(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083594
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/08 20060101AFI20240614BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240614BHJP
B60C 11/01 20060101ALI20240614BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20240614BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B60C9/08 N
B60C11/00 F
B60C11/01 A
B60C9/18 G
B60C9/18 N
B60C11/00 D
B60C9/00 J
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066344
(22)【出願日】2024-04-16
(62)【分割の表示】P 2019214588の分割
【原出願日】2019-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 寿人
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亘男
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 洋
(57)【要約】
【課題】耐偏摩耗性能を改善したタイヤを提供すること。
【解決手段】タイヤ平面透視で、第2のベルト層(26c)に含まれるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を正の傾斜角度とし、タイヤ子午断面視で、最大ベルト幅を有するベルト層(26b)のタイヤ幅方向端部からカーカス(24)への垂線とタイヤ径方向最外側のカーカス層(24a)のコードとの交点を第1の基準点(P1)とした場合に、タイヤ平面透視で、第1の基準点でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が-3°以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一枚のカーカス層からなるカーカスと、コードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の一方側に延在する第1のベルト層と前記第1のベルト層のタイヤ径方向外側に位置してコードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の他方側に延在する第2のベルト層とを含むベルトと、を備えるタイヤであって、
タイヤ平面透視で、前記第2のベルト層に含まれるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を正の傾斜角度とし、
タイヤ子午断面視で、最大ベルト幅を有するベルト層のタイヤ幅方向端部から前記カーカスへの垂線とタイヤ径方向最外側のカーカス層のコードとの交点を第1の基準点とした場合に、
タイヤ平面透視で、前記第1の基準点でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が-3°以上である、ことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
タイヤ平面透視で、前記第1の基準点でのカーカスのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度の絶対値が、前記第1のベルト層のコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度の絶対値と、前記第2のベルト層のコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度の絶対値と、の平均値以下である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
タイヤ子午断面視で、タイヤ赤道面から、前記第1の基準点とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、前記第1の基準点からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.1Trの点を第2の基準点とし、前記第1の基準点からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.1Trの点を第3の基準点とした場合に、
タイヤ平面透視で、タイヤ径方向最外側のカーカス層について、少なくとも前記第2の基準点から前記第3の基準点までのタイヤ幅方向領域での、コードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が、-3°以上10°以下である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
タイヤ子午断面視で、タイヤ赤道面から、前記第1の基準点とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、前記第1の基準点からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.1Trの点を第2の基準点とした場合に、
タイヤ平面透視で、タイヤ径方向最外側のカーカス層について、タイヤ赤道面を境界としてタイヤ幅方向一方側の第2の基準点と他方側の第2の基準点との間のタイヤ幅方向領域でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が、前記2つの第2の基準点のタイヤ幅方向位置でのコードのタイヤ幅方向に対するコード傾斜角度のそれぞれの平均値に対して、-3°以上3°以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
タイヤ子午断面視で、タイヤ赤道面から、前記第1の基準点とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、前記第1の基準点からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.1Trの点を第3の基準点とし、さらにタイヤ径方向最外側のカーカス層の最大幅位置を第4の基準点とした場合に、
タイヤ平面透視で、タイヤ径方向最外側のカーカス層について、タイヤ赤道面を境界とした各側における前記第3の基準点から前記第4の基準点までのタイヤ幅方向領域でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が、タイヤ赤道面を境界とした各側における前記第3の基準点のタイヤ幅方向位置でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度に対して、-3°以上3°以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
タイヤ子午断面視で、タイヤ赤道面から、前記第1の基準点とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、前記第1の基準点からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.1Trの点を第2の基準点とし、前記第1の基準点からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.1Trの点を第3の基準点とし、さらにタイヤ径方向最外側のカーカス層の最大幅位置を第4の基準点とした場合に、
タイヤ平面透視で、タイヤ径方向最外側のカーカス層について、タイヤ赤道面を境界としてタイヤ幅方向一方側の第2の基準点と他方側の第2の基準点との間のタイヤ幅方向領域でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度の平均値が、タイヤ赤道面を境界としたタイヤ幅方向各側において、前記第3の基準点から前記第4の基準点までのタイヤ幅方向領域におけるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度の平均値に対して、-10°以上10°以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第1の基準点からタイヤ径方向に沿ったトレッド表面までの寸法Twが、50mm以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
タイヤ子午断面視で、タイヤ赤道面から、前記第1の基準点とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとした場合に、
前記トレッド表面位置からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.3Trの位置から、前記トレッド表面位置からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.3Trの位置まで、のタイヤ幅方向領域において、溝が形成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
タイヤ子午断面視で、前記トレッド表面位置のタイヤ幅方向外側において開口端とするように、タイヤ周方向に延在する細溝が形成され、
タイヤ赤道面から前記トレッド表面位置までのタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとした場合に、
前記トレッド表面位置のタイヤ幅方向内側のタイヤプロファイルをタイヤ幅方向外側に延長したトレッド表面位置延長線とした場合に、前記細溝の溝底からトレッド表面位置延長線SSへの垂線の足までの寸法Hと、前記細溝の溝底から最も幅の広い前記交差ベルト層のタイヤ幅方向端部までの寸法Cと、前記細溝の溝底から前記第1の基準点までの寸法Dとが、
1.0≦H/C≦2.0 及び 0.5≦H/D≦1.5
をそれぞれ満たし、
前記第1のベルト層と前記第2のベルト層のうち、幅の広いベルト層のプロファイルに沿った寸法が、0.80Tr以上1.20Tr以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記トレッド部を構成するトレッドゴムの破断伸びが300%以上である、請求項1から9のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記カーカス層を構成するコードがスチールコードである、請求項1から10のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項12】
正規内圧が500kPa以上である、請求項1から11のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐偏摩耗性能を改善したタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前輪タイヤについては、トレッド部のショルダー領域の偏摩耗が問題となっており、トレッド形状やトレッドパターンの適正化によって、当該偏摩耗の抑制対策がなされてきた。
【0003】
トレッド部の偏摩耗は、走行中に発生するタイヤ横力の他、タイヤ製造過程等において生ずるタイヤ内部構造の歪みが主な原因である。
【0004】
タイヤ内部構造の歪とは、タイヤ製造時やインフレート時にタイヤ構成要素に歪が生ずることをいい、これにより当該歪がトレッドに伝播し、トレッド自体にも歪が生ずることとなる。タイヤ内部構造の歪は、主に、タイヤ製造時及びインフレート時における、カーカスコードのずれや、ベルトコードのずれに起因する。
【0005】
カーカスについては、タイヤ製造時(グリーンタイヤ成型時及び加硫時)にカーカスコードの延在方向が変化し、インフレート時にこのコードに張力がかかることにより、タイヤ周方向側に変形し、せん断歪が発生し、これらの一連の現象によって当該歪がトレッドに伝播する。
【0006】
また、ベルトについては、インフレート時に交差したベルトの端部でせん断歪が発生し、当該歪がトレッドに伝播する。
【0007】
耐偏摩耗性能を向上させる技術としては、例えば、4枚のベルトプライのうち、カーカスから外周に向けて第2及び第3番目となるベルトプライコードを、タイヤ軸に対して互いに逆方向に傾斜して交差させるとともに、第2及び第3番目のベルトプライのタイヤ周方向に対する傾斜角度について、タイヤ赤道における角度よりもベルト端における角度の方を小さくした、タイヤが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された技術は、ベルトコードの角度等を特定して耐摩耗性能の向上等を図るものであるが、上述のとおり、タイヤ内部構造の歪には、ベルトコードによるせん断歪の他、カーカスコードの延在方向についてのバラツキ等も影響する。このため、特許文献1に開示された技術については、ベルトコード以外のタイヤ構成部材について改良の余地がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、耐偏摩耗性能を改善したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタイヤは、少なくとも一枚のカーカス層からなるカーカスと、コードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の一方側に延在する第1のベルト層と上記第1のベルト層のタイヤ径方向外側に位置してコードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の他方側に延在する第2のベルト層とを含むベルトと、を備え、タイヤ平面透視で、上記第2のベルト層に含まれるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を正の傾斜角度とし、タイヤ子午断面視で、最大ベルト幅を有するベルト層のタイヤ幅方向端部から上記カーカスへの垂線とタイヤ径方向最外側のカーカス層のコードとの交点を第1の基準点とした場合に、タイヤ平面透視で、上記第1の基準点でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度が-3°以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るタイヤでは、ベルト層と隣り合うタイヤ径方向最外側のカーカス層のカーカスコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度について改良を加えている。その結果、本発明に係るタイヤによれば、耐偏摩耗性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るタイヤを示す一部断面斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の点P1におけるカーカスコードの延在方向について説明する一部断面斜視図である。
【
図3】
図3は、タイヤ幅方向に対するカーカスコード角度とカーカスのタイヤ幅方向位置との関係を示す図であり、(a)は本発明の実施形態に係る例を示し、(b)は従来例を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る、タイヤ幅方向に対するカーカスコード角度とカーカスのタイヤ幅方向位置との関係のバリエーションを示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るタイヤを示すタイヤ子午断面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すタイヤのトレッド部からショルダー部にかけての領域を拡大して示すタイヤ子午断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るタイヤの実施形態(以下に示す、基本形態及び付加的形態1から11)を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。また、当該実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、当該実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
【0015】
[基本形態]
以下に、本発明に係るタイヤについて、その基本形態を説明する。以下の説明において、タイヤ径方向とは、タイヤの回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、上記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。さらに、タイヤ幅方向とは、上記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から離れる側をいう。なお、タイヤ赤道面とは、タイヤの回転軸に直交するとともに、タイヤのタイヤ幅の中心を通る平面である。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るタイヤを示す一部断面斜視図であり、より具体的には、タイヤ赤道面CLを境界としたタイヤ幅方向一方側のトレッド部10等を示す図である。また、本発明の実施形態においては、
図1に示されていないタイヤ赤道面CLを挟んだタイヤ幅方向逆側のトレッド部については、
図1に示されているトレッド部(
図1から判断可能な構成要素に関してであって、カーカスコード角度及びベルトコード角度に関しては考慮しない)と鏡面対称の関係とすることができるが、必ずしも鏡面対称になっている必要はない。
【0017】
本明細書において、正規リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、又はETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、又はETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。
【0018】
図1に示すタイヤのトレッド部10は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、タイヤのタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面がタイヤの輪郭となる。トレッド部10の表面は、タイヤを装着する車両(図示せず)が走行した際に路面と接触する面であるトレッド表面12として形成されている。同図に示す例では、タイヤ赤道面CLの片側において、2本の周方向主溝14、16によって、3つの陸部18、20、22が区画形成されている。
【0019】
図1に示すタイヤでは、少なくとも一枚のカーカス層24aからなるカーカス24と、カーカス24のタイヤ径方向外側に位置する、4枚のベルト層26a、26b、26c、26dからなるベルト26と、が形成されている。なお、
図1においては、カーカス24、ベルト26のいずれについても、コードは記載していない。
【0020】
4枚のベルト層26a~26dのうち、タイヤ径方向内側から2枚目のベルト層26bは、コードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の一方側に延在している。また、タイヤ径方向内側から3枚目のベルト層26cは、コードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の他方側に延在している。即ち、ベルト層26bのコード延在方向とベルト層26cのコード延在方向は、タイヤ平面透視で互いに交差する。なお、以下では、ベルト層26bとベルト層26cのようなコード延在方向の関係を有し、かつ、タイヤ径方向において隣り合う2枚のベルト層同士を、互いに、「交差ベルト層」と称することがある。
【0021】
ここで、ベルト層26b及びベルト層26cのコードのタイヤ周方向との傾斜角度は、10°以上45°以下とすることができる。なお、この傾斜角度は、タイヤ平面透視でタイヤ周方向に対してタイヤ幅方向の一方側の角度であっても他方側の角度であってもよい。ベルトコードの傾斜角度は、以下のように決定する。即ち、まずタイヤX線装置などによりコードの延在状態を撮影し、コードの特定領域を複数の小領域に分割する。この分割された小領域のタイヤ幅方向寸法は0.01mm以上10mm以下とする。次に、各小領域におけるタイヤ幅方向の両端点における座標から角度を求めて、その小領域における傾斜角度とする。最後に、各小領域において算出された傾斜角度を、それらの小領域の数を加味して平均化することにより、上記特定領域におけるベルトコードの傾斜角度を決定する。
【0022】
これに対し、4枚のベルト層26a~26dのうち、タイヤ径方向内側から1枚目のベルト層26aと4枚目のベルト層26dは、コードがタイヤ幅方向内側から外側に向けてタイヤ周方向の一方側に延在していても、他方側に延在していてもよい。
【0023】
ここで、ベルト層26aのコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、ベルト層26aのタイヤ径方向内側に存在するカーカスコードに起因するタイヤ内部構造の歪と、ベルト層26aのタイヤ径方向外側に存在する交差ベルト26b、26cに起因するタイヤ内部構造の歪、との双方を小さくするような傾斜角度とすることが肝要である。このような観点から、ベルト層26aのコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、隣り合うベルト層26bとタイヤ周方向に対してタイヤ幅方向の同じ側に延在し、かつ、タイヤ周方向に対し約60°とすることができる。
【0024】
これに対し、ベルト層26dのコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、ベルト層26dのタイヤ径方向内側に存在する交差ベルト26b、26c同士の間でせん断歪を発生させないような傾斜角度とすることが肝要である。このような観点から、ベルト層26dのコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、隣接するベルト層26cとタイヤ周方向に対して幅方向の同じ側に延在し、かつ、タイヤ周方向に対し約20°とすることができる。
【0025】
次に、
図1において、ベルト層26cに含まれるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を正の傾斜角度とした場合に、最大ベルト幅(タイヤ幅方向寸法)を有するベルト層26bのタイヤ幅方向端部Xからカーカスに向けて垂線を下ろし、その垂線のカーカス24(具体的には、タイヤ径方向最外側に位置するカーカス層24aのコード)との交点を第1の基準点P1とする。
【0026】
このような前提の下、本発明の実施形態に係るタイヤでは、タイヤ平面透視で、第1の基準点P1でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度(以下、傾斜角度1(°)と称する場合がある)が-3°以上である。
【0027】
ここで、平面透視における傾斜角度1は、実際には、タイヤX線装置などによりカーカスコードの延在状態を撮影し、この撮影画像における上記基準点P1を含む領域の両端の座標から角度を算出し、決定する。この領域のタイヤ幅方向寸法は0.01mm以上10mm以下とする。
【0028】
(作用等)
カーカスのタイヤ径方向外側に少なくとも交差ベルト層(タイヤ平面透視で、ベルトコードが互いに交差し、かつ、タイヤ径方向において隣接する2枚のベルト層)を備えるベルトを形成した場合には、タイヤ製造時に延在方向が変化したカーカスコードに関し、インフレート時に張力がかかってタイヤ周方向に変形することでせん断歪を発生し、当該歪がトレッドまで伝播する。また、ベルトコードに関しては、インフレート時に交差したベルト端部にせん断歪が生じ、当該せん断歪もトレッドまで伝播する。
【0029】
このように、カーカスコードやベルトコードが、タイヤ製造時やインフレート時に変形することで、タイヤ内部構造に歪を生じさせ、ひいては当該歪がトレッドに伝播するところ、本発明の実施形態は、トレッドに伝播する上記の歪を、カーカスコードの延在方向に改良を加えることで抑制するものである。
【0030】
本発明の実施形態では、
図1において、最もせん断歪の発生が見込まれる最大ベルト幅を有するベルト層26bのタイヤ幅方向端部Xに効率的に影響を及ぼすように、当該端部Xに最も近い位置に存在するカーカスコードの点P1での延在方向を改良することで、トレッドの歪を抑制している。具体的には、タイヤ平面透視で、点P1でのカーカスコードのタイヤ幅方向に対する延在方向を、タイヤ径方向外側に位置する交差ベルト層26cのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を基準に、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向の同じ側とするか、或いは異なる側であっても3°という僅かにしか異ならない傾斜角度1としている。このような構成によれば、タイヤ接地回転時に、タイヤ内部構造の歪から伝播したトレッド表面における歪によって路面との接地面内に滑りを発生することを抑制することができるとともに、偏摩耗の局所的な発生を抑制することができる。従って、上記構成によれば、上述したタイヤ内部構造の歪を是正し、その結果トレッドの歪を抑制し、ひいては耐偏摩耗性能を改善することができる。
【0031】
図2は、
図1の点P1におけるカーカスコードの延在方向について説明する一部断面斜視図であり、(a)はベルト層26cに含まれるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を正の傾斜角度とした場合に、点P1におけるカーカスコードの傾斜角度が負の角度である場合を示し、(b)はベルト層26cに含まれるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を正の傾斜角度とした場合に、点P1におけるカーカスコードの傾斜角度が正の角度である場合を示す。
【0032】
本発明の実施形態では、上述のとおり、最もせん断歪の発生が見込まれる最大ベルト幅を有するベルト層に最も近いタイヤ径方向最外側のカーカス層のコードの点P1でのタイヤ幅方向に対する傾斜角度1を-3°以上としている。ここで、傾斜角度1がマイナスの角度であるとは、
図2(a)に示すように、カーカス層24aのコード延在方向が、タ交差ベルト26cのコード延在方向と、タイヤ周方向に対して逆方向であることを意味する(タイプ1)。
【0033】
これに対し、傾斜角度1がプラスの角度であるとは、
図2(b)に示すように、カーカス層24aのコード延在方向が、交差ベルト26cのコード延在方向と、タイヤ周方向に対して同方向であることを意味する(タイプ2)。
【0034】
これらタイプ1、2は、いずれも、上述した従来技術に対する効果(耐偏摩耗性能の改善)を奏するものである。
【0035】
また、上述した第1の基準点P1でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度1はその上限値を30°とすることができる。カーカスの傾斜角度は、タイヤ耐久性に及ぼす影響が大きい。プラスの傾斜角度はトレッド端の変形抑制に有利であるが、30°を超えると、カーカスのセパレーションを誘発するため、上限角度を30°に設定した。
【0036】
なお、傾斜角度1を、0°以上とした場合には、上記効果が、それぞれ、より高いレベルで奏されるため好ましく、0°超とした場合には、上記効果が、それぞれ、極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0037】
図3は、タイヤ幅方向に対するカーカスコード角度(°)とカーカスのタイヤ幅方向位置との関係を示す図である。より具体的には、
図3(a)は本発明の実施形態に係る例を示し、
図3(b)は従来例を示す。なお、同図中、点A及び点Bは、いずれも、タイヤ赤道面CLを基準としたいずれかの側に存在し、かつ、
図1に示す点P1に相当する点である。
【0038】
図3(a)に示すように、点A、Bのタイヤ幅方向位置において傾斜角度1が、-3°以上10°以下である場合には、上記効果が奏される。これに対し、
図3(b)に示すように、点A、Bのタイヤ幅方向位置において傾斜角度1が、-3°以上10°以下でない場合には、上記効果は奏されない。
【0039】
図4は、本発明の実施形態に係る、カーカスコード角度とカーカスのタイヤ幅方向位置との関係のバリエーションを示す図であり、(a)から(d)はその一例である。カーカスコード角度は、同図(a)に示すように、点A、Bの双方でプラスの角度とすることができ、同図(b)に示すように、点A、Bの双方でマイナスの角度とすることもできる。
【0040】
また、カーカスコード角度は、
図4(c)に示すように、点A、Bの双方で正負が逆となる角度とすることができ、同図(d)に示すように、カーカスのタイヤ幅方向の位置の変化に連続的に変化する角度とすることもできる。
【0041】
なお、同図(d)に示すように、カーカスコード角度が連続的に変化する場合には、インフレート時にタイヤ全体が捩れて歪が発生する可能性が低く、ひいてはサイドウォール部とトレッド部との間に歪が生じてクラックが発生することを高いレベルで抑制することができる。また、同図(d)に示すように、カーカスコード角度が連続的に変化する場合には、カーカスコードが不連続に変化する場合に比べて、インフレート時にカーカス層内において局所的な歪を防止することができる。
【0042】
以上に示す、本発明の実施形態に係るタイヤは、その全体を図示しないが、従来のタイヤと同様の子午断面形状を有する。即ち、本発明の実施形態に係るタイヤは、タイヤ子午断面視で、タイヤ径方向内側から外側に向かって、ビード部、サイドウォール部、ショルダー部及びトレッド部を有する。そして、上記タイヤは、例えば、タイヤ子午断面視で、
図1に部分的に示すように、トレッド部から両側のビード部まで延在して一対のビードコアの周りで巻回されたカーカス層を有し、上記カーカス層のタイヤ径方向外側に、上述したようなベルト層及び場合によっては(
図1には示さない)ベルトカバー層を備える。
【0043】
また、以上に示す本発明の実施形態に係るタイヤは、通常の各製造工程、即ち、タイヤ材料の混合工程、タイヤ材料の加工工程、グリーンタイヤの成型工程、加硫工程及び加硫後の検査工程等を経て得られるものである。本発明の実施形態に係るタイヤを製造する場合には、加硫用金型の内壁に、例えば、
図1に部分的に示すトレッドパターンに対応する凸部及び凹部を形成し、この金型を用いて加硫を行う。
【0044】
[付加的形態]
次に、本発明に係るタイヤの上記基本形態に対して、任意選択的に実施可能な、付加的形態1から11を説明する。
【0045】
(付加的形態1)
基本形態においては、タイヤ平面透視で、
図1に示す第1の基準点P1でのカーカス層24aのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度の絶対値が、第1のベルト層26bのコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度の絶対値と、第2のベルト層26cのコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度の絶対値と、の平均値以下であること(付加的形態1)が好ましい。本形態は、上記の所定範囲を外れた場合にカーカスのセパレーションを誘発するおそれがあるとの知見に基づくものである。なお、第1のベルト層26bのコード及び第2のベルト層26cのコードについての上記傾斜角度については、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向の一方側を正の方向とし、他方側を負の方向とする。なお、ある点(例えば、本形態での第1の基準点P1)におけるカーカスコードの傾斜角度は、タイヤX線装置などによりコードの延在状態を撮影してその点における傾斜角度を測定して決定する。
【0046】
インフレート時に、カーカスコードについてはその延在方向がタイヤ幅方向に近づくように応力が加わる一方、交差ベルトコードについてはその延在方向がタイヤ周方向に近づくように応力が加わる。このようなインフレート時の各コードの挙動を前提に、本実施形態のタイヤでは、上記構成により、ベルト端変形に起因するトレッド部のせん断変形を、カーカス変形で打ち消すことができ、耐偏摩耗性能をさらに改善することができる。
【0047】
(付加的形態2)
図1において、タイヤ赤道面CLから、第1の基準点P1とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置P1´まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、第1の基準点P1からカーカス24のプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.1Trの点を第2の基準点P2とし、第1の基準点P1からカーカス24のプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.1Trの点を第3の基準点P3とする。
【0048】
基本形態又は基本形態に付加的形態1を加えた形態においては、タイヤ平面透視で、
図1に示すタイヤ径方向最外側のカーカス層24aについて、少なくとも第2の基準点P2から第3の基準点P3までのタイヤ幅方向領域での、コードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度(以下、「傾斜角度2(°)」と称する場合がある)が、-3°以上10°以下であること(付加的形態2)が好ましい。
【0049】
付加的形態2は、カーカスコードの特定角度での延在範囲を、基本形態と比較して拡大した形態であり、
図1における第1の基準点P1のみならず、少なくとも第2の基準点P2から第3の基準点P3までのタイヤ幅方向領域においては、傾斜角度2を-3°以上10°以下とする形態である。
【0050】
傾斜角度2を-3°以上10°以下とすることで、タイヤ幅方向に対して所定の角度範囲で延在するカーカスコードの存在領域をより広く確保することができる。これにより、上記効果を奏し得る領域をより広くして、正規リムに組んで正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに向上させることができる。
【0051】
なお、傾斜角度2を、0°以上とした場合には、上記効果がより高いレベルで奏されるため好ましく、0°超とした場合には、上記効果が極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0052】
(付加的形態3)
図5は、本発明の実施形態に係るタイヤを示すタイヤ子午断面図である。なお、同図中、符号10~26、CL、Trについては、
図1に示す構成部材等と同じ構成部材等を示すものである。また、同図中、符号P11(P12)、P11´(P12´)、P21(P22)、P31(P32)、P41(P42)については、それぞれ
図1に示すP1、P1´、P2、P3、P4にそれぞれ対応する符号である。
【0053】
図5に示すように、タイヤ赤道面CLから、第1の基準点P11(P12)とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置点P11´(P12´)まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、第1の基準点P11、P12からカーカスのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.1Trの点を第2の基準点P21、P22とする。
【0054】
基本形態又は基本形態に付加的形態1、2の少なくともいずれかを加えた形態においては、タイヤ平面透視で、タイヤ径方向最外側のカーカス層24aについて、タイヤ赤道面CLを境界としてタイヤ幅方向一方側の第2の基準点P21と他方側の第2の基準点P22との間のタイヤ幅方向領域でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度(以下、傾斜角度3(°)と称する場合がある)が、2つの第2の基準点P21、P22のタイヤ幅方向位置でのコードのタイヤ幅方向に対するコード傾斜角度のそれぞれの平均値に対して、-3°以上3°以下であること(付加的形態3)が好ましい。
【0055】
付加的形態3は、2つの第2の基準点P21、P22におけるカーカスコードの傾斜角度のそれぞれの平均値を基準とした、タイヤ幅方向の特定範囲Sd1におけるカーカスコードの傾斜角度範囲を規定したものである。傾斜角度3を-3°以上3°以下とすることで、タイヤ幅方向領域Sd1におけるカーカスコードの傾斜角度の変化を抑制することができる。これにより、タイヤ内部構造の歪をさらに改善し、ひいては正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに向上させることができる。
【0056】
なお、傾斜角度3を-2°以上2°以下とした場合には、上記効果がより高いレベルで奏されるため好ましく、-1°以上1°以下とした場合には、上記効果が極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0057】
(付加的形態4)
図5に示すように、タイヤ赤道面CLから、第1の基準点P11(P12)とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置P11´(P12´)まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとするとともに、第1の基準点P11、P12からカーカス層24aのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.1Trの点を第3の基準点P31、P32とし、さらに、タイヤ径方向最外側のカーカス層24aの最大幅位置を第4の基準点P41、P42とする。
【0058】
基本形態又は基本形態に付加的形態1から3の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図5に示すように、タイヤ径方向最外側のカーカス層24aについて、タイヤ赤道面CLを境界とした各側における第3の基準点P31(P32)のタイヤ幅方向位置でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を基準とした、タイヤ赤道面CLを境界とした各側における第3の基準点P31(P32)から第4の基準点P41(P42)までのタイヤ幅方向領域Sd21(Sd22)でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度(以下、「傾斜角度4(°)」と称する場合がある)が、-3°以上3°以下であること(付加的形態4)が好ましい。
【0059】
付加的形態4は、2つの第3の基準点P31、P32のそれぞれにおけるカーカスコードの傾斜角度を基準とした、タイヤ幅方向の特定範囲Sd21、Sd22におけるカーカスコードの傾斜角度範囲を規定したものである。傾斜角度4を-3°以上3°以下とすることで、タイヤ幅方向領域Sd21、Sd22におけるカーカスコードの傾斜角度の変化を抑制することができる。これにより、タイヤ内部構造の歪をさらに改善し、ひいては正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに向上させることができる。
【0060】
なお、傾斜角度4を-2°以上2°以下とした場合には、上記効果がより高いレベルで奏されるため好ましく、-1°以上1°以下とした場合には、上記効果が極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0061】
また、付加的形態4では、タイヤ幅方向領域Sd21、Sd22のカーカスコードの延在方向を改良することで、車両走行時において特にショルダー部の変形が抑制され、ショルダー部でのタイヤ表面におけるクラック発生や、ショルダー部におけるカーカスのセパレーションを抑制することができる。
【0062】
さらに、付加的形態4では、タイヤ径方向最外側のカーカス層24aについて、タイヤ赤道面CLを境界としたタイヤ幅方向各側で、第3の基準点P31(P32)から第4の基準点P41(P42)までのタイヤ幅方向領域Sd21(Sd22)でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度を、第2の基準点P21(P22)から第3の基準点P31(P32)までのタイヤ幅方向位置でのコードのタイヤ幅方向に対するコード傾斜角度の平均値に対して、-3°以上3°以下とすることがさらに好ましい。このような形態によれば、第2の基準点から第4の基準点までのより広範囲にわたり、タイヤ内部構造の歪をさらに改善し、ひいては正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに向上させることができる。
【0063】
なお、第2の基準点P21(P22)から第3の基準点P31(P32)までのタイヤ幅方向位置でのコードのタイヤ幅方向に対するコード傾斜角度の平均値は、以下のように決定する。即ち、まずタイヤX線装置などによりカーカスコードの延在状態を撮影し、カーカスコードの上記基準点間の領域を複数の小領域に分割する。この分割された小領域のタイヤ幅方向寸法は0.01mm以上10mm以下とする。次に、各小領域におけるタイヤ幅方向の両端点における座標から角度を求めて、その小領域における傾斜角度とする。最後に、各小領域において算出された傾斜角度を、それらの小領域の数を加味して平均化することにより、上記基準点間におけるカーカスコードの傾斜角度を決定する。本形態のように、ある範囲を持った領域でのカーカスコードの傾斜角度の決定は、以上のとおりである。本形態では第2の基準点P21(P22)から第3の基準点P31(P32)までの領域を傾斜角度算出対象領域としているが、例えば第3の基準点P31(P32)から第4の基準点P41(P42)までの領域を傾斜角度算出対象領域とする場合等についても同様の傾斜角度決定方法を採用するものとする。
【0064】
(付加的形態5)
図5に示すように、タイヤ赤道面CLから、第1の基準点P11(P12)とタイヤ幅方向位置が同じトレッド表面位置P11´(P12´)まで、のタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとともに、第1の基準点P11(P12)からカーカス層24aのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.1Trの点を第2の基準点P21(P22)とし、第1の基準点P11(P12)からカーカス層24aのプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.1Trの点を第3の基準点P31(P32)とし、さらにタイヤ径方向最外側のカーカス層24aの最大幅位置を第4の基準点P41(P42)とする。
【0065】
基本形態又は基本形態に付加的形態1から4の少なくともいずれかを加えた形態においては、タイヤ平面視で、
図5に示すタイヤ径方向最外側のカーカス層24aについて、第3の基準点P31(P32)から第4の基準点P41(P42)までのタイヤ幅方向領域Sd21(Sd22)におけるコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度の平均値を基準とした、タイヤ赤道面CLを境界としてタイヤ幅方向一方側の第2の基準点P21と他方側の第2の基準点P22との間のタイヤ幅方向領域Sd1でのコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度の平均値(以下、「傾斜角度5(°)」と称する場合がある)が、タイヤ赤道面CLを境界としたタイヤ幅方向各側において、-10°以上10°以下であること(付加的形態5)が好ましい。
【0066】
傾斜角度5を-10°以上10°以下とすることで、両サイドウォール部間において、タイヤ内部構造の歪をさらに改善し、ひいては正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに向上させることができる。これにより、車両走行時において特にトレッド部とサイドウォール部との間においてカーカス層24aのコード角度の変化を過度に大きくすることなく、これらの部位の結合部であるショルダー部の変形が抑制され、ショルダー部でのタイヤ表面におけるクラック発生や、ショルダー部におけるカーカスのセパレーションを抑制することができる。
【0067】
傾斜角度5を-9°以上9°以下とした場合には、上記効果がより高いレベルで奏されるため好ましく、-8°以上8°以下とした場合には、上記効果が極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0068】
(付加的形態6)
基本形態又は基本形態に付加的形態1から5の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1に示すように、第1の基準点P1からタイヤ径方向に沿ったトレッド表面(点P1´)までの寸法Twが、50mm以下であること(付加的形態6)が好ましい。
【0069】
インフレート時には、カーカス層24aに応力が加わることでカーカスコードの延在方向がタイヤ幅方向に近づくのに対し、交差ベルト層26b、26cに応力が加わることで交差ベルトコードの延在方向はタイヤ周方向に近き、これらのコード延在方向の変化が歪としてトレッドまでそれぞれ伝播する。付加的形態6によれば、インフレート時の、カーカスコードによるタイヤ内部構造の歪と交差ベルトコードによるタイヤ内部構造の歪のトレッドへの影響を相殺すべく、よりトレッドから遠いカーカスコードによる歪の影響をトレッドに効率的に伝播させることとし、その結果トレッドにおける歪を小さくして耐偏摩耗性能をさらに高めることができる。
【0070】
なお、寸法Twを、47mm以下とした場合には、上記効果がより高いレベルで奏されるため好ましく、44mm以下とした場合には、上記効果が極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0071】
(付加的形態7)
基本形態又は基本形態に付加的形態1から6の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図5に示すように、トレッド表面位置P11´(P12´)からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.3Trの位置から、トレッド表面位置P11´(P12´)からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.3Trの位置まで、のタイヤ幅方向領域において、溝G1(G2)が形成されていること(付加的形態7)が好ましい。
【0072】
トレッド表面位置P11´(P12´)からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.3Trの位置から、トレッド表面位置P11´(P12´)からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外側に0.3Trの位置まで、のタイヤ幅方向領域において、溝G1(G2)を形成することで、車両走行中に偏摩耗が生じ易いトレッド表面位置P11´(P12´)に付与される応力を緩和することがでる。これにより、正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに一層改善することができる。
【0073】
なお、トレッド表面位置P11´(P12´)からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向内側に0.25Trの位置から、トレッド表面位置P11´(P12´)からタイヤプロファイルに沿ってタイヤ幅方向外に0.25Trの位置まで、のタイヤ幅方向領域において、溝を形成した場合には、上記効果がより高いレベルで奏されるためさらに好ましい。
【0074】
(付加的形態8)
図6は、
図5に示すタイヤのトレッド部からショルダー部にかけての領域を拡大して示すタイヤ子午断面図である。
図6に示す例では、トレッド表面位置P12´のタイヤ幅方向外側に開口端とするように、タイヤ周方向に延在する細溝G2が形成されている。
【0075】
図6に示すように、(図示しない)タイヤ赤道面からトレッド表面位置P12´までのタイヤプロファイルに沿った寸法をTrとする。また、トレッド表面位置P12´のタイヤ幅方向内側のタイヤプロファイルをタイヤ幅方向外側に延長したトレッド表面位置延長線SS(
図6の点線を含む)とした場合に、細溝G2の溝底(溝のプロファイルのタイヤ径方向最内側位置)からトレッド表面位置延長線SSへの垂線の足までの寸法をHとする。さらに、細溝G2の溝底から最も幅の広い交差ベルト層26bのタイヤ幅方向端部Xまでの寸法をC、細溝G2の溝底から第1の基準点P1までの寸法をDとする。
【0076】
基本形態又は基本形態に付加的形態1から7の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図6に示す符号H、C、Dが1.0≦H/C≦2.0及び0.5≦H/D≦1.5をそれぞれ満たし、さらに、第1のベルト層26bと第2のベルト層26cのうち、幅の広いベルト層26bのプロファイルに沿った寸法が、0.80Tr以上1.20Tr以下であること(付加的形態8)が好ましい。
【0077】
比H/Cを1.0以上とすること及び/又は比H/Dを0.5以上とすることで、溝G2の深さを十分に確保して、トレッド表面位置P12´を含む陸部22の変形能を高めることができる。これにより、車両走行中に偏摩耗が生じ易いトレッド表面位置P12´及びその近傍に付与される応力をさらに高いレベルで緩和することができ、ひいては正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに一層改善することができる。なお、本発明の実施形態においては、トレッド表面P12´から細溝G2のタイヤ幅方向内側の開口端までのタイヤ幅方向寸法は、20mm以下とする。
【0078】
これに対し、比H/Cを2.0以下とすること及び/又は比H/Dを1.5以下とすることで、カーカス層24aのコード延在方向とベルト26のコード延在方向との改良によっても完全に取り去ることができないタイヤ内部構造の歪が細溝G2の溝底に容易に達することを回避することができる。これにより、細溝G2の溝底に歪が集中することを抑制することができ、その結果、当該溝底におけるクラック発生を抑制することができる。
【0079】
なお、比H/Cを1.1以上1.9以下とした場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるため好ましく、1.2以上1.8以下とした場合には、上記効果がそれぞれ極めて高いレベルで奏さるため極めて好ましい。同様に、比H/Dを0.6以上1.4以下とした場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるため好ましく、0.7以上1.3以下とした場合には、上記効果がそれぞれ極めて高いレベルで奏さるため極めて好ましい。
【0080】
次に、第1のベルト層26bと第2のベルト層26cのうち、幅の広いベルト層26bのプロファイルに沿った寸法を、0.80Tr以上とすることで、溝底付近の剛性を高め、細溝G2の溝底にクラックが発生することをさらに抑制することができる。
【0081】
これに対し、上記寸法を、1.20Tr以下とすることで、溝底付近の剛性を高めつつ、ベルト層26bのタイヤ幅方向を過度に大きくせずに、転がり抵抗性能、ひいては燃費性能を高めることができる。
【0082】
なお、第1のベルト層26bと第2のベルト層26cのうち、幅の広いベルト層26bのプロファイルに沿った寸法を、0.85Tr以上1.15Tr以下とした場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるため好ましく、0.90Tr以上1.10Tr以下とした場合には、上記効果がそれぞれ極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0083】
(付加的形態9)
基本形態又は基本形態に付加的形態1から8の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1、
図5、又は
図6に示すトレッド部を構成するトレッドゴムの破断伸びが300%以上であること(付加的形態9)が好ましい。ここで、破断伸びは、所定の組成物の硬化物であるトレッドゴムを特定の厚さのダンベル状試験片(例えば、ダンベル状3号形)に切り出し、JIS K6251-1993に準拠して測定、算出することができる。
【0084】
トレッドゴムの破断伸びを300%以上とすることで、トレッド表面位置P1´を含む陸部22の変形能をさらに高めることができる。これにより、車両走行中に偏摩耗が生じ易いトレッド表面位置P1´及びその近傍に付与される応力をさらに一層高いレベルで緩和することができ、ひいては正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能をさらに一層改善することができる。
【0085】
なお、トレッドゴムの破断伸びを350%以上とした場合には、上記効果が高いレベルで奏されるためより好ましく、400%以上とした場合には、上記効果が極めて高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0086】
(付加的形態10)
基本形態又は基本形態に付加的形態1から9の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1、
図5、又は
図6に示すカーカス層を構成するコードがスチールコードであること(付加的形態10)が好ましい。
【0087】
本発明の実施形態における最終目的は、正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能を改善することであり、付加的形態10も基本形態等が前提となる。基本形態により奏される上記効果(カーカスのコード延在方向の改良により、タイヤ内部構造の歪がトレッドではほぼ皆無となること、より詳細にはカーカスコードによる歪と交差ベルトコードによる歪をトレッドにおいて相殺させること)を効率的に実現するには、ベルトコードよりもトレッドから遠いカーカスコードによるタイヤ内部構造の歪をトレッドに確実に伝播させることが肝要である。
【0088】
この伝播のし易さはカーカスコードの剛性に依存するため、カーカスコードとしては有機繊維コードを使用するよりも、スチールコードを使用することが好ましい。なお、付加的形態10は、カーカスコードとしてスチールコードが多用される重荷重用タイヤを意図した形態である。
【0089】
(付加的形態11)
基本形態又は基本形態に付加的形態1~10の少なくともいずれかを加えた形態においては、
図1、
図5、又は
図6に示すタイヤの正規内圧が500kPa以上であること(付加的形態11)が好ましい。
【0090】
本発明の実施形態における最終目的は、正規内圧を付与した車両走行時における、接地端付近での耐偏摩耗性能を改善することであり、付加的形態11も基本形態等が前提となる。基本形態により奏される上記効果(カーカスのコード延在方向の改良により、タイヤ内部構造の歪がトレッドではほぼ皆無となること、より詳細にはカーカスコードによる歪と交差ベルトコードによる歪をトレッドにおいて相殺させること)を効率的に実現するには、ベルトコードよりもトレッドから遠いカーカスコードによるタイヤ内部構造の歪をトレッドに確実に伝播させることが肝要である。
【0091】
この伝播のし易さはタイヤの正規内圧に依存するため、当該正規内圧を500kPa以上とすることが好ましい。なお、付加的形態11についても、付加的形態10と同様に、タイヤの正規内圧が比較的高い重荷重用タイヤを意図した形態である。
【実施例0092】
タイヤサイズを295/75R22.5(JATMAにて規定)とし、
図1、
図5、又は
図6に示す形状の発明例1から11のタイヤ及び従来例のタイヤを作製した。なお、これらのタイヤの細部の諸条件については、以下の表1、表2に示すとおりである。なお、表1、表2中、「傾斜角度1(°)」、「傾斜角度2(°)」、「傾斜角度3(°)」、「傾斜角度4(°)」、「傾斜角度5(°)」、「比H/C」、「比H/D」については、いずれも、上述した本明細書の記載に準拠するものである。これに対し、表1、表2中、「寸法Tw(mm)」とは、
図1に示す第1の基準点P1とトレッド表面位置P1´との間の寸法を意味する。「溝の存在」とは、
図5において0.3Trで示す2つのタイヤ幅方向領域における溝の有無を意味する。「幅の広いベルト層のプロファイルに沿った寸法」とは、寸法Trに対する
図1のベルト層26bのプロファイルに沿った寸法を意味する。なお、上記の各用語に含まれる符号等については、上述した本明細書の記載に準拠するものである。
【0093】
このように作製した、発明例1から11のタイヤ及び従来例のタイヤについて、以下の要領に従い、耐偏摩耗性能についての評価を行った。
【0094】
(耐偏摩耗性能)
即ち、各供試タイヤをサイズ22.5×8.25のリムに組んで空気圧を760kPaとし、トラクターのフロント軸に装着してテスト走行し、
図1のトレッド表面位置P1´にショルダー偏摩耗が生じた際の走行距離を測定し、従来例の走行距離を100(基準)とした指数評価を行った。この結果を表1、表2に併記する。なお、この数値が大きいほど耐偏摩耗性能が優れていることを示す。
【0095】
【0096】
【0097】
表1、表2によれば、本発明の技術的範囲に属する(即ち、ベルト層に近接するタイヤ径方向最外側のカーカス層のカーカスコードのタイヤ幅方向に対する傾斜角度について改良を加えた)発明例1から発明例11のタイヤについては、いずれも、本発明の技術的範囲に属さない、従来例のタイヤに比べて、耐偏摩耗性能が改善されていることが判る。