IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TMTマシナリー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図1
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図2
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図3
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図4
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図5
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図6
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図7
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図8
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図9
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図10
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図11
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図12
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図13
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図14
  • 特開-糸掛け装置及び仮撚加工機 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083275
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】糸掛け装置及び仮撚加工機
(51)【国際特許分類】
   B65H 57/28 20060101AFI20240613BHJP
   B65H 65/00 20060101ALI20240613BHJP
   B65H 67/08 20060101ALI20240613BHJP
   B65H 54/34 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B65H57/28
B65H65/00 C
B65H67/08 Z
B65H54/34 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205470
(22)【出願日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2022196981
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】近田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】笹川 修文
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 太志
【テーマコード(参考)】
3F056
3F110
3F112
【Fターム(参考)】
3F056EA06
3F056EB01
3F110CA01
3F110DA01
3F110DA06
3F110DB04
3F112AA07
3F112AA08
3F112AA09
3F112BA01
3F112EA03
3F112EC03
3F112VB02
(57)【要約】
【課題】ボビンに糸掛けが行われる際にボビンに棒巻きが形成されることを防止しつつ、適切な形状のパッケージを得ることである。
【解決手段】糸掛け装置60は、糸保持部61と、糸係止部62aを有する糸掛けアーム62と、トラバースガイド72と、制御部64とを含む。糸係止部62aは、糸掛けアーム62が待機位置から糸掛け位置に移動する途中で糸保持部61に保持された糸Yを係止し、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに糸Yが外れる構成である。制御部64は、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mの外側に移動させて糸係止部62aから外れた糸Yをトラバースガイド72に捕捉させた後、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動させるように制御する。制御部64は、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動中であって、糸掛けアーム62の糸掛け位置と待機位置との間の移動軌跡上に糸Yが存在していないときに、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるように制御する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸が巻き取られるボビンを支持するボビンホルダに糸を掛けるための糸掛け装置であり、
前記ボビンホルダの軸方向に沿って所定の移動範囲で往復移動することで糸を所定の綾振り範囲で綾振りするトラバースガイドと、
前記糸を一時的に保持する糸保持部と、
前記糸保持部に保持された糸が係止される糸係止部を有し、前記糸係止部に係止された糸の前記ボビンの前記綾振り範囲外への糸掛けが行われる糸掛け位置と待機位置との間で往復するように移動可能な糸掛け部材と、
前記糸掛け部材及び前記トラバースガイドの駆動制御を行う制御部と、を備え、
前記糸係止部は、前記糸掛け部材が前記待機位置から前記糸掛け位置に移動する途中で前記糸保持部に保持された糸を係止し、前記糸掛け部材が前記糸掛け位置にあるときに糸が外れる構成であり、
前記糸掛け部材の前記糸掛け位置と前記待機位置との間の移動軌跡上に、前記糸係止部と前記所定の移動範囲を往復移動するトラバースガイドに捕捉されている糸とが接触する領域が存在しており、
前記糸保持部は、前記ボビンの前記綾振り範囲外への糸掛けに伴って糸の保持が解除される構成の糸掛け装置であって、
前記トラバースガイドは、前記軸方向に沿って前記所定の移動範囲の外側まで移動可能であって、
前記制御部は、
前記トラバースガイドを前記軸方向における前記所定の移動範囲の外側に移動させて前記糸係止部から外れた糸を前記トラバースガイドに捕捉させた後、前記トラバースガイドを前記所定の移動範囲で往復移動させるように制御し、
前記トラバースガイドが前記所定の移動範囲での往復移動中であって、前記糸掛け部材の前記糸掛け位置と前記待機位置との間の移動軌跡上に前記トラバースガイドに捕捉された糸が存在していないときに、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるように制御することを特徴とする糸掛け装置。
【請求項2】
前記糸掛け部材は、第1モータによって駆動されることを特徴とする請求項1に記載の糸掛け装置。
【請求項3】
前記トラバースガイドは、第2モータによって駆動され、
前記第1モータと前記第2モータとは共通の制御部によって制御されることを特徴とする請求項2に記載の糸掛け装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記所定の移動範囲で往復移動する前記トラバースガイドの移動速度を、第1速度と、前記第1速度よりも遅い第2速度との間で切り換え可能であって、
前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるときに、前記トラバースガイドの移動速度を前記第2速度とするように制御することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記ボビンホルダの軸方向において、前記トラバースガイドが前記所定の移動範囲の一方側の端部から往復移動を開始してから、前記所定の移動範囲の他方側の端部に最初に到達するまでの初期期間で、前記トラバースガイドの移動速度を前記第2速度とし、
前記初期期間以降の第2期間で、前記トラバースガイドの移動速度を前記第1速度とするように制御することを特徴とする請求項4に記載の糸掛け装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記トラバースガイドを前記所定の移動範囲で往復移動を開始させる前に、前記糸掛け部材を、糸と接触しない位置であって、且つ、前記糸掛け位置と前記待機位置との間の位置である途中位置に移動させておくことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記トラバースガイドの移動速度と前記糸掛け部材の移動速度とに基づいて、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるタイミングを予め算出することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項8】
前記トラバースガイドの位置を検出するためのセンサをさらに備え、
前記制御部は、前記センサによって検出された前記トラバースガイドの位置に基づいて、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるタイミングを決定することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項9】
前記糸係止部は、棒状部材であることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項10】
前記糸掛け部材は、前記糸係止部が取り付けられた本体部を含み、
前記本体部は樹脂製であることを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項11】
前記糸掛け部材は、その基端部に形成された回転軸を中心に、前記糸掛け位置と前記待機位置との間で揺動可能であることを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項12】
前記ボビンホルダに形成された糸引っ掛け部を備え、
前記糸掛け部材が前記糸掛け位置にあるとき、前記糸係止部に係止された糸が前記糸引っ掛け部に掛けられることによって前記ボビンの前記綾振り範囲外への糸掛けが行われ、
前記糸係止部は、前記糸引っ掛け部への糸掛けに伴って糸が外れる構成であり、
前記糸係止部から外れた糸を、前記綾振り範囲の外側で保持するバンチガイドをさらに備え、
前記バンチガイドは、保持している糸が、前記トラバースガイドが前記所定の移動範囲での往復移動を開始する前に、前記所定の移動範囲の外側で前記トラバースガイドに捕捉されることで、前記バンチガイドから外れるように構成されていることを特徴とする請求項1~11の何れか1項に記載の糸掛け装置。
【請求項13】
糸を給糸するための給糸部と、
前記給糸部から供給された糸を仮撚加工するための加工部と、
前記加工部で仮撚加工された糸を巻き取るための巻取部と、を備え、
前記巻取部は、
ボビンホルダに装着されたボビンに糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
請求項1~12の何れか1項に記載の糸掛け装置と、を有していることを特徴とする仮撚加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取装置に糸を掛ける糸掛け装置、及び、当該糸掛け装置を有する仮撚加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
糸をボビンに巻き取ってパッケージを形成する巻取装置は、クレードルに回転自在に取り付けられた一対のボビンホルダに挟まれた状態で装着されたボビンに、ボビンの軸方向において往復移動するトラバースガイドによって糸を所定の綾振り範囲で綾振りさせながら巻き取る構造となっている。このような巻取装置では、満巻きとなったパッケージが払い出されると、糸が巻かれていない空のボビンがクレードルにセットされる。そして、クレードルにセットされたボビンには、糸掛け装置によって糸が掛けられる。
【0003】
特許文献1には、糸走行方向の上流側から送られてきた糸を吸引保持する糸保持部(特許文献1の吸引パイプ)と、糸保持部に保持された糸を一対のボビンホルダに支持されたボビンに掛けるための糸掛け部材(特許文献1の糸掛けアーム)と、を備えた糸掛け装置が開示されている。糸掛け部材の先端には、糸が係止される糸係止部が設けられている。また、糸掛け部材は、一対のボビンホルダの一方に形成されたフック(特許文献1の糸掛け部)に糸を掛けることが可能な糸掛け位置と待機位置との間で移動が可能である。このような糸掛け装置によってボビンに糸が掛けられてから、ボビンに糸が巻き取られるまでの流れは以下の通りである。
【0004】
まず、上流側から送られてくる糸は、糸保持部に吸引保持される。このとき、糸掛け部材は待機位置にある。続いて、糸掛け部材を待機位置から糸掛け位置に向かって移動させる。糸掛け部材が待機位置から糸掛け位置に至る途中で、糸保持部に保持されている糸は糸係止部に係止される。糸掛け部材が糸掛け位置に到達すると、糸係止部に係止された糸は、回転するボビンホルダのフックに引っ掛けられる。その直後、フックに引っ掛けられた糸は、クレードルに取り付けられたカッタによって切断される。これによって、糸保持部による糸の保持が解除され、フックへの糸掛けが完了する。フックに掛けられた糸は、糸掛け部材の糸係止部に係止されたままの状態でボビンの綾振り範囲外の領域にバンチ巻きされる。バンチ巻きは、後工程において複数のパッケージの糸の端部同士を繋ぎ合わせる際に糸の巻き始めの端部を取り出すことを可能とするために形成される。バンチ巻きが完了すると糸掛け部材は待機位置へ移動する。糸掛け部材が糸掛け位置から待機位置に戻る途中で、綾振り範囲内で糸係止部から糸が外れる。糸係止部から外れた糸は、往復移動を開始したトラバースガイドによって捕捉され、ボビンの軸方向に沿って綾振りが行われる。これによりボビンに糸が巻き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-194596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の特許文献1の糸掛け装置では、ボビンに棒巻きが形成されるという問題が生じ得る。具体的に説明すると、特許文献1の糸掛け装置では、糸掛け部材は、糸係止部が糸の綾振り範囲の中央位置付近を通過するように移動し、その中央位置付近で糸係止部から糸が外れるように構成されている。そうすると、糸係止部から糸が外れてから、往復移動するトラバースガイドが綾振り範囲の中央位置付近に到達して糸を捕捉するまでの時間経過の間に、ボビンの中央位置付近の同一箇所に糸が重複して巻かれる棒巻きが形成されてしまう。このような棒巻きは、パッケージからの糸の解舒性を低下させる。
【0007】
そこで、本願発明者らは、次のような構成を鋭意検討している。まず、トラバースガイドが往復移動を開始する前に、糸掛け位置にある糸掛け部材の糸係止部から予め糸を解放させる。そして、綾振り範囲外で糸がボビンに巻き取られるように、糸掛け部材とは別の部材に糸を保持させる。続いて、糸係止部から解放させて別の部材に保持させている糸を、トラバースガイドによって捕捉させる。こうすることで、糸がトラバースガイドに捕捉される前に綾振り範囲内に位置することがなく、上記棒巻きの形成を防止することができる。
【0008】
しかしながら、上述の構成だと、糸掛け部材を糸掛け位置から待機位置に戻すときに次のような問題があった。仮に、糸係止部から糸が解放された直後に糸掛け部材を待機位置に戻そうとすると、後で図14及び図15を参照しつつ詳しく説明するように、糸掛け部材が待機位置に戻る途中で上記別の部材に保持されている糸を引っ掛けてしまう。このため、糸がトラバースガイドに捕捉され、上記別の部材から糸が外れてから、糸掛け部材を待機位置に戻さざるを得ない。しかし、そうすると、糸掛け部材を糸掛け位置から待機位置に戻す途中で、糸掛け部材の糸係止部に綾振り中の糸が意図せずに係止されてしまうおそれがあった。糸が糸係止部に係止された状態で糸掛け部材が待機位置に戻ると、糸の綾振り支点が、本来の支点ではなく糸係止部になってしまう。そうすると、トラバースガイドによる糸の綾振りが正常に行えずパッケージ形状が異常となったり、糸切れを引き起こしたりしてしまうという問題が生じ得た。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ボビンに糸掛けが行われる際にボビンに棒巻きが形成されることを防止しつつ、適切な形状のパッケージを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の糸掛け装置は、糸が巻き取られるボビンを支持するボビンホルダに糸を掛けるための糸掛け装置であり、前記ボビンホルダの軸方向に沿って所定の移動範囲で往復移動することで糸を所定の綾振り範囲で綾振りするトラバースガイドと、前記糸を一時的に保持する糸保持部と、前記糸保持部に保持された糸が係止される糸係止部を有し、前記糸係止部に係止された糸の前記ボビンの前記綾振り範囲外への糸掛けが行われる糸掛け位置と待機位置との間で往復するように移動可能な糸掛け部材と、前記糸掛け部材及び前記トラバースガイドの駆動制御を行う制御部と、を備え、前記糸係止部は、前記糸掛け部材が前記待機位置から前記糸掛け位置に移動する途中で前記糸保持部に保持された糸を係止し、前記糸掛け部材が前記糸掛け位置にあるときに糸が外れる構成であり、前記糸掛け部材の前記糸掛け位置と前記待機位置との間の移動軌跡上に、前記糸係止部と前記所定の移動範囲を往復移動するトラバースガイドに捕捉されている糸とが接触する領域が存在しており、前記糸保持部は、前記ボビンの前記綾振り範囲外への糸掛けに伴って糸の保持が解除される構成の糸掛け装置であって、前記トラバースガイドは、前記軸方向に沿って前記所定の移動範囲の外側まで移動可能であって、前記制御部は、前記トラバースガイドを前記軸方向における前記所定の移動範囲の外側に移動させて前記糸係止部から外れた糸を前記トラバースガイドに捕捉させた後、前記トラバースガイドを前記所定の移動範囲で往復移動させるように制御し、前記トラバースガイドが前記所定の移動範囲での往復移動中であって、前記糸掛け部材の前記糸掛け位置と前記待機位置との間の移動軌跡上に前記トラバースガイドに捕捉された糸が存在していないときに、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるように制御することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の構成では、トラバースガイドが所定の移動範囲での往復移動を開始する前(すなわち糸が所定の綾振り範囲で綾振りされる前)において、糸掛け部材が糸掛け位置にあるときに糸係止部から糸が外れてトラバースガイドによって捕捉される。このため、糸が糸係止部から外れてからトラバースガイドに捕捉されるまでの間に、糸が綾振り範囲に位置することがなく、綾振り範囲内に棒巻きが形成されることを防止できる。但し、このような構成では、仮に糸係止部から糸が解放された直後に糸掛け部材を待機位置に戻そうとすると、糸掛け部材が待機位置に戻る途中で糸係止部から外れた糸を引っ掛けてしまう。このため、糸がトラバースガイドに捕捉されてから、糸掛け部材を待機位置に戻さざるを得ない。例えば、糸掛け部材と糸との接触を回避するため、糸掛け部材を待機位置に戻す間、トラバースガイドを糸掛け部材と接触しない範囲に限って往復移動させておくことも考えられる。しかし、この場合、糸掛け部材と接触しない範囲に限って往復移動させているトラバースガイドに捕捉された糸は、ボビンの綾振り範囲の全体のうちの一部の範囲のみにしか巻かれないため、ボビンの一部の範囲では他の範囲よりも多く糸が巻かれることになる。すなわち、糸掛け部材を待機位置に戻す間、パッケージの一部が盛り上がり、形状が崩れてしまう。この点、本発明では、トラバースガイドが所定の移動範囲での往復移動中に糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触しないように糸掛け部材を待機位置に戻す。このため、糸掛け部材を待機位置に戻すときにおいても、ボビンの綾振り範囲の全体に満遍なく糸を巻き取らせることができ、パッケージの形状が崩れることを抑制できる。したがって、本発明では、ボビンに糸掛けが行われる際にボビンに棒巻きが形成されることを防止しつつ、適切な形状のパッケージを得ることができる。
【0012】
本発明の糸掛け装置において、前記糸掛け部材は、第1モータによって駆動されることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、糸掛け部材を移動させるタイミングを正確に制御することができる。
【0014】
本発明の糸掛け装置において、前記トラバースガイドは、第2モータによって駆動され、前記第1モータと前記第2モータとは共通の制御部によって制御されることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、第1モータを駆動する制御部と第2モータを駆動する制御部との間の信号の送受信のタイムラグをなくすことができ、トラバースガイドと糸掛け部材の動作タイミングを精度よく揃えやすくなる。
【0016】
本発明の糸掛け装置において、前記制御部は、前記所定の移動範囲で往復移動する前記トラバースガイドの移動速度を、第1速度と、前記第1速度よりも遅い第2速度との間で切り換え可能であって、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるときに、前記トラバースガイドの移動速度を前記第2速度とするように制御することが好ましい。
【0017】
本発明によれば、糸掛け部材を待機位置に戻すときに、トラバースガイドの移動速度を遅くしている。これにより、糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触しない時間を長くとることができる。このため、糸掛け部材を待機位置に戻す際、糸掛け部材を駆動させるための信号の送受信のタイムラグが生じて糸掛け部材の動作タイミングがずれたとしても、糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触してしまうことを回避することができる。
【0018】
本発明の糸掛け装置において、前記制御部は、前記ボビンホルダの軸方向において、前記トラバースガイドが前記所定の移動範囲の一方側の端部から往復移動を開始してから、前記所定の移動範囲の他方側の端部に最初に到達するまでの初期期間で、前記トラバースガイドの移動速度を前記第2速度とし、前記初期期間以降の第2期間で、前記トラバースガイドの移動速度を前記第1速度とするように制御することが好ましい。
【0019】
トラバースガイドの移動速度が変わると、それに伴いボビンに巻き取られる糸の綾角も変動する。本発明によれば、糸を綾振るために往復移動するトラバースガイドの移動速度が変化するのは1回となる。このため、綾角が変動する箇所を1箇所とすることができ、綾角が変動する箇所が複数箇所ある場合と比べて、パッケージ形状を綺麗に維持することができる。
【0020】
本発明の糸掛け装置において、前記制御部は、前記トラバースガイドを前記所定の移動範囲で往復移動を開始させる前に、前記糸掛け部材を、糸と接触しない位置であって、且つ、前記糸掛け位置と前記待機位置との間の位置である途中位置に移動させておくことが好ましい。
【0021】
本発明では、トラバースガイドを所定の移動範囲で往復移動させる前に、予め糸掛け部材を途中位置に移動させておく。そして、トラバースガイドを往復移動させて糸を綾振りさせているときに、途中位置にある糸掛け部材を待機位置に戻す。このため、糸掛け部材を糸掛け位置から待機位置に戻す場合と比べて、糸掛け部材を待機位置に戻す時間を短縮することができる。これにより、糸掛け部材の動作タイミングが多少ずれたとしても、待機位置に速やかに戻る糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触するリスクを低減することができる。
【0022】
本発明の糸掛け装置において、前記制御部は、前記トラバースガイドの移動速度と前記糸掛け部材の移動速度とに基づいて、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるタイミングを予め算出することが好ましい。
【0023】
本発明によれば、糸掛け部材を駆動させるための信号の送受信のタイムラグも考慮しつつ、トラバースガイドと糸掛け部材の移動速度に基づいて、糸掛け部材を待機位置に戻すタイミングを予め算出することができる。このため、糸掛け部材とトラバースガイドの動作タイミングがずれることが生じにくく、糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触してしまうことを精度よく回避することができる。
【0024】
本発明の糸掛け装置は、前記トラバースガイドの位置を検出するためのセンサをさらに備え、前記制御部は、前記センサによって検出された前記トラバースガイドの位置に基づいて、前記糸掛け部材を前記待機位置に移動させるタイミングを決定することが好ましい。
【0025】
本発明によれば、トラバースガイドの現在位置に基づいて糸掛け部材の動作タイミングが決められる。このため、糸掛け部材の動作タイミングを算出するための複雑な演算処理が不要となる。
【0026】
本発明の糸掛け装置において、前記糸係止部は、棒状部材であることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、糸係止部を棒状部材とすることによって糸掛け部材の軽量化が実現する。これにより、所定の駆動力で糸掛け部材を待機位置に戻そうとするとき、糸掛け部材が重い場合と比べて、速やかに待機位置に戻すことができる。よって、糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触するリスクをさらに低減することができる。
【0028】
本発明の糸掛け装置において、前記糸掛け部材は、前記糸係止部が取り付けられた本体部を含み、前記本体部は樹脂製であることが好ましい。
【0029】
本発明によれば、本体部を樹脂製とすることによって、糸掛け部材の軽量化が実現する。これにより、所定の駆動力で糸掛け部材を待機位置に戻そうとするとき、糸掛け部材が重い場合と比べて、速やかに待機位置に戻すことができる。よって、糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触するリスクをさらに低減することができる。
【0030】
本発明の糸掛け装置において、前記糸掛け部材は、その基端部に形成された回転軸を中心に、前記糸掛け位置と前記待機位置との間で揺動可能であることが好ましい。
【0031】
本発明によれば、糸掛け部材を揺動させることによって、糸掛け部材を糸掛け位置から待機位置に素早く戻すことができる。
【0032】
本発明の糸掛け装置は、前記ボビンホルダに形成された糸引っ掛け部を備え、前記糸掛け部材が前記糸掛け位置にあるとき、前記糸係止部に係止された糸が前記糸引っ掛け部に掛けられることによって前記ボビンの前記綾振り範囲外への糸掛けが行われ、前記糸係止部は、前記糸引っ掛け部への糸掛けに伴って糸が外れる構成であり、前記糸係止部から外れた糸を、前記綾振り範囲の外側で保持するバンチガイドをさらに備え、前記バンチガイドは、保持している糸が、前記トラバースガイドが前記所定の移動範囲での往復移動を開始する前に、前記所定の移動範囲の外側で前記トラバースガイドに捕捉されることで、前記バンチガイドから外れるように構成されていることが好ましい。
【0033】
本発明では、糸引っ掛け部を設けることで、糸係止部からスムーズに糸を外すことができる。さらに、糸係止部から外れた糸を綾振り範囲外でバンチガイドに保持させ、糸をボビンの綾振り範囲外でバンチ巻きさせる。その後、トラバースガイドが所定の移動範囲での往復移動を開始する前に、バンチガイドに保持された糸が所定の移動範囲の外側でトラバースガイドに捕捉され、バンチガイドから糸が外れる。このため、糸係止部から外れてバンチガイドに保持された糸が、トラバースガイドに捕捉されるまでの間に、綾振り範囲に位置することがなく、綾振り範囲内に棒巻きが形成されることを防止することができる。
【0034】
本発明の仮撚加工機は、糸を給糸するための給糸部と、前記給糸部から供給された糸を仮撚加工するための加工部と、前記加工部で仮撚加工された糸を巻き取るための巻取部と、を備え、前記巻取部は、ボビンホルダに装着されたボビンに糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、上記の何れかの糸掛け装置と、を有していることを特徴とするものである。
【0035】
本発明の構成では、トラバースガイドが所定の移動範囲での往復移動を開始する前(すなわち糸が所定の綾振り範囲で綾振りされる前)において、糸掛け部材が糸掛け位置にあるときに糸係止部から糸が外れてトラバースガイドによって捕捉される。このため、糸が糸係止部から外れてからトラバースガイドに捕捉されるまでの間に、糸が綾振り範囲に位置することがなく、綾振り範囲内に棒巻きが形成されることを防止できる。但し、このような構成では、仮に糸係止部から糸が解放された直後に糸掛け部材を待機位置に戻そうとすると、糸掛け部材が待機位置に戻る途中で糸係止部から外れた糸を引っ掛けてしまう。このため、糸がトラバースガイドに捕捉されてから、糸掛け部材を待機位置に戻さざるを得ない。例えば、糸掛け部材と糸との接触を回避するため、糸掛け部材を待機位置に戻す間、トラバースガイドを糸掛け部材と接触しない範囲に限って往復移動させておくことも考えられる。しかし、この場合、糸掛け部材と接触しない範囲に限って往復移動させているトラバースガイドに捕捉された糸は、ボビンの綾振り範囲の全体のうちの一部の範囲のみにしか巻かれないため、ボビンの一部の範囲では他の範囲よりも多く糸が巻かれることになる。すなわち、糸掛け部材を待機位置に戻す間、パッケージの一部が盛り上がり、形状が崩れてしまう。この点、本発明では、トラバースガイドが所定の移動範囲での往復移動中に糸掛け部材とトラバースガイドに捕捉された糸とが接触しないように糸掛け部材を待機位置に戻す。このため、糸掛け部材を待機位置に戻すときにおいても、ボビンの綾振り範囲の全体に満遍なく糸を巻き取らせることができ、パッケージの形状が崩れることを抑制できる。したがって、本発明では、ボビンに糸掛けが行われる際にボビンに棒巻きが形成されることを防止しつつ、適切な形状のパッケージを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施形態に係る仮撚加工機の概略側面図である。
図2】巻取部の構成を示す模式図である。
図3】ボビンホルダに装着されたボビンの端部付近及び糸掛け位置にある糸掛けアームを示す部分斜視図である。
図4】ボビンホルダに装着されたボビンの端部付近及び糸掛け位置にある糸掛けアームを機台幅方向から見たときの部分正面図である。
図5】仮撚加工機の電気的構成を示すブロック図である。
図6】糸掛けアームが待機位置にあり、且つ、糸が糸保持部に保持されているときの巻取部を示す模式図である。
図7】糸掛けアームが糸掛け位置に移動したときの巻取部の様子を示す模式図である。
図8】糸掛けアームが糸掛け位置にあるときにおいて、糸掛けアームの糸係止部に係止された糸を示すボビンの端部付近の部分斜視図である。
図9】バンチ巻き中において、糸がバンチガイドに保持されているときの様子を示すボビンの端部付近の部分斜視図である。
図10】糸掛けアームが途中位置に移動したときの巻取部の様子を示す模式図である。
図11】バンチ巻き完了後において、糸がトラバースガイドに補足されたときの様子を示すボビンの端部付近の部分斜視図である。
図12】糸掛けアームを待機位置に戻すときの巻取部の様子を示す模式図である。
図13】本実施形態の糸掛け装置による糸掛けの際のフローチャートである。
図14】本実施形態に係る糸掛け装置において、糸係止部から糸が解放された直後に糸掛けアームを待機位置に移動させた場合の巻取部の様子を示す参考図である。
図15図14をXV矢印方向から見た巻取部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0038】
(仮撚加工機1の全体構成)
図1は、本実施形態に係る仮撚加工機1の概略構成を示す側面図である。以下、図1の紙面垂直方向を機台長手方向とし、紙面左右方向を機台幅方向とする。機台長手方向と機台幅方向の両方が直交する方向を、重力の作用する上下方向(鉛直方向)とする。以下、上記の方向語を適宜使用して説明する。
【0039】
仮撚加工機1は、例えばナイロン(ポリアミド系繊維)等の合成繊維からなる糸Yを仮撚加工可能に構成されている。仮撚加工機1は、糸Yを供給するための給糸部2と、給糸部2から供給された糸Yを仮撚加工する加工部3と、加工部3によって加工された糸YをボビンBwに巻き取る巻取部4と、を含んでいる。給糸部2、加工部3及び巻取部4が有する各構成要素は、給糸部2から加工部3を通って巻取部4に至る糸道が配置される糸の走行面(図1の紙面)と直交する機台長手方向において、複数配列されている。
【0040】
給糸部2は、複数の給糸パッケージPsを保持するクリールスタンド7を有し、加工部3に複数の糸Yを供給する。加工部3は、糸走行方向の上流側から順に、第1フィードローラ11、撚止ガイド12、第1加熱装置13、冷却装置14、仮撚装置15、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が配置された構成となっている。巻取部4は、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻取装置21でボビンBwに巻き取って巻取パッケージPwを形成する。
【0041】
また、仮撚加工機1は、機台幅方向に間隔を置いて配置された主機台8及び巻取台9を有する。主機台8及び巻取台9は、機台長手方向に略同じ長さに延設されており、互いに対向するように配置されている。主機台8の上部と巻取台9の上部とは、支持フレーム10によって連結されている。加工部3を構成する各装置は、主に主機台8や支持フレーム10に取り付けられている。主機台8と巻取台9と支持フレーム10とによって、作業者が各装置に対して糸掛け等の作業を行うための作業空間22が形成されている。糸道は、糸Yが主に作業空間22の周りを走行するように形成されている。
【0042】
仮撚加工機1は、互いに対向配置された1組の主機台8及び巻取台9を含むスパンと呼ばれる単位ユニットを有する。1つのスパンでは、機台長手方向に並んだ状態で走行する複数の糸Yに対して、同時に仮撚加工を施すことができるように各装置が配置されている。一例として、1つのスパンに含まれる巻取台9には、3段4列の計12個の巻取装置21が設けられている。そして、仮撚加工機1は、このスパンが、主機台8の機台幅方向の中心線Cを対称軸として、紙面左右対称に配置される(主機台8は左右のスパンで共通のものとなっている)とともに、機台長手方向に複数配列された構成となっている。
【0043】
(加工部の構成)
次に、加工部3の各構成要素について説明する。第1フィードローラ11は、給糸部2から供給された糸Yを第1加熱装置13へ送るためのものである。第1フィードローラ11は、巻取台9の上方に配置されている(図1参照)。第1フィードローラ11は、機台長手方向に1列に配列されている。
【0044】
撚止ガイド12は、後述する仮撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播しないようにするためのものである。撚止ガイド12は、第1フィードローラ11の糸走行方向下流側、且つ、第1加熱装置13の糸走行方向上流側に配置されている。撚止ガイド12は、例えば、給糸部2から供給される複数の糸Yに対して個別に設けられており、機台長手方向に1列に配列されている。
【0045】
第1加熱装置13は、第1フィードローラ11から送られてきた糸Yを加熱するためのものであり、支持フレーム10に設置されている(図1参照)。第1加熱装置13は、給糸部2から供給される複数の糸Yに対して複数設けられており、機台長手方向に1列に配列されている。
【0046】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するためのものである。冷却装置14は、第1加熱装置13の糸走行方向下流側、且つ、仮撚装置15の糸走行方向上流側に配置されている。冷却装置14は、給糸部2から供給される複数の糸Yに対して複数設けられており、機台長手方向に1列に配列されている。
【0047】
仮撚装置15は、糸Yに撚りを付与するための装置である。仮撚装置15は、冷却装置14の糸走行方向におけるすぐ下流側に配置されている。仮撚装置15は、機台長手方向において複数配列されている。例えば、仮撚装置15は、1つのスパンにつき12個設けられている。
【0048】
第2フィードローラ16は、仮撚装置15で撚りが付与された糸Yを、交絡装置17に向けて送るローラである。第2フィードローラ16は、主機台8において仮撚装置15の糸走行方向下流側に配置されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。このため、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸される。
【0049】
交絡装置17は、糸Yに対して空気を噴射することによって交絡を付与する装置である。交絡装置17は、主機台8において第2フィードローラ16の下方に配置されている。
【0050】
第3フィードローラ18は、交絡装置17によって交絡が付与された糸Yを、第2加熱装置19に向けて送るローラである。第3フィードローラ18は、主機台8において交絡装置17の下方に配置されている。第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。
【0051】
第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するための装置である。第2加熱装置19は、主機台8において第3フィードローラ18の下方に配置されている。第2加熱装置19は、上下方向に沿って延びており、1つのスパンに1つずつ設けられている。
【0052】
第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって熱処理された糸Yを、巻取装置21に向けて送るローラである。第4フィードローラ20は、巻取台9の下部に配置されている。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0053】
以上のように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yに、仮撚装置15によって撚りが付与される。仮撚装置15によって形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播するが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱されて熱固定された後、冷却装置14で冷却される。仮撚装置15から下流では糸Yは解撚されるが、上記の熱固定によって各フィラメントが波状に仮撚りされた状態が維持される。仮撚装置15によって仮撚りが施された糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩されながら、交絡装置17によって交絡が付与され、糸走行方向における下流側へ案内される。さらに、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩されながら、第2加熱装置19で熱固定される。最後に、第4フィードローラ20から送られた糸Yは、巻取装置21によって巻き取られ、巻取パッケージPwが形成される。
【0054】
(巻取部4の構成)
巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。巻取装置21は、第4フィードローラ20から送られる糸YをボビンBwに巻き取って巻取パッケージPwを形成するための装置である。図2に示すように、巻取装置21は、一対のクレードルアーム40と、接触ローラ50と、糸掛け装置60とを含む。
【0055】
一対のクレードルアーム40は、ボビンBwを挟持可能に構成されている。具体的には、一対のクレードルアーム40のそれぞれは、ボビンBwを回転自在に保持するボビンホルダ41を有する。ボビンBwの両端は、ボビンホルダ41を介してクレードルアーム40に回転自在に支持される。すなわち、ボビンBwは、一対のボビンホルダ41に挟まれた状態で装着される。また、機台長手方向の一方側のボビンホルダ41には、ボビンBwに糸Yを掛けるためのフック41a(本発明の糸引っ掛け部)が形成されている(図3及び図4を参照)。また、一対のクレードルアーム40のうちの機台長手方向の一方側のクレードルアーム40には、カッタ40aが設けられている。機台長手方向の一方側とは、後述する糸掛けアーム62の糸掛け位置に近い側であって、図2の紙面右側である。カッタ40aは、クレードルアーム40の機台幅方向におけるトラバースガイド72(後述)が配置されている側と反対側の部分に形成されている。
【0056】
接触ローラ50は、ボビンBw又は巻取パッケージPwの周面に接触しつつ一定方向に回転駆動され、これによってボビンBwを回転させて糸Yを巻き取ることができるように構成されている。この接触ローラ50は、パッケージ駆動モータ88(図5参照)によって駆動される。各巻取装置21の接触ローラ50は、複数の錘に共通のパッケージ駆動モータ88によって一斉に駆動される。なお、各接触ローラ50は、錘ごとに設けられたパッケージ駆動モータ88によって駆動されるものでもよい。パッケージ駆動モータ88は、例えばステッピングモータやサーボモータである。
【0057】
(糸掛け装置60の構成)
糸掛け装置60は、糸Yを一対のボビンホルダ41に挟まれた状態で装着されたボビンBwに掛けるための装置である。糸掛け装置60は、糸保持部61と、上述のフック41aと、糸掛けアーム62(本発明の糸掛け部材に相当)と、トラバース装置63と、制御部64と、バンチガイド65と、を含む。
【0058】
糸保持部61は、図6に示すように、第4フィードローラ20から送られた糸Yを一時的に吸引保持するものである。糸保持部61は、負圧源に接続されており、糸Yを吸引可能に構成されている。糸保持部61は、後述するボビンBwの綾振り範囲r外への糸掛けに伴って糸Yの保持が解除されるように構成されている。糸Yの保持が解除される具体的な仕組みについては、後述の糸掛け動作のところで説明する。
【0059】
図2及び図3に示すように、糸掛けアーム62は、糸保持部61に吸引保持された糸Yが係止される糸係止部62aと、糸係止部62aが取り付けられた本体部62cとを有する。本体部62cは樹脂製の部材である。糸掛けアーム62は、フック41aへの糸掛けが行われる糸掛け位置(図7における糸掛けアーム62の位置)と待機位置(図2及び図6における糸掛けアーム62の位置)との間で移動可能である。糸掛けアーム62は、本体部62cの基端部に形成され、上下方向に沿った回転軸62bを中心に回転することで、糸掛け位置と待機位置との間で移動可能である。より詳細には、糸掛けアーム62は、回転軸62bを中心に、糸掛け位置と待機位置との間で往復するように揺動可能である。「往復するように揺動」について図6及び図7を参照しつつ説明すると、糸掛けアーム62が待機位置(図6の位置)から糸掛け位置(図7の位置)に向かうときは、上方から見たときに糸掛けアーム62は回転軸62bを中心に時計回りに揺動する。糸掛けアーム62が糸掛け位置(図7の位置)から待機位置(図6の位置)に向かうときは、上方から見たときに糸掛けアーム62は回転軸62bを中心に反時計回りに揺動する。なお、待機位置とは、糸掛けアーム62が第4フィードローラ20から糸保持部61に至る糸Yと接触せず、且つ、糸掛けアーム62がトラバースガイド72によって綾振りされている糸Yと接触しないような糸掛けアーム62の位置である。糸掛けアーム62は、糸掛けアーム駆動モータ89(本発明の第1モータ、図5参照)によって駆動される。糸掛けアーム駆動モータ89は、例えばステッピングモータやサーボモータである。
【0060】
糸係止部62aは、糸掛けアーム62の本体部62cの先端部分に形成されている。糸係止部62aは、例えば、金属製の棒状部材である。糸係止部62aは、金属製でなくてもよい。糸係止部62aは、糸掛けアーム62が待機位置から糸掛け位置に移動する途中で糸保持部61に保持された糸Yを係止し、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときにフック41aへの糸掛けに伴って糸Yが外れる構成である。具体的に説明すると、糸係止部62aは、図4に示すように、第1部分62a1と第2部分62a2とを有する。糸係止部62aの第1部分62a1及び第2部分62a2は、糸掛けアーム62が待機位置から糸掛け位置に移動する途中で、糸保持部61に保持された糸Yが係止される部分である。また、糸係止部62aの第2部分62a2は、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに、フック41aへの糸掛けに伴って糸Yが外れる部分である。具体的には、第2部分62a2の糸Yを下方から支持する支持部分95が下方に傾斜しており、下方向への力が働くことにより下方に傾斜した支持部分95に沿って糸Yが移動することで、糸Yが第2部分62a2から外れるようになっている。第1部分62a1は、糸掛けアーム62が待機位置にあるときにおいて、第2部分62a2よりも、糸保持部61に吸引保持されている糸Yに近い側に配置されている。言い換えれば、第2部分62a2は、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときにおいて、第1部分62a1よりも、綾振り範囲r(図6を参照)に近い側に配置されている。
【0061】
トラバース装置63は、ボビンBwに巻き取られる糸Yを、機台長手方向(ボビンホルダ41の軸方向)に沿って綾振り範囲r内で綾振るためのものである。綾振り範囲rとは、ボビンBwの周面のうち、ボビンBwの軸方向に沿って糸Yが巻き付けられる範囲である。具体的には、このトラバース装置63は、接触ローラ50の近傍に配置された無端状のタイミングベルト71と、タイミングベルト71に固定されたトラバースガイド72とを有する。タイミングベルト71は、トラバースガイド72が往復移動する方向の両端部に設置される従動プーリ81、82と、トラバースガイド駆動モータ90(本発明の第2モータ)によって駆動される駆動プーリ83とに掛け渡されている。トラバースガイド駆動モータ90を駆動することにより、駆動プーリ83の回転力がタイミングベルト71に伝わり、タイミングベルト71に固定されたトラバースガイド72が従動プーリ81と従動プーリ82との間で往復移動する。トラバースガイド駆動モータ90は、例えばステッピングモータやサーボモータである。駆動プーリ83を時計回り及び反時計回りに回転させることで、トラバースガイド72が往復移動する。トラバースガイド72は、機台長手方向に沿って所定の移動範囲Mを往復移動することで、糸Yを綾振り範囲rで綾振りすることが可能である。所定の移動範囲Mとは、機台長手方向に沿ってトラバースガイド72が往復移動可能な範囲のうちの、綾振り範囲rに対応するトラバースガイド72の移動範囲である。なお、本実施形態において、トラバースガイド72は、機台長手方向の一方側(図2の右側)から他方側(図2の左側)に移動するときに糸Yを捕捉可能であって、機台長手方向の他方側から一方側に移動するときに糸Yを捕捉できない構成となっている。トラバースガイド72は、機台長手方向に沿って所定の移動範囲Mの外側まで移動可能である。
【0062】
なお、本実施形態の仮撚加工機1は、例えば図2に示すように、第4フィードローラ20と巻取装置21との間に、綾振り支点ガイド100と案内体101とを有する。第4フィードローラ20によって送られた糸Yは、図2に示すように、綾振り支点ガイド100及び案内体101によって案内されながら、巻取装置21に供給され、トラバースガイド72によって綾振りされつつボビンBwに巻き取られる。
【0063】
本実施形態の糸掛け装置60においては、糸掛けアーム62の糸掛け位置と待機位置との間の移動軌跡上に、糸係止部62aと所定の移動範囲Mを往復移動するトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触する領域が存在する。言い換えれば、糸掛けアーム62が糸掛け位置と待機位置との間の所定の位置にあるとき、糸係止部62aは、所定の移動範囲Mを往復移動するトラバースガイド72に捕捉された糸Yと接触し得る。糸係止部62aとトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触する場合については、後で図14及び図15を参照しつつ詳しく説明する。
【0064】
バンチガイド65は、糸係止部62aから外れた糸YをボビンBwの綾振り範囲rの外側であるバンチ巻き位置x(図2等を参照)に維持するように保持するものである。バンチ巻き位置xは、ボビンホルダ41に装着されたボビンBwの綾振り範囲rの外側であって糸Yがバンチ巻きされる位置である。バンチ巻きとは、後工程において複数の巻取パッケージPwの糸Yの端部同士を繋ぎ合わせる際に糸Yの巻き始めの端部を取り出すことを可能とするために形成されるものである。
【0065】
図3及び図4に示すように、バンチガイド65は、例えば、機台長手方向に延び、屈曲した棒状部材である。バンチガイド65は、糸掛け位置にある糸掛けアーム62の下方に配置されている。バンチガイド65は、糸Yの綾振り範囲r内への移動を規制しつつ糸Yを保持する保持部分65aと、糸係止部62aから外れた糸Yを保持部分65aに誘導する誘導部分65bとを有する。図4に示すように、誘導部分65bは、機台長手方向において保持部分65aよりも綾振り範囲r側に位置している。また、誘導部分65bの一部は、綾振り支点ガイド100からフック41aに向かう糸Yの糸道上に配置されている。言い換えれば、誘導部分65bの一部は、フック41aに掛けられた糸Yの、糸走行方向におけるフック41aよりも上流側の糸道上に配置されている。
【0066】
保持部分65aは、機台長手方向の綾振り範囲rからバンチ巻き位置xに向かう方向に沿って下方に傾斜した傾斜部分65a1と、機台長手方向に水平に延びる水平部分65a2とを含む。傾斜部分65a1と水平部分65a2とは一体形成されている。傾斜部分65a1は糸Yの綾振り範囲r内への移動を規制するための部分であり、水平部分65a2は糸Yを所定の高さに保持する部分である。所定の高さとは、トラバースガイド72が機台長手方向に沿って移動するときに糸Yを捕捉し易い高さである。また、所定の高さとは、水平部分65a2に保持された糸Yが巻取装置21の他の部品に接触しないようする高さである。水平部分65a2によって、糸Yが所定の高さよりも低い位置に移動することを防止している。
【0067】
バンチガイド65は、保持部分65aに保持される糸Yの糸道とトラバースガイド72の移動軌道とを交差させるような位置に配置されている。保持部分65aと誘導部分65bとは一体形成されている。誘導部分65bは、機台長手方向の綾振り範囲rからバンチ巻き位置xに向かう方向に沿って下方に傾斜している。本実施形態では、傾斜部分65a1の水平面に対する傾斜角は、誘導部分65bの水平面に対する傾斜角よりも大きい。水平面に対する傾斜角が大きい傾斜部分65a1によって、水平部分65a2に保持された糸Yの綾振り範囲r内への移動が規制される。
【0068】
また、図4に示すように、誘導部分65bの一部は、糸掛け位置にある糸掛けアーム62の糸係止部62aよりも綾振り範囲r側に位置している。さらに、バンチガイド65は、糸Yが走行する糸走行方向においてトラバースガイド72よりもボビンホルダ41側に配置されている。すなわち、バンチガイド65は、機台幅方向においてトラバースガイド72よりもボビンホルダ41側に配置されている。
【0069】
図5に示すように、制御部64は、パッケージ駆動モータ88、糸掛けアーム駆動モータ89、トラバースガイド駆動モータ90の駆動制御を行う。制御部64は、ボビンホルダ41の回転数をモニタリングする回転数検出センサ(不図示)から送られる信号に基づいて、糸掛けアーム駆動モータ89及びトラバースガイド駆動モータ90の駆動のタイミングを制御する。具体的には、ボビンホルダ41の回転数が目標値まで到達したことを回転数検出センサが検知したとき、制御部64は、糸掛けアーム駆動モータ89及びトラバースガイド駆動モータ90をそれぞれ適宜のタイミングで駆動して糸掛け動作を開始する。回転数検出センサは、例えば、ボビンホルダ41の一部に取り付けられた磁石と、クレードルアーム40に取り付けられた磁気センサとを含む。回転数検出センサは、ボビンホルダ41の回転に伴って回転する磁石から発生する磁気周期を磁気センサによって検出することでボビンホルダ41の回転数をモニタリングする。制御部64による糸掛けアーム駆動モータ89及びトラバースガイド駆動モータ90の制御の詳細については、後述の糸掛け動作の説明のところで説明する。なお、制御部64は、各巻取装置21に共通のものでもよく、巻取装置21ごとに設けられるものでもよい。また、パッケージ駆動モータ88の駆動制御を行う制御部64と、糸掛けアーム駆動モータ89及びトラバースガイド駆動モータ90の駆動制御を行う制御部とが異なる構成であってもよい。
【0070】
(糸掛け動作)
続いて、糸掛け装置60によってフック41aに糸Yが掛けられてから、トラバースガイド72によって綾振りが行われてボビンBwに糸が巻き取られるまでの一連の動作について、図5図13を参照しつつ以下に説明する。図13は、糸掛け装置60による糸掛けの際のフローチャートである。糸掛け動作が行われるとき、一対のボビンホルダ41には、糸Yが巻かれていない空のボビンBwが支持されている。
【0071】
まず、制御部64は、ボビンBw及びボビンホルダ41を一体的に回転させるために、パッケージ駆動モータ88を駆動して接触ローラ50を回転させる(ステップS1)。次に、制御部64は、糸掛けアーム62を待機位置に位置させるように糸掛けアーム駆動モータ89を制御する(ステップS2)。なお、ステップS1とステップS2の順序は逆でもよく、同時に実行されてもよい。糸掛けアーム62が待機位置にある状態で、第4フィードローラ20から送られた糸Yは糸保持部61に吸引保持される(図6参照)。
【0072】
続いて、制御部64は、トラバースガイド72を、機台長手方向において所定の移動範囲Mよりも一方側(すなわち図6の紙面右側)の外側に待機させる(ステップS3)。すなわち、制御部64は、糸掛けアーム62の待機位置から糸掛け位置への移動が開始するよりも前にトラバースガイド72を所定の移動範囲Mの外側に待機させる。なお、トラバースガイド72を待機させておく位置は、例えば、あらかじめ設定され、制御部64に記憶される。トラバースガイド72を待機させておく位置は、通常、バンチガイド65の近傍の位置である。
【0073】
回転数検出センサ(不図示)によってボビンホルダ41の回転数が目標値まで到達したとき、制御部64は、糸掛けアーム駆動モータ89を駆動して、回転軸62bを中心として糸掛けアーム62を待機位置から糸掛け位置に移動させる(ステップS4)。糸掛けアーム62が待機位置から糸掛け位置に移動する途中で、糸保持部61に吸引保持された糸Yは糸係止部62aの第1部分62a1及び第2部分62a2に係止される。
【0074】
糸Yが糸係止部62aに係止される仕組みを具体的に説明する。まず、糸掛けアーム62が待機位置から糸掛け位置に移動する途中で、第1部分62a1が、糸保持部61に吸引保持されている糸Yの糸保持部61よりも糸走行方向の上流側の部分に接触する。そして、第1部分62a1と糸Yとの接触後、糸掛けアーム62がさらに糸掛け位置に向かって移動することにより、糸Yが第1部分62a1に係止される。さらに、第1部分62a1に係止された糸Yは、糸掛けアーム62が糸掛け位置に至るまでの間に、第1部分62a1及び第2部分62a2の両方に係止される。このとき、糸Yは、第1部分62a1と第2部分62a2との間で張った状態となる(図8参照)。また、糸係止部62aに係止された糸Yの糸走行方向の下流側の端部は、糸保持部61に吸引保持された状態となっている(図7参照)。
【0075】
図8に示すように、糸掛けアーム62が糸掛け位置に到達すると、糸Yのうち第1部分62a1と第2部分62a2との間で張っている部分は、図8の実線矢印の向きに回転するボビンホルダ41のフック41aに掛けられる。そして、フック41aに掛けられた糸Yは、ボビンBwの回転によってボビンBwの端部に巻き掛けられる。なお、ボビンBwの端部は、綾振り範囲rの外側である。このとき、フック41aに掛けられ且つ第2部分62a2に係止された糸Yは、ボビンホルダ41の回転に伴って下方に引っ張られ、下方に傾斜した支持部分95に沿って下方に移動して、第2部分62a2から外れる。すなわち、本実施形態では、第2部分62a2は、ボビンホルダ41に形成されたフック41aに糸Yが掛けられるのに伴って、糸Yが外れる構成である。第2部分62a2から外れた糸Yは、バンチガイド65の誘導部分65bに接触した後、誘導部分65bの傾斜に沿って移動することにより保持部分65aに誘導される。そして、図9に示すように、保持部分65aによって糸YがボビンBwのバンチ巻き位置xに維持するように保持される。
【0076】
なお、第2部分62a2から外れてバンチガイド65に保持された糸Yは、フック41aよりも糸走行方向上流側の部分がバンチガイド65に保持されており、フック41aよりも糸走行方向下流側の部分が第1部分62a1に係止された状態となっている。この状態で、ボビンホルダ41がさらに回転することによって、フック41aに引っ掛けられた糸Yは、クレードルアーム40に設けられたカッタ40aの位置まで案内され、カッタ40aによって切断される。カッタ40aに切断された糸Yのうちのカッタ40aよりも糸走行方向下流側の糸Yは、糸保持部61に吸引されることで回収される。これによって、糸保持部61による糸Yの保持が解除される。
【0077】
以上のようにして糸Yがバンチガイド65に保持された状態で、ボビンBw及びボビンホルダ41が一体的に回転することによって、バンチ巻き位置xにバンチ巻きが形成される(ステップS5)。
【0078】
バンチ巻きが行われているとき、制御部64は、糸掛けアーム駆動モータ89を駆動して、糸掛けアーム62を途中位置(図10における糸掛けアームの位置)まで移動させる(ステップS6)。途中位置は、糸掛けアーム62がバンチガイド65に保持された糸Yと接触しない位置であって、糸掛け位置と待機位置との間の位置である。途中位置は、出来る限り待機位置に近い方が好ましく、例えば、図10に示すように、上下方向から見たとき、回転軸62bを中心に糸掛けアーム62が待機位置から反時計回りに約60度回転した位置である。
【0079】
バンチ巻きが完了したとき、制御部64は、トラバースガイド駆動モータ90を駆動して、所定の移動範囲Mの外側に待機させておいたトラバースガイド72について、所定の移動範囲Mでの往復移動を開始させる(ステップS7)。言い換えれば、ステップS7において、制御部64は、トラバースガイド72を機台長手方向における所定の移動範囲Mの外側に移動させて糸係止部62aから外れた糸Yをバンチガイド65を介してトラバースガイド72に捕捉させた後、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動させるように制御する。なお、バンチ巻きが完了するまでの時間は、例えば予め設定されて制御部64に記憶される。図11に示すように、往復移動を開始したトラバースガイド72は、所定の移動範囲Mでの往復移動を開始する前に、バンチガイド65によって保持されている糸Yを補足する。そして、トラバースガイド72によって捕捉された糸Yは、トラバースガイド72のさらなる移動に伴って、保持部分65aの傾斜部分65a1及び誘導部分65b(図4参照)の傾斜に沿って移動した後に誘導部分65bから外れる。すなわち、バンチガイド65は、保持している糸Yが、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動を開始する前に、所定の移動範囲Mの外側でトラバースガイド72によって捕捉されることで、バンチガイド65から外れるように構成されている。
【0080】
ここで、制御部64は、所定の移動範囲Mで往復移動するトラバースガイド72の移動速度を第1速度と、第2速度との間で切り替え可能である。第1速度とは、ボビンBwに糸Yを巻き取るために糸Yを綾振り範囲rで綾振るときの、トラバースガイド72の移動速度である。第1速度は、糸YのボビンBwへの巻き取り速度、綾角、巻き取りテンションなどによって変動する値である。第2速度とは、第1速度よりも遅い速度であって、例えば第1速度の3分の1の速さである。制御部64は、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mの機台長手方向における一方側(図2の紙面右側)の端部から往復移動を開始してから、所定の移動範囲Mの機台長手方向における他方側(図2の紙面左側)の端部に最初に到達するまでの初期期間で、トラバースガイド72の移動速度を第2速度とするように制御する(ステップS8)。言い換えれば、制御部64は、所定の移動範囲Mでのトラバースガイド72の1回目の往路において、トラバースガイド72の移動速度を第2速度とする。
【0081】
図12に示すように、制御部64は、トラバースガイド72が第2速度で所定の移動範囲Mを移動しているときであって、糸掛けアーム62の糸掛け位置と待機位置との間の移動軌跡上にトラバースガイド72に捕捉された糸Yが存在していないときに、糸掛けアーム62を待機位置に移動させる(ステップS9、図12の実線矢印参照)。別の言い方をすれば、制御部64は、所定の移動範囲Mを往復移動しているトラバースガイド72に捕捉された糸Yと糸掛けアーム62とが接触しないようにして、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるときに、トラバースガイド72の移動速度を第2速度とする。ステップS9において、制御部64が糸掛けアーム62を待機位置に移動させるタイミングは予め算出される。具体的には、制御部64は、トラバースガイド72の移動速度と糸掛けアーム62の移動速度とに基づいて、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるタイミングを予め算出する。
【0082】
制御部64は、トラバースガイド72を第2速度で移動させる初期期間以降の第2期間で、トラバースガイド72の移動速度を第1速度とするように制御する(ステップS10)。ここで、第2期間とは、例えば、初期期間が終わってから満巻きの巻取パッケージPwが形成されるまでの間の期間である。
【0083】
糸Yを保持したトラバースガイド72が第1速度で所定の移動範囲Mの往復移動を繰り返すことによって、ボビンBwに糸Yが巻き取られて満巻きの巻取パッケージPwが形成される。これによって、糸Yの巻き取り動作が完了する。なお、糸Yの巻き取り動作が完了すると、ボビンBwの回転が停止した後、満巻きとなった巻取パッケージPwはクレードルアーム40から不図示のパッケージ貯留部へと払い出され、新たに空のボビンBwがクレードルアーム40にセットされる。そして、再び、上述したステップS1~S10が実行される。クレードルアーム40からの巻取パッケージPwの払い出し動作、及び、空のボビンBwのクレードルアーム40へのセット動作については、説明を省略する。
【0084】
(効果)
本実施形態の糸掛け装置60は、糸Yを一時的に保持する糸保持部61と、糸係止部62aを有する糸掛けアーム62と、トラバースガイド72と、制御部64と、を含む。糸係止部62aは、糸掛けアーム62が待機位置から糸掛け位置に移動する途中で糸保持部61に保持された糸Yを係止し、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに糸Yが外れる構成である。糸掛け装置60では、糸掛けアーム62の糸掛け位置と待機位置との間の移動軌跡上に、糸係止部62aと所定の移動範囲Mを往復移動するトラバースガイド72に捕捉されている糸Yとが接触する領域が存在している。糸保持部61は、ボビンBwの綾振り範囲r外への糸掛けに伴って糸Yの保持が解除される構成である。トラバースガイド72は、機台長手方向に沿って所定の移動範囲Mの外側まで移動可能である。制御部64は、トラバースガイド72を機台長手方向における所定の移動範囲Mの外側に移動させて糸係止部62aから外れた糸Yをトラバースガイド72に捕捉させた後、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動させるように制御する。また、制御部64は、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動中であって、糸掛けアーム62の糸掛け位置と待機位置との間の移動軌跡上にトラバースガイド72に捕捉された糸Yが存在していないときに、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるように制御する。
【0085】
また、本実施形態の仮撚加工機1は、糸Yを給糸するための給糸部2と、給糸部2から供給された糸Yを仮撚加工するための加工部3と、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻き取るための巻取部4と、を含む。巻取部4は、ボビンホルダ41に装着されたボビンBwに糸Yを巻き取って巻取パッケージPwを形成する巻取装置21と、糸掛け装置60と、を有している。
【0086】
本実施形態の構成では、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動を開始する前(すなわち糸Yが所定の綾振り範囲rで綾振りされる前)において、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに糸係止部62aから糸Yが外れてバンチガイド65を介してトラバースガイド72によって捕捉される。このため、糸Yが糸係止部62aから外れてからトラバースガイド72に捕捉されるまでの間に、糸Yが綾振り範囲rに位置する事がなく、綾振り範囲r内に棒巻きが形成されることを防止できる。但し、このような構成では、仮に糸係止部62aから糸Yが解放された直後に糸掛けアーム62を待機位置に戻そうとすると、糸掛けアーム62が待機位置に戻る途中で糸係止部62aから外れてバンチガイド65に保持されている糸を引っ掛けてしまう。
【0087】
この点、図14及び図15を参照しつつ詳しく説明する。まず、本実施形態のステップS4の動作を経て糸掛けアーム62が糸掛け位置に到達すると、糸係止部62aから糸Yが解放され、糸Yがバンチガイド65に保持される。このすぐ後に糸掛けアーム62を待機位置に戻そうとすると、糸掛けアーム62が糸掛け位置から待機位置に戻る途中で、糸係止部62aが、バンチガイド65に保持されている糸Yを引っ掛けてしまう。具体的には、図14及び図15に示すように、バンチガイド65に保持された糸Yは、バンチガイド65よりも糸走行方向の上流側の位置で、待機位置に戻る途中の糸係止部62aに引っ掛かってしまう。これは、以下の理由からである。すなわち、図15に示すように、本実施形態の糸掛け装置60の構成では、糸掛けアーム62が糸掛け位置から待機位置に向かうにつれて糸係止部62aが下方に位置している。そして、図15に示すように、糸掛けアーム62が糸掛け位置と待機位置との間の所定の位置にあるとき、糸係止部62aの一部の上下方向における位置と、バンチガイド65と綾振り支点ガイド100との間を走行する糸Yの上下方向における位置とは同じになる。これによって、バンチガイド65に保持されている糸Yは、糸係止部62aに引っ掛かってしまう。糸Yが糸係止部62aに係止された状態で糸掛けアーム62が待機位置に戻ると、糸Yの綾振り支点が、本来の支点(綾振り支点ガイド100)ではなく糸係止部62aになってしまう。そうすると、トラバースガイド72による糸Yの綾振りが正常に行えず巻取パッケージPwの形状が異常となったり、糸切れを引き起こしたりしてしまう。
【0088】
このため、糸Yがトラバースガイド72に捕捉され、バンチガイド65から糸Yが外れてから、糸掛けアーム62を待機位置に戻さざるを得ない。但し、トラバースガイド72に捕捉された状態の糸Yについても、糸掛けアーム62が糸掛け位置から待機位置に戻る途中で、糸係止部62aが糸Yを引っ掛けてしまうという問題は同様に生じ得る。これは、糸掛けアーム62が糸掛け位置と待機位置との間の所定の位置にあるとき、糸係止部62aの一部の上下方向における位置と、トラバースガイド72と綾振り支点ガイド100との間を走行する糸Yの上下方向における位置とは同じになるからである。このため、糸掛け装置60では、糸掛けアーム62の糸掛け位置と待機位置との間の移動軌跡上に、糸係止部62aと所定の移動範囲Mを往復移動するトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触する領域が存在することとなる。したがって、綾振りされている糸Yの機台長手方向における位置によっては、トラバースガイド72に捕捉された糸Yが、糸係止部62aに係止されてしまうということが起こり得る。そこで、例えば、糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとの接触を回避するため、糸掛けアーム62を待機位置に戻す間、トラバースガイド72を糸掛けアーム62と接触しない範囲に限って往復移動させておくことも考えられる。しかし、この場合、糸掛けアーム62と接触しない範囲に限って往復移動させているトラバースガイド72に捕捉された糸Yは、ボビンBwの綾振り範囲rの全体のうちの一部の範囲のみにしか巻かれないため、ボビンBwの一部の範囲では他の範囲よりも多く糸Yが巻かれることになる。すなわち、糸掛けアーム62を待機位置に戻す間、巻取パッケージPwの一部が盛り上がり、形状が崩れてしまう。この点、本実施形態では、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動の開始後に糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触しないように糸掛けアーム62を待機位置に戻す。このため、糸掛けアーム62を戻すときに、ボビンBwの綾振り範囲rの全体に満遍なく糸Yを巻き取らせることができ、巻取パッケージPwの形状が崩れることを抑制できる。したがって、本実施形態では、ボビンBwに糸掛けが行われる際にボビンBwに棒巻きが形成されることを防止しつつ、適切な形状の巻取パッケージPwを得ることができる。
【0089】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、糸掛けアーム62は、糸掛けアーム駆動モータ89によって駆動される。これによれば、糸掛けアーム62を移動させるタイミングを正確に制御することができる。
【0090】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、トラバースガイド72は、トラバースガイド駆動モータ90によって駆動され、糸掛けアーム駆動モータ89とトラバースガイド駆動モータ90とは共通の制御部64によって制御される。これによれば、糸掛けアーム駆動モータ89を駆動する制御部64とトラバースガイド駆動モータ90を駆動する制御部64との間の信号の送受信のタイムラグをなくすことができ、トラバースガイド72と糸掛けアーム62の動作タイミングを精度よく揃えやすくなる。
【0091】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、制御部64は、所定の移動範囲Mで往復移動するトラバースガイド72の移動速度を、第1速度と、第1速度よりも遅い第2速度との間で切り換え可能であって、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるときに、トラバースガイド72の移動速度を第2速度とするように制御する。これによれば、糸掛けアーム62を待機位置に戻すときに、トラバースガイド72の移動速度を遅くしている。これにより、糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触しない時間を長くとることができる。このため、糸掛けアーム62を待機位置に戻す際、糸掛けアーム62を駆動させるための信号の送受信のタイムラグが生じて糸掛けアーム62の動作タイミングがずれたとしても、糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触してしまうことを回避することができる。
【0092】
さらに、本実施形態の糸掛け装置60では、制御部64は、機台長手方向において、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mの一方側の端部から往復移動を開始してから、所定の移動範囲Mの他方側の端部に最初に到達するまでの初期期間で、トラバースガイドの移動速度を第2速度とする。そして、制御部64は、初期期間以降の第2期間で、トラバースガイド72の移動速度を第1速度とするように制御する。トラバースガイド72の移動速度が変わると、それに伴いボビンBwに巻き取られる糸Yの綾角も変動する。本実施形態によれば、糸Yを綾振るために往復移動するトラバースガイド72の移動速度が変化するのは1回となる。このため、綾角が変動する箇所を1箇所とすることができ、綾角が変動する箇所が複数箇所ある場合と比べて、巻取パッケージPwの形状を綺麗に維持することができる。
【0093】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、制御部64は、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動を開始させる前に、糸掛けアーム62を、糸Yと接触しない位置であって、且つ、糸掛け位置と待機位置との間の位置である途中位置に移動させておく。本実施形態では、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動させる前に、予め糸掛けアーム62を途中位置に移動させておく。そして、トラバースガイド72を往復移動させて糸Yを綾振りさせているときに、途中位置にある糸掛けアーム62を待機位置に戻す。このため、糸掛けアーム62を糸掛け位置から待機位置に戻す場合と比べて、糸掛けアーム62を待機位置に戻す時間を短縮することができる。これにより、糸掛けアーム62の動作タイミングが多少ずれたとしても、待機位置に速やかに戻る糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触するリスクを低減することができる。
【0094】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、制御部64は、トラバースガイド72の移動速度と糸掛けアーム62の移動速度とに基づいて、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるタイミングを予め算出する。これによれば、糸掛けアーム62を駆動させるための信号の送受信のタイムラグも考慮しつつ、トラバースガイド72と糸掛けアーム62の移動速度に基づいて、糸掛けアーム62を待機位置に戻すタイミングを予め算出することができる。このため、糸掛けアーム62とトラバースガイド72の動作タイミングがずれることが生じにくく、糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触してしまうことを精度よく回避することができる。
【0095】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、糸係止部62aは、棒状部材である。これによれば、糸係止部62aを棒状部材、すなわち細い部材とすることによって糸掛けアーム62の軽量化が実現する。これにより、所定の駆動力で糸掛けアーム62を待機位置に戻そうとするとき、糸掛けアーム62が重い場合と比べて、速やかに待機位置に戻すことができる。よって、糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触するリスクをさらに低減することができる。加えて、単に棒状部材を曲げることによって、糸Yを係止可能な糸係止部62aの形状にすることができ、加工が容易である。さらに、糸係止部62aは、円柱又は円筒の棒状部材であることが好ましい。これによれば、糸係止部62aの断面が曲面であるため、糸係止部62aに係止される糸Yを傷つけにくく、糸Yの品質の低下を抑制できる。
【0096】
さらに、本実施形態の糸掛け装置60では、糸掛けアーム62は、糸係止部62aが取り付けられた本体部62cを含み、本体部62cは樹脂製である。これによれば、本体部62cを樹脂製とすることによって、糸掛けアーム62の軽量化が実現する。これにより、所定の駆動力で糸掛けアーム62を待機位置に戻そうとするとき、糸掛けアーム62が重い場合と比べて、速やかに待機位置に戻すことができる。よって、糸掛けアーム62とトラバースガイド72に捕捉された糸Yとが接触するリスクをさらに低減することができる。
【0097】
また、本実施形態の糸掛け装置60では、糸掛けアーム62は、その基端部に形成された回転軸62bを中心に、糸掛け位置と待機位置との間で揺動可能である。これによれば、糸掛けアーム62を揺動させることによって、糸掛けアーム62を糸掛け位置から待機位置に素早く戻すことができる。
【0098】
また、本実施形態の糸掛け装置60は、ボビンホルダ41に形成されたフック41aを備え、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるとき、糸係止部62aに係止された糸Yがフック41aに掛けられることによってボビンBwの綾振り範囲r外への糸掛けが行われる。糸係止部62aは、フック41aへの糸掛けに伴って糸Yが外れる構成である。また、糸掛け装置60は、糸係止部62aから外れた糸Yを、綾振り範囲rの外側で保持するバンチガイド65をさらに備え、バンチガイド65は、保持している糸Yが、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動を開始する前に、所定の移動範囲Mの外側でトラバースガイド72に捕捉されることで、バンチガイド65から外れるように構成されている。本実施形態では、フック41aを設けることで、糸係止部62aからスムーズに糸Yを外すことができる。さらに、糸係止部62aから外れた糸Yを綾振り範囲r外でバンチガイド65に保持させ、糸YをボビンBwの綾振り範囲r外でバンチ巻きさせる。その後、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mでの往復移動を開始する前に、バンチガイド65に保持された糸Yが所定の移動範囲Mの外側でトラバースガイド72に捕捉され、バンチガイド65から糸Yが外れる。このため、糸係止部62aから外れてバンチガイド65に保持された糸Yが、トラバースガイド72に捕捉されるまでの間に、綾振り範囲rに位置することがなく、綾振り範囲r内に棒巻きが形成されることを防止することができる。
【0099】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0100】
上記実施形態では、制御部64は、トラバースガイド72の移動速度と糸掛けアーム62の移動速度とに基づいて、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるタイミングを予め算出する。しかしながら、制御部64は、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるタイミングを予め算出するものでなくてもよい。例えば、糸掛け装置60は、トラバースガイド72の位置を検出するためのセンサを含んでいてもよい。そして、制御部64は、センサによって検出されたトラバースガイド72の位置に基づいて、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるタイミングを決定するものでもよい。この構成によれば、トラバースガイド72の現在位置に基づいて糸掛けアーム62の動作タイミングが決められる。このため、糸掛けアーム62の動作タイミングを算出するための複雑な演算処理が不要となる。
【0101】
上記実施形態では、糸掛けアーム駆動モータ89とトラバースガイド駆動モータ90とは共通の制御部64によって制御される。しかしながら、糸掛けアーム駆動モータ89とトラバースガイド駆動モータ90とは互いに異なる制御部64によって制御されるものでもよい。
【0102】
上記実施形態では、制御部64は、所定の移動範囲Mで往復移動するトラバースガイド72の移動速度を、第1速度と第2速度との間で切り替え可能である。しかしながら、制御部64は、所定の移動範囲Mで往復移動するトラバースガイド72の移動速度を、第1速度のみとしてもよい。この場合、制御部64は、トラバースガイド72の移動速度が第1速度のときに、糸掛けアーム62を待機位置に移動させる。
【0103】
上記実施形態では、制御部64は、機台長手方向において、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mの一方側の端部から往復移動を開始してから、所定の移動範囲Mの他方側の端部に最初に到達するまでの初期期間で、トラバースガイドの移動速度を第2速度とする。そして、制御部64は、初期期間以降の第2期間で、トラバースガイド72の移動速度を第1速度とするように制御する。しかしながら、制御部64は、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mで往復移動しているときの任意のタイミングで、トラバースガイドの移動速度を第2速度としてもよい。例えば、制御部64は、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mの一方側の端部から往復移動を開始してから任意のタイミングまでは、トラバースガイド72の移動速度を第1速度とし、任意のタイミングでトラバースガイド72の移動速度を第2速度に切り換えてもよい。この場合において、制御部64は、糸掛けアーム62を待機位置に移動させるときに、トラバースガイド72の移動速度を第2速度とするように制御することが好ましい。また、この場合において、糸掛けアーム62を待機位置に移動させた後、トラバースガイド72の移動速度を第1速度に再び切り替えることが好ましい。
【0104】
上記実施形態では、第2期間とは、初期期間が終わってから満巻きの巻取パッケージPwが形成されるまでの間の期間である。しかしながら、第2期間はこれに限られない。例えば、初期期間が終わってから満巻きの巻取パッケージPwが形成されるまでの間に、第2期間から、トラバースガイド72の移動速度が第1速度とは異なる速度となる別の期間に切り替わってもよい。
【0105】
上記実施形態では、制御部64は、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動を開始させる前に、糸掛けアーム62を途中位置に移動させている。しかしながら、制御部64は、糸掛けアーム62を途中位置に移動させなくてもよい。この場合、制御部64は、トラバースガイド72が所定の移動範囲Mで往復移動を開始した後に、糸掛けアーム62を糸掛け位置から待機位置に移動させる。
【0106】
上記実施形態では、糸掛けアーム62の駆動は、糸掛けアーム駆動モータによって行われる。しかしながら、糸掛けアーム62の駆動は、エアシリンダなどによって行われてもよい。この場合、エアシリンダを動かすためのソレノイドバルブ等の制御は制御部64によって行われる。
【0107】
上記実施形態では、制御部64は、糸掛けアーム62を待機位置から糸掛け位置に移動させるよりも前に、ボビンBw及びボビンホルダ41を一体的に回転させるための接触ローラ50を回転駆動させるパッケージ駆動モータ88を駆動している。しかしながら、制御部64は、糸掛けアーム62が糸掛け位置に到達してからパッケージ駆動モータ88の駆動を行ってもよい。
【0108】
上記実施形態では、制御部64は、バンチ巻き中に糸掛けアーム62を途中位置に移動させている。しかしながら、制御部64が糸掛けアーム62を途中位置に移動させるタイミングは、糸掛けアーム62を糸掛け位置に移動させて糸Yが糸係止部62aから外れてから、トラバースガイド72を所定の移動範囲Mで往復移動させるまでの間であればいつでもよい。例えば、制御部64が糸掛けアーム62を途中位置に移動させるタイミングは、バンチ巻き形成後であってもよい。
【0109】
上記実施形態では、誘導部分65bの一部は、糸掛け位置にある糸掛けアーム62の糸係止部62aよりも綾振り範囲r側に位置している。しかしながら、誘導部分65bの全部が、糸掛け位置にある糸掛けアーム62の糸係止部62aよりも綾振り範囲r側に位置していてもよい。また、バンチガイド65は、保持部分65aのみを有する構成でもよい。
【0110】
上記実施形態では、バンチガイド65は、屈曲した棒状部材である。しかしながら、バンチガイド65は、直線状の棒状部材でもよい。この場合、バンチガイド65は、機台長手方向の綾振り範囲rからバンチ巻き位置xに向かう方向に沿って下方に傾斜している。また、バンチガイド65は、板状部材でもよく、その他の形状の部材でもよい。
【0111】
上記実施形態では、保持部分65aと誘導部分65bとは一体形成されている。しかしながら、保持部分65aと誘導部分65bとは別部材であってもよい。
【0112】
上記実施形態では、バンチガイド65は、機台幅方向においてトラバースガイド72よりもボビンホルダ側に配置されている。しかしながら、バンチガイド65が、機台幅方向においてトラバースガイド72よりも第4フィードローラ20側に配置されていてもよい。
【0113】
上記実施形態では、糸係止部62aは棒状部材である。しかしながら、糸係止部62aは棒状部材でなくてもよい。また、上記実施形態では、本体部62cは樹脂製である。しかしながら、本体部62cは樹脂製でなくてもよい。
【0114】
上記実施形態では、糸係止部62aは、フック41aへの糸掛けに伴って糸Yが外れる構成である。しかし、糸係止部62aは、このような構成に限られない。例えば、糸係止部62aは、トラバースガイド72の綾振り動作とは異なる所定の糸外し動作を利用して、糸Yが外れる構成であってもよい。この場合、ボビンホルダ41にフック41aが形成されていなくてよい。
【0115】
上記実施形態では、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに糸係止部62aから外れた糸Yは、バンチガイド65に保持される。しかしながら、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに糸係止部62aから外れた糸Yは、バンチガイド65とは別の部材によって保持されてもよい。また、糸掛けアーム62が糸掛け位置にあるときに糸係止部62aから外れた糸Yが、トラバースガイド72に直接捕捉される構成でもよい。この場合、制御部64は、所定の移動範囲Mの外側でトラバースガイド72に糸Yを捕捉させる。
【0116】
上記実施形態では、糸Yがバンチガイド65に保持された状態で、ボビンBwのバンチ巻き位置xへのバンチ巻きが行われる。しかしながら、糸掛け位置にある糸掛けアーム62の糸係止部62aに糸Yが係止された状態で、ボビンBwのバンチ巻き位置xへのバンチ巻きが行われてもよい。この場合、バンチ巻きが完了した後、例えば、上述のトラバースガイド72の糸外し動作を利用して、糸係止部62aから糸Yが外される。
【0117】
上記実施形態では、糸掛けアーム62は、回転軸62bを中心に糸掛け位置と待機位置との間で揺動可能である。しかしながら、糸掛けアーム62は、回転軸62bを中心に糸掛け位置と待機位置との間で揺動可能に構成されていなくてもよい。例えば、糸掛けアーム62は、糸掛け位置と待機位置との間をV字の移動軌跡を描くように移動する構成であってもよい。
【0118】
上記実施形態では、糸掛け装置60は、仮撚加工機1の巻取装置21に適用されるものである。しかしながら、糸掛け装置60は、仮撚加工機1に限らず、リワインダの巻取装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 仮撚加工機
2 給糸部
3 加工部
4 巻取部
21 巻取装置
41 ボビンホルダ
41a フック(糸引っ掛け部)
60 糸掛け装置
61 糸保持部
62 糸掛けアーム(糸掛け部材)
62a 糸係止部
62c 本体部
64 制御部
65 バンチガイド
72 トラバースガイド
89 糸掛けアーム駆動モータ(第1モータ)
90 トラバースガイド駆動モータ(第2モータ)
Bw ボビン
M 所定の移動範囲
Pw 巻取パッケージ
r 綾振り範囲
Y:糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15