(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083216
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】操作支援装置を具えたコンクリートカッター
(51)【国際特許分類】
E01C 23/09 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
E01C23/09 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099163
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022197456
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】592207142
【氏名又は名称】仲山鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】仲山 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 博美
(72)【発明者】
【氏名】松本 いぶき
(72)【発明者】
【氏名】山崎 恭和
【テーマコード(参考)】
2D053
【Fターム(参考)】
2D053AA26
2D053AB09
2D053FA00
(57)【要約】
【課題】 装置に取り付けたセンサ等によって過負荷状態を検出し、これに対し適切な補正信号を出力することにより、熟練者でなくとも適切な操作が行えるようにした、操作支援装置を具えたコンクリートカッターの開発を技術課題とする。
【解決手段】 本発明のコンクリートカッターMは、後輪21と、扛伏可動する回動アーム23の先端部に取り付けられた前輪22と、原動機4と、原動機4により駆動される駆動軸32と、駆動軸32に取り付けられるカッターブレード33とを具え、回動アーム23の設定角をシフトシリンダによって設定し、カッターブレード33により切断対象を切断するものであり、切断時における切断過負荷情報を検出する装置と、切断進路の方向異常情報を検出する装置とを具え、検出した切断過負荷状態・方向異常状態に応じて適正操作を促すための補正信号を出力することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を構成する本体ボディの下方において定位置で接地する後輪と、
この後輪より前方において扛伏可動する回動アームの先端部に取り付けられた前輪と、
本体ボディに搭載された原動機と、
この原動機により駆動される駆動軸と、
この駆動軸に取り付けられるカッターブレードとを具え、
前記回動アームの設定角をシフトシリンダによって設定することにより、駆動軸と切断面との相対高さを設定し、前記カッターブレードにより切断対象を切断するコンクリートカッターであって、
このものは、切断時における切断過負荷情報を検出する装置と、切断進路の方向異常情報を検出する装置とを具え、検出した切断過負荷情報・方向異常情報に応じて適正操作を促すための補正信号を出力することを特徴とする、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項2】
前記補正信号は、少なくとも、前記切断過負荷情報と方向異常情報とから検出した異常情報と警告とを含むものであり、この異常情報と警告とを表示パネルに表示する構成であることを特徴とする請求項1記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項3】
前記切断過負荷情報は、原動機負荷検出、機体挙動検出、ブレード検出のうち、少なくとも一つが検出される構成であることを特徴とする請求項1記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項4】
前記方向異常情報は、トレースゲージとマーキングラインとのズレをカメラで検出して得る構成であることを特徴とする請求項1記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項5】
前記原動機が内燃機関であるエンジンを通用した場合において前記原動機負荷検出は、
(1)エンジンの吸気圧
(2)%ロード
(3)%トルク
(4)スロットル開度
(5)エンジン回転数
(6)燃費
のいずれか一つまたは複数を検出するものであることを特徴とする請求項3記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項6】
前記機体挙動検出は、
(1)機体と切断面との角度変化
(2)回動アームを作動させるシフトシリンダの油圧変化
(3)回動アームの角度変化
のいずれか一つまたは複数を検出するものであることを特徴とする請求項3記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項7】
前記ブレード検出は、
(1)カッターブレードの温度上昇
(2)カッターブレードの変形
のいずれか一方または双方を検出するものであることを特徴とする請求項3記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項8】
前記補正信号は、カッターブレードによる切断深さを、目標の深さにする設定する指示を含むことを特徴とする請求項2記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【請求項9】
前記方向異常情報に基づく補正信号は、後輪の左右の速度を変更する指示または機体の適正な進行方向を表示する指示を含むことを特徴とする請求項4記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装路面や解体建造物のスラブ等を切断するコンクリートカッターに関するものであって、特に運転作動時における過負荷等を検出して、正常な運転状態を確保することができるようにした操作支援装置を具えたコンクリートカッターに係るものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装面等を含んだ意味としてのコンクリート構造物にあっては、補修、解体等にあたって、コンクリートカッターにより、所望の位置に切り込みを入れる切断加工を施している(例えば特許文献1・2参照)。
【0003】
この作業は、一般的には、熟練した作業者が施工箇所にマーキングされた切断予定のガイドマーカー(これをマーキングラインとする)に沿って、コンクリートカッターを進行させ、設定された切断深さで切り込みを形成して行くものである。
この作業の中で作業者は、機体の微妙な挙動や振動等からカッターブレードによる切断抵抗やカッターブレードの過負荷を感じ取り、切断のための進行速度を落とすなど、適切な操作を行っている。
【0004】
加えて、実際に切断を担うカッターブレードは、機体の一方の側部に具えられていることから機体を直進させようとして前方に押しても、カッターブレードが設けられた側部では切断作業に伴う抵抗が生じており、結果的にカッターブレードの設置側は言わば制動されたような状態となって、機体はカッターブレード設置側に偏向して走行しがちとなる。このため作業者は、常に前記マーキングライン等を頼りに機体の進行方向を正常化する走行操作も行っている。
【0005】
このようにコンクリートカッターを操作するにあたっては、機体の微妙な挙動等を正確に感じ取る能力と、それに応じた修正操作の加減を体感的に会得していなければならない。しかしながら、現実にはこのような作業を行うことのできる熟練作業者は、減少傾向にあり、いわゆる人手不足として問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-137534号公報
【特許文献2】特開2021-123945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、コンクリートカッター自体に作業状況を検出するセンサを取り付け、このセンサからの出力信号を情報として処理して、適切な補正信号を出力することにより、熟練者でなくとも適切な操作が行えるようにし、更にはコンクリートカッターの自動運転をも可能とした操作支援装置を具えたコンクリートカッターを開発することを技術課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち請求項1記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、
機体を構成する本体ボディの下方において定位置で接地する後輪と、
この後輪より前方において扛伏可動する回動アームの先端部に取り付けられた前輪と、
本体ボディに搭載された原動機と、
この原動機により駆動される駆動軸と、
この駆動軸に取り付けられるカッターブレードとを具え、
前記回動アームの設定角をシフトシリンダによって設定することにより、駆動軸と切断面との相対高さを設定し、前記カッターブレードにより切断対象を切断するコンクリートカッターであって、
このものは、切断時における切断過負荷情報を検出する装置と、切断進路の方向異常情報を検出する装置とを具え、検出した切断過負荷情報・方向異常情報に応じて適正操作を促すための補正信号を出力することを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項2記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記補正信号は、少なくとも、前記切断過負荷情報と方向異常情報とから検出した異常情報と警告とを含むものであり、この異常情報と警告とを表示パネルに表示する構成であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項3記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記切断過負荷情報は、原動機負荷検出、機体挙動検出、ブレード検出のうち、少なくとも一つが検出される構成であることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項4記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記方向異常情報は、トレースゲージとマーキングラインとのズレをカメラで検出して得る構成であることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項5記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項3記載の要件に加え、
前記原動機が内燃機関であるエンジンを通用した場合において前記原動機負荷検出は、
(1)エンジンの吸気圧
(2)%ロード
(3)%トルク
(4)スロットル開度
(5)エンジン回転数
(6)燃費
のいずれか一つまたは複数を検出するものであることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項6記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項3記載の要件に加え、
前記機体挙動検出は、
(1)機体と切断面との角度変化
(2)回動アームを作動させるシフトシリンダの油圧変化
(3)回動アームの角度変化
のいずれか一つまたは複数を検出するものであることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項7記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項3記載の要件に加え、
前記ブレード検出は、
(1)カッターブレードの温度上昇
(2)カッターブレードの変形
のいずれか一方または双方を検出するものであることを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項8記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項2記載の要件に加え、
前記補正信号は、カッターブレードによる切断深さを、目標の深さに設定する指示を含むことを特徴として成るものである。
【0016】
また請求項9記載の、操作支援装置を具えたコンクリートカッターは、前記請求項4記載の要件に加え、
前記方向異常情報に基づく補正信号は、後輪の左右の速度を変更する指示または機体の適正な進行方向を表示する指示を含むことを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0017】
まず請求項1記載の発明によれば、切断作業中、切断過負荷情報または方向異常情報が検出された場合には、これに応じた適正操作を促すための補正信号が出力されるから、例えば作業者はこれに対応した補正操作を即座に行うことができる。このため、たとえ作業者が熟練者でなくても、コンクリートカッターの異常状態を確実に認識することができ、更にはコンクリートカッターを適正な状態に素早く補正することもでき、切断作業を能率的、且つ継続して行うことができる。
【0018】
また請求項2記載の発明によれば、単に異常情報を表示するだけでなく、警告も表示するため、例えばマニュアル操作の場合、コンクリートカッターの異常状態を、より確実に認識することができる。また作業者は、表示された警告を回避するような補正操作を行えばよいため、補正操作が行い易くなり、コンクリートカッターを適正な状態に確実に戻すことができる。
またコンクリートカッター自体に補正操作を自動的に行わせる場合でも、警告が表示されるため、切断作業を行っているコンクリートカッターの現在の状況が、切断作業や現場を管理している作業者に分かり易く、作業全般を明確に把握することができる。
【0019】
また請求項3記載の発明によれば、原動機負荷検出、機体挙動検出、ブレード検出のうち、少なくとも一つによって切断過負荷情報を検出することができる。また、これら全てによって切断過負荷情報を検出した場合には、極めて高い精度で切断過負荷情報を検出することができる。
【0020】
また請求項4記載の発明によれば、切断進路の方向異常情報は、トレースゲージとマーキングラインとのズレをCCDカメラやCMOSカメラ等のカメラによって検出するため、明確に且つ高精度で方向異常情報を検出することができる。
【0021】
また請求項5記載の発明によれば、原動機がエンジンである場合の原動機負荷検出(エンジン負荷検出)において、
(1)エンジンの吸気圧
(2)%ロード
(3)%トルク
(4)スロットル開度
(5)エンジン回転数
(6)燃費
のいずれか一つまたは複数を検出するため、正確且つ高精度でエンジン負荷検出を行うことができる。
【0022】
また請求項6記載の発明によれば、機体挙動検出は、上記三つの事項(情報)のうち一つまたは複数から検出することができる。そして、これら全てによって機体挙動検出を行った場合には、極めて高い精度で機体挙動検出を行うことができる。
【0023】
また請求項7記載の発明によれば、ブレード検出は、上記二つの事項(情報)のうち一つまたは双方で検出することができる。そして、これら双方によってブレード検出を行った場合には、極めて高い精度でブレード検出を行うことができる。
【0024】
また請求項8記載の発明によれば、補正信号として、カッターブレードによる切断深さを、目標の深さに設定する指示を含むため、例えば切断深さが深過ぎて切断過負荷が生じた場合には、切断深さを浅くすることによって、早急に切断抵抗を減少させることができ、またその後に行う他の補正操作、例えば走行速度(切断速度)を低下させる等の操作等も確実に行うことができる。
なお、カッターブレードによる切断深さが目標値より浅い場合には、目標値になるように切断深さを深くする指示を補正信号として表示することもでき、適切な切断作業を行うことができる。
【0025】
また請求項9記載の発明によれば、方向異常情報に基づく補正信号として、後輪の左右の速度を変更する指示または機体の適正な進行方向を表示する指示を含むため、熟練者でなくても切断進路を確実に正しい方向に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のコンクリートカッター(操作支援装置を具えたコンクリートカッター)の一例が、道路(舗装面)に切り込みを入れている様子を示す斜視図である。
【
図3】コンクリートカッターの切削時の状態を示す側面図(a)、並びに本体ボディの前方側を最大限上昇させた状態を示す側面図(b)である。
【
図4】先端部に前輪を設けた回動アームを、適宜の角度、回動させることにより本体ボディの前方側を上昇させるコンクリートカッターにおいて、回動アームの回転角度を検出するポテンショメータを取り付けるようにした実施例を示す側面図である。
【
図5】本体ボディの下部に高さセンサを設け、傾倒した本体ボディの高さを検出するようにしたコンクリートカッターを示す側面図である。
【
図7-1】切断過負荷情報及び方向異常情報の各事項(データ)を例示した図表である。
【
図7-2】切断過負荷情報及び方向異常情報における事項(データ)を少なくとも一つIN要素としてCPUに入力した場合に、表示パネルに出力される内容を例示した図表である。
【
図8-1】切断過負荷情報における事項(データ)をPC画面に表示する場合の画像例である。
【
図8-2】
図8-1に示された事項(データ)を説明する図表である。
【
図9-1】本体ボディの前方にデプス計を設けたコンクリートカッターを示す斜視図(a)、並びに側面図(b)である。
【
図9-2】本体ボディの前方に設けたデプス計を拡大して示す側面図である。
【
図10】シャシーフレームからブレードカバー上方に伸びる距離計マストを設け、このマストに距離計を設置したコンクリートカッターを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、以下の実施例に示すとおりであるが、これらの実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例0028】
以下、本発明の操作支援装置を具えたコンクリートカッターM(以下、単にコンクリートカッターMとする)を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。なお、コンクリートカッターMは、例えばロードカッターと称され、道路(舗装面)に切り込みを入れる装置(いわゆる舗装面切断装置)の他、解体建築物等のコンクリート材を切断する装置等としても使用される。
コンクリートカッターMの全体構成について説明すると、このものの主要な構成部材は本体ボディ1(機体)を支持部材として車輪装置2、カッター系装置3、駆動原たる原動機4、駆動系装置5、操作系装置6、負荷検出系装置7、走行方向検出系装置8、制御処理装置9を具える。なお、
図1中の符号「ML」は、道路等の被切断面に予め施されたマーキングライン(切断線)である。
ここで本発明の名称に記載される「操作支援」について説明する。
例えば、舗装面の切断作業中に切断過負荷状態となり、機体に不具合を生じた際、作業者が機体の操作技術に精通していなくても、正常な状態に戻せるように促すことを意味する。ただし、補正操作は、必ずしも作業者が行う場合だけでなく、コンクリートカッターMが自動で補正操作を行うこともあり得る。また、本明細書における「支援」とは、必ずしも機体を正常な状態に補正するだけでなく、過負荷が甚大な場合には、安全を最優先してシャットダウンする制御も含むものである。
【0029】
以下、コンクリートカッターMの各構成部材を
図1~
図6に基づいて説明する。まず本体ボディ1と車輪装置2とについて説明する。
本体ボディ1は、適宜の強度を具えたシャシーフレーム11を具え、このシャシーフレーム11に対し、既に述べた種々の装置を覆うようなシュラウド12を設けて成る。
そして、このシャシーフレーム11の下方に、車輪装置2が設けられるものであって、車輪装置2は、固定配置された左右一対の後輪21と、上下方向に揺動するような前輪22とが、直接、舗装面等に接地し、コンクリートカッターMの移動を図るようにしている。
【0030】
前輪22は、一例として
図3・
図4に示すように、回動アーム23の自由端側に支持されており、この回動アーム23を例えば油圧で駆動するシフトシリンダ26によって回動させることにより、本体ボディ1全体を扛上させるものである(前上がり状態)。
ここで図中符号27は、シャシーフレーム11(本体ボディ1)の下部に固定されたピローブロックであり、これは回動アーム23の軸部を回動自在に保持するものである。また図中符号27aは、回動アーム23の回動支点となるピボットを示している。なお、本実施例ではシフトシリンダ26として、油圧で駆動するシリンダについて基本的に説明するが、油圧を使わず、電気によって駆動させる電動シリンダ(モータシリンダ)を適用することも可能である。
【0031】
以下、回動アーム23について、より詳細に説明する。回動アーム23は、一例として
図4の拡大図に示すように、前輪アーム24とリンクアーム25とを具えて成る。
前輪アーム24は、上記
図4に示すように、側面視L字状を成す、言わばベルクランク形に形成され、上述したようにピボット27aを中心として回動自在に構成されている。
またリンクアーム25は、本実施例では二節リンクとして構成され、シフトシリンダ26側に接続されるリンクを入力側リンク25aとし、前輪アーム24に接続されるリンクを作動側リンク25bとする。なお入力側リンク25aと作動側リンク25bとは、当然ながら回動自在に接続される。
またリンクアーム25とシフトシリンダ26との間には、中継部材28が設けられている。つまりシフトシリンダ26のシリンダロッド(摺動子)26aと中継部材28とが接続されており、この中継部材28とリンクアーム25の入力側リンク25aとが接続されている。
そして上記構成により、シフトシリンダ26のシリンダロッド26aを伸長させた際、この伸長動作がリンクアーム25を介して前輪アーム24に伝えられ、前記前輪アーム24を立ち上げるような状態とし、前記本体ボディ1全体を扛上させるものである(
図3の(a)→(b)参照)。
また、入力側リンク25aが中継部材28と接続される部位には、ポテンショメータ71を設けることができ、入力側リンク25aの角度変化ひいては前輪アーム24(回動アーム23)の角度変化が検出できるように構成されている。
【0032】
次にカッター系装置3について説明する。
カッター系装置3は、アスファルト舗装面やコンクリート構造物等を直接切断するものであり、一例として
図2に示すように、シャシーフレーム11の下面に設けられた軸受31において水平配置される主軸たる駆動軸32を支持するものであり、この駆動軸32の一端にカッターブレード33が取り付けられる。一方、駆動軸32の別の部位には、受動プーリ34が設けられ、このものに対して以下述べる原動機4からの動力を入力し、カッターブレード33の回転を行う。
なおカッターブレード33の外周側には、切削粉あるいは切削汚泥等を周囲に飛散させないようにするための飛散防止フードたるブレードカバー35が設けられる。このブレードカバー35は、シャシーフレーム11に対し上下動自在に取り付けられ、切断作業中は、ブレードカバー35の下部が舗装面等に接触するように設けられる。従って、切断作業中、例えばシャシーフレーム11が上下動(前方が回動)しても、ブレードカバー35は下部が舗装面等に接触した状態で維持される。因みに、このブレードカバー35には、切削粉等を吸引して、これを適宜回収する手法を具えるが、これについては既に公知の構造であるため詳細な説明は省略する。
【0033】
次に駆動原としての原動機4について説明する。
原動機4は、シャシーフレーム11のほぼ中央に搭載され、本実施例では原動機4としてエンジンを適用する。具体的には例えばガソリンエンジン等の内燃機関を適用したエンジン本体41を具えるものであり、エンジンへの燃料の供給を行う吸気管を具え、この吸気管には吸気圧を検出することができる適宜のセンサを設ける。
そしてエンジンの出力側にはエンジン回転の安定化を図るフライホイールが設けられ、次に述べる駆動系装置5に出力が伝達される。
なお、本明細書では、駆動原たる原動機4として、一般的なガソリンエンジン等の内燃機関を例示するが、原動機4としては内燃機関の他、モータ等を適用することも可能である。
【0034】
次に駆動系装置5について説明する。
駆動系装置5は、一例として上記
図2に示すように、上記フライホイールに対し、例えば直付け状態にドライブシャフト50の一端を固定し、このドライブシャフト50に対して、出力プーリ51を設けて成るものである。そして、当該出力プーリ51と前記カッター系装置3における受動プーリ34との間に駆動ベルト52を巻回し、エンジンの回転動力をカッターブレード33に伝達する。
【0035】
なお本コンクリートカッターMにおいては、ドライブシャフト50から更に分岐的に回転を取り出して油圧ポンプを駆動するものであり、この油圧ポンプにより発生する作動油の圧力により、例えば前輪22の回動アーム23をシフトするためのシフトシリンダ26への圧油供給や、後輪21を駆動するためにHST装置を具えているときには、その作動のための圧油供給を行う。
【0036】
次に操作系装置6について説明する。
操作系装置6は、言わば作業者が位置する本体ボディ1の後方上面に設けられる種々のインストルメントパネル(インパネ)等や走行操作を行う部材等を指すものである。すなわち、本体ボディ1のシュラウド12の後方上面近くには、一例として
図6に示すように、視認し易いような状態で表示パネル61を具えるものである。
より詳細には、表示パネル61の上段は、点灯することによって何らかの状態を知らせるパイロットランプ61aが配設され、図中「CHG」はバッテリーが充電異常のときに点灯するランプである。また図中「OIL」はエンジンオイル量が異常のときに点灯するランプであり、図中「MIL」はエンジン異常のときに点灯するランプである。
また表示パネル61の中段は計器盤61bであって、向かって左側からエンジン動作中のトータル時間を示すアワメータ、エンジン冷却水の温度を示す水温計、エンジンの回転数を示す回転計である。
【0037】
更に表示パネル61の下段は、スイッチ61cであり、向かって左側から走行のON-OFFスイッチ、ライトを点灯させるライティングスイッチ、切削汚泥の吸引・排出を行うためのスイッチ、先端部にトレースゲージ80が設けられたロッド状のゲージホルダ81を回動させるためのスイッチである。
また表示パネル61上の「浮き」とは、本体ボディ1の浮き上がりを昇降用のシフトシリンダ26の油圧変化によって数値表示するものであり、単位はbarが用いられている。
また表示パネル61上の「高さ」とは、切断路面から本体ボディ1の下面までの高さを示す数値表示であり、例えば基準の高さ寸法を0として設定しておき、切断負荷が過大となった場合に、前記基準高さからプラス数値として表示することができる(「高さ」については後述する)。
そして、このようにして表示パネル61に出力された情報(一例として上記「浮き」や「高さ」等)によって、例えば作業者がコンクリートカッターMを適正に補正するように操作するものである。なお、上記
図1において破線で示した矢印は、例えば許容範囲の「浮き」等が発生した場合でも、この情報が表示パネル61に出力されるためである。すなわち、必ずしも許容範囲外の情報だけが表示パネル61に表示されるものではないため、このような破線で矢印を示したものである。
【0038】
更に、本体ボディ1の操作系装置6として、後方に二本張り出す操向ロッド62を具えるものであり、作業者が操向ロッド62を適宜操作してコンクリートカッターMの走行方向をコントロールすることができるようになっている(例えば
図1~
図3参照)。
また、本体ボディ1の後方側には作業者に向かって突出するようなロッド状の昇降レバー63が設けられ、この昇降レバー63を作業者がマニュアル操作で上下動させることによって、前記前輪22の回動アーム23を油圧等により上下に回動させることができる。
【0039】
次に負荷検出系装置7について説明する。
負荷検出系装置7は、切削作業時(切断作業時)における過負荷情報を検出するものであり、一例として
図7-1に示すように、エンジン負荷検出と、機体挙動検出と、ブレード検出との三つの項目(カテゴリー)に大別される。
まずエンジン負荷検出としては、例えば以下のような事項(データ)が検出される。
(1) 吸気圧
(2) %ロード
(3) %トルク
(4) スロットル開度
(5) エンジン回転数
(6) 燃費
なお、これらの事項(データ)は、
図7-1では丸数字(丸囲み数字)として示しており、これは
図7-2においても同様である。
【0040】
ここで上記「(1) 吸気圧」は、インレットマニホールドにおいてエンジンに吸い込まれる空気の圧力である。この吸気圧の減少は、エンジン回転数の低下を意味するため、吸気圧の減少によりエンジン負荷が過大であると判断することができる。
また「(2) %ロード」は、現在のエンジン回転数での最大トルクに対する現在のトルクの比率である。
更に「(3) %トルク」は、エンジンの最大トルクに対する現在のトルクの比率である。
更にまた、「(4) スロットル開度」は、エンジンをコントロールするスロットルバルブの開度(開き具合)を示す値である。因みに、スロットルバルブとしてはバタフライバルブやスライドバルブが知られている。
なお、検出された吸気圧データは、%ロードや%トルクのCAN(Controller Area Network) 出力算出要素として利用される。また「(2) %ロード」~「(6) 燃費」は、CANデータやエンジン挙動データを利用して検出される。
【0041】
次に、機体挙動検出としては、例えば以下のような事項(データ)が検出される。
(7) 機体と切断路面との角度変化
(8) シフトシリンダの油圧変化
(9) エンジン回転数低下
(10)ベルトスリップ
(11)切削速度の低下
(12)振動変化
(13)前輪のアーム角度変化
(14)フレームベース(機体)の角度変化
(15)前輪接地荷重の変化
(16)トレースゲージとマーキングラインとのズレ
【0042】
ここで上記「(8) シフトシリンダの油圧変化」のシフトシリンダは、前記前輪アーム24を、扛伏させるための昇降用のシフトシリンダ26であり(
図4参照)、このシフトシリンダ26の油圧変化から機体挙動を検出するものである。もちろん、シフトシリンダ26に圧油を送る油圧配管の油圧変動を測定し、このデータから機体挙動を検出することも可能である。
また上記「(10)ベルトスリップ」は、原動機4としてのエンジンから後輪21やカッターブレード33などに駆動を伝達すべく、駆動側及び受動側の両プーリに巻回された駆動ベルト52のスリップを指す。
また上記「(13)前輪のアーム角度変化」は、例えば上記ポテンショメータ71によって検出することができる。また、同一または他のポテンショメータを設置することにより、上記「(7) 機体と切断路面との角度変化」や「(14)フレームベース(機体)の角度変化」を換算または検出することができる。
また機体そのものの変位は、一例として
図5に示すように、本体ボディ1の下部に設けた高さセンサ72(例えばレーザー光を照射するタイプのレーザーセンサ)によって検出することができる。因みに、上述した表示パネル61上の「高さ」とは、この高さセンサ72によって検出した数値を表示するものである。なお、この「高さ」を表示する場合には、上述したように、予め機体と切断路面との基準寸法を0として設定しておくことが好ましい。そしてカッターブレード33による切断路面の切削負荷が過大となったときには機体上部が浮き上がるため、これを「高さ」のプラス数値として検出することができる。もちろん、上記
図6に示すように、「高さ」と同時に「浮き」も計測すれば、より確実に機体挙動を検出することができる。
【0043】
更にまた、機体そのものの変位・角度・高さは、本体ボディ1の下部に傾斜計またはモーションセンサを設けることによっても検出することができる。
ここで「傾斜計」とは、単体で重力に対する角度を測定するものであり、水準器をセンサにしたものを指す。また「モーショーンセンサ」とはジャイロセンサ+加速度センサの意味であり、ジャイロセンサは、物の動き(回転)を検知することで、動きの方向を検知する慣性センサの一種で、角速度センサと同義である。更にまた、加速度センサは、物体の移動速度の変化を計測する慣性センサであり、動き・重力・振動・衝撃を検知することができる。このため上記モーションセンサでは、ジャイロセンサによって移動方向の検知及び振動の補正が行え、加速度センサによって移動距離の検知が行える。
因みに、
図3中に示すセンサ74が、上述した傾斜計またはモーションセンサであり、カッターブレード33の駆動軸32と同時に動くシャシーフレーム11において適宜の位置に設けることができる。
【0044】
また上記「(16)トレースゲージとマーキングラインとのズレ」は、コンクリートカッターMに設けられている既存のトレースゲージ80のトレース位置(ゲージホルダ81を倒し、マーキングラインMLに沿わせるようにした状態)と、切断作業の目印となるマーキングラインMLとのズレを検出するものである。なお、トレースゲージ80が指す位置、つまり実際の切断線と、マーキングラインMLとのズレは、例えばCCDカメラやCMOSカメラ等のカメラによって検出することができる。
【0045】
ブレード検出は、切削作業中のカッターブレード33の状態を検出するものであり、このブレード検出としては、例えば以下のような事項(データ)が検出される。
(17)温度上昇
(18)変形
(19)ダイヤの状態
ここで上記「(17)温度上昇」は、カッターブレード33の温度上昇を検出するものであり、例えば乾式切断は、特に温度上昇に敏感であるため、このものの温度を検出する。また湿式の場合でも冷却水不足によって温度上昇することがあるため、カッターブレード33の温度を検出することは有効である。
また「(18)変形」は、カッターブレード33の変形を検出するものであり、温度上昇や過負荷など、無理な切り方をした場合に起こる変形を検出することで、切断過負荷を検出する意図である。
更に「(19)ダイヤの状態」の「ダイヤ」とは、カッターブレード33の刃に取り付けられた個々のダイヤモンドチップを指すものであり、舗装面などの被切削物を削り取るダイヤモンドの状態によって、負荷抵抗値が上下するため、ダイヤの状態を検出することで切断過負荷を検出する意図である。なお、「ダイヤの状態」は、切削音で検知することも可能である。
【0046】
因みに、切断過負荷情報の検出にあたっては、必ずしも上記(1) ~(19)の全ての事項を検出する必要はなく、適宜選択して幾つかを、またはどれか一つを選んで、検出することが可能である。実際、本出願人が行った試験でも、このような手法で検出しても正確に過負荷情報が得られることが確認されている。もちろん、上記(1) ~(19)の事項を複数選択する場合には、例えば上述した三つの各項目、つまりエンジン負荷、機体挙動、ブレードから、少なくとも一つの事項が含まれるように選択することによって、切断過負荷情報を複数の視点(観点)から検出することになり、取得する過負荷情報の信頼性を一層向上させることができる。
【0047】
更に、切断作業中は走行方向についても偏向し得るものであり、そのため走行方向検出系装置8によって方向異常情報つまり切断進路の方向異常情報を検出する。
走行方向検出系装置8は、一例として上記
図1に示すように、先端が鋭角状に形成されるとともに反対側他端部が回動自在に保持されるプレート状のトレースゲージ80と、このトレースゲージ80を先端部に保持するロッド状のゲージホルダ81とを具えて成るものである。ここでゲージホルダ81は、本体ボディ1に対し回動自在に取り付けられており、トレースゲージ80を作用(トレースとして作用)させる際には、ロッド状のゲージホルダ81を寝かせた状態(横倒し状態)に傾倒させ、且つトレースゲージ80の鋭角先端部が下方を向くように設定するものである。これによりトレースゲージ80の鋭角先端部(これがカッターブレード33による切断線)が、舗装面等に予め描かれたマーキングラインMLを指すことになり、切断作業中は、作業者がトレースゲージ80をマーキングラインMLに沿うようにコンクリートカッターMを操作するものである。もちろん切断作業の進行に伴い、トレースゲージ80がマーキングラインMLから離れた場合には、両者間のズレが明確に認識(目視)できるため、実際の切断位置(走行方向)がマーキングラインMLからずれていると判断することができる。
【0048】
因みに、このように走行方向がずれる現象は、前記カッターブレード33が本体ボディ1の一側面、多くは進行方向右側面に設けられているためと考えられる。すなわち当該カッターブレード33による切削抵抗によって、右側の進行速度が遅くなり、コンクリートカッターM全体が右側に軌道をずれる傾向(右曲がり傾向)となるものと考えられる。
【0049】
また、上記方向異常情報の事項(データ)として、
(20)トレースゲージとマーキングラインとのズレ
が検出され、これは実質的に上記「機体挙動」検出の「(16)」と同じであるが、得られた情報を、機体挙動検出データとして利用するか、あるいは方向異常情報検出データとして利用するかの違いである。もちろん同じ情報を機体挙動検出データと方向異常情報検出データとの双方に利用することは可能である。
なお切断過負荷情報や方向異常情報として得られる上記データが、正常切断状態に対して定めた閾値を大きく越え、異常の度合いが大きいと判断される場合(端的には運転継続が危険と判断される場合)には、警告ではなく、シャットダウンなど安全性を確保する制御が考えられる。
【0050】
次に制御処理装置9について説明する。
制御処理装置9は、例えば上記
図7-1に示すように、前記切断過負荷情報及び方向異常情報を入力データとして、CPUを主体とした制御処理装置9に入力し、このデータに従って適宜表示を行うものである。
具体的には、一例として
図7-2に示すように、エンジン負荷検出において「(5) エンジン回転数」を検出し、これをIN要素(入力要素)とした場合には、表示パネル61にエンジン回転数を表示(出力)することができる(
図6参照)。またエンジン回転数とともにカッターブレード33の周速や回転数などを併せて表示(出力)することも可能である。そして、これらのデータからエンジンの異常を検出した場合には、警告灯や警告音などを併用して出力することが好ましい。なお、切断作業中は、激しい切断音が騒音となり、本体ボディ1(表示パネル61)から警告音を発しても作業者が気づかないことも考えられる。そのため例えば作業者が作業中の騒音対策としてイヤーマッフルを装着するような場合には、本体ボディ1とともに、このイヤーマッフルからも警告音が出力されるようにすることが可能である。
【0051】
また機体挙動検出において「(7) 機体と切断路面との角度変化」、「(8) シフトシリンダの油圧変化」、「(13)前輪のアーム角度変化」、「(14)フレームベース(機体)の角度変化」、「(15)前輪接地荷重の変化」を検出し、これをIN要素(入力要素)とした場合には、表示パネル61に切削深さ表示・目標深さ外れ警告を表示(出力)することができる。
更にまた、方向異常情報検出において「(20)トレースゲージとマーキングラインとのズレ」を検出した際には、上述したように当該情報を機体挙動検出としても利用しながら、これをIN要素(入力要素)とすることにより、表示パネル61に操舵指示・警告を表示(出力)することができる。なお、この表示では、
図7-2に示されるように、操向ロッド62の操作力(操向ロッド62をどの程度の操作力で左右に操作するのか)を含む表示とすることができる。また後輪21が駆動輪であり、且つ左右別々で駆動されている場合には、後輪21を左右別々で制御するような指示・警告が可能である。
【0052】
なおIN要素(入力要素)としてはCAN出力データも想定され、この場合には、表示パネル61にエンジン水温(エンジン冷却水の水温)等を表示(出力)することができる。なおエンジン水温も通常より高い場合には、警告灯や警告音などを併用して出力することが好ましい。
因みに
図7-2のIN要素欄に示した丸数字(丸番号)は、
図7-1の丸数字(丸番号)に対応している。
【0053】
また取得した測定項目は、コンクリートカッターMに搭載あるいは作業者(オペレータ)が持つPC(パソコン)内、もしくは記録メディアやクラウドへ記録することができる。以下、PC上での計測について説明する。
PC画面上には、以下の項目が一例として
図8-1のように表示される。
(1) 前進速度[m/min]
(2) %ロード[ %]
(3) %トルク[ %]
(4) スロットル開度
(5) エンジン回転数[min
-1]
(6) 燃費[L/h]
(7) 浮き[bar]
(8) 切断深さ[mm]
なお
図8-1の括弧数字(括弧付き番号)は、
図8-2の括弧数字(括弧付き番号)に対応している。
【0054】
ここで本発明のコンクリートカッターMにおいてカッターブレード33による切断深さを計測する手法について説明する。なお、切断深さの計測手法については、上記説明において多少触れた部分もあるが、ここでまとめて記載する。
切断深さの計測手法は、下記の三種類が挙げられる。
(A)シャシーフレームから地面等の距離を測り、その距離を切断深さに変換する手法
(B)シャシーフレームと前輪アームの角度から切断深さに変換する手法
(C)シャシーフレームの傾斜角度から切断深さに換算する手法
以下、上記(A)~(C)の三種の計測手法について更に説明する。
【0055】
(A)の計測手法について
この計測手法は、更に以下のような手法が挙げられる。
(1) コンクリートカッター前方にデプス計を設置し、それを地面に当てることにより、 地面との距離を計測し、切断深さに換算する手法(これについては後述)
(2) コンクリートカッター前方にレーザー距離計などの高さセンサ72を設置し(
図5 参照)、この地面との距離から、切断深さに換算する手法
(3) シャシーフレームと前車輪との距離を測定し、この距離を切断深さに換算する手法
(4) コンクリートカッター前方においてブレードカバー上方に伸びるマスト(距離計マ スト)を立ち上げ、このマストに距離計を設置し、この距離計からブレードカバーと の距離を測定することにより、切断深さを得る手法(これについては後述)
【0056】
(B)の計測手法について
(1) シャシーフレームと前輪アームとの角度を測定し、これを切断深さに換算する手法 (
図4参照)。
(2) 前輪アームをネジシャフトの正転・逆転により回動させ、前輪アームの角度を調整 できるようにしておき、このネジシャフトの回転数から、前輪アームとシャシーフレー ムとの角度を出し、これを切断深さに換算する手法(特開2017-43941号参照 )
【0057】
(C)の計測手法について
(1) シャシーフレームに傾斜計(対地角度)またはモーションセンサを設けて、その読 み取り角度から切断深さに換算する手法(上述した手法)
(2) アナログで作成した傾斜計をシャシーフレームに固定し、この角度から切断深さに 換算する手法(上述した手法)
【0058】
次に、上記(A)-(1) の計測手法において述べたデプス計(「76」の符号を付す)について説明する。
デプス計76は、シャシーフレーム11から地面までの距離を測定する計測装置であり、この計測距離からカッターブレード33による切断深さを算出する(換算する)。
デプス計76は、一例として
図9-1・
図9-2に示すように、コンクリートカッターM(シャシーフレーム11)の前方に設けられるものであり、地面に接触した状態で転動するキャスター761と、このキャスター761を転動自在に保持するキャスター保持マスト762と、このキャスター保持マスト762をシャシーフレーム11に対し昇降自在に支持するマスト取付部763とを具えて成る。
【0059】
以下、このようなデプス計76によって切断深さを算出する経緯について説明する。
前記キャスター761は、上述したようにシャシーフレーム11が傾いても、常に地面に接触(接触転動)するように構成されており、当該キャスター761を下部に設けたキャスター保持マスト762が、マスト取付部763により昇降自在に取り付けられている。
そのため、例えばシャシーフレーム11が最も前下がりとなり、最大の前傾姿勢をとった場合には(図中の破線参照)、キャスター保持マスト762もマスト取付部763から上方への突出寸法(いわゆる出代)が最も大きくなる。一方、シャシーフレーム11の前方が最も上向きとなった場合には(図中の太い実線参照)、上記キャスター保持マスト762の出代も最も小さくなる。
デプス計76は、このような出代寸法の相違を利用して切断深さを算出するものであり、具体的には、キャスター保持マスト762のマスト取付部763からの出代寸法を測定し、この出代寸法からカッターブレード33の位置を演算するものであり、演算したカッターブレード33の位置を表示、つまり切断深さを表示するものである。
【0060】
なお、このようなデプス計76は、切断深さをそれ以上深くしないようにするデプスストッパとして機能させることができるため、以下これについて説明する。
例えば上記マスト取付部763は、キャスター保持マスト762を単に昇降自在に支持するようにしても構わないが、キャスター保持マスト762を適宜の出代寸法に設定したら、この寸法値を維持固定できるようにキャスター保持マスト762を支持することが可能である。具体的には、マスト取付部763として、例えば高剛性スライダーをキャスター保持マスト762に接続しておき、この高剛性スライダーを電動アクチュエータによって摺動自在に設ける構成が挙げられる。
かかる構成により、一旦設定したキャスター保持マスト762の出代寸法を電動アクチュエータによって強固に維持・固定することができ、シャシーフレーム11(コンクリートカッターM)が、それ以上、前方下降(前傾)しないようにする、すなわちそれ以上深く切り込めないようにすることが可能である。
なお、上記デプス計76をこのようなデプスストッパとして機能させる際には、コンクリートカッターMの前方が上向きになっても(上向きに回動しても)、キャスター761が地面等の被切断面から離間しない強さで、常にキャスター761を任意の力で地面等に押し付けるように設定される。
【0061】
また上記デプス計76をデプスストッパとして機能させた場合のゼロ設定について述べると、カッターブレード33が地面等の被切断面に接触したときにキャスター保持マスト762の出代寸法をゼロに設定する。次いで、このようなゼロ設定から任意の切断深さに設定するものであり、これには電動アクチュエータ等でキャスター保持マスト762を上昇させ、出代寸法を調整する。調整後、電動アクチュエータ等の停止により、キャスター保持マスト762は、その位置で固定される。その後、キャスター761が地面に接触するまで、コンクリートカッターMを前傾させ(下げ)、任意の深さまでカッターブレード33を入れ込み、切断するものである。
【0062】
次に、上記(A)-(4) で述べた計測手法について説明する。
この手法は、一例として
図10に示すように、シャシーフレーム11の前方部においてブレードカバー35の上方まで至るように立ち上げられる距離計マスト781と、この距離計マスト781の上部に設けられる距離計782と、ブレードカバー35とを具えて成り、距離計782からブレードカバー35の外周までの距離を計測し、切断深さを得る手法である。なお距離計782としては、レーザー距離計を適用することができる。また、距離計マスト781は、シャシーフレーム11から立ち上げ状態に設けられるため、シャシーフレーム11の回動に伴って回動する。
【0063】
以下、この手法によって切断深さを得る経緯について説明する。
ブレードカバー35は、上述したようにシャシーフレーム11に対し上下動できるように構成されており、例えばシャシーフレーム11の前方が上下動しても、ブレードカバー35の下部は、常に地面等の被切断面に接触するように構成されている。
またブレードカバー35の外周部は、カッターブレード33と同心円状の円弧状外形として形成される。このため例えばシャシーフレーム11が最も前下がりとなり、最大の前傾姿勢をとった場合には(図中の二点鎖線参照)、距離計マスト781も最大の前傾姿勢となり、距離計782からブレードカバー外周までの距離が最も短くなる。一方、シャシーフレーム11の前方が最も上向きとなった場合には(図中の破線参照)、距離計マスト781は、最も後方に傾いた後傾姿勢となり、距離計782からブレードカバー外周までの距離が最大となる。
このため本手法では、シャシーフレーム11の回動に伴って回動する距離計マスト781に着眼して、距離計782からブレードカバー35の外周までの距離を計測し、この計測値から切り込み深さを得るものである。
【0064】
以下、本出願人が行った試験に基づく、上記手法の算出精度(換算精度)について説明する。
カッターブレード33の駆動軸32(ブレードシャフト)の地面(被切断面)からの距離H(H1~H3)と、距離計782とブレードカバー外周までの距離MH(MH1~MH3)とを、一例として上記
図10に併せ示す。
ここでH1=60mmは、ブレードフランジ(カッターブレード33を駆動軸32に取り付ける際、軸方向の押さえ部材)が地面に接触しているときであり、H2=139.3mmは、シャシーフレーム11が地面と平行になっているときである。またH3=210mmは、上記ブレードフランジが地面から150mm浮いた状態のときである。
【0065】
そして、H1=60mmのときMH1=88.13mmとなり、H2=139.3mmのときMH2=168.55mmとなり、H3=210mmのときMH3=239.25mmと計測できた。
ここで、各計測値の差を計算すると、
H2-H1=139.3-60=79.3mmに対し、MH2-MH1=168.55-88.13=80.42mmで、誤差は1.12mmである。
またH3-H2=210-139.3=70.7mmに対し、MH3-MH2=168.55-88.13=70.7mmで、誤差は0mmであり、誤差は約1mmの範囲内に収まることが分かった。
従って、簡易ではあるがブレードカバー35の下部が地面に接触していれば、ブレードカバー35の外周までの距離(差)を、切断深さとして使用することが可能であるとの結論が得られた。
【0066】
本発明のコンクリートカッターMは、以上のような基本構造を有するものであり、以下、本コンクリートカッターMの作動態様について説明する。なお説明にあたっては、必要な準備作業から説明する。
準備作業の一つとして本体ボディ1に対して、切り込み深さに応じたカッターブレード33を選択して取り付ける。この作業は、前記シフトシリンダ26のシリンダロッド26aを伸長させるものであり、これにより前輪22を保持する前輪アーム24を、立ち上げるようにして本体ボディ1を充分に扛上させ、カッターブレード33の取り付けを可能な状態とする(
図3(b)参照)。そして、この状態で駆動軸32にカッターブレード33を取り付ける。なお、通常の一般的な切断作業では、一例として
図3(a)に示すように、本体ボディ1がほぼ水平状態となる姿勢で行われる。
【0067】
このような状態でカッターブレード33を回転させる。そして前記シフトシリンダ26のシリンダロッド26aを収縮させ、本体ボディ1(前側)を降下させる。この際、マニュアル操作の場合には、昇降レバー63を下方に下げ、回動アーム23の前輪アーム24を寝かせた状態に戻すようにして本体ボディ1を降下させて行く。これに伴いカッターブレード33は、切断するマーキングラインML上において、所望深さまで切り込みを行う。
その後、後輪21が駆動するタイプであれば、後輪21を駆動させ、前記トレースゲージ80によってコンクリートカッターMをマーキングラインMLに沿うように進行させる。もちろん後輪21が駆動されないタイプであれば、作業者はカッターブレード33の切断深さの抵抗等を勘案しながら本体ボディ1を押してコンクリートカッターMを前進させて行くものである。
【0068】
そして、切り込み進行中、例えば舗装面等に対してカッターブレード33が受ける切断抵抗が過負荷状態となったときには、本体ボディ1の挙動として、充分な切断がされないことから、機体姿勢が幾分か前上がり状態となる(いわゆる浮き)。すなわちカッターブレード33の切削負荷が、過大となったときにカッターブレード33が切削中のコンクリートを切断し切れずに、例えば上記
図1に示すように、せり上がる傾向となり、実質的にコンクリートカッターMの機体が前上がり状態もしくは浮き上がり状態となるものである。
因みに従来、このような微妙な機体姿勢の変化が生じたときには、これを作業者が感じ取り、例えば作業速度を緩めてカッターブレード33の切断作業が過負荷状態にならないように操作していた。しかしながら、発明の背景で既に述べたように、この姿勢変化等を感知することは、かなりの熟練を要するものであり、熟練作業者が得にくい状況において本発明が寄与する。
【0069】
すなわち既に述べた切断過負荷情報(エンジン負荷検出・機体挙動検出・ブレード検出)や方向異常情報のデータにより、切断過負荷や方向異常状態を操作系装置6における表示パネル61上に表示する。具体的に説明すると、例えばエンジン水温が通常(または閾値)より高くなった場合や、ブレード温度が通常(または閾値)より高くなった場合、あるいはエンジン回転数が通常(または閾値)より低くなった場合、また吸気圧が通常(または閾値)より低くなった場合などには、このような異常が明確に確認できるように数値表示だけでなく、警告灯・警告音を併用して表示(出力)するものである。
【0070】
そして作業者は、このような表示を受けて、表示された異常事項を補正するような操作を行うものである。具体的には、例えばカッターブレード33による切断深さが深過ぎて切断過負荷が生じた場合には、カッターブレード33の切断深さを浅くすることによって、早急に切断抵抗を減少させる補正手法が挙げられる。また、カッターブレード33による切断深さが目標値より浅い場合には、目標値になるようにカッターブレード33の切断深さを深くする補正手法も挙げられる。更には、走行速度(切断速度)を落として切断負荷を軽減する等の補正手法もが挙げられ、このような補正操作を行うことにより、カッターブレード33による切削負荷が過剰にならない状態に復帰させる等、切断作業を適切に且つ円滑に継続できるようにするものである。なお、カッターブレード33による切断深さを浅くするにあたっては、機体を扛上させることから、例えば油圧式プランジャポンプ等を別途設けておき、これによって機体の扛上(昇降)を微調整することが可能である。また、このような手法により、異常を検知した際、即座に機体を所望寸法、ほぼ自動的に扛上させることも可能となる。
【0071】
また、このような補正手法は、コンクリートカッターMを操作する作業者が、異常情報・警告(警告灯や警告音)を受けて、作業者自身が具体的な補正操作を考えて実行する手法であり、この場合の補正信号(特許請求の範囲に記載する補正信号)とは、異常情報及び警告となる。
もちろん、表示パネル61上に具体的な補正内容までをも表示させ、作業者がその補正内容に従って補正操作を行うようにすることも可能であり、この場合の補正信号は、異常情報・警告・補正内容表示となる。
また、上記手法はいずれも作業者自らが補正操作を行うものであるが、コンクリートカッターM(制御処理装置9)自体に補正操作までを自動的に行わせることも可能であり、この場合の補正信号は、異常情報・警告・補正内容・補正操作となる。
【0072】
また走行異常情報によって走行方向の異常が検出された場合には、走行方向を正規の方向に戻すものである。具体的には、例えば後輪21の駆動がHSTによる駆動であれば、作業者がHSTの操作レバーを操作して左右の後輪21の駆動速度を変更して正常なマーキングラインMLに沿った走行を図るものである。もちろん、HSTによる駆動がなされないタイプであれば、作業者は操向ロッド62を操作してコンクリートカッターMの走行方向を正常に戻す方向に導く操作を行うものである。
また、ここでもコンクリートカッターM(制御処理装置9)によって自動的に走行方向を修正することまで行わせることが可能である。
因みに、後輪21を制御するにあたり、上述したように後輪21が左右別々で駆動されている場合には、後輪21を左右別々で制御するものである。