(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083241
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】重炭酸温浴を用いた症状の改善方法及び症状の改善システム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/30 20180101AFI20240613BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240613BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240613BHJP
G16H 10/60 20180101ALI20240613BHJP
【FI】
G16H20/30
A61K8/19
A61Q19/10
G16H10/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180007
(22)【出願日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022197020
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】512083883
【氏名又は名称】株式会社ホットアルバム炭酸泉タブレット
(74)【代理人】
【識別番号】100114672
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】小星 重治
(72)【発明者】
【氏名】奴久妻 智代子
(72)【発明者】
【氏名】上田 豊
【テーマコード(参考)】
4C083
5L099
【Fターム(参考)】
4C083AB311
4C083AB351
4C083AC581
4C083AD041
4C083AD641
4C083CC25
4C083DD15
4C083EE05
4C083EE42
5L099AA15
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】患者は自宅で適切に重炭酸温浴を実施することができ、冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができる方法及びシステムの提供。
【解決手段】少なくとも患者の情報通信装置と医療機関の情報通信装置とを通信ネットワークを介して接続し、医療機関が患者のオンライン診察を行う第1処理と、医療機関が、データベースを参照して患者の症状に応じた重炭酸温浴の実施条件を設定して患者に通知する第2処理と、医療機関又は患者が、重炭酸入浴剤を患者の自宅に配送する指示を行う第3処理と、患者が、自宅の浴槽で重炭酸温浴を継続して実施すると共に、患者の体温を含む情報を医療機関に連絡する第4処理と、医療機関が、患者の体温を含む情報に基づいて患者の症状が改善したかを判断する第5処理と、を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重炭酸入浴剤を溶かした湯に入浴する重炭酸温浴を用いた症状の改善方法であって、
少なくとも患者の情報通信装置と医療機関の情報通信装置とを通信ネットワークを介して接続し、前記医療機関が前記患者のオンライン診察を行う第1処理と、
前記医療機関が、予め設けたデータベースを参照して、前記患者の症状に応じた前記重炭酸温浴の実施条件を設定して前記患者に通知する第2処理と、
前記医療機関又は前記患者が、前記重炭酸温浴の実施条件で定めた量の前記重炭酸入浴剤を前記患者の自宅に配送する指示を行う第3処理と、
前記患者が、前記重炭酸温浴の実施条件で定められた期間、当該実施条件に従って自宅の浴槽で前記重炭酸温浴を継続して実施すると共に、測定装置で測定した前記患者の体温を含む情報を前記医療機関に連絡する第4処理と、
前記医療機関が、前記患者の体温を含む情報に基づいて前記患者の症状が改善したかを判断する第5処理と、を実行する、
ことを特徴とする重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項2】
前記第5処理で前記患者の症状が改善していないと判断した場合は、前記データベースを参照して、前記重炭酸温浴の実施条件を見直した後、前記第3乃至第5処理を少なくとも1回、繰り返し実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項3】
前記第1処理では、前記オンライン診察の前、若しくは、前記オンライン診察に代えて、前記医療機関が前記患者のオンライン健康相談を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項4】
前記重炭酸温浴の実施条件は、前記重炭酸入浴剤を溶かした湯のpHと、前記湯の重炭酸イオン濃度と、入浴温度と、1回の入浴時間と、前記重炭酸温浴の継続期間と、を含み、
前記pHは6.2以上8.5以下、前記重炭酸イオン濃度は0.1mmol/L以上、前記入浴温度は41℃以下、前記1回の入浴時間は10分以上、前記重炭酸温浴の継続期間は4週間である、
ことを特徴とする請求項2に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項5】
前記第3乃至第5処理を4回実行した後、前記医療機関は前記患者の診察を行い、
前記第3乃至第5処理を8回実行した後、前記医療機関は前記患者の疾患が冷えの改善で治る疾患か否かを判断する、
ことを特徴とする請求項4に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項6】
前記重炭酸温浴の実施条件は、前記重炭酸温浴に際して、化学合成洗剤は使用しない、及び/又は、アスコルビン酸ナトリウム、アミノ酸、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムの中から選択される少なくとも一つの、水道水の塩素を除去する還元性物質を加えることを含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項7】
前記第1処理では、チャットアプリケーションを用いて、前記医療機関が前記患者のオンライン診察を行い、
前記第3処理では、前記患者の情報通信装置と前記重炭酸入浴剤の製造・販売を行うメーカーの情報通信装置とを前記通信ネットワークを介して接続し、前記患者が前記メーカーから前記重炭酸入浴剤を購入して配送を指示し、
前記第5処理で前記患者の症状が改善していないと判断した場合は、前記医療機関は前記患者に前記重炭酸温浴の実施の継続を指導する、
ことを特徴とする請求項1に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項8】
前記重炭酸温浴の実施条件は、前記重炭酸入浴剤の使用量と、入浴温度と、入浴時間と、前記重炭酸温浴に際して化学合成洗剤は使用しないことと、入浴タイミングと、を含み、
前記入浴温度は40℃以下、前記入浴時間は30分以上、前記入浴タイミングは就寝の略90分前である、
ことを特徴とする請求項7に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項9】
前記重炭酸入浴剤は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対し1/50から1/5のポリエチレングリコール及び1/20から1/3の有機酸を加え圧縮成型した錠剤であって、直径方向の硬度測定法による錠剤強度[kgf]が28以上であり、前記錠剤の直径及び厚みがそれぞれ10mm以上であり、かつ前記有機酸がクエン酸を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項10】
前記重炭酸入浴剤は、添加剤として、アスコルビン酸ナトリウム、アミノ酸、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムの中から選択される少なくとも一つの、水道水の塩素を除去する還元性物質を含む、
ことを特徴とする請求項9に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項11】
前記重炭酸入浴剤は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対し1/10から1/3の有機酸及び1/100から1/5のポリエチレングリコール並びに1/100から1/10の無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)を含む圧縮成型錠剤であって、錠剤を溶かした直後の水溶液のpHが5.5から8.5であり、錠剤硬度がビッカース硬度29kg以上、錠剤の直径と厚さ方向のそれぞれが7mm以上である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項12】
前記重炭酸入浴剤は、添加剤として、アスコルビン酸ナトリウム、アミノ酸、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムの中から選択される少なくとも一つの、水道水の塩素を除去する還元性物質を含む、
ことを特徴とする請求項11に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法。
【請求項13】
少なくとも患者側システムと医療機関側システムとが通信ネットワークを介して接続され、重炭酸入浴剤を溶かした湯に入浴する重炭酸温浴を患者が自宅で実施できるように支援する、重炭酸温浴を用いた症状の改善システムであって、
前記患者側システムは、少なくとも前記医療機関側システムとの通信を行う情報通信装置と、少なくとも前記患者の体温を測定する測定装置と、前記重炭酸温浴を実施する浴槽と、を備え、
前記医療機関側システムは、前記患者側システムとの通信を行う情報通信装置を備え、
前記医療機関側システムの情報通信装置と前記患者側システムの情報通信装置とは、オンライン診察が可能であり、
前記医療機関側システムは、予め設けたデータベースを参照して、前記患者の症状に応じた前記重炭酸温浴の実施条件を設定して前記患者に通知し、
前記医療機関側システム又は前記患者側システムは、前記重炭酸温浴の実施条件で定めた量の前記重炭酸入浴剤を前記患者の自宅に配送する指示を行い、
前記患者側システムは、前記重炭酸温浴の実施条件で定められた期間、当該実施条件に従って前記患者が自宅で前記重炭酸温浴を継続して実施する際に、前記測定装置で測定した前記患者の体温を含む情報を前記医療機関側システムに連絡し、
前記医療機関側システムは、前記患者の体温を含む情報に基づいて前記患者の症状が改善したかを判断する、
ことを特徴とする重炭酸温浴を用いた症状の改善システム。
【請求項14】
前記医療機関側システムは、前記患者の症状が改善していないと判断した場合は、前記データベースを参照して、前記重炭酸温浴の実施条件を見直す、
ことを特徴とする請求項13に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善システム。
【請求項15】
前記医療機関側システムの情報通信装置と前記患者側システムの情報通信装置とは、前記オンライン診察の前、若しくは、前記オンライン診察に代えて、オンライン健康相談が可能である、
ことを特徴とする請求項14に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善システム。
【請求項16】
前記医療機関側システムの情報通信装置と前記患者側システムの情報通信装置とは、チャットアプリケーションを用いて、前記オンライン診察が可能であり、
更に、前記重炭酸入浴剤の製造・販売を行うメーカー側システムが前記通信ネットワークに接続され、
前記患者側システムは、前記メーカーから前記重炭酸入浴剤を購入して配送を指示し、
前記医療機関側システムは、前記患者の症状が改善していないと判断した場合は、前記患者に前記重炭酸温浴の実施の継続を指導する、
ことを特徴とする請求項13に記載の重炭酸温浴を用いた症状の改善システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重炭酸温浴を用いた症状の改善方法及び症状の改善システムに関し、特に、患者と医療機関とをオンラインで繋いで、患者の疾患の症状に応じた重炭酸温浴を患者が自宅で実施できるように支援して、冷えなどに起因する疾患の症状を改善する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
戦前の病気は、肺炎、結核、赤痢、マラリアなどの細菌によるもので、免疫として必要なものは交感神経が支配し低体温で働く顆粒球であった。しかし、ペニシリンの発明で抗生物質が出現したことにより、これらの戦前の細菌による病気は根絶され、戦後の病気は生活習慣病やウイルスによるものが主体となった。このような生活習慣病やウイルスに対する免疫は、副交感神経が支配し高体温で働くリンパ球であり、患者の平熱が高ければ(36.5℃程度であれば)、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)の自然免疫によってがん細胞やウイルスに感染した細胞などのサイズの小さい異物を攻撃することができる。しかしながら、患者の平熱が低いと自然免疫が十分に機能しないため、高熱を出して、38℃以上で機能するT細胞やB細胞等の獲得免疫によって異物を攻撃しなければならなくなる。すなわち、体温が低いと免疫が低下することになる。
【0003】
ここで、戦後は水道法で0.1ppm以上という上限の無い塩素の添加基準を決めたことによって水道水中に塩素が残留し、また、化学合成洗剤が高性能化したため、常在菌が身体を守る肌バリアの皮脂セラミドを毎晩取ってしまい、バリア構造が破壊されてしまうようになった。その結果、化学合成洗剤中の化学物質や水道水中の残留塩素などが経皮吸収されて皮下脂肪に蓄積し、常時副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールやアドレナリンなどを分泌し、自律神経が交感神経を常時緊張させ、血管を収縮して血流を低下させ、体温を低下させるようになった。現在では、国民の体温が平均1℃も低体温化してしまい、体温の低下に伴い免疫が低下することによって、がんや糖尿病、心疾患、コロナウイルスなども重症化してしまうようになっている。
【0004】
また、ヨーロッパなどでは温浴療法などが適用される健康保健での湯治期間が決められているが、人の体を快方に向けて変化させるための湯治期間として通常4週間が使われ、本格的な人の体の変化は約4カ月と言われている。人の体は骨以外がほぼ入れ替わる化学タンパク質合成工場であるが、低体温の人は臓器の修復再合成の際に栄養酸素やホルモン酵素が充分に届かず、廃棄物の排泄も十分に行われない。加えて、低体温は、免疫低下や酵素反応低下により、あらゆるアレルギーや生活習慣病を引き起こす。また、睡眠時は体温を下げて寝入るため、低体温ではこの体温の下げ幅が充分に取れずに熟睡できないため、成長ホルモンが充分出る最初の90分のノンレム睡眠が浅くなり、臓器の修復が充分にできずに不調の元になる。
【0005】
このように生活習慣病の元になるのは体の冷えであり、低血流が元にあり、症状を改善するには血流を上げ、体温を上げることが重要であり、その方法として、重炭酸イオンを発生する入浴剤を溶かした湯に入浴する重炭酸温浴を利用した療法(いわゆる重炭酸温浴療法)がある。この重炭酸温浴療法は、湯中での血管内への重炭酸イオンの浸透により酸素と重炭酸イオンのガスバランスが崩れ、酸素を早く肺から取り込もうという生体恒常機能を利用した療法である。特に、本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤(特許文献1、特許文献2参照)を使用した重炭酸温浴療法(中性重炭酸温浴NO療法と呼ぶ。)では、湯が中性となり、高濃度の重炭酸イオンを発生させることができることから、血管内皮に一酸化窒素NOが分泌して毛細血管をダブルサイズに拡張し、血流が一気に3~5倍にアップして血流と酸素で体を温めることができる。すなわち、中性重炭酸温浴NO療法は、体内にNOを発生させる重炭酸イオンの作用による生体恒常機能を利用した療法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5588490号
【特許文献2】特許第5877778号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】丸山修寛・小星重冶,「No.29 重炭酸イオンークエン酸入浴剤の開発と未病への対応」,日本温泉気候物理医学会雑誌,第78巻,第1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、全臓器の反応や血流、ホルモン分泌などの全ての体の反応は、自律神経が指令し無意識下に起こる反応である。血流アップもホルモン分泌も全て副交感神経優位の条件下で起こるので、ストレスがかかった交感神経優位下では重炭酸温浴を行っても血流を十分に上げることができない。すなわち、重炭酸入浴剤以外の入浴剤を使用したり、重炭酸入浴剤を使用したとしても、湯中の重炭酸イオン濃度が十分に高くならない入浴剤を使用したり、42℃以上の高い温度で入浴したり、入浴時間が短かったり、更には、化学合成洗剤で体を洗ったり、水道水中の残留塩素が存在する状態で入浴したりすると、血管内皮に効率的にNOを分泌させて血流を上げることはできない。
【0009】
従って、重炭酸温浴を実施する際には、十分な濃度の重炭酸イオンの存在下で、副交感神経にスイッチが入るぬるめの湯でゆっくり入浴し、更に、化学物質を一切近づけない工夫が重要である。このような工夫により、生体恒常機能のスイッチが入り、毛細血管内皮に括約筋弛緩ホルモンであるNOが分泌し、血管が拡張して血流が上がり、これにより体が温められて体温を上げることができる。そして、体温が高い副交感神経優位の状態を持続することによって、リンパ球の自然免疫の活性化により免疫力が向上し、自己治癒力をあげて不調や病気の症状を改善することができる。
【0010】
このように、重炭酸温浴により体温を上げて冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができるが、そのためには重炭酸温浴を正しい条件で実施し、症状の改善を確認しながら、重炭酸温浴を継続することが重要である。その一つの方法として、重炭酸温浴を実施するための特殊浴槽を備える医療機関に通院し、医療従事者の指導を受けながら医療機関で重炭酸温浴を実施する方法があるが、この方法では患者は医療機関に頻繁に通院しなければならず、長期間の通院により患者の負担が増大する。
【0011】
一方、簡便な方法として、市販の重炭酸入浴剤を購入し、患者が自宅の浴槽で重炭酸温浴を実施する方法がある。この方法では患者の負担を軽減することができるが、適切な重炭酸温浴を実施するためには、どのような重炭酸入浴剤を購入すればよいか、重炭酸イオン濃度をどの程度にすればよいか、どの程度の温度の湯にどの程度の時間入浴すればよいか、また、重炭酸温浴をどの程度の期間実施すればよいかが分からず、適切な条件は患者の症状により様々なため、症状を適切に改善することはできない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、特殊浴槽を備える医療機関に通院しなくても、患者が自宅で重炭酸温浴を実施できるように支援することによって、冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができる方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、重炭酸入浴剤を溶かした湯に入浴する重炭酸温浴を用いた症状の改善方法であって、少なくとも患者の情報通信装置と医療機関の情報通信装置とを通信ネットワークを介して接続し、前記医療機関が前記患者のオンライン診察を行う第1処理と、前記医療機関が、予め設けたデータベースを参照して、前記患者の症状に応じた前記重炭酸温浴の実施条件を設定して前記患者に通知する第2処理と、前記医療機関又は前記患者が、前記重炭酸温浴の実施条件で定めた量の前記重炭酸入浴剤を前記患者の自宅に配送する指示を行う第3処理と、前記患者が、前記重炭酸温浴の実施条件で定められた期間、当該実施条件に従って自宅の浴槽で前記重炭酸温浴を継続して実施すると共に、測定装置で測定した前記患者の体温を含む情報を前記医療機関に連絡する第4処理と、前記医療機関が、前記患者の体温を含む情報に基づいて前記患者の症状が改善したかを判断する第5処理と、を実行することを特徴とする。
【0014】
本発明の一側面は、少なくとも患者側システムと医療機関側システムとが通信ネットワークを介して接続され、重炭酸入浴剤を溶かした湯に入浴する重炭酸温浴を患者が自宅で実施できるように支援する、重炭酸温浴を用いた症状の改善システムであって、前記患者側システムは、少なくとも前記医療機関側システムとの通信を行う情報通信装置と、少なくとも前記患者の体温を測定する測定装置と、前記重炭酸温浴を実施する浴槽と、を備え、前記医療機関側システムは、前記患者側システムとの通信を行う情報通信装置を備え、前記医療機関側システムの情報通信装置と前記患者側システムの情報通信装置とは、オンライン診察が可能であり、前記医療機関側システムは、予め設けたデータベースを参照して、前記患者の症状に応じた前記重炭酸温浴の実施条件を設定して前記患者に通知し、前記医療機関側システム又は前記患者側システムは、前記重炭酸温浴の実施条件で定めた量の前記重炭酸入浴剤を前記患者の自宅に配送する指示を行い、前記患者側システムは、前記重炭酸温浴の実施条件で定められた期間、当該実施条件に従って前記患者が自宅で前記重炭酸温浴を継続して実施する際に、前記測定装置で測定した前記患者の体温を含む情報を前記医療機関側システムに連絡し、前記医療機関側システムは、前記患者の体温を含む情報に基づいて前記患者の症状が改善したかを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法及び改善システムによれば、特殊浴槽を備える医療機関に通院しなくても、患者は自宅で適切に重炭酸温浴を実施することができ、これにより、重炭酸イオンの経皮吸収などによって血管内皮にNOを生成し、このNOによって血流を促進させることができ、冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができる。
【0016】
その理由は、少なくとも患者の情報通信装置と医療機関の情報通信装置とを通信ネットワークを介して接続し、医療機関が患者のオンライン診察を行う第1処理と、医療機関が、予め設けたデータベースを参照して、患者の症状に応じた重炭酸温浴の実施条件を設定して患者に通知する第2処理と、医療機関又は患者が、重炭酸温浴の実施条件で定めた量の重炭酸入浴剤を患者の自宅に配送する指示を行う第3処理と、患者が、重炭酸温浴の実施条件で定められた期間、当該実施条件に従って自宅の浴槽で重炭酸温浴を継続して実施すると共に、測定装置で測定した患者の体温を含む情報を医療機関に連絡する第4処理と、医療機関が、患者の体温を含む情報に基づいて患者の症状が改善したかを判断する第5処理と、を実行するからである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の全体動作を示すフローチャート図である。
【
図3】本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作(オンライン健康相談)を示すフローチャート図である。
【
図4】本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作(オンライン診察)を示すフローチャート図である。
【
図5】本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作(重炭酸温浴/オンラインフォロー)を示すフローチャート図である。
【
図6】本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴/オンラインフォローで使用する連絡票の一例を示す図である。
【
図7】重炭酸イオンの経皮吸収による血流量増加のメカニズムを説明する模式図である。
【
図8】本発明の第1の実施例に係る入浴時間と血流量との相関を示す図である。
【
図9】本発明の第1の実施例に係る入浴温度と血流量との相関を示す図である。
【
図10】本発明の第1の実施例に係る重炭酸イオン濃度と血流量との相関を示す図である。
【
図11】本発明の第1の実施例に係る入浴時間と体温との相関を示す図である。
【
図12】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムの構成を示すブロック図である。
【
図13】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の全体動作を示すフローチャート図である。
【
図14】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作(オンライン問診)を示すフローチャート図である。
【
図15】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作(オンライン診察)を示すフローチャート図である。
【
図16】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作(重炭酸温浴/オンラインフォロー)を示すフローチャート図である。
【
図17】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(LP画面)の一例を示す図である。
【
図18】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(登録画面)の一例を示す図である。
【
図19】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(第1トーク画面)の一例を示す図である。
【
図20】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(オンライン問診票画面)の一例を示す図である。
【
図21】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(第2トーク画面)の一例を示す図である。
【
図22】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(第3トーク画面)の一例を示す図である。
【
図23】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(購入画面)の一例を示す図である。
【
図24】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(第4トーク画面)の一例を示す図である。
【
図25】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(アンケート画面)の一例を示す図である。
【
図26】本発明の第2の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善システムで使用される情報通信装置に表示される画面(第5トーク画面)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来技術で示したように、様々な生活習慣病は体の冷えに起因している。冷えは交感神経優位なストレス状態が続いた結果であり、体が温まれば副交感神経優位な状態に変わり、自律神経のバランスが良くなり、消化器系の症状やアトピーなどのアレルギー症状、メンタルな不具合も改善し、自己治癒力や自己免疫力が高まり不調や病気が回復する。この体の冷えを改善する方法として、重炭酸温浴が知られている。この重炭酸温浴は、重炭酸入浴剤を構成する重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)と有機酸との中和反応により炭酸ガスを発生させ、重炭酸イオンの経皮吸収などによって血管内皮にNOを産生し、このNOによって血流を促進させ、体温を上昇させるものである。
【0019】
この重炭酸イオンの経皮吸収に関して説明する。一般的に、水に溶存した二酸化炭素は溶存無機炭素として存在するが、この溶存無機炭素は重炭酸塩平衡によって3種類の形態があり、溶液のpHに依存して形態が変化するとされている。pHによる3種類の溶存無機炭素の存在比は、溶液のpHが弱酸性以下の領域では重炭酸イオンの割合は低く炭酸が高くなり、中性から弱アルカリの領域では重炭酸イオンの割合が最も高く、アルカリ領域では対称的に重炭酸イオンは低く炭酸イオンが高くなることが知られている。
【0020】
また、二酸化炭素は皮膚の毛穴や汗腺などを経由する付属器官経路を経て皮膚表面から毛細血管に移行するとされているが、血液のpH域は重炭酸イオンの存在比が最も高いpH域と一致していることから、本願発明者らは、皮膚から血中に移行した二酸化炭素の多くが重炭酸イオンとして生理活性を発揮し、生体に対して有益な効果を与える可能性に着目し、重炭酸イオンの生体に与える効果について検討を行った(非特許文献1参照)。
【0021】
その結果、生体内試験において、対照群と比較して有意にマウスの血流を増加させ、その血液中の重炭酸イオン量や末梢血管における内皮型一酸化窒素合成酵素のリン酸化を介したNO産生の増加傾向が認められた。さらにヒト臍帯動脈内皮細胞を用いた試験管内試験では、中性重炭酸イオン水の存在下で内皮型一酸化窒素合成酵素のリン酸化の促進とNO産生の増加が検出され、中性重炭酸イオン水の活性酸素種消去活性は対照よりも有意に高い結果を得た。加えて、冷えの自覚症状のある中年の男女を対象に実施した二重盲検ランダム化比較試験では、中性重炭酸イオン水温浴による体温の上昇効果と冷え症状や睡眠の質に改善効果が認められた。
【0022】
これらのことから、重炭酸イオンは経皮的に吸収されることで血管内皮への直接作用により内皮型一酸化窒素合成酵素をリン酸化させ、NO産生の増加により血流を促進させることが明らかとなり、血行不良に伴う循環器領域における様々な臨床症状の改善への有用性が示唆された。
【0023】
この重炭酸イオンの経皮吸収を効率的に行うためには、入浴剤が溶解した後の水溶液のpHが中性となり、かつ、湯水中の重炭酸イオンが高濃度になることが重要であることから、本願発明者らは、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)と中和反応をさせる化合物として有機酸を用い、ポリエチレングリコールの存在下で、圧縮成型によって一定以上の高硬度で一定サイズの大きさとする錠剤の製造方法を発明した(特許文献1、特許文献2)。
【0024】
これらの方法で製造した重炭酸入浴剤では、激しく効率よく中和反応が起こり、可能な限り小さなサイズの炭酸ガス泡を一定時間継続的に放出させることによって、発生した炭酸ガスの大部分を空気中に逃がさず湯水中に溶解させることができる。また、溶解直後のpHが中性となるように設計することによって湯水中の重炭酸イオンが高濃度になり、更に、pHを中性にすることによって皮膚に触れた炭酸ガスが容易に重炭酸イオンとなり、本来存在する重炭酸イオンと相まって重炭酸イオンが高濃度になり、皮膚からの血管への重炭酸イオンの吸収を限りなく多くすることができる。
【0025】
このような重炭酸入浴剤を用いた重炭酸温浴により、血流を増加させて体温を上げることができるが、体の冷えに起因する様々な疾患の症状を適切に改善するためには、重炭酸温浴を正しい条件で実施し、症状の改善を確認しながら、重炭酸温浴を継続して実施することが重要である。その一つの方法として、重炭酸温浴を実施するための特殊浴槽を備える医療機関に通院し、医療従事者に指導を受けながら医療機関で重炭酸温浴を実施する方法があるが、この方法では医療機関に通院しなければならず、患者の負担が増大する。一方、重炭酸入浴剤を購入し、患者が自宅の浴槽で重炭酸温浴を実施する方法もあるが、この方法では、どのような重炭酸入浴剤を用いてどのように重炭酸温浴を実施すればよいかが分からず、症状を適切に改善することはできない。
【0026】
そこで、本願発明者は、医療機関に通院する煩雑さを解消しつつ、重炭酸温浴を用いて体の冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができるように、患者と医療機関とをオンラインで繋ぎ、患者が自宅の浴槽で適切に重炭酸温浴を実施できるように支援する方法及びシステムを構築した。
【0027】
具体的には、医療機関は、オンラインで患者の健康相談や診察を行い、その結果に基づいて患者の疾患・症状に応じた重炭酸温浴の実施条件を設定する。そして、医療機関又は患者は、実施条件で定めた量の重炭酸入浴剤(本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤に代表される特定の重炭酸入浴剤)が患者の自宅に配送されるように手配する。患者は配送された重炭酸入浴剤を用い、実施条件で定められた期間、当該実施条件に従って自宅の浴槽で重炭酸温浴を実施する。更に、重炭酸温浴の実施に際して、患者は体温などの情報を連絡し、医療機関はその情報に基づいて患者の症状が改善したかを判断し、患者の症状が改善しない場合は重炭酸温浴の実施条件を見直したり、重炭酸温浴の実施の継続を指導したりすることによって、体の冷えに起因する様々な疾患の症状を改善できるようにする。
【0028】
その際、上述したように、生活習慣病やウイルスに対する免疫は副交感神経が支配する高体温で働くリンパ球(NK細胞、T細胞、B細胞)であるから、平均体温が36.5℃以上に上がれば生活習慣病は改善されるはずである。また、酵素やホルモンはあらゆる臓器の破綻を修復する反応の触媒であるから、平均体温が36.5℃以上に上がれば酵素やホルモン分泌も活発になる。例えば、人間の体の基本骨以外は約4週間で入れ替わることから、平均体温が36.5℃以上となるように正しい重炭酸温浴を4週間続ければ、不調の改善が認められるはずであり、更に、人間の体は約4か月で完全に入れ替わることから、正しい重炭酸温浴を約4か月間(4週間を1サイクルとすると4サイクル)続ければ、8割以上の不調が改善し、約8か月間(4週間を1サイクルとすると8サイクル)続ければほとんどの不調が改善すると考えられる。一方、4週間以上正しい重炭酸温浴を続けても、体温の上昇や症状の改善カーブが緩い場合は、冷え以外に原因があると考えられることから、予め経験則で得た改善カーブを基に、冷えの改善で治る疾患と冷えの改善では治らない疾患と見極めることができる。そして、冷えの改善では治らない疾患の場合は、その根本原因を探る治療に移行しなければならない場合が多いことから専門病院を紹介するようにする。
【0029】
すなわち、本願発明のポイントは、重炭酸温浴の実施中の平均体温を観察し、その平均体温に基づいて患者の症状が改善したかを判断することである。そして、必要に応じて、4週間、4か月間、8か月間での症状の改善の収斂度を見ながら、冷えの改善で治る疾患であるのか、冷えの改善では治らない別の疾患であるのかを見分けることである。
【0030】
また、1サイクルとなる4週間の重炭酸温浴に際して、重要なのは、平均体温が36.5℃以上となるような正しい重炭酸温浴を実施することである。そのために、例えば、pHは中性(例えば、6.2以上8.5以下)、重炭酸イオン濃度は血管内皮にNOを十分に産生できる範囲(例えば、0.1mmol/L程度以上)の湯を用い、入浴温度は副交感神経が作用する温度(例えば、41℃以下)、入浴時間は血管拡張が完了する時間(例えば、10分以上)の条件で重炭酸温浴を実施する。更に、重炭酸温浴を、化学合成洗剤は一切使用せず、水道水の塩素を除去する還元性物質(アスコルビン酸Na、アミノ酸、亜硫酸Na、チオ硫酸Na)の共存下で行う。
【0031】
このように、本願発明の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法及び改善システムは、ただのお湯や他の酸性炭酸泉ではなく、あくまでも特定の重炭酸入浴剤(特に、本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤)を使用した中性重炭酸温浴NO療法であり、他の湯やNOが十分に産生されない交感神経優位な状態での入浴、化学合成洗剤などの化学物質共存下での入浴、残留塩素などの存在下での入浴は好ましくない。普通の温浴や温泉だけの普通の入浴法を幾ら工夫しても症状の改善に役立つ健康法にはなれない。
【実施例0032】
上記した本発明の一実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係る重炭酸温浴を用いた症状の改善方法及び改善システムについて、
図1乃至
図11を参照して説明する。
図1は、本実施例の重炭酸温浴を用いた症状の改善システムの構成を示すブロック図であり、
図2乃至
図5は、本実施例の重炭酸温浴を用いた症状の改善方法の動作を示すフローチャート図である。また、
図6は、本実施例の重炭酸温浴/オンラインフォローで使用する連絡票の一例を示す図であり、
図7は、重炭酸イオンの経皮吸収による血流量増加のメカニズムを説明する模式図である。また、
図8乃至
図10は、各々、入浴時間、入浴温度、重炭酸イオン濃度と血流量との相関を示す図であり、
図11は、入浴時間と体温との相関を示す図である。
【0033】
まず、本実施例の重炭酸温浴を用いた症状の改善システムについて、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、本実施例の重炭酸温浴を用いた症状の改善システム10は、患者側システム20と医療機関側システム30とそれらを相互に接続する通信ネットワーク40と患者に配送される重炭酸入浴剤50などで構成される。
【0034】
患者側システム20は、通信ネットワーク40を介して医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32aとの通信を行う情報通信装置21と、患者の体温、血圧、時間などを測定する測定装置22と、患者が居住する場所(以下、自宅とする。)に設置された浴槽23と、を備えている。情報通信装置21は、医療機関側システム30の医療従事者とテキストや音声、画像、映像を用いたリアルタイム通信を行うと共に、健康相談質問票41や問診票42、連絡票43などの表示や入力などを行う機器であり、例えば、コンピュータ装置、タブレット端末、スマートフォンなどを用いることができる。また、測定装置22は、例えば、患者の体温を測定する電子体温計や特定部位の温度を測定する非接触温度計、患者の血圧を測定する血圧計、入浴時間や睡眠時間を測定する時計などである。これらは別々の測定装置で測定してもよいし、体温計と時計、体温計と血圧計と時計の機能を兼ね備えたウェアラブルデバイスなどを用いて測定してもよい。また、浴槽23は、配送された重炭酸入浴剤50を溶かした重炭酸湯24に患者が入浴可能であればどのようなサイズ・形状・機能を有するものでもよいが、患者の身体全体を重炭酸湯24に浸けることができるサイズであることが好ましく、重炭酸湯24の湯温を制御できる温度コントロール機能が付加されていることが望ましい。
【0035】
医療機関側システム30は、患者の健康相談を受け付ける所定の医療機関の部署(本発明では健康相談科31と呼ぶ。)と、患者の診察を行う所定の医療機関若しくは他の医療機関の部署(本発明では診察科32と呼ぶ。)と、を備え、通信ネットワーク40を介して患者側システム20の情報通信装置21との通信を行う情報通信装置31a及び情報通信装置32aを備えている。情報通信装置31a及び情報通信装置32aは、患者とテキストや音声、画像、映像を用いたリアルタイム通信を行うと共に、健康相談質問票41や問診票42、連絡票43などの作成や表示、コメント入力などを行い、更に、重炭酸入浴剤50の製造、販売、配送業者に対して患者に重炭酸入浴剤50を配送するための指示を行う機器であり、例えば、コンピュータ装置、タブレット端末、スマートフォンなどを用いることができる。また、診察科32の情報通信装置32aは、各種の疾患・症状とその疾患・症状を改善するための重炭酸温浴の実施条件とを関連付けるデータベースが利用できるようになっている。このデータベースは、医療機関側システム30の医療従事者が多数の患者に対して重炭酸温浴を実施した臨床結果に基づいて作成した情報である。
【0036】
なお、本実施例では、理解を容易にするために、医療機関側システム30を便宜上、健康相談科31と診察科32とに分離しているが、健康相談科31と診察科32とは物理的に分離している必要はなく、また、1つの科で健康相談と診察の双方を行っても良い。
【0037】
通信ネットワーク40は、患者側システム20の情報通信装置21と医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32aとを接続する仕組み(例えば、インターネットなど)であり、テキストや音声、画像、映像を遅滞なく送受信できれば、その通信方法は特に限定されない。なお、患者側システム20の情報通信装置21と医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32aとの通信には、市販のアプリケーションを利用することができるが、通信内容の秘匿性を高めるために、専用のアプリケーションや専用の通信回線を利用しても良い。
【0038】
重炭酸入浴剤50は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)と有機酸とをポリエチレングリコールの存在下で圧縮成型して製造し、必要に応じて、無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)や水道水の塩素を除去する還元性物質を添加したものであり、溶解した湯のpHが中性となるように設計されている。この重炭酸入浴剤50としては、本願発明者らが発明した特許文献1や特許文献2に示す錠剤に代表される特定の重炭酸入浴剤が好適である。この重炭酸入浴剤の成分構成や製造方法に関しては後述する。
【0039】
次に、上記システムを利用した重炭酸温浴を用いた症状の改善方法について、
図2乃至
図5のフローチャート図及び
図6を参照して説明する。
【0040】
図2に示すように、医療機関は患者のオンライン健康相談を行う(S100)。
図3は、オンライン健康相談の詳細を示している。まず、健康相談科31の医療従事者(例えば、健康医学に精通した医学博士や看護師、医療スタッフなど)は、健康相談分類入力画面や健康相談内容入力画面などで構成される健康相談質問票41を作成し、作成した健康相談質問票41を通信ネットワーク40上で患者が利用できる状態にする(S101)。例えば、Google(登録商標、以下省略) Formなどのツールを利用して健康相談質問票41のオンラインフォームを作成し、医療機関のホームページなどのウェブサイトに、そのオンラインフォームに誘導するボタン(例えば、「オンライン健康相談はこちら」などと記載されたボタン)を配置する。
【0041】
次に、患者は、情報通信装置21を用いて医療機関のウェブサイトにアクセスし、ウェブサイトにリンクされた健康相談質問票41を表示し、健康相談に関する所定の情報を入力する(S102)。例えば、健康相談分類入力画面に、診療科(例えば、皮膚科、婦人科、アレルギー科、精神科)や症状(例えば、めまい、吐き気、むくみ、かゆみ)、部位(例えば、全身、顔、肩、手足)などを入力する。また、健康相談内容入力画面に、相談タイトル、症状が始まった時期、詳細な相談内容、この症状の医療機関への受診履歴、服用中の医薬品名、添付画像などを入力する。
【0042】
次に、健康相談科31の医療従事者は、情報通信装置31aを用いて入力済みの健康相談質問票41を表示して、患者の入力内容を確認する。例えば、Google Formを利用して健康相談質問票41を作成した場合は、Google Portalを利用して健康相談質問票41を表示する。そして、健康相談科31の医療従事者は、入力内容から患者の疾患・症状を推定し、必要に応じて、推定される疾患・症状に応じて詳細な健康相談質問票41aを作成し、作成した詳細な健康相談質問票41aを通信ネットワーク40上で患者が利用できる状態にする(S103)。
【0043】
次に、健康相談科31の医療従事者は患者のオンライン健康相談を実施する(S104)。例えば、患者の情報通信装置21と健康相談科31の情報通信装置31aとを通信ネットワーク40を介して接続し、健康相談質問票41の入力内容に基づき、テキストをリアルタイムで送受信するアプリケーション(いわゆるチャットアプリケーション)などを用いてオンラインで健康相談を行う。なお、ここでは、テキストをリアルタイムで送受信するアプリケーションを用いてオンラインで健康相談を行う構成としたが、音声と映像をリアルタイムで送受信するアプリケーション(いわゆるビデオ通話アプリケーション)や音声をリアルタイムで送受信する電話アプリケーション、電話機などを用いてオンラインで健康相談を行う構成としてもよい。
【0044】
次に、健康相談科31の医療従事者は、必要に応じて、情報通信装置31aを用いて、上記アプリケーション(例えば、チャットアプリケーション)の画面に詳細な健康相談質問票41aのURL(Uniform Resource Locator)などを添付して患者の情報通信装置21に送信し、患者が詳細な健康相談質問票41aにアクセスできるようにする(S105)。その際、数問の質問で、患者の悩み(冷え、疲労、肌荒れ、PMS(premenstrual syndrome)、更年期障害、不眠など)を見極めることができるようにアルゴリズム化しておくことにより、詳細な健康相談質問票41aを適切に作成することができる。
【0045】
次に、患者は、必要に応じて、情報通信装置21を用いて、上記アプリケーション(例えば、チャットアプリケーション)の画面に添付されたURLにアクセスして詳細な健康相談質問票41aを表示し、体温、身長、体重、現在の悩み(例えば、冷え、生理痛、更年期障害、睡眠、肌)、既往歴(例えば、糖尿病、甲状腺、ぜんそく、高血圧、リウマチ、貧血)、アレルギー、食欲、便通、生活習慣(例えば、喫煙、飲酒、運動、カフェイン)、渡航状況、ペットの有無、妊娠の有無などの情報を入力する(S106)。
【0046】
次に、健康相談科31の医療従事者は、必要に応じて、情報通信装置31aを用いて、入力済みの詳細な健康相談質問票41aを表示して、患者の入力内容を確認する。例えば、Google Formを利用して詳細な健康相談質問票41aを作成した場合は、Google Portalを利用して詳細な健康相談質問票41aを表示する。そして、健康相談科31の医療従事者は、健康相談質問票41及び詳細な健康相談質問票41aの入力内容やオンライン健康相談の内容から、可能性のある疾患・症状を推定し、推定した疾患・症状を患者に提示する(S107)。
【0047】
次に、健康相談科31の医療従事者は、提示した疾患・症状がオンライン診察の対象として予め定められた疾患・症状に該当するかを判断し(S108)、対象疾患・症状に該当する場合は(S108のYes)、診察科32でのオンライン診察が必要と判断し、患者に通知する(S109)。
【0048】
図2のフローチャート図に戻って、S100のオンライン健康相談でオンライン診察が必要と判断された場合は(S110のYes)、医療機関は患者のオンライン診察を行う(S120)。
図4は、オンライン診察の詳細を示している。まず、診察科32の医療従事者(例えば、医師や医学博士、看護師、医療スタッフなど)は、オンライン健康相談で推定した患者の疾患・症状に応じた問診票42を作成し、作成した問診票42を通信ネットワーク40上で患者が利用できる状態にする(S121)。例えば、Google Formなどのツールを利用して問診票42のオンラインフォームを作成し、医療機関のホームページなどのウェブサイトに、そのオンラインフォームに誘導するボタン(例えば、「オンライン診察はこちら」などと記載されたボタン)を配置する。
【0049】
次に、患者は、情報通信装置21を用いて医療機関のウェブサイトにアクセスし、ウェブサイトにリンクされた問診票42を表示し、その問診票42に所定の情報を入力する(S122)。
【0050】
次に、診察科32の医療従事者は、情報通信装置32aを用いて入力済みの問診票42を表示して、患者の入力内容を確認する。例えば、Google Formを利用して問診票42を作成した場合は、Google Portalを利用して問診票42を表示する。そして、診察科32の医療従事者は、問診票42の入力内容に基づいて患者の疾患・症状を推定する(S123)。
【0051】
次に、診察科32の医療従事者(診察は医師に限る。)は患者のオンライン診察を行い、患者の疾患・症状を確認する(S124)。例えば、患者の情報通信装置21と診察科32の情報通信装置32aとを通信ネットワーク40を介して接続し、問診票42の入力内容に基づき、音声と映像をリアルタイムで送受信するアプリケーション(ビデオ通話アプリケーション)を用いてオンライン診察を行い、診察科32の医療従事者は、患者の疾患・症状を確認する。なお、ここでは、音声と映像をリアルタイムで送受信するアプリケーションを用いてオンラインで診察を行う構成としたが、テキストをリアルタイムで送受信するアプリケーション(チャットアプリケーション)や音声をリアルタイムで送受信する電話アプリケーション、電話機などを用いてオンライン診察を行う構成としてもよい。
【0052】
再び
図2のフローチャート図に戻って、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、オンライン健康相談又はオンライン診察で推定した患者の疾患・症状に応じて重炭酸温浴の実施条件を設定する(S130)。そして、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、設定した重炭酸温浴の実施条件を患者に説明し、必要な費用(重炭酸入浴剤50の費用やオンライン診察の費用など)を患者に請求する。
【0053】
この重炭酸温浴の実施条件は、重炭酸温浴に用いる重炭酸入浴剤の種類、重炭酸入浴剤を溶解した湯のpH、重炭酸入浴剤の投入量(すなわち、重炭酸入浴剤を溶かした湯の重炭酸イオン濃度)、入浴温度、1回の入浴時間、重炭酸温浴の継続期間などであり、更に、重炭酸温浴に際して、化学合成洗剤は使用しないこと、水道水の塩素を除去する還元性物質を加えることなどである。
【0054】
医療機関側システム30には、多数の疾患・症状の患者に対して様々な実施条件で重炭酸温浴を実施したときの臨床結果を蓄積しており、疾患・症状と重炭酸温浴の実施条件とを対応付ける情報がデータベースとして保存されているため、このデータベースを参照することによって、患者の疾患・症状に応じた重炭酸温浴の実施条件を見つけ出すことができる。
【0055】
例えば、重炭酸温浴の実施条件として、人間の体の基本骨以外は約4週間で入れ替わることから、重炭酸温浴の継続期間は4週間を1サイクルとする。また、毎回の重炭酸温浴に際して、重炭酸入浴剤は本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤(例えば、メディケイテッドホットタブ)、pHは6.2以上8.5以下(本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤を用いればpHは必然的にこの範囲になる。)、重炭酸イオン濃度は0.1mmol/L程度以上(本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤の場合は50Lの湯に15g(1錠)以上の重炭酸入浴剤)、入浴温度は副交感神経が作用する41℃以下、入浴時間は血管拡張が完了する10分以上、重炭酸温浴の頻度は毎日1回から3回などとする。特に、糖尿病予備軍や睡眠障害の場合は、入浴温度は40℃以下、入浴時間は20分以内が好ましい。また、冷えの場合は、入浴温度は40℃以下、入浴時間は20分以上が好ましい。また、アトピー性皮膚炎の場合は、入浴温度と入浴時間は最初の10分は39.0~39.5℃、次の10分は40.0~40.5℃が好ましい。
【0056】
また、重炭酸温浴の実施条件として、化学合成洗剤は一切使用しない、アスコルビン酸ナトリウム、アミノ酸、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムの中から選択される少なくとも一つの水道水の塩素を除去する還元性物質の共存下で行うなどを加えても良い。また、重炭酸温浴の実施条件として、重炭酸温浴の継続期間中に、所定の間隔(例えば、7日や10日に一度の頻度)で、HSP(ヒートショックプロテイン)の分泌を促すために、入浴温度を41℃±0.5℃、入浴時間を20~45分程度に変更しても良い。
【0057】
なお、重炭酸温浴に用いることができる代表的な重炭酸入浴剤の成分構成及び製造方法については後述する。また、重炭酸温浴の際の重炭酸イオン濃度や入浴温度、入浴時間は、後述する実験によって好ましい範囲が明らかになっており、本実施例の重炭酸温浴の実施条件はこの実験結果を参照して定められている。
【0058】
次に、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、重炭酸温浴の実施条件で定めた量の重炭酸入浴剤50を患者の自宅に配送するための指示を、重炭酸入浴剤50の製造、販売、配送業者に対して行う(S140)。若しくは、医療機関が重炭酸入浴剤50をストックしている場合は、ストックしている重炭酸入浴剤50を患者の自宅に配送するための指示を配送業者に対して行う。その際、重炭酸温浴の継続期間(例えば、4週間)、毎日、重炭酸温浴を実施するために必要な量の重炭酸入浴剤50を一度に配送してもよいし、所定間隔で分割して配送してもよい。また、重炭酸入浴剤50に水道水の塩素を除去する還元性物質が添加されていない場合は、重炭酸入浴剤50と共にこの還元性物質の粉末やタブレットなどを配送するように指示してもよい。
【0059】
次に、患者は自宅で重炭酸温浴を毎日実施し、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、患者の重炭酸温浴の実施状況を毎日又は所定の期間毎にオンラインでフォローする(S150)。
図5は、重炭酸温浴/オンラインフォローの詳細を示している。まず、患者は、測定装置22を用いて起床時の体温、血圧、睡眠時間等を測定し、測定結果を健康相談科31又は診察科32が予め作成した連絡票43に入力する(S151)。例えば、Google Formなどのツールを利用して、
図6に示すような連絡票43のオンラインフォームを作成し、医療機関のホームページなどのウェブサイトに、そのオンラインフォームに誘導するボタンを配置して、患者がアクセスできるようにする。なお、血圧は必ずしも測定しなくてもよく、冷え性の患者の場合は、冷えの部位の温度も測定することが好ましい。なお、連絡票43はデジタルデータとして通信ネットワーク40を介して送受信する形態に限らず、紙媒体の連絡票43に記入して郵送する形態としてもよく、その場合は、所定間隔(毎日や毎週など)で郵送すればよい。
【0060】
次に、患者は、重炭酸温浴の実施条件で指示された重炭酸入浴剤50の投入量(重炭酸イオン濃度)や入浴温度に従って浴槽23に重炭酸湯24を溜め、重炭酸温浴の実施条件で指示された時間、重炭酸温浴を実施する。この重炭酸温浴に際して、化学合成洗剤は一切使用せず、重炭酸入浴剤50に水道水の塩素を除去する還元性物質が添加されていない場合は、所定量の還元性物質を浴槽23に投入して還元性物質の共存下で行うことが好ましい。また、所定の間隔(例えば、7日や10日に一度の頻度)で、HSP(ヒートショックプロテイン)の分泌を促すための重炭酸温浴を実施してもよい。そして、測定装置22を用いて入浴時間や入浴前後の体温(例えば、舌下温)等を測定し、測定結果を連絡票43に入力する(S152)。なお、入浴前後の体温は重炭酸温浴の度に測定してもよいし、患者の負担軽減のために、所定の間隔で(例えば、1か月に1度)測定してもよい。
【0061】
次に、患者は、就寝時に測定装置22を用いて体温等を測定し、測定結果を連絡票43に入力する(S153)。その際、冷え性の患者の場合は、冷えの部位の温度も測定して連絡票43に入力することが好ましい。
【0062】
次に、患者は、所定の間隔で(例えば、1か月に1度)、健康相談科31又は診察科32が予め、Google Formなどのツールを利用して作成した患者の疾患・症状毎の連絡票43aに必要な情報を入力する(S154)。例えば、不眠症の場合はピッツバーグ質問票、アトピー性皮膚炎の場合は症状チェックシート、鬱やストレスの場合は心の健康チェックシートやストレスチェックシート、自律神経失調症の場合はストレスによって起こる心身の反応シート、冷え性の場合は四肢末端型冷え性チェックシートや下半身型冷え性チェックシート、内蔵型冷え性チェックシート、代謝・血管型冷え性チェックシート、夏型冷え性チェックシート、生活習慣病型チェックシートなどの疾患・症状毎の連絡票43aに入力する。なお、連絡票43と同様に、疾患・症状毎の連絡票43aはデジタルデータとして通信ネットワーク40を介して送受信する形態に限らず、紙媒体の疾患・症状毎の連絡票43aに記入して郵送する形態としてもよい。
【0063】
次に、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、連絡票43や疾患・症状毎の連絡票43aの入力内容を確認する(S155)。そして、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、患者に対するコメントが必要であるかを判断し(S156)、コメントが必要な場合は(S156のYes)、連絡票43や疾患・症状毎の連絡票43aに対してコメントを入力する(S157)。
【0064】
次に、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、重炭酸温浴が実施条件で定めた所定期間、実施されたかを判断し(S158)、所定期間、実施されていない場合は(S158のNo)、S151に戻って、患者は重炭酸温浴を継続して実施する。なお、
図5では、1日の処理を分かりやすくするために、患者の起床時の処理(S151)から記載したが、S151からS153のいずれの処理から開始しても良い。
【0065】
再び
図2のフローチャート図に戻って、健康相談科31又は診察科32の医療従事者は、重炭酸温浴の実施中に患者が入力した連絡票43や疾患・症状毎の連絡票43aを確認し、患者の疾患・症状が改善しているかを判断し(S160)、患者の疾患・症状が十分に改善したと判断した場合は(S160のYes)、一連の処理を終了する。
【0066】
一方、患者の疾患・症状が十分には改善していないと判断した場合は(S160のNo)、健康相談科31又は診察科32の医療関係者は、重炭酸温浴の実施条件の見直しが必要であるかを判断し(S170)、重炭酸温浴の実施条件の見直しが必要と判断した場合は(S170のYes)、重炭酸温浴の実施条件を見直す(S180)。例えば、重炭酸入浴剤50の投入量を増やして重炭酸イオン濃度を上げたり、入浴温度を上げたり、入浴時間を長くしたり、毎日の入浴回数を多くしたりする。
【0067】
そして、重炭酸温浴の実施条件の見直しが不要と判断した場合(S170のNo)、若しくは、S180で重炭酸温浴の実施条件を見直した後、S140に戻って重炭酸入浴剤50を配送し、次の期間の重炭酸温浴を実施する。このように、患者の疾患・症状が十分に改善しない場合、S140からS180の処理を繰り返し実施することになるが、人間の体は約4か月で完全に入れ替わることから、重炭酸温浴の実施期間を4週間に設定した場合は、S140からS180の処理を4回(約4か月間)実施することが好ましい。そして、重炭酸温浴を約4か月間実施すれば、8割以上の不調が改善すると考えられることから、S140からS180の処理を4回(約4か月間)実施した後、医療機関は患者の診察を行うことが好ましい。更に、重炭酸温浴を約8か月間実施すれば、ほとんどの不調が改善すると考えられることから、S140からS180の処理を8回(約8か月間)実施した後、医療機関は患者の疾患が冷えの改善で治る疾患であるのか、冷えの改善では治らない別の疾患であるのかを判断することが好ましい。
【0068】
なお、上記フローでは、S100でオンライン健康相談を行った後に、S120でオンライン診察を行う構成としたが、疾患・症状が著しく現れている場合は、オンライン健康相談を行わずに、直ちにオンライン診察を行う構成としてもよい。
【0069】
また、上記フローでは、医療機関側システム30の指示に従って患者の自宅に重炭酸入浴剤50が配送される構成としたが、医療機関側システム30は重炭酸入浴剤50の必要量などを記載した処方箋を薬局やドラッグストアに送り、患者はその薬局等(好ましくは患者の自宅の近くの薬局等)から重炭酸入浴剤50を入手するようにしてもよい。また、市販されている重炭酸入浴剤50を使用できる場合は、医療機関側システム30は重炭酸入浴剤50の必要量などを患者に通知し、患者は販売店等から必要量の重炭酸入浴剤50を入手するようにしてもよい。
【0070】
このように、患者が自宅からオンラインで医療機関の健康相談や診察を受けるだけで、重炭酸入浴剤が自宅に配送され、どのように重炭酸温浴を実施すればよいかの指導を受けることができる。更に、重炭酸温浴を実施した時の患者の体温などをオンラインで医療機関に連絡することにより、患者の疾患・症状の改善具合に応じた指導を受けることができる。そして、適切な重炭酸温浴を継続して実施することにより、重炭酸イオンの経皮吸収などによって血管内皮にNOを生成し、このNOによって血流を促進させることができ、体の冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができる。更に、4週間、4か月間、8か月間での症状の改善の収斂度を見ながら、患者の疾患が冷えの改善で治る疾患であるのか、冷えの改善では治らない別の疾患であるのかを見分けることができる。
【0071】
次に、上述した重炭酸温浴に使用することができる代表的な重炭酸入浴剤について説明する。
【0072】
本実施例の重炭酸温浴に使用する重炭酸入浴剤は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対して所定の割合の有機酸及び所定の割合のポリエチレングリコール並びに必要に応じて所定の割合の無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)を含む圧縮成型錠剤である。
【0073】
具体的には、特許文献1の錠剤は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対し1/50から1/5のポリエチレングリコール及び1/20から1/3の有機酸を加え圧縮成型した錠剤であって、直径方向の硬度測定法による錠剤強度[kgf]が28以上であり、前記錠剤の直径及び厚みがそれぞれ10mm以上であり、かつ前記有機酸がクエン酸を含むものである。
【0074】
また、特許文献2の錠剤は、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)に対し1/10から1/3の有機酸及び1/100から1/5のポリエチレングリコール並びに1/100から1/10の無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)を含む圧縮成型錠剤であって、錠剤を溶かした直後の水溶液のpHが5.5から8.5であり、錠剤硬度がビッカース硬度29kg以上、錠剤の直径と厚さ方向のそれぞれが7mm以上である。なお、圧縮成型錠剤を溶解した直後の湯のpHは5.5から8.5であるが、錠剤が溶解した直後から、重炭酸イオンは中性pH付近であっても炭酸ガスを自然に揮発させpHは徐々に上昇していくことを考慮すると、重炭酸温浴時のpHは、6.2から8.5程度である。
【0075】
有機酸としてはクエン酸、コハク酸、リンゴ酸などが用いられるが、少なくともクエン酸を含む有機酸を用いることで、錠剤中の中和反応をより効果的に持続させ、微細な泡を発生させることができる。
【0076】
また、重炭酸塩を流動層で造粒して造粒物を得る場合、実質的に空気を攪拌作用として使用しない機械式流動層造粒機を用いることによって、錠剤中の反応を効率的に高めることができる。機械式撹拌方式の流動層では、撹拌に空気を用いた流動を行わず、プロペラなどの機械式羽などを用いて粉体を流動させるため、造粒中に湿気のある空気から持ち込まれる水分が吸湿する事もない。
【0077】
実質的に空気を攪拌作用として使用しない機械式流動層造粒機は、横型ドラムの中にすき状ショベルを配し、遠心拡散及び渦流作用を起こさせ、三次元流動させる混合機であり、例えば、ドイツレーディゲ社製又は松坂技研社製として市場で販売されている。
【0078】
本造粒機には、減圧するための真空ポンプが付いていることがより好ましい。造粒中に減圧ポンプで真空にすることにより、ポリエチレングリコールの量を下げて造粒できるため、中和反応をより活発にしながら、発泡する泡の径を極めて小さくすることができる。更に、造粒した顆粒が冷却時に粗大粒子になるのを防止するためのチョッパーが付いていることが好ましい。即ち、チョッパーを冷却時に作動させて整粒することにより、炭酸ガス泡の径をミクロサイズより小さくする効果が発揮され、より好ましい造粒方法となる。
【0079】
本実施例の重炭酸入浴剤では、重炭酸ナトリウムをポリエチレングリコールと機械式撹拌方式を用いた流動層造粒機によって造粒し、この造粒物に一定比率の量の有機酸とポリエチレングリコールを加え、混合後、高圧で圧縮成型し一定硬度以上一定サイズ以上の錠剤として得る。もちろん有機酸を主とする混合物もポリエチレングリコールを用いて造粒し、重炭酸塩を造粒せずにポリエチレングリコールと混合しただけで、有機酸造粒物と混合して圧縮成型し錠剤を得るようにしてもよく、造粒する化合物の量が相対的に少なく工程的な面からの製造方法としては好ましい。いずれにしろ、コストの面からは重炭酸塩もしくは有機酸のどちらか一方を造粒し、片方は混合するだけで製造することが望ましい。また、錠剤中での中和反応を長時間維持し溶解する炭酸ガスを増大させるには、重炭酸塩と有機酸塩の両方がいずれもポリエチレングリコールと混合もしくはコーテイングして使用することが好ましい製造方式となる。
【0080】
また、本実施例の重炭酸入浴剤では、圧縮成型前のいずれかの工程に無水物を添加することが好ましい。無水物の量は、多すぎる場合は発泡する泡の量が少なくなってしまい、一方、少なすぎると浴中での炭酸ガスの発生が激しくなり、好ましくない。上記無水物とは、無水炭酸ナトリウム、無水炭酸カリウムから選ばれる1又は2以上の無水物であり、特に、無水炭酸ナトリウムが好ましい。
【0081】
また、本実施例の重炭酸入浴剤では錠剤成形のための離型剤を使用することができ、この離型剤としては一般的にショ糖やステアリン酸マグネシウムなどが使われるが、特に、n-(ノルマル)オクタンスルホン酸ナトリウムやラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ミリストイルメチルアラニンナトリウムなどから選ばれる1種を含むことで、錠剤を安定的かつ高速に圧縮成型することができるため好ましい。また、錠剤が湯水に溶解された際、ミクロサイズの発泡を行わせ、溶解後のこの湯水の透明性を維持する上でも、これらの離型剤が最も好ましく用いられる。なお、この離型剤の添加量は、公知公用の範囲であればよく、特別の制限はない。
【0082】
また、本実施例の重炭酸入浴剤には、主成分に加えて、その他の成分(添加物)を必要に応じて混合することができる。その他の添加物として、ヒアルロン酸などの健康成分や香料、色素、ビタミンC、水道水の塩素を除去する還元性物質(アスコルビン酸Na、アミノ酸、亜硫酸Na、チオ硫酸Na)などが挙げられる。
【0083】
なお、上述した重炭酸入浴剤及びその製造方法は一例であり、湯水中に重炭酸イオンを同程度に溶解させることができ、重炭酸入浴剤を溶解した湯水を略中性にすることができれば、その構成や製造方法は適宜、変更可能である。例えば、重炭酸入浴剤の成形性及び湯水への溶解性を向上させるための水溶性高分子などの材料(造粒促進剤と呼ぶ。)としてポリエチレングリコールを使用しているが、造粒促進剤として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、カルボキシビニルポリマー、カチオン化ポリマー、スチレン重合体エマルション、ポリリン酸およびその塩、ピロリン酸およびその塩、硫酸マグネシウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびその塩、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン澱粉、にかわ、寒天、ゼラチン、コラーゲンタンパク、流動パラフィン、カゼイン、ペクチン、アルギン酸およびその塩、カラギーナン、ファーセレラン、タマリンドガム、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、クインスシード、デキストリン、デキストランなどを用いることもできる。
【0084】
次に、上述した重炭酸入浴剤を用いた重炭酸温浴方法について説明する。上述した重炭酸入浴剤を用いることにより、発生した炭酸ガスを効率的に湯水中に溶解させ、経皮吸収される重炭酸イオンの濃度を高めることができる。
図7は、人の血管の構造を模式的に示しており、表皮61の内側に真皮/皮下脂肪組織62があり、真皮/皮下脂肪組織62の内側に血管65がある。血管65は平滑筋67を有する血管壁66とその内側の血管内皮細胞68とで構成され、血管内皮細胞68の内部が血管内69である。ここで、重炭酸イオンが溶解した湯水に入浴すると、
図7に示すように、重炭酸イオンは汗孔64などを介して、血管内69に浸透して血管内皮細胞68に存在する内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)をリン酸化し(P-eNOS)、L-アルギニン(L-Al)に作用して一酸化窒素(NO)を発生する。発生したNOはグアニル酸シクラーゼ酵素(sGC)によりグアノシン三リン酸(GTP)を介して環状グアイノシンリン酸(cGMP)を生成する。そして環状グアイノシンリン酸(cGMP)は血管壁66の平滑筋67を弛緩し、その結果、血管65が拡張して血流が増加する。
【0085】
従って、湯水中の重炭酸イオンの濃度を高めることにより、重炭酸イオンの経皮吸収によって血流を促進し、体温を上昇させるなどの入浴効果を高めることができるが、この入浴効果を最大限に発揮させるためには、重炭酸イオンの経皮吸収に関係する入浴条件(入浴剤を溶解した湯水に入浴する時間、入浴剤を溶解する湯水の温度、湯水中の重炭酸イオン濃度など)を最適化する必要がある。
【0086】
そこで、入浴効果を最大限に発揮させるための入浴条件を調べた。ここで、上述したように、重炭酸イオンが経皮吸収されると、血管に一酸化窒素(NO)が発生し、血管が一気に拡張して血流を早めることから、入浴時の被験者の血流量を測定することによって、入浴時間、入浴温度、重炭酸イオン濃度の最適値を調べた。この血流量の測定には、非接触型レーザードップラー血流計(株式会社アドバンス製のALF21N)を用い、レーザ光を生体組織に照射した際の組織からの反射光を電気信号に変換して処理することにより求めた。測定場所は、いわゆる「合谷(ごうこく)」に該当する手の背側の個所であり、皮膚に計測グローブを装着して測定した。なお、血流量の単位はmL/min/100g-組織であるが、ここでは入浴前の値に対する倍数として表記し、被験者が5日間実施したデータの平均値を使用した。
【0087】
まず、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を39℃に調整し、その中に上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整し、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)に入浴させた時の血流量の時間変化を測定した。また、比較のために、39℃の通常の湯水に被験者10名を入浴させた時の血流量の時間変化を測定した。その結果を
図8に示す。
【0088】
図8の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合は、入浴によって体温が上昇し、自律神経の作用によって一時的に血流量が約2倍に増加するが、10分程度で血流量の増加は止まり、その後は入浴時間を長くしても血流量はほとんど変化しなかった。一方、
図8の実線に示すように、上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整した湯水に入浴した場合は、時間の経過に伴って重炭酸イオンが経皮吸収されて血管に一酸化窒素が発生し、一酸化窒素から生成された環状グアイノシンリン酸が平滑筋を弛緩して血管が拡張する。その結果、10分経過後には血流量は入浴前の約5倍に増加し、20分経過後には血流量は入浴前の約6倍に増加し、その後も入浴時間の増加に伴って血流量が徐々に増加した。
図8の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに血流量が増加しており、通常の湯水に入浴した場合との血流量の有意差を考慮すると、入浴時間は10分以上が最適な入浴条件であると言える。
【0089】
次に、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を変化させ、その中に上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整し、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)に20分入浴させた時の血流量を測定した。また、比較のために、温度を変化させた通常の湯水に被験者10名を20分入浴させた時の血流量を測定した。その結果を
図9に示す。
【0090】
図9の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合、入浴温度の上昇に伴って体温が上昇し、自律神経の作用によって血流量は徐々に増加するが、血流量の増加は約2.4倍以下であった。一方、
図9の実線に示すように、上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整した湯水に入浴した場合は、入浴温度の上昇に伴って、酵素(内皮型一酸化窒素合成酵素やグアニル酸シクラーゼ酵素など)の働きが高まり、一酸化窒素や環状グアイノシンリン酸の生成量が増加し、平滑筋の弛緩作用が強まって血管が大きく拡張する。その結果、29℃で血流量は入浴前の約3.1倍、32℃で血流量は入浴前の約5倍、41℃で血流量は入浴前の約6.1倍になり、その後、血流量はほぼ一定になった。
図9の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに血流量が増加しており、通常の湯水に入浴した場合との血流量の有意差を考慮すると、入浴温度は41℃以下が最適な入浴条件であると言える。
【0091】
次に、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を39℃に調整し、その中に上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を変化させ、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)に20分入浴させた時の血流量を測定した。その結果を
図10に示す。なお、重炭酸イオン濃度が0mmol/Lの血流量が入浴前の2倍になっているのは、39℃の通常の湯水に20分入浴した場合の血流量の増加が入浴前の2倍であることによる。また、
図10では、重炭酸イオン濃度が低い(1mmol/L以下の)条件での血流量の変化を分かりやすくするために、グラフの左右で重炭酸イオンの濃度範囲で変えている。
【0092】
図10の実線に示すように、上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を変化させた湯水に入浴した場合は、経皮吸収される重炭酸イオンが少量でも十分な一酸化窒素が発生し、一酸化窒素から生成された環状グアイノシンリン酸が平滑筋を弛緩して血管が拡張する。その結果、0.1mmol/Lで血流量は入浴前の約4.8倍、0.2mmol/Lで血流量は入浴前の約5.3倍に急激に増加し、その後、5mmol/Lで血流量は入浴前の約6.2倍、10mmol/Lで血流量は入浴前の約6.4倍に緩やかに増加した。
図10の結果から、重炭酸イオン濃度は、血流量が大幅に増加する0.1mmol/L程度以上が最適な入浴条件であると言える。
【0093】
重炭酸イオンの経皮吸収によって血流量が増加すると体温が上昇すると考えられることから、入浴時間と体温の相関を調べた。この体温の測定には、電子体温計や非接触体温計などの通常の体温計や深部体温計(GreenTEG社製のCORE)を用いることができる。本測定では、深部体温計を用い、熱流束(単位時間当たりに単位面積を流れる熱エネルギー量)を高感度センサーで測定し、アルゴリズムで処理することによって皮膚表面の体温から体の内部の体温(深部体温)を求めた。測定場所は手首であり、3cm×3cmのパッチ型センサーをバンドで手首に固定して測定した。なお、ここでは入浴前の値からの変化として表記し、被験者が5日間実施したデータの平均値を使用した。
【0094】
入浴時間と血流量との相関を調べた時と同様に、浴槽に210Lの湯を入れて入浴温度を39℃に調整し、その中に上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整し、被験者10名(20歳以上60歳以下の健康な女性)を入浴させた時の体温の時間変化を測定した。また、比較のために、39℃の通常の湯水に被験者10名を入浴させた時の体温の時間変化を測定した。その結果を
図11に示す。
【0095】
図11の破線に示すように、通常の湯水に入浴した場合、自律神経の作用によって血流量は増加するが、体温はそれほど上昇していない。一方、
図11の実線に示すように、上述した重炭酸入浴剤を投入して重炭酸イオン濃度を2mmol/Lに調整した湯水に入浴した場合は、重炭酸イオンが経皮吸収されて血管に一酸化窒素が発生し、一酸化窒素から生成された環状グアイノシンリン酸が平滑筋を弛緩して血管が拡張し、血流量が増加する。その結果、10分経過後には体温は入浴前の値から約0.7℃(通常の湯水の場合は約0.5℃)上昇し、20分経過後には体温は入浴前の値から約1.5℃(通常の湯水の場合は約1.1℃)上昇し、その後も入浴時間の増加に伴って体温が徐々に上昇した。
図11の結果から、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴した場合、通常の湯水に入浴した場合に比べて明らかに体温が高く、重炭酸イオンを溶解させた湯水に入浴することによって体が芯から温まっていることが分かった。
図11の結果からも、通常の湯水に入浴した場合との体温の有意差を考慮すると、入浴時間は10分以上が最適な入浴条件であると言える。
【0096】
以上の結果から、重炭酸温浴の実施条件としては、重炭酸入浴剤は本願発明者らが発明した重炭酸入浴剤が好ましく、pHは6.2以上8.5以下、重炭酸イオン濃度は0.1mmol/L程度以上、入浴温度は副交感神経が作用する41℃以下、入浴時間は血管拡張が完了する10分以上が好ましく、臨床結果から、重炭酸温浴の頻度は毎日1回から3回、重炭酸温浴の継続期間は4週間が好ましく、更に、重炭酸温浴の際に化学合成洗剤を一切使用せず、水道水の塩素を除去する還元性物質の共存下で行うことが好ましいことが明確になった。
前記した第1の実施例では、患者側システム20の情報通信装置21と医療機関側システム30の情報通信装置31aや情報通信装置32aとを通信ネットワーク40を介して接続し、ビデオ通話アプリケーションなどを用いてオンライン診察を行う構成としたが、ビデオ通話アプリケーションでは、オンライン診察を行う間、患者と医療従事者の双方がその場で待機しなければならず、時間を有効に使うことができない。一方、本実施例の対象となる症状は緊急の処置を必要とする症状ではなく、処置を開始するまでに多少時間がかかっても問題はない。そこで、本実施例では、患者と医療従事者の双方の利便性を高め、時間や場所に縛られないようにするために、オンライン診察における患者と医療従事者とのコミュニケーションを、いわゆるチャットアプリケーションやトークアプリケーション(例えば、LINE(登録商標)など、以下、チャットアプリケーションとする。)を用いて行い、患者と医療従事者とのコミュニケーションに際して、多少の時間差を許容できるようにする。
また、前記した第1の実施例では、医療機関が、重炭酸温浴の実施条件で定めた量の重炭酸入浴剤を患者の自宅に配送するための指示を行う構成としたが、医療機関が処方するものが非医薬品の場合、その非医薬品の製造、販売を行うメーカー(以下、非医薬品メーカーと呼ぶ。)が直接患者に発送できる(すなわち、患者自身が非医薬品メーカーからその非医薬品を直接購入できる)。そこで、本実施例では、重炭酸温浴を用いた症状の改善システムに重炭酸入浴剤の製造、販売を行う非医薬品メーカーを配置し、患者の情報通信装置(必要に応じて医療機関の情報通信装置)とその非医薬品メーカーの情報通信装置とを通信ネットワーク40を介して接続し、患者が非医薬品メーカーから重炭酸入浴剤を直接購入して、自宅への配送を指示できるようにする。
患者側システム20は、通信ネットワーク40を介して医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32a、非医薬品メーカー側システム80の情報通信装置81との通信を行う情報通信装置21と、患者の体温、血圧、時間などを測定する測定装置22と、患者の自宅に設置された浴槽23と、を備えている。情報通信装置21は、医療機関側システム30の医療従事者や非医薬品メーカー側システム80のオペレータとチャットアプリケーションなどを用いて通信を行う機器であり、例えば、コンピュータ装置、タブレット端末、スマートフォンなどを用いることができ、特に、持ち運びが容易なスマートフォンやタブレット端末が好ましい。また、測定装置22は、例えば、患者の体温を測定する電子体温計や特定部位の温度を測定する非接触温度計、患者の血圧を測定する血圧計、入浴時間や睡眠時間を測定する時計などである。これらは別々の測定装置で測定してもよいし、体温計と時計、体温計と血圧計と時計の機能を兼ね備えたウェアラブルデバイスなどを用いて測定してもよい。また、浴槽23は、配送された重炭酸入浴剤50を溶かした重炭酸湯24に患者が入浴可能であればどのようなサイズ・形状・機能を有するものでもよいが、患者の身体全体を重炭酸湯24に浸けることができるサイズであることが好ましく、重炭酸湯24の湯温を制御できる温度コントロール機能が付加されていることが望ましい。
医療機関側システム30は、患者の診察を行う所定の医療機関を備え、通信ネットワーク40を介して患者側システム20の情報通信装置21や必要に応じて非医薬品メーカー側システム80の情報通信装置81との通信を行う情報通信装置31a及び情報通信装置32aを備えている。情報通信装置31a及び情報通信装置32aは、患者や必要に応じて非医薬品メーカー側システム80のオペレータとチャットアプリケーションなどを用いて通信を行う機器であり、例えば、コンピュータ装置、タブレット端末、スマートフォンなどを用いることができ、特に、持ち運びが容易なスマートフォンやタブレット端末が好ましい。また、情報通信装置31aや情報通信装置32aは、各種の疾患・症状とその疾患・症状を改善するための重炭酸温浴の実施条件とを関連付けるデータベースが利用できるようになっている。このデータベースは、医療機関側システム30の医療従事者が多数の患者に対して重炭酸温浴を実施した臨床結果に基づいて作成した情報である。
なお、本実施例では、医療従事者(健康医学に精通した医学博士や看護師、医療スタッフなど)が使用する情報通信装置を情報通信装置31aとし、医療従事者(医師など)が使用する情報通信装置を情報通信装置32aとしているが、これらは必ずしも分ける必要はなく、複数の医療従事者が同じ情報通信装置を使用しても良い。
非医薬品メーカー側システム80は、重炭酸入浴剤50の製造、販売を行うメーカーのシステムであり、通信ネットワーク40を介して患者側システム20の情報通信装置21や必要に応じて医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32aとの通信を行う情報通信装置81を備えている。情報通信装置81は、患者や必要に応じて医療機関側システム30の医療従事者と通信を行う機器であり、例えば、コンピュータ装置、タブレット端末、スマートフォンなどを用いることができる。
通信ネットワーク40は、患者側システム20の情報通信装置21と医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32aと非医薬品メーカー側システム80の情報通信装置81とを接続する仕組み(例えば、インターネットなど)であり、その通信方法は特に限定されない。なお、患者側システム20の情報通信装置21と医療機関側システム30の情報通信装置31a及び情報通信装置32aと必要に応じて非医薬品メーカー側システム80の情報通信装置81との通信には、市販のアプリケーションを利用することができるが、通信内容の秘匿性を高めるために、専用のアプリケーションや専用の通信回線を利用しても良い。
重炭酸入浴剤50は、第1の実施例と同様に、重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)と有機酸とを造粒促進剤(ポリエチレングリコールなど)の存在下で圧縮成型して製造し、必要に応じて、無水物(無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム)や水道水の塩素を除去する還元性物質を添加したものであり、溶解した湯のpHが中性となるように設計されている。この重炭酸入浴剤50としては、本願発明者らが発明した特許文献1や特許文献2に示す錠剤に代表される特定の重炭酸入浴剤が好適である。
なお、第1の実施例と同様に、医療機関側システム30には、多数の疾患・症状の患者に対して様々な実施条件で重炭酸温浴を実施したときの臨床結果を蓄積しており、疾患・症状と重炭酸温浴の実施条件とを対応付ける情報がデータベースとして保存されているため、このデータベースを参照することによって、患者の疾患・症状に応じた重炭酸温浴の実施条件を見つけ出すことができる。この重炭酸温浴に用いることができる代表的な重炭酸入浴剤の構成や製造方法は第1の実施例と同様である。
このように、患者は、スマートフォンなどの情報通信装置を用い、多少の時間差が許容されるチャットアプリケーションなどを利用することにより、時間や場所に縛られずに、オンラインで医療機関の問診や診察を受けることができ、重炭酸入浴剤50を購入したり、重炭酸温浴NO療法の指導を受けたりすることができる。更に、重炭酸温浴を実施した時の患者の体温などをオンラインで医療機関に連絡することにより、患者の疾患・症状の改善具合に応じた指導を受けることができる。そして、適切な重炭酸温浴を継続して実施することにより、重炭酸イオンの経皮吸収などによって血管内皮にNOを生成し、このNOによって血流を促進させることができ、体の冷えに起因する様々な疾患の症状を改善することができる。
例えば、上記第1の実施例では、重炭酸温浴を一定期間実施した後、症状が十分に改善しない場合は連絡票43に基づいて重炭酸温浴の実施条件を見直す(S180)ようにしたが、症状が十分に改善しない場合はオンライン診察を再度行い、診察結果と連絡票43に基づいて重炭酸温浴の実施条件を見直す(すなわち、S170のYesの場合、S120のオンライン診察に遷移する)ようにしてもよい。
また、上記第1の実施例では、健康相談、診察及び重炭酸温浴の実施状況のフォローをオンラインで行う場合について記載したが、これら全てをオンラインで行う必要はなく、例えば、症状が十分に改善しない場合に行う診察(2回目以降の診察)は対面で行うようにしてもよい。
また、上記第1の実施例では、重炭酸温浴の実施状況のフォローは連絡票43や疾患・症状毎の連絡票43aを用いて行うようにしたが、所定期間毎に、チャットアプリケーションやビデオ通話アプリケーション、電話アプリケーション、電話機などを用いてフォローを行うようにしてもよい。
また、上記第2の実施例では、重炭酸温浴の実施条件として、重炭酸入浴剤の使用量、入浴温度や入浴時間、重炭酸温浴に際して化学合成洗剤は使用しないこと、入浴タイミングを例示したが、第1の実施例と同様に、重炭酸入浴剤を溶解した湯のpH、湯の重炭酸イオン濃度、重炭酸温浴の継続期間、水道水の塩素を除去する還元性物質を加えることなどを追加してもよく、pHは6.2以上8.5以下、重炭酸イオン濃度は0.1mmol/L以上、重炭酸温浴の継続期間は4週間などとすることができる。また、入浴温度や入浴時間に関しても、入浴温度は副交感神経が作用する41℃以下、入浴時間は血管拡張が完了する10分以上などとすることができる。また、第2の実施例においても、第1の実施例と同様に、重炭酸温浴の継続期間は4週間を1サイクルとし、8サイクル実行した後、医療機関は患者の疾患が冷えの改善で治る疾患か否かを判断するようにしてもよい。