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  • 特開-電源装置および給電方法 図1
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  • 特開-電源装置および給電方法 図3C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083609
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】電源装置および給電方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20240614BHJP
   A61N 1/362 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61B18/12
A61N1/362
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067277
(22)【出願日】2024-04-18
(62)【分割の表示】P 2022054282の分割
【原出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】平尾 卓也
(72)【発明者】
【氏名】榊 航平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】小磯 智春
(57)【要約】
【課題】利便性を向上させることが可能な電源装置等を提供する。
【解決手段】本開示の一実施の形態に係る電源装置は、複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する電源部と、複数の電極のうちの一部の電極に対して電力が供給されるように電源部を制御する制御部と、を備えている。
【選択図】図3C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための電源装置であって、
複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する電源部と、
前記複数の電極に対して前記電力が供給されるように前記電源部を制御する制御部と、を備え、
前記複数の電極が、複数の電極群にグループ化されており、
前記制御部は、前記複数の電極群ごとに前記電力が順次供給されるように前記電源部を制御する
電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電極群内に含まれる少なくとも一部の電極に対しては、前記電力が一括して供給されるように前記電源部を制御する
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電極群内に含まれる全ての電極に対して、前記電力が一括して供給されるように前記電源部を制御する
請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記電気医療デバイスは、所定の先端付近構造を有するシャフトを備えており、
前記先端付近構造が、
前記シャフトの分岐点と、
前記シャフトの最先端付近に位置する合流点と、
前記分岐点と前記合流点との間を湾曲状にて個別に繋ぐ部分であり、各々が前記電極を複数有する複数の分岐構造と
を含んでおり、
前記分岐構造ごとに配置された複数の前記電極によって、前記電極群がそれぞれ構成されている
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電力の順次供給が、繰り返して行われるように前記電源部を制御する
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項6】
不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うために、複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する給電方法であって、
前記複数の電極が、複数の電極群にグループ化されており、
前記複数の電極群ごとに前記電力を順次供給する
給電方法。
【請求項7】
不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うために、複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する給電方法であって、
前記複数の電極のうちの一部の電極に対して前記電力を供給し、
前記複数の電極のうちの残りの電極に対して前記電力を供給することを含み、
前記電力の供給は、前記電気医療デバイスに電力を供給する装置内に予め設定されている設定値に基づいてなされる
給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源装置および給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アブレーションカテーテル等の電気医療デバイスと、電源装置とを備えたアブレーションシステムが、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-500170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アブレーションシステムでは、患部に対するアブレーションの際に、利便性を向上させることが求められている。利便性を向上させることが可能な電源装置および給電方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係る電源装置は、複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する電源部と、複数の電極のうちの一部の電極に対して電力が供給されるように電源部を制御する制御部と、を備えている。
【0006】
本開示の一実施の形態に係る給電方法は、複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する給電方法であって、複数の電極のうちの一部の電極に対して電力を供給し、複数の電極のうちの残りの電極に対して電力を供給する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施の形態に係るアブレーションシステムの全体構成例を模式的に表すブロック図である。
図2図1に示したアブレーションカテーテルの概略構成例を表す模式図である。
図3A】参考例に係るアブレーション方法について説明するための模式図である。
図3B】比較例に係るアブレーション方法について説明するための模式図である。
図3C】実施例1に係るアブレーション方法について説明するための模式図である。
図4】比較例に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。
図5】実施例1に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。
図6】変形例における実施例2-1,2-2に係るアブレーション方法に適用される電極群の構成例を表す模式図である。
図7】実施例2-1に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。
図8】実施例2-2に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(不可逆電気穿孔法等を用いたアブレーションを行う場合の例)
2.変形例(複数の電極群にグループ化してアブレーションを行う場合の例)
3.その他の変形例
【0009】
<1.実施の形態>
[アブレーションシステム5の構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係るアブレーションシステム5の全体構成例を、模式的にブロック図で表している。アブレーションシステム5は、患者9の体内における患部90を治療する際に用いられるシステムであり、患部90に対して所定のアブレーションを行う。
【0010】
なお、患部90としては、例えば、不整脈等を有する患部や、癌(肝癌,肺癌,乳癌,腎臓癌,甲状腺癌など)等の腫瘍を有する患部などが、挙げられる。
【0011】
アブレーションシステム5は、アブレーションカテーテル1および電源装置3を備えている。アブレーションシステム5を用いたアブレーションの際には、例えば図1に示した対極板4も、適宜使用される。なお、本開示における「給電方法」は、本開示のアブレーションシステムにおいて具現化されるため、以下併せて説明する。
【0012】
(アブレーションカテーテル1)
アブレーションカテーテル1は、血管を通して患者9の体内に挿入され、患部90をアブレーションすることで不整脈等の治療を行うための電極カテーテルである。アブレーションカテーテル1は、アブレーションの際に所定の流体(例えば生理食塩水等の、灌注用の流体(液体))を流し出す(噴射させる)、灌注機構を有していてもよい。
【0013】
なお、アブレーションカテーテル1は、本開示における「電気医療デバイス」の一具体例に対応している。
【0014】
図2は、アブレーションカテーテル1の概略構成例を、模式的に表している。アブレーションカテーテル1は、カテーテル本体としてのシャフト11(カテーテルシャフト)と、シャフト11の基端に装着されたハンドル12とを有している。
【0015】
シャフト11は、可撓性を有する管状構造(管状部材)からなり、自身の軸方向(Z軸方向)に沿って延在している。シャフト11は、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン等の合成樹脂により構成されている。シャフト11は、1つのルーメン(細孔,貫通孔)が内部に形成された、いわゆるシングルルーメン構造を有している。あるいは、シャフト11は、複数(例えば4つ)のルーメンが内部に形成された、いわゆるマルチルーメン構造を有している。なお、シャフト11の軸方向に沿って、シングルルーメン構造からなる領域と、マルチルーメン構造からなる領域と、の双方が設けられていてもよい。ルーメンには、図示しない各種の細線(導線または操作用ワイヤ等)がそれぞれ、互いに電気的に絶縁された状態で挿通されている。
【0016】
シャフト11の先端P1付近には、先端P1付近(患部90周辺)の温度を測定するための機構(温度測定機構)が、設けられている。測定された先端P1付近の温度を示す情報(温度情報It)は、アブレーションカテーテル1から電源装置3(後述する制御部33)へと供給される(図1参照)。
【0017】
シャフト11の先端P1付近には、図2中の先端P1付近の拡大図に示したように、複数の電極111,112が設けられている。具体的には、図2の例では、3つのリング状電極(電極111)と、1つの先端電極(電極112)とが、シャフト11の軸方向(Z軸方向)に沿って、所定の間隔をおいて配置されている。詳細は後述するが、複数の電極111,112と対極板4との間の通電により、アブレーションが行われる。
【0018】
電極111はそれぞれ、シャフト11の外周面上に固定配置される。一方、電極112は、シャフト11の最先端に固定配置されている。電極111,112はそれぞれ、シャフト11のルーメン内に挿通された複数の導線を介して、ハンドル12と電気的に接続されている。電極111,112はそれぞれ、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)、金(Au)、白金(Pt)等の、電気伝導性の良好な金属材料により構成されている。アブレーションカテーテル1の使用時におけるX線に対する造影性を良好にするためには、白金またはその合金により構成されていることが好ましい。
【0019】
ハンドル12は、シャフト11の基端に装着されており、ハンドル本体121(把持部)および回転操作部122を有している。
【0020】
(電源装置3)
電源装置3は、アブレーションカテーテル1における電極111,112と対極板4との間に、アブレーションを行うための電力Poutを供給する装置である。つまり、電源装置3は、電力Poutをアブレーションカテーテル1に対して供給する。電力Poutの詳細(波形例等)については、後述する(図5)。電源装置3は、図1に示したように、入力部31、電源部32、制御部33および表示部34を有している。
【0021】
入力部31は、各種の設定値や、所定の動作を指示するための指示信号(操作信号)を入力する部分である。各種の設定値としては、例えば、電力Poutの設定電力、および、各種の閾値等が、挙げられる。操作信号は、電源装置3の操作者(例えば技師等)による操作に応じて、入力部31から入力される。ただし、各種の設定値が、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。入力部31により入力された設定値は、制御部33へと供給される。入力部31は、例えば所定のダイヤルおよびボタン、タッチパネル等を用いて構成されている。
【0022】
電源部32は、制御部33から供給される制御信号CTLに従って、電力Poutを出力する。電源部32は、所定の電源回路(例えばスイッチングレギュレータ等)を用いて構成されている。
【0023】
制御部33は、電源装置3全体を制御すると共に所定の演算処理を行い、例えばマイクロコンピュータ等を用いて構成されている。制御部33は、例えば図1に示したように、制御信号CTLを用いて、電源部32における電力Poutの供給動作を制御する。
【0024】
表示部34は、各種の情報を表示して外部へと出力する部分(モニター)である。表示部34は、各種の方式によるディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、または、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど)を用いて構成されている。
【0025】
(対極板4)
対極板4は、例えば図1に示したように、アブレーションの際に患者9の体表に装着された状態で用いられる。アブレーションの際に、アブレーションカテーテル1における電極111,112と対極板4との間で、通電が行われる(電力Poutが供給される)。
【0026】
[動作および作用・効果]
(A.基本動作)
アブレーションシステム5では、不整脈等の治療の際に、アブレーションカテーテル1のシャフト11における先端P1側が、血管を通して患者9の体内に挿入される。
【0027】
そして、シャフト11における先端P1付近の電極111,112と対極板4との間に、電源装置3から電力Poutが供給されることで、患者9の体内の患部90に対してアブレーションが行われる。この際の通電によって、患者9における治療対象の部位(処置部分)が選択的にアブレーションされ、不整脈等の経血管的治療がなされる。具体的には、例えば、RFA(Radiofrequency Ablation:高周波アブレーション)、または、PFA(Pulsed electric Field Ablation:パルス電界アブレーション)を用いて、アブレーションが行われる。
【0028】
(B.アブレーション動作の詳細について)
続いて、図3A図3C図4図5を参照して、本実施の形態のアブレーション動作(アブレーション方法)の詳細について、参考例および比較例と比較しつつ説明する。
【0029】
図3Aは、参考例に係るアブレーション方法について説明するための模式図であり、図3Bは、比較例に係るアブレーション方法について説明するための模式図である。図3Cは、本実施の形態の実施例(実施例1)に係る、アブレーション方法について説明するための模式図である。また、図4は、図3Bに示した比較例に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。図5は、図3Cに示した実施例1に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。図4図5において、横軸は時間tを示しており、縦軸は電圧(基準電位からの電位差)を示している。この点は、後述する図7図8においても、同様である。
【0030】
なお、図3A図3Cに示した例(参考例、比較例および実施例1)はいずれも、便宜上、シャフト11における4つの電極111(電極111a~111d)を用いて、患部90に対するアブレーションが行われる例となっている。また、図4図5に示した例はいずれも、上記したPFA(不可逆電気穿孔法を用いたアブレーション)の例となっている。
【0031】
(B-1.参考例)
まず、図3Aに示した参考例のアブレーション方法では、対極板4が使用されず、シャフト11上の複数の電極111a~111d同士の間に電力Poutが供給されることで(図3A中の破線の矢印参照)、患部90に対するアブレーションが行われる。つまり、参考例のアブレーション方法は、いわゆるバイポーラ型でのアブレーションとなっている。
【0032】
この参考例のアブレーション方法では、患部90に対するアブレーションの範囲が、比較的深くなる。具体的には、参考例のアブレーション方法では、アブレーションの範囲が、例えば2.1[mm]程度の深さとなる。
【0033】
(B-2.比較例)
一方、図3Bに示した比較例のアブレーション方法では、シャフト11上の複数の電極111a~111dと対極板4との間に電力Poutが供給されることで(図3B中の破線の矢印参照)、患部90に対するアブレーションが行われる。つまり、比較例のアブレーション方法は、いわゆるモノポーラ型でのアブレーションとなっている。
【0034】
具体的には、例えば図3B中の破線および図4に示したように、この比較例のアブレーション方法では、複数の電極111(111a~111d)の全てに対して、一括して電力Poutが供給される。また、例えば図4に示したように、所定の振幅値Am(例えば100~3000[V]程度)およびパルス幅Δtp(例えば1~10[μs]程度)を有するパルス波形にて、基準電位に対する正側および負側の双方に、交互に電圧が印加される。なお、図4中に示した、パルス波形間の時間間隔Δtg1,Δtg2はそれぞれ、一例として、Δtg1=1~10[μs],Δtg2=1~100[μs]程度である。そして、基準電位に対する正側および負側のパルス波形が、図4の例では、所定の周期ΔT(例えば0.1~1[s]程度)内で1周目から8周目まで繰り返されると共に、周期ΔTを単位としたアブレーション動作が繰り返される(例えば10~1000回程度の繰り返し回数)。
【0035】
この比較例のアブレーション方法(モノポーラ型の場合)では、患部90に対するアブレーションの範囲が、上記した参考例のアブレーション方法(バイポーラ型の場合)と比べ、浅くなる。具体的には、比較例のアブレーション方法では、アブレーションの範囲が、例えば0.7[mm]程度の深さとなる。このため、比較例のアブレーション方法では、アブレーションの際の利便性が、損なわれてしまうおそれがある。
【0036】
(B-3.実施例1)
これに対して、図3Cに示した実施例1のアブレーション方法では、シャフト11上の複数の電極111a~111dと対極板4との間に電力Poutが供給されることで(図3C中の破線の矢印参照)、患部90に対するアブレーションが行われる際に、以下のようになる。すなわち、上記した比較例のアブレーション方法と同様に、モノポーラ型でのアブレーションが行われる際に、実施例1では比較例とは異なり、複数の電極111(111a~111d)のうちの一部の電極111に対して、電力Poutが供給される。言い換えると、電源装置3内の制御部33は、アブレーションを行う際に、複数の電極111のうちの一部の電極111に対して電力Poutが供給されるように、電源部32を制御する。そして制御部33は、複数の電極111のうちの残りの電極111に対して電力Poutが供給されるように、電源部32を制御する。なお、この際の「残りの電極」とは、複数の電極111のうちの一部であってもよいし、全部であってもよい。
【0037】
具体的には、例えば図3C中の矢印および図5に示したように、この実施例1のアブレーション方法では、複数の電極111のうちの一部(この例では1個)の電極111に対して、電力Poutが順次供給される。つまり、例えば図5に示したように、(電極111a→電極111b→電極111c→電極111d)の順序にて、電力Poutの順次供給が行われると共に、この電力Poutの順次供給が、繰り返して行われる。なお、順次供給の際の順番については、電極111a~111dの配列順にはよらず、例えば、予め決定されたランダムな順番であってもよく、後述する変形例(実施例2-1,2-2)においても同様である。
【0038】
詳細には、例えば図5に示したように、所定の振幅値Am(例えば1000~3000[V]程度)およびパルス幅Δtp(例えば1~10[μs]程度)を有するパルス波形にて、基準電位に対する正側および負側の双方に、交互に電圧が印加される。なお、図5中に示した、パルス波形間の時間間隔Δtg1,Δtg2はそれぞれ、一例として、Δtg1=1~10[μs],Δtg2=1~10[μs]程度である。そして、基準電位に対する正側および負側のパルス波形が、図5の例では、所定の周期ΔT(例えば0.1~1[s]程度)内で1周目から8周目まで繰り返されると共に、周期ΔTを単位としたアブレーション動作が繰り返される(例えば10~1000回程度の繰り返し回数)。
【0039】
この実施例1のアブレーション方法(モノポーラ型の場合)では、患部90に対するアブレーションの範囲が、上記した比較例のアブレーション方法(モノポーラ型の場合)と比べ、深くなる。具体的には、実施例1のアブレーション方法では、アブレーションの範囲が、例えば2.7[mm]程度の深さとなる。つまり、実施例1のアブレーション方法では、比較例と同じモノポーラ型であっても、参考例のアブレーション方法の場合(バイポーラ型)と、同程度以上の深さが確保される。
【0040】
これは、比較例のアブレーション方法では、複数の電極111の全てに対して一括して電力Poutが供給されるため、アブレーションの際の電流が、複数の電極111に分散して流れる結果、アブレーションの際の電流密度が低下することに起因すると考えられる。つまり、これに対して実施例1のアブレーション方法では、複数の電極111のうちの一部の電極111に対して(選択的に)電力Poutが供給されることから、アブレーションの際の電流が一部の電極111に集中して流れる結果、比較例の場合と比べ、アブレーションの際の電流密度が増加する。これにより、実施例1では比較例と比べ、患部90に対するアブレーションの範囲が、モノポーラ型の場合においても、深くなると考えられる。
【0041】
(C.作用・効果)
このようにして本実施の形態では、複数の電極111と対極板4との間の通電によってアブレーションを行う際に、複数の電極111のうちの一部の電極111に対して電力Poutを供給するようにしたので、以下のようになる。すなわち、上記したように、患部90に対するアブレーションの範囲が、モノポーラ型の場合においても、上記比較例の場合と比べて深くなる。その結果、本実施の形態では、患部90に対するアブレーションの際に、利便性を向上させることが可能となる。
【0042】
本実施の形態では、アブレーションを行う際に、複数の電極111のうちの一部の電極111に対して、電力Poutが順次供給されるようにしたので、複数の電極111の各々の配置領域付近にて、上記したように、アブレーションの範囲を深くすることができる。その結果、アブレーションの際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0043】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例について説明する。なお、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0044】
[構成]
図6は、変形例(後述する実施例2-1,2-2)に係るアブレーション方法に適用される、アブレーションカテーテル1Aの電極群Ga~Geの構成例を、模式的に表している。
【0045】
変形例のアブレーションカテーテル1Aは、シャフト11Aの先端付近に、所定の先端付近構造6を有している。先端付近構造6は、シャフト11Aの分岐点(先端付近構造6の基端側に位置)と、シャフト11Aの最先端付近(先端チップ110付近)に位置する合流点と、これらの分岐点と合流点との間を湾曲状にて個別に繋ぐ部分である複数(この例では5個)の分岐構造61a~61eと、を含んでいる。各分岐構造61a~61eには、湾曲状の延在方向に沿って、1または複数のリング状の電極(図6の例では、4個の電極111-1~111-4)がそれぞれ、所定の間隔をおいて離間配置されている。なお、以下では便宜上、電極111-1~111-4をまとめて、適宜、電極111と称して説明する。
【0046】
なお、例えば、図6中に示した変形用ワイヤ60が、シャフト11Aの軸方向(Z軸方向)に沿って双方向に変位することで(破線の矢印d参照)、先端付近構造6の形状(いわゆる「バスケット形状」)が変化する(変形する)ように構成されていてもよい。ちなみに、「バスケット形状」とは、例えば図6に示したように、複数の分岐構造61a~61eにより形成される形状が、バスケットボールの表面上に形成された曲線状の模様に、類似した形状であることを意味している。
【0047】
なお、アブレーションカテーテル1Aは、本開示における「電気医療デバイス」の一具体例に対応している。
【0048】
[動作および作用・効果]
(A.アブレーション動作の詳細について)
続いて、図6に加えて図7図8を参照して、本変形例のアブレーション動作(実施例2-1,2-2に係るアブレーション方法)の詳細について、説明する。
【0049】
図7は、実施例2-1に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。図8は、実施例2-2に係るアブレーション方法について説明するためのタイミング図である。なお、図7図8に示した例はいずれも、前述した図4図5の場合と同様に、PFA(不可逆電気穿孔法を用いたアブレーション)の例となっている。
【0050】
まず、実施例2-1,2-2のアブレーション方法においても、前述した実施例1のアブレーション方法と同様に、複数の電極111(111-1~111-4)のうちの一部の電極111に対して、電力Poutが供給される。具体的には、以下詳述するように、実施例2-1,2-2においても実施例1と同様に、複数の電極111のうちの一部の電極111に対して、電力Poutが順次供給されると共に、この電力Poutの順次供給が、繰り返して行われる。
【0051】
また、実施例2-1,2-2のアブレーション方法ではいずれも、図6に示したように、先端付近構造6に含まれる複数の電極111が、複数の電極群(この例では、5つの電極群Ga~Ge)にグループ化されている。つまり、複数の分岐構造61a~61eごとに配置された複数の電極111(111-1~111-4)によって、電極群Ga~Geがそれぞれ構成されている。具体的には、分岐構造61a上に配置された4つの電極111によって、電極群Gaが構成され、分岐構造61b上に配置された4つの電極111によって、電極群Gbが構成され、分岐構造61c上に配置された4つの電極111によって、電極群Gcが構成されている。同様に、分岐構造61d上に配置された4つの電極111によって、電極群Gdが構成され、分岐構造61e上に配置された4つの電極111によって、電極群Geが構成されている。
【0052】
(A-1.実施例2-1)
そして、実施例2-1のアブレーション方法では、例えば図7に示したように、複数の電極群Ga~Geごとに、電力Poutが順次供給される。つまり、この例では、(電極群Ga→電極群Gb→電極群Gc→電極群Gd→電極群Ge)の順序にて、各電極群Ga~Ge内の電極111に対して、電力Poutの順次供給が行われると共に、この電力Poutの順次供給が、繰り返して行われる。また、実施例2-1のアブレーション方法では、複数の電極群Ga~Geごとに電力Poutが順次供給される際に、各電極群Ga~Ge内に含まれる少なくとも一部の電極111(この例では、各電極群Ga~Ge内に含まれる全ての電極111)に対しては、電力Poutが一括して供給される。
【0053】
詳細には、例えば図7に示したように、所定の振幅値Amおよびパルス幅Δtpを有するパルス波形にて、基準電位に対する正側および負側の双方に、交互に電圧が印加される。そして、基準電位に対する正側および負側のパルス波形が、図7の例では、所定の周期ΔT内で1周目から8周目まで繰り返されると共に、周期ΔTを単位としたアブレーション動作が繰り返される。なお、図7中に示した、実施例2-1における振幅値Am、パルス幅Δtp、パルス波形間の時間間隔Δtg1,Δtg2、周期ΔT、および、アブレーション動作の繰り返し回数の数値範囲は、例えば、前述した実施例1(図5)の場合と同程度となっており、以下説明する実施例2-2(図8)の場合も同様である。
【0054】
(A-2.実施例2-2)
一方、実施例2-2のアブレーション方法においても、基本的には実施例2-1のアブレーション方法と同様に、例えば図8に示したように、複数の電極群Ga~Geごとに、電力Poutが順次供給される。つまり、この例では、(電極群Ga→電極群Gb→電極群Gc→電極群Gd→電極群Ge)の順序にて、各電極群Ga~Ge内の電極111に対して、電力Poutの順次供給が行われると共に、この電力Poutの順次供給が、繰り返して行われる。
【0055】
ただし、この実施例2-2では実施例2-1とは異なり、複数の電極群Ga~Geごとに電力Poutが順次供給される際に、各電極群Ga~Ge内に含まれる一部の電極111に対して(この例では、各電極群Ga~Ge内に含まれる1個の電極111ごとに)、更に電力Poutが順次供給される。具体的には、例えば図6に示したように、各電極群Ga~Geに含まれる4つの電極111(電極111-1~111-4)の場合では、以下のようになる。すなわち、図8中の符号(1)~(4)にて便宜上示したように、各電極群Ga~Ge内においても、例えば、(電極111-1→電極111-2→電極111-3→電極111-4)の順序にて、各電極111に対して電力Poutの順次供給が行われると共に、この電力Poutの順次供給が、繰り返して行われる。
【0056】
詳細には、例えば図8に示したように、実施例2-1の場合と基本的には同様に、所定の振幅値Amおよびパルス幅を有するパルス波形にて、基準電位に対する正側および負側の双方に、交互に電圧が印加される。そして、基準電位に対する正側および負側のパルス波形が、図8の例では、所定の周期ΔT内で1周目から8周目まで繰り返されると共に、周期ΔTを単位としたアブレーション動作が繰り返される。
【0057】
(B.作用・効果)
本変形例においても、基本的には実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。すなわち、本変形例においても、患部90に対するアブレーションの際に、利便性を向上させることが可能となる。
【0058】
特に本変形例では、複数の電極111が複数の電極群Ga~Geにグループ化されていると共に、アブレーションを行う際に、複数の電極群Ga~Geごとに電力Poutが順次供給されるようにしたので、以下のようになる。すなわち、例えば、アブレーションによる治療の状況や用途等に応じて、適切な電極群を設定することで、アブレーションの有効性を高めることができる。その結果、本変形例では、アブレーションの際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0059】
また、アブレーションを行う際に、複数の電極群Ga~Geごとに電力Poutが順次供給されると共に、各電極群Ga~Ge内に含まれる一部(例えば1個)の電極111に対して、更に電力Poutが順次供給されるようにした場合(実施例2-2に相当)には、以下のようになる。すなわち、例えば、各電極群Ga~Ge内に含まれる少なくとも一部(例えば全て)の電極111に対して、電力Poutが一括して供給される場合(実施例2-1に相当)と比べ、アブレーションの際の電流が、各電極群Ga~Ge内においても、一部の電極111に集中して流れることになる。これにより、アブレーションの際の電流密度が更に増加することから、患部90に対するアブレーションの範囲が、更に深くなる。その結果、アブレーションの際の利便性を、より一層向上させることが可能となる。
【0060】
なお、シャフト11Aの先端付近(先端付近構造6内)における、各電極111の配置や形状、個数(1または複数個)等については、本変形例で挙げた例には限られない。また、先端付近構造6の形状についても、本変形例で説明した形状(前述したバスケット形状)には限られず、他の形状であってもよい。更に、先端付近構造6自体の構成(前述した分岐点や合流点、複数の分岐構造における、配置や形状、個数等)についても、本変形例で説明した構成例には限られず、他の構成であってもよい。
【0061】
また、本変形例では、電極群Ga~Geの構成例について具体的に説明したが、複数の電極111を含む電極群の構成は、この例には限られず、他の構成としてもよい。
【0062】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態、変形例および実施例をいくつか挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0063】
例えば、上記実施の形態等では、アブレーションシステムの全体構成を具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての装置を備える必要はなく、また、他の装置を更に備えていてもよい。具体的には、例えば上記実施の形態等では、アブレーションカテーテル(シャフト)の構成を具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。また、シャフトにおける電極の構成(リング状電極および先端電極の配置や形状、個数等)は、上記実施の形態等で挙げたものには限られない。
【0064】
上記実施の形態等で説明したアブレーションカテーテルでは、操作部の操作に応じて、シャフトの先端付近を一方向または双方向に曲げることが可能なアブレーションカテーテルであってもよい。あるいは、シャフトの先端付近の曲げ操作を行わないフィックス型のアブレーションカテーテルであってもよい。
【0065】
上記実施の形態等で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0066】
上記実施の形態等では、電気医療デバイスの具体例として、アブレーションカテーテルを挙げて説明したが、この例には限られず、他の電気医療デバイスを適用してもよい。
【0067】
上記実施の形態等では、アブレーションカテーテル上の電極と対極板との間の通電によってアブレーションを行う、モノポーラ型の例を挙げて説明したが、この例には限られない。例えば、アブレーションカテーテル上の電極と対極板との間に加えて、アブレーションカテーテル上の複数の電極間においても、通電によるアブレーションを行うようにしてもよい。
【0068】
上記実施の形態等では、アブレーション方法(給電方法)について具体的に挙げて説明したが、アブレーション方法については、上記実施の形態等で説明した手法には限られず、他の手法を用いてアブレーション動作を行うようにしてもよい。
【0069】
上記実施の形態等では、アブレーションの対象が、患者の体内における不整脈を有する患部、または、腫瘍を有する患部である場合を、例に挙げて説明したが、これらの例には限られない。すなわち、アブレーションの対象が、患者の体内の他の部位(臓器または体組織など)である場合についても、本開示のアブレーションシステムを適用することが可能である。
【0070】
上記実施の形態等で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、ソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0071】
また、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0072】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0073】
本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する電源部と、
前記複数の電極のうちの一部の電極に対して前記電力が供給されるように前記電源部を制御する制御部と
を備えた電源装置。
(2)
前記制御部は、前記複数の電極のうちの一部の電極に対して、前記電力が順次供給されるように前記電源部を制御する
上記(1)に記載の電源装置。
(3)
前記複数の電極が、複数の電極群にグループ化されており、
前記制御部は、前記複数の電極群ごとに前記電力が順次供給されるように前記電源部を制御する
上記(2)に記載の電源装置。
(4)
前記制御部は、前記電極群内に含まれる少なくとも一部の電極に対しては、前記電力が一括して供給されるように前記電源部を制御する
上記(3)に記載の電源装置。
(5)
前記制御部は、前記電極群内に含まれる全ての電極に対して、前記電力が一括して供給されるように前記電源部を制御する
上記(4)に記載の電源装置。
(6)
前記電気医療デバイスは、所定の先端付近構造を有するシャフトを備えており、
前記先端付近構造が、
前記シャフトの分岐点と、
前記シャフトの最先端付近に位置する合流点と、
前記分岐点と前記合流点との間を湾曲状にて個別に繋ぐ部分であり、各々が前記電極を複数有する複数の分岐構造と
を含んでおり、
前記分岐構造ごとに配置された複数の前記電極によって、前記電極群がそれぞれ構成されている
上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の電源装置。
(7)
前記制御部は、前記一部の電極に対する前記電力の順次供給が、繰り返して行われるように前記電源部を制御する
上記(2)ないし(6)のいずれかに記載の電源装置。
(8)
複数の電極を有する電気医療デバイスに対して電力を供給する給電方法であって、
前記複数の電極のうちの一部の電極に対して前記電力を供給し、
前記複数の電極のうちの残りの電極に対して前記電力を供給する
給電方法。
【符号の説明】
【0074】
1,1A…アブレーションカテーテル、11,11A…シャフト、110…先端チップ、111,111a~111d,111-1~111-4…電極(リング状電極)、112…電極(先端電極)、12…ハンドル、121…ハンドル本体、122…回転操作部、3…電源装置、31…入力部、32…電源部、33…制御部、34…表示部、4…対極板、5…アブレーションシステム、6…先端付近構造、60…変形用ワイヤ、61a~61e…分岐構造、9…患者、90…患部、Pout…電力、Vout…電圧、Am…振幅値、CTL…制御信号、It…温度情報、d…矢印、P1…先端、t…時間、ΔT…周期、Δtp…パルス幅、Δtg1,Δtg2…時間間隔、Ga~Ge…電極群。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8