(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083181
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】機能回復支援装置
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20240613BHJP
A63B 23/04 20060101ALI20240613BHJP
A63B 23/10 20060101ALI20240613BHJP
A63B 21/045 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A61H1/02 N
A63B23/04 C
A63B23/10
A63B21/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197550
(22)【出願日】2022-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】503007151
【氏名又は名称】有限会社アイキャプス
(74)【代理人】
【識別番号】100181881
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小林 泉
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA03
4C046AA09
4C046AA22
4C046AA44
4C046AA45
4C046BB09
4C046CC04
4C046DD06
4C046DD39
(57)【要約】
【課題】 足関節の背屈を司る筋肉を具体的に意識させ且つ機能させ、足首の随意運動の効率的な回復に寄与する機能回復支援装置の提供。
【解決手段】 被訓練者の足を乗せる足踏板1と、当該足踏板1を前後方向へ揺動可能に支持する台板2と、を備え、各足踏板1,1は、足先部に被訓練者の足先を保持するための保持手段3を備え、土踏まず部下に当該足踏板1の揺動の支点を備え、踵部下に無負荷時において伸展状態に復帰する伸縮負荷部材4を備え、前記揺動により表面が前傾状態から後傾状態を行き来する様に向きを変えることを特徴とする機能回復支援装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被訓練者の足を乗せる足踏板と、当該足踏板を前後方向へ揺動可能に支持する台板と、を備え、
各足踏板は、足先部に被訓練者の足先を保持するための保持手段を備え、土踏まず部下に当該足踏板の揺動の支点を備え、踵部下に無負荷時において伸展状態に復帰する伸縮負荷部材を備え、前記揺動により表面が前傾状態から後傾状態を行き来する様に向きを変えることを特徴とする機能回復支援装置。
【請求項2】
略腰幅から略肩幅に開いた被訓練者の足を乗せる一対の足踏板と、当該一対の足踏板を前後方向へ揺動可能に支持する台板と、を備え、
各足踏板は、足先部に被訓練者の足先を保持するための保持手段を備え、土踏まず部下に当該足踏板の揺動の支点を備え、踵部下に無負荷時において伸展状態に復帰する伸縮負荷部材を備え、前記揺動により表面が前傾状態から後傾状態を行き来する様に向きを変えることを特徴とする機能回復支援装置。
【請求項3】
前記伸縮負荷部材は、多孔質構造の緩衝材であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化、ロコモティブシンドローム又は外傷等により下肢に障害が起きた場合等の機能回復を支援する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロコモーティブシンドロームは、男女を問わず老化や脳卒中等に起因する運動器の障害のために立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態を言う。
下肢の障害には、つま先を持ち上げる筋肉を制御できない「下垂足」と呼ばれる症状が伴うことが少なくない。
「下垂足」になると、踵から着地することができないため正常な歩行が困難となり、足先を擦って引っ掛けたり、足部でのバランスコントロール能力が低下し、転倒する頻度が高まることとなる。
従来、その様な症状の下でも安全な生活を送るために、足の機能を補助するための様々な装具や、歩行を支援するため装置が提供されている。
また、その様な症状を改善するための様々な機能回復訓練が行われている。
【0003】
従来の装具は、例えば、下腿を緊締する下腿支持体と、該支持体の両側下端を下方に伸延した下腿伸延部と、足の底部前端部を載置支持する足底支持部と、足底支持部の後端を伸延した足底伸延部と、下腿伸延部と足底伸延部との先端部同士を折り曲げ自在とした枢支部と、下腿支持体と足底支持部との間に介在した架設した調整用バンド部材とを備えた下垂足矯正用具(下記特許文献1参照。)や、装着時に足の爪先の内側及び外側に位置する少なくとも2のホルダ部を有する爪先バンドと、装着時に足首の内側及び外側に位置するホルダ部を有する足首バンドと、前記装着時に足の爪先の内側に位置するホルダ部側と前記装着時に足首の内側に位置するホルダ部側を連結する連結ベルトと、前記装着時に足の爪先の外側に位置するホルダ部側と前記装着時に足首の外側に位置するホルダ部側を連結する連結ベルトを具備し、連結ベルトの面ファスナーの張り合わせによる長さ調整で、装着者の足(又は靴)と脛との可動角度を調整することができる短下肢装具(下記特許文献2参照。)が提供されている。
これらの装具は、物理的に足首を支え、「下垂足」を防ぐことによって正常な歩行を促すことができるが、装具を装着し自発的に足を使うことが少なくなるため、足先の使い方を忘れてしまう虞がある。
【0004】
機能回復訓練は、脳で筋肉の制御をことを再学習する作業であって、「下垂足」その他の下肢の障害の治療法としては極めて有益である。
例えば、機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation:FES)は、麻痺肢の機能再建法のひとつとして知られており、歩行位相を検出するためのスイッチを健側の足底に取り付けて歩行位相を検出する歩行位相検出部と、検出された歩行位相に基づいて脳卒中や脊髄損傷による麻痺患者の中枢神経系から下
行する信号に代替する制御信号を発生する制御信号発生部と、この制御信号に基づいて麻痺筋の支配神経に電気刺激を与えるFESシステムを具備する装置(下記特許文献3参照。)が用いられる。
【0005】
機能的電気刺激は、麻痺した筋肉内の神経に小さな電気パルスを送り、流された電気で筋肉を活性化することによって、歩行時等における足の動きを補助することにも利用されている。
例えば、麻痺した下肢の下端部の前方向における運動を示す第1情報を検知するための第1センサと、前記下端部の鉛直方向における運動を示す第2情報を検知するための第2センサと、前記第1情報および前記第2情報に基づいて、前記麻痺した下肢の筋肉に対して与える電気刺激を制御する制御部とを備え、麻痺した下肢を有する患者の歩行を補助する補助装置(下記特許文献4参照。)が挙げられる。
この様な装置を高齢者等が装着すれば、起立時や歩行時等における転倒事故を未然に防ぐことができる場合もあるが、筋肉への電気パルスによる働きかけで目的とする運動を支配する筋肉を動かすことは、ともすれば被訓練者の意思の関与が希薄な不随意運動に陥りがちであるため、使い方によっては、被訓練者の随意運動発現の支障となる場合もある。
【0006】
ロコモティブシンドローム等で機能が低下した足の随意運動を活性化するのみならず、足の筋力を高めるための運動器具として、台板上に、並行配列した2枚の足踏板を揺動可能に軸支し、それぞれの足踏板へ台板に対して常時拡開方向へ弾勢力を与えるようスプリングを配設した弾撥揺動足踏運動具(下記特許文献5参照。)や、基盤の前半部に足先部置台を附設し、断面が凸円弧状をなす頭頂部を有する軸棹を基盤の後半部の中央位置において足先部置台の後辺縁に対して直角の方向に附設し、底面の中央部に円弧状の凹湾切込部を設けた踵部置盤の、該凹湾切込部を軸棹上に組合わせて載置し、人が足先部分を足先部置台上に置き、踵部分を踵部置盤上に乗せて交互に左右の脚部に力を入れてシーソー型に下方に押圧する踵部上下運動具(下記特許文献6参照。)や、床面に載置するベース板と、ベース板の前方側の上部に固定する取付板と、取付板に保持され揺動または上下動可能な右ステップ板および左ステップ板とを備えた運動器具(下記特許文献7参照。)や、足の裏を天板に乗せてつま先を上下させるように足首を動かすことによって、湾曲板の曲面が支持部となり足用運道具がシーソーのように揺動して足首を楽に動かすことができ、足首を動かすのに伴い股も上下動するので、足の血行が促進される足用運道具(下記特許文献8参照。)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-134743号公報
【特許文献2】実用新案登録第3217189号公報
【特許文献3】特開2002-331007号公報
【特許文献4】特開2015-085034号公報
【特許文献5】実開昭56―113560号公報
【特許文献6】実開昭61-016170号公報
【特許文献7】実用新案登録第3229703号公報
【特許文献8】特開2002-224191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、「下垂足」は、前脛骨筋等の筋力又は随意性が低下し足関節の背屈(爪先を持ち上げた状態)が不可能になった状態であるところ、いずれの運動器具にあっても、極めて抽象的に伸展及び収縮を行わせる運動器具に留まるため、足関節の背屈を司る筋肉を具体的に意識し機能させるための機能回復訓練とはなり難く、筋力及び随意性の両面を効率的に活性化する効果が得難いと言う問題がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、足関節の背屈を司る筋肉を具体的に意識させ且つ機能させ、足首の随意運動の効率的な回復に寄与する機能回復支援装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明による機能回復支援装置は、被訓練者の足を乗せる足踏板と、当該足踏板を前後方向へ揺動可能に支持する台板と、を備え、各足踏板は、足先部に被訓練者の足先を保持するための保持手段を備え、土踏まず部下に当該足踏板の揺動の支点を備え、踵部下に無負荷時において伸展状態に復帰する伸縮負荷部材を備え、前記揺動により表面が前傾状態から後傾状態を行き来する様に向きを変えることを特徴とする。
機能回復支援装置は、略腰幅から略肩幅に開いた被訓練者の足を乗せる一対の足踏板と、当該一対の足踏板を前後方向へ揺動可能に支持する台板と、を備える構成を採る事もできる。
【0011】
復帰時において背屈から底屈(足先を伸ばした状態)への急激な変化が生じることを回避し、足首へ過度な負担を与えない様に、前記伸縮負荷部材は、使用感が柔らかい多孔質構造の緩衝材であることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明による機能回復支援装置によれば、足先部に被訓練者の足先を保持するための保持手段を備え、土踏まず部下に足踏板の揺動の支点を置き、且つ踵部下に無負荷時において伸展状態に復帰する伸縮負荷部材を置くことによって、踵部に自重をかけることで足首を背屈させる事が不自由となり、前脛骨筋等の伸縮と腓腹筋及びヒラメ筋等の伸縮を具体的に意識しながらの背屈及び底屈が余儀なくされるため、筋力及び随意性の両面を効率的に活性化する効果を得ることができる。
【0013】
また、伸縮負荷部材として、使用感が柔らかい低反発発砲材等の多孔質構造の緩衝材を採用することによって、足首を背屈から底屈へ転じる際に、スプリングや板バネ等の様に急激な復帰作用による過大な働きかけが生じる問題が解消され、足首へ不要な負担を与えることなく、筋肉の伸展と収縮をゆっくりと意識しながら訓練を行うことができる。
この様に、本発明による機能回復支援装置は、足首関節の背屈を司る筋肉を具体的に意識させ且つ機能させ、足首の随意運動の効率的な回復に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による機能回復支援装置の一例を示す、(A)正面図,(B)側方から観た実施態様図,(C)背面図,(D)平面図及び(E)底面図である。
【
図2】本発明による機能回復支援装置の一例を示す、(A)正面図,(B)側方から観た実施態様図,(C)背面図,(D)平面図及び(E)底面図である。
【
図3】本発明による機能回復支援装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による機能回復支援装置の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図3は、本発明による機能回復支援装置(以下、「装置」と記す。)の一例である。
この例は、被訓練者(trainee)の足を乗せる足踏板1と、当該足踏板1を前後方向へ揺動可能に支持する台板2とを備える。
【0016】
この例の前記台板2は、長方形状の板であるが、足踏板1を安定して指示できる形態であればよく、使用に堪え得る十分な強度と安定性が得られる限りにおいて、総重量を抑える等のために、各足踏板1,1が配置されない当該台板2の中央部をくり抜いた構成を採用することもできる。
また、振動やガタツキを吸収するために、当該台板2の全裏面に亘るマットや、当該台板2の四隅の裏面から突出する脚を備える構成を採ることができる。
足踏板1,1は、当該台板2における被訓練者の略腰幅から略肩幅に開いた足の位置に設定された左領域2L及び右領域2Rにおいて、前後方向へ揺動する様にそれぞれ配置されている。
【0017】
各足踏板1,1は、被訓練者の足裏全体が乗る広さを持つ長方形状の板体である。
この装置の各足踏板1,1は、その足先部に被訓練者の足先を保持するための保持手段3が固定され、その土踏まず部下に前後揺動の支点となる脚部5が固着され、その踵部下に無負荷時において伸展状態に復帰する伸縮負荷部材(以下、「負荷部材」と記す。)4が取り換え可能に固定され、後端部に踵を支持する踵止め6が突設されている。
尚、各足踏板1,1の表面に、汚染防止、滑り止め又は足裏の保護を目的としたマット7を貼着してもよく、又は足裏の凹凸に倣う曲面を形成してもよい。
【0018】
前記保持手段3は、被訓練者の足先を足踏板1の表面に拘束する甲帯であって、周長の調整が可能な環状に成形した状態で、各足踏板1,1の足先部に固定されている。
前記脚部5は、同じ三角形状に裁断された一対の脚板5a,5aが、負荷部材4を収容し得る空隙を挟んで平行に配置されたものである。
一対の脚板5a,5aは、各々の頂部の前後いずれかの面を同様にヒンジ8の一方の羽根に固定することによって一体化され、当該ヒンジ8の他方の羽根を台板2の左領域2L及び右領域2Rの前後方向の中央部に、当該ヒンジ8の軸ピンが台板2の左右方向へ向く様に固定することによって、各足踏板1,1は、当該ヒンジ8を介して台板2に対して前後揺動可能となる様に軸支される。
【0019】
各足踏板1,1が行う前後揺動は、足踏板1の表面が前傾状態から後傾状態を行き来する様に向きを変えるシーソー動作である。
この例における各足踏板1,1の揺動量は、脚部5の高さ及び負荷部材4の形態及び性状を調整することにより、前脛骨筋等の収縮による背屈:0~20°程度と、腓腹筋及びヒラメ筋等の収縮による底屈:0~45°程度が可能となる様に調整される。
【0020】
前記伸縮負荷部材4は、様々なものを用いることが可能であるが、この例では、形状が多様に変化して圧縮後の復元性を持ち、復元時の圧力が局部に集中することなく分散する多孔質構造の緩衝材を採用する。
足に能動的な背屈と底屈を与えるための随意性のある筋肉の伸展と収縮を可能とする適正な負荷と復元性を得る上では、多孔質構造の緩衝材として弾性と粘弾性(遅復元性)を併せ持つ軟質ウレタンフォームを用いることが望ましい。
殊に、ポリウレタン樹脂を素材とした連通気泡の発泡体である低反発フォームを用いることで、圧縮後にゆっくりと元の状態に戻る遅復元性を得て被訓練者の足に優しい繊細な訓練装置とすることができる。
【0021】
この例の負荷部材4は、足踏板1の揺動の軌跡に倣った略扇状に成形されている。
負荷部材4は、当該負荷部材4の両端部を、足踏板1、1の踵部の裏面と、前記左領域2L及び右領域2Rの後部表面に設けられた保持部(図示省略)に嵌め入れる等により固定する。この例では、その際、一対の脚板5a,5aの間の空隙の後部に当該負荷部材4の一部が装填される。
足踏板1の裏面及び台板2の表面に設けられた保持部は、例えば、当該負荷部材4の両端部の形状に合わせた凹部を持った枠等である。
この様に、負荷部材4の伸縮方向の両側に、当該負荷部材4両端を保持できる枠を配置することによって、その側面に配置された脚板5a,5aの存在とも相俟って、特に接着剤やねじ止めを行うこともなく、当該負荷部材4を定位置に安定保持することができ、反発弾性率の異なる負荷部材4を被訓練者の症状に応じて容易に交換することができる。
【0022】
以上のごとく構成された装置を用いた訓練は、当該装置を椅子の前方に配置し、背屈と底屈を繰り返すことが主となる。
椅子に座った状態で、足先を甲帯(保持手段3)に通し足踏板1にフィットさせると、土踏まずを境とした前後の重心移動が不自由となる。その結果、被訓練者は、足踏板(特に踵部)1に自重をかけることが困難となり、専ら筋力で背屈を行うことが余儀なくされるため、足首の背屈と底屈の訓練をそれに関与する筋肉の伸展及び収縮を意識しつつ実施することができる。
足首の背屈量及び底屈量、負荷部材4の強度及び性状、並びに訓練メニューは、被訓練者の症状に応じて訓練者が調整し訓練を実施する。
多孔質構造の緩衝材は、機能面では、軽量で、衝撃吸収性、制振性、圧力分散性、吸音性等が良いため、家庭での訓練を行う際に同居者が負担に感じることもなく、トイレに配置すれば、被訓練者の脚の運動に起因して便通の改善という副次的な効果も得られる。
また、多孔質構造の緩衝材は、デザイン面では、着色自由度が広いため、室内の美観を損ねることも回避できる。
【符号の説明】
【0023】
1 足踏板,
2 台板,2L 左領域,2R 右領域,
3 保持手段,4 負荷部材,5 脚部,6 踵止め,7 マット,8 ヒンジ,