(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008370
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ニューマチックケーソンの遠隔操作システム
(51)【国際特許分類】
E02D 23/10 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
E02D23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110188
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000207780
【氏名又は名称】大豊建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元治
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 春生
(57)【要約】
【課題】操作機器と掘削機のタイムラグを意識することなく操作できる、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムを提供する。
【解決手段】ニューマチックケーソンの遠隔操作システムSは、掘削機50の位置及び姿勢を計測する掘削機計測器81と、地盤の状態を計測する地盤計測器82と、計測された掘削機50の位置及び姿勢と計測された地盤の状態とに基づいて、シミュレーション映像を演算する、演算器70と、遠隔地に配置されるモニタ71であって、演算器70によって演算されたシミュレーション映像を表示する、モニタ71と、遠隔地に配置される操作機器61であって、シミュレーション映像内の仮想掘削機50Xを操作するためにオペレータが操作する、操作機器61と、掘削機50を駆動制御する制御器60であって、オペレータによる操作機器61の操作に応じて掘削機50を駆動制御する、制御器60と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューマチックケーソンの遠隔操作システムであって、
掘削機の位置及び姿勢を計測する掘削機計測器と、
地盤の状態を計測する地盤計測器と、
計測された前記掘削機の位置及び姿勢と計測された前記地盤の状態とに基づいて、シミュレーション映像を演算する、演算器と、
遠隔地に配置される表示器であって、前記演算器によって演算されたシミュレーション映像を表示する、表示器と、
遠隔地に配置される操作機器であって、前記シミュレーション映像内の仮想掘削機を操作するためにオペレータが操作する、操作機器と、
前記掘削機を駆動制御する制御器であって、オペレータによる前記操作機器の操作に応じて前記掘削機を駆動制御する、制御器と、
を備える、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項2】
前記演算器は、前記掘削機の位置及び姿勢と、前記地盤の状態と、をそれぞれ所定のタイミングで取得してシミュレーション映像を再演算するようになっている、請求項1に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項3】
前記演算器は、前記掘削機が移動している間に、又は、前記掘削機が土砂バケットに掘削土砂を投入している間に、前記地盤の状態を取得してシミュレーション映像を再演算するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項4】
前記演算器は、シミュレーション映像を演算する際に、あらかじめ取得した地盤の強度及び種類に応じて、地盤からの負荷と掘削土砂の動きを再現するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項5】
土砂バケットの下部には重量センサが設置されており、前記演算器は、検出された重量に基づいて前記土砂バケットが満杯か否かを判定して、前記表示器を介してオペレータに通知するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項6】
前記演算器は、シミュレーション映像内の前記掘削機の位置及び姿勢が、取得した実際の前記掘削機の位置及び姿勢から、所定量を超えて相違すると、シミュレーション映像内の前記掘削機の位置及び姿勢を再演算するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項7】
複数の前記掘削機を備える場合、それぞれの前記演算器間で操作情報を共有して、他の前記掘削機の位置及び姿勢を演算したシミュレーション映像を、前記表示器に表示するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項8】
前記掘削機は、掘削時の地盤からの負荷を計測する負荷計測器を有しており、前記演算器は、あらかじめ想定した地盤からの負荷が実測値と比べて閾値を超えて相違する場合には、地盤の強度及び種類を修正して再現するようになっている、請求項4に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項9】
前記演算器は、前記シミュレーション映像内の地盤に、掘削する位置や深さ、堀り残し位置を表示するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【請求項10】
土砂バケットの内部を撮影する土砂バケットカメラをさらに備え、
前記演算器は、撮影された土砂バケットの内部画像の画像認識によって、土砂バケットが満杯か否かを判定するようになっている、請求項1又は請求項2に記載された、ニューマチックケーソンの遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニューマチックケーソン工法においては、高気圧作業となる作業室での掘削作業を、無人化された掘削機を使用した遠隔操作によって実施していた。地上の工事においても、遠隔操作によって掘削機を操作する技術が知られている(例えば雲仙普賢岳での一連の作業等)。
【0003】
このうちニューマチックケーソンの無人掘削では、地上の操作室において作業室内の映像を見ながら掘削機を操作することができるが、遠隔地から操作する場合にはタイムラグが問題となる。特に、操作機器と掘削機の接続に無線を利用した場合には、タイムラグの解消が大きな問題となっている。
【0004】
これに関連して、特許文献1には、施工手段を遠隔操作する操作者が、施工状況を目視や撮影像により直接視覚によって確認しなくても、施工手段を遠隔操作して施工することができる遠隔操作による施工方法及びシステムが開示されている。また、特許文献2には、遠隔操作する操作者に掘削量を指示する掘削管理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-278159号公報
【特許文献2】特開2021-25231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたシステムは、視覚情報のみによらずに、(遠隔)操作することを目的としたものである。そのため、操作機器と掘削機のタイムラグについては配慮されていなかった。さらに、特許文献2に記載された掘削管理装置は、掘削機に取り付けたカメラからの映像に重ねて掘削に関する情報を表示させるため、画像の角度や範囲に制限があった。
【0007】
そこで、本発明は、操作機器と掘削機のタイムラグを意識することなく操作でき、カメラの位置や函内の地盤状況に関係なく掘削に関する情報を付加できる、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のニューマチックケーソンの遠隔操作システムは、掘削機の位置及び姿勢を計測する掘削機計測器と、地盤の状態を計測する地盤計測器と、計測された前記掘削機の位置及び姿勢と計測された前記地盤の状態とに基づいて、シミュレーション映像を演算する、演算器と、遠隔地に配置される表示器であって、前記演算器によって演算されたシミュレーション映像を表示する、表示器と、遠隔地に配置される操作機器であって、前記シミュレーション映像内の仮想掘削機を操作するためにオペレータが操作する、操作機器と、前記掘削機を駆動制御する制御器であって、オペレータによる前記操作機器の操作に応じて前記掘削機を駆動制御する、制御器と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明のニューマチックケーソンの遠隔操作システムは、掘削機計測器と、地盤計測器と、シミュレーション映像を演算する演算器と、シミュレーション映像を表示する表示器と、遠隔地に配置される操作機器であって、シミュレーション映像内の仮想掘削機を操作するためにオペレータが操作する、操作機器と、掘削機を駆動制御する制御器であって、オペレータによる操作機器の操作に応じて掘削機を駆動制御する、制御器と、を備えている。このような構成であるため、操作機器と掘削機のタイムラグを意識することなく操作でき、カメラの位置や函内の地盤状況に関係なく掘削に関する情報を付加できる、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】遠隔操作システムの全体構成を説明する説明図である。
【
図2】ニューマチックケーソンの構成の説明図である。
【
図5】モニタの種類について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、以下の実施例では、1つのニューマチックケーソン(10)について説明するが、複数のニューマチックケーソン(10)についても、略同様の構成とすることができる。この場合には、複数のニューマチックケーソン(10)に対して、1つの操作室(30)のみを設けることも可能である。
【実施例0012】
(全体構成)
はじめに、
図1を用いて、実施例のニューマチックケーソンの遠隔操作システムSを含む全体構成について説明する。ニューマチックケーソンの遠隔操作システムSは、図示したように、主として、掘削機50、50を有するニューマチックケーソン10と、現場に配置される中央監視室20と、遠隔地に配置されてオペレータがいる操作室30と、遠隔地に配置されて指導者(熟練したオペレータ)がいる指導者室40と、に分散されて配置・構成されている。このうち、操作室30と指導者室40は、実際には同じ1つの部屋とすることも可能である。以下、各要素について詳しく説明する。
【0013】
ニューマチックケーソン10は、
図2に示すように、先端が細くなった刃口11が形成されており、この刃口11の内面と作業室スラブ12の下面とに囲まれて作業室13が形成されている。作業室13内には、少なくとも1台以上の掘削機50(50a、50b)が配置されており、遠隔操作される掘削機50(50a、50b)によって地盤(地山)を掘削してニューマチックケーソン10を沈下させていくようになっている。
【0014】
作業室13からは、地上に向かってマテリアルシャフト14が延びており、上部にマテリアルロック15が設置されている。同様に、作業室13からは、地上に向かって少なくとも1以上のマンシャフト16が延びており、上部にマンロック17が設置されている。
【0015】
掘削機50によって掘削された土砂は、土砂バケット18に投入されてマテリアルシャフト14及びマテリアルロック15を通じて外部に排出される。この他、図示を省略するが、作業室13やマンロック17内などに圧縮空気を送り込んだり排気したりするための圧気設備が配置されている。
【0016】
一方、ニューマチックケーソン10に近接する地上には、中央監視室20が設置されている。中央監視室20では、前述した掘削機50(50a、50b)、マテリアルシャフト14及びマテリアルロック15を介した資材の搬入と掘削された土砂の搬出、マンシャフト16及びマンロック17を介した作業員の入退室、マンロック17内での加圧、減圧等の圧力管理、ケーソンの沈下量、傾斜等の姿勢表示等、全体の監視や管理が行われる。
【0017】
さらに、本実施例の中央監視室20には、操作室30及び指導者室40に対してデータを伝送(送信及び受信)するための通信設備(中継器80;
図4参照)も配置されている。この通信設備(中継器80)としては、いわゆるインターネット網に接続するためのルータを使用することができる。
【0018】
そして、本実施例では、ニューマチックケーソン10及び中央監視室20から離れた遠隔地に、1つ以上の操作室30が設置されている。操作室30は、後述するように、オペレータが、シミュレーション映像を見ながら掘削機50(50a、50b)を操作するための部屋である。操作室30は、例えば、建設会社の本社、支店、作業所(現場事務所)等の一部に配置することができる。
【0019】
操作室30には、
図3に示すように、様々な機器が配置されている。すなわち、操作室30には、シミュレーション映像(71B)を見ながら、仮想掘削機(50X)を操作するために、オペレータが操作する、操作機器61と、後述するようにシミュレーション映像を演算する演算器70と、表示器としての3つのモニタ71A、71B、71Cと、が配置されている。
【0020】
操作機器61は、具体的には、オペレータの椅子の両脇に配置される2つのジョイスティックとすることができる。また、モニタ71A、71B、71Cとしては、LCDディスプレイやLEDディスプレイを使用することができる。なお、指導者室40は、ここで説明した操作室30と略同様の構成を備えるため、説明を省略する。
【0021】
(遠隔操作システムの構成)
次に、
図4のブロック図を用いて、本実施例の遠隔操作システムSの構成について説明する。
図4に示すように、ニューマチックケーソン10には、入力側(計測手段)として、掘削機50の位置及び姿勢を計測する掘削機計測器81と、地盤の状態を計測する地盤計測器82と、掘削機50に搭載される掘削機カメラ83と、作業室スラブ12に設置される360°旋回可能な函内カメラ84と、土砂バケット18の下部に配置される重量センサ85と、が設置され、出力側として、オペレータによる操作機器63(後述)の操作に応じて駆動制御される掘削機50が設置されている。
【0022】
この掘削機50を駆動制御するための制御器60は、ニューマチックケーソン10の掘削機50又は中央監視室20に設置されている。制御器60は、後述するように、操作機器61からの操作信号を、中継器80を介して受信して、掘削機50への駆動信号に変換するようになっている。
【0023】
また、掘削機計測器81は、掘削機50の位置及び姿勢を計測して中継器80を介して演算器70に伝送する。同様に、地盤計測器82は、作業室13内の地盤の状態(表面形状や水位線)を計測して中継器80を介して演算器70に伝送する。具体的には、地盤計測器82としては、作業室13の天井付近にレーザースキャナ(Lidar)を設置し、掘削後の実際の地盤形状を計測する。
【0024】
さらに、ニューマチックケーソン10の作業室13には、入力手段(撮像手段)として、掘削機50に搭乗した(と仮定した)オペレータ視点の掘削機カメラ83と、作業室スラブ12に設置されて作業室13内(函内)を撮影する函内カメラ84と、を備えている。掘削機カメラ83及び函内カメラ84で撮影された画像(動画)は、中継器80を介して演算器70に伝送される。さらに、図示しないが、後述するように土砂バケット18の内容量を撮影できる土砂バケットカメラを有することも好ましい。なお、土砂バケットカメラとして、函内カメラ84を兼用することも可能である。
【0025】
そして、本実施例では、中央監視室20、又は操作室30のいずれかに、演算装置(シミュレーション用のPC)として、計測された掘削機50の位置及び姿勢と計測された地盤の状態とに基づいて、シミュレーション映像を演算する、演算器70が設置されている。以下では、操作室30に演算器70が配置されているものとして説明する。演算器70では、計測値に基づいたシミュレーション映像の演算と、実測値との比較によるシミュレーション映像の補正演算と、が実行される。演算器70としては、例えば、パーソナルコンピュータを使用することができる。
【0026】
そして、操作室30には、入力側として、シミュレーション映像内の仮想掘削機50Xを操作するためにオペレータが操作する、操作機器61と、出力側として、演算器70によって演算されたシミュレーション映像を表示する、表示器としてのモニタ71と、が設置されている。このように、本実施例では、シミュレーション映像中に描画された仮想掘削機50Xを操作するためにオペレータが操作機器61を操作することによって、タイムラグを経た後に、実機である掘削機50が実際に駆動制御されるようになっている。
【0027】
モニタ71は、
図3~
図5に示すように、3つあることが好ましい。より詳しく言うと、モニタ71は、函内映像(掘削機視点)を表示するためのモニタ71Aと、シミュレーション映像を表示するためのモニタ71Bと、函内映像(全体)を表示するためのモニタ71Cと、から構成されている。つまり、モニタ71Bには、リアルタイムのシミュレーション映像が表示され、モニタ71Aにはタイムラグ(時間遅れ)のある実際のカメラ映像が表示される。
【0028】
このうち、シミュレーション映像を表示するモニタ71Bがメインのモニタであり、オペレータはモニタ71Bを見ながら操作機器61を操作する。なお、モニタ71Bのシミュレーション映像としては、従来型のオペレータ視点のものに加えて、仮想掘削機50Xを側方から見た視点の映像を表示することも可能である。
【0029】
さらに、シミュレーション映像の特性を生かして、実際のカメラ映像では見ることのできない、水中にある地盤のラインを表示することもできる。さらに、大きめの礫や岩を画像からAIを用いて判定して、表示色を変えることも可能である。
【0030】
なお、このうち函内映像(掘削機視点)と、シミュレーション映像と、は、1つのモニタ内に表示することも可能である。例えば、
図6に示すように、モニタ71の大部分はシミュレーション映像とし、中央下部の自機(仮想掘削機X)が映っている部分に、実際の函内映像(掘削機視点)を表示することができる。
【0031】
(演算器でのシミュレーション映像の演算について)
上述したように、演算器70は、計測された掘削機50の位置及び姿勢と計測された地盤の状態とに基づいて、シミュレーション映像を演算するようになっている。ここにおいて、演算器70は、掘削機50の位置及び姿勢と、地盤の状態と、をそれぞれ所定のタイミングで取得してシミュレーション映像を再演算(補正)するようになっている。つまり、この再演算(補正)は、リアルタイム(連続的な実施)ではなく、少し遅れて実施されるようにされている。
【0032】
演算器70における再演算(補正)のタイミングは、地盤に関しては、データ伝送量を平準化するために、掘削機50が移動している間に、又は、掘削機50が土砂バケット18に掘削土砂を投入している間に、地盤の状態を取得してシミュレーション映像を再演算することが好ましい。
【0033】
(再演算(補正)について)
次に、シミュレーション映像の個別の再演算(補正)の例を列挙して説明する。
【0034】
(1)掘削機の動作に関する補正
・課題:
掘削機50の不具合や想定外の負荷によって、仮想掘削機50Xの操作(動作でも同じ)通りに、実際の掘削機50が動作しない場合がある。
・解決手段:
掘削機50の位置や姿勢を検知するセンサ(掘削機計測器81)を装備し、実際の動きと再現映像の動きに差異がないかチェックする。
チェックは、必要に応じて定期的(所定のタイミング)、又は、任意のタイミングで実行する。所定量以上の差異が生じた場合には、再現映像を直ちに修正する。
・再現映像は、あくまで操作者の側に設置した演算器70によって仮想的に再現したものであり、センサからのデータを受信してから描画するものではないため(センサからのデータにタイムラグが生じるため)。
・負荷の強度の差異によって生じる、掘削機50動作の誤差を修正するために使用する。
-故障(ブームやバケットの破損等)を感知した場合は、速やかに通知する。
【0035】
(2)地盤条件に関する補正
・課題:
想定していた地盤と異なる地盤(地盤の強度、粘性、粒度等)。
・想定よりも掘れない、多く掘れる等。
水張掘削を行っている場合には、水位が高くなり、掘削土も水分が多くなる。
・解決手段:
少なくとも1台、函内(作業室13内)に旋回可能なカメラ(函内カメラ84)を設置し、定期的(所定のタイミング)、又は、任意のタイミングで函内の状況を管理者が確認する。
想定よりも硬い地盤が早く出現した場合などには、再現映像の修正を行う。
・再現映像の修正が行えない場合には、「岩盤が出現しました」「礫が出現しました」などの通知を行う。
・実機(掘削機50)のブームストロークやジャッキ推力を圧力センサや変位計により計測し、掘削時の値がシミュレータの値と大きく異なる場合は、実際の値に合致するように補正する。
【0036】
(3)想定していない埋設物があった場合の補正
・課題:
通知や対応が必要となる。
・解決手段:
「1.」において掘削機50に負荷がかかり、掘削機50の動きが止まるなど、再現映像との動きの差異が発生する。
発生した時点で、オペレータと管理者に何らかの障害物があることを通知し、掘削機50の動作を停止する。
管理者は、直ちに旋回可能なカメラ(函内カメラ84;ズーム機能があるとよい)で問題の生じた付近の映像を確認し、オペレータに何があったかを通知する。
【0037】
(4)排土に関する補正
・課題:
土砂バケット18への積込状況が想定と異なる。
・土砂バケット18の位置がずれている。
・残土の性情が想定と異なり、想定より積込量が多い場合や少ない場合が生じる。
・解決手段:
土砂バケット18に重量センサ85を取り付けて、いっぱいになったか感知させる。
・重量センサ85として圧力センサを上部に複数個所取り付けて感知させる。
・土砂バケット18の位置はスキャナ(地盤計測器82)などのデータで修正する。
土砂バケット18の内部を撮影できる土砂バケットカメラを作業室スラブ12に設置して、演算器70における画像認識によって土砂バケット18がいっぱいになったか否かを認識・判定させることもできる。
【0038】
(5)他の掘削機の動作に関する補正
・課題:
函内の掘削機が一台であれば、自身の操作を確認すれば基本的には確認できるが、複数台ある場合には、他の掘削機の動作も確認する必要がある。あくまで人間が操作するため、予定と違う場所に移動することもありうる。
・解決手段:
・他の仮想掘削機50Xの操作情報又は位置・姿勢情報を送受信して、再現映像に反映させる。
・再現映像に、他の仮想掘削機50Xの位置と旋回範囲を色付けして円筒状の範囲として表示させる(影響のある仮想掘削機50Xのみ)。
・他の掘削機50Xが近接した場合は、パトライト(登録商標)で警告表示する(緑→黄→赤)。
【0039】
(6)災害や事故による補正
・課題:
地震等の災害や停電などで、現場の機械が動かない場合も考えられる。
・解決手段:
災害や事故が発生した場合は、管理者が速やかに警告を通知する。
【0040】
(7)作業中に函内に入函者があった場合の対応
・課題:
掘削機50と接触しないような対応が必要となる。
・解決手段:
入函者がある場合は、オペレータに事前に通知するとともに、移動範囲と入函者の画像を再生映像に表示させ注意喚起する。
入函者の位置をICタグ等で感知・表示できるようにする。
【0041】
(8)その他 想定外の事象に対する対応
・課題:
不測の事態が発生するおそれがある。
・解決手段:
不測の事態に対しては、警報で通知できるようにする。
【0042】
(掘削手順)
ここで、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムSを使用した掘削手順について説明する。
1)操作者は、再現画像をモニタ又はヘッドマウントディスプレイを見ながら操作機器61を使用して掘削機を操作する。
2)掘削機50は、操作機器61から送られた操作信号に従って動作する。実際の掘削機50と同じ動作が再現画像として再現される。
3)掘削機50が地山を掘削するとき、再現画像は、土質の強度や種類、性情に従って、地山の負荷や動きをシミュレートした画像で再現する。また、掘削機50に加わる負荷もシミュレートされ、掘削機50の再現画像に再現される。
【0043】
(積込手順)
次に、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムSを使用した積込手順について説明する。
1)操作者は、再現画像を見ながら操作し、土砂バケット18に掘削土砂を積み込む。
2)土砂バケット18の位置は、センサ(不図示)などで確認し、再現画像に反映させる。
3)掘削機50によって土砂バケット18に土砂を積み込むとき、再現画像は、土質の種類や性情に従って、土砂の動きをシミュレートした画像で再現する。また、掘削機50に加わる重量もシミュレートされ、土砂バケット18の再現画像に再現される。
4)そして、土砂バケット18の重量センサ85によって土砂バケット18が満杯近くになったことが検知されると、モニタ上に情報が表示される。
【0044】
(遠隔地にいる指導者からの指導)
再現画像を共有し、再現画像上に遠隔地の指導者室40にいる指導者からの指示を視覚的に表示し、共有することができる。これにより、遠隔地にいる指導者から、的確な指導をうけることができる。さらに、指導者は、複数の現場を指導することができる。
【0045】
(モニタ映像の確認)
オペレータは、基本的には再現画像(シミュレーション映像)を見ながら掘削を行うが、確認のためにモニタ画像(実際のカメラ83による映像)に切り替えたり、比較のためにモニタ画像と再現画像を並べて表示したりできるようにしている(
図6参照)。管理者は、モニタ映像やセンサからの信号により異常を検知したら、ただちに掘削を停止させ、原因の解消に務める。
【0046】
(掘削位置の可視化による指示)
掘削沈下中のニューマチックケーソン10の傾斜や偏心などの姿勢制御を行う上で、掘削する位置や深さ、掘り残しの位置などが重要となる。この時に、再現画面(シミュレーション映像)上に、掘削する位置をマーキングや網掛け、図で囲むなど、分かりやすく図示することで、オペレータが掘削しやすくなる。この表示は、掘削が終わった部分については、消えるようにすることで、残りの掘削位置を確認しやすくなる。
【0047】
具体的には、演算器70は、AIを含む所定の計算手法を用いて、仮定した掘る位置と深さ、堀り残し位置に基づいて、ニューマチックケーソン10の挙動(傾斜量、偏芯量)を予測する。すなわち、ニューマチックケーソン10を適正な姿勢に制御するために必要な「掘る位置と深さ」、「堀り残し位置」を逆算的に計算する。そして、演算器70は、表示器としてのモニタ71に、逆算的に計算した掘る位置や深さ、堀り残し位置を表示するようになっている。
【0048】
(効果)
次に、本実施例のニューマチックケーソンの遠隔操作システムSが奏する効果を列挙して説明する。
【0049】
(1)上述してきたように、本実施例のニューマチックケーソンの遠隔操作システムSは、掘削機50の位置及び姿勢を計測する掘削機計測器81と、地盤の状態を計測する地盤計測器82と、計測された掘削機50の位置及び姿勢と計測された地盤の状態とに基づいて、シミュレーション映像を演算する、演算器70と、遠隔地に配置される表示器としてのモニタ71であって、演算器70によって演算されたシミュレーション映像を表示する、モニタ71と、遠隔地に配置される操作機器61であって、シミュレーション映像内の仮想掘削機50Xを操作するためにオペレータが操作する、操作機器61と、掘削機50を駆動制御する制御器60であって、オペレータによる操作機器61の操作に応じて掘削機50を駆動制御する、制御器60と、を備えている。このような構成であるため、操作機器61と掘削機50のタイムラグを意識することなく操作でき、カメラの位置や函内の地盤状況に関係なく掘削に関する情報を付加できる、ニューマチックケーソンの遠隔操作システムSとなる。また、ニューマチックケーソン10では、掘削作業が高気圧作業となるところ、本発明のニューマチックケーソンの遠隔操作システムSであれば、高気圧作業を回避できる。加えて、シミュレーション映像は、実際のカメラ映像ではなく、再現映像であるため、カメラの位置や函内の地盤状況によらずに、実際の掘削機50では取り付けることが難しい位置やアングルからの映像も見ることが可能である。
【0050】
(2)また、演算器70は、掘削機50の位置及び姿勢と、地盤の状態と、をそれぞれ所定のタイミングで取得してシミュレーション映像を再演算するようになっていることが好ましい。つまり、再演算(補正)のためのデータ取得は連続的(リアルタイム)ではなく、逐次的に実施することで、データ伝送量を抑制することができる。
【0051】
(3)さらに、演算器70は、掘削機50が移動している間に、又は、掘削機50が土砂バケット18に掘削土砂を投入している間に、地盤の状態を取得してシミュレーション映像を再演算するようになっていることが好ましい。このようにすれば、演算器70へのデータ伝送量を平準化することができる。
【0052】
(4)また、演算器70は、シミュレーション映像を演算する際に、あらかじめ取得した地盤の強度及び種類に応じて、地盤からの負荷と掘削土砂の動きを再現するようになっていることが好ましい。このようにすれば、施工前の調査結果を利用して、より地盤の状態の再現性を高めることができる。
【0053】
(5)さらに、土砂バケット18の下部には重量センサ85が設置されており、演算器70は、検出された重量に基づいて土砂バケット18が満杯か否かを判定して、モニタ71を介してオペレータに通知するようになっている。このように構成すれば、シミュレーション値に加えて実測値に基づいて、正確に土砂バケット18の吊上のタイミングを制御することができる。
【0054】
(6)また、演算器70は、シミュレーション映像内の掘削機(仮想掘削機50X)の位置及び姿勢が、取得した実際の掘削機50の位置及び姿勢から、所定量を超えて相違すると、シミュレーション映像内の掘削機(仮想掘削機50X)の位置及び姿勢を再演算するようになっている。このように映像を修正することで、実際の掘削機50の挙動をより正確に再現して、より正確な掘削作業・積込作業が可能となる。
【0055】
(7)さらに、複数の掘削機50、・・・を備える場合、それぞれの演算器70、・・・間で操作情報を共有して、他の掘削機(仮想掘削機50X)の位置及び姿勢を演算したシミュレーション映像を、モニタ71に表示するようになっている。このように構成・表示すれば、複数の掘削機50の位置が重ならずに効率よく掘削できるうえ、掘削機50どうしが接触することを防止できる。
【0056】
(8)また、掘削機50は、掘削時の地盤からの負荷を計測する負荷計測器(ブームストロークやジャッキ推力を計測するための圧力センサや変位計)を有しており、演算器70は、あらかじめ想定した地盤からの負荷が実測値と比べて閾値を超えて相違する場合には、地盤の強度及び種類を修正して再現するようになっている。このように途中で補正すれば、より正確な状態、すなわち現実に近い状態を再現して、シミュレーション映像内の仮想的な掘削作業を実施できる。
【0057】
(9)また、演算器70は、シミュレーション映像内の地盤に、掘削する位置や深さ、堀り残し位置を表示するようになっていることが好ましい。このように構成すれば、オペレータは、姿勢制御に最適な掘削位置や深さ、堀残し位置がわかりやすくなり、掘削作業に集中できる。さらに、誤った位置を掘削してしまい、ニューマチックケーソン10が想定以上に傾斜したり、偏芯量が大きくなり過ぎたりすることを防止できる。
【0058】
(10)さらに、土砂バケット18の内部を撮影する土砂バケットカメラ(不図示)をさらに備え、演算器70は、実際に撮影された土砂バケット18の内部画像の画像認識によって、土砂バケット18が満杯か否かを判定することもできる。このように構成すれば、各種の計測機器(センサ)を設置しにくい土砂バケット18の内容量を、カメラを用いた画像認識によって定量的に計測できる。加えて、シミュレーション映像内に内容量を表示させれば、オペレータは土砂バケット18の吊り上げのタイミングを把握することができる。
【0059】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。