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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083376
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/30 20060101AFI20240614BHJP
   F16D 43/08 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
F16D43/30
F16D43/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050222
(22)【出願日】2024-03-26
(62)【分割の表示】P 2022515189の分割
【原出願日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020071888
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】吉本 克
(72)【発明者】
【氏名】野中 将行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】曾 恒香
(57)【要約】
【課題】装置の軸方向の大型化を回避しつつクラッチ容量を増加させることができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7とは異なる径の補助クラッチ板17がクラッチハウジング2に配設され、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接時に補助クラッチ板17を圧接してエンジンEの駆動力を駆動輪Tに伝達可能な状態とするとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力の解放時に補助クラッチ板17の圧接力を解放してエンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達されるのを遮断するものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、
前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、を備え、
前記クラッチ部材は、
圧接アシスト用カムを構成する第1勾配面と、バックトルクリミッタ用カムを構成する第2勾配面と、周方向に関して前記第1勾配面と前記第2勾配面との間に位置するカム頂面と、を有するカム部と、
前記カム頂面から前記プレッシャ部材に向けて延びるボス部と、を備え、
前記カム頂面は、前記出力部材の軸方向から見たときに前記ボス部の全周を取り囲む平面部を有し、
前記出力部材の軸方向から見たときに、前記出力部材の軸心と前記ボス部の中心とを通る直線と前記カム頂面の径方向の外側の縁とが交差する点から前記ボス部までの前記径方向の第1長さは、前記直線と前記カム頂面の前記径方向の内側の縁とが交差する点から前記ボス部までの前記径方向の第2長さよりも長い、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に自動二輪車が具備する動力伝達装置は、エンジンの駆動力をミッション及び駆動輪へ伝達又は遮断を任意に行わせるためのもので、エンジン側と連結された入力部材と、ミッション及び駆動輪側と連結された出力部材と、出力部材と連結されたクラッチ部材と、クラッチ部材に対して近接又は離間可能なプレッシャ部材とを有しており、プレッシャ部材をクラッチ部材に対して近接させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて動力の伝達を行わせるとともに、プレッシャ部材をクラッチ部材に対して離間させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させることにより当該動力の伝達を遮断するよう構成されている。
【0003】
従来の動力伝達装置として、例えば特許文献1で開示されているように、クラッチハウジングの回転に伴う遠心力で当該溝部の内径側位置から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るウェイト部材を具備した遠心クラッチ手段について提案されている。かかる従来の動力伝達装置によれば、エンジンの駆動に伴ってクラッチハウジングが回転することにより、ウェイト部材に遠心力を付与させることができ、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させてエンジンの駆動力を車輪に伝達させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2013/183588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置は、多板クラッチに要求されるクラッチ容量を実現するために駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の枚数を増加させる必要が生じることがある。その場合、多板クラッチの積層方向に駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を単に増加して対応すると装置が軸方向に大型化してしまい、車両に対する設置可能スペースを超えてしまう虞があった。なお、かかる課題は、ウェイト部材を具備したものに限らず、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を有する多板クラッチ型の動力伝達装置全般に生じる虞がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、装置の軸方向の大型化を回避しつつクラッチ容量を増加させることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板の内周縁が嵌合するスプライン嵌合部が外周面に形成されるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材とを具備した動力伝達装置であって、前記被動側クラッチ板の内周縁の直径よりも小さい直径を有する補助クラッチ板が前記出力部材に配設され、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接時に前記補助クラッチ板を圧接して前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力の解放時に前記補助クラッチ板の圧接力を解放して前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の動力伝達装置において、前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材を具備し、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させるとともに前記補助クラッチ板を圧接して前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とし、前記ウェイト部材が前記内径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させるとともに前記補助クラッチ板の圧接力を解放して前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の動力伝達装置において、前記遠心クラッチ手段の少なくとも一部は、前記補助クラッチ板と前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板との間に位置することを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項2または3に記載の動力伝達装置において、前記遠心クラッチ手段は、前記ウェイト部材を前記内径側位置と前記外径側位置との間で移動可能に保持する保持部材と、前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動することにより前記駆動側クラッチ板及び前記被動側クラッチ板の積層方向に移動して前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させる圧接部材と、前記ウェイト部材を前記外径側位置から前記内径側位置に向かって付勢するための付勢部材とを具備して構成され、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるとき、前記圧接部材及び前記保持部材の一方が前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させるとともに、前記圧接部材及び前記保持部材の他方が前記補助クラッチ板を圧接することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1~4の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記駆動側クラッチ板及び前記被動側クラッチ板の積層部位と前記補助クラッチ板とは、前記クラッチハウジングの軸方向に互いに偏倚して配設されたことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1~5の何れか1つに記載の動力伝達装置において、前記補助クラッチ板は、複数のクラッチ板から成ることを特徴とする。
請求項7記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、前記出力部材に配設された補助クラッチ板と、前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材を有し、前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板と前記補助クラッチ板との間に設けられた遠心クラッチ手段とを具備した動力伝達装置であって、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させるとともに前記補助クラッチ板を圧接して前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とし、前記ウェイト部材が前記内径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させるとともに前記補助クラッチ板の圧接力を解放して前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得るように構成されたことを特徴とする。
請求項8記載の発明は、請求項7に記載の動力伝達装置において、前記クラッチ部材の外周面には、前記被動側クラッチ板の内周縁が嵌合するスプライン嵌合部が形成され、前記補助クラッチ板の直径は、前記被動側クラッチ板の内周縁の直径よりも小さいことを特徴とする。
請求項9記載の発明は、請求項7または8に記載の動力伝達装置において、前記補助クラッチ板は、前記出力部材の径方向から見たときに、前記遠心クラッチ手段の少なくとも一部と重なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板とは異なる径の補助クラッチ板がクラッチハウジングに配設され、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接時に補助クラッチ板を圧接してエンジンの駆動力を車輪に伝達可能な状態とするとともに、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力の解放時に補助クラッチ板の圧接力を解放してエンジンの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断するので、装置の軸方向の大型化を回避しつつクラッチ容量を増加させることができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、ウェイト部材が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させると同時に補助クラッチ板を圧接してエンジンの駆動力を車輪に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材が内径側位置にあるとき駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させると同時に補助クラッチ板の圧接力を解放してエンジンの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段を有するので、遠心クラッチ手段によって、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の圧接又は圧接力の解放に加え、補助クラッチ板の圧接又は圧接力の解放を行わせることができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、ウェイト部材が外径側位置にあるとき、圧接部材及び保持部材の一方が駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させるとともに、圧接部材及び保持部材の他方が補助クラッチ板を圧接するので、遠心クラッチ手段を構成する圧接部材及び保持部材によって、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の圧接又は圧接力の解放に加え、補助クラッチ板の圧接又は圧接力の解放を行わせることができる。
【0015】
請求項5の発明によれば、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の積層部位と補助クラッチ板とは、クラッチハウジングの軸方向に互いに偏倚して配設されたので、装置の軸方向の大型化を確実に回避することができる。
【0016】
請求項6の発明によれば、補助クラッチ板は、複数のクラッチ板から成るので、補助クラッチ板のクラッチ容量を任意に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図
図2図1におけるII-II線断面図
図3図1におけるIII-III線断面図
図4】同動力伝達装置におけるクラッチハウジングを示す斜視図
図5】同動力伝達装置における第1クラッチ部材を示す3面図
図6】同第1クラッチ部材を示す斜視図
図7】同動力伝達装置における第2クラッチ部材を示す3面図
図8】同第2クラッチ部材を示す斜視図
図9】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を示す3面図
図10】同プレッシャ部材を示す斜視図
図11】同動力伝達装置における遠心クラッチ手段を示す縦断面図
図12】同遠心クラッチ手段を示す一部破断した斜視図
図13】同遠心クラッチ手段を構成する保持部材を示す3面図
図14】同遠心クラッチ手段を構成する支持部材を示す3面図
図15】同遠心クラッチ手段を構成する圧接部材を示す3面図
図16】同遠心クラッチ手段を構成するウェイト部材を示す4面図
図17図16におけるXVII-XVII線断面図
図18】同遠心クラッチ手段におけるウェイト部材が内径側位置にある状態を示す平面図
図19】同遠心クラッチ手段におけるウェイト部材が外径側位置にある状態を示す平面図
図20】同動力伝達装置における(a)圧接アシスト用カムの作用、(b)バックトルクリミッタ用カムの作用を説明するための模式図
図21】同動力伝達装置が適用される車両を示す模式図
図22】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置にある状態を示す断面図
図23】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の中間位置にある状態を示す断面図
図24】同動力伝達装置におけるウェイト部材が外径側位置にある状態を示す断面図
図25】同動力伝達装置におけるウェイト部材が外径側位置にあり、プレッシャ部材が非作動位置にある状態を示す断面図
図26】本発明の他の実施形態(補助クラッチ板が複数のクラッチ板から成るもの)に係る動力伝達装置を示す縦断面図
図27】本発明の他の実施形態(補助クラッチ板が複数のクラッチ板から成り、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の積層部位とオーバーラップしたもの)に係る動力伝達装置を示す縦断面図
図28】本発明の他の実施形態(補助クラッチ板が複数のクラッチ板から成り、遠心クラッチ手段を有さないもの)に係る動力伝達装置を示す縦断面図
図29】本発明の他の実施形態(補助クラッチ板が複数のクラッチ板から成り、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の積層部位とオーバーラップしたものであって、遠心クラッチ手段を有さないもの)に係る動力伝達装置を示す縦断面図
図30】本発明の他の実施形態(補助クラッチ板が複数のクラッチ板から成るものであって、遠心クラッチ手段を有さず、且つ、圧接アシスト用カム及びバックトルクリミッタ用カムを有したもの)に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置Kは、図21に示すように、車両に配設されて任意にエンジンEの駆動力をミッションMを介して駆動輪T側へ伝達し又は遮断するためのもので、図1~17に示すように、車両のエンジンEの駆動力で回転する入力ギア1(入力部材)が形成されたクラッチハウジング2と、ミッションMに接続された出力シャフト3(出力部材)と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)と、プレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、ウェイト部材10を具備した遠心クラッチ手段9と、補助クラッチ板17とを有して構成されている。
【0019】
入力ギア1は、エンジンEから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベット等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、図2、3中右端側が開口した円筒状部材から成るとともに入力ギア1と連結して構成されており、エンジンEの駆動力により入力ギア1の回転と共に回転し得るようになっている。
【0020】
また、クラッチハウジング2は、図4に示すように、周方向に亘って複数の切欠き2aが形成されており、これら切欠き2aに嵌合して複数の駆動側クラッチ板6が取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(図2、3中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。
【0021】
クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)は、クラッチハウジング2の駆動側クラッチ板6と交互に形成された複数の被動側クラッチ板7が取り付けられるとともに、車両のミッションMを介して駆動輪Tを回転させ得る出力シャフト3(出力部材)と連結されたものであり、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの2つの部材を組み付けて構成されている。
【0022】
第1クラッチ部材4aは、その中央に形成された挿通孔(図5、6参照)に出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたギアが噛み合って回転方向に連結されるよう構成されている。かかる第1クラッチ部材4aには、図5、6に示すように、圧接アシスト用カムを構成する勾配面4aaと、バックトルクリミッタ用カムを構成する勾配面4abとが形成されている。なお、同図中符号4acは、第1クラッチ部材4aと固定部材8とを連結するためのボルトBの挿通穴が形成されたボス部を示している。
【0023】
第2クラッチ部材4bは、図7、8に示すように、フランジ部4bbが形成された円環状部材から成るもので、外周面に形成されたスプライン嵌合部4baに被動側クラッチ板7がスプライン嵌合にて取り付けられるよう構成されている。そして、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)には、図2、3に示すように、プレッシャ部材5が組み付けられ、当該プレッシャ部材5のフランジ部5cと第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbとの間に複数の駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が交互に積層状態にて取り付けられるようになっている。
【0024】
プレッシャ部材5は、図9、10に示すように、周縁部に亘ってフランジ部5cが形成された円板状部材から成るもので、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なものである。
【0025】
より具体的には、第2クラッチ部材4bに形成されたスプライン嵌合部4baは、図7、8に示すように、当該第2クラッチ部材4bの外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプライン嵌合部4baを構成する凹溝に被動側クラッチ板7が嵌合することにより、被動側クラッチ板7の第2クラッチ部材4bに対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該第2クラッチ部材4bと共に回転し得るよう構成されているのである。
【0026】
かかる被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板6、7が圧接又は圧接力の解放が可能なようになっている。すなわち、両クラッチ板6、7は、第2クラッチ部材4bの軸方向への摺動が許容されており、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)が圧接されてクラッチがオンすることにより、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4b及び第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となり、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)の圧接力が解放されてクラッチがオフすることにより、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0027】
しかして、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンEの駆動力)を出力シャフト3(出力部材)を介して駆動輪側(ミッションM)に伝達するとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンEの駆動力)が出力シャフト3(出力部材)に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0028】
また、プレッシャ部材5は、図9、10に示すように、嵌入穴5dが周方向に亘って複数(本実施形態においては3つ)形成されており、それぞれの嵌入穴5dにクラッチスプリングSが嵌入されている。かかるクラッチスプリングSは、図2に示すように、嵌入穴5d内に収容されつつ一端が固定部材8に当接しており、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接する方向に付勢されている。そして、図示しないクラッチ操作手段を操作することにより、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接又は圧接の解放を行わせ得るようになっている。
【0029】
さらに、本実施形態においては、図5、6、9、10に示すように、第1クラッチ部材4aには、勾配面4aa及び4abが形成されるとともに、プレッシャ部材5には、これら勾配面4aa及び4abと対峙する勾配面5a、5bが形成されている。すなわち、勾配面4aaと勾配面5aとが当接して圧接アシスト用カムを成すとともに、勾配面4abと勾配面5bとが当接してバックトルクリミッタ用カムを成しているのである。
【0030】
そして、エンジンEの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(ウェイト部材10が外径側位置)となったときに、図20(a)に示すように、プレッシャ部材5にはa方向の回転力が付与されるため、圧接アシスト用カムの作用により、当該プレッシャ部材5には同図中c方向への力が発生する。これにより、プレッシャ部材5は、そのフランジ部5cが第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbに対して更に近接する方向(図2、3中左側)に移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるようになっている。
【0031】
一方、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、図20(b)に示すように、クラッチ部材4にはb方向の回転力が付与されるため、バックトルクリミッタ用カムの作用により、プレッシャ部材5を同図中d方向へ移動させて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置Kや動力源(エンジンE側)に対する不具合を回避することができる。
【0032】
遠心クラッチ手段9は、図11~19に示すように、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(図18参照)から外径側位置(図19参照)に移動可能とされたウェイト部材10を具備したもので、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材10が内径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断し得るよう構成されている。
【0033】
具体的には、遠心クラッチ手段9は、駒状部材で構成されたウェイト部材10と、支持部材13が取り付けられた保持部材11と、圧接部材12と、第1球状部材14と、第2球状部材15と、コイルスプリングから成る付勢部材16とを有して構成されている。なお、保持部材11及び圧接部材12は、周方向に亘って複数の突起部が形成されており、駆動側クラッチ板6と同様、クラッチハウジング2の切欠き2aに嵌合して取り付けられている。これにより、保持部材11及び圧接部材12は、それぞれクラッチハウジング2の軸方向に移動可能とされるとともに、回転方向に係合して当該クラッチハウジング2と共に回転可能とされている。
【0034】
ウェイト部材10は、図16に示すように、一方の面X及び他方の面Yを有する駒状部材から成り、同図及び図17に示すように、一方の面Xから他方の面Yまで貫通して形成された貫通孔10aと、他方の面Yに形成された挿通部10bと、一方の面Xに形成された溝10cとを有して構成されている。かかるウェイト部材10は、図18、19に示すように、保持部材11の収容部11aに収容されており、遠心力が付与されない状態で内径側位置(図18参照)に保持されるとともに、遠心力が付与されることにより付勢部材16の付勢力に抗して外側に移動し、外径側位置(図19参照)に至るようになっている。
【0035】
保持部材11は、ウェイト部材10を内径側位置と外径側位置との間で移動可能に保持するもので、図13に示すように、円環状部材から成り、周方向に亘って複数形成されるとともにウェイト部材10を収容する収容部11aと、収容部11a内に形成された溝形状11bと、押圧面11cとを有して構成されている。各収容部11aは、ウェイト部材10の形状及び移動範囲に合致した凹形状から成り、その内周壁面11aaには、付勢部材16の一端が当接し得るよう構成されている。
【0036】
また、保持部材11における収容部11aが形成された面には、支持部材13が固定されている。かかる支持部材13は、図14に示すように、径方向に形成された保持部13aが形成されており、かかる保持部13aがウェイト部材10の溝10cと合致することによりウェイト部材10が保持部材11に保持されている。すなわち、ウェイト部材10は、その一方の面Xの中央位置において内径側位置から外径側位置に向かう方向に溝10cが形成されており、当該溝10cに保持部13aを合致させることにより、径方向(内径側位置から外径側位置に向かう方向)に移動可能に保持されているのである。
【0037】
圧接部材12は、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の積層方向(図2、3中右側)に移動して当該駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるものである。具体的には、圧接部材12は、図15に示すように、円環状部材から成り、周方向に亘って複数形成された勾配溝12aと、勾配溝12aが形成された位置にそれぞれ形成された溝形状12bと、押圧面12cとを有して構成されている。
【0038】
勾配溝12aは、ウェイト部材10に対応した位置にそれぞれ形成されており、内側から外側に向かって上り勾配とされている。これにより、クラッチハウジング2が停止した状態ではウェイト部材10を付勢部材16の付勢力にて内径側位置に保持させるとともに、クラッチハウジング2が回転すると、ウェイト部材10に遠心力が付与されて上り勾配の勾配溝12aに沿うことによって、圧接部材12が保持部材11から離間する方向(すなわち、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接させる方向)に移動するようになっている。
【0039】
しかして、ウェイト部材10を介在させつつ保持部材11及び圧接部材12が組み付けられると、図11、12に示すように、各ウェイト部材10に対応して勾配溝12aが位置することとなり、遠心力によってウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に向かい勾配溝12aに沿うことによって、圧接部材12が図11中矢印方向(図中右側)に移動し、当該圧接部材12に形成された押圧面12cが駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を押圧して圧接状態とするとともに、保持部材11がその反力で図11中矢印とは反対方向(図中左側)に移動し、当該保持部材11に形成された押圧面11cが補助クラッチ板17を圧接する。
【0040】
本実施形態に係るウェイト部材10は、図18、19に示すように、保持部材11の周方向に亘って複数形成された収容部11aにそれぞれ収容されて放射状方向に移動可能とされるとともに、付勢部材16は、収容部11aの内周壁面11aa(図13参照)とウェイト部材10との間において周方向に複数ずつ(本実施形態においては2つずつ)配設されてウェイト部材10を外径側位置から内径側位置に向かって付勢している。ここで、収容部11aの内周壁面11aaは、付勢部材16の一端と当接した平坦な面とされており、付勢部材16を安定した状態で取り付け可能とされている。
【0041】
また、本実施形態に係るウェイト部材10は、保持部材11と対峙する面(図17における他方の面Y)を開口させつつ付勢部材16を挿通して取り付け可能なトンネル状の挿通部10bが形成されている。そして、挿通部10bに付勢部材16を挿入した状態のウェイト部材10を保持部材11の収容部11aに収容させることにより、付勢部材16が収容部11aの内周壁面11aaとウェイト部材10との間に介在して取り付けられることとなる。なお、付勢部材16は、一端が内周壁面11aaに当接しつつ他端が挿通部10bの端部壁面10baに当接して配設されており、ウェイト部材10を外径側位置から内径側位置に向かって付勢し得るようになっている。
【0042】
第1球状部材14は、ウェイト部材10に取り付けられた鋼球から成り、図16、17に示すように、ウェイト部材10に形成された貫通孔10aの一方の開口10aa(一方の面X側の小径の開口)から一部を突出させて圧接部材12の転動面に接触して転動可能とされている。また、第2球状部材15は、ウェイト部材10に取り付けられた鋼球から成り、図16、17に示すように、ウェイト部材10に形成された貫通孔10aの他方の開口10ab(他方の面Y側の大径の開口)から一部を突出させて保持部材11の転動面に接触して転動可能とされている。
【0043】
本実施形態に係る貫通孔10aは、図17に示すように、一方の開口10aa(一方の面X側の小径の開口)から他方の開口10ab(他方の面Y側の大径の開口)に亘って連続的に径が大きくなる如くテーパ状に形成されるとともに、第1球状部材14は、当該一方の開口10aa及び他方の開口10abのうち小径の開口(本実施形態においては一方の面X側の一方の開口10aa)の外周縁部にて抜け止めされている。すなわち、本実施形態に係る第1球状部材14及び第2球状部材15は、貫通孔10aの内径に応じた互いに異なる径の球状部材(第1球状部材14より第2球状部材15の方が大径の部材)から成り、小径の第1球状部材14が貫通孔10aの小径側の開口縁部にて抜け止めが図られつつ当該貫通孔10aの内周面にそれぞれ接触した状態で転動可能とされている。
【0044】
一方、第2球状部材15は、図11、12に示すように、保持部材11の転動面にて抜け止めされている。これにより、小径の第1球状部材14は、貫通孔10aの小径側の開口縁部にて抜け止めされるとともに、大径の第2球状部材15は、貫通孔10aの大径側の開口から一部が突出しつつ保持部材11の転動面にて抜け止めされているのである。なお、本実施形態においては、大径の第2球状部材15が保持部材11の転動面と対峙して組み付けられているが、当該第2球状部材15が圧接部材12の転動面と対峙して組み付けられてもよい。この場合、小径の第1球状部材14は、貫通孔10aの小径側の開口縁部にて抜け止めされるとともに、大径の第2球状部材15は、貫通孔10aの大径側の開口から一部が突出しつつ圧接部材12の転動面にて抜け止めされこととなる。
【0045】
しかるに、保持部材11の転動面(本実施形態においては第2球状部材15の転動面)は、図13に示すように、ウェイト部材10の移動方向(内径側位置と外径側位置とを結ぶ方向)に沿った溝形状11bから成るとともに、圧接部材12の転動面(本実施形態においては第1球状部材14の転動面)は、図15に示すように、ウェイト部材10の移動方向(内径側位置と外径側位置とを結ぶ方向)に沿った溝形状12bから成る。
【0046】
さらに、本実施形態に係る第1球状部材14及び第2球状部材15は、図16、18、19に示すように、それぞれ保持部材11の周方向(ウェイト部材10の幅方向)に亘って複数(本実施形態においては第1球状部材14及び第2球状部材15がそれぞれ2つ)形成されており、ウェイト部材10の移動に伴って第1球状部材14及び第2球状部材15がそれぞれ貫通孔10a内で転動しつつ溝形状11b、12bに沿って移動し得るようになっている。
【0047】
補助クラッチ板17は、クラッチハウジング2内に配設され、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7とは異なる径(本実施形態においては、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7より小径)の円環状部材から成り、図2、3に示すように、その中央開口17aに出力シャフト3(出力部材)が挿通されて嵌合状態とされるとともに、保持部材11の押圧面11cと対峙した被押圧面17bを有して構成されている。
【0048】
かかる補助クラッチ板17は、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき(すなわち、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接状態のとき)、保持部材11に形成された押圧面11cにて押圧されて圧接されると、エンジンEの駆動力を出力シャフト3に伝達し得るようになっている。また、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき(すなわち、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接力が解放状態のとき)、保持部材11に形成された押圧面11cによる押圧力が低下して圧接力が解放されると、エンジンEの駆動力が出力シャフト3に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0049】
すなわち、ウェイト部材10が外径側位置に移動すると、勾配溝12aがカムとして機能し、保持部材11及び圧接部材12が互いに離間する方向に移動する。これにより、圧接部材12の押圧面12cが駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接するとともに、保持部材11の押圧面11cが補助クラッチ板17の被押圧面17bを押圧して圧接するので、エンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達されることとなる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る第1クラッチ部材4aは、図5、6に示すように、プレッシャ部材5と対峙する面の一部に当接面4adが形成されるとともに、プレッシャ部材5は、図9、10に示すように、第1クラッチ部材4aと対峙する面の一部に当接面5eが形成されており、第1クラッチ部材4a、第2クラッチ部材4b及びプレッシャ部材5が組み付けられた状態(入力ギア1(入力部材)から出力シャフト3(出力部材)への伝達トルクがない状態)において、図2、3に示すように、当接面4adと当接面5eとが当接した状態とされている。
【0051】
このように、当接面4adと当接面5eとが当接した状態では、遠心クラッチ手段9のウェイト部材10が内径側位置(図22参照)から中間位置(図23参照)に移動して入力ギア1(入力部材)から出力シャフト3(出力部材)への伝達トルクが増加する過程において、第1クラッチ部材4aとプレッシャ部材5との間の相対移動が許容されないので、圧接アシスト用カムの作動は規制されることとなる。
【0052】
その後、遠心クラッチ手段9のウェイト部材10が中間位置(図23参照)から外径側位置(図24参照)に向かって更に移動し、第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbに押圧されて駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接されるとともに、当該フランジ部4bbの押圧力がクラッチスプリングSの付勢力以上になると、第1クラッチ部材4aに対して第2クラッチ部材4b及びプレッシャ部材5を軸方向(図2、3中右方向)に移動させ、第1クラッチ部材4aの当接面4adとプレッシャ部材5の当接面5eを離間させることとなる。なお、図25は、ウェイト部材10が外径側位置にあり、プレッシャ部材5が非作動位置にある状態(クラッチオフ状態)を示している。
【0053】
このように、当接面4adと当接面5eとが離間した状態では、遠心クラッチ手段9のウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動して入力ギア1(入力部材)から出力シャフト3(出力部材)への伝達トルクが増加する過程において、第1クラッチ部材4aとプレッシャ部材5との間の相対移動が許容されるので、圧接アシスト用カムの作動は許容されることとなる。
【0054】
すなわち、本実施形態によれば、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接時に補助クラッチ板17を圧接してエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力の解放時に補助クラッチ板17の圧接力を解放してエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断するよう構成されているのである。
【0055】
より具体的には、本実施形態においては、ウェイト部材10を具備した遠心クラッチ手段9が配設されており、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させると同時に補助クラッチ板17を圧接してエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材10が内径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させると同時に補助クラッチ板17の圧接力を解放してエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断し得るよう構成されている。
【0056】
特に、本実施形態においては、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき、圧接部材12及び保持部材11が互いに離間する方向に移動するとともに、圧接部材12が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるとともに、保持部材11が補助クラッチ板17を圧接するようになっている。なお、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき、圧接部材12及び保持部材11が互いに離間する方向に移動するとともに、保持部材11が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるとともに、圧接部材12が補助クラッチ板17を圧接するよう遠心クラッチ手段9を配設するようにしてもよい。
【0057】
本実施形態によれば、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7とは異なる径の補助クラッチ板17がクラッチハウジング2に配設され、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接時に補助クラッチ板17を圧接してエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力の解放時に補助クラッチ板17の圧接力を解放してエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断するので、装置の軸方向の大型化を回避しつつクラッチ容量を増加させることができる。
【0058】
特に、本実施形態に係る補助クラッチ板17は、クラッチハウジング2内において、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の積層部位(多板クラッチ部)より内径側に配設されたので、装置の軸方向に加え、装置の軸方向と直交する方向の大型化を回避しつつクラッチ容量を増加させることができるとともに、クラッチハウジング2内における内径側のスペースを有効活用することができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させると同時に補助クラッチ板17を圧接してエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材10が内径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させると同時に補助クラッチ板17の圧接力を解放してエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段9を有するので、遠心クラッチ手段9によって、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接又は圧接力の解放に加え、補助クラッチ板17の圧接又は圧接力の解放を行わせることができる。
【0060】
さらに、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき、圧接部材12及び保持部材11の一方が駆動側クラッチ板7と被動側クラッチ板12とを圧接させるとともに、圧接部材12及び保持部材11の他方が補助クラッチ板17を圧接するので、遠心クラッチ手段9を構成する圧接部材12及び保持部材11によって、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接又は圧接力の解放に加え、補助クラッチ板17の圧接又は圧接力の解放を行わせることができる。
【0061】
しかるに、本実施形態に係る動力伝達装置Kによれば、遠心クラッチ手段9におけるウェイト部材10の貫通孔10aは、一方の開口10aaから他方の開口10abに亘ってテーパ状に形成されるとともに、第1球状部材14は、当該一方の開口10aa及び他方の開口10abのうち小径の開口の外周縁部にて抜け止めされたので、ウェイト部材10に第1球状部材14を簡易且つ正確に取り付けることができ、製造コストを低減させることができる。
【0062】
また、第1球状部材14及び第2球状部材15は、貫通孔10aの内径に応じた互いに異なる径の球状部材から成り、当該貫通孔10aの内周面にそれぞれ接触した状態で転動可能とされたので、ウェイト部材10の移動時に第1球状部材14及び第2球状部材15を安定して転動させることができ、円滑な移動を図ることができる。さらに、本実施形態に係る第2球状部材15は、保持部材11又は圧接部材12の転動面にて抜け止めされたので、保持部材11及び圧接部材12を組み付けることにより第1球状部材14及び第2球状部材15の抜け止めを容易に行わせることができる。
【0063】
またさらに、保持部材11又は圧接部材12の転動面は、ウェイト部材10の移動方向に沿った溝形状(11b、12b)から成るので、大径の開口側における第2球状部材15の抜け止め及び小径の開口側における第1球状部材14の抜け止めをそれぞれ確実に行わせつつウェイト部材10のより円滑な移動を図ることができる。
【0064】
加えて、本実施形態に係るウェイト部材10は、保持部材11の周方向に亘って複数形成された収容部11aにそれぞれ収容されて放射状方向に移動可能とされるとともに、付勢部材16は、収容部11aの内周壁面11aaとウェイト部材10との間において周方向に複数ずつ配設されてウェイト部材10を外径側位置から内径側位置に向かって付勢したので、ウェイト部材10を外径側位置から内径側位置に向かって精度よく付勢することができ、遠心力に応じてウェイト部材10を安定して移動させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係るウェイト部材10は、保持部材11と対峙する面を開口させつつ付勢部材16を挿通して取り付け可能な挿通部10bが形成されたので、ウェイト部材10に対する付勢部材16の組み付けを容易に行わせることができる。さらに、本実施形態に係るウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に向かう方向に溝10cが形成されるとともに、保持部材11(具体的には、保持部材11に固定されて一体化された支持部材13)は、溝10cに合致してウェイト部材10を保持する保持部13aが形成されたので、ウェイト部材10の移動を安定して行わせることができる。
【0066】
またさらに、本実施形態に係る遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10に形成された貫通孔10aの一方の開口10aaから一部を突出させて保持部材11の転動面(溝形状11b)に接触して転動可能とされた第1球状部材14と、ウェイト部材10に形成された貫通孔10aの他方の開口10abから一部を突出させて圧接部材12の転動面(溝形状12b)に接触して転動可能とされた第2球状部材15とを具備して構成されたので、ウェイト部材10の移動をより安定して行わせることができる。
【0067】
特に、保持部材11又は圧接部材12は、ウェイト部材10の移動方向に沿った溝形状(11b、12b)を有し、当該溝形状(11b、12b)が第1球状部材14又は第2球状部材15の転動面とされたので、ウェイト部材10の移動をより円滑に行わせることができる。さらに、本実施形態に係る第1球状部材14及び第2球状部材15は、それぞれ保持部材11の周方向(ウェイト部材10の幅方向)に亘って複数形成されたので、より一層安定したウェイト部材10の移動を図ることができる。
【0068】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば、図26に示すように、補助クラッチ板17が複数のクラッチ板から成るものであってもよい。この場合、出力シャフト3に連結された補助クラッチ板17に加え、第1補助クラッチ板17c及び第2補助クラッチ板17dを具備して多板クラッチを構成するとともに、遠心クラッチ手段9のウェイト部材10が外径側位置に移動して保持部材11が移動すると、当該保持部材11の押圧面11cにより第2クラッチ板17dが押圧されて補助クラッチ板17、第1補助クラッチ板17c及び第2補助クラッチ板17dを圧接し、エンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とする。このように、補助クラッチ板17が複数のクラッチ板から成るものとすれば、補助クラッチ板17(第1補助クラッチ板17c及び第2補助クラッチ板17dを含む多板クラッチ)のクラッチ容量を任意に増加させることができる。
【0069】
また、図27に示すように、補助クラッチ板17が複数のクラッチ板(第1補助クラッチ板17c及び第2補助クラッチ板17dを含む多板クラッチ)から成り、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の積層部位とクラッチハウジング2の軸方向Xにオーバーラップしたものであってもよい。このように、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の積層部位と補助クラッチ板17とが、クラッチハウジング2の軸方向Xにオーバーラップして配設されることにより、装置の軸方向Xの大型化を確実に回避することができる。
【0070】
さらに、図28に示すように、補助クラッチ板17が複数のクラッチ板から成り、遠心クラッチ手段に代えて連動部材18を有したもの、図29に示すように、補助クラッチ板17が複数のクラッチ板から成り、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の積層部位とオーバーラップしたものであって、遠心クラッチ手段に代えて連動部材18を有したもの、及び図30に示すように、補助クラッチ板17が複数のクラッチ板から成るものであって、遠心クラッチ手段に代えて連動部材18を有し、且つ、圧接アシスト用カム及びバックトルクリミッタ用カムを有したものであってもよい。なお、連動部材18は、プレッシャ部材5が作動して駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接される際、その圧接力にて補助クラッチ板17側に移動して当該補助クラッチ板17を圧接するものである。
【0071】
しかるに、本実施形態においては、第2球状部材15は、保持部材11(又は圧接部材12)の転動面(溝形状11a)にて抜け止めされているが、かしめ等、他の抜け止め手段及び方法にて抜け止めされていてもよい。さらに、本実施形態においては、第1クラッチ部材4a、第2クラッチ部材4b及びプレッシャ部材5が組み付けられた状態(入力ギア1(入力部材)から出力シャフト3(出力部材)への伝達トルクがない状態)において、当接面4adと当接面5eとが当接した状態とされているが、これら当接面4ad及び当接面5eを有さず、離間した状態のものでもよい。なお、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板とは異なる径の補助クラッチ板がクラッチハウジングに配設され、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接時に補助クラッチ板を圧接してエンジンの駆動力を車輪に伝達可能な状態とするとともに、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力の解放時に補助クラッチ板の圧接力を解放してエンジンの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断する動力伝達装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 入力ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング
2a 切欠き
3 出力シャフト(出力部材)
4a 第1クラッチ部材
4aa 勾配面(圧接アシスト用カム)
4ab 勾配面(バックトルクリミッタ用カム)
4ac ボス部
4ad 当接面
4b 第2クラッチ部材
4ba スプライン嵌合部
4bb フランジ部
5 プレッシャ部材
5a 勾配面(圧接アシスト用カム)
5b 勾配面(バックトルクリミッタ用カム)
5c フランジ部
5d 嵌入穴
5e 当接面
6 駆動側クラッチ板
7 被動側クラッチ板
8 固定部材
9 遠心クラッチ手段
10 ウェイト部材
10a 貫通孔
10b 挿通部
10aa 一方の開口
10ab 他方の開口
10ba 端部壁面
10c 溝
11 保持部材
11a 収容部
11aa 内周壁面
11b 溝形状
11c 押圧面
12 圧接部材
12a 勾配溝
12b 溝形状
12c 押圧面
13 支持部材
13a 保持部
14 第1球状部材
15 第2球状部材
16 付勢部材
17 補助クラッチ板
17a 中央開口
17b 被押圧面
17c 第1補助クラッチ板
17d 第2補助クラッチ板
18 連動部材
S クラッチスプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30