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特開2024-83612イベルメクチンの新規な形態及びその作成プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083612
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】イベルメクチンの新規な形態及びその作成プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07H 17/08 20060101AFI20240614BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C07H17/08 L CSP
A61P33/00
A61K31/7048
A61K9/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067506
(22)【出願日】2024-04-18
(62)【分割の表示】P 2020550864の分割
【原出願日】2019-03-19
(31)【優先権主張番号】110634
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(71)【出願人】
【識別番号】315015195
【氏名又は名称】ホビオネ サイエンティア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シルバ,セルジオ
(57)【要約】
【課題】アモルファスイベルメクチンは、適切には単離された固体形態で提供され、また適切には固体分散体などの添加物または支持マトリクスを含まない。
【解決手段】
本発明はアモルファスイベルメクチンと、その薬学的に許容される担体とを有する、ヒトを含む動物用の、あるいは獣医用の医薬製剤を提供する。本発明はアモルファスイベルメクチンを組み込んだ医療デバイス、または医薬製剤を組み込んだ医療デバイスを提供する。アモルファスイベルメクチンは、特に、オンコセルカ症(河川盲目症)、フィラリア症(象皮病)、糞線虫症または毛包虫症を非限定的に含む内部線虫感染症によって引き起こされる病状の治療に使用するための薬剤として使用することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1μmから20μmの範囲の粒子寸法分布を有する複数の粒子の形態であって、前記複数の粒子の90%が4μm未満の粒子寸法を有する複数の粒子の形態であるアモルファスイベルメクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にイベルメクチン(ivermactin)の新規な形態、及びその作成プロセスに関する。新規な形態を含んだ複数の医薬製剤(Pharmaceutical formulations)、及びそれを組み込んだ複数の医療デバイス(medical devices)も開示する。新規な形態は、さまざまな病状を治療する薬剤(medicament)として使用可能である。
【0002】
本発明は、イベルメクチンの新規な安定したアモルファス形態に関し、及びイベルメクチンを適切な溶媒または溶媒の混合液に溶解し、任意に溶液を精製し、スプレードライによって本質的にアモルファスである複数の粒子を単離することにより、安定した複数のアモルファスイベルメクチン粒子を生成する方法に関する。特に、本発明はマイクロメートル及びサブマイクロメートルの範囲の粒子寸法を有する粒子形態の安定したアモルファスイベルメクチン、及びそれらの使用に関する。また特に、本発明はマイクロメートル及びサブマイクロメートルの範囲の粒子寸法を有する粒子形態の安定したアモルファスイベルメクチンの製造方法、及びそれらの使用に関する。この方法は製薬の分野、特に新規なイベルメクチン製剤(formulations ivermectin)の調製に適用することができる。
【0003】
この方法は、最終生成物を単離する直前に絶対ろ過(absolute filtration)ステップの導入を可能にして、複数の異物粒子を除去し、最終APIの微生物及びエンドトキシン汚染を制御することができる。さらに、本発明の方法に従って製造された複数のアモルファス粒子は、純度、粒子寸法、密度、色及び溶解性に関して有利な特性を示す。
【背景技術】
【0004】
イベルメクチンは、ストレプトミセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)より天然に産するアベルメクチン(avermectin)から誘導される半合成物質であり、哺乳類中の広範囲な内部及び外部寄生虫に対して有用であるだけでなく、作物中や作物上、及び土壌中に見られる様々な寄生生物に対する農業用途を有する強力な抗寄生生物(antiparasitic)剤、特に駆虫(anthelmintic)剤である。イベルメクチンは1980年4月22日にキャバラ(Chabala)とフィッシャ(Fisher)に付与された米国特許第4199569号に開示されている(欧州特許出願公開第0045655号にも)。
【0005】
家畜の胃腸線虫、シラミ及びダニなどの内部及び外部寄生虫の駆除に非常に効果的である (Camargo et al., 2010)。1980年代に動物の寄生虫症の治療のために商業的に導入されて以来、世界中で50億回以上イベルメクチンが投薬されており、動物に最も一般的に使用されている抗寄生生物薬になっている(大村、2008)。イベルメクチンは今でも世界中の何十億もの家畜やペットの治療に使用されており、肉製品や皮革製品の生産を増加させている。イベルメクチンはヒトの寄生虫症の治療にも使用される。1988年にヒトのオンコセルカ症(onchocerciasis、河川盲目症(river blindness))の治療が最初に承認されて以来、イベルメクチンはオンコセルカ症、フィラリア症(filariasis)、象皮病(elephantiasis)、及び糞線虫症(strongyloidiasis)を含む様々な内部線虫感染症のみならず、シラミ及びダニによる外部寄生生物感染症の治療に、世界中で使用されている。しかしながら、イベルメクチンの経口生物学的利用能は、特に反芻動物において、非常に低い。これはその水溶性の低さ、胃腸管中で有機物に結合すること、及び腸上皮中(intestinal epithelium)に存在するP糖蛋白質(P-glycoprotein)による輸送が原因である。そのためイベルメクチンは一般に皮下投与されて、その生物学的利用能を最大化する。いくつかの薬物送達技術及びシステムが、注射可能なイベルメクチン製剤を開発するために使用されてきた(Rothen-Weinhold and Dahn, 2000; Dong et al., 2014)。これには複数の固体分散体を介した徐放性の注射可能なイベルメクチン製剤を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4199569号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0045655号
【特許文献3】米国特許第6265571号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Camargo et al., 2010
【非特許文献2】大村、2008
【非特許文献3】Rothen-Weinhold and Dahn, 2000
【非特許文献4】Dong et al., 2014
【非特許文献5】J Microencapsul. 2010; 27(7):609-17
【非特許文献6】Drug Deliv, 2017; 24(1): 622-631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
我々は、制御された粒子寸法を有する粒子形態であるアモルファス形態のイベルメクチンが、一定の有利な点を提供しうることを認識した。我々の知る限りにおいて、イベルメクチンが安定したアモルファス形態で単離されたことは報告されていない。しかし、それにも拘わらず、我々はここに、そのような形態を提供することに成功したのである。
【0009】
イベルメクチンの化学構造を図1に示す。
【0010】
【化1】
図1(化1)は、イベルメクチンの分子構造である。
【0011】
イベルメクチンは混合物であって、22,23-ジヒドロアベルメクチンB1aと22,23-ジヒドロアベルメクチンB1b(22,23-dihydroavermectin B1a and B1b)との比率はおおよそ80:20である。
【0012】
米国特許第6265571号は細菌発酵生成物イベルメクチンを精製するプロセスを説明する。
【0013】
複数のイベルメクチン固体分散体は、以下に説明されている。
【0014】
非経口徐放用イベルメクチン搭載微粒子:インビトロ(in vitro)特性評価といくつかの製剤変数の影響(J Microencapsul. 2010; 27(7):609-17)。皮下送達用徐放性イベルメクチン搭載固体脂質分散体:インビトロ及びインビボ(in vivo)評価 (Drug Deliv, 2017; 24(1): 622-631)。
【0015】
安定したアモルファス形態のイベルメクチンを、あるいは添加剤または支持マトリクス(固体分散体)を使用することなくアモルファス形態のイベルメクチンを得るプロセスを説明している先行技術は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
広い態様では、本発明はアモルファスイベルメクチンを提供する。このアモルファスイベルメクチンは適切には単離された形態であり、これは、このアモルファスイベルメクチンが、安定性を提供するためのさらなる化合物や添加剤を何も必要とせずに、イベルメクチンのみから適切に構成され、またはイベルメクチンのみを主成分とする、ということを意味する。このアモルファスイベルメクチンは、適切には、いかなる添加剤も、固体分散体のような支持マトリックスも含まない。
【0017】
本明細書に開示されたアモルファス形態のイベルメクチンは、その安定性及び改善された溶解度プロファイルゆえに、特に有用である。
【0018】
また本発明は、本明細書に記載のようなアモルファスイベルメクチンと、その薬学的に許容される担体とを有する、ヒトを含む動物用の、あるいは獣医用の医薬製剤を提供する。
【0019】
さらなる態様においては、本発明は、本明細書に記載の本発明によるアモルファスイベルメクチンを組み込んだ医療デバイス、または本明細書に記載の本発明による医薬製剤を組み込んだ医療デバイスを提供する。
【0020】
さらなる態様においては、本発明は、アモルファスイベルメクチンを調製する方法を提供し、この方法は、少なくとも1種の溶媒中のイベルメクチンの溶液を調製するステップ;溶液をスプレードライヤーに供給してイベルメクチンの複数の粒子を収集することにより溶媒を除去するステップを含む。
【0021】
また本発明は、薬剤として使用するために、本明細書に記載の発明によるアモルファスイベルメクチンや、本明細書に記載の発明による医薬製剤や、本明細書に記載の発明による医療デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】イベルメクチンの分子構造を示す図である。
図2】スプレードライにより得られたイベルメクチンのXRPディフラクトグラムである。
図3】アモルファスイベルメクチンの示差走査熱量曲線を示す図である。
図4】使用できるスプレードライ装置の概略図である。
図5】イベルメクチンのスプレードライした複数の粒子の代表的なSEM画像である。
図6】実施例1に従って得られたアモルファスイベルメクチンの粒子寸法分布の代表的なヒストグラムである。
図7】冷凍庫で3ヶ月+室温で3.5ヶ月の保管前と保管後に、スプレードライにより得られたイベルメクチンのXRPディフラクトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
化合物イベルメクチンは長年知られているが、本発明者らは、実際、薬物単体(drug-alone)のイベルメクチンの安定した固体アモルファス形態は、これまで発表されていないと認識している。本発明は、イベルメクチンの新規なアモルファス固体形態を提供するものであり、これは、非常に驚くべきことに、イベルメクチン溶液のスプレードライを含む単純で工業的な方法により得られることを我々は発見した。本発明の一つの態様において、イベルメクチンのアモルファス固体形態は室温で安定している。本発明の他の態様において、イベルメクチンのアモルファス固体形態はマイクロメートル及びナノメートルサイズの微粒子状で単離される。
【0024】
本発明の一つの態様において、アモルファスイベルメクチンはヒトを含む動物への使用及び獣医用医薬品への応用に適している。本発明の他の態様において、アモルファスイベルメクチンは局所、経口、注射、点眼及び吸入用製剤での使用に適している。本発明の他の態様において、アモルファスイベルメクチンは、医療デバイスの中での使用あるいは医療デバイスによる投与に適している。
【0025】
好ましい態様においては、アモルファスイベルメクチンは固体形態で提供される。好ましくは、この固体形態は室温(25℃)で固体である。好ましくは、アモルファスイベルメクチンは粒子形態であり、特に平均直径が4μm以下(レーザー回折で計測)の粒子形態であり、あるいは複数の粒子は0.1μmから4μmの平均直径を有する。複数の粒子は、スプレードライにより得られたまたは得ることができる(obtained or obtainable)ことが好ましい。球形若しくは実質的な球形の複数の粒子が非常に好ましい。
【0026】
本発明の非常に好ましい態様において、アモルファスイベルメクチンは固体分散体として存在せず、あるいは固体分散体を含まない。例えば、ポリマーまたは脂質を伴う固体分散体として存在せず、あるいはポリマーまたは脂質を伴う固体分散体を含まない。好ましい態様において、アモルファスイベルメクチンは「薬物単独」であり、すなわちイベルメクチン自体及び製造過程で使用された1種または複数の残留溶媒以外の他の添加物を含まない。医薬品分野ではよく理解されているように、ICHガイドラインに沿ったレベルの残留溶媒であれば許容範囲である。「薬物単独」の、もしくはアモルファスイベルメクチンから構成される、アモルファスイベルメクチンが、そのような残留溶媒を付加的に含み得ることは理解されるだろう。
【0027】
本発明は、アモルファス材料に典型的な、幅広いXRPDパターンを特徴とするアモルファスイベルメクチンを提供する。このXRPDパターンは、鋭い回折ピークを有さない。適切には、図2に示すような、あるいは図2に実質的に示すようなXRPDパターンを有することを特徴とするアモルファスイベルメクチンが提供される。
【0028】
また本発明は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される100℃を超えるガラス転移温度によって特徴づけられるアモルファスイベルメクチンを提供する。適切には、アモルファスイベルメクチンは、示差走査熱量測定(DSC)により測定される約136℃のガラス転移温度によって特徴づけられる。
【0029】
本発明によるアモルファスイベルメクチンは、好ましくは微粒子形態で提供される。これは、例えばスプレードライにより達成可能である。好ましくは、アモルファスイベルメクチンは、約0.1μmから約20μmまでの範囲の粒子寸法分布を有する複数の粒子の形態である。所望により、約0.5μmから約4μmまでの範囲の粒子寸法分布を有する複数の粒子の形態でアモルファスイベルメクチンが提供されうる。一つの態様において、複数の粒子の90%が4μm未満の粒子寸法を有する複数の粒子の形態のアモルファスイベルメクチンが提供されうる。
【0030】
本発明は、スプレードライにより得ることができ、あるいは得られた、アモルファスイベルメクチンを提供する。これは、化合物の新規な形態である。適切には、スプレードライは球形の微粒子形態のアモルファスイベルメクチンを提供する。
【0031】
一つの態様において、本発明はまた、溶媒中のイベルメクチン溶液をスプレードライすることにより得ることができ、あるいは得られたアモルファスイベルメクチンを提供する。ここで、溶液は、イベルメクチン及び溶媒を除いて、他の成分を含まない。
【0032】
本発明の方法において、溶液中のイベルメクチンの濃度は、好ましくは溶液の総重量の約2重量%から約30重量%までである。所望により、溶液中のイベルメクチンの濃度は、溶液の総重量の約3重量%から約7重量%でもよい。
【0033】
好ましい態様において、本発明のアモルファスイベルメクチン、またはその医薬製剤、または本明細書に記載され且つアモルファスイベルメクチンを含む医療デバイスは、オンコセルカ症(河川盲目症)、フィラリア症(象皮病)、糞線虫症または毛包虫症(demodicosis)を非限定的に含む内部線虫感染症(internal nematode infections)によって引き起こされる病状の治療に使用することができる。特に、それらはヒトのオンコセルカ症(河川盲目症)の治療に使用できる;あるいはシラミやダニにより引き起こされる感染症を非限定的に含む外部寄生虫感染症(ectoparasitic infections)によって引き起こされる病状の治療に使用することができる。
【0034】
好ましい態様において、本発明は、溶媒中のイベルメクチン溶液をスプレードライすることにより得られた単離された固体形態のアモルファスイベルメクチンを提供し、このイベルメクチンは4μm未満の粒子寸法を有する粒子の形態である。適切にはアモルファスイベルメクチンは固体分散体の形態ではない。それは適切には薬物単独を含み、製造中に使用される残留溶媒以外の他の成分を含まない。
【0035】
我々は、イベルメクチンのアモルファス形態での水溶性は、その対応する結晶形態よりも高いことを発見した。我々の計測によると、既知の結晶形態はHPLCクロマトグラムに明らかなピークを示さないが(方法の検出限界未満)、アモルファス形態はHPLCクロマトグラムに小さいが目に見えるピークを示す。これにより、アモルファス形態は既知の結晶形態よりも水溶性が高いことが確認できる。
【0036】
イベルメクチンはエタノールまたはメタノールなどの任意の適切な溶媒(有機または水性)あるいはそれらの混合物に溶解することができ、溶媒はスプレードライ装置中で安全に除去することができる。任意の形態のイベルメクチンを、出発物質として使用できる。例えば、結晶イベルメクチンが使用できる。他の適切な溶媒には、例えばメチルエチルケトン、アセトンまたは1-ブタノールが含まれる。好ましくは、適切な溶媒とは、最終生成物中で、規定されたICH限度値未満に維持されるであろう溶媒である以下に示す実施例で使用されているエタノールは5000ppmのICH限度値を有する。本発明の方法において、溶媒は任意の適切な溶媒でよく、しかし好ましくは上記のような有機溶媒、または有機溶媒の混合物である。好ましい態様において、溶媒はイベルメクチンの透明な溶液が得られるようなもの、すなわちイベルメクチンが完全に溶解するようなものである。
【0037】
アモルファス材料を形成するときに、任意の適当なイベルメクチン濃度を使用可能である。しかしながら、溶液濃度は2重量%から30重量%の間が好ましく、理想的には5重量%である。ここで「重量%」は、式[1]の化合物の質量を全溶液の質量のパーセンテージとして表したものである。使用する濃度は、一般に、選択した溶媒中におけるイベルメクチンの溶解度により限定される。溶液は、所望により、または必要に応じて、精製されていてもよい。これはスプレードライに先立って行うことができる。当然のことながら、精製は任意の適切な精製技術を使用して行うことができる。例えばろ過ステップ、または絶対ろ過(absolute filtration )ステップが含まれていてもよい。これは、例えば、最終生成物の単離(スプレードライによる)の直前でよい。そのようなステップは、例えば、複数の異物粒子を除去し、最終APIの微生物及びエンドトキシン汚染を制御するために含むことができる。
【0038】
スプレードライは、適切な、または商業的に入手可能な装置を使用して実施することができ、本発明のアモルファスイベルメクチンを形成するための我々の好ましい方法である。
【0039】
使用される装置によって、様々な噴霧方法が使用可能である。例えば、0.7mmの空気圧スプレーノズルオリフィス(pneumatic spray nozzle orifice)が適切だが、回転ノズル、圧力ノズル及び超音波ノズル等の代替の噴霧方法を使用してもよい。
【0040】
時間あたりのリットルの優先噴霧ガス流量(preferential atomization gas flow)は使用する装置に合わせて調整することができ、任意の適切な噴霧ガス流量を使用可能である。一般に、小規模ユニットの場合、1時間あたり150から300ミリリットルが好ましい。工業的規模では異なる流量が使用され得る。好ましい実施形態においては、ノズルアセンブリは、スプレードライしている間、適切な流体で冷却し、生成物の劣化を最小限に抑えることができる。
【0041】
任意の適切な乾燥温度が使用可能である。本発明の一つの態様において、出口温度の範囲は20℃から100℃、好ましくは30℃から50℃、より好ましくは40℃から45℃である。
【0042】
入口温度は、所望の出口温度を達成するように調整することができる。
【0043】
任意の適切な溶液流量が使用可能である。小規模の場合、溶液流量は0.7mmのノズルで、好ましくは1から20ml/min、より好ましくは2から15ml/minである。工業的規模では、溶液流量は選択したノズルにより調整することができる。
【0044】
小規模なスプレードライヤーの乾燥ガス流量は約20kg/hから約120kg/hでよく、好ましくは約40kg/hから約80kg/h、最も好ましくは約40kg/hでよい。より大型のスプレードライヤーの乾燥ガス流量は、120kg/hを超え、好ましくは約360kg/h、約650kg/hまたは約1250kg/hでもよい。
【0045】
特に好ましい態様において、当業者には明らかであるが、他の試験されたパラメータの中でも、出口温度、噴霧流量、溶液濃度及び溶液流量を組み合わせて、適切な品質を有する化合物[1]を得ることができる。
【0046】
本発明の方法を使用して得られた化合物[1]はアモルファス固体である。本発明の一つの態様において、アモルファス固体は室温(一般に25℃)及び冷蔵温度(例えば3℃以下)で安定である。
【0047】
多くのアモルファス材料とは異なり、本発明により提供されるアモルファスイベルメクチンは優れた安定性を示す。安定とは、アモルファス形態が一定の環境条件下で一定期間経過後も維持されることを意味する。生成物が室温で少なくとも3.5ヶ月間、アモルファス形態を維持することを確認するデータがある。我々の生成物の安定性データは、アモルファス形態が冷凍庫で少なくとも3ヶ月間、その後室温で少なくとも3.5ヶ月間、安定して維持される(アモルファス特性の喪失や別の形態への変換なしに)ことを示す。このことは、例えば図7に示されており、アモルファス特性が、冷凍庫で3ヶ月間、続いて室温(25℃)で3.5ヶ月保管する前(青、上のトレース)と後(赤、下のトレース)に維持されることを示す。
【0048】
粒子状のアモルファス化合物は、スプレードライヤーから直接得ることができる。得られた複数の粒子は0.1から50μmの粒子寸法を有していてもよく、典型的には複数の粒子の90%が10μm未満である。本発明の一つの好ましい態様において、複数の粒子の90%が4μm未満で得ることができる。
【0049】
本発明のアモルファスイベルメクチンは、当業者には理解されるように、適切な医薬賦形剤または担体(調剤のタイプに応じた)を使用する既知の技術に従って、医薬製剤の範囲に(into a range of)製剤化され得る。一般的に言えば、結晶イベルメクチンとして知られる製剤は、適正な変更を加えて、アモルファスイベルメクチンに使用することができる。このような製剤、または実際にアモルファスイベルメクチン自体も、当業者により理解されるように、医療デバイス(例えば吸入器)の範囲に組み込まれうる。
【0050】
<X線粉体回折特性>
X線粉体回折分析の目的は、得られたイベルメクチンの分子配列を特徴付けることだった。得られたXRPディフラクトグラムを図2に示す。
【0051】
本明細書に開示したプロセスに従ったスプレードライにより得られたイベルメクチンのX線粉体回折パターンを図2に表す。
【0052】
X線回折(XRPD)分析は、銅管及びPIXel1D-Medpix3 detector (Malvern Panalytical, イギリス)を備えたPANalytical Empyreanを使用して行った。
【0053】
XRPD回折パターンは、アモルファス材料の特徴である複数のハロー(halos)を示している。
【0054】
スプレードライにより得られた式[1]のアモルファス化合物の示差走査熱量測定(DSC)は、136℃のガラス転移温度(Tg)を示す。
【0055】
DSC測定は、Q2000 DSC (TA instruments, Waters, LLC, 米国)を使用して、25℃~30℃の10℃/minの加熱速度で実行された。データ収集及び分析はTA Instruments Triosソフトウエアを使用して実行された。
【0056】
実施例1は本発明を理解する一助として記載されており、いかなる方法によってもその範囲を限定することを意図するものではなく、またそのように考慮されるべきではない。報告された実験は、BUCHI model B-290高度スプレードライヤーを使用して実施された。
【0057】
<実施例>
実施例1:スプレードライによるアモルファスイベルメクチンの単離
[イベルメクチン溶液の調製]
質量割合が5重量%のイベルメクチンを、透明な溶液が得られるまで、質量割合が5%の無水エタノールに溶解した。
【0058】
[複数の粒子の単離]
2つの流体ノズルを備えた実験室規模のスプレードライヤー(Buchi, model B-290)を使用して溶液を噴霧し乾燥した。並流窒素を使用して、噴霧後の乾燥を促進した。スプレードライユニットは開放サイクルモードで(すなわち乾燥ガスの再循環なしで)運転した。図4は、使用したスプレードライの構成を概略的に示す。
【0059】
溶液をノズルに供給する前に、スプレードライユニットを窒素及び無水エタノールの溶液で安定させて、安定した入口温度(T_in)及び出口温度(T_out)を担保した。安定化の後、蠕動ポンプにより溶液をノズルに供給し、ノズルの先端から噴霧した。次に、複数の液滴は並流窒素によりスプレードライチャンバ内で乾燥された。乾燥した複数の粒子を含む流れはサイクロンに導かれ、底部に収集された。スプレードライプロセス中の主要な運転パラメータを表1に要約する。
【0060】
【表1】
表1 主要な運転パラメータの要約
[スプレードライ材料の走査型電子顕微鏡評価]
噴霧された材料の粒子寸法は、走査型電子顕微鏡及びレーザー回折(Sympatec)により特徴付けられた。得られた複数の粒子の代表的な画像を図5に示す。概して直径が約0.5~4μmの複数の粒子が見られた。
【0061】
得られた粒子寸法分布の代表的なヒストグラムを図6に示す。概して直径が約0.5~4μmの複数の粒子が得られた。
【0062】
通常の粒子寸法分布(PSD)パラメータ(Dv10, Dv50, Dv90)は、x10、x50及びx90として表されている。
【0063】
以下に、本願明細書に記載されたアモルファスイベルメクチン及びその製造方法の構成を付記する。
(1)0.1μmから20μmの範囲の粒子寸法分布を有する複数の粒子の形態であるアモルファスイベルメクチン。
(2)0.1μmから20μmの範囲の粒子寸法分布を有する複数の粒子の形態であるアモルファスイベルメクチンであって、前記複数の粒子の90%が10μm未満の粒子寸法を有するアモルファスイベルメクチン。
(3)0.5μmから4μmの範囲の粒子寸法分布を有する複数の粒子の形態である上記(1)または(2)に記載のアモルファスイベルメクチン。
(4)前記複数の粒子の90%が4μm未満の粒子寸法を有する複数の粒子の形態である上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチン。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチンを製造する方法であって、イベルメクチンをスプレードライすることによりアモルファスイベルメクチンを製造する方法。
(6)上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチンを製造する方法であって、溶媒中にイベルメクチンを含む溶液をスプレードライすることを含み、前記溶液はイベルメクチン及び溶媒を除いて、他の成分を含まないアモルファスイベルメクチンを製造する方法。
(7)上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチンと、その薬学的に許容される担体とを有する、ヒトを含む動物用の、あるいは獣医用の医薬製剤。
(8)上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチン、または上記(7)の医薬製剤を組み込んだ医療デバイス。
(9)上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチンを調製する方法であって、少なくとも1種の溶媒中のイベルメクチンの溶液を調製するステップと前記溶液をスプレードライヤーに供給してイベルメクチンの複数の粒子を収集することにより前記溶媒を除去するステップを含むアモルファスイベルメクチンの調製方法。
(10)前記溶媒は有機溶媒、または水性溶媒、またはそれらの混合液;複数の有機溶媒の混合液、または水である上記(9)に記載の方法。
(11)前記溶液中のイベルメクチンの濃度は、前記溶液の総重量の2重量%から30重量%までである上記(9)または(10)に記載の方法。
(12)前記溶液中のイベルメクチンの濃度は、前記溶液の総重量の3重量%から7重量%までである上記(11)に記載の方法。
(13)薬剤として使用するための、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチン。
(14)オンコセルカ症(河川盲目症)、フィラリア症(象皮病)、糞線虫症または毛包虫症を非限定的に含む内部線虫感染症によって引き起こされる病状の治療に使用するための、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチン。
(15)ヒトのオンコセルカ症(河川盲目症)の治療に使用するための上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチン。
(16)シラミやダニにより引き起こされる感染症を非限定的に含む外部寄生虫感染症によって引き起こされる病状の治療に使用する上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアモルファスイベルメクチン。
(17)薬剤として使用するための、上記(7)に記載の医薬製剤。
(18)オンコセルカ症(河川盲目症)、フィラリア症(象皮病)、糞線虫症または毛包虫症を非限定的に含む内部線虫感染症によって引き起こされる病状の治療に使用するための、上記(7)に記載の医薬製剤。
(19)ヒトのオンコセルカ症(河川盲目症)の治療に使用するための、上記(7)に記載の医薬製剤。
(20)シラミやダニにより引き起こされる感染症を非限定的に含む外部寄生虫感染症によって引き起こされる病状の治療に使用するための、上記(7)に記載の医薬製剤。
(21)以下に示すXRPDパターンを有することを特徴とし、溶媒中のイベルメクチンの溶液をスプレードライすることにより得られる単離された固体形態であって、前記イベルメクチンは4μm未満の粒子寸法を有する複数の粒子の形態であるアモルファスイベルメクチン。
【0064】
【表2】
図1
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図7