(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083089
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】相対的求心路瞳孔障害の判定方法、判定装置、及び判定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/11 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
A61B3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197399
(22)【出願日】2022-12-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1)集会名 第11回日本視野画像学会学術集会 開催日 2022年7月2日 開催場所 新横浜プリンスホテル5F第1会場
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA06
4C316AA28
4C316AA30
4C316FA18
4C316FY02
4C316FY08
4C316FZ03
(57)【要約】
【課題】高精度で、かつ客観的な判定が可能な相対的求心路瞳孔障害の判定方法、判定装置、及び判定プログラムを提供する。
【解決手段】左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与する。左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得する。潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得する。片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出する。第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが行う眼球の相対的求心路瞳孔障害の判定方法であって、
1)左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与するステップと、
2)左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得するステップと、
3)前記潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得するステップと、
4)片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出するステップと、
5)第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う判定ステップ、
を備えたことを特徴とする相対的求心路瞳孔障害の判定方法。
【請求項2】
前記判定ステップは、片眼の第1の変化率と他眼の第1の変化率の平均値と、片眼の第2の変化率と他眼の第2の変化率の平均値との変化率比を用いて判定することを特徴とする請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、最初の刺激を除いた各眼に対する複数回の各刺激セットにおける前記変化率比の平均値を用いて判定することを特徴とする請求項2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、前記変化率比の正負によって、片眼又は他眼の相対的求心路瞳孔障害を判定することを特徴とする請求項3に記載の判定方法。
【請求項5】
前記判定ステップは、下記数式1で算出されるスコアの絶対値が、所定閾値以上の場合には相対的求心路瞳孔障害と判定することを特徴とする請求項3に記載の判定方法:
(数1)
スコア = Log [10(b1+b2)/2/10(a1+a2)/2] ・・・ (数式1)
(10のべき乗の対数値であり、ここで、a1は片眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、a2は他眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、b1は片眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率、b2は他眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率である。)。
【請求項6】
交互連続刺激の前記所定間隔は、1秒~3秒であり、
前記複数回の刺激は、3~10回である、ことを特徴とする請求項3~5の何れかに記載の判定方法。
【請求項7】
コンピュータに以下のステップを実行させるための相対的求心路瞳孔障害の判定プログラム:
1)左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与するステップと、
2)左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得するステップと、
3)前記潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得するステップと、
4)片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出するステップと、
5)第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行うステップ。
【請求項8】
眼球の相対的求心路瞳孔障害の判定装置であって、
測定対象者の両眼前方に配置される前方部と、測定対象者の側頭部を左右両側から挟むように配置される側方部を有する装置本体と、
前記装置本体の前方部において測定対象者の両眼に各々対峙するように設けられた左右一対の撮影部であって、両眼の瞳孔に可視光を照射する可視光照射部と、両眼の瞳孔に近赤外光を照射する近赤外光照射部と、近赤外光照射中の両眼の瞳孔の画像を撮影するカメラ部とを有する撮像部と、
前記撮像部における前記可視光照射部と前記近赤外光照射部と前記カメラ部を制御する制御部と、
前記近赤外光照射中の前記カメラ部の出力画像を経時的に記憶する記憶部と、
両眼の瞳孔径割合を経時的に演算する演算部、
を備え、
前記制御部は、
左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与する交互連続刺激部を有し、
前記演算部は、
左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得する潜時取得部と、
前記潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得する瞳孔径変化取得部と、
片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出する変化率算出部と、
第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う判定部、
を有することを特徴とする相対的求心路瞳孔障害の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的求心路瞳孔障害を判定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
視機能障害の評価は通常視力検査や視野検査など、患者の自覚的応答に依存しており、客観性がない。これに対して瞳孔反応は患者の意思では制御できない自律神経を介する反射であり、この反射を利用して検出される相対的求心路瞳孔障害(relative afferent pupillary defect、以下、「RAPD」と略す。)は、左右非対称性の視機能障害が現に存在することを他覚的に表しており、眼科診療において非常に重要な意義を有する。
日常診療におけるRAPDの検出は、医師が暗室下で、患者の左右眼に概ね2秒交互に連続して光照射を繰り返すことにより、縮瞳量の差や縮瞳の維持の差を評価するといった交互点滅対光反射試験で行う。
【0003】
しかし、この方法では、瞳孔反応そのものは記録されないだけでなく、RAPDの程度も定量できない上に、検査する医師の主観にも左右されるという欠点がある。これを克服すべく、赤外線監視下で瞳孔反応を記録する瞳孔記録計の開発が進んでいる。
例えば、瞳孔径の測定を行う装置として、測定対象者の両眼前方に配置される前方部と、平面視略コ字型の装置本体と、前方部に設けられた左右一対の撮影部と、を備えており、撮影部は、測定対象者の瞳孔に向けて可視光を照射する可視光照射部と、測定対象者の瞳孔に向けて近赤外光を照射する近赤外光照射部と、可視光照射部及び近赤外光照射部の近傍に設けられて測定対象者の瞳孔の画像を撮影するカメラ部とを有するとともに、可視光照射部と近赤外光照射部とカメラ部が測定対象者の両眼に対して上下及び左右に一体的に移動可能に構成されている瞳孔径測定支援装置が知られている(特許文献1を参照)。これによれば、瞳孔径の測定を少ない誤差で正確に測定し且つ記録することが可能であるとする。
しかしながら、特許文献1の瞳孔径測定支援装置を用いるだけでは、依然として十分な精度が得られないという問題がある。
【0004】
特許文献1の瞳孔径測定支援装置や、その他の瞳孔記録計でもRAPDを記録できるが、従来の瞳孔記録計におけるRAPDの記録・解析方法は、0.2秒という短い刺激時間で得られる各眼の縮瞳量(瞳孔径の変化量で表されることが多い)の左右比の対数値を算出し、これを、9回ずつ両眼照射を行って平均を取っている(非特許文献1~3を参照)。解析結果は一回分の瞳孔計の変化の図示並びに上記のように算出された値(「RAPDスコア」と称される)で表示される。しかし、こうして得られた数値は、交互点滅対光反射試験のような長時間刺激で検出される「縮瞳の維持」の可否を評価できないし、刺激時間も短すぎるため、十分な縮瞳状態に至っていない反応を評価している。また、動画的に記録結果を表出しないため、検査結果を直感的に理解し難い。さらに、最新の報告では、このRAPDスコアの再現性は中等度しかないことが示されている(非特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NaokiOzeki et al., "Pupillographicevaluation of relative afferent pupillary defect in glaucoma patients", BrJ Ophthalmol (2013)
【非特許文献2】Andrew J. etal., "Detecting glaucoma using automated pupillography.", Ophthalmology (2014)
【非特許文献3】Pillai, Manju Ret al., "Quantification of RAPD by an automated pupillometer in asymmetricglaucoma and its correlation with manual pupillary assessment", Indian J Ophthalmol (2019)
【非特許文献4】Dezhi Zheng et al.,"Repeatability and clinical use of pupillary light reflex measurementusing RAPDx(登録商標)pupillometer", Int Ophthalmol(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、赤外線監視下で瞳孔記録計(既製品)を用いて測定するRAPDスコアは、RAPDの一面(縮瞳量の左右差)を部分的に評価しているに過ぎない上、検査結果を直感的に理解しやすいように提示していないといった問題がある。そのため、日常診療で行われている交互点滅対光反射試験の評価で加味されている、縮瞳の維持の可否をも解析し、かつそれをグラフィカルに表出する技術が渇望されている。
かかる状況に鑑みて、本発明は、高精度で、かつ客観的な判定が可能な相対的求心路瞳孔障害の判定方法、判定装置、及び判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法は、コンピュータが行う眼球の相対的求心路瞳孔障害の判定方法であって、下記1~5)の各ステップを備える。
1)左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与するステップ。
2)左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得するステップ。
3)潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得するステップ。
4)片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出するステップ。
5)第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う判定ステップ。
【0009】
一般に、健康な人であっても、縮瞳を維持する力の強さには個人差があるため、相対的求心路瞳孔障害の判定においては、瞳孔径の変化に関して、複数の正常パターンを正常と判定し、異常がある場合を異常と、正確に判定できることが必要である。
本発明では、第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行うため、高精度で眼球の相対的求心路瞳孔障害の判定を行うことが可能となる。また、記録した瞳孔径の経時的変化の推移を画像として呼び出すことができ、医師にフィードバックできるとともに、患者にグラフィカルに提示して説明することも可能となる。
上記2)のステップにおいて、取得する潜時は、左右を通して初回の刺激時の縮瞳開始の潜時を基準に、若干の幅を持たして自動的に探索することが好ましい。これは、あらかじめ潜時探索範囲を設定することで、縮瞳開始ないし縮瞳維持終了時点を精度よく検出できるからである。そして、上記3)のステップにおける、潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点とは、左右を通して初回の刺激時の縮瞳開始の潜時を参照して自動探索された時点であることが好ましい。これにより、より高精度な解析対象となる瞳孔径の判定が可能となる。
例えば、左眼にRAPDがある患者に対して、右眼刺激から始めたとすると、無刺激に比べ、最初の刺激は両眼必ず縮瞳する。そのため、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径は、そのまま計測する。次に、障害のある左眼を刺激すると、両眼とも縮瞳は保持できなくなる。このような患者(左眼にRAPDがある患者)で、左眼刺激から始めたとすると、次に健常側の右眼を刺激した場合、左眼刺激時に最初両眼が無刺激時に比べて縮瞳するのは同じであるが、健常側の右眼刺激に切り替えた場合、両眼ともさらに縮瞳する。つまり、刺激を切り替えた場合、両眼とも縮瞳を保持できなくなるか、さらに縮瞳(または再度縮瞳)するかの何れかとなる。このため、左右眼の一方が縮瞳を維持できなくなる瞳孔反応をし、他眼が縮瞳を開始するといった、乖離するような反応は起きない。
【0010】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法において、判定ステップは、片眼の第1の変化率と他眼の第1の変化率の平均値と、片眼の第2の変化率と他眼の第2の変化率の平均値との変化率比を用いて判定することが好ましい。これにより、より高精度の判定が可能となる。
なお、本明細書において、瞳孔径とは、無刺激時に対する刺激時の瞳孔径の相対割合(以下、瞳孔径割合と略す)であることが好ましいが、瞳孔径の実測値や、瞳孔径の実測値から算出されるその他の数値でもよい。
【0011】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法において、判定ステップは、最初の刺激を除いた各眼に対する複数回の各刺激セットにおける変化率比の平均値を用いて判定することが好ましい。最初の刺激の際には、瞳孔が急激に縮瞳するのが一般であるため、最初の刺激を判定に用いると正確な判定結果が得られないからである。
例えば、記録開始から2秒間の順応時間を置いた後、右眼、左眼の順番で各4回、2秒間交互連続刺激を与え、最後に5回目の右眼刺激を2秒与えた後、再度2秒の順応時間を置き、記録を停止する。そして、最初の右眼刺激を除いた各眼3回の刺激セットの変化率比の平均値をRAPDスコアとするとした場合、1つ目の刺激セットとしては、1回目の左眼刺激及び2回目の右眼刺激により第1の変化率を算出し、2回目の右眼刺激及び2回目の左眼刺激により第2の変化率を算出するため、1回目の左眼刺激、2回目の右眼刺激及び2回目の左眼刺激が1つ目の刺激セットとなる。同様に、2回目の右眼刺激、2回目の左眼刺激及び3回目の右眼刺激が2つ目の刺激セットとなる。これを繰り返し、計6回の刺激セットの変化率比の平均値をRAPDスコアとするものである。
【0012】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法において、判定ステップは、変化率比の正負によって、片眼又は他眼の相対的求心路瞳孔障害を判定することが好ましい。これにより、判定結果をグラフ化した際に、判定結果を直感的かつ客観的に理解できる。
【0013】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法において、判定ステップは、下記数式1で算出されるスコアの絶対値が、所定閾値以上の場合には相対的求心路瞳孔障害と判定することが好ましい。
【0014】
(数1)
スコア = Log [10(b1+b2)/2/10(a1+a2)/2] ・・・ (数式1)
【0015】
上記数式1は、10のべき乗の対数値であり、ここで、a1は片眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、a2は他眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、b1は片眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率、b2は他眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率である。
Logの底は、e(自然対数)とする。対数の底は、常用対数10やその他でもよい。
【0016】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法において、交互連続刺激の所定間隔は、1秒~3秒であり、複数回の刺激は、3~10回であることが好ましい。
複数回の刺激とは、左右の眼球への刺激のセット回数であり(左の眼球への刺激と右の眼球への刺激で1セットとする)、2秒間隔で3セットの場合、測定に約10秒以上、2秒間隔で10セットの場合、測定に約24秒以上、3秒間隔で10セットの場合、測定に約36秒以上となる。
【0017】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定プログラムは、コンピュータに以下の1)~5)のステップを実行させるためのものである。
1)左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与するステップ。
2)左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得するステップ。
3)潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得するステップ。
4)片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出するステップ。
5)第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行うステップ。
【0018】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定装置は、眼球の相対的求心路瞳孔障害の判定装置であって、測定対象者の両眼前方に配置される前方部と、測定対象者の側頭部を左右両側から挟むように配置される側方部を有する装置本体と、装置本体の前方部において測定対象者の両眼に各々対峙するように設けられた左右一対の撮影部であって、両眼の瞳孔に可視光を照射する可視光照射部と、両眼の瞳孔に近赤外光を照射する近赤外光照射部と、近赤外光照射中の両眼の瞳孔の画像を撮影するカメラ部とを有する撮像部と、撮像部における可視光照射部と近赤外光照射部とカメラ部を制御する制御部と、近赤外光照射中のカメラ部の出力画像を経時的に記憶する記憶部と、両眼の瞳孔径を経時的に演算する演算部を備える。
制御部は、左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与する交互連続刺激部を有する。
演算部は、左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得する潜時取得部と、潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径を取得する瞳孔径変化取得部と、片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径の単位時間あたりの第2の変化率を算出する変化率算出部と、第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う判定部を有する。
【0019】
なお、本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定装置は、片手、或いは、両手で把持できるポータブルな装置であることが好ましい。片手、或いは、両手で把持でき、またポータブル(可搬性)性を有することにより、簡便に測定できる。実際の測定においては、両手で把持する方が、装置本体をユーザの前額部にきっちりとフィットさせることができ、より正確な記録・測定が可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の相対的求心路瞳孔障害の判定方法、判定装置、及び判定プログラムによれば、RAPDについて、高精度で、かつ客観的な判定が可能となるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1の相対的求心路瞳孔障害の判定装置の機能ブロック図
【
図2】実施例1の相対的求心路瞳孔障害の判定方法の概略フロー図
【
図4】潜時取得ステップ及び瞳孔径取得ステップの説明図
【
図5】実施例のRAPDスコアの算出概要を示すグラフ
【
図7】比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの受信者操作特性曲線解析結果
【
図8】比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの相関を示すグラフ
【
図9】比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの視野指標の左右差との相関を示すグラフ
【
図10】比較例のRAPDスコアの絶対値の分布ヒストグラム
【
図11】実施例のRAPDスコアの絶対値の分布ヒストグラム
【
図12】比較例のRAPDスコアの算出概要を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0023】
図1は、実施例1の相対的求心路瞳孔障害の判定装置の機能ブロック図を示している。
図1に示すように、眼球の相対的求心路瞳孔障害判定装置1は、装置本体2、撮像部3、制御部4、記憶部5及び演算部6から成る。撮像部3は、可視光照射部31、近赤外光照射部32及びカメラ部33を備える。制御部4は、交互連続刺激部41を備える。演算部6は、潜時取得部61、瞳孔径変化取得部62、変化率算出部63及び判定部64を備える。
装置本体2は、図示しないが、測定対象者の両眼前方に配置される前方部と、測定対象者の側頭部を左右両側から挟むように配置される側方部を有する。
撮像部3は、装置本体2の前方部において測定対象者の両眼に各々対峙するように左右一対に設けられる。可視光照射部31は、可視光を照射できる光源であれば特に限定されないが、例えば白色LEDが好適に使用でき、両眼の瞳孔に可視光を照射するものである。近赤外光照射部32は、近赤外光を照射できる光源であれば特に限定されないが、例えば赤外線LEDが好適に使用でき、また、不可視光領域の近赤外光は瞳孔反応を生じさせないことから外部環境光に影響されずに瞳孔を確実に撮影する目的で設けられる。両眼の瞳孔に近赤外光を照射するものである。カメラ部33は、近赤外光照射中の両眼の瞳孔の画像を撮影するもので、例えばCCDカメラなどである。制御部4は、撮像部3における可視光照射部31と近赤外光照射部32とカメラ部33を制御する。また、交互連続刺激部41は、左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与する。記憶部5は、カメラ部33の出力画像を経時的に記憶するものである。
【0024】
演算部6は、両眼の瞳孔径割合を経時的に演算する。潜時取得部61は、左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得する。瞳孔径変化取得部62は、潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径割合と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径割合と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径割合を取得する。変化率算出部63は、片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径割合の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径割合の単位時間あたりの第2の変化率を算出する。判定部64は、第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う。
【0025】
ここで、本実施例の相対的求心路瞳孔障害の判定方法について説明する前に、まず従来型の判定手法について説明する。
図12は、比較例(従来型)のRAPDスコアの算出概要を示すグラフである。また、下記数式2は、比較例のRAPDスコアの算出式を表している。
図12に示すように、比較例では、右眼刺激を0.2秒間行った後、無刺激のインターバルを1.9秒設け、その後、左眼刺激を0.2秒間行い、再度、無刺激のインターバルを1.9秒設ける。そして、右眼刺激時の右眼水平瞳孔径割合の振幅a1と左眼水平瞳孔径割合の振幅a2の平均と、左眼刺激時の右眼水平瞳孔径割合の振幅b1と左眼水平瞳孔径割合の振幅b2の平均との比を求め、対数値としている。
【0026】
【0027】
これに対して、本実施例の相対的求心路瞳孔障害の判定方法では、片目刺激を2秒間行った後、他眼刺激を2秒間行い、再度、片目刺激を2秒間行うといったように、左右の眼に対して、交互連続刺激を繰り返し与える。比較例とは異なり実施例では、無刺激のインターバルを設けない。
図2は、実施例1の相対的求心路瞳孔障害の判定方法の概略フロー図を示している。
図2に示すように、まず、左右の眼球に対して所定間隔で交互に可視光を照射し連続刺激を付与する(ステップS01:刺激付与ステップ)。
図3は、左右の眼球に対する連続刺激付与の説明図であり、縦軸は瞳孔径割合、横軸は時間を示している。
図3に示すように、実施例1では、記録開始から2秒間の順応時間を置いた後、右眼、左眼の順番で各4回、2秒間交互連続刺激を与え、最後に5回目の右眼刺激を2秒与えた後、再度2秒の順応時間を置き、記録を停止する。
【0028】
次に、左右何れかの片眼刺激時の縮瞳開始の潜時を取得する(ステップS02:潜時取得ステップ)。
図4は、潜時取得ステップ及び瞳孔径取得ステップの説明図を示している。
図4に示すように、実施例1では1回目の右眼刺激時の縮瞳開始の潜時Tを取得する。
【0029】
図2に示すように、潜時もしくはその前後に瞳孔径に変化を生じる時点を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とし、片眼を刺激したときの縮瞳開始時の各眼の瞳孔径割合と、次に他眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径割合と、次に片眼を刺激したときの縮瞳保持終了時又は縮瞳開始時の各眼の瞳孔径割合を取得する(ステップS03:瞳孔径取得ステップ)。
実施例1では、
図4に示すように、1回目の右眼刺激時の縮瞳開始の潜時Tを参照し、次の1回目の左眼刺激において、潜時もしくはその前後に瞳孔径割合に変化を生じる時点P1を縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時として自動探索する。同様に、次の2回目の右眼刺激において潜時もしくはその前後に瞳孔径割合に変化を生じる時点P2、2回目の左眼刺激において潜時もしくはその前後に瞳孔径割合に変化を生じる時点P3、及び3回目の右眼刺激において潜時もしくはその前後に瞳孔径割合に変化を生じる時点P4についても、それぞれ潜時Tを参照して自動探索し、縮瞳開始時又は縮瞳保持終了時とする。図示しないが、4,5回目の右眼刺激及び3,4回目の左眼刺激についても同様である。
【0030】
図5は、実施例のRAPDスコアの算出概要を示すグラフである。ここでは、1回目の右眼刺激時から2回目の左眼刺激時における瞳孔径割合の変化を例に説明する。なお、
図4と
図5では、便宜上異なる被験者のグラフを用いている。
図5に示すように、1回目の右眼刺激時において、潜時もしくはその前後に瞳孔径割合に変化を生じる時点P2を、右眼の縮瞳開始時S1又は左眼の縮瞳保持終了時E1とし、2回目の左眼刺激時において、潜時もしくはその前後に瞳孔径割合に変化を生じる時点P3を、左眼の縮瞳開始時S2又は右眼の縮瞳保持終了時E2とする。そして、直線A1は、右眼の縮瞳開始時S1と右眼の縮瞳保持終了時E2を結んだ直線であり、直線A2は、左眼の縮瞳保持終了時E1と左眼の縮瞳開始時S2、直線B1は、右眼の縮瞳保持終了時E2と右眼の縮瞳開始時(図示せず)、直線B2は、左眼の縮瞳開始時S2と左眼の縮瞳保持終了時(図示せず)、をそれぞれ結んだ直線である。
瞳孔径取得ステップ(ステップS03)では、例えば、1回目の右眼刺激時から2回目の左眼刺激時における瞳孔径割合の変化について、右眼の縮瞳開始時S1、左眼の縮瞳保持終了時E1、左眼の縮瞳開始時S2及び右眼の縮瞳保持終了時E2における各眼の瞳孔径割合を取得する。
【0031】
次に、片眼を刺激し次に他眼を刺激したときの各眼の瞳孔径割合の単位時間あたりの第1の変化率、及び、他眼を刺激し次に片眼を刺激したときの各眼の瞳孔径割合の単位時間あたりの第2の変化率を算出する(ステップS04:算出ステップ)。実施例1では例えば、
図5に示すように、右眼の縮瞳開始時S1と右眼の縮瞳保持終了時E2、左眼の縮瞳保持終了時E1と左眼の縮瞳開始時S2、右眼の縮瞳保持終了時E2と右眼の縮瞳開始時、及び左眼の縮瞳開始時S2と左眼の縮瞳保持終了時、の間の時間を横軸、各時点の瞳孔径割合を縦軸とした平面座標での単位時間あたりの各眼の瞳孔径割合の変化率を算出する。すなわち、2時点の各眼の瞳孔径割合を結ぶ直線A1,A2,B1及びB2の傾きを算出する。
【0032】
具体的には、右眼の変化率の10のべき乗を左眼の変化率の10のべき乗で除した値の対数値を求め、最初の刺激を除いた各眼3回の刺激セット(7a~7f)の変化率比の平均値を、実施例のRAPDスコアとする。最初の刺激を除くのは、最初の刺激の際には、瞳孔が急激に縮瞳するため、これを用いると正確な判定結果が得られないからである。ここで、刺激セット7aは、1回目の左眼刺激、2回目の右眼刺激及び2回目の左眼刺激で構成される。同様に、刺激セット7bは、2回目の右眼刺激、2回目の左眼刺激及び3回目の右眼刺激で構成される。刺激セット7cは、2回目の左眼刺激、3回目の右眼刺激及び3回目の左眼刺激で構成される。刺激セット7dは、3回目の右眼刺激、3回目の左眼刺激及び4回目の右眼刺激で構成される。刺激セット7eは、3回目の左眼刺激、4回目の右眼刺激及び4回目の左眼刺激で構成される。刺激セット7fは、4回目の右眼刺激、4回目の左眼刺激及び5回目の右眼刺激で構成される。
【0033】
下記数式3は、実施例のRAPDスコアの算出式を表している。数式3におけるa1は、
図5に示す直線A1の傾きであり、数式3におけるa2は、
図5に示す直線A2の傾きである。また、数式3におけるb1は、
図5に示す直線B1の傾きであり、数式3におけるb2は、
図5に示す直線B2の傾きである。
なお、比較例のPAPDスコア(数式2)では、対数値に10を乗じているのに対して、実施例のPDPDスコア(数式3)では、対数値のままとしている。比較例における数式2は、既報に準じて設定したものであり、対数値に10を乗じなければいけない特段の理由はない。同様に、実施例における数式3においても、便宜上、対数値のままとしているが、対数値に10を乗じた値を用いても差し支えはなく、得られるデータの意義や、以下に記述する、比較例の結果との相関性や、識別能、視野指標の左右差との相関性は同じである。あくまで
図5に示す直線A1,A2,B1,B2の傾きである、それぞれa1,a2,b1,b2の10のべき乗比の対数を取る点が数式3の根幹であり、その数式にいかなる修飾を加えても、その数式の概念の根幹である「縮瞳量とその維持を一括した指標の創出」という技術思想は同じである。
【0034】
【0035】
第1及び第2の変化率を用いて相対的求心路瞳孔障害の判定を行う(ステップS05:判定ステップ)。本実施例では、上記数式3で算出されるスコアの絶対値が、所定閾値以上の場合には相対的求心路瞳孔障害と判定する。
【0036】
判定ステップ(ステップS05)は、片眼の第1の変化率と他眼の第1の変化率の平均値と、片眼の第2の変化率と他眼の第2の変化率の平均値との変化率比を用いて判定する。
また、判定ステップは、最初の刺激を除いた各眼に対する複数回の各刺激セットにおける変化率比の平均値を用いて判定する。
判定ステップは、変化率比の正負によって、片眼又は他眼の相対的求心路瞳孔障害を判定する。
【0037】
RAPDの判定においては、一般に、「最初の縮瞳の程度」と「縮瞳を維持できるか」の2点が重要な指標であり、特に初期症状の頃には、縮瞳を維持できない、すなわち散瞳してしまう点が重要な指標である。そして、比較例のRAPDスコアの算出手法においては、「最初の縮瞳の程度」を検出することは可能であるが、「縮瞳を維持できるか」については検出できないという問題があった。そこで、縮瞳が維持できない場合についての指標化が求められることになる。
一方、RAPDの見られない正常なパターンは1種類ではない。
図6は、実施例のRAPDスコアの算出手法の説明図であり、(1)は正常パターン1、(2)は正常パターン2、(3)は左眼障害(左RAPD+)の場合を示している。
図6(1)に示すように、正常パターン1では、1回目の右眼刺激の際に両眼が縮瞳し、その後、1回目の左眼刺激、2回目の右眼刺激及び2回目の左眼刺激が付与される間、両眼につき縮瞳が維持されているため、両眼共に略水平のグラフとなっている。
【0038】
これに対して、
図6(2)に示すように、正常パターン2では、1回目の右眼刺激の際に両眼が縮瞳し、その後、次第に散瞳している。1回目の左眼刺激、2回目の右眼刺激及び2回目の左眼刺激においても、同様に、刺激が付与されると縮瞳し、その後、次第に散瞳している。このように縮瞳と散瞳を繰り返すのは、健康な人であっても縮瞳を維持する力が弱いことがあるためである。
また、
図6(3)に示すように、左眼障害(左RAPD+)の場合では、1回目及び2回目の右眼刺激の際は、両眼に縮瞳が起こった後、徐々に散瞳しているが、1回目及び2回目の左眼刺激においては縮瞳が起こらず、かつ維持されない状態となっている。
このような、複数の正常パターンを正常と判定した上で、異常がある場合を正確に判定できることが必要であり、上述の本実施例のRAPDスコアの算出手法を用いることで、縮瞳を維持できているか否かを定量化し、指標とすることができる。
【0039】
次に、本実施例の相対的求心路瞳孔障害の判定方法の有効性に関する検証結果について説明する。検証に用いた機器は、赤外線監視下で両眼の瞳孔径を経時的に記録できるポータブル瞳孔記録計である株式会社ウラタニ・ラボ製の瞳孔記録計ヒトミル(登録商標)である。当該瞳孔記録計を用いて、内蔵されているソフトウエアに、実施例又は比較例の記録・解析アルゴリズムを作製して行った。そして、特定の病院に通院中の緑内障ないし視神経疾患を有し、瞳孔機能検査の適応のある患者81例に対して、上記瞳孔記録計を用いて瞳孔反応の記録解析を行った。
また、これらの患者に対して、専門家による別途交互点滅対光反射試験を行い、肉眼的にRAPDがあるかないかを判定した。肉眼的RAPD陽性例が42例、陰性例が39例いた。肉眼的RAPDの有無を基準に、受信者操作特性曲線解析を行い、曲線下面積(AUC:Area
Under the Curve)を求めた。
【0040】
上述のように、実施例だけではなく、参照のため、従来手法である比較例のRAPDスコアについても、別途計測できるようにプログラミングした。すなわち、2秒の順応時間後、0.2秒の刺激と1.9秒の無刺激のサイクルで各眼4回の瞳孔反応を記録し、こちらも最初の1回のセットを除いた3回のセットで記録された、右眼刺激時の両眼のベースラインに対する刺激時最大縮瞳時の瞳孔径割合の差分の平均値を左眼刺激時のそれで除した値の対数値を求め、3回のセットの平均値を比較例のRAPDスコアとした。
【0041】
図7は、比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの受信者操作特性曲線解析結果を示すグラフである。縦軸は感度、横軸は100-特異度を示している。また、下記表1は、比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの受信者操作特性曲線解析結果を数値化したものである。
図7及び表1に示すように、ROC曲線下面積は、比較例のRAPDスコアでは0.85(95%信頼区間0.75~0.92)、実施例のRAPDスコアでは0.88(95%信頼区間0.79~0.94)であり、実施例のRAPDスコアが比較例のRAPDスコアと同等以上のRAPD検出能を有することが分かった。そして、一定の基準値(関連する基準)をカットオフ値とした場合、RAPDスコアの肉眼的RAPDの有無を判定する精度は、比較例の場合、感度が約81%で特異度が約72%、実施例ではそれぞれ約74%と87%であった。
【0042】
【0043】
図8は、比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの相関を示すグラフである。丸型のプロットは、専門家が肉眼で陰性者と判定したものであり、正方形のプロットは、専門家が肉眼で陽性者と判定したものである。
図8に示すように、比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの相関に関して、決定係数は0.74(P<0.0001)と高い相関性を示した。
【0044】
図9は、比較例のRAPDスコアと実施例のRAPDスコアの視野指標の左右差との相関を示すグラフであり、(1)は比較例のRAPDスコアの視野指標の左右差との相関、(2)は実施例のRAPDスコアの視野指標の左右差との相関を示している。何れも、丸型のプロットは、専門家が肉眼で陰性者と判定したものであり、正方形のプロットは、専門家が肉眼で陽性者と判定したものである。ここで、MD(mean deviation)とは、ハンフリー自動視野計の平均偏差のことである。
図9(1)と(2)を比較すると、視野検査の左右差と実施例のRAPDスコアの決定係数は0.68(P<0.0001)で、比較例のRAPDスコアとの決定係数0.63(P<0.0001)と同等以上の相関性を示した。すなわち、実施例のRAPDスコアの方が、決定係数が高く、実際の視野の左右差と略一致する。これは従来技術を用いた瞳孔記録計で報告された決定係数0.55よりも高い値であった(非特許文献2を参照)。また、
図9(2)では肉眼的RAPD陰性者のばらつきが少ないといえる。
【0045】
図10は、比較例のRAPDスコアの絶対値の分布ヒストグラム、また、
図11は、実施例のRAPDスコアの絶対値の分布ヒストグラムを示している。それぞれ(1)は肉眼的RAPD陰性集団、(2)は肉眼的RAPD陽性集団に関するものである。実施例、比較例とも肉眼的RAPD陰性集団では絶対値0を最頻とした歪んだ分布を呈するのに対し、肉眼的RAPD陽性集団では、一定の範囲で概ね均等な分布を呈していた。