(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083222
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】バックアップリングシールと一体化した高温腐食性ガス向け複合シール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16J15/10 T
F16J15/10 C
F16J15/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023111058
(22)【出願日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2022207582
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】509083692
【氏名又は名称】株式会社EM応用技術研究所
(72)【発明者】
【氏名】三木 正晴
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA01
3J040AA17
3J040BA03
3J040CA02
3J040EA02
3J040EA15
3J040EA25
3J040FA01
3J040FA06
3J040HA06
3J040HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大気中の酸素ガス等がゴムシール内部を拡散透過するガス量を抑制する。
【解決手段】O-リングシール溝内に収まる形状のバックアップリングシール602を耐高温性は持つが耐腐食性は不十分なO-リングシール601の内周側(高温腐食性ガス側)に配する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
O―リングシール溝に挿入可能な形状のバックアップリングシールを耐高温特性に特化したゴムシールの内側に一体化した複合シール
【請求項2】
O―リングシール溝に挿入可能な形状のバックアップリングシールを耐高温特性に特化したメタルシールの内側に一体化した複合シール
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2記載のバックアップリングシールが概略純Ni製である複合シール
【請求項4】
請求項1あるいは請求項2記載のバックアップリングシールがPPS(ポリフェニレンサルファイド)製である複合シール
【請求項5】
請求項2記載のメタルシールが耐高温特性に特化したエラストマーコートメタルシールである複合シール
【請求項6】
請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3あるいは請求項4あるいは請求項5記載の複合シールの外周側にシートゴムシール部分を追加した複合シール
【請求項7】
請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3あるいは請求項4あるいは請求項5あるいは請求項6記載の複合シールを用いた成膜装置
【請求項8】
請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3あるいは請求項4あるいは請求項5あるいは請求項6記載の複合シールを用いたエッチング装置
【請求項9】
請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3あるいは請求項4あるいは請求項5あるいは請求項6記載の複合シールを用いた排気ガス除害装置
【請求項10】
請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3あるいは請求項4あるいは請求項5あるいは請求項6記載の複合シールを用いた排気ガス排気ポンプ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐高温性能を損なうことなく耐腐食性能も有するバックアップリングシールと一体化した複合シールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、あるいは、そのガス排気ポンプおよび排気ガス除害装置において、近年の半導体製造プロセスにおける更なる微細化、3次元化等により、大量の高温腐食性ガス、あるいは、クリーニングガスを導入、排気する必要性が高まってきている。そのため、それらの装置に使用するシールは耐高温性能と耐腐食ガス性能の両方を合わせ持つことが要求されている。しかしながら、その両性能を同時に満足させることが困難になってきている。例えば、300℃以上の耐熱性に対応できるゴムシールは存在するが、その耐腐食性は不十分であり、また耐高温性が比較的容易なメタルシールの場合は耐腐食性を考慮しシール表面に耐腐食性のAgやNiのコーティング等を用いるが、300℃以上の高温になるとそのコーティングの剥がれ等の問題が発生する。特に温度変化による膨張率の差異からシール面のずれが生じる場合はこの問題が顕著になる。従って、300℃以上の高温腐食性ガス向けの信頼性のあるシールをいかに実現するかが課題になっている。それに加え、半導体プロセスチャンバー内の酸素ガス濃度等を精密にコントロールする必要性が増大してきているため、大気中の酸素ガス等がゴムシール内部を拡散透過するガス量を抑制することも課題になっている。
【先行技術文献】
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1では耐腐食性材を腐食性ガス防止材として、O-リングシールの内側(腐食性ガス側)に配する提案をしているが、腐食性ガスが耐腐食性材を拡散透過することを見過ごしているため、腐食性ガスが時間経過とともに耐腐食性材の内部を拡散透過し、O-リングシール表面に到達するため、その腐食ガス防止効果は不十分である。そこで、O-リングシール内部をガスが拡散透過する現象に注目し、そのガスの拡散透過を防止することを意図した特許文献2のゴムO-リングシールの外周あるいは内周にバックアップリングシールを配した複合シールの考え方が参考になる。
【文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-174627
【特許文献2】特開2020-180697
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、
図2に示すように真空シール機能を持つ弾性部材からなる第一のシール部材201と耐プラズマ性や耐腐食ガス性を持つ第一のシール部材201より硬質な材料からなる第二のシール部材202とからなる複合シール200を提案しているが、第二のシール部材202を高温腐食性ガスが拡散透過するため、第一のシール部材201が高温腐食性ガスに攻撃されるのを防ぐ効果は不十分である。特許文献2では、
図3に示すように主たるシール機能を持つゴムO-リングシール301よりガスの拡散透過率が十分低いバックアップリングシール302をゴムO-リングシール301の外側あるいは内側に配する複合シール300を提案しているが、バックアップリングシール302の耐腐食性や耐高温性には言及していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためにO-リングシール溝内に収まる形状のバックアップリングシールを耐高温性は持つが耐腐食性は不十分なO-リングシールの内周側(高温腐食性ガス側)に配し、チャンバー部材表面とシール表面間におけるシール性能はO-リングシールで従来通りに実現し、O-リングシールの表面から内部へ侵入する高温腐食性ガスはバックアップリングシールを例えば耐腐食性と耐高温性に優れた概略純Ni金属製とし、しかもその表面とチャンバー部材表面間におけるシール性能はO-リングシールの悪くとも10%程度はあるような表面状態にすること、更にはO-リングシールとの接触面になるバックアップリングシールのO-リングシール側表面は充分にシール可能な表面状態であることにより、両シールを密着させた複合シールとし、チャンバーあるいはその配管内の高温腐食性ガスがO-リングシール表面に到達するガス量を実質的にほぼ零にする。ここで、O-リングシールを拡散透過する大気中のガス成分、例えば酸素ガスは、金属製バックアップリングシールにより、高温腐食性ガス側に拡散透過するガス量は実質上零で、チャンバー部材表面とバックアップリングシール表面間を通過するガスのみに制限されるので、チャンバー内に侵入する大気中の酸素ガス量はO-リングシールのみの場合より減少する。
【発明の効果】
【0007】
バックアップリングシールが、従来のO-リングシール溝に収まるような形状であるため、従来のシール部構造を設計変更する必要がなく、既存装置の耐高温腐食性ガス特性のアップグレイド用シールとして使える。
【0008】
従来のO-リングシールの内側、すなわち高温腐食性ガスが流れる側に耐高温性と耐腐食性に優れた概略純Ni金属をバックアップリングシールとして配することにより、ガスとバックアップリングシール表面との反応やそのシール表面から発生するガスの心配はない。
【0009】
また、従来のO-リングシールの内側にバックアップリングシールを配することにより、O-リングシールから発生するガス放出速度と大気中から侵入する酸素ガス量等も低減されるので、O-リングシールがゴムの場合は高分子量のガスや大気中の酸素ガス等の侵入を嫌う半導体製造装置や分析装置のシールとしても使える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】本発明の第一の実施例の耐高温特性に特化したゴムO-リングシールとの複合シール
【
図5】本発明の第二の実施例の耐高温特性に特化したメタルシールとの複合シール
【
図6】本発明の第一の実施例における環境温度変化に対応するバックアップリングシール形状
【
図7】本発明の第一の実施例の耐高温特性に特化したゴムO-リングシールに大気中のガス透過率低減機能を付加した複合シール
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
以下、本発明の実施例を各図に基づき説明する。
図1では、耐高温性を持つが耐腐食性が不十分なゴムO-リングシール101に直接腐食性ガスが接触するため、ゴムO-リングシール101は短期間で腐食される。
【0012】
一方、
図2における特許文献1の実施例では真空シール機能を持つ弾性部材からなる第一のシール部材201と耐プラズマ性や耐腐食ガス性を持つ第一のシール部材201より硬質な材料からなる第二のシール部材202とからなる複合シール200を提案しているが、第二のシール部材202を高温腐食性ガスが拡散透過するため、第一のシール部材201が高温腐食性ガスに攻撃されるのを防ぐ効果は不十分である。
【0013】
また、
図3に示す特許文献2の実施例では主たるシール機能を持つゴムO-リングシール301よりガスの拡散透過率が十分低いバックアップリングシール302をゴムO-リングシール301の外側あるいは内側に配する複合シール300を提案しているが、バックアップリングシール302の耐腐食性や耐高温性には言及していない。
【0014】
図4はゴムO-リングシールでの本発明の実施例で、耐高温性に特化しその耐高温特性が十分なゴムO-リングシール401の内側(高温腐食性ガス側)に耐高温腐食性を持つ金属、例えば概略純Ni製バックアップリングシール402を配した複合シール400となっている。概略純Ni製バックアップリングシール402の表面とチャンバー部材403の表面間におけるシール性能をゴムO-リングシール401の悪くとも10%程度はあるような表面状態にバックアップリングシール402の表面をすることと更にはゴムO-リングシール401との接触面になるバックアップリングシール402のゴムO-リングシール側表面を充分にシール可能な表面状態にすることにより、チャンバーあるいはその配管内の高温腐食性ガスがゴムO-リングシール401の表面に到達するガス量を実質的にほぼ零にすることができ、複合シール400は耐高温腐食性ガス特性を十分にもつようになる。また、ゴムO-リングシールを拡散透過する大気中のガス成分、例えば酸素ガス等は、金属製バックアップリングシールにより、拡散透過するガス量は実質上零で、チャンバー部材表面とバックアップリングシール表面間を通過するガスのみに制限されるので、チャンバー内に侵入する大気中の酸素ガス量等はゴムO-リングシールのみの場合より減少する。
【0015】
図5はメタルシールでの本発明の実施例で、耐高温性に特化しその耐高温特性が十分なエラストマー501aをコーティングしたエラストマーコートメタルシール501の内側(高温腐食性ガス側)に耐高温腐食性を持つ金属、例えば概略純Ni製バックアップリングシール502を配した複合シール500となっている。概略純Ni製バックアップリングシール502の表面とチャンバー部材503の表面間におけるシール性能をエラストマーコートメタルシール501の悪くとも10%程度はあるような表面状態にバックアップリングシール502の表面をすることと更にはエラストマーコートメタルシール501との接触面になるバックアップリングシール502のエラストマーコートメタルシール側表面を充分にシール可能な表面状態にすることにより、チャンバーあるいはその配管内の高温腐食性ガスがエラストマーコートメタルシール501の表面に到達するガス量を実質的にほぼ零にすることができ、複合シール500は耐高温腐食性ガス特性を十分にもつようになる。
【0016】
図6はチャンバー温度が高温と常温の間で変化する場合に対応する本発明の一つの実施例で、耐高温性に特化しその耐高温特性が十分なゴムO-リングシール601の内側(高温腐食性ガス側)に耐高温腐食ガス特性を持つ樹脂や金属、例えばPPS製バックアップリングシール602を配した複合シール600となっている。PPS製バックアップリングシール602の表面とチャンバー部材603の表面間におけるシール性能をゴムO-リングシール601の悪くとも10%程度はあるような表面状態にPPS製バックアップリングシール602の表面をすることと更にはゴムO-リングシール601との接触面になるPPS製バックアップリングシール602のゴムO-リングシール側表面を充分にシール可能な表面状態にすることにより、チャンバーあるいはその配管内の高温腐食性ガスがゴムO-リングシール601の表面に到達するガス量を実質的にほぼ零にすることができ、複合シール600は耐高温腐食性ガス特性を十分にもつようになる。しかしながら、環境温度が常温から高温、さらに高温から常温へと変化するとPPS製バックアップリングシール602の熱膨張率とチャンバー部材の熱膨張率の差から、高温時にはPPS製バックアップシール602に圧縮応力がかかり、常温に戻った際のその圧縮力解放にPPS製バックアップシール602が追従出来ず、チャンバー部材603との接触面のシール性能が低下する対策として、PPS製バックアップリングシール602とチャンバー部材603との接触部613の内側の一部をテーパ角度αのテーパ形状に、更にゴムO-リングシール601が、PPS製バックアップリングシール602との接触面側をゴムO-リングシールの一部が貫入した形状、即ち通常のゴムO-リングシール601の接触面曲率611より小さな曲率のバックアップシール602側の突出部612が、高温時のPPS製バックアップリングシール602への圧縮応力によるその外周側への屈曲に対する弾性力を与えるようになる。そのバックアップリングシール602側の突出部612の弾性力が、環境が常温に戻った際にPPS製バックアップリングシール602の表面とチャンバー部材603の表面間におけるシール性能の劣化を防ぐ役目をする。また、チャンバー部材603との接触部613の内側の一部のテーパ角度αはPPS製バックアップリングシール602の熱膨張率とチャンバー部材603の熱膨張率の差とその形状から決まる。
【0017】
図7はチャンバー温度が高温と常温の間で変化する場合に対応する本発明の
図6とは別の実施例で、耐高温性に特化しその耐高温特性が十分なゴムO-リングシール部分701の大気側に薄く径方向に幅のあるシートゴムシール部分704を設け、その部分がO-リングシール溝の大気側のチャンバー部材703間においてシールをするようにする。シートゴムシール部分の径方向長さlとシートゴムシール部分の厚さtとの比が10以上であれば、シートゴムシール部分704を大気側から拡散透過するガス透過率はO-リングシール溝のゴムO-リングシール部分701の約1/10以下になる。即ちバックアップリングシール702の表面シール効果がチャンバー温度変化により低下した場合でも高温腐食ガス側に侵入する大気中の酸素ガス等は
図6のゴムO-リングシール601のみの場合の約1/10に減少する。ここで、シートゴムシール部分704はゴムO-リングシール部分701と一体構造であってもかまわない。
バックアップリングシールが、従来のO-リングシール溝に収まるような形状であるため、従来のシール部構造を設計変更する必要がなく、既存装置の耐高温腐食性ガス特性のアップグレイド用シールとして使えるので、腐食性プロセスガスやクリーニングガスが従来より大流量に更には高温になる場合の新規あるいは中古の成膜装置やエッチング装置用のシールとして有用である。