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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083691
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】防獣ネット用固定具
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/30 20110101AFI20240617BHJP
   E04H 17/18 20060101ALI20240617BHJP
   E04H 17/08 20060101ALI20240617BHJP
   E04H 17/22 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A01M29/30
E04H17/18
E04H17/08
E04H17/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197629
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】519450798
【氏名又は名称】株式会社ヤマイチネット
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】竹川 智
(72)【発明者】
【氏名】古屋敷 匠
【テーマコード(参考)】
2B121
2E142
【Fターム(参考)】
2B121AA01
2B121BB27
2B121BB35
2B121EA21
2B121FA12
2E142AA01
2E142AA03
2E142BB01
2E142CC04
2E142HH03
2E142HH12
2E142HH25
2E142JJ07
2E142JJ10
2E142MM02
(57)【要約】
【課題】簡単な作業でワイヤーによって防獣ネットを地面に押さえつけることができ、さらに野生動物の侵入を抑えるとともに防獣ネットに溜まった土砂を除去する作業も容易にする工夫がなされた防獣ネット用固定具を提供する。
【解決手段】本発明の防獣ネット用固定具13は、下端部分が地面GLに打ち込まれる本体35と、本体35を支柱3に固定する楔部材37と、を備え、本体35は、支柱3に挿嵌され、一部を半径方向に拡大して形成した収容ポケット33が設けられた筒状部27と、筒状部27の外壁面から立ち上がり、ワイヤー11を巻回させる軸部29と、軸部29の先端に設けられ、軸部29に巻回したワイヤー11を、外壁面とともに保持するフック23と、を有するものであり、楔部材37を、収容ポケット33に打ち込むことで本体35が支柱3に固定されるものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をあけて地面に設置した複数の支柱に対して、該支柱の上部から下部にかけて覆う壁部、及び該支柱の下部から外方の地面を覆うスカート部を有する防獣ネットの該壁部と該スカート部との接続部をワイヤーによって地面に押さえつける場合に使用される防獣ネット用固定具であって、
下端部分が地面に打ち込まれる本体と、該本体を前記支柱に固定する楔部材と、を備え、
前記本体は、
前記支柱に挿嵌され、一部を半径方向に拡大して形成した収容ポケットが設けられた筒状部と、
前記筒状部の外壁面から立ち上がり、前記ワイヤーを巻回させる軸部と、
前記軸部の先端に設けられ、該軸部に巻回した前記ワイヤーを、前記外壁面とともに保持するフック部と、を有するものであり、
前記楔部材を、前記収容ポケットに打ち込むことで前記本体が前記支柱に固定されるものであることを特徴とする防獣ネット用固定具。
【請求項2】
前記フック部と前記外壁面との間にできる間隙は、前記軸部の上方では、前記ワイヤーが1本収まる大きさに形成されており、
前記軸部の下方では、前記ワイヤーが2本収まる大きさに形成されていることを特徴とする請求項1記載の防獣ネット用固定具。
【請求項3】
前記筒状部は、前記下端部分に、周方向の一部が下方に突出した突起を有するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の防獣ネット用固定具。
【請求項4】
前記突起は、前記収容ポケットが設けられている部位を前面としたとき、その左右90°回転した位置の前記下端部分に設けられた、側面視略逆三角形状の対向する二つの舌片状突起であることを特徴とする請求項3記載の防獣ネット用固定具。
【請求項5】
前記フック部は、下端部分が下方に突出した形状のものであることを特徴とする請求項1又は2記載の防獣ネット用固定具。
【請求項6】
前記楔部材は、先端が外方に向けて庇状に延びる平板状の頭部と、該頭部の基部から下方に向けて延びる楔作用部と、を有し、
前記楔作用部は、前記収容ポケットと当接する面に、前記支柱の径に対応した打込み量を決定する、一または複数の段差部が形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の防獣ネット用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場や植林地等に防獣ネットをワイヤーを用いて設置する場合に使用される防獣ネット用固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、猪、鹿等の大型の野生動物や、ウサギ、ハクビシン等の小型の野生動物が、農作物を栽培している圃場や苗木を植えた植林地等に侵入して農作物を食い荒らす被害や、苗木の樹皮を傷付けたり、若葉を食べる被害が増えている。このような害獣被害に対しては、圃場や植林地の周りに、例えば合成繊維や金属線入りの合成繊維撚り糸の防獣ネットを用いた防獣ネット設備を設ける対策がとられている。
【0003】
このような防獣ネット設備は、所定の間隔をあけて支柱を地面に杭打ち機等で打ち込み、設置した支柱間に防獣ネットを張ることで形成される。防獣ネットは、支柱の上部から下部にかけての壁面を覆う壁部と、支柱の下部から外方の地面を覆うスカート部を有している。そして、壁部とスカート部との接続部やスカート部の先端部には、ロープやワイヤーが張設され、これらのロープ等を地面に固定するアンカーも提案されている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3187753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的なアンカーの引抜き力は、鉄製のもので60kgf程度、プラスチック製のもので48kgf程度といわれている。ここで、猪の成獣の引抜き力が60kgf前後であるのと比較して小さくなっている。また、アンカーは、僅かに持ち上がっただけでロープ等が外れて(抜けて)しまい、野生動物が防獣ネットを持ち上げることができてしまう場合がある。前述したアンカーの引抜き力は、アンカー全体の引き抜き力であり、現実的には、これよりも遙かに小さい力で、野生動物がアンカーを少しだけ引き抜いて防獣ネットを持ち上げ、圃場等に侵入してしまう虞がある。また、霜がおりる時期であれば霜等によって土が削れて隙間ができ、その隙間によってロープ等がアンカーから外れてしまう場合もある。
【0006】
さらに、防獣ネットを延伸方向に、例えば100m設置する場合には、アンカーが170個程度必要となる等、多数のアンカーを地面に打ち込む作業が必要になり、作業者の大きな負担になる。またさらに、山に隣接している個所などに設置されている防獣ネット設備の場合には、上方から崩れてきた土砂が防獣ネットに溜まってしまう場合がある。このような場合には、地面に打ち込んだアンカーを引き抜いて防獣ネットを持ち上げ、防獣ネットに溜まった土砂を除去した後、再びアンカーを地面に打ち込む、といった、非常に手間が掛かる煩わしい作業が必要になる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、簡単な作業で防獣ネットを設置でき、さらに野生動物の侵入を抑えるとともに防獣ネットに溜まった土砂を除去する作業も容易にする工夫がなされた防獣ネット用固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する本発明における防獣ネット用固定具は、所定の間隔をあけて地面に設置した複数の支柱に対して、該支柱の上部から下部にかけて覆う壁部、及び該支柱の下部から外方の地面を覆うスカート部を有する防獣ネットの該壁部と該スカート部との接続部をワイヤーによって地面に押さえつける場合に使用される防獣ネット用固定具であって、
下端部分が地面に打ち込まれる本体と、該本体を前記支柱に固定する楔部材と、を備え、
前記本体は、
前記支柱に挿嵌され、一部を半径方向に拡大して形成した収容ポケットが設けられた筒状部と、
前記筒状部の外壁面から立ち上がり、前記ワイヤーを巻回させる軸部と、
前記軸部の先端に設けられ、該軸部に巻回した前記ワイヤーを、前記外壁面とともに保持するフック部と、を有するものであり、
前記楔部材を、前記収容ポケットに打ち込むことで前記本体が前記支柱に固定されるものであることを特徴とする。
【0009】
本発明の防獣ネット用固定具によれば、前記ワイヤーを巻回させる前記軸部と、該軸部に巻回した該ワイヤーを、前記外壁面とともに保持するフック部と、を有するものであるため、該軸部に該ワイヤーを巻き掛けるだけで、該ワイヤーを保持させることができる。また、前記ワイヤーを保持した前記本体を地面に打ち込み、前記収容ポケットに前記楔部材を打ち込んで該本体を前記支柱に固定することで、前記防獣ネットの前記接続部を該ワイヤーによって地面に押さえつけることができる。さらに、前記本体の前記支柱への固定には、前記楔部材を打ち込む楔作用を用いた固定手段を採用している。これにより、前記本体が前記支柱に強固に固定され、前記本体の前記軸部に巻回された前記ワイヤーが持ち上がりにくくなる。この結果、野生動物の侵入を、より抑えることが可能になる。さらに、前記楔部材を前記収容ポケットから引き抜き、前記本体を持ち上げれば、前記防獣ネットも持ち上げることができる。これにより、前記防獣ネットに溜まった土砂等を除去する作業も容易になる。なお、本発明における前記ワイヤーは、単線のワイヤーの他、ワイヤーロープ(鋼線をより合わせてストランドとし、そのストランドをさらに繊維芯のまわりに数本より合わせて作ったロープ)も含む概念である。
【0010】
本発明の防獣ネット用固定具において、前記フック部と前記外壁面との間にできる間隙は、前記軸部の上方では、前記ワイヤーが1本収まる大きさに形成されており、
前記軸部の下方では、前記ワイヤーが2本収まる大きさに形成されていてもよい。
【0011】
ここで、前記軸部の下方では、前記フック部と対向する前記外壁面の下部を下方が広くなる傾斜面とすることによって、前記ワイヤーが2本収まる大きさに形成する態様としてもよい。
【0012】
このような態様の防獣ネット用固定具を採用すれば、前記ワイヤーを前記軸部に対して下側から単に一巻きするだけで、該軸部の下方の広い間隙に該ワイヤーが二重に入り込み、該軸部の上方の狭い間隙に該ワイヤーが1本収容される。これにより、二重に入り込んだ部分で前記ワイヤーが位置決めされ、該ワイヤーを保持する力が向上する。
【0013】
なお、前記軸部の上方の間隔を、前記ワイヤーが2本収まる大きさに形成し、該軸部の下方の間隔は、該ワイヤーが1本収まる大きさに形成する等、上下の間隔の関係を逆にしてもよい。この態様の場合は、前記ワイヤーを前記軸部に対して上側から一巻きすればよい。また、前記軸部の上方の間隔を、前記ワイヤーが2本収まる大きさに形成し、該軸部の下方の間隔は、該ワイヤーが3本収まる大きさに形成する等、該軸部の上方の間隔に対して該軸部の下方の間隔を、該ワイヤーが1本多く収まる大きさに形成する態様も可能である。
【0014】
また、本発明の防獣ネット用固定具において、前記筒状部は、前記下端部分に、周方向の一部が下方に突出した突起を有するものであってもよい。
【0015】
このような態様の防獣ネット用固定具を採用すれば、前記突起によって、前記本体を地面に打ち込みやすくなり、作業性が向上する。また、前記本体に回転方向の力が作用しても、前記突起が抵抗になって前記筒状部が回転しにくくなる。これにより、前記ワイヤーの弛みが防止され、野生動物によって前記防獣ネットが持ち上げられてしまうことを、より抑えることができる。
【0016】
さらに、本発明の防獣ネット用固定具において、前記突起は、前記収容ポケットが設けられている部位を前面としたとき、その左右90°回転した位置の前記下端部分に設けられた、側面視略逆三角形状の対向する二つの舌片状突起であってもよい。
【0017】
このような態様の防獣ネット用固定具を採用すれば、側面視略逆三角形状の比較的広い面積の二つの前記舌片状突起が地面から地中に刺し込まれるため、前記筒状部の地面に対する引き抜き力が向上する。また、前記舌片状突起が設けられている、前記防獣ネットの延伸方向の前記支柱の傾きに強くなる。
【0018】
またさらに、本発明の防獣ネット用固定具において、前記フック部は、下端部分が下方に突出した形状のものであってもよい。
【0019】
こうすることで、前記フック部の前記下端部分も地面に打ち込むことが容易となり、前記本体に回転方向の力が作用しても該本体が回転しにくくなる。また、前記軸部に巻回された前記ワイヤーも外れにくくなる。
【0020】
さらにまた、本発明の防獣ネット用固定具において、前記楔部材は、先端が外方に向けて庇状に延びる平板状の頭部と、該頭部の基部から下方に向けて延びる楔作用部と、を有し、
前記楔作用部は、前記収容ポケットと当接する面に、前記支柱の径に対応した打込み量を決定する、一または複数の段差部が形成されたものであってもよい。
【0021】
このような態様の防獣ネット用固定具を採用すれば、前記頭部と前記複数の段差部が、前記楔部材の打込み量を決定するストッパーとして機能する。このため、前記楔部材を前記収容ポケットに打ち込む際、前記支柱の径に対応して、該収容ポケットの上端に該楔部材の前記頭部の下面あるいは所定の位置の前記段差部の下面が当接するまで打ち込めば、該楔部材の必要な打込み量が自動的に設定される。これにより、前記楔部材の過度の打ち込みによって前記収容ポケットや該楔部材自体を破損する虞が軽減される。また、前記楔部材を引き抜く際は、外方に庇状に張り出した前記頭部を利用して、あるいは該頭部と前記段差部との間にできる空間や段差部間にできる空間を利用して該楔部材を容易に引き抜くことが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な作業で防獣ネットを設置でき、さらに野生動物の侵入を抑えるとともに防獣ネットに溜まった土砂を除去する作業も容易にする工夫がなされた防獣ネット用固定具を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を使用して設置した防獣ネット設備を示す斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具の取付け状態を示す斜視図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す分解斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す正面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す背面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す右側面図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す平面図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す底面図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を示す図4中のA-A断面図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を径の違う3種類の支柱に取り付けた状態を示す右側面図である。
図11】本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具を使用した防獣ネット設備の設置手順を示す説明図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る楔部材を示す斜視図である。
図13】本発明の第2実施形態に係る楔部材を示す正面図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る楔部材を示す背面図である。
図15】本発明の第2実施形態に係る楔部材を示す右側面図である。
図16】本発明の第2実施形態に係る楔部材を示す平面図である。
図17】本発明の第2実施形態に係る楔部材を示す底面図である。
図18】本発明の第2実施形態に係る楔部材を適用した防獣ネット用固定具を径の違う3種類の支柱に取り付けた状態を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0025】
初めに、図1を用いて、本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具13Aを用いて設置した防獣ネット設備1の全体構成について説明する。
【0026】
図1に示すように、圃場や植林地等では、野生動物の侵入を防止するために図示のような防獣ネット設備1が設置される。本実施形態に係る防獣ネット設備1は、所定の間隔A、例えば延伸方向Yに3m間隔で設置される複数本の支柱3と、支柱3を利用して取り付けられる延伸方向Yに長い防獣ネット5と、防獣ネット5を延伸方向Yに張るために設けられる複数本のロープ10ないしワイヤー11と、ワイヤー11を保持し防獣ネット5を地面GLに押さえつけるための防獣ネット用固定具13Aと、支柱3の上端に被せるキャップ17を備えている。なお、必要に応じて、補助固定具15としての、被覆番線15Aや、プラスチックアンカー15B等が用いられる。なお、ワイヤー11には、単線ワイヤーの他、ワイヤーロープを用いてもよい。
【0027】
支柱3としては、例えば、直径38mm、35mmないし33mmの市販の、被覆鋼管支柱やFRP製支柱等を使用することができる。図示の実施形態では、支柱3として、直径38mmのイボ19(図2等参照)付きのFRP製支柱を使用した例を示している。
【0028】
防獣ネット5は、支柱3の上部から下部にかけての壁面を覆う壁部7と、支柱3の下部から外方の地面GLを覆うスカート部9と、を有する、延伸方向Yの長さが例えば50m程度の網体によって構成されている。また、防獣ネット5は、所定太さのポリエチレン糸を撚った紐体と、このポリエチレン糸に所定線径の硬質ステンレス鋼線を所定本数撚り合わせた紐体を編むことで、例えば一辺が5cmの菱形の網目が連続的に形成されるように構成されている。
【0029】
防獣ネット5は、壁部7の高さHが1m~2m程度、スカート部9の幅寸法Wが50cm程度のものである。また、防獣ネット5の両端部である壁部7の上端部とスカート部9の先端部には、長さが55m程度のポリエチレン製のロープ10が防獣ネット5の網目を潜らせるようにして取り付けられている。なお、ロープ10の線径は、一例として5~10mmであり、ロープ10の伸び量は約20%である。
【0030】
ワイヤー11は特に限定されるものではないが、線径が2~3mmのステンレス製のワイヤーロープを用いることができる。本実施形態では、線径が2mmのステンレス製のワイヤー11を使用しており、このワイヤー11の伸び量は約1.2%と、ほとんど伸びないものである。また、ワイヤー11は、一般的な作業者が引っ張る力に相当する、10kgf程度のテンションで設置され、壁部7とスカート部9との接続部を地面GLに押さえつけている。
【0031】
補助固定具15としての被覆番線15Aは、防獣ネット5の壁部7と支柱3とを結束するものである。また、補助固定具15としてのプラスチックアンカー15Bは、埋込み深さが40cm以上のものを用いることができる。プラスチックアンカー15Bは、ワイヤー11の地面GLに対する固定と、スカート部9の先端部に張られるロープ10の地面GLに対する固定に用いられる。なお、ワイヤー11を地面GLに固定するプラスチックアンカー15Bは、支柱3を設置する間隔Aに対して、必要に応じて1本程度用いられる。また、ロープ10を地面GLに固定するプラスチックアンカー15Bは、支柱3を設置する間隔Aに対して、1本又は2本程度用いられる。
【0032】
図2は、図1に示す防獣ネット用固定具13Aの取付け状態を示す斜視図である。また、図3図9は、図1に示す防獣ネット用固定具13Aを示す図である。具体的には、図3は分解斜視図、図4は正面図、図5は背面図、図6は右側面図、図7は平面図、図8は底面図、図9は、図4中のA-A断面図である。
【0033】
図2に示すように、キャップ17は、支柱3の上端部に上方から被せられるキャップ本体21と、フック23とを備えたABS樹脂製の部材である。なお、フック23は、防獣ネット5の壁部7の上端部に取り付けられたロープ10を引っ掛けて吊り下げるための鈎状のものである。また、キャップ本体21の内壁面には、イボ19が付いた支柱3を使用できるように、イボ19の収容部となる凹部25が高さ方向Zに形成されている。
【0034】
次いで、図2図9を用いて、防獣ネット用固定具13Aの具体的構成について説明する。
【0035】
防獣ネット用固定具13Aは、下端部分が地面に打ち込まれる本体35と、本体35を支柱3に固定する楔部材37と、を備えている。本体35は、支柱3に挿嵌され、一部を半径方向R(図2参照)に拡大して形成した収容ポケット33が設けられた筒状部27と、収容ポケット33の外壁面43から立ち上がり、ワイヤー11を巻回させる軸部29と、軸部29の先端に設けられ、軸部29に巻回したワイヤー11を、収容ポケット33の外壁面43とともに保持するフック部31と、を有するものである。本体35は、楔部材37を、収容ポケット33に打ち込むことで支柱3に固定される。すなわち、本体35の支柱3への固定には、楔部材37を打ち込む楔作用を用いた固定手段を採用している。
【0036】
本実施形態の本体35は、ABS樹脂製の一体成形部材によって構成されている。本体35の筒状部27は、略円筒状の部材であり、その前面に角筒状の収容ポケット33が形成されている。また、筒状部27の内壁面には、前述したキャップ17と同様に、支柱3の外周面に形成されたイボ19の収容部となる凹部39が高さ方向Zに形成されている。なお、イボ19を有しない支柱を用いる場合には、凹部39を形成しない態様としてもよい。
【0037】
また、筒状部27の下端部分には、収容ポケット33が設けられている前面から、その左右90°回転した位置を下方に突出させることによってなる側面視略逆三角形状の対向する二つの舌片状突起41が形成されている。この舌片状突起41は、周方向C(図2参照)の一部が下方に突出した突起の一例に相当する。舌片状突起41は、地面GLから地中に差し込まれるため、筒状部27の地面GLに対する引き抜き力が向上する。また、本体35に回転方向の力が作用しても、舌片状突起41が抵抗になって筒状部27が回転しにくくなる。
【0038】
フック部31は、小径の軸部29の先端に取り付けられた径の大きな変形円板状の部材である。フック部31の正面形状は、上方に大径の円を配置し、下方に小径の円を幾分下方の突出させた位置に配置するとともに、これら大小2つの円を、これら2つの円の外形と接する線分で結んだ、卵を上下反対にしたような形状に形成されている。すなわち、フック部31は、下端部分が下方に突出した形状のものである。これにより、フック部31の下端部分も地面GLに打ち込むことが容易となり、ワイヤー11が外れにくくなる。また、本体35に回転方向の力が作用した際に、回転抵抗としても作用する。
【0039】
図9に示すように、フック部31と収容ポケット33との間にできる間隙Bは、軸部29の上下で異なる大きさに形成されている。具体的には、軸部29の上方では、使用するワイヤー11が1本収まる大きさ、例えば線径2mmのワイヤー11であれば約2mmの間隙B1に形成されている。また、軸部29の下方では、使用するワイヤー11が2本収まる大きさ、例えば線径2mmのワイヤー11であれば約4mmの間隙B2に形成されている。本実施形態では、フック部31と対向する収容ポケット33の外壁面43の下部を下方に広くなる傾斜面45とすることによって、間隙B2を広げている。
【0040】
これにより、ワイヤー11を本体35の軸部29に対して下側から単に一巻きするだけで、軸部29下方の広い間隙B2にワイヤー11が二重に入り込み、軸部29上方の狭い間隙B1にワイヤー11が1本収容される。この結果、二重に入り込んだ部分でワイヤー11が位置決めされた状態で、強固に保持される。
【0041】
楔部材37は、収容ポケット33に挿入され打ち込まれることで、支柱3に対して本体35を固定するものである。また、楔部材37は、支柱3に対する防獣ネット用固定具13Aの取付け位置を設定する、防獣ネット用固定具13Aの位置決め固定手段に相当する。本実施形態では、楔部材37も、本体35と同様に、ABS樹脂製の一体成形品によって構成されている。
【0042】
図3及び図9に示すように、楔部材37は、先端が外方に向けて庇状に延びる平板状をした頭部47と、頭部47の基部から下方に向けて延びる楔作用部49と、を有するものである。なお、楔作用部49は、軽量化等のため、中空(肉抜き)構造を採用している。また、図7及び図8に示すように、楔部材37の後面には、当接する支柱3の外周面と密着する曲率の凹陥面51が形成されている。一方、図3及び図9に示すように、楔部材37の前面には、下窄まり状に傾斜する当接面53が形成されている。この当接面53には、使用する支柱3の径に対応した打込み量を決めるストッパーとして機能する一つの段差部55が形成されている。なお、本実施形態では、楔作用部49が中空構造であるため、左右一対の段差部55,55となっている。
【0043】
図10は、図1に示す防獣ネット用固定具13Aを、径の違う3種類の支柱3に取り付けた状態を示す右側面図である。
【0044】
図10(a)に示すように、直径33mmの小径の支柱3Aに対して防獣ネット用固定具13Aを取り付ける場合には、収容ポケット33の上端面が頭部47の下面に当接するまで楔部材37を打ち込む。また、図10(b)に示すように、直径35mmの中間径の支柱3Bに対して防獣ネット用固定具13Aを取り付ける場合には、収容ポケット33の上端位置が、楔作用部49における当接面53の段差部55より幾分上方に位置する、中間位置まで楔部材37を打ち込む。さらに、図10(c)に示すように、直径38mmの大径の支柱3Cに対して防獣ネット用固定具13Aを取り付ける場合には、収容ポケット33の上端面が、段差部55の下面に当接する楔作用部49の下段位置まで楔部材37を打ち込むようにする。
【0045】
次いで、図1及び図11等を用いて、図1に示す防獣ネット設備の設置手順の一例を説明する。図11は、図1に示す防獣ネット設備の設置手順を示す説明図である。
【0046】
まず、図1に示すように、支柱3を所定の間隔Aで立て、図11(a)に示すように、支柱3に上方から本体35の筒状部27を嵌挿させた後、支柱3の上端にキャップ17を被せる。次に、図11(b)に示すように、予め幅方向Xの両端にロープ10が通してある防獣ネット5を用意して、延伸方向Yに防獣ネット5を拡げていく。
【0047】
そして、図11(c)に示すように、延伸方向Yに拡げた防獣ネット5における幅方向Xの一端のロープ10を、キャップ17のフック23に掛けて防獣ネット5を支柱3に吊り下げる。次に、ワイヤー11を用意し、延伸方向Yに延ばし、作業者が引っ張りながら(10kgf程度のテンションを掛けながら)、ワイヤー11を本体35の軸部29に対して下方から図11(d)に示すように1巻きする。これにより、フック部31と収容ポケット33との間の所定の大きさの間隙B1、B2によって、ワイヤー11が所定(10kgf程度)のテンションで本体35に保持される。
【0048】
次に、図11(e)に示すように、本体35の上面をハンマーで叩いて、筒状部27の、舌片状突起41を含む下端部分と、フック部31の下端部分を地面GLに打ち込む。さらに、図11(f)に示すように、楔部材37を上方から収容ポケット33に挿入して楔部材37の頭部47をハンマーで叩いて、所定の打込み量打ち込めば、支柱3の部位での防獣ネット用固定具13Aの固定が完了する。これにより、防獣ネット5における、壁部7とスカート部9との接続部をワイヤー11によって地面GLに押さえつけることができる。
【0049】
以下、同様に図11(d)~図11(f)の手順を繰り返して、すべての支柱3に対して防獣ネット用固定具13Aの固定を完了させる。次に、防獣ネット5の固定されていない他端を外方に引っ張って、スカート部9で地面GLを覆うように被せ、図11(g)に示すように、スカート部9の先端に通してある、もう1本のロープ10を、プラスチックアンカー15B等を使用して地面GLに打ち込む。
【0050】
また、必要に応じて、図11(h)に示すように、被覆番線15A等を使用して防獣ネット5の壁部7と支柱3とを固定する。そして、必要に応じて、防獣ネット5の壁部7とスカート部9の接続部に、プラスチックアンカー15B等を打って地面GLに固定すれば防獣ネット設備1の設置は完了する。
【0051】
また、防獣ネット5に溜まった土砂等を除去する作業は、楔部材37を上段まで打ち込んだ場合には、楔部材37の頭部47の下面と収容ポケット33の上端面との間にバールを差し込む、あるいはスライドハンマーを差し込んで楔部材37を本体35から引き抜く。そして、本体35を地面GLから引き抜いた後、必要に応じてプラスチックアンカー15B等も引き抜き、防獣ネット5を持ち上げて実施すればよい。また、楔部材37を段差部55まで打ち込んだ場合には、段差部55の下面と収容ポケット33の上端面との間にバールやトンカチを差し込んで引き抜くようにすればよい。
【0052】
前述したように、本発明の第1実施形態に係る防獣ネット用固定具13Aを用いれば、プラスチックアンカーを多数打ち込まなければならない従来と比べ、極めて簡単な作業で防獣ネット設備1を設置することができる。さらに、ワイヤー11が本体35に保持され、この本体35を楔部材37を用いた楔作用によって、支柱3に強固に固定することができる。これにより、ワイヤー11が持ち上がりにくくなる。
【0053】
本発明の防獣ネット用固定具13Aを用いた防獣ネット設備1について、本発明者らがワイヤー11の持ち上げ試験を実施したところ、70kgfで持ち上げた際のワイヤー11の持ち上げ幅は、30cm以下という結果になった。猪の成獣の引抜き力が60kgf前後といわれており、猪の成獣は、胴幅に脚等を加えれば30cmをゆうに超えるため、猪に対して有効であることが分かる。また、ウサギ等の引抜き力である数kgfでは、ワイヤー11の持ち上げ幅は数cmであり、鹿等の引抜き力である20kgf程度では、ワイヤー11の持ち上げ幅を20cm以下に抑えることができた。
【0054】
これらから、本発明の防獣ネット用固定具13Aを用いれば、野生動物の侵入を十分抑えることができる防獣ネット設備1を容易に設置できることが分かる。また、前述したように、楔部材37を本体35から引き抜き、本体35を地面GLから引き抜いた後、防獣ネット5を持ち上げれば、防獣ネット5に溜まった土砂等を除去する作業を行うことができる。このため、多数打ち込まれていたプラスチックアンカーを引き抜かなければならいない、従来の防獣ネット設備と比べ、防獣ネット5に溜まった土砂等を除去する作業も大幅に軽減される。さらに、従来の防獣ネット設備と比べ、プラスチックアンカーの使用個数を大幅に削減することができ、これによってプラスチックの使用量削減にも貢献することができる。
【0055】
次に、本発明の第2実施形態に係る防獣ネット用固定具13Bについて説明する。なお、第2実施形態に係る防獣ネット用固定具13Bは、楔部材37の構成が一部違うだけで、その他の楔部材37の構成と本体35の構成は前述した第1実施形態に係る防獣ネット用固定具13Aと同様である。このため、以下では、前述した第1実施形態と同様の構成については説明を省略し、第1実施形態とは異なる第2実施形態特有の構成を中心に説明する。
【0056】
図12図17は、本発明の第2実施形態に係る楔部材37を示す図である。具体的には、図12は楔部材37の斜視図、図13は楔部材37の正面図、図14は楔部材37の背面図、図15は楔部材37の右側面図、図16は楔部材37の平面図、図17は楔部材37の底面図である。
【0057】
前述した第1実施形態では、当接面53に設けられる段差部55が1個のみ設けられていたのに対して、図12図17に示すように、第2実施形態の楔部材37では、当接面53に設けられる段差部55が第1段差部55Aと第2段差部55Bの2個が設けられている。そして、このうち上方に設けられる第1段差部55Aは、直径35mmの中間径の支柱3Bの打込み量を決めるストッパーとして機能し、下方に設けられる第2段差部55Bは、直径38mmの大径の支柱3Cの打込み量を決めるストッパーとして機能するように構成されている。
【0058】
図18は、本発明の第2実施形態に係る楔部材37を適用した防獣ネット用固定具13を、径の違う3種類の支柱に取り付けた状態を示す右側面図である。
【0059】
図18(a)に示すように、直径33mmの小径の支柱3Aに対して防獣ネット用固定具13Bを取り付ける場合には、収容ポケット33の上端面が頭部47の下面に当接する楔作用部49の上段位置まで楔部材37を打ち込む。また、図18(b)に示すように直径35mmの中間径の支柱3Bに対して防獣ネット用固定具13Bを取り付ける場合には、収容ポケット33の上端面が上方に設けられている第1段差部55Aの下面に当接する楔作用部49の中段位置まで楔部材37を打ち込む。さらに、図18(c)に示すように直径38mmの大径の支柱3Cに対して防獣ネット用固定具13Bを取り付ける場合には、収容ポケット33の上端面が下方に設けられている第2段差部55Bの下面に当接する楔作用部49の下段位置まで楔部材37を打ち込むようにする。
【0060】
そして、このようにして構成される本発明の第2実施形態に係る防獣ネット用固定具13Bによっても前述した第1実施形態と同様の効果を享受することができる。
【0061】
[他の実施の形態]
本発明の防獣ネット用固定具13は、前述した2つの実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、前述した実施形態では、防獣ネット用固定具13における本体35の筒状部27は、支柱3に対して上方から挿入する方式の全周が閉じた一体成形品によって構成されていたが、これに限らず周方向Cに例えば2分割できる2つのパーツで筒状部27を構成することも可能である。このような分割式の筒状部27を採用した場合には、支柱3の側方から筒状部27を取り付けることが可能になるから、既設の防獣ネット設備1の防獣ネット5が張られた状態の支柱3に対しても取り付けることが可能になる。
【0062】
また、防獣ネット用固定具13に楔部材37の抜け止め構造を設けることも可能である。例えば、収容ポケット33の楔作用部49に対して幅方向に貫通する穴部を設け、楔部材37にも支柱3の径に対応した打込み量となる位置に幅方向に貫通する穴部を設ける。そして、楔部材37の打ち込みの終了後、これら2つの穴部にロックピンを挿入して楔部材37の抜け止めに使用することも可能である。
【0063】
さらに、軸部29の下方のフック部31と収容ポケット33の外壁面43との間の間隙B2を拡げる手段として、前述した実施形態では、外壁面43側に傾斜面45を設けることで対応したが、対向する位置のフック部31の後面に傾斜面を設けたり、ワイヤー11が2本分入る大きさの凹部等を形成したりすることで対応することも可能である。また、前述した実施形態では、軸部29が、収容ポケット33の外壁面43から立ち上がる態様を採用したが、筒状部27の他の部分の外壁面から軸部29が立ち上がる態様としてもよい。
【0064】
なお、以上説明した各実施形態の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 防獣ネット
3 支柱
5 防獣ネット
7 壁部
9 スカート部
10 ロープ
11 ワイヤー
13 防獣ネット用固定具
15 補助固定具
17 キャップ
27 筒状部
29 軸部
31 フック部
33 収容ポケット
35 本体
37 楔部材
41 舌片状突起
43 外壁面
45 傾斜面
47 頭部
49 楔作用部
53 当接面
55 段差部
B 間隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図18