(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083401
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】非破壊検査方法と装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/22 20180101AFI20240614BHJP
【FI】
G01N23/22
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056673
(22)【出願日】2024-03-29
(62)【分割の表示】P 2023072109の分割
【原出願日】2018-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2018076651
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集第17巻(平成29年10月12日発行)第659~664頁に発表 (2)平成29年10月13日京都テルサにおいて開催された「第17回 コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム」で発表(添付書面「第17回 コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム」についての参加者のしおり) (3)平成29年12月21日理化学研究所鈴木梅太郎記念ホールにおいて開催された「平成29年度 理研シンポジウム:小型中性子源RANSが拓く中性子利用と大型施設との連携」で発表(添付書面1 「平成29年度 理研シンポジウム:小型中性子源RANSが拓く中性子利用と大型施設との連携」のプログラム 添付書面2 「中性子捕獲即発ガンマ線を用いたコンクリート構造物中の非破壊塩分測定」 (4)平成29年11月29日及び平成29年11月30日仙台市中小企業活性化センターにおいて開催された『理研シンポジウム 第5回「光量子工学研究」』で発表(添付書面1 『理研シンポジウム 第5回「光量子工学研究」』のプログラム 添付書面2 小型中性子源および即発ガンマ線を用いたコンクリート構造物内塩分濃度分布の非破壊計測) (5)平成29年12月3日福岡大学七隅キャンパスにおいて開催された「中性子科学会 第17回年会」で発表(添付書面1 「中性子科学会 第17回年会」のプログラム 添付書面2 理研小型中性子源RANSを用いたコンクリート構造物中の非破壊塩分濃度分布測定手法の開発)
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】若林 泰生
(72)【発明者】
【氏名】大竹 淑恵
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕二郎
(57)【要約】
【課題】検査対象物を破壊することなく、検査対象物内に存在する対象成分の深さ、および、その濃度を評価できる技術を提供する。
【解決手段】非破壊検査装置20は、検査対象物1に中性子線を入射し、中性子線により発生したガンマ線のうち検査対象物1内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出し、検出結果に基づいて対象成分が存在する深さを検出する。非破壊検査装置20は、検査対象物1の表面1aへパルス中性子線を照射する中性子源3と、検査対象物1へのパルス中性子線の入射により生じた特定ガンマ線を検出するガンマ線検出装置5と、基準時点に対する、特定ガンマ線を検出した時点を特定する時点特定部15とを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速中性子を含むパルス中性子線を、鉄筋を内部に含むコンクリート構造物に入射し、前記パルス中性子線に基づいて発生した特定ガンマ線を検出及び同定し、当該検出の結果に基づいて、前記コンクリート構造物内において前記鉄筋の腐食を引き起こす塩分としての塩素Clの存在深さを導出するための非破壊検査装置であって、
前記コンクリート構造物の表面へ前記パルス中性子線を照射する中性子源と、
前記パルス中性子線が前記コンクリート構造物内の前記塩素Clと反応することにより発生した前記特定ガンマ線を検出するガンマ線検出装置と、
基準時点に対する、前記特定ガンマ線を検出した時点を特定する時点特定部と、
前記コンクリート構造物において前記塩素Clが存在する深さと、前記コンクリート構造物に前記高速中性子を入射させた場合に前記特定ガンマ線が検出される時点との関係を表わす高速中性子用の深さデータを記憶する深さデータ記憶部と、
前記高速中性子用の深さデータと、前記時点特定部が特定した時点とに基づいて、前記塩素Clが存在する深さを求める深さ検出部と、を備える、非破壊検査装置。
【請求項2】
前記中性子源は、熱中性子と高速中性子のうち高速中性子のみをコンクリート構造物に照射する、請求項1に記載の非破壊検査装置。
【請求項3】
前記中性子源は、熱中性子と高速中性子を前記コンクリート構造物に照射し、
前記深さデータ記憶部は、前記コンクリート構造物において前記塩素Clが存在する深さと、前記コンクリート構造物に前記熱中性子を入射させた場合に前記特定ガンマ線が検出される時点との関係を表わす熱中性子用の深さデータを記憶し、
前記深さ検出部は、前記時点特定部が特定した前記時点のうちの先の時点と前記高速中性子用の深さデータとに基づいて、前記塩素Clが存在する深さを求め、前記時点特定部が特定した前記時点のうちの後の時点と前記熱中性子用の深さデータとに基づいて、前記塩素Clが存在する深さを求める、請求項1に記載の非破壊検査装置。
【請求項4】
前記コンクリート構造物における各深さについて、前記特定ガンマ線の検出強度と前記塩素Clの濃度との関係を表わす濃度データを記憶する濃度データ記憶部と、
求めた深さと、前記濃度データ記憶部に記憶されている濃度データと、前記特定ガンマ線の検出強度とに基づいて、当該深さでの前記塩素Clの濃度を求める濃度評価部とを備える、請求項2に記載の非破壊検査装置。
【請求項5】
高速中性子を含むパルス中性子線を、鉄筋を内部に含むコンクリート構造物に入射し、前記パルス中性子線に基づいて発生した特定ガンマ線を検出及び同定し、当該検出の結果に基づいて、前記コンクリート構造物内において前記鉄筋の腐食を引き起こす塩分としての塩素Clの存在深さを導出するための非破壊検査方法であって、
前記コンクリート構造物の表面へ前記パルス中性子線を照射する照射工程と、
前記パルス中性子線が前記コンクリート構造物内の前記塩素Clと反応することにより発生した前記特定ガンマ線を検出するガンマ線検出工程と、
基準時点に対する、前記特定ガンマ線を検出した時点を特定する時点特定工程と、
前記コンクリート構造物において前記塩素Clが存在する深さと、前記コンクリート構造物に前記高速中性子を入射させた場合に前記特定ガンマ線が検出される時点との関係を表わす高速中性子用の深さデータと、前記時点特定工程で特定された時点に基づいて、前記塩素Clが存在する深さを求める深さ検出工程と、を有する、非破壊検査方法。
【請求項6】
前記照射工程では、熱中性子と高速中性子のうち高速中性子のみを前記コンクリート構造物に照射する、請求項5に記載の非破壊検査方法。
【請求項7】
前記照射工程では、熱中性子と高速中性子を前記コンクリート構造物に照射し、
前記コンクリート構造物において前記塩素Clが存在する深さと、前記コンクリート構造物に前記熱中性子を入射させた場合に前記特定ガンマ線が検出される時点との関係を表わす熱中性子用の深さデータと、前記高速中性子用の深さデータを予め求め、
前記深さ検出工程では、前記時点特定工程で特定した前記時点のうちの先の時点と前記高速中性子用の深さデータとに基づいて、前記塩素Cl分が存在する深さを求め、前記時点特定工程で特定した前記時点のうちの後の時点と前記熱中性子用の深さデータとに基づいて、前記塩素Clが存在する深さを求める、請求項6に記載の非破壊検査方法。
【請求項8】
前記コンクリート構造物における各深さについて前記特定ガンマ線の検出強度と前記塩素Clの濃度との関係を表す濃度データと、求めた深さと、前記特定ガンマ線の検出強度とに基づいて前記塩素Clの濃度を求める濃度評価工程を有する、請求項6に記載の非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物内において対象成分が存在する位置の深さ、および、その深さにおける対象成分の濃度を非破壊的に求めるための非破壊検査方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や橋梁などのインフラストラクチャー構造物(インフラ構造物という)の劣化要因のひとつに塩害がある。例えば、沿岸からの海風に含まれる塩分や、寒冷地や山間部で散布される凍結防止剤に含まれる塩分が、例えばインフラ構造物であるコンクリート構造物に浸透し、コンクリート構造物内の鉄筋の周囲において、塩化物イオン濃度(以下、塩分濃度)が限界値(1.2~2.5kg/m3の範囲内の値)を超えると、鉄筋の腐食が始まり、進行する事でコンクリート構造物が劣化してしまう。
【0003】
コンクリート構造物を安全に維持するために、コンクリート構造物の劣化状態を把握する検査が行われている。従来の検査では、コンクリート構造物の一箇所において、表面から鉄筋付近までのコンクリート(コアという)を削り出し、削り出したコアに対して蛍光X線分析、電子線マイクロアナライザ分析、電位差滴定法などを行うことにより、塩分濃度を測定する。これにより、コンクリート構造物の表面から鉄筋付近の深さまでの各位置での塩分濃度を測定し、コンクリート構造物の劣化状況を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コアを採取し、その塩分濃度を測定するには、次の問題(1)~(3)がある。(1)コンクリート構造物の一部を破壊してコアを採取するので、コア採取の箇所が制限される。(2)コアの採取や測定の前処理に時間がかかる。(3)コンクリート構造物における一箇所から採取したコアに対して塩分濃度を測定した後、同じ箇所について塩分濃度を再び測定できない。したがって、同じ個所の劣化状況の経年変化を把握できない。
【0006】
なお、特許文献1には、電磁波を用いてコンクリート内の塩分濃度を求める技術が記載されているが、塩分が存在する位置の深さを求めることは開示されていない。
【0007】
したがって、検査対象物内に存在する対象成分(例えば塩分)の位置の深さを非破壊的に検出できる技術が望まれる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、検査対象物を破壊することなく、検査対象物内に存在する対象成分の深さを検出できる技術、および、その深さにおける対象成分の濃度評価ができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様による非破壊検査方法では、
(A)検査対象物に中性子線を入射し、
(B)前記中性子線により発生したガンマ線のうち、検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出し、
(C)当該検出の結果に基づいて対象成分が存在する深さを示す指標値を生成し、
前記(B)において、エネルギーが異なる複数種類の特定ガンマ線の強度を、検出強度としてそれぞれ検出し、
前記(C)において、複数種類の特定ガンマ線の前記検出強度同士の比率を前記指標値として求める。
【0010】
また、本発明の1つの態様による非破壊検査装置は、検査対象物に中性子線を入射し、前記中性子線により発生したガンマ線のうち検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出及び同定し、当該検出の結果に基づいて対象成分が存在する深さを導出するための装置であって、
検査対象物の表面へ中性子線を照射する中性子源と、
エネルギーが異なる複数種類の特定ガンマ線の強度を、検出強度としてそれぞれ検出するガンマ線検出装置と、
複数種類の特定ガンマ線の前記検出強度同士の比率を求める比率算出部とを備える。
【0011】
本発明の別の態様による非破壊検査方法では、
(A)検査対象物にパルス中性子線を入射し、
(B)前記パルス中性子線により発生したガンマ線のうち検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出し、
(C)当該検出の結果に基づいて、基準時点に対する、前記(B)において特定ガンマ線が検出された時点を特定する。
【0012】
また、本発明の別の態様による非破壊検査装置は、検査対象物にパルス中性子線を入射し、前記パルス中性子線により発生したガンマ線のうち検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出及び同定し、当該検出の結果に基づいて対象成分が存在する深さを導出するための装置であって、
検査対象物の表面へパルス中性子線を照射する中性子源と、
検査対象物へのパルス中性子線の入射により生じた特定ガンマ線を検出するガンマ線検出装置と、
基準時点に対する、特定ガンマ線を検出した時点を特定する時点特定部と、を備える。
【0013】
本発明の別の態様による非破壊検査方法は、検査対象物に中性子源から中性子線を入射し、前記中性子線により発生したガンマ線のうち検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出及び同定し、当該検出の結果に基づいて対象成分が存在する深さを得るための非破壊検査方法であって、
(A)ガンマ線検出装置を用意し、該ガンマ線検出装置は、特定ガンマ線を検出するガンマ線検出器と、ガンマ線遮蔽部とを備え、前記ガンマ線遮蔽部には、ガンマ線通過穴が形成されており、該ガンマ線通過穴は、ガンマ線が進入可能な開口を有し、該ガンマ線通過穴において前記開口から奥側にずれた位置に前記ガンマ線検出器が配置され、前記開口と前記ガンマ線検出器とは基準直線上に位置しており、
(B)前記中性子源から放出される中性子線の経路と前記基準直線の延長線とが検査対象物の内部において交差するように、前記中性子源と前記ガンマ線検出器と前記ガンマ線遮蔽部を配置し、
(C)前記(B)の状態で、前記中性子源から前記検査対象物に中性子線を入射し、これにより発生したガンマ線を前記ガンマ線検出器により検出し、
(D)前記ガンマ線検出器が前記(C)で得た検出データに基づいて、特定ガンマ線の検出回数を求める。
【0014】
また、本発明の別の態様による非破壊検査装置は、検査対象物に中性子線を入射し、前記中性子線により発生したガンマ線のうち検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出及び同定し、当該検出の結果に基づいて対象成分が存在する深さを導出するための非破壊検査装置であって、
検査対象物の表面へ中性子線を照射する中性子源と、
検査対象物への中性子線の入射により生じた特定ガンマ線を検出するガンマ線検出装置と、を備え、
前記ガンマ線検出装置は、特定ガンマ線を検出するためのガンマ線検出器と、ガンマ線遮蔽部とを備え、
前記ガンマ線遮蔽部には、ガンマ線通過穴が形成されており、該ガンマ線通過穴は、ガンマ線が進入可能な開口を有し、該ガンマ線通過穴において前記開口から奥側にずれた位置に前記ガンマ線検出器が配置され、前記開口と前記ガンマ線検出器とは基準直線上に位置している。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、検査対象物を破壊することなく、検査対象物内に存在する対象成分の深さの検出、および、その深さにおける対象成分の濃度評価ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態による非破壊検査装置の構成を示す。
【
図2】中性子源から放出される中性子線のエネルギースペクトルの一例を示す。
【
図3】実験においてガンマ線検出器が検出した特定ガンマ線の計数率R
γ(回/秒)と、塩分濃度との関係を示す。
【
図4】コンクリートに対する複数種類のガンマ線の透過率の理論計算値を比率で表わす。
【
図5】第1実施形態による対象成分の深さ検出の原理を説明するための模式図である。
【
図6】第1実施形態による非破壊検査方法を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2実施形態による非破壊検査装置の構成を示す。
【
図8A】時間に対する陽子ビームパルス信号を示す。
【
図8B】時間に対する特定ガンマ線の検出回数を示す。
【
図9】時間差対スペクトルデータの実施例の概略を示す。
【
図10】第2実施形態による非破壊検査方法を示すフローチャートである。
【
図11A】第3実施形態による検出原理を説明するための図である。
【
図12】本発明の第3実施形態による非破壊検査装置の構成を示す。
【
図13A】
図11AのXIII-XIII矢視図であり、ガンマ線遮蔽部の形状の具体例を示す。
【
図13B】
図11AのXIII-XIII矢視図であり、ガンマ線遮蔽部の形状の別の具体例を示す。
【
図14】第3実施形態による非破壊検査方法を示すフローチャートである。
【
図15A】非破壊検査方法のバリエーションを示す説明図である。
【
図15B】非破壊検査方法の別のバリエーションを示す説明図である。
【
図15C】非破壊検査方法の更に別のバリエーションを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。また、以下の説明は、特許請求の範囲に記載された発明を限定するものではない。例えば、本発明は、以下で述べる構成要素の全てを備えるものに限定されない。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態による非破壊検査装置10の構成を示す。非破壊検査装置10は、検査対象物1の外部からその表面1aへ中性子線(中性子ビーム)を入射し、これにより検査対象物1において発生したガンマ線のうち検査対象物1内の対象成分に由来のガンマ線(以下で、単に特定ガンマ線ともいう)を検出及び同定し、この検出結果に基づいて対象成分が存在する深さを導出するための装置である。なお、対象成分の深さは、検査対象物1の表面1aからの深さである。
【0019】
実施例では、検査対象物1は、鉄筋を内部に含むコンクリート構造物であり、対象成分は塩分(塩素)である。対象成分が塩分である場合、塩分は、例えば、安定して存在する塩素Clの同位体35Clであってよい。なお、検査対象物1と対象成分は、コンクリート構造物と塩分の組み合わせに限定されない。すなわち、第1実施形態によると、検査対象物1はコンクリート構造物に限定されず、対象成分は、検査対象物1に入射された中性子線により複数種類の特定ガンマ線を放出するものであればよい。例えば、対象成分は、カルシウム(主に40Ca)、ケイ素(主に28Si)などであってもよい。なお、水素(1H)は、1本しかガンマ線を出さないので、第1実施形態では対象成分には不適切であるが、後述する第2実施形態と第3実施形態においては水素を対象成分としてもよい。
【0020】
非破壊検査装置10は、
図1のように、中性子源3と、ガンマ線検出装置5と、比率算出部7と、深さデータ記憶部9aと、深さ検出部11と、濃度データ記憶部9bを備える。
【0021】
中性子源3は、検査対象物1の表面1aへ中性子線を照射し、中性子線を検査対象物1に入射させる。中性子源3は、パルス中性子線を放出してもよいし、中性子線を連続的に放出してもよい。中性子源3は、
図1の例では、イオン源3aと加速装置3bとビーム調整器3cとターゲット3dと容器3eと管状遮蔽部材3fを有する。
【0022】
イオン源3aは、例えば、水素イオン(陽子)を発生させる。加速装置3bは、イオン源3aで発生させた陽子を加速する。一例では、加速装置3bにより加速された陽子は、例えば7MeVのエネルギーを有する。ビーム調整器3cは、加速装置3bにより加速された陽子ビームの方向や広がりを、ターゲット3dに合わせて調整する複数の磁場コイルを有する。ビーム調整器3cを経た陽子ビームは、ターゲット3dに入射する。これにより、陽子とターゲット3d(例えばベリリウム)との反応により中性子が発生する。ターゲット3dは、中性子およびガンマ線がそれぞれ透過し難い材料で形成された容器3e内に配置されている。容器3eには、容器3eの外面から内部まで貫通する穴が形成されている。この穴には、中性子放出用の管状遮蔽部材3fが取り付けられている。管状遮蔽部材3fは、中性子が透過し難い材料で形成されている。ターゲット3dで発生した中性子は、管状遮蔽部材3fの内部を通ることにより中性子線として検査対象物1に入射する。
【0023】
このような中性子源3は、トラックのような車両に積載できる程度に小型に構成することができる。したがって、上述の非破壊検査装置10を、例えばトラックのような車両に積載して、検査対象物1(例えば、道路や橋梁などのインフラ構造物)のある場所へ搬送できる。
【0024】
第1実施形態では、中性子源3が放出する中性子線には、熱中性子と高速中性子が含まれてよい。一般的に、熱中性子は室温で25meV付近および25meV以下のエネルギーを有する中性子を示し、高速中性子は、熱中性子よりも十分に高いエネルギー(数百keV以上)を有する中性子を示す。ここで、エネルギーによる中性子の名称の閾値に厳格な定義はないため、本願の定義においては、熱中性子は数十meV(例えば50meV)以下のエネルギーを有する中性子であってよく、高速中性子は数百keV(例えば200keV)以上のエネルギーを有する中性子であってよい。なお、熱中性子と高速中性子の間を熱外中性子、0.01eV以下を冷中性子と呼称する場合もある。
【0025】
中性子源3から放出される各中性子のエネルギーは、例えば、1×10
-3eV~1×10
7eVの分布を有するが、検査対象物1の種類に応じて適宜の値に設定されてよい。
図2は、上述の中性子源3から放出される中性子線のエネルギースペクトルの一例を示す。
図2において、横軸は、中性子のエネルギー(運動エネルギー)を示し、縦軸は、単位時間(秒)に単位断面(cm
2)を通過する中性子の数を示す。上記の本願の定義によると、
図2において、範囲A内のエネルギーを持つ中性子が熱中性子であり、範囲B内のエネルギーを持つ中性子が高速中性子である。
【0026】
中性子源3により検査対象物1に入射された中性子線は、検査対象物1内の対象成分と反応する。これにより、対象成分に由来の特定ガンマ線が発生する。第1実施形態では、エネルギーが異なる複数種類の特定ガンマ線が対象成分から発生する。
【0027】
ガンマ線検出装置5は、検査対象物1への中性子線の入射により発生した複数種類の特定ガンマ線の強度を、検出強度としてそれぞれ検出する。ガンマ線検出装置5は、ガンマ線検出器5aと強度検出部5bを備える。
【0028】
ガンマ線検出器5aは、検査対象物1からのガンマ線の各エネルギー(各波長)について、ガンマ線を検出し、その検出データを強度検出部5bに入力する。この検出データは、検出した各ガンマ線のエネルギーに対応する波高値であってよい。
【0029】
強度検出部5bは、ガンマ線検出器5aから入力された各波高値に基づいて、ガンマ線のエネルギースペクトルを取得する。このエネルギースペクトルは、ガンマ線の各エネルギーにおけるガンマ線の検出回数を示す。本願において、ガンマ線の検出強度は、対応するエネルギーのガンマ線の検出回数に比例する値であってよい。この検出回数は、第1実施形態では、所定の測定時間にわたる検出回数であってよい。所定の測定時間は、中性子線を検査対象物1に照射した時点を原点として、原点から、当該中性子線による十分な量のガンマ線をガンマ線検出器5a検出するまでの時間期間である。所定の測定時間は、例えば、上記原点から、100秒、200秒、または300秒などの時間期間であってよいが、これらの時間期間に限定されない。また、ガンマ線の検出強度は、後述する計数率Rγであってよい。ガンマ線検出器5aは、例えばゲルマニウム検出器を用いたものであってよいが、これに限定されない。
【0030】
強度検出部5bは、取得したエネルギースペクトルに基づいて、(例えば当該エネルギースペクトルにおける)複数種類の特定ガンマ線の強度をそれぞれ検出強度として求め、これらの検出強度を比率算出部7へ入力する。複数種類の特定ガンマ線のうち、いずれかの特定ガンマ線を第1特定ガンマ線とし、別のいずれかの特定ガンマ線を第2特定ガンマ線として、強度検出部5bは、第1特定ガンマ線と第2特定ガンマ線の強度をそれぞれ検出強度として求め、これらの検出強度を深さ検出部11と濃度評価部13へ入力してよい。
【0031】
実施例では、対象成分である35Clに由来する複数種類の特定ガンマ線の主たるものとして、517keV、786keV、788keV、1165keV、1951keV、6111keVのエネルギーのガンマ線がある。この場合、例えば、第1特定ガンマ線は、エネルギーが1951keVのガンマ線であり、第2特定ガンマ線は、エネルギーが517keVのガンマ線であってよい。ただし、第1特定ガンマ線と第2特定ガンマ線の組み合わせは、これに限定されない。なお、第1特定ガンマ線と第2特定ガンマ線のエネルギー差が大きい方が、深さの検出精度が高くなる傾向がある。ただし、エネルギーの高い(例えば6111keV)特定ガンマ線の検出強度は使用しなくてもよい。
【0032】
比率算出部7は、強度検出部5bから入力された複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率を求める。実施例では、比率算出部7は、第1特定ガンマ線の検出強度に対する第2特定ガンマ線の検出強度の比率を算出する。
【0033】
深さデータ記憶部9aは、検査対象物1において対象成分が存在する深さと、複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率との関係を表わす深さデータを記憶している。この深さデータは、予め求めたものであってよく、例えば実験により求められてよい。
【0034】
この実験では、検査対象物1と同じ材質で形成された複数の供試体を用意する。複数の供試体において対象成分が存在する深さは、これらの供試体の間で異なっている。各供試体について、上述の中性子源3とガンマ線検出装置5を用いて、複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率を求める。複数の供試体のそれぞれにおける対象成分の深さと、複数の供試体のそれぞれの上記比率とに基づいて、上述の深さデータを作成する。このように作成した深さデータを深さデータ記憶部9aに予め記憶させておく。実施例では、深さデータは、検査対象物1において対象成分が存在する深さと、第1特定ガンマ線に対する第2特定ガンマ線の比率との関係を表わす。
【0035】
なお、深さデータを求めるための上記実験と、検査対象物1の実際の検査(後述のステップS1)は、同じ条件で行われるのがよい。この条件は、中性子スペクトル条件、距離条件、および向き条件である。中性子スペクトル条件は、検査対象物1(上記実験では供試体)へ中性子源3から放出させる中性子線のエネルギースペクトルが設定スペクトルであるという条件である。距離条件は、検査対象物1(上記実験では供試体)の表面と検出器5aとの距離が設定距離であるという条件である。向き条件は、中性子源3における中性子線の放出口(
図1では、管状遮蔽部材3fにおける先端の開口)の向きと検査対象物1(上記実験では供試体)の表面1aの向きとの関係(入射角度)、および、検出器5aの向きと検査対象物1の表面1aの向きとの関係(検出角度)が設定関係(例えば入射角度が90度、検出角度が45度である関係)にあるという条件である。上記「同じ条件」は、さらに他の条件(例えば測定時間条件)を含んでよい。この測定時間条件は、上記の測定時間が設定時間であるという条件である。
【0036】
深さ検出部11は、深さデータ記憶部9aに記憶されている深さデータと、比率算出部7が算出した比率とに基づいて、対象成分が存在する深さを求める。この時、深さ検出部11は、比率を深さデータに適用することにより、対象成分が存在する深さを求めてよい。深さ検出部11は、求めた深さを出力する。出力された深さは、適宜の記憶媒体に記憶され、ディスプレイに表示され、または、用紙に印刷されてよい。
【0037】
濃度データ記憶部9bは、上述した第1特定ガンマ線と第2特定ガンマ線のいずれかを選択ガンマ線とした場合に選択ガンマ線の検出強度と対象成分の濃度との関係を表わす濃度データを記憶している。濃度データ記憶部9bは、検査対象物1における各深さについての濃度データを、当該深さに対応づけて記憶している。この濃度データは、予め求めたものであってよく、例えば実験により求められてよい。
【0038】
この実験では、次の(1)~(3)を行う。
(1)検査対象物1と同じ材質で形成されているが対象成分の濃度が既知である供試体(既知濃度供試体という)を用意する。
(2)既知濃度供試体にゼロ濃度供試体を両者の厚み方向に隙間なく重ねる。ここで、ゼロ濃度供試体は、検査対象物1と同じ材質で形成されているが対象成分の濃度がゼロである供試体である。なお、各供試体は例えば直方体の形状を有している。
(3)上記(2)の状態で、中性子線がゼロ濃度供試体と既知濃度供試体をこの順で通過するように中性子源3から中性子線を放出し、これにより生じる選択ガンマ線の検出強度をガンマ線検出装置5により求める。
【0039】
上記(1)~(3)を、対象成分の濃度が互いに異なる複数の既知濃度供試体の各々について行う。これにより、複数の既知濃度供試体のそれぞれにおける対象成分の濃度と、複数の既知濃度供試体のそれぞれの場合の選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、上述の濃度データを作成する。ここで、次の式(A)により検出強度を求めてよい。式(A)における各記号は後述の式(1)の場合と同じである。式(A)は、後述の式(1)のεγを無くした場合、すなわち、εγを1にした場合の式である。
Rγ = {(A/t)/Iγ}/(Ip/50) ・・・(A)
【0040】
ゼロ濃度供試体において中性子線が入射される表面から既知濃度供試体までの距離は、検査対象物1における深さ(その表面1aからの深さ)に相当する。したがって、1つのゼロ濃度供試体(すなわち、当該供試体の厚み)ついて上述のように求めた濃度データは、検査対象物1における1つの深さについてのものである。したがって、厚みが互いに異なる複数のゼロ濃度供試体の各々について、上述のように濃度データを求める。これにより、検査対象物1における各深さについて濃度データを求める。
もしくは、例えば標準ガンマ線源(例えば、133Baや152Eu)を用いて、各深さについて検出効率εγ(後述する)を予め取得し、各深さについて当該深さの当該検出効率に基づいた濃度データを求めてもよい。この場合、上記(3)において、選択ガンマ線の検出強度は、後述の式(1)により求められる。
なお、実験を行わなかった深さ(ゼロ濃度供試体の厚み)や選択ガンマ線(ガンマ線のエネルギー)についての濃度データは、実験を行った濃度データや検出効率に基づいて補間により求めてよい。
【0041】
なお、深さデータ記憶部9aと濃度データ記憶部9bと後述の検出効率記憶部8は、
図1のように半導体メモリ、ハードディスク、USBメモリなどの同じ記憶装置における異なる記憶領域であってもよいし、別々の記憶装置であってもよい。
【0042】
濃度評価部13は、深さ検出部11が求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さに対応する濃度データと、入力された選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。この時、濃度評価部13は、濃度データ記憶部9bにおける各深さに対応する濃度データのうち、深さ検出部11が求めた深さに対応する濃度データに、選択ガンマ線の検出強度を適用することにより、当該深さにおける対象成分の濃度を求めてよい。濃度評価部13は、求めた濃度を出力する。出力された濃度は、濃度評価部13に入力され、適宜の記憶媒体に記憶され、ディスプレイに表示され、または、用紙に印刷されてよい。
【0043】
なお、濃度データを求めるための上記実験と、検査対象物1における対象成分の濃度の実際の検査(後述のステップS5(第2実施形態と第3実施形態ではそれぞれ後述のステップS105,S205)で用いる選択ガンマ線の検出強度を取得する時の実際の検査)は、同じ条件で行われる。この条件は、上記中性子スペクトル条件、上記距離条件、および上記向き条件を含む。なお、当該「同じ条件」は、さらに他の条件(例えば上記測定時間条件)を含んでもよい。中性子源3が放出する中性子線のビーム径は、例えば中性子源3の構成(例えば管状遮蔽部材3f)により、上記実験と、検査対象物1の実際の検査とで同じになる。
【0044】
(対象成分の深さの検出原理)
<元素に由来するガンマ線>
第1実施形態による対象成分の深さの検出原理を詳しく説明する。検査対象物1に中性子線を入射させると、検査対象物1内に存在する様々な元素が中性子を捕獲する反応を起こして励起状態の複合核となる。複合核は、直ちに励起状態から基底状態に遷移し、この時、ガンマ線を放出する。ガンマ線のエネルギーと、当該ガンマ線の強度は、当該ガンマ線を放出する元素(原子核)に由来する。
【0045】
<熱中性子と高速中性子による検出深さ範囲>
中性子源3からの中性子線に含まれる中性子のうち、熱中性子は元素に捕獲されるが、高速中性子は元素に捕獲されにくい。したがって、検査対象物1に入射された熱中性子は、検査対象物1内において表面1aから近い範囲に存在する対象成分と反応する確率が高い。この範囲は、検査対象物1がコンクリート構造物である場合には、例えば表面1aから数cmまでの範囲である。したがって、熱中性子は、表面1aから近い範囲の対象成分の検出に利用される。
【0046】
一方、検査対象物1に入射された高速中性子は、検査対象物1内において表面1aから近い範囲の対象成分とはほとんど反応せず、検査対象物1内で繰り返し散乱して熱中性子になる。このように高速中性子は、熱中性子になって、検査対象物1内において表面1aから深い範囲に存在する対象成分と反応する確率が高い。この範囲は、検査対象物1がコンクリート構造物である場合には、例えば表面1aから10cmから30cmまでの範囲である。したがって、熱中性子は、表面1aから深い範囲の対象成分の検出に利用される。
【0047】
したがって、熱中性子と高速中性子の両方を含む中性子線を検査対象物1に入射させることにより、表面1aから近い範囲と表面1aから深い範囲の両方にわたる対象成分の検出に対応できる。
【0048】
<実験>
モルタルで形成した複数のモルタル供試体を用意して実験を行った。これらのモルタル供試体における対象成分としての塩化物イオンの濃度(以下、塩分濃度という)を、それぞれ、0.3kg/m3、0.5kg/m3、1kg/m3、3kg/m3、5kg/m3とした。各モルタル供試体は、立方体の形状を有し、一辺が40mmの寸法を有する。
【0049】
各モルタル供試体について、中性子源3により、モルタル供試体に中性子線を入射させ、これによりモルタル供試体内で生じたガンマ線のエネルギースペクトルを測定した。各モルタル供試体について、同じ条件で実験を行った。すなわち、当該条件は、上述の中性子スペクトル条件、距離条件、および向き条件を含む。
【0050】
図3は、実験においてガンマ線検出器5aが検出した特定ガンマ線の強度である計数率R
γ(回/秒)と、塩分濃度との関係を示す。
図3において、エネルギーが517keV、786keV、788keV、1165keV、1951keVである特定ガンマ線の測定結果を示している。なお、786keVと788keVは値が近いので、
図3では、これら2つのエネルギーのガンマ線の検出強度を合わせたものを、1つのエネルギー787keVとして、特定ガンマ線の計数率R
γとしている。
【0051】
計数率Rγは、単位時間で計測された各エネルギーのガンマ線の検出回数から算出される総ガンマ線量(ガンマ線強度)を示す。この総ガンマ線量は、35Clが中性子を捕獲して放出した総ガンマ線量である。具体的には、計数率Rγ(回/秒)を、次の式(1)により求めた。
Rγ = [{(A/t)/εγ}/Iγ]/(Ip/50) ・・・(1)
【0052】
ここで、Aは、各エネルギーの特定ガンマ線の検出回数を示す。
εγは、ガンマ線検出効率(%/100)を示し、標準ガンマ線源などを用いて予め求められている値である。ガンマ線検出効率は、ガンマ線源(ガンマ線が放出された場所)からのガンマ線の量に対する、ガンマ線検出器5aによるガンマ線の検出回数の比率であり、ガンマ線のエネルギーに反比例し、ガンマ線源とガンマ線検出器5aとの距離に反比例する値である。対象成分の深さを求めるために、ガンマ線検出装置5には、検査対象物1内のガンマ線源とガンマ線検出器5aとの距離が所定の一定値であると仮定して、各エネルギーについてのεγが設定されており(当該εγを以下でεγSやεγdとも表記する。第2実施形態と第3実施形態でも同様である。)、ガンマ線検出装置5は、特定ガンマ線の各種類に対応するεγに基づいて、上記測定時間にわたる計数率Rγの積算値を、当該種類の特定ガンマ線の検出強度として求める。
【0053】
第1実施形態において、複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率を求めることに関するガンマ線検出効率(すなわち、後述のステップS2で用いるガンマ線検出効率)は、ガンマ線源とガンマ線検出器5aの間に空気以外は何も存在しない状態での値である。
一方、対象成分の濃度を求めることに関するガンマ線検出効率(例えば、上述の濃度データを求める場合や後述のステップS5で用いるガンマ線検出効率)は、検査対象物1および供試体の材質に応じた値であるのがよい。
【0054】
Iγは、35Clの中性子捕獲における特定ガンマ線の強度比(%/100)を示す。すなわち、Iγは、35Clに由来する各種類の特定ガンマ線の検出回数を比率で表わしたものである。例えば、100個の中性子が35Clに捕獲された場合に、各種類の特定ガンマ線が何個放出されるかを示したものである。一例では、35Clが100個の中性子を捕獲した場合、1165keVや1951keVは、それぞれ26.82個、19.05個放出される(具体的には、Iγ=0.2682、0.1905を入力する。)
tは、上記測定時間(秒)を示す。
Ipは、測定時において、ターゲット3dに入射した上記陽子ビームの平均電流(μA)であり、50は、50μAで計数率Rγを規格化していることを示す。この数値は、50でなくてもよく、10であっても100であってもよい。なお、計数率Rγはガンマ線の強度を示す。
【0055】
更に、
図3から分かるように、各塩分濃度について、特定ガンマ線のエネルギーが高いほど、計数率R
γが高くなっている。これは、ガンマ線のエネルギーが高いほど、ガンマ線の透過率が高いことを示している。ここで、透過率とは、モルタル供試体又は検査対象物1内で発生したガンマ線のうち、モルタル供試体又は検査対象物1の表面を通過できるガンマ線の割合を意味する。すなわち、モルタル供試体又は検査対象物1において、表面から所定深さの位置で発生したガンマ線の全量のうち、所定量のガンマ線が表面を通過する場合に、全量に対する所定量の割合が透過率である(以下、同様)。
【0056】
また、
図3から分かるように、モルタル供試体における塩分の濃度が高くなるほど、各特定ガンマ線の検出強度が高くなっている。
図3において、塩分の濃度と特定ガンマ線の検出強度とは、ほぼ比例の関係になっている。したがって、複数種類の特定ガンマ線同士の強度比は、対象成分(塩分)の濃度に依存しないといえる。
【0057】
このような複数種類の特定ガンマ線の透過率の違いと、複数種類の特定ガンマ線の強度比の違いとを合わせて利用することにより、後述のように対象成分の深さを求めることができる。
【0058】
なお、
図3から、塩分の濃度が0.3kg/m
3と低くても、塩分濃度を評価できることが分かる。したがって、コンクリート内の鉄筋が腐食を引き起こす塩分濃度の下限値は、1.2~2.5kg/m
3程度であるので、鉄筋の腐食を引き起こす濃度の塩分が存在するかを濃度評価部13により検出できることが分かる。
【0059】
<透過率の理論計算>
図4は、コンクリートに対する複数種類のガンマ線の透過率の理論計算値を比率で表わす。
図4において、横軸は、ガンマ線のエネルギーを示し、縦軸は、コンクリート内で発生したガンマ線のうち、その表面を通過するガンマ線の割合を示す透過率を比率で示す。すなわち、エネルギーが2000keVであるガンマ線の透過率を1として、この透過率に対する各ガンマ線の透過率の比率を示している。各ガンマ線のエネルギーは、500keVと1250keVである。
【0060】
図4において、丸印は、コンクリートの表面からの1cmの深さで発生したガンマ線についての計算値であり、四角印は、コンクリートの表面からの5cmの深さで発生したガンマ線についての計算値であり、三角印は、コンクリートの表面からの10cmの深さで発生したガンマ線についての計算値である。
図4から分かるように、各深さについて、ガンマ線のエネルギーが高いほど、その透過率は高くなっている。
【0061】
<検出原理>
図5は、第1実施形態による対象成分の深さ検出の原理を説明するための模式図である。
図5は、検査対象物1としてのコンクリートの表面に中性子線を入射させることにより、中性子がコンクリート内の塩分と反応して特定ガンマ線が発生した場合を示す。
【0062】
図5のように、コンクリートにおいて、表面からの深さが第1深さ、第2深さ、又は第3深さの位置に塩分が存在すると仮定する。第1深さに塩分が存在する場合に、コンクリートの表面に入射した中性子がコンクリート内の塩分と反応することにより、エネルギーがE1、E2、E3の複数種類の特定ガンマ線が生成されて表面から放出されるとする。第2深さと第3深さに塩分が存在する各場合についても、同様に、エネルギーがE1、E2、E3の複数種類の特定ガンマ線が生成され表面から放出されるとする。
【0063】
図5において、塩分が第1深さに存在する場合、エネルギーがE1、E2、E3の特定ガンマ線は、それぞれ強度A1、A2、A3で第1深さにおいて発生し、それぞれ透過率P1、P2、P3で表面を通過し、それぞれ強度A1×P1、A2×P2、A3×P3で検出される。
同様に、塩分が第2深さに存在する場合、エネルギーがE1、E2、E3の特定ガンマ線は、それぞれ強度B1、B2、B3で第2深さにおいて発生し、それぞれ透過率Q1、Q2、Q3で表面を通過し、それぞれ強度B1×Q1、B2×Q2、B3×Q3で検出される。
同様に、塩分が第3深さに存在する場合、エネルギーがE1、E2、E3の特定ガンマ線は、それぞれ強度C1、C2、C3で第3深さにおいて発生し、それぞれ透過率R1、R2、R3で表面を通過し、それぞれ強度C1×R1、C2×R2、C3×R3で検出される。
【0064】
第1深さの場合について、表面を通過した複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率を求める。例えば、検出強度A3×P3に対する検出強度A1×P1の比率(A1×P1)/(A3×P3)を求める。この比率は、第1深さの塩分濃度に依存しない。A1とA3は、共に第1深さの塩分濃度に比例し、その結果、A1/A3において、塩分濃度によるA1とA3の変動は互いに打ち消されるからである。また、A1/A3は、第1深さに依存しない。ある深さ(例えば第1深さ)に達する中性子線(熱中性子)の強度は、深さに比例し、当該深さで発生するガンマ線の強度は、当該深さに達した中性子線(熱中性子)の強度に比例し、その結果、A1/A3において、深さによるA1とA3の変動は互いに打ち消されるからである。したがって、比率(A1×P1)/(A3×P3)において、A1/A3は、塩分の濃度と存在深さによっては変化せず、対象成分に由来の値になる。一方、透過率P1、P3は、第1深さに比例しないが、第1深さに対応する値である。よって、強度比(A1×P1)/(A3×P3)は、第1深さに対応する値になる。
【0065】
第2深さの場合についても、同様に、検出強度の比率(B1×Q1)/(B3×Q3)は第2深さに対応する値になる。第3深さの場合についても、検出強度の比率(C1×R1)/(C3×R3)は第3深さに対応する値になる。
【0066】
したがって、このような比率と、対象成分(ここでは塩分)が存在する深さとの関係を表わす上述の深さデータを予め求め、検査時に測定した検出強度の比率と、深さデータとに基づいて、対象成分が存在する深さを求めることができる。
【0067】
なお、表面から第3深さにわたって、塩分が存在している場合には、上述した深さ検出部11が求める深さは、塩分が存在する深さの大まかな値(例えば平均深さ)となる。この場合でも、深さ検出部11が出力した深さから、塩分が存在している深さの大まかな値を知ることができる。例えば、深さ検出部11が出力した深さが、検査対象物1としてのコンクリート構造物内の鉄筋の位置に近い場合には、鉄筋が塩分に腐食している可能性があると判断できる。また、同じ検査対象物1について、所定の検査日間隔で(例えば毎月、又は毎年)、繰り返し、塩分の深さを求めることにより、検査対象物1内の塩分の浸透深さの経年変化を知ることができる。
【0068】
(非破壊検査方法)
図6は、第1実施形態による非破壊検査方法を示すフローチャートである。この方法は、上述した非破壊検査装置10を用いて行われてよい。この方法は、ステップS1~S5を有する。
【0069】
ステップS1では、中性子源3により、検査対象物1の表面1aへ中性子線を照射する。これにより、検査対象物1に入射した中性子線が、検査対象物1内の対象成分と反応して、対象成分に由来する複数種類の特定ガンマ線が発生する。
【0070】
ステップS2では、ガンマ線検出装置5により、ステップS1で発生した複数種類の特定ガンマ線の強度をそれぞれ検出強度として検出する。ステップS2は、ステップS21,S22を有する。ステップS21では、ガンマ線検出器5aにより、各エネルギーのガンマ線を検出する。ステップS22では、強度検出部5bにより、ステップS21で得た検出データ(検出した各ガンマ線のエネルギーに対応する波高値)に基づいて、ガンマ線のエネルギースペクトルを取得し、このエネルギースペクトルに基づいて、上述の式(1)に従って、複数種類の特定ガンマ線の強度をそれぞれ検出強度として検出する。ステップS2で用いられるガンマ線検出効率εγは上述のεγSである。
【0071】
ステップS3では、ステップS2での検出の結果に基づいて対象成分が存在する深さを示す指標値を生成する。すなわち、比率算出部7により、ステップS2で検出された複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率を指標値として求める。実施例では、この比率は、上述の第1特定ガンマ線の検出強度に対する上述の第2特定ガンマ線の検出強度の比率である。
【0072】
ステップS4では、ステップS3で求めた比率と、深さデータ記憶部9aの深さデータとに基づいて、深さ検出部11により、対象成分が存在する深さを求める。
【0073】
ステップS5では、ステップS4で求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データと、選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、濃度評価部13により、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
【0074】
上記式(A)を用いて各深さについて取得した上記濃度データを用いる場合には、ステップS5は、次のように行われる。濃度評価部13は、ステップS4で求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データと、選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。この場合、ガンマ線検出装置5(強度検出部5b)は、上述のステップS2で取得したガンマ線のエネルギースペクトルに基づいて、選択ガンマ線の検出回数Aを求め、この検出回数Aと上記式(A)に基づいて、選択ガンマ線の検出強度を求め、この検出強度が、濃度評価部13に入力されて、ステップS5で濃度評価部13に用いられる。この時に用いる選択ガンマ線の検出強度は、上述のステップS2で取得したガンマ線のエネルギースペクトルから新たに選択し、取得したものであってもよい。
【0075】
一方、各深さについての濃度データが、当該深さに対応するガンマ線検出効率ε
γを用いて取得されている場合には、ステップS5は、次のように行われる。
まず、ステップS2で用いたガンマ線検出効率ε
γをε
γSとし、ステップS4で求めた深さに対応するガンマ線検出効率ε
γをε
γdとして、強度検出部5bは、ε
γSをε
γdに置き換えた上述の式(1)と、(例えば上述のステップS2で得たガンマ線のエネルギースペクトルに基づいて強度検出部5bが取得した又は新たに選択し取得した)選択ガンマ線の検出回数Aとに基づいて、選択ガンマ線の検出強度を求める。この場合、検査対象物1における各深さに対応するガンマ線検出効率ε
γ(すなわち、各深さについての濃度データを取得するのに用いた、当該各深さに対応するガンマ線検出効率ε
γ)を表わす検出効率データが
図1のように検出効率記憶部8に記憶されており、強度検出部5bは、検出効率記憶部8の検出効率データと、ステップS4で求めた深さ(深さ検出部11から入力された当該深さ)とに基づいて、上述のε
γdを特定して、上述のようにε
γSをε
γdに置き換えた上記式(1)を用いる。
次いで、濃度評価部13は、強度検出部5bが求めた当該検出強度と、ステップS4で求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データとに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
【0076】
(第1実施形態の効果)
上述した検査対象物1に入射した中性子と対象成分との反応により発生する複数種類の特定ガンマ線の強度をそれぞれ検出する。複数種類の特定ガンマ線の検出強度同士の比率は、上述したように、対象成分が存在する深さに対応した値になる。すなわち、この比率は、対象成分が存在する深さを示す。したがって、このような比率を求めることで、対象成分が存在する深さを検出することができる。よって、検査対象物1における対象成分の深さを非破壊的に検出できる。例えば、検査対象物1であるコンクリート構造物からコアを採取せずに、検査対象物1内に存在する対象成分の位置の深さの検出および、その深さにおける対象成分の濃度評価ができる。
【0077】
また、対象成分が存在するコンクリート中の深さにおけるガンマ線検出効率(上記の計数率Rγの算出式(1)中のεγ)を実験により予め取得しておく事で(すなわち、濃度データの取得に関して上述したように、検出効率データを予め取得しておく事で)、先に求めた対象成分の位置の深さに、どの程度の塩分が存在するかも導出可能である。
【0078】
また、例えば、コンクリート標準示方書において示されるコンクリート内部鋼材腐食が始まる塩分濃度1kg/m3を下限とし、または、1kg/m3よりも低い濃度を下限として、当該下限から想定される高い濃度(例えば、10kg/m3)までの範囲について上述の濃度データを求めておくことで(すなわち、検量線を引いておくことで)、実測時に得たデータと検量線(濃度データ)との比較を行うことで濃度評価を行うことができる。なお、コンクリート内部鋼材腐食が始まる塩分濃度は、セメントの種類や水コンクリート比によって異なり、1.2~2.5kg/m3の範囲である。
【0079】
第1実施形態において、陽子ビームがターゲット3dに入射する方向と、中性子源3における中性子線の放出口の向きとのなす角度が90度となるように中性子源3を構成してよい。この構成の中性子源3は、熱中性子と高速中性子のうち、高速中性子成分が大幅に減少し、熱中性子が主となる中性子ビームを検査対象物1に照射させる。これにより、検査対象物1の表面1aに近い範囲内における対象成分の深さを精度よく求めることができる。
【0080】
一方、第1実施形態において、後述する減速部3gを設けない場合、もしくは、減速部3gを設けた構成であっても熱中性子遮蔽材を検査対象物1の表面1aに設置し当該熱中性子遮蔽材を介して中性子線を検査対象物1に照射する場合、中性子源3により、熱中性子と高速中性子のうち、実質的に高速中性子のみを検査対象物1に照射することができる。これにより、検査対象物1の表面1aから深い範囲内における対象成分の深さを精度よく求めることができる。
【0081】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態による非破壊検査装置30の構成を示す。第2実施形態による非破壊検査装置30の構成は、以下で説明する点で第1実施形態による非破壊検査装置10の構成と異なる。第2実施形態について、以下で説明にしない点は、第1実施形態の場合と同じであってよい。第2実施形態の実施例では、検査対象物1はコンクリート構造物であり、対象成分は塩分であるが、検査対象物1と対象成分は、この組み合わせに限定されない。
【0082】
第2実施形態による非破壊検査装置20は、中性子源3とガンマ線検出装置5と、時点特定部15と、深さデータ記憶部9cと、深さ検出部19と、濃度データ記憶部9bと、濃度評価部14を備える。
【0083】
第2実施形態では、中性子源3は、パルス中性子線を放出する。パルス中性子線放出のための陽子ビームのパルスの時間幅は、例えば0.1ミリ秒程度であり又は0.1ミリ秒よりも小さいが、対象成分の深さの検出を妨げない限りで、これに限定されない。同様に、陽子ビームパルスの繰り返し周波数は、例えば、100Hz程度であるが、対象成分の深さの検出を妨げない限りで、これに限定されない。
図8Aは、中性子源3における陽子ビームのパルス時間幅と繰り返し周期(繰り返し周波数の逆数)を説明するための模式図である。
図8Aにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は、陽子ビームパルス信号(上述の同期信号)の大きさを示し、繰り返し周期は、上述の陽子ビームの繰り返し周期に等しい。
【0084】
このパルス中性子線の放出は、距離条件の下で行われる。距離条件は、検査対象物1(後述の深さデータを求める場合には供試体)の表面1aと中性子源3におけるパルス中性子線の放出位置との距離を設定距離にするという条件である。この放出位置は、例えば、ターゲット3dにおける検査対象物1側の表面であってよい。後述の減速部3gを設ける場合には、上記放出位置は、減速部3gにおける検査対象物1側の表面であってよい。
【0085】
中性子源3は、ターゲット3dにおいて発生した中性子が通過する減速部3gを更に備える。減速部3gは、通過する高速中性子を減速させて熱中性子に変える材料(例えば、ポリエチレン)で形成されている。したがって、ターゲット3dで発生した中性子は、減速部3gを通過することで、その一部が熱中性子になって、検査対象物1に入射するので、中性子源3は、熱中性子と高速中性子を検査対象物1へ入射させることができる。
【0086】
中性子源3により検査対象物1へ入射したパルス中性子線は、検査対象物1内の対象成分と反応する。これにより、対象成分に由来のガンマ線(特定ガンマ線)が生じる。
【0087】
ガンマ線検出装置5は、検査対象物1へ入射したパルス中性子線により生じた特定ガンマ線を検出する。より詳しくは、ガンマ線検出装置5は、中性子源3がパルス陽子ビームをターゲット3dへ入射させた時点(つまり、基準時点としての中性子発生時点)以降の各時点において、ガンマ線のエネルギースペクトルを検出し、基準時点に対する各時点(すなわち、基準時点との時間差)と、当該時点で検出したガンマ線のエネルギースペクトルとを互いに対応付けた時間差対スペクトルデータを生成する。ガンマ線検出装置5は、ガンマ線検出器5aとデータ取得部5cと強度検出部5bを備える。
【0088】
ガンマ線検出器5aは、各時点において、検査対象物1からのガンマ線の各エネルギー(各波長)についてガンマ線の強度を検出する。すなわち、ガンマ線検出器5aは、各時点においてガンマ線のエネルギースペクトルを検出して、当該時点毎に、当該エネルギースペクトルをデータ取得部5cへ出力する。
【0089】
データ取得部5cは、各時点においてガンマ線検出器5aから入力されたエネルギースペクトルに基づいて、各時点の当該エネルギースペクトルを表わす上述の時間差対スペクトルデータを生成する。各時点のエネルギースペクトルは、当該時点で検出されたガンマ線の各エネルギーにおけるガンマ線の検出回数を示す。第2実施形態において、エネルギースペクトルを検出する各時点は、中性子発生時点(基準時点)とガンマ線検出時点との時間差を意味する。ガンマ線検出時点は、当該エネルギースペクトルに対応する各ガンマ線をガンマ線検出器5aが検出した時点であってよい。
【0090】
図9は、データ取得部5cが生成する時間差対スペクトルデータの実施例の概略を示す。
図9において、横軸は、中性子発生時点とガンマ線検出時点との時間差であるTOF(Time of Flight)を示し、縦軸は、検出されたガンマ線のエネルギーを示す。また、
図9において、Aは、対応する時点で対応するエネルギーのガンマ線を検出した回数が、概ね1×10
3以上である領域を示し、Bは、対応する時点で対応するエネルギーのガンマ線を検出した回数が、概ね4×10
2以上であり9×10
2以下である領域を示し、Cは、対応する時点で対応するエネルギーのガンマ線を検出した回数が、概ね3×10
1以上であり2×10
2以下である領域を示し、Dは、対応する時点で対応するエネルギーのガンマ線を検出した回数が、概ね1×10
1以上であり3×10
1以下である領域を示し、Eは、対応する時点で対応するエネルギーのガンマ線を検出した回数が、概ね1×10
1以下である領域を示す。
【0091】
なお、データ取得部5cは、陽子ビーム入射時点(中性子発生時点)を示す同期信号を中性子源3から受け、この同期信号に基づいて、上述の時間差対スペクトルデータを生成する。例えば、データ取得部5cは、同期信号を受けた時点を時間の原点として、時間を計測し、当該原点に対する各時点と、当該時点でガンマ線検出器5aが検出したエネルギースペクトルとを互いに対応付けた時間差対スペクトルデータを生成する。
【0092】
強度検出部5bは、データ取得部5cで取得・生成した時間差対スペクトルデータに基づいて、特定ガンマ線の検出強度を求める。ここで、特定ガンマ線は、後述の濃度データに関する選択ガンマ線であり、検出強度は、第1実施形態において上述した所定の測定時間にわたる特定ガンマ線の検出回数に比例する値である。
【0093】
時点特定部15は、ガンマ線検出装置5(データ取得部5c)で取得・生成した時間差対スペクトルデータに基づいて、特定ガンマ線が検出された時点を特定する。例えば、時点特定部15は、時間差対スペクトルデータに基づいて、ガンマ線検出器5aにより検出された各時点のエネルギースペクトルのうち、特定ガンマ線のエネルギーを検出した時点を特定する。一例では、時点特定部15は、上述の時間差対スペクトルデータから、各時点における特定ガンマ線の検出回数を示すデータを抽出し、抽出した当該データに基づいて、特定ガンマ線が検出された時点(すなわち特定時点)を、特定ガンマ線のエネルギーを検出した時点として特定する。
【0094】
検査対象物1へのパルス中性子線の入射により、対象成分から複数種類の特定ガンマ線が放出される場合には、時点特定部15は、予め指定した種類の特定ガンマ線(以下で指定ガンマ線ともいう)が検出された時点を特定するのがよい。
【0095】
深さデータ記憶部9cは、検査対象物1において対象成分が存在する深さと、検査対象物1にパルス中性子線を入射させた場合に対象成分に由来する特定ガンマ線(指定ガンマ線)が検出される特定時点(基準時点に対する時点)との関係を表わす深さデータを記憶している。この深さデータは、例えば実験により求められてよい。
【0096】
この実験では、検査対象物1と同じ材質で形成された複数の供試体を用意する。複数の供試体において対象成分が存在する深さは、これらの供試体の間で異なっている。各供試体について、上述の中性子源3によりパルス中性子線を供試体の表面に入射させ、ガンマ線検出器5aにより検出された各時点のガンマ線のエネルギースペクトルのうち、特定ガンマ線(指定ガンマ線)のエネルギーの検出時点を時点特定部15により特定する。1つの供試体における対象成分の深さと、当該供試体について特定した上記検出時点(特定時点)とを1組のデータとし、複数の供試体についてそれぞれ得た複数組のデータに基づいて、上述の深さデータを作成する。このように作成した深さデータを深さデータ記憶部9cに予め記憶させておく。
【0097】
なお、深さデータを求めるための上記実験と、検査対象物1の実際の検査(後述のステップS101)は、上述の距離条件の下で行われる。更に、深さデータを求めるための上記実験と、検査対象物1の実際の検査(後述のステップS101)は、上述の中性子スペクトル条件及び向き条件の下で行われるのがよい。
【0098】
深さ検出部19は、深さデータ記憶部9cに記憶されている深さデータと、時点特定部15が特定した時点とに基づいて、対象成分が存在する深さを求める。この時、深さ検出部19は、当該時点を深さデータに適用することにより、対象成分が存在する深さを求めてよい。深さ検出部19は、求めた深さを出力する。出力された深さは、濃度評価部14に入力され、適宜の記憶媒体に記憶され、ディスプレイに表示され、または、用紙に印刷されてよい。
【0099】
例えば上述のように減速部3gを設けることにより、中性子源3により、検査対象物1の表面1aに高速中性子と熱中性子の両方を照射する場合には、高速中性子用の深さデータと熱中性子用の深さデータの一方または両方を、上述のように予め求めておく。これについて、
図8Bを参照して説明する。
図8Bにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は、特定ガンマ線の検出回数を示す。なお、
図8Bの時点t
a,t
b,t
c,t
dは、それぞれ、
図8Aの時点t
a,t
b,t
c,t
dに相当する。
【0100】
上述の時間差対スペクトルデータから各時点における特定ガンマ線の検出回数を示すデータを上述のように抽出した場合に、抽出した当該データ(例えば、
図8Bのデータ)において、特定ガンマ線を検出した時点(特定時点)について、検査対象物1の表面1aに照射された高速中性子による特定時点(
図8Bの時点t1)と、検査対象物1の表面1aに照射された熱中性子による特定時点(
図8Bの時点t2)とが互いに識別可能にずれるように、中性子源3の上記放出位置と検査対象物1の表面1aとの距離、および陽子ビームのパルス幅および繰り返し周波数がシミュレーション又は実験により予め設定される。これは、高速中性子と熱中性子は、移動速度が互いに異なることにより可能となる。すなわち、照射された高速中性子によるガンマ線は、早い時点で検出され、照射された熱中性子によるガンマ線は、遅い時点で検出されることによる。
図8Aにおいて陽子ビームのパルス幅が大きいと、
図8Bの検出回数の波形の幅(時間の幅)が広がり、中性子源3の上記放出位置と検査対象物1の表面1aとの距離が短いと、
図8Bの時点t1と時点t2が互いに近くなる。これを考慮して、当該距離やパルス幅および繰り返し周波数が予め設定される。
なお、本実施形態において、特定時点は、特定ガンマ線の検出回数が生じている時間範囲内における特定の時点であり、例えば、当該検出回数がピークとなる時点であってもよいし、当該検出回数が生じ始める開始時点であってもよい。
【0101】
高速中性子用の深さデータと熱中性子用の深さデータの両方を求める場合、例えば、深さ検出部19は、上述の時間差対スペクトルデータから各時点における特定ガンマ線の検出回数を示すデータを抽出し、当該抽出したデータにおいて当該検出回数の2つの特定時点(例えば、
図8Bのt1とt2)うち、先の特定時点(t1)と高速中性子用の深さデータとに基づいて、又は、当該2つの特定時点のうち後の特定時点(t2)と熱中性子用の深さデータとに基づいて、対象成分が存在する深さを求めてよい。
【0102】
上述では、中性子源3は、熱中性子と高速中性子を検査対象物1に照射するように構成されている。この場合、検査対象物1内において表面1aから近い範囲および深い範囲に存在する対象成分を検出できる。
一方、減速部3gを省略した場合、もしくは、減速部3gを設けた構成でも熱中性子遮蔽材4(
図7)を検査対象物1の表面1aに設置した場合、中性子源3は、熱中性子と高速中性子のうち、実質的に高速中性子のみを検査対象物1に照射する。この場合、検査対象物1内において表面1aから深い範囲に存在する対象成分の深さを検出できる。この場合には、熱中性子用の深さデータは求めなくてよい。
【0103】
第2実施形態における濃度データ記憶部9bは、第1実施形態の濃度データ記憶部9bと同じである。すなわち、この濃度データ記憶部9bは、選択ガンマ線の検出強度と対象成分の濃度との関係を表わす濃度データを記憶している。ここで、選択ガンマ線は、上述の指定ガンマ線であってもよいし、別の種類の特定ガンマ線であってもよい。
【0104】
濃度評価部14は、深さ検出部19が求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さに対応する濃度データと、入力された選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。濃度評価部14は、求めた濃度を出力する。出力された濃度は、適宜の記憶媒体に記憶され、ディスプレイに表示され、または、用紙に印刷されてよい。
【0105】
(非破壊検査方法)
図10は、第2実施形態による非破壊検査方法を示すフローチャートである。この方法は、上述した非破壊検査装置20を用いて行われてよい。この方法は、ステップS101~S105を有する。
【0106】
ステップS101では、中性子源3により、検査対象物1の表面1aへパルス中性子線を照射する。これにより、検査対象物1に入射したパルス中性子線が、検査対象物1内の対象成分と反応して、対象成分に由来する特定ガンマ線が発生する。
【0107】
ステップS102では、ステップS101で発生したガンマ線のうち検査対象物内の対象成分に由来の特定ガンマ線を検出し、特定ガンマ線(指定ガンマ線)を検出した時点を特定する。本実施形態では、ステップS102は、ステップS121,S122を有してよい。ステップS121では、ガンマ線検出器5aにより、各時点においてガンマ線のエネルギースペクトルを検出する。ステップS122では、上述の同期信号を受けた時点を原点として時間を計測しながら、計測した各時点においてガンマ線検出器5aが検出したエネルギースペクトルと当該時点とを互いに対応付けた時間差対スペクトルデータを生成する。
【0108】
ステップS103では、ステップS102における検出の結果に基づいて、時点特定部15により、ステップS101でパルス中性子線を照射した時点以降において特定ガンマ線(指定ガンマ線)を検出した時点を特定する。この時、ステップS122で生成された時間差対スペクトルデータに基づいて、時点特定部15により、特定ガンマ線を検出した時点を特定してよい。
【0109】
ステップS104では、深さ検出部19により、ステップS103で特定した時点と、深さデータ記憶部9cの深さデータとに基づいて、対象成分が存在する深さを求める。
【0110】
ステップS105では、ステップS104で求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データと、選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、濃度評価部14により、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
【0111】
上記式(A)を用いて各深さについて取得した上記濃度データを用いる場合には、ステップ105は、次のように行われる。
まず、選択ガンマ線の検出回数Aと上記式(A)に基づいて、強度検出部5bは、選択ガンマ線の検出強度を求める。この時に用いる検出回数Aは、中性子源3とガンマ線検出装置5により検査対象物1に対して(例えばステップS102で、又はステップS102で新たに選択し)取得した選択ガンマ線の検出の結果に基づくものである。
次いで、濃度評価部14は、強度検出部5bが求めた選択ガンマ線の検出強度と、ステップS104で求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データとに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
【0112】
一方、各深さについての濃度データが、当該深さに対応するガンマ線検出効率ε
γを用いて取得されている場合には、ステップS105は、次のように行われる。
まず、ステップS104で求めた深さに対応するガンマ線検出効率ε
γをε
γdとして、強度検出部5bは、上述の式(1)と、選択ガンマ線の検出回数Aとに基づいて、選択ガンマ線の検出強度を求める。この時に用いる検出回数Aは、中性子源3とガンマ線検出装置5により検査対象物1に対して(例えばステップS102で、又はステップS102で新たに選択し)取得した選択ガンマ線の検出の結果に基づくものである。第1実施形態の場合と同じ上記検出効率データが
図7のように検出効率記憶部8に記憶されており、強度検出部5bは、検出効率記憶部8の検出効率データと、ステップS104で求めた深さとに基づいて、上述のε
γdを特定して、上述のように上記式(1)を用いる。
次いで、濃度評価部14は、強度検出部5bが求めた選択ガンマ線の検出強度と、ステップS104で求めた深さ(深さ検出部19から入力された当該深さ)と、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データとに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
【0113】
(第2実施形態の効果)
上述した検査対象物1に入射した中性子と対象成分との反応により発生する特定ガンマ線を検出し、特定ガンマ線を検出した時点を特定する。特定した時点は、対象成分が存在する深さを示す。したがって、このような時点を求めることで、対象成分が存在する深さを検出することができる。よって、検査対象物1における対象成分の深さを非破壊的に検出できる。例えば、検査対象物1であるコンクリート構造物からコアを採取せずに、検査対象物1内に存在する対象成分の位置の深さの検出、および、その深さにおける対象成分の濃度評価ができる。
【0114】
[第3実施形態]
(第3実施形態の原理)
図11Aは、第3実施形態による検出原理を説明するための図である。第3実施形態では、ガンマ線検出装置5は、検出するガンマ線をコリメートする。すなわち、ガンマ線検出装置5は、検査対象物1内の特定の深さで生じたガンマ線のうち、特定の範囲内の方向へ飛行して来たガンマ線を検出する。より詳しくは、断面寸法が絞られた中性子線を検査対象物1に入射させ、ガンマ線検出器5aの基準直線Lと中性子線の直線経路とが交差する位置Pc(以下で単に交差位置Pcともいう)で生じたガンマ線のうち、基準直線Lに沿って飛行して来たガンマ線を、選択的にガンマ線検出器5aに入射させ、他の方向へ飛行するガンマ線がガンマ線検出器5aへ入射することを後述のガンマ線遮蔽部5dにより阻止する。
【0115】
したがって、ガンマ線検出装置5により対象成分に由来する特定ガンマ線を検出した場合には、上述した交差位置Pc(深さ)に対象成分が存在することが分かる。また、基準直線Lと中性子線の経路との幾何学的関係(位置や向きに関する関係)を変えることにより、交差位置Pcが変化するので、各交差位置Pcに対象成分が存在するかどうかを検査できる。
【0116】
ただし、中性子線の断面の寸法を上限値以下に絞った状態で、中性子線を検査対象物1に入射させる。ここで、上限値は、数十ミリメートル以下であってよく、例えば、50ミリメートル以下又は30ミリメートル以下である。中性子線を絞る度合いは、要求される交差位置Pcの分解能に応じて中性子源3に設定されてよい。中性子線の断面が大きいと、ガンマ線の検出回数は増えるが、交差位置Pcの分解能は下がる。中性子線の断面が小さいと、ガンマ線の検出回数は減るが、交差位置Pcの分解能は上がる。なお、中性子線の断面形状は、例えば円形又は円形に近い形状であってよいが、これらに限定されず楕円形や矩形などであってもよい。
【0117】
また、ガンマ線をコリメートする度合い(後述するガンマ線遮蔽部5dの開口21aの面積)は、どの程度の広がりを有する領域(交差位置Pc)からのガンマ線を検出するかに応じて設定される。開口21aの面積が大きいと、ガンマ線の検出回数は増えるが、交差位置Pcの分解能は下がる。開口21aの面積が小さいと、ガンマ線の検出回数は減るが、交差位置Pcの分解能は上がる。
図11Bは、
図11Aにおける部分拡大図であり、ガンマ線検出器5a及びガンマ線遮蔽部5dの形状の一例を示す。
図11Bのように、ガンマ線検出器5aは、検出面5a1を有し、当該検出面5a1に入射したガンマ線を検出する。この検出面5a1の面積D1は、ガンマ線遮蔽部5dにおけるガンマ線通過穴21の断面積D2よりも大きく、開口21aの面積D3よりも大きい。すなわち、ガンマ線通過穴21の中心線Lの方向から見た場合に、例えば
図11Bのように、ガンマ線通過穴21と開口21aは、検出面5a1よりも小さくなるように、ガンマ線検出器5a及びガンマ線遮蔽部5dが形成されてよい。
【0118】
(第3実施形態の構成)
図12は、本発明の第3実施形態による非破壊検査装置30の構成を示す。非破壊検査装置30は、第1実施形態又は第2実施形態で説明した中性子源3と、ガンマ線検出装置5を備える。第3実施形態では、ガンマ線検出装置5は、以下で説明する構成を有する。第3実施形態において、ガンマ線検出装置5について、以下で説明しない点は、上述した第1実施形態または第2実施形態の場合と同じであってよい。
【0119】
第3実施形態では、ガンマ線検出装置5は、ガンマ線検出器5aと強度検出部5bとガンマ線遮蔽部5dを備える。
【0120】
ガンマ線検出器5aは、中性子線の入射により検査対象物1で発生したガンマ線の各エネルギーについて、ガンマ線を検出し、その検出データを強度検出部5bに入力する。この検出データは、検出した各ガンマ線のエネルギーに対応する波高値であってよい。ガンマ線検出器5aは、例えばゲルマニウム検出器であってよいが、これに限定されない。
【0121】
強度検出部5bは、ガンマ線検出器5aから入力された各波高値に基づいて、ガンマ線のエネルギースペクトルを取得する。強度検出部5bは、このエネルギースペクトルに基づいて、特定ガンマ線の強度を検出強度として求める。ここで、検査対象物1への中性子線の入射により、対象成分から複数種類の特定ガンマ線が放出される場合には、強度検出部5bは、予め指定した種類の特定ガンマ線の強度を検出強度として求める。強度検出部5bは、求めた特定ガンマ線の検出強度を出力する。出力された当該検出強度は、ディスプレイに表示されてよい。
【0122】
ガンマ線遮蔽部5dは、ガンマ線に対して遮蔽能力が高い材料(例えば、鉛、タングステン、タンタル、又は鉄)を用いて、実質的にガンマ線を通さないよう形成されている。ガンマ線遮蔽部5dは、ガンマ線通過穴21を形成している。ガンマ線通過穴21は、ガンマ線が進入可能な開口21aを有する。ガンマ線通過穴21において開口21aから奥側にずれた位置にガンマ線検出器5aが配置されている。開口21aとガンマ線検出器5aとは基準直線L上に位置している。このようなガンマ線遮蔽部5dにより、ガンマ線検出器5aは、実質的に、基準直線Lに沿って開口21aから進入したガンマ線のみを検出する。なお、基準直線Lは、ガンマ線通過穴21の中心線であってよい。
【0123】
ガンマ線検出器5aがゲルマニウム検出器5aである場合、ゲルマニウム検出器5aを冷却する冷却装置17(
図12では図示を省略するが、
図11Aと
図11Bに図示する)が設けられる。冷却装置17は、ガンマ線遮蔽部5dの外部に設けられてよい。この場合、冷却装置17は、ガンマ線遮蔽部5dにおいて開口21aと反対側に設けられた穴18を通してゲルマニウム検出器5aを冷却してよい。
【0124】
ガンマ線遮蔽部5dは、開口21aが形成されている先端面22を有する。基準直線Lは、先端面22に対して斜めに延びていてよい。すなわち、基準直線Lが先端面22に対して斜めに延びているように先端面22が形成されている。この構成により、先端面22を
図12のように検査対象物1の表面1aに対向させた状態で検査を行うことにより、基準直線Lの延長上以外の位置からのガンマ線がガンマ線検出器5aに至ることを、より確実に防止できる。その結果、交差位置Pcの分解能が向上する。なお、先端面22は、平面であってよいが、これに限定されない。
【0125】
【0126】
図13Aの場合には、ガンマ線遮蔽部5dは、ガンマ線通過穴21の周囲全体を囲むように形成されている。この場合、ガンマ線通過穴21の断面形状は、
図13Aのように円形であってもよいし、他の形状であってもよい。
【0127】
図13Bの場合には、ガンマ線遮蔽部5dは、ガンマ線を実質的に通さないよう上記材料で形成され互いに隙間を隔てた2つの遮蔽ブロック23,24を有し、当該隙間がガンマ線通過穴21である。この隙間21は、基準直線Lに沿って延びている。基準直線Lと直交する第1方向における隙間21の寸法は、基準直線Lと第1方向の両方に直交する第2方向における隙間21の寸法よりも小さい。例えば、第1方向における隙間21の寸法は、第2方向における隙間21の寸法の1/2以下、1/3倍以下、又は1/5以下である。
【0128】
図13Bの場合、中性子線の断面の寸法は、第1方向と第2方向のうち少なくとも第1方向において、上述の上限値以下に設定される。
【0129】
互いに対応するガンマ線検出器5aと強度検出部5bとガンマ線遮蔽部5dを1組として、ガンマ線検出装置5は、1組又は複数組を備えてよい。
図12では、2組を図示している。なお、
図12における各ガンマ線検出器5aに対応するガンマ線遮蔽部5dは、
図13A又は
図13Bに基づいて説明した形状を有していてよい。
【0130】
第3実施形態における濃度データ記憶部9bは、第1実施形態の濃度データ記憶部9bと同じである。すなわち、この濃度データ記憶部9bは、選択ガンマ線の検出強度と対象成分の濃度との関係を表わす濃度データを記憶している。
【0131】
濃度評価部16は、後述のように求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さに対応する濃度データと、入力された選択ガンマ線の検出強度とに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。濃度評価部16は、求めた濃度を出力する。出力された濃度は、適宜の記憶媒体に記憶され、ディスプレイに表示され、または、用紙に印刷されてよい。
【0132】
(非破壊検査方法)
図14は、第3実施形態による非破壊検査方法を示すフローチャートである。この方法は、上述した非破壊検査装置30を用いて行われてよい。この方法は、ステップS201~S205を有する。
【0133】
ステップS201では、中性子源3から放出される中性子線の経路とガンマ線遮蔽部5dの上記基準直線Lの延長線とが検査対象物1の内部において交差するように、中性子源3およびガンマ線検出装置5を配置する。この配置において、ガンマ線遮蔽部5dの先端面22を検査対象物1の表面1aに対向させるように(例えば平らな先端面22が平らな表面1aと平行になるように)ガンマ線遮蔽部5dとガンマ線検出器5aを配置してよい。この場合、更に、先端面22を表面1aに接触させ又は先端面22と表面1aとの間に僅かな隙間を置くようにしてもよい。また、入射する中性子線と検査対象物1の表面1aとは垂直である必要はなく、斜めに中性子線を入射させてもよい。入射させる中性子線と表面1との角度によって、ガンマ線検出器5aの配置を変えればよい。
【0134】
ステップS202は、ステップS201で行った配置の状態で行われる。ステップS202では、中性子源3により、検査対象物1の表面1aへ中性子線を入射させる。また、ステップS202では、ガンマ線検出器5aにより、中性子線の入射により発生した各エネルギーのガンマ線を検出し、その検出データを強度検出部5bに入力する。ステップS202で表面1aへ入射させる中性子線は、第2実施形態のように、パルス中性子線であってもよいし、時間的に連続する中性子線であってもよい。
【0135】
ステップS203では、強度検出部5bにより、ステップS202で得た検出データ(検出した各ガンマ線のエネルギーに対応する波高値)に基づいて、ガンマ線のエネルギースペクトルを取得し、このエネルギースペクトルに基づいて、特定ガンマ線(すなわち、選択ガンマ線)の強度を(例えば、式(A)により)検出強度として求める。また、ステップS203では、当該検出強度が、強度検出部5bから出力される。
【0136】
ステップS204では、ステップS203で出力された特定ガンマ線の検出強度に基づいて、ステップS201における基準直線Lに対応する検査対象物1内の深さ(以下で対応深さともいう)に、対象成分が存在するかを判断する。この対応深さは、
図11Aと
図12において破線の円で囲んだ交差位置Pcの深さである。すなわち、対応深さは、中性子源3から放出される中性子線の上記経路と上記基準直線Lの延長線との交点の位置の深さである。
【0137】
当該交差位置Pc(対応深さ)は、ステップS201で配置した中性子源3とガンマ線検出装置5及び検査対象物1の幾何学的関係に基づいてステップS204において求めることができる。例えば、当該幾何学的関係を適宜のセンサ又は計測機器を用いて検出し、当該検出の結果を適宜の演算装置に入力することにより、当該演算装置が交差位置Pcを求めてよい。或いは、当該検出の結果に基づいて人が交差位置Pcを計算して求めてもよい。このように求められた交差位置Pcは、対応深さと、表面1aに沿った方向の位置とからなる。なお、上記幾何学的関係は、例えば、中性子線の上記経路と、上記基準直線Lと、検査対象物1の表面1aとの位置及び向きに関する関係であってよい。
【0138】
ステップS204の判断は人が行ってよい。例えば、ステップS203で出力された特定ガンマ線の検出強度が、ディスプレイに表示され、人は、表示された検出強度を見て、当該検出強度が設定下限値以上である場合には、対応深さに対象成分が存在すると判断する。なお、上述のように上記演算装置が求めた対応深さが、当該検出強度と共にディスプレイに表示されてよい。
【0139】
また、ステップS205において、ステップS204で求めた上記対応深さ(交差位置Pc)における対象成分の濃度を求める。この場合、上述した濃度データと、当該対応深さと、ステップS203で求めた検出強度とに基づいて、濃度評価部16は、対応深さにおける対象成分の濃度を求める。この時に用いる対応深さは、上述のようにステップS204で求められ、上記演算装置により、又は、人が適宜の操作部を操作することにより、濃度評価部16や強度検出部5bに入力されてよい。
【0140】
上記式(A)を用いて各深さについて取得した上記濃度データを用いる場合には、ステップ205は、次のように行われる。
まず、上述の式(A)と、選択ガンマ線の検出回数Aとに基づいて、強度検出部5bは、選択ガンマ線の検出強度を求める。この時に用いられる検出回数Aは、上述の濃度データを取得した時の上記条件(上記向き条件を含む)と同じ条件で、中性子源3とガンマ線検出装置5により検査対象物1に対して(例えば、上記ステップS202で又はステップS202で新たに選択し)取得した選択ガンマ線の検出の結果に基づくものである。
次いで、濃度評価部16は、強度検出部5bが求めた選択ガンマ線の検出強度と、ステップS204で求めた対応深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データとに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
このような濃度評価は人が行ってもよい。例えば、上記検出強度と、各深さについての濃度データと、上記対応深さが、ディスプレイに表示され、人は、表示されたこれらのデータを見て、対応深さにおける対象成分の濃度を求めてよい。
【0141】
一方、各深さについての濃度データが、当該深さに対応するガンマ線検出効率ε
γを用いて取得されている場合には、ステップS205は、次のように行われる。
ステップS204で求めた対応深さに対応するガンマ線検出効率ε
γをε
γdとして、強度検出部5bは、上述の式(1)と、選択ガンマ線の検出回数Aとに基づいて、選択ガンマ線の検出強度を求める。この時に用いる検出回数Aは、上述の濃度データを取得した時の上記条件(上記向き条件を含む)と同じ条件で、中性子源3とガンマ線検出装置5により検査対象物1に対して(例えば、上記ステップS202で又はステップS202で新たに選択し)取得した選択ガンマ線の検出の結果に基づくものである。また、第1実施形態の場合と同じ上記検出効率データが
図12のように検出効率記憶部8に記憶されており、強度検出部5bは、検出効率記憶部8の検出効率データと、ステップS204で求めた対応深さとに基づいて、上述のε
γdを特定して、上述のように上記式(1)を用いる。
次いで、濃度評価部16は、強度検出部5bが求めた選択ガンマ線の検出強度と、ステップS204で求めた深さと、濃度データ記憶部9bに記憶されている当該深さについての濃度データとに基づいて、当該深さでの対象成分の濃度を求める。
このような濃度評価は人が行ってもよい。例えば、上記検出強度と、各深さについての濃度データと、対応深さと、検出効率データが、ディスプレイに表示され、人は、表示されたこれらのデータを見て、対応深さにおける対象成分の濃度を求めてよい。
【0142】
<検査方法のバリエーション>
上述の非破壊検査方法のバリエーションとして以下の第1~第3の例を説明する。以下で説明しない点は、上述した非破壊検査方法と同じである。
【0143】
第1の例では、複数組のガンマ線検出器5aと強度検出部5bとガンマ線遮蔽部5dを用いる。すなわち、ステップS201で、
図15Aのように、複数組のそれぞれに属する複数のガンマ線検出器5aに関する上記交差位置Pcが互いに異なるように、複数のガンマ線検出器5a及び中性子源3(図示を省略)を配置する。その後、ステップS202で各ガンマ線検出器5aが得た検出データに対してステップS203~S205を行う。このようにステップS201~S205を行う度に、再度のステップS201で、複数のガンマ線検出器5aの位置を、表面1aに沿った方向(例えば
図15Aの矢印Xの方向)にずらし、再び、ステップS202~S205を行って、ステップS201~S205を繰り返す。
【0144】
この繰り返しにおいて、中性子線の経路を固定しておいてよい。この場合、当該繰り返しにおいて、中性子線の経路に対する各ガンマ線検出器5aの基準直線Lの向きは固定されていてもよいし、変化させてもよい。
【0145】
第2の例では、第1の例と同様に、ステップS201で、
図15Bのように、複数組のそれぞれに属する複数のガンマ線検出器5aに関する上記交差位置Pcが互いに異なるように、複数のガンマ線検出器5a及び中性子源3(図示を省略)を配置する。その後、ステップS202で各ガンマ線検出器5aが得た検出データに対してステップS203~S205を行う。このようにステップS201~S205を行う度に、再度のステップS201で中性子線の経路を変え(例えば
図15Bにおいて、矢印Xの方向に中性子線の経路をずらし、或いは、表面1aに対する中性子線の入射角θを変え)、再び、ステップS202~S205を行って、ステップS201~S205を繰り返す。この繰り返しにおいて、表面1aに対する複数のガンマ線検出器5aの位置と向きを固定しておいてよい。
【0146】
第3の例では、ステップS201で、
図15Cのように、複数組にそれぞれ属するガンマ線検出器5aに関する上記交差位置Pcが互いに異なるように、複数のガンマ線検出器5a及び中性子源3(図示を省略)を配置する。その後、ステップS202で各ガンマ線検出器5aが得た検出データに対してステップS203~S205を行う。このようにステップS201~S205を行う度に、再度のステップS201で、表面1aに対する各ガンマ線検出器5aの基準直線Lの傾きを変えて、再び、ステップS202~S205を行って、ステップS201~S205を繰り返す。この繰り返しにおいて、中性子線の経路を固定しておいてよい。
【0147】
なお、
図15Cの例のように、基準直線Lは先端面22に直交していてもよい。このような場合においても、
図13A又は
図13Bに基づいて上述したガンマ線遮蔽部5dの形状を採用してよい。また、第3の例において、複数組の代わりに1組のガンマ線検出器5aを用いてもよく、この場合、他の点は上述と同じである。
【0148】
第1~第3の例による検査で、検査対象物1内の広範囲にわたって、対象成分の存在の有無やその濃度を検査することができる。
【0149】
上述した第3実施形態は、第1実施形態又は第2実施形態と組み合わせて実施されてもよいし、第1実施形態及び第2実施形態から独立して実施されてもよい。
【0150】
(第3実施形態の効果)
ガンマ線検出器5aを、ガンマ線遮蔽部5dのガンマ線通過穴21に配置するので、ガンマ線検出器5aは、実質的に、ガンマ線遮蔽部5dの基準直線Lに対応する深さからのガンマ線のみを検出する。したがって、基準直線Lの向きを変えて、各向きについて特定ガンマ線の検出強度を取得し、検出強度が設定下限値を超えた基準直線Lの向きに対応する深さに対象成分が存在すると判断できる。このようにして対象成分の深さを特定することができる。また、予め実験により濃度評価のための濃度データを取得していれば、対象成分の深さとともに濃度も取得・評価することができる。
【0151】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上述した各効果は必ずしも本発明を限定的するものではない。また、本発明は、本明細書で示された効果のいずれか、又は、本明細書から把握され得る他の効果が奏されるものであってもよい。また、以下の変更例1~3のいずれかを採用してもよいし、変更例1~3の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じであってよい。
【0152】
(変更例1)
第1実施形態において深さ検出部11を省略してもよい。この場合、上述のステップS3で求められた比率と深さデータとに基づいて、人が、対象成分の深さを求めてもよい。例えば、ステップS3で求められた比率と深さデータが、ディスプレイに表示され、又は用紙に印刷され、人は、表示又は印刷された比率と深さデータを見て対象成分の深さを求めてよい。
【0153】
同様に、第2実施形態において深さ検出部19を省略してもよい。この場合、上述のステップS103で特定された時点と深さデータとに基づいて、人が、対象成分の深さを求めてもよい。例えば、ステップS103で特定された時点と深さデータが、ディスプレイに表示され、又は用紙に印刷され、人は、表示又は印刷された時点と深さデータを見て対象成分の深さを求めてよい。
【0154】
(変更例2)
第1実施形態において濃度評価部13を省略してもよい。この場合、上述のステップS4で求められた深さと、当該深さに対応するガンマ線検出効率εγに基づく選択ガンマ線の検出強度と、上述の濃度データとに基づいて、人が、当該深さにおける対象成分の濃度を求めてもよい。すなわち、上述のステップS5で用いられる各データ(例えば、ステップS2で検出された選択ガンマ線の検出強度と、上述の検出効率データと、ステップS4で求められた深さと、上述の濃度データ)が、ディスプレイに表示され、又は用紙に印刷され、人は、表示又は印刷されたこれらのデータを見て上記深さにおける対象成分の濃度を求めてよい。
【0155】
同様に、第2実施形態において濃度評価部14を省略してもよい。この場合、上述のステップS104で求められた深さと、当該深さに対応するガンマ線検出効率εγに基づく選択ガンマ線の検出強度と、上述の濃度データとに基づいて、人が、当該深さにおける対象成分の濃度を求めてもよい。すなわち、上述のステップS105で用いられる各データが、ディスプレイに表示され、又は用紙に印刷され、人は、表示又は印刷されたこれらのデータを見て上記深さにおける対象成分の濃度を求めてよい。
【0156】
(変更例3)
上述の第1実施形態と第3実施形態において、中性子源3は、検査対象物1に中性子線を入射できるものであればよく、パルス型を含む加速器を用いた中性子源に限定されない。例えば、中性子源3は、中性子を発生するRI線源(
252Cfなど)やDD,DT中性子管を用いたものであってもよい。RI線源を用いる場合、例えば、
図1と
図12において、ターゲット3dの位置にRI線源を配置し、このRI線源を囲む容器3eを設け、この容器3eに、RI線源用の管状遮蔽部材3fを設ける。
【0157】
本件発明は、これまでに記載の実施形態、実施例、変更例に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない限り広く適用される。例えば、上述した選択ガンマ線は、上述した例に限定されず、特定ガンマ線であればよい。
【符号の説明】
【0158】
1 検査対象物、1a 表面、3 中性子源、3a イオン源、3b 加速装置、3c ビーム調整器、3d ターゲット、3e 容器、3f 管状遮蔽部材、3g 減速部、5 ガンマ線検出装置、5a ガンマ線検出器、5b 強度検出部、5c データ取得部、5d ガンマ線遮蔽部、7 比率算出部、8 検出効率記憶部、9a,9c 深さデータ記憶部、9b 濃度データ記憶部、10,20 非破壊検査装置、11 深さ検出部、13,14,16 濃度評価部、15 時点特定部、17 冷却装置、18 穴、19 深さ検出部、21 ガンマ線通過穴、21a 開口22 先端面、23,24 遮蔽ブロック、L 基準直線、Pc 交差位置、