(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083191
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】煙感知器
(51)【国際特許分類】
G08B 17/107 20060101AFI20240613BHJP
G01N 21/53 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G08B17/107 A
G01N21/53 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018972
(22)【出願日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2022196881
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(74)【代理人】
【識別番号】100228669
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 愛規
(72)【発明者】
【氏名】長島 哲也
【テーマコード(参考)】
2G059
5C085
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB01
2G059BB09
2G059DD12
2G059EE02
2G059EE11
2G059GG08
2G059HH02
2G059JJ11
2G059KK01
2G059MM01
2G059NN10
5C085AA03
5C085AB08
5C085BA33
5C085BA35
5C085CA04
5C085CA08
5C085DA07
5C085DA08
5C085FA06
5C085FA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】火災による煙の判定の確度を高めて非火災報防止を確実なものとした上で、空間フィルタを利用して火災による煙を判定して火災を検出する煙感知器を提供する。
【解決手段】煙感知器10は、空間フィルタ機構を構成するものとして、検煙領域16に第1波長帯及び第2波長帯を含む光を照射する発光素子24と、第1波長帯の光により生じる第1散乱角の前方散乱光を受光する第1受光素子32及び第2波長帯の光により生じる第2散乱角の後方散乱光を受光する第2受光素子40と、所定の空間周波数を持つ第1レチクル28及び第2レチクル36と、検出対象が煙であるかを判定する煙判定部と、煙の種別を識別する煙種別識別部と、煙の移動速度を検出する速度検出部と、検出対象を確定させる煙確定部と、を備える。また、光学素子としてレチクル以外にレンズアレイ、フレネルレンズ、受光素子アレイ及び発光素子アレイ等を備えても良い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災による煙を含む検出対象が通過する検煙領域に所定の第1波長帯の光と当該第1波長帯とは異なる所定の第2波長帯の光とを含む光を照射する発光部と、
前記発光部からの光に含まれる前記第1波長帯又は前記第2波長帯の何れか一方の光が前記検煙領域を通過する前記検出対象に照射されて生じる所定の第1散乱角の前方散乱光及び前記第1波長帯又は前記第2波長帯の何れか他方の光が前記検煙領域を通過する前記検出対象に照射されて生じる所定の第2散乱角の後方散乱光を受光する受光部と、
所定の空間周波数を持つ光学部と、
前記受光部により受光された前記前方散乱光による第1受光信号及び又は前記後方散乱光による第2受光信号に基づき前記検出対象が煙であるかを判定する煙判定部と、
前記煙判定部により煙と判定された場合に、前記第1受光信号及び前記第2受光信号に基づき煙の種別を識別する煙種別識別部と、
前記煙判定部により煙と判定された場合に、前記第1受光信号及び前記第2受光信号に基づき煙の移動速度を検出する速度検出部と、
前記煙判定部による判定結果、前記煙種別識別部による識別結果及び前記速度検出部による検出結果に基づき前記検出対象を確定させる煙確定部と、
を備えることで、前記発光部からの光を空間変調する一組の空間フィルタ機構を構成したことを特徴とする煙感知器。
【請求項2】
請求項1記載の煙感知器において、
前記速度検出部は、更に煙の移動方向を検出することを特徴とする煙感知器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記前方散乱光を生じさせる前記第1波長帯又は前記第2波長帯の何れか一方の光は、前記後方散乱光を生じさせる前記第1波長帯又は前記第2波長帯の何れか他方の光に対して長波長帯の光となるように設定されたことを特徴とする煙感知器。
【請求項4】
請求項1記載の煙感知器において、
前記発光部は、前記第1波長帯の光及び前記第2波長帯の光を前記検煙領域に照射する発光素子を備え、
前記受光部は、前記検煙領域を通過する前記検出対象の方向に対応した2次元空間において受光光軸が所定の角度となるように前記検煙領域に対して所定の位置に配置された第1受光素子と第2受光素子とを備え、
前記光学部は、前記第1受光素子と前記第2受光素子とが配置された前記所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、
前記第1受光素子は、前記第1波長帯の光に受光感度を持ち、前記第1光学素子を介して前記第1波長帯の光により生じた前記前方散乱光又は前記後方散乱光の一方を受光し、
前記第2受光素子は、前記第2波長帯の光に受光感度を持ち、前記第2光学素子を介して前記第2波長帯の光により生じた前記前方散乱光又は前記後方散乱光の他方を受光することを特徴とする煙感知器。
【請求項5】
請求項1記載の煙感知器において、
前記発光部は、前記検煙領域を通過する前記検出対象の方向に対応した2次元空間において発光光軸が所定の角度となるように前記検煙領域に対して所定の位置に配置された前記第1波長帯の光を照射する第1発光素子と前記第2波長帯の光を照射する第2発光素子とを備え、
前記受光部は、前記第1波長帯の光及び前記第2波長帯の光に受光感度を持ち、前記前方散乱光及び前記後方散乱光を受光する受光素子を備え、
前記光学部は、前記第1発光素子と前記第2発光素子とが配置された前記所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、
前記第1発光素子から照射された前記第1波長帯の光は前記第1光学素子を介して前記検煙領域を通過する前記検出対象に照射され、前記第2発光素子から照射された前記第2波長帯の光は前記第2光学素子を介して前記検煙領域を通過する前記検出対象に照射されることを特徴とする煙感知器。
【請求項6】
請求項4又は5記載の煙感知器において、
前記速度検出部は、前記第1受光信号に基づき所定方向となる第1移動速度成分を検出すると共に前記第2受光信号に基づき前記第1移動速度成分とは異なる方向となる第2移動速度成分を検出し、前記第1移動速度成分及び前記第2移動速度成分に基づき前記検煙領域を通過する煙の移動速度を検出することを特徴とする煙感知器。
【請求項7】
請求項6記載の煙感知器において、
前記第1光学素子及び前記第2光学素子は、異なる空間周波数となる複数の領域が前記空間周波数の大きさに応じて段階的に配列され、
前記速度検出部は、前記第1受光信号及び前記第2受光信号において変化する信号周期の増減に基づき第1移動速度ベクトル及び第2移動速度ベクトルを検出し、前記第1移動速度ベクトル及び前記第2移動速度ベクトルに基づき前記検煙領域を通過する煙の移動方向を検出することを特徴とする煙感知器。
【請求項8】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記発光部は、通常状態で間欠発光により光を照射し、前記受光部の受光により得られた前記第1受光信号及び又は前記第2受光信号が所定の煙の発現条件を充足したときに、前記間欠発光から所定時間の連続発光に切り替えることを特徴とする煙感知器。
【請求項9】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記煙判定部は、
前記煙の判定条件として、
前記検出対象の判定を行うための所定時間に得られた前記第1受光信号又は前記第2受光信号に2以上の山谷が存在する第1の条件と、
前記検出対象の判定を行うための所定時間に得られた前記第1受光信号又は前記第2受光信号が所定の零点レベルを超えている第2の条件と、
前記検出対象の判定を行うための所定時間に得られた前記第1受光信号又は前記第2受光信号が所定の周期以上で上下動を繰り返す第3の条件と、
を充足した場合に前記煙と判定することを特徴とする煙感知器。
【請求項10】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記煙種別識別部は、
所定時間の前記第1受光信号の受光値を積分した第1受光値と、所定時間の前記第2受光信号の受光値を積分した第2受光値との比率に基づき、前記煙判定部により判定された煙が白煙か黒煙か非火災要因の検出対象かを識別することを特徴とする煙感知器。
【請求項11】
請求項10記載の煙感知器において、
前記煙確定部は、
前記煙判定部により前記検出対象が煙と判定され、前記煙種別識別部により前記煙が白煙と識別され、前記速度検出部により検出された前記煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足している場合には、前記検出対象を白煙として確定し、
前記煙判定部により前記検出対象が煙と判定され、前記煙種別識別部により前記煙が黒煙と識別され、前記速度検出部により検出された前記煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足している場合には、前記検出対象を黒煙として確定することを特徴とする煙感知器。
【請求項12】
請求項11記載の煙感知器において、
前記煙確定部は、前記煙判定部により前記検出対象が煙と判定され、前記煙種別識別部により前記煙が白煙と識別され、前記速度検出部により検出された前記煙の移動速度条件が所定の白煙速度を充足していない場合、及び前記煙判定部により前記検出対象が煙と判定され、前記煙種別識別部により前記煙が黒煙と識別され、前記速度検出部により検出された前記煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、前記検出対象を火災による煙以外の異物として確定することを特徴とする煙感知器。
【請求項13】
請求項11記載の煙感知器において、
前記煙確定部は、前記煙判定部により前記検出対象が煙と判定され、前記煙種別識別部により前記煙が白煙と識別され、前記速度検出部により検出された前記煙の移動速度条件が所定の白煙速度を充足していない場合、及び前記煙判定部により前記検出対象が煙と判定され、前記煙種別識別部により前記煙が黒煙と識別され、前記速度検出部により検出された前記煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、煙の種別を確定せずに前記検出対象を火災による煙として確定することを特徴とする煙感知器。
【請求項14】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記検煙領域に対する遮光構造及び防虫構造を有さないことを特徴とする煙感知器。
【請求項15】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記光学部は、所定方向に遮光部と開口部とを交互に配置して構成される格子状の物理フィルタであるレチクルであり、前記開口部が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置された光学素子を備えたことを特徴とする煙感知器。
【請求項16】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記光学部は、少なくとも前記検煙領域に面する一面にシリンドリカルレンズが所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置されたレンズアレイであり、前記シリンドリカルレンズが1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置された光学素子を備えたことを特徴とする煙感知器。
【請求項17】
請求項16記載の煙感知器において、
前記レンズアレイの検煙領域に面する側とは反対側に前記レンズアレイと別体の集光レンズが配置されるか、又は前記レンズアレイの検煙領域に面する側とは反対側の面に集光レンズが前記レンズアレイと一体に形成されたことを特徴とする煙感知器。
【請求項18】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記光学部は、前記検煙領域に面する一面をレンズ平面部とし、前記一面とは反対側の他面に円環状のプリズム部が光学中心部から外部に向けて所定の配置間隔で同心円状に複数配置されたフレネルレンズであり、前記プリズム部が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で同心円状に配置された光学素子を備えたことを特徴とする煙感知器。
【請求項19】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記光学部は、前記受光部と一体に形成され、
前記光学部が一体に形成された前記受光部は、前記検煙領域に面する一面に受光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置された受光素子アレイを備えたことを特徴とする煙感知器。
【請求項20】
請求項19記載の煙感知器において、
前記受光素子アレイと前記検煙領域との間に集光レンズが配置されるか、又は前記受光素子アレイの一面側に集光レンズが前記受光素子アレイと一体に形成され、
前記受光素子は、1.0~10mmの範囲の所定値を前記集光レンズの集光倍率で縮小した値となる配置間隔で配置されたことを特徴とする煙感知器。
【請求項21】
請求項1又は2記載の煙感知器において、
前記光学部は、前記発光部と一体に形成され、
前記光学部が一体に形成された前記発光部は、前記検煙領域に面する一面に発光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置された発光素子アレイを備え、前記発光素子が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置されたことを特徴とする煙感知器。
【請求項22】
請求項21記載の煙感知器において、
前記発光素子アレイと前記検煙領域との間にシリンドリカルレンズ又は凸レンズが配置されるか、又は前記発光素子アレイの一面側にシリンドリカルレンズ又は凸レンズが前記発光素子アレイと一体に形成されたことを特徴とする煙感知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災により発生した煙に光を照射して生じる散乱光により火災を検出する煙感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建物や施設に構築される火災報知システムは、受信機に煙感知器等の端末機器を接続することで火災を検出して管理者や居住者に火災を報知し、管理者に現場での初期対応を促すと共に居住者に避難を促す。
【0003】
また、火災報知システムでは煙感知器が火災による煙に限らず、調理の煙やバスルームの湯気等により火災を誤検出することで非火災報を発してしまうことがあることから、このような火災以外の原因(非火災要因)による非火災報を防止するために、2種類の波長の光を検煙領域に照射し、煙に光を照射して生じる散乱光について異なる波長の光強度の比を求めて煙の種類を含めて判定した上で火災を検出する煙感知器が提案されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-325211号公報
【特許文献2】特開2020-035029号公報
【特許文献3】特開昭51-000367号公報
【特許文献4】特開昭52-153781号公報
【特許文献5】特開昭58-038864号公報
【特許文献6】特開昭53-052473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の煙感知器では煙の流れる方向、即ち風向や風速を測定することはできないため、火災の発生地点の把握や避難方向の指示において重要となる煙の流れる方向の情報は得ることができておらず、管理者による現場での初期対応や居住者の避難を早期に正確に指示することが難しいとされていた。
【0006】
そのため、煙感知器の検煙領域に光を照射して煙による散乱光により火災を検出する手法に、不規則なパターンを有する物体の移動速度を計測するために用いる空間フィルタを利用することが考えられる。
【0007】
空間フィルタを利用した例として、例えば特許文献3では製造ラインでの紙送り速度を空間フィルタにより測定している。特許文献4では回転ロールにより供給される物体の移動速度を直交する第1、第2の空間フィルタ検出器により計測している。特許文献5では空間フィルタを介して溶液中の浮遊粒子を観測することにより観測対象外の小粒子の影響を排除している(尚、浮遊粒子の移動速度は観測していない)。特許文献6では直交する2つの空間フィルタにより移動体の移動速度と方向を測定している。
【0008】
しかしながら、これら従来の空間フィルタを用いて不規則なパターンを有する物体の移動速度を計測する手法は、被測定物が生産ライン上を流れる物体や車両から観測される地面や高速に移動する物体等の大きな固体が主である一方、煙感知器で検出対象となる火災による煙の移動速度は非常に遅く、また煙は明瞭な像が得られる固体とは異なる微粒子の集合体であることから、従来の空間フィルタをそのまま適用することはできず、火災による煙に対応したセンサ方式が必要であった。
【0009】
また、煙感知器で空間フィルタを利用して煙の流れる方向を検出(風向や風速を測定)できるようにするには、煙の移動速度が遅い、即ち低風速の気流が測定でき、煙感知器に組み込むことが可能である小型で安価なセンサ構造とする必要がある。
【0010】
また、空間フィルタを用いた煙感知器にあっても、火災による煙に限らず、調理の煙やバスルームの湯気等により非火災報を発してしまう可能性があることから、火災による煙の判定の確度を高めて非火災報防止を確実なものとする必要がある。
【0011】
本発明は、火災による煙の判定の確度を高めて非火災報防止を確実なものとした上で、空間フィルタを利用して火災による煙を判定して火災を検出可能とする煙感知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(煙感知器)
本発明は、煙感知器であって、
火災による煙を含む検出対象が通過する検煙領域に所定の第1波長帯の光と当該第1波長帯とは異なる所定の第2波長帯の光とを含む光を照射する発光部と、
発光部からの光に含まれる第1波長帯又は第2波長帯の何れか一方の光が検煙領域を通過する検出対象に照射されて生じる所定の第1散乱角の前方散乱光及び第1波長帯又は第2波長帯の何れか他方の光が検煙領域を通過する検出対象に照射されて生じる所定の第2散乱角の後方散乱光を受光する受光部と、
所定の空間周波数を持つ光学部と、
受光部により受光された前方散乱光による第1受光信号及び又は後方散乱光による第2受光信号に基づき検出対象が煙であるかを判定する煙判定部と、
煙判定部により煙と判定された場合に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき煙の種別を識別する煙種別識別部と、
煙判定部により煙と判定された場合に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき煙の移動速度を検出する速度検出部と、
煙判定部による判定結果、煙種別識別部による識別結果及び速度検出部による検出結果に基づき検出対象を確定させる煙確定部と、
を備えることで、発光部からの光を空間変調する一組の空間フィルタ機構を構成したことを特徴とする。
【0013】
(煙の移動方向を検出する速度検出部)
速度検出部は、更に煙の移動方向を検出する。
【0014】
(発光部から照射される光の波長)
前方散乱光を生じさせる第1波長帯又は第2波長帯の何れか一方の光は、後方散乱光を生じさせる第1波長帯又は第2波長帯の何れか他方の光に対して長波長帯の光となるように設定される。
【0015】
(1つの発光素子と2つの受光素子による検出)
発光部は、第1波長帯の光及び第2波長帯の光を検煙領域に照射する発光素子を備え、
受光部は、検煙領域を通過する検出対象の方向に対応した2次元空間において受光光軸が所定の角度となるように検煙領域に対して所定の位置に配置された第1受光素子と第2受光素子とを備え、
光学部は、第1受光素子と第2受光素子とが配置された所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、
第1受光素子は、第1波長帯の光に受光感度を持ち、第1光学素子を介して第1波長帯の光により生じた前方散乱光又は後方散乱光の一方を受光し、
第2受光素子は、第2波長帯の光に受光感度を持ち、第2光学素子を介して第2波長帯の光により生じた前方散乱光又は後方散乱光の他方を受光する。
【0016】
(2つの発光素子と1つの受光素子による検出)
発光部は、検煙領域を通過する検出対象の方向に対応した2次元空間において発光光軸が所定の角度となるように検煙領域に対して所定の位置に配置された第1波長帯の光を照射する第1発光素子と第2波長帯の光を照射する第2発光素子とを備え、
受光部は、第1波長帯の光及び第2波長帯の光に受光感度を持ち、前方散乱光及び後方散乱光を受光する受光素子を備え、
光学部は、第1発光素子と第2発光素子とが配置された所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、
第1発光素子から照射された第1波長帯の光は第1光学素子を介して検煙領域を通過する検出対象に照射され、第2発光素子から照射された第2波長帯の光は第2光学素子を介して検煙領域を通過する検出対象に照射される。
【0017】
(煙の移動速度の検出)
速度検出部は、第1受光信号に基づき所定方向となる第1移動速度成分を検出すると共に第2受光信号に基づき第1移動速度成分とは異なる方向となる第2移動速度成分を検出し、第1移動速度成分及び第2移動速度成分に基づき検煙領域を通過する煙の移動速度を検出する。
【0018】
(煙の移動方向の検出)
第1光学素子及び第2光学素子は、異なる空間周波数となる複数の領域が空間周波数の大きさに応じて段階的に配列され、
速度検出部は、第1受光信号及び第2受光信号において変化する信号周期の増減に基づき第1移動速度ベクトル及び第2移動速度ベクトルを検出し、第1移動速度ベクトル及び第2移動速度ベクトルに基づき検煙領域を通過する煙の移動方向を検出する。
【0019】
(間欠発光と連続発光)
発光部は、通常状態で間欠発光により光を照射し、受光部の受光により得られた第1受光信号及び又は第2受光信号が所定の煙の発現条件を充足したときに、間欠発光から所定時間の連続発光に切り替える。
【0020】
(煙判定部による煙の判定条件)
煙判定部は、
煙の判定条件として、
検出対象の判定を行うための所定時間に得られた第1受光信号又は第2受光信号に2以上の山谷が存在する第1の条件と、
検出対象の判定を行うための所定時間に得られた第1受光信号又は第2受光信号が所定の零点レベルを超えている第2の条件と、
検出対象の判定を行うための所定時間に得られた第1受光信号又は第2受光信号が所定の周期以上で上下動を繰り返す第3の条件と、
を充足した場合に煙と判定する。
【0021】
(煙種別識別部による煙の識別)
煙種別識別部は、
所定時間の第1受光信号の受光値を積分した第1受光値と、所定時間の第2受光信号の受光値を積分した第2受光値との比率に基づき、煙判定部により判定された煙が白煙か黒煙か非火災要因の検出対象かを識別する。
【0022】
(煙確定部による白煙及び黒煙の確定)
煙確定部は、
煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足している場合には、検出対象を白煙として確定し、
煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足している場合には、検出対象を黒煙として確定する。
【0023】
(煙確定部による異物の確定)
煙確定部は、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合、及び煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、検出対象を火災による煙以外の異物として確定する。
【0024】
(煙確定部による火災による煙の確定)
煙確定部は、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合、及び煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、煙の種別を確定せずに検出対象を火災による煙として確定する。
【0025】
(検煙領域に対する構造)
検煙領域に対する遮光構造及び防虫構造を有さない。
【0026】
(物理フィルタであるレチクルとした光学素子)
光学部は、所定方向に遮光部と開口部とを交互に配置して構成される格子状の物理フィルタであるレチクルであり、開口部が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置された光学素子を備える。
【0027】
(レンズアレイとした光学素子)
光学部は、少なくとも検煙領域に面する一面にシリンドリカルレンズが所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置されたレンズアレイであり、シリンドリカルレンズが1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置された光学素子を備える。
【0028】
(集光レンズと組み合わせたレンズアレイ)
レンズアレイの検煙領域に面する側(一面側)とは反対側(他面側)にレンズアレイと別体の集光レンズが配置されるか、又はレンズアレイの検煙領域に面する側とは反対側の面(他面)に集光レンズがレンズアレイと一体に形成される。
【0029】
(フレネルレンズとした光学素子)
光学部は、検煙領域に面する一面をレンズ平面部とし、一面とは反対側の他面に円環状のプリズム部が光学中心部から外部に向けて所定の配置間隔で同心円状に複数配置されたフレネルレンズであり、プリズム部が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で同心円状に配置された光学素子を備える。
【0030】
(受光部と一体した光学部)
光学部は、受光部と一体に形成され、
光学部が一体に形成された受光部は、検煙領域に面する一面に受光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置された受光素子アレイを備える。
【0031】
(集光レンズと組み合わせた受光素子アレイ)
受光素子アレイと検煙領域との間に集光レンズが配置されるか、又は受光素子アレイの一面側に集光レンズが受光素子アレイと一体に形成され、
受光素子は、1.0~10mmの範囲の所定値を集光レンズの集光倍率で縮小した値となる配置間隔で配置される。
【0032】
(発光部と一体とした光学部)
光学部は、発光部と一体に形成され、
光学部が一体に形成された発光部は、検煙領域に面する一面に発光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置された発光素子アレイを備え、発光素子が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置される。
【0033】
(レンズと組み合わせた発光素子アレイ)
発光素子アレイと検煙領域との間にシリンドリカルレンズ又は凸レンズが配置されるか、又は発光素子アレイの一面側にシリンドリカルレンズ又は凸レンズが発光素子アレイと一体に形成される。
【発明の効果】
【0034】
(煙感知器の効果)
本発明は、煙感知器であって、火災による煙を含む検出対象が通過する検煙領域に所定の第1波長帯の光と当該第1波長帯とは異なる所定の第2波長帯の光とを含む光を照射する発光部と、発光部からの光に含まれる第1波長帯又は第2波長帯の何れか一方の光が検煙領域を通過する検出対象に照射されて生じる所定の第1散乱角の前方散乱光及び第1波長帯又は第2波長帯の何れか他方の光が検煙領域を通過する検出対象に照射されて生じる所定の第2散乱角の後方散乱光を受光する受光部と、所定の空間周波数を持つ光学部と、受光部により受光された前方散乱光による第1受光信号及び又は後方散乱光による第2受光信号に基づき検出対象が煙であるかを判定する煙判定部と、煙判定部により煙と判定された場合に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき煙の種別を識別する煙種別識別部と、煙判定部により煙と判定された場合に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき煙の移動速度を検出する速度検出部と、煙判定部による判定結果、煙種別識別部による識別結果及び速度検出部による検出結果に基づき検出対象を確定させる煙確定部と、を備えることで、発光部からの光を空間変調する一組の空間フィルタ機構を構成したため、検煙領域を通過する検出対象に発光部から異なる2つの波長の光を照射して生じる異なる散乱角の前方散乱光及び後方散乱光は変調が掛かった状態で受光部により受光されることになり、火災の煙による前方散乱光により得られた第1受光信号及び又は後方散乱光により得られた第2受光信号は煙の移動速度に応じた周波数を持つ信号となると共に固有の特徴を持つことから、煙判定部で第1受光信号及び又は第2受光信号に基づき異物等の検出対象とは区別して煙を判定することを可能とする。また、煙判定部で煙と判定された場合には、更に煙種別識別部による煙の種別の識別結果と速度検出部による煙の移動速度の検出結果に基づき、火災による煙と非火災要因の検出対象(例えば湯気等)とを区別して非火災報防止を確実なものとすることを可能とし、火災検出の確度を高めることができる。
【0035】
(1つの発光素子と2つの受光素子による検出の効果)
また、発光部は、第1波長帯の光及び第2波長帯の光を検煙領域に照射する発光素子を備え、受光部は、検煙領域を通過する検出対象の方向に対応した2次元空間において受光光軸が所定の角度となるように検煙領域に対して所定の位置に配置された第1受光部と第2受光部とを備え、光学部は、第1受光素子と第2受光素子とが配置された所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、第1受光素子は、第1波長帯の光に受光感度を持ち、第1光学素子を介して第1波長帯の光により生じた前方散乱光又は後方散乱光の一方を受光し、第2受光素子は、第2波長帯の光に受光感度を持ち、第2光学素子を介して第2波長帯の光により生じた前方散乱光又は後方散乱光の他方を受光するため、前述した煙感知器の効果と同様の効果が得られる。
【0036】
(2つの発光素子と1つの受光素子による検出の効果)
また、発光部は、検煙領域を通過する検出対象の方向に対応した2次元空間において発光光軸が所定の角度となるように検煙領域に対して所定の位置に配置された第1波長帯の光を照射する第1発光素子と第2波長帯の光を照射する第2発光素子とを備え、受光部は、第1波長帯の光及び第2波長帯の光に受光感度を持ち、前方散乱光及び後方散乱光を受光する受光素子を備え、光学部は、第1発光素子と第2発光素子とが配置された所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、第1発光素子から照射された第1波長帯の光は第1光学素子を介して検煙領域を通過する検出対象に照射され、第2発光素子から照射された第2波長帯の光は第2光学素子を介して検煙領域を通過する検出対象に照射されるため、前述した煙感知器の効果と同様の効果が得られる。
【0037】
(煙の移動方向の検出の効果)
また、第1光学素子及び第2光学素子は、異なる空間周波数となる複数の領域が空間周波数の大きさに応じて段階的に配列され、速度検出部は、第1受光信号及び第2受光信号において変化する信号周期の増減に基づき第1移動速度ベクトル及び第2移動速ベクトルを検出し、第1移動速度ベクトル及び第2移動速度ベクトルに基づき検煙領域を通過する煙の移動方向を検出するため、従来の煙感知器では検出できなかった煙の移動方向を検出できる。
【0038】
(間欠発光と連続発光の効果)
また、発光部は、通常状態で間欠発光により光を照射し、受光部の受光により得られた第1受光信号及び又は第2受光信号が所定の煙の発現条件を充足したときに、間欠発光から所定時間の連続発光に切り替えるため、必要以上に発光部を駆動させることがなく、消費電力の低減を可能とする。
【0039】
(煙判定部による煙の判定条件の効果)
また、煙判定部は、煙の判定条件として、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた第1受光信号又は第2受光信号に2以上の山谷が存在する第1の条件と、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた第1受光信号又は第2受光信号が所定の零点レベルを超えている第2の条件と、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた第1受光信号又は第2受光信号が所定の周期以上で上下動を繰り返す第3の条件と、を充足した場合に煙と判定するため、煙と煙以外の異物との判定をより確実に行うことを可能とする。
【0040】
(煙種別識別部による煙の識別の効果)
また、煙種別識別部は、所定時間の第1受光信号の受光値を積分した第1受光値と、所定時間の第2受光信号の受光値を積分した第2受光値との比率に基づき、煙判定部により判定された煙が白煙か黒煙か非火災要因の検出対象かを識別するため、火災による煙として白煙及び黒煙を非火災要因の検出対象とは区別してより確実に識別することを可能とする。
【0041】
(煙確定部による白煙及び黒煙の確定の効果)
また、煙確定部は、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足している場合には、検出対象を白煙として確定し、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足している場合には、検出対象を黒煙として確定するため、火災による煙の一種である白煙及び黒煙の確定はより確度が高く行われることを可能とする。
【0042】
(煙確定部による異物の確定の効果)
また、煙確定部は、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合、及び煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、検出対象を火災による煙以外の異物として確定するため、火災による煙の一種である白煙及び黒煙と確定する条件が厳しく、より確度高く白煙及び黒煙を確定することを可能とする。
【0043】
(煙確定部による火災による煙の確定の効果)
また、煙確定部は、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合、及び煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、煙の種別を確定せずに検出対象を火災による煙として確定するため、火災による煙である確度は高いものの、その煙の種別の確度が低い場合には確度が低く誤った煙の種別による報知を避けつつ火災である旨を報知することを可能とする。
【0044】
(検煙領域に対する構造の効果)
また、検煙領域に対する遮光構造及び防虫構造を有さないため、煙流入の障害となる構造物を排したことにより煙の移動速度や移動方向を正しく検出することができる上、遮光構造や防虫構造を有する従来の煙感知器に比べて構造が簡単であり、コストの低減を可能とする。
【0045】
(物理フィルタであるレチクルとした光学素子の効果)
光学部は、所定方向に遮光部と開口部とを交互に配置して構成される格子状の物理フィルタであるレチクルであり、開口部が0.1~10mmの範囲の所定値となるピッチでスリットが配置された光学素子を備えるため、煙の移動速度1~40cm/sに適した光学素子を備え、より確実に火災を検出することを可能とする。
【0046】
(レンズアレイとした光学素子の効果)
また、光学部は、少なくとも検煙領域に面する一面にシリンドリカルレンズが所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置されたレンズアレイであり、シリンドリカルレンズが1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置された光学素子を備えるため、レチクルと同様に煙の移動速度1~40cm/sに適した光学素子を備え、より確実に火災を検出することを可能する。また、集光レンズと組み合わせることで、散乱光を効率良く集光して受光部に入射して損失を低減したり、発光部から照射された光を平行光に変換して検煙領域に効率良く照射したりすることを可能とし、受光部での受光量を高めることができる。
【0047】
(フレネルレンズとした光学素子の効果)
また、光学部は、検煙領域に面する一面をレンズ平面部とし、一面とは反対側の他面に円環状のプリズム部が光学中心部から外部に向けて所定の配置間隔で同心円状に複数配置されたフレネルレンズであり、プリズム部が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で同心円状に配置された光学素子を備えるため、レンズアレイと同様に煙の移動速度1~40cm/sに適した光学素子を備え、より確実に火災を検出することを可能とし、散乱光を効率良く集光して受光部に入射して損失を低減したり、発光部から照射された光を平行光に変換して検煙領域に効率良く照射したりすることを可能とし、受光部での受光量を高めることができる。
【0048】
(受光部と一体とした光学部の効果)
また、光学部は、受光部と一体に形成され、光学部が一体に形成された受光部は、検煙領域に面する一面に受光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置された受光素子アレイを備えるため、受光部が煙の移動速度1~40cm/sに適した光学素子を備えた光学部として機能を持ち、より確実に火災を検出することを可能とする。また、集光レンズと組み合わせることで、受光部が検煙領域からの散乱光を効率良く集光して受光部の受光素子アレイに入射して損失を低減して受光感度を高めることができると共に、受光素子アレイを小型化することを可能とする。
【0049】
(発光部と一体とした光学部の効果)
また、光学部は、発光部と一体に形成され、光学部が一体に形成された発光部は、検煙領域に面する一面に発光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置された発光素子アレイを備え、発光素子が1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置されるため、発光部が煙の移動速度1~40cm/sに適した光学素子を備えた光学部として機能を持ち、より確実に火災を検出することを可能とする。また、シリンドリカルレンズと組み合わせることで、発光素子アレイに配列された各発光素子からの光を一方向に照射し、検煙領域に発光素子間の空きに対応して分離した照射領域を形成することを可能とし、受光部で受光する散乱光に変調が掛かった状態とすることを可能する。また、凸レンズと組み合わせることで、発光素子アレイに配列された各発光素子から光を並列するレーザー光状に照射し、検煙領域に光強度が異なる照射領域を形成することを可能とし、受光部で受光する散乱光に変調が掛かった状態とすることを可能する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】第1実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図2】第1実施形態の煙感知器の内部構造を前面から見た断面で示した説明図である。
【
図3】第1実施形態の煙感知器の回路構成を示したブロック図である。
【
図4】第1実施形態の煙感知器の発光動作と受光動作を示したタイムチャートである。
【
図5】煙が検煙領域を通過した場合に得られる受光信号とその自己相関係数の経時変化を示したタイムチャートである。
【
図6】サイズの大きい異物が検煙領域を通過した場合に得られる受光信号とその自己相関係数の経時変化を示したタイムチャートである。
【
図7】サイズの小さい異物が検煙領域を通過した場合に得られる受光信号とその自己相関係数の経時変化を示したタイムチャートである。
【
図8】第1実施形態の煙感知器による煙の移動速度の検出を示した説明図である。
【
図9】綿灯芯を燻焼させた場合の白煙とケロシンを燃焼させた場合の黒煙による前方散乱光及び後方散乱光の受光値とその比率を示した説明図である。
【
図10】検出対象確定処理の全体を示したフローチャートである。
【
図11】検出対象確定処理の煙判定処理の詳細を示したフローチャートである。
【
図12】検出対象確定処理の煙種別識別及び煙確定処理の詳細を示したフローチャートである。
【
図13】煙の移動方向を検出可能とした第1実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図14】
図13に用いる方向検出用レチクルを取出して示した説明図である。
【
図15】
図13の第1受光素子で受光される散乱光の受光信号を示したタイムチャートである。
【
図16】第2実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図17】第2実施形態の煙感知器の回路構成を示したブロック図である。
【
図18】第2実施形態の煙感知器の発光動作と受光動作を示したタイムチャートである。
【
図19】煙の移動方向を検出可能とした第2実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図20】第3実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図21】第3実施形態の煙感知器の内部構造を前面から見た断面で示した説明図である。
【
図22】
図20のレンズアレイを取り出して第1受光素子と共に示した説明図である。
【
図23】
図20のレンズアレイにより検煙領域に形成される視野領域を示した説明図である。
【
図24】煙の移動方向を検出可能とした第3実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図25】
図24のレンズアレイを取り出して示した説明図である。
【
図26】
図24のレンズアレイにより検煙領域に形成される視野領域を示した説明図である。
【
図27】第4実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図28】
図27のレンズアレイを取り出して第1発光素子と共に示した説明図である。
【
図29】
図27のレンズアレイにより検煙領域に形成される照射領域を示した説明図である。
【
図30】煙の移動方向を検出可能とした第4実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図31】
図30のレンズアレイにより検煙領域に形成される照射領域を示した説明図である。
【
図32】第5実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図33】
図32のフレネルレンズを取り出して示した説明図である。
【
図34】
図32のフレネルレンズにより検煙領域に形成される視野領域を示した説明図である。
【
図35】煙の移動方向を検出可能とした第5実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図36】
図35のフレネルレンズを取り出して示した説明図である。
【
図37】
図35のフレネルレンズにより検煙領域に形成される視野領域を示した説明図である。
【
図38】第6実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図39】
図38のフレネルレンズにより検煙領域に形成される照射領域を示した説明図である。
【
図40】煙の移動方向を検出可能とした第6実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図41】
図40のフレネルレンズにより検煙領域に形成される照射領域を示した説明図である。
【
図42】第7実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図43】
図42の受光素子アレイと凸レンズを備えた第1受光光学系を取り出して示した説明図である。
【
図44】
図42の受光素子アレイを取り出して示した説明図である。
【
図45】
図42の受光素子アレイの受光素子と制御部との間の増幅回路部を示した説明図である。
【
図46】煙の移動方向を検出可能とした第7実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図47】
図46の受光素子アレイと凸レンズを備えた第1受光光学系を取り出して示した説明図である。
【
図48】
図46の受光素子アレイを取り出して示した説明図である。
【
図49】
図46の受光素子アレイの受光素子と制御部との間の増幅回路部を示した説明図である。
【
図50】第8実施形態の煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図51】
図50の発光素子アレイを取り出して示した説明図である。
【
図52】
図50の発光素子アレイの照射領域を示した説明図である。
【
図53】レンズカバーを半球レンズとした発光素子アレイを示した説明図である。
【
図54】煙の移動方向を検出可能とした第8実施形態による煙感知器の内部構造を平面から見た断面で示した説明図である。
【
図55】
図54の発光素子アレイを取り出して示した説明図である。
【
図56】
図54の発光素子アレイによる照射領域を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に、本発明に係る煙感知器の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態により、本発明が限定されるものではない。
【0052】
[実施形態の基本的な概念]
まず、実施形態の基本的概念について説明する。実施形態は、概略的に、散乱式検煙構造と空間フィルタを使用して流入(侵入)してきた検出対象を確定して火災による煙である場合に火災を検出する煙感知器に関するものである。
【0053】
実施形態の煙感知器は、発光部、受光部、光学部、煙判定部、煙種別識別部、速度検出部及び煙確定部を備えることで、発光部からの光を空間変調する一組の空間フィルタ機構を構成したものである。
【0054】
ここで、「空間フィルタ機構」は、空間変調を行うものであり、空間フィルタ機構による空間フィルタリングは、電気的な信号処理等も含むものであり、煙判定部、煙種別識別部、速度検出部及び煙確定部は、その電気的な信号処理を行ものであり、「信号処理部」に相当するものである。
【0055】
まず、「発光部」とは、火災による煙を含む検出対象が通過する検煙領域に所定の第1波長帯の光と当該第1波長帯とは異なる所定の第2波長帯の光とを含む光(2波長の光)を照射するものであり、発光部により光を照射する位置は所定の1箇所に限られたものではなく、所定の1箇所から光を照射するもの、及び所定の複数箇所から光を照射するものを含む概念である。
【0056】
ここで、「検煙領域」とは、煙感知器の外部から流入した検出対象が通過するための煙感知器内の領域であり、また検出対象に発光部からの光を照射したときに生ずる散乱光を受光部で受光して検出対象を確定する処理を行うための領域でもあり、検煙空間等を含む概念である。また、検煙領域に対して遮光構造及び防虫構造を持たない、煙感知器の外部に対して開放された検煙領域も含まれる。また、「検出対象」とは、発光部から照射された光により散乱光を生じさせるものであり、火災による煙以外にも非火災要因である調理などによる湯気や蒸気、掃除等による塵埃や虫等の異物、喫煙による煙草の煙等を含む概念である。また、「火災による煙」とは、白煙(白色煙)と黒煙(黒色煙)を含み、白煙は、例えば木材や布等が燻る(燻焼する)ことで発生する白っぽい煙であり、また黒煙は、例えば対象物に着火して火災を伴い燃えることで発生する黒っぽい煙である。
【0057】
また、発光部から照射される光を散乱角の異なる2波長の光とすることで、散乱角及び波長に起因した散乱特性の相違を作り出し、この散乱角及び波長の相違によって煙の種類による散乱光の光強度に顕著な差を持たせることでき、白煙(白色煙)と黒煙(黒色煙)等の煙の種類を含めて火災による煙を確定することが可能となる。
【0058】
また、発光部は、通常状態(検出対象が検煙領域に流入していない状態)では間欠発光として光を照射し、受光部の受光により得られた第1受光信号及び又は第2受光信号が所定の煙の発現条件を充足したときに、間欠発光から所定時間の連続発光に切り替えるようにしても良い。
【0059】
ここで、「間欠発光」とは、発光部を所定周期ごとに所定時間の間発光駆動することで発光部から照射される光を間欠的に発光することを意味する。また、「連続発光」とは、発光素子を駆動し続けることで発光部から照射される光を連続的に発光することを意味し、また実質的に煙の移動速度を測定できる周期で発光部をパルス点灯させる場合も連続発光に含むものとする。また、「煙の発現条件」は任意であるが、例えば間欠発光による前方散乱光を受光部が受信した際の第1受光信号の信号レベル(受光値)が所定値を超えた場合に条件を充足したとするものを含み、第2受光信号に基づく条件や第1受光信号及び第2受光信号の両方に基づく条件としたものであっても良い。
【0060】
続いて、「受光部」とは、発光部からの光に含まれる第1波長帯又は第2波長帯の何れか一方の光が検煙領域を通過する検出対象に照射されて生じる所定の第1散乱角の前方散乱光及び第1波長帯又は第2波長帯の何れか他方の光が検煙領域を通過する検出対象に照射されて生じる所定の第2散乱角の後方散乱光を受光し、受光した光を電気信号(受信信号)に変換するものであり、受光部により散乱光を受光する位置は所定の1箇所に限られたものではなく、所定の1箇所で散乱光を受光するもの、及び所定の複数箇所で散乱光を受光するものを含む概念である。ここで、「散乱角」とは、粒子(検出対象)に入射する光線と粒子からの散乱光線の成す角であり、入射光線が粒子を通過したところから散乱光線を臨む角度のことであり、即ち前方散乱では鋭角(0°~90°)に、後方散乱では鈍角(90°~180°)となる。
【0061】
また、受光部で受光される「前方散乱光」は、第1波長帯又は第2波長帯のどちらの光による散乱光であっても良いが、前方散乱光を生じさせる第1波長帯又は第2波長帯の何れか一方の光は、後方散乱光を生じさせる第1波長帯又は第2波長帯の何れか他方の光に対して長波長帯の光となるように設定されることが好ましく、また「前方散乱光」が第1波長帯の光による散乱光である場合には「後方散乱光」は第2波長帯の光による散乱光であり、「前方散乱光」が第2波長帯の光による散乱光である場合には「後方散乱光」は第1波長帯の光による散乱光となる。
【0062】
続いて、「光学部」とは、所定の空間周波数を持ち、光学部を通過する光に空間周波数による変調を掛けるものであり、光学部が備える光学素子の構造や種類は任意であるが、例えば所定方向に遮光部と開口部(スリット)とを交互に配置して構成される格子状の物理フィルタであるレチクルを含む。また、光学素子が持つ「所定の空間周波数」は1つの特定の空間周波数に留まらず、異なる空間周波数を持つ複数領域があるものを含む。
【0063】
また、光学素子を所定方向に遮光部と開口部(スリット)とを交互に配置して構成される格子状の物理フィルタであるレチクルとした場合に、レチクルの持つ空間周波数は、配列されたスリットの配置間隔(ピッチ)により決定され、配置間隔が小さいほど空間周波数は高くなり、配置間隔が大きいほど空間周波数が低くなる関係にある。
【0064】
ここで検出対象となる火災による煙の移動速度は1~40cm/s程度の非常遅い速度であり、煙感知器に構成される光学系の倍率を1とした場合には、スリットのピッチは0.1~10mmの範囲の所定値とすることが望ましい。尚、ピッチは0.1~10mmの範囲の所定値とすることが望ましいことの詳細については後述する[実施形態の具体的内容]にて説明する。
【0065】
また、本実施形態の「光学部」は、発光部から照射される光が前方散乱光又は後方散乱光として受光部で受光されるまでの間に光学部の光学素子を通過するように検煙領域に対して所定の位置に配置される。ここで、「発光部から照射される光が前方散乱光又は後方散乱光として受光部で受光されるまでの間に光学素子を通過する」とは、発光部から照射される光が光学素子を介して検出対象に照射されるもの、発光部から照射される光が検出対象に照射されて前方散乱光又は後方散乱光となった後に光学素子を介して受光部で受光されるものの双方を含むものであり、発光部から照射されてから受光部で受光されるまでの光路の何れかで光学素子を通過する(介する)ことを意味する。
【0066】
続いて、「煙判定部」とは、受光部により受光された前方散乱光による第1受光信号及び又は後方散乱光による第2受光信号に基づき検出対象が煙であるかを判定するものである。
【0067】
そして、火災による煙により生じ、光学素子を介して受光部で受光される前方散乱光又は後方散乱光の第1受信信号又は第2受光信号は、他の検出対象にはない固有の特徴を有することとなり、煙判定部は、煙の判定条件として、例えば検出対象の判定を行うための所定時間に得られた受光信号に2以上の山谷が存在する第1の条件と、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた受光信号が所定の零点レベルを超えている第2の条件と、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた受光信号が所定の周期以上で上下動を繰り返す第3の条件と、を充足した場合に検出対象が煙と判定しても良い。尚、「零点レベル」とは、通常状態で受光された受光信号の平均(所定期間の移動平均)となるレベルのことである。
【0068】
また、第3の条件は、受光信号から求められる自己相関係数により充足しているかを判断しても良い。自己相関係数を使う理由としては、光学素子を介して受光部で受光される火災による煙の散乱光はパルス状の受光信号となることから信号周期を求めることができるが、明確な周期(周波数)を持つパルス状の受光信号とならない場合があるためである。このように明確な周期(周波数)を持つパルス状の受光信号が得られない場合には、受光信号から自己相関係数を求めると、自己相関係数では煙の移動速度に応じた所定の周期で緩やかな上下動を繰り返しており、自己相関係数の周期から受光信号の周期を求めることができる。
【0069】
また、光学素子のピッチよりも大きいサイズの異物による散乱光の受光信号から求められる自己相関係数は基本的に周期性を持たず、光学素子のピッチよりも小さいサイズの異物による散乱光の受光信号から求められる自己相関係数は、火災による煙の受光信号から求められる自己相関係数の周期よりも短い周期で+1(最大値)と-1(最小値)との間を激しく往復する上下動となることから煙の判定をこれらの検出対象とは明確に分けて判定することができる。
【0070】
また、第1受光信号又は第2受光信号の何れかしか得られない煙の移動方向も存在することから、その場合には第1受光信号又は第2受光信号の何れかに基づき検出対象の判定を行っても良く、当然第1受光信号及び第2受光信号の両方に基づき検出対象の判定を行うことを妨げない。
【0071】
続いて、「煙種別識別部」とは、煙判定部により煙と判定された場合に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき煙の種別を識別するものである。ここで、「煙の種別の識別」とは、火災による煙である白煙や黒煙を識別するものに限らず、非火災要因となる調理やバスルームからの湯気等の検出対象も含めて識別するものを含む。
【0072】
また、その識別方法、手段は任意であるが、例えば所定時間の第1受光信号の受光値を積分した第1受光値と、所定時間の第2受光信号の受光値を積分した第2受光値との比率(=第1受光値/第2受光値)に基づき識別するものがある。
【0073】
続いて、「速度検出部」とは、煙判定部により煙と判定された場合に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき煙の移動速度を検出するものである。ここで、その検出方法、手段は任意であるが、例えば第1受光信号に基づき所定方向となる第1移動速度成分を検出すると共に第2受光信号に基づき第1移動速度成分とは異なる方向となる第2移動速度成分を検出し、第1移動速度成分及び第2移動速度成分に基づき検煙領域を通過する煙の移動速度を検出するものがある。ここで、「移動速度成分」とは、移動速度(大きさ)を表すものである。尚、受光信号に基づく煙の移動速度の検出の詳細については後述する[実施形態の具体的内容]にて説明する。
【0074】
続いて、「煙確定部」とは、煙判定部による判定結果、煙種別識別部による識別結果及び速度検出部による検出結果に基づき、検出対象を確定させるものである。ここで、火災による煙であった場合に報知可能となるのであれば、その確定される検出対象の種類は任意であり、例えば検出対象が火災による煙であった場合には、「火災による煙」としての確定や、更にその種別を特定した「白煙」や「黒煙」としての確定を含み、検出対象が火災による煙でなかった場合には、「火災による煙以外の異物」としての確定や更にその種別を特定する、例えば「湯気」等としての確定を含む。
【0075】
また、検出対象を確定するための条件は任意であるが、例えば煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足している場合に検出対象を白煙として確定し、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足している場合には検出対象を黒煙として確定するものを含む。このような条件にすることで、火災による煙の一種である「白煙」及び「黒煙」を確定するための確度を高めることを可能とする。
【0076】
また、煙確定部は、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合、及び煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、検出対象を火災による「煙以外の異物」として確定しても良い。このような条件にすることで、火災による煙の一種である「白煙」及び「黒煙」を確定するための確度を更に高めることを可能とする。ここで、煙以外の異物と確定される場合には、虫、ごみ、人によるいたずら、結露、ホコリの付着等があり、これらの種別を特定した上での「煙以外の異物」と確定するものも含む。
【0077】
また、煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が白煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合、及び煙判定部により検出対象が煙と判定され、煙種別識別部により煙が黒煙と識別され、速度検出部により検出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には、煙の種別を確定せずに検出対象を火災による煙として確定しても良い。このような条件にすることで、煙判定部及び煙種別識別部により「火災による煙」である確度が高いものの、煙の移動速度による条件を充足していなく煙の種別の確度が高くない場合に、誤った煙の種別の報知を避けつつも火災による煙として報知を行うことを可能とする。
【0078】
また、「判定」、「識別」、「検出」及び「確定」としているのは、各機能部(煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部)毎に区別し易くしたためであり、それぞれの用語が他の用語を包括し得るものであり、その他にも「検知」、「判別」、「判断」及び「算出」等、用語の意味合いから代替し得る用語は含み得るものである。
【0079】
また、実施形態の煙感知器の光学系は、発光部に1つの発光素子を備え、受光部に2つの受光素子を備えた光学系と、発光部に2つの発光素子を備え、受光部に1つ受光素子を備えた光学系に分けられる。ここで、「発光素子」及び「受光素子」の構造・種類は任意であるが、例えば「発光素子」として、第1波長帯の光や第2波長帯の光を照射する発光ダイオード(LED)等が用いたものや、「受光素子」として、第1波長帯の光や第2波長帯に受光感度を持つフォトダイオード(PD)等が用いたものを含む。
【0080】
発光部に1つの発光素子を備え、受光部に2つの受光素子を備えた光学系を持つ煙感知器に対応した第1実施形態の煙感知器では、受光部は、検煙領域を通過する検出対象の方向に対応した2次元空間において受光光軸が所定の角度となるように検煙領域に対して所定の位置に配置された第1受光素子と第2受光素子とを備え、光学部は、第1受光素子と第2受光素子とが配置された所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、発光部は、第1受光素子及び第2受光素子で受光する散乱光を生じさせる光を検煙領域に照射する発光素子を備え、第1受光素子は、第1波長帯の光に受光感度を持ち、第1光学素子を介して第1波長帯の光により生じた前方散乱光又は後方散乱光の一方を受光し、第2受光素子は、第2波長帯の光に受光感度を持ち、第2光学素子を介して第2波長帯の光により生じた前方散乱光又は後方散乱光の他方を受光する。即ち、第1実施形態では、発光部は1箇所から光を検煙領域に照射するものであり、受光部は2箇所で散乱光を受光するものである。
【0081】
ここで、「検煙領域を通過する検出対象の移動方向に対応した2次元空間」とは、例えば直交するX-Y-Z3次元空間とした場合に、その内の2次元で構成される空間(例えばX-Y2次元空間等)のことである。そして、当該2次元空間に対応して配置することは、煙感知器は天井面等の設置面に対して設けられ、設置面に沿って移動する火災により発生する煙を検知する煙感知器に流入する煙は基本的に設置面に対応した2次元方向でしか移動しなく、煙の移動方向は設置面に対応したX-Y2次元空間について行えば十分に検出可能であるためである。また、「受光光軸が所定の角度となるように配置された」とは、その受光光軸が異なる方向となれば任意の角度で第1受光素子と第2受光素子とは配置されてよく、例えば互いの受光光軸が直交する90°で配置されたものを含む。
【0082】
また、発光部に2つの発光素子を備え、受光部に1つ受光素子を備えた光学系を持つ煙感知器に対応した第2実施形態の煙感知器では、発光部は、検煙領域を通過する検出対象の方向に対応した2次元空間において発光光軸が所定の角度となるように検煙領域に対して所定の位置に配置された第1波長帯の光を照射する第1発光素子と第2波長帯の光を照射する第2発光素子とを備え、光学部は、第1発光素子と第2発光素子とが配置された所定の角度と同じ角度で配置された第1光学素子と第2光学素子とを備え、受光部は、第1発光素子及び第2発光素子から照射された光により生じた散乱光を受光する受光素子を備え、第1発光素子から照射された第1波長帯の光は第1光学素子を介して検煙領域を通過する検出対象に照射され、第2発光素子から照射された第2波長帯の光は第2光学素子を介して検煙領域を通過する検出対象に照射される。即ち、第2実施形態では、発光部は2箇所から光を検煙領域に照射するものであり、受光部は1箇所で散乱光を受光するものである。
【0083】
また、「第1光学素子」及び「第2光学素子」は、異なる空間周波数となる複数の領域が空間周波数の大きさに応じて段階的に配列された構造であっても良い。ここで、「異なる空間周波数となる領域」は2つの領域あれば十分であるが2以上の領域であることを妨げず、2以上の領域である場合には空間周波数の大きさに応じ段階的に配列される。
【0084】
そして、異なる空間周波数となる複数の領域を持つ光学素子を用いることで、信号処理部は、第1受光信号及び第2受光信号において変化する信号周期の増減に基づき第1移動速度ベクトル及び第2移動速度ベクトルを検出することができ、検煙領域を通過する煙の移動方向を検出することができるようになる。ここで、「移動速度ベクトル」とは、煙の移動する向きとその向きの移動速度(大きさ)を表すものである。尚、受光信号に基づく煙の移動方向の検出の詳細については後述する[実施形態の具体的内容]にて説明する。
【0085】
また、煙感知器を含む端末機器を受信機に接続して火災を報知する火災報知システムでは、煙感知器は、更に少なくとも煙確定部による確定結果を含む処理結果を受信機へ送信する伝送部を備え、受信機は、受信した処理結果に基づき報知を行う。
【0086】
ここで、「受信機」とは、火災報知システムを構築する施設や設備の電気室等に設置され、監視領域に設置された煙感知器等の端末機器を接続することで監視領域の火災等の異常を監視するものである。また、「監視領域」とは、煙感知器等の端末機器により監視の対象となる領域であり、一定の広がりをもった屋外或いは屋内の空間であり、例えば、建物の部屋、廊下、階段等の空間を含む概念である。また、「煙確定部による確定結果を含む処理結果」とは、煙確定部により確定された「火災による煙」、「白煙」及び「黒煙」等の確定結果だけではなく、例えば煙判定部による判定結果、煙種別識別部による識別結果、速度検出部による検出結果や判定を行った日時(タイムスタンプ)、「煙以外の異物」と確定した場合の処理結果等の情報を適宜含んだものであり、これらの処理結果に基づき警報や注意報を発しても良い。
【0087】
また、「光学素子」として、前述したレチクル以外に、更にレンズアレイ、フレネルレンズ、受光部と一体した光学部により実現される受光素子アレイ、発光部と一体した光学部により実現される発光素子アレイ等を含む。
【0088】
「レンズアレイ」とは、少なくとも検煙領域に面する一面にシリンドリカルレンズが所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置されたものであり、シリンドリカルレンズは1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置されるのが望ましい。ここで、「空き」とは隣り合うシリンドリカルレンズ間のシリンドリカルレンズが存在しない領域のことであり、「配置間隔」とは、隣り合うシリンドリカルレンズの中心間距離のことである。また、「シリンドリカルレンズ」とは、「円柱型レンズ」、「蒲鉾型レンズ」、「円筒型レンズ」、「シリンダー型レンズ」等の概念を含む。また、光学素子を「レンズアレイ」とした場合には、レンズアレイの検煙領域に面する側とは反対側にレンズアレイと別体の集光レンズが配置されるか、又はレンズアレイの検煙領域に面する側とは反対側の面に集光レンズがレンズアレイと一体に形成されるようにしても良い。
【0089】
「フレネルレンズ」とは、検煙領域に面する一面をレンズ平面部とし、一面とは反対側の他面に円環状のプリズム部が光学中心部から外部に向けて所定の配置間隔で同心円状に複数配置されたものであり、プリズム部は1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置されるのが望ましい。ここで、「配置間隔」は前述した光学素子を「レンズアレイ」とした場合のシリンドリカルレンズの「配置間隔」と同義である。
【0090】
光学部が一体に形成された受光部が備える「受光素子アレイ」とは、検煙領域に面する一面に受光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置されたものであり、受光素子は1.0~10mmの範囲に対応した所定値となる配置間隔で配置されるのが望ましい。ここで、「空き」、「配置間隔」は前述した光学素子を「レンズアレイ」とした場合のシリンドリカルレンズの「空き」、「配置間隔」と同義である。また、受光素子アレイと検煙領域との間に集光レンズが配置されるか、又は受光素子アレイの一面側に集光レンズが受光素子アレイと一体に形成されるようにしても良い。また、「1.0~10mmの範囲に対応した所定値」とは、必ずしも1.0~10mmの範囲に限られたものではなく、例えば集光レンズが設けられた場合には集光レンズの集光倍率で縮小した配置間隔で受光素子アレイは配置される必要があり、集光レンズの集光倍率を1/10とするのであれば、所定値は1.0~1mmの範囲の所定値となる。
【0091】
光学部が一体に形成された発光部が備える「発光素子アレイ」とは、検煙領域に面する一面に発光素子が所定方向に所定幅の空きを空けて複数配置されたものであり、光学素子は1.0~10mmの範囲の所定値となる配置間隔で配置されるのが望ましい。ここで、「空き」、「配置間隔」は前述した光学素子を「レンズアレイ」とした場合のシリンドリカルレンズの「空き」、「配置間隔」と同義である。また、発光素子アレイと検煙領域との間にシリンドリカルレンズ又は凸レンズが配置されるか、又は発光素子アレイの一面側にシリンドリカルレンズ又は凸レンズが発光素子アレイと一体に形成されるようにしても良い。
【0092】
以下、具体的な実施形態を説明する。以下に示す具体的な実施形態では、発光部に1つの発光素子を備え、受光部に2つの受光素子を備えた光学系を持つ煙感知器に対応した第1実施形態及び発光部に2つの発光素子を備え、受光部に1つ受光素子を備えた光学系を持つ煙感知器に対応した第2実施形態の煙感知器の光学素子を「レチクル」とした場合で第1実施形態及び第2実施形態を説明し、第1実施形態の光学素子を「レンズアレイ」とした場合を「第3実施形態」、「フレネルレンズ」とした場合を「第5実施形態」、「受光素子アレイ」とした場合を「第7実施形態」とし、第2実施形態の光学素子を「レンズアレイ」とした場合を「第4実施形態」、「フレネルレンズ」とした場合を「第6実施形態」、「発光素子アレイ」とした場合を「第8実施形態」とし、第1乃至6実施形態については、「発光部」が「発光素子」を備え、「受光部」が「受光素子」を備え、第1、3、5、7実施形態における第1受光素子と第2受光素子との受光光軸、及び第2、4、6、8実施形態における第1発光素子と第2発光素子との発光光軸が直交する場合について説明する。
【0093】
[実施形態の具体的内容]
煙検知装置の実施形態について、より詳細に説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a.受光光学系にレチクルを設けた第1実施形態の煙感知器
a1.感知器構造
a2.煙感知器の回路構成
a3.発光制御と受光読込制御
b.煙判定部
c.速度検出部
d.煙種別識別部
e.煙確定部
f.検出対象確定処理
f1.検出対象確定処理の全容
f2.煙判定処理
f3.煙種別識別処理と煙確定処理
g.煙の移動方向の検出
h.発光光学系にレチクルを設けた第2実施形態の煙感知器
h1.感知器構造
h2.煙感知器の回路構成
h3.発光制御と受光読込制御
h4.煙判定部、速度検出部、煙種別識別部及び煙確定部
h5.煙の移動方向の検出
i.受光光学系にレンズアレイを設けた第3実施形態の煙感知器
j.煙の移動方向を検出可能とした第3実施形態の煙感知器
k.発光光学系にレンズアレイを設けた第4実施形態の煙感知器
l.煙の移動方向を検出可能とした第4実施形態の煙感知器
m.受光光学系にフレネルレンズを設けた第5実施形態の煙感知器
n.煙の移動方向を検出可能とした第5実施形態の煙感知器
o.発光光学系にフレネルレンズを設けた第6実施形態の煙感知器
p.煙の移動方向を検出可能とした第6実施形態の煙感知器
q.受光光学系に受光素子アレイを設けた第7実施形態の煙感知器
r.煙の移動方向を検出可能とした第7実施形態の煙感知器
s.発光光学系に発光素子アレイを設けた第8実施形態の煙感知器
t.煙の移動方向を検出可能とした第8実施形態の煙感知器
u.本発明の変形例
【0094】
[a.受光光学系にレチクルを設けた第1実施形態の煙感知器]
受光光学系にレチクルを設けて空間フィルタ機構を構成した第1実施形態の煙感知器について説明する。
【0095】
(a1.感知器構造)
まず、感知器構造について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図1、及び煙感知器の内部構造を前面から見た断面で示した
図2を参照する。
【0096】
ここで、
図1及び
図2の説明では、X-Y-Z方向が互いに直交する方向であり、具体的には、天井面等の設置面に設置される側の煙感知器の面を平面(上面)とし、X方向を左右方向とし、Y方向を前後方向とし、Z方向を上下方向とする。また、X方向における+X側を右側、-X側を左側とし、Y方向における+Y側を後側、-Y側を前側とし、Z方向における+Z側を上側、-Z側を下側とする。この点は
図8、
図13、
図16及び
図19、
図20乃至
図44、
図46乃至
図48、
図50乃至
図56のX-Y-Z方向においても同様となる。
【0097】
図1及び
図2に示すように、煙感知器10は、カップ状の筐体12の下側に検煙領域16として内部空間が形成されている。検煙領域16の外周面には複数の煙流入口14が開口されている。煙流入口14は筐体12の下部側面に、例えばリブにより8分割された開口である。
【0098】
煙が流入抵抗を受けることなく検煙領域16に流入して通過し、また煙の流れる方向を可能な限り正確に把握するために、煙流入口14の間を仕切るリブは可能限り小さな幅として煙流入口14を大きくし、煙流入口14の内側には従来の散乱光式の煙感知器に設けられている遮光構造(ラビリンス構造)や防虫構造(防虫網)を設けない構造としている。尚、遮光構造(ラビリンス構造)や防虫構造(防虫網)が設けられることを妨げるものではない。また、他の実施例として、筐体12の検煙領域16の外周面からリブをなくして外周面の全面を開放した形状としても良く、この形状の場合には更に煙の流入抵抗がない構造を提供することができる。
【0099】
図2に示すように、検煙領域16の上部には回路収納部18が形成され、感知器回路22が収納されている。回路収納部18の外部上面には一対の端子金具20が配置され、設置面に配置される公知の感知器ベースの嵌合金具に端子金具20を嵌合することで、感知器ベースに電気的且つ機械的に煙感知器10を着脱自在に取付可能としている。
【0100】
図1に示すように、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するために、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられている。第1受光光学系26と第2受光光学系34は、受光光軸が円筒形となる検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間にて直交するように配置されている。尚、ここでの「直交」とは、厳密に直交しているものに限らず、所定の誤差を持つ略直交のものを含む。
【0101】
発光素子24は、第1中心波長λ1を持つ所定の第1波長帯の光と第2中心波長λ2を持つ所定の第2波長帯を含む光を同時に照射する。ここで、発光素子24から照射する第1波長帯の第1中心波長λ1は600nm以上、例えば700nmとし、第2波長帯の第2中心波長λ2は500nm以下、例えば450nmとして、波長に起因した散乱特性の相違を作り出し、散乱光の光強度に顕著な差を持たせることを可能としている。
【0102】
本実施形態にあっては、発光素子24として白色LED(白色発光ダイオード)を使用している。白色LEDは、青色LEDと蛍光体を組み合わせて、青色LEDの光を蛍光体に通して白色の発光としていることから、白色LEDから照射される光には、第1中心波長λ1を700nmとした第1波長帯の光と、第2中心波長λ2を450nmとした第2波長帯の光が含まれており、検煙領域16内に、白色LEDを用いることで第1波長帯と第2波長帯の光を同時に照射することができる。
【0103】
また、発光素子24として、白色LEDではなく2色LED(2色発光ダイオード)を使用することもできる。2色LEDは、第1中心波長λ1を700nmとした第1波長帯の光を発する第1発光チップと、第2中心波長λ2を450nmとした第2波長帯の光を発する第2発光チップを備え、両者を同時に駆動させることで第1波長帯と第2波長帯の光を同時に照射することができる。
【0104】
第1受光光学系26は、第1レチクル28、レンズ30及び第1受光素子32で構成される。尚、第1レチクル28は、
図2に示すように、検煙領域16で上下方向に起立して配置されるものであるが、
図1では分かり易くするために、実際の配置状態ではなく
図2と同じ向きで示している。また、
図2では第2受光光学系34の前側に発光素子24が存在しているが、発光素子24の図示は省略している。
【0105】
第1レチクル28は、発光素子24から光を照射して検煙領域16を移動する(通過する)検出対象により生じた散乱光に所定の空間周波数で変調を掛けてパルス光として散乱光を通過させるものであり、その構造や種類は任意であるが、例えば長方形の金属薄板を用いた遮光版に、上下方向に開口した複数のスリット(開口)を所定のピッチ(配置間隔)で配列した構造であり、空間周波数はスリットのピッチで決まるものである。
【0106】
ここで、レチクルのピッチをP(mm)、レチクルを介して受光素子で受光される散乱光による受光信号の周波数をf(Hz)、レンズによる光学系の倍率をm、検出される煙の移動速度V(cm/s)とすると、これらは、
V=Pf/m
の関係にあり、検出対象とする煙の移動速度Vを1~40cm/s、光学系の倍率mを1とすると、レチクルのピッチPと散乱光による受光信号の周波数fの関係は、
P= 0.1mmの場合、f=100~4000(Hz)
P= 1.0mmの場合、f=10~400(Hz)
P=10.0mmの場合、f=1~40(Hz)
となる。
【0107】
また、ピッチPが小さい程、細かな煙の揺らぎを捉えて移動速度の遅い煙の移動を検出できるが、移動速度の早い煙に対しては検出精度が落ちる。逆にピッチPが大きい程、移動速度の速い煙に対しては精度よく検出できるが、遅い煙に対しての検出精度は落ちる。そのため、検出対象とする煙の速度により適切なレチクルを用いる必要がある。
【0108】
そして、実施形態では検出したい煙の移動速度は1~40cm/sと遅い速度であるが、ピッチPを0.1mmとした場合には、煙の移動速度が想定している移動速度(1~40cm/s)内の上限寄りの速度の際に得られる受光信号の周波数fが大きすぎる(周期が短じかすぎる)ことから、ピッチPを1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、例えば第1レチクル28は、ピッチPを2.0mm、スリット数を10個としている。これにより、第1レチクル28の長手方向(左右方向)の長さは3cm程度となり、検煙領域16に対して配置可能なサイズとなっている。
【0109】
第1受光素子32は、第1波長帯に受光感度をもつフォトダイオ―ド(PD)が使用される。また、第1受光素子32としては、可視光波長帯域に感度をもつ広帯域フォトダイオードに、第1波長帯の波長帯域のみを受光するフィルタ層をPDモールディング(透明カバー部材)に設けても良く、広帯域フォトダイオードの前方に、第1波長帯の波長帯域を透過するフィルタを配置しても良い。
【0110】
また、第1受光素子32は、検煙点Pで交差する発光素子24の発光光軸240と第1受光素子32の受光光軸320による第1散乱角θ1が20°~70°の範囲、例えばθ1=45°となるように配置されている。このため、第1受光素子32は検出対象により生じる前方散乱光を受光して第1受光信号を出力する。
【0111】
また、火災の煙による散乱光の受光について説明すると、まず火災により発生した煙は、通常均一な状態ではなく、ある程度の集合体(煙塊)が存在するムラがある状態で煙感知器10の検煙領域16に流入してくる。そして、煙塊に発光素子24からの光が照射されることで生じた散乱光が第1レチクル28に配列した複数のスリットを順次通過することで間欠的に光量が増減することにより、空間周波数で変調を掛けたパルス光となり、パルス光となった散乱光がレンズ30で集光されて第1受光素子32に入射する。そのため、第1受光素子32で受光された散乱光による受光信号は、煙塊の移動速度に応じた周期(周波数)で信号レベルが増減するように経時的に変化し、この経時的に変化するパルス状の受光信号は、第1受光光学系26により煙に含まれる煙塊が検煙領域16を通過するごとに得られることとなる。
【0112】
第2受光光学系34は、第2レチクル36、レンズ38及び第2受光素子40で構成され、第2レチクル36は第1レチクル28、レンズ30はレンズ38と同じものとしており、検煙領域16における配置場所及び各構成物の配置方向が相違している。また、第2受光光学系34による散乱光の受光についても、第1受光光学系26による散乱光の受光と同様になる。
【0113】
第2受光素子40は、第2波長帯に受光感度をもつフォトダイオ―ド(PD)が使用される。また、第2受光素子40としては、可視光波長帯域に感度をもつ広帯域フォトダイオードに第2波長帯の波長帯域のみを受光するフィルタ層をPDモールディング(透明カバー部材)に設けても良いし、広帯域フォトダイオードの前方に、第2波長帯の波長帯域を透過するフィルタを配置しても良い。
【0114】
また、第2発光素子40は、検煙点Pで交差する発光素子24の発光光軸240と第2受光素子40の受光光軸400による第2散乱角θ2が110°~160°の範囲、例えばθ2=135°となるように配置されている。このため第2受光素子40は検出対象により生じる後方散乱光を受光して第2受光信号を出力する。
【0115】
ここで、検煙点Pで交差する第1受光素子32の受光光軸320と第2受光素子40の受光光軸400は直交するように第1受光素子32及び第2発光素子40が配置されていることから、発光素子24に対する第1受光素子32の第1散乱角θ1が決まると、発光素子24に対する第2受光素子の第2散乱角θ2が
θ2=90°+θ1
として一義的に決まる関係にある。
【0116】
(a2.煙感知器の回路構成)
次に、煙感知器の回路構成について説明する。当該説明にあっては、
図1の煙感知器の回路構成を示したブロック図である
図3を参照する。
【0117】
図3に示すように、煙感知器10は、電源部44、制御部46、伝送部48、発光駆動部50、増幅回路部52,54、検煙領域16に設けられた発光素子24、第1受光素子32、第2受光素子40で構成される。尚、電源部44、制御部46、伝送部48、発光駆動部50、増幅回路部52、54については、回路収納部18に収納された感知器回路22が備えている。
【0118】
制御部46は、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路であり、CPUによるプログラムの実行により信号処理部として煙判定部56、速度検出部58、煙種別識別部60及び煙確定部62の機能を実現する。伝送部48はS端子とSC端子に接続された伝送線42を介して受信機との間で信号を送受信する。
【0119】
電源部44は伝送線42を介して供給された電源電圧を所定の安定化電圧に変換して出力する。発光駆動部50は制御部46からの指示により発光素子24を発光駆動させる。増幅回路部52は第1受光素子32からの第1受光信号を増幅して制御部46に出力する。増幅回路部54は第2受光素子40からの第2受光信号を増幅して制御部46に出力する。
【0120】
(a3.発光制御と受光読込制御)
次に、制御部による発光制御と受光信号の読込制御について説明する。当該説明にあっては、発光素子の発光動作と受光素子の受光動作を示したタイムチャートである
図4を参照する。尚、
図4(A)は発光素子24の発光動作を示し、
図4(B)は第1受光素子32の受光動作を示し、
図4(C)は第2受光素子40の受光動作を示している。
【0121】
制御部46は、検煙領域16に煙の流入や異物の侵入等がない通常状態にあっては、
図4(A)に示すように、例えば1~数秒となる所定の周期T0でパルス発光させる間欠発光で発光素子24を発光駆動させ、消費電力を抑えている。そして、検煙領域16に検出対象として、例えば火災による煙が流入した場合には、間欠発光による発光素子24からの照射光が流入した煙に照射されて生じた散乱光を第1受光素子32及び第2受光素子40で受光することで第1受光素子32及び第2受光素子40から第1受光信号及び第2受光信号が出力されることになり、制御部46は、火災による煙の発現の検出条件として、例えば第1受光素子32の第1受光信号を監視し、第1受光素子32の第1受光信号が所定の閾値レベルTH以上となった場合に、発光素子24を所定時間T1(連続発光時間)の間で連続発光させ、この連続発光時間T1の間に第1受光素子32及び第2受光素子40から出力され、増幅回路部52、54により増幅された第1受光信号及び第2受光信号を順次A/D変換して読み込んでメモリに記憶する。尚、火災による煙の発現の検出条件は、これに限らず任意の条件としてよく、例えば第1受光素子32の第1受光信号ではなく、第2受光素子40の第2受光信号に基づく条件や第1受光素子32及び第2受光素子40の双方の受光信号に基づく条件のものであってもよい。
【0122】
ここで、連続発光時間T1は、検煙領域16のサイズや想定する煙の移動速度等を考慮して適宜設定すればよいが、例えば検煙領域16の直径が50mm程度とし、煙の移動速度が1~40cm/sとすると、煙が検煙領域16を通過する時間は5~0.125秒であることから、5秒程度の時間に設定する。
【0123】
また、通常状態での間欠発光により火災による煙の発現の検出条件を満たした場合の発光素子24の発光駆動は「連続発光」として煙の移動速度を測定する。それは、実質的に煙の移動速度を測定できる周波数でのパルス発光を含むものとして消費電力を抑制してもよい。ここで、パルス発光の周波数は、例えば検煙領域16の直径を50mmとし、第1レチクル28及び第2レチクル36のピッチが1~10mmの範囲の所定のピッチとすると、1~400Hzの受光信号を得ることができる800Hz程度となる。尚、実施形態での「連続発光」は、実質的に煙の移動速度を測定できる周波数でのパルス発光を含むものとして扱う。
【0124】
[b.煙判定部]
次に、制御部により実現される機能である煙判定部について説明する。当該説明にあっては、煙(煙塊)が検煙領域を通過した場合に得られる受光信号とその自己相関係数の経時変化を示したタイムチャートである
図5、レチクルのピッチよりもサイズの大きい異物(例えば虫)が検煙領域を通過した場合に得られる受光信号とその自己相関係数の経時変化を示したタイムチャートである
図6、及びレチクルのピッチよりもサイズの小さい異物(例えば小さなごみ)が検煙領域を通過した場合に得られる受光信号とその自己相関係数の経時変化を示したタイムチャートである
図7を参照する。尚、当該説明は、第1受光素子32から出力された第1受光信号の場合で説明するが、第2受光素子40から出力された第2受光信号の場合も基本的に同様となる。
【0125】
煙判定部56は、第1受光素子32から出力された第1受光信号又は第2受光素子40から出力された第2受光信号の少なくとも何れかが所定の煙判定条件を充足した場合に煙と判定するものである。これは、煙の流入方向によって第1受光信号又は第2受光信号の何れの受光信号でしか交流成分が含まれずに、両方の受光信号について第1乃至第3全ての条件を満たす受光信号が得られない場合があるためである。
【0126】
図5(A)は、火災による煙(煙塊)が検煙領域16を通過した際に、第1受光素子32で第1レチクル28を介して受光される火災の煙による第1散乱角θ1となる第1波長帯の前方散乱光の第1受光信号の経時変化を示している。煙による前方散乱光が第1レチクル28に配列した複数のスリットを順次通過することで間欠的に光量が増減することにより、第1レチクル28の空間周波数で変調を掛けたパルス光となり、パルス光となった前方散乱光がレンズ30で集光されて第1受光素子32に入射することになるため、第1受光素子32で受光された煙による前方散乱光の第1受光信号は、
図5(A)に示すように煙の移動速度に応じた周期(周波数)で信号レベルが緩やかに増減するパルス状の受光信号となる。この経時的に変化するパルス状の受光信号は、煙中に散開した煙塊が検煙領域16を通過するごとに得られる。
【0127】
また、パルス状の受信信号の周期T(周波数)を求めるための自己相関及びその遅れ時間(ラグ)の検出には、コレログラムの手法を用いる。
図5(B)は、
図5(A)の受光信号について自己相関係数を求めたコレログラムであり、受光信号のパターン内に表れる自己相関係数の変化を遅れ時間ごとに示したグラフとなる。
図5(B)には遅れ時間(ラグ)に応じて所定周期で自己相関係数の正のピーク及び負のピークが現れており、得られたパルス状の受信信号についてピークが不明確な繰り返し信号であっても、自己相関係数から受光信号の周期Tを求めることができる。例えば
図5(B)では、負のピークについては周期T1,T3、T5が検出され、正のピークについては周期T2,T4,T6が検出されることから、これらの周期T1~T6の平均を求めて受光信号の周期Tとする。
【0128】
尚、レチクルを介して受光される散乱光の受光信号は、煙魂のサイズがレチクルのピッチよりも大きいときには明確なパルス状の受光信号にならない場合があり、その場合には
図5(B)のように受光信号から自己相関係数を求めて自己相関の強い部分を検出し、その部分から受光信号の周期Tを求めることとなる。また、受光信号のピークが明確であり、受光信号から周期Tを求められるのであれば、自己相関係数を求めなくともよい。
【0129】
そして、このような火災による煙の散乱光の受光信号は、次のような固有の特徴を有する。第1の特徴として、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた受光信号に2以上の山60及び谷62が存在する。第2の特徴として、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた受光信号が所定の零点レベル64を超えている。これは、煙の煙塊が存在しない部分であっても煙による散乱光が生じるためである。第3の特徴として、検出対象の判定を行うための所定時間に得られた受光信号又は受光信号から求めた自己相関係数が煙の移動速度に応じた所定の周期で緩やかに上下動を繰り返す。ここで判定を行うための所定時間は任意の時間とすれば良いが、例えば前述した発光素子32が連続発光している連続発光時間T1がその時間に該当する。
【0130】
これに対して、検煙領域16を虫等の異物が通過した場合に得られる散乱光の受光信号は火災による煙の散乱光の受光信号とは異なるものとなる。
【0131】
検煙領域16を通過した異物がレチクルのピッチより大きい場合には、
図6(A)に示すような受信信号が得られる。この受光信号は、異物が検煙領域16に侵入したときに零レベル64から飽和レベル66まで立ち上った後に飽和レベル66を維持し、異物が検煙領域16から出たときに零レベル64に戻る周期性のない矩形パルス状の信号となる。また、
図6(A)の受光信号から求めた自己相関係数のコレログラムは、
図6(B)に示すように、周期性なく正から負に掛けて緩やかに変化する。
【0132】
また、検煙領域16を通過した異物がレチクルのピッチより小さい場合には、
図7(A)に示すような受信信号が得られる。この受光信号は、零レベル64から飽和レベル66に立ち上がって零レベル64に戻り、煙の場合の受信信号に比べて短い周期の矩形パルス状の信号となる。また、
図7(A)の受光信号から求めた自己相関係数のコレログラムは、
図7(B)に示すように、煙の場合の自己相関係数に比べて短周期で1(最大値)と-1(最小値)との間を激しく上下動を繰り返す。
【0133】
このため、検煙領域16を虫等の異物が通過した場合に得られる散乱光の受光信号は、火災による煙が通過した場合に得られる散乱光の受光信号が持つ第1乃至第3の特徴を全て充足することがなく、虫等の異物とは区別して正しく火災による煙を判定して、煙の判定の確度を高めることができる。
【0134】
また、煙感知器にあっては、例えば検煙領域を取り囲む壁部や検煙領域内の発光素子、受光素子、レンズ等の部品への塵埃付着や湿気による結露、煙感知器の構造材の経時的変色等により発光素子からの光が乱反射し、煙による散乱光と同様の光量が受光素子に入射する事により、零レベルが次第に高くなる不具合が発生する。従来の煙感知器ではこのような乱反射して受光素子に入力された光を煙による散乱光と見誤り火災を誤検出して誤報を発する事があった。しかしながら、実施形態の煙感知器10においては、このような不具合により得られる受光信号は対象物が移動しないためレチクル(光学素子)を介しても交流成分を含まないため、このような不具合により得られる受光信号と煙により得られる受光信号とを明確に区別して判定する事ができる。
【0135】
[c.速度検出部]
次に、制御部により実現される機能である速度検出部について説明する。当該説明にあっては、
図1の煙感知器の検煙領域を通過する煙(煙塊)に対する煙の移動速度の検出を示した
図8を参照する。
【0136】
速度検出部58は、煙判定部56で煙と判定された場合に、第1受光素子32から出力された第1受光信号及び第2受光素子450から出力された第2受光信号に基づいて煙の移動速度を検出するものである。
【0137】
煙に存在する煙塊25が任意の方向から移動速度Vで、例えば
図8で示すように、左前から右後に向けて検煙領域16に流入したとすると、検煙領域16を通過する煙塊25による第1散乱角θ1となる第1波長帯の前方散乱光は、X-Y2次元空間でX方向にスリットが配列された第1レチクル28を通過することで第1レチクル28のスリットのピッチで定まる空間周波数で変調された後、レンズ30で集光されて第1受光素子32に入射し、第1受光素子32で受光した前方散乱光の第1受光信号は増幅回路部52で増幅され制御部46に読み込まれる。
【0138】
そして、速度検出部58は、第1受光素子32で受光した前方散乱光の第1受光信号又は自己相関係数から求められる周期Txに基づき第1受光素子32で受光した前方散乱光の第1受光信号の周波数fxを算出(検出)する。例えば、
図5(A)に示す受光信号が得られた場合には、得られた受光信号から
図5(B)に示すような自己相関係数を求め、その周期T1~T6の平均周期として周期Txを求め、周期Txに基づき周波数fxを算出する。
【0139】
ここで、第1レチクル28のピッチをP、レンズ30による光学系の倍率をmとすると、煙塊25のX方向の移動速度成分Vxは、
Vx=P・fx/m
として求められることから、速度検出部58は初期設定等により設定されたピッチP及び光学系の倍率mと算出した周波数fxに基づき、移動速度成分Vxを算出(検出)する。
【0140】
また同様に、検煙領域16を通過する煙塊25による第2散乱角θ2となる第2波長帯の後方散乱光は、X-Y2次元空間でY方向にスリットが配列された第2レチクル36を通過することで第2レチクル36のスリットのピッチで定まる空間周波数で変調された後、レンズ38で集光されて第2受光素子40に入射し、第2受光素子40で受光した後方散乱光の第2受光信号は増幅回路部54で増幅され制御部46に読み込まれる。
【0141】
そして、速度検出部58は、第1受光素子32で受光した前方散乱光の第1受光信号と同様に、第2受光素子40で受光した後方散乱光の第2受光信号又は自己相関係数から求められる周期Tyに基づき第2受光素子40で受光した後方散乱光の第2受光信号の周波数fyを算出(検出)する。
【0142】
ここで、第2レチクル36のピッチをP、レンズ38による光学系の倍率をmとすると、煙塊25のY方向の移動速度成分Vyは、
Vy=P・fy/m
として求められることから、速度検出部58は初期設定等により設定されたピッチP、光学系の倍率mと検出した周波数fyに基づき、移動速度成分Vyを算出(検出)する。
【0143】
そして、煙塊25の移動速度Vは、移動速度成分Vx,Vyの二乗和の平方根であることから、
V={(Vx)2+(Vy)2}1/2
として求められ、速度検出部58は煙の移動速度Vを煙塊25の移動速度Vとして算出(検出)する。
【0144】
[d.煙種別識別部]
次に、制御部により実現される機能である煙種別識別部について説明する。当該説明にあっては、綿灯芯を燻焼させた場合の白煙とケロシンを燃焼させた場合の黒煙による前方散乱光及び後方散乱光の受光値(受光レベル)とその比率を示した
図9を参照する。
【0145】
煙種別識別部60は、煙判定部56で煙と判定された場合に、第1受光素子32から出力された第1受光信号及び第2受光素子40から出力された第2受光信号に基づいて煙が煙の種別を識別するものである。
【0146】
煙の種別を識別するため、煙種別識別部60は、第1受光素子32から出力された所定時間、例えば
図4に示した連続発光時間T1の第1受光信号の受光値(受光レベル)を積分して算出(検出)された第1受光値A1と、第2受光素子40から出力された同じく連続発光時間T1の第2受光信号の受光値(受光レベル)を積分して算出(検出)された第2受光値A2から、
R=A1/A2
として比率Rを算出(検出)し、比率Rが所定の白煙識別条件を充足した場合に白煙と識別し、比率Rが所定の黒煙識別条件を充足した場合に黒煙と識別する。
【0147】
また、第1受光値A1は、第1中心波長λ1(=700nm)の第1波長帯の光が照射され生じた第1散乱角θ1=30°による前方散乱光の第1受光信号で得られる受光値であり、第2信号値A2は、第2中心波長λ2(=450nm)の第2波長帯の光が照射され生じた第2散乱角θ2=120°の後方散乱光の第2受光信号で得られる受光値である。
【0148】
図9に示すように、綿灯芯を燻焼させた場合の白煙及びケロシンを燃焼させた場合の黒煙で算出された第1受光値A1と第2受光値A2に基づきそれぞれの比率Rを算出すると、白煙(綿灯芯)の場合はR=8.0となり、黒煙(ケロシン)の場合はR=2.3となり、白煙(綿灯芯)と黒煙(ケロシン)では両者の比率Rには顕著な差が表れることから、煙種別識別部60は比率Rに基づき白煙であるか黒煙であるか識別することができる。
【0149】
このため、例えば煙の種別を識別するための比率閾値RthとしてRth1=5を設定し、R≧5の場合には白煙と識別し、R<5の場合には黒煙と識別する。
【0150】
また、検煙領域16に流入した検出対象が、例えば調理やバスルーム等からの湯気の場合には、第1受光値A1と第2受光値A2の比率Rは10を超える大きな値を示す。このため、非火災要因である湯気を識別するための非火災要因比率閾値Rth2としてRth2=12を設定し、R≧12の場合には湯気等の非火災要因と識別し、白煙は比率Rが5≦R<12の場合に識別されるようにすることで、非火災要因となる検出対象を含めて煙の種別を識別することができる。尚、上記説明での値は一例であり、光の波長や散乱角等の選択により変化するものであることから、上記の値に限定されるものではない。
【0151】
[e.煙確定部]
次に、制御部により実現される機能である煙確定部について説明する。
【0152】
煙確定部62は、煙判定部56による判定結果、煙種別識別部60による識別結果及び速度検出部58による検出結果に基づき、検出対象を確定するものである。実施形態では、煙判定部56により煙と判定され、煙種別識別部60で白煙と識別され、速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが所定の白煙速度条件を充足した場合に白煙と確定し、煙判定部56により煙と判定され、煙種別識別部60で黒煙と識別され、速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが所定の黒煙速度条件を充足した場合に黒煙と確定する。また、煙判定部56により煙と判定され、煙種別識別部60で白煙又は黒煙と識別された場合であっても、速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが対応する煙の煙速度条件を充足しないときには、火災による煙とは確定せずに、煙以外の異物として確定する。これにより、白煙及び黒煙の確定がより確度高く行うことを可能としている。
【0153】
尚、煙確定部62による検出対象の確定条件は一例に過ぎず、これ以外の任意の条件とすることを妨げない。例えば、まず煙判定部56により煙と判定され、煙種別識別部60で白煙又は黒煙と識別された場合には、火災による煙と確定し、火災による煙の種別として、煙種別識別部60で白煙を識別され、かつ速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが所定の白煙速度条件を充足した場合に白煙と確定し、煙種別識別部60で黒煙を識別され、かつ速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが所定の黒煙速度条件を充足した場合に黒煙と確定するものとする。また、煙種別識別部60で白煙を識別され、速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが所定の白煙速度条件を充足しない場合、及び煙種別識別部60で黒煙を識別され、速度検出部58で検出された煙の移動速度Vが所定の黒煙速度条件を充足しない場合には、煙の種別は特定せずに火災による煙として確定するようにしても良い。これにより、確度が低く誤った煙の種別による報知を避けつつ火災である旨を報知することを可能とする。
【0154】
一般的に、燻焼火災で発生する白煙の移動速度は遅く、燃焼火災で発生する黒煙の移動速度は早いことが知られている。このため、白煙速度条件又は黒煙速度条件を充足しているかの条件として、例えば想定される煙の移動速度Vが1~40cm/sであることから、移動速度閾値Vthを20cm/sと設定し、煙確定部62は白煙速度条件としてV≦20cm/sを充足した場合には白煙とし、黒煙速度条件としてV>20cm/sを充足した場合には黒煙と判断する。
【0155】
このため、煙種別識別部60での第1受光値A1及び第2受光値A1の比率Rに基づく煙の種別の識別により非火災要因となる検出対象とは区別して白煙か黒煙かの煙の種別を識別して非火災報を防止すると共に、更に煙の移動速度Vに基づく白煙又は黒煙の判断が加わることで、白煙か黒煙かの煙の種別を確定する確度を高めることを可能とする。
【0156】
煙確定部62による確定結果は、速度検出部58で検出された煙の移動速度等と共に処理結果として受信機へ伝送され、例えば受信機で火災警報が出力されると共に煙の移動速度と煙の種別が表示されることで報知され、火災の規模や進展状況を把握して、避難誘導や消火活動などの適切な対処を可能とする。
【0157】
[f.検出対象確定処理]
次に、第1実施形態による煙感知器の検出対象確定処理について説明する。当該説明にあっては、検出対象確定処理の全体を示したフローチャートである
図10、検出対象確定処理の煙判定処理(ステップS4)の詳細を示したフローチャートである
図11、及び検出対象確定処理の煙種別識別処理(ステップS6)及び煙確定処理(ステップS7)の詳細を示したフローチャートである
図12を参照するものであり、
図3に示した制御部46の処理動作となる。
【0158】
(f1.検出対象確定処理の全容)
まず、検出対象確定処理の全容について説明する。
図10に示すように、制御部46は、通常状態にあっては、間欠発光する発光素子24により照射される光による前方散乱光の第1受光信号及び後方散乱光の第2受光信号を読み込んでいる(ステップS1)。そして、煙の発現の検出条件として、例えば読み込んだ第1受光素子32の第1受光信号が所定の閾値レベルTHを超えたことを判別すると、発光素子24を連続発光時間T1のあいだ連続発光させて第1受光素子32の第1受光信号及び第2受光素子40の第2受光信号を順次読み込んでメモリに記憶する(ステップS2、3)。
【0159】
続いて、煙判定部56による煙判定処理を行い、煙と判定された場合には速度検出部58による速度検出処理、煙種別識別部60による煙種別識別処理及び煙確定部62による煙確定処理を行い、煙確定部62により火災による煙の種別を確定した場合には、その確定結果を煙の移動速度等と共に処理結果として受信機へ伝送し、間欠発光による受光信号の読込みに戻る(ステップS4~S10、ステップS1)。一方、煙判定部56により煙と判定されなかった場合及び煙確定部62により火災による煙と確定されなかった場合には、煙以外の異物と確定し、間欠発光による受光信号の読込みに戻る(ステップS5、S9、S11、S1)。
【0160】
(f2.煙判定処理)
次に、検出対象確定処理の煙判定処理(ステップS4)の詳細について説明する。
図11に示すように、煙判定処理では、煙判定部56がメモリに記憶された第1受光素子32の第1受光信号又は第2受光素子40の第2受光信号から検出対象が煙であるかの判定を行う。検出対象の判定にあたり、まず第1の条件として、連続発光時間T1の間に得られた受光信号に2以上の山谷が存在しているか判別し、第2の条件として、連続発光時間T1の間に得られた受光信号が所定の零点レベルを超えているか判別し、第3の条件として、連続発光時間T1の間に得られた受光信号から求めた自己相関係数のピークについて所定の周期以上で上下動しているか判別し、これらの全ての条件を充足した場合には煙と判定し、何れかの条件を満たさない場合には煙以外の異物と判定する(ステップS11~S17)。
【0161】
尚、ここでは、煙の流入方向によっては第1受光素子32又は第2受光素子40の何れでしか第1乃至第3全ての条件を満たす受光信号が得られない場合もあるため、第1受光素子32又は第2受光素子40の何れの受光信号について第1乃至第3の条件を充足した場合に煙と判定されるものとしている。尚、第3の条件を自己相関係数のピーク周期に基づき判別しているが、受光信号の周期に基づき判別しても良く、また、初めに受光信号の周期による第3の条件を充足しているか判別を試み、受光信号からでは受光信号の周期の算出(検出)が出来ない場合に、自己相関係数のピーク周期により第3の条件を充足しているか判別しても良い。
【0162】
(f3.煙種別識別処理と煙確定処理)
次に、検出対象確定処理の煙種別識別処理(ステップS6)と煙確定処理(ステップS7)の詳細について説明する。
【0163】
図12に示すように、煙種別識別処理では、煙種別識別部60がメモリから読み出した所定時間、例えば連続発光時間T1の第1受光信号の受光値の積分による受光値A1を算出し、同じくメモリから読み出した連続発光時間T1の第2受光信号の受光値の積分による受光値A2を算出し、受光値A1と受光値A2の比率RをR=A1/A2として算出する(ステップS21~S23)。
【0164】
続いて、煙種別識別部60は、比率Rが比率閾値Rth1以上であり、非火災要因比率閾値Rth2未満である場合には白煙と識別し(ステップS24~S26)、比率Rが比率閾値Rth1未満である場合には黒煙と識別し(ステップS24、S30)、比率Rが非火災要因比率閾値Rth2以上である場合には、煙以外の異物として識別する(ステップSS24~S25、S34)。
【0165】
続いて、煙種別識別処理で白煙又は黒煙と識別された場合には、煙確定部62による煙確定処理が行われる。
【0166】
煙種別識別処理で白煙と識別され、速度検出処理で算出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足している場合には白煙と確定し(ステップS26~S28)、煙種別識別処理で白煙と識別され、速度検出処理で算出された煙の移動速度が所定の白煙速度条件を充足していない場合には火災による煙の以外の異物と確定する(ステップS26~S27、S29)。
【0167】
また、煙種別識別処理で黒煙と識別され、速度検出処理で算出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足している場合には黒煙と確定し(ステップS30~S32)、煙種別識別処理で黒煙と識別され、速度検出処理で算出された煙の移動速度が所定の黒煙速度条件を充足していない場合には火災による煙の以外の異物と確定する(ステップS30~S31、S33)。
【0168】
[g.煙の移動方向の検出]
次に、煙の移動方向を検出可能とした第1実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第1実施形態による煙感知器を平面(上面)から見た断面で示した
図13、
図13の方向検出用レチクルを取り出して示した
図14、及び第1受光素子で受光される散乱光の第1受光信号を示したタイムチャートである
図15を参照する。
【0169】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図13に示すように、
図1の第1受光光学系26の第1レチクル28と第2受光光学系34の第2レチクル36を方向検出用レチクル280、360とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図1で示した構成と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。
【0170】
方向検出用レチクル280は、
図14に示すように、スリット(開口)が配列される領域を高空間周波数領域282と低空間周波数領域284に分け、高空間周波数領域282には各スリットのスリット幅を小さくして小さいピッチP1でスリットを配列し、低空間周波数領域284には各スリットのスリット幅を大きくして大きいピッチP2でスリットを配列している。
【0171】
ここで、前述した通り、煙の移動速度1~40cm/secに対応したレチクルの空間周波数を決めるピッチは1~10mmの範囲が適当であることから、例えばピッチP1を2mmとし、ピッチP2を4mmとするように各領域のスリットを配列する。尚、方向検出用レチクル360についても方向検出用レチクル280と同様となる。
【0172】
検煙領域16を通過する煙による第1散乱角θ1の前方散乱光を、方向検出用レチクル280を介して第1受光素子32で受光すると、例えば
図15に示すような第1受光信号が得られる。ここで
図15に示す第1受光信号では、前半は高空間周波数領域282のピッチP1のスリットにより変調された散乱光による短い周期T11,T12,T13のパルス状の受光信号となり、後半は低空間周波数領域284のピッチP2のスリットにより変調された散乱光による長い周期T21,T22,T23のパルス状の受光信号となっている。
図15のように前半の周期が短く後半の周期が長い第1受光信号の場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出される。これに対して、前半の周期が長く後半の周期が短い第1受光信号の場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0173】
また、このような煙の移動方向の検出は、X方向にスリットが配列された方向検出用レチクル280に対し直交するY方向にスリットが配列された方向検出用レチクル360を介して第2散乱角θ2の後方散乱光を第2受光素子40で受光する場合についても同様であり、第2受光素子40から得られた第2受光信号について前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出される。これに対して、前半の周期が長く後半の周期が短い第2受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0174】
また、煙感知器10は、設置する部屋等の区画で磁気コンパスなどを使用して磁北を調べ、磁北マーカー15が磁北を向くように配置される。つまり、Y方向は磁極の南北方向となり、X方向は磁極の東西方向に対応し、X方向における+X側は東側、-X側は西側となり、Y方向における+Y側は北側、-Y側は南側となる。また、磁極の方向を示す方位角度を北が0°、東が90°、南が180°、西が270°として、煙感知器10により検出される煙の移動方向は、例えば磁極の方位角度θとして算出(検出)されるものとする。尚、煙感知器10を下側から見た場合の方角としているが、煙感知器10を上側から見た方角とした場合には東と西の位置は逆となり、どのように方位角度を設定するか任意である。
【0175】
そして、X-Y2次元空間における煙の移動速度Vの移動速度成分Vx,Vyと、移動速度Vと移動速度成分Vxとのなす角の角度θvとの関係は、
tanθv=Vy/Vx
であることから、θvは、
θv=tan-1(Vy/Vx)
として求められる。
【0176】
ここで、煙の移動方向の検出するための移動速度成分Vx,Vyは、方向検出用レチクル280、360を用いていることにより移動速度ベクトルで表すことができ、ここでは+方向の移動速度を正の値とすると、煙の移動方向となる磁極の方位角度θは、
( 0 ,+Vy)の場合、θ=0°
(+Vx,+Vy)の場合、θ=90°-θv
(+Vx, 0 )の場合、θ=90°
(+Vx,-Vy)の場合、θ=90°+θv
( 0 ,-Vy)の場合、θ=180°
(-Vx,-Vy)の場合、θ=180°-θv
(-Vx, 0 )の場合、θ=270°
(-Vx,+Vy)の場合、θ=270°+θv
として求められる。
【0177】
また、受光信号に基づく移動速度成分(煙の移動方向を考慮しない)の検出は、
図15に示す第1受光素子32の第1受光信号に基づく移動速度成分Vxの検出を例に取ると、次のようになる。まず、高空間周波数領域282のスリットにより変調された前方散乱光による第1受信信号の周期T11~T13の平均周期から周波数fx1を算出(検出)し、ピッチP1と光学系の倍率mとして、移動速度成分Vx1を、
Vx1=P1・fx1/m
として算出(検出)する。尚、高空間周波数領域282により変調された前方散乱光による第1受光信号の周期の算出は、第1受光信号の自己相関係数から算出してもよい。
【0178】
続いて、低空間周波数領域284のスリットにより変調された前方散乱光による第1受信信号の周期T21~T23の平均周期から周波数fx2を算出(検出)し、ピッチP2と光学系の倍率mとして、移動速度成分Vx2を、
Vx2=P2・fx2/m
として算出(検出)し、算出された移動速度成分Vx1,Vx2の平均値として移動速度成分Vxを、
Vx=(Vx1+Vx2)/2
として算出(検出)する。
【0179】
そして、本実施形態では煙の移動方向を検出することから、受光信号の信号周期の変化に基づき、各移動速度ベクトルを検出して、移動速度ベクトル(正負の値で表された移動速度成分Vx,Vy)に基づき煙の移動方向を磁極の方位角度θとして算出(検出)する。
【0180】
このように煙感知器10で検出された煙の移動速度V及び煙の移動方向(磁極の方位角度θ)は、処理結果に含まれて受信機へ送信され、例えば受信機で煙の移動速度が表示されると共に煙の移動方向として磁極の方位角度θが表示されることで、火災の規模や火源の位置を推定することを可能とし、火源の位置に応じた避難誘導や消火対応が可能となる。
【0181】
また、例えば火災報知システムとして建物等における煙感知器10の取付方向と位置を煙感知器毎に認識しているのであれば、磁北マーカー15を必要とすることなく、煙感知器10に対する煙の流入方向から火点が建物内のどの方向なのかを特定することができる。また、煙感知器が複数台設置されている場合には、複数ある煙感知器の各々で検出された煙の移動方向により風向(気流の進む向き)を検出して、風向に基づいて火点の位置や今後の煙の流動する向きを推定することもできる。
【0182】
[h.発光光学系にレチクルを設けた第2実施形態の煙感知器]
発光光学系にレチクルを設けて空間フィルタ機構を構成した第2実施形態の煙感知器について説明する。
【0183】
(h1.感知器構造)
まず、感知器構造について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図16を参照する。
【0184】
図16に示すように、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するためのセンサ構造として、第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられている。第1発光光学系64と第2発光光学系72は、発光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間で直交するように配置されている。
【0185】
第1発光光学系64は、第1レチクル70、第1発光素子66及びレンズ68で構成される。第1発光素子66は所定の第1波長帯、例えば第1中心波長λ1を700nmとする第1波長帯の光を発光する発光ダイオードを用いており、発光光軸660を検煙領域16の中心となる検煙点Pに向けて光を照射可能としている。
【0186】
第1レチクル70は、第1発光素子66からの光に空間周波数による変調を掛けてから検煙領域16に照射させるものであり、その構造や種類は任意であるが、例えば
図1の第1実施形態の第1レチクル28と同様に、長方形の金属薄板を用いた遮光版に、上下方向に開口した複数のスリット(開口)を所定のピッチ(配置間隔)で配列した構造であり、ピッチPを2.0mm、スリット数を10個としている。
【0187】
第2発光光学系72は、第2レチクル78、第2発光素子74及びレンズ76で構成される。第2発光素子74は、所定の第2波長帯、例えば第2中心波長λ2を450nmとする第2波長帯の光を発光する発光ダイオードを用いており、発光光軸740を検煙領域16の中心となる検煙点Pに向けて光を照射可能としている。また、第2レチクル78は、第2発光素子74からの光に空間周波数による変調を掛けて検煙領域16に照射させるものであり、第1レチクル70と同じものとしている。
【0188】
第1発光素子66又は第2発光素子74は、通常状態では、例えば所定の周期でパルス発光する間欠発光を交互に行っており、煙の発現の検出条件として、例えば第1受光信号又は第2受信信号の何れかが所定の閾値レベルTHを超えた場合に、連続発光時間T1の連続発光を第1発光素子66又は第2発光素子74で交互に行う。ここでの連続発光とは、実質的に煙の移動速度を測定できる周波数でのパルス発光を含むものとして、消費電力を抑制してもよい。ここで、パルス発光の周波数は、例えば検煙領域16の直径を50mmとし、第1レチクル70及び第2レチクル78のピッチが1.0~10mmの範囲の所定のピッチとすると、1~400Hzの受光信号を得ることができる800Hz程度となる。
【0189】
受光素子80は、受光光軸800が検煙点Pで、第1発光素子66の発光光軸660に対し所定の第1散乱角θ1で交差すると共に第2発光素子74の発光光軸740に対し所定の第2散乱角θ2で交差されるように配置される。ここで、第1散乱角θ1と第2散乱角θ2の間には、
θ2=90°+θ1
の関係がある。
【0190】
第1錯乱角θ1及び第2散乱角θ2は任意であるが、第1散乱角θ1が20°~70°の範囲、例えばθ1=45°とし、第2散乱角θ2が110°~160°の範囲、例えばθ2=135°とする。
【0191】
また、受光素子80は、第1発光素子66から照射される第1波長帯の光(前方散乱光)及び第2発光素子74から照射される第2波長帯の光(後方散乱光)に受光感度を有するフォトダイオード(PD)を使用し、第1レチクル66により変調された第1発光素子66からの第1波長帯の光が検煙領域16を通過する検出対象に照射されて生じる第1散乱角θ1の前方散乱光を受光すると共に、第2レチクル76により変調された第2発光素子74からの第2波長帯の光が検煙領域16を通過する検出対象に照射されて生じる第2散乱角θ2の後方散乱光を受光する。
【0192】
受光素子80で出力される前方散乱光による第1受光信号及び後方散乱光による第2受光信号は、基本的に第1実施形態での第1受光素子32で出力される第1受光信号及び第2受光素子40で出力される第2受光信号と同じであり、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような信号となる。
【0193】
(h2.煙感知器の回路構成)
次に、煙感知器の回路構成について説明する。当該説明にあっては、
図16の煙感知器の回路構成を示したブロック図である
図17を参照する。
【0194】
図17に示すように、本実施形態の煙感知器10は、電源部44、制御部46、伝送部48、発光駆動部50,51、増幅回路部52、検煙領域16に設けられた第1発光素子66、第2発光素子74及び受光素子80で構成される。尚、第1実施形態と同じ部分は同一符号を付して説明は省略する。
【0195】
制御部46は、
図3の第1実施形態と同様に、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路であり、CPUによるプログラムの実行により信号処理部として煙判定部56、速度検出部58、煙種別識別部60及び煙確定部62の機能を実現する。発光駆動部50は制御部46からの指示により第1発光素子66を発光駆動し、発光駆動部51は制御部46からの指示により第2発光素子74を発光駆動する。増幅回路部52は受光素子80からの受光信号を増幅して制御部46に出力する。
【0196】
(h3.発光制御と受光読込制御)
次に、制御部による発光制御及び受光素子の受光信号の読込制御について説明する。当該説明にあっては、発光素子の発光動作と受光素子の受光動作を示した
図18を参照する。尚、
図18(A)は第1発光素子66の発光動作を示し、
図18(B)は第2発光素子74の発光動作を示し、
図18(C)は受光素子80の受光動作を示している。
【0197】
制御部46は、通常状態にあっては、
図18(A)に示すように、例えば1~数秒となる所定の周期T0でパルス発光させる間欠発光で第1発光素子66を発光駆動させると共に、第1発光素子66の間欠発光から所定時間t0遅らせて第2発光素子74を周期T0でパルス発光を行う発光させる間欠発光で発光駆動させ、消費電力を抑えている。そして、検煙領域16に検出対象として、例えば火災による煙が流入した場合には、間欠発光による第1発光素子66及び第2発光素子74からの照射光が流入した煙に照射されて生じた前方散乱光及び後方散乱光を受光素子80で受光することで受光素子80から第1受光信号及び第2受光信号が出力されることになり、制御部46は、火災による煙の発現の検出条件として、例えば受光素子80の第1受光信号及び第2受光信号を監視し、何れかの受光信号が所定の閾値レベルTHを超えた場合に、まず第1発光素子66を所定時間T1(連続発光時間)の間で連続発光させ、続いて第2発光素子74を連続発光時間T1の間で連続発光させ、それぞれの発光期間に対応して受光素子80から順次出力され、増幅回路部52により増幅された受光期間の第1受光信号及び第2受光信号をA/D変換で読み込んでメモリに記憶する。
【0198】
また、火災による煙の発現の検出条件を充足した場合に、第2発光素子74を連続発光させてから第1発光素子66を連続発光させても良く、また、第1発光素子66の連続発光の後に第2発光素子74を連続発光させる代わりに、第1発光素子66・第2発光素子74を交互に高速でパルス点灯させてもよい。これによりその後の第1発光素子66、第2発光素子74による信号処理の時間ずれがなくなり、速度検出や煙識別の判定により正確性が保てる。その他の点は第1実施形態と基本的に同様であることから、その説明は省略する。
【0199】
(h4.煙判定部、速度検出部、煙種別識別部及び煙確定部)
第2実施形態における受光素子80で受光される第1発光素子66からの照射光による前方散乱光の第1受光信号は、第1実施形態における第1受光素子32で受光される発光素子24からの照射光による前方散乱光の第1受光信号に相当し、第2実施形態における受光素子80で受光される第2発光素子74からの照射光による後方散乱光の第2受光信号は、第1実施形態における第2受光素子40で受光される発光素子24からの照射光による後方散乱光の第2受光信号に相当するものであり、第2実施形態における制御部46による受光素子80から順次出力される第1受光信号及び第2受光信号に基づく、煙判定部56による煙判定処理、速度検出部58による移動検出処理、煙種別識別部60による煙種別識別処理及び煙確定部62による煙確定処理は、第1実施形態の場合と基本的に同様であることから、煙判定部56、速度検出部58、煙種別識別部60及び煙確定部62についての説明は省略する。
【0200】
(h5.煙の移動方向の検出)
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第2実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第2実施形態による煙感知器を平面(上面)から見た断面で示した
図19を参照する。
【0201】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図19に示すように、
図16の第1発光光学系64の第1レチクル70と第2発光光学系72の第2レチクル78を方向検出用レチクル700,780とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図16で示した構成と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。また、方向検出用レチクル700,780は、第1実施形態の方向検出用レチクル280、360と基本的に同様であるから、その説明は省略する。
【0202】
また、第1発光素子66からの光を、方向検出用レチクル700を介して検煙領域16を通過する煙(煙塊)に照射して生じる前方散乱光を受光素子80で受光すると、例えば第1実施形態と同様に
図15に示すような第1受信信号が得られる。第1発光素子66から照射された光により生じた前方散乱光の第1受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+X方向(右方向)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い場合には、煙の移動方向は-X方向(左方向)として検出される。
【0203】
また、第2発光素子74からの光を、方向検出用レチクル780を介して検煙領域16を通過する煙(煙塊)に照射して生じる後方散乱光を受光素子80で受光した場合も同様であり、その第2受光信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後方向)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い場合には、煙の移動方向は-Y方向(前方向)として検出される。
【0204】
従って、第1実施形態と同様に、第1受光信号及び第2受光信号に基づき移動速度ベクトルを検出することができ、検煙領域16を通過する煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0205】
[i.受光光学系にレンズアレイを設けた第3実施形態の煙感知器]
受光光学系にレンズアレイを設けた空間フィルタ機構を構成した第3実施形態の煙感知器について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図20、煙感知器の内部構造を前面から見た断面で示した
図21、レンズアレイを取り出して第1受光素子と共に示した
図23、及びレンズアレイにより検煙領域に形成される視野領域を示した
図24を参照する。尚、
図22、
図23は第1レンズアレイを例に取り、
図22(A)はレンズアレイを平面(上面)から見て示し、
図22(B)はレンズアレイを右面から見て示し、
図22(C)はレンズアレイを前面から見て示している。
【0206】
図20及び
図21に示すように、第1実施形態と同様に、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するために、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられている。第1受光光学系26と第2受光光学系34は、受光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間にて直交するように配置されている。
【0207】
第1受光光学系26が第1レンズアレイ100と第1受光素子32で構成され、第2受光光学系34は第2レンズアレイ110と第2受光素子40で構成される点で第1実施形態とは異なるが、発光素子24に第1中心波長λ1(例えば700nm)を持つ所定の第1波長帯の光と第2中心波長λ2(例えば450nm)を持つ所定の第2波長帯を含む光を同時に照射する白色LEDが使用され、第1受光素子32に所定の第1波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオ―ド(PD)が使用され、第2受光素子32に所定の第2波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオ―ド(PD)が使用される等のそれ以外の構成(回路構成も含む)については
図1に示した第1実施形態と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。尚、
図21では第2受光光学系34の前側に発光素子24が存在しているが、発光素子24の図示は省略している。
【0208】
図22に示すよう、第1レンズアレイ100は、検煙領域16に面する一面にシリンドリカルレンズ104が左右方向に所定幅の空きを空けて複数配列(配置)されている。ここで、シリンドリカルレンズ104の配置間隔は、煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで煙の移動速度に適した光学素子となり、より確実に火災を検出することを可能とする。
【0209】
また、第1レンズアレイ100は、一面とは反対側、即ち第1受光素子32側の他面に集光レンズ、例えば凸レンズ102が形成され、第1レンズアレイ100にはシリンドリカルレンズ104と凸レンズ102とが一体に形成されている。尚、凸レンズ102は第1レンズアレイ100に一体に形成するのではなく、第1レンズアレイ100とは別体として第1レンズアレイ100の他面側に分離配置した構造としてもよい。
【0210】
第1レンズアレイ100を設けた第1受光光学系26は、
図23に示すように、第1レンズアレイ100の一面に配置したシリンドリカルレンズ104の各々に対応して、検煙領域16内で箱形視野区画108がシリンドリカルレンズ104間の空きに対応した幅の空きを空けて並んだ視野領域106を仮想的に形成している。尚、視野領域106内の箱形視野区画108間の空きは光を受光しない領域となる。
【0211】
このため、検煙領域16に煙(煙塊)が流入すると、視野領域106の箱形視野区画108の各々を煙(煙塊)が通過する際に発生した散乱光が平行光として対応するシリンドリカルレンズ104に入射し、入射した散乱光が凸レンズ102により第1受光素子32に集光され、第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。
【0212】
また、検煙領域16で発生した散乱光をシリンドリカルレンズ104と凸レンズ102により効率良く集光して第1受光素子32に入射することから、損失を低減して第1受光素子32での受光量を高めることを可能としている。
【0213】
尚、第1レンズアレイ100を設けた第1受光光学系26で説明したが、第2レンズアレイ110を設けた第2受光光学系34についても、配置位置・方向、受光する光の波長が異なる以外は第1レンズアレイ100を設けた第1受光光学系26と同様となる。
【0214】
また、第3実施形態は、第1実施形態と同様に、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられ、同様の受光信号が得られることから、制御部による発光制御と受光読込制御、煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部、及び各機能部による処理については、第1実施形態の場合と基本的に同様であり、その説明は省略する。
【0215】
[j.煙の移動方向を検出可能とした第3実施形態の煙感知器]
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第3実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第3実施形態による煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図24、方向検出用レンズアレイを取り出して示した
図25、及び方向検出用レンズアレイにより検煙領域に形成される視野領域を示した
図26を参照する。尚、
図25、
図26は第1方向検出用レンズアレイを例に取り、
図25(A)は方向検出用レンズアレイを平面(上面)から見て示し、
図25(B)は方向検出用レンズアレイを前面から見て示している。
【0216】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図24に示すように、
図20の第1受光光学系26の第1レンズアレイ100を第1方向検出用レンズアレイ1000とし、第2受光光学系34の第2レンズアレイ110を第2方向検出用レンズアレイ1100とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図24で示した構成と同様であることから説明は省略する。
【0217】
第1方向検出用レンズアレイ1000は、
図25に示すように、検煙領域16に面する一面にシリンドリカルレンズ1004が複数配列(配置)され、一面とは反対側の他面に集光レンズ、例えば凸レンズ1002が形成されている。また、シリンドリカルレンズ1004が配列される一面は高空間周波数領域1006と低空間周波数領域1008に分けられ、高空間周波数領域1006にはシリンドリカルレンズ1004間の空きの幅を小さくして小さいピッチP1となる配置間隔でシリンドリカルレンズ1004を配列し、低空間周波数領域1008にはシリンドリカルレンズ1004間の空きの幅を大きくして大きいピッチP2となる配置間隔でシリンドリカルレンズ1004を配列している。
【0218】
ここで、前述した通り、煙の移動速度1~40cm/secに対応したレンズアレイを設けた空間フィルタ機構の空間周波数を決める配置間隔は1.0~10mmの範囲が適当であることから、例えばピッチP1を2mmとし、ピッチP2を4mmとするようにシリンドリカルレンズ1004を配列する。
【0219】
第1方向検出用レンズアレイ1000を設けた第1受光光学系26は、
図26に示すように、第1方向検出用レンズアレイ1000の一面に高空間周波数領域1006と低空間周波数領域1008に分けて配置したシリンドリカルレンズ1004の各々に対応して、検煙領域16内で高空間周波数領域1006に属する箱形視野区画1012と低空間周波数領域1008に属する箱形受光区画1012が各領域のシリンドリカルレンズ104間の空きに対応した幅の空きを空けて配列された視野領域1010を仮想的に形成している。尚、視野領域1010内の箱形視野区画1012間の空きは光を受光しない領域となる。
【0220】
このため、検煙領域16を通過する煙(煙塊)による散乱光を、第1方向検出用レンズアレイ1000を介して第1受光素子32で受光すると、第1実施形態と同様に、例えば
図15に示した受光信号と同様な受光信号が得られる。第1受光素子32で得られた受光信号が
図15のように前半の周期が短く後半の周期が長い受光信号の場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出される。これに対して、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0221】
尚、第1方向検出用レンズアレイ1000を設けた第1受光光学系26で説明したが、第2方向検出用レンズアレイ1100を設けた第2受光光学系34についても、配置位置・方向、受光する光の波長が異なる以外は、第1方向検出用レンズアレイ1000を設けた第1受光光学系26と同様であり、第2受光素子40から得られた受光信号について前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0222】
従って、第3実施形態においても第1実施形態と同様に、第1受光素子32の受光信号に基づきX方向の移動速度ベクトルを検出し、第2受光素子40の受光信号に基づきY方向の移動速度ベクトルを検出し、X方向とY方向の移動速度ベクトルに基づき煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0223】
また、第1実施形態と同様に、磁北マーカー15を必要とすることなく、煙感知器10に対する煙の流入方向から火点が建物内のどの方向なのかを特定するようにしても良い。
【0224】
[k.発光光学系にレンズアレイを設けた第4実施形態の煙感知器]
発光光学系にレンズアレイを設けて空間フィルタ機構を構成した第4実施形態の煙感知器について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図27、レンズアレイを取り出して発光素子と共に示した
図28、レンズアレイにより検煙領域に形成される照射領域を示した
図29を参照する。尚、
図28、
図29は第1レンズアレイを例に取り、
図28(A)はレンズアレイを平面(上面)から見て示し、
図25(B)はレンズアレイを右面から見て示し、
図25(C)はレンズアレイを前面から見て示している。
【0225】
図27に示すように、第2実施形態と同様に、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するために、第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられている。第1発光光学系64と第2発光光学系72は、発光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間で直交するように配置されている。
【0226】
第1発光光学系64が第1レンズアレイ120と第1発光素子66で構成され、第2発光光学系72が第2レンズアレイ130と第2発光素子74で構成される点で第2実施形態とは異なるが、第1発光素子66に第1中心波長λ1(例えば700nm)を持つ所定の第1波長帯の光を発光する発光ダイオードが使用され、第2発光素子74に第2中心波長λ2(例えば450nm)を持つ所定の第2波長帯の光を発光する発光ダイオードが使用され、受光素子80に第1発光素子66から照射される第1波長帯の光及び第2発光素子74から照射される第2波長帯の光に受光感度を有するフォトダイオード(PD)が使用される等のそれ以外の構成(回路構成も含む)については、
図16に示した第2実施形態と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。
【0227】
第1レンズアレイ120は、第1発光素子66からの光に空間周波数による変調を掛けてから検煙領域16に照射するものである。
図28に示すように、第1レンズアレイ120は、検煙領域16に面する一面にシリンドリカルレンズ124が左右方向に所定幅の空きを空けて複数配列(配置)されている。ここで、シリンドリカルレンズ124の配置間隔は、煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで煙の移動速度に適した光学素子となり、より確実に火災を検出することを可能とする。
【0228】
また、第1レンズアレイ120は、一面とは反対側、即ち第1発光素子66側の他面に集光レンズ、例えば凸レンズ122が形成され、第1レンズアレイ120にはシリンドリカルレンズ124と凸レンズ122とが一体に形成されている。尚、凸レンズ122は第1レンズアレイ120に一体に形成するのではなく、第1レンズアレイ120とは別体として第1レンズアレイ120の他面側に分離配置した構造としてもよい。
【0229】
第1レンズアレイ120を設けた第1発光光学系64は、
図29に示すように、第1レンズアレイ120の一面に配置したシリンドリカルレンズ124の各々に対応して、検煙領域16内で箱形照射区画128がシリンドリカルレンズ124間の空きに対応した幅の空きを空けて配列された照射領域126を仮想的に形成している。尚、照射領域126内の箱形照射区画128間の空きは光が照射されない領域となる。
【0230】
このため、第1発光素子66から第1レンズアレイ120を介して照射される光は照射領域126を持つ平行光として照射され、検煙領域16に煙(煙塊)が流入すると、照射領域126の箱形照射区画128の各々を煙(煙塊)が通過する際に発生した散乱光が受光素子80に入射し、第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。
【0231】
また、検煙領域16で発生した散乱光をシリンドリカルレンズ124と凸レンズ122により効率良く照射して発生した散乱光を受光素子80に入射することから、損失を低減して受光素子80での受光量を高めることを可能としている。
【0232】
尚、第1レンズアレイ120を設けた第1発光光学系64で説明したが、第2レンズアレイ130を設けた第2発光光学系72についても、配置位置・方向、照射する光の波長が異なる以外は第1レンズアレイ120を設けた第1発光光学系64と同様となる。
【0233】
また、第4実施形は、第2実施形態と同様に第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられ、同様の受光信号が得られることから、制御部による発光制御と受光読込制御、煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部、及び各機能部による処理については、第2実施形態の場合と基本的に同様であり、その説明は省略する。
【0234】
[l.煙の移動方向を検出可能とした第4実施形態の煙感知器]
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第4実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第4実施形態による煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図30、及び方向検出用レンズアレイにより検煙領域に形成される視野領域を示した
図31を参照する。尚、
図31は第1方向検出用レンズアレイを例に取り、
図22及び
図28で示した通り、第3実施形態のレンズアレイと第4実施形態のレンズアレイは基本的に同様であり、方向検出用レンズアレイについても基本的に第3実施形態と同様であることから、方向検出用レンズアレイを取り出して示す図は省略する。
【0235】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図30に示すように、
図27の第1発光光学系64の第1レンズアレイ120を第1方向検出用レンズアレイ1200とし、第2発光光学系72の第2レンズアレイ130を第2方向検出用レンズアレイ1300とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図27で示した構成と同様であることから説明は省略する。
【0236】
第1方向検出用レンズアレイ1200は、検煙領域16に面する一面にシリンドリカルレンズ1204が複数配列され、一面とは反対側の他面に集光レンズ、例えば凸レンズ1202が形成されている。また、シリンドリカルレンズ1204が配列される一面は高空間周波数領域1206と低空間周波数領域1208に分けられ、高空間周波数領域1206にはシリンドリカルレンズ1204間の空きの幅を小さくして小さいピッチP1となる配置間隔でシリンドリカルレンズ1204を配列し、低空間周波数領域1208にはシリンドリカルレンズ1204間の空きの幅を大きくして大きいピッチP2となる配置間隔でシリンドリカルレンズ1204を配列している。
【0237】
ここで、前述した通り、煙の移動速度1~40cm/secに対応したレンズアレイを設けた空間フィルタ機構の空間周波数を決める配置間隔は1.0~10mmの範囲が適当であることから、例えばピッチP1を2mmとし、ピッチP2を4mmとするようにシリンドリカルレンズ1204を配列する。
【0238】
第1方向検出用レンズアレイ1200を設けた第1発光光学系64は、
図31に示すように、第1方向検出用レンズアレイ1200の一面に高空間周波数領域1206と低空間周波数領域1208に分けて配置したシリンドリカルレンズ1204の各々に対応して、検煙領域16内で高空間周波数領域1206に属する箱形照射区画1212と低空間周波数領域1208に属する箱形照射区画1212が各領域のシリンドリカルレンズ124間の空きに対応した幅の空きを空けて配列された照射領域1210を仮想的に形成している。尚、照射領域1210内の箱形照射区画1212間の空きは光が照射されない領域となる。
【0239】
このため、第1発光素子66からの光を、第1方向検出用レンズアレイ1200を介して検煙領域16を通過する煙(煙塊)に照射して生じる散乱光を受光素子80で受光すると、例えば第1実施形態と同様に
図15に示すような受信信号が得られる。第1発光素子66から照射された光により生じた散乱光の受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0240】
尚、第1方向検出用レンズアレイ1200を設けた第1発光光学系64で説明したが、第2方向検出用レンズアレイ1300を設けた第2発光光学系72についても、配置位置・方向、照射する光の波長が異なる以外は、第1方向検出用レンズアレイ1200を設けた第1発光光学系64と同様であり、第2発光素子74から照射された光により生じた散乱光の受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0241】
従って、第4実施形態においても第2実施形態と同様に、第1発光素子66から照射された光により生じた散乱光の受信信号に基づきX方向の移動速度ベクトルを検出し、第2発光素子74から照射された光により生じた散乱光の受信信号に基づきY方向の移動速度ベクトルを検出し、X方向とY方向の移動速度ベクトルに基づき煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0242】
[m.受光光学系にフレネルレンズを設けた第5実施形態の煙感知器]
受光光学系にフレネルレンズを設けて空間フィルタ機構を構成した第5実施形態の煙感知器について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図32、フレネルレンズを取り出して示した
図33、及びフレネルレンズにより検煙領域に形成される視野領域を示した
図34を参照する。尚、
図33、
図34は第1フレネルレンズを例に取り、
図33(A)は
図33(B)のフレネルレンズの切断線a-aの断面を示し、
図33(B)はフレネルレンズを後面から見て示している。
【0243】
図32に示すように、第1実施形態と同様に、煙感知器10の検煙領域16には外部から流入して通過する検出対象を検出するために、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられている。第1受光光学系26と第2受光光学系34は、受光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間にて直交するように配置されている。
【0244】
第1受光光学系26が第1フレネルレンズ140と第1受光素子32で構成され、第2受光光学系34が第2フレネルレンズ150と第2受光素子40で構成される点で第1実施形態とは異なるが、発光素子24に第1中心波長λ1(例えば700nm)を持つ所定の第1波長帯の光と第2中心波長λ2(例えば450nm)を持つ所定の第2波長帯を含む光を同時に照射する白色LEDが使用され、第1受光素子32に所定の第1波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオ―ド(PD)が使用され、第2受光素子32に所定の第2波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオ―ド(PD)が使用される等のそれ以外の構成(回路構成も含む)については、
図1に示した第1実施形態と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。
【0245】
図33に示すよう、第1フレネルレンズ140は、検煙領域16に面する一面をレンズ平面部142とし、一面とは反対側、即ち第1受光素子32側の他面に円環状のプリズム部144が光学中心部145から所定の配置間隔で同心円状に複数配列(配置)されている。プリズム部144の配置間隔は煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで煙の移動速度に適した光学素子となり、より確実に火災を検出することを可能とする。
【0246】
ここで、
図34に示すように、第1受光素子32の受光光軸が第1フレネルレンズ140のレンズ焦点F(光学中心部145)上に位置し、プリズム部144はレンズ焦点F(受光光軸)を軸とした球体面となるプリズム面を備えるように配列されている。また、第1フレネルレンズ140を設けた第1受光光学系26は、プリズム部144の各々に対応して、検煙領域16内で所定幅を持つ円筒体に近い(
図33(B)に示すように上下両側が切り取られた円筒体)円筒状視野区画148が所定幅の空きを空けて同心円状に配列された視野領域146を仮想的に形成している。尚、視野領域146内の円筒状視野区画148間の空きは光を受光しない領域となる。
【0247】
このため、検煙領域16に煙(煙塊)が流入すると、視野領域146の円筒状視野区画148の各々を煙(煙塊)が通過する際に発生した散乱光が平行光として対応する第1フレネルレンズ140のレンズ平面部142に入射し、入射した散乱光が集光レンズとして機能するプリズム部144により第1受光素子32に集光され、第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。
【0248】
また、検煙領域16で発生した散乱光をレンズ平面部142とプリズム部144により効率良く集光して第1受光素子32に入射することから、損失を低減して第1受光素子32での受光量を高めることを可能としている。
【0249】
尚、第1フレネルレンズ140を設けた第1受光光学系26で説明したが、第2フレネルレンズ150を設けた第2受光光学系34についても、配置位置・方向、受光する光の波長が異なる以外は第1フレネルレンズ140を設けた第1受光光学系26と同様となる。
【0250】
また、第5実施形態は、第1実施形態と同様に、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられ、同様の受光信号が得られることから、制御部による発光制御と受光読込制御、煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部、及び各機能部による処理については、第1実施形態の場合と基本的に同様であり、その説明は省略する。
【0251】
[n.煙の移動方向を検出可能とした第5実施形態の煙感知器]
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第5実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第5実施形態による煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図35、方向検出用フレネルレンズを取り出して示した
図36、及び方向検出用フレネルレンズにより検煙領域に形成される視野領域を示した
図37を参照する。尚、
図36、
図37は第1方向検出用フレネルレンズを例に取り、
図36(A)は
図36(B)のフレネルレンズの切断線b-bの断面を示し、
図36(B)はフレネルレンズを後面から見て示している。
【0252】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図35に示すように、
図32の第1受光光学系26の第1フレネルレンズ140を第1方向検出用フレネルレンズ1400とし、第2受光光学系34の第2フレネルレンズ150を第2方向検出用フレネルレンズ1500とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図32で示した構成と同様であることから説明は省略する。
【0253】
第1方向検出用フレネルレンズ1400は、
図36に示すように、検煙領域16に面する一面をレンズ平面部1402とし、一面とは反対側の他面に円環状のプリズム部1404が光学中心部1405から所定の配置間隔で同心円状に複数配列(配置)されている。また、プリズム部1404が配列されるレンズ一面は光学中心部1405を境に左右で高空間周波数領域1406と低空間周波数領域1408に分けられ、高空間周波数領域1406にはプリズム部1404を小さいピッチP1となる配置間隔で配列し、低空間周波数領域1408にはプリズム部1404を大きいピッチP2となる配置間隔で配列している。
【0254】
ここで、前述した通り、煙の移動速度1~40cm/secに対応したフレネルレンズを設けた空間フィルタ機構の空間周波数を決める配置間隔は1.0~10mmの範囲が適当であることから、例えばピッチP1を2mmとし、ピッチP2を4mmとするようにプリズム部1404を配列する。
【0255】
第1方向検出用フレネルレンズ1400を設けた第1受光光学系26は、
図37に示すように、第1方向検出用フレネルレンズ1400の他面に高空間周波数領域1406と低空間周波数領域1408に分けて配置したプリズム部1404の各々に対応して、検煙領域16内で高空間周波数領域1406に属する円筒状視野区画1412と低空間周波数領域1408に属する円筒状視野区画1412が所定幅の空きを空けて配列された視野領域1410を仮想的に形成している。尚、視野領域1410内の円筒状視野区画1412間の空きは光を受光しない領域となる。
【0256】
このため、検煙領域16を通過する煙(煙塊)による散乱光を、第1方向検出用フレネルレンズ1400を介して第1受光素子32で受光すると、第1実施形態と同様に、例えば
図15に示した受光信号と同様な受光信号が得られる。第1受光素子32で得られた受光信号が
図15のように前半の周期が短く後半の周期が長い受光信号の場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出される。これに対して、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0257】
尚、第1方向検出用フレネルレンズ1400を設けた第1受光光学系26で説明したが、第2方向検出用フレネルレンズ1500を設けた第2受光光学系34についても、配置位置・方向、受光する光の波長が異なる以外は、第1方向検出用フレネルレンズ1400を設けた第1受光光学系26と同様であり、第2受光素子40から得られた受光信号について前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0258】
従って、第5実施形態においても第1実施形態と同様に、第1受光素子32の受光信号に基づきX方向の移動速度ベクトルを検出し、第2受光素子40の受光信号に基づきY方向の移動速度ベクトルを検出し、X方向とY方向の移動速度ベクトルに基づき煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0259】
また、第1実施形態と同様に、磁北マーカー15を必要とすることなく、煙感知器10に対する煙の流入方向から火点が建物内のどの方向なのかを特定するようにしても良い。
【0260】
[o.発光光学系にフレネルレンズレンズを設けた第6実施形態の煙感知器]
発光光学系にフレネルレンズレンズを設けて空間フィルタ機構を構成した第6実施形態の煙感知器について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図38、及びフレネルレンズレンズにより検煙領域に形成される照射領域を示した
図39を参照する。尚、フレネルレンズは基本的に第5実施形態のフレネルレンズと同じであることからフレネルレンズを取り出して示した図は省略し、
図39は第1フレネルレンズを例に取る。
【0261】
図38に示すように、第2実施形態と同様に、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するために、第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられている。第1発光光学系64と第2発光光学系72は、発光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間で直交するように配置されている。
【0262】
第1発光光学系64が第1フレネルレンズ160と第1発光素子66で構成され、第2発光光学系72が第2フレネルレンズ170と第2発光素子74で構成される点で第2実施形態とは異なるが、第1発光素子66に第1中心波長λ1(例えば700nm)を持つ所定の第1波長帯の光を発光する発光ダイオードが使用され、第2発光素子74に第2中心波長λ2(例えば450nm)を持つ所定の第2波長帯の光を発光する発光ダイオードが使用され、受光素子80に第1発光素子66から照射される第1波長帯の光及び第2発光素子74から照射される第2波長帯の光に受光感度を有するフォトダイオード(PD)が使用される等のそれ以外の構成(回路構成も含む)については、
図16に示した第2実施形態と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。
【0263】
第1フレネルレンズ160は、第1発光素子66からの光に空間周波数による変調を掛けてから検煙領域16に照射するものである。
図39に示すように、第1フレネルレンズ160は、検煙領域16に面する一面をレンズ平面部162とし、一面とは反対側、即ち第1発光素子66側の他面に円環状のプリズム部164が光学中心部165から所定の配置間隔で同心円状に複数配列(配置)されている。プリズム部164の配置間隔は煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで煙の移動速度に適した光学素子となり、より確実に火災を検出することを可能とする。
【0264】
ここで、
図39に示すように、第1発光素子66の発光光軸が第1フレネルレンズ160のレンズ焦点F(光学中心部165)上に位置し、プリズム部164はレンズ焦点F(発光光軸)を軸とした球体面となるプリズム面を備えるように配列されている。また、第1フレネルレンズ160を設けた第1発光光学系64は、プリズム部164の各々に対応して、検煙領域16内で所定幅を持つ円筒体に近い(
図33(B)に示すように上下両側が切り取られた円筒体)となる円筒状照射区画168が所定幅の空きを空けて同心円状に配列された照射領域166を仮想的に形成している。尚、照射領域166内の円筒状照射区画168間の空きは光が照射されない領域となる。
【0265】
このため、第1発光素子66から第1フレネルレンズ160を介して照射される光は照射領域166を持つ平行光として照射され、検煙領域16に煙(煙塊)が流入すると、照射領域166の円筒状照射区画168の各々を煙(煙塊)が通過する際に発生した散乱光が受光素子80に入射し、第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。
【0266】
また、検煙領域16で発生した散乱光をレンズ平面部162とプリズム部164により効率良く照射して発生した散乱光を受光素子80に入射することから、損失を低減して受光素子80での受光量を高めることを可能としている。
【0267】
尚、第1フレネルレンズ160を設けた第1発光光学系64で説明したが、第2フレネルレンズ170を設けた第2発光光学系72についても、配置位置・方向、照射する光の波長が異なる以外は第1レンズアレイ120を設けた第1発光光学系64と同様となる。
【0268】
また、第6実施形は、第2実施形態と同様に第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられ、同様の受光信号が得られることから、制御部による発光制御と受光読込制御、煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部、及び各機能部による処理については、第2実施形態の場合と基本的に同様であり、その説明は省略する。
【0269】
[p.煙の移動方向を検出可能とした第6実施形態の煙感知器]
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第6実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第6実施形態による煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図40、及び方向検出用フレネルレンズにより検煙領域に形成される照射領域を示した
図41を参照する。尚、方向検出用フレネルレンズは基本的に第5実施形態の方向検出用フレネルレンズと同じであることから方向検出用フレネルレンズを取り出して示した図は省略し、
図41は第1方向検出用フレネルレンズを例に取る。
【0270】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図40に示すように、
図35の第1発光光学系64の第1フレネルレンズ160を第1方向検出用フレネルレンズ1600とし、第2発光光学系72の第2フレネルレンズ170を第2方向検出用フレネルレンズ1700とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図35で示した構成と同様であることから説明は省略する。
【0271】
図41に示すように、第1方向検出用フレネルレンズ1600は、検煙領域16に面する一面をレンズ平面部1602とし、一面とは反対側の他面に円環状のプリズム部1604が光学中心部1605から所定の配置間隔で同心円状に複数配列(配置)されている。また、プリズム部1604が配列される一面は光学中心部1605を境に左右で高空間周波数領域1606と低空間周波数領域1608に分けられ、高空間周波数領域1606にはプリズム部1604を小さいピッチP1となる配置間隔で配列し、低空間周波数領域1608にはプリズム部1604を大きいピッチP2となる配置間隔で配列している。
【0272】
ここで、前述した通り、煙の移動速度1~40cm/secに対応したフレネルレンズを設けた空間フィルタ機構の空間周波数を決める配置間隔は1.0~10mmの範囲が適当であることから、例えばピッチP1を2mmとし、ピッチP2を4mmとするようにプリズム部1604を配列する。
【0273】
第1方向検出用フレネルレンズ1600を設けた第1発光光学系64は、
図41に示すように、第1方向検出用フレネルレンズ1600の他面に高空間周波数領域1606と低空間周波数領域1608に分けて配置したプリズム部1604の各々に対応して、検煙領域16内で高空間周波数領域1606に属する円筒状照射区画1612と低空間周波数領域1608に属する円筒状照射区画1612が所定幅の空きを空けて配列された照射領域1610を仮想的に形成している。尚、照射領域1610内の円筒状照射区画1612間の空きは光を照射しない領域となる。
【0274】
このため、第1発光素子66からの光を、第1方向検出用フレネルレンズ1600を介して検煙領域16を通過する煙(煙塊)に照射して生じる散乱光を受光素子80で受光すると、例えば第1実施形態と同様に
図15に示すような受信信号が得られる。第1発光素子66から照射された光により生じた散乱光の受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0275】
尚、第1方向検出用フレネルレンズ1600を設けた第1発光光学系64で説明したが、第2方向検出用フレネルレンズ1700を設けた第2発光光学系72についても、配置位置・方向、照射する光の波長が異なる以外は、第1方向検出用フレネルレンズ1600を設けた第1発光光学系64と同様であり、第2発光素子74から照射された光により生じた散乱光の受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0276】
従って、第6実施形態においても第2実施形態と同様に、第1発光素子66から照射された光により生じた散乱光の受信信号に基づきX方向の移動速度ベクトルを検出し、第2発光素子74から照射された光により生じた散乱光の受信信号に基づきY方向の移動速度ベクトルを検出し、X方向とY方向の移動速度ベクトルに基づき煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0277】
また、第1実施形態と同様に、磁北マーカー15を必要とすることなく、煙感知器10に対する煙の流入方向から火点が建物内のどの方向なのかを特定するようにしても良い。
【0278】
[q.受光光学系に受光素子アレイを設けた第7実施形態の煙感知器]
受光光学系に受光素子アレイを設けて空間フィルタ機構を構成した第7実施形態の煙感知器について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図42、受光素子アレイと凸レンズを備えた受光光学系を取り出して示した
図43、受光素子アレイを取り出して示した
図44、及び受光素子アレイの受光素子と制御部との間の増幅回路部を示した
図45を参照する。尚、
図43は第1受光光学系、
図44、
図45は第1受光素子アレイを例に取り、
図44(A)は受光素子アレイを前面から見て示し、
図44(B)は受光素子アレイを平面(上面)から見て示している。また、
図42及び
図43の凸レンズは、上下方向に起立して配置されるものであるが、分かり易くするために実際の配置状態とはなっていない。
【0279】
図42に示すように、第1実施形態と同様に、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するために、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられている。第1受光光学系26と第2受光光学系34は、受光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間にて直交するように配置されている。
【0280】
第1受光光学系26が第1受光素子アレイ180と集光レンズ、例えば凸レンズ190で構成され、第2受光光学系34が第2受光素子アレイ200と集光レンズ、例えば凸レンズ210で構成される点で第1実施形態とは異なっている。
【0281】
また、受光素子アレイの受光素子と制御部との間の増幅回路部については、第1受光素子アレイ180を例に
図45に示すように、第1受光素子アレイ180の基板182に配列(配置)された受光素子184を一つ置きに並列接続して差動増幅器185のプラス入力端子に接続すると共に、一つ置きに残った受光素子184を並列接続して差動増幅器185のマイナス入力端子に接続している。尚、差動増幅器185のプラス入力端子とマイナス入力端子に対する入力バランスを取るために、第1受光素子アレイ180に配列される受光素子184の数を偶数としている。
【0282】
また、発光素子24に第1中心波長λ1(例えば700nm)を持つ所定の第1波長帯の光と第2中心波長λ2(例えば450nm)を持つ所定の第2波長帯を含む光を同時に照射する白色LEDが使用される等のそれ以外の構成については、
図1に示した第1実施形態と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。
【0283】
図44に示すように、第1受光素子アレイ180は、左右方向を長手方向とした矩形の基板182の検煙領域16に面する一面に受光素子184が左右方向に所定幅の空きを空けて複数配列(配置)されている。ここで、受光素子184には、例えば所定の第1波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオード(PD)を使用し、第1受光素子アレイ180をPDアレイとしている。
【0284】
また、凸レンズ190は、
図43に示すように、第1受光素子アレイ180と検煙領域16の間に配置されているが、第1方向検出用受光素子アレイ1800と一体としても良い。そして、第1受光素子アレイ180と凸レンズ190が設けられた第1受光光学系26は、
図43に示すように、第1受光素子アレイ180の基板182の一面に配列した受光素子184の各々に対応して、検煙領域16内で箱形視野区画188が受光素子184間の空きに対応した幅の空きを空けて並んだ視野領域186を仮想的に形成(結像)する。尚、視野領域186内の箱形視野区画188間の空きは光を受光しない領域となる。
【0285】
ここで、検煙領域16内で仮想的に形成される箱形視野区画188の配置間隔は、煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで、より確実に火災を検出することを可能とする。そして、第1受光素子アレイ180の受光素子184の配置間隔は、箱形視野区画188の配置間隔を凸レンズ190の集光倍率で縮小した間隔となる。凸レンズ190の集光倍率は任意であるが、例えば集光倍率を1/10とすると、第1受光素子アレイ180の受光素子184は0.1~1.0mmの範囲の所定値の間隔で配列することが適当となる。
【0286】
このため、検煙領域16に煙(煙塊)が流入すると、視野領域186の箱形視野区画188の各々を煙(煙塊)が通過する際に発生した散乱光が平行光として凸レンズ190に入射し、入射した散乱光が凸レンズ190により第1受光素子アレイ180の対応する受光素子184に集光され、第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。
【0287】
また、検煙領域16で発生した散乱光を凸レンズ190により効率良く集光して第1受光素子アレイ180の対応する受光素子184に入射することから、損失を低減して受光素子184での受光量を高めることを可能としている。
【0288】
尚、第1受光素子アレイ180を設けた第1受光光学系26で説明したが、第2受光素子アレイ200を設けた第2受光光学系34についても、配置位置・方向、受光する光の波長(所定の第2波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオードの使用)が異なる以外は、第1受光素子アレイ180を設けた第1受光光学系26と同様となる。
【0289】
また、第7実施形態は、第1実施形態と同様に、発光素子24、第1受光光学系26及び第2受光光学系34が設けられ、同様の受光信号が得られることから、制御部による発光制御と受光読込制御、煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部、及び各機能部による処理については、第1実施形態の場合と基本的に同様であり、その説明は省略する。
【0290】
[r.煙の移動方向を検出可能とした第7実施形態の煙感知器]
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第7実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第7実施形態による煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図46、方向検出用受光素子アレイと凸レンズを備えた受光光学系を取出して示した
図47、方向検出用受光素子アレイを取り出して示した
図48、及び方向検出用受光素子アレイの受光素子と制御部との間の増幅回路部を示した
図49を参照する。尚、
図47は第1受光光学系、
図48、
図49は第1方向検出用受光素子アレイを例に取り、
図48(A)は方向検出用受光素子アレイを前面から見て示し、
図48(B)は受光素子アレイを平面(上面)から見て示している。
【0291】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図46に示すように、
図42の第1受光光学系26の第1受光素子アレイ180を第1方向検出用受光素子アレイ1800とし、第2受光光学系34の第2受光素子アレイ200を第2方向検出用受光素子アレイ2000とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。
【0292】
また、受光素子アレイの受光素子と制御部との間の増幅回路部については、第1方向検出用受光素子アレイ1800を例に
図49に示すように、第1方向検出用受光素子アレイ1800の基板1802に配列(配置)された受光素子1804を一つ置きに並列接続して差動増幅器1805のプラス入力端子に接続すると共に、一つ置きに残った受光素子1804を一つ置きに並列接続して差動増幅器1805のマイナス入力端子に接続している。尚、差動増幅器1805に対する入力バランスをとるため、高空間周波数領域1806及び低空間周波数領域1808のそれぞれに配列される受光素子1804の数を偶数としている。それ以外の構成は、
図42で示した構成と同様であることから説明は省略する。
【0293】
図48に示すように、第1方向検出用受光素子アレイ1800は、左右方向を長手方向とした矩形の基板1802の検煙領域16に面する一面に受光素子1804が左右方向に所定幅の空きを空けて複数配列(配置)されている。また、基板1802の一面は高空間周波数領域1806と低空間周波数領域1808に基板1802の左右方向における中心を境に分けられ、高空間周波数領域1806には受光素子1804を小さいピッチP1となる配置間隔で配列し、低空間周波数領域1808には受光素子1804を大きいピッチP2となる配置間隔で配列している。ここで、受光素子1804には、例えば所定の第1波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオード(PD)を使用し、第1方向検出用受光素子アレイ1800をPDアレイとしている。
【0294】
また、凸レンズ1900は、
図46に示すように、第1方向検出用受光素子アレイ1800と検煙領域16の間に配置されているが、第1方向検出用受光素子アレイ1800と一体としても良い。そして、第1方向検出用受光素子アレイ1800と凸レンズ1900が設けられた第1受光光学系26は、
図47に示すように、第1方向検出用受光素子アレイ1800の基板1802の一面に配列した受光素子1804の各々に対応して、検煙領域16内で高空間周波数領域1806に属する箱形視野区画1812と低空間周波数領域1808に属する箱形受光区画1812が各領域の受光素子184間の空きに対応した幅の空きを空けて並んだ視野領域1810を仮想的に形成(結像)する。尚、視野領域1810内の箱形視野区画1812間の空きは光を受光しない領域となる。
【0295】
ここで、検煙領域16内で仮想的に形成される箱形視野区画1812の配置間隔は、煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで、より確実に火災を検出することを可能とする。そして、第1方向検出用受光素子アレイ1800の受光素子1804の配置間隔は、箱形視野区画1812の配置間隔を凸レンズ1900の集光倍率で縮小した間隔となることから、例えば高空間周波数領域1806に対応した箱形視野区画1812の配置間隔を小さいピッチとなる2mmとし、低空間周波数領域1808に対応した箱形視野区画1812の配置間隔を大きいピッチとなる4mmとし、凸レンズ190の集光倍率を1/10とすると、第1方向検出用受光素子アレイ1800の高空間周波数領域1806の受光素子1804は0.2mm(=ピッチP1)で配列され、第1受光素子アレイ1800の低空間周波数領域1808の受光素子1804は0.4mm(=ピッチP2)で配列されることになる。
【0296】
このため、検煙領域16を通過する煙(煙塊)による散乱光を、第1方向検出用受光素子アレイ1800の受光素子1804の各々で受光すると、第1実施形態と同様に、例えば
図15に示した受光信号と同様な受光信号が得られる。受光素子1804の各々から得られた受光信号が
図15のように前半の周期が短く後半の周期が長い受光信号の場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出される。これに対して、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0297】
尚、第1方向検出用受光素子アレイ1800を設けた第1受光光学系26で説明したが第2方向検出用受光素子アレイ2000を設けた第2受光光学系34についても、配置位置・方向、受光する光の波長(所定の第2波長帯の光に受光感度をもつフォトダイオードの使用)が異なる以外は、第1方向検出用受光素子アレイ1800を設けた第1受光光学系26と同様であり、第2方向検出用受光素子アレイ2000の受光素子の各々から得られた受光信号について前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0298】
従って、第7実施形態においても第1実施形態と同様に、第1方向検出用受光素子アレイ1800の受光素子1804の受光信号に基づきX方向の移動速度ベクトルを検出し、第2方向検出用受光素子アレイ2000の受光素子の受光信号に基づきY方向の移動速度ベクトルを検出し、X方向とY方向の移動速度ベクトルに基づき検煙領域16を通過する煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0299】
また、第1実施形態と同様に、磁北マーカー15を必要とすることなく、煙感知器10に対する煙の流入方向から火点が建物内のどの方向なのかを特定するようにしても良い。
【0300】
[s.発光光学系に発光素子アレイを設けた第8実施形態の煙感知器]
発光光学系に発光素子アレイを設けて空間フィルタ機構を構成した第8実施形態の煙感知器について説明する。当該説明にあっては、煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図50、発光素子アレイを取り出して示した
図51、発光素子アレイの照射領域を示した
図52、及びレンズカバーを半球レンズとした発光素子アレイを示した
図53を参照する。尚、
図51乃至
図53は第1発光素子アレイを例に取り、
図51(A)は発光素子アレイを平面(上面)から見て示し、
図51(B)は発光素子アレイを右面から見て示し、
図51(C)は発光素子アレイを前面から見て示している。また、
図53(A)は光素子アレイを平面(上面)から見て示し、
図53(B)は発光素子アレイを前面から見て示している。
【0301】
図50に示すように、第2実施形態と同様に、煙感知器10の検煙領域16には、外部から流入して通過する検出対象を検出するために、第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられている。第1発光光学系64と第2発光光学系72は、発光光軸が検煙領域16の中心点となる検煙点Pで交差し、且つX-Y2次元空間で直交するように配置されている。
【0302】
第1光光学系64が第1発光素子アレイ220で構成され、第2発光光学系72が第2発光素子アレイ230で構成される点で第2実施形態とは異なるが、受光素子80に第1中心波長λ1(例えば700nm)を持つ所定の第1波長帯の光及び第2中心波長λ2(例えば450nm)を持つ所定の第2波長帯の光に受光感度を有するフォトダイオード(PD)が使用される等のそれ以外の構成(回路構成も含む)については、
図16に示した第2実施形態と同様であることから、同一符号を付して説明は省略する。
【0303】
図51に示すように、第1発光素子アレイ220は、左右方向を長手方向とした矩形の基板222の検煙領域16に面する一面に発光素子226が左右方向に所定幅の空きを空けて複数配列(配置)されている。ここで、発光素子226には、例えば所定の第1波長帯の光を発光する発光ダイオード(LED)を使用して、そのレンズカバーとしてシリンドリカルレンズ228を設け、第1発光素子アレイをLEDアレイとしている。このため、
図52に示すように、第1発光素子アレイ220の発光素子226の各々からの光はシリンドリカルレンズ228により一方向に平行光として照射される。尚、シリンドリカルレンズ228は第1発光素子アレイ220とは別体として第1発光素子アレイ220の一面側に分離配置した構造としてもよい。
【0304】
また、発光素子226の配置間隔は、煙の移動速度1~40cm/sに対応した1.0~10mmの範囲内で選択するのが適当であり、当該範囲内とすることで煙の移動速度に適した光学素子として機能し、より確実に火災を検出することを可能とする。
【0305】
また、第1発光素子アレイ220を設けた第1発光光学系64は、
図52に示すように、第1発光素子アレイ220の基板222の一面に配列した発光素子226の各々に対応して、検煙領域16内で所定の幅を持つ扇状照射区画227が発光素子226間の空きに対応した所定幅の空きを空けて配列された照射領域225を仮想的に形成する。尚、照射領域225内の扇状照射区画227間の空きは光が照射されない領域となる。
【0306】
このため、発光素子226の各々からシリンドリカルレンズ228を介して照射される光は照射領域225を持つ平行光として照射され、検煙領域16に煙(煙塊)が流入すると、照射領域225の扇状照射区画227の各々を煙(煙塊)が通過する際に発生した散乱光が受光素子80に入射し、第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。
【0307】
また、検煙領域16で発生した散乱光をシリンドリカルレンズ228により効率良く照射して発生した散乱光を受光素子80に入射することから、損失を低減して受光素子80での受光量を高めることを可能としている。
【0308】
尚、第1発光素子アレイ220を設けた第1発光光学系64で説明したが、第2発光素子アレイ230を設けた第2発光光学系72についても、配置位置・方向、照射する光の波長(所定の第2波長帯の光を発光する発光ダイオードの使用)が異なる以外は、第1発光素子アレイ220を設けた第1発光光学系64と同様となる。
【0309】
また、第8実施形は、第2実施形態と同様に第1発光光学系64、第2発光光学系72及び受光素子80が設けられ、同様の受光信号が得られることから、制御部による発光制御と受光読込制御、煙判定部、速度検出部、煙種別識別部、煙確定部、及び各機能部による処理については、第2実施形態の場合と基本的に同様であり、その説明は省略する。
【0310】
また、
図53は
図51に示した発光素子アレイの他の実施形態であり、第1発光素子アレイ240は、基板242に配列した発光素子246のレンズカバーを凸レンズとして半球レンズ248としたことを特徴とする。
【0311】
半球レンズ248は、発光素子246からの光を円柱状の光ビームとして検煙領域16に照射させるものであり、発光素子246は所定の間隔で配列されているため、第1発光光学系64は、円柱状の照射区画227が発光素子246の配置間隔に対応した所定の間隔で配列された照射領域を検煙領域16内に形成する。このため、レンズカバーを半球レンズ248とした第1発光素子アレイ240の場合にも第1実施形態と同様に、例えば火災による煙、サイズの大きい異物及びサイズの小さい異物の場合の受光信号の一例として示した
図5(A)、
図6(A)、
図7(A)のような受光信号が得られる。また、第2発光素子アレイ230についても発光素子アレイの他の実施形態は適用し得るものである。
【0312】
[t.煙の移動方向を検出可能とした第8実施形態の煙感知器]
次に、煙の移動方向の検出を可能とした第8実施形態の変形例について説明する。当該説明にあっては、煙の移動方向を検出可能とした第8実施形態による煙感知器の内部構造を平面(上面)から見た断面で示した
図54、方向検出用発光素子アレイを取り出して示した
図55、方向検出用発光素子アレイの照射領域を示した
図56を参照する。尚、
図54乃至
図56は第1方向検出用発光素子アレイを例に取り、
図55(A)は発光素子アレイを平面(上面)から見て示し、
図55(B)は発光素子アレイを右面から見て示し、
図55(C)は発光素子アレイを前面から見て示している。
【0313】
本実施形態では煙の移動方向を検出するために、
図54に示すように、
図50の第1発光光学系64の第1発光素子アレイ220を第1方向検出用発光素子アレイ2200とし、第2発光光学系72の第2発光素子アレイ230を第2方向検出用発光素子アレイ2300とし、検煙領域16の中心となる検煙点Pを通る前後方向の中心線の後側となる筐体12の外面に磁北マーカー15を設けている。それ以外の構成は、
図50で示した構成と同様であることから説明は省略する。
【0314】
図55に示すように、第1方向検出用発光素子アレイ2200は、左右方向を長手方向とした矩形の基板2202の検煙領域16に面する一面に発光素子2206が左右方向に所定幅の空きを空けて複数配列(配置)されている。また、基板2202の一面は高空間周波数領域2210と低空間周波数領域2212に基板2202の左右方向における中心を境に分け、高空間周波数領域2210には発光素子2206を小さいピッチP1となる配置間隔で配列し、低空間周波数領域2212には発光素子2206を大きいピッチP2となる配置間隔で配列している。
【0315】
ここで、発光素子2206には、例えば所定の第1波長帯の光を発光する発光ダイオード(LED)を使用して、そのレンズカバーとしてシリンドリカルレンズ2208を設け、第1方向検出用発光素子アレイをLEDアレイとしている。このため、
図56に示すように、第1方向検出用発光素子アレイ2200の発光素子2206からの光はシリンドリカルレンズ2208により一方向に平行光として照射される。尚、シリンドリカルレンズ2208は第1方向検出用発光素子アレイ2200とは別体として第1発光素子アレイ220の一面側に分離配置した構造としても良く、前述した通り、レンズカバーをシリンドリカルレンズの代わりに半球レンズとしても良い。
【0316】
また、前述した通り、煙の移動速度1~40cm/secに対応した発光素子アレイを設けた空間フィルタ機構の空間周波数を決める発光素子の配置間隔は1.0~10mmの範囲が適当であることから、例えばピッチP1を2mmとし、ピッチP2を4mmとするように発光素子2206を配列する。
【0317】
第1方向検出用発光素子アレイ2200を設けた第1発光光学系64は、
図56に示すように、第1方向検出用発光素子アレイ2200の一面に配置した発光素子2206の各々に対応して、検煙領域16内で高空間周波数領域2210に属する扇状照射区画2207と低空間周波数領域2212に属する扇状照射区画2207が各領域の発光素子2206間の空きに対応した幅の空きを空けて配列された照射領域2205を仮想的に形成している。尚、照射領域2205内の扇状照射区画2207間の空きは光が照射されない領域となる。
【0318】
このため、第1方向検出用発光素子アレイ2200の発光素子2206からの光を、シリンドリカルレンズ2208を介して検煙領域16を通過する煙(煙塊)に照射して生じる散乱光を受光素子80で受光すると、例えば第1実施形態と同様に
図15に示すような受信信号が得られる。第1方向検出用発光素子アレイ2200の発光素子2206から照射された光により生じた散乱光の受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出される。
【0319】
尚、第1方向検出用発光素子アレイ2200を設けた第1発光光学系64で説明したが、第2方向検出用発光素子アレイ2300を設けた第2発光光学系72についても、配置位置・方向、照射する光の波長(所定の第2波長帯の光を発光する発光ダイオードの使用)が異なる以外は、第1方向検出用発光素子アレイ2200を設けた第1発光光学系64と同様であり、第2方向検出用発光素子アレイ2300の発光素子から照射された光により生じた散乱光の受信信号にあっては、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は+Y方向(後向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は-Y方向(前向き)として検出される。
【0320】
従って、第8実施形態においても第2実施形態と同様に、第1方向検出用発光素子アレイ2200の発光素子2206から照射された光により生じた散乱光の受信信号に基づきX方向の移動速度ベクトルを検出し、第2方向検出用発光素子アレイ2300の発光素子から照射された光により生じた散乱光の受信信号に基づきY方向の移動速度ベクトルを検出し、X方向とY方向の移動速度ベクトルに基づき煙の移動方向(磁極の方位角度)を検出することができる。
【0321】
また、第1実施形態と同様に、磁北マーカー15を必要とすることなく、煙感知器10に対する煙の流入方向から火点が建物内のどの方向なのかを特定するようにしても良い。
【0322】
[u.本発明の変形例]
本発明による煙感知器の変形例について説明する。本発明の煙感知器は、上記の実施形態以外に、以下の変形を含むものである。
【0323】
(光学素子)
上記の第1、第3、第5及び第7実施形態で受光光学系に設けた光学素子は、遮光板に複数のスリット(開口)を所定のピッチ(間隔)で配列した物理フィルタであるレチクル、シリンドリカルレンズを配列したレンズアレイ、フレネルレンズ又は受光素子アレイとしているが、光学素子はこれらに限定されず、適宜の光学素子が使用できる。
【0324】
また、上記の第2、第4、第6及び第8実施形態での発光光学系に設けた光学素子も同様であり、遮光板に複数のスリット(開口)を所定のピッチ(間隔)で配列した物理フィルタであるレチクル、シリンドリカルレンズを配列したレンズアレイ、フレネルレンズ又は発光素子アレイ以外の適宜の光学素子が使用できる。
【0325】
(発光素子及び受光素子)
また、1つの発光素子と2つの受光素子を備えた実施形態(第1、第3、第5、第7実施形態)、及び2つの発光素子と1つ受光素子を備えた実施形態(第2、第4、第6、第8実施形態)で説明したが、2つの発光素子と2つの受光素子を備えた実施形態とすることもできる。また、第1波長帯の光の第1中心波長λ1を700nmとし、第2波長帯の光の第2中心波長λ2を450nmとしているが、これらの波長に限定されることなく、例えば第1波長帯の光を950nm帯の近赤外線光とし、第2波長帯の光を350nm帯の紫外線光としても良い。
【0326】
(検出対象確定処理)
図13に示した方向検出用レチクル280,360を設けた第1実施形態の煙感知器10の制御部46に設けられた煙種別識別部60及び煙確定部62による処理は、
図15に示した前半と後半で周期の異なる第1受光信号を所定時間積分して第1受光値A1を求め、また、前半と後半で周期の異なる第2受光信号を所定時間積分して第2受光値A2を求めることで、同様にして処理することができる。この点は、第2実施形態乃至第8実施形態の煙感知器10についても同様となる。
【0327】
(フレネルレンズ)
フレネルレンズを用いた空間フィルタ機構である第4及び第5実施形態にあっては、煙がZ方向(上下方向)に移動した場合にも時間的に変化する散乱光の受光信号が得られ、仮に煙がZ方向に移動した場合には煙の移動方向の検出が困難になることが想定されることから、リニアフレネルレンズ等を用いた空間フィルタ機構としても良い。また、フレネルレンズを用いた空間フィルタ機構であっても、煙は煙感知器が設置されている設置面(X-Y2次元面)に沿って流れるため煙のZ方向(上下方向)の移動はほぼ存在しなく、実質的に問題なく煙の移動方向を検出できる。
【0328】
(高空間周波数領域と低空間周波数領域)
第1乃至第8実施形態において、煙の移動方向の検出を可能とするために、高空間周波数領域と低空間周波数領域を持つ方向検出用のレチクル、レンズアレイフレネルレンズ、受光素子アレイ又は発光素子アレイを用いているが、配置された際の高空間周波数領域と低空間周波数領域との位置関係は逆であっても良い。
【0329】
図13に示した第1実施形態の方向検出用レチクルを例に取ると、方向検出用レチクル280は、左側に高空間周波数領域、右側に低空間周波数領域が位置するように設けられているが、左側に低空間周波数領域、右側に高空間周波数領域が位置するように設けても良い。この場合には、第1受光素子32から得られた受光信号は、前半の周期が短く後半の周期が長い場合には、煙の移動方向は-X方向(左向き)として検出され、前半の周期が長く後半の周期が短い受光信号の場合には、煙の移動方向は+X方向(右向き)として検出されることとなる。
【0330】
(その他)
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0331】
10:煙感知器
12:筐体
14:煙流入口
15:磁北マーカー
16:検煙領域
18:回路収納部
20:端子金具
22:感知器回路
24:発光素子
25:煙塊
26:第1受光光学系
28、66:第1レチクル
36、76:第2レチクル
30、38、64、74:レンズ
32:第1受光素子
34:第2受光光学系
40:第2受光素子
42:伝送線
44:電源部
46:制御部
48:伝送部
50,51:発光駆動部
52,54:受光増幅部
60:第1発光光学系
62:第1発光素子
70:第2発光光学系
72:第2発光素子
80:受光素子
100,120:第1レンズアレイ
1000,1200:第1方向検出用レンズアレイ
102,1002,122,1202,190,210,1900,2100:凸レンズ
104,1004,124,1204:シリンドリカルレンズ
106,1010,146,1410,186,1810:視野領域
108,1012,188,1812:箱形視野区画
110,130:第2レンズアレイ
1100,1300:第2方向検出用レンズアレイ
1006,1206,1406,1606,1806,2210,282:高空間周波数領域
1008,1208,1408,1608,1808,2212,284:低空間周波数領域
126,1210,166,1610,225,2205:照射領域
128,1212:箱形照射区画
140,160:第1フレネルレンズ
1400,1600:第1方向検出用フレネルレンズ
142,1402,162,1602:レンズ平面部
144,1404,164,1604:プリズム部
145,1405,165,1605:光学中心部
148,1412:円筒状視野区画
150,170:第2フレネルレンズ
1500,1700:第2方向検出用フレネルレンズ
168,1612:円筒状照射区画
180:第1受光素子アレイ
1800:第1方向検出用受光素子アレイ
182,1802,222,242,2202:基板
184,1804:受光素子
185,1805:差動増幅器
200:第2受光素子アレイ
2000:第2方向検出用受光素子アレイ
220,240:第1発光素子アレイ
2200:第1方向検出用発光素子アレイ
226,246,2206:発光素子
227,2207:扇状照射区画
228,2208:シリンドリカルレンズ
230:第2発光素子アレイ
2300:第2方向検出用発光素子アレイ
248:半球レンズ
240、660、740:発光光軸
280,360,700,780:方向検出用レチクル
320、400、800:受光光軸