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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008330
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】試験治具
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/16 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
G01N3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110113
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北條 浩
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆教
(72)【発明者】
【氏名】中垣 貴紀
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA17
2G061AB01
2G061CB01
2G061DA01
2G061DA16
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
(57)【要約】
【課題】一方向の荷重を加える引張試験機に取り付けて、少なくとも二方向の荷重を試験片へ重畳的に作用させれる試験治具を提供する。
【解決手段】本発明の試験治具(S)は、上下方向に相対移動する上取付体と下取付体を備える試験機に装着でき、上取付体に装着される上ベース(11)と、下取付体に装着される下ベース(12)と、上ベースと下ベースに連動して試験片(T)を押圧する加圧体(72)を前後方向に移動させるリンク機構(L2)とを備える。本発明の試験治具を用いると、例えば、単純な形状の試験片に引張応力と曲げ応力を重畳的に作用させ得る。このため、高圧容器の殻等に作用する複雑な応力状態を再現した材料強度試験でも、汎用的な引張試験機を用いて簡易に行える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に相対移動する上取付体と下取付体を備える試験機に装着される試験治具であって、
該上取付体に装着される上ベースと、
該下取付体に装着される下ベースと、
該上ベースと該下ベースに連動して試験片を前後方向に押圧するリンク機構と、
を備える試験治具。
【請求項2】
前記上ベースの左側に一端側が枢支された上左リンクと、
該上ベースの右側に一端側が枢支された上右リンクと、
前記下ベースの左側に一端側が枢支された下左リンクと、
該下ベースの右側に一端側が枢支された下右リンクと、
該上左リンクの他端側と該下左リンクの他端側に枢支される左ベースと、
該上右リンクの他端側と該下右リンクの他端側に枢支される右ベースとをさらに備え、
前記リンク機構は、
該左ベースに一端側が枢支された左リンクと、
該右ベースに一端側が枢支された右リンクと、
該左リンクの他端側と該右リンクの他端側に枢支される前ベースと、
該前ベースに連動して前記試験片を押動する加圧体とを備える請求項1に記載の試験治具。
【請求項3】
前記左リンクと前記右リンクは、平行クランク機構を構成している請求項2に記載の試験治具。
【請求項4】
前記試験片の左部を保持すると共に前記左ベースに連動する左チャックと、
該試験片の右部を保持すると共に前記右ベースに連動する右チャックと、
を備える請求項2に記載の試験装置。
【請求項5】
前記リンク機構は、
該上ベースに一端側が枢支された上リンクと、
該下ベースに一端側が枢支された下リンクと、
該上リンクの他端側と該下リンクの他端側に枢支される前ベースと、
該前ベースに連動して前記試験片を押動する加圧体とを備える請求項1に記載の試験治具。
【請求項6】
前記上リンクと前記下リンクは、平行クランク機構を構成している請求項5に記載の試験治具。
【請求項7】
前記試験片の上部を保持すると共に前記上ベースに連動する上チャックと、
該試験片の下部を保持すると共に前記下ベースに連動する下チャックと、
を備える請求項2または5に記載の試験装置。
【請求項8】
前記前ベースと前記加圧体は、弾性体を介して連接されている請求項2または5に記載の試験治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向の引張荷重を他方向の押圧荷重へ変換できる試験治具に関する。
【背景技術】
【0002】
試験片に荷重を印加して、その物理的特性(機械的特性)を測定する試験は、商品開発(特に材料開発)、品質管理等において不可欠である。このような試験は、通常、測定対象である物性値に応じて、それに適した専用の試験機や試験治具を用いてなされる。代表例は、万能試験機(引張試験機)を用いた一軸引張試験(試験片へ一方向の引張荷重を印加する試験)である。
【0003】
もっとも実部材には多方向の応力が複合的に作用することが多い。このため、一軸引張試験だけでは、材料強度等を適確に評価できないこともある。例えば、筒状の圧力容器を構成する殻壁(周側壁)の場合、長手方向、周方向および厚み方向の各応力が複合的に作用している。また部材の最適設計化により、等方性材料に替えて異方性材料も多用されるようになっており、試験片に作用させる荷重の方向性や大きさ等の調整自由度は大きいほど好ましい。
【0004】
そこで、万能試験機を用いつつも、実部材に近い応力状態を試験片に再現できる試験治具(方法)が提案されている。これに関連する記載が、例えば、下記の文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-237325
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】缶用硬質アルミニウム合金板の二軸引張試験方法の開発、東京農工大・花房泰浩、学位論文(2014年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、円筒状の圧力容器を構成する鋼管から切り出して予めへこみと傷を設けた試験片に、引張試験機の中心軸から偏心した位置で一軸方向の引張力を加える試験治具(方法)を提案している。この試験治具によれば、引張応力に加えて曲げ応力も試験片へ作用させ得る。
【0008】
非特許文献1には、一つの駆動リンクと四つの従動リンクを回転円盤に回動可能に取り付けた試験治具に関する記載がある。この試験治具によれば、駆動リンクへ一軸荷重を印加すると、それに連動する従動リンクの他端部に取り付けられた十字型試験片に、二軸方向の荷重を作用させれる。
【0009】
いずれの試験治具でも、引張試験機の引張方向と異なる方向へ押圧荷重を印加することはできない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来と異なる新たな構造の試験治具等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意研究した結果、引張試験機の引張方向と異なる方向に押圧荷重を印加できる新たなリンク機構を有する試験治具を着想し、その具現化に成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《試験治具》
(1)本発明は、上下方向に相対移動する上取付体と下取付体を備える試験機に装着される試験治具であって、該上取付体に装着される上ベースと、該下取付体に装着される下ベースと、該上ベースと該下ベースに連動して試験片を前後方向に押圧するリンク機構と、を備える試験治具である。
【0013】
(2)本発明の試験治具によれば、一方向(便宜的に「上下方向」という。)へ荷重を印加できる試験機を用いつつ、それと異なる方向(便宜的に「前後方向」という。)へ押圧荷重(例えば垂直荷重、圧縮荷重)を試験片へ印加できる。
【0014】
前後方向の荷重(「前後荷重」という。)を、上下方向の荷重(「上下荷重」という。)および/または左右方向の荷重(「左右荷重」という。)と重畳させて印加すれば、汎用的な試験機を用いつつも、試験片に複合的な応力状態を作用させることも可能となる。
【0015】
前後方向に押圧荷重を印加するリンク機構は、試験機の上下取付体(または上下ベース)により直接的に駆動されてもよいし、それらに連動する別リンク(後述する左右ベース等)により間接的に駆動されてもよい。
【0016】
《試験方法》
本発明は、上述した試験治具を用いた種々の試験方法としても把握される。その試験治具は引張試験の他、曲げ試験、圧縮試験等に利用されてもよい。
【0017】
《その他》
(1)試験機と試験治具により印加される各荷重方向は、直交系(x軸、y軸、z軸)であると取扱が容易になる。また試験治具は、上下方向、左右方向または前後方向の少なくとも一方向(さらには各方向)に関して略対称的な構造であると、その設計や製作等が容易となる。
【0018】
特に断らない限り、本明細書でいう「ベース」もリンク機構の構成要素となる。リンク、ベース、チャック等は、所望の測定精度を確保できる剛性、強度等を有すれば、形状(板状、棒状、管状、直状、曲状等)、大きさ、材質等を問わない。試験治具が装着される試験機も、一方向へ荷重を印加できる限り、その種類や型式等を問わない。
【0019】
試験片は、少なくとも前後荷重の印加が可能な形態であればよく、平面的(板状等)でも立体的(棒状等)でもよい。その断面も、方形状でも、円形状でも、異形状等でもよい。試験片は、例えば、一方向に延在するストレート状等でもよいし、多方向へ延在するクロス状(十字型)等でもよい。
【0020】
測定対象は、試験片に作用する応力に限らず、その変位(歪み)等でもよい。試験片に作用する応力は、その観察位置(面)により引張応力にも圧縮応力にもなり得る。
【0021】
(2)本明細書でいう「上・下」、「左・右」、「前・後」は説明の便宜的な呼称であり、必ずしも上下方向が鉛直方向でなくてもよい。また各方向が直交系でなくてもよい。本明細書では、特に断らない限り、上下方向をY(軸)方向(軸)、左右方向をX(軸)方向(軸)、前後方向をZ(軸)方向(軸)として説明する。
【0022】
本明細書でいう「端側」(一端側、他端側)も説明の便宜的な呼称であり、他の機素と連結、連接または連動が可能な領域(部位)であれば、厳密な端部である必要はない。「左側」、「右側」、「左部」、「右部」、「前側」、「後側」、「前部」、「後部」等についても同様である。
【0023】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】試験治具(一例)の全体を示す斜視図である。
図2】その中央部の断面図(YZ断面図)である。
図3A】その試験治具の第1リンク機構を示す模式図である。
図3B】第1リンク機構により試験片に作用する力等を算出する数式群である。
図4A】その試験治具の第2リンク機構を例示するスケルトン図である。
図4B】第2リンク機構により試験片に作用する応力等を算出する数式群である。
図5】第2リンク機構により試験片に作用する曲げ応力と、加圧体を付勢する弾性体のばね定数との関係を示すグラフである。
図6A】引張荷重を試験片へ繰返し作用させたときに生じる最大主ひずみを示す写真と、その経時変化を示すグラフである。
図6B】押圧荷重と引張荷重を重畳して試験片へ繰返し作用させたときに生じる最大主ひずみを示す写真と、その経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で説明する内容は、試験治具のみならず、それを用いた試験方法にも該当し得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0026】
《試験治具》
各リンク(ベースを含む)の長さ(ピボット間長)やリンク間の角度等を調整することにより、試験片へ印加する荷重の方向やその荷重の比率(荷重比)等の調整が可能である。試験片に作用する荷重や方向は機構学的に求められる。
【0027】
(1)試験片を前後方向へ押圧するリンク機構(第2リンク機構)は、例えば、上ベースと下ベースに連動する前ベースと、前ベースに連動して試験片を押動する加圧体により実現される。この場合、上ベースと下ベースの間で直接的なリンク機構が構成されてもよいし、上ベースと下ベースに連動する別部材(例えば、後述する左ベースと右ベース)を介して間接的なリンク機構が構成されてもよい。前者の直接的なリンク機構は、例えば、上ベースに一端側が枢支された上リンクと、下ベースに一端側が枢支された下リンクと、上リンクの他端側と下リンクの他端側に枢支される前ベースと、前ベースに連動して試験片を押動する加圧体とを備える。
【0028】
前ベースに連なるリンク機構が平行クランク機構であると、機構の簡素化を図りつつ、加圧体を安定して前後方向へ移動させることができる。
【0029】
(2)試験治具は、さらに、上ベースの左側に一端側が枢支された上左リンクと、上ベースの右側に一端側が枢支された上右リンクと、下ベースの左側に一端側が枢支された下左リンクと、下ベースの右側に一端側が枢支された下右リンクと、上左リンクの他端側と下左リンクの他端側に枢支される左ベースと、上右リンクの他端側と下右リンクの他端側に枢支される右ベースとからなるリンク機構(第1リンク機構)をさらに備えてもよい。
【0030】
この場合、第1リンク機構に第2リンク機構が連接されてもよい。例えば、第2リンク機構が、左ベースに一端側が枢支された左リンクと、右ベースに一端側が枢支された右リンクとをさらに備え、前ベースが左リンクの他端側と右リンクの他端側に枢支されていてもよい。
【0031】
(3)前ベースは、試験片を直接的に押動してもよいし、加圧体(押棒、ロッド等)を介して間接的に押動してもよい。前ベースと加圧体が弾性体を介して連接されていると、弾性体(ばね等)のばね定数(弾性率)、自然長やセット長等の調整により、試験片に印加する荷重の調整が容易となる。このとき、弾性体の数や配置は問わない。複数の弾性体を加圧体の周囲に均等配置すると、付勢された加圧体により、試験片は安定的に押圧される。
【0032】
(4)左ベースと右ベースを設ける場合、例えば、上左リンクと下左リンクが外側に向けてなすリンク間の角度である左外角(α)と、上右リンクと右左リンクが外側に向けてなすリンク間の角度である右外角(β)とを180°以内にすれば、試験片の二方向へ引張荷重を印加できる。具体的にいうと、左外角(α)および/または右外角(β)は、例えば、70°~160°、80°~150°さらには90°~140°とするとよい。なお、左外角と右外角を共に180°超にすると、試験片の一方向には引張荷重を印加しつつ、試験片の他方向には圧縮荷重を印加することも可能になる。
【0033】
(5)試験片はチャックにより保持される。チャックは、通常、上下方向に一対および/または左右方向に一対設けられる。具体的にいうと、試験治具は、例えば、試験片の上部を保持すると共に上ベースに連動する上チャックと、試験片の下部を保持すると共に下ベースに連動する下チャックとを備える。また試験治具は、例えば、試験片の左部を保持すると共に左ベースに連動する左チャックと、試験片の右部を保持すると共に右ベースに連動する右チャックとを備える。
【0034】
《試験片》
試験片の形態(形状、大きさ)や材質等は、試験目的に応じて適宜調整され、等方的でも異方的でもよい。
【0035】
圧力容器の殻壁(周側壁)を想定した強度試験なら、平板状(短冊状、十字状等)の試験片の端部をチャックにより保持し、その平面の法線方向(面外方向)から押圧荷重を印加してもよい。これにより試験片には、引張応力と曲げ応力を重畳して作用させ得る。ちなみに、圧力容器(例えば、高内圧を受ける筒状の水素タンク)の殻壁には、二軸引張応力(周方向の応力とそれに直交する接線方向(長手方向)の応力)に加えて、曲げ応力(壁厚に沿う分布応力)も作用し得る。曲げ応力は壁厚が大きくなるほど増大し、通常、内壁面側で最大となる。引張応力と曲げ応力の重畳作用は、圧力容器の胴体部とドーム部の継目付近でも生じ得る。
【実施例0036】
試験治具の一形態例と、それによる測定例とを示しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0037】
[試験治具]
《構成》
本発明の一実施例である試験治具S(単に「治具S」という。)の斜視図を図1に示した。また、治具Sの中央を前後方向に切断した縦断面(YZ断面)を図2に示した。本実施例では、説明の便宜上、図中に矢印で示す方向を上下方向(Y軸方向)、左右方向(X軸方向)、前後方向(Z軸方向)とする。
【0038】
(1)治具Sは、一軸荷重を印加できる材料試験機のクロスヘッド(固定側)とピストン(可動側)との間に装着される。治具Sは、上下方向および左右方向の荷重を試験片へ付与する第1リンク機構L1と、前後方向の荷重を試験片へ付与する前後方向に作動する第2リンク機構L2とを備える。第1リンク機構L1の詳細は、図3Aに模式的に示した。
【0039】
第1リンク機構L1はクロスヘッドとピストンの相対移動に追動し、第2リンク機構L2は第1リンク機構L1に追動する。治具S(第1リンク機構L1と第2リンク機構L2)は全体的に、上下方向および左右方向に関して対称な構造をしている。これらの具体的な構造は次の通りである。
【0040】
(2)第1リンク機構L1は、クロスヘッド(上取付体)に着脱可能な上ベース11と、ピストン(下取付体)に着脱可能な下ベース12と、上ベース11と下ベース12の間に配設される4つの上左リンク211、下左リンク221、上右リンク212および下右リンク222と、試験片Tの上部、下部、左部および右部をそれぞれ把持する4つの上チャック31、下チャック32、左チャック41および右チャック42と、上左リンク211と下左リンク221に追動すると共に左チャック41を保持する左ベース43と、上右リンク212と下右リンク222に追動すると共に右チャック42を保持する右ベース44とを備える。各部材の着脱(固定)、試験片の把持(固定)等は、複数のボルトbの締結によりなされる。
【0041】
上左リンク211の一端部は上ベース11の左端部とピボット511で回動可能に連結(枢支)されており、その他端部は左ベース43の上部とピボット611で枢支されている。下左リンク221の一端部は下ベース12の左端部とピボット521で枢支されており、その他端部は左ベース43の下部とピボット621で枢支されている。
【0042】
上右リンク212の一端部は上ベース11の右端部とピボット512で枢支されており、その他端部は右ベース44の上部とピボット612で枢支されている。下左リンク222の一端部は下ベース12の右端部とピボット522で枢支されており、その他端部が右ベース44の下部とピボット622で枢支されている。
【0043】
試験機を作動させて、上ベース11に対して下ベース12を移動(上下方向の離れる方向へ相対移動)させると、上ベース11に固定された上チャック31と下ベース12に固定された下チャック32とに保持された試験片Tには、上下方向(Y軸方向)への引張荷重が作用する。これに連動して、上左リンク211および下左リンク221に枢支されている左ベース43と、上右リンク212および下右リンク222に枢支されている右ベース44とは、左右方向の離れる向きに移動する。これにより、左ベース43に固定された左チャック41と右ベース44に固定された右チャック42とにより保持された試験片Tには、左右方向(X軸方向)への引張荷重も作用する。
【0044】
(3)第2リンク機構L2は、前ベース71と、押棒72(加圧体)と、左リンク81と、右リンク82と、付勢機構9とを備える。左リンク81の一端部は左ベース43の右端側に設けたピボット451で回動可能に連結(枢支)されており、その他端部は前ベース71の左前方に設けたピボット452で枢支されている。同様に、右リンク82の一端部は右ベース44の左端側に設けたピボット461(詳細略)で回動可能に連結(枢支)されており、その他端部は前ベース71の右前方に設けたピボット462(詳細略)で枢支されている。
【0045】
左リンク81と右リンク82はそれぞれ水平に配置された2本のリンクからなる。左リンク81、左ベース43および前ベース71は、平行クランク機構を構成している。同様に、右リンク82は、右ベース44および前ベース71も、平行クランク機構を構成している。
【0046】
付勢機構9は、ベース91と、六角ボルトからなる上ガイド921および下ガイド922、コイルスプリングからなる上ばね941および下ばね942を備える。上ガイド921と下ガイド922はそれぞれ、ベース91の上部と下部の各後方から挿通され、ベース91の上部前面と下部前面がそれぞれ、上ばね941と下ばね942の後方側座面となる。
【0047】
さらに上ガイド921と下ガイド922はそれぞれ、前ベース71の上部と下部の各後方から遊嵌され、前ベース71の上部後面と下部後面がそれぞれ、上ばね941と下ばね942の前方側座面となる。上ガイド921と下ガイド922の先端部はそれぞれ、前ベース71の上部と下部の各前面側で、上ナット931と下ナット932に螺合し保持される。
【0048】
左リンク81と右リンク82に追動する前ベース71は、上ガイド921と下ガイド922に沿って前後動する。例えば、前ベース71が後方へ移動すると、上ばね941と下ばね942は収縮して、ベース91を後方へ付勢する。上ばね941と下ばね942がベース91へ及ぼす押動力は、押棒72へ伝達される。これにより押棒72は、その後端部に設けたパッド722が試験片の中央前面に当接して、試験片に前後方向の荷重を加える。
【0049】
前ベース71の移動量と押棒72が試験片へ加える荷重との関係は、上ばね941と下ばね942のばね定数およびそのプリセット荷重により調整される。ばね定数は、例えば、コイルスプリングの交換により調整される。プリセット荷重は、例えば、上ナット931と下ナット932の締付量により調整される。
【0050】
《解析》
(1)第1リンク機構L1(図3A参照)により試験片へ印加される荷重の解析例を図3Bに示した。具体的には次の通りである。
【0051】
リンク211、221、212、222(これら併せて「リンク2」という。)はいずれも、枢支点間の距離(L)が等しく、ベース11、12(これらを併せて「ベース1」という。)と、チャック31、32(これらを併せて「チャック3」という。)またはベース43、44(これらを併せて「ベース4」という。)と、上下および左右に関して対称的な位置で枢支されているとする。
【0052】
また試験機は、ベース1の左右枢支点間の中央上で、上下方向(一軸方向)へ引張荷重(P0)をさせる。リンク2と左右方向(水平方向)とのなす角度をθ(半外角)、リンク2に沿って作用する張力をPθとする。上左リンク211と下左リンク221が外向きになす角(左外角:α)と、上右リンク212と下右リンク222が外向きになす角(左外角:β)とは2θで表される。
【0053】
このように対称的な治具Sの場合、チャック3間に作用する引張荷重(Py)とチャック4間に作用する引張荷重(Px)は、力の釣り合いから、図3Bに示す式(11)、(12)となる。両式から、引張荷重P0、Px、Pyの関係は式(13)となる。
【0054】
試験片Tの左右方向(x方向)と上下方向(y方向)の各剛性をGx、Gy、引張荷重P0を作用させたときに、各リンクの半外角(θ)の初期からの変化をΔθとする。このとき、各方向の伸びδx、δyは、図3Bに示す式(21)、(22)のように表される。
【0055】
ここで、仮に試験片Tの剛性が左右方向および上下方向に関して等方的であるとすると(Gx=Gy)、荷重比(Px/Py)は図3Bに示す式(31)となる。式(31)と式(13)から、例えば、引張荷重P0、Pyの関係は式(32)のように求まる。
【0056】
試験片Tの材質や測定範囲等にも依るが、仮にΔθが十分に小さい場合(θ≒0)、引張荷重Px、Pyはそれぞれ、式(31)と式(32)から、引張荷重P0と半外角θを用いて、図3Bに示す式(41)、(42)のように表される。
【0057】
式(41)、(42)から、Px/P0、Py/P0およびPx/Pyと、半外角θ(α/2=β/2)の関係は、例えば、θ=45°~80°さらには45°~75°(外角2θ=90°~160°さらには90°~150°)のとき、試験片Tへ二方向から作用する荷重が妥当な範囲内になる。
【0058】
(2)第2リンク機構L2により試験片へ印加される荷重を解析した。解析の便宜上、図4Aに示すように、一軸引張負荷を受ける短冊状の試験片の側面(引張方向に沿った平面)へ、その法線方向(前後方向/Z方向)から押圧荷重を印加して、引張応力と曲げ応力を同時に試験片へ作用させる場合を取り上げる。具体的には次の通りである。
【0059】
試験片の初期評価部長さ(X(左右)方向の長さ):L0、幅(Y(上下)方向の長さ):b、厚さ(Z(前後)方向の長さ):h、弾性率(ヤング率):E、リンク角(左・右リンク81、82と左・右ベース43、44のなす角):φ、ばね(上ばね941と下ばね942)定数:k、X方向の変位(左・右ベース43、44の移動量):δx、Z方向の変位(前ベース71の移動量):δzとする。これらは既知な値とする。
【0060】
試験片に加わるZ方向の荷重:Pz、ばねの収縮量:δs、試験片(中央)のたわみ量(Z方向の変位):δt、試験片の曲げ剛性:kTPとする。これらは未知な値とする。試験片は、X方向の移動を許容しつつ、そのX方向の両端部が固定支持されている状態とした。
【0061】
図4Aに示すリンク機構から、変位δx、δzの関係は、図4Bに示す式(51)のようになる。フックの法則から式(52)、(53)が導かれる。式(51)、(52)、(53)からPzは式(54)のように表わされる。
【0062】
材料力学に基づく解析解から、試験片のたわみ量δtは式(55)のように表わされる。式(52)、(55)から、試験片の曲げ剛性(kTP)は式(56)のように求まる。
【0063】
また試験片の引張方向の伸び(2δx)は、初期長(L0)とひずみ(ε=σx/E)から式(57)のように求まる。σxは、試験片にX方向の荷重(Px)を加えたときに、試験片の断面(YZ断面)に作用する平均的な引張応力である。Eは、その断面(YZ断面)に関する試験片の弾性率(ヤング率)である。
【0064】
式(54)、式(56)、式(57)から試験片に加わるZ方向の荷重(Pz)が求まる。この荷重(Pz)による(最大)曲げ応力(σbmax)は、材料力学に基づく解析解から式(58)のように求まる。式(54)、式(56)、式(57)、式(58)から、ばね定数(k)と曲げ応力(σbmax)の関係を具体的にプロットした一例を図5に示した。
【0065】
このように、ばね定数(k)によりZ方向の荷重(Pz)を調整できることがわかる。さらに式(58)から任意の曲げ応力(σbmax)を引張応力(σx)に重畳させて試験片へ作用させれることもわかる。
【0066】
《試験例》
(1)試験片Tとして、炭素繊維により一方向に強化された樹脂(CFRP)からなるテープ(「UDテープ」という。)を十字型に積層した試料を用意した。この試験片Tの形状は左右および上下に関して対称とした。
【0067】
(2)この試験片Tの上下部と左右部を、電気油圧式材料試験機に装着した治具Sのチャック31、32、41、42で把持した。このとき、外角(α、β=2θ)は90°とした。試験片Tの中央部(十字交差部)の後面側には、予めマーカーを付しておいた。
【0068】
(3)先ず、押棒72を取外した状態(パッド722による試験片Tの押圧がない状態)で、治具Sを取り付けた材料試験機を作動させて、左右方向と上下方向の引張荷重(Px、Py)を試験片Tへ作用させた(図3A参照)。荷重の増減を繰返しつつ、試験片Tの表面(マーカー)を撮影した画像に基づいて、ひずみ分布をデジタル画像相関法により解析した。こうして得られた試験片Tに現れる最大主ひずみの変化を図6Aに示した。図6Aには、中央部(円内)における最大主ひずみと、試験片Tの視野全体に対する最大主ひずみの平均値とを併せて示した。図6Aから明らかなように、両者間に大差はなかった。
【0069】
(4)次に、押棒72を装着した状態(パッド722が試験片Tを押圧している状態)で、治具Sを取り付けた材料試験機を作動させて、上述した二方向の引張荷重(Px、Py)に加えて、前後方向の押圧荷重(Pz)を試験片Tへ作用させた。荷重の増減を繰返しつつ、上述した方法により求めた最大主ひずみの変化を図6Bに示した。図6Bから明らかなように、パッド722により押圧された試験片Tの中央部(円内)の最大主ひずみは、視野全体の平均値に同期しつつ、その平均値よりも約25%程度大きくなることがわかった。つまり、試験片Tの所望領域に、引張応力に曲げ応力を重畳させ得ることが確認された。
【0070】
このように本発明の試験治具によれば、一方向の荷重を印加する試験機を用いつつ、少なくとも二方向の荷重を試験片へ印加できる。これにより、例えば、引張応力と曲げ応力が重畳的に作用する材料の強度試験を汎用的な引張試験機を用いて行えるようになる。
【符号の説明】
【0071】
S 試験治具
T 試験片
11、12 ベース
211~222 リンク
31、32、41、42 チャック
43、44、71 ベース
72 押棒(加圧体)
L1、L2 リンク機構
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B