(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008371
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】流路デバイス
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20240112BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240112BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110189
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山之内 豪
(72)【発明者】
【氏名】薬丸 康介
【テーマコード(参考)】
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081BA03
3C081BA06
3C081BA23
3C081BA30
3C081CA02
3C081CA13
3C081CA17
3C081CA19
3C081CA23
3C081CA32
3C081CA36
3C081CA40
3C081DA10
3C081DA21
3C081EA27
3C081EA28
4G075AA02
4G075AA39
4G075AA65
4G075BA10
4G075BB10
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB50
4G075FA01
4G075FA12
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】流路内で気泡が発生しにくい流路デバイスを実現する。
【解決手段】流路デバイス(1)は、流路溝(23)を有する基材(2)と、流路溝(23)を覆うように基材(2)に一体化される被覆材とを備える。流路溝(23)は、溝幅が500μm以上である。流路溝(23)の表面における純水に対する接触角が、35°以上60°以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路溝を有する基材と、
前記流路溝を覆うように前記基材に一体化される被覆材と、を備え、
前記流路溝は、溝幅が500μm以上であり、
前記流路溝の表面における純水に対する接触角が、35°以上60°以下である、流路デバイス。
【請求項2】
前記流路溝の深さに対する溝幅の比が、3.5以下である、請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記基材が、アクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に流路を設け、その流路に流体を流すことによって生化学測定や化学合成を行う技術が知られている。特に、微細加工技術を利用して作製される微小分析デバイスや微小反応デバイス等は、小型化・可搬性・検体少量化・試薬少量化・廃液少量化・迅速性等の観点から、好ましく用いられている。かかる目的のために用いられる流路デバイスの一例が、国際公開第2012/060186号(特許文献1)に開示されている。この特許文献1の流路デバイスは、流路溝(流路用溝30)を有する基材(基板3)と、その流路溝を覆う被覆材(フィルム4)とを接合して作製される。
【0003】
流路デバイスの流路内での流体の流れを極力均一化する観点から、基材の表面を親水化するように表面処理を行う場合がある。しかし、基材表面を親水化することによって、流路内に気泡が発生してそれを取り除くことが困難になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流路内で気泡が発生しにくい流路デバイスの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鋭意研究の結果、基材表面を親水化することによる流路内での気泡発生の問題は、流路溝の溝幅が一定以上広い場合(例えば、500μm以上の場合)に顕在化しやすいことを突き止めた。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明に係る流路デバイスは、
流路溝を有する基材と、
前記流路溝を覆うように前記基材に一体化される被覆材と、を備え、
前記流路溝は、溝幅が500μm以上であり、
前記流路溝の表面における純水に対する接触角が、35°以上60°以下である。
【0008】
この構成によれば、基材が接触角60°以下相当に親水化されているので、得られる流路デバイスにおいて流路内での流体の流れを極力均一化することができる。一方、基材の親水化は接触角35°以上相当に抑えられているので、流路溝が溝幅500μm以上と広く流路内で気泡が発生しやすい状況にあっても、流路内での気泡の発生を抑制することができる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0010】
一態様として、
前記流路溝の深さに対する溝幅の比が、3.5以下であることが好ましい。
【0011】
発明者らの検討によれば、溝幅との関係で、深さを一定以上深くすれば流路内での気泡発生が抑えられることも明らかになった。この点に鑑み、流路溝の深さに対する溝幅の比を3.5以下とすることで、流路内での気泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0012】
一態様として、
前記基材が、アクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、流路溝を有する基材を、高い形状精度で成型性良く形成することができる。また、元々は疎水性が比較的高いアクリル系樹脂製又はスチレン系樹脂製の基材を用いながらも、流体の流れの均一化を図りつつ、流路内での気泡の発生を抑制することができる。
【0014】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
流路デバイスの実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び
図3に示すように、流路デバイス1は、流路溝23を有する基材2と、流路溝23を覆うように基材2に一体化される被覆材3とを備えている。基材2と被覆材3との間に、流路28が形成されている。流路28は、基材2における流路溝23の内面と、被覆材3における流路溝23に対向する部分の内面とによって区画形成されている。
【0017】
基材2は、例えば1mm~5mm程度の厚みを有する数cm角の板状に形成されている。本実施形態では、基材2は、第一貫通孔21と、第二貫通孔22と、流路溝23とを含む。第一貫通孔21及び第二貫通孔22は、基材2を厚み方向に貫通するように形成されている。流路溝23は、第一貫通孔21と第二貫通孔22とを接続するように、基材2の少なくとも一方の面に設けられている。流路溝23は、基材2の一方の面に、互いに対向する一対の側面と、両側面から連なる底面とを有する、断面矩形状を呈する凹溝として形成されている。
【0018】
基材2に形成される流路溝23は、例えば0.5mm~2mmの溝幅Wに形成されている。流路溝23の溝幅Wは、0.5mm~1.5mmであることが好ましく、0.5mm~1mmであることがより好ましい。また、路溝23の溝幅Wは、500μm以上の範囲で、その延在方向の全体に亘って一律であっても良いし、延在方向の位置に応じて異なっても良い。本実施形態の流路溝23は、延在方向の全体に亘って溝幅Wが一律となっている。
【0019】
また、流路溝23は、例えば10μm~2mmの深さDに形成されている。流路溝23の深さDは、15μm~1.5mmであることが好ましく、20μm~1mmであることがより好ましい。なお、流路溝23の深さDは、基材2における被覆材3との接合面からの流路溝23の凹み長さであり、
図3のように基材2に対して被覆材3が下側となる場合には被覆材3の上面から路溝23の底面までの高さとなる。路溝23の深さDは、その延在方向の全体に亘って一律であっても良いし、延在方向の位置に応じて異なっても良い。本実施形態の流路溝23は、延在方向の全体に亘って深さDが一律となっている。
【0020】
また、流路溝23の深さDに対する溝幅Wの比は、特に限定されないが、例えば0.5~50であって良い。流路溝23の深さDに対する溝幅Wの比は、1~3.5であることが好ましく、1.5~3であることがより好ましい。
【0021】
また、流路溝23は、例えば1mm~100mmの長さとすることができる。基材2は、流体を透過させないように流体非透過性に形成されている。
【0022】
基材12は、例えば基材形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。基材形成用樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ビニル-アセテート共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、及びポリイミドからなる群から選択される1種以上の樹脂を例示することができる。中でも、形状精度及び成型性向上の観点から、基材形成用樹脂組成物は、アクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0023】
アクリル系樹脂としては、例えばポリアクリル酸;ポリメタクリル酸;ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸-2-エチルヘキシル等のポリアクリル酸エステル;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル等のポリメタクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリメタクリロニトリル;ポリアクリルアミド等を例示することができる。成型性向上の観点から、アクリル系樹脂は、アクリル酸メチルに由来する構造単位及びメタクリル酸メチルに由来する構造単位のうち、少なくとも一方の構造単位を含むことが好ましい。
【0024】
アクリル系樹脂は、モノマーの混合物に重合開始剤を添加して重合して得ることができる。重合開始剤としては、例えば過酸化ベインゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤を用いることができる。なお、基材形成用樹脂組成物は、構造が異なる2種以上のアクリル系樹脂を含有しても良い。
【0025】
スチレン系樹脂としては、例えばアタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、高耐衝撃ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、及びスチレン-フマル酸共重合体等を例示することができる。
【0026】
基材形成用樹脂組成物は、上述した樹脂成分以外に、顔料、染料、酸化防止剤、及び難燃剤等の添加物をさらに含有しても良い。また、基材形成用樹脂組成物には、必要に応じて、その他の含有物が混合されても良い。
【0027】
基材2に一体化される被覆材3は、本実施形態では、単層の流体非透過性のフィルム材で構成されている。被覆材3の厚さは、例えば50μm~300μmとすることができる。このような厚み設定であれば、作業性が良好となり、基材2と高精度に一体化させることができる。被覆材3の厚さは、60μm以上であることが好ましい。また、被覆材3の厚さは、200μm以下であることが好ましい。このような薄型の被覆材3を用いれば、例えば被覆材3を介して流路28内の温度制御が可能となる。或いは、例えば流路デバイス1を微小分析デバイスとして用いる場合に、自家蛍光によるバックグラウンドノイズを低減することが可能となる。
【0028】
被覆材3は、例えば被覆材形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。被覆材形成用樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えばアクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ビニル-アセテート共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、及びポリイミドからなる群から選択される1種以上の樹脂を例示することができる。中でも、成型性向上の観点から、被覆材形成用樹脂組成物は、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。
【0029】
アクリル系樹脂は、上述した基材形成用樹脂組成物に含まれるアクリル系樹脂と同様のものを用いることができる。被覆材形成用樹脂組成物に含まれるアクリル系樹脂は、アクリル酸C3~C6アルキルエステルに由来する構造単位及びメタクリル酸C3~C6アルキルエステルに由来する構造単位のうち、少なくとも一方の構造単位を含むことが好ましい。ここで、「C3~C6アルキルエステル」は、炭素数が3以上6以下のアルコールに由来するアルキル基を含むエステルを意味する。さらなる成型性向上の観点から、アクリル系樹脂は、アクリル酸ブチルに由来する構造単位及びメタクリル酸ブチルに由来する構造単位のうち、少なくとも一方の構造単位を含むことが好ましい。
【0030】
また、被覆材形成用樹脂組成物は、構造が異なる2種以上のアクリル系樹脂を含有しても良い。例えば、上述したアクリル酸C3~C6アルキルエステルに由来する構造単位及びメタクリル酸C3~C6アルキルエステルに由来する構造単位のうちの少なくとも一方に加え、アクリル酸メチルに由来する構造単位及びメタクリル酸メチルに由来する構造単位のうち、少なくとも一方の構造単位をさらに含んでも良い。
【0031】
被覆材形成用樹脂組成物は、上述した樹脂成分以外に、顔料、染料、酸化防止剤、帯電防止剤、及び難燃剤等の添加物をさらに含有しても良い。また、被覆材形成用樹脂組成物には、必要に応じて、その他の含有物が混合されても良い。
【0032】
なお、被覆材3は、上述した被覆材形成用樹脂組成物を用いてフィルム状に作製する以外に、市販の樹脂製フィルムをそのまま又は加工して用いても良い。
【0033】
流路デバイス1の製造方法は、基材準備工程と、被覆材準備工程と、表面処理工程と、一体化工程とを含む。基材準備工程と被覆材準備工程とは、順不同で実行されて良い。表面処理工程は、基材準備工程が完了した後に実行される。一体化工程は、被覆材準備工程及び表面処理工程が完了した後に実行される。
【0034】
基材準備工程は、一方の面に流路溝23を有する基材2を準備する工程である。基材準備工程では、例えば基材形成用樹脂組成物からなる板状母材又は市販の板状樹脂材に対して、切削加工、エッチング加工、フォトリソグラフィー、レーザーアブレーション、及びホットエンボス等の手法で流路溝23を形成する。或いは、所定の金型と基材形成用樹脂組成物とを用い、射出成形等の手法により、流路溝23が形成された基材2を直接的に作製しても良い。基材準備工程では、流路溝23と共に、第一貫通孔21及び第二貫通孔22をも同様にして形成する。
【0035】
被覆材準備工程は、被覆材3を準備する工程である。被覆材準備工程では、例えば被覆材形成用樹脂組成物を用いて薄膜状のフィルムを形成して、単層フィルムからなる被覆材3を準備する。
【0036】
表面処理工程は、基材準備工程で得られた基材2に対して表面処理を施す工程である。表面処理は、基材2における流路溝23が形成されている方の面(被覆材3と一体化される面)に対して施される。また、表面処理は、流路溝23の内面に対しても施される。表面処理としては、例えばプラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、親水性ポリマーによる表面コート処理等を例示することができる。親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、エバール(EVOH)、ポバール(PVOH)、又はホスホリルコリン基を有するポリマーを成分とするもの等を例示することができる。これらの表面処理を施すことで、流路28内での流体の流れを極力均一化することができる。
【0037】
本実施形態では、表面処理工程において、基材2及び流路溝23の表面における純水に対する接触角が35°以上60°以下となるように表面処理を行う。流路溝23の表面における接触角の調整は、基材2の構成材料に応じた初期の接触角に基づき、処理条件を調整することによって行うことができる。基材2の表面を親水化すればするほど(言い換えれば、接触角を小さくすればするほど)、流体の流れの均一化を図りやすくなる。しかしその一方で、流路溝23の表面も同様に親水化されると、流体の初期充填時に流体が先に壁面を伝って流れ、その結果、流路溝23の中央部分に気泡が発生しやすくなる場合がある。
【0038】
そこで、それらの点を考慮して、基材2及び流路溝23の表面の純水に対する接触角が60°以下となるように親水化しつつ、接触角が35°以上にとどまるような比較的緩和な条件で表面処理を行う。このようにすることで、流路28内での流体の流れを極力均一化することができ、さらに流路28内での気泡の発生を抑制することができる。基材2及び流路溝23の表面の純水に対する接触角は、55°以下であることが好ましく、50°以下であることがより好ましい。また、接触角は、38°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましい。
【0039】
一体化工程は、表面処理が施された基材2と被覆材3とを重ね合わせて一体化する工程である。一体化工程では、基材2における流路溝23が形成された面と単層フィルムからなる被覆材3とを対向させ、被覆材3が流路溝23を覆うように、基材2と被覆材3とを重ね合わせて熱圧着する。この場合、ヒーター等の加熱手段を用いて例えば50℃~200℃、好ましくは70℃~160℃に加熱した状態で、例えば1MPa~3MPa、好ましくは1.5MPa~2.5MPaの圧力で加圧して、基材2と被覆材3とを熱圧着することができる。また、熱圧着以外に、例えば溶剤接着や超音波貼り合わせ、粘着剤による貼り合わせ等の他の手法で、基材2と被覆材3とを一体化させても良い。
【0040】
以下に複数の試験例を示し、本発明についてより具体的に説明する。但し、以下に記載する具体的な試験例によって本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0041】
[試験例1]
以下の手順に従い、流路デバイスを作製した。まず、アクリル系樹脂(スミペックスLG2、住友化学株式会社製)を用いて50mm×50mm×1.5mm厚のアクリル製基板を作製し、切削機を用いて溝幅1000μm、深さ500μmの流路溝を形成して基材とした。この基材に対して、プラズマ処理によって表面処理を施した。プラズマ処理は、酸素プラズマで10分間照射した。この表面処理後の基材に純水を滴下し、自動接触角計(品番CA-Vシリーズ、協和界面科学株式会社製)を用いて接触角を測定したところ、60°であった。
【0042】
メタクリル酸メチル99.0質量部とアクリル酸ブチル1.0質量部とを含む樹脂組成物を厚さ125μmのフィルム状に成型してアクリルフィルムを得た。このアクリルフィルムの一方の面に粘着剤(6LQ-002、大成ファインケミカル株式会社製)を塗布し、オーブンで乾燥させた。その後、24℃の環境下で1週間静置してエイジングさせ、アクリルフィルムと接着層との積層体からなる被覆材を得た。
【0043】
その後、基材の流路溝が形成された面と被覆材における接着層とが対向するように基材と被覆材とを重ね合わせ、25℃、1MPaで3秒間加圧して接着一体化させ、基材と被覆材との積層体からなる流路デバイスを得た。
【0044】
[試験例2]
基材に形成する流路溝の深さを400μmとしたことを除いては試験例1と同様にして、流路デバイスを得た。
【0045】
[試験例3]
基材に形成する流路溝の深さを300μmとしたことを除いては試験例1と同様にして、流路デバイスを得た。
【0046】
[試験例4]
基材に形成する流路溝の深さを200μmとしたことを除いては試験例1と同様にして、流路デバイスを得た。
【0047】
[試験例5]
基材に形成する流路溝の深さを100μmとしたことを除いては試験例1と同様にして、流路デバイスを得た。
【0048】
[試験例6]
基材に形成する流路溝の溝幅を1500μmとしたことを除いては試験例3と同様にして、流路デバイスを得た。
【0049】
[試験例7]
基材に形成する流路溝の溝幅を500μmとしたことを除いては試験例3と同様にして、流路デバイスを得た。
【0050】
[試験例8]
基材に形成する流路溝の溝幅を350μmとしたことを除いては試験例5と同様にして、流路デバイスを得た。
【0051】
[試験例9]
基材に対して表面処理を行わなかったことを除いては試験例8と同様にして、流路デバイスを得た。
【0052】
[試験例10]
基材の構成材料としてスチレン系樹脂(HF-77、PSジャパン株式会社製)を用いたことを除いては試験例3と同様にして、流路デバイスを得た。
【0053】
[試験例11]
基材に対して表面処理を行わなかったことを除いては試験例10と同様にして、流路デバイスを得た。
【0054】
各試験例の流路デバイスの流路に送液して、流体の充填性を検証した。流体の充填性は、流路内に気泡が発生するか否かを光学顕微鏡で観察することによって評価した。流路内(特に、中央部)において気泡の発生が確認されなければ「〇」とし、気泡の発生が確認されると「×」とした。この結果を以下に示す。
【0055】
【0056】
以上の結果から、流路溝の表面における純水に対する接触角を35°~60°とすることで、流路内での気泡の発生が抑制され、流体の充填性が担保されることが確認された(試験例1~9,11)。また、流路溝23の深さに対する溝幅の比(W/D)を3.5以下とした場合には、流路溝の溝幅が500μm未満であっても流路内での気泡の発生が抑制されることが確認された(試験例8,9,11)。
【0057】
本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、上述した実施形態で開示された構成に関しては、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 流路デバイス
2 基材
3 被覆材
21 第一貫通孔
22 第二貫通孔
23 流路溝
26 流入口
27 流出口
28 流路