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特開2024-837033レベルインバータの中性点電位制御装置および中性点電位制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083703
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】3レベルインバータの中性点電位制御装置および中性点電位制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20240617BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240617BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 F
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197656
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA15
5H770BA11
5H770DA03
5H770DA33
5H770EA01
5H770JA11W
5H770JA18W
5H770KA01Z
(57)【要約】
【課題】3レベルインバータの中性点電位のバランスを維持する。
【解決手段】逆相5次高調波電流指令値と正相基本波電流指令値を加算した電流指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差(減算器8,9の出力)に基づいてインバータの電圧指令を生成し(dq逆変換器13)、インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相5次高調波電流指令値に基づいて直流の零相電圧を求め(乗算器19)、前記上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、生成した6次の正弦波信号と、前記逆相5次高調波電流指令値に基づいて6次高調波の零相電圧を求め(乗算器22)、前記直流の零相電圧および6次高調波の零相電圧を、前記インバータの電圧指令に重畳し(加算器23,24)、重畳された電圧に基づいて生成したゲート信号によって、前記インバータのスイッチング素子をPWM制御する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高調波電流を出力する3レベルインバータにおいて、インバータの出力電圧に零相電圧を重畳することでインバータの中性点電位を制御する中性点電位制御装置であって、
逆相5次、正相7次、逆相11次、正相13次の少なくともいずれか1つ以上の高調波電流の指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成する電流制御部と、
インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記高調波電流の指令値に基づいて、直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を求め、前記求められた直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を、前記電流制御部で生成されたインバータの電圧指令に重畳する中性点電位バランス制御器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器により重畳された電圧に基づいて生成したゲート信号によって、前記インバータのスイッチング素子をPWM制御することを特徴とする3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項2】
前記電流制御部は、逆相5次高調波電流指令値と正相基本波電流指令値を加算した電流指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成し、
前記中性点電位バランス制御器は、インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相5次高調波電流指令値に基づいて直流の零相電圧を求め、インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、生成した6次の正弦波信号と、前記逆相5次高調波電流指令値に基づいて6次高調波の零相電圧を求め、前記求められた直流の零相電圧および6次高調波の零相電圧を、前記電流制御部で生成されたインバータの電圧指令に重畳する、ことを特徴とする請求項1に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項3】
前記電流制御部は、
逆相5次高調波のd軸電流指令値Id-5 およびq軸電流指令値Iq-5 を、系統電圧の電圧位相ωtを6倍にした6ωtを用いてdq変換して得た、ωtに同期する回転座標上の値と、正相d軸電流指令値Id1 および正相q軸電流指令値Iq1 とを加算する電流指令値加算器と、
インバータの出力電流検出信号を、系統電圧の電圧位相ωtを用いてdq変換して得た、ωtに同期する回転座標上の値と、前記電流指令値加算器の出力との偏差を求める減算器と、
前記減算器の出力を増幅し、電圧位相ωtに同期する回転座標上の電圧指令を出力するPIアンプと、
前記PIアンプの出力に基準電圧を加算した電圧指令をdq逆変換して、固定座標上のインバータの電圧指令値vu, vv*, vw*を出力するdq逆変換器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器は、
前記逆相5次高調波のd軸電流指令値Id-5 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するd軸側符号検出器と、
前記逆相5次高調波のq軸電流指令値Iq-5 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するq軸側符号検出器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される符号を乗算して直流の零相電圧αを求めるd軸側乗算器と、
系統電圧の電圧位相ωtを6倍にし、それに対応する位相の正弦波を求めたsin6ωtと、前記q軸側符号検出器から出力される符号と、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差とを乗算して、6次高調波の零相電圧γを求めるq軸側乗算器と、を備えていることを特徴とする請求項2に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項4】
前記電流制御部は、1±6n次(nは整数)高調波のd軸電流指令値およびq軸電流指令値を、dq変換して得た、系統電圧の電圧位相ωtに同期する回転座標上の値と、正相d軸電流指令値Id1 および正相q軸電流指令値Iq1 とを加算する電流指令値加算器と、
インバータの出力電流検出信号を、系統電圧の電圧位相ωtを用いてdq変換して得た、ωtに同期する回転座標上の値と、前記電流指令値加算器の出力との偏差を求める減算器と、
前記減算器の出力を増幅し、電圧位相ωtに同期する回転座標上の電圧指令を出力するPIアンプと、
前記PIアンプの出力に基準電圧を加算した電圧指令をdq逆変換して、固定座標上のインバータの電圧指令値vu, vv*, vw*を出力するdq逆変換器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器は、
前記1±6n次高調波のd軸電流指令値に各々係数を乗算し、それら各乗算出力の合計値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するd軸側符号検出器と、
前記1±6n次高調波のq軸電流指令値に各々係数を乗算し、それら各乗算出力の合計値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するq軸側符号検出器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される符号を乗算して直流の零相電圧αを求めるd軸側乗算器と、
系統電圧の電圧位相ωtを前記高調波の次数倍にし、それに対応する位相の正弦波と、前記q軸側符号検出器から出力される符号と、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差とを乗算して、1±6n次高調波の零相電圧を求めるq軸側乗算器と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項5】
前記電流制御部の電流指令値加算器で加算される高調波のd軸電流指令値、q軸電流指令値は、逆相5次高調波、正相7次高調波、逆相11次高調波、正相13次高調波の少なくともいずれか1つを含み、
前記中性点電位バランス制御器のd軸側乗算器は、前記直流の零相電圧αに代えて、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される符号と、系統電圧の電圧位相ωtを前記高調波の次数倍にし、それに対応する位相の余弦波とを乗算して、前記q軸側乗算器で求められた零相電圧とは90°位相の異なる高調波の零相電圧を求めることを特徴とする請求項4に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項6】
前記電流制御部の電流指令値加算器は、逆相基本波d軸電流指令値Id-1 および逆相基本波q軸電流指令値Iq-1 をさらに加算し、
前記中性点電位バランス制御器は、
前記逆相基本波d軸電流指令値Id-1 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力する逆相基本波d軸側符号検出器と、
前記逆相基本波q軸電流指令値Iq-1 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力する逆相基本波q軸側符号検出器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相基本波d軸側符号検出器から出力される符号と、系統電圧の電圧位相ωtを2倍にし、それに対応する位相の余弦波を求めたcos2ωtとを乗算して、2次高調波の零相電圧εを求める逆相基本波d軸側乗算器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相基本波q軸側符号検出器から出力される符号と、系統電圧の電圧位相ωtを2倍にし、それに対応する位相の正弦波を求めたsin2ωtとを乗算して、前記零相電圧εとは90°位相の異なる2次高調波の零相電圧ζを求める逆相基本波q軸側乗算器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器のd軸側乗算器は、前記直流の零相電圧αに代えて、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される検出符号と、系統電圧の電圧位相ωtを6倍にし、それに対応する位相の余弦波を求めたcos6ωtとを乗算して、前記零相電圧γとは90°位相の異なる6次高調波の零相電圧δを求めることを特徴とする請求項3に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載の中性点電位制御装置と、
請求項5に記載の中性点電位制御装置と、
設定した切替え条件成立時に、請求項4に記載の中性点電位制御装置又は請求項5に記載の中性点電位制御装置のうちいずれか一方の装置に切替える切替部と、を備えたことを特徴とする3レベルインバータの中性点電位制御装置。
【請求項8】
高調波電流を出力する3レベルインバータにおいて、インバータの出力電圧に零相電圧を重畳することでインバータの中性点電位を制御する中性点電位制御方法であって、
電流制御部が、逆相5次、正相7次、逆相11次、正相13次の少なくともいずれか1つ以上の高調波電流の指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成する電流制御ステップと、
中性点電位バランス制御器が、インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記高調波電流の指令値に基づいて、直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を求め、前記求められた直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を、前記電流制御部で生成されたインバータの電圧指令に重畳する中性点電位バランス制御ステップと、を備え、
前記中性点電位バランス制御ステップにより重畳された電圧に基づいて生成したゲート信号によって、前記インバータのスイッチング素子をPWM制御することを特徴とする3レベルインバータの中性点電位制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3レベル中性点クランプ式マルチレベルインバータにおける、中性点電位のバランス制御に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に中性点クランプ式3レベルインバータの構成を、図2にT型3レベルインバータの構成を各々示す。図1において、P、Nは図示省略の直流電源の正極端子、負極端子である。正極端子Pと負極端子Nの間には、直流部の上側コンデンサC1および下側コンデンサC2が直列に接続されている。
【0003】
また正極端子Pと負極端子Nの間には、スイッチング素子S1~S4の直列回路と、スイッチング素子S5~S8の直列回路と、スイッチング素子S9~S12の直列回路とが並列に接続されている。
【0004】
スイッチング素子S1およびS2の共通接続点と、スイッチング素子S3およびS4の共通接続点の間にはダイオードD1,D2が直列に接続され、スイッチング素子S5およびS6の共通接続点と、スイッチング素子S7およびS8の共通接続点の間にはダイオードD3,D4が直列に接続され、スイッチング素子S9およびS10の共通接続点と、スイッチング素子S11およびS12の共通接続点の間にはダイオードD5,D6が直列に接続されている。
【0005】
上側コンデンサC1および下側コンデンサC2の共通接続点(中性点O)は、ダイオードD1,D2の共通接続点、ダイオードD3,D4の共通接続点、ダイオードD5,D6の共通接続点に各々接続されている。
【0006】
スイッチング素子S2およびS3の共通接続点はU相端子Uに、スイッチング素子S6およびS7の共通接続点はV相端子Vに、スイッチング素子S10およびS11の共通接続点はW相端子Wに各々接続されている。
【0007】
図2において、P、Nは図示省略の直流電源の正極端子、負極端子である。正極端子Pと負極端子Nの間には、直流部の上側コンデンサC1および下側コンデンサC2が直列に接続されている。
【0008】
また正極端子Pと負極端子Nの間には、スイッチング素子S1およびS4の直列回路と、スイッチング素子S5およびS8の直列回路と、スイッチング素子S9およびS12の直列回路とが並列に接続されている。
【0009】
上側コンデンサC1および下側コンデンサC2の共通接続点(中性点O)とスイッチング素子S1およびS4の共通接続点の間にはスイッチング素子S2,S3が直列に接続され、中性点Oとスイッチング素子S5およびS8の共通接続点の間にはスイッチング素子S6,S7が直列に接続され、中性点Oとスイッチング素子S9およびS12の共通接続点の間にはスイッチング素子S10,S11が直列に接続されている。
【0010】
スイッチング素子S1およびS4の共通接続点はU相端子Uに、スイッチング素子S5およびS8の共通接続点はV相端子Vに、スイッチング素子S9およびS12の共通接続点はW相端子Wに各々接続されている。
【0011】
スイッチング素子S1~S12は、例えばIGBTなどの半導体スイッチング素子で構成されている。
【0012】
図1および図2中の、VDCPは上側コンデンサ電圧、VDCNは下側コンデンサ電圧、iNPは中性点電流、iNPUはU相の中性点電流、iはU相出力電流を各々表している。
【0013】
このようなインバータでは、負荷などの条件、スイッチング素子や直流コンデンサの特性のばらつきなどにより中性点電位にアンバランスが生じることがある。このアンバランスは、インバータから出力する電圧・電流波形にひずみが生じ負荷や系統に悪影響を与える、スイッチング素子に印加される電圧が過大になり素子が破壊される、といった問題の原因となる。
【0014】
従来技術では、有効電力や無効電力の入出力中にインバータの出力電圧に零相電圧を重畳することで中性点電位を制御できる。しかし、有効電力や無効電力をほとんど扱わない用途では、これらの技術を適用しても中性点電位を制御することが困難であり、中性点クランプ式やT型の3レベルインバータを適用できなかった。このような用途としては、例えば系統に接続するアクティブフィルタや逆相電流の補償装置などがある。
【0015】
また、非特許文献1ではスイッチング周波数を低くしたインバータに該当インバータを並列に接続し、高調波電流を吸収することで外部への影響を抑えかつ装置全体の効率を向上させた例が報告されている。
【0016】
非特許文献2では、中性点クランプ式3レベルインバータやT型3レベルインバータが有効電力を出力している際に、インバータ出力電圧に直流の零相電圧を重畳することにより中性点電位を制御する方法が提案されている。
【0017】
特許文献1、2では、無効電力を出力している際にインバータ出力電圧に6次正弦波の零相電圧を重畳することにより中性点電位を制御する方法が提案されている。
【0018】
特許文献3は非特許文献2、特許文献1、2を併用し、インバータが任意の力率で運転している場合において中性点電位を制御できるようにしたものである。
【0019】
特許文献4は零相電圧を使用せず、逆相2次高調波電流を用いて中性点電位を制御する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「瞬時無効電力補償装置を並列接続した三相系統連系インバータ」、電気学会論文誌D,Vol.138、No6,pp.530-537(2018)
【非特許文献2】「中性点クランプ電圧形PWMインバータの中性点電位変動の解析」、電気学会論文誌D,Vol.113、No1,pp.41-48(1993)
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平07-079574号公報
【特許文献2】特開平07-135782号公報
【特許文献3】特開2013-255317号公報
【特許文献4】特開2017-60272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
非特許文献2、特許文献1~3は正相の基本波電流を出力している場合のみ有効な方式である。出力電流が基本波でも逆相であったり高調波が中心だったりする場合は中性点電位を制御することはできない。
【0023】
特許文献4は、このような場合でも中性点電位を制御可能である。特に出力電流が零に近い軽負荷条件では、中性点電位への外乱が小さくなる反面、非特許文献2、特許文献1~3では中性点電位の制御が困難になる。特許文献4を適用すれば、軽負荷ならば不要な逆相2次高調波電流をブロックするだけで中性点電位の安定性を大幅に改善にでき、さらに適切な位相の逆相2次高調波電流をごく少量出力することで中性点電位を問題なく制御できる。
【0024】
しかし、出力電流が増加すれば中性点電位への外乱が大きくなり、中性点電位の維持に必要な逆相2次高調波電流が増加してしまうため、系統や負荷に悪影響を与える危険性が高まる。
【0025】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、出力電流の大半が高調波や逆相であり、正相基本波電流をほとんど出力しない場合においても、中性点電位のバランスを維持することができる3レベルインバータの中性点電位制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するための請求項1に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、
高調波電流を出力する3レベルインバータにおいて、インバータの出力電圧に零相電圧を重畳することでインバータの中性点電位を制御する中性点電位制御装置であって、
逆相5次、正相7次、逆相11次、正相13次の少なくともいずれか1つ以上の高調波電流の指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成する電流制御部と、
インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記高調波電流の指令値に基づいて、直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を求め、前記求められた直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を、前記電流制御部で生成されたインバータの電圧指令に重畳する中性点電位バランス制御器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器により重畳された電圧に基づいて生成したゲート信号によって、前記インバータのスイッチング素子をPWM制御することを特徴としている。
【0027】
請求項2に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、請求項1において、
前記電流制御部は、逆相5次高調波電流指令値と正相基本波電流指令値を加算した電流指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成し、
前記中性点電位バランス制御器は、インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相5次高調波電流指令値に基づいて直流の零相電圧を求め、インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、生成した6次の正弦波信号と、前記逆相5次高調波電流指令値に基づいて6次高調波の零相電圧を求め、前記求められた直流の零相電圧および6次高調波の零相電圧を、前記電流制御部で生成されたインバータの電圧指令に重畳する、ことを特徴としている。
【0028】
請求項3に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、請求項2において、
前記電流制御部は、
逆相5次高調波のd軸電流指令値Id-5 およびq軸電流指令値Iq-5 を、系統電圧の電圧位相ωtを6倍にした6ωtを用いてdq変換して得た、ωtに同期する回転座標上の値と、正相d軸電流指令値Id1 および正相q軸電流指令値Iq1 とを加算する電流指令値加算器と、
インバータの出力電流検出信号を、系統電圧の電圧位相ωtを用いてdq変換して得た、ωtに同期する回転座標上の値と、前記電流指令値加算器の出力との偏差を求める減算器と、
前記減算器の出力を増幅し、電圧位相ωtに同期する回転座標上の電圧指令を出力するPIアンプと、
前記PIアンプの出力に基準電圧を加算した電圧指令をdq逆変換して、固定座標上のインバータの電圧指令値vu, vv*, vw*を出力するdq逆変換器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器は、
前記逆相5次高調波のd軸電流指令値Id-5 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するd軸側符号検出器と、
前記逆相5次高調波のq軸電流指令値Iq-5 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するq軸側符号検出器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される符号を乗算して直流の零相電圧αを求めるd軸側乗算器と、
系統電圧の電圧位相ωtを6倍にし、それに対応する位相の正弦波を求めたsin6ωtと、前記q軸側符号検出器から出力される符号と、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差とを乗算して、6次高調波の零相電圧γを求めるq軸側乗算器と、を備えていることを特徴とする。
【0029】
請求項4に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、請求項1において、
前記電流制御部は、1±6n次(nは整数)高調波のd軸電流指令値およびq軸電流指令値を、dq変換して得た、系統電圧の電圧位相ωtに同期する回転座標上の値と、正相d軸電流指令値Id1 および正相q軸電流指令値Iq1 とを加算する電流指令値加算器と、
インバータの出力電流検出信号を、系統電圧の電圧位相ωtを用いてdq変換して得た、ωtに同期する回転座標上の値と、前記電流指令値加算器の出力との偏差を求める減算器と、
前記減算器の出力を増幅し、電圧位相ωtに同期する回転座標上の電圧指令を出力するPIアンプと、
前記PIアンプの出力に基準電圧を加算した電圧指令をdq逆変換して、固定座標上のインバータの電圧指令値vu, vv*, vw*を出力するdq逆変換器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器は、
前記1±6n次高調波のd軸電流指令値に各々係数を乗算し、それら各乗算出力の合計値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するd軸側符号検出器と、
前記1±6n次高調波のq軸電流指令値に各々係数を乗算し、それら各乗算出力の合計値を検出し、その検出値に応じた符号を出力するq軸側符号検出器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される符号を乗算して直流の零相電圧αを求めるd軸側乗算器と、
系統電圧の電圧位相ωtを前記高調波の次数倍にし、それに対応する位相の正弦波と、前記q軸側符号検出器から出力される符号と、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差とを乗算して、1±6n次高調波の零相電圧を求めるq軸側乗算器と、を備えていることを特徴とする。
【0030】
請求項5に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、請求項4において、
前記電流制御部の電流指令値加算器で加算される高調波のd軸電流指令値、q軸電流指令値は、逆相5次高調波、正相7次高調波、逆相11次高調波、正相13次高調波の少なくともいずれか1つを含み、
前記中性点電位バランス制御器のd軸側乗算器は、前記直流の零相電圧αに代えて、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される符号と、系統電圧の電圧位相ωtを前記高調波の次数倍にし、それに対応する位相の余弦波とを乗算して、前記q軸側乗算器で求められた零相電圧とは90°位相の異なる高調波の零相電圧を求めることを特徴とする。
【0031】
請求項6に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、請求項3において、
前記電流制御部の電流指令値加算器は、逆相基本波d軸電流指令値Id-1 および逆相基本波q軸電流指令値Iq-1 をさらに加算し、
前記中性点電位バランス制御器は、
前記逆相基本波d軸電流指令値Id-1 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力する逆相基本波d軸側符号検出器と、
前記逆相基本波q軸電流指令値Iq-1 の値を検出し、その検出値に応じた符号を出力する逆相基本波q軸側符号検出器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相基本波d軸側符号検出器から出力される符号と、系統電圧の電圧位相ωtを2倍にし、それに対応する位相の余弦波を求めたcos2ωtとを乗算して、2次高調波の零相電圧εを求める逆相基本波d軸側乗算器と、
前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記逆相基本波q軸側符号検出器から出力される符号と、系統電圧の電圧位相ωtを2倍にし、それに対応する位相の正弦波を求めたsin2ωtとを乗算して、前記零相電圧εとは90°位相の異なる2次高調波の零相電圧ζを求める逆相基本波q軸側乗算器と、を備え、
前記中性点電位バランス制御器のd軸側乗算器は、前記直流の零相電圧αに代えて、前記インバータの直流部の上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記d軸側符号検出器から出力される検出符号と、系統電圧の電圧位相ωtを6倍にし、それに対応する位相の余弦波を求めたcos6ωtとを乗算して、前記零相電圧γとは90°位相の異なる6次高調波の零相電圧δを求めることを特徴とする。
【0032】
請求項7に記載の3レベルインバータの中性点電位制御装置は、
請求項4に記載の中性点電位制御装置と、
請求項5に記載の中性点電位制御装置と、
設定した切替え条件成立時に、請求項4に記載の中性点電位制御装置又は請求項5に記載の中性点電位制御装置のうちいずれか一方の装置に切替える切替部と、を備えたことを特徴とする。
【0033】
請求項8に記載の3レベルインバータの中性点電位制御方法は、
高調波電流を出力する3レベルインバータにおいて、インバータの出力電圧に零相電圧を重畳することでインバータの中性点電位を制御する中性点電位制御方法であって、
電流制御部が、逆相5次、正相7次、逆相11次、正相13次の少なくともいずれか1つ以上の高調波電流の指令値と、インバータの出力電流を検出した検出電流との偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成する電流制御ステップと、
中性点電位バランス制御器が、インバータの直流部の直流電圧を分圧する上側コンデンサの電圧および下側コンデンサの電圧の偏差と、前記高調波電流の指令値に基づいて、直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を求め、前記求められた直流の零相電圧又は6次高調波の零相電圧を、前記電流制御部で生成されたインバータの電圧指令に重畳する中性点電位バランス制御ステップと、を備え、
前記中性点電位バランス制御ステップにより重畳された電圧に基づいて生成したゲート信号によって、前記インバータのスイッチング素子をPWM制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
(1)請求項1~8に記載の発明によれば、3レベルインバータの出力電流の大半が高調波や逆相であり、正相基本波電流をほとんど出力しない場合においても中性点電位のバランスを維持できる。これにより、中性点電位のアンバランスに起因する出力電圧・電流へのひずみを抑制でき、スイッチング素子に印加される電圧を均等にできる。
(2)請求項2、3に記載の発明によれば、3レベルインバータの出力電流の大半が逆相5次高調波電流の場合においても、中性点電位のバランスを維持できる。
(3)請求項4、5に記載の発明によれば、3レベルインバータの出力電流に正相基本波電流、逆相5次高調波電流、正相7次高調波電流が混在する場合においても中性点電位のバランスを維持できる。同様に拡張すれば、逆相11次や正相13次高調波電流にも対応できる。
(4)請求項4に記載の発明によれば、特に有効電力の入出力がある程度見込まれる用途に適用して、高い中性点電位のバランス維持効果が得られる。
(5)請求項5に記載の発明によれば、特に有効電力の入出力が非常に小さい用途に適用して、高い中性点電位のバランス維持効果が得られる。
(6)請求項6に記載の発明によれば、3レベルインバータの出力電流の大半が逆相基本波電流の場合においても、中性点電位のバランスを維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】中性点クランプ式3レベルインバータの主回路構成図。
図2】T型3レベルインバータの主回路構成図。
図3】本発明の実施例1の制御ブロック図。
図4】本発明の実施例2の制御ブロック図。
図5】本発明の実施例3の制御ブロック図。
図6】本発明の実施例4の制御ブロック図。
図7】本発明の効果をシミュレーションにて確認した際のシミュレーション条件を示す説明図。
図8】本発明の実施例1のシミュレーション結果を示す波形図。
図9】本発明の実施例3のシミュレーション結果を示す波形図。
図10】本発明の実施例4のシミュレーション結果を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。以下の実施例1~4では、インバータに電流制御を適用することを想定している。
【実施例0037】
図3に実施例1の制御ブロック図を示す。図3では、電流制御ブロック(電流制御部)と中性点電位バランス制御器を備えている。まず、電流制御ブロックの構成を述べる。
【0038】
1は、系統電圧(3レベルインバータが接続される系統の電圧)の検出信号Vsを入力とし、電圧位相ωtを出力するPLL(Phase Locked Loop)回路、2は3相分のインバータ出力電流検出信号Iを入力とし、検出電流Iからノイズやスイッチングリプルなどを除去するローパスフィルタ(LPF)である。
【0039】
3は、ローパスフィルタ2の出力を入力し、インバータ出力電流検出信号を電圧位相ωtに同期した回転座標上の値に変換するdq変換器である。dq変換器3の出力のうちd軸成分がId、q軸成分がIqとなる。
【0040】
d-5 は逆相5次d軸電流指令値、Iq-5 は逆相5次q軸電流指令値、Id1 は正相d軸電流指令値、Iq1 は正相q軸電流指令値である。
【0041】
4は、電圧位相ωtを6倍して6ωtを出力する乗算器であり、5は電圧位相ωtの-5倍に同期した回転座標上において、直流の値である電流指令値Id-5 、Iq-5 を、6ωtを用いて電圧位相ωtに同期した回転座標上の値に変換するdq変換器である。
【0042】
6は、逆相5次d軸電流指令値Id-5 のdq変換後の値と正相d軸電流指令値Id1 を加算する加算器、7は、逆相5次q軸電流指令値Iq-5 のdq変換後の値と正相q軸電流指令値Iq1 を加算する加算器である。
【0043】
8は加算器6の出力とd軸成分Iとの偏差を求める減算器、9は加算器7の出力とq軸成分Iとの偏差を求める減算器である。
【0044】
10はd軸の偏差(減算器8の出力)を増幅し電圧位相ωtに同期した回転座標上の電圧指令値を出力するPIアンプ、11はq軸の偏差(減算器9の出力)を増幅し電圧位相ωtに同期した回転座標上の電圧指令値を出力するPIアンプである。
【0045】
12は、d軸側のPIアンプ10の出力に基準電圧を加算する加算器である。この基準電圧は、系統電圧の定格振幅を表す固定値とするほか、系統電圧の検出信号Vsから振幅を検出して加算してもよい。またVsをdq変換してd軸、q軸両方に加算してもよい。
【0046】
13は、回転座標上の電圧指令値を入力し、電圧位相ωtを用いて固定座標上の値に変換するdq逆変換器である。dq逆変換器13の出力が電圧指令値vu, vv*, vw*となる。
【0047】
次に、中性点電位バランス制御器の構成を述べる。14は、逆相5次d軸電流指令値Id-5 の値を検出し、プラスならば1、マイナスならば-1、零ならば0を各々出力する符号検出器(d軸側符号検出器)である。
【0048】
15は、逆相5次q軸電流指令値Iq-5 の値を検出し、プラスならば1、マイナスならば-1、零ならば0を各々出力する符号検出器(q軸側符号検出器)である。
【0049】
16は、インバータの直流部の上側コンデンサ電圧VDCPの検出信号と、下側コンデンサ電圧VDCNの検出信号の偏差を求める減算器である。
【0050】
17は、減算器16で求めた偏差から、ノイズやスイッチングリプル、原理的に重畳する3次高調波リプルなどを除去するローパスフィルタ(LPF)であり、18はローパスフィルタ17の出力にゲインGをかける乗算器である。
【0051】
19は、符号検出器14から出力される逆相5次d軸電流指令値Id-5 の符号と、上側コンデンサ電圧VDCPと下側コンデンサ電圧VDCNの偏差にゲインGをかけた値(乗算器18の出力)との積を求める乗算器(d軸側乗算器)である。乗算器19の出力は、インバータの電圧指令(dq逆変換器13の出力)に重畳する、後述の直流の零相電圧αである。
【0052】
20は電圧位相ωtを6倍して6ωtを出力する乗算器であり、21は6ωtを入力し、対応する位相の正弦波(sin6ωt)を出力する正弦波生成器である。
【0053】
22は、符号検出器15から出力される逆相5次q軸電流指令値Iq-5 の符号と、正弦波生成器21の出力sin6ωtと、上側コンデンサ電圧VDCPと下側コンデンサ電圧VDCNの偏差にゲインGをかけた値(乗算器18の出力)との積を求める乗算器(q軸側乗算器)である。乗算器22の出力は、インバータの電圧指令(dq逆変換器13の出力)に重畳する、後述の6次高調波の零相電圧γsin6ωtである。
【0054】
23は、乗算器19の出力および乗算器22の出力の和を求める加算器であり、この加算器23の出力が中性点電位バランス制御器の出力となる。
加算器23の出力は、加算器24においてdq逆変換器13の出力である電圧指令値vu, vv*, vw*すべてに加算される。
【0055】
25は、加算器24の出力をPWM変調し、デッドタイムを付与してインバータのスイッチング素子のゲート信号に変換して出力するPWM変調器である。
【0056】
次に実施例1の動作を説明する。まず、インバータ出力電圧・電流と中性点から流出する電流の関係を明らかにする。U相出力電圧指令値をv 、U相出力電流をiUnとおき、以下の(1)式のように定義する。
【0057】
【数1】
【0058】
Vは電圧指令値の振幅であり、-1≦V≦1を想定する。ωは基本波の角周波数である。αは直流の零相電圧、γとδは互いに位相の90°異なる6次高調波の零相電圧の振幅を示している。βは電圧利用率向上のために重畳する3次高調波の零相電圧の振幅である。nは電流の高調波次数を表し、マイナスを含む整数である。n=1ならば正相の基本波電流、n=-5ならば逆相5次高調波電流を表す。φは電圧に対する電流の位相差である。
【0059】
U相の中性点電流の1周期あたりの平均値を求める。vu=0ならば中アーム(図1図2の回路における、スイッチング素子S2,S3,S6,S7,S10,S11)がON状態になり、U相出力電流iはすべて中性点(O)から流出する。
【0060】
=±1ではiは上下アームのスイッチング素子(S1,S5,S9,S4,S8,S12)を通過し中性点Oには電流が流れない。
【0061】
vu=0.3ならばiのうち70%が中性点Oを通過し、残り30%は上アームのスイッチング素子を通過する。この出力電流が中性点を通過する割合は以下の(2)式で表すことができる。
【0062】
【数2】
【0063】
n次高調波によるU相中性点電流iNPUnは、出力電流が中性点を通過する割合とiの積で、次の(3)式により求めることができる。
【0064】
【数3】
【0065】
U相の中性点電流の1周期あたりの平均値INPUnは、iNPUnを積分して求めることができる。ただし、絶対値は積分の区間を分けて評価する必要がある。ここでは位相角±π/2と±3π/2で場合分けを行うが、これはα、β、γ、δが0に近い場合のみ近似解として成り立つ。n=1におけるU相中性点電流の平均値INPU1は、次の(4)式となる。
【0066】
【数4】
【0067】
V相、W相についても同様に中性点電流を求めることができ、三相を合計した中性点電流の1周期あたりの平均値INPnも求めることができる。さらに、Idn,Iqnを以下の(5)式のように定義する。
【0068】
【数5】
【0069】
nに出現しやすい高調波の次数を入れてINPnを求め、φを(5)式で置き換えると、次の(6)式が得られる。
【0070】
【数6】
【0071】
非特許文献2が示すように、確かに正相基本波d軸電流、すなわち有効電力が入出力される場合において直流の零相電圧を重畳すると中性点電流を発生させることができ、これを用いて中性点電位を制御できることがわかる。
【0072】
また、特許文献1,2が示すように、正相基本波q軸電流、すなわち無効電力が入出力される場合ならば6次の零相電圧を重畳することによって中性点電流を発生させることができる。一応有効電力の入出力中に6次の零相電圧を重畳しても中性点電流を発生させることができるが、直流の零相電圧に比べて得られる中性点電流が1/35しかなく中性点電位の制御としては効果が非常に低くなってしまうこともわかる。
【0073】
非特許文献2と特許文献1,2の制御法は互いに干渉せず、特許文献3のように両方を併用できることも示されている。特許文献4が示すように、逆相2次高調波電流であれば零相電圧を重畳しなくても直接中性点電流に影響が及び(または中性点電流を操作でき)、零相電圧に3次高調波を重畳した場合は影響を受けるが、直流や6次高調波の零相電圧は影響しない。そのため特許文献4と非特許文献2,特許文献1~3は互いに干渉せず併用することができる。
【0074】
その一方で、(6)式より直流の零相電圧を重畳する場合、逆相5次や正相7次高調波でもd軸電流ならば中性点電流を発生させることができることが示されている。
【0075】
また、6次の零相電圧と逆相5次や正相7次高調波などの組み合わせでも中性点電流を発生させることができる。特に、6次高調波の零相電圧を重畳する場合は基本波よりも逆相5次や正相7次高調波電流と組み合わせた方が(6)式の係数が大きくなる。これはより大きな中性点電流を得られ、中性点電位を制御しやすいことを示している。
【0076】
実施例1は、以上の結果に基づき、d軸逆相5次高調波と直流の零相電圧(α)、およびq軸逆相5次高調波と6次高調波の零相電圧(γ)の組み合わせにより中性点電位を制御する。
【0077】
すなわち電流制御部は、逆相5次高調波電流指令値と正相基本波電流指令値を加算した電流指令値(加算器6,7の出力)と、インバータの出力電流を検出した検出電流(dq変換器3の出力)との偏差を減算器8,9で求め、それら偏差に基づいてインバータの電圧指令を生成し(dq逆変換器13)、中性点電位バランス制御器は、d軸側乗算器19によって直流の零相電圧αを求め、q軸側乗算器22によって6次高調波の零相電圧γを求め、零相電圧αとγの和をインバータの電圧指令(dq逆変換器13の出力)に重畳する。
【0078】
逆相5次d軸電流指令値Id-5 が、Id-5 >0かつVDCP>VDCNの場合、図3のブロックにより電圧指令値vu, vv*, vw*にはプラスの直流零相電圧(α:乗算器19の出力)が重畳される。すなわち(1)式においてα>0となる。このとき、(6)式よりINP-5<0となりマイナスの中性点電流が発生し、インバータを系統と接続する場合に系統側からインバータに流れ込む向きとなる。この中性点電流により上側のコンデンサ(C1)は放電、下側のコンデンサ(C2)は充電され、VDCPとVDCNの差は小さくなる。
【0079】
同じくVDCP>VDCだがId-5 <0の場合、符号検出器14の出力がマイナスとなり(1)式においてα<0となる。よって、INP-5<0は変わらずVDCPとVDCNの差を小さくするよう動作する。
【0080】
q-5 >0かつVDCP>VDCNの場合、6次の正弦波が零相電圧(γ:乗算器22の出力)として重畳されγ>0となる。(6)式よりマイナスの中性点電流が発生し、VDCPとVDCNの差は小さくなる。
【0081】
これによって中性点電位のバランスを維持することができ、中性点電位のアンバランスに起因する出力電圧・電流へのひずみを抑制でき、スイッチング素子に印加される電圧を均等にすることができる。
【0082】
一般的な高調波負荷では、次数の高い高調波ほど電流が小さくなることが多い。実施例1はこのような負荷と同じ系統に接続するアクティブフィルタなど、逆相5次高調波を中心に出力する装置を想定した中性点電位の制御法である。
【実施例0083】
実施例1において、例えば0.5p.u.の逆相5次d軸電流を出力中(Id-5=0.5)に直流の零相電圧(α)を重畳してINP-5を発生させ中性点電位を制御している場合を考える。
【0084】
この時、正相基本波d軸電流Id1も出力するとINP1も発生するが、Id1>-0.1p.u.ならばINP-5とINP1の向きが同じ、あるいはINP-5の絶対値がINP1の絶対値に比べ大きいため、問題なく中性点電位を制御できる。
【0085】
しかし、Id1<-0.1p.u.ではINP-5とINP1の向きが逆かつINP-5の絶対値がINP1の絶対値に比べ小さくなるため、意図とは逆向きの中性点電流が流れ中性点電位を制御できなくなり逆にバランスの悪化を促してしまう。
【0086】
このような場合、電圧指令値vu, vv*, vw*に零相電圧として加算する直流電圧の向きは、Id1が-Id-5/5よりも大きいか小さいかで判断しなければならない。
【0087】
実施例2は、実施例1に対して上記問題の対策を適用した。図4に実施例2の制御ブロックを示す。図4において図3と同一部分は同一符号をもって示している。図4の電流制御ブロックにおいて、図3の構成と異なる点は、インバータの検出電流(Id、)と偏差をとる電流指令値として、正相7次電流指令値を追加していることにある。
【0088】
すなわち、電圧位相ωtを-6倍して-6ωtを出力する乗算器31と、ωtの7倍に同期した回転座標上において、直流の値である正相7次のd軸電流指令値Id7 およびq軸電流指令値Iq7 を、-6ωtを用いて、ωtに同期した回転座標上の値に変換するdq変換器32と、dq変換器32の出力を逆相5次のd軸電流指令値Id-5 、q軸電流指令値Iq-5 のdq変換後の値とを各々加算する加算器33,34とを追加している。
【0089】
また、図4の中性点電位バランス制御器において、図3の構成と異なる点は、各電流指令値に係数を各々乗算し、それらの合計値によって直流の零相電圧αおよび6次の高調波の零相電圧γの符号を決定するように構成したことである。
【0090】
すなわち、正相7次d軸電流指令値Id7 に係数-1/7を乗算する乗算器35と、逆相5次d軸電流指令値Id-5 に係数1/5を乗算する乗算器36と、乗算器35,36の出力値および正相d軸電流指令値Id1の値を合計する加算器37とを設けて、加算器37の出力を前記符号検出器14に入力し、正相7次q軸電流指令値Iq7 に係数-1/13を乗算する乗算器38と、逆相5次q軸電流指令値Iq-5 に係数1/11を乗算する乗算器39と、正相q軸電流指令値Iq1 に係数-1/35を乗算する乗算器40と、乗算器38,39,40の出力値を合計する加算器41とを設けて、加算器41の出力を前記符号検出器15に入力している。その他の部分は図3と同様に構成されている。
【0091】
本実施例2では、d軸側において符号検出器14に入力される加算器37の出力、すなわちId1+Id-5/5-Id7/7が零より大きいか小さいかで直流の零相電圧α(d軸乗算器19の出力)の符号を決定する。上記の例でId-5=0.5, Id7=0では、Id1が-0.1未満の場合になるとαの符号が反転し、適切な零相電圧を重畳できる。本実施例2ではq軸に対してもこの対策を適用している。
【0092】
すなわち、符号検出器15に入力される加算器41の出力が零より大きいか小さいかで6次高調波の零相電圧γ(q軸側乗算器22の出力)の符号を決定している。
【0093】
そのため、正相基本波電流の出力もある場合や逆相5次ではなく正相7次高調波電流を中心に出力する装置にも実施例2を適用し中性点電位制御を行うことができる。同様に10次以降の高調波に対しても拡張することができる。
【0094】
すなわち図4の電流制御ブロックに、1±6n次(nは整数)高調波のd軸、q軸電流指令値を加算する加算器を追加し、中性点電位バランス制御器に、1±6n次高調波に対応して、前記と同様の、係数を乗算する乗算器、合計値を求める加算器、符号検出器、q軸側乗算器を設けて1±6n次高調波の零相電圧を求め、それをインバータの電圧指令(dq逆変換器13の出力)に重畳するように構成する。
【0095】
したがって実施例2によれば、3レベルインバータの出力電流に正相基本波電流、逆相5次高調波電流、正相7次高調波電流、および1±6n次高調波、例えば逆相11次高調波電流、正相13次高調波電流が混在する場合においても、中性点電位のバランスを維持することができる。
【実施例0096】
実施例1,2では、d軸電流と直流の零相電圧(α)の組み合わせにより中性点電位を制御する。これに対し、実施例3ではd軸電流と6次の零相電圧(δ)の組み合わせにより中性点電位を制御するよう変更した。前記(6)式のId1とId-5のαおよびδの項を比較すると、係数が最大となるのはId1のαの項、次に係数が大きい項はId-5のδの項である。そのため、例えば蓄電用コンバータにアクティブフィルタ機能を追加するなど、高調波電流の方が大きくても有効電力の入出力がある程度見込まれる用途ならば、実施例2による直流の零相電圧(α)を用いた中性点電位制御が有効である。
【0097】
しかし、アクティブフィルタ機能のみのコンバータなど有効電力の入出力が非常に小さい用途であれば、6次高調波の零相電圧(δ)を用いた中性点電位制御の方が高い効果を得られる。実施例3は、このような用途に適した中性点電位制御法である。
【0098】
図5に実施例3の制御ブロックを示す。図5において図4と同一部分は同一符号をもって示している。図5の中性点電位バランス制御器において、図4の構成と異なる点は、前記係数を乗算する乗算器35,36および合計値を求める加算器37に代えて、正相7次d軸電流指令値Id7 に係数7/13を乗算する乗算器51と、逆相5次d軸電流指令値Id-5 に係数5/11を乗算する乗算器52と、正相d軸電流指令値Id1 に係数1/35を乗算する乗算器53と、各乗算器出力値を合計する加算器54とを設け、さらに、電圧位相ωtを6倍して6ωtを出力する乗算器55と、6ωtを入力し、対応する位相の余弦波(cos6ωt)を出力する余弦波生成器56とを設け、余弦波生成器56の出力(cos6ωt)を前記乗算器19(d軸側乗算器)に乗算して、前記零相電圧γsin6ωtとは90°位相の異なる6次高調波の零相電圧δcos6ωtを求めるように構成している。その他の部分は図4と同様に構成されている。
【0099】
図5(実施例3)の構成においても、図4(実施例2)の場合と同様に10次以降の高調波(1±6n次高調波)に対して拡張することができる。
【0100】
このため実施例3によれば実施例2と同様に正相基本波電流と、複数の次数の高調波電流が混在する場合においても、中性点電位のバランスを維持することができ、さらに特に有効電力の入出力が非常に小さい用途に適用して、高い中性点電位のバランス維持効果が得られる。
【0101】
尚、実施例2と実施例3は、有効電力の出力に応じて、切替え部によって適宜切替えるようにしてもよい。切り替えの条件は、例えば単純に基本波d軸電流の指令値と固定のしきい値を比較して|Id1 |>0.1が成立したら実施例2を使用する方法がある。あるいは、前記(6)式の係数を比較して|Id1 |>5|Id-5 |/11が成立したら実施例2に切り替えてもよい。さらに厳密に、α=δにおける各高調波による中性点電流の和の大きさを比較して次の(7)式
【0102】
【数7】
【0103】
が成立したら実施例2に切り替え、不成立ならば実施例3に切り替えるとしてもよい。
【実施例0104】
実施例1~3では、逆相基本波電流のみ出力する場合には中性点電位を制御できない。これは、前記(6)式のINP-1に示すように、n=-1では直流や3次、6次の高調波電圧を零相電圧として重畳しても中性点電位を制御することができないためである。ここで、以下の(8)式のように2次の零相電圧を重畳することを考える。
【0105】
【数8】
【0106】
εcos2ωtとζsin2ωtは、互いに位相の90°異なる2次高調波の零相電圧である。
【0107】
そして改めてn=-1における中性点電流を求めると、次の(9)式
【0108】
【数9】
【0109】
となる。この結果より、逆相基本波電流を出力している場合は零相電圧に2次高調波を重畳すれば中性点電位を制御できることがわかる。実施例4は以上の結果に基づき、逆相基本波電流を出力する場合においても中性点電位を制御できるようにした。逆相基本波d軸電流が流れる場合には2次の余弦波を重畳し、q軸電流では2次の正弦波を重畳する機能を実施例1に追加した。また、実施例1の直流の零相電圧αとは異なり、d軸逆相5次高調波と6次の零相電圧(δ)の組み合わせを適用している。これにより、逆相5次高調波または逆相基本波電流を出力する場合に中性点電流を発生させ中性点電位を制御できる。
【0110】
図6に実施例4の制御ブロックを示す。図6において図3と同一部分は同一符号をもって示している。図6の電流制御ブロックにおいて図3の構成と異なる点は、電圧位相ωtを2倍して2ωtを出力する乗算器61と、ωtの-1倍に同期した回転座標上において、直流の値である逆相基本波のd軸電流指令値Id-1 およびq軸電流指令値Iq-1 を、2ωtを用いて、ωtに同期した回転座標上の値に変換するdq変換器62と、dq変換器62の出力を逆相5次のd軸電流指令値Id-5 、q軸電流指令値Iq-5 のdq変換後の値とを各々加算する加算器63,64とを追加したことにある。
【0111】
図6の中性点電位バランス制御器は、図3の中性点電位バランス制御器に対して、次の構成を追加している。65は、逆相基本波d軸電流指令値Id-1 の値を検出し、その検出値に応じた符号(プラスならば1、マイナスならば-1、零ならば0)を出力する符号検出器(逆相基本波d軸側符号検出器)である。
【0112】
66は、逆相基本波q軸電流指令値Iq-1 の値を検出し、その検出値に応じた符号(プラスならば1、マイナスならば-1、零ならが0)を出力する符号検出器(逆相基本波q軸側符号検出器)である。
【0113】
67は電圧位相ωtを2倍にして2ωtを出力する乗算器、68は2ωtを入力し、対応する位相の余弦波(cos2ωt)を出力する余弦波生成器である。
【0114】
69は、符号検出器65から出力される逆相基本波d軸電流指令値Id-1 の符号と、余弦波生成器68の出力cos2ωtと、上側コンデンサ電圧VDCPと下側コンデンサ電圧VDCNの偏差にゲインGをかけた値(乗算器18の出力)との積を求める乗算器(逆相基本波d軸側乗算器)である。乗算器69の出力が、2次高調波の零相電圧εである。
【0115】
70は電圧位相ωtを2倍にして2ωtを出力する乗算器、71は2ωtを入力し、対応する位相の正弦波(sin2ωt)を出力する正弦波生成器である。
【0116】
72は、符号検出器66から出力される逆相基本波q軸電流指令値Iq-1 の符号と、正弦波生成器71の出力sin2ωtと、上側コンデンサ電圧VDCPと下側コンデンサ電圧VDCNの偏差にゲインGをかけた値(乗算器18の出力)との積を求める乗算器(逆相基本波q軸側乗算器)である。乗算器72の出力が、前記εとは90°位相の異なる2次高調波の零相電圧ζである。
【0117】
73は加算器23の出力と乗算器69の出力を加算する加算器、74は加算器73の出力と乗算器72の出力を加算する加算器であり、加算器74の出力と前記dq逆変換器13の出力を加算器24において加算するように構成している。
【0118】
さらに図6における乗算器19(d軸側乗算器)は、符号検出器14から出力される逆相5次d軸電流指令値Id-5 の符号と、余弦波生成器56の出力cos6ωtと、上側コンデンサ電圧VDCPと下側コンデンサ電圧VDCNの偏差にゲインGをかけた値(乗算器18の出力)との積を演算して6次高調波の零相電圧δを求めるように構成している。
【0119】
尚、実施例4は、実施例2や実施例3と組み合わせ、正相7次高調波電流や正相基本波電流を出力する場合においても中性点電位制御を行うことができる。
【0120】
また、実施例4は実施例1~3とは干渉しないため併用でき、逆相基本波電流と高調波電流が混在する場合でも中性点電位のバランスを維持できる。
【0121】
実施例1~3は、(6)式が示すように逆相2次高調波電流とは干渉しない。また、実施例3においても(8)式にて定義した電圧指令値を用いてn=-2における中性点電流を求めても次の(10)式
【0122】
【数10】
【0123】
となり零相2次高調波電流とは干渉しない。そのため、本発明は特許文献4と併用することができ、これによって出力電流が零に近い場合においても中性点電位のバランスを維持できる。
【0124】
次に、本発明の効果をシミュレーションにて確認した結果を述べる。シミュレーション確認の際の主回路条件を図7に示す。
【0125】
図7において、3レベルインバータ70の出力側はリアクトルおよびコンデンサから成るフィルタ回路80を介して系統電源100に接続している。これは415V, 500kVAの中性点クランプ式3レベルインバータ(例えば図1)を想定したモデルである。
【0126】
71は3レベルインバータ70の直流電源であり、その正極端と中性点Oの間にはスイッチ72を介して32Ωの抵抗73を接続している。
【0127】
今回のシミュレーションでは、実施例1,3,4の制御を有効にして電流を出力し、時刻0.05秒において電圧バランス外乱として32Ωの抵抗73をスイッチ72で投入した。さらに、時刻0.15秒においてバランス制御を無効化した。
【0128】
図8に実施例1(図3)のシミュレーション結果を示す。出力電流は、(a)は1p.u.のd軸の逆相5次高調波、(b)はq軸の逆相5次高調波である。ただし、電流制御のPIアンプ(10,11)に300Hzの共振アンプも併用している。重畳する零相電圧は、(a)は直流(α)、(b)は6次高調波(γ)である。
【0129】
抵抗73を投入すると中性点のバランスに偏差は生じるが一定を維持し安定した運転を継続できている。バランス制御を無効化すると偏差が増加を続け不安定となった。(a)と(b)を比較すると、抵抗投入時の偏差は(a)の方が大きい。
【0130】
制御パラメータに差はなく重畳する零相電圧の振幅は偏差に比例するため、同じ大きさの中性点電流を発生させるために必要な零相電圧の振幅は(b)の方が小さい、すなわち中性点電位を制御しやすいことを示している。(6)式を見ても、INP-5においてαの係数よりもγの係数の方が大きく、同じ傾向を示している。
【0131】
実施例3(図5)では、d軸の逆相5次高調波の出力中に直流ではなく6次高調波(δ)の零相電圧を重畳することを提案した。この効果もシミュレーションにて確認した。図9に1p.u.のd軸の逆相5次高調波の出力中に6次高調波の零相電圧を用いて中性点電位制御を行った結果を示す。
【0132】
図8(a)と比較すると抵抗投入時の偏差が小さく、(6)式のINP-5におけるαとδの係数の差に表れているように、d軸の逆相5次高調波に対しては実施例3の方が中性点電位を制御しやすいことを示している。
【0133】
図10に実施例4(図6)のシミュレーション結果を示す。出力電流は1p.u.のd軸またはq軸の逆相基本波である。ただし、電流制御の共振アンプの周波数は100Hzに変更している。結果は図8と同じであり、制御が有効ならば抵抗73を投入しても中性点電位のバランスを維持できる。制御を無効にすると発散した。
【符号の説明】
【0134】
1…PLL回路
2,17…ローパスフィルタ
3,5,32,62…dq変換器
4,18,19,20,22,31,35,36,38,39,40,51,52,53,55,67,69,70,72…乗算器
6,7,12,23,24,33,37,34,41,54,63,64,73,74…加算器
8,9,16…減算器
10,11…PIアンプ
13…dq逆変換器
14,15,65,66…符号検出器
21,71…正弦波生成器
56,68…余弦波生成器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10