(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008321
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】吹管及びガス溶断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/10 20060101AFI20240112BHJP
B23K 7/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B23K7/10 S
B23K7/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110097
(22)【出願日】2022-07-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000158301
【氏名又は名称】岩谷瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(72)【発明者】
【氏名】上羽 尚登
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和広
(72)【発明者】
【氏名】北 詔仁
(57)【要約】
【課題】本発明は、可燃性ガスを用いて対象物を溶断する際のCO
2の発生量を削減できる吹管の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る吹管は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するための吹管であって、中央吐出口と、中央吐出口を取り囲むように配置される複数の周縁吐出口とを有する火口と、周縁吐出口に可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスを供給する予熱ガス用配管と、中央吐出口に溶断用酸素ガスを供給する溶断ガス用配管と、予熱ガス用配管を流れる混合ガスの流量を制御する第1バルブと、溶断ガス用配管を流れる溶断用酸素ガスの流量を制御する第2バルブとを備え、第1バルブが、少なくとも混合ガスの流量を第1の流量とする第1開度と、第1開度の流量よりも少ない第2の流量とする第1開度とに制御可能であり、第2バルブが、少なくとも溶断用酸素ガスを遮断可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するための吹管であって、
中央吐出口と、上記中央吐出口を取り囲むように配置される複数の周縁吐出口とを有する火口と、
上記周縁吐出口に上記可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスを供給する予熱ガス用配管と、
上記中央吐出口に溶断用酸素ガスを供給する溶断ガス用配管と、
上記予熱ガス用配管を流れる上記混合ガスの流量を制御する第1バルブと、
上記溶断ガス用配管を流れる上記溶断用酸素ガスの流量を制御する第2バルブと
を備え、
上記第1バルブが、少なくとも上記混合ガスの流量を第1の流量とする第1開度と、上記第1開度の流量よりも少ない第2の流量とする第2開度とに制御可能であり、
上記第2バルブが、少なくとも上記溶断用酸素ガスを遮断可能に構成されている吹管。
【請求項2】
上記第1バルブ及び上記第2バルブが独立して制御可能である請求項1に記載の吹管。
【請求項3】
外部から上記可燃性ガスを取り込むための可燃性ガス流入口と、
外部から酸素ガスを取り込むための酸素ガス流入口と、
上記可燃性ガス流入口から上記予熱ガス用配管に上記可燃性ガスを供給する可燃性ガス用配管と、
上記酸素ガス流入口から上記予熱ガス用配管及び上記溶断ガス用配管に上記酸素ガスを供給する酸素ガス用配管と、
上記予熱ガス用配管に供給される上記可燃性ガスの流量を制御する第3バルブと、
上記予熱ガス用配管に供給される上記酸素ガスの流量を制御する第4バルブと
をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の吹管。
【請求項4】
水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するガス溶断方法であって、
請求項1に記載の吹管を用い、
上記第1バルブを上記第1開度とし、上記第2バルブにより上記溶断用酸素ガスを遮断しつつ、火炎を形成する火炎形成工程と、
上記火炎形成工程で形成した火炎により上記対象物を予熱する予熱工程と、
上記予熱工程後に、上記第1バルブを上記第2開度とする流量制御工程と、
上記予熱工程後に、上記溶断用酸素ガスを供給しつつ、上記対象物を溶断する溶断工程と
を備えるガス溶断方法。
【請求項5】
上記可燃性ガスが、エチレンを含む請求項4に記載のガス溶断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹管及びガス溶断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガスを用いて対象物を溶断するガス溶断方法が公知である。このガス溶断方法では、可燃性ガスを酸素ガスと混合した混合ガスを燃焼させ、その熱で上記対象物を予熱する。そして、上記対象物が十分に予熱された段階でさらに溶断用酸素ガスを供給し、上記対象物を酸化しつつ溶断する。
【0003】
上記可燃性ガスとして、38体積%以上45体積%以下のエチレンを含有し、残部水素および不可避的不純物からなる可燃性ガスが提案されている(特許第4848060号公報参照)。この可燃性ガスは、貯蔵、運搬等が容易で、かつガス溶断後の仕上がり状態の高品質化に寄与することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今の環境問題からCO2ガスの削減が強く求められており、上記可燃性ガスにおいてもCO2源となり得る炭化水素ガスは少ないほどよい。しかし、炭化水素ガスは上記可燃性ガスにおいてカロリー源、すなわち火力に寄与しており、これを削減すると溶断する時間が長くなる傾向にある。CO2の発生量は、可燃性ガスに含まれる炭化水素ガス濃度×溶断時間で決まるから、単に炭化水素ガス濃度を減らしてもCO2の発生量を十分に減少させたことにはならない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、可燃性ガスを用いて対象物を溶断する際のCO2の発生量を削減できる吹管及びこの吹管を用いたガス溶断方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る吹管は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するための吹管であって、中央吐出口と、上記中央吐出口を取り囲むように配置される複数の周縁吐出口とを有する火口と、上記周縁吐出口に上記可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスを供給する予熱ガス用配管と、上記中央吐出口に溶断用酸素ガスを供給する溶断ガス用配管と、上記予熱ガス用配管を流れる上記混合ガスの流量を制御する第1バルブと、上記溶断ガス用配管を流れる上記溶断用酸素ガスの流量を制御する第2バルブとを備え、上記第1バルブが、少なくとも上記混合ガスの流量を第1の流量とする第1開度と、上記第1開度の流量よりも少ない第2の流量とする第1開度とに制御可能であり、上記第2バルブが、少なくとも上記溶断用酸素ガスを遮断可能に構成されている。
【0008】
当該吹管は、第1バルブが、可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスの流量が多い第1開度と、上記流量が少ない第2開度とに制御可能であるので、溶断する際は第2開度として混合ガスの流量を減らすことができる。溶断時は対象物が溶断用酸素ガスにより酸化される状態を維持できればよいので、可燃性ガスにおいて高カロリーは不要であり、炭化水素ガスの量を低減もしくは0としても、溶断時間の増加は抑止できる。一方、当該吹管では、炭化水素ガスの量を低減もしくは0としても、予熱時は第1開度とすることで混合ガスの流量を増やし、予熱に必要なカロリーを確保することができるので、予熱時間の増加も抑止できる。従って、当該吹管を用いることで、可燃性ガスに含まれる炭化水素ガス濃度×溶断時間で決まるCO2の発生量において、溶断時間を維持しつつ炭化水素ガス濃度を減少させることができるので、当該吹管は、CO2の発生量を削減できる。
【0009】
上記第1バルブ及び上記第2バルブが独立して制御可能であるとよい。このように上記第1バルブ及び上記第2バルブを独立して制御可能とすることで、溶断の状況に応じて火炎の強さを自由に制御できるので、溶断時間の増加をさらに抑止できる。
【0010】
外部から上記可燃性ガスを取り込むための可燃性ガス流入口と、外部から酸素ガスを取り込むための酸素ガス流入口と、上記可燃性ガス流入口から上記予熱ガス用配管に上記可燃性ガスを供給する可燃性ガス用配管と、上記酸素ガス流入口から上記予熱ガス用配管及び上記溶断ガス用配管に上記酸素ガスを供給する酸素ガス用配管と、上記予熱ガス用配管に供給される上記可燃性ガスの流量を制御する第3バルブと、上記予熱ガス用配管に供給される上記酸素ガスの流量を制御する第4バルブとをさらに備えるとよい。このように吹管を構成することで、吹管内部で混合ガスを調整できるので、溶断作業者は手元で火炎の調整を行い易い。また、酸素ガスと可燃性ガスとの2本のガスボンベあるいはガスタンクを準備すれば当該吹管を用いることができるので、溶断設備全体をシンプルな構成とすることができる。
【0011】
本発明の別の態様に係るガス溶断方法は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するガス溶断方法であって、本発明の吹管を用い、上記第1バルブを上記第1開度とし、上記第2バルブにより上記溶断用酸素ガスを遮断しつつ、火炎を形成する火炎形成工程と、上記火炎形成工程で形成した火炎により上記対象物を予熱する予熱工程と、上記予熱工程後に、上記第1バルブを上記第2開度とする流量制御工程と、上記予熱工程後に、上記溶断用酸素ガスを供給しつつ、上記対象物を溶断する溶断工程とを備える。
【0012】
当該ガス溶断方法では、本発明の吹管を用い、予熱時には混合ガスの流量を増やし、溶断時には混合ガスの流量を減らす。このため、可燃性ガスに含まれる炭化水素ガス濃度×溶断時間で決まるCO2の発生量において、溶断時間を維持しつつ炭化水素ガス濃度を減少させることができるので、当該ガス溶断方法を用いることで、CO2の発生量を削減できる。
【0013】
上記可燃性ガスが、エチレンを含むとよい。このように上記可燃性ガスを、エチレンを含むものとすることで、CO2の発生量を削減しつつ、ガス溶断後の仕上がり状態が高品質化できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吹管は、可燃性ガスを用いて対象物を溶断する際のCO2の発生量を削減できる。また、本発明のガス溶断方法は、この吹管を用いることでCO2の発生量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る吹管の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の吹管の火口の構成を示す模式的平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るガス溶断方法を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、本発明の
図1とは異なる実施形態に係る吹管の構成を示す模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る吹管及びガス溶断方法について、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0017】
[吹管]
図1及び
図2に示す吹管1は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するための吹管である。当該吹管1は、火口10と、可燃性ガス流入口21と、酸素ガス流入口22と、可燃性ガス用配管31と、酸素ガス用配管32と、予熱ガス用配管33と、溶断ガス用配管34と、第1バルブ41と、第2バルブ42と、第3バルブ43と、第4バルブ44とを備える。
【0018】
上記対象物は、火炎によって溶断が可能なものであり、換言すると高温下で酸素に曝されることで酸化する金属材料である。上記対象物としては、鋼材、チタン材等を挙げることができる。
【0019】
<火口>
火口10は、
図3に示すように、中央吐出口10aと、中央吐出口10aを取り囲むように配置される複数の周縁吐出口10bとを有する。
【0020】
具体的には、火口10は、
図3に示すように、同軸に配置される外筒11と内筒12との先端面で構成され、先端面において外筒11と内筒12との間は蓋部13で覆われている。中央吐出口10aは内筒12の出口で構成され、複数の周縁吐出口10bは蓋部13に形成された貫通孔で構成される。
【0021】
なお、内筒12は予熱ガス用配管33の一部(末端部)を構成し、外筒11は溶断ガス用配管34の一部(末端部)を構成する。すなわち、後述するように、中央吐出口10aからは溶断用酸素ガスが放出され、周縁吐出口10bからは混合ガスが放出される。
【0022】
<流入口>
可燃性ガス流入口21は、外部から上記可燃性ガスを取り込むための流入口である。また、酸素ガス流入口22は、外部から酸素ガスを取り込むための流入口である。
【0023】
<配管>
可燃性ガス用配管31は、可燃性ガス流入口21から予熱ガス用配管33に上記可燃性ガスを供給する。すなわち、可燃性ガス用配管31は、可燃性ガス流入口21と予熱ガス用配管33とに連結されている。
【0024】
酸素ガス用配管32は、酸素ガス流入口22から予熱ガス用配管33及び溶断ガス用配管34に上記酸素ガスを供給する。すなわち、酸素ガス用配管32は、酸素ガス流入口22と予熱ガス用配管33とに連結され、かつ酸素ガス流入口22と溶断ガス用配管34とにも連結されている。酸素ガス用配管32は、酸素ガス流入口22から、それぞれ異なる配管で予熱ガス用配管33と溶断ガス用配管34とに連結してもよいが、
図2に示すように、その一部が共有されていてもよい。
【0025】
予熱ガス用配管33は、周縁吐出口10bに上記可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスを供給する。当該吹管1では、上記可燃性ガスは可燃性ガス用配管31から供給される。また、上記予熱用酸素ガスは、酸素ガス用配管32から供給される。これらのガスは、予熱ガス用配管33内で混合されて周縁吐出口10bに供給される。
【0026】
溶断ガス用配管34は、中央吐出口10aに溶断用酸素ガスを供給する。上記溶断用酸素ガスは、酸素ガス用配管32から供給される。
【0027】
<第1バルブ>
第1バルブ41は、予熱ガス用配管33に配設される。より具体的には、第1バルブ41の配設位置は、可燃性ガス用配管31と酸素ガス用配管32とが合流する位置よりも下流側であり、かつ周縁吐出口10bより上流側である。
【0028】
第1バルブ41は、予熱ガス用配管33を流れる上記混合ガスの流量を制御する。第1バルブ41は、少なくとも上記混合ガスの流量を第1の流量とする第1開度と、上記第1開度の流量よりも少ない第2の流量とする第2開度とに制御可能である。
【0029】
第1バルブ41は、第1の流量と第2の流量との間を切り替える切換バルブで構成されていてもよいし、無段階に流量を切り替えられる流量可変バルブで構成されていてもよい。第1バルブ41を切換バルブで構成する場合、第1開度と第2開度との間を速やかにかつ安定的に切り替えることができる。一方、第1バルブ41を流量可変バルブで構成する場合、対象物の種類や環境条件に応じて、第1開度と第2開度との微調整を行うことができるので、溶断条件を最適化し易い。
【0030】
上記第2開度における流量(L/min)に対する上記第1開度における流量(L/min)の比(流量比)の下限としては、1.2が好ましく、1.5がより好ましい。一方、上記流量比の上限としては、3が好ましく、2.5がより好ましい。上記流量比が上記下限未満であると、対象物の予熱時間の短縮効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記流量比が上記上限を超えると、CO2の発生量を十分に低減できないおそれがある。
【0031】
<第2バルブ>
第2バルブ42は、溶断ガス用配管34に配設される。
【0032】
第2バルブ42は、溶断ガス用配管34を流れる溶断用酸素ガスの流量を制御する。第2バルブ42は、少なくとも上記溶断用酸素ガスを遮断可能に構成されている。第2バルブ42は、溶断用酸素ガスの流れをON/OFFする切換バルブで構成することもできるが、流量を0とすることが可能な流量可変バルブで構成することが好ましい。このように第2バルブ42を流量可変バルブで構成することで、溶断時の溶断用酸素ガスの流量を対象物の種類や環境条件に応じて調整できるので、CO2の発生量を削減し易い。
【0033】
第1バルブ41及び第2バルブ42は独立して制御可能であるとよい。このように第1バルブ41及び第2バルブ42を独立して制御可能とすることで、溶断の状況に応じて火炎の強さを自由に制御できるので、溶断時間の増加をさらに抑止できる。
【0034】
具体的には、例えば溶断途中で切り損ねによる中断が発生し、切り損ねた位置から再開する場合がある。このような場合、対象物は冷却しきっているわけではないので、第2バルブ42により溶断用酸素ガスを供給しつつ、第1バルブ41を一定期間第1開度とすることで、中断中に低下した分だけ対象物を一時的に加熱して復旧させることができる。また、溶断時間の最小化を優先する場合には、第1バルブ41を第1開度のままで、第2バルブ42により溶断用酸素ガスを供給して溶断を行ってもよい。
【0035】
<第3バルブ>
第3バルブ43は、予熱ガス用配管33に供給される上記可燃性ガスの流量を制御する。第3バルブ43は、可燃性ガス用配管31に配設される。より具体的には、第3バルブ43は、可燃性ガス用配管31が予熱ガス用配管33と合流する位置よりも上流側であり、かつ可燃性ガス流入口21より下流側である。
【0036】
第3バルブ43により上記可燃性ガスの流量を制御することで、対象物の予熱速度が変化し、溶断時間や予熱時のCO2の発生量が決まることとなる。このため、第3バルブ43は流量可変バルブで構成することが好ましい。
【0037】
<第4バルブ>
第4バルブ44は、予熱ガス用配管33に供給される上記酸素ガスの流量を制御する。第4バルブ44は、酸素ガス用配管32に配設される。より具体的には、第4バルブ44は、酸素ガス用配管32が予熱ガス用配管33と合流する位置よりも上流側であり、かつ酸素ガス流入口22より下流側である。なお、酸素ガス用配管32は、酸素ガス流入口22から予熱ガス用配管33及び溶断ガス用配管34に酸素ガスを供給するが、
図2に示すように、その上流側が共有配管となっている場合、この共有配管からの分岐位置より下流の溶断ガス用配管34にのみ酸素ガスを供給する流路上に配置されることとなる。
【0038】
第4バルブ44により上記予熱用酸素ガスの流量を制御することで、火炎の状態(燃焼の状態)を制御することができる。このため、第4バルブ44は流量可変バルブで構成することが好ましい。
【0039】
当該吹管1では、第3バルブ43及び第4バルブ44を用いて吹管1内部で混合ガスを調整できるので、溶断作業者は手元で火炎の調整を行い易い。また、酸素ガスと可燃性ガスとの2本のガスボンベあるいはガスタンクを準備すれば当該吹管1を用いることができるので、溶断設備全体をシンプルな構成とすることができる。
【0040】
<利点>
当該吹管1は、第1バルブ41が、可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスの流量が多い第1開度と、上記流量が少ない第2開度とに制御可能であるので、溶断する際は第2開度として混合ガスの流量を減らすことができる。溶断時は対象物が溶断用酸素ガスにより酸化される状態を維持できればよいので、可燃性ガスにおいて高カロリーは不要であり、炭化水素ガスの量を低減もしくは0としても、溶断時間の増加は抑止できる。一方、当該吹管1では、炭化水素ガスの量を低減もしくは0としても、予熱時は第1開度とすることで混合ガスの流量を増やし、予熱に必要なカロリーを確保することができるので、予熱時間の増加も抑止できる。従って、当該吹管1を用いることで、可燃性ガスに含まれる炭化水素ガス濃度×溶断時間で決まるCO2の発生量において、溶断時間を維持しつつ炭化水素ガス濃度を減少させることができるので、当該吹管1は、CO2の発生量を削減できる。
【0041】
[ガス溶断方法]
図4に示すガス溶断方法は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するガス溶断方法である。当該ガス溶断方法は、例えば
図1に示す吹管1を用いて行うことができる。当該ガス溶断方法は、火炎形成工程S1と、予熱工程S2と、流量制御工程S3と、溶断工程S4とを備える。
【0042】
<可燃性ガス>
上記可燃性ガスは、上述のように水素を含む。上記可燃性ガスは、水素と不可避的不純物とのみから構成されていてもよいが、炭化水素を含むことが好ましい。可燃性ガスに炭化水素を含めることで、燃焼時に得られるカロリーが増加し、短時間で予熱あるいは溶断を行うことができるようになる。
【0043】
上記炭化水素としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、液化石油ガス(LPG;Liquefied Petroleum Gas)、液化天然ガス(LNG;Liquefied Natural Gas)などを挙げることができる。上記炭化水素としては、炭素数4以下のものが好ましく、エチレンがより好ましい。すなわち、上記可燃性ガスが、エチレンを含むとよい。このように上記可燃性ガスを、エチレンを含むものとすることで、CO2の発生量を削減しつつ、ガス溶断後の仕上がり状態が高品質化できる。
【0044】
本発明の吹管1及び本発明のガス溶断方法に好適に用いることができ、CO2の発生量を特に削減できる可燃性ガスは、0体積%超18体積%未満のエチレンを含み、残部が水素及び不可避的不純物である可燃性ガスである。
【0045】
当該可燃ガスにおけるエチレン濃度は、上述のように0体積%超であり、1体積%超がより好ましく、5体積%超がさらに好ましい。一方、当該可燃ガスにおけるエチレン濃度は、上述のように18体積%未満であり、15体積%未満がより好ましく、10体積%未満がさらに好ましい。エチレン濃度が上記下限以下であると、対象物の予熱時間の短縮効果が不十分となるおそれがある。逆に、エチレン濃度が上記上限以上であると、CO2の発生量を十分に低減できないおそれがある。
【0046】
上記不可避的不純物の濃度の上限としては、1.0体積%が好ましく、0.5体積%がより好ましく、0.1体積%がさらに好ましい。上記不可避的不純物の濃度を上記上限以下とすることで、当該可燃性ガスの特性が安定し易い。一方、上記不可避的不純物の濃度の下限としては、特に限定されず0体積%であってもよい。ここで、「不可避的不純物」には、意図せず含有する不純物に加え、当該可燃性ガスの性能が維持される範囲で意図的に加えられる不純物が含まれる。このように意図的に加えられる不純物としては、窒素、酸素、水分等が挙げられる。
【0047】
当該可燃性ガスは、容器あるいはタンク内に加圧して蓄えられる。上記容器あるいはタンク内の圧力としては、容器内に封入するガスが液化しない圧力以下とすることが好ましく、運搬効率の観点からは上記圧力は高い方が好ましい。具体的には、35℃における容器あるいはタンク内の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、6MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、50MPaが好ましく、20MPaがより好ましい。上記圧力が上記下限未満であると、当該可燃性ガスの効率的な運搬が困難となるおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超えると、エチレンが液化し取扱いが困難となるおそれがある。
【0048】
当該吹管1の可燃性ガス流入口21及び酸素ガス流入口22にそれぞれ供給される可燃性ガス及び酸素ガスの圧力は、容器あるいはタンク内の圧力をレギュレータ等により適宜調整される。この調整後の酸素ガスの圧力に対する可燃性ガスの圧力比の下限としては、0.5が好ましく、0.75がより好ましい。一方、上記圧力比の上限としては、2が好ましく、1.3がより好ましい。上記圧力比を上記範囲内とすることで、当該吹管1の第1バルブ41を第1開度及び第2開度間で切り替えた際に、可燃性ガスと酸素ガスとの流量比が極端に変化することを抑止できるので、火炎を安定させ易い。
【0049】
<火炎形成工程>
火炎形成工程S1では、当該吹管1の第1バルブ41を第1開度とし、第2バルブ42により溶断用酸素ガスを遮断しつつ、火炎を形成する。
【0050】
このとき、第3バルブ43を用いて可燃性ガスの流量を調整し、さらに第4バルブ44を用いて酸素ガス(予熱用酸素ガス)の流量を調整することで、好適な火炎に調整することができる。
【0051】
<予熱工程>
予熱工程S2では、火炎形成工程S1で形成した火炎により上記対象物を予熱する。
【0052】
具体的には、当該吹管1の火口10を上記対象物の溶断すべき場所に近づけ、火炎により上記対象物を加熱する。このとき、第1バルブ41は第1開度とされているので、可燃性ガスの流量が多く、上記対象物を速やかに加熱することができる。上記対象物が十分に加熱されると、溶断が始まる。溶断が始まった時点が予熱工程S2の終了時点である。
【0053】
<流量制御工程>
流量制御工程S3では、予熱工程S2後に、第1バルブ41を上記第2開度とする。すなわち、この工程では、可燃性ガスの流量を低減する。また、可燃性ガスとともに予熱用酸素ガスの流量も低減されることになる。
【0054】
<溶断工程>
溶断工程S4では、予熱工程S2後に、上記溶断用酸素ガスを供給しつつ、上記対象物を溶断する。
【0055】
予熱された対象物は、溶断用酸素ガスを供給されることで、酸化が進み、溶断が促進される。
【0056】
上記対象物の溶断が完了すると、溶断用酸素ガスの供給を停止する。他の対象物あるいは同一対象物の他の部分を溶断する場合は、予熱工程S2、流量制御工程S3及び溶断工程S4が繰り返し行われる。一方、他に溶断するものがない場合は、第4バルブ44及び第3バルブ43をこの順に閉じて火炎を消し、当該ガス溶断方法を終了する。
【0057】
なお、
図4に示すフローでは、流量制御工程S3後に溶断工程S4を開始しているが、溶断工程S4を開始した後に流量制御工程S3を行うことも可能である。この場合、溶断工程S4を開始した後、速やかに流量制御工程S3を行うことが好ましい。
【0058】
<利点>
当該ガス溶断方法では、本発明の吹管1を用い、予熱時には混合ガスの流量を増やし、溶断時には混合ガスの流量を減らす。このため、可燃性ガスに含まれる炭化水素ガス濃度×溶断時間で決まるCO2の発生量において、溶断時間を維持しつつ炭化水素ガス濃度を減少させることができるので、当該ガス溶断方法を用いることで、CO2の発生量を削減できる。
【0059】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る吹管及びガス溶断方法について、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0060】
[吹管]
図5及び
図6に示す吹管2は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するための吹管であって、中央吐出口10aと、中央吐出口10aを取り囲むように配置される複数の周縁吐出口10bとを有する火口10と、周縁吐出口10bに上記可燃性ガス及び予熱用酸素ガスの混合ガスを供給する予熱ガス用配管33と、中央吐出口10aに溶断用酸素ガスを供給する溶断ガス用配管34と、予熱ガス用配管33を流れる上記混合ガスの流量を制御する第1バルブ45と、溶断ガス用配管34を流れる上記溶断用酸素ガスの流量を制御する第2バルブ42とを備え、第1バルブ45が、少なくとも上記混合ガスの流量を第1の流量とする第1開度と、上記第1開度の流量よりも少ない第2の流量とする第2開度とに制御可能であり、第2バルブ42が、少なくとも上記溶断用酸素ガスを遮断可能に構成されている。
【0061】
当該吹管2は、外部から上記可燃性ガスを取り込むための可燃性ガス流入口21と、外部から酸素ガスを取り込むための酸素ガス流入口22とを備え、可燃性ガス流入口21と予熱ガス用配管33とに連結される可燃性ガス用配管31と、酸素ガス流入口22と予熱ガス用配管33とに連結され、かつ酸素ガス流入口22と溶断ガス用配管34とにも連結される酸素ガス用配管32をさらに備える。また、当該吹管2は、予熱ガス用配管33に供給される上記可燃性ガスの流量を制御する第3バルブ43と、予熱ガス用配管33に供給される上記酸素ガスの流量を制御する第4バルブ44とを備える。
【0062】
当該吹管2は、第1バルブ45を除き、第1実施形態の吹管1と同様に構成できるので、同一符号を付し詳細説明を省略する。
【0063】
<第1バルブ>
第1バルブ45は、
図5に示すように、一対のトグルバルブ45aと、このトグルバルブ45aを操作するレバー45bとから構成されている。
【0064】
一対のトグルバルブ45aは、
図6に示すように、可燃性ガス用配管31と酸素ガス用配管32とにそれぞれ配設されている。トグルバルブ45aは、トグルスイッチによりそのトグルバルブ45aを介して流れるガスの流量が制御される。具体的には、トグルスイッチを押さない場合、ガスの流量は低く保たれ、トグルスイッチを押すと、ガスの流量が増えるように構成されている。そして、トグルバルブ45aは、トグルスイッチに触れない場合は、ガスの流量が低く保たれるように構成されている。すなわち、トグルバルブ45aは、トグルスイッチを押したときのみガスの流量が増える。
【0065】
レバー45bは、一対のトグルバルブ45aのトグルスイッチを制御する。レバー45bは、可燃性ガス用配管31及び酸素ガス用配管32より外側に設けられており、可燃性ガス用配管31及び酸素ガス用配管32側に倒すことで一対のトグルバルブ45aのトグルスイッチを同時に押すことができるように構成されている。また、このレバー45bに触れていない場合は、レバー45bはトグルスイッチが押されない位置に保たれる。
【0066】
第1バルブ45は、このように構成されているので、レバー45bを押すと、第1バルブ45は第1開度となり、ガスの流量が増える。一方、レバー45bを離すと、第1バルブ45は瞬時に第2開度となり、ガスの流量は元に戻り、上記第1開度の流量よりも少ない第2の流量となる。
【0067】
なお、トグルバルブ45aを予熱ガス用配管33に1つ設けて同様の制御することも可能であるが、可燃性ガスと酸素とを混合した後の混合ガスの流量を制御することとなる。この場合、第1開度から第2開度へ流量を切り替えた際に、その抵抗の増大によって混合ガスが逆流し、可燃性ガス用配管31や酸素ガス用配管32に侵入するおそれがある。そうすると、この逆流した混合ガスの影響により可燃性ガスと酸素との混合比率が所望の値からずれてしまうおそれがある。従って、本実施形態のように、トグルバルブ45aは、可燃性ガス用配管31と酸素ガス用配管32とにそれぞれ配設することが好ましい。
【0068】
[ガス溶断方法]
当該吹管2を用いたガス溶断方法は、水素を含む可燃性ガスを用いて対象物を溶断するガス溶断方法であって、第1バルブ45を上記第1開度とし、第2バルブ42により上記溶断用酸素ガスを遮断しつつ、火炎を形成する火炎形成工程と、上記火炎形成工程で形成した火炎により上記対象物を予熱する予熱工程と、上記予熱工程後に、第1バルブ45を上記第2開度とする流量制御工程と、上記予熱工程後に、上記溶断用酸素ガスを供給しつつ、上記対象物を溶断する溶断工程とを備える。
【0069】
各工程は、第1実施形態のガス溶断方法の対応する工程と同様であるので、詳細説明は省略する。
【0070】
[利点]
当該吹管2では、第1バルブ45を一対のトグルバルブ45aと、このトグルバルブ45aを操作するレバー45bとから構成したので、手元で容易に操作することができる。また、第1バルブ45の操作により火口10が振動し難いので、予熱から溶断作業にスムーズに移行することができる。また、部品点数が少ないので、当該吹管2が重くなり難いので、当該吹管2を用いた溶断作業の作業効率の低下を抑止できる。
【0071】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0072】
上記実施形態では、吹管が可燃性ガス流入口と酸素ガス流入口とを備え、吹管内部で可燃性ガスと酸素ガスとを混合する場合を説明したが、吹管外部でこれらのガスを混合した後、上記混合ガスを吹管に供給する構成とすることもできる。この場合、吹管には可燃性ガス流入口に代えて、混合ガス流入口が設けられる。
【0073】
この場合、可燃性ガス用配管及び酸素ガス用配管は省略され、混合ガスは予熱ガス用配管へ、酸素ガスは溶断ガス用配管へ直接供給される。また、第3バルブ及び第4バルブも省略される。すなわち、可燃性ガスや酸素ガスの流量は吹管外部で制御される。
【実施例0074】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
可燃性ガスとして、エチレンを含み、残部が水素及び不可避的不純物である可燃性ガスを、エチレン濃度を変えて4種類準備した(表1のNo.1~No.4)。
【0076】
また、溶断する対象物として、厚さ25mmの鋼板を準備した。
【0077】
上述の4種類の可燃性ガスをそれぞれ用いて、上記鋼板を、可燃性ガスを8L/minに固定し、予熱用酸素ガスを表1に示す流量にて予熱を行い、その後、50L/minの溶断用酸素ガスをさらに加えて溶断を行った。
【0078】
この溶断時の予熱時間及び最大溶断速度を計測した。結果を表1の「8L/minに固定した場合」の欄に示す。なお、最大溶断速度は、以下の手順により求められる速度である。まず、速度を任意に設定できる走行台車に吹管を取り付ける。この走行台車を一定の速度で走行させながら、厚さ25mmの鋼板の溶断を実施する。走行台車の速度が低い場合は、上記鋼板から溶断片が切り落とされる。この速度が低い状態から、徐々に走行台車の速度を上げて溶断を繰り返すと、やがて溶断片を切り落とすことができない速度に達する。このとき、溶断が可能である走行台車の速度の最大値を最大溶断速度とする。
【0079】
表1の結果からCO2指標を算出した。ここで、「CO2指標」とは、エチレン濃度×可燃性ガスの流量×予熱時間で算出される量であり、予熱時に供給されたC総量を表す指標である。結果を表1に示す。
【0080】
表1の結果から、最大溶断速度は、可燃性ガスのエチレン濃度に対する依存性が比較的低いのに対し、予熱時間は、エチレン濃度が40%を切ると著しく増大している。このため、可燃性ガス中のエチレンの濃度を10%まで低減しても、むしろ排出されるCO2量はエチレン濃度を40%とする場合よりも増えてしまうことが分かる。
【0081】
次に、本発明のガス溶断方法に従って、4種類の可燃性ガスをそれぞれ用いて、溶断した。このとき、予熱工程において、可燃性ガスと予熱用酸素ガスとは同流量比としたまま、予熱時間がNo.4(エチレン濃度40%)と同じ7秒となる流量に第1開度を設定した。設定された各可燃性ガスの流量、予熱時間及びCO2指標を表1の「本発明の予熱工程を用いた場合」の欄に示す。なお、溶断用酸素ガスの流量は「8L/minに固定した場合」と同じであるため、最大溶断速度も「8L/minに固定した場合」と同値であり、表1では記載を省略している。
【0082】
【0083】
表1から分かるように、本発明のガス溶断方法を用いることで、予熱時間が短縮されるとともにCO2の発生量が低減できることが分かる。中でも0体積%超18体積%未満のエチレンを含み、残部が水素及び不可避的不純物であるNo.1の可燃性ガスを用いた場合、エチレン濃度が40%である可燃性ガスと比較して、同じ予熱時間でCO2の発生量が1/2とできている。このことから、0体積%超18体積%未満のエチレンを含み、残部が水素及び不可避的不純物である可燃性ガスが、CO2の発生量削減に特に有効であることが分かる。