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特開2024-83523精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083523
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 31/20 20060101AFI20240614BHJP
   C07C 29/80 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C07C31/20 B CSP
C07C29/80
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063003
(22)【出願日】2024-04-09
(62)【分割の表示】P 2020009555の分割
【原出願日】2020-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】593053335
【氏名又は名称】リファインホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196276
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】野田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】岩船 光紘
(72)【発明者】
【氏名】築地 真
(72)【発明者】
【氏名】山本 良
(57)【要約】
【課題】 高度に精製され、臭気のない、さらに安全性の高い、精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて、還流状態下にある蒸留塔に前記粗原液を導入し、塔頂部圧力7kPa~1kPaの減圧下にて、上記蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、一方、前記蒸留塔の底部よりの缶出液で高沸点成分を除去し、前記蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す蒸留工程とを少なくとも有する製造方法により得られた、純度99.9質量%以上で、かつ、無臭であることを特徴する1,3-ブタンジオールである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて、還流状態下にある蒸留塔に前記粗原液を導入し、塔頂部圧力7kPa~1kPaの減圧下にて、上記蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、一方、前記蒸留塔の底部よりの缶出液で高沸点成分を除去し、前記蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す蒸留工程とを少なくとも有する製造方法により得られた、純度99.9質量%以上で、かつ、無臭であることを特徴する1,3-ブタンジオール。
【請求項2】
前記蒸留工程が多工程とされ、還流状態下にある蒸留塔に前記粗原液を導入し、蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、前記第1の蒸留塔の底部からの缶出物を得る第1蒸留工程と、第1蒸留工程により得られた缶出物を還流状態下にある第2の蒸留塔に導入し、蒸留塔の底部から高沸点成分を除去し、前記第2の蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す第2蒸留工程とを少なくとも有する製造方法により得られた、請求項1に記載の1,3-ブタンジオール。
【請求項3】
前記蒸留工程に先立ち上記粗原液を、吸着剤に適用する吸着剤前処理工程をさらに有する製造方法により得られた請求項1または2に記載の1,3-ブタンジオール。
【請求項4】
精留直後と常温(20℃±10℃)で少なくとも1か月以上製品をソーダ石灰ガラス製褐色広口瓶(ポリプロピレン製キャップ、ポリエチレン製中蓋付)中で暗室(照度:0.1ルクス(Lx)以下)に保管保持した後の二回評価にて、無臭で透明なものであるであることを特徴する1,3-ブタンジオール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法に関する。詳しく述べると本発明は、高度に精製され、不純物の含有量が極めて少なく、無臭である、精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタンジオールは、1,3-ブチレングリコール、1,3-ジヒドロキシブタンとも称され、各種の物質に対して優れた溶解性を有し、高沸点で、化学的に安定な物質である。このため、例えば、高沸点溶剤として、凍結保護剤として、あるいは各種の合成樹脂、界面活性剤の原料として、また、そのすぐれた吸湿特性、低揮発性、低毒性を利用して化粧料、薬剤等の素材としても多く利用されている。
【0003】
このような化粧料や薬料等の用途においては、高精製のものとすることはもちろんのこと、臭気の少ない、さらに望ましくは無臭である1,3-ブタンジオールであることが高く望まれている。
【0004】
1,3-ブタンジオールの製造方法としては、種々の方法が知られており、例えば、
(1)石油由来のアセチレンの水和によって生じたアセトアルデヒドを次に3-ヒドロキシブタナールに変換し、その後にこれを還元して1,3-ブタンジオールを製造する方法;
(2)エチレンなどのC2原料から出発し、これを次いで二量体化反応を介して1,3-ブタンジオールに変換する方法;
(3)レーニーニッケル触媒の存在下で、アセトアルドール(3-ヒドロキシブタナール又はアルドール)の液相水添により、1,3-ブタンジオールを生成する方法、ここで、アセトアルドールは、一般に、アセトアルデヒド2分子をアルドール縮合することにより生成される;
(4)アセトアルデヒドをアルドキサンへとアルドール縮合し、その後にアルドキサンを分解してパラルドールを得、続いて水添して1,3-ブタンジオールを生成することを
含む3つの工程の方法により、1,3-ブタンジオールを生成する方法;
などの化学合成法が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0005】
また、近年、化石資源の枯渇問題や地球温暖化問題の観点から、上記のような化学合成法に変えて、再生可能資源としてバイオマス(植物資源)由来の原料から1,3-ブタンジオールを生成する方法も提唱されている。バイオマス由来の原料を用いた生化学的な手法としては、例えば、1,3-ブタンジオール産生能を有する天然微生物、あるいは遺伝子組換え微生物によるグルコースから宿主由来の代謝ルートを一部利用し、中心代謝中間体であるアセチルCoAおよびピルビン酸を共通経路中間体であるアセトアルデヒドに変換し、次にそれを酵素的に触媒されるアルドール縮合され、最終的に1,3-ブタンジオールを生産する方法等であり、組換え微生物としては種々のものが利用可能とされている。
(例えば、特許文献2~4等参照。)
【0006】
ところで、このような化学合成法あるいは生化学的な方法のいずれの手法の場合であっても、合成物中には、より高分子量のアルコール、アルデヒド、炭化水素、カルボン酸、及びエステルなどの多種多様な副生成物が生成され、またバイオマス由来の不純物、腐敗物等が、これらが製品中に残留することで臭気を発することとなる。臭気を発する臭気原因物質としては、そのもの自体が臭気源であるもののほか、経時的に変化し臭気物質となるものなどもある。特に、生化学的な手法により得られた製品に関しては、臭気原因となる物質の特定が一層困難である。
【0007】
従来、高精製の1,3-ブタンジオールを得る手法としては、蒸留精製を利用したものも種々提案されている。
【0008】
例えば、特許文献5には、純度98%以上の1,3-ブタンジオールに対し、減圧下で薄膜蒸発器を用い、水を加えて連続的に蒸留精製する1,3-ブタンジオールの精製方法が開示されている。この方法は、臭気原因物質を添加した水側に移行させて、水と共に除去しようとするものであるが、水に溶解性を示さない臭気原因物質を除去することは困難であり、また水の添加は基本的に純度を下げるものであり精製方法として効率的ではないものであった。なお、この文献においては、『この臭気は製品1,3-ブチレングリコールに残留する微量成分が影響しており、通常の蒸留においては臭気を無くすることは難しく、また各種吸着剤、例えば活性炭や活性白土や強酸型、アニオン型のイオン交換樹脂を用いて液処理しても臭気を無くすることはできなかった。さらに、実用的な処理技術も未だ報告されていない。』との記載がなされている。
【0009】
特許文献6には、1,3-ブタンジオールを蒸留精製するプロセスにおいて、脱高沸蒸留に続いて脱低沸蒸留を行い1,3-ブタンジオールを缶出製品として得るに当たり、前もってアセトアルドールの水素添加反応混合物を減圧下において速やかにフラッシュ蒸発させる方法が開示されている。そして、この文献においては、『1)1,3-ブチレングリコールは常圧において200℃以上で熱分解が始まる。
2)フラッシュ蒸発させて塩と分離した粗1,3-ブチレングリコールを蒸留することにより高品質の1,3-ブチレングリコールを得ることができる。
3)塩の存在下での1,3-ブチレングリコールに対する加熱は,1,3-ブチレングリコールの熱分解反応を促進する。すなわち,より低温において熱分解反応が起こるようになり,また分解速度が早くなる。
4)臭気の原因には,合成反応時において副生する臭気物質と,精製蒸留工程における1,3-ブチレングリコールの塩による熱分解反応により生成する分解生成物がある。
これらの点から、1,3-ブチレングリコールの蒸留工程時の塩による1,3-ブチレングリコールの熱分解反応による臭気物質の生成は,蒸留操作条件,すなわち,1,3-ブチレングリコールを精製工程にて処理するまえに,予め塩を分離しておく事,また塩の分離工程時において蒸発温度を熱分解温度以下にし,さらに1,3-ブチレングリコールが塩と共存している熱履歴時間をより短かくすることによって,より少なくする事が可能である事を見出した。』との記載がなされている。
【0010】
特許文献7、8には、アセトアルドールの液相水素還元法によって得られた反応混合物から、1,3-ブタンジオールを蒸留精製するプロセスに於て、脱高沸物蒸留を行う際に、苛性ソーダ、苛性カリ、水素化硼素ナトリウム及び水素化硼素カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を添加する方法およびこれにより高純度の1,3-ブタンジオールを製造することが開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献6~8に開示されるような方法で得られた精製1,3-ブタンジオールも長期保存していると経時変化により微臭が発生してくる難点が指摘されていた。これは、脱高沸塔の仕込液には高沸点物が多く含有されているために添加したアルカリ金属により臭気原因となる低沸点物の低減反応と同時に高沸点物の分解反応による低沸点物の発生が生じ、結果的に臭気原因物質が一定量迄しか低減できず、長期保存すると経時変化を起こして微臭を発生するためであるとされている。
【0012】
さらに特許文献9には、アセトアルドール類の水添、蒸留精製で得られる1,3-ブタンジオールとして、アセトアルドールの接触還元により生成した1,3-ブタンジオールを含む水添粗液から、アルコール類の除去、水分の除去、および塩、触媒、高沸点物の除去後、低沸点物除去用蒸留塔(製品蒸留塔)の底部より1,3-ブタンジオールを缶出製品として得る方法、さらに、高沸点物を除去するための蒸留(脱高沸物蒸留)を行った後の粗1,3-ブタンジオール、または缶出製品に、特定のアルカリ金属化合物を添加して加熱処理する工程を加える方法が開示されている。脱高沸物蒸留後の粗1,3-ブタンジオール、または缶出製品1,3-ブタンジオールは、高沸点物の含有量が少ないため、アルカリと共に加熱処理されても高沸点物の分解反応による低沸点物の生成が無いか、あるいは極めて少なく、臭気原因となる低沸点物がアルカリとの反応で優先的に低減され、その結果、低沸点物の絶対量が限りなく0近くまで低減でき、臭気の無い、経時変化の少ない高純度の1,3-ブタンジオールの製造が可能となるとの記載がなされている。しかしながら、この方法においても、臭気物質除去のために一旦水を加えて蒸発脱水を行う工程を有しており、精製度を向上させる上で非効率的であり、また粗原料にアルカリ化合物を添加してから加熱処理を行うために変性物、分解物の生成という可能性も排除できないものであって、得られる1,3-ブタンジオールは依然として臭気の懸念が残るものであった。さらに脱臭処理上でのアルカリ成分の添加は、化粧料や薬剤用途の製品としてはあまり好ましいものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2007-517882号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2011/052718
【特許文献3】特表2014-521365号公報
【特許文献4】特開2018-148891号公報
【特許文献5】特開昭61-65834号公報
【特許文献6】特開昭63-156738号公報
【特許文献7】特開平7-258129号公報
【特許文献8】国際公開公報WO00/007969
【特許文献9】特開2001-213825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記したように従来のいずれの方法から得られる1,3-ブタンジオールも、未だ臭気を有するものであり、特定用途における製品として実用上、十分満足のできるものではなかった。
【0015】
従って、本発明は、高度に精製され、臭気のない、さらに安全性の高い、精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、特に生化学的な方法により得られた夾雑物の多い粗製1,3-ブタンジオールから、高度に精製され、臭気のない、さらに安全性の高い、精製1,3-ブタンジオールおよびその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決する上で、1,3-ブタンジオールを含有する粗原料を蒸留法により精製することに関して鋭意研究および検討を行った結果、臭気は、例えば、ガスクロマトグラフィー法等によって検出される微量成分の量や、そのピーク位置とあまり相関性なく生じるものであり、単純に低沸点物質の除去率を高めて、これらの微量成分のピークを小さくするあるいはなくしたとしても、完全には臭気を除去できないものであるとの知見を得た。そして、さらに鋭意研究、検討を進めた結果、水の添加やアルカリ物質の添加等の複雑な処理や多数回の蒸留処理を行わなくとも、1,3-ブタンジオールを含有する粗原料を蒸留精製するにおいて、蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、さらに蒸留塔の底部より缶出されるものを精製品とすることなく、蒸留塔の底部から高沸点成分を除去し、蒸留塔の適切な中塔部より精製品として抜き出すという単純な処理によって、臭気の極めて少ない高純度の1,3-ブタンジオールを得られることを見出した。さらに、このような蒸留精製に加えて、その前段において粗原料を活性炭などの吸着剤にて吸着処理する工程を加える、またはその前段において粗原料を吸着剤にて吸着処理する工程およびその後段において精製品を吸着剤にてさらに吸着処理する工程を加えることで、無臭の高精製1,3-ブタンジオールを調製できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0017】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて、還流状態下にある蒸留塔に前記粗原液を導入し、前記蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、一方、前記蒸留塔の底部からの高沸点成分を除去し、前記蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す蒸留工程とを少なくとも有する1,3-ブタンジオールの製造方法である。
【0018】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態においては、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて、還流状態下にある第1の蒸留塔に前記粗原液を導入し、蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、前記第1の蒸留塔の底部からの缶出物を得る第1蒸留工程と、第1蒸留工程により得られた缶出物を還流状態下にある第2の蒸留塔に導入し、蒸留塔の底部から高沸点成分を除去し、前記第2の蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す第2蒸留工程とを少なくとも有する1,3-ブタンジオールの製造方法が示される。
【0019】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態においては、上記粗原液を、吸着剤に適用する吸着剤前処理工程をさらに有するものである1,3-ブタンジオールの製造方法が示される。
【0020】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態においては、上記蒸留工程後において、前記精留分を、吸着剤に適用する吸着剤処理工程をさらに有するものであることが示される。
【0021】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態においては、前記吸着剤が平均細孔径5nm以下である吸着剤である1,3-ブタンジオールの製造方法が示される。
【0022】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態においては、さらに前記吸着剤が活性炭である1,3-ブタンジオールの製造方法が示される。
【0023】
上記課題を解決する本発明は、また、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、還流状態下にある蒸留塔に導入し、前記蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、一方、前記蒸留塔の底部からの高沸点成分を除去し、前記蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す蒸留工程を有する製造方法によって得られた、純度99.9質量%以上で、かつ官能試験において無臭であることを特徴する1,3-ブタンジオールである。
【0024】
上記課題を解決する本発明は、また、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて99.9質量%以上の1,3-ブタンジオールの回収率をY%とし、蒸留塔の上部からの取り出し量をX%とした際に、
X≧3
Y≦100-2.5X
Y≧100-3.5X
X≦10
で囲まれる領域の条件下で蒸留を行うものである1,3-ブタンジオールの製造方法である。
【0025】
上記課題を解決する本発明は、また、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて99.9質量%以上の1,3-ブタンジオールの回収率をY%とし、蒸留塔の上部からの取り出し量をX%とした際に、
X≧3
Y≦100-2.5X
Y≧100-3.5X
X≦10
で囲まれる領域の条件下で蒸留を行うものである製造方法によって得られた、純度99.9質量%以上で、かつ、官能試験において無臭であることを特徴する1,3-ブタンジオールである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高度に精製され、臭気のない、さらに安全性の高い、精製1,3-ブタンジオールを、得ることができるため、特に化粧料、薬剤等の用途における製品として好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態において用いられ得る蒸留装置を模式的に示す概略図である。
図2】本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の別の実施形態において用いられ得る蒸留装置を模式的に示す概略図である。
図3】本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法のさらに別の実施形態において用いられ得る蒸留装置を模式的に示す概略図である。
図4】本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法のさらに別の実施形態において用いられ得る蒸留装置を模式的に示す概略図である。
図5】本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法のさらにまた別の実施形態における製造条件を示すグラフである。
図6】実施例において用いた粗精製1,3-ブタンジオールの成分を示すガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下本発明を図面を参照しつつ具体的実施形態に基づいてより詳細に説明する。図1~4は、それぞれ、本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法の一実施形態において用いられ得る蒸留装置を模式的に示す概略図である。
【0029】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法は、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、蒸留により精製するにおいて、還流状態下にある蒸留塔に前記粗原液を導入し、前記蒸留塔の上部から低沸点成分を除去し、一方、前記蒸留塔の底部からの高沸点成分を除去し、前記蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す蒸留工程とを少なくとも有することを特徴とする。
【0030】
ここで「蒸留塔」とは、蒸留に使用される塔状の装置のことである。蒸留塔には本体である塔部分に加えて、塔底に加熱器、塔頂に凝縮器を付属している。工業的に行われる蒸留は大量の処理を行う場合には連続式蒸留が行われる。一般的に仕込液は蒸留塔の中間部(仕込段)に導入されるが、仕込液を蒸発器で蒸発させて気相の状態で蒸留塔に導入する場合もある。蒸留装置は仕込液(原料)に含まれる物質の沸点差を利用して分離操作を行うものであり、蒸留塔塔頂からは低沸点成分に富んだ留出液が得られ、塔底からは高沸点成分に富んだ缶出液が得られる。本発明に係る製造方法においては、上記したように蒸留塔の中塔部より精留分を取り出す、すなわち中塔部からサイドカット液を取り出し可能なようなサイドカット方式のものである蒸留塔が用いられる。
【0031】
蒸留塔において、塔頂から留出させた蒸気は凝縮器で凝縮させて液として得られるが、その凝縮液の一部を蒸留塔に戻すことを「還流」といい、精留分離を行うには、蒸留塔内で上方から流下する還流液と下方から上昇する蒸気を向流させて、気液接触を十分に行わせる必要がある。この際、凝縮熱により液の蒸発と分縮が繰り返されることで成分の濃縮が行われる。
【0032】
蒸留塔は大きく分けて棚段塔と充填塔に分類される。棚段塔は蒸留塔内部に水平な棚板(トレイ)が多段に設置された蒸留塔である。充填塔は蒸留塔内部に充填材を充填した蒸留塔である。
【0033】
次に、処理対象となる、「1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液」(以下、単に「粗原液」とも称する場合がある。)としては、蒸留塔により精製可能な1,3-ブタンジオールを含有するものである限り特に限定されるものではなく、化学合成由来のものであっても、生化学合成由来のものであっても、あるいはその他のもの、例えば、各種プロセスより生じた廃液由来もの等であってもよく、さらにはこれらの混合物などであってもよい。また1,3-ブタンジオール含有量としても特に限定されるものではないが、例えば、1,3-ブタンジオール含有量が60.0質量%以上99.5質量%以下のもの、より好ましくは90.0質量%以上99.0質量%以下のもの、さらに好ましくは95.0質量%以上98.0質量%以下のものであることができる。特に、粗原液は、あらかじめ脱水処理されて水分含有量が5質量%以下とされたものであることが好ましい。
【0034】
特に限定されるものではないが、化学合成由来のものとしては、具体的には、例えば、上述したように、
(1)石油由来のアセチレンの水和によって生じたアセトアルデヒドを次に3-ヒドロキシブタナールに変換し、その後にこれを還元して1,3-ブタンジオールを製造する方法;
(2)エチレンなどのC2原料から出発し、これを次いで二量体化反応を介して1,3-ブタンジオールに変換する方法;
(3)レーニーニッケル触媒の存在下で、アセトアルドール(3-ヒドロキシブタナール又はアルドール)の液相水添により、1,3-ブタンジオールを生成する方法、ここで、アセトアルドールは、一般に、アセトアルデヒド2分子をアルドール縮合することにより生成される;
(4)アセトアルデヒドをアルドキサンへとアルドール縮合し、その後にアルドキサンを分解してパラルドールを得、続いて水添して1,3-ブタンジオールを生成することを含む3つの工程の方法により、1,3-ブタンジオールを生成する方法;
などの製造工程により得られたものが挙げられる。
【0035】
また生合成由来のものとしては、
(5)バイオマス由来の原料を、例えば、1,3-ブタンジオール産生能を有する天然微生物、あるいは種々の遺伝子組換え微生物によるグルコースから宿主由来の代謝ルートを一部利用、中心代謝中間体であるアセチルCoAおよびピルビン酸を共通経路中間体であるアセトアルデヒドに変換し、次にそれを酵素的に触媒されるアルドール縮合し、最終的に1,3-ブタンジオールを生産する方法、
(6)サトウキビ由来のエタノール(発酵アルコール)を製造する過程で、選択酸化して得たアセトアルデヒドから合成する方法
などが非限定的に挙げられ得る。
【0036】
また、本発明に係る製造方法を実施する上において、粗原液の搬送経路、搬送手段等も限定されるわけではなく、具体的には、例えば、ドラム缶またはタンクローリーまたはタンク船などで、別の工場や設備よりから運びこまれる形態、隣接した工場あるいは同じ工場内より専用パイプラインにて粗原液を輸送するもの等が含まれる。
【0037】
本発明に係る製造方法において、粗原液を蒸留により精製する装置構成としては、特に限定されるものではなく、用いられる蒸留塔の数としても、例えば図1、3および4に示される実施形態におけるように単数の蒸留塔において構成するものとしても、あるいは図2に示される実施形態におけるように2ないしそれ以上の複数の蒸留塔を有して構成するものとすることも可能である。
【0038】
図1に示す実施形態は、1つの蒸留塔10を有して構成される精製装置であり、蒸留塔10の塔底に加熱器18、塔頂に凝縮器13を付属している連続式蒸留装置である。蒸留塔10への仕込液1(粗原液)は加熱器18でエネルギーを与えられ、低沸点成分と高沸点成分に蒸留分離される。仕込液中の低沸点成分は蒸留塔塔頂部から蒸気として管路12を通じて留出し凝縮器3で冷却され、その凝縮液の一部を還流液として管路15より蒸留塔10へ導入することで精留操作が行われる。仕込液中の高沸点成分は蒸留塔塔底から管路16より缶出液として抜き取られる。この缶出液の一部を管路17より加熱器18へ導
入し管路19より蒸留塔10の仕込段または回収部へ導入することで、蒸留分離効率を調整する。そして、前記蒸留塔10の中塔部より精留分を管路31から取り出す。このような機能を有する蒸留装置であれば、いずれの構造のものにも本発明は適用可能であり、蒸留塔の形状や蒸留塔内部品の構造または構成などは特に限定されない。
【0039】
蒸留塔10は、供給された仕込液1である粗原液、すなわち粗1,3-ブタンジオールを蒸留精製するサイドカット方式の蒸留塔であり、高濃度1,3-ブタンジオールと低沸点成分含有の水とに分離する塔頂部、および、当該蒸留塔の還流液を更に蒸留することにより、濃度99.9質量%以上の高純度1,3-ブタンジオールと高沸点成分含有の高濃度1,3-ブタンジオールとに分離する塔底部からなり、そして、中段部からサイドカット液として濃度99.9質量%以上の高純度1,3-ブタンジオールを取出可能に構成されている。蒸留塔10は、従来周知の蒸留塔、すなわち、不規則または規則充填物が空塔内に装填された充填塔、多孔板トレイ等の気液接触用のトレイ(棚段)が空塔に多数設置された棚段塔などによって構成される。
【0040】
なお1,3-ブタンジオールが高温、例えば、200℃以上では熱分解され臭気に対して悪影響を及ぼす虞れがあるため、蒸留温度をできるだけ低くするうえで、蒸留塔10としては低圧損失の充填塔が好ましい一例として挙げられる。なお、蒸留塔10は、仕込液中の低沸点物の濃度等にもよるため特に限定されるものではないが、例えば、仕込液中の低沸点物濃度が5容量%以下である場合、理論段数が10~20段程度のものでよい。仕込液は塔頂部から塔の高さの20~70%の位置に供給されることが好ましい。
【0041】
この実施形態において、蒸留塔10は、処理すべき粗原液が上記の管路11を通じて塔中段上部に供給されるように構成されている。そして、蒸留塔10の塔底部には、粗1,3-ブタンジオールを加熱蒸発させるため、加熱器(リボイラー)18を含む加熱機構が付設される。この加熱機構は、蒸留塔10の塔底部の粗原液を炊き上げる機構であり、粗原液を水蒸気などの熱媒体との熱交換により加熱蒸発させる加熱器18と、塔底部から管路16で抜き出した缶出液の一部を加熱器18に供給する管路17、および当該加熱器18で蒸気化された1,3-ブタンジオールを再び蒸留塔10に戻す塔底液循環用の管路19を有して構成されている。加熱器18としては、複数の伝熱管によって多数の管路が構成された多管式熱交換器などが使用できる。なお1,3-ブタンジオールにかかる熱履歴(滞留時間)が長い場合も、臭気に悪影響を及ぼす虞れがあるため、加熱器18としては流体の滞留時間の短い、例えば自然流下型薄膜蒸発器、強制攪拌型薄膜蒸発器等の薄膜蒸発器も好ましい一例として用いることができる。
【0042】
また、蒸留塔10の塔頂部には、分離された水蒸気を凝縮する凝縮器3が設けられる。凝縮器3としては、特に限定されず、例えば、多数の管路を構成する複数の伝熱管または伝熱板に冷媒が流れ且つ凝縮性蒸気(蒸留分離された蒸気)を通すことにより当該凝縮性蒸気を液化する多管式、スパイラル式、プレート式、二重管式などの凝縮器が使用され得る。凝縮器3の底部には、不純物の低沸点成分を含有する凝縮液を留出液として系外に排出する管路14が設けられる。また管路14から分岐して、その凝縮液の一部を還流液として蒸留塔10の上段へ戻すための管路15が設けられている。
【0043】
また、蒸留塔10の中段部には、分離された高純度1,3-ブタンジオールを精留分として取り出す管路31が設けられており、さらにこの管路31には、必要に応じて取り出した精留分を凝縮する凝縮器(図示せず)が設けられ得る。この凝縮器としては、前述の蒸留塔10の塔頂部におけるのと同様のものが使用される。
【0044】
図1に示す実施形態の蒸留装置においては、また、通常の蒸留と同様に、減圧条件下で蒸留操作を行うために、系内を真空引きする減圧ラインが付設され、また、酸素の混入を防ぐと共に系内の圧力を調整するため、系内に窒素ガス等の不活性ガスを供給する不活性ガスラインが付設され得る。その他、各管路の切り替え、流量調整、圧送、流量制御等のための、切替弁、圧力調整弁、ポンプ、温度計、圧力計、並びに、予め設定された処理条件および上記の温度や液面の検出機器からの検出信号に基づき、加熱器の作動、各管路の開閉、切替、流量調整などを制御するための蒸留プログラムが搭載された制御装置等を、含み得るものである。
【0045】
本発明に係る1,3-ブタンジオールの製造方法における上記したような蒸留工程は、例えば、蒸留塔10の塔頂部圧力7kPa以下、より望ましくは5~1kPa、さらに望ましくは3~1kPaの減圧下で蒸留が行われる。
【0046】
上記の様な圧力条件下で蒸留が行われると、蒸留塔10の中段部充填層の温度を例えば145℃に維持し、中段部から取り出すサイドカット液中の水分濃度を一定にすることができる。蒸発器18で使用する高圧水蒸気等の加温用熱媒体の温度は、例えば、200℃未満、より望ましくは120~160℃に保持される。1,3-ブタンジオールの臭気に対しては、蒸留温度を低くすることが好ましく、さらには系内圧力を低く保つ為に、蒸気の流速を下げる、充填物を使用した蒸留塔を使う等の蒸留塔系内の圧力損失を低く保つ必要がある。
【0047】
なお、還流比は、特に限定されるものではないが、1~5、より望ましくは2~3で運転することが望ましい。
【0048】
図1に示す実施形態に示すような精製装置を用いて、仕込液1である粗原液、すなわち粗1,3-ブタンジオールを蒸留精製するには、特に限定されるわけではないが、例えば、以下のように、蒸留装置の減圧運転、循環運転等を行い系内条件の安定化を図った後、連続処理運転を行うことが望ましい。
【0049】
蒸留装置の減圧運転は、例えば、図示しない制御盤等からの運転開始操作により、まず真空ポンプ等を用いて蒸留塔10内を所定圧力まで減圧する。特に限定されるものではないが、例えば、系内を約10kPa以下まで一旦真空引きした後、窒素ガス等の不活性ガスを蒸留塔10へ微量供給し、これら機器内の圧力を一定圧力、例えば、3~5kPaの範囲の所定値に保持する。
【0050】
減圧運転の後は、直ちに蒸留処理は行わずに、蒸留塔10に予め収容したメイキャップ液を使用して全還流運転を行い、系内を安定化させる。これにより、蒸留塔10を定常状態に調整し、次の連続処理運転へ円滑に移行することが出来る。なお、還流比を調整し、回収率を70~95%程度に設定することにより、純度99.9質量%以上の高純度1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0051】
具体的には、先ず、蒸留塔10の加熱器18にスチームを供給し、炊上げ機構を稼働させて加熱を開始する。循環運転では、例えば、温度変化のある蒸留塔10の中段部充填層の温度を検出し、加熱器18のスチーム流量をカスケード制御することにより、中段部充填層の温度を例えば110~130℃に維持し、中段部から取り出すサイドカット液中の水分濃度を一定にすることができる。これにより、蒸留塔10への仕込液1である粗原液の供給量の変動および粗原液中の1,3-ブタンジオールの濃度の変動に対応させて最適な加熱を行うことが出来る。その結果、粗原液の組成の顕著な変化にも対応でき、また、塔底部の1,3-ブタンジオール中の水分濃度および塔頂部の水中の1,3-ブタンジオール濃度を共に低下させ、分離効率を向上させることができる。
【0052】
続いて、蒸留塔10を稼働させた状態において、粗原液の連続供給を開始する。粗原液の供給では、蒸留塔10への急激な供給により運転が乱れない様に、流量を設計流量にする。一方、蒸留塔10において連続留出を開始する。その際、還流比の急激な変化による塔内の乱れを抑制しないように緩やかに所定の流量となるように調整する。蒸留塔10の還流比は例えば管路14と管路15の分岐部に設けたバルブ等の還流分配機構の操作により調整する。
【0053】
次いで、蒸留塔10の中段部においてサイドカット液の連続抜出しを開始する、その際、還流比の急激な変化による塔内の乱れを抑制しないように緩やかに所定の流量となるように調整する。また、蒸留塔10の塔底部において缶出を開始する。その際、蒸留塔1への供給流量に基づいて、管路16と管路17の分岐部に設けたバルブ等の還流分配機構の缶出液として供給流量の1~5質量%程度を抜き出す。
【0054】
上記の様に、循環運転により運転条件を最適な条件に調整したら。蒸留塔10の中段部からのサイドカット液の精留品として管路31より取り出す、連続処理運転を開始する。
【0055】
連続処理運転においては、蒸留塔10の塔頂部の留出液(低沸点成分含有の水)は管路14を通じて系外に排出し、蒸留塔10の中段部のサイドカット液(高純度1,3-ブタンジオール)は管路31を通じて図示しない製品回収系へと回収され、蒸留塔10の塔底部の缶出液(高沸点成分含有の高濃度1,3-ブタンジオール)は管路16を介して廃液処理系へ搬送される。
【0056】
なお、高純度1,3-ブタンジオールの純度分析は、例えば、試料採取管路(図示せず)を通じて高純度1,3-ブタンジオールの一部を採取し、ガスクロマトグラフィーを使用して行う。簡易的には、カールフィッシャー水分濃度計又は近赤外吸光度式微量水分濃度計、屈折率式濃度計等を使用し、水分濃度から1,3-ブタンジオール純度を逆算することもできる。
【0057】
ところで、蒸留塔の還流液量を増やす方法は、例えば、図1において管路15からの還流液を増加することで実施され得る。しかし、この方法で必要以上に還流液を増加させると、蒸留塔10からの精留分へ低沸点成分が混入してしまい精留分の純度が低下する虞れがある。また、留出すべき低沸点成分をさらに導入するため、増加させた還流液の加熱蒸発にかかるエネルギー量が加熱器18で増加し、処理量当りのエネルギーコストが増大する。
【0058】
また、本発明においては、前記蒸留塔100の中塔部より取り出す精留分における1,3-ブタンジオールの純度は後述するように99.9質量%以上となるように蒸留操作を行っている。生産量の調整は仕込液(原料)の発生量によって調整が行われる。そのため、蒸留塔の運転負荷は処理能力のほぼ100%となる場合もあるが、仕込液の発生量が減少となると蒸留塔の運転負荷は処理能力の50%にまで低下することがある。このとき、蒸留塔の安定操作範囲の下限を下回り、ウィーピング現象が起こり、精留品である1,3-ブタンジオール純度の低下を招く虞れがある。
【0059】
このような状況を回避する蒸留塔の運転方法として、蒸留塔10の底部よりの缶出液の一部を管路17より加熱器18へ導入し管路19より蒸留塔10の仕込段へ導入する。蒸留塔10へ導入液を管路19から導入する位置としては、蒸留塔仕込段ではなく、蒸留塔回収部としてもよい。
【0060】
次に、図2に示す別の実施形態は、2つの蒸留塔10、20を有して構成される精製装置であり、上述した図1に示す実施形態におけるものと同様に、蒸留塔の塔底に加熱器18、塔頂に凝縮器13を付属している第1の蒸留塔10の下流側に、同様に蒸留塔の塔底に加熱器28、塔頂に凝縮器23を付属している第2の蒸留塔20を接続した構成を有する連続式蒸留装置である。この実施形態においては、第1の蒸留塔10において低沸点成分を除去し、第2の蒸留塔20において高沸点成分を除去するものとされており、例えば、図1に示す実施形態におけるものと同様に、第1蒸留塔10への仕込液1(粗原液)は加熱器18でエネルギーを与えられ、低沸点成分と高沸点成分に蒸留分離される。仕込液中の低沸点成分は蒸留塔塔頂部から蒸気として管路12を通じて留出し凝縮器3で冷却され、その凝縮液の一部を還流液として管路15より蒸留塔10へ導入することで精留操作が行われる。仕込液中の高沸点成分は蒸留塔塔底から管路16より缶出液として抜き取られる。この缶出液の一部を管路17より加熱器18へ導入し管路19より蒸留塔10の仕込段または回収部へ導入することで、蒸留分離効率を調整する。しかし、この実施形態においては、図1に示す実施形態におけるものとは異なり、高沸点成分を含む高濃度1,3-ブタンジオールから第1蒸留塔10においてサイドカット方式にて中塔部より精留分を取り出すことはせず、缶出液である高沸点成分を含む高濃度1,3-ブタンジオールからの精留分の抽出は、第2蒸留塔20にて行うものとされている。
【0061】
すなわち、図2に示すような実施形態においては、第1蒸留塔10の塔底部から管路16で抜き出した缶出液(高沸点成分を含む高濃度1,3-ブタンジオール)が、第2蒸留塔20への被処理液として送られ、第2蒸留塔20に付属する加熱器28でさらにエネルギーを与えられ、低沸点成分と高沸点成分に蒸留分離される。被処理液中の低沸点成分は蒸留塔塔頂部から蒸気として管路22を通じて留出し凝縮器23で冷却され、その凝縮液の一部を還流液として管路25より蒸留塔20へ導入することで精留操作が行われる。なお、この実施形態においては、第1蒸留塔10において粗原液中の低沸点成分は相当程度除去されているために、前記凝縮液のうちの多くを還流液として管路25より蒸留塔20へ導入し、管路24より系外へ除去する量は実質的にゼロないしは微量のものとすることができる。一方、被処理液中の高沸点成分は蒸留塔20塔底から管路26より缶出液として抜き取られる。この缶出液の一部を管路27より加熱器28へ導入し管路29より蒸留塔20の仕込段または回収部へ導入することで、蒸留分離効率を調整する。そして、前記蒸留塔20の中塔部より精留分を管路31から取り出す。
【0062】
図2に示す実施形態におけるように、複数の蒸留塔を有して構成される精製装置は、例えば、仕込液となる1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液における水分含有量が比較的多く、単独の蒸留塔において、蒸留により精製するにおいては、処理時間の長期化等が懸念される場合などに好適に用いられる。
【0063】
次に、図3に示すさらに別の実施形態は、図1に示す蒸留装置において、蒸留塔10の前段において吸着剤処理を行うために吸着剤処理器3を設けた構成を有するものである。すなわち、図3に示すように、仕込液1である粗原液、すなわち粗1,3-ブタンジオールは、管路2を介して吸着剤処理器3に導入され、吸着剤前処理された粗原液が、管路4を介して蒸留塔10へ導入される構成とされている。これにより、上述したような蒸留工程の前に、粗原液を、吸着剤に適用する吸着剤前処理工程が行われる。なお、図3において、図1と共通する部材は同一の符番を付して表しており、重複する内容についてはここでの説明を省略する。なお、以下の説明においては、吸着剤として活性炭を用いた態様を中心として説明しているが、吸着剤としては活性炭以外のものであってもよく、特に平均細孔径が5nm以下である吸着剤、より好ましくは平均細孔径が1nm~5nmである吸着剤であれば、使用可能である。なお、ここでいう「平均細孔径」は窒素ガスを用いたガス吸着法により得られた値を指す。
【0064】
1,3-ブタンジオールの臭気に関して、上述したように特許文献5においては、活性炭での処理ではその除去が困難であるとの認識が示されていたが、上述のような蒸留塔を用いた蒸留による精製に組み合わせて、活性炭で処理する操作を行うことによって、1,3-ブタンジオールの臭気のより完全な除去が行われ得ることが本発明者らの研究の結果明らかとなったものである。特に、粗原液が、バイオマス由来の原料を用いた生化学的な手法により製造された粗1,3-ブタンジオールであるような場合においては、粗原液中に含まれる夾雑物として不明な成分を含めて多種類の微量成分が含まれているが、吸着剤ないしは活性炭処理することによって、これらを少なくとも一部を有意に吸着除去することできることができたものと判断される。そして、これらの微量成分が蒸留工程において加熱し濃縮されて、臭気原因物質として除去しにくくなることを防止できるものと考えられ、より効率的な脱臭作用が可能となるものである。
【0065】
吸着剤処理器3の構成としては、粗1,3-ブタンジオールを吸着剤と接触できるものである限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば、粒子状活性炭を用いた場合の固定床、球状成形品を用いた場合の流動層、あるいは、ハニカム構造等のパターンを有する構造体に成形されたもの等のいずれを使用することもできる。また、吸着剤として、使用する活性炭としても、特に限定されるものではなく、例えば、木粉系、フェノール樹脂系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル樹脂系、石炭コークス系、石油コークス系、ピッチ系、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の材料が賦活された活性炭を挙げることができる。このうち、好ましくはヤシガラ系のものであり、臭気除去における特に良好な結果が得られる。
【0066】
また、同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m/g以上が好ましく、より好ましくは500~5000m/g、さらに好ましくは1000~3000m/gである。
【0067】
また、活性炭としては、接触面積が良好なものとなるため、粒状活性炭であることが望ましく、具体的には、例えば、標準粒度が4~100メッシュ程度、より好ましくは標準粒度が20~48メッシュ程度の活性炭が好ましい。
【0068】
さらに吸着剤として、活性炭以外のものとしては、上記したような所期の細孔径を有し
、有効な吸着作用を有するものである限り特に限定されないが、例えば、芳香族系、(メタ)アクリル酸エステル系等の各種合成系の吸着剤、その他合成あるいは鉱物系無機吸着剤などが含まれ得る。
【0069】
また、吸着剤処理器3における、処理流量としては、特に限定されるものではないが、例えば空間速度(SV)で、1~10程度、より好ましくは1~3程度が好ましい。さらに、吸着剤処理器3で処理する際の粗1,3-ブタンジオールの温度としては、特に限定されるものではないが、例えば、0~80℃程度、より好ましくは20~60℃程度とされる。
【0070】
次に、図4に示すさらに別の実施形態は、図1に示す蒸留装置において、蒸留塔10の前段において吸着剤処理器3を、後段において吸着剤処理器40を設けた構成を有するものである。すなわち、図4に示す実施形態においては、上記図3に示した実施形態におけると同様に、仕込液1である粗原液、すなわち粗1,3-ブタンジオールは、管路2を介して吸着剤処理器3に導入され、吸着剤前処理された粗原液が、管路4を介して蒸留塔10へ導入される構成とされている。また、蒸留塔10の中段部から、分離された高純度1,3-ブタンジオールを精留分として取り出す管路31が吸着剤処理器40へと接続され、ここにおいて吸着剤後処理された高純度1,3-ブタンジオールが、管路41より製品として取り出される。なお、図4において、図1と共通する部材は同一の符番を付して表しており、重複する内容についてはここでの説明を省略する。
【0071】
この実施形態においては、上述のような蒸留塔を用いた蒸留により精製に組み合わせて、蒸留塔の前段で粗原液に対する吸着剤前処理および蒸留塔の後段で精留分に対する吸着剤後処理を行うことによって、1,3-ブタンジオールの臭気のより一層完全な除去を可能とするものである。
【0072】
粗原液に対する吸着剤前処理を行う吸着剤処理器3の構成および使用する吸着剤としては、上述した図3に示した実施形態に関して説明したものと同様のものとすることができる。また、精留分に対する吸着剤後処理を行う吸着剤処理器40の構成および使用する吸着剤としても、吸着剤前処理を行う吸着剤処理器3の構成および使用する吸着剤と同様のものとすることができる。あるいはまた、吸着剤前処理を行う吸着剤処理器3の構成および使用する吸着剤と異なる構成とすることも可能である。例えば、吸着剤前処理を行う吸着剤処理器3は、その処理量が多くなるために、吸着剤後処理を行う吸着剤処理器40よりも粗な粒径の吸着剤を用いより大質量な処理器として構成するといった形態を取ることも可能である。あるいはまた、吸着剤後処理で用いる吸着剤は、特に臭気を吸着剤から出さないようにするためにも、また安全性や衛生性といった観点からしても、例えば、食品や飲料水ないし清涼飲料水の処理用途に使用されるものなどといったものを転用することも可能である。さらには、例えば、オートクレーブ滅菌、紫外線滅菌等の滅菌処理を加えたもの等を使用することも可能である。
【0073】
また、吸着剤後処理を行う吸着剤処理器40における、処理流量としては、特に限定されるものではないが、吸着剤前処理を行う吸着剤処理器3での処理流量と同様に、例えば空間速度(SV)で、1~10程度、より好ましくは1~3程度とすることができる。さらに、吸着剤後処理を行う吸着剤処理器40で処理する際の精留分の温度としては、特に限定されるものではないが、例えば、0~80℃程度、より好ましくは20~60℃程度とされる。
【0074】
さらに本発明に係る製造方法の好ましい実施形態においては、1,3-ブタンジオールを主成分として少なくとも含む粗原液を、上述したように蒸留により精製するにおいて、
99.9質量%以上の1,3-ブタンジオールの回収率をY%とし、蒸留塔の上部からの取り出し量をX%とした際に、
X≧3
Y≦100-2.5X
Y≧100-3.5X
X≦10
で囲まれる領域の条件下で蒸留を行うことが望ましい。図5は、上記条件で囲まれる領域を図示したものである。
【0075】
このような条件下において、回収率と取り出し量とのバランスを取ることによって、より容易に高純度で無臭の1,3-ブタンジオールを製造することができる。
【0076】
上記に説明したような本発明に係る製造方法により得られる精製1,3-ブタンジオールは、純度99.9質量%以上で、かつ、官能試験において無臭である。
【0077】
本明細書において「無臭」とは、少なくとも後述する官能試験(臭気判定方法)に従って測定した人間による臭気判定において精留直後において無臭で透明な高純度液体であることを意味する、特に、好ましくは、精留直後と常温(20℃±10℃)で少なくとも1か月以上製品を褐色瓶(広口瓶・褐色(ソーダ石灰ガラス製)、ポリプロピレンキャップ、ポリエチレン製中蓋付)中で暗室(照度:0.1ルクス(Lx)以下)に保管保持した後の二回評価にて、無臭で透明な高純度液体であることを意味する。
【0078】
このため、例えば、得られる精製1,3-ブタンジオールは、化粧料、薬品等の高品質、高級品用途として、好適に使用され得る。また、凍結保護剤、あるいは各種の合成樹脂、界面活性剤の原料等のその他の用途においてももちろん使用できその製品性状を著しく
向上させることができる。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。
なお、以下に示す実施例および比較例において、使用した粗原液、測定方法等は次の通りであった。
【0080】
粗原液
バイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品を協力企業より入手した。この粗精製品の組成を以下の分析方法により調べたところ、次の通りであった。
(原料組成)
1,3-ブタンジオール:99.50 質量%
L.B.(低沸成分):0.01 質量%
H.B.(高沸成分):0.35質量%
水分:0.14 質量%
【0081】
(分析方法)
水分:カールフィッシャー水分計
その他揮発成分:ガスクロマトグラフィー
なお、ガスクロマトグラフィーとしては水素炎イオン化検出器(FID)を用い、内径:0.25mm,長さ:60m,膜厚:0.5μmのカラムを用い、スプリット注入法(スプリット比1:10)にて測定した。得られた粗原液のガスクロマトグラムを図6に示す。
【0082】
(臭気判定方法)
上記したバイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品を基準サンプルとし、評価サンプルを以下のレベルで評価、その相対評価点で点数を付けた。
評価サンプルは、1,3-ブタンジオール粗精製品または精製品と水を1:1質量比で混合し、広口ガラス瓶に入れ密封し室温に放置した後、大気中で速やかに臭いを嗅ぎ、比較する方法で行った。
評価者は、嗅覚が正常な6名を選定し、各々の評価点を平均化したあと、四捨五入で、臭気レベルを判定した。例えば、6人の評価者のうち、4名が0、2名が1の場合は、平均値が0.5未満となるため、臭気判定は、0とした。
なお、評価基準は、以下の6段階評価とした。
【0083】
(評価基準)
0:臭気を感じ取れない、全くわからない(純水を入れた無臭瓶と同じに感じる)
1:やっと感知できる臭気、臭気の種類までは判断できない
2:弱い臭気を感じ取ることができ、どんな臭いかわかる
3:容易に感知できる臭い
4:基準サンプルほどではないが、強い臭気を感じる
5:基準サンプルと同等もしくはそれ以上な強い臭気を感じる
【0084】
また、臭気判定は、(1)精留直後と(2)常温(20℃±10℃)で少なくとも1か月以上製品を褐色瓶(広口瓶・褐色(ソーダ石灰ガラス製)、ポリプロピレンキャップ、ポリエチレン製中蓋付)中に入れ、空間部は窒素で満たし酸素が無い状況で密閉し、暗室(照度:0.1ルクス(Lx)以下)に保管保持した後の二回評価した。
【0085】
実施例1
上記したバイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品1を、第1図に示すような構成を有する精製装置を用いて処理した。蒸留塔10は、圧力損失を考慮し、規則充填物を使用した蒸留塔を使用した。蒸留塔10の構成として、蒸留塔(20段)10の中に管路11から液を供給する箇所には、液分散器を備え、また管路31へとサイドカットするための液コレクターを任意の位置に備え、コレクターからの液出口用ノズルから液抜きができるようにした状態で蒸留精製を実施した。蒸留塔10において、還流比3.0で還流させながら、塔頂抜出部から管路14を介して水および低沸点物を含む低沸点混合液を供給質量に対して2質量部以上10質量部未満分離した。この時の塔頂圧力は絶対圧で1.5kPa、塔頂温度は105℃であった。一方、蒸留塔底部から抜出ライン(管路16)を経て高沸点物を2質量部以上10質量部未満取り出した(塔底部の圧力は絶対圧で2.0kPa、塔底温度は110℃)。安定した蒸留塔の適切な塔中部から抜出ライン(管路31)を経て精製された1,3-ブタンジオール製品を得た。
そして、得られた精製された1,3-ブタンジオール製品に関して、粗精製品の分析と同様にして、上述するようなカールフィッシャー水分計およびガスクロマトグラフィーによる成分分析、および上述した臭気判定に供した。得られた結果を、表1に示す。
【0086】
実施例2
上記したバイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品1を、第2図に示すような構成を有する精製装置を用いて処理した。蒸留塔10、20は、圧力損失を考慮し、規則充填物を使用した蒸留塔を使用した。蒸留塔10、20の構成として、蒸留塔10(20段)の中に管路11から液を供給する箇所および蒸留塔20の中に管路16から液を供給する箇所には液分散器を備え、また蒸留塔20(20段)から管路31へとサイドカットするための液コレクターを任意の位置に備え、コレクターからの液出口用ノズルから液抜きができるようにした状態で蒸留精製を実施した。蒸留塔10において、還流比3.0で還流させながら、塔頂抜出部から管路14を介して水および低沸点物を含む低沸点混合液を供給質量に対して10質量未満量分離した。この時の塔頂圧力は絶対圧で1.5kPa、塔頂温度は103℃であった。一方、蒸留塔底部から抜出ライン(管路16)を経て抜き出した缶出液を、続いて蒸留塔20に導入し、蒸留塔20において、還流比3.0で還流させながら、塔頂抜出部から管路24を介して水および低沸点物を含む低沸点混合液を供給質量に対して1質量部以上5質量未満量分離した。この時の蒸留塔20の塔頂圧力は絶対圧で1.5kPa、塔頂温度は104℃であった。一方、蒸留塔底部から抜出ライン(管路26)を経て高沸点物を2質量部以上10質量部未満量取り出した。安定した蒸留塔の適切な塔中部から抜出ライン(管路31)を経て精製された1,3-ブタンジオール製品を得た。
そして、得られた精製された1,3-ブタンジオール製品に関して、粗精製品の分析と同様にして、上述するようなカールフィッシャー水分計およびガスクロマトグラフィーによる成分分析、および上述した臭気判定に供した。得られた結果を、表1に示す。
【0087】
実施例3
上記したバイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品1を、第3図に示すような構成を有する精製装置を用いて処理した。蒸留塔10の構成および条件は、実施例1におけるものと同様にして、粗精製品1を蒸留塔10にかける前段階として、粗精製品1を吸着剤前処理器3にて処理した。すなわち、組成製品1を、ヤシ殻活性炭(大阪ガスケミカル(株)製、LH2C)を充填した吸着剤処理器3にSV=1~2の速度で通液した後、蒸留塔10(20段の1塔)に供給し、実施例1と同様な条件で蒸留精製を行った。
得られた精製された1,3-ブタンジオール製品に関して、粗精製品の分析と同様にして、上述するようなカールフィッシャー水分計およびガスクロマトグラフィーによる成分分析、および上述した臭気判定に供した。得られた結果を、表1に示す。
【0088】
実施例4
上記したバイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品1を、第4図に示すような構成を有する精製装置を用いて処理した。蒸留塔10の構成および条件は、実施例1におけるものと同様に、また粗精製品1を吸着剤前処理器3にて処理する構成および条件は実施例3と同様にした。すなわち、組成製品1を、ヤシ殻活性炭(大阪ガスケミカル(株)製、LH2C)を充填した吸着剤処理器3にSV=1~2の速度で通液した後、蒸留塔10(20段の1塔)に供給し、実施例1と同様な条件で蒸留精製を行った後、蒸留塔10の適切な塔中部から抜出ライン31を経て得られた蒸留塔精製液を、冷却器で10℃~60℃の範囲になるように冷やし、その後ヤシ殻活性炭(大阪ガスケミカル(株)製、LH2C)を充填した吸着剤後処理装置40にSV=1~2の速度で通液処理し、抜出口41から精製された1,3-ブタンジオール製品を得た。
得られた精製された1,3-ブタンジオール製品に関して、粗精製品の分析と同様にして、上述するようなカールフィッシャー水分計およびガスクロマトグラフィーによる成分分析、および上述した臭気判定に供した。得られた結果を、表1に示す。
【0089】
比較例1
実施例1におけると同様に、上記したバイオマス由来の1,3-ブタンジオール粗精製品1を、第1図に示すような構成を有する精製装置を用いて処理した、蒸留条件および塔頂よりの低沸点混合液の抜き出し量は、実施例1と同様とする一方で、精製品の塔中部から抜出は行わず、蒸留塔底部から抜出ライン(管路16)を経て残部を全部取り出し、精製サンプルとした。
得られた精製サンプルに関して、粗精製品の分析と同様にして、上述するようなカールフィッシャー水分計およびガスクロマトグラフィーによる成分分析、および上述した臭気判定に供した。得られた結果を、表1に示す。
【0090】
参考例1
実施例4において、1,3-ブタンジオール粗精製品1を、吸着剤前処理器3にて処理する工程を省略した、すなわち、蒸留および吸着剤後処理のみとした以外は、実施例4と同様にして、精製された1,3-ブタンジオール製品を得た。
得られた精製された1,3-ブタンジオール製品に関して、粗精製品の分析と同様にして、上述するようなカールフィッシャー水分計およびガスクロマトグラフィーによる成分分析、および上述した臭気判定に供した。得られた結果を、表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように、本発明に係る方法により得られた実施例1~4においては、高精製でかつ無臭性の高い1,3-ブタンジオールが得られた。なお、時間経過による変化を確認するために、ガラス容器に液を保管、空間部は窒素で満たし酸素が無い状況で密閉し、1ヶ月後に再度臭気を確認したが、臭気の変化はなかった。さらに、実施例1~4において得られた精製1,3-ブタンジオールは、JIS K1351の3.10に基づく過マンガン酸カリウム退色時間が十分長く、即ち還元性物質等が極めて少ないものであった。すなわち、臭気がなく、経時変化が少ない高純度の1,3-ブタンジオールが得られた。
【0093】
なお、実施例1~4および比較例1並びに参考例1のいずれにおいても精製処理を行った精製サンプルのクロマトグラムでは、図6に示す1,3-ブタンジオール粗精製品のクロマトグラムに生じた複数の不純物ピークのうちのいくつかの特定ピークに関して、ピークが消滅したり小さくなったものが生じた。しかし、そのクロマトグラフィーによる結果と臭気評価との間には、特に相関関係は見出されず、臭気に関してはそのピークの大小、すなわち、含有量の多少にあまり関係することなく、大きな影響を及ぼすものが含まれていることが考察された。
【符号の説明】
【0094】
1…仕込液
3、40…吸着剤処理器
10、20…蒸留塔、
13、23…凝縮器、
18、28…加熱器

図1
図2
図3
図4
図5
図6