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特開2024-83092情報処理装置、制御方法および移動体システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083092
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】情報処理装置、制御方法および移動体システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20240613BHJP
【FI】
G05D1/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197407
(22)【出願日】2022-12-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=219568&file_id=1&file_no=1 掲載日 令和4年8月25日 ・研究集会名 情報処理学会第192回マルチメディア通信と分散処理研究会(DPS) 開催場所 Web会議(Zoom) 県立広島大学 広島キャンパス 広島県広島市南区宇品東一丁目1番71号 開催日 令和4年9月2日
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 泰久
(72)【発明者】
【氏名】西上 翔磨
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301BB14
5H301KK02
(57)【要約】
【課題】高度な群構成による振る舞いを創発できる情報処理装置を提供する。
【解決手段】情報処理装置(2)は、仮想空間上に実移動体(1R)に対応する写像移動体を構成する写像移動体構成部(212)と、仮想空間上に写像移動体とは異なる増殖移動体を発生させる増殖移動体構成部(213)と、写像移動体に増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用することにより、仮想移動体の移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出部(214)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実空間における複数の実移動体と通信する通信部と、
仮想空間上に前記実移動体に対応する写像移動体を構成する写像移動体構成部と、
前記仮想空間上に前記写像移動体とは異なる増殖移動体を発生させる増殖移動体構成部と、
前記写像移動体に前記増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用することにより、前記写像移動体の移動ベクトルを含む前記仮想移動体の移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出部と、
前記仮想移動体の移動ベクトルに基づく移動を前記実移動体に指示する移動指示部と、を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記実移動体は、イベントが発する物理情報を検知して、他の実移動体と共に前記イベントを探索する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記増殖移動体構成部は、所定の時間において前記増殖移動体を発生させる、または消去する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記増殖移動体構成部は、前記仮想移動体の密度に応じて、前記増殖移動体を発生させる、または消去する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記増殖移動体構成部は、前記実移動体の作業状況に応じて、前記増殖移動体を発生させる、または消去する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記増殖移動体構成部は、前記実移動体が検知する物理情報に応じて、前記増殖移動体を発生させる、または消去する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
実空間における複数の実移動体の制御方法であって、
仮想空間上に前記実移動体に対応する写像移動体を構成する写像移動体構成ステップと、
前記仮想空間上に前記写像移動体とは異なる増殖移動体を発生させる増殖移動体構成ステップと、
前記写像移動体に前記増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用することにより、前記写像移動体の移動ベクトルを含む前記仮想移動体の移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出ステップと、
前記仮想移動体の移動ベクトルに基づく移動を前記実移動体に指示する移動指示ステップと、を含む、制御方法。
【請求項8】
実空間上に実移動体と、
仮想空間上に前記実移動体に対応する写像移動体と、
前記仮想空間上に前記写像移動体とは異なる増殖移動体と、を備え、
前記写像移動体に前記増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用し、算出された前記仮想移動体の移動ベクトルに基づき、前記実移動体は移動する、移動体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の実移動体を制御する情報処理装置、当該複数の実移動体の制御方法および移動体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットまたはUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)などの自律移動する移動体を用いて所定の作業を行う技術の研究・開発が進められている。
【0003】
ここで、移動体の移動を制御する手法として、仮想的に設定される仮想移動体を用いる手法が知られている。例えば、特許文献1には、所定の実空間の構成を仮想空間として構成し、当該仮想空間の各点の力のベクトルを算出する情報処理装置が開示されている。また、特許文献2には、第1移動体と、複数の第2移動体と、被覆境界に関して第1移動体と反対側にある仮想移動体とがネットワークによって結合されていると仮定して、第1移動体の移動を制御する自律分散制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/131557号公報
【特許文献2】国際公開第2021/070239号公報
【特許文献3】特開2021-114020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の移動体が協調して所定の作業を行う技術が知られている。複数の移動体は群として機能することで、個々の移動体の能力に限定されない作業が可能となる。
【0006】
また、複数の移動体に対して群知能(例えば、粒子群最適化(PSO:Particle Swarm Optimization))を適用することにより、複数の群からなる群構成を適宜構成し、効率的に所定の作業を行う技術も知られている。このような群構成は、移動体数が多いほど、移動体の振る舞いの多様性および移動体間の相互作用が増え、高度な機能構造を有することが分かっている。
【0007】
しかしながら、実空間における移動体数は、物理的・経済的制約により制限されてしまう。また、特許文献1、2においては、仮想空間でシミュレーションを行い実移動体の移動を制御する手法が開示されているものの、高度な群構成による振る舞いを創発するといった概念はない。特許文献1、2は、仮想空間上に移動体を写像することを開示しているが、群知能を構成するために移動体を増殖させるものではない。そのため、特許文献1、2において、複数の移動体に群知能を適用したとしても、生成される群構成の機能構造に限度があるという問題がある。
【0008】
本発明の一態様は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高度な群構成による振る舞いを創発できる情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、実空間における複数の実移動体と通信する通信部と、仮想空間上に前記実移動体に対応する写像移動体を構成する写像移動体構成部と、前記仮想空間上に前記写像移動体とは異なる増殖移動体を発生させる増殖移動体構成部と、前記写像移動体に前記増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用することにより、前記写像移動体の移動ベクトルを含む前記仮想移動体の移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出部と、前記仮想移動体の移動ベクトルに基づく移動を前記実移動体に指示する移動指示部と、を備える。
【0010】
また、前記実移動体は、イベントが発する物理情報を検知して、他の実移動体と共に前記イベントを探索してもよい。
【0011】
また、前記増殖移動体構成部は、所定の時間において前記増殖移動体を発生させる、または消去する。
【0012】
また、前記増殖移動体構成部は、前記仮想移動体の密度に応じて、前記増殖移動体を発生させる、または消去する。
【0013】
また、前記増殖移動体構成部は、前記実移動体の作業状況に応じて、前記増殖移動体を発生させる、または消去する。
【0014】
また、前記増殖移動体構成部は、前記実移動体が検知する物理情報に応じて、前記増殖移動体を発生させる、または消去する。
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る制御方法は、実空間における複数の実移動体の制御方法であって、仮想空間上に前記実移動体に対応する写像移動体を構成する写像移動体構成ステップと、前記仮想空間上に前記写像移動体とは異なる増殖移動体を発生させる増殖移動体構成ステップと、前記写像移動体に前記増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用することにより、前記写像移動体の移動ベクトルを含む前記仮想移動体の移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出ステップと、前記仮想移動体の移動ベクトルに基づく移動を前記実移動体に指示する移動指示ステップと、を含む。
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る移動体システムは、実空間上に実移動体と、仮想空間上に前記実移動体に対応する写像移動体と、前記仮想空間上に前記写像移動体とは異なる増殖移動体と、を備え、前記写像移動体に前記増殖移動体を加えた仮想移動体に対して群知能を適用し、算出された前記仮想移動体の移動ベクトルに基づき、前記実移動体は移動する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、高度な群構成による振る舞いを創発できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るイベント探索システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】上記イベント探索システムにおける実空間および仮想空間の対応関係を概念的に示す図である。
図3】増殖移動体の発生による群構成の遷移を示す模式図である。
図4】増殖移動体の発生による群構成の遷移を示す模式図である。
図5】増殖移動体の発生による群構成の遷移を示す模式図である。
図6】情報処理装置が探索中に繰り返し実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図7】シミュレーションの条件を示す図である。
図8】シミュレーションの条件を示す図である。
図9】増殖移動体の数および探索対象のフィールドの広さを変えて測定した捕捉完了時間の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施形態1〕
〔1.実移動体の構成〕
図1は、イベント探索システム100(移動体システム)の要部構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、イベント探索システム100は、複数の実移動体1Rと、複数の実移動体1Rを制御する情報処理装置2とを備える。
【0020】
実移動体1Rは、実移動体1Rの各部を統括して制御する制御部10と、実移動体1Rが使用する各種データを記憶する記憶部20とを備えている。また、実移動体1Rは、実移動体1Rが情報処理装置2と通信するための通信部30、探索対象であるイベントが発する物理情報を検知する検知部40、および実移動体1Rを駆動する駆動部50を備えている。
【0021】
実移動体1Rは、情報処理装置2において実行される計算(シミュレーション)の出力結果に従って制御部10が駆動部50を制御することにより、情報処理装置2の指示に基づいた動作を行う。例えば、実移動体1Rは、情報処理装置2から送信される移動ベクトルに従って移動する。実移動体1Rは、情報処理装置2の指示に基づいて移動することにより、イベントを探索する。
【0022】
探索対象であるイベントは、実移動体1Rが検知可能な物理情報を発しているものであればよく、特に限定されない。例えば、イベントは、電磁波、電波、熱、ガス、放射線、音等のような、個々のイベントに特有の識別情報を持たない物理情報を発するものであってもよい。また、イベントから伝搬された物理情報の強度は距離に応じて減衰するものであってもよい。
【0023】
また、実移動体1Rは、検出したイベントに対して能動的処理を行ってもよい。例えば、イベントは、構造物の破損箇所、要救助者、または資源等であってもよい。そして、これらの場合、実移動体1Rは、上記能動的処理として、構造物の破損箇所の修理、要救助者の救助、または資源の回収等を行ってもよい。なお、以下では上記能動的処理を捕捉と呼ぶ。
【0024】
また、実移動体1Rは、自律移動する移動体であればよく、例えば自律移動ロボット、ドローン、自動車、小型人工衛星などであってもよい。
【0025】
通信部30による無線通信の手段としては、近距離無線通信、例えば、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等が挙げられる。WiFiを用いる場合、実移動体1Rの通信距離は(平地の場合)100m程度である。Bluetoothを用いる場合、実移動体1Rの通信距離は20~30m程度である。なお、通信部30による無線通信の手段としては、これらに限定されない。
【0026】
検知部40としては、探索対象であるイベントが発する物理情報に応じたセンサ等を適用すればよい。イベントが電波を発するものである場合、検知部40は電波強度を検出するセンサである。イベントが熱を発するものである(例えば、イベントが要救助者である)場合、検知部40は温度を検出するセンサ(例えば赤外カメラ)である。イベントがガスを発するものである場合、検知部40はガスの濃度を検出するセンサである。検知部40は、検知した物理情報を記憶部20に記憶させる。
【0027】
駆動部50は、実移動体1Rを移動させることができるものであればよい。例えば、実移動体1Rがドローンと呼ばれる無人航空機である場合、実移動体1Rを空中で移動させる駆動部50を適用すればよい。なお、実移動体1Rは、空中を移動するものに限られず、水中あるいは地上等の任意の場所を任意の方法で移動するものであってもよい。
【0028】
制御部10は、通信制御部101と、移動制御部102と、位置算出部103と、検知取得部104とを備える。
【0029】
通信制御部101は、実移動体1Rの位置情報および検知結果等を、通信部30を介して情報処理装置2に送信する。ここで、検知結果は、検知部40が物理情報を検知したか否か、および/または当該物理情報の強度を含む。また、通信制御部101は、通信部30が受信する情報処理装置2が発信した情報を取得する。情報処理装置2が発信した情報としては、実移動体1Rの移動ベクトル等である。
【0030】
移動制御部102は、通信制御部101が取得した実移動体1Rの移動ベクトルに従って駆動部50を駆動することにより、実移動体1Rを移動させる。
【0031】
位置算出部103は、実移動体1Rの位置を算出する。位置の算出には、例えばGPS(Ground Positioning System)等を利用してもよい。位置算出部103は、算出した位置を示す位置情報を通信制御部101に出力する。
【0032】
検知取得部104は、検知部40が検知した物理情報を取得する。検知取得部104は、当該物理情報の検知結果を通信制御部101に出力する。
【0033】
〔2.情報処理装置の構成〕
情報処理装置2は、情報処理装置2の各部を統括して制御する制御部210と、情報処理装置2が使用する各種データを記憶する記憶部220と、複数の実移動体1Rの通信部30とそれぞれ通信するための通信部230とを備える。
【0034】
情報処理装置2は、実空間RSにおける実移動体1Rから発信される情報に基づき、仮想空間CSにおける仮想移動体1Cを構成する(図2も参照)。そして、情報処理装置2は、仮想移動体1Cに対して群知能を適用することにより仮想移動体1Cの振る舞いを計算する。そして、情報処理装置2は、当該計算の出力結果を実移動体1Rに反映させる。
【0035】
ここで、実空間RSとは、物体が存在する空間を指し、仮想空間CSと区別するために用いられる。また、仮想空間CSとは、上記計算を行うために構成される仮想的な空間を指す。当該仮想空間CSにおいて、群知能に従った実移動体1Rの振る舞いを決定するために、仮想移動体1Cが仮想的に設定される。
【0036】
制御部210は、通信制御部211と、写像移動体構成部212と、増殖移動体構成部213と、移動ベクトル算出部214と、移動指示部215とを備える。
【0037】
通信制御部211は、通信部230が受信する複数の実移動体1Rが発信した情報を取得する。複数の実移動体1Rが発信した情報としては、例えば複数の実移動体1Rそれぞれの位置情報および検知結果等である。また、通信制御部211は、移動ベクトル算出部214が決定した複数の実移動体1Rの移動ベクトルをそれぞれ、通信部230を介して対応する実移動体1Rに送信する。
【0038】
写像移動体構成部212は、実移動体1Rの位置情報に基づいて、仮想空間CS上に実移動体1Rに対応する写像移動体1mを構成する。具体的には、写像移動体構成部212は、実移動体1Rの位置情報に対応する仮想空間CS上の位置座標を有する写像移動体1mを設定する。
【0039】
増殖移動体構成部213は、所定の第1条件が満たされたとき、仮想空間上に写像移動体1mとは異なる(すなわち、実移動体1Rに対応しない)増殖移動体1pを発生させる。増殖移動体構成部213は、所定の第2条件が満たされたとき、増殖移動体1pの少なくとも一部を消去する。所定の第1条件および所定の第2条件の具体例については、図6を参照し後述する。
【0040】
増殖移動体構成部213は、探索対象のフィールド全体に乱数的に増殖移動体1pを発生させる。これにより、写像移動体1mが増殖移動体1pに取り囲まれてしまい本来進むべき方向に進めなくなる可能性を低減できる。なお、増殖移動体構成部213の発生方法はこれに限定されない。例えば、増殖移動体構成部213は、(後述する反発係数cの値を適切に設定すれば、)群リーダーとして振る舞う写像移動体1mの周りに増殖移動体1pを発生させてもよい。また、増殖移動体構成部213は、仮想移動体1Cが所定の方向に移動するように、当該所定の方向とは反対の方向において多くの増殖移動体1pを発生させてもよい、または当該所定の方向において多くの増殖移動体1pを消去してもよい。所定の方向は、例えばイベントが存在することが予め期待されるエリアへの方向であってよい。
【0041】
移動ベクトル算出部214は、写像移動体1mに増殖移動体1pを加えた仮想移動体1Cに対して群知能を適用することにより、写像移動体1mの移動ベクトルを含む仮想移動体1Cの移動ベクトルを算出する。移動ベクトルの詳細な算出方法については後述する。
【0042】
移動指示部215は、移動ベクトル算出部214が算出した写像移動体1mの移動ベクトルに基づく移動を実移動体1Rに指示する。すなわち、移動指示部215は、仮想空間による計算の出力結果である写像移動体1mの移動ベクトルを実移動体1Rの移動ベクトルとして、対応する実移動体1Rにそれぞれ送信する。
【0043】
以上のように、情報処理装置2は、実空間RSにおける実移動体1Rの位置情報および検知結果に基づいた仮想空間CSにおける仮想移動体1Cを構成し、仮想空間CS上において、仮想移動体1Cの振る舞いを計算する。ここで、情報処理装置2は、実移動体1Rに対応する写像移動体1mに増殖移動体1pを加えた仮想移動体1Cに対して群知能を適用し、仮想移動体1Cの振る舞いを計算する。これにより、イベント探索システム100は、実移動体数の物理的・経済的制約を受けずに、群知能を適用する移動体の数を増やすことができる。したがって、イベント探索システム100は、高度な群構成による振る舞いを創出できる。また、イベント探索システム100は、仮想通信による仮想移動体1Cの相互作用を計算するため、実空間RSにおける(通信範囲、通信遅延、および障害物等による)通信制約を受けないイベントの探索を実現できる。
【0044】
〔3.実空間および仮想空間の対応関係〕
図2は、イベント探索システムにおける実空間および仮想空間の対応関係を概念的に示す図である。図2に示すように、仮想空間CSにおける仮想移動体1Cは、実空間RSにおける実移動体1Rの写像である写像移動体1mと、写像移動体1mのクローンである増殖移動体1pとから構成される。
【0045】
写像移動体1mに増殖移動体1pを加えた仮想移動体1Cに群知能を適用することにより、仮想移動体1Cは、仮想移動体1C同士の相互作用から複数の群を形成する。このような複数の群による仮想移動体1Cの振る舞いは実移動体1Rに反映される。これにより、実空間においては、実移動体数の物理的・経済的制約を受けない群構成による振る舞いが創出される。すなわち、実移動体1Rは、見かけ上は、実移動体1Rおよび増殖移動体1pの実空間RS上の写像(図2において点線で表された移動体)が複数の群を形成するように振る舞う。そのため、実移動体1Rのみに群知能を適用した場合と比較し、実移動体1Rは、より多くの群を形成して効率よくイベントEVを探索できる。
【0046】
〔4.移動ベクトルの算出方法〕
まず、写像移動体1mの移動ベクトルの算出方法について以下に説明する。写像移動体1mは、実移動体1Rの写像であり、実移動体1Rと同様にイベントの物理情報を検知する機能およびイベントを捕捉する機能を有すると見なされる。そのため、写像移動体1mの移動ベクトルは、既知の粒子群最適化(PSO)に基づく実移動体の移動ベクトルと同様に算出される。
【0047】
〔4-1.写像移動体1mの移動ベクトルの算出〕
移動ベクトル算出部214は、例えば下記の数式(1)を用いて写像移動体1mの移動ベクトルを算出してもよい。この場合、当該移動ベクトルに従って移動した後の写像移動体1mの位置は下記の数式(2)で表される。
【数1】
【数2】
【0048】
数式(1)(2)において、tは時刻、wは写像移動体1mの慣性重量、v(t)は時刻tにおける写像移動体1miの移動ベクトル、pb(t)は時刻tにおける写像移動体1miのパーソナルベストパラメータ(以下、PBパラメータと呼ぶ)、lb(t)は時刻tにおける写像移動体1miのローカルベストパラメータ(以下、LBパラメータと呼ぶ)、x Pbest(t)は時刻tにおける写像移動体1miの検知結果から推測されるイベントの位置(以下、PB位置と呼ぶ)、x Lbest(t)は時刻tにおける写像移動体1miが近傍の仮想移動体1Cの中で最もイベントに近いと評価した仮想移動体1Cの位置(以下、LB位置と呼ぶ)である。
【0049】
上記数式(1)におけるLBパラメータの値を0とすれば、写像移動体1miをPB位置に向かわせる移動ベクトルが算出される。この場合、写像移動体1miは群リーダーとして振る舞う。一方、上記数式(1)におけるPBパラメータの値を0とすれば、写像移動体1miをLB位置に向かわせる移動ベクトルが算出される。この場合、写像移動体1miはフォロワーとして振る舞う。
【0050】
なお、写像移動体1miは仮想空間に含まれる写像移動体1mの1つであり、写像移動体1miの近傍の仮想移動体1Cとは、仮想空間に含まれる仮想移動体1Cのうち、写像移動体1miが仮想的に通信可能な範囲に位置する仮想移動体1Cを指す。以下、特に断らない限り、「近傍」は「仮想的に無線通信可能な範囲」の意味で使用する。
【0051】
また、PB位置は、下記の数式(3)のように定式化してもよい。
【数3】
【0052】
上記数式(3)において、αはv(t-1)がx軸(仮想空間に設定された水平方向の軸)となす角、βは[-θ,θ]の範囲で一様な乱数により決定される角度、E Pbest(t)は時刻tにおける写像移動体1miのPB評価値である。
【0053】
PB評価値は、イベントから発せられた物理情報に基づいて算出すればよい。例えば、PB評価値は下記の数式(4)のように定式化できる。
【数4】
【0054】
なお、E dir(t)は、時刻tにおける写像移動体1miの検知結果から算出される値であり、物理情報の強度に対して単調減少する。写像移動体1mが探索対象から近いほど、検知される物理情報の強度は強くなるから、E dir(t)が小さいほど写像移動体1mは探索対象から近い位置(良い位置)に存在することになる。つまり、PB評価値は、その値が小さいほど高評価である。これは、他の評価値(LB評価値および自己評価値)についても同様である。
【0055】
上記数式(3)によれば、PB評価値が良くなった場合(E Pbest(t)<E Pbest(t-1)のとき)には進行方向が概ね維持され、それ以外の場合(otherwise)には進行方向が概ね逆向きとなる。したがって、数式(3)で表されるPB位置を用いることにより、写像移動体1mをPB評価値が良くなる方向に移動させる移動ベクトルを算出することができる。
【0056】
なお、LB位置の代わりに、群全体において過去最良となる評価値を得た位置情報であるグローバルベスト位置を用いてもよい。
【0057】
〔4-2.移動方針の決定方法〕
上述のように、数式(1)におけるLBパラメータの値を0とすることにより、写像移動体1miを群リーダーとすることができ、PBパラメータの値を0とすることにより、写像移動体1miをフォロワーとすることができる。
【0058】
したがって、移動ベクトル算出部214は、LBパラメータとPBパラメータの値を調整することにより、写像移動体1mの移動方針を決定することができる。移動ベクトル算出部214は、数式(1)におけるLBパラメータおよびPBパラメータの値を、例えば下記の数式(5)および(6)に基づいて決定してもよい。
【数5】
【数6】
【0059】
上記数式(5)は基本条件と追加条件の何れかが充足された場合にPBパラメータの値を1とし、それ以外の場合にPBパラメータの値を0とするというものである。また、上記数式(6)は、基本条件と追加条件の何れかが充足された場合にLBパラメータの値を0とし、それ以外の場合にLBパラメータの値を1とするというものである。つまり、これらの数式によれば、基本条件と追加条件の何れかが充足された写像移動体1mは群リーダーとして振る舞い、何れも充足されない写像移動体1mはフォロワーとして振る舞うことになる。
【0060】
したがって、移動ベクトル算出部214は、上記基本条件が充足されている場合に、PBパラメータの値を1とし、LBパラメータの値を0とすることにより、群リーダーとして移動する移動方針に決定することができる。また、移動ベクトル算出部214は、上記基本条件が充足されていない場合であっても、上記追加条件が充足されていれば、群リーダーとして移動する移動方針に決定することができる。そして、移動ベクトル算出部214は、上記基本条件および上記追加条件の何れも充足されていない場合には、フォロワーとして移動する移動方針に決定することができる。
【0061】
上記基本条件は、写像移動体1miの近傍に存在する写像移動体1mj(x∈neighbor(t))が算出したPB評価値の最小値よりも、写像移動体1miが算出したPB評価値の方が小さいというものである。なお、上述のように、PB評価値の値が小さいほど、検出した物理情報の強度が大きく、その写像移動体1mがイベントに近い可能性が高い。したがって、自機がイベントに最も近いと評価された場合に、上記基本条件が充足されるといえる。この条件は、複数の仮想移動体1Cに移動体群を形成させるための基本的な条件である。
【0062】
一方、上記追加条件は、1つの移動体群を複数に分割可能とするために追加された条件であり、PB評価値がLB評価値よりも小さい、すなわち自機のPB位置がLB位置よりも良い位置である、というものである。この条件を追加することにより、仮想空間における複数の写像移動体1mのうち、基本条件を充足した写像移動体1mが群リーダーとなると共に、基本条件を充足しないフォロワーの中に追加条件を充足した写像移動体1mが存在すれば、その写像移動体1mも群リーダーとなる。
【0063】
上記数式(6)におけるLB評価値は、例えば下記の数式(7)により算出してもよい。数式(7)は、写像移動体1miの近傍に存在する仮想移動体1Cjが算出した自己評価値(E(t))の最小値を写像移動体1miのLB評価値とする、というものである。LB評価値は、自機の近傍の仮想移動体1Cが持つ自己評価値の中で最良の自己評価値である。
【数7】
【0064】
また、自己評価値とは、イベントに対する自機の現在位置の評価値である。自己評価値は、下記の数式(8)により算出してもよい。数式(8)は、写像移動体1miの近傍に存在する写像移動体1mjが算出したPB評価値よりも写像移動体1miが算出したPB評価値の方が小さければ、すなわち上述の基本条件を充足していれば、写像移動体1miが算出したPB評価値の値を写像移動体1miの自己評価値とする、というものである。つまり、数式(8)によれば、群リーダーである写像移動体1mの自己評価値はその写像移動体1mが算出したPB評価値の値となる。
【0065】
また、数式(8)は、上記基本条件が充足されていなければ(otherwise)、LB評価値とC Lbest(t)との和を写像移動体1miの自己評価値とする、というものである。つまり、数式(8)によれば、フォロワーである写像移動体1mの自己評価値はその写像移動体1mが算出したLB評価値とC Lbest(t)との和となる。
【0066】
なお、C Lbest(t)は、時刻tにおける写像移動体1miがローカルベストとする仮想移動体1C、すなわち局所最良移動体までの接近度である。
【数8】
【0067】
〔4-3.LB評価値の劣化〕
移動ベクトル算出部214は、他の写像移動体1miのうち探索対象であるイベントに最も近い局所最良移動体と自機の間の領域に位置する他の仮想移動体1Cの数の多さに応じて当該局所最良移動体の位置の評価を劣化させたLB評価値を算出してもよい。
【0068】
これにより、局所最良移動体と自機の間の領域に位置する他の仮想移動体1Cの数が多い場合に、数式(5)における追加条件が充足しやすくなるので、自機が群リーダーになりやすくなる。例えば、自機と局所最良移動体との間の領域に多数の他の仮想移動体1Cが位置しており、局所最良移動体に追従した探索の効果が低いと考えられる状況において、自機が群リーダーとなって他のイベントの探索を行うことも可能になる。
【0069】
具体的には、移動ベクトル算出部214は、例えば、上記数式(7)の代わりに下記数式(9)を用いてLB評価値を算出してもよい。
【数9】
【0070】
上記数式(9)におけるN は群れ度合い集合であり、下記数式(10)で表される。また、上記数式(9)におけるcは群れ度合い係数である。
【数10】
【0071】
群れ度合いの計算方法については上記特許文献3に記載されている通りである。
【0072】
〔4-4.衝突抑制〕
移動ベクトル算出部214は、例えば下記の数式(11)により反発ベクトルを算出してもよい。数式(11)は、時刻tにおける写像移動体1miの反発ベクトルの算出式である。
【数11】
【0073】
なお、c3i(t)は時刻tにおける写像移動体1miの反発係数、Vijは仮想移動体1Cjから写像移動体1miへのベクトル、nは写像移動体1miの近傍移動体群、dij(t)は時刻tにおける写像移動体1miと仮想移動体1Cjの距離、kは反発ベクトルにおけるノルムパラメータである。
【0074】
上記の数式(11)で算出される反発ベクトルは、近傍の仮想移動体1Cに対して反発する向きのベクトルであり、そのノルムは自機と近傍の仮想移動体1Cとの距離に応じて決定される。つまり、近傍の仮想移動体1Cとの距離が近い場合は大きく反発し、距離が遠い場合は小さく反発するようになっている。
【0075】
移動ベクトル算出部214は、移動ベクトルの算出において、上述の数式(1)に上記反発ベクトルを追加した下記の数式(12)を用いればよい。これにより、移動方針に基づく移動ベクトル(数式(12)の右辺第2項または第3項)と反発ベクトルとを用いて算出された移動ベクトルに従って写像移動体1mを移動させることができる。そして、反発ベクトルが考慮されているため、仮想移動体1C同士の衝突の可能性を低減することができる。
【数12】
【0076】
〔4-5.増殖移動体1pの移動ベクトルの算出〕
次に、増殖移動体1pの移動ベクトルの算出方法について以下に説明する。増殖移動体1pは、実空間のイベントに直接的に作用できないため、イベントの物理情報を検知する機能およびイベントを捕捉する機能を有しない。つまり、移動ベクトル算出部214は、増殖移動体1pについて、数式(4)におけるPB評価値を算出することができない。そのため、増殖移動体1pは、群リーダーとして選出されることはなく、常にフォロワーとして振る舞うこととなる。したがって、増殖移動体1pは、数式(9)による(複数群構成移動体数の偏りを抑制しつつ)LB評価値を算出する機能および数式(11)による衝突抑制制御を行う機能を有していればよい。
【0077】
なお、群リーダーである写像移動体1mが増殖移動体1pに取り囲まれてしまい本来進むべき方向に進めなくなることを防ぐために、増殖移動体1pの衝突抑制制御に係る反発係数cは、写像移動体1mのものより多く(例えば約2倍に)設定されてもよい。
【0078】
移動ベクトル算出部214は、例えば下記の数式(13)を用いて増殖移動体1pの移動ベクトルを算出してもよい。この場合、当該移動ベクトルに従って移動した後の増殖移動体1pの位置は下記の数式(14)で表される。
【数13】
【数14】
【0079】
数式(13)(14)において、tは時刻、wは増殖移動体1pの慣性重量、v(t)は時刻tにおける増殖移動体1piの移動ベクトル、lb(t)は時刻tにおける増殖移動体1piのLBパラメータ、x Lbest(t)は時刻tにおける増殖移動体1piのLB位置である。また、反発ベクトルは、数式(11)において算出される。
【0080】
〔5.移動センシングクラスタの形成〕
図3図5は、増殖移動体1pの発生による群構成の遷移を示す模式図である。図3図5において、写像移動体1miおよび写像移動体1mjはそれぞれ、仮想空間における写像移動体1mの1つである。領域Aiは、増殖移動体1pの発生時における写像移動体1miの位置から写像移動体1mjの位置までの距離を半径とし、写像移動体1miの位置を中心とする円形の領域である。領域Ajは、増殖移動体1pの発生時における写像移動体1mjの位置から写像移動体1miの位置までの距離を半径とし、写像移動体1mjの位置を中心とする円形の領域である。
【0081】
図3は、増殖移動体1pが発生する直前の群構成を示す。ここで、写像移動体1miは、イベントEV1について数式(5)の基本条件を充足するため、イベントEV1を探索する移動体群の群リーダーとして振る舞う。また、写像移動体1mjは、いずれのイベントについても数式(5)の基本条件および追加条件のいずれも充足しないため、局所最良移動体である写像移動体1miのフォロワーとして振る舞う。
【0082】
図4は、増殖移動体1pが発生した直後の群構成を示す。ここで、写像移動体1miよりイベントEV1の近くに増殖移動体1pが発生している。しかしながら、上述した通り増殖移動体1pは群リーダーとはならないため、写像移動体1miは、依然としてイベントEV1を探索する移動体群の群リーダーとして振る舞う。また、領域Aiに含まれ、かつ、領域Ajにも含まれる増殖移動体1pがいくつか発生している。これにより、局所最良移動体である写像移動体1miと写像移動体1mjとの間の領域に位置する仮想移動体1Cの数が増え、LB評価値が劣化する(数式(9))。したがって、写像移動体1mjは、数式(5)の追加条件を充足するため、群リーダーに切り替わる。ここで、写像移動体1mjは、イベントEV1よりもイベントEV2の近くに位置する。そのため、写像移動体1mjは、イベントEV2を探索する移動体群の群リーダーとして振る舞う。
【0083】
図5は、増殖移動体1pが発生してしばらく経過した後の群構成を示す。写像移動体1miは、数式(12)に従い、イベントEV1の位置(写像移動体1miのPB位置)に向かう。増殖移動体1pの一部は、写像移動体1miのフォロワーとして振る舞う。また、写像移動体1mjは、数式(12)に従い、イベントEV2の位置(写像移動体1mjのPB位置)に向かう。増殖移動体1pの残りの一部は、写像移動体1mjのフォロワーとして振る舞う。
【0084】
以上より、写像移動体1mは、仮想空間CS上に増殖移動体1pを発生させなかった場合と比較し、より多くの群を形成できる。すなわち、当該写像移動体1mに対応する実移動体1Rは、実空間RS上の実移動体に対する群知能の適用では実移動体数の制約のため実現できない、高度な群構成を仮想空間CS上で構成できる。したがって、実移動体1Rは、効率よくイベントEVを探索できる。
【0085】
〔6.処理の流れ〕
図6は、情報処理装置2が実移動体1Rの探索中に繰り返し実行する処理の一例を示すフローチャートである。図6を参照し、情報処理装置2が実移動体1Rの移動を制御する処理の流れについて説明する。
【0086】
S1では、実移動体1Rの探索開始時に、通信制御部211が、複数の実移動体1Rそれぞれの位置情報および検知結果を取得する。通信制御部211は、複数の実移動体1Rそれぞれの位置情報および検知結果を写像移動体構成部212に出力する。
【0087】
S2(写像移動体構成ステップ)では、写像移動体構成部212が、実移動体1Rの位置情報に対応する仮想空間上の位置座標を有する写像移動体1mを設定する。写像移動体構成部212は、写像移動体1mの位置座標を記憶部220に記憶させる。また、写像移動体構成部212は、複数の実移動体1Rの検知結果を対応する写像移動体1mの検知結果として記憶部220に記憶させる。
【0088】
S3では、増殖移動体構成部213が、所定の第1条件を満たしているか判定する。所定の第1条件が満たされているとき(S3でYES)、処理はS4に進む。S4(増殖移動体構成ステップ)では、増殖移動体構成部213が、仮想空間上に写像移動体1mとは異なる増殖移動体1pを発生させる。所定の第1条件が満たされていないとき(S3でNO)、処理はS5に進む。
【0089】
所定の第1条件に基づく発生判定方法は、例えば以下の発生判定方法1~4のいずれかである。
【0090】
(発生判定方法1)増殖移動体構成部213は、所定の第1時間において、増殖移動体1pを発生させる。この場合、増殖移動体構成部213は、例えば、探索対象のフィールド全体に乱数的に増殖移動体1pを発生させる。所定の第1時間としては、例えば、実移動体1RによるイベントEVの探索を開始してからの時間である。
【0091】
(発生判定方法2)増殖移動体構成部213は、仮想移動体1Cの密度に応じて、増殖移動体1pを発生させる。具体的には、増殖移動体構成部213は、仮想移動体1Cの密度が所定の第1密度閾値を下回ったとき、増殖移動体1pを発生させる。ここで、仮想移動体1Cの密度とは、例えば、各仮想移動体1Cを中心とする所定の半径の円領域内における仮想移動体1Cの密度の平均値である。この場合、増殖移動体構成部213は、例えば、探索対象のフィールド全体に乱数的に増殖移動体1pを発生させる。また、増殖移動体構成部213は、上記円領域内における仮想移動体1Cの密度が所定の第1密度閾値を下回った、群リーダーとして振る舞う写像移動体1mの近傍に増殖移動体1pを発生させてもよい。
【0092】
(発生判定方法3)増殖移動体構成部213は、実移動体1Rの作業状況に応じて、増殖移動体1pを発生させる。具体的には、増殖移動体構成部213は、実移動体1RによるイベントEVの捕捉が完了したとき、探索対象のフィールド上の当該イベントEVがある方向において多くの増殖移動体1pを発生させる。これにより、当該イベントEVの近傍の仮想移動体1Cを、捕捉が完了したイベントEVから離れる方向に移動できる。
【0093】
(発生判定方法4)増殖移動体構成部213は、実移動体1Rが検知する物理情報に応じて、増殖移動体1pを発生させる。具体的には、増殖移動体構成部213は、所定の時間における実移動体1Rが検知する物理情報の強度が所定の第1強度閾値を下回っていたとき、増殖移動体1pを発生させる。ここで、物理情報の強度とは、例えば、各実移動体1Rが検知する物理情報の強度の平均値である。この場合、増殖移動体構成部213は、例えば、探索対象のフィールド全体に乱数的に増殖移動体1pを発生させる。また、増殖移動体構成部213は、物理情報の強度が所定の第1強度閾値を下回った、群リーダーとして振る舞う写像移動体1mの近傍に増殖移動体1pを発生させてもよい。
【0094】
S5(移動ベクトル算出ステップ)では、移動ベクトル算出部214が、上述の移動ベクトルの算出方法に基づき、仮想移動体1Cの移動ベクトルを算出する。移動ベクトル算出部214は、算出した仮想移動体1Cの移動ベクトルのうち、写像移動体1mの移動ベクトルを移動指示部215に出力する。また、移動ベクトル算出部214は、当該移動ベクトルに従って移動した後の仮想移動体1Cの位置座標を記憶部220に記憶させる。つまり、移動ベクトル算出部214は、仮想移動体1Cの位置座標を、移動ベクトルに基づく移動後のものに更新する。
【0095】
S6(移動指示ステップ)では、移動指示部215が、仮想空間による計算の出力結果である写像移動体1mの移動ベクトルを実移動体1Rの移動ベクトルとして、対応する実移動体1Rにそれぞれ送信する。これにより、実移動体1Rは、当該移動ベクトルに従って移動する。
【0096】
S7では、仮想移動体1Cが移動ベクトルに従って移動した後、通信制御部211が、複数の実移動体1Rそれぞれの検知結果を取得する。通信制御部211は、複数の実移動体1Rの検知結果を対応する写像移動体1mの検知結果として記憶部220に記憶させる。つまり、通信制御部211は、写像移動体1mの検知結果を、移動ベクトルに基づく移動後のものに更新する。
【0097】
S8では、増殖移動体構成部213が、所定の第2条件を満たしているか判定する。所定の第2条件が満たされているとき(S8でYES)、処理はS9に進む。S9では、増殖移動体構成部213が、増殖移動体1pの少なくとも一部を消去する。所定の第2条件が満たされていないとき(S8でNO)、処理はS3に戻る。すなわち、S5およびS7においてそれぞれ更新された仮想移動体1Cの位置座標および写像移動体1mの検知結果に基づき、再びS3以降の処理が行われる。
【0098】
所定の第2条件に基づく消去判定方法は、例えば以下の消去判定方法1~4のいずれかである。
【0099】
(消去判定方法1)増殖移動体構成部213は、所定の第1時間以降の所定の第2時間(所定の時間)において、増殖移動体1pを消去する。この場合、増殖移動体構成部213は、例えば、乱数的に選択された増殖移動体1pを消去する。所定の第2時間としては、例えば、実移動体1RによるイベントEVの探索を開始してからの時間である。
【0100】
(消去判定方法2)増殖移動体構成部213は、仮想移動体1Cの密度に応じて、増殖移動体1pを消去する。具体的には、増殖移動体構成部213は、仮想移動体1Cの密度が所定の第2密度閾値を超えたとき、増殖移動体1pを消去する。例えば、増殖移動体構成部213は、各仮想移動体1Cの円領域内における仮想移動体1Cの密度の平均値が所定の第2密度閾値を超えたとき、乱数的に選択された増殖移動体1pを消去する。または、増殖移動体構成部213は、円領域内における仮想移動体1Cの密度が所定の第2密度閾値を超えた、群リーダーとして振る舞う写像移動体1mの近傍の増殖移動体1pを消去する。
【0101】
(消去判定方法3)増殖移動体構成部213は、実移動体1Rの作業状況に応じて、増殖移動体1pを消去する。具体的には、増殖移動体構成部213は、実移動体1RによるイベントEVの捕捉を開始するとき、当該実移動体1Rに対応する写像移動体1mの周り(例えば、周囲10m以内)の増殖移動体1pを消去する。これにより、実移動体1Rによる円滑なイベント捕捉が可能となる。また、増殖移動体構成部213は、実移動体1RによるイベントEVの捕捉が完了したとき、探索対象のフィールド上の当該イベントEVがある方向とは反対方向において多くの増殖移動体1pを消去する。これにより、当該イベントEVの近傍の仮想移動体1Cを、捕捉が完了したイベントEVから離れる方向に移動できる。
【0102】
(消去判定方法4)増殖移動体構成部213は、実移動体1Rが検知する物理情報に応じて、増殖移動体1pを消去する。具体的には、増殖移動体構成部213は、所定の時間における実移動体1Rが検知する物理情報の強度が所定の第2強度閾値を超えたとき、増殖移動体1pを消去する。例えば、増殖移動体構成部213は、各実移動体1Rが検知する物理情報の強度の平均値が所定の第2密度閾値を超えたとき、乱数的に選択された増殖移動体1pを消去する。または、増殖移動体構成部213は、物理情報の強度が所定の第2密度閾値を超えた、群リーダーとして振る舞う写像移動体1mの近傍の増殖移動体1pを消去する。
【0103】
〔7.実施例〕
イベント探索システム100のシミュレータを構築し、イベント探索システム100の性能の確認を行った結果を図7図9に基づいて説明する。図7および図8は、シミュレーションの条件を示す図である。図9は、増殖移動体1pの数および探索対象のフィールドの広さを変えて測定した捕捉完了時間の測定結果を示すグラフである。なお、捕捉完了時間とは、全てのイベントの捕捉が終了するまでの所要時間である。
【0104】
本シミュレーションでは、増殖移動体1pの数を0,20,40,60,80,100と変え、かつ、探索対象のフィールドの広さを100m,200m,300m,400m,500mと変えたときの捕捉完了時間を測定した。
【0105】
ここで、図8に示すように、実移動体1RによるイベントEVの探索を開始してから30秒後に、探索対象のフィールド全体に乱数的に所定の数の増殖移動体1pを発生させた(すなわち、上述の発生判定方法1を採用した)。また、実移動体1RによるイベントEVの捕捉を開始するとき、当該実移動体1Rに対応する写像移動体1mの周囲10m以内の増殖移動体1pを消去した(すなわち、上述の消去判定方法3を採用した)。
【0106】
図9において、横軸は発生させた増殖移動体1pの数を表し、縦軸は捕捉完了時間を表す。図9に示すように、フィールドの広さが300m~500mの場合、増殖移動体1pを発生させない(すなわち増殖移動体1pの数が0の)場合と比較し、捕捉完了時間が短縮された。特に、フィールドの広さが300mの場合、増殖移動体1pの数が20のとき、フィールドの広さが400m,500mの場合、増殖移動体1pの数が40のとき、捕捉完了時間が顕著に短縮された。これは、フィールドの広さに応じて増殖移動体1pの数を適切に設定することにより、高度な機能構造を有する群構成を形成しつつ、移動体数の増加による移動の停滞を抑制できるためであると考えられる。
【0107】
上記構成によれば、仮想空間に移動体を写像するだけでなく、増殖させることにより、
実空間における移動体の物理的な数の制約に起因する機能構造の限度を超えた高度な群構成による振る舞いを創発できる。
【0108】
また、上記構成によれば、災害発生時の被害状況の把握、要救助者の探索および要救助者の救助活動に貢献できる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住を実現する」等の達成にも貢献するものである。
【0109】
(変形例)
なお、本実施形態では、仮想移動体1Cを用いた移動体の移動を制御する手法をイベント探索システム100に適用した一例を説明したが、適用例としてはこれに限定されない。例えば、(工場等において移動して所定の作業を行う)産業用協働ロボット、(災害、交通、気象等をイベントとして監視する)人工衛星等に上述の手法を適用してもよい。
【0110】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置2(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部210に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0111】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0112】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0113】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0114】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0115】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0116】
100 イベント探索システム
1R 実移動体
1C 仮想移動体
1m 写像移動体
1p 増殖移動体
2 情報処理装置
210 制御部
220 記憶部
230 通信部
211 通信制御部
212 写像移動体構成部
213 増殖移動体構成部
214 移動ベクトル算出部
215 移動指示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9