(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083155
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】重荷重用ラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 13/00 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
B60C13/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197514
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】中里 玲王
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB03
3D131BB04
3D131BC17
3D131BC22
3D131BC35
3D131GA15
3D131GA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止めることができる補強部材、を備える重荷重用ラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】本発明に係る重荷重用ラジアルタイヤ1は、タイヤ径方向Bに放射状に延在する複数のカーカスコードを備えるカーカスプライ3aと、カーカスプライのタイヤ幅方向Aの外側で、サイドゴム5に覆われている位置に配置されている補強部材8と、を備え、補強部材は、タイヤ幅方向に重ねられ、延在方向が相互に交錯する有機繊維製の第1補強コード及び第2補強コードを含む、第1補強層8a及び第2補強層8bを備え、第1補強層の第1補強コード及び第2補強層の第2補強コードは、タイヤ側面視で、カーカスコードの延在方向に対してタイヤ周方向に10°~20°の範囲で傾斜する方向に延在しており、補強部材は、タイヤ径方向のコア領域X2の全域に、少なくとも配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重荷重用ラジアルタイヤであって、
一対のビードコアと、
前記一対のビードコアの間に跨ってトロイダル状に延在し、タイヤ中心軸線からタイヤ径方向に放射状に延在する複数のカーカスコードを備えるカーカスプライと、
前記カーカスプライのタイヤ幅方向の外側を覆うサイドゴムと、
前記サイドゴムのタイヤ径方向の外側に連なり、前記カーカスプライのタイヤ径方向の外側を覆い、トレッド面にタイヤ幅方向の外側端まで貫通するラグ溝が形成されている、トレッドゴムと、
前記カーカスプライのタイヤ幅方向の外側で、前記サイドゴムに覆われている位置に配置されている補強部材と、を備え、
前記補強部材は、タイヤ幅方向に重ねられ、延在方向が相互に交錯する有機繊維製の第1補強コード及び第2補強コードを含む、第1補強層及び第2補強層を備え、
前記第1補強層の前記第1補強コードは、タイヤ側面視で、前記第1補強コードと重なる前記カーカスコードの延在方向に対してタイヤ周方向の一方側に10°~20°の範囲で傾斜する方向に延在しており、
前記第2補強層の前記第2補強コードは、前記タイヤ側面視で、前記第2補強コードと重なる前記カーカスコードの延在方向に対してタイヤ周方向の他方側に10°~20°の範囲で傾斜する方向に延在しており、
タイヤ幅方向断面視で、前記カーカスプライのタイヤ幅方向の幅が最大幅となる第1基準位置から、前記トレッドゴムの前記ラグ溝の底面のうちタイヤ径方向の最も内側となる第2基準位置まで、のタイヤ径方向の範囲を補強対象領域とした場合に、前記補強部材は、前記第1基準位置と、前記第1基準位置からタイヤ径方向の外側に向かって前記補強対象領域の60%となる第3基準位置と、の間のタイヤ径方向のコア領域の全域に、少なくとも配置されている、重荷重用ラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記補強部材は、前記補強対象領域の全域に配置されている、請求項1に記載の重荷重用ラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記補強部材のうち前記補強対象領域に配置される部分を補強本体部とした場合に、
前記補強部材は、
前記補強本体部と、
前記補強本体部からタイヤ径方向の内側に延設されている延設部と、を備える、請求項1又は2に記載の重荷重用ラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記カーカスプライは、
前記一対のビードコアの間に跨るプライ本体部と、
前記プライ本体部に連なり、前記一対のビードコア周りに折り返されて形成されているプライ折り返し部と、を備え、
前記補強部材の前記延設部の少なくとも一部は、タイヤ幅方向で前記プライ本体部と前記プライ折り返し部との間に挟まれている、請求項3に記載の重荷重用ラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記第2補強層は、前記第1補強層に対してタイヤ幅方向の内側に重ねられており、
前記タイヤ幅方向断面視で、前記第2補強層の前記第2補強コードと、前記カーカスコードと、の最短距離は、1mm~6mmである、請求項1又は2に記載の重荷重用ラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重荷重用ラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建設車両用タイヤ、鉱山車両用タイヤ等の重荷重用ラジアルタイヤが知られている。重荷重用ラジアルタイヤは、例えば建設現場、鉱山等の過酷な環境で使用される。そのため、重荷重用ラジアルタイヤのサイドウォール部には、周囲のがれき、岩等により、線状のカット傷であるサイドカットが形成される場合がある。
【0003】
特許文献1には、サイドウォール部に保護層が配置されている未舗装路走行用タイヤとしての空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイドウォール部にサイドカットが形成されると、車両走行時のタイヤの変形により、サイドカットの近傍に応力が集中し易く、サイドカットの断面鋭角の底部からタイヤ内部に向かって亀裂が進展し易い。この亀裂の進展がさらに進むと、トレッドゴムの摩耗によるタイヤ寿命が到来する前に、サイドゴムの剥離、パンク等により、タイヤを交換する必要が生じる場合がある。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載の未舗装路走行用タイヤのように、サイドウォール部に保護層を配置することが考えられる。しかしながら、例えば建設車両用タイヤ、鉱山車両用タイヤ等の重荷重用ラジアルタイヤについては、車両走行時の変形が極めて大きい。そのため、特許文献1に記載の未舗装路走行用タイヤの保護層では、サイドカットの底部からの亀裂進展を遅らせる、又は、食い止めることができない。
【0007】
本発明は、サイドウォール部にサイドカットが形成された場合であっても、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止めることができる補強部材、を備える重荷重用ラジアルタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様としての重荷重用ラジアルタイヤは、
(1)
重荷重用ラジアルタイヤであって、
一対のビードコアと、
前記一対のビードコアの間に跨ってトロイダル状に延在し、タイヤ中心軸線からタイヤ径方向に放射状に延在する複数のカーカスコードを備えるカーカスプライと、
前記カーカスプライのタイヤ幅方向の外側を覆うサイドゴムと、
前記サイドゴムのタイヤ径方向の外側に連なり、前記カーカスプライのタイヤ径方向の外側を覆い、トレッド面にタイヤ幅方向の外側端まで貫通するラグ溝が形成されている、トレッドゴムと、
前記カーカスプライのタイヤ幅方向の外側で、前記サイドゴムに覆われている位置に配置されている補強部材と、を備え、
前記補強部材は、タイヤ幅方向に重ねられ、延在方向が相互に交錯する有機繊維製の第1補強コード及び第2補強コードを含む、第1補強層及び第2補強層を備え、
前記第1補強層の前記第1補強コードは、タイヤ側面視で、前記第1補強コードと重なる前記カーカスコードの延在方向に対してタイヤ周方向の一方側に10°~20°の範囲で傾斜する方向に延在しており、
前記第2補強層の前記第2補強コードは、前記タイヤ側面視で、前記第2補強コードと重なる前記カーカスコードの延在方向に対してタイヤ周方向の他方側に10°~20°の範囲で傾斜する方向に延在しており、
タイヤ幅方向断面視で、前記カーカスプライのタイヤ幅方向の幅が最大幅となる第1基準位置から、前記トレッドゴムの前記ラグ溝の底面のうちタイヤ径方向の最も内側となる第2基準位置まで、のタイヤ径方向の範囲を補強対象領域とした場合に、前記補強部材は、前記第1基準位置と、前記第1基準位置からタイヤ径方向の外側に向かって前記補強対象領域の60%となる第3基準位置と、の間のタイヤ径方向のコア領域の全域に、少なくとも配置されている、重荷重用ラジアルタイヤ、である。
【0009】
本発明の1つの実施形態としての重荷重用ラジアルタイヤは、
(2)
前記補強部材は、前記補強対象領域の全域に配置されている、上記(1)に記載の重荷重用ラジアルタイヤ、である。
【0010】
本発明の1つの実施形態としての重荷重用ラジアルタイヤは、
(3)
前記補強部材のうち前記補強対象領域に配置される部分を補強本体部とした場合に、
前記補強部材は、
前記補強本体部と、
前記補強本体部からタイヤ径方向の内側に延設されている延設部と、を備える、上記(1)又は(2)に記載の重荷重用ラジアルタイヤ、である。
【0011】
本発明の1つの実施形態としての重荷重用ラジアルタイヤは、
(4)
前記カーカスプライは、
前記一対のビードコアの間に跨るプライ本体部と、
前記プライ本体部に連なり、前記一対のビードコア周りに折り返されて形成されているプライ折り返し部と、を備え、
前記補強部材の前記延設部の少なくとも一部は、タイヤ幅方向で前記プライ本体部と前記プライ折り返し部との間に挟まれている、上記(3)に記載の重荷重用ラジアルタイヤ、である。
【0012】
本発明の1つの実施形態としての重荷重用ラジアルタイヤは、
(5)
前記第2補強層は、前記第1補強層に対してタイヤ幅方向の内側に重ねられており、
前記タイヤ幅方向断面視で、前記第2補強層の前記第2補強コードと、前記カーカスコードと、の最短距離は、1mm~6mmである、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の重荷重用ラジアルタイヤ、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サイドウォール部にサイドカットが形成された場合であっても、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止めることができる補強部材、を備える重荷重用ラジアルタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態としての重荷重用ラジアルタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
【
図2】
図1に示す重荷重用ラジアルタイヤのタイヤ側面視での、カーカスコード及び補強部材の関係を示す図である。
【
図3】補強部材を備えない、比較例としての重荷重用ラジアルタイヤにおける、サイドカットの底部からの亀裂の進展の様子を示す説明図である。
【
図4】補強部材を備える
図1に示す重荷重用ラジアルタイヤにおける、サイドカットの底部からの亀裂の進展抑制の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る重荷重用ラジアルタイヤの実施形態について図面を参照して例示説明する。各図において同一の構成には同一の符号を付している。
【0016】
図1は、本発明に係る重荷重用ラジアルタイヤの一実施形態としての重荷重用ラジアルタイヤ1のタイヤ幅方向断面図である。「タイヤ幅方向断面」とは、タイヤ中心軸線と平行で、タイヤ中心軸線を通過する平面での、タイヤの断面を意味する。
【0017】
重荷重用ラジアルタイヤ1は、例えば建設車両用タイヤ、鉱山車両用タイヤ等であってよい。但し、本発明に係る重荷重用ラジアルタイヤは、例えばバス用タイヤ、トラック用タイヤ等にも適用可能である。但し、本発明に係る重荷重用ラジアルタイヤは、リム径25インチ以上のリムに適用される重荷重用ラジアルタイヤであることが好ましい。
【0018】
図1は、重荷重用ラジアルタイヤ1のタイヤ幅方向断面を示している。なお、重荷重用ラジアルタイヤ1は、タイヤ赤道面CLに対して対称な構成であるため、
図1では、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向Aの一方側のみのタイヤ幅方向断面を示している。但し、タイヤ赤道面CLに対して非対称な構成の重荷重用ラジアルタイヤであってもよい。
【0019】
図1に示すように、重荷重用ラジアルタイヤ1は、トレッド部1aと、このトレッド部1aのタイヤ幅方向Aの両端部からタイヤ径方向Bの内側に延びる一対のサイドウォール部1bと、各サイドウォール部1bのタイヤ径方向Bの内側の端部に設けられた一対のビード部1cと、を備えている。重荷重用ラジアルタイヤ1はラジアル構造からなる。ここで、「トレッド部1a」は、タイヤ幅方向Aにおいて両側のトレッド端TEにより挟まれる部分を意味する。また、「ビード部1c」とは、タイヤ径方向Bにおいて後述するビード部材2が位置する部分を意味する。そして「サイドウォール部1b」とは、トレッド部1aとビード部1cとの間の部分を意味する。なお、「トレッド端TE」とは、重荷重用ラジアルタイヤ1を所定の適用リムに装着し、規定内圧を充填し、最大負荷荷重を負荷した状態での接地面のタイヤ幅方向最外側の位置を意味する。
【0020】
重荷重用ラジアルタイヤ1は、ビード部材2、カーカス3、ベルト4、サイドゴム5、トレッドゴム6、インナーライナ7、及び、補強部材8、を備えている。
【0021】
ビード部材2は、ビード部1cに埋設されている。ビード部材2は、一対のビードコア2aと、各ビードコア2aに対してタイヤ径方向Bの外側に位置するゴム製のスティフナ2bと、を備える。ビードコア2aは、周囲をゴムにより被覆されている複数のビードコードを備えている。ビードコードはスチールコードにより形成されている。スチールコードは、例えば、スチールのモノフィラメント又は撚り線からなるものとすることができる。
【0022】
カーカス3は、所謂ラジアルカーカスである。具体的に、カーカス3は、一対のビードコア2a間に跨ってトロイダル状に延在しているカーカスプライ3aを備える。カーカスプライ3aは、各ビードコア2a周りにタイヤ幅方向Aの内側から外側に折り返されている。また、カーカスプライ3aは、複数のカーカスコード3a1を備えている。
図2は、重荷重用ラジアルタイヤ1をサイドウォール部1b(
図1参照)側から見たタイヤ側面視での、カーカスコード3a1及び補強部材8の関係を示す図である。なお、
図2では、説明の便宜上、タイヤ周方向Cの全域に亘って、タイヤ周方向Cに配列される複数の第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1のうち、1本のみの第1補強コード8a1及び1本のみの第2補強コード8b1を示している。
図2に示すように、カーカスコード3a1は、タイヤ側面視で、タイヤ中心軸線Oからタイヤ径方向Bに放射状に延在している。
【0023】
なお、本実施形態のカーカス3は、1枚のみのカーカスプライ3aを備えるが、この構成に限られない。カーカス3は、2枚以上のカーカスプライ3aを含む構成であってもよい。カーカスプライ3aのカーカスコード3a1は、スチールコード等の金属コードとすることができる。
【0024】
より具体的に、本実施形態のカーカスプライ3aは、一対のビードコア2aの間に跨るプライ本体部13と、各ビードコア2aのタイヤ幅方向Aの外側に位置するプライ折り返し部14と、を備えている。プライ折り返し部14は、プライ本体部13に連なり、一対のビードコア2a周りに折り返されて形成されている。
図1に示すように、本実施形態の重荷重用ラジアルタイヤ1では、タイヤ幅方向Aにおいて、プライ本体部13とプライ折り返し部14との間の位置に、ビードコア2aからタイヤ径方向Bの外側に先細状に延びるスティフナ2bが配置されている。
【0025】
ベルト4は、カーカス3のクラウン部に対してタイヤ径方向Bの外側に配置されている1層以上(
図1では4層)のベルト層4a~4dを備えている。
図1に示すベルト4の各ベルト層4a~4dはゴムで被覆されているベルトコードを含む。各ベルト層4a~4dは、傾斜ベルト層とされてもよく、周方向ベルト層とされてもよい。傾斜ベルト層とは、例えば、タイヤ周方向Cに対して10°より大きく、40°以下の角度で傾斜配列されたベルトコードを含むベルトプライにより構成されてよい。また、周方向ベルト層は、例えば、タイヤ周方向Cに平行に、又は、タイヤ周方向Cに対して10°以下、好ましくは5°以下の角度で傾斜して配列されたベルトコードを含むベルトプライにより構成されてよい。各ベルト層4a~4dのベルトコードは、スチールコードなどの金属コードにより構成されている。
図1に示すベルト4は4層のベルト層4a~4dを備える構成であるが、3層以下のベルト層を備えるベルト4であってもよく、5層以上のベルト層を備えるベルト4であってもよい。
【0026】
サイドゴム5は、カーカスプライ3aのタイヤ幅方向Aの外側を覆っている。また、サイドゴム5は、サイドウォール部1bのタイヤ幅方向Aの外側の外面である、重荷重用ラジアルタイヤ1のサイド面5aを構成している。
【0027】
トレッドゴム6は、カーカスプライ3aのタイヤ径方向Bの外側を覆っている。トレッドゴム6は、トレッド部1aのタイヤ径方向Bの外側の外面である、重荷重用ラジアルタイヤ1のトレッド面6aを構成している。また、トレッドゴム6は、サイドゴム5のタイヤ径方向Bの外側に連なっている。トレッドゴム6が構成するトレッド面6aには、タイヤ幅方向Aに延在するラグ溝6a1が形成されている。ラグ溝6a1は、トレッドゴム6のタイヤ幅方向Aの外側端まで貫通している。つまり、ラグ溝6a1のタイヤ幅方向Aの外側端は、トレッド面6a内で終端せず、タイヤ側面側に開口している。なお、トレッド面6aには、ラグ溝6a1に加えて、タイヤ周方向Cに延在する周方向溝6a2が形成されていてもよい。
【0028】
インナーライナ7は、カーカスプライ3aに対してタイヤ内腔100側を覆っている。より具体的に、本実施形態のインナーライナ7は、カーカスプライ3aのプライ本体部13のタイヤ内腔100側を覆っており、タイヤ内腔100に面するタイヤ内面を構成している。
【0029】
補強部材8は、サイドウォール部1bに埋設されている。より具体的に、補強部材8は、カーカスプライ3aのタイヤ幅方向Aの外側で、サイドゴム5に覆われている位置に配置されている。
【0030】
図3は、補強部材8を備えない比較例としての重荷重用ラジアルタイヤのサイドウォール部1bのサイド面5aにサイドカットSCが生じた場合に、サイドカットSCの断面鋭角の底部BPからタイヤ内部に亀裂CRが進展する様子を示す説明図である。
図3に示すように、サイドウォール部1bのサイド面5aにサイドカットSCが形成されると、重荷重用ラジアルタイヤの変形時に、サイドカットSC近傍に応力が集中し易い。そのため、サイドカットSC近傍で、カーカスプライ3aのタイヤ周方向Cに隣接するカーカスコード3a1間の距離が拡がるような変形が生じ易く、サイドカットSCの底部BPから、カーカスコード3a1同士の間を通り、タイヤ内部に進展する亀裂CRが生じ易い。これに対して、
図4は、補強部材8を備える重荷重用タイヤ1のサイドウォール部1bのサイド面5aにサイドカットSCが生じた場合に、サイドカットSCの断面鋭角の底部BPからタイヤ内部に亀裂CRが進展することを、補強部材8により遅らせる又は食い止める様子を示す説明図である。
図4に示すように、重荷重用ラジアルタイヤ1によれば、補強部材8により、上述した亀裂CRの進展を、遅らせる又食い止めるができる。以下、この詳細を説明する。
【0031】
図1に示すように、補強部材8は、タイヤ幅方向に重ねられている、第1補強層8a及び第2補強層8bを備える。また、
図2に示すように、補強部材8の第1補強層8a及び第2補強層8bは、延在方向D、Eが相互に交錯する有機繊維製の第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1を含む。
【0032】
第1補強層8aの第1補強コード8a1は、タイヤ側面視(
図2参照)で、第1補強コード8a1と重なるカーカスコード3a1の延在方向(タイヤ径方向B)に対してタイヤ周方向Cの一方側に10°~20°の範囲で傾斜する方向である延在方向Dに延在している。
【0033】
第2補強層8bの第2補強コード8b1は、タイヤ側面視(
図2参照)で、第2補強コード8b1と重なるカーカスコード3a1の延在方向(タイヤ径方向B)に対してタイヤ周方向Cの他方側に10°~20°の範囲で傾斜する方向である延在方向Eに延在している。
【0034】
このように、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1それぞれが、タイヤ側面視(
図2参照)で、ラジアルカーカスを構成するカーカスコード3a1に対して傾斜して配列されている。これにより、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1それぞれは、タイヤ側面視(
図2参照)で、タイヤ周方向Cに隣接する複数のカーカスコード3a1に跨るように延在する。そのため、重荷重用ラジアルタイヤ1を装着した車両の走行時に、重荷重用ラジアルタイヤ1のサイドウォール部1bに変形が生じても、タイヤ周方向Cに隣接する複数のカーカスコード3a1が、タイヤ周方向Cで相互間の距離が拡がるように変形(以下、「カーカスコード3a1の開き変形」と記載する。)することを、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1によって抑制できる。これにより、サイドウォール部1bにサイドカットが形成されたとしても、サイドカット近傍でのサイドゴム5の歪を抑制できる。その結果、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止めることができる。
【0035】
また、上述のように、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1それぞれは、タイヤ側面視(
図2参照)で、カーカスコード3a1に対して、10°~20°の範囲で傾斜している。換言すれば、
図2に示すように、第1補強コード8a1のカーカスコード3a1に対する傾斜角度θ1は、10°~20°に設定されている。また、第2補強コード8b1のカーカスコード3a1に対する傾斜角度θ2についても、10°~20°に設定されている。傾斜角度θ1、θ2を10°以上とすることで、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1が、タイヤ周方向Cで隣接する少なくとも2本のカーカスコード3a1に跨るように配置され易くなる。また、傾斜角度θ1、θ2を20°以下とすることで、カーカスコード3a1に開き変形が生じるような外力が作用した際に、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1の延在方向D及びEの端部の位置に応力が集中し新たな故障核となること、及び、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1が破断することを、を抑制できる。つまり、補強部材8自体の耐久性の悪化、及び、補強部材8が埋設されたサイドウォール部1b全体の耐久性の悪化、を抑制できる。つまり、傾斜角度θ1、θ2を10°~20°とすることで、補強部材8による、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止める効果を高めることができる。
【0036】
更に、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1が、例えばナイロン等の有機繊維により構成されていることで、例えばスチールコードで構成される場合と比較して、第1補強コード8a1及び第2補強コード8b1の延在方向の端部の位置に応力が集中し新たな故障核となることを、より抑制できる。これにより、補強部材8が埋設されたサイドウォール部1b全体の耐久性の悪化を、より抑制できる。そのため、補強部材8による、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止める効果を、より高めることができる。
【0037】
また更に、上述のように、補強部材8は、タイヤ幅方向Aに重ねられている第1補強層8a及び第2補強層8bを備える。このように、補強部材8が複数の補強層8a、8bを備えることで、一層のみの補強層で構成される場合と比較して、補強部材8自体の強度を高めることができる。そのため、建設車両用タイヤや鉱山車両用タイヤ等の重荷重用ラジアルタイヤ1でのサイドウォール部1bの大変形に対しても、破損し難い補強部材8を実現できる。これにより、補強部材8による、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止める効果を、より高めることができる。なお、本実施形態の補強部材8は、第1補強層8a及び第2補強層8bのみの2層構成であるが、この構成に限られない。補強部材8は、3層以上の補強層を備えてもよい。
【0038】
また、上述のように、第1補強層8aの第1補強コード8a1、及び、第2補強層8bの第2補強コード8b1は、タイヤ側面視(
図2参照)で、延在方向D、Eが相互に交錯するように配置されている。このようにすることで、トレッド面6aの接地面における踏み込み側(回転方向の上流側)と、トレッド面6aの接地面における蹴り出し側(回転方向の下流側)とで、カーカスコード3a1の開き変形の抑制効果にばらつきが生じることを抑制できる。より具体的に、接地面の踏み込み側でカーカスコード3a1に開き変形を生じさせる力は、接地面の蹴り出し側でカーカスコード3a1に開き変形を生じさせる力と、タイヤ周方向Cで逆向きとなる。そのため、第1補強層8aの第1補強コード8a1、及び、第2補強層8bの第2補強コード8b1が、タイヤ側面視(
図2参照)で、延在方向D、Eが相互に交錯するように配置されていることで、上述したタイヤ周方向Cの逆向きの力それぞれに対して、カーカスコード3a1の開き変形を効果的に抑制できる。その結果、補強部材8による、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂の進展を遅らせる又は食い止める効果を、より高めることができる。
【0039】
次に、
図1を参照して、タイヤ幅方向断面視での補強部材8の位置について説明する。
【0040】
図1に示すように、補強部材8は、タイヤ幅方向断面視で、第1基準位置P1と、この第1基準位置P1からタイヤ径方向Bの外側に向かって補強対象領域X1の60%となる第3基準位置P3と、の間のタイヤ径方向Bのコア領域X2の全域に、少なくとも配置されている。ここで、「第1基準位置P1」とは、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、カーカスプライ3aのタイヤ幅方向Aの幅が最大幅となる位置を意味する。なお、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、カーカスプライ3aのタイヤ幅方向Aの幅が最大幅となる位置が一点に定まらない場合は、タイヤ径方向Bの最も内側の点とする。また、「補強対象領域X1」とは、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、第1基準位置P1から、第2基準位置P2まで、のタイヤ径方向Bの範囲を意味する。「第2基準位置P2」とは、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、トレッドゴム6のトレッド面6aに形成されている、トレッドゴム6のタイヤ幅方向Aの外側端まで貫通するラグ溝6a1、の底面20のうち、タイヤ径方向Bの最も内側となる位置を意味する。
図1に示すように、本実施形態の第2基準位置P2は、トレッドゴム6のタイヤ幅方向Aの外側端まで貫通するラグ溝6a1の底面20の、タイヤ幅方向Aの最も外側の位置である。
【0041】
タイヤ幅方向断面視(
図1参照)における上述のコア領域X2は、サイドウォール部1bにおいてサイドカットが最も形成され易い領域である。したがって、補強部材8をコア領域X2の全域に少なくとも配置することで、他の領域に配置する構成と比較して、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂進展を補強部材8により抑制できる可能性を高めることができる。
【0042】
なお、補強部材8は、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、第1基準位置P1と、この第1基準位置P1からタイヤ径方向Bの外側に向かって補強対象領域X1の70%となる位置と、の間のタイヤ径方向Bの領域の全域に、配置されていることが好ましい。また、補強部材8は、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、第1基準位置P1と、この第1基準位置P1からタイヤ径方向Bの外側に向かって補強対象領域X1の80%となる位置と、の間のタイヤ径方向Bの領域の全域に、配置されていることが、より好ましい。更に、補強部材8は、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、補強対象領域X1の全域に配置されていることが、特に好ましい。このようにすることで、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂進展を補強部材8により抑制できる可能性を、より高めることができる。
【0043】
また、補強部材8のうち補強対象領域X1に配置される部分を補強本体部30とした場合に、本実施形態の補強部材8は、補強本体部30に加えて、補強本体部30からタイヤ径方向Bの内側に延設されている延設部31を備えている。補強部材8が補強本体部30に加えて延設部31を備えることで、サイドカットの底部からタイヤ内部への亀裂進展を補強部材8により抑制できる可能性を、より一層高めることができる。
【0044】
更に、本実施形態の延設部31の少なくとも一部は、タイヤ幅方向Aでプライ本体部13とプライ折り返し部14との間に挟まれている。このようにすることで、タイヤ径方向Bにおいてプライ折り返し部14が位置する領域であっても、補強部材8を、プライ本体部13に沿って配置できる。そのため、重荷重用ラジアルタイヤ1のパンク等を防ぐために最も抑制すべきプライ本体部13のカーカスコード3a1の開き変形を、確実に抑制できる。
【0045】
なお、本実施形態の延設部31では、その全部が、タイヤ幅方向Aでプライ本体部13とプライ折り返し部14との間に挟まれているが、この構成に限られない。延設部31の一部分のみが、タイヤ幅方向Aでプライ本体部13とプライ折り返し部14との間に挟まれていてもよい。
【0046】
更に、
図1に示すように、本実施形態では、第2補強層8bが、第1補強層8aに対してタイヤ幅方向Aの内側に重ねられている。かかる場合に、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)で、第2補強層8bの第2補強コード8b1と、カーカスコード3a1と、の最短距離は、1mm~6mmであることが好ましい。1mm以上とすることで、第2補強コード8b1と、カーカスコード3a1とのフレッティングを抑制できる。また、6mm以下とすることで、上述した補強部材8によるカーカスコード3a1の開き変形の抑制効果を、高めることができる。ここで、タイヤ幅方向断面視(
図1参照)での第2補強層8bの第2補強コード8b1と、カーカスコード3a1と、の距離は、
図4に示す符号「L」と同じである。
【0047】
本発明に係る重荷重用ラジアルタイヤは、上述した実施形態に示す具体的な構成に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変形、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は重荷重用ラジアルタイヤに関する。
【符号の説明】
【0049】
1:重荷重用ラジアルタイヤ
1a:トレッド部
1b:サイドウォール部
1c:ビード部
2:ビード部材
2a:ビードコア
2b:スティフナ
3:カーカス
3a:カーカスプライ
3a1:カーカスコード
4:ベルト
4a~4d:ベルト層
5:サイドゴム
5a:サイド面
6:トレッドゴム
6a:トレッド面
6a1:ラグ溝
6a2:周方向溝
7:インナーライナ
8:補強部材
8a:第1補強層
8a1:第1補強コード
8b:第2補強層
8b1:第2補強コード
13:プライ本体部
14:プライ折り返し部
20:ラグ溝の底面
30:補強本体部
31:延設部
100:タイヤ内腔
A:タイヤ幅方向
B:タイヤ径方向
C:タイヤ周方向
D:第1補強コードの延在方向
E:第2補強コードの延在方向
L:第2補強コードとカーカスコードとの距離
O:タイヤ中心軸線
BP:サイドカットの底部
CL:タイヤ赤道面
CR:サイドカットの底部からタイヤ内部に進展する亀裂
SC:サイドカット
TE:トレッド端
P1:第1基準位置
P2:第2基準位置
P3:第3基準位置
X1:補強対象領域
X2:コア領域
θ1:第1補強コードの傾斜角度
θ2:第2補強コードの傾斜角度