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  • 特開-座屈拘束筋交い部材、架構構造 図1
  • 特開-座屈拘束筋交い部材、架構構造 図2
  • 特開-座屈拘束筋交い部材、架構構造 図3
  • 特開-座屈拘束筋交い部材、架構構造 図4
  • 特開-座屈拘束筋交い部材、架構構造 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083696
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】座屈拘束筋交い部材、架構構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197641
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 智裕
(72)【発明者】
【氏名】梅田 敏弘
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB12
2E125AC16
2E125AC18
2E125AC23
(57)【要約】
【課題】ブレースの外径を過大にせずに木材を座屈拘束材としてあらわしで使用し、意匠性と機能性を両立した座屈拘束筋交い部材、該座屈拘束筋交い部材を配設した架構構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る座屈拘束筋交い部材1は、軸力を負担し塑性変形し得る鋼管による芯材3と、芯材3が圧縮軸力を受けたときに座屈を補剛するべく芯材3の内部に挿入された内補剛材5と、芯材3が圧縮軸力を受けた時に座屈を補剛するべく芯材3の外周部を覆うように設置された外補剛材7により構成された座屈拘束部9と、芯材3の端部に設けられ、建築物の柱及び/又は梁と接合される接合部11と、を備え、内補剛材5が鋼管もしくは棒鋼であり、外補剛材7が木質材により形成された中空部材である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸力を負担し塑性変形し得る鋼管による芯材と、該芯材が圧縮軸力を受けたときに座屈を補剛するべく芯材の内部に挿入された内補剛材と、前記芯材が圧縮軸力を受けた時に座屈を補剛するべく芯材の外周部を覆うように設置された外補剛材により構成された座屈拘束部と、前記芯材の端部に設けられ、建築物の柱及び/又は梁と接合される接合部と、を備え、
前記内補剛材が鋼管もしくは棒鋼であり、外補剛材が木質材により形成された中空部材であることを特徴とする座屈拘束筋交い部材。
【請求項2】
前記外補剛材が材軸と直交する断面方向に2分割された2部材からなり、該2部材がボルトもしくは接着剤で結合されて管状を形成していることを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束筋交い部材。
【請求項3】
前記内補剛材の曲げ剛性が、前記外補剛材の曲げ剛性よりも大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の座屈拘束筋交い部材。
【請求項4】
前記芯材と前記内補剛材の材軸方向と直交する断面における隙間の最小値と、前記芯材と前記外補剛材の材軸方向と直交する断面における隙間の最小値との差が2mm以内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の座屈拘束筋交い部材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の座屈拘束筋交い部材を、柱と梁からなる架構部に配設したことを特徴とする架構構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造建築物に設置される筋交い部材(以下、「ブレース」という場合あり)、該筋交い部材を配設した架構構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮軸力作用時に座屈することを防止し、引張軸力作用時と同等の耐力および変形性能を付与した座屈拘束ブレースは、種々の形式のものが開発・実用化されており、耐震又は制振ブレースとして広く適用されている。
ブレースは、例えば特許文献1に開示された座屈拘束ブレースの一例である二重管型ブレース材のように、曲げモーメントを負担する管状の座屈拘束材と、座屈拘束材の内部に設けられ軸力を負担する芯材とを有し、芯材の外側から座屈拘束する構成が主流である。
【0003】
座屈拘束ブレースの意匠性を考えると、なるべく芯材と座屈拘束材から成る座屈拘束部の外径を小さく抑えることが望ましい。これを解決する観点で、特許文献2などで提案されているように、芯材を中空の鋼管とし、その内部に座屈拘束材を挿入する方法が一案として考えられる。
【0004】
座屈拘束ブレースは、設計軸力に対し、座屈拘束材に作用する設計曲げモーメントが座屈拘束材の降伏曲げモーメントを下回るという全体座屈防止条件を満足させる必要がある。この降伏曲げモーメントと、作用する設計曲げモーメントは、座屈拘束材の外径による影響が大きく、外径が小さいほど降伏曲げモーメントは小さく、作用曲げモーメントは大きくなる傾向がある。
従って、特許文献2のように芯材内部の鋼管によって座屈拘束する形式では、芯材の外側から座屈拘束する形式に比べて、全体座屈防止条件を満足するのは非合理的になる。すなわち、座屈拘束材の板厚を大きくするなど鋼材重量がかさみ、ブレースの製作コストが上昇すると考えらえる。
【0005】
我が国では、木材の有する温かみや木目の意匠性が好まれる傾向にあり、例えば特許文献3のように、座屈拘束ブレースにおいても従来の鋼製の座屈拘束材の代わりに木材による座屈拘束材を用いるブレースが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-223415号公報
【特許文献2】特開2020-193431号公報
【特許文献3】特開2020-183701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、座屈拘束ブレースの設計では、上述のように座屈拘束材の曲げ剛性と曲げ耐力が重要となるが、木材のヤング率と引張耐力は鋼材のおおよそ1/10以下にとどまり、このため木材を座屈拘束材として使用して全体座屈防止条件を満足させるのには問題がある。つまり、木材を座屈拘束材として芯材の外周部に設けて木材があらわしとなるようにした場合、木材のヤング率と引張耐力が小さいので、全体座屈防止条件を満足させるには座屈拘束材の外径が非常に大きくなり意匠性を損ねるほか、梁幅よりもブレース外径が大きくなり、室内空間を狭めるといったデメリットが生じやすいと考えられる。
一方で、木材はカーボンニュートラルな素材であるため、鋼材使用量を低減して木材を活用する需要も拡大していくことが見込まれる。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、ブレースの外径を過大にせずに木材を座屈拘束材としてあらわしで使用し、意匠性と機能性を両立した座屈拘束筋交い部材、該座屈拘束筋交い部材を配設した架構構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る座屈拘束筋交い部材は、軸力を負担し塑性変形し得る鋼管による芯材と、該芯材が圧縮軸力を受けたときに座屈を補剛するべく芯材の内部に挿入された内補剛材と、前記芯材が圧縮軸力を受けた時に座屈を補剛するべく芯材の外周部を覆うように設置された外補剛材により構成された座屈拘束部と、前記芯材の端部に設けられ、建築物の柱及び/又は梁と接合される接合部と、を備え、
前記内補剛材が鋼管もしくは棒鋼であり、外補剛材が木質材により形成された中空部材であることを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記外補剛材が材軸と直交する断面方向に2分割された2部材からなり、該2部材がボルトもしくは接着剤で結合されて管状を形成していることを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記内補剛材の曲げ剛性が、前記外補剛材の曲げ剛性よりも大きいことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記芯材と前記内補剛材の材軸方向と直交する断面における隙間の最小値と、前記芯材と前記外補剛材の材軸方向と直交する断面における隙間の最小値との差が2mm以内であることを特徴とするものである。
【0013】
(5)本発明に係る架構構造は、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の座屈拘束筋交い部材を、柱と梁からなる架構部に配設したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る座屈拘束筋交い部材は、芯材と、芯材の内部に挿入された内補剛材と、芯材の外周部を覆うように設置された外補剛材により構成された座屈拘束部と、前記芯材の端部に設けられた接合部と、を備え、前記内補剛材が鋼管もしくは棒鋼であり、前記外補剛材が木質材により形成された中空部材であることにより、過度に外径が大きくすることなく意匠性と機能性が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る座屈拘束筋交い部材の側面図である。
図2図1の矢視A-A断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る座屈拘束筋交い部材の他の態様の説明図である(その1)
図4】本発明の実施の形態に係る座屈拘束筋交い部材の他の態様の説明図である(その2)
図5】本発明の実施の形態に係る座屈拘束筋交い部材の他の態様の説明図である(その3)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る座屈拘束筋交い部材1は、図1図2に示すように、芯材3と、芯材3の内部に挿入された内補剛材5と、芯材3の外周部を覆う外補剛材7とにより構成された座屈拘束部9と、芯材3の端部に設けられ接合部11と、を備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0017】
<芯材>
芯材3は、軸力を負担し塑性変形し得るものであり、鋼管によって形成されている。本実施の形態の芯材3は円形鋼管であり、繰り返しの塑性変形を考慮する場合には、低降伏点鋼によるシームレス円形鋼管が最も望ましい。もっとも、芯材3は円形鋼管に限られず、角形鋼管であってもよい。しかし、角形鋼管は溶接組立については製作手間とコストがかかること、冷間成形材については繰り返しの塑性変形性能に難があると考えられることなどから円形鋼管の方が望ましい。
【0018】
<内補剛材>
内補剛材5は、芯材3が圧縮軸力を受けたときに座屈を補剛するべく芯材3の内部に挿入された部材である。
芯材3は、鋼管でもよく棒鋼でもよい。鋼管の場合には、円形鋼管(図2図5参照)でもよく、あるいは角形鋼管でもよい。また、棒鋼の場合には、図3に示すように、丸鋼でもよく、あるいは図4に示す角鋼でもよい。
【0019】
内補剛材5は芯材3とは固定されず、軸力を伝達しないように設置される。例えば、内補剛材5の材軸方向の全長は、芯材3の軸縮を考慮して芯材3よりも短く設定され、芯材3と内補剛材5とが栓溶接等によって材軸方向の1断面でのみ仮止めするか、あるいは接合部11のうちの片側のみと内補剛材5が溶接等で仮付けされる。
なお、芯材3が図2に示すような円形鋼管であれば、内補剛材5も円形鋼管もしくは丸鋼とすれば隙間の管理も容易であり製作しやすいので好ましい。
【0020】
<外補剛材>
外補剛材7は、芯材3が圧縮軸力を受けた時に座屈を補剛するべく芯材3の外周部を覆うように設置された部材である。この外補剛材7は、木質材により形成された中空の角形中空断面部材である。木質材としては、無垢の木材の他、集成材、LVL、CLTなどが挙げられる。
【0021】
外補剛材7は芯材3、内補剛材5、接合部11が組み立てられて一体化されたのちに取り付けられる。これは、外補剛材7は木質材であるため、外補剛材7を設置した状態で各部材同士の接合を溶接で行うとすれば、外補剛材7には火気養生が必要となり製作手間が大きくなるためである。
【0022】
外補剛材7は、材軸と直交する断面方向に2分割された2部材からなり、2部材がボルトもしくは接着剤で結合されて管状を形成している。図2図4に示す例は、コ字断面形状の二つの部材を、開口側を対向させてボルトや接着剤等によって一体化されている。一体化に用いるボルトのピッチや径、あるいは接着剤強度については、事前の実験等によって必要な仕様を確認して決定するのが好ましい。
【0023】
図1図4に示したものでは、中空部の断面形状を正方形としたが、図5に示すように芯材3の形状に合わせて中空部を円形とすることも可能である。この場合、製作手間はかかるものの隙間をより小さく管理しやすい利点がある。
【0024】
<座屈拘束部>
座屈拘束部9は、芯材3と、芯材3の内部に挿入された内補剛材5と、芯材3の外周部を覆う外補剛材7とにより構成されている。
内補剛材5と芯材3との隙間siと外補剛材7と芯材3との隙間soは概ね等しくすることが望ましい。
例えば、隙間siが隙間soよりも大きい場合、芯材3が塑性化してその剛性が低下してたわみが生じると、まず隙間が小さい外補剛材7と芯材3が接触し、外補剛材7にのみ曲げモーメントが伝達される。
【0025】
また、隙間siが隙間soよりも相当大きい場合には、芯材3が内補剛材5と接触する前に外補剛材7に作用する曲げモーメントが外補剛材7の曲げ耐力を上まわり、外補剛材7が損傷することとなる。従って、外補剛材7と内補剛材5の両方を座屈拘束材として活用するには、両者の隙間を等しく管理するのが好ましい。鋼材の径や板厚の管理許容差や、木質材の製作管理許容差等を勘案すれば、隙間siと隙間soの差は概ね2mm以内で設計するのが適切と考えられる。
【0026】
なお、図2に示す芯材3の内周面と内補剛材5の外周面のように共に断面円形の場合には、両者の隙間siは周方向のいずれの箇所でも同じである。しかし、外補剛材7の内周面が断面正方形で芯材3の外周面が断面円形の場合には、両者の隙間soは周方向で変化する。そこで、図2に示すように、隙間soは最小値を用いることとしている。このように、本発明における隙間si及び隙間soは、断面形状により隙間が周方向で変化する場合には、最小値を用いることとしている。
【0027】
芯材3から伝達される曲げモーメントは、外補剛材7と内補剛材5の曲げ剛性、すなわちそれぞれのヤング率と断面2次モーメントの積の比率で外補剛材7と内補剛材5に分配される。一般的には木質材よりも鋼材の方が品質が安定していてかつ粘り強く、降伏曲げモーメントに到達後もただちに破断に至るおそれは小さい。
したがって、内補剛材5の曲げ剛性を外補剛材7よりも大きく設計し、鋼材で構成される内補剛材5の方が曲げモーメントの負担率を大きくした方がリダンダンシーに優れるブレースとなる。
【0028】
<接合部>
接合部11は、芯材3の両端部に設けられ建築物の柱及び/又は梁と接合される部材である。
接合部11は、図1に示すように、十字形状の鋼材によって形成されている。
【0029】
以上のように構成された本実施の形態の座屈拘束筋交い部材1によれば、ブレースの外径を過大にせずに木材を座屈拘束材としてあらわしで使用し、意匠性と機能性を両立することができる。
【0030】
上述した本実施の形態に係る座屈拘束筋交い部材1を、柱と梁からなる架構部に配設することで、座屈拘束筋交い部材1を備えた架構構造を構成することができる。
このような、架構構造は、本実施の形態の座屈拘束筋交い部材1を備えることで、架構構造としても意匠性と機能性の両立が図られる。
【実施例0031】
本発明の効果を検証するために、座屈拘束ブレースの試設計を試みたので、以下説明する。
簡単のため、柱・梁との接合部11は省略し、座屈拘束部9のみについて、全体座屈防止条件を満足する仕様を試算した。
座屈拘束部9の長さを3500mmとし、想定する座屈長さもこれと同じ3500mmとする。また、ブレース芯材はφ127.0mm×9.0mmで設計軸力は900kNとする。外補剛材7は木材による中空部断面形状は正方形とし、木材のヤング率は10000N/mm2、引張耐力を42N/mm2とする。また、鋼材のヤング率は205000N/mm2、降伏応力を325N/mm2とする。全体座屈防止条件は理論式として以下に示す式(1)又は(2)で表される。
式(1)は外補剛管のみの従来例の場合であり、式(2)は発明例の場合である。
【0032】
【数1】
【0033】
表1に上式を満足するよう試設計した結果を示す。ただし、Nd /NEが1.0に近づくと、上式から明らかなように隙間や初期不整のわずかな違いに対して生じるたわみや曲げモーメントが大きく変化し不安定となることから、Nd /NE≦0.8の制約を設けている。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示されるように、本発明による場合の方が外補剛材7の外径を小さく抑えられていることがわかる。すなわち、本発明を適用することで、木質材をあらわしとしながら、芯材3の外周だけを木材で補剛したブレースに比べて細くて見栄えの良いブレースを実現できることがわかる。
【符号の説明】
【0036】
1 座屈拘束筋交い部材
3 芯材
5 内補剛材
7 外補剛材
9 座屈拘束部
11 接合部
図1
図2
図3
図4
図5