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特開2024-83406表面処理ナノセルロースマスターバッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083406
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】表面処理ナノセルロースマスターバッチ
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240614BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240614BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240614BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240614BHJP
   C08L 61/12 20060101ALI20240614BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20240614BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08J5/04
C08L21/00
C08L1/02
C08L61/12
C08K5/07
C08K5/098
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058535
(22)【出願日】2024-04-01
(62)【分割の表示】P 2019186108の分割
【原出願日】2019-10-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、平成30年度 農林水産省「「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(うち知の集積と活用の場による研究開発モデル事業)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】川添 真幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(57)【要約】
【課題】ナノセルロースが均質に分散した、伸び、硬さ、耐水性、および耐引裂性が優れるゴム組成物を得ることができる表面処理ナノセルロースマスターバッチを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、ナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドとを含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチであって、前記ゴム成分100質量部に対して、前記ナノセルロースを0.3~15質量部含有し、前記ナノセルロース1質量部に対して、前記レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、および前記ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチとすることにより、上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、ナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドと、不飽和脂肪酸金属塩と、を含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチであって、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記ナノセルロースを0.3~15質量部、および前記不飽和脂肪酸金属塩を0.2~2質量部含有し、
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびに前記ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含有する、表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項2】
前記ゴム成分が、ジエン系ゴムおよびスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体を含む、請求項1に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項3】
さらに、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有する、請求項1または2に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項4】
前記不飽和脂肪酸金属塩がアクリル酸金属塩および/またはメタクリル酸金属塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理ナノセルロースマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどを構成するゴム組成物は、弾性率(伸び)、硬度(硬さ)などの特性が優れたものが求められている。そして、このような特性を向上させるために、ゴム組成物中にカーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合する技術が知られている。
【0003】
さらに、カチオン性基を有する化学変性ミクロフィブリルセルロースをゴム組成物中に分散して含有させることによって、加工性に優れ、剛性、破断特性、および低燃費性にバランスよく優れるゴム組成物を提供する技術(特許文献1)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6353169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、化学変性ミクロフィブリルセルロースなどのナノセルロースは水分を除去する工程等において凝集して集束しやすい性質を有するため、ナノセルロースを含むマスターバッチの製造においてナノレベルまで解繊した状態を保つのが難しい場合があり、そのようなマスターバッチからでは求める特性を有するゴム組成物が得られない可能性がある。したがって、ナノセルロースが均質に分散した表面処理ナノセルロースマスターバッチを得るという点においては、さらなる改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、ナノセルロースが均質に分散した、伸び、硬さ、耐水性、および耐引裂性が優れるゴム組成物を得ることができる表面処理ナノセルロースマスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ゴム成分と、ナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドとを含有し、このゴム成分100質量部に対して、ナノセルロースを0.3~15質量部含有し、このナノセルロース1質量部に対して、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびにホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチが、ナノセルロースが均質に分散し、さらに、伸びおよび硬さが保たれ且つ耐水性が優れ、耐引裂性も向上したゴム組成物を得られるものであることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<5>である。
<1>ゴム成分と、ナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドとを含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチであって、前記ゴム成分100質量部に対して、前記ナノセルロースを0.3~15質量部含有し、前記ナノセルロース1質量部に対して、前記レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびに前記ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含有する、表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<2>前記ゴム成分が、ジエン系ゴムおよびスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体を含む、<1>に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<3>さらに、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有する、<1>または<2>に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<4>さらに、前記ゴム成分100質量部に対して、不飽和脂肪酸金属塩を0.1~15質量部含有する、<1>~<3>のいずれか1つに記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<5>前記不飽和脂肪酸金属塩がアクリル酸金属塩および/またはメタクリル酸金属塩である、<4>に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナノセルロースが均質に分散した、伸びおよび硬さが保たれ且つ耐水性が優れ、さらに耐引裂性も向上したゴム組成物が得られる表面処理ナノセルロースマスターバッチを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、ゴム成分と、ナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドとを含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチであって、ゴム成分100質量部に対して、ナノセルロースを0.3~15質量部含有し、ナノセルロース1質量部に対して、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびにホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチである。以下においては「本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチ」ともいう。
【0011】
まず、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチに配合するゴム成分としては、ジエン系ゴムやブチル系ゴムなどのゴム工業において用いられる一般的なゴム成分を使用することができる。本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、このゴム成分が水中にコロイド状に分散した水分散体であるゴムラテックスを原料として使用するのが好ましい。そして、このゴム成分は、後述するナノセルロースなどの分散性をより高めるという観点から、ジエン系ゴムおよびスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分であるのが好ましい。
【0012】
なお、このジエン系ゴムとは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)などが示される。そして、このジエン系ゴムの重量平均分子量は、50,000~3,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましい。
ここで、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。
【0013】
そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、機械的または化学的に表面処理された(機械的解繊、化学変性などがされた)ナノセルロースを含有するマスターバッチであるが、ここで、本発明において「ナノセルロース」とは、セルロースミクロフィブリルからなる平均繊維径が1~1000nmの極細繊維を意味し、平均繊維長さが0.5~5μmであるセルロースナノファイバー(CNF)と、平均繊維長さが0.1~0.5μmであるセルロースナノクリスタル(CNC)とを包含するものである。なお、本発明においては、表面処理されたナノセルロースを単に「ナノセルロース」と称する場合もある。
【0014】
ナノセルロースの原料となるセルロースは、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでも良く、特段限定されない。ナノセルロースの作製方法としては、例えば、原料となるセルロースに水を加え、ミキサー等により処理して、水中にセルロースを分散させたスラリーを調製し、これを高圧式や超音波式などの装置によって直接機械的なせん断力をかけて解繊する方法や、このスラリーに酸化処理やアルカリ処理、酸加水分解などの化学処理を施し、セルロースを変性して解繊しやすくしてから分散機などによって機械的なせん断力をかけて解繊する方法が例示される。このように化学処理を施してから解繊することにより、セルロースを低いエネルギーでより細かく均質に解繊することができ、化学変性ナノセルロースを容易に得ることができる。なお、化学処理としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、「TEMPO」という)、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-アミノ-TEMPO、4-ヒドロキシ-TEMPO、4-フォスフォノオキシ-TEMPO、リン酸エステル、過ヨウ素酸、水酸化アルカリ金属および二硫化炭素などの化学処理剤による処理を挙げることができる。また、セルロースの機械的解繊を行ってから化学処理を行っても良い。さらに、前述した化学処理に加えて、ゴム成分との親和性をより高めるために、解繊工程のあとにセルラーゼ処理、カルボキシメチル化、エステル化、カチオン性高分子による処理などを施すこともできる。
本発明においては、後述するレゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物との親和性がより高まることから、アニオン形成性基(例えば、カルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基、スルホン基、硫酸基、およびチオラート基からなる群から選ばれる1種以上)を有するナノセルロースを使用するのが好ましい。
【0015】
なお、このナノセルロースの平均繊維径は1~1000nmであり、好ましくは1~200nmである。またナノセルロースの平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は好ましくは10~1000、より好ましくは50~500である。平均繊維径が上記範囲未満および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えると、ナノセルロースの分散性が低下する可能性がある。また平均繊維径が上記範囲を超過および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であるとナノセルロースの補強性能が低下する可能性がある。
【0016】
ここで、本発明においてナノセルロースの「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、固形分率で0.05~0.1質量%のナノセルロース水分散液を調製し、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0017】
そして、本発明においては、ゴム成分100質量部に対して、このナノセルロースを0.3~15質量部、好ましくは0.3~12質量部、より好ましくは0.4~10質量部、さらに好ましくは0.4~8質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部含有させて、表面処理ナノセルロースマスターバッチを得る。このナノセルロースがゴム成分100質量部に対して0.3質量部未満であると、この表面処理ナノセルロースマスターバッチから得られるゴム組成物の力学特性を十分に高めることができない可能性がある。また、このナノセルロースがゴム成分100質量部に対して15質量部超であると、得られる表面処理ナノセルロースマスターバッチのコストが高くなる可能性があり、さらに、ナノセルロースを均質に分散できない可能性もある。
なお、本発明では、ナノセルロースを分散させた水分散液(固形分率として0.1~10質量%程度)としてからゴムラテックス等に混合しても良く、あるいは、水分が除去されたナノセルロースをゴムラテックス等に混合しても良い。
【0018】
さらに、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、ナノセルロースとともに、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒドを含有する。
【0019】
ここで、本発明において「レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF樹脂)」とは、フェノール系樹脂である、レゾルシンとホルムアルデヒドとを触媒下で縮合反応させることにより得られる縮合物(オリゴマー)であり、その重合度は5~15程度であるのが好ましい。また、このレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物には、未反応のレゾルシンおよび/またはホルムアルデヒドを含んでいても良い。
なお、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ触媒下においてレゾルシン/ホルムアルデヒドのモル比を1/1~3として縮合反応させることによって得られるメチロール基を有する縮合物がレゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(下記化1の化学式(1)で表される縮合物(式中のnは重合度))であり、シュウ酸などの酸触媒下においてレゾルシン/ホルムアルデヒドのモル比を1/0.8~0.9として縮合反応させることによって得られるメチロール基を有さない縮合物がノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(下記化2の化学式(2)で表される縮合物(式中のmは重合度))である。本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチにおいては、このレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物はレゾール型およびノボラック型のいずれであっても良いが、好ましい態様としてはノボラック型が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
そして、本発明においては、ナノセルロース1質量部に対して、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、好ましくは0.05~0.8質量部、より好ましくは0.06~0.6質量部、さらに好ましくは0.08~0.4質量部含有させ、また、ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部、好ましくは0.03~0.5質量部、より好ましくは0.04~0.4質量部、さらに好ましくは0.05~0.3質量部含有させるように調整して表面処理ナノセルロースマスターバッチを得る。レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物中に未反応のホルムアルデヒドが含まれる場合には、この未反応のホルムアルデヒド含有量も本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチのホルムアルデヒド含有量に含める。これらの含有量が上記未満であると、ナノセルロースを均質に分散できない可能性があり、この表面処理ナノセルロースマスターバッチから得られるゴム組成物の力学特性を十分に高めることができない可能性がある。また、これらの含有量が上記を超えると、この表面処理ナノセルロースマスターバッチから得られるゴム組成物の耐引裂性や伸びなどが逆に低下する可能性がある。
【0023】
また、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、さらに充填剤が含まれていても良い。この充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム、レシチン等を例示することができる。これらの充填剤は、単数または複数を組み合わせて配合することができ、特に、カーボンブラックおよび/またはシリカ(ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等)を配合するのが、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチから得られるゴム組成物の強度向上および高硬度化や、ナノセルロースをより均質に分散させるという観点から非常に好ましい。本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチにおける充填剤の含有量としては、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であるのが好ましく、20~100質量部であるのがより好ましく、30~80質量部であるのがさらに好ましく、40~70質量部であるのがさらに好ましい。
【0024】
なお、本発明において「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の炭素微粒子を意味し、「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)もしくは二酸化ケイ素によって構成される物質を意味する。
【0025】
ここで、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチの製造方法の一例を説明すると、まずゴムラテックスに、ゴム成分(ゴムラテックスの固形分)100質量部に対してナノセルロースを0.3~15質量部、ならびに、このナノセルロース1質量部に対してレゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含むように分散させて、必要であればさらに充填剤等を配合し、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の原料分散液を取得する。この分散方法は、特に限定されず、機械的方法などで行えば良い。また、ナノセルロースは水分散液としてからゴムラテックスに混合させるのが好ましいが、この水分散液の濃度は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%であると良い。ナノセルロース水分散液の濃度をこのような範囲内にすることにより、水分散液中において解繊されたナノセルロースをより均質に分散させることができる。また、ホルムアルデヒドも、水溶液(ホルマリン)をゴムラテックスに混合させるのが好ましい。
【0026】
なお、この原料分散液の固形分濃度は60質量%以下であるのが好ましく、2~50質量%であるのがより好ましく、5~50質量%であるのがさらに好ましい。この固形分濃度が60質量%を超えると、原料分散液の粘度が高くなると同時に安定性が低下する可能性がある。
【0027】
そして、この原料分散液に凝固剤を添加して高分子成分を凝集および凝固させ、ろ過などにより水分を除去し、必要に応じて凝固物を洗浄して凝固剤の除去を行い、必要に応じて乾燥などを行って、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを得る。
ここで、この凝固剤としては、無機塩(塩化ナトリウム、塩化カリウムなど)、不飽和脂肪酸金属塩(アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩など)を使用することができる。
【0028】
特に、凝固剤として不飽和脂肪酸金属塩を使用すると、得られた表面処理ナノセルロースマスターバッチ中にこの不飽和脂肪酸金属塩が含まれていても、この表面処理ナノセルロースマスターバッチから得られるゴム組成物の硬さや伸びなどの特性が低下しないことから、上記原料分散液の凝集および凝固後における凝固物洗浄工程を省略することができるためより好ましい。不飽和脂肪酸金属塩としては、アクリル酸金属塩および/メタクリル酸金属塩を用いるのが非常に好ましい。また、金属塩の好ましい金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ネオジムなどが例示される。
そして、凝固剤として不飽和脂肪酸金属塩を使用する場合には、ゴム成分100質量部に対して、不飽和脂肪酸金属塩を好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.2~10質量部、さらに好ましくは0.2~5質量部、さらに好ましくは0.2~2質量部、さらに好ましくは0.3~2質量部含有するように用いるのが、高分子成分の凝集および凝固作用を十分発揮しつつ得られるゴム組成物の特性に影響を与えないため好適である。
【0029】
そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを使用して、充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、接着用樹脂、粘着剤、素練り促進剤、老化防止剤、ワックス、加工助剤、アロマオイル、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、架橋剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量配合し、公知の方法で混合および混練してゴム組成物とすることができる。なお、加硫剤、加硫促進剤および架橋剤以外の添加剤については、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを取得する際に、原料分散液に添加配合しても良い。
【0030】
このような本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られたゴム組成物は、ナノセルロースが均質に分散し、伸びおよび硬さが保たれ且つ耐水性が優れ、さらに耐引裂性が向上したものとなる。
【0031】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0032】
(試験例1)
下記表1に示す原料によりマスターバッチを作製した。
具体的には、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス(SBR;日本ゼオン社製、Nipol LX112)とスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体ラテックス(VP;日本ゼオン社製、Nipol LX2518FS)とからなるゴムラテックス(固形分(乾燥ゴム分)40.5質量%、SBRとVPの比率は95:5)と、酸化ナノセルロース(日本製紙社製、Cellenpia)の水分散液(固形分1.0質量%)と、ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF樹脂(スミカノール(登録商標)700S)、住友化学工業社製)と、ホルムアルデヒド水溶液(関東化学社製、37%溶液)とを固形分として下記表1に示す質量比で混合分散して、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の原料分散液(実施例1~2および比較例2~3)を取得した。なお、比較例1として、上記ゴムラテックスおよび上記ナノセルロースと、界面活性剤として塩化ドデシルトリメチルアンモニウム(東京化成工業社製)とを固形分として下記表1に示す質量比で混合分散して、同様にスラリー状態の原料分散液を取得した。また、比較例4として、上記ゴムラテックスと、カーボンブラック(シースト(登録商標)、KH東海カーボン社製)を固形分として下記表1に示す質量比で混合分散して、同様にスラリー状態の原料分散液を取得した。
【0033】
【表1】
【0034】
そして、実施例1~2および比較例1~4の原料分散液について、凝集剤として塩化ナトリウムを用いて塩析により凝固を行い、さらにこの凝固物を回収して洗浄および乾燥を行い、マスターバッチを取得した。なお、洗浄は、ブフナー漏斗で減圧ろ過しながら蒸留水を凝固物表面に散布して塩化ナトリウムを洗い流す操作を5回繰り返した。また、乾燥は、洗浄された凝固物をバットに広げて70℃の恒温乾燥器に入れて24時間実施した。この得られた各マスターバッチについて、酸化亜鉛(ZnO、正同化学工業社製)、ステアリン酸(日油社製)、加硫促進剤(大内新興化学工業社製,ノクセラーNS-P)、硫黄(四国化成工業社製,ミュークロン OT-20)を添加してオープンロールにて混連し、これを15cm×15cm×0.2cmの金型中において160℃15分間プレス加硫して、加硫ゴム試験片を調製した。そして、この得られた加硫ゴム試験片について、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%伸長時における引張応力(M100:MPa)、および切断時伸び(=切断時の伸び率:Eb)を室温(20℃)にて測定した。また、引張速度500mm/分での引裂試験をJIS K6252:2015に準拠して行い、破断時の引裂応力(MPa)を室温(20℃)にて測定した。さらに、試験用液体として水を使用した浸せき試験をJIS K6258:2016に準拠して行い、耐水性の評価も実施した。
【0035】
これらの結果を下記表2に示した。なお、M100、Ebおよび引裂応力については、比較例1を100とした場合における相対値(インデックス表示(index%))として示した。
これらの結果から、酸化ナノセルロースと、ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドとを所定量含有する本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、伸びと硬さが両立し、耐引裂性(引裂強さ)および耐水性も良好であるゴム組成物が得られるものであることが示された。
【0036】
【表2】
【0037】
(試験例2)
下記表3に示す原料によりマスターバッチを作製した。
具体的には、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス(SBR;日本ゼオン社製、Nipol LX112)とスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体ラテックス(VP;日本ゼオン社製、Nipol LX2518FS)とからなるゴムラテックス(固形分(乾燥ゴム分)40.5質量%、SBRとVPの比率は95:5)と、酸化ナノセルロース(日本製紙社製、Cellenpia)の水分散液(固形分1.0質量%)と、ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF樹脂(スミカノール(登録商標)700S)、住友化学工業社製)と、ホルムアルデヒド水溶液(関東化学社製、37%溶液)とを固形分として下記表3上段に示す質量比で混合分散して、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の原料分散液を取得した。そして、この原料分散液について、ゴムラテックスの固形分100質量部に対して下記表3下段に示す量の凝集剤(塩化ナトリウムは富士フィルム和光純薬社製、アクリル酸塩はいずれも浅田化学工業社製)を使用して凝固を行い、さらにこの凝固物を回収して乾燥を行いマスターバッチ(実施例3~5および比較例5、7)を取得した。乾燥は、得られた凝固物をバットに広げて70℃の恒温乾燥器に入れて24時間実施した。なお、比較例5については乾燥前に洗浄を行った。この洗浄は、ブフナー漏斗で減圧ろ過しながら蒸留水を凝固物表面に散布して塩化ナトリウムを洗い流す操作を5回繰り返した。また、比較例6については凝固せず、マスターバッチが得られなかった。
【0038】
【表3】
【0039】
この得られた各マスターバッチについて、試験例1と同様の方法により加硫ゴム試験片を調製し、得られた加硫ゴム試験片を用いて、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%伸長時における引張応力(M100:MPa)、および切断時伸び(=切断時の伸び率:Eb)を室温(20℃)にて測定した。
【0040】
これらの結果、ならびに各マスターバッチの凝集性および凝集後の洗浄必要性について下記表4に示した。なお、M100およびEbについては、比較例5を100とした場合における相対値(インデックス表示(index%))として示した。
これらの結果から、酸化ナノセルロースと、ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドとを所定量含有し、所定量の不飽和脂肪酸金属塩(アクリル酸ナトリウムまたはアクリル酸カルシウム)により凝集させた本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、凝集性に優れ、凝集後の洗浄も必要なく、さらに伸びと硬さが両立したゴム組成物が得られるものであることが示された。
【0041】
【表4】
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、ナノセルロースと、ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒドと、を含有する表面処理ナノセルロースマスターバッチであって、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記ナノセルロースを0.3~15質量部含有し、
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびに前記ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含有する、表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項2】
前記ゴム成分が、ジエン系ゴムおよびスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体を含む、請求項1に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項3】
さらに、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有する、請求項1または2に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。