(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083152
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】レーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20240613BHJP
B21B 15/00 20060101ALI20240613BHJP
B23K 26/042 20140101ALI20240613BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B21B15/00 B
B23K26/042
B23K26/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197508
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】福永 貴之
(72)【発明者】
【氏名】原園 学
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CA13
4E168CB03
4E168CB19
4E168JA02
(57)【要約】
【課題】鋼帯同士の接合部の自動的な切断を可能にするレーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備が提供される。
【解決手段】レーザー切断方法は、先行鋼帯(1A)の後端と後行鋼帯(1B)の先端とを接合した接合部(2)の近傍をレーザー切断装置により切断するレーザー切断方法であって、先行鋼帯及び後行鋼帯の端部位置を検出する端部位置検出工程と、端部位置に基づいて切断軌道を決定する切断軌道決定工程と、切断軌道に沿ってレーザー切断を実行する切断実行工程と、を含み、切断軌道において、レーザーの発振開始位置は鋼帯の幅方向で端部位置より第1所定距離だけ外側に設定され、レーザーの発振終了位置は鋼帯の幅方向で端部位置より第2所定距離だけ外側に設定され、レーザーの侵入角は所定角度以下に設定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行鋼帯の後端と後行鋼帯の先端とを接合した接合部の近傍をレーザー切断装置により切断するレーザー切断方法であって、
前記先行鋼帯及び前記後行鋼帯の端部位置を検出する端部位置検出工程と、
前記端部位置に基づいて切断軌道を決定する切断軌道決定工程と、
前記切断軌道に沿ってレーザー切断を実行する切断実行工程と、を含み、
前記切断軌道において、レーザーの発振開始位置は鋼帯の幅方向で前記端部位置より第1所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの発振終了位置は前記鋼帯の幅方向で前記端部位置より第2所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの侵入角は所定角度以下に設定される、レーザー切断方法。
【請求項2】
前記レーザーの発振開始位置及び前記レーザーの発振終了位置は、前記切断軌道の上に設定される、請求項1に記載のレーザー切断方法。
【請求項3】
前記切断軌道は円弧状又は三角状に設定される、請求項1に記載のレーザー切断方法。
【請求項4】
前記先行鋼帯と前記後行鋼帯との幅の差が所定幅を超える場合に、前記切断軌道は三角状に設定される、請求項3に記載のレーザー切断方法。
【請求項5】
前記切断実行工程において前記切断軌道の一部では、前記レーザー切断装置のレーザーヘッドの前記鋼帯に対する離間距離を一定に保つ倣い制御が行われ、
前記倣い制御の開始位置は、前記切断軌道の上であって、前記端部位置より第3所定距離だけ内側に設定され、前記倣い制御の終了位置は、前記切断軌道の上であって、前記端部位置より第4所定距離だけ内側に設定される、請求項1に記載のレーザー切断方法。
【請求項6】
前記切断軌道決定工程は、
前記端部位置に基づいて前記切断軌道を算出する切断軌道算出工程と、
前記端部位置の位置ずれを検出する位置ずれ検出工程と、
検出された前記位置ずれに基づいて前記切断軌道を補正する切断軌道補正工程と、を含む、請求項1に記載のレーザー切断方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のレーザー切断方法によって前記接合部の近傍をレーザー切断装置により切断し、鋼帯を製造する、鋼帯の製造方法。
【請求項8】
先行鋼帯の後端と後行鋼帯の先端とを接合した接合部の近傍を切断するレーザー切断装置であって、
前記先行鋼帯及び前記後行鋼帯の端部位置を検出する端部位置検出部と、前記端部位置に基づいて切断軌道を決定する切断軌道決定部と、前記切断軌道に沿ってレーザー切断を実行させる切断実行部と、を含む、制御装置によって制御されて、
前記切断軌道において、レーザーの発振開始位置は鋼帯の幅方向で前記端部位置より第1所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの発振終了位置は前記鋼帯の幅方向で前記端部位置より第2所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの侵入角は所定角度以下に設定される、レーザー切断装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザー切断装置を備え、前記レーザー切断装置によって前記接合部の近傍を切断し、鋼帯を製造する、鋼帯の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯の冷間圧延工程において、生産性の向上又は歩留りの向上を目的に、先行材(先行鋼帯)の後端と後行材(後行鋼帯)の先端とを接合し、連続的に冷間圧延ラインに供給することが一般的である。これにより、鋼帯の全長にわたり、張力を付与した状態で圧延することが可能になり、鋼帯の先端及び後端においても、板厚及び形状を高精度に制御することができる。
【0003】
先行材と後行材の接合部(溶接部)の板幅方向端部は、先行材と後行材の鋼帯幅の差、鋼帯厚の差及び位置ずれなどのために、不可避的に幅段差部が形成される。そのため、このままの状態で圧延すると、幅段差部に応力集中が生じ、接合部で破断に至る可能性がある。接合部での破断が生じると、冷間圧延ラインを停止せざるを得ないため、生産性を低下させるとともに、破断片により損傷したワークロールを交換する必要が生じるため、生産コストの上昇を招く。また、鋼帯には製造過程で生じる欠陥部が存在することがあり、欠陥部を圧延しない、又は、手作業により除去作業を行うことがある。どちらの方法で対応する場合にも、ラインが停止して、生産性の低下を招く。
【0004】
そこで、接合部での破断を防止するために、接合部の近傍での応力集中を緩和する目的で、接合部の板幅方向端部にノッチ(切り欠き)を形成するノッチングが行われる。鋼帯の冷間圧延工程において、ノッチングの後で圧延することが行われている。欠陥部を除去する場合も、同様にノッチングの実行後に圧延することが行われている。ここで、ノッチを形成する装置はノッチャと称されることがある。
【0005】
ノッチングの方法としては、例えば、特許文献1に開示されているように、角部を有しない半円形状に、機械的にせん断加工する方法が一般的である。ただし、この半円形状のノッチは、外縁の曲率が一律であり、接合部において鋼帯の幅が最も小さくなるため、接合部において最大の応力が発生することになる。
【0006】
しかしながら、近年の冷延鋼帯の薄肉化、高合金化により、機械的にせん断加工した箇所が圧延時に破断の要因となることがあり、特許文献2及び特許文献3には、その対応としてレーザー切断を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05-076911号公報
【特許文献2】特開2017-080803号公報
【特許文献3】特開2017-080806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2及び特許文献3の技術は、Si、Mnの含有量が多い珪素鋼板又は高張力鋼板などの脆性材料、高合金材料の場合でも、接合部破断を生じることなく冷間圧延することを可能にする。ただし、切断開始の位置及び切断終了の位置はユーザが設定し、切断作業を行う必要がある。
【0009】
本開示は、上記のような事情を鑑みてなされたものであり、鋼帯同士の接合部の自動的な切断を可能にするレーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、先行鋼帯と後行鋼帯が同幅であっても異幅であっても、先行鋼帯及び後行鋼帯の幅方向位置(端部位置)を特定し、レーザーによる適正な切断軌道を特定し、切断を実行することが必要である。発明者らは鋭意検討の結果、鋼帯の接合部端部の切断について、良好な切断を達成する切断方法を見出した。
【0011】
(1)本開示の一実施形態に係るレーザー切断方法は、
先行鋼帯の後端と後行鋼帯の先端とを接合した接合部の近傍をレーザー切断装置により切断するレーザー切断方法であって、
前記先行鋼帯及び前記後行鋼帯の端部位置を検出する端部位置検出工程と、
前記端部位置に基づいて切断軌道を決定する切断軌道決定工程と、
前記切断軌道に沿ってレーザー切断を実行する切断実行工程と、を含み、
前記切断軌道において、レーザーの発振開始位置は鋼帯の幅方向で前記端部位置より第1所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの発振終了位置は前記鋼帯の幅方向で前記端部位置より第2所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの侵入角は所定角度以下に設定される。
【0012】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記レーザーの発振開始位置及び前記レーザーの発振終了位置は、前記切断軌道の上に設定される。
【0013】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記切断軌道は円弧状又は三角状に設定される。
【0014】
(4)本開示の一実施形態として、(3)において、
前記先行鋼帯と前記後行鋼帯との幅の差が所定幅を超える場合に、前記切断軌道は三角状に設定される。
【0015】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記切断実行工程において前記切断軌道の一部では、前記レーザー切断装置のレーザーヘッドの前記鋼帯に対する離間距離を一定に保つ倣い制御が行われ、
前記倣い制御の開始位置は、前記切断軌道の上であって、前記端部位置より第3所定距離だけ内側に設定され、前記倣い制御の終了位置は、前記切断軌道の上であって、前記端部位置より第4所定距離だけ内側に設定される。
【0016】
(6)本開示の一実施形態として、(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記切断軌道決定工程は、
前記端部位置に基づいて前記切断軌道を算出する切断軌道算出工程と、
前記端部位置の位置ずれを検出する位置ずれ検出工程と、
検出された前記位置ずれに基づいて前記切断軌道を補正する切断軌道補正工程と、を含む。
【0017】
(7)本開示の一実施形態に係る鋼帯の製造方法は、
(1)から(6)のいずれかのレーザー切断方法によって前記接合部の近傍をレーザー切断装置により切断し、鋼帯を製造する。
【0018】
(8)本開示の一実施形態に係るレーザー切断装置は、
先行鋼帯の後端と後行鋼帯の先端とを接合した接合部の近傍を切断するレーザー切断装置であって、
前記先行鋼帯及び前記後行鋼帯の端部位置を検出する端部位置検出部と、前記端部位置に基づいて切断軌道を決定する切断軌道決定部と、前記切断軌道に沿ってレーザー切断を実行させる切断実行部と、を含む、制御装置によって制御されて、
前記切断軌道において、レーザーの発振開始位置は鋼帯の幅方向で前記端部位置より第1所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの発振終了位置は前記鋼帯の幅方向で前記端部位置より第2所定距離だけ外側に設定され、前記レーザーの侵入角は所定角度以下に設定される。
【0019】
(9)本開示の一実施形態に係る鋼帯の製造設備は、
(8)のレーザー切断装置を備え、前記レーザー切断装置によって前記接合部の近傍を切断し、鋼帯を製造する。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、鋼帯同士の接合部の自動的な切断を可能にするレーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、先行鋼帯及び後行鋼帯の接合部付近及び円弧状の切断軌道を例示する平面図である。
【
図3】
図3は、先行鋼帯及び後行鋼帯の接合部付近及び三角状の切断軌道を例示する平面図である。
【
図4】
図4は、切断軌道の決定後に、先行鋼帯と後行鋼帯の接合部をレーザー切断する流れを説明するための図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係るレーザー切断装置を含む鋼帯の切断設備の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、切断軌道を補正する流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先行鋼帯と後行鋼帯の接合部(溶接部)をレーザー切断する際には切断軌道を決定する必要がある。切断軌道を決定する場合に、鋼帯の端部に対するレーザーの侵入角を考慮する必要がある。ここで、端部とは、鋼帯の板幅方向の端部である。侵入角が一定角度を超える場合、鋼帯端部に応力分布の低い箇所が発生し、そのような箇所が発生することによって通板性が低下し、通板ロールに疵付きが発生する可能性がある。また、特に鋼帯の端部において切断残しが発生しないように切断軌道が決定される必要がある。
【0023】
以下、図面を参照して本開示の実施形態に係るレーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備が説明される。
【0024】
(第1実施形態)
図5は、第1実施形態に係るレーザー切断装置4を含む鋼帯1の切断設備の構成例を示す図である。以下において、鋼帯1の搬送方向は進行方向とも称される。
【0025】
図5に示すように、鋼帯1の切断設備に、先行鋼帯の後端と後行鋼帯の先端とを接合した接合部2を有する鋼帯1が搬入される。鋼帯1の切断設備は、接合部2の近傍を、レーザーを用いて切断するレーザー切断装置4を備える。また、鋼帯1の切断設備は、接合部2を検出する接合部検出装置を備えてよい。また、鋼帯1の切断設備は、鋼帯1の端部を検出する端部検出装置を備えてよい。
【0026】
本実施形態において、鋼帯1の切断設備は、先端にレーザー切断装置4を取り付けたロボットアーム3を備える。ロボットアーム3は、例えばコンピューター又は切断設備操作盤などの制御装置9によって制御されて、ノッチングなどのレーザー切断を実行する。本実施形態において、鋼帯1を挟んで両端側にロボットアーム3に取り付けられたレーザー切断装置4が対になって設けられている。ただし、レーザー切断装置4は、本実施形態のように複数であってよいし、1つであってよい。また、本実施形態において、ロボットアーム3は多軸である。そのため、レーザー切断装置4の位置を自由に制御して制限のない切断軌道を設定でき、例えば円弧状及び三角状にレーザー切断させることができる。ここで、三角状の切断軌道とは、三角形のような軌道であるが、三角形のうちの1辺については含まずに2辺に沿った軌道であることを意味する。
【0027】
制御装置9は、端部位置検出工程に関する制御を行う端部位置検出部91と、切断軌道決定工程に関する制御を行う切断軌道決定部92と、切断実行工程に関する制御を行う切断実行部93と、を含む。端部位置検出工程、切断軌道決定工程及び切断実行工程の詳細については後述する。また、制御装置9はソフトウェア構成を有してよい。つまり、制御装置9のプロセッサによってプログラムが読み込まれると、プロセッサが端部位置検出部91、切断軌道決定部92及び切断実行部93として機能してよい。プログラムは、制御装置9からアクセス可能な、例えばメモリなどの記憶装置に記憶されていてよい。
【0028】
また、接合部検出装置が例えば鋼帯1の上方(高さ方向の上側)に設けられていてよい。接合部検出装置は、鋼帯1の表面における凹凸などの特徴を検出する。接合部検出装置は、例えば鋼帯1の表面を撮影するカメラであってよいが、特定の装置に限定されない。制御装置9は、例えば接合部検出装置からの画像に基づいて接合部2を判別し、切断範囲を把握して、切断軌道を設定してよい。
【0029】
また、端部検出装置がレーザー切断装置4の上流側及び下流側に設けられていてよい。端部検出装置は、接合部2を挟む先行鋼帯及び後行鋼帯のそれぞれの端部(幅方向における端の位置)を検出する。端部検出装置は、例えばレーザーの反射に基づいて位置を検出するレーザーセンサーなどで構成されてよいが、特定の装置に限定されない。制御装置9は、例えば端部検出装置からの検出信号に基づいて、先行鋼帯及び後行鋼帯のそれぞれの端部を把握して、切断軌道を設定してよい。
【0030】
鋼帯1の切断設備は、例えば冷間圧延設備の一部を構成してよい。冷間圧延設備は、上記の鋼帯1の切断設備の他に、少なくとも鋼帯1を冷間圧延する冷間圧延機を備える。冷間圧延機は、鋼帯1の切断設備の下流側に設けられて、ノッチが形成された鋼帯1を冷間圧延する。また、冷間圧延設備は鋼帯を製造する設備の一部を構成してよい。つまり、レーザー切断装置4は、鋼帯の製造設備の一部を構成してよい。また、レーザー切断装置4を用いて実行されるレーザー切断方法は、鋼帯の製造方法の一部を構成してよい。鋼帯の製造設備は、例えば冷間圧延機より下流側に、鋼帯1を切断する設備をさらに備えて、所望のサイズの鋼板を切り出してよい。
【0031】
ここで、従来、ユーザによって切断開始の位置、切断終了の位置が定められ、鋼帯1の内側において切断の倣い制御の開始位置及び終了位置が定められていた。そして、切断開始の位置から切断終了の位置まで、切断軌道に沿ってレーザー切断が実行されていた。本実施形態に係るレーザー切断方法では、後述するように、適切な切断開始の位置及び切断終了の位置をユーザによらずに、切断軌道として算出して定めることができる。そのため、接合部2の自動的な切断が可能になる。
【0032】
本実施形態においても、倣い制御が実行される。倣い制御では、先端の異常検知を避けるため、鋼帯1の内側すなわち鋼帯1が確実に存在する位置で実施される必要がある。例えば、最初にロボットアーム3によってレーザー切断装置4の高さ合わせを行い、倣い制御の開始位置に至ると、レーザー切断装置4の鋼帯検知の機能によって鋼帯1が検出される。鋼帯1を検出した検出信号に基づいて、レーザー切断装置4が有する先端と鋼帯1との距離を一定に保つ機能によって高さが定められる。
【0033】
上記の構成の鋼帯1の切断設備によって、本実施形態に係るレーザー切断方法が実行される。レーザー切断方法は、先行鋼帯及び後行鋼帯の端部位置を検出する端部位置検出工程と、端部位置に基づいて切断軌道を決定する切断軌道決定工程と、切断軌道に沿ってレーザー切断を実行する切断実行工程と、を含む。また、切断軌道において、レーザーの発振開始位置、発振終了位置は鋼帯の幅方向で端部位置よりそれぞれ第1所定距離、第2所定距離だけ外側に設定され、レーザーの侵入角が所定角度以下に設定される。以下、図を参照しながら、各工程の詳細が説明される。
【0034】
図1は、先行鋼帯1A及び後行鋼帯1Bの接合部2付近及び円弧状の切断軌道を例示する平面図である。CLはラインセンターであって、鋼帯1を搬送するライン設備の幅方向における中央を示す。CNはノッチャセンターであって、ノッチャのライン進行方向(長手方向)における中央を示す。STはラインセンターとノッチャセンターとの交点である基準位置である。ラインセンター(CL)に平行であるようにy軸が示されている。また、ノッチャセンター(CN)に平行であるようにx軸が示されている。鋼帯1の幅方向の一方がワークサイド(WS)、他方がドライブサイド(DS)と称される。以下、WS又はDSの添え字は、ワークサイド側のパラメータであるか、ドライブサイド側のパラメータであるかを示すために用いられる。
【0035】
端部位置検出工程において、先行鋼帯1A及び後行鋼帯1Bのそれぞれについて、ワークサイド側の端部及びドライブサイド側の端部が検出される。
図1の例では、先行鋼帯1Aについて、ラインセンター(CL)からワークサイド(WS)側の端部までの距離がW
1WSであり、ラインセンター(CL)からドライブサイド(DS)側の端部までの距離がW
1DSである。先行鋼帯1Aの幅はW
1WS+W
1DSで計算される。また、後行鋼帯1Bについて、ラインセンター(CL)からワークサイド(WS)側の端部までの距離がW
2WSであり、ラインセンター(CL)からドライブサイド(DS)側の端部までの距離がW
2DSである。後行鋼帯1Bの幅はW
2WS+W
2DSで計算される。ここで、以下の説明において、先行鋼帯1Aの幅と後行鋼帯1Bの幅とを比較して、幅の広い方を「広幅側」と、幅の狭い方を「狭幅側」と称することがある。
図1の例では、後行鋼帯1Bが広幅側であり、先行鋼帯1Aが狭幅側である。
【0036】
例えば
図1に示すように、切断軌道決定工程において決定される切断軌道は円弧状であってよい。切断軌道は破線で示されている。切断軌道が円弧状である場合には切断半径が決定される。
図2は、
図1の切断軌道の部分を拡大した部分拡大図である。切断軌道決定工程において、広幅側の切断深さ(H
WS、H
DS)に基づいて、切断半径(R
WS、R
DS)が決定される。ここで、
図2におけるR
WS(DS)との表記は、ワークサイド(WS)側の切断半径(R
WS)とドライブサイド(DS)側の切断半径(R
DS)をまとめたものである。また、
図2のH
WS(DS)及びθ
WS(DS)も同様であり、以下の説明において、この表記を用いて説明することがある。
【0037】
ここで、切断半径R
WS(DS)は以下の式(1)から算定する。必要な侵入角θ
WS(DS)を設定し、設定された侵入角θ
WS(DS)に基づいて切断半径R
WS(DS)が決定される。
図2に示すように、侵入角θ
WS(DS)は広幅側の端部の辺に対する角度として定められる。
【0038】
【0039】
ここで、侵入角(θWS、θDS)の単位は(°)である。切断深さ(HWS、HDS)及び切断半径(RWS、RDS)の単位は例えばmmである。発明者らの実験によれば、侵入角θWS(DS)を所定角度以下とすることで鋼帯1の通板性の低下を防ぐことができ、通板ロールの疵付きを防ぐことができることがわかった。所定角度は、切断部分の角部(端部)が無張力となるのを防止し、必要な張力を付与できる角度であって、実施例として後述するように、一例として40°である。切断後の鋼帯端の角部における張力分布が設定張力の半分程度を確保できるように、所定角度は30°以下であることが好ましい。
【0040】
また、R
WSとR
DSが同値である必要はない。ただし、鋼帯1のワークサイド(WS)側とドライブサイド(DS)側の切断範囲に大きな差を設けると通板性又は圧延性が低下する可能性がある。そのため、ワークサイド(WS)側とドライブサイド(DS)側の切断範囲が概ね一致していることが好ましく、したがって、R
WSとR
DSが同値であることが好ましい。R
WSとR
DSを同値とする場合に、H
WSとH
DSのうちで値が大きい方を基準に切断半径を決定することで、ワークサイド(WS)側とドライブサイド(DS)側の両方で侵入角を小さくすることができる。ここで、
図1及び
図2において、hは狭幅側の切断深さを示す。また、lはノッチャセンター(CN)から接合部2までの長手方向での距離を示す。
【0041】
切断軌道は円弧状又は三角状に設定されてよい。上記において円弧状の切断軌道としたが、三角状の切断軌道が以下に説明される。
【0042】
切断領域を小さくでき、かつ、角のない(丸みを帯びた)形状となるため、円弧状の切断軌道は好ましい。ただし、先行鋼帯1Aと後行鋼帯1Bとの幅の差が大きい場合に、円弧状の切断軌道では切断範囲が広くなり、切断時間が長くなるため、歩留まりが低下するおそれがある。したがって、先行鋼帯1Aと後行鋼帯1Bとの幅の差が所定幅を超える場合に、切断軌道は三角状に設定されることが好ましい。三角状の切断軌道は、円弧状の切断軌道に比べて、さらに切断範囲を狭くでき、切断時間を短縮できるためである。所定幅は、例えばノッチング作業で要求される切断範囲の大きさの上限又は切断時間の上限に基づいて定められてよい。
図3は、先行鋼帯1A及び後行鋼帯1Bの接合部2付近及び三角状の切断軌道を例示する平面図である。
図3に示される符号は
図1と同じである。
【0043】
切断軌道決定工程において、先行鋼帯1Aと後行鋼帯1Bとの幅の差と所定幅との比較に基づいて、切断軌道の円弧状又は三角状が自動的に切り替えられることがさらに望ましい。
【0044】
上記のように切断軌道が決定された後に、切断実行工程において決定された切断軌道に沿ってレーザー切断が実行される。
図4は、先行鋼帯1Aと後行鋼帯1Bの接合部2をレーザー切断する流れを説明するための図である。
図4においても、切断軌道は破線で示されている。上記のように、切断軌道において、レーザーの侵入角は所定角度以下に設定されている。
【0045】
レーザー切断の実行では、鋼帯1に対して切断動作を開始する切断開始の位置(レーザーの発振開始位置)及び切断動作を終了する切断終了の位置(レーザーの発振終了位置)を設定する必要がある。レーザーの発振開始位置及びレーザーの発振終了位置は、切断軌道の上に設定される。切断開始の位置及び切断終了の位置が例えば鋼帯1の端面に設定されることで、切断軌道の長さを最小化し、切断時間を短縮することができる。しかし、鋼帯1の端面の測定誤差及びレーザー切断装置4の動作誤差が発生すると、切残しなどの切断不良が発生する。
【0046】
そこで切断不良の発生を防止するために、レーザーの発振開始位置は鋼帯1の幅方向で端部位置より第1所定距離だけ外側に設定される。また、レーザーの発振終了位置は、同様に、鋼帯1の幅方向で端部位置より第2所定距離だけ外側に設定される。第1所定距離及び第2所定距離は例えばレーザー切断装置4の動作制約(一例として安定動作までにかかる時間)などに基づいて設定されてよい。第1所定距離及び第2所定距離は、具体例として1.0mm~20.0mmの間の値であってよい。第2所定距離は、第1所定距離と同じ値であってよいし、異なっていてよい。
【0047】
また、切断実行工程において切断軌道の一部では、レーザー切断装置4のレーザーヘッドの鋼帯1に対する離間距離を一定に保つ倣い制御が行われる。上記のように、倣い制御では、例えばレーザー切断装置4の先端が鋼帯1に接触、損傷することを防ぐため、鋼帯1の内側すなわち鋼帯1が確実に存在する位置で実施される必要がある。そのため、倣い制御の開始位置は、切断軌道の上であって、端部位置より第3所定距離だけ内側に設定される。また、倣い制御の終了位置は、同様に、切断軌道の上であって、端部位置より第4所定距離だけ内側に設定される。第3所定距離及び第4所定距離は例えばレーザー切断装置4が鋼帯1を検出する精度又はレーザー切断装置4の動作制約などに基づいて設定されてよい。第3所定距離及び第4所定距離は、具体例として1.0mm~10.0mmの間の値であってよい。第4所定距離は、第3所定距離と同じ値であってよいし、異なっていてよい。
【0048】
ここで、鋼帯1のワークサイド(WS)側とドライブサイド(DS)側で、レーザーの発振開始位置又はレーザーの発振終了位置を一致させる必要はない。
【0049】
切断実行工程において、
図4の(1)~(4)を結ぶ矢印で示した順に、レーザー切断装置4のレーザーヘッドが移動してよい。まず、レーザー切断装置4の先端部(レーザーヘッド)は、倣い制御開始位置(
図4の(1))の鋼帯1の表面から上方数mmの位置で動作する。倣い制御を実行して倣い高さを確定させた後で、一度、倣い制御が非実行になって、先端部の高さが維持される。レーザー切断装置4の先端部の高さが維持されたまま、レーザーの発振開始位置(
図4の(2))まで移動させて、レーザー発振させて切断軌道に沿って切断を開始させる。レーザー切断装置4の先端部が倣い制御開始位置(
図4の(1))に至ると、倣い制御を再び実行させて、切断軌道に沿った切断を継続させる。レーザー切断装置4の先端部が倣い制御終了位置(
図4の(3))に至ると、倣い制御を非実行としながら、切断軌道に沿って移動させる。レーザー切断装置4の先端部がレーザーの発振終了位置(
図4の(4))に至ると、レーザー発振を停止させて、切断が完了する。ここで、
図4の例において、切断軌道が円弧状であるとして説明したが、切断軌道が三角状の場合も同様である。
【0050】
以下、本開示内容の効果を実施例(実験例)に基づいて具体的に説明するが、本開示内容はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例)
母材厚が2.0mm、板幅が1200mmの3.0重量%のSi及び母材厚が2.0mm、板幅が1000mmの3.0重量%Siを含有する電磁鋼板用の素材鋼板を用いて、表1に示す条件で接合部2の近傍のレーザー切断が行われた。ここで、切断時間は、切断速度を3mpmのほぼ等速として切断した場合にかかった時間である。またユニット張力比は、鋼帯1に作用する単位面積当たりの張力を、設定した単位面積当たりの張力(ユニット張力設定)との比(%)で示したものである。ユニット張力比は、切断後の切断部周辺に作用する張力について上記の比の最小値(min)を算出して評価している。特にこの最小ユニット張力比が小さいほど、鋼板の垂れ安さ、通板性が悪化することを示す指標の一つとなる。
【0052】
【0053】
表1の実施例から明らかなように、上記の実施形態で説明した手法によって、接合部2を切残し無く切断することができた。ここで、表1の備考で、切残しのない番号3及び10を比較例と判定している理由は、侵入角θに基づく操業への影響を考慮して総合的な判定を行っているためである。つまり、侵入角θが40°を超える場合に、最小ユニット張力比が30%以下となっており、ロール疵付きが発生しやすくなるためである。
【0054】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係るレーザー切断方法が説明される。レーザー切断方法を実行する鋼帯1の切断設備の構成は、レーザー切断装置4が2次元の検出装置を備えていることを除いて、第1実施形態と同じである。重複説明を回避するため、第1実施形態と異なる構成及び工程が以下に説明される。
【0055】
第1実施形態に係るレーザー切断方法は、上記の通り、適切に接合部2を切断できる。ただし、レーザー切断装置4に対して鋼帯1が斜行(搬送方向に対して傾斜)した状態の場合に、検出した端部位置と、レーザー切断する領域における端部位置とにずれが生じるおそれがある。例えば、端部位置を検出する端部検出装置がレーザー切断装置4の上流側及び下流側に設けられている場合に、端部検出装置が検出する端部位置(
図6のS3及びS1)とレーザー切断する領域における端部位置(
図6のP3及びP1)は、幅方向でずれが生じる。このような位置ずれが大きくなると、例えばレーザー切断装置4の先端部が鋼帯1に接触するおそれがある。そこで本実施形態に係るレーザー切断方法は、鋼帯1が斜行している場合に、位置ずれの大きさを特定し、切断軌道、レーザーの発振開始位置、倣い制御開始位置、倣い制御終了位置及びレーザーの発振終了位置を修正する。
【0056】
上記のように、本実施形態では、レーザー切断装置4が先端部に2次元の検出装置(例えば幅方向の位置に対する高さを計測可能な2次元レーザー距離計)が設けられる。そして、鋼帯1が斜行している場合に、2次元の検出装置の検出結果に基づいて、端部位置検出工程において検出された端部位置の正しさを検証することができる。
【0057】
端部位置検出工程において検出された端部位置と、レーザー切断する領域における端部位置とのずれが存在する場合に、ずれを補正するように切断軌道を幅方向に平行移動させる。
図6では、P1、P2及びP3を含む当初の切断軌道を平行移動させたものが、P2´を含む補正後の切断軌道に対応する。補正後の切断軌道に合わせて、レーザーの発振開始位置、レーザーの発振終了位置などが、再び設定される。ここで、平行移動された切断軌道は、鋼帯1の形状に応じて、板幅方向又は搬送方向を軸に回転されてよい。
【0058】
このような補正処理は、切断軌道決定工程において以下の工程をさらに含むことによって実行される。つまり、本実施形態に係るレーザー切断方法は、切断軌道決定工程が、端部位置検出工程での端部位置に基づいて切断軌道を算出する切断軌道算出工程と、端部位置の位置ずれを検出する位置ずれ検出工程と、検出された位置ずれに基づいて切断軌道を補正する切断軌道補正工程と、を含む。
【0059】
以上のように、上記の実施形態に係るレーザー切断方法、鋼帯の製造方法、レーザー切断装置及び鋼帯の製造設備は、上記の構成及び工程によって、人手によらず切断開始及び切断終了の位置を自動的に決定でき、鋼帯同士の接合部2の自動的な切断を可能にする。
【0060】
本開示の実施形態について、諸図面に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0061】
1 鋼帯
1A 先行鋼帯
1B 後行鋼帯
2 接合部(溶接部)
3 ロボットアーム
4 レーザー切断装置
9 制御装置
91 端部位置検出部
92 切断軌道決定部
93 切断実行部