(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083333
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】紫外線式火炎検出器の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/42 20060101AFI20240614BHJP
G01J 1/00 20060101ALI20240614BHJP
F23N 5/24 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01J1/42 A
G01J1/00 B
G01J1/42 C
F23N5/24 113A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197555
(22)【出願日】2022-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000199887
【氏名又は名称】川重冷熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107283
【弁理士】
【氏名又は名称】塩出 洋三
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼崎 博文
(72)【発明者】
【氏名】前阪 幸利
【テーマコード(参考)】
2G065
3K003
【Fターム(参考)】
2G065AB05
2G065BC14
2G065BC16
2G065BC17
2G065DA03
2G065DA06
3K003XA01
3K003XA04
3K003XB02
(57)【要約】
【課題】火炎検出器とは別に高速なスキャン処理を行う監視システムが不要で、従来の監視装置のシステムに火炎検出器の劣化監視を組み込むことが可能となる紫外線式火炎検出器の劣化診断方法を提供する。
【解決手段】火炎より放射される紫外線の量を検出してバーナの火炎有無を検出する紫外線式火炎検出器10の劣化度合いを判断する劣化診断方法において、バーナ停止状態のフレーム電流をサンプリングし、フレーム電流が一定値以上に上昇した場合を自己放電発生ととらえ、サンプリング数及び自己放電発生回数から自己放電発生確率を例えば1日毎に算出して、自己放電発生確率の上昇度合いにより劣化監視部18又は20にて劣化を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火炎より放射される紫外線の量を検出してバーナの火炎有無を検出する紫外線式火炎検出器の劣化度合いを判断する劣化診断方法において、バーナ停止状態のフレーム電流をサンプリングし、フレーム電流が一定値以上に上昇した場合を自己放電発生ととらえ、サンプリング数及び自己放電発生回数から自己放電発生確率を定周期で算出して、自己放電発生確率の上昇度合いにより劣化を判定することを特徴とする紫外線式火炎検出器の劣化診断方法。
【請求項2】
自己放電発生確率を1日毎に算出する請求項1に記載の紫外線式火炎検出器の劣化診断方法。
【請求項3】
自己放電発生確率の上昇度合いは、前回より確率が上がった場合はポイントを+2加算とし、前回より確率が下がった場合はポイントを-1減算とし、ポイントが規定値に到達することで劣化と判断する請求項1又は2に記載の紫外線式火炎検出器の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線式火炎検出器の劣化度合いを判断する劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バーナの火炎有無を確認する装置として、火炎より放射される紫外線の量を検出して火炎有無を検出する紫外線式火炎検出器が知られている。
紫外線式火炎検出器は、内部の電極に紫外線が当たることで光電効果により放電が発生する特性を用い、電極にインパルス電圧を与え、紫外線が入射しなければ放電が発生しない電極間隔、電圧とし、インパルス電圧印加時の放電電流で火炎(紫外線)有無を判定するものである。
【0003】
火炎検出器は劣化すると、火炎が無い状態でも放電する自己放電という事象が発生する。
本事象が燃焼中に発生すると、何らかの要因にて実際の火炎は消失したにも関わらず、シーケンスインターロック制御部は正常に火炎有と判断し、燃料遮断弁開操作信号の出力を継続するため、バーナは燃料を放出し続け重大事故に至る可能性がある。
【0004】
また、非燃焼中に発生した場合、バーナ搭載をした燃焼装置は、着火の直前に火炎が無いことを確認した後、燃料遮断弁開操作信号を出力するが、着火直前に火炎有を検出すると、シーケンスインターロック制御部にて着火は危険と判断し、擬似炎異常としてインターロックが作動し、燃料遮断弁開操作信号を出力せずに燃焼装置を異常停止する。
【0005】
火炎検出器は消耗品であり、突然の異常停止は設備の稼働へ大きな影響を与えるため、定期的な交換を実施しているが、燃焼装置の運用方法の違いや個体差により、想定よりも短い期間で劣化(自己放電)し、擬似炎異常にて燃焼装置が停止する場合があるため、従来から火炎検出装置の劣化・故障検出方法として以下が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、電源電圧の変動影響を受けることなく、シャッター開・閉時の放電確率により火炎検出器劣化の予兆を検出する。火炎検出器の火炎検出状態、劣化、故障監視方法として、フレーム電流(またはフレーム電圧)を用いることが知られており、特許文献1では、フレーム電圧による監視が課題で、対策としてインパルス電圧印加時の放電電流から放電確率算出し監視する。
【0008】
フレーム電流は、火炎検出装置内部の電極へインパルス電圧を印加している状態で、紫外線入射時に発生する放電電流を積分して電流出力に変換(電圧出力に変換するとフレーム電圧となり、フレーム電流とフレーム電圧は同一の特性である。)している物であり、特許文献1にも記載されている通り、フレーム電流では瞬間的な異常は読み取ることが困難であり、更にフレーム電流は電源電圧の変動の影響も受けるため、フレーム電流の変動度合いだけで火炎検出器の劣化を検出するのは困難であった。
【0009】
また、正常な火炎検出器であれば火炎無し時の紫外線入射を完全に遮断することで自己放電を0とできるが、バーナの構造上火炎の目視確認用の覗き窓などがあり、完全に紫外線を遮断することは困難であり、低確率ではあるが正常品でも自己放電は発生し、その確率は更に電源電圧にも左右されるため、自己放電有無だけで劣化を判断できないという課題があった。
【0010】
このため、特許文献1では、シャッター開閉等により紫外線入射を強制的に制御することでシャッター開・閉中の放電確率より異常を検出することが提案されているが、インパルス電圧は商用の電源周波数に依存するため、50Hz地域では最低でも20msecに1回印加され、その間の放電となると数msの期間で行われる。このため、従来の火炎検出装置とは別に高速なスキャン処理を行える監視システムが必要となるだけでなく、場合によっては設置スペースの制約から実施できないという課題があった。
【0011】
本発明は、火炎検出器とは別に高速なスキャン処理を行う監視システムが不要で、従来の監視装置のシステムに火炎検出器の劣化監視を組み込むことが可能となる紫外線式火炎検出器の劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
自己放電は火炎無しの状態で発生する事象であり、火炎検出器が劣化すると自己放電する確率は低確率ではあるが上昇し、フレーム電流の一時的な上昇として捉えることができることに着目したものである。フレーム電流の一時的な上昇であれば、高速なスキャン処理を実装した監視システムを追加することなく、従来の監視装置のシステムに火炎検出器の劣化監視を組み込むことが可能となる。なお、定周期のサンプリングであるため、劣化監視部を通信等にて接続した遠隔監視装置に組み込んでも差し支えない。
【0013】
本発明の紫外線式火炎検出器の劣化診断方法は、火炎より放射される紫外線の量を検出してバーナの火炎有無を検出する紫外線式火炎検出器の劣化度合いを判断する劣化診断方法において、バーナ停止状態のフレーム電流をサンプリングし、フレーム電流が一定値以上に上昇した場合を自己放電発生ととらえ、サンプリング数及び自己放電発生回数から自己放電発生確率を定周期で算出して、自己放電発生確率の上昇度合いにより劣化を判定することを特徴とする。
【0014】
上記の方法において、例えば、自己放電発生確率は1日毎に算出する。
上記の方法において、自己放電発生確率の上昇度合いは、前回より確率が上がった場合はポイントを+2加算とし、前回より確率が下がった場合はポイントを-1減算とし、ポイントが規定値に到達することで劣化と判断することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の紫外線式火炎検出器の劣化診断方法は、火炎検出器とは別に高速なスキャン処理を行う監視システムが不要で、従来の監視装置のシステムに火炎検出器の劣化監視を組み込むことが可能となる
【0016】
バーナ停止中に劣化傾向を捉えることで突然の設備停止を回避でき、例えば1日毎の確率とすることで、一時的な電圧変動の影響を平均化でき、劣化診断の信頼性を上げることが可能となる。
【0017】
劣化初期は自己放電する確率は極めて低く、高速スキャンによる放電回数で劣化を診断しようとすると、大きなデータ保存領域が必要となるが、フレーム電流による監視であればサンプリング周期1分でも劣化傾向を捉えることが可能であり、データ保存領域を低く抑えることができる。
【0018】
前日より確率が上がった場合にポイントを+2加算、下がった場合は-1減算とし、ポイントが規定値到達で劣化と判断することで、一時的に発生する信頼性の低い確率の影響を抑え、かつ通常運用の中でより精度の高い劣化判定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本発明の劣化診断方法を実施する装置の概略構成を示す説明図である。
【
図2】
図2は本発明の劣化診断方法における制御フローの一例を示す説明図である。
【
図3】
図3は本発明の劣化診断方法における劣化判定の一例を示す棒グラフである。
【
図4】
図4は本発明の劣化診断方法における劣化判定の一例を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明するが、本発明は下記の実施の形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施できるものである。
図1は、本発明の劣化診断方法を実施する装置の概略構成を示す。
【0021】
図1に示すように、紫外線式火炎検出器10は、内部の電極に紫外線が当たることで光電効果により放電が発生する特性を用い、電極にインパルス電圧を与え、紫外線が入射しなければ放電が発生しない電極間隔、電圧とし、インパルス電圧印加時の放電電流で火炎(紫外線)有無を判定(放電電流変換部12にて判定し火炎有無およびフレーム電流を出力)するものである。24は火炎検出回路、26はインパルス電圧生成部、28は商用電源である。
【0022】
紫外線式火炎検出器10は劣化すると、火炎が無い状態でも放電する自己放電という事象が発生する。
本事象が燃焼中に発生すると、何らかの要因にて実際の火炎は消失したにも関わらず、シーケンスインターロック制御部14は正常に火炎有と判断し、燃料遮断弁開操作信号の出力を継続するため、バーナは燃料を放出し続け重大事故に至る可能性がある。30は燃料遮断弁である。
【0023】
また、非燃焼中に発生した場合、バーナ搭載をした燃焼装置(図示略、
図1の「炎」参照。)は、着火の直前に火炎が無いことを確認した後、燃料遮断弁開操作信号を出力するが、着火直前に火炎有を検出すると、シーケンスインターロック制御部14にて着火は危険と判断し、擬似炎異常としてインターロックが作動し、燃料遮断弁開操作信号を出力せずに燃焼装置を異常停止する。
【0024】
火炎検出器は消耗品であり、突然の異常停止は設備の稼働へ大きな影響を与えるため、定期的な交換を実施しているが、燃焼装置の運用方法の違いや個体差により、想定よりも短い期間で劣化(自己放電)し、擬似炎異常にて燃焼装置が停止する場合がある。
そこで、着目したのが、自己放電は火炎無しの状態で発生する事象であり、劣化すると自己放電する確率は低確率ではあるが上昇し、フレーム電流の一時的な上昇として捉えることができるという点である。
【0025】
フレーム電流の一時的な上昇であれば、高速なスキャン処理を実装した監視システムを追加することなく、従来の監視装置のシステムに火炎検出器の劣化監視を組み込むことが可能となる(
図1におけるバーナ制御装置16の劣化監視部18参照)。なお、定周期のサンプリングであるため、劣化監視部20を通信等にて接続した遠隔監視装置22に組み込んでも差し支えない。
【0026】
つづいて、本発明の劣化診断方法の一例について説明する。
バーナ停止状態のフレーム電流をサンプリングし、フレーム電流が一定値以上に上昇した場合を自己放電発生ととらえ、自己放電発生確率を1日毎に算出し、自己放電発生確率より劣化を判定する。
【0027】
バーナ停止中に劣化傾向を捉えることで突然の設備停止を回避でき、1日毎の確率とすることで、一時的な電圧変動の影響を平均化でき、劣化診断の信頼性を上げることが可能となる。
【0028】
劣化初期は自己放電する確率は極めて低く、高速スキャンによる放電回数で劣化を診断しようとすると、大きなデータ保存領域が必要となるが、フレーム電流による監視であればサンプリング周期1分でも劣化傾向を捉えることが可能であり、データ保存領域を低く抑えることができる。
【0029】
自己放電確率については、以下a、bにより現地の運用・電源電圧の影響を受けるため、自己放電発生確率は現地毎に変わりえる。
a.一日にバーナ停止状態がどれだけ発生するか、現場の運用状況で変わり、停止時間が短ければ分母が少なくなるため確率の信頼性が低下する。
b.自己放電はインパルス電圧が高いほど発生しやすくなるが、インパルス電圧は現地の電源電圧に比例するため、現地毎に自己放電確率は変わる。
【0030】
このため、自己放電確率から一定の閾値で劣化判定することは困難であり、確率の上昇度合いで劣化判定を行う事とし、確率の上昇度合いについては、2Up1Downカウンタを用い、前日より確率が上がった場合にポイントを+2加算、下がった場合は-1減算とし、ポイントが規定値到達で劣化と判断することで、一時的に発生する信頼性の低い確率の影響を抑え、かつ通常運用の中でより精度の高い劣化判定を実現する。
【0031】
なお、判定に用いるバーナ停止時間の下限値を設け停止時間が下限以下であれば判定から除外する、電源電圧を監視し、一定範囲の電源電圧時にのみサンプリングを行うことでより高い精度とすることも可能である。
【実施例0032】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施できるものである。
図2は、本実施例の概要(実際の劣化判定の一例)を示したものである。
【0033】
バーナ停止状態での火炎検出器フレーム電流を1分毎にサンプルし、そのサンプル数をS、サンプル内でフレーム電流1μA(※1)以上のサンプル数をAとし、Aを自己放電発生回数ととらえ、自己放電確率Pを1日毎(※2)に下記にて算出する(
図2のF1参照)。
P=A/S×100
【0034】
1.Sが30未満(※3)の場合はポイントCを前日より変化させない(
図2のF2,F7参照)。
2.Sが30以上(※2) (
図2のF2参照)かつPが0.1%以上(※4) (
図2のF3参照)かつ前日と比較し確率が上がっている場合(
図2のF4参照)はCを+2(※5)する(
図2のF5参照)。
3.Sが30以上(※2) かつPが0.1%未満(
図2のF3参照)または前日より下がっている場合(
図2のF4参照)Cを-1(※6)する(
図2のF6参照)。なお、下限は0とし、上記にてマイナスとなった場合はCを0に戻す。
4.Cが10(※7)以上となると劣化と判定する(
図2のF8参照)。
【0035】
上記にて実際に判定した一例を
図3、
図4に示す。
なお、火炎検出器の回路定数、インパルス電圧等によって放電電流の値や確率は変わり、結果フレーム電流値も変わる。更に燃焼装置の構造や設定状況により、バーナ停止中にわずかに入ってくる紫外線の入射量も変わるため、※1~7の各パラメータは使用回路、燃焼装置の構造や設置状況等により変更可能とする。
【0036】
また、放電電流を積分し、フレーム電圧として変換する方式も知られているが、変換後の単位が電流から電圧に変わるだけで特性は変わらないため、本劣化検出においては、どちらの値を使用しても差し支えない。
また、劣化判定部は、データ量を削減したことでバーナの制御を行うマイコン等に組み込むことも可能だが、遠隔にデータを通信で送信し、サーバーPC等で確率計算および判定を行っても差し支えはない。