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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083453
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】発酵乳
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20240614BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A23C9/123
A23C9/13
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060515
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2019227920の分割
【原出願日】2019-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2019036370
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 潤
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 詠子
(57)【要約】
【課題】本発明は、発酵乳の舌触りの滑らかを向上させる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】重合度2~9のオリゴ糖(ただしスクロース、ラクトース及びイヌリンを除く)と、イヌリンと、ビフィドバクテリウム属細菌とを含有する発酵乳。好ましい態様において、前記オリゴ糖はラクチュロースを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度2~9のオリゴ糖(ただしスクロース、ラクトース及びイヌリンを除く)と、イヌリンと、ビフィドバクテリウム属細菌とを含有する、発酵乳。
【請求項2】
前記オリゴ糖がラクチュロースである、請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
前記オリゴ糖の含有量が発酵乳全量に対して0.1~5.0質量%である、請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項4】
イヌリンの含有量が発酵乳の1~10質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵乳。
【請求項5】
脂質の含有量が発酵乳全量に対して0~5質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の発酵乳。
【請求項6】
前記オリゴ糖が、発酵前に添加されたものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の発酵乳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舌触りの滑らかさが向上した発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳はタンパク質やカルシウムを多く含む栄養食品というだけでなく、乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌(以降、ビフィズス菌とも記す)、それらの代謝物を含むために様々な生理効果が期待される食品である。
【0003】
発酵乳の組織は、原料乳に乳酸菌等を加えて発酵させることで生成する酸によって乳タンパク質が凝集することで作られ、喫食時のおいしさの重要な要素となる。組織に影響を与える要因としては、使用する原料やその濃度、乳酸菌の種類などが挙げられる。組織の特性の一つである粒度に関しては、平均粒子径が小さいほど滑らかであるとされる(非特許文献1)が、発酵乳は酸性下で乳タンパク質が凝集して脂質などとの複合体を作るため、発酵前よりも粒子径が大きくなり、滑らかさが失われる傾向にある。
発酵乳を滑らかにする方法としては、粒子径を下げるために脂肪分を増やすことが挙げられる(非特許文献2)。しかしながら、この方法では脂肪分の高い発酵乳となり、栄養面や風味面においての製品設計の自由度が制限されてしまう。
また、特定の粘性多糖を生成する乳酸菌を使用することにより滑らかさを有する発酵乳を製造する方法も提案されている(特許文献1)。しかしながら、使用される乳酸菌が制限されることによって、異なる風味や生理機能を有する乳酸菌やビフィズス菌の使用が制限されてしまう。
【0004】
ところで、ラクチュロースは、ガラクトースとフラクトースからなる二糖類である(非特許文献1)。ラクチュロースは難消化性であり、ビフィズス菌などの腸内有用菌を増殖させ、整腸作用や肝機能の改善作用など種々の作用を有することが知られている(特許文献2~8)。
【0005】
また、イヌリンは植物に含まれる水溶性の食物繊維で、ヒト小腸では消化吸収を受けずに大腸まで到達してビフィズス菌などの腸内細菌の餌として利用される。イヌリンを喫食すると腸内ではビフィズス菌等のいわゆる善玉菌が優勢になり、腸内菌叢が良好な状態となることが知られている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-143221号公報
【特許文献2】特許第3908513号公報
【特許文献3】特許第3920288号公報
【特許文献4】特開平7-39318号公報
【特許文献5】特開2009-167172号公報
【特許文献6】特開平11-240837号公報
【特許文献7】欧州特許公開第04664362号公報
【特許文献8】特開平10-194975号公報
【特許文献9】特表2013-510865号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ヨーグルトの事典(朝倉書店, 2016年)
【非特許文献2】溝田輝彦ら、ミルクサイエンス Vol.50: (2) 39-47, 2001
【非特許文献3】M. Hori et al., Japanese Journal of Sensory Evaluation, 2010, vol. 14, No. 1, 40-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、発酵乳の舌触りの滑らかを向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のオリゴ糖とイヌリンとを含有する発酵乳が、喫食したときの舌触りの滑らかさに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態は、重合度2~9のオリゴ糖(ただしスクロース及びラクトースを除く)とイヌリンとを含有する、発酵乳である(以降、本発明の発酵乳とも記す)。
好ましい態様において、前記オリゴ糖はラクチュロースである。
別の好ましい態様において、前記オリゴ糖の含有量は発酵乳全量に対して0.1~5.0質量%である。
別の好ましい態様において、イヌリンの含有量は発酵乳全量に対して1~10質量%である。
別の好ましい態様において、脂質の含有量は発酵乳全量に対して0~5質量%である。
【0011】
本発明の別の形態は、微生物を用いて原料乳を発酵させる工程、発酵開始時及び/又は発酵中に重合度2~9のオリゴ糖(ただしスクロース及びラクトースを除く)を添加する工程、及び任意の時点でイヌリンを添加する工程を含む、前記本発明の発酵乳の製造方法である。
好ましい態様において、前記オリゴ糖の添加量は発酵乳全量に対して0.1~5.0質量%である。
別の好ましい態様において、イヌリンの添加量は発酵乳全量に対して1~10質量%である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、舌触りの滑らかさに優れる発酵乳が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0014】
本発明の発酵乳は、重合度2~9のオリゴ糖とイヌリンとを含有する。これらの成分の組み合わせが協働して、発酵乳の粒子径を小さくさせ、滑らかさを向上させる効果を発揮する。
【0015】
重合度2~9のオリゴ糖としては、グルコース残基、フルクトース残基、ガラクトース残基等をモノマー単位として形成されるものが挙げられる。具体的には、ラクチュロース、トレハロース、マルトース等の二糖類;ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース、ゲンチアノース等の三糖類;スタキオース等の四糖類;各種ガラクトオリゴ糖、各種フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ヒトミルクオリゴ糖等のオリゴ糖類が挙げられる。本発明の発酵乳は、これらの一種又は任意の組み合わせの二種以上を必須に含有する。
ただし、本発明の発酵乳が必須に含有するオリゴ糖としては、スクロース及びラクトー
スは除かれる。なお、スクロース及びラクトース以外の重合度2~9のオリゴ糖が発酵乳に含有されていれば、スクロース及び/又はラクトースをさらに含有することは妨げられない。
【0016】
上記オリゴ糖のうち、特に好ましいのはラクチュロースである。
ラクチュロースは、フラクトースとガラクトースからなる二糖類である。本発明において、ラクチュロースは、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0017】
ラクチュロースは、公知の方法により製造することができる。
例えば、市販乳糖の10%水溶液に、水酸化ナトリウムを添加し、該混合液を70℃の温度で30分間加熱し、冷却し、のち冷却した溶液をイオン交換樹脂により精製し、濃縮し、冷却し、結晶化し、未反応の乳糖を除去し、固形分含量約68%(固形分中ラクチュロースを約79%含有する。)のラクチュロース水溶液を得る。この水溶液をイオン交換樹脂カラムに通液し、ラクチュロースを含む画分を採取し、濃縮し、固形分含量約68%(固形分中ラクチュロース約86%を含有する。)の精製ラクチュロース水溶液を得る(特開平3-169888号公報に記載の方法)。
さらに、前記の方法により得たラクチュロース水溶液(シロップ)を固形分含量約72%に濃縮し、この濃縮液を15℃に冷却し、ラクチュロース三水和物結晶を種晶として添加し、攪拌しながら7日間を要して5℃まで徐々に冷却し、結晶を生成させ、10日後に上澄み液の固形分含量が約61%に低下した結晶を含む液から濾布式遠心分離器により結晶を分離し、5℃の冷水で洗浄し、乾燥させ、純度95%以上のラクチュロースの結晶を得ることができる(特開平6-228179号公報に記載の方法)。
【0018】
また、ラクチュロースは、市販されているものを使用することもできる。
【0019】
本発明の発酵乳における重合度2~9のオリゴ糖(スクロース及びラクトースを除く)の含有量は、特に限定されないが、例えば、総量で発酵乳全量に対して好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~4質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。また、該オリゴ糖がラクチュロースの場合その含有量は、発酵乳全量に対して好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~4質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。
なお、これらの数値は、オリゴ糖が水和物の場合は、無水物に換算した値である。以下の記載でも同様である。
【0020】
本発明の発酵乳が含有するイヌリンは、スクロースのフルクトース残基にフルクトース分子がβ(2-1)結合で直鎖状に結合した多糖類である。本発明におけるイヌリンとしては、重合度が好ましくは5~40、より好ましくは7~20のものを用いることができる。
イヌリンとしては、市販のものが容易に入手できるので好ましく、例えばFujiFF(フジ日本精糖株式会社製)、イヌリア(帝人株式会社製)等を挙げられる。
【0021】
本発明の発酵乳におけるイヌリンの含有量は、発酵乳全量に対して好ましくは1~10質量%、より好ましくは3~9質量%、さらに好ましくは4~8質量%である。
【0022】
本発明の発酵乳は、通常、原料乳を発酵する微生物を含有する。微生物としては、発酵終了後の状態では生菌及び死菌の別を特に問わない。
微生物の種類は特に限定されず、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌及び乳酸菌が好ましく挙げられる。
【0023】
ビフィドバクテリウム属細菌としては、特に制限されないが、ビフィドバクテリウム・
ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、及び、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに再分類されている)が挙げられる。これらのうち、ビフィドバクテリウム・ロンガムがより好ましい。
【0024】
また、ビフィドバクテリウム・ロンガムとしてより具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガムNITEBP-02621菌、(別名:BB536菌又はBifidobacterium longum subsp. longum ATCC BAA-999菌)を用いることが出来る。ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536(NITE BP-02621)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD
)(住所:〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2018年1月26日にNITEBP-02621の受託番号で、ブダペスト条約に基づく国際寄託がなされたものである。これと同一の細菌であるBifidobacteriumlongum subsp. longum ATCCBAA-999(番号:ATCC BAA-999)菌は、AmericanType Culture Colle
ction(ATCC)から、ATCC BAA-999として入手可能である(例えば
、特開2012-223134号公報等参照)。
ビフィドバクテリウム属細菌は、単一の菌株であってもよく、複数の菌株であってもよい。
【0025】
乳酸菌としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバシラス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii)等が挙げられる。これらの乳酸菌は、単一の菌株であってもよく、複数の菌
株であってもよい。これらのうち、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバシラス・ブルガリクスがより好ましい。
【0026】
ラクトコッカス・ラクティスとしては、特に限定されないが、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスNITE BP-1204、及びラクトコッカス・
ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスNITE BP-1205からなる群より選
択されるものが好ましい。
これらの菌株はそれぞれ、2012年1月17日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、ブ
ダペスト条約に基づき国際寄託されている。
ラクトコッカス・ラクティスは、単一の菌株であってもよく、複数の菌株であってもよい。
【0027】
本発明の発酵乳は、滑らかさに優れるものである。
ここでいう滑らかさは、通常は喫食した時の舌触りが滑らかでスムーズな様子を指すが、その他に、スプーン等で掬ったときの流暢な様子や、外観の滑沢さも含んでもよい。
一般に発酵乳の粒子が大きいとざらつきが生じ滑らかさが損なわれ、粒子が小さいと滑らかになり好ましい舌触りとなる。本発明の発酵乳は重合度2~9のオリゴ糖及びイヌリンを含有しないものよりも粒子径が小さく、原料乳や他の配合物及び発酵条件により異なるが、メジアン径が好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。
なお、ここで粒子のメジアン径は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2(株式会社堀場製作所製)により測定したときの値であってよい。
【0028】
したがって、本発明は重合度2~9のオリゴ糖(スクロース及びラクトースを除く)とイヌリンとの組み合わせの、特に好ましくはラクチュロースとイヌリンとの組み合わせの、新たな用途を提供するものである。すなわち、本発明は別の観点から、重合度2~9のオリゴ糖(スクロース及びラクトースを除く)とイヌリンとを含有する、発酵乳の舌触り改善用組成物ともいえる。
別の態様としては、発酵乳の舌触りを改善させるために用いられる組成物の製造における、重合度2~9のオリゴ糖(スクロース及びラクトースを除く)及びイヌリンの使用である。
別の態様としては、発酵乳の舌触り改善における、重合度2~9のオリゴ糖(スクロース及びラクトースを除く)及びイヌリンの使用である。
別の態様としては、発酵乳の舌触りを改善させるために用いられる、重合度2~9のオリゴ糖(スクロース及びラクトースを除く)及びイヌリンである。
【0029】
一般に発酵乳の滑らかさを向上させるために、脂質の含有量を増加させることがなされる。本発明の発酵乳は、ラクチュロース等の重合度2~9のオリゴ糖とイヌリンとの組み合わせが協働作用により粒子径が小さくなることで、滑らかさが向上する。そのため、必ずしも脂質の含有量を高めなくてもよく、また脂質の含有量を高めてもよく、製品設計の自由度が高い。具体的には、本発明の発酵乳における脂質の含有量は発酵乳全量に対して0~5質量%とすることができ、0.5~3質量%としてもよい。
なお、脂質の量はクリームの添加等により調整することができる。
【0030】
本発明の発酵乳には、必要に応じてスクロース等の甘味料、ペクチン、フルーツジュース、フルーツプレザーブ(果実又は果肉の砂糖煮)、寒天、ゼラチン、油脂、香料、着色料、安定剤、還元剤等を配合してもよい。
また、発酵乳は、適宜、容器に充填してもよい。
【0031】
本発明の発酵乳は、微生物を用いて乳原料(milk raw material)を発酵させることに
より製造することができる。
乳原料としては、乳由来の原料であって、微生物を用いて発酵させることにより発酵乳を製造できるものであれば特に制限されず、乳又はその分画物又は加工品、例えば牛乳、脱脂乳、生クリーム、バター、全粉乳、及び脱脂粉乳、又はこれらを水に混合、溶解または懸濁させたもの等が挙げられる。
乳原料は、発酵前に、常法に従って殺菌、均質化、冷却等を施してもよい。
【0032】
発酵に用いる微生物としては、前述の説明に準ずる。
ビフィドバクテリウム属細菌を用いる場合、乳原料への接種量は特に制限されないが、乳原料1mL当たり、好ましくは10~10cfu、より好ましくは10~10cfuである。なお、通常は接種時に生菌である。
乳酸菌を用いる場合、乳原料への接種量は特に制限されないが、乳原料1mL当たり、好ましくは10~10cfu、より好ましくは10~10cfuである。なお、通常は接種時に生菌である。
なお、cfuはコロニー形成単位(Colony forming unit)を指す。本明細書においては、例えば、還元脱脂粉乳10質量%を含む固体培地にて38℃で培養したときの値としてよい。
【0033】
なお、還元脱脂粉乳10質量%を含む培地は、還元脱脂粉乳が10質量%となるように、水に溶解し、殺菌することによって製造することができる。殺菌は、例えば、65~122℃で30分間~2秒間、好ましくは85~95℃で20~5分間の加熱処理により行うことができる。
【0034】
乳原料に接種する微生物は、乳原料への接種に先立ち予め他の培地で種培養又は前培養しておくことが好ましい。培地としては、これらの微生物の培養に適した培地であれば特に制限されないが、例えば、還元脱脂粉乳を含む培地が挙げられる。還元脱脂粉乳の濃度は、3質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。また種培養又は前培養に用いられる培地には、酵母エキス等の生育促進物質や、L-システイン等の還元剤等を添加してもよい。特にビフィドバクテリウム属細菌は、還元脱脂粉乳を含む培地での増殖性が低いため、生育促進物質、例えば、0.1~1質量%の酵母エキスを含有する培地を用いることが好ましい。培地の殺菌条件は、前述したものと同様である。
【0035】
微生物の乳原料への接種に際しては、市販の発酵スターターを用いてもよい。
【0036】
発酵に用いる微生物が複数種類ある場合、これらの微生物を乳原料に接種する順序は特に問わず、全てを同時に投与してもよい。また、これらの微生物のうち任意の微生物を、複数回接種してもよい。
【0037】
本発明の発酵乳を製造する際に、重合度2~9のオリゴ糖(ただしスクロース及びラクトースを除く)を添加するタイミングは、発酵開始時でもよいし、発酵中、発酵後でもよい。
本発明の発酵乳の製造方法において、前記オリゴ糖の添加量は、総量で、発酵乳全量に対して好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~4質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。
なお、本発明の発酵乳を製造する際に、スクロース及びラクトース以外の重合度2~9のオリゴ糖とは別に、スクロース及び/又はラクトースがさらに乳原料に添加されることは妨げられない。通常は、スクロース及び/又はラクトースは発酵開始時又は発酵中に乳原料に添加される。これらはラクチュロース等のオリゴ糖よりも優先的に微生物に資化されやすいため、製造された発酵乳中では重合度2~9のオリゴ糖は添加した量から大きく減少することなく含有されうる。
【0038】
本発明の発酵乳を製造する際に、イヌリンを添加するタイミングは特に限定されず、遅くとも発酵終了後に発酵乳に含有されていればよく、発酵開始から原料に添加されていてもよいし、発酵途中に添加してもよいし、発酵終了後に添加してもよい。
本発明の発酵乳の製造方法において、イヌリンの添加量は、発酵乳全量に対して好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~9質量%、さらに好ましくは4~8質量%である。
【0039】
本発明の発酵乳の製造において、通常はpH5付近で発酵が行われる。
発酵終了時のpHは、通常は4.0~5.5、好ましくは4.2~5.0、より好ましくは4.4~4.8である。
また、発酵終了後(保存時を含む)のpHは特に制限されないが、好ましくは4.2~5.0、より好ましくは4.4~4.8であってよい。
【0040】
本発明の発酵乳の製造において、培養温度、培養時間等の発酵条件は、通常の発酵乳の製造と同様の条件を採用することができる。例えば、培養温度は30℃~45℃が好ましく、36℃~42℃がより好ましい。培養時間は、適宜設定することができるが、通常、3~18時間が好ましい。
通常、発酵終了は、10℃以下への急冷により行う。培養温度から10℃への急冷は、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、特に好ましくは10分以内に行うことが望ましい。
【実施例0041】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
<試験例1>低脂肪発酵乳へのラクチュロースの添加効果の検討
(1)発酵乳の調製
表1に示す組成で、サンプル(実施例及び比較例)及び基準例の発酵乳をそれぞれ調製した。具体的には、脱脂濃縮乳、クリーム、イヌリン、ラクチュロース及び常温水をミキサーを用いて混合し、70℃に加温して溶解した。次いでホモジナイザーにより15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間の加熱殺菌を行い、40℃に冷却した。これに市販の乳酸菌スターター、ビフィドバクテリウム・ロンガム及びラクトコッカス・ラクティスを添加し、紙カップに100gを充填した。38℃で発酵させてカードを形成させた後、10℃以下まで急冷して静置型発酵乳を得た。
【0043】
得られた発酵乳の脂質の量は、各原料の脂質含有量から算出した。
また、得られた発酵乳のレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2(株式会社堀場製作所製)により測定した。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)官能評価
訓練されたパネリスト7名(A~G)により、サンプルの発酵乳を喫食したときの舌触りの「滑らかさ」を9段階(1点:滑らかでない~9点:滑らかである)で評価した。「滑らかさ」の指標として基準例1~3の発酵乳を用い、基準例1=2点、基準例2=5点、基準例3に=8点、とした。また、7点以上を◎(かなり滑らかである)、5点以上7点未満を〇(滑らかである)、3点以上5点未満を△(滑らかでない)、3点未満を×(全く滑らかでない)、と評価した。パネリストは事前に基準例の発酵乳を用いて「滑らかさ」の基準を確認した後、実施例1並びに比較例1及び2の発酵乳を評価した。各パネリストの評価結果の平均を表2に、各パネリストの詳細な評価結果を表3にそれぞれ示す。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
滑らかさに係る官能評価において、ラクチュロースを添加した発酵乳(実施例1)は7名全員が〇以上と評価し、未添加の発酵乳(比較例1及び2)は7名全員が△以下と評価しており、実施例1は比較例1及び2よりも滑らかであるという評価であった。
また、実施例1では比較例1及び2よりも粒子径が小さく、これが滑らかさの高い評価に寄与したものと推測される。
【0049】
<試験例2>ラクチュロースの有効量の確認
(1)発酵乳の調製
表4に示す組成で、サンプル(実施例及び比較例)及び基準例の発酵乳をそれぞれ調製した。具体的には、脱脂濃縮乳、クリーム、イヌリン、ラクチュロース及び常温水をミキサーを用いて混合し、70℃に加温して溶解した。次いでホモジナイザーにより15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間の加熱殺菌を行い、40℃に冷却した。これに市販の乳酸菌スターターを添加し、紙カップに100gを充填した。40℃で発酵させてカードを形成させた後、10℃以下まで急冷して静置型発酵乳を得た。
得られた発酵乳の脂質の量及び粒子径は、試験例1と同様に測定した。
【0050】
【表4】
【0051】
(2)官能評価
訓練されたパネリスト6名(a~f)により、基準例4~6を指標としてサンプルの発酵乳を喫食したときの舌触りの「滑らかさ」を、試験例1と同様に評価した。各パネリストの評価結果の平均を表5に、各パネリストの詳細な評価結果を表6にそれぞれ示す。
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
滑らかさに係る官能評価において、ラクチュロースを0.5質量%添加した発酵乳(実施例2)では6名全員が〇以上と評価し、1.0又は2.0質量%添加した発酵乳(実施
例3及び4)は6名全員が◎と評価し、未添加の発酵乳(比較例3)は6名全員が△以下と評価しており、実施例2~4は比較例3よりも滑らかであるという評価であった。
また、実施例2~4では比較例3よりも粒子径が小さく、これが滑らかさの高い評価に寄与したものと推測される。
【0055】
<試験例3>高脂肪発酵乳へのラクチュロースの添加効果の検討
(1)発酵乳の調製
表7に示す組成で、サンプル(実施例及び比較例)の発酵乳を試験例1と同様にそれぞれ調製した。
得られた発酵乳の脂質の量及び粒子径は、試験例1と同様に測定した。結果を表8に示
す。
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
ラクチュロースを3.0質量%添加した実施例5の発酵乳では、未添加の比較例4よりも粒子径が小さかった。通常、発酵乳中の脂質量が増加すると粒子径が小さくなるが、ラクチュロースの添加によりさらに粒子径が小さくなることが認められた。この結果から、脂肪分の高い発酵乳においても、ラクチュロースの添加により滑らかさを向上させられることが推測できる。
【0059】
<試験例4>イヌリン量の影響
(1)発酵乳の調製
表9に示す組成で、サンプル(実施例及び比較例)の発酵乳をそれぞれ調整した。具体的には、脱脂粉乳、イヌリン、ラクチュロース及び常温水をミキサーを用いて混合し、70℃に加温して溶解した。次いでホモジナイザーにより15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間の加熱殺菌を行い、40℃に冷却した。これに市販の乳酸菌スターターを添加し、紙カップに100gを充填した。40℃で発酵させてカードを形成させた後、10℃以下まで冷却して静置型発酵乳を得た。
得られた発酵乳の脂質の量及び粒子径は、試験例1と同様に測定した。
【0060】
【表9】
【0061】
(2)官能評価
訓練されたパネリスト6名(1~6)により、基準例4~6を指標としてサンプルの発酵乳を喫食したときの舌触りの「滑らかさ」を、試験例1と同様に評価した。各パネリストの評価結果の平均を表10に、各パネリストの詳細な評価結果を表11にそれぞれ示す。
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
イヌリン低含有量(1.0%)での官能評価では、6名全員が比較例5よりも実施例6の方が滑らかであると評価し、イヌリン高含有量(10.0%)での官能評価では、6名全員が比較例6よりも実施例7の方が滑らかであると評価した。イヌリンの濃度に関わらず、ラクチュロースの添加によって滑らかになることが確認された。
【0065】
<試験例5>ラクチュロース以外の糖類での効果
(1)発酵乳の調製
表12に示す組成で、サンプル(実施例及び比較例)の発酵乳をそれぞれ調整した。具体的には、脱脂濃縮乳、イヌリン、表13に示す各種オリゴ糖及び常温水をミキサーを用いて混合し、70℃に加温して溶解した。次いでホモジナイザーにより15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間の加熱殺菌を行い、40℃に冷却した。これに市販の乳酸菌スターターを添加し、紙カップに100gを充填した。40℃で発酵させてカードを形成させた後、10℃以下まで冷却して静置型発酵乳を得た。
【0066】
【表12】
【0067】
【表13】
【0068】
(2)官能評価
訓練されたパネリスト6名(I~VI)により、基準例4~6を指標としてサンプルの発
酵乳を喫食したときの舌触りの「滑らかさ」を、試験例1と同様に評価した。各パネリストの評価結果の平均を表14に、各パネリストの詳細な評価結果を表15にそれぞれ示す。
【0069】
【表14】
【0070】
【表15】
【0071】
ラクチュロース以外のオリゴ糖(ラフィノース、ガラクトオリゴ糖)でも、オリゴ糖を含まない比較例7よりも滑らかであると評価した。