(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083725
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】グラスウールシート、ガラス繊維を含む熱可塑性樹脂複合材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 15/08 20060101AFI20240617BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240617BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240617BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
B29B15/08
C08L101/00
C08K7/14
B29K105:12
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197701
(22)【出願日】2022-12-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】522482485
【氏名又は名称】有限会社マー・ファクトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 正道
(72)【発明者】
【氏名】袁 飛
(72)【発明者】
【氏名】柳 彦汀
(72)【発明者】
【氏名】何 常湘
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB14
4F072AB15
4F072AC15
4F072AD04
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4F072AH23
4F072AK15
4F072AK16
4F072AL01
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4J002AA011
4J002BB021
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4J002BC031
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4J002BD151
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4J002CN011
4J002CN031
4J002DL006
4J002FA046
4J002FB146
4J002FD016
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】
高強度のグラスウールを用いたグラスウールシート、ガラス繊維を含む、従来よりも高い剛性を有する熱可塑性樹脂複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
熱可塑性樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、熱可塑性樹脂複合材中の平均繊維長が300μm以上、600μm以下であり、アスペクト比が50以上である熱可塑性樹脂複合材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とグラスウール由来のガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が300μm以上、600μm以下であり、アスペクト比が50以上である熱可塑性樹脂複合材。
【請求項2】
前記ガラス繊維の繊維引張強度は、900MPa以上である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合材。
【請求項3】
シランカップリング剤を前記ガラス繊維の表面処理剤として含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合材。
【請求項4】
前記ガラス繊維に対するシランカップリング剤の量が0.2重量%以上、2.0重量%以下である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂複合材料
【請求項5】
表面被覆剤を前記ガラス繊維の表面処理剤として含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合材。
【請求項6】
前記ガラス繊維に対する前記表面被覆剤の量が1.0重量%以上、5.0重量%以下である請求項5に記載の熱可塑性樹脂複合材。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、及びポリアミドイミド(PAI)の一種又は複数から構成されている、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合材。
【請求項8】
平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が2000μm以上、6000μm以下であり、繊維引張強度が900MPa以上であるガラス繊維を含むグラスウールから構成されるグラスウールシートであって、
前記グラスウールシートは、厚みが0.5mm以上、3.0mm以下であり、密度が100kg/m3以上、300kg/m3以下である、グラスウールシート。
【請求項9】
湿式抄造法または乾式抄造法によって製造される請求項8に記載のグラスウールシート。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のグラスウールシートを、一辺の長さ2~30mmの略矩形状に切断したグラスウールシートチップ。
【請求項11】
熱可塑性樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維の平均繊維長が300μm以上、600μm以下である、熱可塑性樹脂複合材の製造方法であって、
平均繊維長が2000μm以上、6000μm以下のガラス繊維を含むグラスウールを製造する工程と、
前記グラスウールから構成される、密度が100kg/m3以上、300kg/m3以下であるグラスウールシートを製造する工程と、
前記グラスウールシートを同一形状に切断し、グラスウールシートチップを製造する工程と、
前記グラスウールシートチップを加熱した熱可塑性樹脂に混合する工程とを含む、熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスウールシート、ガラス繊維を含む熱可塑性樹脂複合材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽量であるという特徴を生かして幅広くさまざまな用途に用いられている。しかしながら、弾性率が小さいために構造材としてはあまり用いられていない。軽量化は幅広い分野で求められており、例えば自動車分野では金属をプラスチックに置き換えて、軽量化による燃料消費量低減が進められている。構造材として使用する場合、前述のようにプラスチック自体は弾性率が小さいため、高弾性及び高強度であるグラスファイバーやカーボンファイバーが補強材として用いられている。
【0003】
このような繊維補強複合材は、自動車部品に限らず、電気・電子部品、航空機部品、船舶部品、建築資材などの幅広い分野に利用されている。さらなる軽量化要求があり、より薄肉化が試みられているが、一般的に補強材として使用されているグラスファイバーの繊維径は10~18μmであり、射出成形により厚みが1mm以下の薄肉成形品を作製する際、繊維が均一に分散しにくいために反りが発生する場合があり、また、繊維が表面に浮き出して外観平滑性が損なわれるという問題がある。グラスファイバーの繊維径を数μm程度に細くすることでこの問題は解決可能であるが、大幅に生産性を低下させなければ安定生産出来ないため大幅なコストアップとなる。
【0004】
ガラス繊維の態様としては、前述のような、機械的巻取り法により製造されるグラスファイバーと、遠心法や火焔法により製造されるグラスウールが挙げられる。グラスウールはグラスファイバーに比べ経済的に、繊維径を数μm程度に細くして製造することができる。特許文献1には、射出成形による薄肉成形品作製時の課題を解決する複合形成材料として、遠心法および/または火焔法により製造され、混錬前の平均繊維長が300~1000μm、繊維径が3~6μmであるガラス短繊維と熱可塑性樹脂を混錬した複合形成材料が開示されている。
さらに、特許文献2には、補強効果を改善するために、ガラス短繊維を熱可塑性樹脂温度に対し、-150~+50℃になるように加熱した上で、熱可塑性樹脂に投入することを特徴とした複合形成材料の製造方法が開示されている。
【0005】
これらの文献に記載のグラスウールは嵩高なため、予めカッターミルなどで300~1000μmに切断して嵩密度を高めてから二軸押出混錬機などへ投入している。一般的に繊維材料を熱可塑性樹脂などの補強材として用いる場合、繊維長と繊維径の比であるアスペクト比(繊維長/繊維径)が大きいほど補強効果に優れることが知られている。特許文献2では、複合形成材料中の繊維長を長くするために、あらかじめガラス短繊維を加熱してから熱可塑性樹脂に投入しているが、複合形成材料中の繊維長が最大でも300μmであり、補強効果をさらに高めるには、複合形成材料中の繊維長をより長くする必要がある。
【0006】
特許文献3には、遠心法により製造されたグラス繊維を湿式成形プロセスにより、シート状、ブロック状、及びストリップ状に製造したガラス繊維群と熱可塑性樹脂を含む、ガラス繊維強化樹脂複合材料が開示されている。しかしながら、本発明者が確認したところ、熱可塑性樹脂と混錬する前の繊維長を先行技術より数倍長くしても、ガラス繊維強化樹脂複合材料中のガラス繊維の長さがあまり改善されておらず、補強効果の改善は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5416620号公報
【特許文献2】特許第5220934号公報
【特許文献3】中国特許出願公開公報 CN112759794A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであって、高強度のグラスウールを用いたグラスウールシート、ガラス繊維を含む、従来よりも高い剛性を有する熱可塑性樹脂複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意研究を行った結果、遠心法によるグラスウール製造時に圧縮空気を効果的に作用させ、ガラス繊維を急冷することにより、熱可塑性樹脂との混錬の際、回転するスクリューの剪断力によって切断されにくくなるガラス繊維を製造することができることを見出し、さらにそのグラスウール又はグラスウールシートを熱可塑性樹脂に補強材として混練することにより、補強効果の高い熱可塑性樹脂複合材を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下を包含する。
[1] 熱可塑性樹脂とグラスウール由来のガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が300μm以上、600μm以下であり、アスペクト比が50以上である熱可塑性樹脂複合材。
[2] 前記ガラス繊維の繊維引張強度は、900MPa以上である、[1]に記載の熱可塑性樹脂複合材。
[3] シランカップリング剤を前記ガラス繊維の表面処理剤として含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂複合材。
[4] 前記ガラス繊維に対するシランカップリング剤の量が0.2重量%以上、2.0重量%以下である、[3]に記載の熱可塑性樹脂複合材料
[5] 表面被覆剤を前記ガラス繊維の表面処理剤として含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂複合材。
[6] 前記ガラス繊維に対する前記表面被覆剤の量が1.0重量%以上、5.0重量%以下である[5]に記載の熱可塑性樹脂複合材。
[7] 前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、及びポリアミドイミド(PAI)の一種又は複数から構成されている、[1]に記載の熱可塑性樹脂複合材。
[8] 平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が2000μm以上、6000μm以下であり、繊維引張強度が900MPa以上であるガラス繊維を含むグラスウールから構成されるグラスウールシートであって、
前記グラスウールシートは、厚みが0.5mm以上、3.0mm以下であり、密度が100kg/m3以上、300kg/m3以下である、グラスウールシート。
[9] 湿式抄造法または乾式抄造法によって製造される[8]に記載のグラスウールシート。
[10] [8]又は[9]に記載のグラスウールシートを、一辺の長さ2~30mmの略矩形状に切断したグラスウールシートチップ。
[11] 熱可塑性樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維の平均繊維長が300μm以上、600μm以下である、熱可塑性樹脂複合材の製造方法であって、
平均繊維長が2000μm以上、6000μm以下のガラス繊維を含むグラスウールを製造する工程と、
前記グラスウールから構成される、密度が100kg/m3以上、300kg/m3以下であるグラスウールシートを製造する工程と、
前記グラスウールシートを同一形状に切断し、グラスウールシートチップを製造する工程と、
前記グラスウールシートチップを加熱した熱可塑性樹脂に混合する工程とを含む、熱可塑性樹脂複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂複合材は、高強度のグラスウールから構成されるグラスウールシートを補強材としており、グラスウール自体が高強度であることに加えて、グラスウールが高強度であるため押出混錬機などで熱可塑性樹脂に添加した際にグラスウールが切断されにくく、得られる熱可塑性樹脂複合材に含まれるガラス繊維の繊維長が300~600μmと長くなり、またアスペクト比が50以上の状態で分散されている。そのため、引張強度、曲げ強度、衝撃強度などの物理特性が従来のグラスウールを含む熱可塑性樹脂複合材よりも向上し、熱可塑性樹脂単体では困難な構造材としての使用が可能となる。高強度のグラスウールは、例えば、遠心法による製造時に圧縮空気をガラス繊維に作用させ、効果的に急冷強化することにより製造することができる。
【0011】
また、本発明の熱可塑性樹脂複合材は、用いる補強材がグラスウールシートであり、一般的な熱可塑性樹脂補強材であるグラスファイバーに比べて繊維径が細いため、熱可塑性樹脂中に均一に分散し、反りや表面平滑性を改善出来るので、コネクターやソケットなどの電機・電子薄肉部品に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、遠心法によるガラス繊維化装置(グラスウール製造装置)の概略図を示す。
【
図2】
図2は、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aとグラスウールの繊維引張強度の関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aとグラスウールの繊維長の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、グラスウールシートチップの工程の流れを説明するフロー図である。
【
図5】
図5は、熱可塑性樹脂と混錬する前の特許文献1のグラスウール(a)、及び本発明のグラスウールシートチップ(b)の写真である。
【
図6】
図6は、ポリプロピレン樹脂複合材中のガラス繊維の繊維長分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、グラスウールシート、ガラス繊維を含む熱可塑性樹脂複合材及びその製造方法について説明するが、本発明はこの説明に限定されるものではなく、当業者が従来技術を用いて適宜設計変更できるものとする。
【0014】
本発明者らは、遠心法によりグラスウールを製造する際に、圧縮空気を効果的に作用させ、ガラス繊維を急冷強化し、繊維引張強度を向上させると共に繊維長を長くした高強度のグラスウールを用いたグラスウールシート、ガラス繊維を含む熱可塑性樹脂複合材及びその製造方法を提案する。以下、詳細について述べる。
【0015】
[グラスウール]
本明細書において、グラスウールとは、ガラス繊維でできた綿状の素材であり、高温で溶融したガラスを遠心力等で延伸し、綿状に細かく繊維化したものである。
グラスウールの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば遠心法によるグラスウール製造時に圧縮空気を効果的に作用させ、ガラス繊維を急冷することにより得られるグラスウールである。このグラスウールを用いることにより、熱可塑性樹脂との混錬の際、回転するスクリューの剪断力によって切断されにくく、より繊維が長い状態で樹脂中に残存することができる。
【0016】
グラスウールを構成するガラス繊維の平均繊維径は、1μm以上、8μm以下である。好ましくは、2μm以上、7μm以下であり、より好ましくは、3μm以上、6μm以下である。平均繊維径が1μm未満の場合、経済的な製造コストが高くなる可能性がある。平均繊維径が8μmを超える場合、繊維引張強度が高くならず、補強効果が十分でなくなる場合がある。
【0017】
グラスウールの平均繊維長は、2000μm以上、6000μm以下である。好ましくは、2500μm以上、6000μm以下であり、より好ましくは、3000μm以上、6000μm以下である。平均繊維長が2000μm未満の場合、熱可塑性樹脂複合材中の繊維長さが短くなり、十分な補強効果が得られない。繊維長は長いほど高い補強効果が得られるので好ましいが、湿式抄造法によりグラスウールシートを製造する場合、グラスウールを多量の水(重量比で10~50倍)に分散させてスラリーを作製する際に撹拌羽根とそれにより発生する水流により切断され、平均繊維長は6000μm以下になってしまう。
グラスウールの繊維引張強度は、900MPa以上である。好ましくは1000MPa以上であり、より好ましくは、1100MPa以上である。繊維引張強度が900MPa未満の場合、押出混錬機のスクリューの剪断力によって繊維が切断されて短くなることと相まって、十分な熱可塑性樹脂補強効果が得られない。
グラスウールシートに用いられるグラスウールの原料となるガラスとして、リサイクルガラスが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0018】
[グラスウールシート及びグラスウールチップ]
本明細書において、グラスウールシートは、上記グラスウールを用いて、例えば、湿式抄造法または乾式抄造法で製造した抄造品である。したがって、グラスウールシートは、前記グラスウールを構成するガラス繊維から実質的に構成されている。
【0019】
グラスウールシートの厚さは、0.5mm以上、3.0mm以下である。好ましくは1.0mm以上、2.0mm以下である。厚さが3.0mmを超える場合、グラスウールシートの密度を高くできにくくなり、含まれる空気量が増えるので、熱可塑性樹脂複合材中にボイドが発生する危険性が高まる。抄造後乾燥前に高圧プレスなどによりグラスウールシートの密度を高めることも可能であるが、高圧プレス時に繊維が破断して短くなってしまうリスクがある。
グラスウールシートの密度は、100kg/m
3以上、300kg/m
3以下である。好ましくは150kg/m
3以上、250kg/m
3以下である。
グラスウールシートは適切な手段で裁断し、グラスウールチップにすることができる。
本発明のグラスウールシートを裁断したグラウスールチップの形状は、略矩形、矩形、正方形が挙げられる。
本発明のグラスウールシートを裁断したグラウスールチップの形は略矩形に限定されるものではないが、略矩形のグラスウールチップの場合の大きさは、好ましくは一片の長さが2~30mm、より好ましくは5~10mmである。一片の長さが2mm未満の場合、繊維長<2000μmとなり、熱可塑性樹脂の補強効果が不十分になる。一片の長さが30mmを超える場合、押出混錬機への時間当たりの投入量が減ってしまうことに加え、投入量のバラツキが大きくなり複合材の品質が不均一になってしまう。
一般的に繊維材料を熱可塑性樹脂などの補強材として用いる場合、繊維長と繊維径の比であるアスペクト比(繊維長/繊維径)が大きいほど補強効果に優れることが知られている。しかしながら、繊維長を長くすると、グラスウールの密度が低くなり、ボイドが発生する。本明細書における熱可塑性樹脂複合材は、熱可塑性樹脂と混錬するグラスウールをグラスウールシートチップにすることにより、グラスウールの密度が高くなり、ボイドの発生が抑制されるため、繊維長を長くすることが可能となる。また、グラスウールシートチップは形状が一定であるため、二軸押出混練機への投入量が安定し、熱可塑性樹脂複合材の品質が安定する。
図5は熱可塑性樹脂と混錬する前のグラスウールの写真で、
図5(a)はカッターミルで解砕されたグラスウールの写真、
図5(b)はグラスウールシートをカッティングマシーンで裁断したグラスウールシートチップの写真である。
【0020】
[表面処理剤]
グラスウールは無機材料であり、一方、熱可塑性樹脂は有機材料であるため、グラスウールと熱可塑性樹脂は接着性が低い。そのため、グラスウールを表面処理して、熱可塑性樹脂と混錬することが好ましい。
【0021】
グラスウールの表面処理剤として、シランカップリング剤及び/または表面被覆剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、従来から用いられているものであれば特に限定されず、複合材料を構成する熱可塑性樹脂との反応性、熱安定性等を考慮して決めれば良く、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0022】
表面被覆剤としては、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の公知のものが挙げられる。
【0023】
グラスウールの表面処理方法としては、表面処理剤を含む液体をグラスウールに噴霧するスプレー法、表面処理剤を含む液体にグラスウールを沈めるディッピング法等が挙げられる。
本発明のグラスウールシートは湿式抄造工程において、表面処理剤としてシランカップリング剤及び/または表面被覆剤がディッピングにより塗布される。
本発明のグラスウールシートに塗布されるシランカップリング剤の量は好ましくはグラスウールに対して0.2重量%以上、2.0重量%以下である。より好ましくは0.25重量%以上、0.4重量%以下である。シランカップリング剤の量が0.2重量%未満の場合、繊維表面に完全被覆できない可能性が有り、熱可塑性樹脂との密着性を損なう危険性が有る。シランカップリング剤の量が2.0重量%を超える場合、過剰被覆であり、コストアップになる場合がある。
本発明のグラスウールシートに塗布される表面被覆剤の量は、好ましくはグラスウールに対して1.0重量%以上、5.0重量%以下である。より好ましくは1.3重量%以上、3重量%以下である。表面被覆剤の量が1.0重量%未満の場合、シランカップリング剤の場合と同様、繊維表面を完全被覆できない可能性が有り、効果を落としてしまうリスクが有る。表面被覆剤の量が5.0重量%を超える場合、過剰被覆であり、コストアップになる場合がある。
【0024】
[グラスウール、グラスウールシート、グラスウールチップの製造方法]
まず、グラスウールの製造方法について
図1に示すガラス繊維化装置(グラスウール製造装置)の概略を用いて説明する。溶融ガラス1を、側壁21に1mm程度の小孔22を数千から数万個有するスピナ2の中に導入する。スピナ2を毎分1000~3000回転で高速回転させると、遠心力により小孔22から溶融ガラス1が微細化されて飛び出し、一次繊維71が作製される。作製された一次繊維71(繊維径は数十~数百μm)は、バーナーガスジェット噴き出し口4より噴出する、バーナー3により燃焼室5で燃焼されたLNGやLPG燃焼ガスジェットにより細繊維化され、グラスウール7が製造される。グラスウール7の繊維径は、このバーナーガスジェットの温度及び速度、すなわち燃焼量調節により制御され、バーナーガスジェットの温度や速度は、繊維化されたガラスの状態により適宜選択される。
製造されたグラスウール7は、スピナ2の外側に設置されたエアリング6の下面61に多数設けられた、1~数mm程度のエアリング圧縮空気吹き出し口62から下方に吹き出される圧縮空気により冷却されながら、ガラス繊維化装置Dの下方に設置された集綿コンベア(図示しない)に導かれる。
【0025】
図1のAはバーナーガスジェット噴き出し口4と圧縮空気を吹き出すエアリング圧縮空気吹き出し口62との距離を示し、以下、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aと称する。
エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aは、10mm以上、20mm以下である。20mm以下にすることで繊維引張強度を高めるとともに繊維長を長くすることができる(
図2、
図3)。エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aが20mmを超える場合では、圧縮空気圧力を変化させても繊維引張強度および繊維長は変わらない。これは圧縮空気がグラスウールの飛行方向を変える以外にはほとんど作用していないことを示している(
図2及び3参照)。10mm未満ではスピナ側壁を冷却してしまい、繊維径が太くなったり、スピナ内部の溶融ガラスが結晶化してスピナ孔を閉塞させて安定生産の支障となる危険性がある。
エアリングの圧縮空気圧力は0.1MPa以上、0.5MPa以下である。
【0026】
グラスウールシートの製造方法の一例を
図4に示す。
まず、グラスウール7を水中で攪拌し、分散させる(S1)。次に、水に分散させた状態のグラスウールをメッシュベルト上に載せ、グラスウールシートを形成しながら運搬する(S2)。ここで、グラスウールシートは、運搬されながら、シランカップリング剤及び/または表面被覆剤等の表面処理剤を滴下などにより塗布し(S3)、乾燥機で水分を蒸発させて乾燥したグラスウールシートを製造する。なお、乾燥されたグラスウールシートはカッティングマシーン等によりグラスウールチップに裁断する(S5)。
【0027】
[熱可塑性樹脂複合材]
本明細書において、熱可塑性樹脂複合材とは、熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂とは異なる材料を一体的に組み合わせた材料であり、本明細書においては、熱可塑性樹脂とガラス繊維を組み合わせた材料である。また、熱可塑性樹脂複合材に含まれるガラス繊維は、本明細書のグラスウール、グラスウールシート又はグラスウールチップ由来のガラス繊維である。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂複合材はガラス繊維で強化されているため、強度が高いことが特徴である。具体的には、引張強度、曲げ強度及び衝撃強度は、従来のグラスウール等を使用した熱可塑性樹脂複合材のそれらよりも高い値を示す。
ガラス繊維と熱可塑性樹脂を組み合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させる方法、繊維と熱可塑性樹脂を混錬する方法等が挙げられるが、中でもすでに説明したグラスウールチップを熱可塑性樹脂に混練する方法が好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂複合材は、平均繊維長が300μm以上、600μm以下であるガラス繊維を含む。本発明の熱可塑性樹脂複合材に含まれるグラスウール由来のガラス繊維は、遠心法によるグラスウール製造時に圧縮空気を効果的に作用させ、ガラス繊維を急冷することにより強化され、熱可塑性樹脂との混錬の際、回転するスクリューの剪断力によって切断されにくく、より繊維が長い状態で樹脂中に残存することができる。
熱可塑性樹脂複合材中のガラス繊維の平均繊維長の下限は、好ましくは300μmより大きく、より好ましくは310μm以上であり、さらに好ましくは320μm以上であり、さらにいっそう好ましくは330μm以上である。平均繊維長が大きいほど、熱可塑性樹脂の強度を高めることができる。
【0030】
グラスウールを構成するガラス繊維の平均繊維径は、すでに記載したグラスウールの特徴と同様であり、1μm以上、8μm以下である。好ましくは、2μm以上、7μm以下であり、より好ましくは、3μm以上、6μm以下である。
【0031】
熱可塑性樹脂複合材中のグラスウール由来のガラス繊維のアスペクト比は、50以上である。好ましくは70以上であり、より好ましくは100以上である。アスペクト比が50未満の場合、十分な補強効果が得られない。
本発明の熱可塑性樹脂複合材の成形品の形状は特に限定されない。
【0032】
熱可塑性樹脂複合材を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等が挙げられ、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、液晶ポリマー(LCP)が好ましい。これらは単独で或いは複数を組み合わせて用いられる。
【0033】
熱可塑性樹脂複合材の製造時に、熱可塑性樹脂と混錬するグラスウールの添加量は熱可塑性樹脂複合材全体に対して10重量%以上、60重量%以下である。なお、グラスウールは、グラスウールチップとして添加されることが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂複合材は、補強材として繊維径の細いグラスウールを使用しているので、射出成形により薄肉成形品(例えば、厚みが1mm以下のもの)を作製する際の、反りの発生が抑制され、また、繊維が表面に浮き出して外観平滑性が損なわれることが無く、コネクターやソケットなどの電機・電子薄肉部品に使用できる。また、遠心法によりグラスウールを製造する際に、圧縮空気を効果的に作用させ、ガラス繊維を急冷強化し、繊維引張強度向上させると共に繊維長を長くした高強度のグラスウールを補強材としているので、引張強度、曲げ強度、衝撃強度などの物理特性が向上し、これにより、熱可塑性樹脂単体では困難な構造材としての使用が可能となる。
【0035】
熱可塑性樹脂複合材は、ガラス繊維と熱可塑性樹脂を組み合わせた材料であるが、本発明の目的を損なわない範囲で、公知の紫外線吸収剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、整色剤、難燃剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、つや消し剤、衝撃強度改良剤等の添加剤を配合することもできる。
【0036】
[熱可塑性樹脂複合材の製造方法]
熱可塑性樹脂複合材は、熱可塑性樹脂及び上記の表面処理されたグラスウールシートチップ、並びに必要に応じて添加される各種添加剤を、単軸又は多軸の押出混錬機、ニーダー、ミキシングロ-ル、バンバリ-ミキサ-等の公知の溶融混練機を用いて、例えば200~400℃の温度で溶融混練することで製造することができる。製造装置については特に限定されないが、二軸押出混錬機を用いて溶融混練することが簡便で好ましい。混練された複合材は、金型に直接射出成形されてもよいし、ペレットにしてから射出成形してもよい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂複合材の製造方法は、熱可塑性樹脂とガラス繊維とを含み、熱可塑性樹脂複合材に含まれるガラス繊維の平均繊維長が300μm以上、600μm以下である、熱可塑性樹脂複合材の製造方法であって、平均繊維長が2000μm以上、6000μm以下であるグラスウールを製造する工程と、前記グラスウールから構成される、密度が100kg/m3以上、300kg/m3以下であるグラスウールシートを製造する工程と、前記グラスウールシートを同一形状に切断し、グラスウールチップを製造する工程と、前記グラスウールチップと加熱した熱可塑性樹脂とを混練する工程とを含む、熱可塑性樹脂複合材の製造方法である。
本発明の熱可塑性樹脂複合材の成形方法として、射出成形、ホットプレス成形、ハイブリット成形、ブロー成形等が挙げられる。
以下、具体的に説明するが、本発明は、この説明に限定されるものではない。
二軸押出混練機のミキサ温度を所定の温度に加熱し、試料投入口から熱可塑性樹脂ペレットを、グラスウールシートチップを定量フィーダーを併設したサイドフィーダーにより二軸押出混錬機に投入し、混練して複合材ペレットを作製する。ペレット状にした熱可塑性樹脂複合材を、射出成形することにより、熱可塑性樹脂複合材成形品を作製する。
グラスウールシートチップは定量フィーダーを備えたサイドフィーダーから二軸押出混錬機に投入するが、チップの投入方法として、サイドフィーダーの代わりに押出混錬機に対し鉛直方向からスクリューフィーダ―を介して投入しても良く、定量フィーダーを省いても構わない。
【0038】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0039】
(実施例1)
[ペレットの作製]
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(PP)樹脂(中石化T30S)を使用した。予めPP樹脂は、三洋化成工業(株)ユーメックス1001を2重量%添加してマレイン化した。補強材として使用したグラスウールは、遠心法により製造し、製造時にエアリング圧縮空気吹き出し口距離Aが15mm、圧縮空気圧力が0.3Mpaで、平均繊維径は3.0μmであった。
なお、遠心法は次の通り行った。1100℃の溶融ガラス1を、スピナ2に、毎時300kgで導入し、スピナ2を毎分3000回転で高速回転させた。作製された一次繊維71に、温度1450℃のバーナーガスジェットを吹き付け細繊維化した。
また、本明細書の実施例及び比較例の繊維強度測定は、「JISR3420:2013 7.4 定速荷重変形引張試験方法」に準じて行った。
【0040】
上記グラスウールを湿式抄造法により、得られたグラスウールを水中で攪拌、分散させ、メッシュベルト上に載せ、シートを形成した。形成したシートに、グラスウールに対して0.3重量%のエポキシシラン(Silquest A-187 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を塗布し、200℃の乾燥機で水分を蒸発させ、グラスウールシートを作製した。得られたグラスウールシートの密度は150kg/m3、厚みは2mmであった。
【0041】
グラスウールシートを200℃で乾燥させた後、カッティングマシーンにより裁断し5mm角のチップとした。グラスウールの平均繊維長は2520μmであった。
【0042】
マレイン化したポリプロピレン(PP)樹脂に、熱可塑性樹脂複合材中の割合が30重量%となるようにグラスウールシートチップを添加し、混練して熱可塑性樹脂複合材(実施例1)を作製した。グラスウールチップの投入は、定量フィーダーを併設したサイドフィーダーにより行った。
【0043】
得られた熱可塑性樹脂複合材を500℃で1時間加熱してPP樹脂を加熱焼失させた後のグラスウールの繊維長をFASEPにより800本測定した。その結果、平均繊維長は510μm、アスペクト比は170であった。表1および
図6に測定結果を示す。
【0044】
(実施例2)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを10mm、圧縮空気圧力を0.2Mpaに変更し、平均繊維径3.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例1と同様な方法でグラスウールシートチップを作製した後、熱可塑性樹脂複合材を作製した。尚、熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2910μmであった。
【0045】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。その結果、平均繊維長は545μm、アスペクト比は181.7であった。
【0046】
(実施例3)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを20mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaに変更し、平均繊維径3.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例1と同様な方法でグラスウールシートチップを作製した後、熱可塑性樹脂複合材を作製した。尚、熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2320μmであった。
【0047】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。その結果、平均繊維長は468μm、アスペクト比は156であった。
【0048】
(比較例1)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを25mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaに変更し、平均繊維径3.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例1と同様な方法でグラスウールシートチップを作製した後、熱可塑性樹脂複合材を作製した。尚、熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は1890μmであった。
【0049】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。その結果、平均繊維長は283μm、アスペクト比は94.3であった。
【0050】
(比較例2)
グラスウール製造条件を、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを25mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaとして、平均繊維径3.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールをカッターミルで平均繊維長950μmに切断した後、二軸押出混錬機で実施例1と同様に熱可塑性樹脂複合材を作製した。
尚、シランカップリング剤は、特許文献1に基づき、繊維化直後にスプレーノズルを用いて実施例1と同量を塗布した。
【0051】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。その結果、平均繊維長は128μm、アスペクト比は42.7であった。
【0052】
実施例1乃至3、比較例1及び2で作製した熱可塑性樹脂複合材ペレット中の繊維長とアスペクト比を表1に示す。
【0053】
【0054】
グラスウールを急冷強化した繊維を補強材とすることにより、複合材中の平均繊維長が従来技術によるものより長く、アスペクト比も大幅に大きくなることが確認された。
【0055】
[強度試験]
実施例1乃至3および比較例1及び2で作製した熱可塑性樹脂複合材の引張強度(ASTMD638)、曲げ強度(ASTMD790)、および衝撃強度(ASTMD256)を測定した。試験片は、各強度試験法が規定するサイズのものを使用した。
具体的な強度試験は下記の通りである。なお、本明細書に記載の熱可塑性樹脂複合材の強度試験は、いずれも下記の方法に従って実施した。
【0056】
(引張強度)
引張強度はASTMD638に従って測定した。島津製作所社製の万能試験機 型式AG-Iを用い、引張速度5.0mm/min、チャック間隔80mmの条件で、熱可塑性樹脂複合材の試験片の引張強度を測定した。
【0057】
(曲げ強度)
曲げ強度はASTMD790に従って測定した。島津製作所社製の万能試験機 型式AG-Iを用い、支点間64mm、ヘッドスピード5.0mm/minの条件で、熱可塑性樹脂複合材の試験片の曲げ強度を測定した。
【0058】
(衝撃強度)
衝撃強度はASTMD256に従って測定した。CEAST社製の万能振子式衝撃試験機 型式6545/000型を用い、アイゾット衝撃試験方法により衝撃強度を測定した。
【0059】
表2に各強度試験結果を示す。尚、各測定値は、測定数=5の平均値である。
【表2】
【0060】
引張強度、曲げ強度、衝撃強度のいずれも比較例より大きく、補強効果が改善された。これは、グラスウールを急冷強化により高強度化したため、押出混錬機により熱可塑性複合材を作製時に繊維が切断されにくくなって、複合材中の繊維長が長く、アスペクト比も大きくなったためと推定できる。
【0061】
(実施例4)
[ペレットの作製]
熱可塑性樹脂としてPOM(ジュラコン M-90―44 ポリプラスチック社製)を使用した。補強材として使用したグラスウールは、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aが15mm、圧縮空気圧力が0.3Mpaの条件で作製したものであり、バーナーガスジェット温度が1400℃以外の条件は実施例1と同様であった。グラスウールの引張強度は1900Mpa、平均繊維径は3.5μmであった。
【0062】
上記グラスウールを湿式抄造法により、密度が200kg/m3であり、厚みが1.0mmのグラスウールシートを作製した。実施例1と同様に、湿式抄造時に表面処理剤をディッピングにより塗布した。表面処理剤は、グラスウールに対してアミノシラン(Silquest A-1100 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)とエポキキシシラン(Silquest A-187 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)をそれぞれ0.15重量%、合計0.3重量%を塗布した。
【0063】
グラスウールシートを200℃で乾燥させた後、カッティングマシーンにより裁断し8mm角のチップとした。グラスウールの平均繊維長は2860μmであった。
【0064】
実施例1と同じ方法でグラスウール添加率40重量%の熱可塑性樹脂複合材を作製し、熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を測定した。結果を表3に記載する。
【0065】
(実施例5)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを10mm、圧縮空気圧力を0.2Mpaに変更し、平均繊維径3.5μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例4と同様な方法で熱可塑性樹脂複合材を作製した。尚、熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2960μmであった。
【0066】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。結果を表3に記載する。
【0067】
(実施例6)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口位置を20mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaに変更し、平均繊維径3.5μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例4と同様な方法で熱可塑性樹脂複合材を作製した。熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2490μmであった。
【0068】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。結果を表3に記載する。
【0069】
(比較例3)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口位置を25mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaとして、平均繊維径3.5μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例4と同様な方法で熱可塑性樹脂複合材を作製した。尚、熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は1720μmであった。
【0070】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。結果を表3に記載する。
【0071】
(比較例4)
グラスウール製造条件を、比較例3と同じにして、平均繊維径3.5μmのグラスウールを作製した。シランカップリング剤は、比較例2と同様な方法で実施例4と同量を塗布した。このグラスウールをカッターミルで平均繊維長950μmに切断した後、二軸押出混錬機で実施例4と同様に熱可塑性樹脂複合材を作製した。
【0072】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。結果を表3に記載する。
【0073】
[強度試験]
実施例4乃至6および比較例3及び4で作製した熱可塑性樹脂複合材の引張強度(ASTMD638)、曲げ強度(ASTMD790)、および衝撃強度(ASTMD256)を測定した。試験片は、各強度試験法が規定するサイズのものを使用した。
表3に各強度試験結果を示す。尚、各測定値は、測定数=5の平均値である。
【0074】
【0075】
引張強度、曲げ強度、衝撃強度のいずれも比較例より大きく、補強効果が改善された。これは、PP樹脂複合材と同様にグラスウールを急冷強化により高強度化したため、押出混錬機により熱可塑性複合材を作製時に繊維が切断されにくくなって、複合材中の繊維長が長く、アスペクト比も大きくなったためと推定できる。
【0076】
(実施例7)
[ペレットの作製]
熱可塑性樹脂として液晶ポリマー(LCP)樹脂(ポリプラスチック社製、品番非公開)を使用した。補強材として使用したグラスウールは、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aが10mm、圧縮空気圧力が0.2Mpaで製造したものであり、バーナーガスジェット温度が1350℃以外の他の条件は実施例1と同様であった。グラスウールの引張強度は1190Mpa、平均繊維径は4.0μmであった。
【0077】
上記グラスウールを湿式抄造法により、密度は250kg/m3であり、厚みは1.0mmのグラスウールシートを作製した。実施例1と同様に、湿式抄造時に表面処理剤をディッピングにより塗布した。表面処理剤は、エポキシシラン(Silquest A-187 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)0.3重量%、エポキシ樹脂(ADEKA社製EM058)1.0重量%であった。
【0078】
グラスウールシートを200℃で乾燥させた後、カッティングマシーンにより裁断し10mm角のチップとした。熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2930μmであった。
【0079】
実施例1と同じ方法でグラスウール添加率40重量%の熱可塑性樹脂複合材を作製し、熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を測定した。結果を表4に記載する。
【0080】
(実施例8)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを20mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaに変更し、平均繊維径4.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例7と同様な方法で熱可塑性樹脂複合材を作製した。熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2430μmであった。
【0081】
実施例7と同じ方法で熱可塑性樹脂複合材を作製し、熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を測定した。結果を表4に記載する。
【0082】
(実施例9)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを15mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaに変更し、平均繊維径4.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例7と同様な方法で熱可塑性樹脂複合材を作製した。熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は2510μmであった。
【0083】
実施例1と同じ方法で熱可塑性樹脂複合材を作製し、熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を測定した。結果を表4に記載する。
【0084】
(比較例5)
グラスウール製造条件として、エアリング圧縮空気吹き出し口距離Aを25mm、圧縮空気圧力を0.3Mpaとして、平均繊維径4.0μmのグラスウールを作製した。このグラスウールを使用して、実施例7と同様な方法で熱可塑性樹脂複合材を作製した。尚、熱可塑性樹脂に混錬前のグラスウールの平均繊維長は1980μmであった。
【0085】
(比較例6)
グラスウール製造条件を、比較例5と同じにして、平均繊維径4.0μmのグラスウールを作製した。シランカップリング剤および表面被覆剤は、比較例2と同様な方法で実施例7と同量を塗布した。このグラスウールをカッターミルで平均繊維長950μmに切断した後、二軸押出混錬機で実施例7と同様に熱可塑性樹脂複合材を作製した。
【0086】
得られた熱可塑性樹脂複合材中の繊維長を実施例1と同じ方法で測定した。結果を表4に記載する。
【0087】
[強度試験]
実施例7乃至9および比較例5及び6で作製した熱可塑性樹脂複合材の引張強度(ASTMD638)、曲げ強度(ASTMD790)、および衝撃強度(ASTMD256)を測定した。試験片は、各強度試験法が規定するサイズのものを使用した。
表4に各強度試験結果を示す。尚、各測定値は、測定数=5の平均値である。
【0088】
【0089】
引張強度、曲げ強度、衝撃強度のいずれも比較例より大きく、補強効果が改善された。
本発明によれば、急冷強化によるグラスウールの高強度化により、熱可塑性樹脂複合材に含まれるガラス繊維の繊維長を従来の熱可塑性樹脂複合材より長くできるので、熱可塑性樹脂複合材の物理特性を向上できる。これにより、熱可塑性樹脂複合材の構造材としての応用範囲が広がる他、より一層の薄肉軽量化への貢献が期待される。
熱可塑性樹脂とグラスウール由来のガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が300μm以上、600μm以下であり、アスペクト比が50以上であって、
前記ガラス繊維の繊維引張強度は、1000MPa以上である、熱可塑性樹脂複合材。
熱可塑性樹脂とグラスウール由来のガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が300μm以上、600μm以下であり、アスペクト比が50以上であり、前記ガラス繊維の繊維引張強度は、1000MPa以上である、熱可塑性樹脂複合材の製造方法であって、
前記グラスウールは、
スピナーに溶融ガラスを導入する工程と、
スピナーを回転させることにより、前記スピナーの側壁の小孔から溶融ガラスを射出する工程と、
燃焼ガス吹き出し口から、前記射出した溶融ガラスに燃焼ガスを噴出する工程と、
スピナーの回転軸に対して前記燃焼ガス吹き出し口よりも外側に配置されるエアリング圧縮空気吹き出し口から、燃焼ガスに接触した後の溶融ガラスに圧縮空気を吹き付ける工程とを含み、
前記燃焼ガス噴出方向と、前記圧縮空気の吹き付け方向は平行であり、
前記燃焼ガス噴き出し口と、前記エアリング圧縮空気吹き出し口との距離が、10mm以上、20mm以下である、グラスウールの製造方法によって得られる、
熱可塑樹脂複合材の製造方法。
熱可塑性樹脂とグラスウール由来のガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維は、平均繊維径が1μm以上、8μm以下であり、平均繊維長が300μm以上、600μm以下であり、アスペクト比が50以上であり、前記ガラス繊維の繊維引張強度は、1000MPa以上である、熱可塑性樹脂複合材の製造方法であって、
前記グラスウールは、
スピナーに溶融ガラスを導入する工程と、
スピナーを回転させることにより、前記スピナーの側壁の小孔から溶融ガラスを射出する工程と、
燃焼ガス吹き出し口から、前記射出した溶融ガラスに燃焼ガスを噴出する工程と、
スピナーの回転軸に対して前記燃焼ガス吹き出し口よりも外側に配置されるエアリング圧縮空気吹き出し口から、燃焼ガスに接触した後の溶融ガラスに圧縮空気を吹き付ける工程とを含み、
前記燃焼ガス噴出方向と、前記圧縮空気の吹き付け方向は平行であり、
前記燃焼ガス噴き出し口と、前記エアリング圧縮空気吹き出し口との距離が、10mm以上、20mm以下である、グラスウールの製造方法によって得られ、
前記熱可塑性樹脂複合材の製造方法は、前記グラスウールから構成され、100kg/m
3
以上、300kg/m
3
以下の密度を有するグラスウールチップと、加熱した前記熱可塑性樹脂とを混錬する工程を含む、熱可塑樹脂複合材の製造方法。
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、及びポリアミドイミド(PAI)の一種又は複数から構成されている、請求項2に記載の熱可塑性樹脂複合材。