(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083632
(43)【公開日】2024-06-21
(54)【発明の名称】血管拡張剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/194 20060101AFI20240614BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20240614BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K31/194
A61P9/08
A23L33/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069306
(22)【出願日】2024-04-22
(62)【分割の表示】P 2019092009の分割
【原出願日】2019-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩蔵
(72)【発明者】
【氏名】小林 直之
(72)【発明者】
【氏名】平光 正典
(57)【要約】
【課題】新規な血管拡張剤を提供すること。
【解決手段】クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、血管拡張剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、血管拡張剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管拡張剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活、運動不足、精神的ストレス、喫煙、遺伝的要因等を原因とした、高血圧症をはじめとする生活習慣病の増加が問題となっている。
【0003】
高血圧症の治療に用いられる薬物としては、血管を拡張させることで血圧を下げるカルシウム(Ca)拮抗薬、血圧上昇作用を有するアンジオテンシンIIの産生を抑えることで血圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンIIの受容体への結合を阻害することで血圧を下げるアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)等が知られており、高血圧を治療する作用機序は様々である。
【0004】
血管を拡張させる組成物として、例えば、特許文献1には、ベリー類果実又はカカオ豆又は柿果実若しくは柿葉由来の2量体~13量体の少なくとも1つの縮合タンニンオリゴマー成分と、少なくとも1つの有機酸成分とを有効成分とする血管拡張剤であって、縮合タンニンオリゴマー成分がカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン及び/又はそれらのガレートの少なくとも1つを構成単位とするプロシアニジンオリゴマー及び/又はプロデルフィニジンオリゴマーである、前記血管拡張剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の血管拡張剤は、所定の縮合タンニンオリゴマー成分と、有機酸成分とを組み合わせて有効成分とすることで、単独成分の場合と比べて、相乗的に血管拡張作用が向上するというものである。特許文献1には、クエン酸(有機酸成分)のみで血管等尺性張力試験(マグヌス法)を用いた血管拡張作用を評価した比較例が記載されており、血管拡張作用は認められていない。なお、特許文献1の比較例では、試料中のクエン酸濃度はいずれも100μg/mL以下である。後述する実施例から分かるとおり、マグヌス法でこのような低濃度のクエン酸を用いた場合、血管拡張作用は認められないので、特許文献1では、クエン酸単独での血管拡張作用は、示唆すらされていないといえる。
【0007】
一方、本発明者らは、クエン酸単独で顕著な血管拡張作用を示すことを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものであり、新規な血管拡張剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、血管拡張剤に関する。
【0009】
上記血管拡張剤は、クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有するため、顕著な血管拡張作用を示す。
【0010】
一態様において、上記血管拡張剤は、上記有効成分が1日あたり600mg以上経口投与(経口摂取)されるように用いられるものであってよい。
【0011】
一態様において、上記血管拡張剤における上記有効成分の含有量は、600mg以上であってよい。
【0012】
一態様において、上記血管拡張剤は、血管拡張用食品組成物であってよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な血管拡張剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1における血管拡張作用(拡張率)の測定結果を示すグラフである。
【
図2】試験例2における収縮期血圧変化の測定結果を示すグラフである。
【
図3】試験例2における拡張期血圧変化の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る血管拡張剤は、クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。
【0017】
(有効成分)
本実施形態に係る血管拡張剤の有効成分は、クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0018】
クエン酸は、ヒドロキシ酸の一種であり、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸とも称される。クエン酸は、クエン酸無水物又はクエン酸水和物であってもよい。
【0019】
クエン酸の塩としては、食品、医薬部外品又は医薬品として許容可能なものであれば特に制限されない。クエン酸の塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。クエン酸の塩は、水和物であってもよい。
【0020】
本実施形態に係る血管拡張剤は、有効成分として、クエン酸又はその塩を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0021】
(有効成分の含有量)
本実施形態に係る血管拡張剤は、上述した有効成分を有効量含有することが好ましい。「有効量」とは、本実施形態に係る血管拡張剤の投与により血管拡張作用を示す量を意味する。
【0022】
本実施形態に係る血管拡張剤における有効成分の含有量は、血管拡張剤の具体的態様(例えば、形態、用法及び用量等)に応じて、適宜設定することができる。
【0023】
例えば、本実施形態に係る血管拡張剤が経口投与(経口摂取)される場合、有効成分が1日あたり600mg以上経口投与(経口摂取)されるように用いられるものであってよい。有効成分が1日あたり600mg以上経口投与(経口摂取)されることによって、充分な血管拡張作用が得られる。例えば、本実施形態に係る血管拡張剤が、1日あたり3回経口投与(経口摂取)されるように用いられるものである場合、血管拡張剤が200mg以上の有効成分を含有することで、1日あたりの経口投与(経口摂取)量が600mg以上となる。
【0024】
上記の1日あたりの経口投与(経口摂取)量は、例えば、650mg以上、700mg以上、750mg以上、800mg以上、850mg以上、900mg以上、950mg以上、又は1000mg以上であってよい。また、血管拡張作用の観点からは、上述の1日あたりの経口投与(経口摂取)量の上限に特に制限はないが、製造原価を下げるという観点から、例えば、20000mg以下、15000mg以下、10000mg以下、8000mg以下又は6000mg以下であってよい。また、上記の1日あたりの経口投与(経口摂取)量は、60kg-体重あたりの量とするのが好ましい。
【0025】
本実施形態に係る血管拡張剤における有効成分の含有量は、血管拡張剤の具体的態様(例えば、形態、用法及び用量等)に応じて、適宜設定されるものであるが、一態様においいて、本実施形態に係る血管拡張剤における有効成分の含有量は、血管拡張剤全量を基準として、例えば、600mg以上、650mg以上、700mg以上、750mg以上、800mg以上、850mg以上、900mg以上、950mg以上、又は1000mg以上であってよい。これにより、上述した1日あたりの経口投与(経口摂取)量を簡便に達成することができる。本実施形態に係る血管拡張剤における有効成分の含有量の上限は、例えば、20000mg以下、15000mg以下、10000mg以下、8000mg以下又は6000mg以下であってよい。
【0026】
本実施形態に係る血管拡張剤は、経口投与(経口摂取)されてもよく、非経口投与されてもよいが、経口投与(経口摂取)されることが好ましい。血管拡張剤は、1日1回投与(摂取)されてもよく、1日複数回に分けて投与(摂取)されてもよい。
【0027】
本実施形態に係る血管拡張剤は、ヒトに投与(摂取)されても、非ヒト哺乳動物に投与されてもよい。
【0028】
(その他成分)
本実施形態に係る血管拡張剤は、上記有効成分のみからなるものであってもよく、また血管拡張剤の具体的態様に応じて、上記有効成分の他、食品、医薬部外品又は医薬品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。
【0029】
(血管拡張剤の形状)
本実施形態に係る血管拡張剤は、固体、液体(溶液及び懸濁液を含む。)、ペースト等のいずれの形状であってもよい。また、本実施形態に係る血管拡張剤は、例えば、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、フィルムコーティング錠等)、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤(シロップ剤、ゼリー剤等)、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0030】
(血管拡張剤の具体的態様)
本実施形態に係る血管拡張剤は、例えば、食品組成物(飲料及び食品)、医薬部外品又は医薬品として調製することができる。飲料としては、例えば、水、清涼飲料水、果汁飲料、炭酸飲料、乳飲料、アルコール飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク等が挙げられる。食品としては、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等が挙げられる。また、食品組成物には、例えば、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品等が含まれる。
【0031】
本実施形態に係る血管拡張剤は、日常的に手軽に摂取できることから、食品組成物(血管拡張用食品組成物)であることが好ましい。本実施形態に係る血管拡張用食品組成物の形態としては、上述したものが挙げられ、日常的に手軽に摂取できるという観点から、飲料(血管拡張用飲料)であることが好ましい。
【0032】
(血管拡張剤の製法)
本実施形態に係る血管拡張剤は、その具体的態様に応じて、例えば上述の有効成分を配合することで得ることができ、好ましくは上述の有効成分の有効量を含有するように調製することで得ることができる。このとき、有効成分であるクエン酸及びその塩として、クエン酸又はその塩そのものを使用してもよいし、クエン酸又はその塩を含有する組成物(例えば、レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、みかん果汁及び梅果汁等の果汁)を使用してもよい。
【0033】
(作用効果)
本実施形態に係る血管拡張剤は、クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有するものであることから、当該血管拡張剤を投与(摂取)することにより、血管を拡張することができる。また、血管を拡張する結果、血流の循環がよくなり、冷え症、肩こり、頭痛、高血圧症、狭心症、便秘症等を改善又は予防することができる。
【実施例0034】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0035】
<試験例1:血管拡張作用試験>
マグヌス法を用いて血管拡張作用試験を行った。血管拡張作用試験は、具体的には以下の方法にしたがって行った。雄性14~16週齢の高血圧自然発症ラット(SHR,日本チャールス・リバー株式会社製)から胸部大動脈を摘出し、血管に付着した結合組織を除去することで、幅約2~3mmのリング標本を作製した。作製したリング標本を、混合ガス(95%O
2、5%CO
2)を通気した37℃のクレブス溶液(組成:118mM NaCl、4.7mM KCl、1.2mM KH
2PO
4、1.2mM MgSO
4、25mM NaHCO
3及び、2.5mM CaCl
2及び11.1mM Glucose)を満たした等尺性張力試験装置(イージーマグヌス実験装置,いわしや岸本医科産業株式会社製)のオーガンバス内の張力測定用フックに取り付けた。リング標本に1.5gの静止張力を負荷し、15分間隔でクレブス溶液を交換し60分間安定させ、フェニレフリン(0.3μM)を用いて収縮反応を確認した。その後、アセチルコリン(0.1mM)を添加して血管内皮が正常に保存されていることを確認した。リング標本をクレブス溶液で3回洗浄し、張力を静止張力に戻して、クレブス溶液と交換し、フェニレフリン(0.3μM)を添加して血管を収縮させた。張力が安定したところでクエン酸溶液(実施例1)又はレモン果汁(実施例2)を、オーガンバス内のクエン酸濃度が0.1mM(19.2mg/L)、0.3mM(57.6mg/L)、0.5mM(96mg/L)、1.0mM(192mg/L)、3.0mM(576mg/L)、5.0mM(960mg/L)となるように累積添加した。クエン酸溶液又はレモン果汁の添加による血管拡張作用をリング標本の拡張率(%)で評価した。拡張率(%)は、静止張力からフェニレフリンにより収縮した際の血管張力を基準として、クエン酸溶液又はレモン果汁を添加したときの血管張力の増減を比(百分率)で表したものである。結果を
図1及び表1に示す。
【0036】
【0037】
図1及び表1に示すとおり、クエン酸濃度が3.0mM(576mg/L)以上で、強い血管拡張作用が認められた。特許文献1の比較例では、クエン酸濃度が100μg/mL以下の試料しか用いていないため、クエン酸による血管拡張作用は確認できていない。一方、
図1及び表1の結果から、マグヌス法を用いた血管拡張作用試験においてクエン酸単独での血管拡張作用を発揮することが初めて見出された。
【0038】
<試験例2:単回経口投与試験>
試験例1で用いたマグヌス法は、生体内から抽出された血管に対して薬剤(試験例1ではフェニレフリン)を作用させて強制的に血管を収縮させた後、収縮した血管に対して試験成分(試験例1ではクエン酸溶液又はレモン果汁)を作用させて血管の拡張状態を調べる方法である。添加した薬剤が強く作用しているため、マグヌス法で血管拡張作用を検出するには、生体内で血管拡張作用を発揮する試験成分の濃度よりも高濃度であることを要する。つまり、マグヌス法で血管拡張作用が発揮される試験成分の濃度と、生体内で血管拡張作用が発揮される試験成分の濃度は異なるため、生体内で所望する作用を発揮する試験成分の濃度及び含有量を検討するにあたっては、一般的に、生体内での作用を評価できる経口投与試験が用いられる。そこで、ラットでの単回経口投与試験を行い、血管拡張作用を評価した。なお、生体内において直接的に血管拡張作用を評価することは困難であることから、血管拡張により生じる下流効果の一つである血圧低下を指標として、間接的に血管拡張作用を評価した。
【0039】
単回経口投与試験は、具体的には以下の方法にしたがって行った。単回経口投与試験は、雄性17~18週齢の高血圧自然発症ラット(SHR,日本チャールス・リバー株式会社製)を用いて行った。18匹のラットを、各群6匹の3群(クエン酸低用量群、クエン酸高用量群及び対照群)に分けた。各群のラットには、1週間の馴化飼育後、12時間絶食させた後、サンプル(クエン酸溶液又は純水)を単回経口投与した。具体的には、クエン酸低用量群のラットには、クエン酸を純水に溶解したクエン酸溶液をクエン酸10mg/kg-体重の用量で単回経口投与した。クエン酸高用量群のラットには、クエン酸を純水に溶解したクエン酸溶液をクエン酸100mg/kg-体重の用量で単回経口投与した。対照群のラットには、純水を単回経口投与した。
【0040】
非観血式血圧測定器(Softron BP-98A,株式会社ソフトロン製)を用いて、テールカフ法によりラットの尾部の血圧を測定することで、ラットの収縮期血圧変化及び拡張期血圧変化を評価した。血圧は、サンプルの投与前並びに投与後3、6、9及び24時間の時点で測定した。結果を
図2及び3に示す。
【0041】
図2は、収縮期血圧変化の測定結果を示すグラフである。
図2の横軸は、サンプル投与後の経過時間[h]を示す。なお、経過時間0時間の時点でサンプル投与前の血圧測定を行い、直ちにサンプルを投与した。
図2の縦軸は、サンプル投与前の測定値を基準とした収縮期血圧の変動値[mmHg]を示す。
【0042】
図3は、拡張期血圧変化の測定結果を示すグラフである。
図3の横軸は、
図2と同様である。
図3の縦軸は、サンプル投与前の測定値を基準とした拡張期血圧の変動値[mmHg]を示す。
【0043】
図2に示すとおり、収縮期血圧については、クエン酸低用量群(10mg/kg-体重)において、対照群と比較して、投与3時間後に収縮期血圧の有意な低下が認められた。また、クエン酸高用量群(100mg/kg-体重)において、対照群と比較して、投与3時間後から9時間後にかけて収縮期血圧の有意かつ顕著な低下が認められた。
【0044】
図3に示すとおり、拡張期血圧については、クエン酸高用量群(100mg/kg-体重)において、対照群と比較して、投与3時間後から9時間後にかけて拡張期血圧の有意かつ顕著な低下が認められた。
【0045】
以上の結果から、クエン酸の経口投与(経口摂取)量として、600mg以上(クエン酸低用量群10mg/kg-体重を、ヒト(60kg-体重)に換算した値である。)とすることで、有意に血管拡張作用が得られることが理解できる。また、
図2及び
図3に示すとおり、1日あたり600mg以上経口投与(経口摂取)することで、継続的に血管拡張作用が得られることも理解できる。