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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083577
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/16 20060101AFI20240614BHJP
   H02K 5/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
H02K5/16
H02K5/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065208
(22)【出願日】2024-04-15
(62)【分割の表示】P 2022139020の分割
【原出願日】2018-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】癸生川 幸嗣
(57)【要約】
【課題】高速回転を実現することができるモータを提供する。
【解決手段】モータ10は、シャフト2と、シャフト2を支持する少なくとも2つの軸受4a及び軸受4bと、2つの軸受4a及び軸受4bの間において、シャフト2に支持された磁石3と、磁石3を囲むステータ5と、シャフト2の長手方向において、磁石3と軸受4a及び軸受4bとの間に配置された磁性部材6a及び磁性部材6bとを備え、磁性部材6a及び磁性部材6bは、磁石3の外径よりも大きい外径を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトを支持する2つの軸受と、
前記2つの軸受の間において、前記シャフトに支持された筒状の磁石および2つの部材と、
前記筒状の磁石を囲むステータと、
を備え、
前記2つの部材のうち一方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記2つの軸受のうち一方の軸受との間に配置され、
前記2つの部材のうち他方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記2つの軸受のうち他方の軸受との間に配置され、
前記一方の部材は、前記ステータに対して前記一方の軸受側に配置され、
前記他方の部材は、前記ステータに対して前記他方の軸受側に配置され、
前記2つの軸受は、磁性を有する金属で形成された転動体及び外輪を備え、
前記2つの部材は、前記筒状の磁石から発生した磁束が通過する経路を構成し、
前記シャフトの長手方向において、前記一方の軸受と前記一方の部材との間の距離が前記一方の部材と前記筒状の磁石との間の距離よりも短く、
前記シャフトの長手方向において、前記他方の軸受と前記他方の部材との間の距離が前記他方の部材と前記筒状の磁石との間の距離よりも短く、
前記シャフトの径方向において、前記一方の部材の寸法は前記一方の軸受の外輪の寸法より小さく、
前記シャフトの径方向において、前記他方の部材の寸法は前記他方の軸受の外輪の寸法より小さい、
モータ。
【請求項2】
前記一方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記一方の軸受及び前記筒状の磁石からそれぞれ所定の距離離れている、
請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記シャフトの長手方向において、前記一方の部材は、前記一方の軸受に対向する面部を備え、
前記一方の軸受に対向する面部には、凹部、孔部又は凸部が設けられている、
請求項1又は2のいずれかに記載のモータ。
【請求項4】
前記シャフトの径方向において、前記ステータと前記筒状の磁石との間にはエアギャップがあり、
前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記一方の部材との間の距離は、前記エアギャップの距離よりも長い、
請求項1乃至3のいずれかに記載のモータ。
【請求項5】
前記シャフト及び前記筒状の磁石を有するロータを備え、
前記一方の部材又は前記他方の部材は、前記ロータのバランス部材である、
請求項1乃至4のいずれかに記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
固定子鉄心にコイルが巻かれた固定子と、回転子鉄心に回転軸が固定され、回転子鉄心の周縁部に永久磁石が埋め込まれた回転子と、回転軸上において回転子鉄心の両側に挿入固定された一対のバランスリングとを備えるモータが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-39732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータは、その用途に応じて、例えば毎分50000回転という高速によりロータを回転させることが望まれている。モータを高速に回転させる場合には、例えばロータに組み付けられる磁石の外径を小さくしてロータの回転時に生じる遠心力を小さくするのが望ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるモータを含め、従来のモータでは、以下の要因により、高速回転を実現することが難しかった。
【0006】
まず、従来のモータは、軸受の材料に鉄などの磁性体の金属が含まれるため、回転するロータの磁石から発生する磁束の一部が漏れ磁束として軸受の外輪方向に向かうことがあった。従来のモータは、この軸受の外輪方向に向かう漏れ磁束により、軸受に渦電流が生じることがあった。従来のモータでは、この渦電流により、軸受に制動が加わりロータの回転力に対する抵抗になることがあった。
【0007】
さらに、モータを高速で回転させるには、ロータのバランスを高い精度で確保する必要がある。一般に、ロータのバランスを取る作業は、バランス部材をシャフトに取り付けた後、切削加工などによりこのバランス部材の重量を削減して行う。しかし、従来のモータは、磁石とバランス部材との軸線方向の距離が近い場合などに切削工具の操作を慎重に行う必要があるため、ロータに組付けられたバランス部材の質量を削減する加工は容易ではなかった。
【0008】
本発明は、上述の課題を一例とするものであり、高速回転を実現することができるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るモータは、シャフトと、シャフトを支持する少なくとも2つの軸受と、少なくとも2つの軸受の間において、シャフトに支持された磁石と、磁石を囲むステータと、シャフトの長手方向において、磁石と少なくとも1つの軸受の間に配置された磁性部材とを備え、前記磁性部材は、磁石の外径よりも大きい外径を有する。
【0010】
本発明の一態様に係るモータにおいて、磁性部材は、軸受の外径よりも小さい外径を有する。
【0011】
本発明の一態様に係るモータにおいて、シャフトの長手方向において、軸受と磁性部材との間の距離が磁性部材と磁石との間の距離よりも短い。
【0012】
本発明の一態様に係るモータにおいて、磁性部材は、シャフトの長手方向において、軸受及び磁石から所定の距離それぞれ離れている。
【0013】
本発明の一態様に係るモータにおいて、シャフト及び磁石を備えるロータを備え、磁性部材は、ロータのバランス部材である。
【0014】
本発明の一態様に係るモータにおいて、シャフトの長手方向において、磁性部材は、軸受に対向する面部を備え、軸受に対向する面部には、凹部、孔部又は凸部が設けられている。
【0015】
本発明の一態様に係るモータにおいて、前記シャフトの長手方向において、磁石と磁性部材との間の距離は、エアギャップの距離よりも長い。
【0016】
本発明の一態様に係るモータにおいて、2つの軸受を含む複数の軸受を備え、磁性部材は、複数の軸受それぞれに対して設けられる。
【0017】
本発明に係るモータによれば、高速回転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係るモータの構成を概略的に示す斜視図である。
図2図1に示すモータの軸線に沿う断面図である。
図3図1に示すモータのバランス部材の構成を概略的に示す平面図である。
図4図1に示すモータのバランス部材の構成を概略的に示す断面図である。
図5図1に示すモータのバランス部材の変形例を概略的に示す断面図である。
図6図1に示すモータの軸線に沿う断面図であり、シャフト、軸受、及びバランス部材の寸法及び配置について説明するための図である。
図7図1に示すモータにおける、機械負荷とエアギャップに対する磁石から軸受までの距離の比との関係を示す表である。
図8図1に示すモータにおける、機械負荷とエアギャップに対する磁石から軸受までの距離の比との関係を示すグラフである。
図9図1に示すモータにおける、エアギャップに対する磁石からバランス部材までの距離、機械負荷、及び、図1に示すモータのトルクとバランス部材を備えないモータのトルクとの比の関係を示す表である。
図10図1に示すモータにおける、エアギャップに対する磁石からバランス部材までの距離、機械負荷、及び、上記モータのトルクとバランス部材を備えないモータのトルクとの比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るモータについて図面を参照しながら説明する。
【0020】
[モータの全体構成]
本発明の一実施の形態に係るモータの全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るモータ10の構成を概略的に示す斜視図である。図2は、モータ10の軸線xに沿う断面図である。
【0021】
以下の説明では、便宜上、図1に示す軸線x方向に垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)をモータ10の正面とする。また、以下の説明では、便宜上、図2に示す軸線x方向において矢印a方向を上側aとし、矢印b方向を下側bとする。また、径方向において、軸線xから遠ざかる方向(図2の矢印c方向)を外周側cとし、軸線xに向かう方向(図2の矢印d方向)を内周側dとする。
【0022】
モータ10は、シャフト2と、シャフト2を支持する少なくとも2つの軸受4a及び軸受4bと、シャフト2に支持されシャフト2とともに回転する磁石3と、磁石3を囲むステータ5と、を備える。また、モータ10は、シャフト2の長手方向における磁石3と軸受4a及び軸受4bの少なくとも1つの間に配置されシャフト2とともに回転し、磁石3の外径よりも大きい外径を有する磁性部材としてのバランス部材6a及びバランス部材6bと、を備える。以下、モータ10の構成について具体的に説明する。
【0023】
ケース1は、モータ10の概略の形状を定めるとともに、上述のモータ10の構成要素を収容する。ケース1は、上下の蓋部が開口した中空の円筒形状に形成されるケース本体11と、ケース本体11の上側(一端部の側)aの蓋部に取り付けられる上蓋部12と、ケース本体11の下側(他端部の側)bの蓋部に取り付けられる下蓋部13と、を備える。
【0024】
上蓋部12は、ケース本体11を上側aから塞ぐために、ケース本体11の蓋面の形状に対応した略円盤形状を有する。また、上蓋部12は、シャフト2が通された軸受4aを保持する孔として軸受保持孔12aを有する。下蓋部13は、ケース本体11を下側bから塞ぐために、ケース本体11の蓋面の形状に対応した略円盤形状を有する。また、下蓋部13は、シャフト2が通された軸受4bを保持する孔として軸受保持孔13aを有する。
【0025】
シャフト2は、その延びる方向(長手方向)である軸線x方向を長手方向とする例えば丸棒の部材である。シャフト2は、軸線x方向を中心に回転する。シャフト2は、軸受4a,4bを介してケース1の軸受保持孔12a,13aに支持される。シャフト2の先端部(一端部)は、ケース1の軸受保持孔12a,13aからケース1の外部に露出する。シャフト2の先端部のうち、下側bの方向から露出する部分(他端部)は、出力軸となり、モータ10が生じる回転力を外部に伝達する。
【0026】
磁石3は、概略の形状が例えば円筒形状である。磁石3は、軸線x方向を長手方向として、磁石3の中心を貫通する貫通孔としてのシャフト貫通孔31が設けられている。磁石3は、ケース1の内部における軸受4aと軸受4bとの間の位置においてシャフト2に支持されている。シャフト2に支持された磁石3は、シャフト2とともに回転する。シャフト2と磁石3は、モータ10においてロータ7を構成する。
【0027】
軸受4aは、ケース1の上側aの上蓋部12に取り付けられる。軸受4bは、ケース1の下側bの下蓋部13に取り付けられる。軸受4a,4bは、例えば玉軸受である。本発明において、軸受の種類は特に限定されない。軸受4a,4bは、例えばそれぞれ軸線x方向が中心軸となるように配置される内輪41a,41b及び外輪42a,42bと、内輪41a,41b及び外輪42a,42bの間に設けられる転動体43a,43bとにより構成される。軸受4a,4bは、内輪41a,41bの内周面44a,44bによりシャフト2を支持する。
【0028】
軸受4a,4bは、シャフト2の軸線x方向における任意の位置において、シャフト2を回転可能に支持する。具体的には、軸受4aは、内周面44aにシャフト2が挿入されることで、シャフト2の軸線x方向における上側aの部分を回転可能に支持する。軸受4bは、内周面44bにシャフト2が挿入されることで、シャフト2の軸線x方向における下側bの部分を回転可能に支持する。軸受4a,4bは、内輪41a,41b、外輪42a,42b、及び転動体43a,43bが、共に磁性を有する金属製、一般には鉄を含む合金を用いて形成される。軸受4a,4bは、径方向において磁石3の外径よりも大きい外輪42a,42bの外径を有する。つまり、軸受4a,4bは、径方向において、外輪42a,42bが磁石3の外周よりも外側に配置される。
【0029】
ステータ5は、ケース本体11の内周面に保持されている。ステータ5は、具体的には、ケース本体11の内部において軸線x方向(シャフト2の長手方向)において磁石3に対応する位置に配置されるとともに、径方向において磁石3よりもシャフト2から離れた位置に配置される。ステータ5は、磁石3を囲むように環状に形成されたステータコアと、ステータコアから内周側dに延在した延在部に巻回されたコイルと、ステータコアとコイルとを絶縁するインシュレータとにより構成される。ステータ5は、ステータコアの環状の内周面が磁石3を囲むように配置される。ステータコアの内周面と磁石3の外周面との間には、エアギャップAGが設けられる。
【0030】
なお、シャフト2、磁石3、軸受4a,4b、及びステータ5の形状は、モータ10におけるロータ7の回転運動が可能な形状であれば、上述の例に限定されない。
【0031】
バランス部材6aは、シャフト2の軸線x方向において、磁石3と軸受4aとの間に配置される。バランス部材6bは、シャフト2の軸線x方向において、磁石3と軸受4bとの間に配置される。バランス部材6a,6bは、中心に軸線x方向を長手方向として貫通する貫通孔61a,61bを有する。バランス部材6a,6bは、例えば軸受4a,4bの数に対応して設けられる。バランス部材6a,6bは、ロータ7、すなわちシャフト2及び磁石3とともに軸線x方向を中心に回転する。バランス部材6a,6bは、ロータ7が軸線x方向を中心に回転する際の偏心運動を防ぐバランサーとして機能する。
【0032】
バランス部材6a,6bは、例えばFe-Cu系の焼結部材など、比較的高い比重を有する磁性部材で形成される。つまり、バランス部材6a,6bは、磁束が通過する経路として機能する。
【0033】
図3は、モータ10のバランス部材6a,6bの構成を概略的に示す平面図である。また、図4は、モータ10のバランス部材6a,6bの構成を概略的に示す断面図である。図3及び図4に示すように、バランス部材6a,6bは、面部62a,62bに、上述の貫通孔61a,61b、及び軸線x方向に貫通する孔部63a,63bが設けられる。孔部63a,63bは、バランス部材6a,6bがロータ7とともに回動運動するときの偏心を解消するための質量調整部として機能する。
【0034】
孔部63a,63bは、バランス部材6a,6bの面部62a,62bに、上側aまたは下側bのいずれか一方から他方に向けてドリルなどの切削工具を用いて切削加工を行うことで形成される。面部62a,62bは、シャフト2の軸線x方向において、軸受4a、4bに対向する面を形成している。孔部63a,63bは、バランス部材6a,6bを磁石3とともにシャフト2に組付けた後、面部62a,62bにおける所定の位置に設けることができる。面部62a,62bにおける孔部63a,63bの形成位置は、ロータ7の回転時の偏心運動が解消するように、ロータ7の径方向における重心のバランスを考慮して決定される。
【0035】
なお、以上の説明では、本発明における質量調整部の一例としてバランス部材6a,6bの軸線x方向に貫通する孔部63a,63bを示したが、本発明において質量調整部の形状及び面部62a,62bにおける質量調整部の位置は、以上の例に限定されない。図5は、モータ20のバランス部材6a,6bの変形例を概略的に示す断面図である。図5に示すように、上記質量調整部は、図3及び図4に示した孔部63a,63bのような貫通孔ではなく、例えばバランス部材6a,6bの上側aまたは下側bに面する面に形成される凹部64a,64b(図5(a)参照)又は凸部65a,65b(図5(b)参照)であってもよい。また、上記質量調整部は、孔の形状も上述の例に限定されない。
【0036】
[磁石、軸受、及びバランス部材の寸法及び配置]
次に、図6を参照して、モータ10における磁石3、軸受4a,4b、及びバランス部材6a,6bの寸法及び配置について説明する。図6は、図1のモータ10の軸線x方向に沿う断面における断面図であり、磁石3、軸受4a,4b、及びバランス部材6a,6bの寸法及び配置について説明するための模式図である。
【0037】
図6に示すように、バランス部材6aは、シャフト2の軸線x方向において、磁石3と軸受4aとの間に配置される。また、バランス部材6bは、シャフト2の軸線x方向において、磁石3と軸受4bとの間に配置される。
【0038】
バランス部材6aの外径DB1は、磁石3の外径DMよりも大きく、軸受4aの外輪42aの外径DR1よりも小さい。バランス部材6aの外径DB1、磁石3の外径DM、及び軸受4aの外輪42aの外径DR1の関係は、以下の式(1)の通りである。
【0039】
DM<DB1<DR1 (1)
【0040】
バランス部材6bの外径DB2は、磁石3の外径DMよりも大きく、軸受4bの外輪42bの外径DR2よりも小さい。バランス部材6bの外径DB2、磁石3の外径DM、及び軸受4bの外輪42bの外径DR2の関係は、以下の式(2)の通りである。
【0041】
DM<DB2<DR2 (2)
【0042】
なお、外径DB1及び外径DB2の寸法は、上記式(1)及び式(2)の関係が維持されている限りにおいて、同一の値であっても、異なる値であってもよい。同様に、外径DR1及び外径DR2の寸法は、上記式(1)及び式(2)の関係が維持されている限りにおいて、同一の値であっても、異なる値であってもよい。
【0043】
磁性体により構成されシャフト2とともに回転するバランス部材6a,6bは、軸受4a,4bに磁石3からの磁束の進入を減少させるため、軸受4a,4bを通過する磁石3からの磁束密度の変化を小さくでき、軸受4a,4bの外輪42a,42bに渦電流が発生することを防止できる。特に、バランス部材6a,6bは、外径DB1,DB2が上記式(1)及び式(2)の関係を有することで、磁石3からステータ5以外の磁性部材に向かう磁束である漏れ磁束が軸受4a,4bに向かうことを防ぐことができる。つまり、バランス部材6a,6bは、軸受4a,4bの外輪42a,42bに発生する渦電流により発生する磁力で磁石3を介してシャフト2に制動力が加わることを防ぐことができる。
【0044】
なお、軸受4a,4bに発生する渦電流は、磁石3から軸受4a,4bまでの距離が長くなるにつれて減少する。しかしながら、支点(軸受4a,4b)から回転運動の中心(磁石3)までの距離が長くなることで、回転運動による遠心力によってロータ7のブレが大きくなる。従って、モータ10において、以上説明したような磁性部材で形成されるバランス部材6a,6bにより軸受4a,4bに進入する漏れ磁束を減少させつつ、遠心力によるモータ10のブレを防ぐことは、モータの高速回転を実現するために有効である。
【0045】
バランス部材6aは、シャフト2の軸線x方向において、軸受4aから所定の距離A1離間している。また、バランス部材6aは、シャフト2の軸線x方向において、磁石3から所定の距離B1離間している。バランス部材6bは、シャフト2の軸線x方向において、軸受4bから所定の距離A2離間している。また、バランス部材6bは、シャフト2の軸線x方向において、磁石3から所定の距離B2離間している。
【0046】
ここで、バランス部材6aと軸受4aとの間の距離A1は、シャフト2の軸線x方向において、バランス部材6aと磁石3との間の距離B1よりも短い。バランス部材6aと軸受4aとの間の距離A1、及びバランス部材6aと磁石3との間の距離B1の関係は、以下の式(3)の通りである。
【0047】
A1<B1 (3)
【0048】
また、バランス部材6bと軸受4bとの間の距離A2は、シャフト2の軸線x方向において、バランス部材6bと磁石3との間の距離B2よりも短い。バランス部材6bと軸受4bとの間の距離A2、及びバランス部材6bと磁石3との間の距離B2の関係は、以下の式(4)の通りである。
【0049】
A2<B2 (4)
【0050】
なお、距離A1と距離A2は、同一の距離であっても、異なる距離であってもよい。同様に、距離B1と距離B2も、同一の距離であっても、異なる距離であってもよい。
【0051】
以上のように、磁性体により構成されるバランス部材6a,6bが磁石3よりも軸受4a,4bの近傍に配置されることで、磁石3から軸受4a,4bに向かう漏れ磁束の発生を防ぐことができる。つまり、バランス部材6a,6bは、磁石3よりも軸受4a,4bの近傍に配置されることで、軸受4a,4bに制動が加わるのをより防ぐことができる。
【0052】
モータ10において、磁石3とバランス部材6a,6bとの間の距離B1,B2は、エアギャップAGよりも長いことが好ましい。このように、距離B1,B2がエアギャップAGよりも長いことにより、モータ10は、磁路を磁石3からステータ5に向かった経路にすることができるため、漏れ磁束を減少させ磁気効率を向上させることができる。また、距離B1,B2がエアギャップAGよりも長いことにより漏れ磁束を減少させることができるため、モータ10は、軸受4a及び軸受4bが渦電流により制動が加わるのを防ぐことができる。
【0053】
また、モータ10では、図3に示すように、バランス部材6a,6bの質量を調整してロータ7の偏心運動を解消する質量調整部としての孔部63a,63bが、バランス部材6a,6bの軸線x方向において互いに背向する面部62a,62bに設けられる。
【0054】
バランス部材6a,6bの質量を調整するため、軸線x方向から面部62a,62bを切削加工する場合に、仮にバランス部材6a,6bと他の部材とが軸線x方向において間隔なく接していると、誤って他の部材を削ってしまうおそれがある。この場合には、切削工具がバランス部材6a,6bを貫通することがないように、切削工具の径や送り量を精密に制御する必要がある。
【0055】
また、バランス部材6a,6bの面部62a,62bを削りにくい場合、バランス部材6a,6bの側面を削ることも考えられるが、薄い扁平な部材であるバランス部材6a,6bの側面を削ることは難しい。また、この場合、削りかすなどが側面から飛び出すことでシャフト2が回転するときのモーメントが大きくなりロータ7の回転時の負荷が増加してしまうおそれもある。
【0056】
モータ10では、バランス部材6a,6bが、シャフト2の軸線x方向において、磁石3から所定の距離B1,B2、軸受4a,4bから所定の距離A1,A2それぞれ離間している。このため、モータ10によれば、バランス調整を行う際にバランス部材6a,6bの質量の調整のための切削加工において、切削工具の操作を容易に行うことができる。
つまり、モータ10によれば、バランス調整を行う際にバランス部材6a,6bの質量の調整のための切削加工を容易に行うことができる。
【0057】
[エアギャップに対する磁石からバランス部材までの距離の比の検討]
図7乃至図10を参照して、モータ10における、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離B1,B2の比RB1,RB2について検討する。
【0058】
まず、モータ10において、エアギャップAGに対する距離B1,B2の比RB1,RB2を定めるために、エアギャップAGに対する磁石3から軸受4a,4bまでの距離の比RB0a,RB0bを変化させる。そして、モータ10において、RB0a,RB0bを変化させることによる機械負荷MLの変化を検討する。機械負荷とは、モータを通電しない状態で回転させたときに生じる、モータ内部の負荷である。この機械負荷には、主に、擦負荷と磁気的な負荷とがある。擦負荷は、モータが回転する際の軸受の転動体と保持器との間で生じる摩擦、あるいはモータ内部のグリスによる摩擦などにより生じる。磁気的な負荷は、モータが回転する際の磁石とステータとの吸引力(コギング)などにより生じる。
【0059】
図7は、モータ10における、機械負荷MLとエアギャップAGに対する磁石3から軸受4a,4bまでの距離(A1+B1+C1),(A2+B2+C2)の比RB0a(A1+B1+C1/AG),RB0b(A2+B2+C2/AG)との関係を示す表である。図8は、モータ10における、エアギャップAGに対する磁石3から軸受4a,4bまでの距離(A1+B1+C1),(A2+B2+C2)の比RB0a(A1+B1+C1/AG),RB0b(A2+B2+C2/AG)との関係を示すグラフである。
【0060】
図7及び図8において、エアギャップAGに対する磁石3から軸受4a,4bまでの距離の比RB0a,RB0bは、エアギャップAGを1としたときの磁石3から軸受4a,4bまでの距離の比を示している。また、図7及び図8に示すように、エアギャップAGに対する磁石3から軸受4a,4bまでの距離の比RB0a,RB0bは、1.5、2.2、2.8、及び3.5と変化させて、この場合における機械負荷MLを測定した。
【0061】
図7及び図8によれば、モータ10は、エアギャップAGに対する磁石3から軸受4a,4bまでの距離の比RB0a,RB0bが2.2から2.8の間において、その前後と比較して機械負荷MLの減少の度合いが大きいことがわかる。
【0062】
次に、モータ10における、エアギャップAGに対する距離B1,B2の比RB1,RB2を検討する。以下の説明において、バランス部材6a,6bを備えないモータは、参考例のモータと称する。エアギャップAGに対する距離B1,B2の比RB1,RB2は、モータ10の機械負荷ML、バランス部材6a,6bを備えないモータの機械負荷ML2、モータ10のトルクとバランス部材6a,6bを備えないモータのトルクとの比TRに基づいて検討する。
【0063】
図9は、モータ10における、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離B1,B2の比RB1(B1/AG),RB2(B2/AG)、機械負荷ML、機械負荷ML2、及び、モータ10のトルクと参考例のモータのトルクとの比TRとの関係を示す表である。図10は、モータ10における、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離B2の比RB1(B1/AG),RB2(B2/AG)、機械負荷ML、機械負荷ML2、及びモータ10のトルクと参考例のモータとの比TRとの関係を示すグラフである。バランス部材6a,6bを備えないため、参考例のモータにおいて、機械負荷ML2の変化は、磁石から軸受までの距離の変化に応じる。図9において、距離の欄に「―」とあるものは、バランス部材6a,6bを備えない参考例のモータにおける機械負荷ML2とモータ10のトルクと参考例のモータのトルクとの比TRとを示している。本実施の形態では、エアギャップAGに対する距離B2の比RB1,RB2を、磁石3とバランス部材6a,6bとが接触している状態(図9における「0」)から3.5までの間における機械負荷MLを測定した。
【0064】
図9及び図10によれば、モータ10の機械負荷MLは、参考例のモータの機械負荷ML2と比較して、特に磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離B2の比RB1,RB2が1.5から2.8の間において大きく低下していることがわかる。つまり、本実施の形態において、モータ10は、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離の比RB1,RB2が1.5から2.8の間において、その前後と比較して効率が向上していることがわかる。
【0065】
また、図9及び図10によれば、モータ10は、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離の比RB1,RB2が1.5以上の領域において、モータ10のトルクと参考例のモータとの比TRが1.0以上であることがわかる。つまり、モータ10は、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離の比RB1,RB2が1.5以上の領域において、参考例のモータよりも大きなトルクを発生していることがわかる。
【0066】
図7乃至図10によれば、モータ10におけるエアギャップAGに対する磁石3から磁性部材6a,6bまでの距離の比RB1,RB2が1.5から2.8の間において、機械負荷MLが低下するとともに、参考例のモータよりも大きなトルクを発生できることがわかる。従って、モータ10において、エアギャップAGに対する磁石3からバランス部材6a,6bまでの距離の比RB1,RB2は、1.5から2.8の間に設定するのが望ましいといえる。
【0067】
以上説明したように、モータ10によれば、高速回転を実現することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係るモータ10に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0069】
1…ケース、2…シャフト、3…磁石、4a…軸受、4b…軸受、5…ステータ、6a…バランス部材、6b…バランス部材、7…ロータ、10…モータ、11…ケース本体、12…上蓋部、13…下蓋部、31…シャフト貫通孔、41a…内輪、41b…内輪、42a…外輪、42b…外輪、43a…転動体、43b…転動体、44a…内周面、44b…内周面、61a…貫通孔、61b…貫通孔、62a…面部、62b…面部、63a…孔部、63b…孔部、64a…凹部、64b…凹部、65a…凸部、65b…凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-04-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトを支持する2つの軸受と、
前記2つの軸受の間において、前記シャフトに支持された筒状の磁石および2つの部材と、
前記筒状の磁石を囲むステータと、
を備え、
前記2つの部材のうち一方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記2つの軸受のうち一方の軸受との間に配置され、
前記2つの部材のうち他方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記2つの軸受のうち他方の軸受との間に配置され、
前記2つの軸受は、磁性を有する金属で形成された転動体及び外輪を備え、
前記2つの部材は、前記筒状の磁石から発生した磁束が通過する経路を構成し、
前記シャフトの長手方向において、前記一方の部材は、前記筒状の磁石よりも前記一方の軸受に近い位置にあり、
前記シャフトの長手方向において、前記他方の部材は、前記筒状の磁石よりも前記他方の軸受に近い位置にあり、
前記シャフトの径方向において、前記一方の部材の寸法は前記一方の軸受の外輪の寸法より小さく、
前記シャフトの径方向において、前記他方の部材の寸法は前記他方の軸受の外輪の寸法より小さい、
モータ。
【請求項2】
シャフトと、
前記シャフトを支持する2つの軸受と、
前記2つの軸受の間において、前記シャフトに支持された筒状の磁石および2つの部材と、
前記筒状の磁石を囲むステータと、
を備え、
前記2つの部材のうち一方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記2つの軸受のうち一方の軸受との間にある、当該シャフトの第1の部分に支持され、
前記2つの部材のうち他方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記筒状の磁石と前記2つの軸受のうち他方の軸受との間にある、当該シャフトの第2の部分に支持され、
前記2つの軸受は、磁性を有する金属で形成された転動体及び外輪を備え、
前記2つの部材は、前記筒状の磁石から発生した磁束が通過する経路を構成し、
前記シャフトの長手方向において、当該シャフトの第1の部分は、前記筒状の磁石よりも前記一方の軸受に近い位置にあり、
前記シャフトの長手方向において、当該シャフトの第2の部分は、前記筒状の磁石よりも前記他方の軸受に近い位置にあり、
前記シャフトの径方向において、前記一方の部材の寸法は前記一方の軸受の外輪の寸法より小さく、
前記シャフトの径方向において、前記他方の部材の寸法は前記他方の軸受の外輪の寸法より小さい、
モータ。
【請求項3】
前記一方の部材は、前記シャフトの長手方向において、前記一方の軸受及び前記筒状の磁石からそれぞれ所定の距離離れている、
請求項1又は2に記載のモータ。
【請求項4】
前記一方の部材は磁性体であり、
前記他方の部材は磁性体である、
請求項1から3のいずれかに記載のモータ。