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特開2024-83707軽量気泡コンクリートの分析方法及び軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法
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  • 特開-軽量気泡コンクリートの分析方法及び軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083707
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】軽量気泡コンクリートの分析方法及び軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20180101AFI20240617BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G01N23/20
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197665
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】國本 恒平
(72)【発明者】
【氏名】今澤 公一
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA22
2G001CA01
2G001GA13
2G001LA03
(57)【要約】
【課題】軽量気泡コンクリートについて、初期状態が既知でない場合においても、高い精度で迅速にALCの劣化度(炭酸化の進行度)を評価すること。
【解決手段】トバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである現状実測値を得る現状実測値測定手順st1と、複数段階の炭酸化促進処理を施して、各段階毎の炭酸化促進処理後比較値を得る炭酸化促進処理後比較値測定手順st2と、トバモライト含有率と炭酸カルシウム含有率との相関を示す回帰式を得る回帰式規定手順st3と、回帰式から、トモバライト初期含有率を算出する初期状態推定手順st4と、を含んでなり、現状実測値測定手順st1及び炭酸化促進処理後比較値測定手順st2において、トバモライト含有率を、粉末X線回折によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法によって得る、軽量気泡コンクリートの分析方法による。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートの初期状態におけるトバモライト含有率を算出する軽量気泡コンクリートの分析方法であって、
前記軽量気泡コンクリートの被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである現状実測値を得る現状実測値測定手順と、
前記被検試料に複数段階の炭酸化促進処理を施して、各段階毎の前記被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである炭酸化促進処理後比較値を得る炭酸化促進処理後比較値測定手順と、
前記現状実測値及び複数の前記炭酸化促進処理後比較値からトバモライト含有率と炭酸カルシウム含有率との相関を示す回帰式を得る回帰式規定手順と、
前記回帰式から、前記被検試料の炭酸化進行開始前の初期状態におけるトバモライト含有率を算出する初期状態推定手順と、を含んでなり、
前記現状実測値測定手順及び前記炭酸化促進処理後比較値測定手順において、前記被検試料の前記トバモライト含有率を、粉末X線回折によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法によって得る、
軽量気泡コンクリートの分析方法。
【請求項2】
前記現状実測値測定手順及び前記炭酸化促進処理後比較値測定手順において、前記被検試料の前記トバモライト含有率及び前記炭酸カルシウム含有率の何れをも、粉末X線回折によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法によって得る、請求項1に記載の軽量気泡コンクリートの分析方法。
【請求項3】
前記パターンフィッティングをリートベルト解析法によって行う、
請求項1又は2に記載の軽量気泡コンクリートの分析方法。
【請求項4】
軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法であって、
請求項1又は2に記載の軽量気泡コンクリートの分析方法によって得た、前記被検試料の炭酸化進行開始前の初期状態におけるトバモライト含有率に対する該被検試料のトバモライト含有率の比率であるトモバライト残存率を評価基準として、前記軽量気泡コンクリートの劣化度を評価する、
軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリートの分析方法及び軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法に関する。詳しくは、本発明は、経年劣化が進行しているおそれのある軽量気泡コンクリートについて、初期状態におけるトバモライト含有率を算出する軽量気泡コンクリートの分析方法、及び、それを用いて行う軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で断熱性や耐火性、施工性に優れる建材として、建築物の壁等の建材として広く用いられている軽量気泡コンクリート(以下「ALC」とも言う)は、永年継続的に使用した場合に、強度低下や表面のヒビ割れ等の経年劣化が進行する。この経年劣化の主たる要因は、空気中の水分及び二酸化炭素と反応し、主要成分であるトバモライト(5CaO・6SiO・5HO)が、シリカゲル(SiO・nHO)と炭酸カルシウム(CaCO)とに分解すること(一般的に、これをALCの「炭酸化」と称している)によるものであることが知られている。
【0003】
ここで、ALCの炭酸化の進行速度は施工環境により大きく異なる。そのため、軽量気泡コンクリートについての劣化度、即ち、炭酸化の進行度は、一概に施工後の年数から判断することができない。従って、経年劣化が進行しているおそれのあるALCについては、ALCの劣化度(炭酸化の進行度)について施工年数には依拠しない現状分析手段に基づく客観性のある評価が必要となる。
【0004】
ALCの劣化度(炭酸化の進行度)についての評価方法として、評価対象のALCについて、化学分析による定量測定で得た全カルシウム分の酸化カルシウム換算量に対する熱分析法による定量測定等で得た炭酸カルシウム分の酸化カルシウム換算量の比率を炭酸化度として評価する方法等が既に提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、上記のALCの劣化度(炭酸化の進行度)についての評価方法は、何れも炭酸カルシウムを定量する方法であり、ALCの主成分であるトバモライトの減少量を直接定量する方法ではない。又、上記の各評価方法においては、炭酸化の進行により生成した炭酸カルシウムと、炭酸化が未進行の状態(出荷時の状態)において既に存在していた炭酸カルシウムとを識別することはできないため、出荷時のALCの状態(ALCの初期状態)が既知でない場合には、診断の精度が低下する可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-193658号公報
【特許文献2】特開2008-175647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
より高い精度でALCの劣化度(炭酸化の進行度)を評価するためには、ALC中のトバモライトの減少の度合を直接的に定量してこれを評価基準とすることが望ましいと考えられるが、そのような評価方法は未だ確立されていないのが現状であった。
【0008】
本発明は、経年劣化が進行しているおそれのある軽量気泡コンクリートについて、初期状態が既知でない場合においても、高い精度でALCの劣化度(炭酸化の進行度)を評価することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ALCの被検試料から粉末X線回折によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する独自のプロセスを経ることによって、効率良く、トバモライト含有率と炭酸カルシウム含有率との相関を示す回帰式を得ることができ、当該回帰式から、初期状態におけるトバモライト含有率を得ることができることに想到し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 軽量気泡コンクリートの初期状態におけるトバモライト含有率を算出する軽量気泡コンクリートの分析方法であって、前記軽量気泡コンクリートの被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである現状実測値を得る現状実測値測定手順と、前記被検試料に複数段階の炭酸化促進処理を施して、各段階毎の前記被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである炭酸化促進処理後比較値を得る炭酸化促進処理後比較値測定手順と、前記現状実測値及び複数の前記炭酸化促進処理後比較値からトバモライト含有率と炭酸カルシウム含有率との相関を示す回帰式を得る回帰式規定手順と、前記回帰式から、前記被検試料の炭酸化進行開始前の初期状態におけるトバモライト含有率を算出する初期状態推定手順と、を含んでなり、前記現状実測値測定手順及び前記炭酸化促進処理後比較値測定手順において、前記被検試料の前記トバモライト含有率を、粉末X線回折によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法によって得る、軽量気泡コンクリートの分析方法。
【0011】
(1)の軽量気泡コンクリートの分析方法によれば、経年劣化が進行しているおそれのある軽量気泡コンクリートについて、初期状態が既知でない場合にも、高い精度でALCの初期状態におけるトバモライト含有率を得ることができる。この方法により得ることができる「初期状態におけるトバモライト含有率」を基準値として採用することによって、ALCの初期状態が既知でない場合にも、高い精度でALCの劣化度(炭酸化の進行度)を評価することができる。
【0012】
(2) 前記現状実測値測定手順及び前記炭酸化促進処理後比較値測定手順において、前記被検試料の前記トバモライト含有率及び前記炭酸カルシウム含有率の何れをも、粉末X線回折によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法によって得る、(1)に記載の軽量気泡コンクリートの分析方法。
【0013】
(2)の軽量気泡コンクリートの分析方法によれば、(1)の軽量気泡コンクリートの分析方法において、リートベルト解析法等の各種のパターンフィッティングによる解析方法を採用することにより、トバモライトと炭酸カルシウムの分析を単一のプロセスの中で並行して行うことができるので、分析作業をより迅速に行うことができる。
【0014】
(3) 前記パターンフィッティングをリートベルト解析法によって行う、(1)又は(2)に記載の軽量気泡コンクリートの分析方法。
【0015】
(3)の軽量気泡コンクリートの分析方法によれば、(1)又は(2)の軽量気泡コンクリートの分析方法において、上述のパターンフィッティングを、入手容易で汎用的な解析用ソフトウエア等の具体的解析実行手段が広く普及しているリートベルト解析法によって行うことができる。
【0016】
(4) 軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法であって、(1)又は(2)に記載の軽量気泡コンクリートの分析方法によって得た、前記被検試料の炭酸化進行開始前の初期状態におけるトバモライト含有率に対する該被検試料のトバモライト含有率の比率であるトモバライト残存率を評価基準として、前記軽量気泡コンクリートの劣化度を評価する、軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法。
【0017】
(4)の軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法によれば、様々な異なる施工環境下において、様々な段階にまで経年劣化が進行しているおそれのある様々な軽量気泡コンクリートについて、それらの初期状態が既知でない場合にも、高い精度で迅速にALCの劣化度(炭酸化の進行度)を評価することができる。又、評価基準を、単純な、現状でのトバモライト含有率とはせずに、初期状態におけるトバモライト含有率に対する該被検試料のトバモライト含有率の比率である「トモバライト残存率」とすることで、初期状態の異なる様々な軽量気泡コンクリートについて、より高い精度で客観的に評価することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、経年劣化が進行しているおそれのある軽量気泡コンクリートについて、初期状態が既知でない場合においても、高い精度で迅速にALCの劣化度(炭酸化の進行度)を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」の作業工程図である。
図2】本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」における回帰式規定手順で得ることのできる回帰式を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」、及び当該分析方法により算出した「被検試料の炭酸化進行開始前の初期状態におけるトバモライト含有率」を用いて行う「軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法」の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<軽量気泡コンクリートの分析方法>
本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」は、経年劣化が進行しているおそれのある軽量気泡コンクリートについて、炭酸化進行開始前の初期状態の組成が既知でない場合にも、高い精度で当該軽量気泡コンクリートの初期状態におけるトバモライト含有率を得ることができる分析方法である。
【0022】
又、本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」によって得ることができる上記の「初期状態におけるトバモライト含有率」を基準値として用いる本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」によれば、初期状態が既知ではなく、尚且つ、劣化度の進行速度が異なる様々な環境に置かれていた軽量気泡コンクリートについて、それぞれの軽量気泡コンクリートの劣化度を、高い精度で客観的に評価することができる。
【0023】
本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」は、図1に示す通り、具体的には、以下に詳細を説明する各手順、即ち、現状実測値測定手順st1、炭酸化促進処理後比較値測定手順st2、回帰式規定手順st3、及び、初期状態推定手順st4と、を順次行うプロセスである。又、本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」は、現状実測値測定手順st1及び炭酸化促進処理後比較値測定手順st2における被検試料中のトモバライト等の定量を、粉末X線回折(XRD)によって得た回折パターンをリートベルト解析法等のパターンフィッティングによって解析する方法によって行うようにした点を技術的特徴の一つとする方法である。
【0024】
[現状実測値測定手順]
本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」における第1の手順である現状実測値測定手順st1は、分析対象とする軽量気泡コンクリートの被検試料について、現状におけるトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである現状実測値を得る手順である。
【0025】
ここで、ケイ酸カルシウム水和物の結晶鉱物であるトバモライトは、ALCの物性全般に深く関与している主要成分である。しかしながら、特許文献1及び2に開示されている従来のALCの劣化診断方法、即ち、被検試料の炭酸度に基づいてALCの劣化度を診断する従来の各診断方法においては、被検試料の分析は、炭酸カルシウムの定量と全カルシウム分の定量のみが行われおり、トモバライトを直接定量することは行われていない。又、上記の従来の各診断方法においては、炭酸カルシウムの定量は、熱重量-示差熱同時測定装置(TG-DTA)を用いる熱分析法によって行われており、全カルシウム分の定量は、蛍光X線分析(XRF:X‐ray Fluorescence)等の化学分析によって行われているが、これらの何れの分析方法によっても、ALC中のトバモライトを正確に定量することは不可能とされていた(特許文献1明細書段落[0014]~[0015]参照)。
【0026】
このような従来方法に対して、本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」における現状実測値測定手順st1では、少なくとも、トモバライトの定量については、「粉末X線回折(XRD)によって得た回折パターンをリートベルト解析法等のパターンフィッティングによって解析する方法」によって、ALC中のトモバライトを直接的に定量するようにした。尚、元来、結晶構造の精密化手法であるリートベルト解析法に代表される各種のパターンフィッティングは、解析の過程で各結晶相のスケール因子が精密化されるため、結晶相が複数含まれている場合には各結晶鉱物の含有比率を算出することもできることが知られている。そして、このような解析方法は、セメント業界等の他分野では、既に結晶鉱物の定量方法として利用されている(特開2007-76931号公報参照)。しかしながら、経年劣化の進行しているおそれのある軽量気泡コンクリート製品の初期状態を推定するためのプロセスへのリートベルト解析法に代表される各種のパターンフィッティングの応用は、従来前例のない試みである。
【0027】
又、粉末X線回折(XRD)及びリートベルト解析法等のパターンフィッティングを組合せた上記の「粉末X線回折(XRD)によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法(以下、「本発明の解析方法」とも言う)」によれば、トモバライトの定量と併せて、炭酸カルシウムの定量も同一処理の中で並行して行うことができる。従って、現状実測値測定手順st1及び炭酸化促進処理後比較値測定手順st2の両手順において、被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の分析を、何れも、上述の「本発明の解析方法」によって行うことによって、上記両手順(st1、st2)を、極めて効率良く行うことができるようになる。
【0028】
粉末X線回折(XRD)の回折パターンを解析するパターンフィッティングとしては、リートベルト解析法を用いることが好ましいが、これに限られず、プロフィルフィッティング法・WPPD法・等、他の方法で代替することもできる。
【0029】
「粉末X線回折(XRD)によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法」は、具体的には、定量対象とする結晶鉱物(トモバライト、炭酸カルシウム)の「結晶構造モデルデータ」を、ICSDデータベース(https://icsd.products.fiz-karlsruhe.de/en/)等から取り込んだ上で、リートベルト解析用のソフトウエア(一例として「RigakuPDXL2.1(株)リガク)」を用いて被検試料の解析を行うことによって、被検試料中におけるトモバライト及び炭酸カルシウムの定量を行うことができる。尚、「粉末X線回折(XRD)によって得た回折パターンをパターンフィッティングによって解析する方法」においては、内部標準物質を添加することで非晶成分量を算出することが可能とされているが、本発明の実施時にも1種以上、好ましくは2種以上の内部標準物質を添加することによって、非晶質量を算出することにより、分析対象とする結晶鉱物の含有量を高い精度で定量することができる。尚、トバモライトについては、この分析方法によって直接的に定量可能であり、炭酸カルシウムについては、炭酸カルシムの結晶である、カルサイト、バテライト、アラゴナイトの合算値として、定量することが可能である。
【0030】
[炭酸化促進処理後比較値測定手順]
「軽量気泡コンクリートの分析方法」における第2の手順である炭酸化促進処理後比較値測定手順st2は、ACLの被検試料に複数段階の炭酸化促進処理を施した後に、炭酸化の進行の度合が異なる各段階毎の被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである炭酸化促進処理後比較値を得る手順である。
【0031】
炭酸化促進処理は、ALCの被検試料を、温度、相対湿度、炭酸ガス濃度等の環境条件を、実際の施工環境よりも短時間で炭酸化が進行するような所定値に調整した試験用の環境下に既定時間(日数)保持することによって行う。環境条件の具体的な一例として、温度:20℃、相対湿度:90%、炭酸ガス濃度:3体積%とする例を挙げることができる。又、当該環境条件下で10日、20日、及び100日の期間保持する例を具体的な処理における処理時間の例として挙げることができる。
【0032】
上記の炭酸化促進処理を行った後、同処理後の被検試料について、トバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せである炭酸化促進処理後比較値を測定する。具体的には、一例として、上記環境下において、10日間経過後、20日間経過後、及び、100日間経過後のそれぞれの被検試料について、炭酸化促進処理後比較値を測定する。尚、炭酸化促進処理は、少なくとも2段階以上、好ましくは3段階以上、より好ましくは5段階以上の異なる処理時間の下で行い、複数(好ましくは3つ以上、より好ましくは5つ以上)の炭酸化促進処理後比較値を得るようにする。
【0033】
炭酸化促進処理後比較値測定手順st2における上述の炭酸化促進処理後比較値の測定も、現状実測値測定手順st1における測定と同様に、「粉末X線回折(XRD)によって得た回折パターンをリートベルト解析法等のパターンフィッティングによって解析する方法」によって行えばよい。
【0034】
[回帰式規定手順]
「軽量気泡コンクリートの分析方法」における第3の手順である回帰式規定手順st3は、現状実測値測定手順st1で得た現状実測値(被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せ)及び炭酸化促進処理後比較値測定手順st2で得た複数の炭酸化促進処理後比較値(炭酸化促進処理の被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の組合せ)から、トバモライト含有率と炭酸カルシウム含有率との相関を示す回帰式を得る手順である。
【0035】
図2は、回帰式規定手順st3で得ることのできる回帰式を示すグラフの一例である。図2のグラフは、x軸に各被検試料の炭酸カルシウム含有率、y軸に各被検試料のトバモライト含有率を取った座標に、現状実測値測定手順st1及び炭酸化促進処理後比較値測定手順st2で得た、被検試料のトバモライト含有率及び炭酸カルシウム含有率の各組合せをプロットしたものである。回帰式規定手順st3においては、最小二乗法等の各種の回帰分析手法を用いて、このようなプロットから、トバモライト含有率と炭酸カルシウム含有率との相関を示す回帰式を設定する。尚、一般的な組成のALCにおいては、通常、炭酸化の進行開始後における炭酸カルシウムの増加量はトモバライトの減少量に比例するので、回帰式が1次式となるであろうことは予め予測することができる。
【0036】
[初期状態推定手順]
「軽量気泡コンクリートの分析方法」における第4の手順である初期状態推定手順st4は、回帰式規定手順st3で得た上記の回帰式から、ACLの被検試料の炭酸化進行開始前の初期状態におけるトバモライト含有率(以下、「トモバライト初期含有率」とも言う)の推定値を算出する手順である。
【0037】
トモバライト初期含有率の推定値は、回帰式規定手順st3で得た上記の回帰式において、x=0となるときのyの値を近似値として採用することができる。例えば、図2のグラフ図における回帰式(1次式)のy切片におけるyの値を、トモバライト初期含有率の推定値とすることができる。尚、被検試料について、初期状態における炭酸カルシウムの含有量(以下「Ca-0」とも記載する)に関するデータを取得可能な場合には、x=(Ca-0)となるときのyの値をトモバライト初期含有率の推定値とすることにより、より高い精度で「トモバライト初期含有率」を推定することができる。但し、一般的に流通しているALCにおいて、炭酸化の進行していない初期状態におけるALC中の炭酸カルシウムの含有量(Ca-0)は、一般的には、5%以下の範囲内にあることが知られているので、図2等の回帰式において、x=0となるときのyの値をトモバライト初期含有率の推定値とした場合にも、実用上、充分な精度で軽量気泡コンクリートの劣化度を評価することができる。
【0038】
<軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法>
本発明の「軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法」は、経年劣化が進行しているおそれのある軽量気泡コンクリートについて、本発明の「軽量気泡コンクリートの分析方法」によって得ることができる上記の「トモバライト初期含有率」を基準値として用いることによって、初期状態が既知でない場合にも、軽量気泡コンクリートの劣化度を、高い精度で客観的に評価することができる評価方法である。
【0039】
本発明の「軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法」は、具体的な手順として、評価対象とするALCの被検試料について「軽量気泡コンクリートの分析方法」における初期状態推定手順st4で得た「トモバライト初期含有率」と、同じく同分析方法の現状実測値測定手順st1の実施時に得ることができる「現状におけるトバモライト含有率」とを比較し、前者に対する後者の比率である「トモバライト残存率」を算出し、これを評価基準として、軽量気泡コンクリートの劣化度を評価する評価方法である。
【0040】
「軽量気泡コンクリートの劣化度評価方法」の実施態様の一例として、「軽量気泡コンクリートの分析方法」における初期状態推定手順st4で得た「トモバライト初期含有率」を基準値として算出した上記の「トモバライト残存率」が、80%以上であるときに、「健全」、60%以上80%未満であるときに「要注意」、60%未満であるときに「用補修工事」と評価する実施態様を挙げることができる。
【符号の説明】
【0041】
st1 現状実測値測定手順
st2 炭酸化促進処理後比較値測定手順
st3 回帰式規定手順
st4 初期状態推定手順

図1
図2