IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-コート剤、シートおよび成形体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083709
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】コート剤、シートおよび成形体
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20240617BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240617BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197669
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 和也
(72)【発明者】
【氏名】直江 紘平
(72)【発明者】
【氏名】小川 詩織
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG032
4J038CG141
4J038KA20
4J038MA03
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA04
4J038NA07
4J038PB04
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】
耐油性および耐水性が良好であって、高塗布量時の低抽出性にも優れるコート剤と、それを用いたシートおよび成形体を提供すること。
【解決手段】
エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、
前記エチレン性不飽和単量体(a)は、アルキル基の炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下およびカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、
前記樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、コート剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、
前記エチレン性不飽和単量体(a)は、アルキル基の炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下およびカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、
前記樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、コート剤。
【請求項2】
前記カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)は、メタクリル酸を含む、請求項1記載のコート剤。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和単量体(a)は、さらに芳香族エチレン性不飽和単量体(a-3)を10質量%以上40質量%以下含む、請求項1記載のコート剤。
【請求項4】
さらに、前記樹脂粒子(A)を基準として、炭素数6以上12以下の脂肪族モノアルコールを100ppm以上20000ppm以下含む、請求項1記載のコート剤。
【請求項5】
前記樹脂粒子(A)の平均粒子径が、30nm以上300nm以下である、請求項1記載のコート剤。
【請求項6】
食品包装用である、請求項1記載のコート剤。
【請求項7】
基材上の少なくとも片面に被覆層を有するシートであって、
前記被覆層は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、
前記エチレン性不飽和単量体(a)は、
アルキル基の炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下およびカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、
前記樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、シート。
【請求項8】
基材上の少なくとも片面に、請求項1~6いずれか1項記載のコート剤の被覆層を有する、シート。
【請求項9】
請求項7記載のシートを成形してなる成形体。
【請求項10】
前記コート剤の被覆層が内容物側になるように成形され、且つ内容物が食品である請求項9記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コート剤、シートおよび成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品包装シートには、薄紙、板紙等の紙や不織布等の基材シートにポリエチレン等の樹脂フィルムをラミネートしたラミネートシートが用いられてきた。ラミネートシートは、食品由来の油分による基材シートの油汚れや基材強度の低下防止等の機能を有する。一方で、近年、世界的な環境負荷低減の流れから、紙のリサイクル化が加速している。しかしながら、基材シートが紙であるラミネートシートで紙のリサイクルを行おうとする場合、基材シートとラミネートした樹脂フィルムとを分離する工程が必要となるが、経済的に大きな負担とならずに紙を分離回収するための技術的難度は高く、リサイクル化促進の障害となっていた。このような背景から、よりリサイクルが容易なコート剤タイプの食品包装シートが活発に検討されている。
【0003】
このような食品包装用シートとしては、例えば特許文献1において、肉類等の動物性油脂を含む食品を包装する場合に、耐油性付与を目的として、コアシェル型アクリルエマルジョンを用いたコート剤とそれを塗工してなる食品包装シートが開示されている。
【0004】
しかしながら、このようなコート剤では、肉類等の動物性油脂を含む食品に対しては一定以上の耐油性を示すが、水分が多い食品に対する耐水性が不足しており、そのコート剤を用いた食品包装シートによって包装された成形体がふやけてしまい、水分が外に染み出してしまうといった問題があった。
【0005】
さらには、食品包装用途の観点から、成形体から水に移行する物質中に存在している過マンガン酸カリウムによって酸化される物質の量を一定値以下にすること(以下、「低抽出性」と省略)が求められるが、耐水性を向上させるためにコート剤の塗布量を増やすと、低抽出性が悪化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-016065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐油性および耐水性が良好であって、高塗布量時の低抽出性にも優れるコート剤と、それを用いたシートおよび成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、上記エチレン性不飽和単量体(a)は、アルキル基の炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下およびカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、上記樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、コート剤に関する。
【0009】
本発明は、上記カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)は、メタクリル酸を含む、上記コート剤に関する。
【0010】
本発明は、上記エチレン性不飽和単量体(a)は、さらに芳香族エチレン性不飽和単量体(a-3)を10質量%以上40質量%以下含む、上記コート剤に関する。
【0011】
本発明は、さらに、上記樹脂粒子(A)を基準として、炭素数6以上12以下の脂肪族モノアルコールを100ppm以上20000ppm以下含む、上記コート剤に関する。
【0012】
本発明は、上記樹脂粒子(A)の平均粒子径が、30nm以上300nm以下である、上記コート剤に関する。
【0013】
本発明は、食品包装用である、上記コート剤に関する。
【0014】
本発明は、基材上の少なくとも片面に被覆層を有するシートであって、上記被覆層は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、上記エチレン性不飽和単量体(a)は、アルキル基の炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下およびカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、上記樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、シートに関する。
【0015】
本発明は、基材上の少なくとも片面に、上記コート剤の被覆層を有する、シートに関する。
【0016】
本発明は、上記シートを成形してなる成形体に関する。
【0017】
本発明は、上記コート剤の被覆層が内容物側になるように成形され、且つ内容物が食品である上記成形体に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、耐油性および耐水性が良好であって、高塗布量時の低抽出性にも優れるコート剤と、それを用いたシートおよび成形体を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】示差走査熱量(DSC)測定による樹脂粒子(A)のガラス転移温度について説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書において、「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。本明細書中に記載されている各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよいと解釈するものとする。
【0021】
また、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリル酸またはメタクリル酸」、「アクリレートまたはメタクリレート」を表すものとする。また、「(メタ)アクリル酸エステルモノマー」とは、「アクリル酸エステルモノマー」と「メタクリル酸エステルモノマー」の総称を指す。モノマーとは、エチレン性不飽和二重結合含有単量体を意味する。
【0022】
尚、本明細書では、エチレン性不飽和単量体(a)、炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(a-1)、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)、芳香族エチレン性不飽和単量体(a-3)、上記単量体(a-1)、(a-2)または(a-3)と共重合可能なその他エチレン性不飽和単量体(a-4)を、それぞれ単量体(a)、単量体(a-1)、単量体(a-2)、単量体(a-3)、単量体(a-4)と略記することがある。
【0023】
本明細書において、「Mw」はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の質量平均分子量である。「Mn」はGPC測定によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。これらは、[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0024】
≪コート剤≫
本発明のコート剤は、紙や不織布等の基材に塗工して、コート剤の被覆層(以下、「コート層」と略記することがある)を形成させてシートを形成するのに適しており、特に食品を包装するためのシート(以下、食品包装シートと省略)の形成に適している。また、本発明のシートは、肉類等の動物性油脂を含む食品に対する耐油性に優れるだけでなく、より水分の多い食品に対する耐水性も優れるため、コート層と食品とが直接接触する用途にも、好適に使用することができる。
【0025】
本発明のコート剤は、単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、単量体(a)は、単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下および単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、上記樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることを特徴とする。本発明のコート剤は成膜性に優れ、このコート剤を用いたシートおよび成形体は、従来樹脂の水性コート剤では困難であった、耐油性や耐水性、および低抽出性において優れた性能を発現する。
【0026】
<樹脂粒子(A)>
まず本発明で使用する樹脂粒子(A)について説明する。
樹脂粒子(A)は、単量体(a)の重合体であり、単量体(a)は、単量体(a-1)、単量体(a-2)、単量体(a-3)、単量体(a-4)に分類される。
【0027】
樹脂粒子(A)は、単量体(a)の全質量100質量%を基準として、単量体(a-1)を10~80質量%含有し、20~70質量%の範囲含有することが好ましい。上記の範囲にすることにより、樹脂粒子の成膜性が向上し、シートの耐油性、耐水性、および、低抽出性が向上する。
【0028】
[単量体(a-1)]
単量体(a-1)は、アルキル基の炭素数が6以上12以下であるアルキル基含有エチレン性不飽和単量体であり、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、親水疎水のバランスから、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0029】
[エチレン性不飽和単量体(a-2)]
エチレン性不飽和単量体(a-2)は、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体であり、樹脂粒子(A)の分散安定性の向上やコート剤の塗工時におけるレオロジー制御、造膜促進等を目的に樹脂粒子(A)の酸価は、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(a-2)の使用量によって制御可能である。
【0030】
樹脂粒子(A)の酸価は10~40mgKOH/gの範囲であり、好ましくは20~40mgKOH/gの範囲である。酸価が10mgKOH/g以上であると、合成時における樹脂粒子の分散安定性が良化する。この樹脂粒子を含むコート剤は、安定性に優れ、塗工性や成膜性が良好であるため、強靭で耐性に優れるコート層を形成する。したがって、シートが優れた耐油性を発現する。また樹脂のカルボキシ基間の相互作用も強くなるため、低抽出性も向上する。また、酸価が40mgKOH/g以下であると、特に水分に対する塗膜耐性が向上するため、耐水性が良化する。
【0031】
単量体(a-2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、けい皮酸等が挙げられるが、より安定性に優れる樹脂粒子(A)が得られ、コート剤の塗工性やコート層の食品由来の成分に対する塗膜耐性が良好である点から、単量体(a-2)は、メタクリル酸を含有することが好ましい。単量体(a-2)を含有することにより、樹脂粒子の分散安定性が良化し、成膜性が向上することでシートの耐油性や耐水性もより向上する。
【0032】
単量体(a-2)は、単量体(a)の全質量を基準として、1~10質量%含有し、2~5質量%含有することが好ましい。上記の範囲で含有することにより、樹脂粒子(A)の分散安定性が向上し、コート剤の塗工性や成膜性が向上することで、シートの耐油性や耐水性もより向上する。さらに過剰な官能基を用いないことで低抽出性も向上する。
【0033】
[単量体(a-3)]
単量体(a-3)は、芳香族エチレン性不飽和単量体(a-3)であり、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられるが、塗膜のガラス転移温度を調整する観点で、スチレン、α-メチルスチレンを含むことが好ましい。
【0034】
単量体(a)が単量体(a-3)を含む場合、単量体(a-3)は、単量体(a)の全質量を基準として、0質量%を超え89質量%以下含有することが好ましく、10~78質量%含有することがより好ましく、10~40質量%含有することがさらに好ましい。上記の範囲で含有することにより、樹脂粒子(A)の分散安定性が向上し、コート剤の塗工性や成膜性が向上する。したがって、シートの耐油性や耐水性もより向上する。
【0035】
[エチレン性不飽和単量体(a-4)]
エチレン性不飽和単量体(a-4)は、単量体(a-1)、単量体(a-2)および単量体(a-3)と共重合可能なその他エチレン性不飽和単量体である。樹脂粒子(A)の質量平均分子量や平均粒子径等を調整するといった所望する樹脂粒子(A)を得るために使用しても良い。
【0036】
単量体(a-4)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレートペンチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(
メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が炭素数1~4または13以上のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸等のスルホ基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有エチレン性不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等が挙げられ、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有エチレン性不飽0075和単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;
ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート等のケトン基含有エチレン性不飽和単量体;
アリル(メタ)アクリレート、1-メチルアリル(メタ)アクリレート、2-メチルアリル(メタ)アクリレート、1-ブテニル(メタ)アクリレート、2-ブテニル(メタ)アクリレート、3-ブテニル(メタ)アクリレート、1,3-メチル-3-ブテニル(メタ)アクリレート、2-クロルアリル(メタ)アクリレート、3-クロルアリル(メタ)アクリレート、o-アリルフェニル(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルラクチル(メタ)アクリレート、シトロネリル(メタ)アクリレート、ゲラニル(メタ)アクリレート、ロジニル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、ビニル(メタ)アクリレート、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、2-(2’-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;
N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0037】
単量体(a)が単量体(a-4)を含む場合、単量体(a-4)の中でも、樹脂粒子(A)の安定性向上や高分子量化によるコート剤物性向上の観点から、エチレン性不飽和単量体(a-4)は、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートのいずれか一種以上を含むことが好ましい。
【0038】
[炭素数6~12の脂肪族モノアルコール]
本発明のコート剤は、塗工した際の成膜性、塗工により得られるシートの耐油性や耐水性が向上する観点から、炭素数6~12の脂肪族モノアルコールを含有することが好ましい。炭素数6~12の脂肪族モノアルコールとしては、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられるが、特に成膜性向上の観点から、2-エチルヘキシルアルコールを含むことが好ましい。炭素数6~12の脂肪族モノアルコールは、樹脂粒子(A)を基準として、100ppm以上20000ppm以下含むことが好ましく、200ppm以上10000ppm以下含むことがより好ましい。
【0039】
[樹脂粒子(A)の製造方法]
樹脂粒子(A)の重合方法は、特に制限されないが、水性媒体中で、高分子量且つ低粘度、高固形分の樹脂粒子分散体を容易に得られる点から乳化重合を用いることが好ましい。異なるTgを有する樹脂粒子を調製する方法としては、乳化重合時において、滴下槽を多段に分け、其々生成する重合体のTgが異なるようにエチレン性不飽和単量体の組成を変えて滴下する多段重合や、予め塊状重合や溶液重合でアクリル樹脂を合成し、それを水相に溶解または分散させた後、先のアクリル樹脂とは別のTgを有する重合体が生成するようにエチレン性単量体を滴下して重合する方法等が挙げられるが、工程が煩雑でなく、生成する樹脂粒子の分散安定性が良好な点を考慮し、多段重合により合成することがより好ましい。
【0040】
樹脂粒子(A)において、-50~20℃の範囲にTgを有する重合体の総量と40~140℃の範囲にTgを有する重合体の総量の質量比は、80/20~40/60の範囲であることが好ましく、70/30~50/50の範囲であることがさらに好ましい。重合体の質量比が上記の範囲であることにより、コート剤が優れた成膜性を有する一方、形成したコート層の過剰な融着や熱運動は抑制され、各種塗膜耐性が良化する。したがって、シートが、より優れた耐油性、耐水性、および低抽出性を発現する。尚、上記の重合体の総量は、その重合体を構成するエチレン性不飽和単量体の総量のことを指す。
【0041】
樹脂粒子(A)はその粒子内において、-50~20℃の範囲にTgを有する重合体と40~140℃の範囲にTgを有する重合体が互いに相溶せず、粒子がコアシェル構造や海島構造、ラズベリー型等の異形粒子構造をとることができるが、より良好な塗膜物性発現の観点から、コアシェル構造をとることが好ましく、更にコア部が-50~20℃の範囲にTgを有する重合体、シェル部が40~140℃の範囲にTgを有する重合体で構成されたコアシェル構造であることがより好ましい。コアシェル構造であることにより、樹脂粒子の成膜性が大幅に良化し、低温乾燥条件下においてもコート剤が密で強靭な塗膜を形成する。したがって、シートが、より優れた耐油性、耐水性、および低抽出性を発現する。
【0042】
(重合開始剤)
単量体(a)の重合反応に用いられる重合開始剤としては、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤は、単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.1~4質量部を用いることが好ましく、0.2~2質量部用いる事が更に好ましい。
【0043】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物;を挙げることができる。
【0044】
乳化重合においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドのような従来既知のものを好適に使用することができる。
【0045】
(還元剤)
また、乳化重合では、重合開始剤とともに還元剤を併用してもよい。還元剤を併用することにより、乳化重合速度の促進や、低温での乳化重合が容易になる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート等の金属塩等の還元性有機化合物;チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物;塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素が挙げられる。これら還元剤は、単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.05~5質量部を用いることが好ましい。
【0046】
重合温度は、重合開始剤の重合開始温度以上であればよく、例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常80℃程度である。重合時間は特に制限されないが、通常2~24時間である。なお、単量体(a)は、上記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や放射線照射によって重合してもよい。
【0047】
(連鎖移動剤)
単量体(a)の重合においては、必要に応じて、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤は、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、n-ヘプチルメルカプタン、t-ヘキシルメルカプタン、t-ヘプチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ノニルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、t-デシルメルカプタン、n-ウンデシルメルカプタン、t-ウンデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-トリデシルメルカプタン、t-トリデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン、n-へプタデシルメルカプタン、t-ヘプタデシルメルカプタン、t-ヘキサデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-へプタデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン、t-へプタデシルメルカプタン、t-オクタデシルメルカプタン、メルカプタンメルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸ステアリル等が挙げられるが、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ノニルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、t-デシルメルカプタン、n-ウンデシルメルカプタン、t-ウンデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-トリデシルメルカプタン、t-トリデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン、n-へプタデシルメルカプタン、t-ヘプタデシルメルカプタン、t-ヘキサデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタンを用いることが好ましい。これらの連鎖移動剤を用いた重合体は、低極性部位である末端アルキル基と、そこに結合している高極性なアクリル樹脂とで適度な極性のコントラストが生じるため界面活性能を発現し、樹脂粒子(A)の分散安定性を更に向上させる。したがって、より優れた耐油性、耐水性、および低抽出性を発現する。連鎖移動剤は、単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.2~4質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは0.4~2質量部の範囲である。
【0048】
(緩衝剤)
単量体(a)の重合においては、必要に応じて、さらに緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤としては、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムが挙げられる。緩衝剤は、単量体(a)の総量100質量部を基準として、0.001~1質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは0.05~0.5質量部の範囲である。
【0049】
(塩基性化合物)
単量体(a)の重合の際、樹脂粒子の分散安定性を高めるために、中和剤として塩基性化合物を使用してもよい。塩基性化合物としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基;
水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムといったアルカリ水酸化物等の無機アルカリやアンモニア等の無機塩基が挙げられるが、耐水性の観点でアンモニアを使用することが好ましい。
塩基性化合物は、樹脂(A)中のカルボキシ基1molを基準として、0.75~1.5molの範囲で使用する事が好ましい。
【0050】
(界面活性剤)
また、樹脂粒子(A)を得る際、コート剤やシートの諸物性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、樹脂粒子の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられるが、安全性や良好な塗膜物性発現の観点からアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤であることが好ましい。シートの耐水性や低抽出性への悪影響が出にくい点から、単量体(a)の総量100質量部を基準として、界面活性剤は0.1~4.0質量部の範囲で含むことが好ましく、0.2~2.0質量部含むことがより好ましい。界面活性剤は、単独または2種類以上を使用できる。
【0051】
使用できるアニオン性界面活性剤として、例えば、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルアリールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられるが、シートの耐水性や低抽出性への悪影響が出にくい点から、上記の中でも界面活性剤はアルキル硫酸エステル塩、またはアルキルスルホコハク酸エステル塩であることが好ましく、更にアルキル硫酸エステル塩はラウリル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸エステル塩はジオクチルスルホコハク酸塩であることがより好ましい。
【0052】
ノニオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0053】
上記界面活性剤は、分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和二重結合を1個以上有する重合性界面活性剤を使用することができる。
【0054】
重合性界面活性剤は、重合性アニオン性界面活性剤、重合性ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0055】
上記重合性アニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がスルホコハク酸エステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル、(メタ)アクリレート硫酸エステル、およびリン酸エステル等が挙げられる。
上記重合性ノニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル等が挙げられる。
【0056】
上記で例示した中でも、界面活性剤はラウリル硫酸塩またはジオチルスルホコハク酸塩の少なくともいずれか一方を含み、エチレン性不飽和単量体(a)の総量100質量部を基準として、両者を合計で0.1~4.0質量部含むことが好ましく、更に0.2~2.0質量部含むことがより好ましい。ラウリル硫酸塩またはジオチルスルホコハク酸塩を上記の範囲で含有することにより、シートの諸物性に悪影響が出ない上に、樹脂粒子(A)の分散安定性が向上し、コート剤の造膜性も向上する。また、基材に対するコート剤の濡れも良化するため、塗工ムラが低減され、コート剤が基材にしっかりと浸透して結着する。したがって、したがって、より優れた耐油性、耐水性、および低抽出性を発現する。
【0057】
[ガラス転移温度(Tg)]
樹脂粒子(A)は、-50~20℃の低温側の範囲と、40~140℃の高温側の範囲に其々ガラス転移温度Tgを有する。このように樹脂粒子(A)は、DSCにより得られるガラス転移温度Tgを特定の温度範囲内に少なくとも2つ有していることが特徴であり、これらの温度範囲外に、さらにガラス転移温度Tgを有していてもよい。
低温側のTgは-40~10℃の範囲に有することがより好ましく、高温側のTgは60~140℃の範囲に有することがより好ましい。
Tgが-50~20℃の範囲にあると、コート剤の成膜性が向上し、隙間やクラックの無い密な塗膜を形成するため、耐油性や耐水性が向上する。
Tgが40~140℃の範囲にあると、コート層が過剰に融着し、コート層間でブロッキングを起こる恐れが無い。またコート層中に共存する低温側の重合体(Tgが-50~20℃)の運動性も抑制するため、低抽出性を発現する。
樹脂粒子(A)が-50~20℃の低温側の範囲と、40~140℃の高温側の範囲にそれぞれTgを有することにより、その相乗効果も働き、耐油性、耐水性、および低抽出性が非常に優れたシートを得ることができる。樹脂粒子(A)のガラス転移温度は、樹脂粒子(A)を構成するエチレン性不飽和単量体(a)の組み合わせにより、適宜、調整することができる。
【0058】
樹脂粒子(A)のガラス転移温度は、樹脂粒子(A)の分散体を乾燥して得た固体について、DSC測定をおこなうことによって求めることができる。昇温条件でDSCを測定すると、樹脂のガラス転移は吸熱現象として観察される。低温側のベースラインと変曲点の接線の交点の温度を樹脂のガラス転移温度とする。樹脂粒子(A)では、例えば図1に示すように、-50~20℃の低温側と、40~140℃の高温側で其々Tgを確認することができる。
【0059】
[質量平均分子量]
樹脂粒子(A)の質量平均分子量は、10万以上であることが好ましい。質量平均分子量が10万以上であることにより、コート層が強靭な塗膜を形成するため、水分や油分、塩分や酸等が混在した食品成分に晒されても、樹脂の膨潤や溶出が抑制され、コート層がより侵されにくくなる。樹脂粒子(A)の質量平均分子量は、重合する際の開始剤量や連鎖移動剤量により、適宜、調整することができる。なお、質量平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値をいう。
【0060】
[平均粒子径]
樹脂粒子(A)の平均粒子径は30~300nmの範囲であることが好ましい。上記の範囲の粒子径であることにより、コート剤が適度に基材に浸透しつつ、コート剤の成膜性が良好となり、密で強靭な塗膜を形成することで、耐油性や耐水性の優れたシートを得ることができる。
【0061】
<任意成分>
本発明のコート剤は、任意成分として、体質顔料、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、溶剤、ワックス等の添加剤を含むことが出来る。食品包装用コート剤として使用する場合の任意成分は、塗工後にシートに残存した場合、健康に悪影響を与えないことが好ましい。
【0062】
体質顔料は、食品ないしは食品添加物として認可されているものを用いるものが好ましい。具体的には、例えば、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、珪藻土(ホワイトカーボン)、セルロース粉末等が挙げられる。
【0063】
消泡剤は、鉱物油系、ポリエーテル系、シリコーン系等が挙げられるが、消泡性の観点でシリコーン系が好ましい。
【0064】
レベリング剤は、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系、アセチレングリコール系等が挙げられるが、経口安全性の観点からアセチレングリコール系が好ましい。
【0065】
防腐剤は、イソチアゾリン系防腐剤が好ましい。具体的には、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。
【0066】
溶剤は、経口安全性の観点からエタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0067】
ワックスは、例えばカルナバワックス、みつろう、パラフィンワックス、変性パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、変性ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、変性ポリプロピレンワックス、エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、変性エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、脂肪酸アマイド、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられるが、耐水性向上の観点でパラフィンワックス、変性パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0068】
≪シート≫
本発明のシートは、基材上の少なくとも片面に被覆層を有し、被覆層は、単量体(a)の重合体である樹脂粒子(A)を含み、単量体(a)は、単量体(a-1)を10質量%以上80質量%以下および単量体(a-2)を1質量%以上10質量%以下含み、樹脂粒子(A)は、-50℃以上20℃以下および40℃以上140℃以下のそれぞれの温度範囲内にガラス転移温度を有し、かつ酸価が10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であるシートを指す。また、本発明のシートは、本発明のコート剤から形成されるコート層を基材上に有するシートであってもよい。
【0069】
基材は、特に制限はないが、紙、不織布、その他多孔質な表面を有する基材であることが好ましく、紙であることがより好ましい。コート剤が基材に対して、十分に濡れ、基材中に浸透すると、基材とコート層がより強固に結着するためである。
【0070】
コート層を形成するための基材へのコート剤の塗布は、公知の塗工方法を使用できるが、ナイフコート、ディッピング、フレキソ方式およびグラビア方式が好ましい。フレキソ方式とはコート剤をアニロックスロール上と呼ばれる凹版から一旦樹脂版またはゴム版に転移させ、その樹脂版またはゴム版上のコート剤を原反に手にさせる方式である。樹脂版またはゴム版をパターニングすることも可能である。グラビア方式は凹版から直接原反にコート剤を転移させる方式と、凹版から一旦平版に転移させた後原反に転移させる所謂グラビアオフセット方式を含む。凹版をパターニングすることも可能である。グラビア方式の場合は塗工後にスムージングロールによるプレス処理することが好ましい。
【0071】
≪成形体≫
本発明の成形体は、本発明のシートを成型したものである。成形体は、耐油性、耐水性、低抽出性に優れるため、被覆面が食品に直に接触する用途にも使用することができ、例えばポップコーン、チョコレート、キャラメル等の菓子類、野菜や果物等の青果物だけでなく、ハンバーグ、ホットドッグ、ハンバーガー、ライスバーガー等のバーガー類、フライドチキン、フライドポテト、唐揚げ、天ぷら、揚げパン等の揚げ物類、グリルチキン、焼き鳥、さんま等の食肉や魚介類を焼いた食品、肉まん、あんまん、餃子、シューマイ、春巻き等の食品の包装に用いることができ、油分や塩分、酸やアミノ酸等の複数成分を含有し、且つ水分量の多いケチャップやソース、タレが付着した食品に対しても使用できる。また、低抽出性に優れるため、高塗布量の成形体とすることも可能であり、高い耐油性、耐水性が必要とされる冷凍食品や弁当箱の紙トレーのような様々な食品を包装するシートにも使用することができる。
【実施例0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の技術的範囲を何ら制限するものではない。なお、特に断りのない限り、実施例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表し、表中の数値は、固形分質量であり、空欄は使用していないことを表す。
【0073】
<ガラス転移温度(Tg)>
Tgは、DSC(示差走査熱量計 TAインスツルメント社製)を使用して測定した。具体的には乾燥させた測定用試料約3mgを精秤して入れたアルミニウムパンと、リファレンスである空のアルミニウムパンとをDSC測定ホルダーにセットし、10℃/分の昇温条件にて測定して得られたDSC曲線における吸熱現象の低温側のベースラインと変曲点での接線の交点の温度をTgとした。
【0074】
<酸価>
酸価は、JIS K2501に規定された水酸化カリウム・エタノール溶液を用いた電位差滴定法により求めた。
【0075】
<質量平均分子量>
樹脂の質量平均分子量は、乾燥させた樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.2%溶液を調製し、更にメンブレンフィルター(ADVANTEC社製13HP045AN 孔径0.45μm)で濾過処理をして、以下の装置および測定条件により測定した。
装置:HLC-8320-GPCシステム(東ソー社製)
カラム:TSKgel-Super Multipore HZ-M0021488 4.6 mmI.D.×15cm×3本(分子量測定範囲2千~約200万)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
流速:0.6mL/分
試料溶液使用量:10μL
カラム温度:40℃
【0076】
<平均粒子径>
平均粒子径は、樹脂粒子の分散体を500倍に水によって希釈し、得られた希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はナノトラックUPA(株)マイクロトラックベル社製)により測定を行った。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0077】
<炭素数6以上12以下の脂肪族モノアルコールの定量>
コート剤約1gを10倍に水によって希釈し、得られた希釈液1mlをガスクロマトグラフィー(GC)分析することで、炭素数6以上12以下の脂肪族モノアルコールの定量を行った。GC分析における測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
測定装置:GC-4000(ジーエルサイエンス社製)
カラム:AQUATEC-2 0.25mmID×60m、 df=1.4μm(ジーエルサイエンス社製)
昇温プログラム:80℃(3分)→3℃/分→200℃(7分)
キャリアガス:He
検出器:FID
【0078】
<コート剤の調製>
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器(反応槽)に、水80.0部、エマール0(花王社製ラウリル硫酸ナトリウム 有効成分100%)0.10部を仕込んだ。別途、ヘキシルアクリレート40.0部、スチレン20.0部、エマール0 0.6部、水25.0部をあらかじめ混合、撹拌して一段目に滴下するエチレン性不飽和単量体の乳化液(1段目の滴下槽)を調製した。反応容器の内温を85℃に昇温して窒素置換を十分行った後、重合開始剤として過硫酸アンモニウムの10%水溶液1.0部を添加して乳化重合を開始した。内温を85℃に保ちながら一段目に滴下するエチレン性不飽和単量体の乳化液を2時間かけて滴下した。一段目のエチレン性不飽和単量体乳化液の滴下完了後、30分80℃に温度を保った。
続いて、メチルメタクリレート35.0部、メタクリル酸5.0部、t-ドデシルメルカプタン2.0部、エマール0 0.2部、水25.0部をあらかじめ混合、撹拌して調製した二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液(2段目の滴下槽)と過硫酸アンモニウムの10%水溶液1.0部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に2時間、85℃で反応させた。反応完了後、撹拌しながら25%のアンモニア水を3.9部添加して中和し、樹脂粒子の水分散体を得た。得られた樹脂粒子のTgは-22℃と108℃であり、コア部-22℃、シェル部108℃であった。酸価は32mgKOH/g、平均粒子径は100nmであった。また、樹脂の質量平均分子量は40万であった。樹脂粒子水分散体にさらに水を添加して不揮発分を40.0%に調整し、コート剤を得た。尚、コート剤を分析した結果、コート剤中にはヘキシルアルコールが500ppm含まれていた。
【0079】
[実施例2~22、比較例1~8]
表1~3示す配合組成で、実施例1と同様の方法により、樹脂粒子の水分散体を調製した。実施例5~22および比較例1~8については、一段目のエチレン性不飽和単量体乳化液の滴下完了後、30分80℃に温度を保ったまま、25%アンモニア水を表1~3に示す量添加して中和した後、二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液の滴下を行った。
尚、表1~3において、空欄は配合されていないまたは含有されていないことを表す。
【0080】
《評価項目および評価方法》
コート剤およびシートの評価項目および評価方法は、以下の通りである。
【0081】
<シートの作製>
(シート)
得られたコート剤を市販の厚紙(秤量300g)の片面にバーコーター#18を使用して塗工した。塗工後、熱風オーブン80℃で60秒乾燥することでシートを得た。
【0082】
<耐油性>
得られたシートの耐油性を評価するために、コート剤を塗工した面に、80℃に加温したサラダ油を数滴垂らし、表面の染みの状態および油の裏抜けの状態を観察した。
[評価基準]
S:30分経過しても染みがない状態(極めて良好)
A:30分経過後、染みはみられるが、裏抜けはしていない状態(良好)
B:10分経過後、裏抜けはみられないが、30分経過後、裏抜け発生(使用可)
C:10分未満で裏抜けが発生(使用不可)
【0083】
<耐水性>
得られたシートのコート剤を塗工した面について、JIS P8140(吸水度試験方法:Cobb法)を参考に耐水性試験を行った。より厳しく評価するために、80℃に加温した水を用いて、試験時間30分で試験を行った。
[評価基準]
S:30分経過後の吸水度が10g/m2未満(極めて良好)
A:30分経過後の吸水度が10g/m2以上20g/m2未満(良好)
B:30分経過後の吸水度が20g/m2以上30g/m2未満(使用可)
C:30分経過後の吸水度が30g/m2以上(使用不可)
【0084】
<低抽出性>
基材の影響を無くすために、アルミ箔の片面にバーコーター#18を使用してコート剤を塗工し、80℃で60秒乾燥し、シートの一種であるアルミ箔塗工物を作成した。作成したアルミ箔塗工物を幅6cm・長さ16cmの大きさに裁断し、洗浄したガラス容器に入れ、96mLのイオン交換水に浸漬して蓋をし、レトルト釜で95℃―30分間レトルト処理を行った。レトルト処理後の水を分析し、全有機炭素(TOC)量の定量を行った。なお、TOC量とは、水中に存在する有機物の総量を有機物中の炭素量で示したものである。TOC分析における測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
測定装置:全有機体炭素計 TOC―L CPH(株式会社島津製社作所製)
[評価基準]
S:10ppm未満(極めて良好)
A:10ppm以上15ppm未満(良好)
B:15ppm以上20ppm未満(使用可)
C:20ppm以上(使用不可)
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表1~表3からわかるように、実施例1~22で得られたコート剤は、シートの耐油性、耐水性、低抽出性に大変優れており、実用レベルを十分に満たす性能を発現した。一方で、比較例1~8のコート剤は耐油性、耐水性、低抽出性のいずれかの物性が極端に劣っており、実用レベルの水準を満たすとは言い難い結果であった。
図1