(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083207
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】診断装置、制御装置、電力変換装置、診断方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240613BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077288
(22)【出願日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2022196539
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】白 晶
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 以久也
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 圭介
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501HB08
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501JJ26
5H501LL07
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL31
5H501LL35
5H501LL53
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】電動機の異常に関する診断や電動機の制御をより適切に行うことが可能な技術を提供する。
【解決手段】本開示の一実施形態に係る診断装置75は、電動機EMのd軸及びq軸の電流の波形データを取得し、d軸及びq軸の電流の波形データにおける電動機EMの回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部7511と、抽出部7511の出力に生じうる、d軸及びq軸の電流の波形データにおける特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部7512と、抑制部7512により上記の減衰及びズレの少なくとも一方が抑制された、抽出部7511の出力に基づき、電動機EMの電流の特定周波数の成分に関する特徴量を取得する特徴量取得部752と、特徴量取得部752により取得される特徴量に基づき、電動機EMの異常に関する診断を行う診断部753と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部により取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断部と、を備える、
診断装置。
【請求項2】
前記抑制部は、前記2軸の波形データに含まれる前記特定周波数の成分に起因する前記減衰、及び前記2軸の波形データに含まれる前記回転周波数の成分に起因する前記ズレの少なくとも一方を抑制する、
請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記抑制部は、前記2軸の波形データの前記回転周波数の成分を除去するフィルタ部を含み、
前記抽出部には、前記フィルタ部により前記回転周波数の成分が除去済みの前記2軸の波形データが入力される、
請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記抽出部は、前記2軸の波形データを、前記特定周波数で回転する回転座標系のデータに変換する第1の座標変換部と、前記第1の座標変換部の出力のうちの直流成分を抽出する第1のローパスフィルタ部と、を含み、
前記抑制部は、前記第1のローパスフィルタ部の出力に対して、前記特定周波数の成分の前記減衰の分を補償する補償部を含む、
請求項2又は3に記載の診断装置。
【請求項5】
前記補償部は、前記第1の座標変換部の出力に基づき、前記第1のローパスフィルタ部の出力に対して、前記特定周波数の成分の前記減衰の分を補償する、
請求項4に記載の診断装置。
【請求項6】
前記補償部は、前記第1の座標変換部の出力から、前記特定周波数の成分に由来する所定の高調波成分を抽出し、
前記取得部は、前記抽出部により抽出される前記特定周波数の成分、及び前記補償部により抽出される前記所定の高調波成分に基づき、前記特徴量を取得する、
請求項5に記載の診断装置。
【請求項7】
前記補償部は、前記2軸の波形データを、前記第1の座標変換部の場合と反対方向に前記特定周波数で回転する回転座標系のデータに変換する第2の座標変換部と、前記第2の座標変換部の出力のうちの直流成分を抽出する第2のローパスフィルタ部と、を含み、
前記取得部は、前記第1のローパスフィルタ部の出力と、前記第2のローパスフィルタ部の出力とに基づき、前記特徴量を取得する、
請求項4に記載の診断装置。
【請求項8】
前記抑制部は、前記抽出部の出力に対して、前記特定周波数の成分の前記減衰の分を補償する補償部を含み、
前記抽出部は、前記2軸の波形データにおける、所定の回転方向に対応する前記特定周波数の成分を抽出し、
前記補償部は、前記2軸の波形データにおける、前記抽出部の場合と反対の回転方向に対応する前記特定周波数の成分を抽出し、
前記取得部は、前記抽出部及び前記補償部の出力に基づき、前記特徴量を取得する、
請求項2又は3に記載の診断装置。
【請求項9】
前記抽出部は、前記2軸の波形データを入力として、前記所定の回転方向に対応する前記特定周波数の成分を出力する第1の複素バンドパスフィルタを含み、
前記抑制部は、前記2軸の波形データを入力として、前記抽出部の場合と反対の回転方向に対応する前記特定周波数の成分を出力する第2の複素バンドパスフィルタを含む、
請求項8に記載の診断装置。
【請求項10】
前記取得部は、前記物理量の前記特定周波数の成分の振幅に関する前記特徴量を取得する、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の診断装置。
【請求項11】
前記取得部は、前記抽出部の出力のベクトル長と、前記抑制部の出力のベクトル長とに基づき、前記特徴量としての、前記物理量の前記特定周波数の成分のベクトル長を取得する、
請求項10に記載の診断装置。
【請求項12】
前記診断部は、前記取得部により取得される前記特徴量が前記回転周波数に応じて変化する第1の閾値に対して相対的に大きい場合に、前記電動機に異常があると診断する、
請求項10に記載の診断装置。
【請求項13】
前記診断部は、前記取得部により取得される前記特徴量が前記第1の閾値に対して相対的に大きい状態が所定時間に対して相対的に長く継続している場合、前記電動機に異常があると診断する、
請求項12に記載の診断装置。
【請求項14】
前記診断部は、前記回転周波数が第2の閾値に対して相対的に大きい状態での前記2軸の波形データに基づき前記取得部により取得される前記特徴量を用いて、前記電動機の異常に関する診断を行う、
請求項12に記載の診断装置。
【請求項15】
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データから前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出するトラッキングフィルタ部と、
前記トラッキングフィルタ部の出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部により取得される前記特徴量に基づき、前記トラッキングフィルタ部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を考慮して、前記電動機の異常に関する診断を行う診断部と、を備える、
診断装置。
【請求項16】
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データから前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記電動機を制御する制御部と、を備える、
制御装置。
【請求項17】
電力変換装置が駆動する電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部により取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断部と、を備える、
電力変換装置。
【請求項18】
電力変換装置が駆動する電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データから前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記電動機を制御する制御部と、を備える、
電力変換装置。
【請求項19】
診断装置が、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出ステップと、
前記診断装置が、前記抽出ステップの出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制ステップと、
前記診断装置が、前記抑制ステップにより前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出ステップの出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得ステップと、
前記診断装置が、前記取得ステップで取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断ステップと、を含む、
診断方法。
【請求項20】
情報処理装置に、
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップの出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制ステップと、
前記抑制ステップにより前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出ステップの出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断ステップと、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電動機の動作に関する物理量(例えば、電動機の電流)のデータの、回転周波数と相関のある特定の周波数成分に基づき、電動機の異常に関する診断を行ったり、電動機の制御を行ったりする技術が知られている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-114895号広報
【特許文献2】特開2021-136811号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特定周波数の成分の抽出方法によっては、回転周波数の変化に合わせて、特定周波数の成分を適切に抽出することができない可能性がある。その結果、電動機の回転周波数の変化に合わせて、電動機の異常に関する診断や電動機の制御を適切に行うことができない可能性がある。
【0005】
そこで、上記課題に鑑み、電動機の異常に関する診断や電動機の制御をより適切に行うことが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一実施形態では、
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部により取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断部と、を備える、
診断装置が提供される。
【0007】
また、本開示の他の実施形態では、
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データから前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出するトラッキングフィルタ部と、
前記トラッキングフィルタ部の出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部により取得される前記特徴量に基づき、前記トラッキングフィルタ部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を考慮して、前記電動機の異常に関する診断を行う診断部と、を備える、
診断装置が提供される。
【0008】
また、本開示の更に他の実施形態では、
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データから前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記電動機を制御する制御部と、を備える、
制御装置が提供される。
【0009】
また、本開示の更に他の実施形態では、
電力変換装置が駆動する電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部により取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断部と、を備える、
電力変換装置が提供される。
【0010】
また、本開示の更に他の実施形態では、
電力変換装置が駆動する電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データから前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する抑制部と、
前記抑制部により前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出部の出力に基づき、前記電動機を制御する制御部と、を備える、
電力変換装置が提供される。
【0011】
また、本開示の更に他の実施形態では、
診断装置が、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出ステップと、
前記診断装置が、前記抽出ステップの出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方 を抑制する抑制ステップと、
前記診断装置が、前記抑制ステップにより前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出ステップの出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得ステップと、
前記診断装置が、前記取得ステップで取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断ステップと、を含む、
診断方法が提供される。
【0012】
また、本開示の更に他の実施形態では、
情報処理装置に、
電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、前記2軸の波形データにおける前記電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップの出力に生じうる、前記2軸の波形データにおける前記特定周波数の成分の減衰、及び前記特定周波数の成分のズレの少なくとも一方 を抑制する抑制ステップと、
前記抑制ステップにより前記減衰及び前記ズレの少なくとも一方が抑制された、前記抽出ステップの出力に基づき、前記物理量の前記特定周波数の成分に関する特徴量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得される前記特徴量に基づき、前記電動機の異常に関する診断を行う診断ステップと、を実行させる、
プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
上述の実施形態によれば、電動機の異常に関する診断や電動機の制御をより適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】制御回路の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】診断装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図4】比較例に係る診断装置の特定周波数成分抽出部を示す図である。
【
図5】dq座標系上の電流ベクトルの一例を示す図である。
【
図6】診断装置の特定周波数成分抽出部及び特徴量取得部の第1例を示す図である。
【
図7】診断装置の特定周波数成分抽出部及び特徴量取得部の第2例を示す図である。
【
図8】診断装置の特定周波数成分抽出部及び特徴量取得部の第3例を示す図である。
【
図9】診断装置による電動機の異常に関する診断の処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図10】電動機の電流の特定周波数の成分の振幅に関する特徴量に対して設定される、電動機の異常に関する診断のための診断基準の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0016】
[診断システムのハードウェア構成]
図1を参照して、本実施形態に係る診断システム1のハードウェア構成について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る診断システム1の一例を示す図である。
【0018】
図1に示すように、診断システム1は、電動機EMと、電力変換装置100と、回転状態センサ150と、管理装置200と、端末装置300とを含む。
【0019】
診断システム1は、電力変換装置100(後述の診断装置75)において、電動機EMの異常に関する診断を行う。
【0020】
診断システム1の診断対象の電動機EMの異常には、一時的な原因により生じる電動機EMの異常や電動機EMの累積的な原因により生じる異常(劣化異常)が含まれる。また、診断システム1の診断対象の異常には、機械的異常や電気的異常が含まれる。具体的には、診断システム1の診断対象の電動機EMの異常は、電動機EMの動作に関する物理量の波形データの、電動機EMの回転周波数に依存する(即ち、電動機EMの回転周波数と相間を有する)特定周波数の成分にその影響が表れる異常である。電動機EMの動作に関する物理量は、例えば、電動機EMの電流である。また、電動機EMの動作に関する物理量は、電動機EMの電圧や回転速度であってもよい。例えば、診断システム1の診断対象の電動機EMの機械的な異常には、例えば、軸受(ベアリング)異常等が含まれる。また、診断システム1の診断対象の電動機EMの電気的異常には、例えば、電動機EMの絶縁劣化(レアショート)等が含まれる。
【0021】
電動機EMの異常に関する診断には、例えば、電動機EMの異常の有無の診断が含まれる。また、電動機EMの異常に関する診断には、電動機EMの異常の兆候の有無の診断が含まれてもよい。また、電動機EMの異常に関する診断には、電動機EMの異常の度合いの診断が含まれてもよい。
【0022】
電動機EMは、例えば、工場に設置される生産設備や機械設備を駆動する。電動機EMは、例えば、誘導電動機や同期電動機等の交流電動機である。
【0023】
電力変換装置100は、商用電源PSから入力される三相交流電力(例えばR相、S相、及びT相)を所定の電圧や所定の周波数を有する三相交流電力(例えば、U相、V相、及びW相)に変換し、電動機EMを駆動する。
【0024】
電力変換装置100は、整流回路10と、平滑回路20と、インバータ回路30と、電流センサ40と、電圧センサ50と、ゲート駆動回路60と、制御回路70と、診断装置75と、表示部80と、通信部90とを含む。
【0025】
整流回路10は、商用電源PSから入力される三相交流電力を整流し、直流電力を出力可能に構成される。整流回路10は、正側及び負側の出力端のそれぞれが正ラインPL及び負ラインNLの一端に接続され、正ラインPL及び負ラインNLを通じて、直流電力を平滑回路20に出力することができる。例えば、
図1に示すように、整流回路10は、6つの半導体ダイオードSDを含み、上下アームを構成する2つの半導体ダイオードSDの直列接続体が3組並列接続されるブリッジ型全波整流回路である。この場合、R相、S相、及びT相の入力線は、それぞれ、3組の上下アームの中間点に接続される。
【0026】
平滑回路20は、整流回路10から出力される直流電力やインバータ回路30から回生される直流電力の脈動を抑制し、平滑化する。
【0027】
例えば、
図1に示すように、平滑回路20は、平滑コンデンサ21を含む。
【0028】
平滑コンデンサ21は、整流回路10やインバータ回路30と並列に、正ラインPL及び負ラインNLを繋ぐ経路に設けられてよい。
【0029】
平滑コンデンサ21は、適宜、充放電を繰り返しながら、整流回路10から出力される直流電力やインバータ回路30から出力(回生)される直流電力を平滑化する。
【0030】
平滑コンデンサ21は、一つであってよい。また、平滑コンデンサ21は、複数配置されてもよく、複数の平滑コンデンサ21が正ラインPL及び負ラインNLの間に並列接続されてもよいし、直列接続されてもよい。また、複数の平滑コンデンサ21は、2以上の平滑コンデンサの直列接続体が正ラインPL及び負ラインNLの間に複数並列接続される形で構成されてもよい。
【0031】
また、平滑回路20は、リアクトルを含んでもよい。
【0032】
リアクトルは、整流回路10と平滑コンデンサ21(具体的には、平滑コンデンサ21が配置される経路との分岐点)との間の正ラインPLに設けられてよい。
【0033】
リアクトルは、適宜、電流の変化を妨げるように電圧を発生させながら、整流回路10から出力される直流電力やインバータ回路30から出力(回生)される直流電力を平滑化する。
【0034】
インバータ回路30は、その正側及び負側の入力端が正ラインPL及び負ラインNLの他端に接続される。インバータ回路30は、平滑回路20から供給される直流電力を半導体スイッチSWのスイッチ動作により、所定の周波数や所定の電圧を有する三相交流電力(U相、V相、及びW相)に変換し電動機EMに出力する。半導体スイッチSWは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やHEMT(High Electron Mobility Transistor)等である。半導体スイッチSWは、例えば、ケイ素(シリコン:Si)を主材料として構成される。また、半導体スイッチSWは、ワイドバンドギャップ半導体材料を主材料として構成されてもよい。ワイドバンドギャップ半導体材料は、例えば、炭化ケイ素(シリコンカーバイド:SiC)、窒化ガリウム(ガリウムナイトライド:GaN)、酸化ガリウム(ガリウムオキサイド:Ga2O3)、炭素(ダイヤモンド:C)等である。
【0035】
例えば、
図1に示すように、インバータ回路30は、6つの半導体スイッチSWを含む。具体的には、インバータ回路30は、上下アームを構成する2つの半導体スイッチSWの直列接続体(スイッチレグ)が正ラインPL及び負ラインNLの間に3組並列接続されるブリッジ回路を含んでよい。この場合、インバータ回路30は、3組の上下アームの中間点から引き出される3本の出力線を通じて、三相交流電力を出力する。また、6つの半導体スイッチSWには、それぞれ、環流ダイオードが並列接続されてよい。
【0036】
電流センサ40は、電力変換装置100の三相(3本)の出力線のそれぞれの電流、即ち、電動機EMの三相のそれぞれの電流を検出する。電流センサ40は、例えば、ホール素子、シャント抵抗、磁気抵抗素子、フラックスゲート等を用いて電流を検出し、AD(Analog-Digital)コンバータを用いて電流の検出値(デジタル値)を得る。電流センサ40は、電動機EMの三相のそれぞれの電流の検出値に相当する信号を出力し、電流センサ40の出力信号は、制御回路70に取り込まれる。
【0037】
尚、電流センサ40は、電力変換装置100の三相の出力線のうちの任意の二相の電流のみを検出してもよい。この場合、制御回路70は、二相の電流の検出値から残りの一相の電流値を取得(演算)してよい。また、制御回路70は、例えば、直流リンク(正ラインPLや負ラインNL)の電流値と、半導体スイッチSWのスイッチングパターンとに基づき、電力変換装置100の三相の出力線の電流値を取得(演算)してもよい。この場合、制御回路70は、電圧センサ50の出力に基づき、直流リンクの電流値を取得(演算)してよい。
【0038】
電圧センサ50は、電力変換装置100の正ラインPL及び負ラインNLの間の電圧(直流リンク電圧)を検出する。電圧センサ50は、正ラインPL及び負ラインNLの間の電圧値に相当する信号を出力し、電圧センサ50の出力信号は、制御回路70に取り込まれる。
【0039】
ゲート駆動回路60は、制御回路70の制御下で、インバータ回路30の6つの半導体スイッチSWをスイッチング(ON/OFF)するための駆動信号を6つの半導体スイッチSWのそれぞれのゲート端子に出力する。
【0040】
制御回路70は、電力変換装置100に関する制御を行う。
【0041】
制御回路70の機能は、任意のハードウェア或いは任意のハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ等により実現されてよい。制御回路70は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ装置、補助記憶装置、及びインタフェース装置を含むコンピュータ等によって構成される。メモリ装置は、例えば、SRAM(Static Random Access Memory)である。補助記憶装置は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やフラッシュメモリである。インタフェース装置は、例えば、外部の記録媒体と接続する外部インタフェースや電力変換装置100の内部の他の構成要素と通信を行うための通信インタフェース等を含む。制御回路70は、例えば、補助記憶装置にインストールされるプログラムをメモリ装置にロードしCPU上で実行することにより各種機能を実現することができる。また、制御回路70は、外部インタフェースを通じて、記録媒体からプログラムを取り込みインストールしたり、通信インタフェース及び通信部90を通じて、電力変換装置100の外部機器からプログラムを取り込みインストールしたりすることができる。
【0042】
制御回路70は、例えば、電動機EMが所定の運転条件で動作するように、ゲート駆動回路60を介してインバータ回路30を制御し、電動機EMを所定の運転条件下で駆動させる。
【0043】
尚、制御回路70の機能は、電力変換装置100に搭載される複数の制御回路によって分散して実現されてもよい。
【0044】
診断装置75は、電動機EMの異常に関する診断を行う。
【0045】
診断装置75の機能は、任意のハードウェア或いは任意のハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ等により実現されてよい。診断装置75は、CPU、メモリ装置、補助記憶装置、及びインタフェース装置を含むコンピュータ等によって構成される。メモリ装置は、例えば、SRAMである。補助記憶装置は、例えば、EEPROMやフラッシュメモリである。インタフェース装置は、例えば、外部の記録媒体と接続する外部インタフェースや電力変換装置100の内部の他の構成要素と通信を行うための通信インタフェース等を含む。診断装置75は、補助記憶装置にインストールされるプログラムをメモリ装置にロードしCPU上で実行することにより各種機能を実現することができる。また、診断装置75は、外部インタフェースを通じて、記録媒体からプログラムを取り込みインストールしたり、通信インタフェース及び通信部90を通じて、電力変換装置100の外部機器からプログラムを取り込みインストールしたりすることができる。
【0046】
尚、診断装置75の機能は、電力変換装置100に搭載される複数の診断装置によって分散して実現されてもよい。また、診断装置75の機能は、制御回路70の機能の一部として組み込まれてもよい。
【0047】
表示部80は、制御回路70や診断装置75の制御下で、ユーザ(例えば、電動機EMで駆動される生産設備や機械設備が設置される工場の作業者等)に向けて電力変換装置100に関する情報を表示する。表示部80は、例えば、警告灯、電光掲示板、液晶ディスプレイ、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイ等を含む。
【0048】
通信部90は、所定の通信回線を通じて、電力変換装置100の外部機器と通信を行う。
【0049】
所定の通信回線は、例えば、一対一の通信線であってよい。また、所定の通信回線には、例えば、電動機EMにより駆動される生産設備や機械設備等が設置される施設(工場)内に構築されるフィールドネットワーク等のローカルネットワーク(LAN:Local Area Network)が含まれてよい。ローカルネットワークは、有線で構築されていてもよいし、無線で構築されていてもよいし、その双方を含んでいてもよい。また、所定の通信回線には、例えば、電動機EMにより駆動される生産設備や機械設備等が設置される施設(工場)の外部の広域ネットワーク(WAN:Wide Area Network)が含まれてもよい。広域ネットワークには、例えば、基地局を末端とする移動体通信網、通信衛星を利用する衛星通信網、インターネット網等が含まれてよい。また、所定の通信回線には、例えば、ブルートゥース(登録商標)やWiFi等の所定の無線通信規格による近距離通信回線が含まれてもよい。
【0050】
尚、通信部90の機能は、インタフェース装置の一機能として、制御回路70や診断装置75に内蔵されてもよい。
【0051】
回転状態センサ150は、例えば、電動機EMに取り付けられ、電動機EMの回転位置や回転速度を検出する。例えば、回転状態センサ150は、光学式や磁気式のエンコーダである。回転状態センサ150は、電動機EMの回転速度の検出値に相当する信号を出力し、回転状態センサ150の出力信号は、電力変換装置100の制御回路70に取り込まれる。これにより、制御回路70は、回転状態センサ150の検出信号に基づき、電動機EMの回転子の磁極位置や回転速度を把握することができる。
【0052】
管理装置200は、電力変換装置100の外部に設けられる。管理装置200は、電力変換装置100の上位装置として、電力変換装置100と通信可能に接続され、電力変換装置100及び電動機EMに関する管理を行う。
【0053】
管理装置200は、例えば、電力変換装置100から電力変換装置100や電動機EMの状態に関するデータを取得し、電力変換装置100や電動機EMの状態の監視機能に関する処理を行う。また、管理装置200は、例えば、電力変換装置100及び電動機EMが設置される工場の作業者や管理者等のユーザと、電力変換装置100との間のやり取りに関するインタフェース機能に関する処理を行う。具体的には、管理装置200は、電動機EMや電力変換装置100に関する情報をユーザに提供したり、ユーザからの入力を受け付け電力変換装置100に送信したりするための処理を行ってよい。
【0054】
管理装置200は、例えば、電動機EMで駆動される機械設備や生産設備が設置される工場等において、電力変換装置100を含むフィールドデバイスを管理するPLC(Programmable Logic Controller)等のエッジコントローラである。また、管理装置200は、例えば、工場の機械設備や生産設備等の管理用の端末装置である。管理用の端末装置は、例えば、工場等の事務所に設置されるデスクトップ型のPC(Personal Computer)等の定置型のコンピュータ端末であってよい。また、管理用の端末装置は、例えば、タブレット端末、スマートフォン、ラップトップ型のPC等の工場の管理者や作業者等が携帯可能な可搬型の端末装置(携帯端末)であってもよい。また、管理装置200は、例えば、サーバ装置である。サーバ装置は、例えば、電動機EMで駆動される生産設備や機械設備が設置される工場等の遠隔に設置されるオンプレミスサーバやクラウドサーバであってよい。また、サーバ装置は、電動機EMで電気駆動される生産設備や機械設備が設置される工場等の敷地内やその近隣の施設に設置されるエッジサーバであってもよい。
【0055】
管理装置200の機能は、任意のハードウェア或いは任意のハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ等により実現される。例えば、管理装置200は、CPU、メモリ装置、補助記憶装置、高速演算装置、インタフェース装置を含むコンピュータを中心に構成される。また、管理装置200は、入力装置及び表示装置等のユーザインタフェース機器を有してもよい。メモリ装置は、例えば、SRAMやDRAM(Dynamic Random Access Memory)等を含む。補助記憶装置は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)やEEPROMやフラッシュメモリ等を含む。高速演算装置は、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等を含む。インタフェース装置は、例えば、外部の記録媒体と接続する外部インタフェースや他の機器と通信を行うための通信インタフェース等を含む。管理装置200は、補助記憶装置にインストールされるプログラムをメモリ装置にロードしCPU上で実行することにより各種機能を実現することができる。また、管理装置200は、外部インタフェースを通じて、記録媒体からプログラムを取り込みインストールしたり、通信インタフェースを通じて、他の機器からプログラムを取り込みインストールしたりすることができる。入力装置は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等を含む。表示装置は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等を含む。
【0056】
端末装置300は、電力変換装置100の外部に設けられ、診断システム1のユーザに利用されるユーザ端末である。診断システム1のユーザは、例えば、電動機EMで駆動される生産設備や機械設備が設置される工場の管理者や作業者等である。端末装置300は、例えば、ユーザに電力変換装置100や電動機EMに関する各種情報を提供したり、ユーザから各種入力を受け付け、電力変換装置100に送信したりする。端末装置300は、管理装置200経由で電動機EMや電力変換装置100に関する情報を取得してもよいし、電力変換装置100から電動機EMや電力変換装置100に関する情報を直接取得してもよい。同様に、端末装置300は、管理装置200経由で電力変換装置100にユーザからの各種入力を送信してもよいし、電力変換装置100にユーザからの入力を直接送信してもよい。
【0057】
端末装置300は、例えば、デスクトップ型のPC等の定置型の端末装置であってもよいし、例えば、スマートフォン、タブレット端末、ラップトップ型のPC等の可搬型の端末装置(携帯端末)であってもよい。
【0058】
端末装置300の機能は、任意のハードウェア或いは任意のハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ等により実現される。例えば、端末装置300は、CPU、メモリ装置、補助記憶装置、インタフェース装置を含むコンピュータや入力装置及び表示装置等のユーザインタフェース機器を中心に構成される。メモリ装置は、例えば、SRAMやDRAM等を含む。補助記憶装置は、例えば、HDDやSSDやEEPROMやフラッシュメモリ等を含む。インタフェース装置は、例えば、外部の記録媒体と接続する外部インタフェースや他の機器と通信を行うための通信インタフェース等を含む。端末装置300は、補助記憶装置にインストールされるプログラムをメモリ装置にロードしCPU上で実行することにより各種機能を実現することができる。また、端末装置300は、外部インタフェースを通じて、記録媒体からプログラムを取り込みインストールしたり、通信インタフェースを通じて、他の機器からプログラムを取り込みインストールしたりすることができる。入力装置は、例えば、ボタンスイッチ、キーボード、マウス、タッチパネル等を含む。表示装置は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等を含む。
【0059】
[制御回路の機能構成]
次に、
図2を参照して、制御回路70の機能構成について説明する。
【0060】
図2は、制御回路70の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0061】
図2に示すように、制御回路70は、機能部として、速度調節部701と、電流検出部702と、ベクトル変換部703と、電流調節部704と、ベクトル逆変換部705と、電圧補償部706と、ゲート信号出力部707とを含む。
【0062】
速度調節部701は、電動機EMの回転速度の指令値(以下、「速度指令値」)と、電動機EMの回転速度の検出値(以下、「速度検出値」)とに基づき、その偏差をゼロに近づけるための電動機EMの電流に関する制御指令値(以下、「電流指令値」)を出力する。速度指令値は、電動機EMの所定の運転条件に応じて指定される。また、速度検出値は、回転状態センサ150から取り込まれる信号に基づき取得される。本例では、速度調節部701は、電動機EMに固定されるdq回転座標系のd軸及びq軸の電流指令を出力する。速度調節部701は、例えば、PI(Proportional Integral)制御器である。
【0063】
尚、例えば、センサレス制御が採用される場合、電動機EMの速度検出値に代えて、電動機EMの回転速度の推定値が用いられる。この場合、回転状態センサ150は、省略される。また、速度制御が採用されない場合、速度調節部701は省略される。例えば、トルク制御や電流制御が採用される場合、速度調節部701は省略される。この場合、電流指令値は、トルク制御におけるトルク指令値に基づき生成されたり、電流制御におけるU相、V相、及びW相の電流指令値に基づき生成されたりする。
【0064】
電流検出部702は、電流センサ40から取り込まれる信号に基づき、電動機EMのU相、V相、及びW相の電流検出値を取得し出力する。
【0065】
ベクトル変換部703は、電動機EMの電気位相角、及び磁極位置の情報等に基づき、電流検出部702の出力(U相、V相、及びW相の電流検出値)をdq回転座標系のd軸及びq軸の電流検出値に変換し出力する。
【0066】
電流調節部704は、d軸及びq軸の電流指令値と、d軸及びq軸の電流検出値との偏差に基づき、その偏差をゼロに近づけるための電動機EMのd軸及びq軸の電圧に関する指令値(以下、「電圧指令値」)を出力する。電流調節部704は、例えば、PI制御器である。
【0067】
ベクトル逆変換部705は、電動機EMの電気位相角、及び磁極位置の情報等に基づき、d軸及びq軸の電圧指令値を、U相、V相、及びW相の電圧指令値に変換し出力する。
【0068】
電圧補償部706は、電力変換装置100(インバータ回路30)から電動機EMに印加される電圧の電圧指令値からズレを補償するように、ベクトル逆変換部705の出力(U相、V相、及びW相)の電圧指令値を補正する。例えば、電圧補償部706は、インバータ回路30のデッドタイムに関する電圧補償のための電圧指令値の補正を行い、補正済みのU相、V相、及びW相の電圧指令値を出力する。
【0069】
尚、電圧補償部706は省略されてもよい。この場合、ゲート信号出力部707には、ベクトル逆変換部705から出力される、U相、V相、及びW相の電圧指令値がそのまま入力される。
【0070】
ゲート信号出力部707は、電圧補償部706の出力(補正済みのU相、V相、及びW相の電圧指令値)に基づき、インバータ回路30の制御に関する指令の信号(以下、「ゲート信号」)を生成しゲート駆動回路60に出力する。ゲート信号は、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号である。例えば、ゲート信号出力部707は、U相、V相、及びW相のそれぞれに対応するコンパレータを含み、コンパレータが、U相、V相、及びW相の電圧指令値のそれぞれとキャリア波と比較することによって、U相、V相、及びW相のゲート信号を出力する。これにより、制御回路70は、ゲート信号をゲート駆動回路60に出力しインバータ回路30を制御することができる。
【0071】
[診断装置の機能構成]
次に、
図3を参照して、診断装置75の機能構成について説明する。
【0072】
図3は、診断装置75の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0073】
図3に示すように、診断装置75は、機能部として、特定周波数成分抽出部751と、特徴量取得部752と、診断部753と、通知部754とを含む。
【0074】
特定周波数成分抽出部751は、制御回路70から入力される、ベクトル変換部703の出力(d軸及びq軸の電流検出値)に基づき、d軸及びq軸の電流検出値の特定周波数の成分を抽出する。例えば、特定周波数成分抽出部751は、電動機EMのd軸及びq軸の電流検出値の時系列データに基づき、電動機EMの電流の特定周波数の成分を抽出し、一定期間ごとの時系列データ(波形データ)として出力する。
【0075】
特定周波数は、電動機EMの異常に関連する周波数である。具体的には、特定周波数は、上述の如く、電動機EMの動作に関する物理量の波形データ(電動機EMの電流)に異常の影響が表れる周波数であり、電動機EMの回転周波数に依存して可変する周波数である。特定周波数は、例えば、診断の対象の異常の種類に合わせて規定され、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0076】
特徴量取得部752は、特定周波数成分抽出部751により抽出される、電動機EMの電流の特定周波数の成分のデータに基づき、電動機EMの異常に関する特徴量(以下、単に「特徴量」)を取得する。特徴量は、例えば、電動機EMの特定周波数の成分の振幅に関する特徴量(以下、便宜的に「振幅特徴量」)である。電動機EMに異常が生じると、電動機EMの特定周波数の成分の振幅が相対的に大きくなる場合があるからである。
【0077】
例えば、振幅特徴量は、電動機EMの特定周波数の成分の振幅の大きさを表す特徴量である。
【0078】
また、振幅特徴量は、電動機EMの特定周波数の成分の複数の波形ごとの振幅の大きさの度数分布に関する特徴量であってもよい。電動機EMの特定周波数の成分の複数の波形とは、電動機EMの特定周波数の成分の一定期間の波形データに含まれる、1周期分或いは半周期分に相当する複数の波形を意味する。電動機EMの特定周波数の成分の複数の波形ごとの振幅の大きさの度数分布は、例えば、振幅の大きさの予め規定される全範囲が複数の小範囲に区分され、その小範囲ごとに一定期間の波形データの振幅の大きさの度数が集計されることにより得られる。電動機EMの特定周波数の成分の複数の波形ごとの振幅の大きさは、例えば、既知の波形計数法を用いて、電動機EMの電流の特定周波数の成分の時系列データから取得される。波形計数法は、例えば、極大極小法である。また、波形計数法は、最大値最小値法や振幅法やレベルクロッシング法やレンジベア法であってもよい。また、波形計数法は、レインフロー法であってもよい。
【0079】
電動機EMの特定周波数の成分の複数の波形ごとの振幅の大きさの度数分布に関する特徴量は、例えば、基準となる度数分布に対する乖離度合いを表す評価値である。評価値は、例えば、所定基準以上の或いは所定基準を超える振幅の大きさの度数の合計値である。また、評価値は、所定基準以上の或いは所定基準を超える振幅の大きさに対応する小範囲ごとに規定される度数の閾値を前提として、その小範囲ごとの閾値を超えている度数分の合計値であってもよい。また、評価値は、例えば、基準となる度数分布を表す基準データと、実際の度数分布のデータとの間のパターンマッチングにより得られる、基準データと実際のデータとの間の乖離度合いを表す評価値であってもよい。
【0080】
診断部753は、特徴量取得部752により取得される特徴量に基づき、電動機EMの異常に関する診断を行う。
【0081】
例えば、診断部753は、特徴量が、電動機EMの回転周波数に応じて変化する所定基準に対して相対的に大きい場合に、電動機EMの異常があると診断する。また、診断部753は、特徴量がその所定基準より大きい状態がある程度の期間で継続している場合に、電動機EMの異常があると診断してもよい。
【0082】
通知部754は、診断部753による診断結果をユーザに通知する。
【0083】
例えば、通知部754は、表示部80に診断結果に関する情報を表示する。また、通知部754は、通信部90を通じて、診断結果に関する情報を含む信号を管理装置200や端末装置300に送信してもよい。これにより、通知部754は、管理装置200や端末装置300を通じて、ユーザに診断結果を通知することができる。
【0084】
尚、診断結果に関する情報は、電力変換装置100(通信部90)から管理装置200を経由して端末装置300に送信されてもよい。
【0085】
[比較例に係る特定周波数成分抽出部]
次に、
図4、
図5を参照して、比較例に係る特定周波数成分抽出部751cについて説明する。
【0086】
比較例では、特定周波数が電気角で表される回転周波数ωの2倍の周波数(2ω)である場合を例示する。また、本例では、簡単のため、d軸及びq軸の電流検出値d,qが回転周波数ωの成分(1倍成分/直流成分)、及び回転周波数ωの2倍成分(2次成分)によって構成され、これらの成分の初期位相差がゼロ(0)である前提で説明を行う。以下、後述の本実施形態に係る特定周波数成分抽出部751の第1例~第3例についても同様である。
【0087】
図4は、比較例に係る診断装置の特定周波数成分抽出部751cを示す図である。
図5は、dq座標系上の電流ベクトルの一例を示す図である。
【0088】
図4に示すように、特定周波数成分抽出部751cは、d軸及びq軸の電流検出値d,qから特定周波数の成分(本例では、回転周波数ωの2倍成分)のd軸及びq軸の電流検出値d
2′,q
2′を抽出する。特定周波数成分抽出部751cは、トラッキングフィルタTFを含む。
【0089】
例えば、
図5に示すように、電流検出値d,qは、以下の式(1)で表される。
【0090】
【0091】
尚、d1,q1は、それぞれ、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの成分(1倍成分/直流成分)である。d2,q2は、それぞれ、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分である。r1,αは、それぞれ、d軸の電流検出値dにおける回転周波数ωの成分(1倍成分/直流成分)のベクトル長及び位相角である。r2,βは、それぞれ、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のベクトル長及び位相角である。
【0092】
トラッキングフィルタTFは、座標変換部TF1と、ローパスフィルタ部TF2と、逆座標変換部TF3とを含む。
【0093】
座標変換部TF1は、以下の式(5),(6)に示すように、d軸及びq軸の電流検出値d,qを電動機EMの回転周波数ωの2倍(2ω)で正の回転方向に回転する回転座標系上の直交2軸の電流検出値q12,d12に変換する。本例では、正の回転方向は、回転周波数ωと同じ回転方向を意味し、負の回転方向は、回転周波数ωの回転方向と反対方向を意味し、以下、同様の意味で用いる。
【0094】
【0095】
式(5),(6)に、式(1),(2)を代入することにより、電流検出値q12,d12は、以下の式(7),(8)で表される。
【0096】
【0097】
式(8)の第1項は、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分から抽出される直流成分である。
【0098】
式(7)の第1項、及び式(8)の第2項は、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分に由来する回転周波数ωの4倍成分である。d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分の振幅d2A,q2Aが同じ値である場合、式(7)の第1項、及び式(8)の第2項は表れない。
【0099】
式(7)の第2項、及び式(8)の第3項は、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの1倍成分(直流成分)に由来する回転周波数ωの2倍成分である。
【0100】
ローパスフィルタ部TF2は、座標変換部TF1の出力(電流検出値q12,d12)を通過させる。これにより、ローパスフィルタ部TF2からは、座標変換部TF1の出力のうちの直流成分以外の成分が減衰された電流検出値d12lpf,q12lpfが出力される。具体的には、ローパスフィルタ部TF2の出力(電流検出値d12lpf,q12lpf)は、以下の式(9),(10)で表される。
【0101】
【0102】
尚、ωcは、ローパスフィルタ部TF2のカットオフ周波数である。式(11)は、式(7)の第2項及び式(8)の第3項のローパスフィルタ部TF2による減衰後の振幅r1′を表す。
【0103】
式(9),(10)に示すように、ローパスフィルタ部TF2によって、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分に由来する、式(7)の第1項、及び式(8)の第2項が除去される。そのため、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分に対応する項は、式(10)の第1項のみとなり、その結果、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のベクトル長が式(8)の第1項まで減衰する。特に、振幅d2A,q2Aの差が大きくなるほど、より顕著に減衰することになる。
【0104】
また、ローパスフィルタ部TF2によって、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの1倍成分に由来する、式(7)の第2項及び式(8)の第3項は、式(9)、及び式(10)の第2項に減衰される。
【0105】
しかし、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの1倍成分のベクトル長r1が2倍成分のベクトル長r2よりもはるかに大きい場合がありうる。この場合、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分に対応する、式(10)の第1項との比較において、式(9)及び式(10)の第2項が十分に減衰されない可能性がある。
【0106】
逆座標変換部TF3は、式(13),(14)に示すように、ローパスフィルタ部TF2の出力(電流検出値d12lpf,q12lpf)を、d軸及びq軸の電流検出値d2′,q2′に変換する。
【0107】
【0108】
式(13),(14)に、式(9),(10)を代入することにより、電流検出値d2′,q2′は、以下の式(15),(16)で表される。
【0109】
【0110】
式(15),(16)の第1項は、トラッキングフィルタTFで抽出される、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分に対応する。上述の如く、式(7)の第1項、及び式(8)の第2項がローパスフィルタ部TF2で除去される。そのため、トラッキングフィルタTFで抽出される、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のベクトル長は、そのd軸及びq軸のそれぞれの振幅d2A,q2Aの平均値まで減衰してしまう。以下、この問題を「第1の問題」と称する場合がある。
【0111】
また、式(15),(16)の第2項は、ローパスフィルタ部TF2で減衰されるものの完全には除去されない、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの1倍成分(直流成分)に対応する。上述の如く、d軸及びq軸の電流検出値d,qにおける回転周波数ωの1倍成分のベクトル長r1が2倍成分のベクトル長r2よりもはるかに大きい場合、振幅r1′が式(15),(16)の第1項の振幅に対して十分に小さくならない可能性がある。そのため、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分の実際値と、電流検出値d2′,q2′との間の周波数や位相のズレが大きくなる可能性がある。以下、この問題を「第2の問題」と称する場合がある。
【0112】
よって、例えば、トラッキングフィルタTFの出力(電流検出値d2′,q2′)を用いて、電動機EMの回転周波数ωの2倍成分に関する特徴量が取得される場合、電動機EMの異常に関する診断の基準を適切に決定できない可能性がある。また、仮に、トラッキングフィルタTFの出力における上記の問題(第1の問題及び第2の問題)を考慮せずに診断の基準が設定された場合、誤った診断結果が出力されてしまう可能性がある。つまり、トラッキングフィルタTFの出力(電流検出値d2′,q2′)を用いて、電動機EMの回転周波数ωの2倍成分に関する特徴量が取得される場合、診断装置は、電動機EMの異常に関する診断を適切に行うことができない可能性がある。
【0113】
[特定周波数成分抽出部の具体例]
次に、
図6~
図8を参照して、本実施形態に係る特定周波数成分抽出部751の具体例について説明する。
【0114】
<第1例>
図6は、診断装置75の特定周波数成分抽出部751及び特徴量取得部752の第1例を示す図である。
【0115】
図6に示すように、特定周波数成分抽出部751は、抽出部7511と、抑制部7512とを含む。
【0116】
抽出部7511は、電流検出値d,qから回転周波数ωの2倍成分を抽出する。具体的には、抽出部7511は、電流検出値d,qから回転周波数ωの2倍成分のうちの正の回転方向に対応する回転周波数ωの2倍成分(以下、「+2倍成分」)を抽出する。抽出部7511は、座標変換部7511aと、ローパスフィルタ部7511bとを含む。
【0117】
抑制部7512は、抽出部7511(ローパスフィルタ部7511b)の出力に対する、上記の第1の問題及び第2の問題の影響を抑制する。抑制部7512は、ハイパスフィルタ部7512aと、補償部7512bとを含む。
【0118】
ハイパスフィルタ部7512aは、電流検出値d,qを通過させ、それぞれの直流成分(回転周波数ωの1倍成分)を除去し、電流検出値dhpf,qhpfを出力する。これにより、ハイパスフィルタ部7512aは、抽出部7511(ローパスフィルタ部7511b)の出力に対する、上記の第2の問題の影響を抑制(除去)することができる。本例では、ハイパスフィルタ部7512aは、上記の式(1),(2)で表される電流検出値d,qの直流成分(第1項)を除去し、以下の式(17),(18)で表されるように、回転周波数ωの2倍成分に相当する電流検出値dhpf,qhpfを出力する。
【0119】
【0120】
座標変換部7511aは、ハイパスフィルタ部7512aの出力(電流検出値dhpf,qhpf)を、電動機EMの回転周波数ωの2倍で正の回転方向に回転する回転座標系上の直交2軸の電流検出値q12,d12に変換する。
【0121】
座標変換部7511aの構成は、上記のトラッキングフィルタTFの座標変換部TF1と同じである。そのため、式(5),(6)の電流検出値d,qを電流検出値dhpf,qhpfに置換した以下の式(19),(20)が成立する。
【0122】
【0123】
式(19),(20)に、式(17),(18)を代入し整理すると、以下の式(21),(22)が成立する。
【0124】
【0125】
ローパスフィルタ部7511bは、座標変換部7511aの出力(電流検出値d12,q12)の直流成分以外を減衰させ、即ち、直流成分を抽出し、電流検出値d12lpf,q12lpfを出力する。本例では、ローパスフィルタ部7511bは、式(21),(22)の回転周波数ωの4倍成分を除去することができる。そのため、ローパスフィルタ部7511bの出力(電流検出値d12lpf,q12lpf)は、以下の式(23),(24)で表される。
【0126】
【0127】
尚、初期位相差が0でない場合、電流検出値d12lpfは、ゼロ(0)にはならない。
【0128】
補償部7512bは、抽出部7511(ローパスフィルタ部7511b)の出力に対して、上記の第1の問題による減衰分、即ち、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分の振幅の減衰分を補償する。補償部7512bは、ハイパスフィルタ部7512b1と、座標変換部7512b2と、ローパスフィルタ部7512b3とを含む。
【0129】
ハイパスフィルタ部7512b1は、座標変換部7511aの出力(電流検出値d12,q12)を通過させ、直流成分の成分を除去する。本例では、ハイパスフィルタ部7512b1によって、式(22)の直流成分(第1項)が除去され、ハイパスフィルタ部7512b1の出力(電流検出値d12hpf,q12hpf)は、以下の式(25),(26)で表される。
【0130】
【0131】
これにより、ハイパスフィルタ部7512b1は、ローパスフィルタ部7511bで除去される回転周波数ωの4倍成分(上記の式(7)の第1項、及び式(8)の第2項)を抽出することができる。
【0132】
座標変換部7512b2は、ハイパスフィルタ部7512aの出力を、電動機EMの回転周波数ωの4倍で正の回転方向に回転する回転座標系上の直交2軸の電流検出値q23,d23に変換する。具体的には、座標変換部7512b2は、以下の式(27),(28)に示すように、電流検出値d12lpf、及び電流検出値q12lpfの反転値を、電動機EMの回転周波数ωの4倍で正の回転方向に回転する回転座標系上の直交2軸の電流検出値d23,q23に変換する。
【0133】
【0134】
式(25),(26)を式(27),(28)に代入し整理すると、電流検出値d23,q23は、以下の式(29),(30)で表される。
【0135】
【0136】
ローパスフィルタ部7512b3は、座標変換部7512b2の出力(電流検出値d23,q23)の直流成分以外を減衰させて、即ち、直流成分を抽出して電流検出値d23lpf,q23lpfを出力する。これにより、ローパスフィルタ部7512b3は、電流検出値d23,q23から、電流検出値d、qにおける回転周波数ωの2倍成分に対応する直流成分を抽出することができる。
【0137】
式(29),(30)に示すように、本例では、直流成分のみしか含まれない。そのため、以下の式(31),(32)に示すように、その直流成分がそのまま電流検出値d23lpf,q23lpfとして出力される。
【0138】
【0139】
尚、初期位相差が0でない場合、電流検出値d23,d23lpfは、ゼロ(0)にはならない。
【0140】
特定周波数成分抽出部751は、抽出部7511の出力(電流検出値d12lpf,q12lpf)と、補償部7512bの出力(電流検出値d23lpf,q23lpf)を特徴量取得部752に出力する。
【0141】
特徴量取得部752は、振幅特徴量として、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のベクトル長r2′を演算する。特徴量取得部752は、ベクトル長演算部7521~7523を含む。
【0142】
ベクトル長演算部7521は、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のうちの抽出部7511による抽出分に対応する電流検出値d12lpf,q12lpfのベクトル長r12を演算する。
【0143】
ベクトル長演算部7522は、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のうちの抽出部7511での減衰分に対応する電流検出値d23lpf,q23lpfのベクトル長r23を演算する。
【0144】
ベクトル長演算部7523は、ベクトル長演算部7521,7522の出力に基づき、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のベクトル長r2′を演算する。本例では、ベクトル長r2′は、式(23),(24),(31),(32)から以下の式(33)のように表される。
【0145】
【0146】
このように、本例では、抽出部7511は、電流検出値d,qをハイパスフィルタ部7512aに通過させた後の電流検出値dhpf,qhpfから、電流検出値d,qにおける回転周波数ωと相関を有する特定周波数の成分を抽出する。これにより、抽出部7511において、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの1倍成分(直流成分)が十分に減衰されず、抽出部7511の出力が実際の特定周波数の成分から大きくずれてしまうような事態を抑制することができる。
【0147】
また、本例では、補償部7512bは、座標変換部7511aでの座標変換により生じ且つローパスフィルタ部7511bにより除去される、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分に対応する電流検出値d23lpf、q23lpfを出力する。これにより、特定周波数成分抽出部751は、補償部7512bの出力によって、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分のうちの抽出部7511での減衰分を補償することができる。
【0148】
そのため、診断装置75のユーザは、例えば、特定周波数成分抽出部751の出力から取得される、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分に関する特徴量に関して、より適切な診断基準を設定することができる。よって、診断装置75は、電動機EMに関する異常をより適切に診断することができる。
【0149】
<第2例>
図7は、診断装置75の特定周波数成分抽出部751及び特徴量取得部752の第2例を示す図である。
【0150】
以下、上述の第1例と同じ或いは対応する構成には同一の符号を付し、上述の第1例と異なる内容を中心に説明すると共に、上述の第1例と同じ或いは対応する内容の説明を省略する場合がある。
【0151】
本例に係る特定周波数成分抽出部751は、補償部7512bが電流検出値d,qから回転周波数ωの2倍成分のうちの正の回転方向及び負の回転方向の双方に対応する回転周波数ωの2倍成分を抽出する点で上述の第1例と異なり、他の点で上述の第1例と同じであってよい。
【0152】
図7に示すように、特定周波数成分抽出部751は、上述の第1例と同様、抽出部7511と、抑制部7512とを含む。
【0153】
抑制部7512は、上述の第1例と同様、ハイパスフィルタ部7512aと、補償部7512bとを含む。
【0154】
本例では、補償部7512bは、電流検出値d,qから回転周波数ωの2倍成分のうちの負の回転方向に対応する回転周波数ωの2倍成分(以下、「-2倍成分」)を抽出する。補償部7512bは、座標変換部7512b4と、ローパスフィルタ部7512b5とを含む。
【0155】
座標変換部7512b4は、ハイパスフィルタ部7512aの出力(電流検出値dhpf,qhpf)を、電動機EMの回転周波数ωの2倍で負の回転方向に回転する回転座標系上の直交2軸の電流検出値q23′,d23′に変換する。本例では、座標変換部7512b4は、座標変換部7511aと同じ構成を有し、座標変換部7511aに対して、電流検出値dhpf,qhpfの入力が入れ替えられる。つまり、座標変換部7512b4では、座標変換部7511aにおける電流検出値dhpfの入力箇所には、電流検出値qhpfが入力され、座標変換部7511aにおける電流検出値qhpfの入力箇所には、電流検出値dhpfが入力される。これにより、診断装置75は、例えば、座標変換部7511a及び座標変換部7512b4の機能を同じプログラムによって実現することができる。電流検出値q23′,d23′以下の式(34),(35)で表される。
【0156】
【0157】
式(34),(35)に、上述の式(17),(18)を代入し整理すると、以下の式(36),(37)が成立する。
【0158】
【0159】
ローパスフィルタ部7512b5は、座標変換部7512b4の出力(電流検出値q23′,d23′)の直流成分以外を減衰させ、即ち、直流成分を抽出し、電流検出値d23lpf′,q23lpf′を出力する。本例では、ローパスフィルタ部7512b5は、式(36),(37)の回転周波数ωの4倍成分、即ち、式(36)の第1項、及び式(37)の第2項を除去することができる。そのため、ローパスフィルタ部7511bの出力(電流検出値d23lpf′,q23lpf′)は、以下の式(38),(39)で表される。
【0160】
【0161】
尚、初期位相差が0でない場合、電流検出値d23lpf′は、ゼロ(0)にはならない。
【0162】
特定周波数成分抽出部751は、上述の第1例と同様、抽出部7511の出力(電流検出値d12lpf,q12lpf)と、補償部7512bの出力(電流検出値d23lpf′,q23lpf′)を特徴量取得部752に出力する。
【0163】
ここで、上述の式(31),(32)と式(38),(39)を比較すると、電流検出値d23lpf′,q23lpf′は、電流検出値d23lpf,q23lpfと等しい。つまり、補償部7512bは、上述の第1例と同様、抽出部7511の出力に対して、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分の減衰分を補償することができる。
【0164】
このように、本例では、補償部7512bは、電流検出値d,qにおける回転周波数ωと相関を有する特定周波数の成分のうちの負の回転方向に対応する負の特定周波数の成分の電流検出値d23lpf′,q23lpf′を抽出する。これにより、特定周波数成分抽出部751は、補償部7512bの出力によって、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分のうちの正の特定周波数の成分に加えて、負の特定周波数の成分を取得することができる。そのため、特定周波数成分抽出部751は、補償部7512bの出力によって、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分のうちの抽出部7511での減衰分を補償することができる。よって、診断装置75は、上述の第1例と同様、電動機EMに関する異常をより適切に診断することができる。
【0165】
また、本例では、補償部7512bは、より簡易な演算によって、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分のうちの抽出部7511での減衰分を補償することができる。そのため、診断装置75は、電動機EMに関する異常の診断についての処理負荷の軽減やハードウェア構成の簡素化を図ることができる。
【0166】
また、本例では、補償部7512bの演算処理の過程において、物理量(電流検出値)の周波数帯が高い方向に変化することがない。そのため、診断範囲の拡大やセンサに必要な性能の低減等を図ることができる。
【0167】
<第3例>
図8は、診断装置75の特定周波数成分抽出部751及び特徴量取得部752の第3例を示す図である。
【0168】
以下、上述の第1例、第2例と同じ或いは対応する構成には同一の符号を付し、上述の第1例、第2例と異なる内容を中心に説明を行うと共に、上述の第1例、第2例と同じ或いは対応する内容の説明を省略する場合がある。
【0169】
本例に係る特定周波数成分抽出部751は、抽出部7511及び補償部7512bが複素バンドパスフィルタとして構成される点で上述の第2例と異なり、他の点で上述の第2例と同じであってよい。
【0170】
図8に示すように、特定周波数成分抽出部751は、上述の第1例、第2例と同様、抽出部7511と、抑制部7512とを含む。
【0171】
抽出部7511は、上述の第1例、第2例と同様、電流検出値d,qから、正の回転方向に対応する回転周波数ωの2倍成分(回転周波数ωの+2倍成分)を抽出する。具体的には、抽出部7511は、ハイパスフィルタ部7512aを通過後の電流検出値d,q、即ち、電流検出値dhpf,qhpfから回転周波数ωの+2倍成分を抽出する。
【0172】
本例では、抽出部7511は、2入力2出力の複素バンドパスフィルタBPF1を含む。具体的には、複素バンドパスフィルタBPF1は、中心周波数ωsが正の回転方向に対応する回転周波数ωの2倍(即ち、2ω)に設定され、電流検出値dhpf,qhpfの入力に対して電流検出値d12bpf,q12bpfを出力する。これにより、抽出部7511は、ローパスフィルタ(高周波側)のカットオフ周波数aが適宜設定されることにより、電流検出値dhpf,qhpfにおける、中心周波数ωsに対応する回転周波数ωの+2倍成分を抽出することができる。
【0173】
本例では、補償部7512bは、2入力2出力の複素バンドパスフィルタBPF2を含む。具体的には、複素バンドパスフィルタBPF2は、中心周波数ωsが負の回転方向に対応する回転周波数ωの2倍(即ち、-2ω)に設定され、電流検出値dhpf,qhpfの入力に対して電流検出値d23bpf,q23bpfを出力する。これにより、補償部7512bは、ローパスフィルタ(高周波側)のカットオフ周波数aが適宜設定されることにより、電流検出値dhpf,qhpfにおける回転周波数ωの-2倍成分を抽出することができる。
【0174】
特定周波数成分抽出部751は、上述の第1例、第2例と同様、抽出部7511の出力(電流検出値d12bpf,q12bpf)と、補償部7512bの出力(電流検出値d23bpf,q23bpf)を特徴量取得部752に出力する。
【0175】
このように、本例では、補償部7512bは、上述の第2例と同様、電流検出値d,qにおける回転周波数ωと相関を有する特定周波数の成分のうちの負の回転方向に対応する負の特定周波数の成分の電流検出値d23lpf′,q23lpf′を抽出する。そのため、上述の第2例と同様の作用・効果を奏する。
【0176】
また、本例では、抽出部7511及び補償部7512bは、それぞれ、複素バンドパスフィルタBPF1,BPF2を含む。そのため、抽出部7511及び補償部7512bは、三角関数を用いた座標変換等の演算処理を行う必要がなくなる。そのため、診断装置75は、電動機EMに関する異常の診断についての処理負荷を大きく軽減することができる。
【0177】
[電動機の異常に関する診断の処理]
次に、
図9、
図10を参照して、診断装置75による電動機EMの異常に関する診断処理について説明する。
【0178】
図9は、診断装置75による電動機EMの異常に関する診断の処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図10は、電動機EMの電流の特定周波数の成分の振幅に関する特徴量(振幅特徴量)に対して設定される、電動機EMの異常に関する診断のため診断基準の一例を表す図である。
【0179】
本フローチャートは、例えば、電力変換装置100の運転中(電源オンから電源オフまでの期間)において、一定の周期Tsごとに繰り返し実行される。
【0180】
本フローチャートでは、積算タイマ(時間t)及び異常ステータスが利用される。時間t及び異常ステータスは、それぞれ、電力変換装置100の電源オン時にゼロ(0)の状態及びクリアの状態に初期化される。
【0181】
図9に示すように、ステップS102にて、特定周波数成分抽出部751は、一定周期のd軸及びq軸の電流検出値d,qに基づき、電流検出値d,qにおける特定周波数の成分を抽出する。特定周波数の成分は、例えば、回転周波数ωの2倍(2ω)成分である。
【0182】
診断装置75は、ステップS102の処理が完了すると、ステップS104に進む。
【0183】
ステップS104にて、特徴量取得部752は、振幅特徴量として、ステップS102で取得された、電流検出値d,qの特定周波数の成分のベクトル長rを取得する。ベクトル長rは、例えば、電流検出値d,qにおける回転周波数ωの2倍成分のベクトル長r2′である。
【0184】
診断装置75は、ステップS104の処理が完了すると、ステップS106に進む。
【0185】
ステップS106にて、診断部753は、電動機EMの回転周波数ωが所定の閾値ωth(>0)より大きいか否かを判定する。閾値ωthは、電動機EMの異常に関する診断を行うことが可能な電動機EMの回転周波数ωの最小値として予め規定される。診断部753は、電動機EMの回転周波数ωが閾値ωthより大きい場合、ステップS108に進み、それ以外の場合、ステップS116に進む。
【0186】
ステップS108にて、診断部753は、ステップS104で取得された、電流検出値d,qの特定周波数の成分のベクトル長rが所定の閾値rth(>0)より大きいか否かを判定する。診断部753は、ベクトル長rが閾値rthより大きい場合、ステップS110に進み、それ以外の場合、ステップS116に進む。
【0187】
閾値r
thは、電動機EMが異常である場合のベクトル長rの最小値に相当し、電動機EMの回転周波数ωに応じて変化する。例えば、
図10に示すように、閾値r
thは、回転周波数ωが大きくなるほど大きくなるように設定される。閾値r
thは、例えば、電動機EMの異常を模擬した実験やコンピュータシミュレーションを通じて予め規定される。
【0188】
ステップS110にて、診断部753は、時間tを積算する。例えば、診断部753は、時間tに対して、フローチャートの周期分を積算する(t=t+Ts)。また、診断部753は、カウンタとしての時間tを1だけインクリメントする形で時間tを積算してもよい(t=t+1)。
【0189】
診断装置75は、ステップS110の処理が完了すると、ステップS112に進む。
【0190】
ステップS112にて、診断部753は、時間tが所定の閾値tth(>0)より大きいか否かを判定する。診断部753は、時間tが閾値tthより大きい場合、ステップS114に進み、それ以外の場合、ステップS118に進む。
【0191】
閾値tthは、ベクトル長rが閾値rthより大きい状態が一時的に発生しているのではなく、継続して維持されていると判断可能な最低限の時間として予め規定される。
【0192】
診断装置75は、ステップS112の処理が完了すると、ステップS114に進む。
【0193】
ステップS114にて、診断部753は、電動機EMに異常があると診断し、異常ステータスをセットする。つまり、診断部753は、回転周波数ωが閾値ωthより大きく且つベクトル長rが閾値rthより大きい状態が閾値tthを超える程度に継続している場合、電動機EMに異常があると診断する。
【0194】
通知部754は、一定の周期ごとに、異常ステータスのデータを参照する。これにより、診断部753により電動機EMに異常があると診断される場合に、表示部80等を通じて電動機EMの異常をユーザに通知することができる。
【0195】
診断装置75は、ステップS114の処理が完了すると、今回のフローチャートの処理を終了する。
【0196】
一方、ステップS116にて、診断部753は、時間tをゼロ(0)にリセットする。
【0197】
診断装置75は、ステップS116の処理が完了すると、ステップS118に進む。
【0198】
ステップS118にて、診断部753は、電動機EMは、正常であると診断し、異常ステータスをクリアする。これにより、通知部754は、異常ステータスがクリア状態である場合、電動機EMに異常がない(正常である)と判断することができる。また、通知部754は、異常ステータスがセットされている状態からクリアされた場合、電動機EMの異常が解消されたと判断し、電動機EMに異常がある旨のユーザへの通知を停止することができる。
【0199】
診断装置75は、ステップS118の処理が完了すると、今回のフローチャートの処理を終了する。
【0200】
このように、診断装置75は、特定周波数成分抽出部751により抽出される、電動機EMの電流検出値d,qの特定周波数の成分のベクトル長rが閾値rthより大きい場合に、電動機EMに異常があると診断する。これにより、診断装置75は、ベクトル長rが正常状態に比して大きい異常状態を把握し、電動機EMに異常があると診断することができる。
【0201】
また、診断装置75は、電動機EMの電流検出値d,qの特定周波数の成分のベクトル長rが閾値rthより大きい状態が、時間tが閾値tthを超える程度に継続している場合に、電動機EMに異常があると診断する。これにより、診断装置75は、例えば、電動機EMの異常とは関係なく、一時的にベクトル長rが閾値rthより大きくなってしまった状態を電動機EMの異常状態から排除して、電動機EMの異常の有無の診断を行うことができる。そのため、診断装置75は、誤診断を抑制し、電動機EMの異常の有無の診断の精度を向上させることができる。
【0202】
尚、簡易的に、ステップS106の処理、及びステップS110,S112,S116の処理の少なくとも一方が省略されてもよい。
【0203】
[他の実施形態]
次に、他の実施形態について説明する。
【0204】
上述の実施形態には、適宜変形や変更が加えられてもよい。
【0205】
例えば、上述の実施形態では、診断装置75は、上記の第1の問題及び第2の問題の何れか一方の影響のみを抑制してもよい。例えば、診断装置75において、簡易的に第2の問題の影響のみを抑制する場合、補償部7512bが省略されてもよいし、簡易的に第1の問題の影響のみを抑制する場合、ハイパスフィルタ部7512aが省略されてもよい。
【0206】
また、上述の第1例、第2例やその変形・変更の例では、特定周波数成分抽出部751は、上述の第3例と同様、d軸及びq軸の電流検出値の特定周波数の成分の波形データを出力してもよい。例えば、上述の第1例やその変形・変更の例では、特定周波数成分抽出部751は、電流検出値d12lpf,q12lpf、及び電流検出値d23lpf,d23lpfに基づき、dq座標系への座標変換を適宜行うことにより、d軸及びq軸の電流検出値の特定周波数の成分の波形データを出力してもよい。同様に、上述の第2例やその変形例では、特定周波数成分抽出部751は、電流検出値d12lpf,q12lpf、及び電流検出値d23lpf′,d23lpf′に基づき、dq座標系への座標変換を適宜行うことにより、d軸及びq軸の電流検出値の特定周波数の成分の波形データを出力してもよい。
【0207】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、診断装置75は、電動機EMの互いに異なる回転周波数域で取得される、d軸及びq軸の電流検出値の複数の波形データを用いて、電動機EMの異常に関する診断を行ってもよい。これにより、診断装置75は、電動機EMの互いに異なる回転周波数域に対応する複数の波形データのそれぞれから得られる特徴量を用いて、総合的に電動機EMの異常に関する診断を行うことができる。そのため、例えば、外的要因によって電動機EMの電流のある周波数の成分の特徴量が電動機EMの異常と診断可能な状態にある場合に、ある回転周波数域で特定周波数がその周波数と重複していても、他の回転周波数域からその周波数を外すことができる。よって、診断装置75は、外的要因による電動機EMへの影響を電動機EMの異常と誤診断するような事態を抑制し、電動機EMの異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0208】
この場合、診断装置75は、段階的に変化する電動機EMの回転周波数の変化に応じて、複数の波形データを取得してもよいし、連続的に変化する電動機EMの回転周波数の変化に応じて、複数の波形データを取得してもよい。後者の場合、診断装置75は、電動機EMの加速中或いは減速中に複数の波形データを取得してもよい。また、診断装置75は、制御回路70の制御下で電動機EMの回転周波数を変化させるタイミングに合わせて、複数の波形データを取得してもよいし、制御回路70を制御し、電動機EMの回転周波数を意図的に変化させて複数の波形データを取得してもよい。前者の場合、例えば、診断装置75は、電動機EMの起動時に、回転周波数がゼロ(0)から加速する場合や電動機EMの稼働停止時に、回転周波数がゼロ(0)に向けて減速する場合に、複数の波形データを取得する。
【0209】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、診断装置75は、電動機EMのd軸及びq軸の電流検出値に代えて、電動機EMのα軸及びβ軸の電流検出値を用いて、電動機EMの異常に関する診断を行ってもよい。この場合、診断装置75は、ベクトル変換部703のd軸及びq軸の電流検出値への変換の演算の過程で算出されるα軸及びβ軸の電流検出値を利用することができる。
【0210】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、診断装置75は、電動機EMの電流に代えて、或いは、加えて、電動機EMの電圧、有効電力、無効電力等の検出値や推定値を用いて、電動機EMの異常に関する診断を行ってもよい。即ち、電動機EMの動作に関する物理量は、電動機EMの電圧や回転速度やトルク等であってもよい。
【0211】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、診断装置75は、特定周波数成分抽出部751に代えて、比較例のトラッキングフィルタTFを採用する一方で、上記の第1の問題及び第2の問題を考慮した診断基準を用いるようにしてもよい。例えば、上記の第1の問題に起因する、電動機EMの電流の特定周波数の成分の減衰、及び第2の問題に起因する、電動機EMの電流の特定周波数の成分のズレを考慮して、特徴量に対する閾値等の診断基準が予め規定される。
【0212】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、電力変換装置100は、商用電源PSから入力される三相交流電力に代えて、直流電源から入力される電力を用いて、電動機EMの駆動電力を生成し出力してもよい。この場合、例えば、直流電源から入力される直流電圧は、正ラインPL及び負ラインNLの間に印加される。また、この場合、整流回路10は省略されてもよい。
【0213】
また、上述の実施形態やその変形・変更の例では、電力変換装置100は、R相、S相、及びT相の三相交流の電力を、直接、U相、V相、及びW相の三相交流の電力に変換可能なマトリクスコンバータであってもよい。
【0214】
また、上述の実施形態や変形・変更の例では、診断装置75の機能の一部又は全部は、電力変換装置100の外部に移管されてもよい。例えば、診断装置75の機能の一部又は全部は、管理装置200や端末装置300に移管されてもよい。この場合、電動機EMの異常に関する診断のために必要なデータは、通信部90を通じて、管理装置200や端末装置300等の外部装置に送信(アップロード)される。
【0215】
また、上述の実施形態や変形・変更の例では、制御回路70の機能の一部又は全部は、電力変換装置100の外部に移管されてもよい。例えば、制御回路70の機能の一部又は全部は、管理装置200や端末装置300に移管されてもよい。この場合、電動機EMの制御のために必要なデータは、通信部90を通じて、管理装置200や端末装置300等の外部装置に送信(アップロード)され、管理装置200や端末装置300からの制御指令は、通信部90を通じて、電力変換装置100に取り込まれる。
【0216】
また、上述の実施形態や変形・変更の例では、電力変換装置100が省略され、電動機EMは、商用電源PSから供給されるR相、S相、及びT相の3相交流電力によって直接駆動されてもよい。この場合、診断装置75は、電動機EMの回転周波数は、商用電源PSから供給される電力の周波数(例えば、50Hzや60Hz)の変動によって、電動機EMの回転周波数が電動機EMの異常に関する診断に影響を与える程度に変化することがあるからである。この場合、診断装置75の機能は、例えば、電力変換装置100の外部に診断装置75の機能が移管される場合と同様、管理装置200や端末装置300に設けられる。この場合、電動機EMの回転周波数ω(電気角)は、例えば、位相同期回路(PLL:Phase-Locked-Loop)等を用いて推定されてよい。
【0217】
また、上述の実施形態や変形・変更の例では、電動機EMの動作に関する物理量の特定周波数の成分は、電動機EMの異常に関する診断に代えて、或いは、加えて、電動機EMの制御に利用されてもよい。例えば、制御回路70は、電動機EMのd軸及びq軸の電流や電圧における回転周波数の6倍成分を抽出すると共に、電動機EMの誘起電圧の歪みを推定し、その推定結果に基づき電動機EMに関する制御を行う。この場合、特定周波数成分抽出部751(抽出部7511、抑制部7512)の機能は、制御回路70に移管されたり、取り込まれたりしてもよい。
【0218】
[作用]
次に、本実施形態に係る診断装置、制御装置、電力変換装置、診断方法、及びプログラムの作用について説明する。
【0219】
本実施形態では、診断装置は、抽出部と、取得部と、抑制部と、診断部と、を備える。診断装置は、例えば、上述の診断装置75である。抽出部は、例えば、上述の抽出部7511である。抑制部は、例えば、上述の抑制部7512である。取得部は、例えば、上述の特徴量取得部752である。診断部は、例えば、上述の診断部753である。具体的には、抽出部は、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、2軸の波形データから電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する。電動機は、例えば、上述の電動機EMである。電動機の動作に関する物理量は、例えば、上述の電動機の電流、電圧、回転速度、トルク等である。直交する2軸の波形データは、例えば、上述のd軸及びq軸の波形データである。また、抑制部は、抽出部の出力に生じうる、2軸の波形データにおける特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する。また、取得部は、抑制部により上記の減衰及びズレの少なくとも一方が抑制された、抽出部の出力に基づき、上記の物理量の特定周波数の成分に関する特徴量を取得する。そして、診断部は、取得部により取得される特徴量に基づき、電動機の異常に関する診断を行う。
【0220】
また、本実施形態では、電力変換装置は、抽出部と、抑制部と、取得部と、診断部と、を備えてもよい。電力変換装置は、例えば、上述の電力変換装置100である。具体的には、抽出部は、自装置が駆動する電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、2軸の波形データから電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する。また、抑制部は、抽出部の出力に生じうる、2軸の波形データにおける特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する。また、取得部は、抑制部により上記の減衰及びズレの少なくとも一方が抑制された、抽出部の出力に基づき、上記の物理量の特定周波数の成分に関する特徴量を取得する。そして、診断部は、取得部により取得される特徴量に基づき、電動機の異常に関する診断を行う。
【0221】
また、本実施形態では、診断装置は、診断方法を実行してもよい。診断方法は、抽出ステップと、抑制ステップと、取得ステップと、診断ステップと、を含む。抽出ステップ及び抑制ステップは、例えば、上述のステップS102である。取得ステップは、例えば、上述のステップS104である。診断ステップは、例えば、上述のステップS106~S118である。具体的には、抽出ステップでは、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、2軸の波形データから電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する。また、抑制ステップでは、抽出ステップの出力に生じうる、2軸の波形データにおける特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する。また、取得ステップでは、抑制ステップにより上記の減衰及びズレの少なくとも一方が抑制された、抽出ステップの出力に基づき、物理量の特定周波数の成分に関する特徴量を取得する。そして、診断ステップでは、取得ステップで取得される特徴量に基づき、電動機の異常に関する診断を行う。
【0222】
また、本実施形態では、プログラムは、情報処理装置に、抽出ステップと、抑制ステップと、取得ステップと、診断ステップとを実行させてもよい。
【0223】
これにより、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰やズレを抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0224】
抑制部は、2軸の波形データに含まれる特定周波数の成分に起因する、抽出部での特定周波数の成分の減衰、及び2軸の波形データに含まれる回転周波数の成分に起因する、抽出部での特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制してもよい。
【0225】
これにより、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰やズレを抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0226】
また、抑制部は、2軸の波形データの回転周波数の成分を除去するフィルタ部を含んでもよい。フィルタ部は、例えば、上述のハイパスフィルタ部7512aである。そして、抽出部には、フィルタ部により回転周波数の成分が除去済みの2軸の波形データが入力されてもよい。
【0227】
これにより、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分のズレの影響を抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0228】
また、抽出部は、第1の座標変換部と、第1のローパスフィルタ部と、を含む。第1の座標変換部は、例えば、上述の座標変換部7511aである。第1のローパスフィルタ部は、例えば、上述のローパスフィルタ部7511bである。具体的には、第1の座標変換部は、2軸の波形データを、特定周波数で回転する回転座標系のデータに変換する。また、第1のローパスフィルタ部は、座標変換部の出力のうちの直流成分以外の成分を減衰させる。また、抑制部は、第1のローパスフィルタ部の出力に対して、特定周波数の成分の減衰の分を補償する補償部を含んでもよい。
【0229】
これにより、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰の影響を抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0230】
また、本実施形態では、補償部は、第1の座標変換部の出力に基づき、第1のローパスフィルタ部の出力に対して、特定周波数の成分の減衰の分を補償してもよい。
【0231】
これにより、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰の影響を抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0232】
また、本実施形態では、補償部は、第1の座標変換部の出力から、特定周波数の成分に由来する所定の高調波成分を抽出してもよい。所定の高調波成分は、例えば、上述の式(7),(8)における回転周波数ωの4倍成分(前者の第1項及び後者の第2項)である。そして、取得部は、抽出部により抽出される特定周波数の成分、及び補償部により抽出される所定の高調波成分に基づき、特徴量を取得してもよい。
【0233】
これにより、診断装置等は、ローパスフィルタ部を通過することで生じうる、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データにおける特定周波数の成分の減衰分を適切に補償することができる。
【0234】
また、本実施形態では、補償部は、第2の座標変換部と、第2のローパスフィルタ部と、を含んでもよい。第2の座標変換部は、例えば、上述の座標変換部7512b4である。第2のローパスフィルタ部は、例えば、上述のローパスフィルタ部7512b5である。具体的には、第2の座標変換部は、2軸の波形データを、第1の座標変換部の場合と反対方向に特定周波数で回転する回転座標系のデータに変換する。また、第2のローパスフィルタ部は、第2の座標変換部の出力のうちの直流成分を抽出する。そして、取得部は、第1のローパスフィルタ部の出力と、第2のローパスフィルタ部の出力とに基づき、特徴量を取得してもよい。
【0235】
これにより、診断装置等は、2軸の波形データにおける特定周波数の成分のうちの所定の回転方向に対応する特定周波数の成分に加えて、その反対の回転方向に対応する特定周波数成分を抽出することができる。そのため、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰の影響を抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0236】
また、本実施形態では、抑制部は、抽出部の出力に対して、特定周波数の成分の減衰の分を補償する補償部を含んでもよい。補償部は、例えば、上述の補償部7512bである。また、抽出部は、2軸の波形データにおける、所定の回転方向に対応する特定周波数の成分を抽出してもよい。また、補償部は、2軸の波形データにおける、抽出部の場合と反対の回転方向に対応する特定周波数の成分を抽出してもよい。そして、取得部は、抽出部及び補償部の出力に基づき、特徴量を取得してもよい。
【0237】
これにより、診断装置等は、2軸の波形データにおける特定周波数の成分のうちの所定の回転方向に対応する特定周波数の成分に加えて、その反対の回転方向に対応する特定周波数成分を抽出することができる。そのため、診断装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰の影響を抑制し、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0238】
また、本実施形態では、抽出部は、2軸の波形データを入力として、所定の回転方向に対応する特定周波数の成分を出力する第1の複素バンドパスフィルタを含んでもよい。第1の複素バンドパスフィルタは、例えば、上述の複素バンドパスフィルタBPF1である。そして、抑制部は、2軸の波形データを入力として、抽出部の場合と反対の回転方向に対応する特定周波数の成分を出力する第2の複素バンドパスフィルタを含んでもよい。第2の複素バンドパスフィルタは、例えば、上述の複素バンドパスフィルタBPF2である。
【0239】
これにより、診断装置等は、それぞれ、三角関数を用いた座標変換等の演算処理を行うことなく、所定の回転方向及びその反対の回転方向のそれぞれに対応する特定周波数の成分を出力することができる。そのため、診断装置等は、電動機に関する異常の診断についての処理負荷を軽減することができる。
【0240】
また、本実施形態では、取得部は、電動機の動作に関する物理量の特定周波数の成分の振幅に関する特徴量を取得してもよい。
【0241】
これにより、診断装置等は、例えば、電動機の異常によって生じる、電動機の動作に関する物理量の特定周波数の成分の振幅の増大を認識し、電動機の異常を適切に診断することができる。
【0242】
また、本実施形態では、取得部は、ローパスフィルタ部の出力のベクトル長と、補償部の出力のベクトル長とに基づき、特徴量としての、電動機の動作に関する物理量の特定周波数の成分のベクトル長を取得してもよい。
【0243】
これにより、診断装置等は、電動機の動作に関する物理量の特定周波数の成分のベクトル長を用いて、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0244】
また、本実施形態では、診断部は、取得部により取得される特徴量が回転周波数に応じて変化する第1の閾値に対して相対的に大きい場合に、電動機に異常があると診断してもよい。第1の閾値は、例えば、上述の閾値rthである。
【0245】
これにより、診断装置等は、診断基準としての第1の閾値を用いて、電動機の異常に関する診断を行うことができる。
【0246】
また、本実施形態では、診断部は、取得部により取得される特徴量が第1の閾値に対して相対的に大きい状態が所定時間に対して相対的に長く継続している場合、電動機に異常があると診断してもよい。所定時間は、例えば、上述の閾値tthである。
【0247】
これにより、診断装置等は、例えば、外的要因等によって、一時的に特徴量が第1の閾値より相対的に大きくなったような状況を電動機の異常と診断するような事態を抑制することができる。そのため、診断装置等は、電動機の異常に関する診断の精度を向上させることができる。
【0248】
また、本実施形態では、診断部は、回転周波数が第2の閾値に対して相対的に大きい状態での直交する2軸の波形データに基づき取得部により取得される特徴量を用いて、電動機の異常に関する診断を行ってもよい。第2の閾値は、例えば、上述の閾値ωthである。
【0249】
これにより、診断装置等は、例えば、電動機の回転周波数が電動機の異常に関する診断のためのデータ取得に適している状況で取得された波形データを利用することができる。そのため、診断装置等は、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0250】
また、本実施形態では、診断装置は、トラッキングフィルタ部と、取得部と、診断部と、を備えてもよい。トラッキングフィルタ部は、例えば、上述のトラッキングフィルタTFである。具体的には、トラッキングフィルタ部は、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、2軸の波形データから電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する。また、取得部は、トラッキングフィルタ部の出力に基づき、物理量の特定周波数の成分に関する特徴量を取得する。そして、診断部は、取得部により取得される特徴量に基づき、トラッキングフィルタ部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレのうちの少なくとも一方を考慮して、電動機の異常に関する診断を行う。
【0251】
これにより、診断装置等は、トラッキングフィルタ部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰やズレを考慮することで、電動機の異常に関する診断をより適切に行うことができる。
【0252】
また、本実施形態では、制御装置は、抽出部と、抑制部と、制御部と、を備えてもよい。制御装置は、例えば、上述の制御回路70である。抽出部は、電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、2軸の波形データから電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する。また、抑制部は、抽出部の出力に生じうる、2軸の波形データにおける特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する。そして、制御部は、抑制部により上記の減衰及びズレの少なくとも一方が抑制された、抽出部の出力に基づき、電動機を制御する。
【0253】
また、本実施形態では、電力変換装置は、抽出部と、抑制部と、制御部と、を備えてもよい。電力変換装置は、例えば、上述の電力変換装置100である。抽出部は、例えば、上述の抽出部7511である。抑制部は、例えば、上述の7512である。制御部は、例えば、上述の制御回路70である。具体的には、抽出部は、自装置が駆動する電動機の動作に関する物理量についての直交する2軸の波形データを取得し、2軸の波形データから電動機の回転周波数と相関する特定周波数の成分を抽出する。また、抑制部は、抽出部の出力に生じうる、2軸の波形データにおける特定周波数の成分の減衰、及び特定周波数の成分のズレの少なくとも一方を抑制する。そして、制御部は、抑制部により上記の減衰及びズレの少なくとも一方が抑制された、抽出部の出力に基づき、電動機を制御する。
【0254】
これにより、制御装置等は、抽出部の出力に生じうる、特定周波数の成分の減衰やズレを抑制し、電動機の制御をより適切に行うことができる。
【0255】
以上、実施形態について詳述したが、本開示はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0256】
1 診断システム
10 整流回路
20 平滑回路
21 平滑コンデンサ
30 インバータ回路
40 電流センサ
50 電圧センサ
60 ゲート駆動回路
70 制御回路
75 診断装置
80 表示部
90 通信部
100 電力変換装置
150 回転状態センサ
200 管理装置
300 端末装置
701 速度調節部
702 電流検出部
703 ベクトル変換部
704 電流調節部
705 ベクトル逆変換部
706 電圧補償部
707 ゲート信号出力部
751 特定周波数成分抽出部
752 特徴量取得部
753 診断部
754 通知部
7511 抽出部
7511a 座標変換部
7511b ローパスフィルタ部
7512 抑制部
7512a ハイパスフィルタ部
7512b 補償部
7512b1 ハイパスフィルタ部
7512b2 座標変換部
7512b3 ローパスフィルタ部
7512b4 座標変換部
7512b5 ローパスフィルタ部
7521 ベクトル長演算部
7522 ベクトル長演算部
7523 ベクトル長演算部
BPF1 複素バンドパスフィルタ
BPF2 複素バンドパスフィルタ
EM 電動機
NL 負ライン
PL 正ライン
PS 商用電源
SD 半導体ダイオード
SW 半導体スイッチ
TF トラッキングフィルタ
TF1 座標変換部
TF2 ローパスフィルタ部
TF3 逆座標変換部