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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083424
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】導電材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/10 20060101AFI20240614BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20240614BHJP
   C25D 7/00 20060101ALN20240614BHJP
【FI】
C25D5/10
C25D5/50
C25D7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059535
(22)【出願日】2024-04-02
(62)【分割の表示】P 2022134358の分割
【原出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】上田 雄太郎
(57)【要約】
【課題】十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる導電材料を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、Cu-Sn合金層と、Sn層と、をこの順に有する導電材料であって、
前記導電材料のSn層側表面において、前記Cu-Sn合金層の一部が露出しており、
前記導電材料の前記Sn層側表面のうち、前記Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さが0.03μm以上である、導電材料。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上に形成される積層構造であって、Cu-Sn合金層と、Sn層と、をこの順に有し、
前記積層構造のSn層側表面において、前記Cu-Sn合金層の一部が露出しており、
前記積層構造の前記Sn層側表面のうち、前記Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さが0.03μm以上である、積層構造。
【請求項2】
前記算術平均高さが0.05μm以上である請求項1に記載の積層構造。
【請求項3】
前記算術平均高さが0.07μm以上である請求項1に記載の積層構造。
【請求項4】
母材上に、Cu層およびSn層をこの順で形成した後、リフロー処理を行い、Cu-Sn合金層を得ることと、
前記リフロー処理後、めっき厚さが0.025~0.25μmである無光沢Snめっき層を形成することと、
前記無光沢Snめっき層表面において、前記Cu-Sn合金層の一部を露出させることと、を含む積層構造の製造方法であって、
前記積層構造の前記Sn層側表面のうち、前記Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さが0.03μm以上である、積層構造の製造方法。
【請求項5】
前記無光沢Snめっき層のめっき厚さが0.05~0.20μmである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記無光沢Snめっき層のめっき厚さが0.07~0.15μmである、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は導電材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における電子制御の多用化および高度化により、車載用端子の極数が増加し、それに伴い、端子の挿入力が大きくなっている。このため、自動車の組立工程における作業者の負荷の軽減及び嵌合ミス防止の観点から、端子に用いられる導電材料は、動摩擦係数を低くする必要がある。また、車載用端子は高温で長時間使用され得ることから、端子に用いられる導電材料は、十分な耐熱性を有する必要がある。
【0003】
特許文献1には、動摩擦係数が低い導電材料として、例えばカットオフ値を0.8mmとしたときの材料表面の算術平均粗さを所定の範囲にするとともに、材料表面がCu-Sn合金層が露出した領域と露出していない領域との面積比率を所定範囲にした材料が開示されている。また、特許文献1には、当該材料の高温長時間使用後において接触抵抗の上昇が抑制されることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-115210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の自動車の自動運転化および電装化に伴い、車載用端子の更なる小型化が進んでいる。端子の小型化により、ばね構造が小さくなるため、端子の接触圧が低下する。そのため、低接触圧でも高い導電性(すなわち低接触抵抗)を示す導電材料が求められている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来技術では、低接触圧下(<2N)での接触抵抗の検討がなされておらず、更なる改善の余地があることが分かった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる導電材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
銅又は銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、Cu-Sn合金層と、Sn層と、をこの順に有する導電材料であって、
前記導電材料のSn層側表面において、前記Cu-Sn合金層の一部が露出しており、
前記導電材料の前記Sn層側表面のうち、前記Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さが0.03μm以上である、導電材料である。
【0008】
本発明の態様2は、
前記算術平均高さが0.05μm以上である態様1に記載の導電材料である。
【0009】
本発明の態様3は、
前記母材の下地層側表面において、少なくとも一方向の算術平均粗さが0.15μm以上であり、かつ全方向の算術平均粗さが3.0μm以下である、態様1または2に記載の導電材料である。
【0010】
本発明の態様4は、
銅又は銅合金からなる母材上に、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層を形成することと、
前記下地層上にCu層およびSn層をこの順で形成した後、リフロー処理を行い、Cu-Sn合金層を得ることと、
前記リフロー処理後、めっき厚さが0.025~0.25μmである無光沢Snめっき層を形成することと、
前記無光沢Snめっき層表面において、前記Cu-Sn合金層の一部を露出させることと、を含む導電材料の製造方法である。
【0011】
本発明の態様5は、
前記無光沢Snめっき層のめっき厚さが0.05~0.20μmである、態様4に記載の製造方法である。
【0012】
本発明の態様6は、
前記下地層を形成することは、少なくとも一方向の算術平均粗さが0.15μm以上であり、かつ全方向の算術平均粗さが3.0μm以下となるように粗面化された前記母材の表面上に前記下地層を形成することにより行う、態様4または5に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる導電材料およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、試験No.1の導電材料のSn層側表面の光学顕微鏡像である。
図1B図1Bは、試験No.2の導電材料のSn層側表面の光学顕微鏡像である。
図1C図1Cは、試験No.3の導電材料のSn層側表面の光学顕微鏡像である。
図1D図1Dは、試験No.4の導電材料のSn層側表面の光学顕微鏡像である。
図2A図2Aは、SEMによる、試験No.1の導電材料のSn層側表面の二次電子(SE)像である。
図2B図2Bは、SEMによる、試験No.1の導電材料のSn層側表面の後方散乱電子(BSE)像である。
図3A図3Aは、試験No.1の導電材料の各層の積層方向に平行な断面SEM像である。
図3B図3Bは、試験No.4の導電材料において、Sn層側表面からCu-Sn合金層の一部が露出している部分を含む、各層の積層方向に平行な断面SEM像である。
図3C図3Cは、試験No.4の導電材料において、Sn層側表面からCu-Sn合金層が露出していない部分の、各層の積層方向に平行な断面SEM像である。
図4図4は、動摩擦係数評価に用いた装置の模式図である。
図5図5は、耐微摺動摩耗性評価に用いた装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる導電材料を実現するべく、様々な角度から検討した。
【0016】
そして、母材と、下地層と、Cu-Sn合金層と、Sn層とをこの順に有する構成とした上で、Sn層側表面から、比較的高硬度のCu-Sn合金層の一部を露出させることにより、導電材料に十分な耐熱性を付与しつつ、導電材料の動摩擦係数を十分に低くできることを見出した。
【0017】
さらに、Sn層側表面において、Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmと非常に狭い間隔にして(すなわち母材の表面凹凸など、25μm超の広い間隔の凹凸の影響を排除して)評価した算術平均高さ(以下「Sa」とも称する)を0.03μm以上とすることにより、低接触圧下(<2N)でも接触抵抗を十分に低くできることを見出した。これは、通常Sn層の表面に形成され得る酸化物により接触抵抗が高くなり得るところ、前述の表面形状を有することにより、当該酸化物が低接触圧でも破壊されやすくなったため、低接触圧下でも接触抵抗を低くできたものと考えられる。
【0018】
また、上記導電材料の製造方法として、最表面のSn層を形成する際、特許文献1に開示されるような従来の光沢Snめっき層とは異なり、無光沢Snめっき層を所定の厚さで形成することにより、上述のSaを有する導電材料が得られることを見出した。
以上により、十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる導電材料を実現することができた。なお、上記メカニズムは、本発明の実施形態の技術的範囲を制限するものではない。
【0019】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0020】
本発明の実施形態に係る導電材料は、銅又は銅合金からなる母材と、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層と、Cu-Sn合金層と、Sn層と、をこの順に有する導電材料であって、前記導電材料のSn層側表面において、前記Cu-Sn合金層の一部が露出しており、前記導電材料の前記Sn層側表面のうち、前記Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さが0.03μm以上である。
上記により、十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる。以下各層について詳述する。
【0021】
<母材>
本発明の実施形態において、母材は銅又は銅合金からなる。母材の材質として、例えば純銅のほか、Cu-Ni-Si系、Cu-Ni-Sn-P系、Cu-Fe-P系、Cu-Zn系、Cu-Cr-Ti-Si系、Cu-Mg系等、種々の銅合金を用いることができる。
【0022】
母材の形状は特に制限されず、例えば板状でもよく、条でもよく、端子の形状に加工されていてもよい。母材の表面形状も特に制限されず、平坦であっても凹凸があってもよい。後述する本発明の実施形態に係る導電材料の製造方法において、Cu-Sn合金層の一部を表面から容易に露出させることができるという観点では、母材の下地層側表面において、カットオフ値を0.8μmとしたときの、少なくとも一方向の算術平均粗さ(以下「Ra」とも称する)が0.15μm以上であり、かつ全方向のRaが3.0μm以下であることが好ましい。母材の下地層側表面のRaは、例えば表面粗さ計を用いて、JIS B0601:2001に基づいて測定することができる。なお、母材の下地層側表面のRaは、導電材料の各層の積層方向に平行な断面像から求めることも可能である。
母材が板状である場合の板厚は特に制限されないが、例えば0.05mm以上2mm以下であり得る。
【0023】
<下地層>
下地層は、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種の純金属または2種以上の合金から構成される1層以上である。この下地層により、母材中のCu及び合金元素が材料表面へ拡散するのを抑制し、高温長時間使用後も接触抵抗の上昇を抑制できる。なお、下地層自身の材料表面への拡散は、後述するCu-Sn合金層等により抑制できる。また、下地層が形成されることにより、材料の亜硫酸ガス耐食性が向上する。
【0024】
下地層の平均厚さ(下地層が2層の場合は、2層の合計厚さの平均)は、下地層中のピット欠陥を抑制して、上記効果をより発揮させる観点で、0.1μm以上が好ましい。一方、コスト低減および成形加工性の確保のために、下地層の平均厚さは3.0μm以下にすることが好ましい。なお、下地層の平均厚さは、例えば蛍光X線膜厚計を用いて測定することができる。
下地層の表面形状は特に制限されず、例えば母材の下地層側表面の形状が反映され得る。
【0025】
<Cu-Sn合金層>
Cu-Sn合金層は、CuとSnの合金からなる。Cu-Sn合金層は、例えばη相(CuSn)のみ又はε相(CuSn)とη相からなり得る。Cu-Sn合金層がε相とη相からなる場合、ε相は下地層とη相の間に形成され得、前記下地層に接し得る。ε相はη相に比べて硬いため、ε相が存在するとCu-Sn合金層が硬くなり、摩擦係数がより低減されるため好ましい。また、例えばNi下地層の場合、リフロー処理後に(Cu,Ni)Sn合金層を形成させてもよい。
【0026】
Cu-Sn合金層は、本発明の実施形態に係る導電材料のSn層側表面から、一部が露出しており、全面がSn層に覆われてはいない。これにより、導電材料の動摩擦係数を十分に低減できる。なお、導電材料のSn層側表面から、Cu-Sn合金層の一部が露出していることは、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、導電材料のSn層側表面の後方散乱電子(BSE)像を取得することにより確認できる。
図2Bに本発明の実施形態に係る導電材料(試験No.1)のBSE像の例を示す。図2Bでは、Cu-Sn合金層1に起因する比較的暗い領域と、Sn層(ここでは、無光沢めっき層2b)に起因する比較的明るい領域が観察される。このように、導電材料のSn層側表面のBSE像において、Cu-Sn合金層1に起因する比較的暗い領域が観察される場合、導電材料のSn層側表面から、Cu-Sn合金層の一部が露出していると判断できる。
【0027】
導電材料のSn層側の表面におけるCu-Sn合金層の露出部の面積率は、10%以上であることが好ましい。これにより、導電材料の動摩擦係数をより低減できる。一方で、導電材料のSn層側の表面におけるCu-Sn合金層の露出部の面積率は、50%以下であることが好ましく、40%以下がより好ましい。これにより、導電材料の接触抵抗をより低減できる。なお、導電材料のSn層側の表面におけるCu-Sn合金層の露出部の面積率は上述のBSE像を取得し、画像解析ソフト(フリーソフトのImageJ 1.49)を用いて得られたBSE像を2値化して、画像解析によりCu-Sn合金層の露出部の面積率を算出することができる。
【0028】
Cu-Sn合金層の平均厚さは、コスト低減および成形加工性の確保のために、3.0μm以下にすることが好ましい。一方で、下地層の素材(Ni、CoおよびFe)がSn層へ拡散するのを抑制する観点で、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.2μm以上にすることが好ましい。なお、Cu-Sn合金層の平均厚さは、例えば蛍光X線膜厚計を用いて測定できる。具体的には、Cu-Sn合金層中のSn成分の値を、蛍光X線を用いて測定して、得られたSnめっき厚さの平均をCu-Sn合金層の平均厚さとすることができる。
【0029】
Cu-Sn合金層は、積層方向に垂直な面内において連続していても、不連続であってもよい。不連続である場合、Cu-Sn合金層が存在しない一部の領域において、上部層であるSn層が下部層(例えば下地層)に直接接触していてもよい。
【0030】
<Sn層>
Sn層は、導電材料の表面に配置される。当該表面からは、Cu-Sn合金層が部分的に露出している。すなわちSn層は、導電材料の表面において(積層方向に垂直な面内において)不連続である。
【0031】
導電材料のSn層側の表面における、Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして(すなわち母材の表面凹凸など、25μm超の広い間隔の凹凸の影響を排除して)評価した算術平均高さ(Sa)は、0.03μm以上である。これにより、表面に形成され得る酸化被膜が破壊されやすいこと等に起因して、導電材料の接触抵抗を十分に低減できる。Saは0.05μm以上であることが好ましく、0.07μm以上であることがより好ましい。なお、例えば、カットオフ値を25μm超として評価した場合、酸化被膜を破壊しにくい広い間隔の凹凸も算術平均高さに反映される。そのため、カットオフ値を25μm超として評価した場合、たとえ算術平均高さが0.03μm以上であったとしても、導電材料の接触抵抗を十分に低減できないおそれがある。
上記Saは、レーザマイクロスコープを用いて、ISO25178に準じて測定することにより求めることができる。また、Sn層を50面積%以上含むか否かは、上述のCu-Sn合金層の露出部の面積率の求め方と同様に、導電材料のSn層側表面のBSE像等から確認できる。
【0032】
Sn層は、積層方向に平行な少なくとも1つの断面において、高さをH、底部の幅をWとするとH/W≧0.15である凸部を表面に有することが好ましい。これにより、導電材料の接触抵抗をより低減できる。ここで、底部の幅Wとは、Sn層表面に沿う方向の幅であり、高さをHは、当該表面に垂直な方向の高さである。Hの平均値は0.1μm以上であることが好ましい。Hの平均値の上限は特に制限されないが、例えば1μm以下であり得る。Wの平均値は、5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下である。Wの平均値の下限は特に制限されないが、例えば0.1μm以上であり得る。これらの範囲を満たすことにより、導電材料の接触抵抗をさらに低減できる。例えば、導電材料のSn層側の表面像において、Sn層の凸部が線状に形成されている場合は、当該線状の凸部の中央付近を、当該線状の凸部に対して垂直方向に断面試料を作製して、水平方向に観察することにより、当該凸部が上記形状であるかを確認できる。
【0033】
本発明の実施形態に係る導電材料は、その目的が達成される範囲内で、母材、下地層、Cu-Sn合金層およびSn層以外の層を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の実施形態に係る導電材料は、上記構成により十分に低い動摩擦係数および十分な耐熱性を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低くできる。さらに、近年、自動車のエンジンの振動及び/又は自動車走行による振動によって接点間に微摺動が発生し、接点部が摩耗して接触抵抗が増大する現象(微摺動摩耗)が問題となってきているところ、本発明の実施形態に係る導電材料は、上記構成により十分な耐微摺動摩耗性も有する。すなわち、微摺動によりSn層表面の酸化物が破壊・剥離され、さらにその剥離物の堆積によって摩耗が促進され得るところ、本発明の実施形態においては、Cu-Sn合金層の一部が表面から露出しているため、Sn層の摩耗および(摩耗で剥離した酸化物の堆積)が断続的になる。これにより、本発明の実施形態に係る導電材料は、微摺動に伴う摩耗を低減することができる。
【0035】
本発明の実施形態に係る導電材料の製造方法は、前記母材上に、前記下地層を形成することと、前記下地層上にCu層およびSn層をこの順で形成した後、リフロー処理を行い、前記Cu-Sn合金層を得ることと、前記リフロー処理後、めっき厚さが0.025~0.25μmである無光沢Snめっき層を形成することと、前記導電材料のSn層側表面において、前記Cu-Sn合金層の一部を露出させることと、を含む。
以下、各工程について詳述する。
【0036】
<母材上に下地層を形成すること>
上述した銅又は銅合金からなる母材を準備し、その上に、Ni、CoおよびFeからなる群から選択されるいずれか1種以上から構成される1層以上である下地層を形成する。製造を容易にする観点では、下地層は、Ni層、Co層およびFe層からなる群から選択される1層または2層であることが好ましい。下地層の形成方法は特に制限されず、めっきなど、公知の方法で形成してよい。このとき、少なくとも一方向の算術平均粗さが0.15μm以上であり、かつ全方向の算術平均粗さが3.0μm以下となるように粗面化された母材表面上に下地層を形成することが好ましい。これにより、後述するようにCu-Sn合金層を導電材料のSn層側表面から露出させることができる。母材の粗面化は、例えば圧延(研磨またはショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、または研磨もしくはショットブラスト等の機械的方法により行うことができる。また、イオンエッチング等の物理的方法、又はエッチングもしくは電解研磨等の化学的方法を使用することもできる。
【0037】
<下地層上にCu層およびSn層をこの順で形成した後、リフロー処理を行い、Cu-Sn合金層を得ること>
Cu層およびSn層は、めっきなど、公知の方法で形成してよい。Cu層およびSn層をこの順で形成後、リフロー処理を行うことで、Cu層のCu及びSn層のSnが相互拡散して、Cu-Sn合金層が形成される。このとき、Cu層は全て消滅するか、一部Cu-Sn合金層と下地層との間に残留し得る。同様に、Sn層も、全て消滅するか一部残留し得る。なお、リフロー処理前のSnめっき層の厚さ(ts)とし、Cuめっき層の厚さ(tc)としたとき、ts/tc=2のときに、Cu層およびSn層のどちらも全て消滅しやすい。また、ts/tc<2の場合にCu層が残留しやすく、ts/tc>2の場合にSn層が残留しやすい(ここで残留したSn層を「残留Sn層」と呼ぶことがある)。またts/tc>2の場合に、平衡状態ではη相のみが形成され得るが、リフロー処理条件によっては、非平衡な相であるε相も形成され得る。
tsおよびtcは、ts/tc>2としつつ、tcを0.1~1.5μm、tsを0.35~3.15μmとすることが好ましい。これにより、ε相を形成しつつ、Cu-Sn合金層を好ましい平均厚さ(0.2~3.0μm)に調整できる。リフロー処理条件は、Snめっき層の融点~600℃で3~30秒間とすることが好ましい。
【0038】
ここで、上述の粗面化された母材上に下地層を形成した場合、下地層およびCu-Sn合金層もその形状を反映して凹凸を有し得る。また、Sn層がリフロー処理後にも一部残留する場合、リフロー時に溶融Snが凹部に流れ込むことに起因して、残留Sn層は粗面化された母材の凹部に対応する箇所に偏在し得る。言い換えれば、粗面化された母材の凸部に対応する箇所の層構成は、母材/下地層/Cu-Sn合金層となり得、粗面化された母材の凹部に対応する箇所の層構成は、母材/下地層/Cu-Sn合金層/残留Sn層となり得る。
【0039】
<リフロー処理後、めっき厚さが0.025~0.25μmである無光沢Snめっき層を形成すること>
めっき厚さが0.025~0.25μmとなるように無光沢Snめっき層を形成することにより、微細な凸部を有するSn層が得られ、Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さを0.03μm以上にすることができる。ここで、無光沢Snめっき層とは、結晶粒を微細化させる光沢剤などの添加剤を含まないめっき浴を用いて形成されたSnめっき層のことであり、当該めっき浴は、例えばSnSOおよびHSOからなる。好ましくはめっき厚さが0.05~0.20μmである無光沢Snめっき層を形成することである。これにより、Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さを0.05μm以上にすることができる。より好ましくは、めっき厚さが0.07~0.15μmとなるように無光沢Snめっき層を形成することである。これにより、Sn層を50面積%以上含む250μm角の領域において、カットオフ値を25μmとして評価した算術平均高さを0.07μm以上にすることができる。
【0040】
ここで、上述の粗面化された母材上に下地層を形成した場合、無光沢Snめっき層は、粗面化された母材の凹部に対応する箇所に存在し得る、残留Sn層上に成長し得る。言い換えれば、粗面化された母材の凸部に対応する箇所の層構成は、母材/下地層/Cu-Sn合金層となり得、粗面化された母材の凹部に対応する箇所の層構成は、母材/下地層/Cu-Sn合金層/Sn層(すなわち、残留Sn層+無光沢Snめっき層)となり得る。
【0041】
<導電材料のSn層側表面において、Cu-Sn合金層の一部を露出させること>
導電材料のSn層側表面からCu-Sn合金層の一部を露出させる方法としては種々の方法を用いることができる。例えば、上述の粗面化された母材上に下地層を形成することによって、粗面化された母材の凸部に対応する箇所において、導電材料のSn層側表面からCu-Sn合金層の一部を露出させることができる。平坦な母材上に下地層を形成する場合であっても、下地層を母材と同様に粗面化することで、Cu-Sn合金層の一部を露出させることができる。また、例えば特開2013-174006号のように、下地層の元素とリフロー処理を調整することにより急峻な形状のCu-Sn合金層を設けることもできる。また、母材/下地層/Cu-Sn合金層/Sn層を形成した後、Sn層の一部を機械的に除去することで、Cu-Sn合金層の一部を露出させることもできる。
【0042】
本発明の実施形態に係る導電材料を製造する方法は、その目的が達成される範囲内で、他の工程を含んでいてもよい。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【実施例0044】
母材として、板厚が0.25mmの銅合金板(Cu-Ni-Sn-P系)であって、粗面化ロールで圧延したものを用いた。粗面化ロールで圧延した母材の平均算術粗さRaは、一方向で0.48μm、全方向で0.49μmであった。なお、母材の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、接触式表面粗さ計(株式会社東京精密;サーフコム1400)を用いて、JIS B0601:2001に基づいて測定した。表面粗さ測定条件は、カットオフ値を0.8mm、基準長さを0.8mm、評価長さを4.0mm、測定速度を0.3mm/s、及び触針先端半径を5μmRとした。表面粗さの測定方向は、圧延方向に垂直な方向(表面粗さが最も大きく算出される方向であり得る)とした。
【0045】
次に上記の粗面化された母材の表面上に、下地層として、平均厚さが0.3μmとなるように、公知の方法でNiめっき層を形成した。具体的には、リフロー処理前のNiめっき液は、特開2004-68026号公報に記載されたものを用い、めっき条件は、電流密度を5A/dm、浴温を60℃とした。
【0046】
さらにその下地層上に、Cuめっき層とSnめっき層を公知の方法でこの順に形成した。ここで、リフロー処理前のCuめっき層の厚さ(tc)およびSnめっき層の厚さ(ts)につき、ε相を形成しつつ、Cu-Sn合金層が好ましい平均厚さ(0.2~3.0μm)になるように、tc:0.15μmおよびts:0.9μmとなるようにした。具体的には、Cuめっき液およびSnめっき液は、特開2004-68026号公報に記載されたものを用い、めっき条件は、Cuめっきでは、電流密度を3.5A/dm、浴温を35℃とし、Snめっきでは、電流密度を3.0A/dm、浴温を35℃とした。
その後、Snが溶解する232℃以上(実体温度)の条件で、リフロー処理を実施した。
【0047】
リフロー処理後、無光沢Snめっき層を形成し、試験No.1の導電材料を得た。具体的には、無光沢Snめっき層は、SnSO(80g/L)およびHSO(80g/L)からなるめっき液を建浴し、電流密度3A/dmで、2~8秒間通電を実施することにより形成した。ここで、蛍光X線膜厚計にて、試験No.1の導電材料に対し、無光沢Snめっき前後の平均Sn層厚さを測定し、その増加分を無光沢Snめっき層の平均厚さとしたところ、0.10μmであった。
【0048】
試験No.1の導電材料から、無光沢Snめっき層の厚さを変更して、試験No.2(無光沢Snめっき層0.05μm)、試験No.3(無光沢Snめっき層0.025μm)、試験No.4(無光沢Snめっき層無し)を作製した。また、試験No.1から、母材を、0.20mmtの銅合金板(Cu-Ni-Sn系)を平坦なロールで圧延した材料に変更し、かつ下地層を形成しないことにより、試験No.5の導電材料を作製した。さらに試験No.1から、無光沢Snめっき層を光沢Snめっき層に変更して、試験No.6の導電材料を作製した。なお、光沢Snめっき層は、SnSO(80g/L)およびHSO(80g/L)に加え、光沢剤(35g/L)を含むめっき液を建浴し、電流密度3A/dmで、2~8秒間通電を実施することにより形成した。
【0049】
試験No.1~6の導電材料のSn層側表面を、光学顕微鏡を用いて観察した。一例として、図1A図1Cは無光沢Snめっき層を形成した試験No.1~3の導電材料の光学顕微鏡像をそれぞれ示し、図1Dは無光沢Snめっき層が無い試験No.4の導電材料の光学顕微鏡像を示す。図1Dに示すように、試験No.4の導電材料は、無光沢Snめっき層が無いことに起因して、平坦な表面であることがわかる。なお、図1Dにおいて、比較的暗い領域はCu-Sn合金層1であり、比較的明るい領域は残留Sn層2aである。図1Dの試験No.4の導電材料に対し、図1A図1Cの試験No.1~3の導電材料は、より暗い領域で示される無光沢Snめっき層2bを有しており、表面ラフネスが大きいことがわかる。
【0050】
試験No.1~6の導電材料のSn層側表面を、SEMを用いて観察した。一例として、図2Aに試験No.1の導電材料のSn層側表面の二次電子(SE)像を示し、図2Bにその後方散乱電子(BSE)像を示す。図2AのSE像から、導電材料のSn層側表面に、少なくとも、微細な凸部を有する無光沢Snめっき層2bと、平坦であるCu-Sn合金層1とを有することがわかる。図2BのBSE像から、導電材料のSn層側表面において、Cu-Sn合金層1(比較的暗い領域)の一部が露出していることがより明確にわかる。なお、試験No.2~4および6も同様に、導電材料のSn層側表面において、Cu-Sn合金層1の一部が露出していることを確認したが、試験No.5においては、Cu-Sn合金層1の露出は確認されなかった。これは、試験No.5の導電材料の製造方法において、試験No.1~4および6とは異なり、母材を粗面化させるなどの、Cu-Sn合金層1の一部を露出させる手段を含まなかったためであると考えられる。
また、SEMを用いて試験No.1~6の導電材料のSn層側表面を全面的に観察し、全面的に(すなわち、いずれの250μm角の領域においても)Sn層の面積率が50面積%以上であることが確認できた。
【0051】
試験No.1~6の導電材料の各層の積層方向に平行な断面を、SEMを用いて観察した。一例として、図3Aに試験No.1の導電材料の断面SEM像を示し、図3Bに試験No.4の導電材料の表面からCu-Sn合金層1の一部が露出している部分の断面SEM像を示し、図3Cに試験No.4の導電材料の表面からCu-Sn合金層1が露出していない部分の断面SEM像を示す。図3Bおよび図3Cに示すように、試験No.4の導電材料は、Cu-Sn合金層1および残留Sn層2aで、または残留Sn層2aでSn層側表面が構成されており、表面が平坦であることが分かる。一方、図3Aに示すように、試験No.1の導電材料は、無光沢Snめっき層2bを表面に有しており、高さをH、底部の幅をWとするとH/W≧0.15である凸部を形成していることがわかる(一例として、図3A中に、1つの凸部のH(≒0.53)およびW(≒1.33)を記載しており、当該凸部はH/W≒0.40であることがわかる)。なお、図3Aから、無光沢Snめっき層2bに起因する凸部は、Cu-Sn合金層1ではなく、残留Sn層2a上に成長していることがわかる。また、図3A図3Cにおいて、Cu-Sn合金層1の下層には下地層3が確認される。また、少なくとも試験No.1の導電材料は、Hの平均値が0.1~1μmの範囲内であり、Wの平均値が、0.1~3μmの範囲内であった。
【0052】
試験No.1~6の導電材料に対し、さらに以下の評価を行った。
【0053】
<算術表面高さ(Sa)評価>
レーザマイクロスコープ(オリンパス株式会社;OLS-4100)を用いて、ISO25178に基づいて、試験No.1~6の導電材料のSn層側表面のSaを測定した。表面粗さ測定条件は、カットオフ値を25μmとし、250μm角を評価エリアとした。
【0054】
<接触抵抗評価>
電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製)を用いて試験No.1~6の導電材料の接触抵抗を評価した。本装置において接触抵抗測定用プローブは金ワイヤであるが、本試験では、プローブ用材料(Cu-Ni系母材(0.2mm)/Cu-Sn合金層(0.3um)/Sn層(0.7um))を別途準備し、その半球加工材(外径:0.55mm)であるメス試験片を取り付けるための治具を作製して、当該メス試験片を接触抵抗測定用プローブとして用い、各導電材料から切り出した板材であるオス試験片のSn層側表面に接触できるようにした。そして四端子法により、解放電圧20mV、電流10mA、荷重1N、の条件にて3回測定を実施し、その平均値を接触抵抗値とした。また、オス側試験片を、大気中で160℃×120hで加熱して、加熱前後の接触抵抗を測定した。
評価基準として、初期接触抵抗については、◎(非常に優れる):2.3mΩ以下、〇(優れる):2.4~6.3mΩ、△(十分):6.4~6.8mΩ:、×(不十分):6.9mΩ以上とし、加熱後接触抵抗については、◎(非常に優れる):2.9mΩ以下、〇(優れる):3.0~6.9mΩ、△(十分):7.0~9.9mΩ:、×(不十分):10.0mΩ以上とした。
【0055】
<動摩擦係数評価>
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図4に示すような装置を用いて試験No.1~6の導電材料の動摩擦係数を評価した。図4に示すように、各導電材料から切り出した板材のオス試験片10を水平な台11に固定し、その上に上述のプローブ用材料の半球加工材(外径:0.55mm)のメス試験片12をおいて、各試験片のSn層側同士を接触させた。続いて、メス試験片12に1.0Nの荷重(錘13)をかけてオス試験片10を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model-2152)を用いて、オス試験片10を水平方向に1回摺動させたときの最大摩擦力(単位:N)を測定した。摺動距離は5mm、摺動速度は80mm/minとした。 図4において、14はロードセル、矢印は摺動方向であり、オス試験片10及びメス試験片12のいずれも、圧延垂直方向を摺動方向に平行な向きとした。垂直抗力(荷重)をP(=1.0N)とし、最大摩擦力をFとしたとき、動摩擦係数μ’はμ’=F/Pで表される。各導電材料について測定試験を4回行い、動摩擦係数の平均値を求め、当該導電材料の動摩擦係数とした。動摩擦係数の評価基準は、◎(非常に優れる):0.19以下、〇(優れる):0.20~0.44、△(十分):0.45~0.59、×(不十分):0.60以上とした。
【0056】
<耐微摺動摩耗性評価>
耐微摺動摩耗性は、嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図5に示すような摺動試験機を用いて評価した。まず、各導電材料から切り出した板材のオス試験片5を水平な台6に固定し、その上に上述のプローブ用材料の半球加工材(外径:0.55mm)のメス試験片7を置いて各試験片のSn層側同士を接触させた。メス試験片7に1.0N(錘8)の荷重をかけてオス試験片5を押さえ、オス試験片5とメス試験片8の間に10mAの定電流を印加し、ステッピングモータ9を用いてオス試験片5を水平方向に摺動させ、接触抵抗の初期ピーク値を測定した。各導電材料について、測定試験を3回行って平均値を求め、その平均値を各導電材料の接触抵抗とした。摺動距離は50μm、摺動周波数は1Hzとした。図中の矢印は摺動方向である。耐微摺動摩耗性(接触抵抗初期ピーク値)の評価基準は、◎(非常に優れる):2.3mΩ以下、〇(優れている):2.4~6.3mΩ、△(十分):6.4~6.8mΩ:、×(不十分):6.9mΩ以上とした。
【0057】
以上の結果を表1にまとめた。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の結果より、次のように考察できる。試験No.1~3の導電材料は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、十分に低い動摩擦係数(0.59以下)を有し、十分な耐熱性(加熱後接触抵抗9.9mΩ以下)を有しつつ、低接触圧下(<2N)での接触抵抗を十分に低く(初期接触抵抗6.8mΩ以下)でき、さらに十分な耐微摺動摩耗性(接触抵抗初期ピーク値6.8mΩ以下)も有していた。また、試験No.1および2は、好ましい要件であるSa≧0.05を満たしたため、接触抵抗をより低減でき、具体的には、初期接触抵抗および加熱後接触抵抗が共に優れていた。試験No.1は、より好ましい要件であるSa≧0.07を満たしたため、接触抵抗をさらに低減でき、具体的には、初期接触抵抗および加熱後接触抵抗が共に非常に優れていた。
一方、試験No.4~6の導電材料は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満たしておらず、初期接触抵抗、加熱後接触抵抗または動摩擦係数が不十分であった。
【0060】
試験No.4の導電材料は、無光沢Snめっき層を形成しておらず、Saが0.03μm未満となり、初期接触抵抗が不十分であった。
【0061】
試験No.5の導電材料は、下地層を形成しておらず、加熱後接触抵抗が不十分であった。さらに、Sn層側表面からCu-Sn合金層が露出しておらず、動摩擦係数も不十分であった。
【0062】
試験No.6の導電材料は、無光沢Snめっき層の代わりに光沢Snめっき層を形成しており、Saが0.03μm未満となり、初期接触抵抗が不十分であり、その影響を受けたためか、加熱後接触抵抗も不十分であった。
【符号の説明】
【0063】
1 Cu-Sn合金層
2 Sn層
2a 残留Sn層
2b 無光沢Snめっき層
3 下地層
5、10 オス試験片
6、11 水平な台
7、12 メス試験片
8、13 錘
9 ステッピングモータ
14 ロードセル
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5