(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008358
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】導波管電力分配器
(51)【国際特許分類】
H01P 5/12 20060101AFI20240112BHJP
H01P 1/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01P5/12 E
H01P1/04
H01P5/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110167
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】尚 尓昊
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 俊也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 庸平
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 裕三
(72)【発明者】
【氏名】野呂 崇徳
【テーマコード(参考)】
5J011
【Fターム(参考)】
5J011DA05
(57)【要約】
【課題】所望・任意の位相差を設けて給電可能な導波管電力分配器を提供する。
【解決手段】断面が略横長四角形の主導波管2の長辺側の側面から、断面が略四角形で主導波管2に対して略直交して延びる給電ポート3が、主導波管2の長手方向に沿って離隔を設けて複数設けられた導波管電力分配器1であって、主導波管2の断面における長辺側の長さを幅寸法とし、隣接する給電ポート3、3間における幅寸法のうち少なくともいずれかを、他の部分の幅寸法と異なる寸法にすることで、当該隣接する給電ポート3、3間において所望の位相差が生じるようになっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が略横長四角形の主導波管の長辺側の側面から、断面が略四角形で前記主導波管に対して略直交して延びる給電ポートが、前記主導波管の長手方向に沿って離隔を設けて複数設けられた導波管電力分配器であって、
前記主導波管の断面における長辺側の長さを幅寸法とし、隣接する給電ポート間における前記幅寸法のうち少なくともいずれかを、他の部分の前記幅寸法と異なる寸法にすることで、当該隣接する給電ポート間において所望の位相差が生じるようになっている、
ことを特徴とする導波管電力分配器。
【請求項2】
前記給電ポートに、前記給電ポートに接続される外部部材との間での電波漏れを抑制するための二重管状のチョーク部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の導波管電力分配器。
【請求項3】
前記主導波管は、電力が供給される基端部が折り曲げられ、全体が略L字状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の導波管電力分配器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波、ミリ波帯などにおける電力の分配、合成に用いられる導波管電力分配器に関する。
【背景技術】
【0002】
導波管を分岐させて電力分配を行うための導波管電力分配器が従来から使用され(例えば、特許文献1等参照。)、複数のスロット導波管が上下方向に配設されたレーダアンテナに適用する場合に、
図8に示すような導波管電力分配器201が従来使用されていた。この導波管電力分配器201は、断面が略四角形で上下方向に延びる主導波管202の側面から、断面が略四角形で横方向に延びる給電ポート203が複数設けられている。また、主導波管202の幅寸法(給電ポートが延びる方向と略直交する方向の長さ)が全長にわたって同寸法で、給電ポート203の断面が全長にわたって同寸法となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の導波管電力分配器201は、主導波管202の幅寸法が全長にわたって同寸法であるため、同位相あるいは逆位相での給電は可能であるが、所望・所定の位相差を設けて給電することができない。この結果、給電位相を調整してサイドローブを制御・抑制することができない。
【0005】
そこで本発明は、所望・任意の位相差を設けて給電可能な導波管電力分配器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、断面が略横長四角形の主導波管の長辺側の側面から、断面が略四角形で前記主導波管に対して略直交して延びる給電ポートが、前記主導波管の長手方向に沿って離隔を設けて複数設けられた導波管電力分配器であって、前記主導波管の断面における長辺側の長さを幅寸法とし、隣接する給電ポート間における前記幅寸法のうち少なくともいずれかを、他の部分の前記幅寸法と異なる寸法にすることで、当該隣接する給電ポート間において所望の位相差が生じるようになっている、ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の導波管電力分配器において、前記給電ポートに、前記給電ポートに接続される外部部材との間での電波漏れを抑制するための二重管状のチョーク部が設けられている、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の導波管電力分配器において、前記主導波管は、電力が供給される基端部が折り曲げられ、全体が略L字状に形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、隣接する給電ポート間における主導波管の幅寸法のうち少なくともいずれかが、他の部分の幅寸法と異なる寸法に設定され、この隣接する給電ポート間において所望の位相差が生じるようになっているため、所望・任意の位相差を設けて給電することが可能となる。すなわち、隣接する給電ポート間の距離がすべて同じであっても、所望の位相差を設けて給電することが可能となる。この結果、給電位相を調整してサイドローブを制御・抑制することが可能となる。しかも、主導波管の一部の幅寸法を変える(調整する)だけでよく、大きな構造変更や部材・要素の追加などを要しないため、構成が簡易で、低コスト化を図ることが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、給電ポートに電波漏れを抑制するためのチョーク部が設けられているため、給電ポートにアンテナなどの外部部材を接続した際に、外部部材との間での電波漏れを抑制(電波漏れによる影響を軽減)することが可能となる。しかも、チョーク部が二重管状なだけであるため、構成が簡易で、低コスト化を図ることが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、主導波管の基端部が折り曲げられ、全体が略L字状に形成されているため、導波管電力分配器全体の高さを低く抑えることが可能となる。この結果、例えば、レーダアンテナに適用した場合に、レドームの高さを低く抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る導波管電力分配器を示す第1の斜視図(a)と第2の斜視図(b)である。
【
図2】この発明の実施の形態2に係る導波管電力分配器を示す第1の斜視図(a)と第2の斜視図(b)である。
【
図3】
図2の導波管電力分配器を縦方向に半割りした状態を示す斜視図(a)と正面図(b)である。
【
図4】レーダアンテナのスロット導波管の端部を示す拡大図(a)と、この端部に
図2の導波管電力分配器を接続した状態を示す図(b)である。
【
図5】
図2の導波管電力分配器をレーダアンテナのスロット導波管の端部に接続した状態を示す拡大図である。
【
図6】スロット導波管の端部に
図2の導波管電力分配器が接続されたレーダアンテナにおいて、レドームが取り付けられた状態を示す図(a)と、レドーム内の状態を示す拡大図(b)である。
【
図7】
図2の導波管電力分配器を備えるレーダアンテナと従来のレーダアンテナの放射特性を示す図である。
【
図8】従来の導波管電力分配器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係る導波管電力分配器1を示す第1の斜視図(a)と第2の斜視図(b)である。この導波管電力分配器1は、マイクロ波、ミリ波帯などにおける電力の分配、合成に用いられる導波管型の電力分配器であり、主として、主導波管2と複数の給電ポート3を備える。ここで、この実施の形態では、給電ポート3を3つ備える場合について主として以下に説明するが、2つまたは4つ以上備えてもよい。
【0015】
主導波管2は、断面が略横長四角形(対向する長辺と短辺からなる長方形)の方形導波管であり、一端側が開口し、他端側が閉塞している。この主導波管2の長辺側の一側面(広い壁面)から3つ給電ポート3が設けられている。すなわち、給電ポート3は、断面が略四角形の管状体・導波管で、主導波管2の長手方向に対して略直交して延びている。このような給電ポート3が主導波管2の長手方向に沿って、所定の間隔を隔てて3つ設けられ、主導波管2と各給電ポート3は、貫通・連通している。
【0016】
そして、主導波管2の断面における長辺側の長さ(広い壁面の幅)を幅寸法とした場合、隣接する給電ポート3、3間における幅寸法のうち少なくともいずれかが、他の部分の幅寸法と異なる寸法に設定されている。すなわち、電力が供給される主導波管2の開口端(基端部の開口端)から最も近い給電ポート3を第1の給電ポート31、次に近い給電ポート3を第2の給電ポート32、最も遠い給電ポート3を第3の給電ポート33とする。そして、主導波管2の開口端と第1の給電ポート31との間である第1の主管部(基端部)21の幅寸法を第1の幅寸法D1、第1の給電ポート31と第2の給電ポート32の間である第2の主管部22の幅寸法を第2の幅寸法D2、第2の給電ポート32と第3の給電ポート33の間である第3の主管部23の幅寸法を第3の幅寸法D3とする。
【0017】
この場合に、この実施の形態では、第1の幅寸法D1および第2の幅寸法D2が同寸法で、第3の幅寸法D3が第1の幅寸法D1および第2の幅寸法D2よりも小さく設定されている。そして、このように第3の幅寸法D3を小さくすることで、当該隣接する給電ポート3、3間、つまり、第2の給電ポート32と第3の給電ポート33において所望の位相差が生じるようになっている。換言すると、第2の給電ポート32と第3の給電ポート33において所望の位相差が生じるように、第3の幅寸法D3が第1の幅寸法D1および第2の幅寸法D2よりも小さく設定されている。
【0018】
すなわち、方形導波管の内面の長辺の寸法(幅寸法)をD、管内波長をλgとすると、次の数式が成り立つ。
【数1】
λ=C/f:自由空間波長
λc=C/fc=2×D:方形導波管がTE10モードのときの導波管カットオフ波長
C:光速=2.99792458×10
8(m/sec)
f:周波数(Hz)
fc:導波管カットオフ周波数(Hz)
【0019】
そして、第1の給電ポート31と第2の給電ポート32との位相差Δφ1、第2の給電ポート32と第3の給電ポート33との位相差Δφ2は、次のように算出される。
Δφ1=λg2/λg1×180°
Δφ2=λg3/λg1×180°
λg1:第1の主管部21の管内波長λg(λc=2×D1)
λg2:第2の主管部22の管内波長λg(λc=2×D2)
λg3:第3の主管部23の管内波長λg(λc=2×D3)
従って、所望の位相差Δφ1、Δφ2が生じるように、幅寸法D1、D2、D3を算出、設定すればよい。
【0020】
ここで、幅寸法とは、主導波管2の内側の寸法であり、主導波管2の肉厚が全体にわたって同じ場合、第3の幅寸法D3が小さいということは、内側および外側の寸法が小さいことを意味する。また、この実施の形態では、第1の幅寸法D1および第2の幅寸法D2が同寸法であるが、第1の給電ポート31と第2の給電ポート32において所望の位相差が生じるようにしたい場合には、さらに第2の幅寸法D2を第1の幅寸法D1と異なる寸法に設定する。
【0021】
また、第1の給電ポート31と第2の給電ポート32との距離・間隔と、第2の給電ポート32と第3の給電ポート33との距離は、同寸法となっている。さらに、主導波管2の厚み(断面における短辺側の長さ)は、第1の主管部21が最も大きく、第2の主管部22が次に大きく、第3の主管部23が最も小さく設定され、所望の特性が得られるようになっている。
【0022】
このような構成の導波管電力分配器1によれば、隣接する給電ポート3、3間における主導波管2の幅寸法のうち少なくともいずれかが、他の部分の幅寸法と異なる寸法に設定され、この隣接する給電ポート3、3間において所望の位相差が生じるようになっているため、所望・任意の位相差を設けて給電することが可能となる。すなわち、主導波管2の一部の幅寸法を変える(調整する)ことで、主導波管2の管内波長を制御・調整することが可能で、隣接する給電ポート3、3間の距離がすべて同じであっても、所望の位相差を設けて給電することが可能となる。この結果、後述するように、給電位相を調整してサイドローブを制御・抑制することが可能となる。しかも、主導波管2の一部の幅寸法を変える(調整する)だけでよく、大きな構造変更や部材・要素の追加などを要しないため、構成が簡易で、低コスト化を図ることが可能となる。
【0023】
(実施の形態2)
図2は、この実施の形態に係る導波管電力分配器10を示す第1の斜視図(a)と第2の斜視図(b)であり、
図3は、導波管電力分配器10を縦方向に半割りした状態を示す斜視図(a)と正面図(b)である。この実施の形態では、給電ポート3にチョーク部31が設けられ、第1の主管部(基端部)21が折り曲げられている点で実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0024】
各給電ポート3には、給電ポート3に接続される外部部材との間での電波漏れを抑制するための二重管状のチョーク部31が設けられている。すなわち、外部部材に挿入・接続される給電ポート3の先端部32よりも主導波管2側において、給電ポート3の周りを囲むような空洞状のチョーク部(環状の空洞)31が設けられ、これにより、電磁波を絞って外部に漏れ出ないようになっている。換言すると、このチョーク部31の形状、位置は、電磁波が外部に漏れ出ないように設定されている。
【0025】
また、主導波管2の内部は、電力が供給される第1の主管部21が折り曲げられ、全体が略L字状に形成されている。すなわち、第1の主管部21が、第1の給電ポート31側から半円を描くように曲げられ、その後、第1の給電ポート31から第2の給電ポート32までの主導波管2に対して略直交して延びるように形成されている。
【0026】
ここで、この実施の形態では、
図4~
図6に示すように、給電ポート3に接続される外部部材が、レーダアンテナ101のスロット導波管102となっている。このスロット導波管102は、断面が略四角形の筒状体で、前面部にスロット・長孔が長手方向に沿って複数形成され、このようなスロット導波管102が複数(この実施の形態では、3つ)、略水平に延び所定の間隔を隔てて上下に配設されている。
【0027】
そして、3つのスロット導波管102の端部にそれぞれ、給電ポート3の先端部32を挿入することで、スロット導波管102と導波管電力分配器10が接続される。また、この状態でレドーム103を取り付けることで、スロット導波管102と導波管電力分配器10がレドーム103内に収容されたレーダアンテナ101となる。
【0028】
このように、この実施の形態によれば、各給電ポート3に電波漏れを抑制するためのチョーク部31が設けられているため、給電ポート3にレーダアンテナ101などの外部部材を接続した際に、外部部材との間での電波漏れを抑制(電波漏れによる影響を軽減)することが可能となる。しかも、チョーク部31が二重管状なだけであるため、構成が簡易で、低コスト化を図ることが可能となる。
【0029】
また、主導波管2の第1の主管部21が折り曲げられ、全体が略L字状に形成されているため、導波管電力分配器10全体の高さを低く抑えることが可能となる。この結果、例えば、レーダアンテナ101に適用した場合に、レドーム103の高さを低く抑えることが可能となる。
【0030】
また、実施の形態1と同様に、主導波管2の一部の幅寸法を変える(調整する)ことで、所望の位相差を設けて給電することが可能で、この結果、給電位相を調整してサイドローブを制御・抑制することが可能となる。例えば、従来のように180°の位相差で給電する場合、放射特性(垂直面指向性)が
図7中の特性カーブL1のようになる。これに対して、本導波管電力分配器10において160°の位相差で給電する場合、
図7中の特性カーブL2のようになり、特性カーブL1に比べてサイドローブ(ファーストローブ)を抑制することが可能となる。
【0031】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態2では、給電ポート3に接続される外部部材がスロット導波管102の場合について説明したが、その他の部材であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1、10 導波管電力分配器
2 主導波管
21 第1の主管部(基端部)
22 第2の主管部
23 第3の主管部
3 給電ポート
31 チョーク部
32 先端部
101 レーダアンテナ(外部部材)
102 スロット導波管
103 レドーム
D1 第1の幅寸法
D2 第2の幅寸法
D3 第3の幅寸法