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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008378
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】鉛直免震支承用ばね要素
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20240112BHJP
   F16F 3/08 20060101ALI20240112BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16F15/04 M
F16F3/08
E04H9/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110210
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】506325227
【氏名又は名称】片山 拓朗
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】片山 拓朗
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC20
2E139CA01
2E139CB01
3J048AA01
3J048BA20
3J048DA01
3J048EA38
3J048EA39
3J059AB11
3J059AE03
3J059BA42
3J059BC02
3J059BC06
3J059BD01
3J059GA42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】点検・維持管理が容易である鉛直免震支承用ばね要素を提供する。
【解決手段】円筒ばね1は、内側部材2、内側部材に対して外側に在る外側部材4及び内側部材と外側部材の間に形成される格納空間の中に隙間なく格納される圧縮部材3を備え、内側部材と外側部材に一対の圧縮力が作用する。内側部材と外側部材は、圧縮力の方向に互いに容易に相対摺動することにより格納空間の高さと容積が変化する格納容器、圧縮力を利用して格納容器内の圧縮部材を3軸圧縮状態に圧縮する圧縮容器、3軸圧縮状態の圧縮部材を格納空間に閉じ込める圧力容器であり、圧縮部材は、格納空間の中に在って、圧縮力を3軸圧縮状態の内力に変換し、且つ内力を面圧として格納空間の大径圧力面と小径圧力面に作用させ、且つ大径圧力面及び小径圧力面と滑りながら格納空間の変形に追随して変形する、液体の如き、弾性を有する部材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物を下から支持し、地震動が作用する下部構造物の上に在って、前記上部構造物の重さにより生じる鉛直方向の圧縮変形量が前記地震動に応じて増減し、
少なくとも、内側部材と、
前記内側部材に対して外側に配置される外側部材と、
前記内側部材と前記外側部材との間に形成される格納空間の中に隙間無く格納される圧縮部材とを備える鉛直免震支承用ばね要素であって、
前記内側部材は、下記それぞれの円形状の中心が前記内側部材の中心軸上に在る、
前記上部構造物を下から支持する位置に配置される又は前記下部構造物によって下から支持される位置に配置される円環状の内側座面と、
前記内側座面の外縁円周から前記内側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸する円柱面状の大径案内面と、
前記大径案内面と角部を成し且つ前記内側座面の裏側に延伸する円環状の内側支持面と、
前記内側支持面の内縁円周で隅角部を成し且つ前記内側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸する円柱面状の小径圧力面とを備え、
前記小径圧力面に作用する面圧によって前記小径圧力面の半径は減少し且つ前記小径圧力面に作用する面圧が無くなると前記小径圧力面の半径は元に戻るものであり、
前記外側部材は、下記それぞれの円形状の中心が前記外側部材の中心軸上に在る、
前記下部構造物によって下から支持される位置に配置される又は前記上部構造物を下から支持する位置に配置される円環状の外側座面と、
前記外側座面の内縁円周から前記外側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸し且つ前記小径圧力面に摺動嵌合する円孔面状の小径案内面と、
前記小径案内面と角部を成し且つ前記外側座面の裏側に延伸する円環状の外側支持面と、
前記外側支持面の外縁円周で隅角部を成し且つ前記外側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸し且つ前記大径案内面に摺動嵌合する円孔面状の大径圧力面とを備え、
前記大径圧力面に作用する面圧によって前記大径圧力面の半径は増加し且つ前記大径圧力面に作用する面圧が無くなると前記大径圧力面の半径は元に戻るものであり、
前記格納空間は、
前記内側支持面と前記外側支持面が対向し、前記大径案内面と前記大径圧力面が摺動嵌合し、且つ前記小径圧力面と前記小径案内面が摺動嵌合する状態に前記内側部材と前記外側部材を組み立てることにより、前記内側支持面、前記小径圧力面、前記外側支持面及び前記大径圧力面によって囲まれて構成され、
前記圧縮部材は、
前記内側支持面、前記小径圧力面、前記外側支持面及び前記大径圧力面を形成する材料に比べて、弾性係数が小さい材料を主要材料として用いて形成され、且つ前記内側支持面、前記小径圧力面、前記外側支持面及び前記大径圧力面とに摺接した状態で前記格納空間の中に前記隙間なく格納され、
前記圧縮変形量は、前記小径圧力面と前記圧縮部材の滑り、前記大径圧力面と前記圧縮部材の滑り、前記小径圧力面の半径の減少及び前記大径圧力面の半径の増加によって発現する主圧縮変形量を含む、又は、前記主圧縮変形量に加えて前記圧縮部材の体積の減少によって発現する副圧縮変形量を含むことを特徴とする、鉛直免震支承用ばね要素。
【請求項2】
前記圧縮部材は、
前記格納空間内に配置され、前記内側支持面と前記大径圧力面に摺接し、前記大径圧力面と前記大径案内面の摺動嵌合部に生じる外側隙間を塞ぎ、前記主要材料に当接し、且つ前記小径圧力面に接せず、前記外側隙間からの前記主要材料の膨出を防ぐ短中空円筒状の外側摺動部材と、
前記格納空間内に配置され、前記外側支持面と前記小径圧力面に摺接し、前記小径圧力面と前記小径案内面の摺動嵌合部に生じる内側隙間を塞ぎ、前記主要材料に当接し、且つ前記大径圧力面に接せず、前記内側隙間からの前記主要材料の膨出を防ぐ短中空円筒状の内側摺動部材とを備え、
前記外側摺動部材と前記内側摺動部材は、断面形状が異形断面であり且つ全体形状が円環状又は不連続な円環状である摺動材を、前記円環状の半径と直交する方向に重ねて前記短中空円筒状に形成したものである、請求項1記載の鉛直免震支承用ばね要素。
【請求項3】
前記圧縮部材は、
前記小径圧力面と前記内側支持面が形成する隅角部側の前記格納空間内に配置され、前記小径圧力面、前記内側支持面、及び前記外側摺動部材に摺接し、前記主要材料に当接し、前記外側摺動部材を前記大径圧力面に押し当てる環状の外側押圧部材と、
前記大径圧力面と前記外側支持面が形成する隅角部側の前記格納空間内に配置され、前記大径圧力面、前記外側支持面、及び前記内側摺動部材に摺接し、前記主要材料に当接し、前記内側摺動部材を前記小径圧力面に押し当てる環状の内側押圧部材とを備え、
前記外側押圧部材と前記内側押圧部材は、それぞれ前記内側支持面、前記小径圧力面、前記外側支持面及び前記大径圧力面を形成する材料に比べて、弾性係数が小さく且つポアソン比が大きい材料で形成されるものである、請求項2記載の鉛直免震支承用ばね要素。
【請求項4】
前記外側摺動部材及び前記内側摺動部材を、異形線材をらせん状に巻き重ねたらせん環状の摺動部材に代えたものである、請求項2又は3記載の鉛直免震支承用ばね要素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鉛直免震支承に用いるばね要素に関し、重要物流道路の橋梁や原子力発電施設等の重要社会基盤等に適用する、10MNを超える支持力、想定を超える過大鉛直地震動に対する安全性、50年を超える耐用年数及び設置環境への適応性を備えるばね要素に関している。
【背景技術】
【0002】
新潟県中越地震(2004年)や熊本地震(2016年)では大きな加速度の地震動によって社会基盤等に大きな被害が発生した。これらの地震では重力加速度を超える大きさの鉛直加速度が観測されている。また、地震時において地中深部から地表面に向かう縦波によって構造物に衝撃的鉛直力が作用し、構造物に重大な損傷を与える可能性があることが指摘されている(非特許文献1参照)。地震で被災した社会の早期復旧を支えるため、重要物流道路の橋梁や原子力発電施設等の重要社会基盤はこのような過大鉛直地震動に対しても最低限の機能を維持するのが望ましい。重要社会基盤等の新設・更新に備えて、過大鉛直地震動にも対応できる地震動対策技術等の開発は必要であると考えられる。
【0003】
水平免震支承と鉛直免震支承とを組み合わせた3次元免震は重要社会基盤等の地震時安全性を飛躍的に高めることができる。積層ゴム支承などの水平免震支承は広く普及しているが、重要社会基盤等に適用する鉛直免震支承は開発途上にある。例えば、原子力発電分野では72枚の皿ばねを用いた死荷重反力10MNの鉛直免震支承が研究されている(非特許文献2参照)。この支承では荷重、変形量及び固有振動数に対応するため皿ばねを6直列・3並列に重ね、さらに4組の重ねられた皿ばねを平面的に並べて、鉛直免震支承のばね要素を構成している。この鉛直免震支承のばね要素は部品が多く、部品の多くが露出しているので、屋内環境における設置は可能であるが、防食等に係る維持管理の観点で屋外環境における設置には向いていないと考えられる。
【0004】
なお、10MN以上の力に耐えるものとは言い難いが、ゴムのような弾性体の弾性力を活かしたサスペンション装置のような技術はある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3296909号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平成29、30年度土木学会関西支部調査研究委員会:都市直下地震での鉛直方向の免震構造に関する調査研究委員会-成果報告書-、(公益法人)土木学会関西支部、平成31年3月
【非特許文献2】宮川高行、他5名:3次元免震装置の研究開発 その2 3次元免震装置仕様、日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)2018年9月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
重要社会基盤等に適用する鉛直免震支承のばね要素としては、50年を超える耐用年数の期間内において稀に発生する地震動及び極稀に発生する大きな加速度を伴う地震動を受けてもばね要素は健全であり、想定を超える過大地震動に対してもばね要素に重大な損傷が生じないばね性能が求められる。ばね性能としては、最大支持力、最大変形量、ばね定数及び耐用年数などが指標である。屋外環境に設置できる等の設置環境への適応性や維持管理の難易度も重要である。常時ばね要素は上部構造物を支えているので、ばね性能に関わる部品等の交換や修理は困難を伴うことを認識する必要がある。
【0008】
鉛直免震支承のばね要素が支持する上部構造物の重さと鉛直固有振動数をそれぞれ10MNと3Hzとすると、必要とするばね定数は363kN/mmとなる。極稀な鉛直地震動に対して最大支持力は重さの1.65倍とするのが一般的であるが、想定を超える過大鉛直地震動を考慮して、最大支持力を重さの2倍として、最大支持力と最大変形量はそれぞれ20MNと55mmとなる。また、耐用年数は50年とする。このようなばね性能を実現することが可能であって、屋外環境に設置が可能であり、非特許文献2に示すような既存技術に比べて、構造が単純であり、部品数が少なく、点検・維持管理が容易であるばね要素があれば、重要社会基盤等に適用する鉛直免震支承に使用できる。ばね要素が必要な減衰性能を備えれば、ばね要素を鉛直免震支承とすることが可能である。減衰性能が不足する場合は、ばね要素と減衰装置を組み合わせて使用する必要がある。
【0009】
本願発明は、復元力と変形量を生成する仕組みが皿ばね等の従来のばね要素の仕組みと異なり、要求ばね性能を満たし、屋外環境に設置が可能であり、構造が単純であり、部品数が少なく、点検・維持管理が容易である鉛直免震支承のばね要素を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の第1の観点では、復元力と変形量を生成するために必要な最少の構成要素、各構成要素が備えるべき特徴及び変形量の特徴を示した。
【0011】
第一に、本発明の鉛直免震支承用ばね要素は、上部構造物を下から支持し、地震動が作用する下部構造物の上に在って、上部構造物の重さにより生じる鉛直方向の圧縮変形量が地震動に応じて増減するものであって、少なくとも、内側部材と、内側部材に対して外側に配置される外側部材と、内側部材と外側部材との間に形成される格納空間の中に隙間なく格納される圧縮部材とを備えるものである。
【0012】
第二に、内側部材は、下記それぞれの円形状の中心が内側部材の中心軸上に在る、上部構造物を下から支持する位置に配置される又は下部構造物によって下から支持される位置に配置される円環状の内側座面と、内側座面の外縁円周から内側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸する円柱面状の大径案内面と、大径案内面と角部を成し且つ内側座面の裏側に延伸する円環状の内側支持面と、内側支持面の内縁円周で隅角部を成し且つ内側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸する円柱面状の小径圧力面とを備える。内側部材は、小径圧力面に作用する面圧によって小径圧力面の半径は減少し且つ小径圧力面に作用する面圧が無くなると小径圧力面の半径は元に戻る力学的性質を備える。
【0013】
第三に、外側部材は、下記それぞれの円形状の中心が外側部材の中心軸上に在る、下部構造物によって下から支持される位置に配置される又は上部構造物を下から支持する位置に配置される円環状の外側座面と、外側座面の内縁円周から外側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸し且つ小径圧力面に摺動嵌合する円孔面状の小径案内面と、小径案内面と角部を成し且つ外側座面の裏側に延伸する円環状の外側支持面と、外側支持面の外縁円周で隅角部を成し且つ外側座面の内向き法線ベクトルの向きに延伸し且つ大径案内面に摺動嵌合する円孔面状の大径圧力面とを備える。外側部材は、大径圧力面に作用する面圧によって大径圧力面の半径は増加し且つ大径圧力面に作用する面圧が無くなると大径圧力面の半径は元に戻る力学的性質を備える。
【0014】
第四に、格納空間は、内側支持面と外側支持面が対向し、大径案内面と大径圧力面が摺動嵌合し、且つ小径圧力面と小径案内面が摺動嵌合する状態に内側部材と外側部材を組み立てることにより、内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面によって囲まれて構成される。
【0015】
第五に、圧縮部材は、内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面を形成する材料に比べて、弾性係数が小さい材料を主要材料として用いて形成され、且つ内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面とに摺接した状態で格納空間の中に格納される。
【0016】
第六に、本願発明の鉛直免震支承用ばね要素に生じる圧縮変形量は、小径圧力面と圧縮部材の滑り、大径圧力面と圧縮部材の滑り、小径圧力面の半径の減少及び大径圧力面の半径の増加によって発現する主圧縮変形量を含む、又は、主圧縮変形量に加えて圧縮部材の体積の減少によって発現する副圧縮変形量を含むことを特徴とする。
【0017】
第一より、例えば、内側部材と外側部材は、圧縮部材を隙間なく格納する格納容器であり、圧縮部材は格納容器に隙間なく格納される。内側部材、外側部材及び圧縮部材が、上部構造物の重さを支えて圧縮変形量が生じ、地震動に応じて圧縮変形量が増減し、鉛直方向の免震機能を発現する最少の構成要素である。
【0018】
第二より、例えば、内側部材は外径が2段に変化する鋼製円筒である。外径が大きい面が大径案内面であり、外径が小さい面が小径圧力面であり、これらの境界が内側支持面である。内側座面は外径が大きい側の端面である。内側座面は他の部材を介して間接的に上部構造物を下から支持するのが良いが、他の部材を介さずに直接的に上部構造物を下から支持しても良い。又は、内側座面は他の部材を介して間接的に下部構造物によって下から支持されるのが良いが、他の部材を介さずに直接的に下部構造物によって下から支持されても良い。内側座面は上部構造物又は下部構造物との位置関係においてこれらの支持が可能である位置に配置される。内側部材の半径内側の形状及び構造に制約はない。
【0019】
ここに、面圧とは、互いに接触し且つ押し合う二つの面に発生する、それぞれの面を直角に押す単位面積当たりの力である。内向き法線ベクトルとは、面に直交し、面に始点が有り、面を形成する材料側に終点が有るベクトルである。
【0020】
第三より、例えば、外側部材は内径が2段に変化する鋼製円筒である。内径が小さい面が小径案内面であり、内径が大きい面が大径圧力面であり、これらの境界が外側支持面である。外側座面は内径が小さい側の端面である。外側座面は他の部材を介して間接的に下部構造物によって下から支持されるのが良いが、他の部材を介さずに直接的に下部構造物によって下から支持されても良い。又は、外側座面は他の部材を介して間接的に上部構造物を下から支持するのが良いが、他の部材を介さずに直接的に上部構造物を下から支持しても良い。外側座面は下部構造物又は上部構造物との位置関係においてこれらの支持が可能である位置に配置される。外側部材の半径外側の形状及び構造に制約は無い。
【0021】
第四より、格納空間の形状を分かりやすく説明すると、内側支持面と外側支持面は共に円環状であり、小径圧力面は円柱状面であり、大径圧力面は円孔状面であるから、内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面によって囲まれて構成される格納空間の形状は円筒形である。
【0022】
第五より、例えば、圧縮部材はゴムを主要材料として格納空間と同じ形状に成形される。圧縮部材の形状は円筒形である。内側部材、圧縮部材及び外側部材を同時に組み立てることにより、圧縮部材は格納空間を形成する4つの面に摺接した状態で、格納空間の中に隙間なく格納される。材料の弾性係数については後述する。
【0023】
第六より、上部構造物の重さによって、圧縮部材と小径圧力面及び大径圧力面とに滑りが生じ、小径圧力面の半径が減少し、大径圧力面の半径が増加することが原因となって、主圧縮変形量が発現する。さらに、圧縮部材の体積が減少する場合には、この体積の減少によって副圧縮変形量が発現し、圧縮変形量は主圧縮変形量に加えて副圧縮変形量を含む。
【0024】
この第1の観点では、第一に、格納空間内に何も無い状態にあっては、上部構造物の重さが内側座面又は外側座面に加わると内側部材と外側部材は鉛直方向に互いに摺動し続け、内側支持面と外側支持面の間隔が減少し続け、重さが無くなっても間隔は元に戻らない。さらに、小径圧力面と大径圧力面とに面圧が作用すると、小径圧力面の半径が減少し且つ大径圧力面の半径が増加することにより格納空間の水平面内の空間断面積が増加し、且つ面圧の作用が無くなると空間断面積は元に戻り、内側支持面と外側支持面との間隔が変化しても空間断面積は変化しない特徴を有することになる。
【0025】
第二に圧縮部材が格納空間内に在る状態にあっては、上部構造物の重さは、上部構造物を下から支持する位置に配置される内側座面又は外側座面、内側支持面又は外側支持面、圧縮部材、外側支持面又は内側支持面、下部構造物によって下から支持される位置に配置される外側座面又は内側座面の順序で伝達される。内側支持面、外側支持面、小径圧力面及び大径圧力面並びに圧縮部材の表面に面圧が生じる。内側支持面と外側支持面とに生じる面圧の合力がそれぞれ重さとつり合うまで、格納空間と圧縮部材とは等しく変形し、圧縮部材の表面が小径圧力面と大径圧力面とにそれぞれ接触する部分では滑りが生じる。面圧の作用によって空間断面積が増加し且つ圧縮部材の水平面内の断面積が増加し、圧縮部材の体積が減少する。空間断面積の増加と圧縮部材の体積の減少によって内側支持面と外側支持面の間隔が減少して圧縮変形量が発現する特徴を有することになる。
【0026】
例えば、内側部材と外側部材は、圧縮部材を隙間なく格納する格納容器であり、上部構造物の重さにより圧縮部材を3軸圧縮状態に圧縮する受動的な圧縮容器であり、圧縮部材を格納空間の中に閉じ込める圧力容器である。圧縮部材は、上部構造物の重さを内力に変換し、格納空間の面に内力を作用させ、格納空間の変形に追随して変形する、液体の如き、弾性を有する部材である。この液体の如き振舞の要因は、内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面を形成する材料に比べて弾性係数の小さい材料を主要材料として圧縮部材を形成するところにある。
【0027】
第三に、地震動が作用する場合においては、上部構造物の鉛直方向の慣性力の影響によって、空間断面積の増加量と体積の減少量がそれぞれ変動することによって内側支持面と外側支持面の間隔の減少量が変動して圧縮変形量が増減する特徴を有することになる。
【0028】
第四に、圧縮部材を形成する主要材料が非圧縮性の材料である場合においては、圧縮部材の体積は減少しないので、圧縮変形量は空間断面積の増加によって発現する特徴を有することになる。
【0029】
前述の主圧縮変形量は小径圧力面の半径の減少及び大径圧力面の半径の増加によって発現するので、圧縮部材には上部構造物の重さをこれらの応力面に作用する面圧に効率良く変換する特性及び小径圧力面と大径圧力面の半径方向の変形に追随する変形特性が必要である。よって、圧縮部材の主要材料としては弾性係数が小さく且つポアソン比が0.5に近い又は0.5(非圧縮性)である材料が適している。また、これらの特性は塑性変形で生じても良いので、主要材料としては弾性係数が小さく且つポアソン比が0.5に近く且つ小さな応力で塑性流動化する弾塑性材料も適している。
【0030】
前述の副圧縮変形量は圧縮部材の体積減少量で発現し、体積減少量は体積弾性係数に比例するので、副圧縮変形量を大きくする観点では、圧縮部材の主要材料としては体積弾性係数が小さい材料が適している。弾性材料の体積弾性係数は弾性係数を分子に有し且つ(1-2×ポアソン比)を分母に有する係数であるから、弾性係数が小さくなると体積弾性係数は小さくなるが、ポアソン比が0.5に近くなると体積弾性係数は逆に大きくなる。従って、主圧縮変形量を発現させる観点と副圧縮変形量を大きくする観点を総合すると、圧縮部材の主要材料としては弾性係数が小さい材料が適している。よって、圧縮部材の主要材料は格納空間の4つの面を形成する材料に比べて弾性係数が小さい材料が良い。
【0031】
鋼の弾性係数、ポアソン比及び体積弾性係数はそれぞれ約2.0×105 N/mm2、約0.3及び約1.7×105 N/mm2である。硬度65°のクロロプレンゴムのそれらは約4.0N/mm2,約0.4998及び約3.4×103 N/mm2であり、純鉛のそれらは約1.5×104 N/mm2,約0.45及び約5.0×104 N/mm2である。橋梁用の積層ゴム支承では弾性係数が1.8~4.2N/mm2のゴム材料が使用されている。
【0032】
例えば、第1の観点では、格納空間の4つの面を形成する材料を鋼とし、圧縮部材を形成する主要材料をゴム又は純鉛とする構成が可能である。ゴムの弾性係数に対して鋼の弾性係数は約5万~10万倍であり、格納空間の変形に追随してゴムは容易に変形できる。純鉛の弾性係数に対して鋼の弾性係数は約13倍であるが、純鉛は4 N/mm2程度の応力で塑性化するので、本願発明で想定している圧縮部材の圧縮応力40~80N/mm2の範囲で、純鉛は容易に塑性流動化し、格納空間の変形に追随して変形できる。
【0033】
本願発明の第2の観点では、第1の観点における大径案内面と大径圧力面との摺動嵌合部及び小径案内面と小径圧力面の摺動嵌合部において3軸圧縮応力状態にある圧縮部材の主要材料の膨出を防止する方法を示した。具体的には,圧縮部材は、格納空間内に配置され、内側支持面と大径圧力面に摺接し、大径圧力面と大径案内面の摺動嵌合部に生じる外側隙間を塞ぎ、圧縮部材の主要材料に当接し、且つ小径圧力面に接せず、外側隙間からの主要材料の膨出を防ぐ短中空円筒状の外側摺動部材と、格納空間内に配置され、外側支持面と小径圧力面に摺接し、小径圧力面と小径案内面の摺動嵌合部に生じる内側隙間を塞ぎ、主要材料に当接し、且つ大径圧力面に接せず、内側隙間からの主要材料の膨出を防ぐ短中空円筒状の内側摺動部材を備えるものである。外側摺動部材と内側摺動部材は、断面形状が異形断面であり且つ全体形状が円環状又は不連続な円環状である摺動材を、円環状の半径と直交する方向に重ねて短中空円筒状に形成したものである。
【0034】
例えば、第2の観点は圧縮部材の主要材料を純鉛又はゴムとし、摺動材を銅合金の平角断面の異形線材で形成するような構成を示す。摺動材は硬さにおいて大径圧力面又は小径圧力面を形成する材料に比べて軟らかく、主要材料に比べて硬く、自己潤滑性を備える材料で形成するのが良い。なお、異形断面とは円形でない断面を示す。線材は断面形状が円形のものを示し、異形線材は断面形状が円形でないものを示す。
【0035】
本願発明の第3の観点では、第2の観点における外側摺動部材と内側摺動部材の構成では、外側摺動部材を大径圧力面に押し当てる機能及び内側摺動部材を小径圧力面に押し当てる機能が圧縮部材の主要材料の材料特性に依存するため、主要材料と異なる特性の材料を用いて押し当て機能を発現させる方法を示した。具体的には、圧縮部材は、小径圧力面と内側支持面が形成する隅角部側の格納空間内に配置され、小径圧力面、内側支持面、及び外側摺動部材に摺接し、主要材料に当接し、外側摺動部材を大径圧力面に押し当てる環状の外側押圧部材と、大径圧力面と外側支持面が形成する隅角部側の格納空間内に配置され、大径圧力面、外側支持面、及び内側摺動部材に摺接し、主要材料に当接し、内側摺動部材を小径圧力面に押し当てる環状の内側押圧部材とをさらに備えるものである。外側押圧部材と内側押圧部材は、それぞれ内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面を形成する材料に比べて、弾性係数が小さく且つポアソン比が大きい材料で形成されるものである。
【0036】
例えば,第3の観点は、圧縮部材の主要材料をゴムとし、外側押圧部材と内側押圧部材の材料を純鉛とするような構成を示す。前述したように純鉛はゴムに比べて体積弾性係数が約7倍程度大きく、4 N/mm2程度の応力で塑性化する。これにより、第2の観点に比べて膨出防止効果が向上する。
【0037】
本願発明の第4の観点では、第2の観点と第3の観点において、摺動材の全体形状が円環状の場合は摺動材の円周方向の内力の発生によって押し当て機能が抑制される可能性が有り、全体形状が不連続部を有する場合は摺動材の不連続部から主要材料が膨出する可能性があることから、これらを改善する方法を示した。具体的には、外側摺動部材及び内側摺動部材を、異形線材をらせん状に巻き重ねたらせん環状の摺動部材に代えたものである。全体形状が円環状又は不連続な円環状である摺動材を不連続部が無く連続したらせん環状の摺動部材に置き換えることにより膨出の防止効果を向上できる。
【0038】
本願発明の第5の観点では、50年の耐用年数の期間に亘って、圧縮部材と内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面は摺接した状態を維持する必要がある事から、内側支持面、小径圧力面、外側支持面及び大径圧力面は50年に亘って表面性状を維持できる方法を示した。具体的には、内側部材は大径案内面、内側支持面及び小径圧力面が耐食性鋼材で形成されるものであり、外側部材は小径案内面、外側支持面及び大径圧力面が耐食性鋼材で形成されるものである。
【0039】
例えば、耐食性鋼材はオーステナイト系ステンレス鋼材又はクラッド鋼の合わせ材であるオーステナイト系ステンレス鋼材等である。
【0040】
本願発明の第6の観点では、内側部材に適した半径中心側の形状と構造を示した。具体的には、内側部材は、小径圧力面から半径内側に向かって同心円状の層構造を備えるものである。
【0041】
例えば、内側部材の耐力が安全性を満たす場合、層数は1でも良く、安全性を向上するために層数を2以上としても良く、半径中心側に充填材などを配置しても良い。層数が2を超える場合は内側部材を一体化するために及び小径圧力面に発生する円周方向の圧縮応力を低減するために、小径圧力面に初期引張応力を導入するのが良い。小径圧力面側の外側層に耐食性鋼材を使用し、内側層に高降伏点鋼材を使用するなど、外側層と内側層で材料が異なっても良い。
【0042】
本願発明の第7の観点では、外側部材に適した半径外側の形状と構造を示した。具体的には、外側部材は、前記大径圧力面から半径外側に向かって同心円状の層構造を備えるものである。
【0043】
例えば、外側部材の耐力が安全性を満たす場合、層数は1でも良く、安全性を向上するために層数を2以上としても良い。層数が2を超える場合は外側部材を一体化するために及び大径圧力面に発生する円周方向の引張応力を低減するために、大径圧力面に初期圧縮引張応力を導入するのが良い。
【0044】
本願発明の第8の観点では、外側部材に最も適した半径外側の形状・構造を示した。具体的には、外側部材は、外側部材が備える同心円状の層構造の半径外側に、外側部材の中心軸の方向と円周方向に巻き廻して重ねた異形線材又は線材を備え、大径圧力面に円周方向の初期圧縮応力を導入するものである。
【0045】
例えば、外側部材には大径圧力面から半径外側に向かって漸減する円周方向の引張応力が発生する。高降伏点鋼材の平角断面の異形線材に一定張力を与えながら、外側部材が備える同心円状の層構造の半径外側に半径方向及び円周軸方向に巻き廻して重ねると、大径圧力面では圧縮であり、半径外側の最も外側では引張となり、その間は漸変する円周方向の初期直応力が導入できる。第8の観点では、大径圧力面に発生する円周方向の引張応力を低減し、最も半径外側の異形線材に生じる引張応力を異形線材の耐力より小さくすることにより、外側部材の強度上の安全性を高めることができる。平角断面の異形線材は円断面の線材に比べて、巻き廻して重ねた場合の異形線材間の空隙が少なく、効率的に初期直応力を導入できる。異形線材の断面形状は平角断面に限らない。
【0046】
本願発明の第9の観点では、本願発明のばね要素に適した上部構造物及び下部構造物との接続方法を示した。具体的には、鉛直免震用ばね要素は、上部構造物を支持し且つ内側座面又は外側座面に支持される上側中空積層ゴムと,前記下部構造物に支持され且つ外側座面又は内側座面を支持する下側中空積層ゴムの内、少なくともどちらか一方をさらに備えるものである。
【0047】
常時及び地震時において上部構造物と下部構造物には相対鉛直変位に加えて水平相対変位と相対角変位が生じるので、中空積層ゴムでこれらの構造物とばね要素を接続し、水平相対変位と相対角変位がばね要素に与える影響を中空積層ゴムの変形で緩和するとともに、上部構造物の重さを中空積層ゴムとばね要素を経由して下部構造物に伝達できるようにした。また、内側座面又は外側座面の半径方向の変形は中空積層ゴムのせん断変形により弾性拘束されるようにした。
【発明の効果】
【0048】
本願の発明によれば、内側部材と外側部材は、鉛直方向に互いに容易に相対摺動することにより格納空間の高さと容積が変化する格納容器であり、上部構造物の重さを利用して格納容器内の圧縮部材を3軸圧縮状態に圧縮する圧縮容器であり、3軸圧縮状態の圧縮部材を格納空間に閉じ込める圧力容器である。小径圧力面と大径圧力面に面圧が作用すると格納空間の水平面内の空間断面積は増加する。圧縮部材は、大径圧力面と小径圧力面を形成する材料より弾性係数が小さい材料を主要材料として形成されるので、格納空間の中に在って、上部構造物の重さを3軸圧縮状態の内力に変換し、且つ内力を面圧として格納空間の大径圧力面と小径圧力面に作用させ、且つ大径圧力面及び小径圧力面と滑りながら格納空間の変形に追随して変形する、液体の如き、弾性を有する部材である。
【0049】
内側支持面と外側支持面に作用する面圧の合力が重さとつり合うまで格納空間と圧縮部材は等しく変形し、ばね要素に重さに応じた圧縮変形量が生じる。圧縮部材の体積と格納空間の容積は常に等しいので、重さに応じて格納空間の空間断面積が増加したり又は圧縮部材の体積が減少したりすると、圧縮部材と格納空間の高さが等しく減少する。格納空間の空間断面積の増加によって発現する高さの減少量が主圧縮変形量であり、圧縮部材の体積の減少によって発現する高さの減少量が副圧縮変形量である。圧縮性部材が非圧縮性であれば、副圧縮変形量は発現しないので、ばね要素の圧縮変形量は主圧縮変形量を含む。圧縮部材が圧縮性であれば、圧縮変形量は主圧縮変形量に加えて副圧縮変形量を含む。これらの二つの変形量は圧縮変形量の大部分を占める。
【0050】
本願発明のばね要素は、内側部材、外側部材及び圧縮部材が最少の構成要素である。非特許文献2の部品数は少なく見積もっても72個であるから、本願発明のばね要素の部品数は極めて少ない。
【0051】
圧縮部材は格納空間内に在るので外気と接触しない。内側部材の内面と端面は、塗装等の防食対策が必要であるが、点検・維持管理が可能であり且つ閉鎖することが可能な空間の中に在る。外側部材の外面と端面は外気に触れるので塗装等の防食対策が必要であるが、外側部材の防食対策が必要な面は単純な形状であるから点検・維持管理は困難ではない。
【0052】
本願発明者の試算によると、10MNの上部構造物の重さに対応するためには、小径圧力面と大径圧力面の半径をそれぞれ95cmと100cm程度とし、圧縮部材の高さを100cm程度とし、圧縮部材の主要材料を加硫天然ゴムとすることにより、鉛直固有振動数が約3Hzとなるばね要素を実現できる見込みである。これは後述する実施例1のばね要素の寸法を約10倍したものに相当する。
【0053】
半径100cm程度の内側部材と外側部材は、圧力容器や水圧鉄管等の一般的な製造技術により製作が可能である。内半径×外半径×高さが95cm×100cm×100cmの加硫天然ゴムは、鉱山用大型トラックのタイヤ製造技術により製作が可能である。
【0054】
よって、本願発明の鉛直免震支承用ばね要素によって、10MNの上部構造物の重さに対応するばね性能を満たし、屋外環境に設置が可能であり、構造が単純であり、部品数が少なく、点検・維持管理が容易である鉛直免震支承のばね要素を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明の実施の形態にかかる鉛直免震支承用ばね要素における円筒ばね1の一例の基本構成の概要を示す立体図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる鉛直免震支承用ばね要素における円筒ばね1の一例の基本構成の概要を示す中央断面である。
図3図1及び図2の内側部材2の形状を表す立体図である。
図4図1及び図2の外側部材4の形状を表す立体図である。
図5図3の内側部材2と図4の外側部材4の組立図(中央断面図)である。
図6図1及び図2の圧縮部材3の形状を表す立体図である。
図7図1及び図2の円筒ばね1の基本寸法を定義する図である。
図8図6の円筒に作用する面圧と筒内面と筒外面の半径方向の変形量を定義する図である。
図9図6の円筒の変形前と変形後の形状変化を模式的に描いた図である。
図10】(13a)式における円筒の軸ひずみ、体積ひずみ及び断面積ひずみの関係を示すグラフである。
図11】試験体及び各部品の外観を示す写真である。
図12】圧縮試験装置と試験体の外観を示す写真である。
図13】最大変形量5mmの第1サイクルと第4サイクルの圧縮力―変形量曲線を示すグラフである。
図14】原点移動した第4サイクルの圧縮力―変形量曲線を示すグラフである。
図15】理論式と試験体の復元力の比較を示すグラフである。
図16】体積弾性係数が試験体の初期接線剛性と変形量に及ぼす影響の試算を示すグラフである。
図17】円周方向ひずみの計測値を示す図である。
図18】外側摺動部材、外側押圧部材、内側摺動部材及び内側押圧部材を示す図である。
図19】らせん摺動部材を示す図である。
図20】内側部材の層構造を示す図である。
図21】外側部材の層構造を示す図である。
図22】内側中空積層ゴム及び外側中空積層ゴムの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例0057】
1.発明の概要
天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)及び高減衰ゴム(HDR)は積層ゴム支承の材料として広く使用されている。これらに拘わらずゴムはポアソン比が0.5に近いため非圧縮性に近い性質を持ち、3軸圧縮時における体積弾性係数が弾性係数に比べて飛躍的に大きくなることが知られている。例えば、鋼製円孔に格納されたスチレン・ブタジエンゴム製円柱の3軸圧縮試験において2.2~2.3GPaの体積弾性係数が得られている。この圧縮試験を参考にすると、格納容器内の格納空間にゴムを隙間なく閉じ込め、格納容器に圧縮力を作用させて、3軸圧縮状態のゴムの応力が圧縮力につり合うようにする手段があれば、ゴムの体積弾性係数を利用する圧縮ばねが実現できると考えられる。
【0058】
図面を参照して、このような発想を起点に、本願発明者は、鉛直免震支承に用いるばね要素として、内側部材2、内側部材2に対して外側に在る外側部材4及び内側部材2と外側部材4の間に形成される円筒形状の格納空間1Cの中に隙間なく閉じ込められる圧縮部材3から成る円筒ばね1を提案する。内側部材2と外側部材4に一対の圧縮力が作用する。内側部材2と外側部材4は前述の格納容器に相当し、格納空間1Cは前述の格納空間に相当し、圧縮部材3は前述のゴムに相当する。
【0059】
内側部材2と外側部材4は互いに隅角部を成す支持面と圧力面を備える。二つの支持面が圧縮力の方向(以後、軸方向と略す。)に対向し且つ二つの応力面が圧縮力と直交する方向(以後、軸直交方向と略す。)に対向するように内側部材2と外側部材4を組み立てることにより、格納空間1Cはこれらの4つの面で形成される。圧縮部材3は格納空間1Cの4つの面を形成する材料に比べて弾性係数が小さい材料を主要材料として格納空間1Cと同じ形状に成形され、且つ圧縮部材3の表面が4つの面に摺接する状態として格納空間1Cの中に隙間なく閉じ込められる。
【0060】
格納空間1Cは、内側部材2と外側部材4の軸方向の組立高さの減少に連動して格納空間1Cの軸方向の高さと容積が減少する容積減少特性、及び二つの圧力面に作用する面圧に連動して格納空間1Cの軸直交方向面内の空間断面積と容積が増加する容積増加特性を有する。円筒ばね1に一対の圧縮力が作用すると、圧縮部材3の表面と二つの応力面が滑ることにより格納空間1Cの二つの特性が有効となり、圧縮部材3の表面、二つの圧力面及び二つの支持面に面圧が発生し、容積減少特性に基づいて格納空間1Cの高さと容積は減少し、容積増加特性に基づいて格納空間1Cの空間断面積と容積が増加し、体積弾性係数に基づいて圧縮部材3の体積が減少する。
【0061】
格納空間1Cの容積と圧縮部材3の体積は常に等しく且つ円筒ばね1の内力と圧縮力はつり合わなければならない。変形前後の格納空間1Cの容積変化量と体積弾性係数に基づく圧縮部材3の体積変化量が等しくなるまで、且つ支持面に作用する面圧の合力が圧縮力につり合うまで、圧縮部材3の表面と格納空間1Cの二つの圧力面は滑りながら、格納空間1Cと圧縮部材3の形状は等しく変形すると考えられる。格納空間1Cの空間断面積の増加により発現する格納空間1Cの高さの減少量を主圧縮変形量と呼び、圧縮部材3の体積の減少により発現する格納空間1Cの高さの減少量を副圧縮変形量と呼ぶ。円筒ばねの圧縮変形量は上記の主圧縮変形量と副圧縮変形量を含み、これらの二つの変形量は圧縮変形量の大部分を占めると考えられる。
【0062】
前述の主圧縮変形量は格納空間1Cの空間断面積の増加すなわち記小径圧力面の半径の減少及び大径圧力面の半径の増加によって発現するので、圧縮部材には上部構造物の重さをこれらの応力面に作用する面圧に効率良く変換する特性及び小径圧力面と大径圧力面の半径方向の変形に追随する変形特性が必要である。よって、主圧縮変形量を発現する観点では、圧縮部材の主要材料としては弾性係数が小さく且つポアソン比が0.5に近い又は0.5(非圧縮性)である材料が適している。また、これらの特性は塑性変形で生じても良いので、主要材料としては弾性係数が小さく且つポアソン比が0.5に近く且つ小さな応力で塑性流動化する弾塑性材料も適している。
【0063】
前述の副圧縮変形量は圧縮部材の体積減少量で発現し、体積減少量は材料の体積弾性係数に比例するので、副圧縮変形量を大きくする観点では、体積弾性係数が小さい材料が圧縮部材の主要材料として適している。弾性材料の体積弾性係数は弾性係数を分子に有し且つ(1-2×ポアソン比)を分母に有する係数であるから、弾性係数が小さくなると体積弾性係数は小さくなるが、ポアソン比が0.5に近くなると体積弾性係数は逆に大きくなる。従って、主圧縮変形量を発現させる観点と副圧縮変形量を大きくする観点を総合すると、圧縮部材の主要材料としては弾性係数が小さい材料が適している。よって、圧縮部材の主要材料は格納空間の4つの面を形成する材料に比べて弾性係数が小さい材料が良い。
【0064】
以下、第一に円筒ばね1の基本構成、内側部材2と外側部材4の特性、格納空間1Cの容積減少性と容積増加性を説明する。第二に格納空間1Cと圧縮部材3の体積の等値性及び外力と円筒ばね1の内力のつり合いから復元力と変形量の関係を導く。最後に縮尺1/10のばねの試験体を用いた圧縮試験により得られたばねの復元力特性とひずみ特性を述べる。
【0065】
2.円筒ばね1の基本構成
(1)基本構成の概要
図1図2に円筒ばね1の基本構成を示す。図中の数字は円筒ばね1が有する各部材などの照合番号である。本文中では部材名称等の直後に対応する照合番号を示す。図1は等角図で描かれた立体図であり、図では中心軸8(以後、軸と略す。)の回りの全体角度360°に対して交角90°に挟まれる部分を切断・削除している。図2は中央断面図である。円筒ばね1は軸対称の形状であるため、図では軸より右側の部分のみを描く。切断面は斜線、ドット及び黒塗りの3種類の柄で部材を区分する。軸8の矢印方向を軸の正方向と呼び、正方向と反対の向きを負方向と呼ぶ。図では、上部構造物及び下部構造物を図示していない。軸8の正方向側に上部構造物が在る場合は負方向側に下部構造物が在り、正方向側に下部構造物がある場合は負方向側に上部構造物が在ると考える。
【0066】
図1図2を参照して、円筒ばね1は、円環状の内側座面2Aを備える内側部材2、内側部材2を軸直交方向の外側から囲むように在り且つ円環状の外側座面4Aを備える外側部材4、及び内側部材2と外側部材4の間に在る圧縮部材3を有する。内側座面2Aと外側座面4Aは軸8を円周の中心とする。内側座面2Aと外側座面4Aに軸に対称で平行な等分布圧縮力qが作用し、ばねは軸方向に変形量を生じると仮定する。等分布圧縮力が作用しないときのばねの高さをhtotalとし、等分布圧縮力が作用するときのばねの高さ1Zをhtotal-wとする。ここに、wはばねの軸方向の変形量であり、変形量の正負符号はばねの高さが減少する場合を正符号とする。qの合力を(1)式で定義する。
【0067】
【数1】
ここに、Qはqの合力である圧縮力であり、aはqが作用する面積とする。円筒ばね1はQ>0なる圧縮力に対して抵抗するが、Q<0なる引張力には抵抗しない。
【0068】
(2)各部材の組立・幾何特性
a)内側部材2
図3は内側部材2の形状を表す立体図である。内側部材2は、内側座面2Aに加えて、内側座面2Aの外縁内周と角部を成し且つ軸の負方向に延伸する円柱面状の大径案内面2C、大径案内面2Cと角部を成し且つ内側座面2Aの裏側に延伸する円環状の内側支持面2D、及び内側支持面2Dの内縁円周と隅角部を成し且つ軸の負の方向に延伸する円柱面状の小径圧力面2Bを有する。大径案内面2C、内側支持面2Dおよび小径圧力面2Bは軸8を円周の中心とする。小径圧力面2Bと大径案内面2Cは軸8に平行であることに特に注意する。内側支持面2Dは軸直交方向に傾斜させても良い。図では内側部材2の内面2Eの半径を軸方向に一定として描いているが、半径は軸方向に変化させても良く、内面側を同心円の単層構造または複層構造にしたり、内面側に別の部材を装着したり、内面側に小径圧力面2Bを形成する材料と異なる材料を充填したりして良い。
【0069】
b)外側部材4
図4は外側部材4の形状を表す立体図である。外側部材4は、外側座面4Aに加えて、外側座面4Aの内縁円周と角部を成し且つ軸の正方向に延伸し且つ小径圧力面2Bと摺動嵌合する円孔面状の小径案内面4C、小径案内面4Cと角部を成し且つ外側座面4Aの裏側に延伸する円環状の外側支持面4D、及び外側支持面4Dの外縁円周と隅角部を成し且つ軸の正の方向に延伸し且つ大径案内面2Cと摺動嵌合する円孔面状の大径圧力面4Bを有する。小径案内面4C、外側支持面4D及び大径圧力面4Bは軸8を円周の中心とする。小径案内面4Cと大径圧力面4Bは軸に平行であることに特に注意する。外側支持面4Dは軸直交方向に傾斜させても良い。図では外側部材4の外面4Eの半径を一定として描いているが、半径は軸方向に変化させても良く、外面側に別の部材を装着したりして、外面側を単層構造又は複層構造にしたり、最も外側に異形線材などを巻き廻したりして良い。
【0070】
c)格納空間1Cの形成と格納空間1Cの容積減少特性
図5は内側部材2と外側部材4の組立図(中央断面図)である。内側支持面2Dと外側支持面4Dは軸方向に対向し、大径案内面2Cと大径圧力面4Bは互いに外側隙間1Aを挟んで摺動嵌合し、且つ小径案内面4Cと小径圧力面2Bは互いに内側隙間1Bを挟んで摺動嵌合する状態になるように内側部材2と外側部材4は組み立てられる。外側隙間1Aと内側隙間1Bの軸直交方向の大きさは可能な限り小さい方が良い。小径圧力面2Bと大径圧力面4Bは軸直交方向に対向し、内側支持面2Dと外側支持面4Dは軸方向に対向し、これらの4つの面は円筒形状の格納空間1Cを形成する。これらの4つの面を格納空間1Cの内面と呼ぶ。ただし、この格納空間1Cの内側支持面2D側と外側支持面4D側にはそれぞれ概円環状の外側隙間1A及び内側隙間1Bが在る。内側支持面2Dと外側支持面4Dの軸方向の間隔を格納空間1Cの高さ1Yと呼ぶ。内側座面2Aと外側座面4Aの軸方向の間隔を内側部材2と外側部材4の組立高さ1Zと呼ぶ。
【0071】
圧縮力の作用に伴い組立高さ1Zが減少すると、格納空間1Cの高さ1Yも等しく減少する。格納空間1Cの高さの減少に拘わらず軸直交方向面内における格納空間1Cの空間断面積が変化しない条件においては、格納空間1Cの高さが減少することにより格納空間1Cの容積は高さの減少量と空間断面積の積に相当する分量だけ減少し、且つ格納空間1Cは格納空間1C内に在る物体に体積圧縮作用を及ぼす。物体が格納空間1Cの内部に在り且つ物体の表面と格納空間1Cの内面が摺接する条件では、体積圧縮作用により物体に圧縮性の応力が生じ、物体の表面と格納空間1Cの内面に面圧が生じる。さらに物体が体積減少性を有する場合は体積弾性係数に基づいて物体の体積が減少する。物体の体積減少量と格納空間1Cの容積減少量は等しい。これらの性質を格納空間1Cの容積減少特性と呼ぶ。
【0072】
d)圧縮部材3
図6は圧縮部材3(5+6+7)の形状を表す立体図である。圧縮部材3は図5に示す格納空間1Cと等しい円筒形状を基準形とする。圧縮部材3の形状については、圧縮部材3と内側部材2と外側部材4とが一緒に組み立て可能であり且つ圧縮部材3の表面が格納空間1Cの内面に摺接し且つ圧縮部材3を格納空間1Cに隙間なく閉じ込められるようにするのが良い。また、圧縮部材3を内側部材2と外側部材4の間に圧入しながらこれらを組み立てても良い。圧縮部材3は外側密閉リング5、円筒6及び内側密閉リング7を有する。図に示すようにこれらは軸方向に重ねられる。圧縮部材3の高さ3Zをhmとし、円筒6の高さ6Zをhとする。円筒ばね1の軸方向の有効変形量を確保する観点から、比h/hmは0.8以上で1に近い比が適している。外側密閉リング5、円筒6及び内側密閉リング7は一体としても良い。
【0073】
図5図6を参照して、圧縮部材3は自身の表面と格納空間1Cの内面が摺接する状態として格納空間1Cの中に隙間なく閉じ込められる。具体的には、圧縮部材3の筒内面3C(5C+6C+7C)と筒外面3D(5D+6D+7D)はそれぞれ小径圧力面2Bと大径圧力面4Bに潤滑液又は/及び潤滑剤を伴って摺接する。圧縮部材3の第一端面3A(外側密閉リング5の第一端面5A)は内側支持面2Dに潤滑液又は/及び潤滑剤を伴って摺接し且つ外側隙間1Aを塞ぐ。同第二端面3B(内側密閉リングの第二端面7B)は外側支持面4Dと潤滑液又は/及び潤滑剤を伴って摺接し且つ内側隙間1Bを塞ぐ。圧縮部材3の表面は小径圧力面2B、内側支持面2D、大径圧力面4B及び外側支持面4Dとはそれぞれ連結されないことに特に注意する。圧縮部材3を形成する材料を格納空間1Cに充填して圧縮部材3を形成しても良い。
【0074】
(3)各部材の力学特性等
a)内側部材2
図3図6を参照して、内側部材2の小径圧力面2Bは圧縮部材3の筒内面3Cと潤滑液又は/及び潤滑剤を伴って摺接するので、小径圧力面2Bには面圧と摩擦応力が作用する。内側部材2は小径圧力面2Bに面圧が作用すると小径圧力面2Bが変形し且つ面圧が無くなると小径圧力面2Bは元の形状に戻るものである。小径圧力面2Bに作用する面圧と小径圧力面2Bの半径方向の変形量との関係は弾性が良いが、面圧と変形量の関係では内側部材2を形成する材料等の内部摩擦による履歴差を含んでも良い。小径圧力面2Bは筒内面との摩擦係数が小さく筒内面の摩耗が少ない等の筒内面との摺動に適した表面性状とするのが良い。小径圧力面2Bの表面粗さは筒内面の表面粗さより小さいのが望ましい。小径圧力面2Bに潤滑液又は/及び潤滑剤を付着させるのが良い。小径圧力面2Bには可能変形量を大きくする観点から、焼き嵌めまたは膨張材の充填等により、小径圧力面とその近傍に円周方向の初期引張応力を導入するのが良い。大径案内面2Cには大径圧力面4Bとの摺動に備えて摺動材を付着させる、埋め込む又は取り付けるのが良い。また、大径案内面2Cには大径圧力面4Bに摺接して潤滑液の漏洩及び外部からの液体や粉塵などの侵入を防止するシーリングを施すのが良い。
【0075】
b)外側部材4
図4図6を参照して、外側部材4の大径圧力面4Bは圧縮部材3の筒外面3Dと潤滑液又は/及び潤滑剤を伴って摺接するので、大径圧力面4Bには面圧と摩擦応力が作用する。外側部材4は大径圧力面4Bに面圧が作用すると大径圧力面4Bが変形し且つ面圧が無くなると大径圧力面4Bは元の形状に戻るものである。大径圧力面4Bに作用する面圧と大径圧力面4Bの半径方向の変形量との関係は弾性が良いが、面圧と変形量の関係では外側部材4を形成する材料等の内部摩擦による履歴差を含んでも良い。大径圧力面4Bは筒外面との摩擦係数が小さく筒外面の摩耗が少ない等の筒外面との摺動に適した表面性状とするのが良い。大径圧力面4Bの表面粗さは筒外面の表面粗さより小さいのが望ましい。大径圧力面4Bには潤滑液又は/及び潤滑剤を付着させるのが良い。可能変形量を大きくする観点から、焼き嵌め、溶接嵌めまたはワイヤーラッピングなどにより、大径圧力面4Bとその近傍に円周方向の初期圧縮応力を導入するのが良い。小径案内面4Cには小径圧力面2Bとの摺動に備えて摺動材などを付着させる、埋め込む又は取り付けるのが良い。また、小径案内面4Cには小径圧力面2Bに摺接して潤滑液の漏洩及び外部からの液体や粉塵などの侵入を防止するシーリングを施すのが良い。
【0076】
c)格納空間1Cの容積増加特性
小径圧力面2Bと大径圧力面4Bに面圧が作用すると、小径圧力面2Bの半径が減少し、且つ大径圧力面4Bの半径が増加し、且つ格納空間1Cの空間断面積が増加する。格納空間1Cの高さが変化しない条件においては、面圧の作用によって格納空間1Cの容積は面圧の作用による空間断面積の増加量と格納空間1Cの高さの積に相当する分量だけ増加する。面圧の作用が無くなると二つの半径は元に戻るので空間断面積と容積は元に戻る。格納空間1Cの中に物体が隙間なく閉じ込められ且つ物体の表面が格納空間1Cの内面に摺接する条件では、物体に圧縮性の応力が生じると、小径圧力面2B、大径圧力面4B及びこれらと摺接する物体の表面に面圧が発生し、面圧に応じて格納空間1Cの空間断面積と物体の軸直交方向面内の断面積が増加する。これらの性質を格納空間1Cの容積増加特性と呼ぶ。
【0077】
d)円筒6
図3図4図6及び図8(詳細は後述する)を参照して、円筒6の筒内面6Cと筒外面6Dは潤滑液又は/及び潤滑剤を伴ってそれぞれ小径圧力面2Bと大径圧力面4Bと摺接するので、筒内面6Cと筒外面6Dには面圧と摩擦応力が作用する。円筒6の第一端面6Aと第二端面6Bはそれぞれ外側密閉リング5及び内側密閉リング7とそれぞれ摺接するので、第一端面6Aと第二端面6Bにはそれぞれ面圧と摩擦応力が作用する。円筒6の材料としては、小径圧力面2Bと大径圧力面に4B比べて体積弾性係数又は弾性係数が小さく且つ格納空間1Cの変形に追随可能な変形性能と圧縮耐力を備える材料が適している。例えば、天然ゴム、クロロプレンゴム、高減衰ゴム及び注形が可能なポリウレタンゴムなどの粘弾性材料は円筒6の材料として適している。同様な性質の弾性材料も適している。降伏点が低く塑性流動が生じ易い純鉛等の弾塑性材料も変形性能の観点で円筒6の材料として適している。ばね定数を低減する必要がある場合は、弾性係数がより小さく且つ体積弾性係数がより小さく且つ変形性能と圧縮耐力が高い材料を円筒の材料とするのが良い。円筒6は部位毎に異種の材料で形成しても良い。円筒6の体積または質量に対する円筒6に適した材料の合計体積または合計質量の比はそれぞれ0.8以上とするのが良く、1に近い比が適している。円筒6の筒内面6Cと筒外面6Dはそれぞれ小径圧力面2Bと大径圧力面4Bとの摺動に適した表面性状とするのが良い。例えば、筒内面6Cと筒外面6Dはシリコーンオイルなどの潤滑液又は/及びフッ素樹脂微粉末などの潤滑剤を保持できる微細な窪み等を備えるのが良い。筒内面6Cと筒外面6Dをフッ素樹脂繊維等の織物で被覆し、織物にシリコーンオイル等の潤滑液を含侵しても良い。
【0078】
e)外側密閉リング5及び内側密閉リング7
図5図6及び図8(詳細は後述する)を参照して、外側密閉リング5は内側支持面2D、大径圧力面4B及び円筒6の第一端面6A(図8参照)にそれぞれ摺接し、内側支持面2Dと円筒6の第一端面6Aに圧縮力を伝達し、外側部材4と内側部材2の軸方向の相対移動を可能とし、且つ外側隙間への円筒の膨出を防止する。大径圧力面との摺動及び外側隙間への円筒の膨出防止の観点から、外側密閉リング5は、硬さにおいて大径圧力面4Bより軟らかく且つ円筒6より硬く且つ自己潤滑性を備える摺動材料を内側支持面側2Dと大径圧力面4B側に有するのが良い。外側密閉リング5の筒外面5Dが外側部材4の大径圧力面4Bと摺接する部分には初期面圧を導入するのが良い。内側密閉リング7は外側支持面4D、小径圧力面4B及び円筒6の第二端面6Bにそれぞれ摺接し、外側支持面4Dと円筒6の第二端面6Bに圧縮力を伝達し、外側部材4と内側部材2の軸方向の相対移動を可能とし、且つ内側隙間への円筒の膨出を防止する。小径圧力面2Bとの摺動及び内側隙間への円筒の膨出防止の観点から、内側密閉リング7は、硬さが小径圧力面2Bより軟らかく且つ円筒6より硬く且つ自己潤滑性を備える摺動材料を外側支持面4D側と小径圧力面2B側に有するのが良い。内側密閉リング7の筒内面7Cが内側部材2の小径圧力面2Bと摺接する部分には初期面圧を導入するのが良い。
【0079】
(4)等分布圧縮力の伝達と変形の原理
先ず等分布圧縮力の伝達経路を説明し、次に格納空間1Cの容積減少特性、容積増加特性及び圧縮部材3(円筒6)を形成する材料の体積弾性係数に基づいて円筒ばね1の変形の原理を説明する。圧縮部材3の表面が格納空間1Cの内面に潤滑液又は/及び潤滑剤を伴って摺接し、小径圧力面2Bと大径圧力面4Bは軸と平行であることから、等分布圧縮力の大部分は内側座面2A、内側支持面2D、圧縮部材3の第一端面と第二端面、外側支持面及び外側座面4Aに発生する面圧並びに面圧に起因して発生する各面の間に介在する部材の応力によって伝達され、等分布圧縮力の残りの部分は内側応力面、外側内側圧力、筒内面及び筒外面に発生する摩擦応力並びに摩擦応力に起因して発生する内側部材2、外側部材4及び圧縮部材3の応力によって伝達されると考えられる。
【0080】
円筒ばね1に等分布圧縮力が作用すると、圧縮部材3の筒内面と筒外面がそれぞれ小径圧力面2Bと大径圧力面4Bと滑ることによって格納空間1Cの容積減少特性が有効になり、格納空間1Cの高さと容積は減少し、圧縮部材3に圧縮性の応力が生じ、且つ圧縮部材3の表面と格納空間1Cの内面に面圧が発生する。これらと同時に容積増加特性が有効になり、格納空間1Cの空間断面積と容積が増加する。さらに圧縮部材3の円筒が体積減少性を有する場合は体積弾性係数に基づいて圧縮部材3(円筒)の体積が減少する。円筒6が体積減少性を有しない場合は圧縮部材3(円筒)の体積は減少しない。
【0081】
格納空間1Cの容積と圧縮部材3の体積は常に等しく、等分布圧縮力と円筒ばね1の内力はつり合わなければならない。よって、圧縮部材3(円筒)が体積減少性を有する場合は、容積減少特性に基づく格納空間1Cの容積減少量と容積増加特性に基づく格納空間1Cの体積増加量の和が体積弾性係数に基づく圧縮部材3(円筒)の体積減少量に等しくなるまで、同時に内側支持面2Dに作用する面圧の軸方向成分の合力と小径圧力面に作用する摩擦応力の軸方向成分の合力の和が等分布圧縮力の合力(圧縮力)とつり合い且つ外側支持面に作用する面圧の軸方向成分の合力と大径圧力面に作用する摩擦応力の軸方向成分の合力の和が等分布圧縮力の合力(圧縮力)とつり合うまで、格納空間1Cと圧縮部材3の形状は等しく変形し、同時に格納空間1Cの内面と圧縮部材3の表面は互いに滑ると考えられる。
【0082】
円筒6が体積減少性を有しない場合は、容積減少特性に基づく格納空間1Cの容積減少量と容積増加特性に基づく格納空間1Cの容積増加量は等しい。
【0083】
摩擦応力の影響を考えなければ、体積弾性係数に基づく圧縮部材3(円筒)の体積の減少と格納空間1Cの空間断面積の増加によって格納空間1Cの高さと圧縮部材3の高さが減少すると考えて良い。内側部材2と外側部材4の軸方向の変形は圧縮部材3の高さの減少に比べて小さいと仮定すると、ばねの軸方向の変形量は圧縮部材3の高さの減少によって発現すると考えられる。また、圧縮部材3は格納空間1Cの変形に追随する変形性能と耐力を備える必要がある。
【0084】
圧縮部材3の断面積の増加に関わる変形は弾性変形に限らず弾塑性変形で生じても良いと考えられる。ただし、弾塑性変形が生じる場合は残留変形に注意する必要がある。
【0085】
外側密閉リング5と内側密閉リング7のそれぞれの軸方向の変形量は小さいと仮定すると円筒6の高さの減少量をばねの軸方向の変形量と見なすことができる。等分布圧縮力の作用が無くなると、格納空間1Cの容積減少特性と容積増加特性及び円筒6の弾性によりばねの変形量は元に戻ると考えられる。ただし、摺動部の摩擦応力、円筒の内部摩擦または塑性変形などによっての残留変形が生じる場合がある。
【0086】
円筒6の変形を弾性の範囲に限ると、円筒6を形成する材料の体積弾性係数又は弾性係数、円筒6の出来形、小径圧力面2Bと大径圧力面4Bの半径、小径圧力面2Bの面圧に対する変形特性、大径圧力面4Bの面圧に対する変形特性、小径圧力面2Bと筒内面との摩擦係数、及び筒外面と大径圧力面4Bとの摩擦係数などが、ばねの圧縮力と変形量に関係すると考えられる。体積弾性係数が小さいほど及び面圧による格納空間1Cの空間断面積の増加が大きいほど円筒ばね1のばね定数はより小さくなると考えられる。円筒6の体積の減少を考慮しない場合は体積弾性係数の代わりに弾性係数を指標にして材料を選定して良い。なお、圧縮ばねの変形量の増加に伴い、外側隙間と内側隙間はそれぞれ拡大するので、円筒の膨出防止の観点で注意が必要である。
【0087】
3.圧縮力と変形量の関係
(1)基本寸法と材料定数
図7では円筒ばね1の基本寸法を定義する。内側部材2の内面の半径、小径圧力面と筒内面の半径、筒外面と大径圧力面の半径、及び外側部材4の外面の半径をそれぞれr0、r1、r2及びr3とする。内側部材2の高さと大径案内面の高さをそれぞれhinとhin,gとし、外側部材4の高さと小径案内面の高さをそれぞれhoutとhout,gとする。図中の高さwcrを幾何限界変形量と定義する。括弧()内の数値は、後述する試験体の寸法である。内側部材2と外側部材4を弾性体として、これらの弾性係数とポアソン比をそれぞれEsとνsとする。外側密閉リングと内側密閉リングは弾性体とし、これらの変形および体積変化は小さいとしてこれらが軸方向の変形量に及ぼす影響は考えない。また、摩擦応力が力のつり合い及び変形に及ぼす影響は考えない。円筒の材料定数は後述する。
【0088】
(2)円筒ばね1の原理
円筒は3軸等圧縮の状態にあり、円筒においては(2)式の近似式が成り立つと仮定する。
【0089】
【数2】
ここに、p、B、V及びΔVはそれぞれ円筒の各面に作用する面圧、体積弾性係数、変形前の体積、変形後の体積減少量である。円筒の弾性係数とポアソン比をそれぞれEとνとすると、B、E及びνには(3)式の関係がある。
【0090】
【数3】
【0091】
図8では円筒に作用する面圧と筒内面と筒外面の半径方向の変形量を定義する。筒内面、筒外面、第一端面(6A)及び第二端面(6B)に面圧pが一様に作用する。図では一部に面圧が作用する様に描いているが、面圧は各面に一様に作用する。pが作用するときの筒内面と筒外面の半径方向の変形量をそれぞれu1とu2とする。変形量の正負符号は半径が増加する方向を正とする。
【0092】
図9は円筒の変形前と変形後の形状変化を模式的に描いた図である。図では円筒の変形前の形状を細い破線で示し、変形後の形状を太い実線で示す。変形前と変形後の円筒の高さはそれぞれhとh-wであり、wは円筒の軸方向の変形量である。筒内面と筒外面の半径方向の変形量はそれぞれu1とu2であるから、筒内面と筒外面の変形後の半径はそれぞれr1+u1とr2+u2となる。これらの半径は高さ方向には変化しないと仮定する。円筒は3軸等圧縮の状態であると仮定しているので、図9(b)に示すように、円筒の円周方向にはpと大きさが等しい直応力σθが生じる。
【0093】
変形前の円筒の断面積をAとする。断面積Aは図9(b)に示す左上がりの斜線で示す部分の面積である。変形前の体積Vは図9(a)に示す右上がりの斜線部に相当する体積V1と左上がりの斜線部に相当する体積V2の和となる。ここで、V1は格納空間1Cの容積減少特性に基づく円筒の体積減少量である。A、V、V1及びV2は(4)式~(7)式で表せる。
【0094】
【数4】
【0095】
格納空間1Cの容積増加特性に基づく円筒の断面積増加量と体積増加量をそれぞれΔAとV3する。面積増加量ΔAは図9(b)の右上がりの斜線で示す二つの円弧状の細長い部分の面積である。体積増加量V3図9(a)に示す右上がりの斜線で示す二つの細長い部分に相当する体積である。変形後の円筒の体積はV2+V3である。ΔAとV3はそれぞれ(8)式~(9)式で表せる。変形後の円筒の体積減少量ΔVを用いると、変形前と変更後の体積のつり合い式は(10)式となる。(6)式、(9)式及び(10)式により、体積減少量ΔVは(11)式で表される。(2)式、(5)式及び(11)式により、(12)式を得る。(12)式を等式に改め、式を変形すると、(13a)式を得る。ここで、ΔA/A|pは面圧がpであるときの断面積ひずみΔA/Aを示す。(13a)式のw/hとp/Bはそれぞれ円筒の軸ひずみと体積ひずみであるから、(13a)式より面圧pにおける円筒の軸ひずみは体積ひずみと断面積ひずみで決まり、円筒の軸方向の変形量は体積減少量と断面積増加量で決まると考えられる。断面積増加量は変形量u1、u2とpの関係が分かれば容易に求められる。
【0096】
【数5】
【0097】
図10では、(13a)式における円筒の軸ひずみ、体積ひずみ及び断面積ひずみの関係を示す。0%、2%及び4%の3ケースの体積ひずみに限定して、0%から5%までの断面積ひずみの範囲について軸ひずみの変化を示している。図の体積ひずみと断面積ひずみは共に等しい面圧で発生していることに注意が必要である。面積ひずみはΔA/A≦0.05≪1であるから、(13a)式より近似的に軸ひずみは体積ひずみと断面積ひずみの和と考えて良い。図より、3ケースの体積ひずみのそれぞれについて、断面積ひずみの増加に概ね比例して軸ひずみが増加すること、概ね軸ひずみは体積ひずみと断面積ひずみの和と見なせることが確認できる。これより、体積ひずみと断面積ひずみを大きくすることによって円筒の軸ひずみを大きくできると考えられる。
【0098】
体積ひずみを大きくする方法としては、体積弾性係数を小さくすること及び面圧を大きくすることが考えられる。円筒を形成する材料の3軸圧縮耐力が大きいほど、小径圧力面と大径圧力面の耐力が高いほど面圧を大きくすることができる。断面積ひずみを大きくする方法としては、断面積の増加量を大きくすること及び断面積を小さくすることが考えられる。円筒ばね1は小径圧力面の半径の減少と大径圧力面の半径の増加により断面積の増加を発現させている。
【0099】
円筒ばね1の変形量は円筒の軸ひずみと高さによって決まるので、縦ひずみを固定すると高さを増加することによって変形量を増加でき、変形量を固定すると縦ひずみを増加させることにより高さを減少でき、高さと変形量を固定すると必要とする軸ひずみが決まると考えられる。(13a)式は円筒ばね1の軸方向の変形の原理を示す。
【0100】
(3)面圧と変形量
(13a)式に(8)式を代入し、式を変形すると、(13b)式を得る。筒内面と小径圧力面の半径方向の変形量は等しく、筒外面と大径圧力面の半径方向の変形量は等しくなければならない。面圧に対する小径圧力面の半径方向の変形係数及び大径圧力面のそれをそれぞれnin及びnoutとし、面圧と半径方向の変形量の関係を(14a)式及び(14b)式で表す。面圧の作用により小径圧力面の半径は減少するので、u1<0である。(14a)式と(14b)式を(13b)式に代入し、さらに式を変形すると、(15a)式及び(15b)式を得る。ここに、Ψ(x)は面圧xを変数とする軸方向の弾性関数と呼ぶ。小径圧力面と大径圧力面に生じる摩擦応力の影響を省略して、第一端面と第二端面に作用する面圧pは変形前の円筒の断面積Aと摩擦応力の影響を省略した圧縮力Qrを用いて(16)式で表す。ここで、Qrは円筒ばね1の復元力に相当する。(16)式を(15a)式に代入すると(17)式を得る。ここに、(17)式の右辺の(A/h)Ψ(x=Qr/A)は、Qr-w曲線の接線剛性を表すと考えられる。(17)式より、円筒の軸方向の変形量は復元力Qrの非線形関数となる。Qr-w曲線の原点における初期接線剛性をK0とすると、K0は(18)式で与えられる。なお、(15b)式と(18)式において、体積弾性係数をB=∞として、これらの式中のBに関わる項を消滅させると、円筒が体積減少性を有しない場合の弾性関数と初期接線剛性が得られる。
【0101】
【数6】
【0102】
(4)小径圧力面と大径圧力面の変形係数
内側部材2を小径圧力面(円筒外面)に面圧pが作用する厚肉円筒と考え且つ外側部材4を大径圧力面(円筒内面)に面圧pが作用する厚肉円筒と考えて、変形係数ninとnoutをLameの厚肉円筒の理論により導く。厚肉円筒の理論により、小径圧力面の半径方向の変形量は(19a)式~(19d)式で表される。同様に、大径圧力面の半径方向の変形量は(20a)式~(20d)式で表される。内側部材2と外側部材4は円筒と接しない部分があることから、これらの半径方向の変形量と面圧は軸方向に一様でないと考えられる。内側部材2の高さhinより円筒の高さhが小さいほど半径方向の実変形量は(19a)式の変形量に比べて小さくなると考えられる。外側部材4も同様である。円筒と内側部材2の高さの比h/hinを用いて、(19a)式の係数ein/Esを(21)式のように減少補正し、変形係数ninを(21)式で定義する。同様に、円筒と外側部材4の高さの比h/houtを用いて、(20a)式のbout/Esを(22)式のように減少補正し、変形係数noutを(22)式で定義する。ninとnoutは(21)式と(22)式に依らずに、内側部材2と外側部材4のそれぞれの面圧と変形量の実情に応じて他の方法で定めて良い。
【0103】
【数7】
【0104】
(5)内側部材2と外側部材4の応力とひずみの評価
小径圧力面と大径圧力面の半径方向の実変形量は軸方向に変化すると考えられるので、(14a)式と(14b)式を用いて得られるu1とu2より大きな変形量が部分的に発生すると考えられる。(14a)式と(14b)式を用いて得られるu1とu2を中位の変形量と呼び、部分的に発生が予想される大きな変形量を高位の変形量と呼ぶ。ここでは、中位の変形量から高位の変形量を推定し、高位の変形量から内側部材2と外側部材4の応力とひずみを近似的に得る方法について述べる。
【0105】
内側部材2と外側部材4の円筒厚肉内部に発生する応力を定義するため極座標系(θ、r、z)を設定する。ここに、θ、r及びzはそれぞれ角度、半径及び軸上の座標とする。座標zは下向きを正符号とする。θ、r及びzの各方向の直応力をそれぞれσθ、σr及びσzと表し、これらの直応力の正負符号は圧縮の場合を正とする。σθとσrは軸方向に大きさが変化しないと仮定し、σzは座標に拘わらず大きさが一定と仮定する。
【0106】
円周方向(θ方向)のひずみと半径方向(r方向)の変形量をそれぞれεθとuとすると、これらと各直応力には(23)式の関係がある。ここに、σθ、σr及びσzの正負符号は圧縮を正符号とする。また、厚肉横断面の任意の点で(24)式が成り立つ。ここに、Cは定数である。
【0107】
【数8】
【0108】
内側部材2の小径圧力面の円周方向と半径方向の中位の直応力をそれぞれσin,θ,1とσin,r,1とする。軸方向の直応力は小さいと仮定し省略する。半径方向の境界条件からσin,r,1=pであるから、これらの直応力と(14a)式で求められたu1を(23)式に適用すると、(25)式を得る。内側部材2の内面の円周方向と半径方向の中位の直応力をそれぞれσin,θ,0とσin,r,0とする。軸方向の直応力は小さいと仮定し省略する。また、内面には面圧は作用しないので、σin,r,0=0である。(24)式の関係を用いると、(26)式を得る。
【0109】
【数9】
【0110】
外側部材4の大径圧力面の円周方向と半径方向の中位の直応力をそれぞれσout,θ,2とσout,r,2とする。軸方向の直応力は小さいと仮定し省略する。また、境界条件からσout,r,2=pであるから、これらの直応力と(14b)式で求められたu2を(23)式に適用すると、(27)式を得る。外側部材4の外面の円周方向と半径方向の中位の直応力をそれぞれσout,θ,3とσout,r,3とする。軸方向の直応力は小さいと仮定し省略する。また、内面には面圧は作用しないので、σout,r,3=0である。(24)式の関係を用いると、(28)式を得る。(25)式、(26)式、(27)式及び(28)式で求めた中位の直応力に、(21)式と(22)式で用いた係数h/hinとh/houtの逆数を掛けて、高位の直応力を(29)式及び(30)式で推定する。ここに、σh,in,θ,j,j=0,1及びσh,out,θ,j,j=2,3はそれぞれ内側部材2と外側部材4の円周方向の高位の直応力である。
【0111】
【数10】
【0112】
後述する円筒ばね1の圧縮試験において内側円筒の内面と外側円筒の外面のそれぞれの円周方向のひずみを計測する。これらのひずみの中位と高位は(26)式、(28)式、(29)式及び(30)式で示される直応力を弾性係数で除して計算する。計算式は(31a)式、(31b)式、(32a)式、(32b)式で示される。ここに、εin,θ,0とεh,in,θ,0は内側部材2の内面の中位と高位の円周方向のひずみである。εout,θ,3とεh,out,θ,3は外側部材4の外面の中位と高位の円周方向のひずみである。
【0113】
【数11】
【0114】
4.円筒ばね1の試験体と圧縮試験
(1)試験体の諸元
円筒ばね1の力学的妥当性を確認するため、縮尺1/10のばねの試験体を製作し、圧縮試験により試験体の圧縮力と変形量の関係及び試験体のひずみを調べる。試験体の基本寸法を図7に示す。表1は試験体の基本寸法を除く諸元である。
【0115】
【表1】
【0116】
内側部材2と外側部材4の材料は機械構造用炭素鋼鋼材(S45C)相当の鋼管である。円筒の材料はクロロプレンゴム・硬度65度(CR-A65)である。外側密閉リング及び内側密閉リングは後述する。図11に示す写真は試験体と各部材の外観である。図11(a)は内側部材2の外観である。内側座面2A、小径圧力面2B、大径案内面2C、内側支持面2D及び内面2Eが視認できる。内側座面2Aにはひずみゲージのリード線を通すための溝を設ける。溝の個数は8個とする。溝の深さ15mmを除いた高さを内側部材2の高さhin=121mmとする。小径圧力面の算術平均粗さは0.2~0.4μmである。
【0117】
図11(b)は外側部材4の外観である。大径圧力面4B、小径案内面4C、外側支持面4D及び外面4Eが視認できる。外側座面4Aは視認できない。大径圧力面の算術平均粗さは0.7~1.0μmである。内側部材2と外側部材4を組み立てて形成する格納空間1C(図6の1C)の半径寸法の出来形はr1=104mmとr2=109mmである。
【0118】
図11(c)は円筒の外観である。円筒の寸法の出来形はr1=104mm、r2=109.5mm及びh=80mmである。円筒は市販のブロック材料を切削加工により製作した。筒外面6Dと筒内面6Cの算術平均粗さは約1μmである。円筒と空間の内半径は等しいが、円筒の外半径が空間の外半径より大きいため、円筒は格納空間1Cに押し込むように閉じ込めた。
【0119】
図11(d)は外側密閉リングと内側密閉リングの外観である。材料はポリアセタール(曲げ弾性率2200N/mm2、ロックウェル硬度M78、ポアソン比0.35)である。基準寸法は内径208mm×外径218mm×厚5mmである。これらの密閉部材は大径圧力面と小径圧力面の出来形にはめあうように内径と外径を微調整した。
【0120】
図11(e)は試験体の外観である。内側部材2、圧縮部材3及び外側部材4をそれぞれシリコーンオイル槽(動粘度10,000mm2/s、比重0.975、25℃)に沈めて、さらに減圧容器で部材表面の空気を取り除いて、これらの部材を組み立てた。試験体の幾何限界変形量と総高さはそれぞれwcr=25mmとhtotal=146mmである。円筒を閉じ込めた後の幾何限界変形量の出来形寸法wcr=25mmより、閉じ込め後の円筒の高さはh=90mmと推定された。図7の基本寸法はこの円筒の閉じ込め後の高さに基づく。外側部材4の外面4Eには円周方向ひずみを計測する4枚のひずみゲージを接着した。図の写真では視認できないが、内側部材2の内面2Eにも4枚のひずみゲージを接着した。
【0121】
表1を参照して、鋼管の弾性係数とポアソン比はそれぞれ2.0×105N/mm2と0.3とする。クロロプレンゴムのポアソン比0.4998と弾性係数4.05N/mm2は文献調査により仮定した。ポアソン比は「藤本邦彦、手塚悟:ゴムの体積弾性率とポアソン比、日本ゴム協会誌、第59巻、第7号、pp.385-398、1986年」より、類似のゴムを参考にした。弾性係数とポアソン比から計算した体積弾性係数は3375N/mm2である。ポアソン比が0.5に近いことから弾性係数は静的せん断弾性係数の3倍とした。静的せん断弾性係数は天然ゴム(NR)に対する硬度Hsと静的せん断弾性係数Gの関係を求めた(33)式の実験式を用いて硬度65度から推定した。推定した静的せん断弾性係数は1.35N/mm2である。
【0122】
【数12】
【0123】
(16)式より圧縮力117.3kNにおける面圧は35.1N/mm2であり、(17)式より軸方向変形量は4.24mmと計算される。圧縮力117.3kNは後述する圧縮試験で計測する試験体の復元力である。(18)式より初期接線剛性は26.6kN/mmと計算される。円筒の中位の円周方向圧縮応力は35.1N/mm2と計算される。内側部材2の内面2Eにおける中位と高位の円周方向圧縮応力は206N/mm2と278N/mm2と計算される。外側部材4の大径圧力面4Bにおける中位と高位の円周方向引張応力は189N/mm2と254N/mm2と計算される。内側部材2の内面2Eにおける中位と高位の円周方向圧縮ひずみは1030×10-6と1390×10-6と計算される。外側部材4の外面4Eにおける中位と高位の円周方向引張ひずみは770×10-6と1030×10-6と計算される。これらのひずみは後述する試験体の圧縮実験で計測するひずみと比較される。
【0124】
(2)圧縮試験の要領
図12の写真は圧縮試験装置と試験体の外観である。装置の容量は250kNである。図12の写真では載荷具、載荷盤、試験体、支持盤、梁、変位計(左右2個)及び歪ゲージリード線が視認できる。載荷具は装置の付属品である。載荷盤は載荷具からの圧縮力を内側部材2の内側座面2Aに伝達する。支持盤は装置の梁からの圧縮力を外側部材4の外側座面4Aに伝達する。載荷盤と内側座面2Aの間には鏡面ステンレス板(厚1mm)とシリコーンオイル(動粘度10,000mm2/s、比重0.975、25℃)を塗布したフッ素樹脂シート(厚0.05mm)を挟み、載荷盤と内側座面2Aの半径方向の摩擦を小さくした。外側座面4Aと支持盤の間も同様の処置を行った。最大変形量1.5mm、3mm及び5mmの6サイクル繰り返し圧縮試験をそれぞれ行った。載荷速度は毎分0.885mmである。
【0125】
(3)変形量―圧縮力曲線
図13は最大変形量5mmの第1サイクルと第4サイクルの圧縮力―変形量曲線を示したグラフである。図中の破線が第1サイクルの曲線であり、実線が第4サイクルの曲線である。第2サイクルから第6サイクルの曲線は互いに近接し図では違いが視認できないため、第1サイクルと第4サイクルの二つの曲線を図示する。また、最大変形量1.5mmと3mmの曲線も最大変形量5mmの曲線と近接し、互いに違いが視認できないため、図示を省略する。図より第1サイクルに比べて第4サイクルの圧縮力が僅かに減少しているのが確認できる。第4サイクルの最大変形量はwmax=4.95mmであり、組立後の円筒の高さはh=90mmであるから、円筒の軸方向最大ひずみはwmax/h=0.055である。最大圧縮力はQmax=135kNである。
【0126】
第4サイクルの曲線において、圧縮力の増加に連れて変形量が増加し、圧縮力が減少すると変形量が元に戻ることが確認される。変形量が大きくなるに連れて圧縮力の増加の割合が大きくなる傾向が確認される。載荷時と除荷時で同一の変形量における圧縮力に差があり、変形量が大きくなるに連れて圧縮力の差が大きくなる傾向が確認される。載荷時と除荷時の圧縮力の差を円筒と大径圧力面及び円筒と小径圧力面とのそれぞれの摺動部の摩擦に起因すると仮定して、復元力と摩擦力を計算する。
【0127】
(4)復元力と摩擦力
図14は原点移動した第4サイクルの圧縮力―変形量曲線を示すグラフである。この曲線の変形量0.5mm~4.5mmの範囲において、載荷過程の曲線と除荷過程の曲線を3次関数で最良近似すると(34a)式及び(34b)式で示す二つの関数が得られた。ここに、Q+(w)とQ-(w)はそれぞれ載荷過程と除荷過程における圧縮力の近似関数であり、力と変形量の単位はそれぞれkNとmmである。圧縮力に含まれる復元力を載荷過程と除荷過程の圧縮力の和の1/2とし、摩擦力を載荷過程と除荷過程の圧縮力の差の1/2とし、(34a)式と(34b)式を適用すると、(35a)式及び(35b)式で示す復元力と摩擦力の近似関数が得られた。ここに、Qr(w)とQf(w)はそれぞれ復元力と摩擦力の近似関数である。
【0128】
【数13】
【0129】
図14は(35a)式の復元力と(35b)式の摩擦力を図示する。Qr(w)は実線で表され、Qf(w)は破線で表されている。図の復元力―変形量曲線より、変形量の増加に連れて復元力が単調に増加し、変形量が大きくなるに連れて復元力の増加の割合が大きくなる傾向が確認される。図の摩擦力―変形量曲線より、初期摩擦力が4.1kNであり、変形量の増加に連れて摩擦力が僅かに増加することが確認できる。変形量4.5mmにおける復元力と摩擦力はそれぞれ117.3kNと7.7kNである。摩擦力の大きさは復元力の大きさの約6.5%である。
【0130】
図15は、試験体の復元力、体積の減少が生じるB=3375N/mm2の条件(表1参照)及び体積の減少が生じないB=∞の条件における(17)式の復元力を比較するための図である。変形量約4.5mm付近の復元力を比較すると、試験体の復元力は体積の減少が生じる条件の(17)式の復元力に比べて約5%小さく、体積減少が生じない条件の(17)式の復元力に比べて約36%小さいことが確認される。
【0131】
(5)体積弾性係数、初期接線剛性及び変形量
図16では、(18)式で試算した試験体の初期接線剛性と体積弾性係数の関係及び(17)式において復元力を117.3kNに固定して試算した試験体の体積弾性係数と変形量の関係を示す。試算には図7に示す基本寸法と表1の試験体の諸元を用いた。圧縮試験で得られた初期接線剛性(●:TEST)と復元力117.3kNの時の変形量(〇:TEST)を併記する。ただし、体積弾性係数は表1に示す3375N/mm2とした。
【0132】
図より、体積弾性係数が小さくなるに連れて、初期接線剛性は単調に小さくなり、逆に変形量は単調に大きくなり、体積弾性係数が小さくなるほど減少と増加の割合が大きくなることが確認できる。初期接線剛性が小さくなることと変形量が増加することはばね定数を小さくすることであるから、体積弾性係数を小さくすることにより円筒ばね1のばね定数を小さくできると考えられる。例えば、試験体で使用したクロロプレンゴムの弾性係数は約4N/mm2であり、弾性係数が約1.8N/mm2の免震用天然ゴム(NR)が規格化されている。免震用天然ゴムのポアソン比が0.4998程度と仮定すると、体積弾性係数は約1500N/mm2と推定される。このような材料を試験体に用いると、初期接線係数は約5kN/mm(約20%)減少し、変形量は約1mm(約20%)増加すると考えられる。
【0133】
(6)内側部材2と外側部材4の円周方向のひずみ
図14の復元力117.3kNと軸変形量4.5mmにおいて内側部材2の内面と外側部材4の外面で計測された円周方向の平均計測ひずみを図17に示す。平均計測ひずみとは載荷過程と除荷過程の計測ひずみの和に1/2を乗じたひずみである。また、表1に示す中位と高位の円周方向の計算ひずみを併記する。内側部材2の内面においては、円筒の第一端面付近、中央付近及び第二端面付近でそれぞれ670×10-6、1210×10-6及び1140×10-6の圧縮ひずみが生じた。円筒の中央付近が最大となり、内側座面2Aに近くなるほどひずみが小さくなることが確認できる。円筒の第二端面付近と中央付近の計測ひずみは中位と高位の計算ひずみの間に在ることが確認できる。高位の計算ひずみは計測ひずみの最大値の約1.15倍である。
【0134】
外側部材4の外面においては、円筒の第一端面付近、中央付近及び第二端面付近でそれぞれ880×10-6、1000×10-6及び670×10-6の引張ひずみが生じた。円筒の中央付近が最大となり、外側座面4Aに近くなるほどひずみが小さくなることが確認できる。円筒の第一端面付近と中央付近の計測ひずみは中位と高位の計算ひずみの間に在ることが確認できる。高位の計算ひずみは計測ひずみと同程度であった。内側部材2及と外側部材4はどちらも計測ひずみの最大値が中位と高位の計算ひずみの間にあることから、(17)式の復元力と変形量の関係を導く過程は概ね力学的に妥当であると考えられる。
【0135】
内側部材2と外側部材4はどちらも軸方向に円周方向ひずみが変化していることから、内側部材2と外側部材4には軸方向の曲げ応力及び半径方向と軸方向のせん断応力が発生していると考えられる。内側部材2と外側部材4の安全性評価にあたっては円周方向の直応力に加えてこれらの応力を考慮する必要がある。
【0136】
(7)断面積ひずみと体積ひずみの推定
図17に示す二つの曲線ε0(z)とε3(z)はそれぞれ内側部材2の内面と外側部材4の外面の平均計測ひずみと計測位置を通る3次関数である。これらの3次関数は(36a)式及び(36b)式で示される。ここに、zは計測位置を表す座標である。(36a)式と(36b)式のひずみと計測位置zの単位は10-6とmmである。内側部材2と外側部材4が円筒と接触するzの範囲を(36c)式で示す。円筒の高さは変形後の高さ85.5mmである。(36a)式を(36c)式の範囲で積分してε0(z)が囲む面積を求め、得られた面積を(36c)式の円筒の高さで割って、内側部材2の内面における中位の円周方向のひずみεin,θ,0を推定する。εin,θq,0から(31a)式と(26)式を経由して(25)式に戻り、内側部材2の小径圧力面における半径方向の変形量u1を推定する。同様にして、(36b)式から外側部材4の外面における中位の円周方向のひずみεout,θ,3を推定し、(32a)式と(28)式を経由して(27)式に戻り、外側部材4の大径圧力面における半径方向の変形量u2を推定する。
【0137】
【数14】
【0138】
変形量u1とu2が求まると、(8)式から容積増加特性に基づく円筒の断面積増加量ΔAが求まり、ΔAと軸方向の変形量wを(9)式に代入して容積増加特性に基づく円筒の体積増加量V3が求まる。容積減少特性に基づく円筒の体積減少量V1は(6)式から求まる。V1とV3を(11)式に代入することにより円筒の体積減少量ΔVが求まる。さらに、ΔAとΔVにより断面積ひずみと体積ひずみを推定する。
【0139】
表2は円筒の体積ひずみ、断面積ひずみ及び軸ひずみを、理論式の計算値と圧縮試験に基づく推定値とで比較する。
【0140】
【表2】
体積ひずみは計算値と推定値に差は無く、断面積ひずみと軸ひずみは共に計算値が推定値より僅かに小さいことが確認される。また、軸ひずみは体積ひずみと断面積ひずみの和に近いことから、試験体では(13a)式が成立すると考えられる。体積ひずみと断面積ひずみの比は概ね1:4であり、試験体の軸方向の変形量は主に断面積ひずみにより発現しているが、体積ひずみにより発現する量も変形量の伸長に有効な量であると考えられる。
【0141】
5.まとめ
鉛直免震支承に用いるばね要素として、内側部材2、内側部材2に対して外側に在る外側部材4及び内側部材2と外側部材4の間に形成される格納空間1Cの中に隙間なく閉じ込められる圧縮部材3から成る円筒ばね1を提案した。第一に円筒ばね1の基本構成、内側部材2と外側部材4の特性、格納空間1Cの容積減少特性と容積増加特性を説明した。第二に格納空間1Cと圧縮部材3の体積の等値性及び外力と円筒ばね1の内力のつり合いから復元力と変形量の関係を導いた。最後に縮尺1/10のばねの試験体を用いた圧縮試験により得られたばねの復元力特性とひずみ特性について述べた。
【0142】
以下に、知見をまとめる。1)円筒ばね1に圧縮力を作用させると軸方向に変形量が生じ、圧縮力を取り除くと変形量は元に戻る。2)同一変形量で比べると除荷過程の力は載荷過程の力より小さく、変形量が大きくなるに連れて力の差が大きくなる。3)復元力は変形量の増加に連れて単調に増加し、変形量が大きくなるに連れて復元力の増加の割合が大きくなる傾向がある。4)内側部材2と外側部材4には軸方向に大きさが変化する円周方向のひずみが発生する。これらの部材の安全性評価では円周方向のひずみの変化を考慮する必要がある。5)変形量は内側部材2の小径圧力面の半径の減少と外側部材4の大径圧力面の半径の増加と体積弾性係数に基づく圧縮部材3(円筒)の体積減少により発現する。6)格納空間1Cと圧縮部材3(円筒)の体積の等値性及び外力と円筒ばね1の内力のつり合いにより復元力と変形量の関係を数式で示すことが出来る。
【0143】
縮尺1/10の試験体を用いた限られた条件の圧縮試験と材料定数を仮定した数値計算で得られた知見からの結論であるが、得られた円筒ばね1の復元力と変形量の関係より、提案の円筒ばね1は鉛直免震支承のばね要素として使用できる可能性があると考えられる。円筒の材料である粘弾性材料の圧縮時の体積弾性係数と小径圧力面と大径圧力面の半径方向の変形量を正確に求めることにより、復元力と変形量の関係式は円筒ばね1の基本設計などに役に立つと考えられる。
【実施例0144】
実施例1の密閉リングを用いた円筒の膨出を防止する方法を改良した実施例2について説明する。図2図5図6及び図8を参照して、圧縮力が増加すると、容積増加特性に基づき小径圧力面2Bの半径は減少し且つ大径圧力面4Bの半径は増加する。大径圧力面4Bの半径の増加は外側部材4の大径圧力面4Bに摺接する外側密閉リング5の筒外面5Dの面圧の減少につながり、外側密閉リング5の円筒6の第一端面6Aに対する膨出防止機能が低下する可能性がある。また、小径圧力面2Bの半径の減少は内側部材2の小径圧力面2Bと摺接する内側密閉リング7の筒内面7Cの面圧の減少につながり、内側密閉リング7の円筒6の第二端面6Bに対する膨出防止機能が低下する可能性がある。
【0145】
図18は、円筒に対する膨出防止機能を高めた外側密閉リング5と内側密閉リング7の構成を示す。先ず外側密閉リングの構成を説明し、次に内側密閉リングの構成を説明する。
【0146】
外側密閉リング5(5E+5F)は共に短円筒形状の外側押圧部材5Eと外側摺動部材5Fを有す。外側摺動部材5Fは、外側隙間1A側の格納空間内1Cに在って、大径圧力面4Bと内側支持面2Dに摺接し、円筒6の第一端面6Aに当接し、外側隙間1Aを塞ぎ、外側隙間1Aからの円筒6の膨出を防止する。外側押圧部材5Eは、内側支持面2Dと小径圧力面2Bが形成する隅角部側の格納空間内1Cに在って、小径圧力面2Bと内側支持面2Dに摺接し、円筒の第一端面6Aと外側摺動部材5Fに当接し、外側摺動部材5Fの円筒6に対する膨出防止を補助する。
【0147】
外側押圧部材5Eには、内側支持面2Dと円筒6の第一端面6Aから相互に圧縮力が面圧として伝達され、軸方向の圧縮性縦ひずみと軸直交方向の膨張性横ひずみが生じる。外側押圧部材5Eに生じる膨張性横ひずみは外側押圧部材5Eと外側摺動部材5Fの当接部5Gに押圧応力(面圧)を発生させる。この押圧応力によって大径圧力面4Bの半径の増加に追随して外側摺動部材5Fの半径は増加し、外側摺動部材5Fの筒外面5Dと大径圧力面4Bとの面圧は維持される。圧縮力が増加するに連れて押圧応力は増加するので、小径圧力面2Bと大径圧力面4Bの変形によって生じる外側摺動部材5Fの筒外面5Dと大径圧力面4Bの面圧の減少を外側押圧部材5Eは軽減又は解消する。外側押圧部材5Eと内側支持面2Dが摺接することによって、外側押圧部材5Eが内側支持面2Dに連結される場合に比べて、外側押圧部材に発生する半径方向の膨張性ひずみは大きくなる。よって、内側支持面2Dと摺接する外側押圧部材5Eは外側摺動部材5Fによる円筒6の膨出防止効果を高める重要な部材である。
【0148】
外側摺動部材5Fは大径圧力面4Bに押し当てられた状態で大径圧力面4Bと摺接することで円筒6の主要材料の摺接部への侵入を防ぎ、外側隙間1Aからの円筒6の膨出を防止する。円筒ばね1は50年を超える耐用年数を目標としているので、長期期間に亘って円筒6に対する膨出防止機能を維持するため、外側摺動部材5Fは平角断面等の異形線材を円環状に成形した摺動材5Hを軸方向に重ねる多重構造として、膨出防止機能を多重化するのが良い。異形線材の断面形状は平角断面に限らずL字形やL字形と逆L字形を繋げた形状等でも良い。円筒側6の摺動材5Hで膨出が発生した場合でも、隣接する内側支持面側2Dの摺動材によって膨出を防止するため、軸方向に摺動材が重なることで膨出防止機能が多重化される。外側摺動部材5Fの摺動材5Hは押圧応力により半径が増加するので円周方向に引張応力が発生する。この円周方向の引張応力は摺動材5Hの半径の増加を妨げる作用がある。摺動材の半径の増加を優先する場合は、摺動材の形態はバイアスカット等の不連続部を有する円環状として、円周方向の引張応力が小さくなる形態とするのが良い。ただし、不連続部同士が軸方向に連通して円筒6の膨出経路とならないように、すなわち不連続部が軸方向に重ならないように摺動材5Hを重ねるのが良い。
【0149】
内側密閉リング7(7E+7F)は共に短円筒形状の内側押圧部材7Eと内側摺動部材7Fを有する。内側摺動部材7Fは、内側隙間側1Bの格納空間内1Cに在って、小径圧力面2Bと外側支持面4Dに摺接し、内側押圧部材7Eと円筒の第二端面6Bに当接し、内側隙間1Bを塞ぎ、内側隙間1Bからの円筒6の膨出を防止する。内側押圧部材7Eは外側支持面4Dと大径圧力面4Bが形成する隅角部側の格納空間内1Cに在って、大径圧力面4Bと外側支持面4Dに摺接し、円筒の第二端面6Bと内側摺動部材7Fに当接し、内側摺動部材7Fの円筒6に対する膨出防止を補助する。
【0150】
内側押圧部材7Eには外側支持面4Dと円筒6の第二端面6Bから相互に圧縮力が面圧として伝達され、軸方向の圧縮性縦ひずみと軸直交方向の膨張性横ひずみが生じ、内側押圧部材7Eに生じる膨張性横ひずみは内側押圧部材7Eと内側摺動部材7Fの当接部7Gに押圧応力(面圧)を発生させる。この押圧応力によって小径圧力面2Bの半径の減少に追随して内側摺動部材7Fの半径は減少し、内側摺動部材7Fの筒内面7Cと小径圧力面2Bとの面圧が維持される。圧縮力が増加するに連れて押圧応力は増加するので、小径圧力面2Bと大径圧力面4Bの変形によって生じる内側摺動部材7Fの筒外面7Cと小径圧力面2Bの面圧の減少を内側押圧部材は軽減又は解消する。内側押圧部材7Eと外側支持面4Dが摺接することによって、内側押圧部材7Eが外側支持面4Dに連結される場合に比べて、内側押圧部材7Eに発生する半径方向の膨張性ひずみは大きくなる。よって、外側支持面4Dと摺接する内側押圧部材7Eは内側摺動部材7Fによる円筒6の膨出防止効果を高める重要な部材である。
【0151】
内側摺動部材7Fは小径圧力面2Bに押し当てられた状態で小径圧力面2Bと摺接することで円筒6の主要材料の内側隙間1Bへの侵入を防ぎ、内側隙間1Bからの円筒6の膨出を防止する。外側摺動部材5Fと同様な理由により、内側摺動部材7Fは平角断面等の異形線材を円環状に成形した摺動材7Hを軸方向に重ねる多重構造として、膨出防止機能を多重化するのが良い。内側摺動部材7Fの摺動材7Hは押圧応力により半径が減少するので円周方向に圧縮応力が発生する。この円周方向の圧縮応力は摺動材の半径の減少を妨げる作用がある。摺動材の半径の減少を優先する場合は、摺動材7Hの形態は外側摺動部材5Fの摺動材5Hと同様に不連続部を有する円環状として、不連続部が軸方向に重ならないように摺動材7Hを重ねるのが良い。
【0152】
内側押圧部材7Eと外側押圧部材5Eは軸直交方向の膨張性横ひずみを利用して押圧応力を発現させるので、外側押圧部材と内側押圧部材の材料は、内側支持面、外側支持面、大径圧力面及び小径圧力面より、弾性係数が小さく、ポアソン比が大きく、圧縮による体積減少が少ない材料が適している。円筒6に適した材料も適している。純鉛、繊維補強ゴム、又は硬いゴムなどは外側押圧部材と内側押圧部材の材料に適している。外側押圧部材と内側押圧部材はそれぞれ円筒と一体としても良い。
【0153】
摺動材5H,7Hは、大径圧力面4B又は小径圧力面2Bの半径方向の変形に追随する変形能力、外側隙間1A又は内側隙間2Bの拡大により生じる曲げ応力等に対する耐力、並びに内側支持面、外側支持面、小径圧力面及び大径圧力面との良好な摺動性能を備える必要がある。摺動材5H,7Hの材料は硬さにおいて、内側支持面、外側支持面、小径圧力面及び大径圧力面を形成する材料より軟らかく、円筒を形成する材料より硬く、且つ自己潤滑性を有する材料が適している。これらの支持面と圧力面の材料は高張力鋼や合金鋼等が適しているので、摺動材5H,7Hの材料としては銅合金等又は繊維補強された合成樹脂等が適している。
【0154】
不連続部を有する円環状の摺動材5H,7Hでは、不連続部が重ならないように摺動材5H,7Hを軸方向に重ねたとしても、不連続部からの円筒2の膨出の可能性がある。不連続部を設ける理由は、円周方向の直応力の発生を低減し、外側押圧部材5Eと内側押圧部材7Eによる押圧効果を高めることにある。
【実施例0155】
図19は不連続部を無くし且つ円周方向の直応力の発生を低減する、内側らせん摺動部材5FS及び外側らせん摺動部材7FSである。図18の外側摺動部材5Fと内側摺動部材7Fを図19の外側らせん摺動部材5FSと内側らせん摺動部材7FSに置き換える。二つのらせん摺動部材は摺動材5H,7Hに適した材料で形成され、不連続面が無く、連続する異形線材9を軸回りにらせん状に巻き軸方向に重ねて成る。断面幅9Bは内側隙間と外側隙間の最大隙間より大きく、最大隙間の3倍以上とするのが良い。断面厚9Aは最大隙間より大きくするのが良い。外側らせん摺動部材は外側半径9Dを大径圧力面4Bの半径より大きくして、初期面圧を導入するのが良い。内側せん摺動部材は内側半径9Cを小径圧力面2Bの半径より小さくして、初期面圧を導入するのが良い。
【0156】
外側らせん摺動部材の場合の端面9Eと端面9Fはそれぞれ内側支持面2Dと円筒の第一端面6Aに接する形状とするのが良い。内側らせん摺動部材の場合の端面9Eと端面9Fは円筒の第二端面6Bと外側支持面4Dに接する形状とするのが良い。
【実施例0157】
円筒ばねは50年を超える耐用年数を目標としているので、50年を超える期間に亘って内側部材2の小径圧力面2Bと外側部材4の大径圧力面4Bは圧縮部材3との摺接状態を維持する必要がある。圧縮部材3をゴム等の粘弾性材料、純鉛等の低降伏点弾塑性材料及び銅合金等を組み合わせて形成する場合は、小径圧力面2Bと大径圧力面4Bをステンレス鋼板等の耐食性鋼材で形成するのが良い。小径圧力面2Bには円周方向に圧縮応力が発生し、大径圧力面4Bには円周方向に引張応力が発生する。上部構造物の重さに対応するために円筒ばねが大型になる場合、内側部材2と外側部材4は耐力が大きく弾性域が広い高降伏点鋼材を用いて形成し、強度上の安全性と半径方向の変形量を確保する必要がある。
【0158】
オーステナイト系熱間圧延ステンレス鋼板(JIS G4304)、これを合せ材とするステンレスクラッド鋼(JIS G 3601)又は圧力容器用ステンレス鋼鍛鋼品(JIS G 3214)等の耐食性鋼材は、曲げ加工と溶接又は鍛造と研削加工を組み合わせることにより円柱状又は円孔上の圧力面を形成できる。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼板の代表鋼種であるSUS304の耐力(205 N/mm2、 JIS G4304)は、クロムモブデン鋼鍛鋼品の耐力(360~755 N/mm2、 JIS G 3221)、橋梁用高降伏点鋼板の耐力(500~700 N/mm2、 JIS G 3140)又は溶接構造用高降伏点鋼板の耐力(665~685 N/mm2、 JIS G 3128)に比べて低い。
【0159】
よって、小径圧力面2B側と大径圧力面4B側はそれぞれ耐食性鋼材で形成し、圧力面の反対面側を耐食性鋼材より耐力が高い高降伏点鋼材で形成し、内側部材2又は外側部材4は耐食性鋼材と高降伏点鋼材を同心円状に重ねた層構造とするのが良い。さらに、焼き嵌め等により層構造を形成する過程で、小径圧力面2B側に円周方向の初期引張応力を、大径圧力面4B側に円周方向の初期圧縮応力を導入して、応力面側の円周方向の利用可能な弾性域を大きくするのが良い。ただし、これらの初期応力の導入に伴い、内側部材2の内面2Eには円周方向の初期圧縮応力が、外側部材4の外面4Eには円周方向の初期引張応力が導入されるので、強度上の安全性に注意しなければならない。使用環境によって耐食性鋼材を用いる必要がない場合でも、内側部材と外側部材は強度上の安全性と半径方向の変形量を確保する観点から層構造としても良い。層数は2を超えても良い。
【0160】
なお、内側部材2は円周方向の圧縮応力が発生するので、座屈強度の観点から、圧力容器用ステンレス鋼鍛鋼品(JIS G 3214)等の耐食性鋼材を用いた厚肉単層構造としても良い。
【0161】
図20は同心円状の二層構造を成す内側部材2の実施例である。軸8側より、内面2Eを形成する内面側胴部2G、小径圧力面2Bを形成する小径圧力面側胴部2F及び大径案内面2Cと内側支持面2Dを形成する大径案内面側胴部2Hを、内側部材は備える。内側座面2Aは内面側胴部2G、小径圧力面側胴部2F及び大径案内面側胴部2Hの軸8の正方向側の端面で形成する。
【0162】
大径案内面側胴部2H、小径圧力面側胴部2F及び内面側胴部2Gは、それぞれオーステナイト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板と溶接構造用圧延鋼材のステンレスクラッド鋼及び溶接構造用高降伏点鋼板を用いて、曲げ加工、溶接及び研削加工により製作するのが良い。小径圧力面側胴部2Fと内面側胴部2Gは溶接構造用圧延鋼材と溶接構造用高降伏点鋼材が当接するようにして焼き嵌めにより一体化する。大径案内面側胴部2Hと小径圧力面側胴部2Fは溶接又は焼き嵌めにより一体化する。
【0163】
図20の内側部材2では、内側支持面2Dと小径圧力面2Bはオーステナイト系ステンレス鋼板で形成されるため、長期間に亘って圧縮部材との摺接状態を維持できる。内面側2Eは高降伏点鋼材で形成されるので、高降伏点鋼材の耐力又は座屈耐力を超えない範囲の円周方向の圧縮応力に対して安全性が確保できる。内側座面2A、内面2E及び軸8の負方向側の端面2Iの防食処理を適切に行うことにより、異種金属接触腐食を防止できる。
【0164】
図21は同心円状の二層構造を成す外側部材4の実施例である。軸側8より、小径案内面4Cと外側支持面4Dを形成する大径案内面側胴部4H、大径圧力面4Bを形成する大径圧力面側胴部4F及び外面4Eを形成する外面側胴部4Gを、内側部材4は備える。外側座面4Aは小径案内面側胴部4H、大径圧力面側胴部4F及び外面側胴部4Gの軸8の負方向側の端面で形成する。
【0165】
小径案内面側胴部4H、大径圧力面側胴部4F及び外面側胴部4Gは、それぞれオーステナイト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板と溶接構造用圧延鋼材のステンレスクラッド鋼板及び溶接構造用高降伏点鋼板を用いて、曲げ加工、溶接及び研削加工により製作するのが良い。大径圧力面側胴部4Fと外面側胴部4Gは溶接構造用圧延鋼材と溶接構造用高降伏点鋼材が当接するようにして焼き嵌めにより一体化する。小径案内面側胴部4Hと大径圧力面側胴部4Fは溶接又は焼き嵌めにより一体化する。
【0166】
図21の外側部材4では、外側支持面4Dと大径圧力面4Bはオーステナイト系ステンレス鋼板で形成されるため、長期間に亘って圧縮部材との摺接状態を維持できる。外面側4Eは高降伏点鋼材で形成されるので、高降伏点鋼材の耐力を超えない範囲の円周方向の引張応力に対して安全性が確保できる。外側座面4A、外面4E及び軸8の正方向側の端面4Iの防食処理を適切に行うことにより、異種金属接触腐食を防止できる。
【0167】
外面側胴部4Gは、大径圧力面側胴部4Fを形成する材料より降伏点の高い異形線材を、大径圧力面側胴部4Fの外周に、巻き廻しながら軸方向及び半径方向に重ねたものとしても良い。異形線材の断面形状は平角形が良いが他の断面形状でも良い。異形線材は初期張力を与えて巻き廻し、大径圧力面側4Bに円周方向の初期圧縮応力を発生させるのが良い。この方法では、円周方向の直応力について、大径圧力面4Bが圧縮であり、外面4Eが引張であり、大径圧力面4Bと外面4Eの間は階段状に漸変する初期応力が導入できる。この方法により、外側部材4の強度上の安全性と半径方向の変形量を確保することができる。
【実施例0168】
内側座面2Aと外側座面4Aの半径方向の変形をそれぞれ拘束すると、小径圧力面2Bと大径圧力面4Bの変形係数がそれぞれ減少し、円筒ばね1の初期接線剛性は増加する。これは円筒ばね1と上部構造物からなる振動系の鉛直固有振動数が増加することを意味する。円筒ばね1では、免震効果を得るために鉛直固有振動数を3Hz以下とすることを目標としているので、円筒ばね1と上部構造物及び下部構造物を接続する際、内側座面2Aと外側座面4Bに対する両構造物による半径方向の変形拘束は小さいほど良い。
【0169】
上部構造物は温度変化によって伸縮・湾曲したり、下部構造物は地盤内の地下水位の変化によって沈下・傾斜したり、上部構造物と下部構造物は地震動によって複雑に変形したりするので、これらの変形によって円筒ばね1が損傷せずに圧縮力を確実に伝達できる手段を介して、円筒ばね1は上部構造物と下部構造物に接続する必要がある。
【0170】
図22は中空積層ゴムを用いた円筒ばね1と上部構造物及び下部構造物との接続方法を示す。図は中央断面図である。図では、上部構造物及び下部構造物を図示していない。軸8の正方向側に上部構造物が在る場合は負方向側に下部構造物が在り、正方向側に下部構造物がある場合は負方向側に上部構造物が在るとする。
【0171】
内側部材2は、内側座面2Aと上部構造物又は下部構造物の間に在る内側中空積層ゴム2Jと内側接続盤2Kを備える。内側中空積層ゴム2Jは軸側8が中空の短円筒形状の積層ゴムであり、軸方向8にゴムと鋼板が交互に積層されて、ゴムは隣接する鋼板に連結されたものである。内側接続盤2Kの内側第一接続面2Mは上部構造物又は下部構造物に連結される。内側中空積層ゴム2Jは内側座面2Aと連結し、内側接続盤2Kの内側第二接続面2Lに連結する又は摺接する。内側中空積層ゴム2Jを内側座面2Aに連結する際は、ゴムを加硫接着等で内側座面2Aに連結するのが良いが、ゴムが連結された鋼板を内側座面2Aに連結しても良い。内側中空積層ゴム2Jを内側第二接続面2Lに摺接する際は、ゴムが連結された鋼板を、低摩擦摺動材と摺動液を介して内側第二接続面2Lに摺接させるのが良い。ゴム層数は1以上である。内側第二接続面2Lは上部構造物又は下部構造物に連結された別途設置される水平免震支承の一部の面としても良い。
【0172】
外側部材4は、外側座面4Aと下部構造物又は上部構造物の間に在る外側中空積層ゴム4Jと外側接続盤4Kとを備える。外側中空積層ゴム4Jは軸側8が中空の短円筒形状の積層ゴムであり、軸方向8にゴムと鋼板が交互に積層されて、ゴムは隣接する鋼板に連結されたものである。外側接続盤4Kの外側第二接続面4Mは下部構造物又は上部構造物に連結される。外側中空積層ゴム4Jは外側座面4Aと連結し、外側接続盤4Kの外側第一接続面4Lと連結する又は摺接する。外側中空積層ゴム4Jを外側座面4Aに連結する際は、ゴムを加硫接着等で外側座面4Aに連結するのが良いが、ゴムが連結された鋼板を外側座面4Aに連結しても良い。外側中空積層ゴムを外側第二接続面2Lに摺接する際は、ゴムが連結された鋼板を、低摩擦摺動材と摺動液を介して外側第一接続面4Lに摺接させるのが良い。ゴム層数は1以上である。外側第二接続面4Lは下部構造物又は上部構造物に連結された水平免震支承の一部の面としても良い。
【0173】
内側座面2Aと外側座面4Aの半径方向のそれぞれの変形は内側座面2Aと外側座面4Aに連結されたそれぞれのゴムのせん断剛性により弾性拘束されるが、これらの座面の半径方向の最大変形量は半径の0.5%を超えないので、ゴムによる弾性拘束が鉛直固有振動数に及ぼす影響は無視できる。上部構造物と下部構造物の水平相対変位・相対角変位が円筒ばね1に及ぼす力は、内側中空積層ゴム2J又は/及び外側中空積層ゴム4Jのせん断変形、曲げ変形及びねじり変形により緩和される。
【0174】
内側中空積層ゴム2J又は/及び外側中空積層ゴム4Jの諸元を適切に決定することにより、円筒ばね1と上部構造物からなる振動系の水平固有振動数を0.25Hz程度とすることもできる。これにより、鉛直方向の免震機能に加えて水平方向の免震機能が追加される。
【0175】
内側第二接続面2Lと内側中空積層ゴム2Jを摺接する場合又は/及び外側第一接続面4Lと外側中空積層ゴム4Jを摺接する場合は、これらの中空積層ゴムは水平免震における弾性すべり支承に相当し、摺接部の摩擦力を越える地震時水平慣性力が上部構造物に発生した時に摺接部で滑りが生じ、上部構造物に及ぼす水平地震動の影響を緩和することにより水平免震効果が向上する。内側支持盤2Kに内側中空積層ゴム側2Jに突出する内側突起2Nを設けたり、外側支持盤4Kに外側中空積層ゴム側4Jに突出する外側突起4Nを設けたりして、それぞれの摺接部で発生する相対水平変位を制限するのが良い。内側突起2Nと外側突起4Nはそれぞれ外側に設置しても良い。
【0176】
また、内側接続盤2Kに内側開口部2O又は外側接続盤4Kに外側開口部4Oを設け、これらの開口部に連絡する点検通路を上部構造物又は下部構造物に設けることにより、円筒ばね1の内側の点検が可能となる。これにより、円筒ばねの外側と内側の点検・維持管理が可能となり、50年を超える耐用年数に対応できる。
【0177】
中空積層ゴムは1990年代に実用化された水平免震支承であるが、本願発明の円筒ばねと中空積層ゴムを組み合わせることにより、これまで実現されていない鉛直免震支承と水平免震支承が一体化した3次元免震支承も可能となる。
【0178】
なお,上部構造物に連結又は摺接する内側中空積層ゴム2Jと外側中空積層ゴム4Jを総称して上側中空積層ゴムと呼び、下部構造物に連結又は摺接する内側中空積層ゴム2Jと外側中空積層ゴム4Jを総称して下側中空積層ゴムと呼ぶ場合がある。すなわち,内側座面2Aに連結する上側中空積層ゴムは内側中空積層ゴム2Jであり、外側座面4Aに連結する上側中空積層ゴムは外側中空積層ゴム4Jである。また、外側座面2Aに連結する下側中空積層ゴムは外側中空積層ゴム4Jであり、内側座面2Aに連結する下側中空積層ゴムは内側中空積層ゴム4Jである。
【符号の説明】
【0179】
1・・・円筒ばね、1A・・・外側隙間、1B・・・内側隙間、1C・・・格納空間、1Y・・・高さ、1Z・・・組立高さ、2・・・内側部材、2A・・・内側座面、2B・・・小径圧力面、2C・・・大径案内面、2D・・・内側支持面、2E・・・内面、2F・・・小径圧力面側胴部、2G・・・内面側胴部、2H・・・大径案内面側胴部、2I・・・負方向側の端面、2J・・・内側中空積層ゴム、2K・・・内側接続盤、2L・・・内側第二接続面、2M・・・内側第一接続面、2N・・・内側突起、2O・・・内側開口部、3・・・圧縮部材、3A・・・第一端面、3B・・・第二端面、3C・・・筒内面、3D・・・筒外面、3Z・・・高さ、4・・・外側部材、4A・・・外側座面、4B・・・大径圧力面、4C・・・小径案内面、4D・・・外側支持面、4E・・・外面、4F・・・大径圧力面側胴部、4G・・・外面側胴部、4H・・・大径案内面側胴部、4I・・・正方向側の端面、4J・・・外側中空積層ゴム、4K・・・外側接続盤、4L・・・外側第一接続面、4M・・・外側第二接続面、4N・・・外側突起、4O・・・外側開口部、5・・・外側密閉リング、5A・・・第一端面、5E・・・外側押圧部材、5F・・・外側摺動部材、5G・・・当接部、5H・・・摺動材、5FS・・・内側らせん摺動部材、6・・・円筒、6A・・・第一端面、6B・・・第二端面、6C・・・筒内面、6D・・・筒外面、6Z・・・高さ、7・・・内側密閉リング、7B・・・第二端面、7C・・・筒内面、7E・・・内側押圧部材、7F・・・内側摺動部材、7G・・・当接部、7H・・・摺動材、7FS・・・外側らせん摺動部材、8・・・中心軸、9・・・異形線材、9A・・・厚、9B・・・幅、9C・・・内側半径、9D・・・外側半径、9E・・・端面、9F・・・端面
図1
図2
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