(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083123
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電子チップパッケージ及び電子チップパッケージの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/02218 20210101AFI20240613BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20240613BHJP
B23K 3/04 20060101ALI20240613BHJP
H01S 5/02212 20210101ALI20240613BHJP
H01L 33/62 20100101ALI20240613BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20240613BHJP
H01S 5/0231 20210101ALI20240613BHJP
【FI】
H01S5/02218
B23K1/00 S
B23K1/00 330Z
B23K3/04 F
H01S5/02212
H01L33/62
H01S5/02253
H01S5/0231
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197465
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌裕
【テーマコード(参考)】
5F142
5F173
【Fターム(参考)】
5F142AA82
5F142CF02
5F142CF23
5F142CF27
5F142FA50
5F173MB01
5F173MB05
5F173MC12
5F173MC23
5F173MD05
5F173MD07
5F173ME03
5F173ME14
5F173ME22
5F173ME32
5F173ME65
5F173MF03
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で放熱性能に優れた電子チップパッケージ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電子チップパッケージ1は、電子チップ10と、電子チップ10が搭載されたベース21を有するステム20と、ベース21に接続して電子チップ10の周囲を封止するキャップ30とを備える。ベース21は、導電率が35%IACS以上の金属で形成されている。キャップ30は、ベース21よりも導電率が低い金属で形成された母材32と、母材32よりも融点が低い低融点金属33とを積層したクラッド材で形成されている。ステム21とキャップ30とは、低融点金属33がベース21に接触して抵抗溶接で接合されている。電子チップパッケージ1の製造方法は、低融点金属33とベース21とが接触した部分でキャップ30とステム20とを第1の電極と第2の電極とで挟み、この挟んでいる部分を加圧しながら通電させて、キャップ30とステム20とを接合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子チップと、
前記電子チップが搭載されたベースを有するステムと、
前記電子チップを内部に収容するキャップであって、前記ベースに接続して前記電子チップの周囲を封止するキャップと、を備え、
前記ベースは、導電率が35%IACS以上の金属で形成されており、
前記キャップは、前記ベースよりも導電率が低い金属で形成された母材と、前記母材よりも融点が低い低融点金属と、を積層したクラッド材で形成されており、
前記ステムと前記キャップとは、前記低融点金属が前記ベースに接触して抵抗溶接によって接合されている、
電子チップパッケージ。
【請求項2】
前記キャップは、板状の前記クラッド材をプレス加工して形成されたものである、
請求項1に記載の電子チップパッケージ。
【請求項3】
前記キャップは、前記低融点金属よりも融点が低いガラスで形成されたレンズを有する、
請求項1に記載の電子チップパッケージ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電子チップパッケージを製造する方法であって、
前記ベースに前記電子チップが搭載された前記ステムと、前記キャップとを、前記低融点金属と前記ベースとを接触させた状態で、第1の電極に供給する工程と、
前記低融点金属と前記ベースとが接触した部分で、前記キャップと前記ステムとを、前記第1の電極と第2の電極とで挟む工程と、
前記第1の電極と前記第2の電極とで挟んでいる部分の前記キャップ及び前記ステムを加圧しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記キャップ及び前記ステムを介して通電させて、前記キャップと前記ステムとを接合する工程と、を備える、
電子チップパッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電子チップパッケージ及び電子チップパッケージの製造方法に関し、特に放熱性能に優れた電子チップパッケージ及び電子チップパッケージの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな種類が存在する半導体パッケージの中に、発光ダイオードなどの電子チップを実装したステムに対して、電子チップを覆うキャップを取り付けた電子チップパッケージがある。電子チップパッケージを構成するステムのうち、電子チップが搭載されるベースは、鉄又は鉄-ニッケル合金によって形成されていることが多い。他方、電子チップは発熱があり、電子チップの性能維持のために放熱が必要であることを考慮して、放熱性向上のためにステムのベースを銅又は銅系の合金で形成したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銅は熱伝導率が大きく、溶接による接合が難しいため、特許文献1に記載のパッケージは、キャップが溶接接合されるステムの部分に、鉄系の材料で形成された溶接補助部材を設けている。特許文献1における溶接補助部材は、ステムに形成された段部に嵌め込まれて銀鑞付けでステムに固着されている。このように、特許文献1では、銅系のステムを採用するに際し、溶接補助部材を取り付けるためステムに段部を形成し、溶接補助部材をステムにロウ付けするという追加の工程が必要になる。
【0005】
本開示は上述の課題に鑑み、簡便な構成で放熱性能に優れた電子チップパッケージ及び電子チップパッケージの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様に係る電子チップパッケージは、電子チップと、前記電子チップが搭載されたベースを有するステムと、前記電子チップを内部に収容するキャップであって、前記ベースに接続して前記電子チップの周囲を封止するキャップと、を備え、前記ベースは、導電率が35%IACS以上の金属で形成されており、前記キャップは、前記ベースよりも導電率が低い金属で形成された母材と、前記母材よりも融点が低い低融点金属と、を積層したクラッド材で形成されており、前記ステムと前記キャップとは、前記低融点金属が前記ベースに接触して抵抗溶接によって接合されている。
【0007】
このように構成すると、低融点金属を含むクラッド材で形成されたキャップと導電率が比較的高い金属で形成されたステムとを抵抗溶接によって接合しているので、簡便な構成で放熱性能に優れた電子チップパッケージを得ることができる。
【0008】
また、本開示の第2の態様に係る電子チップパッケージは、上記本開示の第1の態様に係る電子チップパッケージにおいて、前記キャップは、板状の前記クラッド材をプレス加工して形成されたものである。
【0009】
このように構成すると、キャップの製造を簡便に行うことができ、電子チップパッケージを簡便に得ることができる。
【0010】
また、本開示の第3の態様に係る電子チップパッケージは、上記本開示の第1の態様又は第2の態様に係る電子チップパッケージにおいて、前記キャップは、前記低融点金属よりも融点が低いガラスで形成されたレンズを有する。
【0011】
このように構成すると、電子チップが搭載されたステムとキャップとを接合する際にステム及びキャップを高温の炉内に投入してロウ付けするとレンズが溶融する可能性があるため、ステムとキャップとの抵抗溶接による接合に適した電子チップパッケージとなる。
【0012】
また、本開示の第4の態様に係る電子チップパッケージの製造方法は、上記本開示の第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つの態様に係る電子チップパッケージを製造する方法であって、前記ベースに前記電子チップが搭載された前記ステムと、前記キャップとを、前記低融点金属と前記ベースとを接触させた状態で、第1の電極に供給する工程と、前記低融点金属と前記ベースとが接触した部分で、前記キャップと前記ステムとを、前記第1の電極と第2の電極とで挟む工程と、前記第1の電極と前記第2の電極とで挟んでいる部分の前記キャップ及び前記ステムを加圧しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記キャップ及び前記ステムを介して通電させて、前記キャップと前記ステムとを接合する工程と、を備える。
【0013】
このように構成すると、キャップと導電率が比較的高いステムとを抵抗溶接によって接合した電子チップパッケージを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、低融点金属を含むクラッド材で形成されたキャップと導電率が比較的高い金属で形成されたステムとを抵抗溶接によって接合しているので、簡便な構成で放熱性能に優れた電子チップパッケージを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)は一実施の形態に係る電子チップパッケージの斜視図、(B)は一実施の形態に係る電子チップパッケージの分解部分断面側面図である。
【
図2】各種の金属の導電率を示すテーブルの図である。
【
図3】一実施の形態に係る電子チップパッケージの接合時の状況を示す概略構成図である。
【
図4】一実施の形態に係る電子チップパッケージの製造の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
まず
図1(A)及び
図1(B)を参照して、一実施の形態に係る電子チップパッケージ1(以下、単に「パッケージ1」という。)を説明する。
図1(A)はパッケージ1の斜視図、
図1(B)はパッケージ1の分解部分断面側面図である。パッケージ1は、CANタイプのパッケージであり、
図1(A)に示すように外観はステム20及びキャップ30が表れている。キャップ30の内部には、
図1(B)に示すように電子チップ10が存在している。なお、
図1(B)では、パッケージ1となる前のステム20とキャップ30とが分離した状態を示しており、電子チップ10及びステム20を側面で、キャップ30を断面で、それぞれ表している。
【0018】
電子チップ10は、典型的には光半導体であり、発光ダイオードやレーザーダイオード等の発光素子が好適に用いられるが、フォトダイオード等の受光素子、その他の光半導体も用いられ得る。電子チップ10は、駆動時に熱が発生する。電子チップ10は、一般に、動作に適正な温度を超えると誤作動や損傷の原因となり得るため、適正温度を維持するための放熱措置が施されている。電子チップ10は、近年、高出力のものが開発されてきている。電子チップ10は、一般に、消費電力の概ね半分以上が熱になるため、高出力になるほど多くの放熱が必要になる。本実施の形態に係るパッケージ1は、比較的簡便な構成で優れた放熱性能を持たせるために、後述する工夫を行っている。電子チップ10は、ステム20に搭載されている。
【0019】
ステム20は、電子チップ10が搭載されるベース21と、電子チップ10に出入りする電流を流すためのリード23とを有している。ベース21は、電子チップ10が搭載されると共にリード23を支持する部材である。ベース21は、典型的には板状に形成されており、本実施の形態では円板状に形成されている。ベース21の大きさは、電子チップ10を包含することができる大きさであることはもちろん、平面視においてキャップ30を包含することができる大きさに形成されている。ベース21の厚さは、要求される強度や熱容量等を勘案して、適宜決定するとよい。電子チップ10は、典型的には、ベース21の一方の面の図心部分に設けられている。電子チップ10は、その種類に応じて、ベース21に対して、直接固定されている場合と、サブマウントを介して固定されている場合とがあり得る。
【0020】
ベース21は、導電率が35%IACS以上の金属で形成されている。ここで、導電率を示す単位「%IACS」は、国際標準軟銅(抵抗率=1.7241×10-8Ωm)の導電率を100%とした指標であり、100%IACS=5.8×107S/mでもある。ベース21を、導電率が35%IACS以上の金属で形成するのは、電子チップ10で発生した熱を、ベース21を介してパッケージ1の外に効果的に放出するためである。金属においては、ウィーデマン・フランツの法則により、熱伝導率と導電率との間に正の相関があることが知られており、導電率が大きいほど放熱性能に優れているといえる。このような観点から、導電率が35%IACSというのは下限の目安であり、放熱性能を向上させるためには、導電率が高いほど好ましい。したがって、ベース21を形成する金属の導電率(%IACS)は、50以上が好ましく、60以上がより好ましく、70以上がさらに好ましく、80以上がさらにより好ましい。熱伝導率(W/m・K)で見れば、100以上が好ましく、200以上がより好ましい。なお、ベース21を形成する金属の導電率(%IACS)の上限は、特に定めていないが、110や120としてもよい。本実施の形態では、ベース21全体が、導電率が35%IACS以上の金属で形成されている。
【0021】
図2に、例示の金属とその導電率との関係の一例を示す。
図2から分かるように、導電率の観点からベース21として採用し得る金属は、銀、銅、金、アルミニウム等が挙げられる。また、アルミニウム合金(7075)や黄銅についても、これらの一部はベース21の材料として採用し得る。例えば、Al-Zn-Mg系(7000系)のアルミニウム合金は、アルミニウムの含有量等によって導電率が35%IACS未満にも35%IACS以上にもなり得るが、ベース21の材料として用いる場合は35%IACS以上のものを採用するとよい。黄銅についても同様に、銅の含有量によって導電率が変わるが、ベース21の材料として用いる場合は35%IACS以上のもの(例えば銅の含有量が84%以上のもの)を採用するとよい。なお、ベース21の材料として採用するにあたっては、上述した導電率以外の、例えば強度等の、パッケージ1に要求される要素を勘案して、要求を満たす材料を選定するとよい。また、ベース21の材料は、接合されるキャップ30の材質との相性を勘案して、例えばキャップ30と接合した状態で電解腐食が実質的に生じないようにする観点から、選択するとよい。ベース21の材料とする金属は、上記の条件を満たすものであれば、
図2に例示したもの以外の金属を採用してもよい。ベース21は、必要な放熱性を阻害しない範囲であれば、めっきが施されていてもよい。例えば、腐食を防ぐ観点からベース21の表面の全体又は部分的に約1μm~約10μm(好ましくは約2μm~約5μm)の厚さのニッケルめっきを施してもよい。あるいは、このニッケルめっきを下地めっきとし、この下地めっきの上にさらに仕上げめっきとして約0.1μm~約1.0μm(好ましくは約0.2μm~約0.5μm)の厚さの金めっきを施してもよい。比較的厚さが小さいめっきがベース21の表面に施されていても、ベース21を構成する主要な金属の熱伝導が大きく阻害されることはない。このように、必要な放熱性を阻害しない範囲のめっきが施されているベース21は、実質的に導電率が35%IACS以上の金属で形成されているといえ、導電率が35%IACS以上の金属で形成されていることに含まれる。ベース21は、放熱性能を向上させる目的で表面積を増加させるため、電子チップ10が搭載された面とは反対側の面(裏面)に、凹凸が形成されていてもよい。
【0022】
図1(B)において側面図として表されているステム20には明示されていない挿通孔が、ベース21には形成されている。挿通孔(不図示)は、ベース21を厚さ方向に貫通するようにベース21に形成されている。リード23は、挿通孔に挿通されている。リード23は、本実施の形態では、ベース21の表側から裏側にわたって、ベース21の面に対して直角に延びている。挿通孔は、リード23の数の分だけベース21に形成されており、本実施の形態では、3つの挿通孔がベース21に形成されている。3つの挿通孔は、電子チップ10が取り付けられたベース21の部分を囲むように形成されている。また、各挿通孔を通った3つのリード23がキャップ30に収容される位置に、各挿通孔が形成されている。挿通孔を通っているリード23の部分の周囲は、ガラス等の絶縁性を有する充填材が充填されている。充填材が充填された部分は、絶縁端子部となる。充填材により、リード23はベース21に固定されている。また、リード23が挿通されている挿通孔に充填材を充填することで、ベース21の面内における表側と裏側との間の流体の連絡を防ぐことができる。リード23は、コバールで形成されていてもよい。ステム20には、キャップ30が取り付けられている。
【0023】
キャップ30は、ステム20に搭載された電子チップ10を収容する部品である。キャップ30は、概ね筒状の外観を呈しており、本実施の形態では概ね円筒状の外観を呈している。キャップ30は、円筒状の内径が、ステム20に搭載された電子チップ10とベース21を貫通している各リード23のすべてとを収容することができる大きさに形成されている。キャップ30は、円筒状の側面に相当する外周部34に対して、一方の端面が閉塞しており、他方の端面が開口している。キャップ30における円筒状の閉塞した端面を端面部35ということとする。キャップ30は、円筒状の開口した端面の周囲に、円筒状の外側に広がる縁部36が設けられている。縁部36は、円筒状の外周全体に設けられている。縁部36は、その外径が、ベース21の外径以下に(典型的にはベース21の外径未満に)形成されている。縁部36は、開口端面と同一面上にある部分が、ベース21に接合する部分となる。このため、開口端面と同一面上にある縁部36の部分の円筒状の半径方向の長さが、適切な強度でベース21に接合できる長さに形成されている。また、キャップ30は、本実施の形態では、端面部35にレンズ38が設けられている。レンズ38は、電子チップ10から出射された光を透過させるようになっている。レンズ38は、典型的には、端面部35の図心を含む位置に設けられている。レンズ38は、さまざまな融点のガラスを用いることができるが、本実施の形態では、融点が約400℃~550℃のガラスで形成されている。
【0024】
レンズ38を除くキャップ30を本体31ということとする。本体31は、母材32と、母材よりも融点が低い低融点金属33と、を積層したクラッド材で形成されている。母材32は、ベース21よりも導電率が低い金属で形成されており、導電率が1%IACS~28%IACSの金属で形成されていてもよい。母材32として導電率が比較的低い金属を採用しているのは、キャップ30よりもステム20のベース21の方に、電子チップ10における発熱のより多くを伝達させるためである。母材32として採用し得る金属は、導電率の観点からは、
図2に例示されたものの中では、ニッケル、鉄、クロム、SUS304等が挙げられるが、入手容易性を含む種々の要因を総合的に勘案して、鉄鋼やステンレス鋼を用いるとよい。なお、本体31の母材32の材料として採用するにあたっては、導電率以外の、例えば強度やステム20との相性等の、パッケージ1に要求される要素を勘案して、要求を満たす材料を選定するとよい。母材32の材料とする金属は、上記の条件を満たすものであれば、
図2に例示したもの以外の金属を採用してもよい。
【0025】
低融点金属33は、キャップ30がステム20に取り付けられたときにベース21に接触する部分となる。本体31が、母材32とは別に低融点金属33を用いている理由は、導電率が比較的高い金属で形成されたベース21に対して溶接しやすくするためである。一般に、溶接を行う際、材料の導電率(熱伝導率)が高いほど、溶接を行うために局部に加えた熱が拡散してしまって溶接部に十分な溶け込みを得ることが難しくなる。本実施の形態では、ベース21の導電率が比較的高いため、溶接に必要な溶け込みをキャップ30の側で得るべく、ベース21に接触する部分のキャップ30に低融点金属33を採用している。低融点金属33は、母材32と協働してクラッド材を形成するために、母材32との間で相互に拡散し合う材料を用いるとよい。低融点金属33としては、ベース21及び母材32に悪影響を与えない範囲で、融点が1000℃以下の材料を用いることが好ましい。低融点金属33は、融点が500℃以上又は600℃以上の材料を用いてもよい。低融点金属33を例示すると、銀ロウ、金-すず合金、りん銅ロウ等が挙げられる。なお、ここで例示した銀ロウやりん銅ロウは、ロウ材として利用されるものと同様の成分を有する金属であることを意味している。
【0026】
キャップ30の本体31は、本実施の形態では、母材32と低融点金属33とを積層した板状のクラッド材をプレス加工することによって形成されている。このとき、低融点金属33が本体31の円筒状の内側になるようにプレス加工が行われる。板状のクラッド材をプレス加工することによって、概ね円筒状で、当該円筒状の一方の端面に端面部35が形成され、他方の開口端面から外側に広がる縁部36が形成された、本体31となる。キャップ30は、プレス加工して概ね円筒状に形成された本体31の端面部35のレンズ38が取り付けられる位置に孔が形成され、その孔にレンズ38が取り付けられて製造されている。本体31の材料となる板状のクラッド材は、母材32及び低融点金属33以外の材料が積層されていてもよいが、一方の表面に低融点金属33が表れるものが用いられる。本実施の形態では、母材32と低融点金属33とを含む板状のクラッド材をプレス加工して本体31を製造しているので、比較的簡便にベース21との溶接に適した本体31を得ることができる。例えば、低融点金属33を含まないキャップにおけるベース21に接触する部分に事後的に低融点金属33を設ける場合に比べて、簡便に本体31を得ることができる。なお、クラッド材をプレス加工以外の加工、例えば板金加工して、本体31を形成してもよいが、プレス加工とすると、簡便に大量の本体31を製造できて好ましい。
【0027】
次に
図3及び
図4を参照して、ステム20にキャップ30を接合する要領を説明する。
図3は、ステム20とキャップ30とを接合する際の状況を示す概略構成図であり、主要部を側面断面で示している。
図4は、ステム20にキャップ30を接合する手順を示すフローチャートである。電子チップ10が搭載されたステム20に対してキャップ30を接合すると、パッケージ1となる。したがって、以下に示す、ステム20にキャップ30を接合する要領の説明は、電子チップパッケージの製造方法の説明を兼ねている。ステム20とキャップ30とは、抵抗溶接によって接合される。
【0028】
図3に示すように、ステム20及びキャップ30は、下電極51と上電極55とに挟まれた状態で接合される。下電極51は、本実施の形態では、ステム20を支持するように構成されている。下電極51は、その天面でベース21の裏面(電子チップ10が搭載されている面とは反対側の面)の外周付近の全体を支えるように構成されている。下電極51の天面には、ステム20の各リード23を収容する下窪み52が、鉛直下方に延びるように形成されている。上電極55は、本実施の形態では、キャップ30を支持するように構成されている。上電極55は、その底面に、キャップ30の円筒状の部分を収容可能な上窪み56が、鉛直上方に延びるように形成されている。上窪み56は、円柱状に形成されており、その直径は、外周部34の外径よりも大きく、縁部36の外周直径よりも小さくなっている。上電極55は、キャップ30を端面部35から上窪み56に入れたときに縁部36は上窪み56に入ることができず、縁部36の周方向全体が上電極55の底面に接触するように構成されている。上電極55は、上窪み56の内部の空間を負圧にする真空吸着機構(不図示)を有している。上電極55は、真空吸着機構(不図示)を作動させることで、縁部36の周方向全体が上電極55の底面に接触しているキャップ30を吸着保持することができ、真空吸着機構(不図示)を停止させることでキャップ30を解放することができるようになっている。上電極55は、本実施の形態では、移動装置(不図示)によって鉛直上下に移動することができるようになっている。
【0029】
下電極51及び上電極55は、典型的には、抵抗溶接の電極に適した金属で形成されている。下電極51及び上電極55は、電線65によって電気的に接続されている。電線65には、電源61が設けられている。電源61は、下電極51及び上電極55に電圧を印加して電流を供給するものである。電源61は、典型的には商用電源から電力の供給を受けるものであるが、自家発電機から電力の供給を受けることとしてもよい。電源61は、入力された交流電力を直流電力に変換する整流器、電圧を変換するトランス、蓄電するコンデンサ等を含んでいてもよい。電源61は、ステム20とキャップ30との抵抗溶接に適した電流を供給することができるように構成されている。上述した上電極55における真空吸着機構(不図示)の動作、移動装置(不図示)による上電極55の上下動、電源61からの電力の供給の有無は、制御装置70によって制御されるようになっている。本実施の形態では、上述した、下電極51、上電極55、電源61、及び制御装置70を含む抵抗溶接機を用いて、ステム20にキャップ30を接合する。
【0030】
図4に示すように、ステム20とキャップ30とを接合する一連の工程の最初は、電子チップ10が搭載されたステム20を、下電極51に載置する(S1)。このとき、ステム20のすべてのリード23を下窪み52に入れ、ベース21の裏面の外周部分全体が下電極51の天面に接するように、ステム20を下電極51に載置する。下電極51へのステム20の載置は、ロボットハンド(不図示)によって行われることとしてもよい。次に、上電極55がキャップ30を保持する(S2)。このとき、上窪み56に端面部35の側からキャップ30を入れ、縁部36が周方向全体にわたって上電極55の底面に接触した状態で、真空吸着機構(不図示)を作動させる。こうすることで、キャップ30が上電極55に保持される。上電極55の上窪み56へのキャップ30の挿入は、ロボットハンド(不図示)によって行われることとしてもよい。
【0031】
次に、キャップ30を保持した上電極55を、移動装置(不図示)によって下電極51の方に移動させて、キャップ30をステム20に接触させる(S3)。このとき、キャップ30の内部に電子チップ10や各リード23が収容されると共に、縁部36の低融点金属33が表れた面の全体がベース21に接触することとなる。このことにより、電子チップ10が搭載されたステム20とキャップ30とが、低融点金属33とベース21とを接触させた状態で、下電極51に供給されることとなる。本実施の形態では、下電極51が第1の電極に相当する。また、キャップ30がステム20に接触すると、接触部分におけるステム20とキャップ30とが下電極51と上電極55とに挟まれることとなる。本実施の形態では、上電極55が第2の電極に相当する。本実施の形態では、電子チップ10が搭載されたステム20とキャップ30とを第1の電極に供給する工程と、ステム20とキャップ30とを第1の電極と第2の電極とで挟む工程とが、同時に行われることとなる。キャップ30をステム20に接触させたら、上電極55を下電極51の方にさらに押圧して、ステム20とキャップ30との接触部分を加圧する(S4)。その後、ステム20とキャップ30との接触部分を加圧した状態で電源61を投入して、当該接触部分に通電させる(S5)。
【0032】
電源61を投入して電圧を印加すると、電源61からの電流が、電線65を介して、上電極55、キャップ30、ステム20のベース21、下電極51と流れる(あるいはこの逆方向に流れる)。ステム20とキャップ30との接触部分が加圧された状態で、当該接触部分に電流が流れることにより、当該接触部分の抵抗溶接が行われる(S6)。このとき、ステム20に接触しているキャップ30の部分は、低融点金属33で形成されているので、鉄系の材料で形成されている場合に比べて低い温度で溶融する。したがって、キャップ30が接合する相手であるステム20のベース21が導電率の比較的高い材料で形成されていても、キャップ30の接触部分を溶融させることができて、ステム20とキャップ30とを適切に接合することができる。また、当該接触部分の温度上昇を比較的低く抑えることができるので、当該接触部分にかかる熱負荷が軽減されて、ベース21の熱による変形を抑制することができる。ステム20への負荷が減少して変形が抑制されることにより、絶縁端子部(ベース21の挿通孔に充填材が充填された部分)への負荷が軽減されて絶縁端子部に隙間が生じることを避けることができ、キャップ30内部の高い気密性を確保することができる。また、ステム20とキャップ30とを抵抗溶接によって接合することで、接触部分以外の部分の温度上昇を抑制することができ、特に、融点が低いレンズ38の保護を図ることができる。例えば、仮に、ステム20とキャップ30とをロウ付けするために、ステム20及びキャップ30とロウ材とを、ロウ材の溶融温度よりも高い温度の炉内に入れると、レンズ38が溶けてしまうため、この手法でロウ付けすることができない。これに対し、本実施の形態のように抵抗溶接によって接合する場合は、融点が比較的低いレンズ38を有するキャップ30をステム20に接合することができ、大量生産に適している。電子チップ10を有するステム20とキャップ30との抵抗溶接が行われると、パッケージ1が製造される。本実施の形態に係るパッケージ1は、低融点金属33が表れた縁部36の部分が、縁部36の周方向全体でベース21に溶接されているので、キャップ30の内部の電子チップ10まわりの空間の気密性を確保した封止を行うことができる。
【0033】
パッケージ1が製造されたら、真空吸着機構(不図示)を停止させてキャップ30の保持を解除し、上電極55を上方に移動させて、パッケージ1を下電極51から取り出す(S7)。これで、1つのパッケージ1の製造が完了する。続いて新たにパッケージ1を製造する場合は、
図4に示す上述した工程を繰り返す。
【0034】
以上で説明したように、本実施の形態によれば、母材32と低融点金属33とを積層したクラッド材をプレス加工してキャップ30の本体31を製造しているので、ベース21との接触部分に低融点金属33が表れるキャップ30を簡便に得ることができる。キャップ30は、ベース21との接触部分に低融点金属33が表れているので、導電率が比較的高いベース21に対して抵抗溶接による接合を適切に行うことができる。つまり、キャップ30が、ベース21との接触部分に低融点金属33が表れるように形成されていることで、ベース21のキャップ30との接触部分に対して溶接に適した部材を事後的に埋め込むことなく、キャップ30をベース21に溶接することができる。ベース21として導電率が比較的高い材料を用いることができることで、ヒートシンクやペルチェ素子等の特別な放熱措置を施すことなく、電子チップ10が発生した熱をパッケージ1の外に放出することができる。
【0035】
以上の説明では、実質的にベース21の全体が導電率35%IACS以上の金属で形成されているとした。しかし、必要な放熱を行うことができる程度に、少なくともベース21の表面の電子チップ10に接続された部分と、キャップ30に塞がれていないベース21の部分と、これらの部分を接続するベース21の部分とが、導電率35%IACS以上の金属で形成されていればよい。つまり、キャップ30で封止された内部にある電子チップ10で発生した熱を、キャップ30で封止された部分の外側に、導電率35%IACS以上の金属を介して伝導させて、パッケージ1の外に放出できればよい。しかしながら、電子チップ10で発生した熱を迅速にパッケージ1の外に放出させる観点から、実質的にベース21の全体が導電率35%IACS以上の金属で形成されていることが好ましい。
【0036】
以上の説明では、下電極51が固定されている一方で上電極55が下電極51に対して接近し及び離れるように移動することとしたが、上電極55を固定して下電極51を移動させるようにしてもよく、下電極51及び上電極55の双方を移動可能にしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 パッケージ(電子チップパッケージ)
10 電子チップ
20 ステム
21 ベース
30 キャップ
31 本体
32 母材
33 低融点金属
38 レンズ