(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083293
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】衣料用カップ部材
(51)【国際特許分類】
A41C 3/12 20060101AFI20240613BHJP
D04H 3/02 20060101ALI20240613BHJP
D04H 3/016 20120101ALI20240613BHJP
A41C 3/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A41C3/12 A
D04H3/02
D04H3/016
A41C3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207052
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022196352
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300049338
【氏名又は名称】丸榮日産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】塩田 敦
(72)【発明者】
【氏名】青山 聡
(72)【発明者】
【氏名】内山 文男
【テーマコード(参考)】
3B131
4L047
【Fターム(参考)】
3B131AB03
3B131BA17
3B131BB01
3B131CA17
4L047AB07
4L047CA15
4L047CB08
4L047CB10
4L047CC01
(57)【要約】
【課題】より好適な通気性を備える衣料用カップ部材を提供すること。
【解決手段】湾曲部と、前記湾曲部の周縁に設けられる縁部とを備え、前記湾曲部は、局所的に互いに接合した複数の繊材から成る立体網状構造を備え、少なくとも前記縁部は中実構造を備える、衣料用カップ部材が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲部と、前記湾曲部の周縁に設けられる縁部とを備え、
前記湾曲部は、局所的に互いに接合した複数の繊材から成る立体網状構造を備え、
少なくとも前記縁部は中実構造を備える、衣料用カップ部材。
【請求項2】
前記縁部が中実板状部分を含む、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【請求項3】
前記縁部の少なくとも一部に間隙が設けられている、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【請求項4】
前記湾曲部と前記縁部とが互いに連続した一体化物である、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【請求項5】
前記湾曲部の湾曲面にて、前記複数の繊材が、主として前記湾曲面の面内方向に沿ってランダム配向している、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【請求項6】
前記複数の繊材の繊度が、150dtex以上10000dtex以下である、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【請求項7】
前記湾曲部の厚み寸法が、前記縁部の厚み寸法より大きい、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【請求項8】
前記湾曲部の中央領域における前記繊材の見かけ密度が、前記湾曲部の周縁領域における前記繊材の見かけ密度より小さい、請求項1に記載の衣料用カップ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衣料用カップ部材に関する。特に、本開示は、女性用衣類のバスト部分に備えられる衣料用カップ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
女性用下着、水着、スポーツウェア等の女性用衣類には、バスト部分を支持し、理想的な形状に補正するためのカップ部材が備えられ得る。従来、バストの支持性および着用感を向上させるため、様々な衣料用カップ部材が提案されている(特許文献1~6)。例えば、特許文献1~3では、繊維の立体配列体または繊維ウェブを用いて形成された衣料用カップ部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-194611号公報
【特許文献2】特開平5-195397号公報
【特許文献3】特開2004-300592号公報
【特許文献4】特開2015-105460号公報
【特許文献5】特開2013-87387号公報
【特許文献6】特開昭63-42903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衣料用カップ部材において、着用時の発汗等による蒸れの発生は、着用者に不快感を与えるだけではなく、カップ材料の劣化および変質を誘発する虞がある。そのため、より通気性に優れた衣料用カップ部材が求められている。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものである。すなわち、本発明の主たる目的は、より好適な通気性を備える衣料用カップ部材を提供することである。
【0006】
また、本願発明者は、従来の衣料用カップ部材の構造においてさらに克服すべき課題があることに気づき、そのための対策をとる必要性を見出した。具体的には、以下の課題があることを見出した。
【0007】
一般に、通気性に優れたカップ部材を得るためには、カップ部材を構成する繊維などの材料の密度を低減する構成が想到される。一方で、低密度の材料で形成される衣料用カップ部材は保形性に劣るため、カップ部材の形状が崩れやすく、バスト部分の支持が不十分となる虞がある。このように、通気性の向上と保形性の向上とは、互いにトレードオフの関係にある。
【0008】
すなわち、本開示の副たる目的は、通気性と保形性とをより好適に両立可能な衣料用カップ部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的の達成にあたり、本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することを試みた。その結果、上記目的が達成された衣料用カップ部材の発明に至った。
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の一実施形態では、
湾曲部と、前記湾曲部の周縁を縁取る縁部とを備え、
前記湾曲部は、局所的に互いに接合した複数の繊材から成る立体網状構造を備え、
少なくとも前記縁部は中実構造を備える、衣料用カップ部材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、より好適な通気性を備える衣料用カップ部材が供される。
【0012】
具体的には、本開示の衣料用カップ部材は、湾曲部が複数の繊材によって構成された立体網状構造を備えていることにより、繊材の間に多数の空隙が形成されるため、より優れた通気性を実現可能としている。
【0013】
また、湾曲部の周縁の縁部を中実構造とすることにより、縁部の強度がより向上する。かかる中実構造の縁部は、衣料用カップ部材全体の保形性の向上にも寄与する。そのため、衣料用カップ部材の形状の崩れがより好適に抑制され、優れた保形性を呈し得る。したがって、本開示によれば、湾曲部にて立体網状構造を備え、かつ縁部にて中実構造を備えることで、通気性と保形性とをより好適に両立可能な衣料用カップ部材が供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、本開示の別の実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す部分拡大図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す部分拡大図である。
【
図6A】
図6Aは、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す断面拡大図である。
【
図6B】
図6Bは、本開示の別の実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す断面拡大図である。
【
図7】
図7は、本開示の別の実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す平面 図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照して本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材(以下、単にカップ部材とも称する)をより詳細に説明する。図面における各種の要素は、本開示の説明のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比等は実物と異なり得る。
【0016】
出願人は、本発明を当業者が十分に理解するために以下の説明および実施例を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではないことに留意されたい。つまり、本発明は、以下で説明する好適態様などに限定されるものではなく、その目的の範囲で適宜変更して実施できる。なお、要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施態様や実施例などに分けて示す場合があるものの、異なる実施態様などで示した構成の部分的な置換および/または組合せなどは可能である。そのような実施態様の記載では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する場合がある。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施態様ごとには逐次言及しない場合がある。
【0017】
さらに、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語を用いる。しかしながら、これらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、これらの用語の意味によって本開示の技術的範囲が制限されるものではない。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材もしくは部位または同じ意味内容を示すものとする。
【0018】
本開示の例示態様の説明は、添付の図面(記載された説明全体の一部とみなされる図面)に関連して読まれることを意図している。本願明細書で開示される本開示の態様に関する説明において、方向または向きに関する言及は、単に説明の便宜上であり、本開示の範囲を限定することは意図されていない。「下方」、「上方」、「水平」、「垂直」、「上」、「下」、「頂」、「底」等の相対的な用語、ならびに、その派生用語、「水平に」、「下方に」、「上方に」等は、記載された如くまたは図示される如くの方向に言及すると解されるべきである。かかる相対的な用語は説明の便宜のためのみであり、特に明示的な説明がされない限り、特定の方向に装置が構成または操作されていることを要するものではない。
【0019】
さらに、本開示の特徴または利益は、好ましい態様を参照することによって例示されている。このような態様は十分に詳細に説明されており、当業者が本開示を実施できるようになっている。また、他の態様も利用することができ、プロセスもしくは機械的な変更が本開示の範囲を逸脱せずに可能であることを理解されたい。したがって、本開示は、考えられる特徴の非制限的な組合せを例示する好ましい態様(単独または他の特徴と組み合わされた態様)に明示的に限定されない。
【0020】
本明細書でいう「断面視」とは、衣料用カップ部材の厚み方向に略平行な面で切り取った場合の形態に基づいている。また、本明細書で用いる「平面視」または「平面視形状」とは、かかる衣料用カップ部材の厚み方向に沿って対象物を上側または下側からみた場合の見取図に基づいている。
【0021】
また、本明細書でいう「垂直」および「直交」とは、必ずしも完全な「垂直」でなくてよく、それから僅かにずれた態様(例えば、完全な垂直から90°±10°の範囲、例えば90°±5°までの範囲)を含んでいる。
【0022】
また、本明細書でいう「平行」とは、必ずしも完全な「平行」でなくてよく、それから僅かにずれた態様(例えば、完全な平行から±10°の範囲、例えば±5°までの範囲)を含んでいる。
【0023】
図1は、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す平面図である。また、
図3は、
図1に示す衣料用カップ部材100の側面図である。また、
図2および
図7は本開示の別の実施形態に係る衣料用カップ部材を模式的に示す平面図である。図示されるように、衣料用カップ部材100は、湾曲部10と、湾曲部10の周縁に設けられる縁部20とを備える。湾曲部10は、周縁から中央にかけて凸状に膨出している。より具体的には、湾曲部10は、周縁から中央付近に位置する頂部Tにかけて丸みを帯びた凸状に形成されていてよい。すなわち、湾曲部10は、
図3に示す側面視において釣鐘形状を有する。かかる形状により、湾曲部10は、着用者のバストを立体的に被覆できる。
【0024】
湾曲部10は、局所的に互いに接合した複数の繊材11から成る立体網状構造を備える。具体的には、湾曲部10は、複雑に配された複数の繊材11によって形成される立体的な空隙12を備える。つまり、湾曲部10は、中実構造ではなく、局所的接合を含む複数の繊材11に起因して立体配置的および/または形態的にランダムな空隙12(すなわち、立体網状ループ)を多く備える構造を有する。
【0025】
本明細書における「立体網状構造」とは、複数の繊材11がランダムな方向に湾曲して配され、互いに局所的に接合することで、全体として三次元的に網状を成している構造を意味する。
図4は、
図2に示す湾曲部のA部分を拡大した模式的拡大図である。図示されるように、ランダムに配向する複数の繊材11が互いに局所的な接合を成しており、それゆえ立体網状構造にて繊材接合部がもたらされている。すなわち、湾曲部10を構成する複数の繊材11は、規則的な交絡を必要とせず、非規則的に配向した状態で互いに局所的に接合していてよい。このような複数の繊材11の局所的な接合に起因して、空隙12が立体配置的かつ形態的にランダムな状態で設けられている。つまり、立体網状構造は、複数の繊材11によって画定される複数の空隙12がランダムに立体配置される中空構造と解することもできる。かかる構造を備えることにより、本開示の衣料用カップ部材はより好適な通気性を有し得る。
【0026】
このような立体網状構造を備える衣料用カップ部材は、より優れた通気性を有することで、カップ部材に汗などの水分が付着した際における速乾性により優れ、着用時の蒸れによる不快感を減ずるだけではなく、臭気の滞留の抑制、細菌類またはカビ等の真菌類の増殖抑制などにも効果を奏し得る。
【0027】
本明細書における「繊材」とは、全体が細長い形状を有するものの、布繊維よりも一般に太く、かつ、立体網状構造を成す湾曲部10においてランダムに曲がりくねった形態を有する細長部材を意味する。したがって、本発明における衣料用カップ部材の湾曲部10は、一般的な衣服等の繊維品とは本質的に異なり、それゆえ織布、編物、不織布、フェルトなどの繊維物とは差別化され得る。
【0028】
さらには、本明細書における「局所的な接合」とは、繊材11の全体が接合された形態にあるのではなく、繊材11同士が互いに立体的に交差する箇所および/または互いに接触する箇所にて“点接続”および/または局所的に“線接続”するように引っ付いた状態を実質的に意味している。好ましくは、複数の繊材11が互いに異なる方向に向いた状態で“点接続”するように接合した状態である。
【0029】
このような局所的な接合により、複数の繊材11は、湾曲部10において立体網状構造を好適に保持可能となる。すなわち、局所的な接合は、複数の繊材11の立体配置を好適に保持し、湾曲部10の中空構造を好適に維持することに寄与している。かかる構造により、衣料用カップ部材の通気性がより好適に保たれ得る。
【0030】
本明細書における「複数の繊材」とは、例えば、任意の厚みを有する湾曲部の縦寸法50mm×横寸法50mmの片を想定した場合、その中に20~500本程度(例えば、30~250本、好ましくは50~350本)の繊材が存在することを意味している。
【0031】
繊材11の繊度は、150dtex以上、好ましくは300dtex以上、より好ましくは500dtex以上であり、また、10000dtex以下、好ましくは8000dtex以下、より好ましくは5000dtex以下である。例示すると、繊度は150dtex以上10000dtex以下であることができ、好ましくは300dtex以上8000dtex以下、より好ましくは500dtex以上5000dtex以下である。本開示の衣料用カップ部材において、繊度が上述範囲内であると、湾曲部はより好適な保形性を呈し得る。つまり、本開示によれば、湾曲部にて、上述の範囲内の繊度を有する繊材11による立体網状構造を備えることにより、保形性に優れた衣料用カップ部材が供され得る。
【0032】
繊度は、例えば以下の方法によって測定することができる:
衣料用カップ部材の湾曲部を50mm×50mmのサイズに切断してサンプルを作製し、任意の10箇所から繊材を採集する。密度勾配管を用いて、温度40℃における採集した各繊材の比重を測定する。更に、上記採集した各繊材の断面積を、30倍に拡大した顕微鏡写真より求めて、それより繊材の長さ10000m分の体積を求める。得られた比重と体積を乗じた値を繊度(繊材10000m分の重量)とする(n=10の平均値)。
【0033】
繊材11の断面の構造および形状は特に限定されない。例えば、湾曲部10にて、繊材11自体は中実構造または中空構造(好ましくは、繊材軸に沿って繊材内部が中空である構造)を有していてよく、円形および/もしくは異形の断面を有していてよい。また、2種以上の樹脂から繊材11が構成されていてもよい。かかる場合、繊材11の断面構造は、芯鞘構造、偏心芯鞘構造、サイドバイサイド構造、分割構造および/または海島構造等であってもよい。
【0034】
湾曲部における繊材11は、一般的な布繊維品の繊維よりも太い。つまり、湾曲部における繊材11の線径(断面径)は、好ましくは0.05mm~3.0mm程度であり、より好ましくは0.1mm~1.5mm程度である。繊度が上記範囲内であると、一般的な繊維品(線径・断面径:約0.03mm)よりも太い繊維となり、より好適な強度が供され得る。なお、上記の「湾曲部における繊材の線径・断面径」は、シンワ測定製のデジタルノギスを用いて、繊材11の長手方向に対して直角になるように線径測定してよい。繊維同士が融着している部分(局所的な接合部)は避け、任意に10箇所測定し、その相加平均値を算出することで、繊材11の線径・断面径を測定できる。
【0035】
立体網状構造を有する湾曲部の見かけ密度は、例えば0.01g/cm3以上0.50g/cm3以下であることができ、好ましくは0.03g/cm3以上0.20g/cm3以下である。見かけ密度が上述の範囲内であると、湾曲部はより好適な通気性を呈することができる。
【0036】
見かけ密度は、例えば以下の方法によって測定することができる:
衣料用カップ部材の湾曲部を50mm×50mmのサイズに切断してサンプルを作製し、無荷重で24時間放置する。その後、直径20mmの円柱状部材によって当該サンプルに1g/cm2の圧力を付与し、その時の高さを厚みとして測定する。測定した厚みから体積を求め、サンプルの重さを堆積で除した値を見かけ密度としてよい。また、サンプルの重さを上記サイズの面積で除することで、目付を求めることができる。測定値は、同様の測定を3回実施した結果の相加平均値であってよい。
【0037】
湾曲部の見かけ密度は、湾曲部10全体にわたって一様であってよく、または湾曲部10における所定領域にて互いに異なる見かけ密度を有していてもよい。換言すれば、湾曲部は、所定領域ごとに異なる見かけ密度の立体網状構造を備えていてよい。このように、所定領域で異なる見かけ密度とすることで、任意の領域における保形性をより向上させることが可能となり得る。例えば、湾曲部は、着用時にて下側に位置する領域にて、他領域より相対的に高い見かけ密度を有していてよい。つまり、湾曲部は、カップのバージスラインに近位する領域にて、より高い見かけ密度を有していてよい。かかる構造によれば、カップ下側の保形性がより向上し、着用時におけるバストの支持性をより高めることが可能となり得る。
【0038】
また、例えば、湾曲部10の中央領域13と、縁部20に近接する周縁領域14とで互いに異なる見かけ密度を有していてよい。例えば、中央領域13における見かけ密度は、周縁領域14における見かけ密度よりも小さくてよい。代替的には、中央領域13における見かけ密度は、周縁領域14における見かけ密度よりも大きくてもよい。ここで、「湾曲部の周縁領域」とは、湾曲部の外周縁から湾曲部の中心P側に延びる、外周縁に近接した領域を指す。より具体的には、「湾曲部の周縁領域」とは、平面視における湾曲部の全領域のうち、縁部20と湾曲部10との境界から中心Pに向かって延在する0~40%の領域、例えば、0%(0%を含まず)~40%の領域を指す。なお、上述の範囲は、カップ部材の形状および/またはサイズ等によって適宜変更され得ることに留意されたい。また、「湾曲部の中央領域」とは、平面視における湾曲部10の全領域のうち、周縁領域14を除く領域13を指す。すなわち、「湾曲部の中央領域」とは、湾曲部10において、周縁領域14に囲まれた領域13を意味する。なお、「湾曲部の中心」とは、平面視における湾曲部の幾何中心を意味する。
【0039】
一実施形態において、湾曲部10の中心P(
図2参照)から縁部20側の周縁領域14にかけて、漸次的に見かけ密度が高くなるように、複数の繊材11が配されていてよい。このように、湾曲部10が中央領域13と周縁領域14とで互いに異なる見かけ密度を有することで、中央領域13にてより好適な通気性を呈しつつ、周縁領域14における保形性がより向上され得る。
【0040】
複数の繊材11は、主として湾曲部10の湾曲面15の面内方向に沿ってランダム配向していてよい。ここで、本明細書における「湾曲部の湾曲面」とは、湾曲部10の最外主面を構成する仮想面を示している(
図6Aおよび
図6B参照)。つまり、「湾曲部の湾曲面」は、湾曲部10を巨視的に見た際の最外主面の仮想面に相当する。また、「湾曲面の面内方向」とは、湾曲面15の延在方向(例えば、湾曲面15の幅方向および長さ方向)に沿って延びる方向である。他方、後述する「湾曲面の面外方向」とは、当該面内方向と互いに交差する方向であり、例えば湾曲面15の厚み方向に沿って延びる方向を意味する。
【0041】
複数の繊材11は、主としてかかる湾曲面15と略平行な方向にて不規則に配向していてよい。これは、複数の繊材11が、ランダムに曲がりくねりながら、巨視的に見て湾曲部10の面内方向に延在していることを意味する。複数の繊材11は長尺であり、微視的には面内方向および/または面外方向にてうねりまたは蛇行する部分を有しながら、巨視的には面内方向に沿ってランダムに配向していてよい。上述の構造によれば、複数の繊材11が主として面内方向に延在することで湾曲部10の保形性が向上され得る。また、微視的には面外方向への蛇行をも包含することで、複数の繊材11が立体的な網状構造をもたらし、湾曲部10内にて多数の空隙12が画定されるため、より好適な通気性が実現され得る。
【0042】
さらに、湾曲面において、複数の繊材11は、主として湾曲面15の面内方向にて配向していてよい。より具体的には、湾曲部10の外側湾曲表面および内側湾曲表面(すなわち、肌側の湾曲面)において、複数の繊材11は、主として各々の湾曲面15の面内方向に沿うように配されていてよい。つまり、湾曲面15において、複数の繊材11は、巨視的に面内方向に沿って、無秩序に蛇行しながら配されていてよい。このような構造によれば、繊材11の先端は、湾曲面15から面外方向に向かって飛び出すように露出することなく、巨視的に平滑な湾曲面15が供され得る。ここで、「巨視的に平滑」とは、繊材11の先端などの鋭利な部位が湾曲面15に露出していない形状を意味し、微視的な凹凸などは許容される。すなわち、本開示は、衣料用カップ部材の外側に向かって飛び出した繊材11の先端によって着用者の肌を傷つける可能性をより好適に低減可能であり、また、露出した繊材11の先端に起因するちくちく感(肌への刺激)等の着用時の不快感をもより好適に低減可能な衣料用カップ部材を供し得る。
【0043】
図6Aは、
図2に示す衣料用カップ部材のC-C断面を示す模式的断面図である。また、
図6Bは、別態様における衣料用カップ部材のC-C断面を示す模式的断面図である。
図6Aおよび
図6Bに示されるように、好ましい実施形態において、衣料用カップ部材は、少なくとも、湾曲部10の周縁に設けられる縁部20が中実部分を備える。すなわち、本開示の衣料用カップ部材において、縁部20は、中実構造を備えることが好ましい。換言すれば、本開示の衣料用カップ部材には、湾曲部10の外周にて中実構造を備える縁部20が形成されていてよい。本明細書において「中実」なる語は、内部が詰まっていて実質的に空隙が存在しないことを意味し、“中空”の対義語として用いられる。本開示の衣料用カップ部材100は、湾曲部10にて立体網状構造に起因する中空(つまり、湾曲部10では、図示されるように複数の空隙12がランダムに配されている中空、すなわちランダム中空)構造を有する一方、縁部20にて中実構造を備えていてよい。このような中実構造を備える縁部20は、衣料用カップ部材100の縁の少なくとも一部に形成されていてよく、好ましくは全周に亘って形成されている。そのため、当該縁部20は、“衣料用カップ部材の外縁部”と称すこともできる。つまり、本開示の衣料用カップ部材は、外縁に中実部材を備えると解することもでき、縁部20を中実縁部、外縁中実部材、縁状中実部などと称すこともできる。このような中実構造により、本開示の衣料用カップ部材の湾曲部10を構成する複数の繊材11の、縁部20からのほつれおよび/または裂けの発生をより好適に抑止可能となる。
【0044】
つまり、本開示の衣料用カップ部材は、湾曲部10と縁部20とで互いに異なる構造を備え得る。具体的には、湾曲部10にて局所的接合が互いにもたらされた複数の繊材11による三次元的な立体網状構造を備える一方、縁部20では二次元的な中実構造を備えていてよい。かかる構造において、湾曲部10と縁部20とでは、材料の密度が互いに異なる。立体網状構造を有する湾曲部10と比較して、中実構造を有する縁部20では、材料がより高密度に存在する。このように、縁状中実部は、立体網状構造を有する湾曲部10と比較して、より高密度である。そのため、縁部20、ひいては縁部20によって縁取られる衣料用カップ部材がより好適に保形され得る。したがって、衣料用カップ部材の変形による型崩れおよび/または破損が発生することをより好適に抑止できる。したがって、本開示の衣料用カップ部材は、バストの大部分を被覆する湾曲部10にて、立体網状構造に起因するより好適な通気性を備え、さらに縁部20にて中実構造を備えることで、優れた保形性をも呈することができる。
【0045】
また、中実構造の縁部20を備えることで、縁部20にて繊材11の先端などの鋭利箇所が露出することなく、略平滑な中実エッジ21が供され得る。このため、繊材11の先端などが着用者の肌に接触することによる着用時の不快感がより好適に減じられ得る。
【0046】
図6Aに示すように、中実構造を備える縁部20は、立体網状構造を備える湾曲部10から延在するように形成されていてよい。すなわち、側面視にて、縁部20は、湾曲部10と共にカップ部材の膨出形状の一部を成すように、少なくとも一部が湾曲した形状を含んでいてよい。すなわち、湾曲部10のうち、中実構造を備える外周縁を縁部20として解することもできる。
【0047】
また、
図6Bに示すように、一実施形態において、縁部20は、板状構造を含んでいてよい。つまり、衣料用カップ部材は、外周の少なくとも一部に、板状構造を備える縁部20を備えていてよい。代替的には、衣料用カップ部材は、湾曲部10の周縁の全周に亘って、板状構造を備える縁部20を備えていてよい。本明細書における「板状構造」とは、平板状の実質的な二次元構造を意味し、幅の狭い帯状構造をも包含する。また、必ずしも厚みおよび/または幅が一様な平板でなくてよく、断面視にて厚み/または幅に偏りがある偏肉形状であってもよい。
【0048】
例えば、側面視にて、縁部20は、湾曲部10から延在する湾曲形状と、板状構造部分とを含んでいてよい。換言すれば、中実構造を備える縁部20は、板状構造を備える衣料用カップ部材の最外周部分から、カップの頂点に向かって膨出(湾曲)する湾曲部10の周縁領域14にまで及んでいてよい。かかる態様において、縁部20は、湾曲部10の一部を成すと解することもできる。つまり、湾曲部10の外周縁の少なくとも一部は、中実構造を備えていてよい。かかる構造によれば、保形性の点においてより優れた衣料用カップ部材が供され得、より好適に理想的なバスト形状を演出することが可能となり得る。さらに、縁部20にて上述のような構造を備えることで、特に縁部20近傍における保形性に優れたカップ部材を得ることができる。これにより着用者の身体へのフィット感がより向上し得、本開示のカップ部材は、着用者の動きに伴うカップ部材のずれの抑制の点においても効果を奏し得る。
【0049】
縁部20に位置する中実構造は、少なくとも部分的に繊材11の形状が確認される部分を有していてよい。中実構造は、複数の繊材11が互いに接着または溶着することで構成されていてよい。例えば、衣料用カップ部材は、互いに接着または溶着した繊材11によって構成された中実構造を含む縁部を備えていてよい。
【0050】
上述の構造において、縁部20には、繊材の輪郭形状を部分的に認めることのできる繊材残存部分が存在していてよい。かかる構造において、縁部20は、互いに接着または溶着した複数の繊材によって構成される巨視的な平面を備える中実構造を含むと解することができる。「巨視的な平面」とは、目視にて平面と認められる形状を意味しており、物理的に厳密な意味で平面の場合だけでなく、微小な凹凸が存在する場合や、全体的或いは部分的に微小な歪みがある場合を含むことを意味する。すなわち、縁部20における中実構造部分の表面は、必ずしも完全な平面でなくてよく、微小な凹凸が存在していてもよい。
【0051】
また、縁部20は、湾曲部10の外周縁にわたって一様でなくてよい。
図5は、
図2におけるB部分を拡大した模式的拡大図である。図示されるように、一実施形態において、縁部20の少なくとも一部には間隙22が設けられている。間隙22は、衣料用カップ部材100の厚み方向に貫通して形成されている。かかる間隙22は、縁部20の幅方向中央付近に位置付けられていてよく、または縁部20と湾曲部10との境界付近に位置付けられていてもよい。つまり、間隙22は、縁部20と湾曲部10とを跨ぐように形成されていてよい。
【0052】
また、縁部20は、間隙22を備えていてよい。例えば、縁部20は、複数の間隙22を備えていてもよい。複数の間隙22は、必ずしも同一形状である必要はなく、互いに異なる大きさおよび/または形状を有していてよい。また、
図7に示すように、間隙22は、縁部20の湾曲部10側に形成された欠けによって、空隙12と連続していてもよい。縁部20にて少なくとも1つの間隙22を備えることで、衣料用カップ部材100は、縁部20においても通気性を向上させることが可能となる。また、複数の間隙22は、その配置も特に限定されず、縁部20および/または縁部20と湾曲部10との境界付近における任意の位置に配されていてよいものの、衣料用カップ部材の全体としての保形性の向上を重視すると、縁部20の全体にわたって設けられていてもよい。
【0053】
上述のように、1つまたは複数の間隙22を備える態様において、間隙22は、縁部20の中実構造を跨るように形成されていてもよい。かかる構造において、縁部20は、間隙22を介して断続的に存在する複数の中実構造部分を備えていてもよい。例えば、縁部20は、複数の間隙22および複数の中実構造部分を備えていてよい。これにより、通気性と保形性とを好適に備える衣料用カップ部材が供され得る。
【0054】
例えば、衣料用カップ部材は、複数の間隙22を備える間隙領域と、中実構造部分を備える中実領域とを備える縁部20を備えていてよい。縁部20は、複数の間隙領域と複数の中実領域とを備えてよい。間隙領域と中実領域とは、カップの外周に沿って交互に配置されていてよい。かかる構造によれば、通気性の向上に寄与する間隙領域が、保形性の向上に寄与する複数の中実領域の間に断続的に配置されることで、縁部20の全体にわたる保形性の偏りをより低減することができる。そのため、このような構造によれば、間隙領域の存在に起因する優れた通気性を有し、且つカップ部材全体として良好な保形性を有する好適な衣料用カップ部材が供され得る。
【0055】
一実施形態において、湾曲部10から連続して延在する繊材11が間隙22の少なくとも一部を構成していてよい。つまり、縁部20には、中実構造部分に加え、繊材11が存在していてもよい。縁部20に存在する間隙22の輪郭の少なくとも一部は、湾曲部10から延在する繊材11によって画定されてよい。つまり、縁部20には、中実構造部分に加え、繊材11が存在していてもよい。かかる構造によれば、湾曲部10から縁部20にまで延びる繊材11の存在により、湾曲部10と縁部20とが一体的に構成される。つまり、湾曲部10と縁部20とが少なくとも部分的に連続した一体化物とすることができる。これにより、中実構造を備える縁部20による保形性向上の効果を、湾曲部10を含む衣料用カップ部材全体にわたってより好適に奏することが可能となる。
【0056】
縁部20における間隙22は、肉眼でも確認できる程度の大きさを有していてよい。例えば、平面視にて、間隙22の大きさは、0.1mm以上15mm以下、または0.5mm以上10mm以下であってよく、例えば1mm以上7mm以下であることができる。間隙22の大きさが上述の範囲内であると、通気性および保形性において好適な衣料用カップ部材が供され得る。上述の範囲は、カップ部材の形状および/またはサイズ等によって適宜変更され得ることに留意されたい。なお、平面視にて間隙22が円形状を有する場合、間隙22の大きさは間隙22の直径を意味する。平面視にて間隙22が楕円形状を有する場合、間隙22の大きさは、間隙22の長径を意味する。また、平面視において間隙22が不定形を有する場合、間隙22の大きさは、間隙22に外接する円の直径を意味する。
【0057】
カップ1枚あたりの間隙22の数は、カップのサイズおよび形状などによって変動し得るものの、例えば1個以上1000個以下、5個以上800個以下、または10個以上500個以下であることができる。ここで、カップ1枚とは、左右のいずれか一方のバストに適用するためのカップを指す。間隙22の数が多いほど通気性に優れるものの、保形性には劣り得る。そのため、通気性と保形性との両立を重視すると、間隙22の数は、1個以上300個以下であることが好ましい。
【0058】
特に限定されないものの、断面視にて、縁部の厚みT2は、例えば0.1mm以上5mm以下、0.3mm以上4mm以下、または0.5mm以上3mm以下であることができる(
図6Aおよび
図6B参照)。また、縁部の幅Wは、上述した本開示の衣料用カップ部材の構造が実現可能である限り、特に限定されない。例えば、平面視にて、縁部の幅Wは、1mm以上、1.5mm以上、または2mm以上であることができる(
図5および
図6Aおよび
図6B参照)。縁部の幅Wの上限については、特に限定されない。例えば、縁部を所望の寸法まで延在させ、カップ部材が着用者のバストのみではなく、バスト近傍の部分(例えば、胸部などの上半身上側部分、脇部など)をも覆うような形状としてもよい。代替的には、縁部によって左右一対のカップ部材を連結させた形状としてもよい。
【0059】
断面視にて、本開示の衣料用カップ部材の厚みは、必ずしも一様でなくてよい。例えば、断面視にて、湾曲部10と縁部20とは、互いに異なる厚みを有していてよい。なお、本明細書における湾曲部10の「厚み」とは、湾曲部10の外側湾曲表面と内側湾曲表面との間の距離を意味し、カップ部材に対して1g/cm2の圧力を付与したときの厚みを指す。湾曲部の厚みT1は、縁部の厚みT2と同等であるか、または縁部の厚みT2よりも大きい厚みを有していてよい。特に限定されないものの、断面視にて、湾曲部の厚みT1は、例えば縁部の厚みT2の100%以上、103%以上、または105%以上であることができる。
【0060】
また、断面視にて、湾曲部の厚みT1は、必ずしも一様でなくてよい。すなわち、湾曲部10は、所定領域において他の領域とは異なる厚みを有していてよい。例えば、湾曲部10の周縁領域14におけるカップ部材の厚みと、湾曲部10の中央領域13におけるカップ部材の厚みとは、互いに異なっていてよい。一実施形態において、湾曲部10の中央領域13におけるカップ部材の厚みは、周縁領域14における厚みより大きくてよく、または小さくてもよい。例えば、断面視にて、カップ部材の厚みは、湾曲部10の中央領域13から周縁領域14に向かって漸次的に減じられていてよい。代替的には、湾曲部10の厚みは、中央領域13から周縁領域14に向かって漸次的に増加していてもよい。
【0061】
上述してきたように、本開示の衣料用カップ部材は、湾曲部10にて複数の繊材11による立体網状構造を備えることで、より好適な通気性を備え得る。衣料用カップ部材の通気性は、当技術分野で公知な手段によって測定することができる。例えば、通気性試験機を用いて、繊維材料を通る空気量を単位面積、単位時間で表すことによって通気性を評価できる。通気性試験機としては、例えばフラジール型通気度試験機またはKES通気性試験機などが用いられてよい。本開示の衣料用カップ部材は高い通気性を有するため、測定範囲の上限が大きいKES通気性試験機(例えば、KES-F8-AP1、カトーテック株式会社製)を用いることがより好ましい。測定は、衣料用カップ部材の湾曲部10を構成する材料をシート状に成形し、全体を布帛で被覆した試験片を用いて、所定の通気速度(例えば、2cm/s)にて実施してよい。かかる測定を複数回(例えば5回)行い、その平均値を被測定部材の通過空気量とすることができる。カップ部材などの立体形状を成す材料の性質を試験するに際して、上記のように同じ材料のシート状部材を用いることは、当技術分野では常套の手段である。
【0062】
本開示の衣料用カップ部材は、従来カップ部材の材料として用いられているポリウレタンフォームおよび不織布よりも高い通気性を有し得る。例えば、本開示の衣料用カップ部材は、湾曲部において、ポリウレタンフォームの約5倍~約50倍の通過空気量(cm3/cm2・sec)、および不織布の約2倍~約30倍の通過空気量を呈し得る。
【0063】
本開示の衣料用カップ部材は、カップ部材の材料、厚み、および密度等を変更することによって、所望の硬さに変更され得る。特に、湾曲部10を構成する繊材11の材料の材質、繊度および湾曲部10における立体網状構造の見かけ密度を調整することで、所望の硬さのカップ部材を得ることができる。なお、本明細書でいう「カップ部材の硬さ」とは、カップ部材の湾曲部10の形状を保持する力(すなわち、保形性)を意味し、カップ部材の湾曲部10の頂点Tを上向きに設置し、湾曲部10を圧縮するように下向きに押圧した際の応力によって表すことができる。より具体的には、カップ部材の硬さは、頂点Tが上向きになるように(すなわち、
図3に示すように)設置したカップ部材において、頂点Tを直径20mmの円柱で押圧し、カップ部材の高さHを所定の比率まで圧縮した際の応力(N=3の相加平均値)によって表すことができる。
【0064】
本開示の衣料用カップ部材の硬さは、カップ部材の高さHが40%圧縮されるように押圧した際の応力として、例えば0.1N以上、0.7N以上、または1.0N以上であることができる。40%圧縮時の応力が上述の範囲であると、カップ部材は好適な保形性を呈し得る。一方で、衣料用カップ部材は、適度な柔らかさを有することにより、着用者の身体に対するフィット性、および/または着用者の動きへの追随性等の着用感の向上にも資することが可能となり得る。あくまでも例示に過ぎないが、衣料用カップ部材の硬さは、カップ部材の高さHが40%圧縮されるように押圧した際の応力として、例えば20N以下、10N以下、または5N以下であることができる。
【0065】
本開示の衣料用カップ部材は、従来カップ部材の材料として用いられているポリウレタンフォームおよび不織布と同等またはより好適な保形性を有し得る。したがって、本発明によれば、通気性および保形性の点でより好適な衣料用カップ部材が供され得る。
【0066】
本開示の衣料用カップ部材の材質は、上述した湾曲部10における立体網状構造を備える限り、特に限定されない。例えば、衣料用カップ部材の材質は、樹脂材であってよい。好適な態様において、湾曲部10および縁部20は、共に樹脂材で構成される。かかる樹脂材は熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、特に制限されるわけではないが、例えば、ポリオレフィン(例えばポリエチレンおよびポリプロピレンなど)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレートなど)、ポリアミド(例えばナイロン66など)、ポリ塩化ビニルならびにポリスチレンなどから成る群から選択される少なくとも1種である。なお、これらの樹脂を構成単位に含んだコポリマーまたはエラストマーであってもよく、更には、そのような樹脂材、コポリマーおよび/またはエラストマーなどが適宜ブレンドされたアロイ材であってもよい。例えば、樹脂成分がαオレフィン(特にポリプロピレン)の場合では、耐薬品性および/または耐熱性の点でより優れた衣料用カップ部材を得ることができる。また、湾曲部10および/または縁部20自体は、単独の種類の樹脂成分からなるものに限られず、2種以上の種類の樹脂成分からなるものであってもよい。
【0067】
また、衣料用カップ部材には種々の添加剤が含まれていてもよい。例えば、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、顔料、光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、発泡剤、着色剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤および可塑剤から成る群から選択される少なくとも1種の添加剤が含まれていてよい。更にいえば、衣料用カップ部材には、ガラスフィラー、カーボンフィラーのような無機または有機フィラーが含まれていてもよい。
【0068】
ある好適な態様において、湾曲部10と縁部20とは、同一材料から成る一体化物である。つまり、本開示の衣料用カップ部材は、湾曲部10と縁部20とが互いに連続した一体化物であってよい(
図5参照)。縁部20は、湾曲部10を構成する繊材11と同一の樹脂材料によって形成されており、立体網状構造をもたらす複数の繊材11と縁部20とは互いに連続して形成されていてよい。これは、湾曲部10と縁部20とが、複数の繊材11により、あるいは複数の繊材11を介して互いに一体化した構造を有していると解することもできる。かかる構造によれば、保形性の向上に寄与する縁部20が湾曲部10と一体的に構成されるため、通気性に優れる湾曲部10の保形性をより向上させることが可能となる。したがって、通気性と保形性とをより好適に両立可能な衣料用カップ部材が供され得る。
【0069】
本発明の衣料用カップ部材は、目的に応じて所望の形態を選択することができる。例えば、
図3に示す側面視にて、頂点Tの位置は必ずしもカップの中心P(
図1参照)に位置していなくてよい。また、カップの形状も、目的に応じて種々の形状を選択することができる。例えば、衣料用カップ部材は、フルカップタイプ、3/4カップタイプ、半カップタイプ等であることができる。衣料用カップ部材は、左右一対で形成されていてもよく、または左右が一体的に形成されていてもよい。
【0070】
上述したように、本開示の衣料用カップ部材は、カップ部材単体で好適な保形性を示し得る。しかしながら、本開示の衣料用カップ部材は、カップ部材の保形性のさらなる向上、肌触りなどの着用感の向上、装飾的な観点などから、カップ部材の一部または全体が別部材によって被覆されていてよい。あくまでも例示に過ぎないものの、衣料用カップ部材は、例えば、綿、絹などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、レーヨン、ポリアミド等の化学繊維、レース等の常用される他の被覆材料で、一部または全体が被覆されていてよい。例えば、衣料用カップ部材の上面および下面の少なくとも一方が、被覆材料によって覆われていてよい。あるいは、衣料用カップ部材の全体が、被覆材料によって覆われていてもよい。被覆材料は、少なくとも部分的に衣料用カップ部材と接着または貼着されていてよい。例えば、被覆材料は、特に限定されないものの、フレームラミネート加工などを含むラミネート加工および/または接着剤の使用などの公知の方法によって衣料用カップ部材と接着または貼着していてよい。
【0071】
[本開示の製造方法]
以下、本開示のより良い理解のために、本開示の一実施形態に係る衣料用カップ部材の製造方法について説明するものの、本開示の製造は当該方法に限定されない。また、以下の記載順序など経時的な事項は、あくまでも説明のための便宜上のものに過ぎず、必ずしもそれに拘束されない。
【0072】
本開示の衣料用カップ部材は、複数の繊材が互いに局所的に接合した立体網状繊材集合物を用いて製造され得る。立体網状繊材集合物は、ダイから溶融原料を紡糸状に押し出すことで得られる複数の繊材を液槽中に降下させ、当該液槽中にて複数の繊材を互いに局所的に接合させることで得ることができる。
【0073】
具体的には、ダイから溶融原料を紡糸状に押し出すことによって得られる複数の溶融繊材を液槽中へと自然降下させ、次いで、かかる複数の繊材から構成される立体網状繊材集合物を液槽から回収している。より詳細に例示すると、原料の融点以上の温度に加熱した二軸押出機に原料ペレット(例えば原料樹脂ペレット)を投入して原料ペレットを溶融させる。次いで、得られる溶融原料を二軸押出機からダイへと送り、紡糸を行う。特に、複数の孔を有するダイから連続的に下方向へと溶融原料を押し出すように吐出して紡糸を行う。紡糸により得られた複数の繊材は、液槽で受けられ冷却固化に付される。より具体的には、液槽で受けられた複数の溶融繊材は、液槽の槽液体中にて湾曲状態で互いに不規則・無秩序に絡まり合うように融着接合しつつ冷却固化し、それによって、意図する立体網状繊材集合体が得られることになる。
【0074】
上述のようにして得られた立体網状繊材集合物を成形することで、本開示の衣料用カップ部材を得ることができる。より具体的には、所望のカップ形状の金型を用いて、立体網状繊材集合体を任意の手段によって成型することで湾曲部を成形してよい。例えば、湾曲部は、熱プレス成型によって成形してよい。また、湾曲部の周縁の縁部においては、熱処理によって中実構造が形成されてよい。例えば、金型に狭窄することで圧力を付加した熱処理を実施し、その後、縁部の形状(すなわち、カップ部材の外輪郭)に沿って切断することで、本開示の衣料用カップ部材を得ることができる。
【0075】
また、上記製造方法において、酸化防止、難燃、着色、光安定化、耐ブロッキング、帯電防止、防カビ、芳香等の処理を任意の段階で行ってもよい。
【0076】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。本開示はこれに限定されず、本開示の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを、当業者は容易に理解されよう。
【0077】
例えば、縁部の中実構造は、完全な中実ではなく、製造工程に起因して不可避的または偶発的に形成される欠けや傷など、または中空繊材を用いることに起因する不可避的な空隙、隙間、孔などは許容されることに留意されたい。
【0078】
同様に、板状構造を備える縁部は、必ずしも一様ではなく、製造工程に起因して不可避的または偶発的に形成される凹凸、また測定箇所による若干の厚みおよび/または幅の変動、欠け23等は許容されることにも留意されたい。
【0079】
また例えば、本発明の衣料用カップ部材は、縁部に必ずしも間隙を備えていなくてよい。本発明の衣料用カップ部材は、縁部に間隙を備えていない態様であっても、好適な通気性を有することができる。
【0080】
尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示に過ぎず、限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【0081】
なお、本開示の衣料用カップ部材は、以下の好適な態様を包含している。
<1>湾曲部と、前記湾曲部の周縁に設けられる縁部とを備え、
前記湾曲部は、局所的に互いに接合した複数の繊材から成る立体網状構造を備える、衣料用カップ部材。
<2>少なくとも前記縁部が中実構造(例えば、外縁中実部材)を備える、<1>に記載の衣料用カップ部材。
<3>前記縁部が中実板状部分を含む、<1>または<2>に記載の衣料用カップ部材。
<4>前記縁部の少なくとも一部に間隙が設けられている、<1>~<3>のいずれかに記載の衣料用カップ部材。
<5>前記湾曲部と前記縁部とが互いに連続した一体化物である、<1>~<4>のいずれかに記載の衣料用カップ部材。
<6>前記湾曲部の湾曲面にて、前記複数の繊材が、主として前記湾曲面の面内方向に沿ってランダム配向している、<1>~<5>のいずれかに記載の衣料用カップ部材。
<7>前記複数の繊材の繊度が、150dtex以上10000dtex以下である、<1>~<6>のいずれかに記載の衣料用カップ部材。
<8>前記湾曲部の厚み寸法が、前記縁部の厚み寸法より大きい、<1>~<7>のいずれかに記載の衣料用カップ部材。
<9>前記湾曲部の中央領域における前記繊材の見かけ密度が、前記湾曲部の周縁領域における前記繊材の見かけ密度より小さい、<1>~<8>のいずれかに記載の衣料用カップ部材。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示の衣料用カップ部材は、カップ部材を備え得る様々な女性用衣類において好適に用いられ得る。例えば、本開示の衣料用カップ部材は、ブラジャー、ボディスーツ、ブラスリップ、カップ付キャミソール、ボディウェア等のファンデーション類、ハーフトップ、水着類、ヨガウェア等のスポーツ衣料、カップ付カットソー、カップ付ニット等のアウター類等、各種のカップ部材を有する衣料に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
100 衣料用カップ部材
10 湾曲部
11 繊材
12 空隙
13 中央領域
14 周縁領域
15 湾曲面
20 縁部
21 エッジ
22 間隙