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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083299
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】塩分除去工法及び塗装塗替え工法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/12 20060101AFI20240613BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240613BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B05D3/12 B
B05D7/24 303B
B05D7/24 301B
B05D7/14 P
B05D3/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207448
(22)【出願日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2022197032
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】水畑 穣
(72)【発明者】
【氏名】井口 進
(72)【発明者】
【氏名】前田 諭志
(72)【発明者】
【氏名】八木 孝介
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC57
4D075AE03
4D075BB04X
4D075BB04Z
4D075BB05Z
4D075BB60Z
4D075CA33
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA27
4D075DC05
4D075EA07
4D075EB16
4D075EB33
4D075EB38
4D075EC01
(57)【要約】
【課題】 従来工法とは異なる新たな塩分除去工法と、塩分除去後の鋼材表面に塗料を塗る塗装塗替え工法を提供する。
【解決手段】 本発明の塩分除去工法は、鋼材表面から塩分を除去する工法であって、鋼材表面をブラストする工程と、鋼材表面に亜硝酸イオンを含む脱塩シートを貼付する工程と、脱塩シートを養生する工程と、脱塩シートを鋼材表面から剥離する工程を含む工法である。本発明の塩分除去工法では、鋼材表面に亜硝酸イオンを含む脱塩シートを貼付する工程に代えて、鋼材表面に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布する工程と、鋼材表面に亜硝酸イオンを含まない脱塩シートを貼付する工程を行うようにしても良い。本発明の塗装塗替え工法は、鋼材表面の塗装を塗り替える工法であって、本発明の塩分除去工法で鋼材表面の塩分を除去する工程と、脱塩後の鋼材表面に塗料を塗る工程を含む工法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材表面から塩分を除去する塩分除去工法であって、
前記鋼材表面をブラストする工程と、
前記鋼材表面に亜硝酸イオンを含む脱塩シートを貼付する工程と、
前記脱塩シートを養生する工程と、
前記脱塩シートを鋼材表面から剥離する工程を含む、
ことを特徴とする塩分除去工法。
【請求項2】
請求項1記載の塩分除去工法において、
ブラストされた鋼材表面に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布する工程を含む、
ことを特徴とする塩分除去工法。
【請求項3】
請求項1記載の塩分除去工法において、
脱塩シートとして、層状複水酸化物を含む脱塩シートを用いる、
ことを特徴とする塩分除去工法。
【請求項4】
請求項1記載の塩分除去工法において、
脱塩シート剥離後の鋼材表面を再ブラストする工程を含む、
ことを特徴とする塩分除去工法。
【請求項5】
鋼材表面から塩分を除去する塩分除去工法であって、
前記鋼材表面をブラストする工程と、
前記鋼材表面に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布する工程と、
前記鋼材表面に亜硝酸イオンを含まない脱塩シートを貼付する工程と、
前記脱塩シートを養生する工程と、
前記脱塩シートを鋼材表面から剥離する工程を含む、
ことを特徴とする塩分除去工法。
【請求項6】
鋼材表面の塗装を塗り替える塗装塗替え工法において、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塩分除去工法で鋼材表面の塩分を除去する工程と、
脱塩後の鋼材表面に塗料を塗る工程を含む、
ことを特徴とする塗装塗替え工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材表面に付着した鋼材の腐食の原因となる塩化物イオンを含む塩分を除去する塩分除去工法と、塩分除去後の鋼材表面に塗料を塗る塗装塗替え工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼橋等で使用される鋼材は、自然界にある鉄鉱石を還元して製造されるため、元に戻ろうとする際に酸化(腐食)する。鋼材は、腐食すると本来保有している機能を満たさなくなることから、腐食を防止するため、塗装やメッキを鋼材表面に施して酸素や水分の供給を断つことによる防錆処理を行うのが一般的である。
【0003】
ところが、そのような防錆処理を施しても、塩分(たとえば、飛来塩分や凍結防止剤に含まれる塩分等)の多い環境下では塗装が劣化し腐食が発生し易い。
【0004】
塗装が劣化した鋼構造物は、再塗装することによって健全な状態へ戻すことができる。一般的に再塗装を行う際には鋼材表面をブラスト処理するため、ある程度塩分の除去が期待できる。しかし、塩分は孔食に深く潜り込んでいることもあり、機械的に取り出すのが難しいことも多い。
【0005】
塩分の影響を少なくするため、従来、陰イオン吸着剤(たとえば、亜硝酸イオン)やそれを含む複合水酸化物を含有する塗膜の下地材が開発されている(特許文献1)。近年では、塩害に強い塗装が販売されるほか、高圧水(ウォータージェット)を利用した塩分除去工法も試されている。ところが、橋梁の架設状況や排水の問題などから、十分な作業を行うことが難しい場合も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4343570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、従来の各種工法とは異なる新たな塩分除去工法と、塩分除去後の鋼材表面に塗料を塗る塗装塗替え工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[塩分除去工法]
本発明の塩分除去工法は、鋼材表面から塩分を除去する工法であって、鋼材表面をブラストする工程と、鋼材表面に亜硝酸イオンを含む脱塩シートを貼付する工程と、脱塩シートを養生する工程と、脱塩シートを鋼材表面から剥離する工程を含む工法である。
【0009】
前記塩分除去工法では、ブラストされた鋼材表面に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布する工程を含むこともできる。前記塩分除去工法では、脱塩シートとして層状複水酸化物を含む脱塩シートを用いることができる。前記塩分除去工法では、脱塩シート剥離後の鋼材表面を再ブラストする工程を含むこともできる。
【0010】
[塗装塗替え工法]
本発明の塗装塗替え工法は、鋼材表面の塗装を塗り替える工法であって、本発明の塩分除去工法で鋼材表面の塩分を除去する工程と、脱塩後の鋼材表面に塗料を塗る工程を含む工法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡易な方法により高い脱塩効果や防錆効果が得られるため、従来工法に比べて生産性の向上や塗装の耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の塩分除去工法の一例を示すフローチャート。
図2】(a)~(c)は本発明の塩分除去工法による塩分除去の原理説明図。
図3】(a)は試験施工で用いた、実橋梁から撤去したガセットプレートを示すもの、(b)は(a)のガセットプレートから切り出した試験体を示すもの。
図4】試験体の塩分計測位置の説明図。
図5】(a)は一次ブラスト後の試験体を示すもの、(b)は脱塩シートを貼付した状態の試験体を示すもの、(c)は第一の脱塩シートを剥離した部分を示すもの、(d)は第二の脱塩シートを剥離した部分を示すもの、(e)は仕上げブラスト後の試験体を示すもの。
図6】(a)は電気伝導率法を用いた場合の表面塩分量の比較を表すグラフ、(b)は塩素イオン検知管法を用いた場合の表面塩分量の比較を表すグラフ。
図7】試験施工日から10日後の試験体の写真。
図8】ガセットプレートから切り出してブラストした試験体を示すもの。
図9】脱塩シートを貼付した状態の試験体を示すもの。
図10】脱塩シートを剥離した部分を示すもの
図11】仕上げブラスト後の試験体を示すもの。
図12】試験施工日から30日後の試験体の写真。
図13】(a)(b)はガセットプレートから切り出してブラストした試験体を示すもの。
図14】(a)(b)は試験体の塩分計測位置の説明図。
図15】(a)は一次ブラスト後の試験体の領域a1を高圧洗浄した際の写真、(b)は領域a2に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布したのち、不織布を設けた脱塩シートを貼付した状態を示すもの。
図16】(a)は水洗いした領域a1を示すもの、(b)は脱塩シートを剥離した後の領域a2を示すもの。
図17】(a)は仕上げブラスト後の領域a1を示すもの、(b)は仕上げブラスト後の領域a2を示すもの。
図18】(a)は電気伝導率法を用いた場合の表面塩分量の比較を表すグラフ、(b)は塩素イオン検知管法を用いた場合の表面塩分量の比較を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
本発明の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。一例として図1に示す塩分除去工法は、ブラスト工程S001と、溶液塗布工程S002と、脱塩シート貼付工程S003と、養生工程S004と、脱塩シート剥離工程S005、仕上げブラスト工程S006を含む方法である。
【0014】
前記ブラスト工程S001は、鋼材表面をブラスト(説明の便宜上、以下では「一次ブラスト」という)する工程である。この工程では、一次ブラストによって劣化した塗装および鋼材表面に生じた錆の除去を行う。一次ブラストの方法に特に限定はなく、動力工具を用いる方法などによることができる。また、一次ブラストは一回で行うことも複数回に分けて行うこともできる。
【0015】
前記溶液塗布工程S002は、鋼材表面に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布する工程である。この工程では、一次ブラストされた鋼材表面に、亜硝酸イオンを含む溶液を塗布する。この工程は、一次ブラスト後、ターニングが発生する前(目安としては一次ブラスト後4時間以内。以下同じ。)に行うのが好ましい。
【0016】
亜硝酸イオンを含む溶液としては、アルカリ金属イオンを含む塩、たとえば、亜硝酸リチウム(LiNO2)や亜硝酸ナトリウム(NaNO2)水溶液等を用いることができる。溶液は、スポンジローラや刷毛、霧吹き等を用いて塗布することができる。溶液の塗布量は液だれしない程度の分量とするのが好ましい。
【0017】
図2(a)に示すように、亜硝酸イオンを含む溶液を塗布することで、溶液が鋼材表面の孔食に入り込み、孔食内に深く潜り込んだ塩分にまで、拡散による作用や亜硝酸イオンのイオン交換作用を及ぼすことができる。
【0018】
なお、溶液塗布工程S002は必須の工程ではなく、イオンを含まない純水で代替したり、不要な場合には省略することもできる。
【0019】
前記脱塩シート貼付工程S003は、鋼材表面に亜硝酸イオンを含む脱塩シートを貼付する工程である。この工程では、溶液が塗布された鋼材表面に亜硝酸イオンを含む脱塩シートを貼付する。
【0020】
脱塩シートを可能な限り隙間なく鋼材に密着させるため、貼付時には、ローラ等を用いて脱塩シートを鋼材に押圧する(圧着する)のが好ましい。溶液塗布工程S002と同様、この工程も、一次ブラスト後、ターニングが発生する前に行うのが好ましい。
【0021】
貼付する脱塩シートとしては、たとえば、ポリアクリル酸ナトリウムを主剤としたゲルシート(塩化物吸収剤)の表面(鋼材に対向する面)に不織布を設けたもの(図2(b)(c)参照)を用いることができる。この実施形態では、脱塩シートとして、ゲル部分に亜硝酸イオンが含まれたものを用いている。
【0022】
なお、ここでいう「ゲル」とは、一般にコロイド粒子が独立した運動性を失い、集合して固化した状態のもの、或いは、ゾル(コロイド溶液)がジェリー状に固化したもの程度の意味である。
【0023】
このほか、脱塩シートには、ポリアクリル酸ナトリウムを主剤とし、層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)を含むゲルシートの表面に不織布を設けたもの等を用いることもできる(図2(b)(c)参照)。
【0024】
一般的なLDHは、式[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+[An- x/n・yH2O]x-(式中、M2+は二価金属カチオンを示し、M3+は三価金属カチオンを示し、An-はn価アニオンを示す。)で表される、アニオン交換能を有する層状無機化合物である。
【0025】
水酸化物の二価金属カチオン(M2+)の一部が不定比で三価金属カチオン(M3+)に置換された構造をとっているので、正電荷を帯びている。そのため、電荷補償のために自身の層間に交換可能なアニオン(An-)を取り込み、保持することができる。
【0026】
この実施形態では、ゲルシートの表面に不織布を設けたものを用いているが、不織布を設けた趣旨は、脱塩シートの剥離時にゲル等が鋼材に残存するのを極力抑えることにある。不織布は、製造時には設けず、現場においてゲルシートに取り付けるようにすることもできる。この場合、脱塩シートの製造が容易になる。不織布は必要に応じて設ければよく、不要な場合には省略することもできる。
【0027】
この実施形態で示した脱塩シートは一例であり、脱塩シートにはこれら以外のものを用いることができる。
【0028】
なお、本願において、「亜硝酸イオンを含む脱塩シート」には、製造時には亜硝酸イオンを含ませず、後から現場などで亜硝酸イオンを含む溶液を含浸させたもの(貼付するタイミングで亜硝酸イオンを含んでいるもの)も含まれる。
【0029】
前記養生工程S004は、鋼材に貼付した脱塩シートを養生する工程である。この工程では、鋼材表面に貼付した脱塩シートの周縁(複数枚の脱塩シートを並べて貼付する場合にはその継ぎ目部分や貼り合わせ部分を含む。以下同じ。)にアルミテープを貼付し、溶液や脱塩シートに含まれる水分が蒸発しない状態で所定時間養生して、溶液や脱塩シートに含まれる亜硝酸イオンを拡散させる。所定時間とは、亜硝酸イオンの拡散に必要な時間を意味する。
【0030】
なお、ここでいう「拡散」とは、異種の粒子の混合系において、温度が一様に保たれていても、濃度の分布が存在するときに粒子が移動して濃度分布が一様になる変化(現象)、あるいは、異種の粒子の混合系が、熱平衡状態に近づく際に起こる濃度分布の変化の過程程度の意味である。
【0031】
前記脱塩シート剥離工程S005は、脱塩シートを鋼材表面から剥離する工程である。脱塩シートの剥離は手作業で行うことができる。脱塩シートの不織布の周縁からはみ出したゲルなどが残留した場合、手作業で取るほか、後工程の仕上げブラストによって除去することができる。
【0032】
脱塩シートを剥離するタイミングは、脱塩シートを鋼材に貼付した後、所定の養生時間を経過した後であればいつでもよい。脱塩シートの貼付と同日に行うことも、後日(たとえば、翌日)行うこともできる。
【0033】
前記仕上げブラスト工程S006は、脱塩処理後の鋼材表面をブラストする工程である。この工程では、脱塩シート剥離後の残留物等を除去すると共に、後工程の塗料塗布工程に適した状態まで、鋼材の素地を調整する。
【0034】
仕上げブラストの方法に特に限定はなく、動力工具を用いる方法などによることができる。
【0035】
次に、本発明の塗装塗替え工法の一例について説明する。本発明の塗装塗替え工法は、鋼材表面の塗装を塗り替える工法であって、本発明の塩分除去工法で鋼材表面の塩分を除去する工程と、脱塩後の鋼材表面に塗料を塗る工程を含む工法である。
【0036】
一例として図1に示す塗装塗替え工法は、前記塩分除去工法によって塩分が除去された鋼材表面に塗料を塗る塗料塗布工程S007を含む工法である。この工程は、仕上げブラスト後、ターニングが発生する前に行うのが好ましい。
【0037】
この工程では、たとえば、防錆材料(防食下地材)による下塗り、エポキシ樹脂等による中塗り、フッ素系樹脂やポリウレタン系樹脂等による上塗りを行う。どのような塗料をどのような順番で塗布するかは、現場ごとに適宜決定することができる。
【0038】
なお、塩分除去に必要な工程(前記実施形態では、溶液塗布工程S002、脱塩シート貼付工程S003、養生工程S004及び脱塩シート剥離工程S005)は鋼材全体に対して行うこともできるが、基本的には腐食部分にのみ行えばよく、非腐食部分(塗膜残存部分)には行わなくてもよい。
【0039】
前記実施形態の工程は一例であり、本発明の塩分除去工法及び塗装塗替え工法の工程は、本実施形態の構成に限定されるものではない。本発明の塩分除去工法及び塗装塗替え工法は、所期の目的を達成できる範囲で、適宜工程の追加、省略、入れ替え等の変更を加えることができる。一例としては、次のような変形例が挙げられる。
【0040】
<変形例1>
前記実施形態では、亜硝酸イオンを含む脱塩シートを用いる場合を一例としているが、本発明の塩分除去工法及び塗装塗替え工法では、亜硝酸イオンを含まない脱塩シートを用いることもできる。
【0041】
具体的には、ブラスト工程S001でブラストされた鋼材表面に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布(溶液塗布工程S002)し、その上に亜硝酸イオンを含まない脱塩シートを貼付する。貼付後は、前記実施形態と同様の方法で、養生工程S004及び脱塩シート剥離工程S005を行う。
【0042】
<変形例2>
前記実施形態では、脱塩シート剥離工程S005の後に、仕上げブラスト工程S006を行う場合を一例としているが、仕上げブラスト工程S006により塩分の再付着が懸念されるような場合には、仕上げブラストを実施する際に脱塩シートを貼付したままにし、脱塩シートを貼付した部分については、仕上げブラストを行わないようにしても良い。この場合、脱塩シートを貼付した部分については、仕上げブラストすることなく、塗料を塗布すればよい。
【0043】
この他、仕上げブラスト工程S006により塩分の再付着が懸念されるような場合には、仕上げブラスト工程S006を先に行い、その後脱塩シート貼付工程S003、養生工程S004及び脱塩シート剥離工程S005を行うようにしても良い。この場合、脱塩シート剥離工程S005の後に仕上げブラストする必要なく、そのまま塗料を塗布すればよい。
【0044】
<試験施工1>
本件出願人は、本発明の効果を実証するため、激しい腐食のため取替となった実橋梁の撤去部材を用いて試験施工(以下「試験施工1」という)を行った。試験施工1は製造段階で亜硝酸イオンを含ませた脱塩シートを用いた試験である。試験施工1の概要は次のとおりである。
【0045】
[試験体]
試験施工1では、実橋梁から撤去したガセットプレートの一部を切り出して試験体とした。ガセットプレートの写真を図3(a)に、切り出したガセットプレートの一部(試験体)の写真を図3(b)に示す。
【0046】
図3(b)に示すように、試験施工1では、腐食量が同程度の部分を三つの領域a1~a3に分け、図4に示すように、試験体の領域a1の二か所、領域a2及びa3のそれぞれの二か所を、塩分計測位置として設定した。実線の丸枠は一次ブラスト後の計測位置、点線の丸枠は脱塩シート剥離後の計測位置、破線の丸枠は仕上げブラスト後の計測位置を意味する。
【0047】
試験施工1では、領域a1を脱塩処理なしの領域、領域a2を第一の脱塩シート(図6(a)(b)のグラフでは「脱塩シート3」と表記)による脱塩処理を行う領域、領域a3を第一の脱塩シート(図6(a)(b)のグラフでは「脱塩シート6」と表記)とは種類の異なる第二の脱塩シートによる脱塩処理を行う領域とした。
【0048】
[脱塩シート]
試験施工1では、領域a2に貼付する脱塩シートとして亜硝酸イオンを含むゲルシートの表面に不織布を設けたものを、領域a3に貼付する脱塩シートとして、亜硝酸イオンおよび層状複水酸化物を含むゲルシートの表面に不織布を設けたものを用いた。
【0049】
試験施工1に用いたゲルシートは、特開2021-066938に記載の製法によった。その組成は、ゲル100g中、ポリアクリル酸ナトリウム3g、グリセリン10g、水酸化アルミニウム0.15g、ニッケル・アルミニウム系層状複水酸化物0.625g、酸化アルミニウム0.375g、亜硝酸リチウム1.855gの他、水分83.845gであった。このゲルを使用する前に水分を50℃真空下で加熱乾燥し、絶乾状態としたものを用いた。また、層状複水酸化物を含まない以外は同一組成のゲルシートも用いた。なお、ゲルシートの組成はこれ以外であってもよく、例えば、亜硝酸リチウムを含まない物であっても良い。
【0050】
[試験施工1の手順]
試験施工1は次の(1)~(6)の手順で行った。
(1)用意した試験体を一次ブラストした(図5(a)参照)。一次ブラストはサンドブラスタを用いて行った。研削材には白色溶融アルミナ(粒度#24)を用いた。
(2)一次ブラスト後の試験体に亜硝酸イオンを含む溶液を塗布した。亜硝酸イオンを含む溶液として、1mol/L(69g/L)の亜硝酸リチウム(LiNO2)水溶液を用いた。
(3)溶液を塗布した後、試験体の領域a2に第一の脱塩シートを、領域a3に第二の脱塩シートを貼付した(図5(b)参照)。
(4)脱塩シートを貼付した後、各脱塩シートの周縁にアルミテープを貼付し、溶液や脱塩シートに含まれる水分が蒸発しない状態で養生した。
(5)所定時間経過後、貼付した脱塩シートを剥離した(図5(c)(d)参照)。
(6)脱塩シートを剥離した後、試験体に仕上げブラストを行った(図5(e)参照)。仕上げブラストは、前記(1)と同様に行った。
【0051】
[計測及び評価方法]
各領域a1~a3の塩分計測位置の表面塩分を計測することにより、試験施工1の脱塩効果を確認した。表面塩分の計測は、一次ブラスト後、脱塩シートの剥離後(脱塩処理なしの領域a1を除く)、仕上げブラスト後の各段階で行った。
【0052】
なお、脱塩シートの施工箇所では、イオン交換作用により亜硝酸イオンが母材側に残留し、これが電気伝導率に影響を与えることが予想されたため、表面塩分計による計測は参考値とし、計測後に測定セル内に残った溶液と塩素イオン検知管を用いて別途塩分計測を行った。検知管で計測した値[ppm]は、次式1により表面塩分量[mg/m]に変換し評価を行った。
[式1]
【0053】
[計測結果]
電気伝導率法で計測した場合の表面塩分量を比較したグラフを図6(a)に、塩素イオン検知管法で計測した場合の表面塩分量を比較したグラフを図6(b)に示す。
【0054】
試験施工1の後、試験体を室内暴露し、経過観察を行った。図7に、試験施工日から10日後の試験体の写真を示す。
【0055】
[考察]
試験施工1により、次のことが確認できた。
(1)脱塩シートの種類による計測結果の有意な差はみられなかった。
(2)一次ブラスト後の塩分量は部位ごとのばらつきが小さく、電気伝導率法で80~100mg/m程度、塩素イオン検知管法で20mg/m程度であった。
(3)脱塩シート施工部位における剥離後の電気伝導率法による計測では、計測機器の上限を超える値が計測されたが、これは脱塩シートに含まれる亜硝酸イオンの影響である。
(4)同部位の塩素イオン検知管法による計測では、塩分量は非常に小さい。
(5)脱塩シート施工部位における仕上げブラスト後の計測では、電気伝導率法で230~290mg/m程度、塩素イオン検知管法では塩分が検出されなかった。
(6)脱塩シートを施工していない部位における仕上げブラスト後の計測では、電気伝導率法で85mg/m、塩素イオン検知管法で11mg/mであった。
(7)脱塩シート施工部位における仕上げブラスト後の計測において、塩素イオン検知管法では塩分が検出されなかったにも関わらず、電気伝導率法では比較的大きい値が計測されたことから、仕上げブラスト後も亜硝酸イオンが残留していることがわかり、良好な防錆効果を示すと考えられる。
(8)図7に示すように、脱塩処理を行わなかった領域a1では、試験施工日から10日後にターニングによる錆(図7の領域a1の無数の微細な黒い点)が発生したのに対し、脱塩シートを貼付した領域a2及びa3では、試験施工日から10日後にターニングによる錆の発生がほとんど見られなかった。なお、写真の黄色の錆は、仕上げブラスト後の表面塩分計測の過程で発生したものであり、ターニングにより発生したものではない。
【0056】
以上より、脱塩シートを施工していない部位では、仕上げブラスト後もある程度塩分が残存しているが、脱塩シート施工部位では、電気伝導率法で脱塩シート施工前より高い値が計測された一方で、塩素イオン検知管法では塩分が計測されず、塩化物イオンが除去され亜硝酸イオンが残存しており、良好な防錆効果を示すと考えられる。
【0057】
<試験施工2>
本件出願人は、本発明の効果を実証するため、激しい腐食のため取替となった実橋梁の撤去部材を用いて試験施工(以下「試験施工2」という)を行った。試験施工2は製造段階では亜硝酸イオンを含ませず、後から亜硝酸イオンを含む溶液を含浸させた脱塩シートを用いた試験である。試験施工2の概要は次のとおりである。
【0058】
[試験体]
試験施工2では、実橋梁から撤去したガセットプレートの一部を切り出して試験体とした。切り出したガセットプレートの一部(試験体)のブラスト後の写真を図8に示す。
【0059】
図9に示すように、試験施工2では、領域a1を脱塩処理なしの領域、領域a2を脱塩シートによる脱塩処理を行う領域とした。
【0060】
[脱塩シート]
試験施工2では、領域a2に貼付する脱塩シートとして、亜硝酸イオンを含まないゲルシートに対し、貼付前に表面に不織布を設け、亜硝酸イオンを含む溶液を含浸させたものを用いた。
【0061】
試験施工2に用いたゲルシートの組成は、ゲル63.25g中、ポリアクリル酸ナトリウム6g、グリセリン20g、水酸化アルミニウム0.3g、マグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物2g、酒石酸0.3gの他、水分34.65gであった。
【0062】
[試験施工2の手順]
試験施工2は次の(1)~(4)の手順で行った。
(1)用意した試験体を一次ブラストした。一次ブラストはサンドブラスタを用いて行った。研削材には白色溶融アルミナ(粒度#24)を用いた。
(2)一次ブラスト後の試験体に、不織布を設け亜硝酸イオンを含む溶液を含浸させた脱塩シートを貼付した(図9参照)。亜硝酸イオンを含む溶液として、1mol/Lの亜硝酸ナトリウム(NaNO2)水溶液を用いた。
(3)所定時間経過後、貼付した脱塩シートを剥離した(図10参照)。
(4)脱塩シートを剥離した後、試験体に仕上げブラストを行った(図11参照)。
仕上げブラストは、前記(1)と同様に行った。
【0063】
試験施工2の後、試験体を室内暴露し、経過観察を行った。図12に、試験施工日から30日後の試験体の写真を示す。
【0064】
[考察]
試験施工2により、次のことが確認できた。
(1)脱塩シート組成および施工方法を一部変更したが、施工に問題はなかった。
(2)図12に示すように、脱塩処理を行わなかった領域a1では、試験施工日から30日後の時点でターニングによる錆(図12の領域a1の黒い箇所)が発生しているのに対し、脱塩シートを貼付した領域a2では、試験施工日から30日後にターニングによる錆の発生がほとんど見られなかった。
【0065】
<試験施工3>
本件出願人は、本発明の効果を実証するため、激しい腐食のため取替となった実橋梁の撤去部材を用いて試験施工(以下「試験施工3」という)を行った。試験施工3は亜硝酸イオンを含まない脱塩シートを用いた試験である。試験施工3の概要は次のとおりである。
【0066】
[試験体]
試験施工3では、実橋梁から撤去したガセットプレートの一部を切り出して試験体とした。切り出したガセットプレートの一部(試験体)のブラスト後の写真を図13(a)(b)に示す。
【0067】
図13(a)(b)に示すように、試験施工3では、領域a1を水洗いによる脱塩処理を行う領域、領域a2を脱塩シートによる脱塩処理を行う領域とした。
【0068】
図14(a)(b)に示すように、試験体の領域a1及び領域a2のそれぞれ二か所を塩分計測位置として設定した。実線の丸枠は一次ブラスト後の計測位置、破線の丸枠は仕上げブラスト後の計測位置を意味する。
【0069】
[脱塩シート]
試験施工3では、領域a2に貼付する脱塩シートとして、亜硝酸イオンを含まないゲルシートに対し、貼付前に表面に不織布を設けたものを用いた。
【0070】
試験施工3に用いたゲルシートの組成は、ゲル63.25g中、ポリアクリル酸ナトリウム6g、グリセリン20g、水酸化アルミニウム0.3g、マグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物2g、酒石酸0.3gの他、水分34.65gであった。
【0071】
[試験施工3の手順]
試験施工3は次の(1)~(4)の手順で行った。
(1)用意した試験体を一次ブラストした。一次ブラストはサンドブラスタを用いて行った。研削材には白色溶融アルミナ(粒度#24)を用いた。
(2)一次ブラスト後の試験体のうち、領域a1については、高圧水を用いた洗浄を行った(図15(a)参照)。領域a2については、亜硝酸イオンを含む溶液を塗布し、不織布を設けた脱塩シートを貼付した(図15(b)参照)。亜硝酸イオンを含む溶液として、0.1mol/Lの亜硝酸ナトリウム(NaNO2)水溶液を用いた。
(3)領域a2については、所定時間経過後、貼付した脱塩シートを剥離した。
(4)領域a1については、水洗いを行った後(図16(a)参照)、領域a2については脱塩シートを剥離した後(図16(b)参照)、試験体に仕上げブラストを行った(図17(a)(b)参照)。仕上げブラストは、前記(1)と同様に行った。
【0072】
[計測及び評価方法]
各領域a1~a2の塩分計測位置の表面塩分を計測することにより、試験施工3の脱塩効果を確認した。表面塩分の計測は、一次ブラスト後、仕上げブラスト後の各段階で行った。
【0073】
[計測結果]
電気伝導率法で計測した場合の表面塩分量を比較したグラフを図18(a)に、塩素イオン検知管法で計測した場合の表面塩分量を比較したグラフを図18(b)に示す。
【0074】
[考察]
試験施工3により、次のことが確認できた。
(1)脱塩シート組成および施工方法を一部変更したが、施工に問題はなかった。
(2)脱塩シートによる脱塩処理を行った領域a2について、電気伝導率法で346mg/m2程度、塩素イオン検知管法では塩分が検出されなかった。試験施工1と同様に、塩化物イオンが除去され亜硝酸イオンが残存しており、良好な防錆効果を示すと考えられる。
(3)水洗いにより脱塩処理を行った領域a1について、電気伝導率法では一次ブラスト後が72mg/m2に対し、仕上げブラスト後が84mg/m2であり、変化がみられなかった。
(4)水洗いにより脱塩処理を行った領域a1について、塩素イオン検知管法では一次ブラスト後が11mg/m2に対し、仕上げブラスト後が3mg/m2であり、ある程度の脱塩効果がみられたが、脱塩シートによる脱塩処理を行った場合ほどの脱塩効果は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の塩分除去工法及び塗装塗替え工法は、各種鋼構造物の脱塩及び塗装の塗替えに利用することができ、特に、既設橋梁の部材として使用されている鋼構造物の脱塩及び塗装の塗替えに好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18