極電極2の酸素比率は例えば、0.2%以上4%以下でも良いし、0.5%以上4%以下でも良いし、1%以上3%以下でも良い。
【0054】
親水化された正極電極2のBET比表面積は、親水化前の正極電極2のBET比表面積よりも大きくなる。そのため、正極電極2のBET比表面積を測定することによって、正極電極2が親水化されていないことを判別し得る。親水化されていない正極電極2のBET比表面積は、親水化された負極電極3のBET比表面積よりも低い。
【0055】
正極電極2のBET比表面積は例えば、0.1m/g以上2m/g以下である。正極電極2のBET比表面積が0.1m/g以上であれば、正極電極2と正極電解液とが十分に接触する。そのため、正極電極2と正極電解液との間の電荷のやり取りが円滑になり、正極電極2の反応性が確保される。正極電極2のBET比表面積が2m/g以下であれば、酸化力が高い正極電解液に正極電極2が過剰に接触することを抑制できる。そのため、正極電極2が消耗し難い。正極電極2のBET比表面積は例えば、0.2m/g以上1.8m/g以下でも良いし、0.5m/g以上1.7m/g以下でも良い。
【0056】
正極電極2の表面の酸素比率および正極電極2のBET比表面積がそれぞれ、負極電極3の表面の酸素比率および負極電極3のBET比表面積よりも小さい電池セル10では、セル抵抗の増加が抑制される。本例の電池セル10は、親水化されていない正極電極2と、親水化された負極電極3とを備える。後述する試験例に示されるように、本例の電池セル10のセル抵抗は、正極電極と負極電極の両方が親水化された電池セルのセル抵抗と同等程度である。
【0057】
本例の電池セル10では、親水化されてない正極電極2が、酸化力が高い正極電解液に濡れ難く、正極電解液に対する正極電極2の接触面積が小さい。そのため、正極電極2が正極電解液によって消耗し難い。また、親水化された負極電極3に接触する負極電解液の酸化力は、正極電解液の酸化力よりも低い。親水化された負極電極3が負極電解液に濡れ易く、負極電解液に対する負極電極3の接触面積が大きくても、負極電極3が消耗し難い。本例の電池セル10では正極電極2および負極電極3が消耗し難く、本例の電池セル10は長寿命である。
【0058】
本例の電池セル10において、正極電極2の酸素比率と負極電極3の酸素比率との比率差は例えば4.5%以上である。上記比率差が4.5%以上であれば、電池セル10のセル抵抗の増加が抑制され易く、電池セル10の寿命が延び易い。上記比率差は例えば5%以上でも良いし、6%以上でも良いし、7%以上でも良い。
【0059】
本例の電池セル10において、正極電極2のBET比表面積と負極電極3のBET比表面積の面積差は例えば25m/g以上である。上記面積差が25m/g以上であれば、電池セル10のセル抵抗の増加が抑制され易く、電池セル10の寿命が延び易い。上記面積差は例えば、30m/g以上でも良いし、35m/g以上でも良い。
【0060】
正極電極2と負極電極3に共通する構成を説明する。以下、代表して正極電極2の構成を説明する。負極電極3の構成も、正極電極2と同じである。
【0061】
正極電極2の目付量の一例は、25g/m以上400g/m以下である。正極電極2の目付量が25g/m以上であれば、正極電極2の導電性が確保され易い。正極電極2の目付量が400g/m以下であれば、正極電極2における空隙が確保され易い。正極電極2の目付量は例えば、30g/m以上でも良いし、40g/m以上でも良い。正極電極2の目付量は、50g/m以上400g/m以下でも良いし、60g/m以上200g/m以下でも良いし、80g/m以上150g/m以下でも良い。目付量は、単位面積当たりの正極電極2の重量を測定して求める。
【0062】
正極電極2は、複数の炭素繊維を含む炭素繊維集合体によって構成されている。炭素繊維集合体は例えば、フェルト、織布、またはペーパーである。フェルトは、独立した炭素繊維を交絡させたものである。織布は、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り合わせたものである。ペーパーは、複数の炭素繊維と、炭素繊維を固定するバインダーとを有するものである。
【0063】
炭素繊維は例えば、有機繊維を炭素化工程に供した後、黒鉛化工程に供することで製造される。有機繊維は例えば、ポリアクリロニトリル繊維、ピッチ繊維、またはレーヨン繊維である。炭素化工程は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気で熱処理する工程である。熱処理の温度は例えば1000℃以上2000℃以下である。黒鉛化工程は、炭化物の結晶性を高めるために実施される。黒鉛化工程は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気で熱処理する工程である。黒鉛化工程の温度は、炭素化工程の温度よりも高温である。黒鉛化工程の温度は例えば1800℃以上である。
【0064】
図3は、炭素繊維5を炭素繊維5の長さと直交する平面で切断した断面50である。図3に示されるように、炭素繊維5は複数の襞51を有していても良い。断面50において時計回りに並ぶ二つの襞51の間には溝部52が形成されている。襞51は、炭素繊維5の長さに沿って延びている。そのため、溝部52も、炭素繊維5の長さに沿って延びている。襞51および溝部52は、炭素繊維5の長さに沿って直線状に延びていても良いし、長さに対して交差するように伸びていても良い。襞51は、炭素繊維5の表面積を増加させることで、炭素繊維5と電解液との接触面積を増加させる。炭素繊維5は襞51を有していなくても良い。その場合、炭素繊維5の断面50は例えば楕円形または円形である。
【0065】
炭素繊維5の断面50の周長L1と、炭素繊維5の断面50に外接する仮想矩形Rの周長L2との比L1/L2は例えば1超である。複数の襞51を有する炭素繊維5では、比L1/L2が1超となり易い。炭素繊維5の断面50が円形に近くなるほど、断面50の周長L1よりも仮想矩形Rの周長L2が大きくなり易い。すなわち、円形に近い断面50を有する炭素繊維5では、比L1/L2が1以下となり易い。
【0066】
比L1/L2が1超であれば、炭素繊維5と電解液との接触面積が十分に確保され、炭素繊維5と電解液との反応性が向上する。炭素繊維5の表面積は周長L1に比例することから、比L1/L2が大きいほど、炭素繊維5と電解液との反応面積が増える。比L1/L2は例えば1.1以上である。但し、比L1/L2が大き過ぎる場合、襞51の数が多くなり、襞51同士がひっついたり、襞51間の隙間が狭くなったりする恐れがある。そのため、襞51間の隙間に電解液が入り込み難くなり、電解液との反応面積を増やす効果が得られ難くなる恐れがある。比L1/L2は、例えば2以下である。比L1/L2は例えば、1.8以下、1.6以下、または1.4以下である。
【0067】
図3を参照して、炭素繊維5の断面50に外接する仮想矩形Rの求め方を具体的に説明する。断面50を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)などで観察し、得られた断面観察像から炭素繊維5の断面50の輪郭を抽出する。そして、一対の平行線で炭素繊維5の輪郭を挟んだとき、その平行線の間隔が最小距離となる平行線の組を求めた後、これに直交する一対の平行線で炭素繊維5の輪郭を挟んだとき、その平行線の間隔が最大距離となる平行線の組を求める。これら二組の平行線で囲まれる矩形を仮想矩形Rとする。
【0068】
炭素繊維5の断面50の周長L1は、断面観察像を画像解析することにより計測できる。比L1/L2は、次のようにして測定する。複数の炭素繊維5について、それぞれの断面50の周長L1を計測すると共に、各断面50の仮想矩形Rを求めて、それぞれの仮想矩形Rの周長L2を計測する。そして、各炭素繊維5の比L1/L2を算出し、その平均値とする。測定する炭素繊維5の数は、例えば3本以上、または5本以上である。
【0069】
上記断面50を有する炭素繊維5の円相当直径は例えば、5μm以上20μm以下である。円相当直径は、断面50の面積に等しい円の直径である。円相当直径は、3本以上の炭素繊維5の円相当直径の平均値である。円相当直径が5μm以上であれば、炭素繊維5の強度が十分に確保される。円相当直径が20μm以下であれば、正極電極2の空隙が小さくなり過ぎず、正極電極2に正極電解液が浸透し易い。円相当直径は例えば、7μm以上18μm以下でも良いし、8μm以上15μm以下でも良い。測定する炭素繊維5の数は、例えば3本以上、または5本以上である。
【0070】
ここで、負極電極3はさらに親水化工程に供される。親水化工程は、負極電極3の表面に酸素官能基を付加するために行われる。親水化工程は例えば、湿式の化学酸化、電解酸化、または乾式酸化である。乾式酸化は、負極電極3の製造コストを低下させる。乾式酸化は、酸素を含む雰囲気、例えば大気雰囲気で熱処理する工程である。熱処理の温度は例えば、500℃以上900℃以下である。親水化工程に伴い、負極電極3の表面における酸素比率が増加し、かつ負極電極3のBET比表面積が増加する。
【0071】
上述した電池セル10を備えるRF電池システム1は、高出力かつ長寿命である。なぜなら、電池セル10のセル抵抗が低く、電池セル10に含まれる正極電極2と負極電極3が消耗し難いからである。
【0072】
<試験例1>
試験例1では、正極電極および負極電極の親水化の有無が、電池セルのセル抵抗に及ぼす影響を調べた。
【0073】
試験例1で用意された電池セルの種類は3種類である。第一の電池セルは、親水化された正極電極、および親水化された負極電極を備える。第二の電池セルは、親水化されていない正極電極、および親水化された負極電極を備える。第三の電池セルは、親水化された正極電極、および親水化されていない負極電極を備える。正極電極および負極電極は、有機繊維を炭素化工程および黒鉛化工程に供することで得られたものである。全ての電池セルの正極電極と負極電極の構成は、親水化の有無以外は同じである。親水化工程は、600℃の大気雰囲気による熱処理であった。
【0074】
各電池セルのセル抵抗率(Ω・cm)を測定した。セル抵抗率の測定手順は以下の通りである。各試料の電池セルを用いて、電流密度が256mA/cmの定電流で充電および放電を行った。この試験では、複数サイクルの充電および放電を行った。試験では、切替電圧の上限と下限を設定し、充電時に電圧が上限に達したら放電に切り替え、放電時に電圧が下限に達したら充電に切り替えた。各サイクルの放電後、各試料についてセル抵抗率(Ω・cm)を求めた。セル抵抗率は、複数サイクルのうち、任意の1サイクルにおける充電時平均電圧および放電時平均電圧を求め、{(充電時平均電圧と放電時平均電圧の差)/(平均電流/2)}×セル有効面積によって求めた。電解液の温度は35℃であった。セル抵抗率の測定結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示されるように、負極電極のみが親水化された第二の電池セルのセル抵抗率は、正極電極と負極電極の両方が親水化された第一の電池セルのセル抵抗率よりも若干低かった。このことから、正極電極が親水化されていなくても、電池セルのセル抵抗の増加が抑制されることが分かった。
【0077】
正極電極のみが親水化された第三の電池セルのセル抵抗率は、他の二つの電池セルのセル抵抗率よりも高かった。この理由は、負極電極が親水化されていないことで、負極電極と負極電解液との間で電荷のやり取りが円滑ではなかったためと推察される。
【0078】
<試験例2>
試験例2では、正極電極の構成が、電池セルのセル抵抗に及ぼす影響を調べた。用意された電池セルの種類は以下の9種類である。以下の説明におけるフェルトA、B,C,Dは、炭素繊維によって構成されるフェルトを炭素化し、黒鉛化したものである。ペーパーA,B,Cは、炭素繊維によって構成されるペーパーを炭素化し、黒鉛化したものである。
【0079】
・フェルトA…フェルトAを構成する炭素繊維5は図3に示されるように襞51を有する。この炭素繊維5における比L1/L2は1超である。
・フェルトB…フェルトBを構成する炭素繊維5は図3に示されるように襞51を有する。この炭素繊維5における比L1/L2は1超である。フェルトBはフェルトAとは目付量が異なる。
・フェルトC…フェルトCを構成する炭素繊維の表面には襞がなく、炭素繊維の断面は概略円形である。この炭素繊維における比L1/L2は1以下である。
・フェルトD…フェルトDを構成する炭素繊維の表面には襞がなく、炭素繊維の断面は概略円形である。この炭素繊維における比L1/L2は1以下である。フェルトDはフェルトCとは目付量が異なる。
・ペーパーA…ペーパーAを構成する炭素繊維の表面には襞がなく、炭素繊維の断面は概略円形である。この炭素繊維における比L1/L2は1以下である。
・ペーパーB…ペーパーBを構成する炭素繊維の表面には襞がなく、炭素繊維の断面は概略円形である。この炭素繊維における比L1/L2は1以下である。ペーパーBはペーパーAとは目付量が異なる。
・ペーパーC…ペーパーCを構成する炭素繊維の表面には襞がなく、炭素繊維の断面は概略円形である。この炭素繊維における比L1/L2は1以下である。ペーパーCは、ペーパーAおよびペーパーBとは目付量が異なる。
【0080】
・試料No.1…正極電極は親水化されたフェルトAである。負極電極は親水化されたフェルトAである。すなわち、試料No.1の負極電極は、試料No.1の正極電極と同じものである。
・試料No.2…正極電極は親水化されたフェルトBである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.3…正極電極は親水化されていないフェルトAである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.4…正極電極は親水化されていないフェルトBである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.5…正極電極は親水化されていないフェルトCである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.6…正極電極は親水化されていないフェルトDである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.7…正極電極は親水化されていないペーパーAである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.8…正極電極は親水化されていないペーパーBである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
・試料No.9…正極電極は親水化されていないペーパーCである。負極電極は試料No.1の負極電極と同じである。
【0081】
本例では、各試料の正極電極の目付量(g/m)、BET比表面積(m/g)、およびセル抵抗率を測定した。目付量は計算によって求めた。BET比表面積は、比表面積測定装置(マイクロトラック・ベル製;BELSORP MINI II)によって測定した。比表面積測定装置は、窒素ガスを用いたガス吸着法により窒素吸着量を測定する装置である。比表面積測定装置は、BET法に基づく多点法によって測定結果を分析し、BET比表面積を自動で求める。正極電極の種類、正極電極の親水化の有無、正極電極の目付量、正極電極のBET比表面積、および電池セルのセル抵抗率を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2の試料No.1と試料No.3との比較、および試料No.2と試料No.4との比較によって、負極電極のみが親水化された電池セルでは、正極電極の表面における酸素比率が負極電極の表面における酸素比率よりも小さく、かつ正極電極のBET比表面積が負極電極のBET比表面積よりも小さいことが分かった。酸素比率の詳細については試験例3で説明する。負極電極のみが親水化された電池セルのセル抵抗率は、正極電極と負極電極の両方が親水化された電池セルのセル抵抗率と同等程度であった。
【0084】
表2に示されるように、ペーパーの正極電極に比べてフェルトの正極電極の方が、セル抵抗率の増加を抑制し易い傾向があった。また、比L1/L2が1以下であるフェルトC,Dの正極電極に比べて比L1/L2が1超であるフェルトA,Bの正極電極の方が、セル抵抗率の増加を抑制し易い傾向があった。
【0085】
表2の試料No.1および試料No.2に示されるように、親水化された正極電極のBET比表面積は5m/g以上200m/g以下であった。既に述べたように、試料No.1から試料No.9の負極電極の構成は、試料No.1の正極電極の構成と同じである。従って、試料No.1から試料No.9における負極電極のBET比表面積は27m/gである。表2の試料No.3から試料No.9に示されるように、親水化されていない正極電極のBET比表面積は、0.1m/g以上2m/g以下であった。負極電極のみが親水化処理された試料No.3から試料No.9における正極電極のBET比表面積と負極電極のBET比表面積との面積差は25m/g以上であった。
【0086】
<試験例3>
試験例2の試料No.1から試料No.4の正極電極の元素比率をXPSによって測定した。元素比率は、正極電極の表面における全元素の数を100%としたときの個別の元素の数の割合(%)である。本例ではXPSによって炭素と酸素が検出された。炭素の元素比率と、酸素の元素比率とを表3に示す。酸素の元素比率は、本明細書における『酸素比率』と同じである。
【0087】
【表3】
【0088】
表3の試料No.1および試料No.2に示されるように、親水化された正極電極の酸素比率は、5.5%以上15%以下であった。既に述べたように、試料No.1から試料No.4の負極電極の構成は、試料No.1の正極電極の構成と同じである。従って、試料No.1から試料No.4における負極電極の酸素比率は5.8%である。試料No.3および試料No.4における親水化されていない正極電極の酸素比率は、0.1%以上5%以下であった。負極電極のみが親水化された試料No.3および試料No.4における正極電極の酸素比率と負極電極の酸素比率との比率差は4.5%以上であった。
【0089】
<試験例4>
試験例2の試料No.1から試料No.4の正極電極の消耗量(μmol/h/mg)を求めた。消耗率は以下の手順に従って求めた。正極電解液が貯留されるバイヤル瓶に正極電極の小片を入れ、1週間放置した。その間、正極電解液と正極電極との反応により生じた二酸化炭素を捕集し、二酸化炭素の発生量(μmol)を測定した。二酸化炭素は、正極電極の分解に伴い発生する。すなわち、二酸化炭素の発生量が多いほど、正極電極の消耗が激しいといえる。1mgの正極電極あたり、1時間に発生した二酸化炭素の量が、消耗率である。
【0090】
【表4】
【0091】
表4に示されるように、試料No.3および試料No.4の正極電極の消耗量は、試料No.1および試料No.2の正極電極の消耗率よりも顕著に小さかった。このような相違が生じた理由は、試験例1から試験例3の結果から、正極電極の親水化の有無に起因すると考えられる。正極電極の表面における酸素比率が負極電極の表面における酸素比率よりも小さく、かつ正極電極のBET比表面積が負極電極のBET比表面積よりも小さい電池セル、ここでは負極電極のみが親水化された電池セルは、高出力化が可能であり、かつ長寿命であることが分かった。
【符号の説明】
【0092】
1 RF電池システム
2 正極電極
3 負極電極
4 セルフレーム
5 炭素繊維
10 電池セル
11 第一循環機構
12 第二循環機構
41 双極板
42 枠体
50 断面
51 襞
52 溝部
80 電力変換器
81 変電設備
90 電力系統
91 発電部
92 負荷
100 セルスタック
101 隔膜
102 正極セル
103 負極セル
110,120 タンク
111,121 第一配管
112,122 第二配管
113,123 ポンプ
200 給排板
R 仮想矩形
図1
図2
図3