(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083726
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】フロー式リアクターの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20240617BHJP
B01J 19/24 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B01J19/00 H
B01J19/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197702
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】593195912
【氏名又は名称】株式会社大阪合成有機化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 康士
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 諒
【テーマコード(参考)】
4G075
【Fターム(参考)】
4G075AA13
4G075AA57
4G075CA57
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB25
(57)【要約】
【課題】本発明は、フロー式リアクターの流路内に析出した塩基性無機金属化合物を、水を使用せずに除去する新たな方法を提供することを目的とする。
【解決手段】塩基性無機金属化合物が流路内に析出しているフロー式リアクターの流路に、酸性官能基を有する有機化合物の有機溶媒溶液を流通する、フロー式リアクターの洗浄方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性無機金属化合物が流路内に析出しているフロー式リアクターの流路に、酸性官能基を有する有機化合物の有機溶媒溶液を流通する、フロー式リアクターの洗浄方法。
【請求項2】
前記塩基性無機金属化合物が無機リチウム化合物、無機マグネシウム化合物、無機亜鉛化合物、無機アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記塩基性無機金属化合物が無機リチウム化合物である、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒を含む、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記酸性官能基を有する有機化合物が芳香族系化合物である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記酸性官能基がリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボキシ基、フェノール性水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記酸性官能基がカルボキシ基及び/又はフェノール性水酸基である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記酸性官能基を有する有機化合物がフェノール、アルキル置換フェノール、ヒドロキシ安息香酸アルキル、ハロゲン置換フェノール、ニトロフェノール、ジヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記酸性官能基を有する有機化合物がフェノール、クレゾール、トリメチルフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキシ安息香酸メチル、クロロフェノール、ニトロフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記フロー式リアクターのリアクター部の流路の内径が0.1mm以上10cm以下である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項12】
前記フロー式リアクターのリアクター部の長さが1m以上1000m以下である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー式リアクターの洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロー式リアクターは、マイクロフロー式リアクターの流路径をミリメートルオーダー又はセンチメートルオーダーまで大きくしたものであり、マイクロフロー式リアクターの高速混合性、精密温度制御性、精密滞留時間制御性等を維持しつつ、マイクロフロー式リアクターよりも操作性を高め、処理量を増大させた化学反応装置である。フロー式リアクターは、リアクター部の他に、リアクター部の前部に接続される混合部を有していてもよく、前記混合部では、複数の流体を接触及び混合することができる。リアクター部と混合部とから構成されるフロー式リアクターにおいて、反応原料はポンプ等を用いて混合部へ流通され、リアクター部を経て連続的に反応物を取得することができる。
【0003】
フロー式リアクターは、マイクロフロー式リアクターよりも流路径が大きいが、流路径はミリメートルオーダー又はセンチメートルオーダーであるため、析出を生じる反応に用いた場合には流路が閉塞し、反応の継続が困難となる恐れがある。例えば、非特許文献1や非特許文献2には、フロー式リアクターでの反応に原料として有機金属化合物を用いる場合、塩の析出が問題となることが記載されている。具体的には、有機リチウム試薬を用いる反応において、原料液中の水分に起因して無機塩(塩基性無機金属化合物)である水酸化リチウムが生成及び析出して、フロー式リアクターが目詰まりを起こすことが記載されている。なお、非特許文献2に記載されるように、溶媒から水分を完全に除くことは困難であり、完全に乾燥しようとすれば煩雑な操作が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Stephan Laue、外2名,「Experience with Scale-Up of Low-Temperature Organometallic Reactions in Continuous Flow」,Organic Process Research & Development,2016,20,p.480-486
【非特許文献2】Ulrich Wietelmann、外5名,「Continuous Processing of Concentrated Organolithiums in Flow Using Static and Dynamic Spinning Disc Reactor Technologies」,Organic Process Research & Development,2022,26,p.1422-1431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には、無機塩による目詰まりが発生した場合、リアクターを水で洗浄して無機塩を除去する方法が記載されている。しかしながら水を用いて洗浄した場合、洗浄後の流路に水分が残存するため、反応再開後において残存した水分と有機リチウム試薬とが副反応することにより無機塩が析出し易くなる。このため、洗浄後の反応において流路の目詰まりを起こし易く、洗浄を頻繁に行う必要があり生産性がよくない。また、流路に残存した水分は有機溶媒を流通することにより低減することができるが、大量の有機溶媒を使用する必要があるため、生産性、コスト面、及び環境面から好ましくない。非特許文献2には、リチオ化反応において無機塩の析出を防ぐ方法、及び析出物を有する反応液でも適用可能な反応装置について記載されるが、析出物を除去する方法については記載されていない。
【0006】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、フロー式リアクターの流路内に析出した塩基性無機金属化合物を除去するための新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意研究を行った結果、フロー式リアクターの流路内に析出した塩基性無機金属化合物を、酸性官能基を有する有機化合物と反応させて有機溶媒に溶解することで、水を使用することなく塩基性無機金属化合物を流路内から除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 塩基性無機金属化合物が流路内に析出しているフロー式リアクターの流路に、酸性官能基を有する有機化合物の有機溶媒溶液を流通する、フロー式リアクターの洗浄方法。
[2] 前記塩基性無機金属化合物が無機リチウム化合物、無機マグネシウム化合物、無機亜鉛化合物、無機アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の洗浄方法。
[3] 前記塩基性無機金属化合物が無機リチウム化合物である、[1]又は[2]に記載の洗浄方法。
[4] 前記有機溶媒が少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の洗浄方法。
[5] 前記有機溶媒が少なくとも1種のエーテル系溶媒を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の洗浄方法。
[6] 前記酸性官能基を有する有機化合物が芳香族系化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の洗浄方法。
[7] 前記酸性官能基がリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボキシ基、フェノール性水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の洗浄方法。
[8] 前記酸性官能基がカルボキシ基及び/又はフェノール性水酸基である、[1]~[7]のいずれかに記載の洗浄方法。
[9] 前記酸性官能基を有する有機化合物がフェノール、アルキル置換フェノール、ヒドロキシ安息香酸アルキル、ハロゲン置換フェノール、ニトロフェノール、ジヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[8]のいずれかに記載の洗浄方法。
[10] 前記酸性官能基を有する有機化合物がフェノール、クレゾール、トリメチルフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキシ安息香酸メチル、クロロフェノール、ニトロフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[9]のいずれかに記載の洗浄方法。
[11] 前記フロー式リアクターのリアクター部の流路の内径が0.1mm以上10cm以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の洗浄方法。
[12] 前記フロー式リアクターのリアクター部の長さが1m以上1000m以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フロー式リアクターの流路内に析出した塩基性無機金属化合物を除去する新たな方法を提供することができる。本発明の洗浄方法は水を使用しないため、洗浄後のフロー式リアクターでの反応において、塩基性無機金属化合物の析出が低減される。このため、本発明の洗浄方法を用いる化合物の製造は生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例で使用するフロー式リアクターの構成の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフロー式リアクターの洗浄方法は、塩基性無機金属化合物が流路内に析出している流路に、酸性官能基を有する有機化合物の有機溶媒溶液(以下、洗浄液Aとも称する)を流通する工程を含む。
【0012】
塩基性無機金属化合物は通常、水溶性を有し有機溶媒には溶解し難いため、有機溶媒での溶解による除去は困難である。本発明の洗浄方法では、酸性官能基を有する有機化合物を作用させることで前記析出物(塩基性無機金属化合物)を有機金属化合物(以下、変性物とも称する)に変えることで、有機溶媒にて溶解除去可能にする。本発明の洗浄方法は、水を使用せずに塩基性無機金属化合物を除去できるため、洗浄後のフロー式リアクターを用いた化学反応において塩基性無機金属化合物の析出を低減でき、生産性を向上させることが可能である。
【0013】
(酸性官能基を有する有機化合物)
本発明の洗浄方法では、洗浄液Aに含まれる酸性官能基を有する有機化合物(以下、有機化合物Aとも称する)を流路内に析出している塩基性無機金属化合物に反応させることにより、塩基性無機金属化合物を有機溶媒に溶解性を有する有機金属化合物に変性する。
【0014】
有機化合物Aが有する酸性官能基としては、プロトン供与性を有する官能基であれば特に限定されないが、例えば、塩基性無機金属化合物との反応性の観点から、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボキシ基、フェノール性水酸基が好ましく、スルホン酸基、カルボキシ基、フェノール性水酸基がより好ましく、カルボキシ基、フェノール性水酸基がさらに好ましく、フェノール性水酸基がよりさらに好ましい。有機化合物Aは、酸性官能基を1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよく、1~5つ有していることが好ましく、1~3つ有していることがより好ましく、1つ又は2つ有していることがさらに好ましい。有機化合物Aが酸性官能基を2つ以上有する場合、酸性官能基は1種のみでもよく、2種以上を組合せて有していてもよい。
【0015】
有機化合物Aとしては、脂肪族系化合物であっても、芳香族系化合物であってもよい。有機化合物Aを芳香族系化合物にした場合には、洗浄後の流路に脂肪族系溶媒及び/又は有機化合物Aとはピーク位置が異なる芳香族系溶媒を流通させて洗浄液Aを除去することで、洗浄液Aの残存を光学分光装置でモニタリングでき、簡便である。逆に有機化合物Aを脂肪族系化合物にした場合には、洗浄後の流路に芳香族系溶媒を流通させて洗浄液Aを除去することで、洗浄液Aの残存を光学分光装置でモニタリングでき、簡便である。有機化合物Aとしては、光学分光装置で残存の有無を直接確認できるため、芳香族系化合物であることが好ましい。
【0016】
前記有機化合物Aのうちスルホン酸基を有する脂肪族系化合物としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸等のC1-8アルカンスルホン酸;ラウリル硫酸、スルホ脂肪酸メチルエステル、α-オレフィンスルホン酸等の界面活性剤型長鎖スルホン酸NaからNaを除去した化合物;等が含まれる。
スルホン酸基を有する芳香族系化合物としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等のC1-4アルキル基が結合していてもよいベンゼンスルホン酸;直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)、分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸(ABS)等の界面活性剤型アルキルベンゼンスルホン酸NaからNaを除去した化合物等のスルホン酸基を有する芳香族炭化水素類;ピリジンスルホン酸等のスルホン酸基を有する芳香族複素環類;等が含まれる。
【0017】
カルボキシ基を有する脂肪族系化合物としては、酢酸、トリフルオロ酢酸等の炭素数が5以下の短鎖脂肪酸類;カプリン酸、ラウリン酸等の炭素数が6~12程度の中鎖脂肪酸類;ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の炭素数が13~21程度の長鎖脂肪酸類;等が含まれる。
カルボキシ基を有する芳香族系化合物としては、安息香酸、トルイル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アニス酸、ベラトルム酸等のベンゼンモノ又はジカルボン酸類;ナフトエ酸、ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンモノ又はジカルボン酸類;ニコチン酸、ピリジンジカルボン酸等のカルボキシ基を有する芳香族複素環類;等が含まれる。
【0018】
フェノール性水酸基を有する芳香族系化合物としては、モノヒドロキシベンゼン類、ジヒドロキシベンゼン類等が含まれる。モノヒドロキシベンゼン類としては、フェノール;クレゾール、トリメチルフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン等のアルキル置換フェノール(好ましくはモノ、ジ、又はトリC1-10アルキル置換フェノール、より好ましくはモノ、ジ、又はトリC1-4アルキル置換フェノール);ヒドロキシ安息香酸メチル等のヒドロキシ安息香酸アルキル(好ましくはヒドロキシ安息香酸C1-10アルキル、より好ましくはヒドロキシ安息香酸C1-4アルキル);クロロフェノール等のハロゲン置換フェノール;ニトロフェノール等が挙げられる。ジヒドロキシベンゼン類としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等のジヒドロキシベンゼン;メチルカテコール、ブチルカテコール、メチルレゾルシノール、メチルヒドロキノン等のアルキル置換ジヒドロキシベンゼン(好ましくはモノ、ジ、又はトリC1-10アルキル置換ジヒドロキシベンゼン、より好ましくはモノ、ジ、又はトリC1-4アルキル置換ジヒドロキシベンゼン);等が挙げられる。
【0019】
前記カルボキシ基を有する芳香族系化合物及びフェノール性水酸基を有する芳香族系化合物は、カルボキシ基とフェノール性水酸基とを有する芳香族系化合物であってもよく、例えば、ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸等)、ヒドロキシメチル安息香酸(クレソチン酸等)、ジヒドロキシ安息香酸(プロトカテク酸等)、ヒドロキシメトキシ安息香酸(バニリン酸等)、トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸等)、ヒドロキシフタル酸(4-ヒドロキシフタル酸、5-ヒドロキシフタル酸等)等が挙げられる。
【0020】
前記有機化合物Aとしては、モノヒドロキシベンゼン類、ジヒドロキシベンゼン類、ベンゼンモノ又はジカルボン酸類、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸が好ましく、フェノール、アルキル置換フェノール、ヒドロキシ安息香酸アルキル、ハロゲン置換フェノール、ニトロフェノール、ジヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸がより好ましく、フェノール、クレゾール、トリメチルフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキシ安息香酸メチル、クロロフェノール、ニトロフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸がさらに好ましく、フェノール、p-クレゾール、2,4,6-トリメチルフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-クロロフェノール、ニトロフェノール、レゾルシノール、ヒドロキノン、p-ヒドロキシ安息香酸がよりさらに好ましく、フェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸がいっそう好ましく、p-ヒドロキシ安息香酸がよりいっそう好ましい。
【0021】
洗浄液A中の有機化合物Aの含有量は、0.1~30質量%が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上がよりさらに好ましく、また20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がよりさらに好ましい。また洗浄液A中の有機化合物Aの含有量は、後述する有機溶媒100質量部に対して、0.1~45質量部であることが好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、12質量部以下がよりさらに好ましい。有機化合物Aの含有量が前記範囲内であることにより、フロー式リアクターの流路内の塩基性無機金属化合物と有機化合物Aとを効率的に接触させ、有機金属化合物を効率よく生成することができる。
【0022】
(有機溶媒)
本発明の洗浄方法では、洗浄液Aに含まれる有機溶媒が、塩基性無機金属化合物と有機化合物Aの反応物(有機金属化合物;変性物)を溶解する。
【0023】
有機溶媒としては、洗浄後に流路内に残存しても有機金属化合物(例えば、有機リチウム試薬等)を用いた反応を阻害しない観点から非プロトン性であることが好ましく、また極性であっても非極性であってもよい。非プロトン性溶媒とは、ヒドロキシ基等のプロトン供与性基を含まない溶媒のことである。有機溶媒としては、塩基性無機金属化合物と有機化合物Aとが反応して生成する変性物の溶解性に優れる観点から、非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0024】
非プロトン性非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;等が挙げられる。
【0025】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン、アニソール、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-オクタノイックラクトン等のラクトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のN-ジアルキル置換アミド系溶媒;塩化メチレン、二塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;等が挙げられる。
非プロトン性極性溶媒としては、変性物に対する溶解性の観点から、エーテル系溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタンがより好ましく、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンがさらに好ましい。
【0026】
洗浄液Aに含有される有機溶媒中、非プロトン性溶媒の含有量は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がいっそう好ましく、上限は特になく、100質量%であってもよい。
また洗浄液Aに含有される有機溶媒中、非プロトン性極性溶媒の含有量は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がいっそう好ましく、上限は特になく、100質量%であってもよい。
【0027】
(洗浄液A)
塩基性無機金属化合物が析出しているフロー式リアクターの流路内に、洗浄液Aを流通することにより、析出物を流路内から除去することができる。
【0028】
洗浄液Aは、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記有機化合物A及び前記有機溶媒以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0029】
洗浄液A中のその他の成分の含有量は、0~20質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましく、0~5質量%がさらに好ましく、0~3質量%がよりさらに好ましく、0~1質量%がいっそう好ましい。
【0030】
洗浄液Aは、実質的に水を含有しないことが好ましい。実質的に水を含有しないとは、例えば、洗浄液A中の水分含有量が1質量%以下であることを意味し、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。実質的に水を含有しなければ、フロー式リアクターの流路内に水分が残存する恐れがなく、洗浄後に再開する反応において、塩基性無機金属化合物の析出が抑制され、製造の生産性が向上する。
【0031】
フロー式リアクターの流路(特に、リアクター部)への洗浄液Aの供給量は、例えば、フロー式リアクターが有するリアクター部の容積の0.05~100倍が好ましく、0.1倍以上がより好ましく、0.5倍以上がさらに好ましく、0.8倍以上がよりさらに好ましく、1.0倍以上がいっそう好ましく、また50倍以下がより好ましく、30倍以下がさらに好ましく、20倍以下がよりさらに好ましい。洗浄液Aの供給量が前記範囲であれば、フロー式リアクターの流路内に析出している塩基性無機金属化合物を、過剰量の洗浄液Aを使用することなく、除去することが可能である。
【0032】
フロー式リアクターの流路(特に、リアクター部)に洗浄液Aを流通する時間は、洗浄液Aの流通速度や線速度によって適宜設定すればよいが、例えば、1秒間~1.5時間が好ましく、10秒間以上がより好ましく、30秒間以上がさらに好ましく、1分間以上がよりさらに好ましく、また1時間以下がより好ましく、50分間以下がさらに好ましく、40分間以下がよりさらに好ましい。洗浄液Aの流通時間が前記範囲であれば、フロー式リアクターの流路内に析出している塩基性無機金属化合物を、過剰量の洗浄液Aを使用することなく、除去することが可能である。
【0033】
フロー式リアクターの流路への洗浄液Aの流通は、1回のみ行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けて行う場合、洗浄液Aの合計の供給量を、上記供給量の範囲内とすることが好ましい。
【0034】
洗浄液Aのリアクター部での流通温度は、エネルギーコスト面から、雰囲気温度と同程度とするのが好ましく、例えば、10~40℃程度、好ましくは20~30℃程度である。また目的物の合成反応途中に析出物の洗浄を挟む場合には、温度調節部での温度の切り替えの煩雑さを回避する観点から、フロー式リアクターを用いて製造する化合物の反応温度の±10℃以内とすることも好ましく、具体的には、-40~50℃が好ましく、-35℃以上がより好ましく、-30℃以上がさらに好ましく、また40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
【0035】
フロー式リアクターの流路の洗浄、つまり洗浄液Aを通液するタイミングは、予め設定した反応時間経過後としてもよく、フロー式リアクターの流路内における圧力が所定値以上に達した時点(例えば、反応開始時の圧力の+10%以上の圧力となった時点)としてもよく、原料液のバッチ切り替え時としてもよい。流路内の圧力の変化により洗浄を行う態様とする場合には、フロー式リアクターに後述する圧力測定装置を設けて、洗浄のタイミングを判断すればよい。
また、洗浄の程度を流路内の圧力の下降により確認してもよく、洗浄後の流路内の圧力が洗浄前の流路内の圧力よりも下降している程好ましく、具体的には、洗浄後の流路内の圧力が反応開始時の圧力の±5%以内となっていることが好ましい。
【0036】
流路内の洗浄に利用した洗浄液Aは、回収して全量を再利用してもよく、その一部を新たな洗浄液Aと混合して再利用してもよい。
【0037】
洗浄液Aの流通前には、流路内に残存する原料液及び/又は反応液を、有機溶媒Bを流通することにより押出してもよく、洗浄液Aを再利用する観点から、原料液及び/又は反応液は押出しておくことが好ましい。また洗浄液Aの流通後には、流路内に残存する洗浄液Aを、有機溶媒Cを流通することにより押出してもよく、製造再開後の反応において洗浄液Aに由来する成分が反応液に混入することを防ぐ観点(具体的には、有機化合物Aが製品に混入することを防ぐ)観点から、洗浄液Aは押出しておくことが好ましい。
【0038】
洗浄液Aの流通前及び/又は流通後に流通する有機溶媒B、Cとしては、フロー式リアクターを用いて製造する化合物の原料液に適用できる溶媒であれば特に限定されないが、非プロトン性非極性溶媒、非プロトン性極性溶媒等が好ましく、原料液に含まれる溶媒及び/又は洗浄液Aに含まれる溶媒であることが好ましい。
【0039】
洗浄液Aの流通前及び/又は流通後に流通する有機溶媒B、Cの量はそれぞれ、流路内に残存する原料液、反応液、及び/又は洗浄液Aを押出せる量であればよく、適宜設定すればよい。
【0040】
(塩基性無機金属化合物)
前記塩基性無機金属化合物としては、例えば、金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属酢酸塩等が挙げられる。また塩基性無機金属化合物を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;亜鉛、アルミニウム、チタン、セリウム、銅、クロム等が挙げられ、リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムが好ましく、リチウム、マグネシウムがより好ましく、リチウムがさらに好ましい。特に除去対象として好ましい塩基性無機金属化合物は、系中の水分によって析出するもの(金属水酸化物)であり、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウムがより好ましく、水酸化リチウム、水酸化マグネシウムがさらに好ましく、水酸化リチウムがよりさらに好ましい。
【0041】
フロー式リアクターの流路内に析出している塩基性無機金属化合物は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。2種以上の塩基性無機金属化合物が析出していても、洗浄液Aを流通することにより、流路内から塩基性無機金属化合物を除去することが可能である。
【0042】
塩基性無機金属化合物を析出し得る反応は、前記塩基性無機金属化合物を構成する金属として挙げた金属を含むA液、B液混合型の公知の種々の反応が挙げられ、例えば、アルキルリチウム等の有機リチウム試薬を含む液と、有機ハロゲン化物を含む液とによる有機ハロゲン化物のリチオ化反応;有機リチウム化合物又はグリニャール試薬を含む液と、有機反応基質を含む液とによるカップリング反応;LAH(水素化リチウムアルミニウム)等の金属系還元剤を含む液と、基質を含む液とによる還元反応;等が挙げられる。
【0043】
前記反応がリチオ化反応である場合、アルキルリチウムとしては、C1-15アルキルリチウムがより好ましく、C1-10アルキルリチウムがさらに好ましく、C1-8アルキルリチウムがよりさらに好ましい。
【0044】
フロー式リアクターを用いた反応において、前記A液及び/又はB液は溶媒を含むことが好ましい。該溶媒は、非プロトン性極性溶媒であってもよいが、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環式炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒等の非プロトン性非極性溶媒を含むことが好ましく、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒を含むことがより好ましい。
【0045】
塩基性無機金属化合物は水分の存在によって発生するため、A液及び/又はB液に含まれる溶媒は、水分含有量が抑制された溶媒であることが好ましい。
A液及び/又はB液に含まれる溶媒の水分含有量としては、例えば、1500ppm以下が好ましく、1200ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、800ppm以下がよりさらに好ましく、また下限は特になく、1ppm以上であってもよい。A液及びB液が混合された原料混合液(反応液)が含有する水分含有量としては、例えば、1800ppm以下が好ましく、1500ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、800ppm以下がよりさらに好ましく、また下限は特になく、1ppm以上であってもよい。
【0046】
(フロー式リアクター)
フロー式リアクターとしては、例えば、2以上の供給口(送液ラインとも称する)と、供給された原料液を混合する混合部と、混合液を流通するリアクター部とを有する装置が挙げられる。前記リアクター部は、微小な流通管がコイル構造をしていたり、プレート状の板に微小な流路が刻まれた構造をしていたり、微小な流路が刻まれた板が積層された構造をしていたりする等の様々な形状があり、リアクター部を混合液が流通する間に反応が進行する。なお、供給口、混合部、及びリアクター部は、液密に接続していることが好ましい。
本発明の洗浄方法によれば、微小な流路を有するリアクター部等において塩基性無機金属化合物が析出し閉塞が発生しても、装置を分解することなく、また水を使用することなくなく析出物を除去できる。
【0047】
供給口から供給される原料液や洗浄液A等は、通常、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ、プランジャーポンプ等の送液制御装置を用いて送液される。そして、送液制御装置によって生じた圧力により、混合部、及びリアクター部においても流通する。
【0048】
供給口は、原料液や洗浄液A等をそれぞれ貯蔵する貯蔵容器に接続していてもよい。また、リアクター部から排出される反応液や洗浄液A等は、それぞれ回収容器に蓄えられる構成となっていてもよい。なお、供給口と貯蔵容器との接続は、切替バルブを介することにより、原料液の貯蔵容器と洗浄液Aの貯蔵容器とが切替えられるように接続されていてもよい。また、リアクター部から排出される液の種類(反応液、洗浄液A等)によって回収容器が変更できるように、排出部に切替バルブを有していてもよい。
【0049】
混合部には、公知の混合器が使用でき、例えば、T字型ミキサー、Y字型ミキサー、スタティック型ミキサー、ヘリックス型ミキサー等が挙げられる。
【0050】
リアクター部の流路は管状であることが好ましく、リアクター部の流路の内径は、0.1mm以上10cm以下が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましく、1.5mm以上がよりさらに好ましく、また50mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましく、20mm以下がよりさらに好ましく、10mm以下がいっそう好ましい。
【0051】
混合部の流路は管状であることが好ましく、混合部の流路の内径は、0.1mm以上15cm以下が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましく、1.5mm以上がよりさらに好ましく、また10cm以下がより好ましく、50mm以下がさらに好ましく、20mm以下がよりさらに好ましく、10mm以下がいっそう好ましい。
【0052】
本発明の洗浄方法によれば、上記のように微細な流路を有するフロー式リアクターであっても、反応に伴う塩基性無機金属化合物の析出を、水を使用することなく簡便に除去できるため、生産性を落とすことなく効率的に製造を行うことが可能である。
【0053】
リアクター部の長さは、リアクター部での滞留時間等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10cm以上3000m以下が好ましく、50cm以上がより好ましく、1m以上がさらに好ましく、1.5m以上がよりさらに好ましく、3m以上がいっそう好ましく、また1000m以下が好ましく、500m以下がより好ましく、300m以下がさらに好ましく、100m以下がよりさらに好ましく、50m以下がいっそう好ましい。
【0054】
混合部及びリアクター部の材質は特に制限されず、耐溶剤性、耐圧性、耐熱性等の要望に応じて適宜選択すればよい。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属;ガラス、セラミックス等の無機材料;PEEK樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂;等が使用できる。
【0055】
フロー式リアクターはバッチ式反応装置に比べて比表面積が大きく伝熱性能がよいため、迅速に温度を調節することができる。このためフロー式リアクターには、ジャケット等の温度調節部が備えられていることが望ましい。温度調節部は、フロー式リアクターの一部、或いは全部の温度調節をできればよく、供給口、混合部及び/又はリアクター部の温度を調節できることが好ましい。温度調節部としては、例えば、供給口、混合部、及びリアクター部の少なくとも1以上を温度調節の可能な熱媒の中に沈める態様;供給口、混合部、及びリアクター部の少なくとも1以上を多層構造にして(例えば、二層管等)、層の内側、外側、又はその両方から温度調節する態様;等が挙げられる。
【0056】
マイクロフロー式リアクターを用いての製造において、原料液中の成分、反応生成物、及び/又は副生物が流路内に析出する場合、経時的に流路が閉塞する。そして、流路内で析出が発生して経時的に流路が閉塞する場合、経時的に流路内の圧力が上昇する。このためフロー式リアクターには、洗浄のタイミングを認知するために、流路内の圧力を測定する圧力測定装置(例えば、圧力計)が設けられていることが好ましい。圧力測定装置は、供給口、混合部及びリアクター部から選ばれる1以上の箇所に設けられることが好ましく、供給口に設けることが混合部及びリアクター部の閉塞も捉えられるためより好ましい。
【0057】
反応の経過時間や流路内の圧力変化量に応じて流路内の洗浄を行う場合、フロー式リアクターの流路の洗浄は、反応の経過時間又は流路内の圧力を入力情報とするプログラム処理に基づいて行われてもよく、フロー式リアクターに該プログラム処理を行う制御装置を設けてもよい。
【0058】
洗浄液Aを流通させる流路は、フロー式リアクターの一部の流路であってもよく、全ての流路であってよいが、少なくとも混合部及びリアクター部の流路を流通させることが好ましい。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
以下の実施例では、
図1に示す構成を有するフロー式リアクター1を用いた。このフロー式リアクター1は、2種類の原料を供給するための送液ライン13a、13bと、これら送液ラインが合流する混合部12(内径:2.4mm)と、合流後に原料を反応させるリアクター部11(内径:2.0mm、長さ:5m)から構成され、送液は送液ライン13a、13bに接続するポンプ15a、15bによって行われる。また混合部及びリアクター部はジャケット16(温度:-20℃)に収納され、温度調節が可能になっている。さらに前記送液ライン13a、13bには、圧力計14a、14bが取り付けられ、流路内の圧力変化を検知可能になっている。
【0061】
(実施例1)
テトラヒドロフランに下記式(1)で表される化合物を混合して原料溶液Aを得た。また原料溶液Bとして、n-ブチルリチウム-ヘキサン溶液を使用した。なお原料溶液A中のテトラヒドロフランに由来する水分含有量は600ppmであった。
【0062】
【0063】
原料溶液Aを送液ライン13aから27.5mL/minの流速で、原料溶液Bを送液ライン13bから15.5mL/minの流速で、それぞれ送液し、Br原子のLi原子への置換反応(リチオ化反応)を実施した。なお
図1中、矢印は通液方向を示す。
反応開始直後の送液ライン13aにおける内圧は35kPa、送液ライン13bにおける内圧は28kPaであったところ、反応を続けると送液ライン13aにおける内圧は42kPaに、送液ライン13bにおける内圧は36kPaにまで上昇した。なお、内圧が上昇した時点においてリアクター部11の流路内を目視にて確認すると、固体の析出物が付着していた。
前記固体の析出物が付着したリアクター部11を有するフロー式リアクター1において、送液ライン13a及び送液ライン13bからテトラヒドロフランを、それぞれ27.5mL/min、15.5mL/minの流速で5分間送液し、フロー式リアクター1の流路内に残存した原料溶液、及び反応液を流路外に排出した。次に、送液ライン13a及び送液ライン13bからフェノールを5wt%含有するテトラヒドロフラン溶液を、それぞれ27.5mL/min、15.5mL/minの流速で5分間送液し、フロー式リアクター1の流路内に付着した析出物を溶解して流路外に排出した。続いて、送液ライン13a及び送液ライン13bからテトラヒドロフランを、それぞれ27.5mL/min、15.5mL/minの流速で5分間送液し、流路内に残存したフェノールを流路外に排出した。洗浄後にリアクター部11の流路内を目視にて確認すると、固体の析出物は認められなかった。
なお、前記反応開始前でのテトラヒドロフラン通液時の送液ライン13aにおける内圧は27kPa、送液ライン13bにおける内圧は23kPa、前記反応後且つ洗浄前でのテトラヒドロフラン通液時の送液ライン13aにおける内圧は30kPa、送液ライン13bにおける内圧は26kPa、前記洗浄後でのテトラヒドロフラン通液時の送液ライン13aにおける内圧は27kPa、送液ライン13bにおける内圧は23kPaであった。
【0064】
(実施例2)
実施例1と同様の原料溶液A、Bを用いて、また同様の条件で、流路内に固体の析出物が付着したフロー式リアクター1を用意した。なお、反応開始直後の送液ライン13aにおける内圧は30kPa、送液ライン13bにおける内圧は24kPaであったところ、反応を続けると送液ライン13aにおける内圧は42kPaに、送液ライン13bにおける内圧は35kPaにまで上昇していた。前記フロー式リアクター1において、送液ライン13a及び送液ライン13bからテトラヒドロフランを、それぞれ27.5mL/min、15.5mL/minの流速で5分間送液し、フロー式リアクター1の流路内に残存した原料溶液、及び反応液を流路外に排出した。次に、送液ライン13a及び送液ライン13bからジブチルヒドロキシトルエンを5wt%含有するテトラヒドロフラン溶液を、それぞれ27.5mL/min、15.5mL/minの流速で10分間送液し、フロー式リアクター1の流路内に付着した析出物を溶解して流路外に排出した。続いて、送液ライン13a及び送液ライン13bからテトラヒドロフランを、それぞれ27.5mL/min、15.5mL/minの流速で5分間送液し、流路内に残存したジブチルヒドロキシトルエンを流路外に排出した。洗浄後にリアクター部11の流路内を目視にて確認すると、固体の析出物は認められなかった。
【0065】
(実施例3)
実施例1と同様の原料溶液A、Bを用いて、原料溶液Aを送液ライン13aから6.9mL/minの流速で、原料溶液Bを送液ライン13bから3.9mL/minの流速で、それぞれ送液する以外は実施例1と同様にして、流路内に固体の析出物が付着したフロー式リアクター1を用意した。なお、反応開始直後の送液ライン13aにおける内圧は7kPa、送液ライン13bにおける内圧は5kPaであったところ、反応を続けると送液ライン13aにおける内圧は95kPaに、送液ライン13bにおける内圧は87kPaにまで上昇していた。前記フロー式リアクター1において、送液ライン13a及び送液ライン13bからテトラヒドロフランを、それぞれ6.9mL/min、3.9mL/minの流速で20分間送液し、フロー式リアクター1の流路内に残存した原料溶液、及び反応液を流路外に排出した。次に、送液ライン13a及び送液ライン13bからp-ヒドロキシ安息香酸を5wt%含有するテトラヒドロフラン溶液を、それぞれ6.9mL/min、3.9mL/minの流速で20分間送液し、フロー式リアクター1の流路内に付着した析出物を溶解して流路外に排出した。続いて、送液ライン13a及び送液ライン13bからテトラヒドロフランを、それぞれ6.9mL/min、3.9mL/minの流速で20分間送液し、流路内に残存したp-ヒドロキシ安息香酸を流路外に排出した。洗浄後にリアクター部11の流路内を目視にて確認すると、固体の析出物は認められなかった。
【0066】
(参考例1)
フェノールを5wt%含有する1,2-ジメトキシエタン2.5gに、水酸化リチウム7.0mgを加えて30分間撹拌すると、水酸化リチウムは完全に溶解した。つまり、本発明のフロー式リアクターの流路の洗浄に、酸性官能基を有する有機化合物としてフェノールを、有機溶媒として1,2-ジメトキシエタンを用いた場合にも、流路内に析出した塩基性無機金属化合物を良好に除去できることが確認された。
【0067】
(参考例2)
安息香酸を5wt%含有する1,2-ジメトキシエタン14.6gに、水酸化リチウム4.9mgを加えて30分間撹拌すると、水酸化リチウムは完全に溶解した。つまり、本発明のフロー式リアクターの流路の洗浄に、酸性官能基を有する有機化合物として安息香酸を、有機溶媒として1,2-ジメトキシエタンを用いた場合にも、流路内に析出した塩基性無機金属化合物を良好に除去できることが確認された。
【0068】
(参考例3)
p-クレゾールを5wt%含有する1,2-ジメトキシエタン4.0gに、水酸化リチウム5.0mgを加えて30分間撹拌すると、水酸化リチウムは完全に溶解した。つまり、本発明のフロー式リアクターの流路の洗浄に、酸性官能基を有する有機化合物としてp-クレゾールを、有機溶媒として1,2-ジメトキシエタンを用いた場合にも、流路内に析出した塩基性無機金属化合物を良好に除去できることが確認された。