(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008377
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20240112BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20240112BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20240112BHJP
C08F 12/30 20060101ALI20240112BHJP
C08L 43/04 20060101ALI20240112BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240112BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240112BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20240112BHJP
C09D 181/00 20060101ALI20240112BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240112BHJP
C09D 123/30 20060101ALI20240112BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L25/18
C08L33/14
C08F12/30
C08L43/04
B32B27/32 E
B32B27/18 J
C09D5/24
C09D181/00
C09D183/04
C09D123/30
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110209
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AB24
4F100AB24A
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK07
4F100AK07B
4F100AK52
4F100AK52A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100EH46A
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100EJ86A
4F100GB41
4F100JB09
4F100JB09A
4F100JB12
4F100JB12A
4F100JG01
4F100JG01A
4F100JK06
4F100JL14
4F100JL14A
4F100JM01
4F100JM01A
4J002BB08W
4J002BB09W
4J002BB20W
4J002BB21W
4J002BC10Y
4J002BG07Z
4J002BN05W
4J002CD19Z
4J002CE00Y
4J002CP03X
4J002FD11Y
4J002GH00
4J002GQ02
4J002HA06
4J038CB181
4J038DK001
4J038DL031
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA20
4J038PB09
4J038PC08
4J100AB07P
4J100BA56H
4J100BA56P
4J100CA01
4J100CA31
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA55
4J100HA58
4J100HB52
4J100JA01
4J100JA45
(57)【要約】
【課題】導電性と離型性を兼ね備えた導電性離型層を有する導電性積層体及びその製造方法、並びにその製造方法に適した導電性高分子分散液を提供する。
【解決手段】π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、シリコーンエマルションと、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂と、水系分散媒と、を含有する導電性高分子分散液。さらに水溶性有機溶剤、白金系触媒及び塩基性化合物のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、シリコーンエマルションと、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂と、水系分散媒と、を含有する導電性高分子分散液。
【請求項2】
前記水系分散媒に含まれる水の含有量が、前記導電性複合体1質量部に対して40質量部以上である、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれ、前記水系分散媒の総質量に対する前記水溶性有機溶剤の含有量が、50質量%以上95質量%以下である、請求項2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
さらに白金系触媒を含む、請求項3に記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
さらに塩基性化合物を含む、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記塩基性化合物の含有量が、1mM以上10mM以下である、請求項5に記載の導電性高分子分散液。
【請求項7】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、または、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項8】
基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された導電性離型層とを備え、
前記導電性離型層が請求項1又は2に記載された導電性高分子分散液の硬化物である、導電性積層体。
【請求項9】
前記基材がポリプロピレンフィルムである、請求項8に記載の導電性積層体。
【請求項10】
基材の少なくとも一部の面に、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液を塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造に関する技術として、樹脂基材の表面に導電層を形成することがある。π共役系導電性高分子は、導電性及び透明性に優れるので、導電層を形成する材料として注目されている。また、導電層の表面にシリコーンを含む離型層がさらに積層されて使用されることがある。このような導電性離型フィルムが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の導電性高分子分散液はポリオレフィン系樹脂を含むので、ポリオレフィン系基材に対する密着性が特に優れている。ポリオレフィンは加工性に優れるので多様な用途に展開できる利点がある。導電層の表面にシリコーンを含む離型層がさらに積層されていれば、表面に易剥離性(離型性)付与することができる。しかし、導電層の表面に離型層を積層するための工程数が増える問題がある。
【0005】
本発明は、導電性と離型性を兼ね備えた導電性離型層を有する導電性積層体及びその製造法、並びにその製造方法に適した導電性高分子分散液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、シリコーンエマルションと、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂と、水系分散媒と、を含有する導電性高分子分散液。
[2] 前記水系分散媒に含まれる水の含有量が、前記導電性複合体1質量部に対して40質量部以上である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれ、前記水系分散媒の総質量に対する前記水溶性有機溶剤の含有量が、50質量%以上95質量%以下である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] さらに白金系触媒を含む、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[5] さらに塩基性化合物を含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[6] 前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記塩基性化合物の含有量が、1mM以上10mM以下である、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[7] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、または、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[8] 基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された導電性離型層とを備え、前記導電性離型層が[1]~[7]の何れか一項に記載された導電性高分子分散液の硬化物である、導電性積層体。
[9] 前記基材がポリプロピレンフィルムである、[8]に記載の導電性積層体。
[10] 基材の少なくとも一部の面に、[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性積層体にあっては、導電性離型層が優れた導電性及び離型性を示す。さらに、導電性離型層の基材に対する密着性が優れる。
本発明の製造方法にあっては、上記の優れた導電性積層体を容易に製造することができる。本発明の導電性高分子分散液は、上記の製造方法に適しており、基材に対する濡れ性が優れる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、シリコーンエマルションと、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂と、水系分散媒と、を含有する導電性高分子分散液である。
【0011】
[導電性複合体]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0012】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0016】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体の含有量としては、導電性高分子分散液の総質量に対して、0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.10質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.15質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子分散液を塗布して形成する導電性離型層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を高め、均一な導電性離型層を形成することができる。
【0017】
[シリコーンエマルション]
シリコーンエマルションは、シリコーン系化合物が水系分散媒に分散され、エマルションを形成しているものである。シリコーン系化合物のエマルションを形成するために、界面活性剤(乳化剤)が併せて含まれていてもよい。
シリコーン系化合物として、公知の離型剤に含まれるシリコーン系化合物を適用することができる。ここでシリコーンとは、シロキサン結合に有機基(例えばアルキル基やフェニル基など)が結合した主鎖(シリコーン骨格)を有する、オルガノポリシロキサンと総称されるポリマーである。オルガノポリシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましく、ポリジメチルシロキサンの一部に反応性官能基又は非反応性官能基を有するものも好ましい。また、オルガノポリシロキサンを側鎖に有するアクリル樹脂やアルキッド樹脂なども前記シリコーン系化合物として適用できる。
【0018】
シリコーン系化合物としては、安定した離型性と、優れた製膜性とを発揮することから、硬化型シリコーンが好ましい。
硬化型シリコーンは、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンのいずれであってもよい。硬化型シリコーンは、反応すると三次元架橋構造を形成して硬化する。
付加硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。硬化を促進させるために白金系硬化触媒を用いてもよい。
付加硬化型シリコーンの具体例としては、KM-3951、X-52-6068、X-52-151、X-52-6069(何れも信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0019】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対するシリコーンエマルションの固形分(不揮発分)の含有量は、0.1質量%以上4.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下が最も好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性離型層に優れた離型性を付与することができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性離型層の導電性を充分に維持でき、導電性離型層の基材に対する優れた密着性を維持することができる。
【0020】
[硬化剤]
本態様の導電性高分子分散液には、硬化型シリコーンの硬化を促進させる硬化剤が含まれていてもよい。硬化剤は、使用する硬化型シリコーンの種類に応じて選択される。
付加反応型シリコーンの場合には硬化剤として白金系触媒を使用することが好ましい。
白金系触媒の具体例としては、CAT-PL-50T、CAT-PM-10A(信越化学工業社製)等が挙げられる。
縮合反応型シリコーン樹脂の場合には硬化剤として有機錫触媒(例えば有機錫アシレート触媒)を使用することが好ましい。有機錫触媒の具体例としては、CAT-PS-8S(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0021】
[カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂]
本態様の導電性高分子分散液に含まれるカルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂は、カルボキシ基を1つ以上有するポリオレフィン樹脂であり、主鎖を構成するポリオレフィン樹脂に、カルボキシ基を有する不飽和カルボン酸モノマーが共重合したものである。カルボキシ基含有ポリオレフィンが有するカルボキシ基の数は、プラスチック基材に対する導電性離型層の密着性がより高くなることから、2つ以上が好ましい。
具体的に、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸モノマーをグラフト重合させたグラフト共重合体でもよいし、オレフィンモノマーと不飽和カルボン酸モノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体でもよい。
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィンモノマーとしては、炭素数2以上6以下の不飽和炭化水素が挙げられる。炭素数2以上6以下の不飽和炭化水素としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。前記不飽和炭化水素は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオレフィン樹脂を構成する前記オレフィンモノマーは、本態様の導電性高分子分散液が塗工されるプラスチック基材に応じて選択することが好ましい。例えば、プラスチック基材としてポリプロピレン基材を用いる場合には、ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィンモノマーとしてプロピレンを用いることが好ましく、プラスチック基材としてポリエチレン基材を用いる場合には、ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィンモノマーとしてエチレンを用いることが好ましい。
【0023】
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂におけるオレフィンモノマー単位の含有量は、60質量%以上99.5質量%以下であることが好ましく、80質量%以上99.5質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上99.5質量%以下であることがさらに好ましい。カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂におけるオレフィンモノマー単位の含有量が前記範囲であれば、プラスチック基材に対する導電性離型層の密着性がより高くなる。
【0024】
本態様において使用される不飽和カルボン酸モノマーは、ビニル基とカルボキシ基とを各々1つ以上有する化合物及びその酸無水物であることが好ましい。不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等が挙げられる。前記不飽和カルボン酸モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸モノマーのなかでも、ポリオレフィン樹脂に導入しやすいことから、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0025】
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸モノマー単位の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸モノマー単位の含有量が前記下限値以上であれば、プラスチック基材に対する導電性離型層の密着性がより高くなり、前記上限値以下であれば、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂を容易に製造できる。
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂におけるカルボン酸価は、5mgKOH/g以上500mgKOH/g以下の範囲が好ましく、10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の範囲がより好ましい。カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂におけるカルボン酸価が前記下限値以上であれば、プラスチック基材に対する導電性離型層の密着性がより高くなり、前記上限値以下であれば、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂を容易に製造できる。
【0026】
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂は、前記不飽和炭化水素単位及び前記不飽和カルボン酸モノマー単位以外の他のモノマー単位を有してもよい。
他のモノマーとしては、アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等)、メタクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等)、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート等)、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート等)、炭素数7以上の不飽和炭化水素(例えば、1-オクテン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル等)、シアン化ビニル(例えば、アクリロニトリル等)、芳香族ビニル(例えば、スチレン等)等が挙げられる。前記他のモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
但し、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂における前記他のモノマー単位の含有量は20質量%以下であることが好ましい。
【0027】
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の製造方法は特に限定されず公知の重合方法を適用できる。
例えば、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸モノマーをグラフト重合させたグラフト共重合体である場合には、ラジカル重合開始剤の存在下でポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸モノマーを反応させる方法が挙げられる。前記反応の際には、ポリオレフィン樹脂を有機溶剤に溶解又は分散させてもよいし、有機溶剤を使用せずにポリオレフィン樹脂を加熱して溶融させてもよい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、エチルエチルケトンパーオキシド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0028】
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の質量平均分子量は、2万以上15万以下であることが好ましく、3万以上12万以下であることがより好ましく、3万以上10万以下であることがさらに好ましく、3万以上9万以下であることが特に好ましい。カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて溶出時間を測定し、分子量既知のポリスチレン標準物質から予め得た、溶出時間対分子量の校正曲線に基づいて求めた質量基準の分子量のことである。
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の質量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、プラスチック基材に対する導電離型層の密着性をより向上させることができ、前記範囲の上限値以下であれば、導電性高分子分散液中でのカルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の分散性を向上させることができる。
【0029】
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂が有するカルボン酸は中和されていてもよい。カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂が中和されていれば、導電性高分子分散液中でのカルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の分散性が向上し得る。
カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂は、アルカリ化合物の添加によって中和することができる。
アルカリ化合物は、無機アルカリ、有機アルカリのいずれであってもよい。
無機アルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
有機アルカリとしては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四アンモニウム塩、窒素含有芳香族性環式化合物が挙げられる。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等が挙げられる。アンモニウムの対となる陰イオンとしてはヒドロキシドイオンが挙げられる。
窒素含有芳香族性環式化合物としては、例えば、アニリン、ベンジルアミン、ピロール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル) イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、ピリジン等が挙げられる。
アルカリ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
アルカリ化合物の添加量は、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂のカルボキシ基に対して0.3倍当量以上3倍当量以下であることが好ましく、0.5倍当量以上2倍当量以下であることがより好ましく、0.6倍当量以上1.5倍当量以下であることがさらに好ましい。アルカリ化合物の添加量が前記下限値以上であれば、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の分散性をより向上させることができ、前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液が過度にアルカリ性になって導電性が低下することを防止できる。
【0031】
導電性高分子分散液におけるカルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の含有量は、導電性複合体100質量部に対して100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の含有量が前記下限値以上であれば、プラスチック基材に対する導電性離型層の密着性をより向上させることができ、前記上限値以下であれば、導電性複合体の含有量が少なくなることによる導電性の低下を防ぐことができる。
【0032】
また、導電性高分子分散液におけるカルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の含有量は、シリコーンエマルションの固形分100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下が好ましく、30質量部以上500質量部以下がより好ましく、50質量部以上100質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、シリコーンエマルションによる離型性を損なうことなく、導電性離型層の密着性及び膜強度を高めることができる。
【0033】
[水系分散媒]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる水系分散媒は、水、又は水と有機溶剤との混合液である。
【0034】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の二価アルコールが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
上記に分類されない溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本態様の水系分散は、シリコーンエマルション及びカルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂の分散性を高める観点から、水と水溶性有機溶剤の混合溶剤が好ましい。
ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤から選択される1種以上が好ましい。
【0036】
導電性複合体は水に対する分散性が高いので、導電性複合体の分散性を高める観点から、水系分散媒の総質量に対する水の含有割合は、例えば、10質量%以上50質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
また、導電性複合体1質量部に対する水の含有量が、40質量部以上が好ましく、50質量部以上1000質量部以下がより好ましく、80質量部以上800質量部以下がさらに好ましく、100質量部以上400質量部以下が特に好ましい。
水以外の分散媒としては、前述した水溶性有機溶剤が好ましい。
【0037】
本態様の導電性高分子分散液の水系分散媒の総質量に対する水溶性有機溶剤の含有割合は、例えば、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量%以下がより好ましく、70質量%以上85質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
[塩基性化合物]
本態様の導電性高分子分散液は1種以上の塩基性化合物を含んでいてもよい。塩基性化合物を含むことにより、導電性高分子分散液の基材に対する濡れ性を向上させることができる。塩基性化合物としては、例えば、無機アルカリ、アミン化合物、窒素含有芳香族性環式化合物等が挙げられる。
【0039】
無機アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
【0040】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる塩基性化合物の含有量は、例えば、0.1mM以上50mM以下が好ましく、0.5mM以上20mM以下がより好ましく、1mM以上10mM以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、導電性高分子分散液の基材に対する濡れ性をより一層向上させることができる。
【0041】
[その他の添加剤]
導電性高分子分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0042】
導電性高分子分散液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下の範囲とすることができる。
【0043】
<導電性高分子分散液の製造方法>
本態様の導電性高分子分散液を製造する方法としては、例えば、導電性複合体の水分散液に、シリコーンエマルション、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂、及び必要に応じて塩基性化合物を添加する方法が挙げられる。
導電性複合体の水分散液は、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを公知方法によって化学酸化重合させて得てもよいし、市販のものを使用しても構わない。
【0044】
≪導電性積層体≫
本発明の第二態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された導電性離型層と、を備える導電性積層体であり、前記導電性離型層は、第一態様の導電性高分子分散液の硬化物からなる。
【0045】
[導電性離型層]
前記導電性離型層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電性離型層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電性離型層が形成されている場合、例えば、当該導電性離型層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電性離型層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0046】
前記導電性離型層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。導電性離型層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電性離型層の基材に対する密着性がより向上する。
【0047】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0048】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電性離型層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリプロピレンが好ましい。
【0049】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電性離型層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0050】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0051】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電性離型層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0052】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下であることが好ましく、100μm以上1000μm以下であることがより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0053】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第三態様は、基材の少なくとも一部の面に、第一態様の導電性高分子分散液を塗工し、導電性離型層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により、第二態様の導電性積層体を製造することができる。
【0054】
導電性高分子分散液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0055】
導電性高分子分散液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0056】
基材上に塗工した導電性高分子分散液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒を除去することが好ましい。塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
上記方法により、前記塗膜が乾燥し、硬化してなる導電性離型層(導電膜)が形成された導電性積層体を得ることができる。
【実施例0057】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、ポリスチレンスルホン酸含有溶液を得た。次に、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0058】
(製造例2)PEDOT-PSS水分散液の調製
0.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、1.5gのポリスチレンスルホン酸を15.0gのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。次に、イオン交換水89.5gを添加した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、0.03gの硫酸第二鉄を4.97gのイオン交換水に溶かした溶液と、1.1gの過硫酸アンモニウムを8.9gのイオン交換水に溶かした溶液とをゆっくり添加し、得られた反応液を24時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS)と、分散媒である水とを含むPEDOT-PSS水分散液を得た。
この分散液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)13.2gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)13.2gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤及び前記触媒が除去されたPEDOT-PSS水分散液(固形分1.3質量%)を得た。
【0059】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液100gと、KM-3951(信越化学工業社製、付加硬化型シリコーンエマルション、固形分30%、水分散液)40gと、アローベースDC-1010J2(ユニチカ社製、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂エマルション、固形分26.5%、水分散液)40g、CAT-PM-10A(信越化学工業社製、白金触媒、水分散液)4gと、メタノール540gを混合し、導電性高分子分散液を作製した。
次に、#8のバーコーターを用いてポリプロピレンフィルムに塗布し120℃で1分間乾燥し、導電性離型層を備えた導電性フィルムを得た。
得られた導電性フィルムの表面抵抗値と、剥離力と、密着性と、塗布した導電性高分子分散液のポリプロピレンフィルムに対する濡れ性(目視でのはじき)を観測した結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例1においてKM-3951を80gに、CAT-PM-10Aを8gに、それぞれ増やしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
実施例1においてKM-3951を20gに、CAT-PM-10Aを2gに、それぞれ減らしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
実施例1においてアローベースDC-1010J2を80gに増やしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例5)
実施例1においてアローベースDC-1010J2を20gに減らしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例6)
実施例1においてKM-3951をX-52-6068(信越化学工業社製、付加硬化型シリコーンエマルション、固形分30%、水分散液)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例7)
実施例1においてアローベースDC-1010J2をアローベースDC-1010(ユニチカ社製、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂エマルション、固形分26.5%、水分散液)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例8)
実施例1において導電性高分子分散液に炭酸水素ナトリウム0.3gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
実施例1においてPEDOT-PSS水分散液を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、それを塗工したフィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
実施例1においてKM-3951とCAT-PM-10Aを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例3)
実施例1においてアローベースDC-1010J2を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
<評価>
[表面抵抗値]
各例の導電性フィルムについて、導電性離型層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック社製、ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表面抵抗値の測定結果を表1に示す。なお、表中の「Ω/□」はオームパースクエアの意味である。「1.0E+09」は、「1.0×109」を表し、他も同様である。
【0071】
[剥離力]
各例の導電性フィルムについて、下記の方法により剥離力を測定し、導電性離型層の離型性を評価した。
導電性フィルムの導電性離型層の表面に幅25mmポリエステル粘着テープ(日東電工社製、No.31B)を貼り付け、その粘着テープの上から1976Paの荷重をかけて25℃で20時間加圧処理した。次に、JIS Z0237に従い、引張試験機を用いて、導電性離型層に貼った上記粘着テープを180°の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)して、剥離力(単位:N/25mm)を測定した。測定結果を表1に示す。剥離力が小さいほど、離型層の離型性が高いことを意味する。
【0072】
[密着性]
各例の導電性フィルムについて、導電性離型層の表面を指で10回擦り、導電性離型層の損傷の程度を下記基準で評価した。結果を表1に示す。
(評価1): 指擦り5回目までに導電性離型層が完全に脱落し、導電性及び易剥離性が無くなる。つまり、導電性離型層とポリプロピレンフィルムの密着性が悪い。
(評価2): 指擦り5回目までは導電性離型層が残存するが、その後、指擦り10回目までに導電性離型層が完全に脱落し、導電性及び易剥離性が無くなる。 つまり、離型層とポリプロピレンフィルムの密着性が劣る。
(評価3): 指擦り10回までに導電性離型層は脱落せず、導電性離型層の色に大きな変化が見られ、導電性及び易剥離性が低下した。つまり、導電性離型層とポリプロピレンフィルムの密着性は普通である。
(評価4): 指擦り10回までに導電性離型層は脱落せず、導電性離型層の色に小さな変化が見られるが、導電性及び易剥離性はほとんど低下していない。つまり、導電性離型層とポリプロピレンフィルムの密着性は優れる。
(評価5): 指擦り10回までに導電性離型層は脱落せず、導電性離型層の色に変化は見られず、導電性及び易剥離性は低下していない。つまり、導電性離型層とポリプロピレンフィルムの密着性は特に優れる。
上記の5段階の評価基準において、易剥離性(離型性)は、指擦りした表面に粘着テープを貼付した後、これを剥がす際の容易さを試験した結果に基づく。導電性離型層の色の変色は、導電性離型層とポリプロピレンフィルムの界面における剥離の程度を表している。この界面が部分的に剥離している場合、導電性離型層の表面に貼付した粘着テープを剥離する際に界面が浮き上がり、剥離性が低下する。
【0073】
【0074】
実施例1~8の導電性高分子分散液は、シリコーンエマルション、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂を含むので、その塗膜から形成された導電性離型層の導電性及び離型性は良好であり、その導電性離型層の基材に対する密着性が優れている。実施例8の導電性高分子分散液は、塩基性化合物を含むことにより、基材に対する濡れ性が向上している。
比較例1の塗料は、導電性複合体を含まないので、形成された塗膜の導電性だけでなく、離型性も劣っている。この結果は、実施例において導電性複合体がシリコーンエマルションの離型性を向上させていることを示している。
比較例2の導電性高分子分散液は、シリコーンエマルションを含まないので、形成された導電層の離型性が著しく劣っている。
比較例3の導電性高分子分散液は、カルボキシ基含有ポリオレフィン樹脂を含まないので、形成された導電層の基材に対する密着性が劣っている。