(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083782
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20240617BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240617BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240617BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240617BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240617BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240617BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240617BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240617BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240617BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20240617BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240617BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240617BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240617BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20240617BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20240617BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M4/66 A
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M10/0568
H01M50/443 D
H01M50/443 M
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/451
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H01M50/414
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H01M10/0565
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/131
H01M4/136
H01G11/06
H01G11/68
H01G11/30
H01G11/42
H01G11/62
H01G11/52
H01G11/56
H01G11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197792
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】515066771
【氏名又は名称】株式会社アイ・エレクトロライト
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一雄
(72)【発明者】
【氏名】副田 和位
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 慎治
(72)【発明者】
【氏名】巽 五一
(72)【発明者】
【氏名】東城 哲朗
【テーマコード(参考)】
5E078
5H017
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA02
5E078AA05
5E078AB06
5E078BA12
5E078BA42
5E078BA58
5E078CA02
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5E078CA07
5E078CA09
5E078DA05
5E078DA12
5H017AA03
5H017DD05
5H017EE06
5H021CC02
5H021EE02
5H021EE07
5H021EE22
5H021HH06
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ15
5H029EJ12
5H050AA02
5H050AA05
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB09
5H050DA11
5H050EA24
(57)【要約】
【課題】 エンジンスターター用鉛電池代替のリチウムイオン電池よりも、さらに大電流充放電が可能で、長寿命で使用でき、かつ電池の使用温度範囲が広い電池やイオンキャパシタ等のナトリウムイオン電気化学素子の提供を目的とする。
【解決手段】 金属箔表面にナトリウム含有正極材が形成された正極と、金属箔表面に負極材が形成された負極との間にイオン導電体を介する電気化学素子であって、正極を構成する金属箔は、カーボンコート処理金属箔であり、ナトリウム含有正極材には、アルカリ中和剤が含有されており、負極材は、非晶質炭素材を含み、非晶質炭素材には、フッ素原子およびカルボキシル基が導入されていることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔表面にナトリウム含有正極材が形成された正極と、金属箔表面に負極材が形成された負極との間にイオン導電体を介する電気化学素子であって、
前記正極を構成する金属箔は、カーボンコート処理金属箔であり、
前記ナトリウム含有正極材には、アルカリ中和剤が含有されており、
前記負極材は、非晶質炭素材を含み、
前記非晶質炭素材には、フッ素原子およびカルボキシル基が導入されていることを特徴とする、ナトリウムイオン電気化学素子。
【請求項2】
前記イオン導電体は、電解液とセパレータとを含み、
前記電解液は、電解質として、6フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)およびナトリウムトリフルオロメチルスルホニルイミド(NaFTI))から選ばれる少なくとも1種を含んでいる、請求項1記載のナトリウムイオン電気化学素子。
【請求項3】
前記セパレータは、表面に親水基および酸化物セラミックの少なくとも1つを有する200℃以上の耐熱性を有する繊維からなる不織布、第3族元素酸化物および第4族元素酸化物から選ばれるセラミックを表面に有する樹脂製フィルム、ポリアミド樹脂を主鎖とする樹脂製フィルム、および、ポリイミド樹脂を主鎖とする樹脂製フィルムから選ばれる、請求項2記載のナトリウムイオン電気化学素子。
【請求項4】
前記イオン導電体は、固体電解質またはゲル状ポリマー電解質を含み、
前記固体電解質または前記ゲル状ポリマー電解質には、繊維が含まれており、
前記繊維は、セルロース繊維、オレフィン樹脂製繊維、および、ポリエチレンテレフタレート樹脂製繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載のナトリウムイオン電気化学素子。
【請求項5】
前記ナトリウム含有正極材は、正極活物質として、主成分がNi、FeおよびMnである遷移金属ナトリウム層状酸化物、ナトリウム含有ポリアニオン系化合物、ナトリウム含有硫化物、ナトリウム含有シアン化物、ナトリウム含有層状酸化物、Na2MnXOY(X+Y=1)、および、シアノ基に遷移金属イオンが架橋した形状のプルシアンブルー系Na2Mn[Fe(CN)6]から選ばれる少なくとも1種を含んでいる、請求項1から4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電気化学素子。
【請求項6】
前記ナトリウム含有正極材は、バインダーを含み、
前記バインダーは、カルボキシル基、カルボニル基、イミド基およびアミド基から選ばれる官能基を、ビニリデン主鎖の末端基で置換させたポリフッ化ビニリデンを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電気化学素子。
【請求項7】
ナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタである、請求項1から4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタ等のナトリウムイオン電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンの吸蔵、放出が可能な材料を用いたリチウム二次電池は、携帯電話などのモバイル用民生形電池として市場投入されてきた。近年、このリチウム二次電池は、ハイブリッドカーや電気自動車などの車載動力用電源用途に採用されてきている。また、欧州などでは鉛電池の鉛公害を鑑み、車載用途としてアイドリングストップシステム向けのエンジンスターター用鉛電池を代替する電源として、リチウムイオン電池が採用され、既に使用されている。また、社会インフラや各種産業用電源のバックアップスタンバイユース使用用途としての電力供給用としては、従来、密閉型の鉛電池が多く使用されてきたが、リチウムイオン電池に置き換えが進んでいる。
【0003】
リチウムイオン電池については、-30℃近傍で、エンジン作動を可能とする20ItA程度の大電流放電能力を有し、かつ制動時での大電流充電回生で30ItA以上が可能となるものは既に登場している。そして、さらに使用可能な温度範囲を広げ、さらに大電流の放電能力や充電回生を得ることを目的として、電池抵抗を下げる、Liイオンの負極におけるインターカレーション反応で金属リチウムの析出がないようにするといった検討がなされている。電気抵抗減少については、正、負極電極板厚さを薄くすること、またアルミ集電箔上にカーボンを塗着して電極抵抗を下げること、電極内の導電材を増加させて抵抗を下げること、さらにはセパレータの厚さや空孔径を制御して抵抗を下げること、あるいは電池内の正・負極端子部の溶接方法を改善して低抵抗化することなどが提案されている。一方、金属リチウムの析出防止については、正、負極活物質の粒子径を小さくして反応面積を増加させ、見掛けの充放電電流密度を低減する事や負極活物質を黒鉛材から非晶質炭素材に、またチタン酸リチウムに変更することなどが提案されている。しかし、これらの検討によって大電流充放電は可能となるが、温度範囲が-40℃~100℃で使用でき、かつ30ItA以上での大電流放電能力に加えて50ItA以上での大電流回生が可能となるリチウムイオン電池の実現は困難であった。また、EV等の需要急拡大に伴う、天然ガスや石炭需要の逼迫による電力需要の急拡大、EV用リチウムイオン電池生産のための正極・電解液用のリチウム資源、正極用レアメタル資源、負極用黒鉛原料の生コークス材の逼迫による資源価格の高騰によりリチウムイオン電池の安定供給が懸念されている。
【0004】
そこで、材料供給の懸念を解消するため、資源量の豊富なナトリウムを使用したナトリウムイオン電池が検討されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、炭素材料をナトリウム電池の負極として用いる技術が開示されている。黒鉛は、ナトリウムイオン挿入に対する適合性が悪く、故に黒鉛を用いた可逆な充電および放電反応は実現が困難であるため、これまでリチウムイオン電池で使用されてきた炭素系の負極活物質材料である黒鉛とは異なり、炭素材料の炭素/酸素原子比率、BET表面積、真密度を最適化することによってナトリウムイオンの挿入脱離に対する適合性を高め,電池特性を向上させる技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記技術ではリチウムイオン電池で求められる水準の電池特性、すなわち放電容量やサイクル特性、保存特性を実現されているものの、従来のリチウムイオン電池を上回る特性を発揮するには至っていない。特に、炭素/酸素原子比率などを変更することでナトリウムの無駄な消費を抑えることが示されているが、ナトリウムの消耗に関係する因子は多くは、結晶水やC-F以外の官能基によるトラップであるが、上記技術においては、その制御に関しての検討はされていない。
【0007】
本発明は、鉛電池やリチウムイオン電池よりスタンバイユースでも長寿命となるものに対処するためになされたものであり、エンジンスターター用鉛電池代替のリチウムイオン電池よりも、さらに大電流充放電が可能で、長寿命で使用でき、かつ電池の使用温度範囲が広い電池やイオンキャパシタ等のナトリウムイオン電気化学素子を提供することを目的とするものである。本発明は、特に、-40℃~100℃の使用温度範囲で、かつ30ItA以上での放電、かつ50ItA以上での充電可能なナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のナトリウムイオン電気化学素子は、金属箔表面にナトリウム含有正極材が形成された正極と、金属箔表面に負極材が形成された負極との間にイオン導電体を介する電気化学素子であって、
前記正極を構成する金属箔は、カーボンコート処理金属箔であり、
前記ナトリウム含有正極材には、アルカリ中和剤が含有されており、
前記負極材は、非晶質炭素材を含み、
前記非晶質炭素材には、フッ素原子およびカルボキシル基が導入されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子において、前記イオン導電体は、電解液とセパレータとを含み、前記電解液は、電解質として、6フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)およびナトリウムトリフルオロメチルスルホニルイミド(NaFTI))から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
【0010】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子において、前記セパレータは、表面に親水基および酸化物セラミックの少なくとも1つを有する200℃以上の耐熱性を有する繊維からなる不織布、第3族元素酸化物および第4族元素酸化物から選ばれるセラミックを表面に有する樹脂製フィルム、ポリアミド樹脂を主鎖とする樹脂製フィルム、および、ポリイミド樹脂を主鎖とする樹脂製フィルムから選ばれることが好ましい。
【0011】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子において、前記イオン導電体は、固体電解質またはゲル状ポリマー電解質を含み、前記固体電解質または前記ゲル状ポリマー電解質には、繊維が含まれており、前記繊維は、セルロース繊維、オレフィン樹脂製繊維、および、ポリエチレンテレフタレート樹脂製繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子において、前記ナトリウム含有正極材は、正極活物質として、主成分がNi、FeおよびMnである遷移金属ナトリウム層状酸化物、ナトリウム含有ポリアニオン系化合物、ナトリウム含有硫化物、ナトリウム含有シアン化物、ナトリウム含有層状酸化物、Na2MnXOY(X+Y=1)、および、シアノ基に遷移金属イオンが架橋した形状のプルシアンブルー系Na2Mn[Fe(CN)6]から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
【0013】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子において、前記ナトリウム含有正極材は、バインダーを含み、前記バインダーは、カルボキシル基、カルボニル基、イミド基およびアミド基から選ばれる官能基を、ビニリデン主鎖の末端基で置換させたポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。
【0014】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子は、ナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学素子は、-40℃~100℃で作動し、かつ30ItA以上での放電、かつ50ItA以上での充電が可能となり、さらには従来の自動車エンジンスターター用の鉛電池やリチウムイオン電池、電気自動車用の電装部品用電源の鉛電池やリチウムイオン電池の寿命に対して約2倍の長寿命となった。さらには、スタンバイユース用の定置型電源バックアップ用電源としても長寿命性能を生かして産業用電源としても有意である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。
【0017】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子は、正極は、カーボンコート処理金属箔表面に、アルカリ中和剤を含有するナトリウム含有正極材が形成されてなる。正極用集電体としてはリチウムイオン電池同様にアルミニウム箔を用いることができるが、アルカリ溶液による溶解を防止するため、および正極板の導電性向上のために、本発明においては、表面にカーボンコート処理を施したアルミニウム等の金属箔を用いている。また、負極は、金属箔表面にフッ素原子およびカルボキシル基が導入されている非晶質炭素材を含む負極材が形成されてなる。前記正極と前記負極との間には、イオン導電体を介している。
【0018】
前記ナトリウム含有正極材に用いられる正極活物質は、強アルカリ性を有する。そこで、集電体であるアルミニウム等のカーボンコート処理金属箔の溶解を防止するために、前記ナトリウム含有正極材には、アルカリ中和剤が含有されている。アルカリ中和剤としては、塩素系化合物、硫酸系化合物、炭酸化合物、無水ホウ酸、ポリホウ酸等のホウ素化合物等の無機材料や、シュウ酸誘導体、リン酸誘導体、酢酸誘導体、マレイン酸誘導体、アルギン酸誘導体等の有機酸を用いることができる。
【0019】
前記ナトリウム含有正極材は、集電箔と活物質間とを結合させるバインダーを含んでいることが好ましい。前記バインダーは、カルボキシル基、カルボニル基、イミド基およびアミド基から選ばれる官能基を、ビニリデン主鎖の末端基で置換させたポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。正極用のバインダーとして、基本的樹脂としてはポリフッ化ビニリデンを用いるが、アルカリ性溶液中ではポリエン化によるゲル化を発現するために、ビニリデン鎖の一部をカルボニル基やカルボキシル基、またはアミド基に置換したものを用いることが有用である。
【0020】
前記ナトリウム含有正極材は、従来のリチウムイオン電池で使用していたレアメタル元素を極力用いない。ナトリウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質として、主成分がNi、FeおよびMnである遷移金属ナトリウム層状酸化物、NaFePO4等のナトリウム含有ポリアニオン系化合物、ナトリウム含有硫化物、ナトリウム含有シアン化物、アルオード石型硫酸鉄ナトリウムNa2Fe2(SO4)3、NaMO2(M:Fe,Ni,Mn等)等のナトリウム含有層状酸化物、Na2MnXOY(X+Y=1)、および、シアノ基に遷移金属イオンが架橋した形状のプルシアンブルー系Na2Mn[Fe(CN)6]から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
【0021】
これらは各材料系に共通な水和物除去とアルカリ性耐性のために、材料調整時の温度制御やF2/O2ガス置換が施されることや、ナトリウムイオンと化合物を生成しないアルミナ等の金属酸化物の被覆等が正極活物質表面に施されることもある。ナトリウム含有シアン化物として、プルシアンブルーやプルシアンホワイト等のFeまたはMnのシアン化水和物を用いる場合、そのまま用いてもよいし、水和物から結晶水を所定量除去した化合物を用いてもよい。プルシアン系水和化合物は結晶格子内の結晶水がナトリウムイオンの結晶空孔内のイオン移動を阻害するために、当該化合物の調整過程での温度による結晶水除去やF2/O2ガスによる結晶水とフッ素原子との置換反応除去が有効である。
【0022】
前記負極は、金属箔表面に、フッ素原子およびカルボキシル基が導入されている非晶質炭素材を含む負極材が形成されてなる。非晶質炭素材の、ナトリウムイオンが吸蔵・放出される炭素層間やクラスター構造の出入り口の炭素材にカルボキシル基等の官能基を化学修飾させたものを用いると、初回充放電効率の改善と共に寿命中のナトリウムイオンの易動性が改善する。なお、負極用の集電箔としてはリチウムイオン電池と異なり、負極の貴な電位と、ナトリウムイオンがアルミと合金化しないことにより、アルミニウム箔を用いることができる。負極についても、正極と同様に、カーボンコートが施された金属箔を用いることができる。
【0023】
前記イオン導電体としては、電解液とセパレータとを含む態様としてもよいし、固体電解質または半固体電解質であるゲル状ポリマー電解質を用いてもよい。
【0024】
電解液を用いる場合、支持電解質として、6フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)およびナトリウムトリフルオロメチルスルホニルイミド(NaFTI))から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましく、これらを混合して用いることも好ましい。支持電解質の総濃度は、1.0~1.3molとすることが好ましい。
【0025】
前記電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)等不飽和結合を含む環状カーボネートや、不飽和結合を含まないジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等、フッ化物であるフッ化エチレンカーボネート(FEC)等の中から-40℃中で凍結しない配合に組み合わせることが好ましい。これらの溶媒系では、使用可能温度は、高温側では90℃が限界である。また、さらなる高温サイクル寿命を改善したり、放置時の自己放電特性をさらに改善するために、溶媒としてプロパンサルトン、溶質としてビス(オキサレート)ホウ素化合物を使用してもよい。しかし、セパレータを介さずに固体のイオン伝導電解質(固体電解質)またはゲル状ポリマーを用いる場合や、またセパレータを介しても1-エチル-3メチルイミダゾリウム、ビス(フルオロスルホニル)イミド等のイオン液体溶媒を用いると-40℃~100℃でも使用可能である。
【0026】
前記セパレータは、表面に親水基および酸化物セラミックの少なくとも1つを有する200℃以上の耐熱性を有する繊維からなる不織布、第3族元素酸化物および第4族元素酸化物から選ばれるセラミックを表面に有する樹脂製フィルム、ポリアミド樹脂を主鎖とする樹脂製フィルム、および、ポリイミド樹脂を主鎖とする樹脂製フィルムから選ばれることが好ましい。前記親水基としては、-OHや-COO-等が挙げられる。前記樹脂製フィルムとしては、第3および第4族元素酸化物等のセラミックを表面に数ミクロン以下の厚で塗布したPP/PE/PPの三層樹脂製フィルムを用いることが好ましい。前記樹脂製フィルムの表面に存在させるセラミックとしては、アルミナやシリカを好適に使用することができる。
【0027】
前記固体電解質としては、硫黄系のNaGePS、NaSiPSClや酸化物系のNaAlTi(PO4)2等を用いることができる。前記ゲル状ポリマー電解質としては、PEOやPVDF等のイオン伝導性樹脂を用いることができる。
【0028】
前記固体電解質または前記ゲル状ポリマー電解質には、繊維が含まれており、前記繊維は、セルロース繊維、オレフィン樹脂製繊維、および、ポリエチレンテレフタレート樹脂製繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。固体電解質やゲル状ポリマー電解質を用いる場合、充放電時の正・負極活物質の膨張や収縮に伴って、正・負極活物質との界面や介在する当該電解質等の中で多孔空間(いわゆる、ボイド)が発生することがある。このようなボイドが発生すると、正・負極間でのリチウムイオンの固体内拡散および固体間移動ができなくなり、充放電反応が阻害され、電気化学素子が短寿命となる。前記繊維を前記固体電解質または前記ゲル状ポリマー電解質に混入させると、ボイドの発生を抑制することができ、長寿命化に繋がるため好ましい。
【0029】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子は、ナトリウム資源の豊富さに加えて、正極材は鉄やマンガンといった豊富な資源から製造することが可能であり、負極材も非晶質炭素材(ハードカーボン材)なので樹脂資源で生産可能である。したがって、リチウムイオン電池と比較して、資源的に枯渇懸念のない材料を利用でき、価格的にも安価な二次電池やキャパシタを得ることができる。また、鉛を用いないため、公害懸念の問題も回避される。
【0030】
本発明のナトリウムイオン電気化学素子は、ナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタであることが好ましい。いわゆる従来の正・負極板がセパレータを介して対向する一般的な二次電池構造またはイオンキャパシタ構造のみならず、正極活物質と負極活物質とが集電体を介して表裏一体化させたバイポーラ構造にも適応可能である。
【実施例0031】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
本特許の実施例電池の試作方法について下記に示す。
【0033】
遷移金属層状ナトリウム酸化物のNaxNi1/3Fe1/3Mn1/3O2を正極活物質とし、当該正極に導電材としてアセチレンブラックと直径が100~150nmのカーボンナノチューブとを、アルカリ性中和剤としてアルギン酸を、いずれも粉体状態で混ぜた。混合割合は、前記正極活物質が89重量部、アセチレンブラックが3.5重量部、カーボンナノチューブが1.0重量部、アルギン酸が2.5重量部となるように調整した。それに結着剤として4重量部のゲル化防止用変性(ポリマーの末端官能基をアミド基等に置き換えた)ポリフッ化ビニリデンを添加した。これに分散溶媒として、N-メチルピロリドンを添加し、混練して、正極合剤(正極スラリー)を作製した。
【0034】
上記正極スラリーを25μm厚さのカーボンコート処理アルミニウム箔の両面に乾燥状態で195g/m2ずつの塗工量で塗布、乾燥した。その後、プレス、裁断してナトリウム二次電池用の正極を得た。カーボンコートアルミニウム箔の両面に正極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の正極板の総厚さは140μmであった。
【0035】
本特許のナトリウムイオン二次電池の負極を以下の方法で製造した。主材として非晶質炭素材粒子を96重量部に、アセチレンブラックを1重量部添加し、バインダーのSBR/CMCエマルジョン溶液を3重量部添加してスラリーを作製した。つぎに25μm厚さのアルミ箔に当該スラリーを片面99g/m2となるように両面塗工して乾燥を行った。続いてプレスを行い負極板総厚さが224μmとなるように調整して裁断して負極板とした。カーボンコート箔を用いることも有用である。
【0036】
当該非晶質炭素の原料は主として難黒鉛化性の熱硬化性樹脂が用いられ、一般的には800~1400℃でそれを炭化して作製する。非晶質であるがゆえに構造には欠陥が多く、その部分には残留酸素原子が多く存在する。それらの部分および結晶部位には結晶水としてH
2O分子が含まれており、特に後者のH
2O分子を加熱処理で除くことは容易ではないが、従来、非晶質炭素はこの結晶水によって初期クーロン効率(ICE)が低くなる事が問題となっている。SEI形成および欠陥の結晶水や残留酸素原子による不可逆的なNa
+の吸蔵がその原因であると考えられている。欠陥や結晶部位で作用金属イオンの易動度を落とさず、ICEを改善することは非晶質材料を二次電池材料の負極材に用いる際、重要な技術ポイントと成る。そのためには、結晶水のH
2Oや残留酸素原子を除去し、さらにその部位に残す官能基の設計に工夫が必要と成る。そこで、本発明では以下に述べる方法で非晶質炭素材の作製を行った。反応容器中にて非晶質炭素材を室温~50℃以下の温度、0.5kPa~20kPのフッ素圧力で10分から48時間反応させ、これに続いて酸素に対するフッ素の分圧比P
F2/P
O2=0.1~10の処理を同じ温度、反応時間で実施する事とした。フッ素の原子半径は64pm(pm=10
-12m)と水素の53pmについで小さく、許容される空間があればフッ素は容易に反応部位に拡散到達する。導入されたフッ素でまず(1)式に示したような脱水反応を進行させる。この反応により欠陥や結晶水に含まれるH
2O分子が除去される。また、(1)式で生じたHFはとルイス酸として機能し、(2)式に示したようにフッ素-黒鉛層間化合物を生成する。非晶質炭素のグラフェン層部分にフッ素-黒鉛層間化合物が生じると材料の導電性が上昇する可能性がある。
それと同時にフッ素は(3)式に示したように、非晶質炭素中の残留酸素原子の部位を適度にC-Fに置換し、残留酸素原子を除去する。残留酸素原子とCのC-O結合部位は、吸着エネルギーが低く不安定で、容易にC-F結合に置換される(D. Sun et al, “Engineering the trap effect of residual oxygen atoms and effects in hard carbon anode towards high initial Coulombic efficiency", Nano Energy, 64,103937(2019))。欠陥部分の表面にC-F結合が生じると結合エネルギーは増大し、そのサイトの吸着エネルギーは増大する。したがって、C-F部位におけるNa
+の吸着は容易でなくなり、充放電時のNa
+の吸蔵、放出は可逆的になる。
つぎに、(1)式および(2)式で生じたO
2と付加的に加えたO
2による前述した酸素に対するフッ素の分圧比P
F2/P
O2=0.1~10の処理を行い、欠陥部位や結晶部位の炭素に(4)式に示したように-COOH基を導入した。
-COOH基のH
+はNa
+と容易にイオン交換するため、結晶部位でのNa
+の易動度低下を制御出来る。係る方法で初期充放電時のICE改善が可能となった。
【0037】
[実施例1]
上記正極板、負極板、電解液およびセパレータすべての本特許の技術を用いたナトリウムイオン電池を実施例1とした。
前述で作製した正極板と負極板とを用いて、セパレータにはセルロース繊維性の厚さ20μmの不織布を介在させて、正極6枚、負極7枚の3.2V-600mAhのアルミラミネートフィルムパック式ナトリウムイオン電池を作製した。電解液にはPC、EC、DEC、DMC溶媒をPC/EC/DEC/DMC=1/2/4/3の体積比で混合した溶液中に、支持電解質として、6フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6)を0.6mol/Lとナトリウムビスフルオロスルホニルイミド(NaFSI)0.6mol/Lとを溶解し、さらに1wt%のFECを添加したものを用いた。
【0038】
[比較例1]
他方、エンジンスタータ仕様の市販品の材料を用いて作製した3.4V-600mAhのリチウムイオン電池を比較例1とした。比較例1は、正極LiFePO4と導電材、PVDFバインダー配合の正極板と人造黒鉛を負極とするリチウムイオン電池である。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、支持電解質として、ナトリウムビスフルオロスルホニルイミド(NaFSI)のみを用い、添加量を1.2mol/Lとした以外は、実施例1と同様にナトリウムイオン電池を作製した。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、セパレータとして20μm厚ポリエチレン製フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にナトリウムイオン電池を作製した。
【0041】
本発明のナトリウムイオン電池においての性能目標である-30℃、20ItA以上での放電、かつ50ItA以上での充電試験を実施して、それぞれの電池の性能試験の結果を比較した。
【0042】
[DCIR値評価]
得られた電池の初充電と容量確認後、電池の充電量(SOC)50%時の放電および充電DCIR(Direct Current Internal Resistance)値(直流内部抵抗値)を測定した。測定方法は、室温にて各測定毎にSOC50%状態に電池を調整し、開路の状態から各1ItA、5ItA、10ItAの電流で放電して10秒目の電池電圧を測定し、開路電圧からの各放電時の電圧降下分を各電流に対してプロットし、最小2乗法直線化したグラフの傾きを10秒目の放電DCIR値とした。充電の場合は逆にSOC50%に調整した電池の同電流で充電した際の開路電圧からの充電電圧上昇分を各充電電流に対してプロットしたグラフから10秒目の充電DCIR値を算出した。表1に、10秒目の放電DCIR値および充電DCIR値の測定結果を示す。
【0043】
【0044】
実施例1のナトリウムイオン電池は、比較例1の電池に対して極めて抵抗値が低くなっていることがわかる。また、比較例1のリチウムイオン電池は、実施例1~実施例3のナトリウムイオン電池に比して、DCIR値が大きくなった。比較例1のリチウムイオン電池は、放電側よりも充電側の方がDCIR値が大きく、実施例1や実施例2および実施例3の電池とは傾向が異なっていることがわかる。これはナトリウムイオン電池の負極側での充電受入に対する反応過電圧が低く、比較例1での副反応や金属リチウム等析出に対する反応が少なく、ナトリウムイオン電池の非晶質負極材上での金属析出反応が起こりにくいことを示すものと考えられる。
【0045】
[低温下放電持続時間評価]
-30℃で、各電池容量に対する20ItAおよび30ItAの電流で2.0Vまでの放電持続時間を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
表2より、実施例1のナトリウムイオン電池は、20ItAならびに30ItAともに十分な持続時間での放電が可能であり、-30℃でのアイドリングストップシステム用の鉛電池(20ItAにおける放電持続時間は15~16秒)代替が可能と分かる。また、実施例2および実施例3のナトリウムイオン電池の仕様では、実施例1には及ばないものの、リチウムイオン電池に比して低温放電特性が改善されていることがわかる。しかし、比較例1のリチウムイオン電池では、-20℃でエンジン起動が可能であるが、代替としての-30℃低温下電池動作が不可能であることがわかった。
【0048】
[回生充電能力(高速充電効率)評価]
回生充電能力を比較するために、1ItA定電流2.0Vまでの放電容量を確認後、各々30ItA、50ItA、80ItAのそれぞれ電流値で4.0Vまでの定電流充電を行い、1ItA放電容量に対する回生回復充電容量の比率を充電効率として算出し、この効率をもって回生充電能力の比較とした。結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
表3より、実施例1の本発明のナトリウムイオン電池は、常温下で1分以内(80ItA時)の超急速充電が可能であることがわかった。これは、比較例1のリチウムイオン電池の特性と比較すると、本発明のナトリウムイオン電池の負極における電気化学的な反応抵抗が低くなったことに加えて、リチウムイオン移動時の溶媒和径に比して、ナトリウムイオン移動時の溶媒和径が小さくなったことで、正・負極間での電解液中でのナトリウムイオンの拡散抵抗が低くなったことに起因するものである。また、正極活物質内部からの固体内拡散で、ナトリウムイオンが正極活物質層間からのスムーズな脱離反応をするものと考える。一方、負極では、比較例1のリチウムイオン電池では、リチウムイオンの黒鉛層間への挿入のような比較的過電圧を要する反応が起こるのに対し、実施例1のナトリウムイオン電池では、非晶質特有のクラスター構造へのイオン挿入反応が起こる。比較例1のリチウムイオン電池においては、リチウムイオンの受け手である負極黒鉛表面でのインターカレーション速度が遅く、固体内拡散律速となって分極してしまい、結果として充電電圧が4.0Vに早期に達して充電効率が低下したものと考える。一方、実施例2および実施例3のナトリウムイオン電池では、正極および負極は実施例1と同様であるが、実施例2では支持電解質の違いによる拡散能力が低かったため、また、実施例3ではセパレータの保液能力不足による電極界面での絶対量不足により、同様に分極したため、実施例1に比べて充電効率が低下したと考えられる。
【0051】
[充電寿命試験]
各電池の45℃での4.0Vトリクル充電寿命試験を行い、定置型電池としての評価を行った。寿命判定は、初期容量の60%容量維持時点でのトリクル充電期間月数とした。また同時に本試験は25℃同寿命試験でのアレニウス法則による加速寿命試験であり、その加速度は45℃試験の6倍速として25℃試験での寿命期間とした。結果を表4に示す。
【0052】
【0053】
表4より、実施例1の本発明のナトリウムイオン電池の定置型としての寿命は45℃で24ヶ月、25℃では12年と判定された。比較例1としてのリチウムイオン電池では10ヶ月、5年と判定され、リチウムイオンの負極での金属析出が問題となっているものと考える。実施例2および実施例3のナトリウムイオン電池は、本発明の実施例1のものには劣るが、比較例1のリチウムイオン電池よりもトリクル寿命特性が優れていることが、その証拠である。このように、本発明のナトリウムイオン電池は、EV等の車載用の急速充電特性に優れた電池用途以外に、産業用のスタンバイユースの定置型電池用途にも適用可能であることがわかった。
【0054】
また、本実施例では、電気化学素子としてナトリウムイオンの二次電池の用途についてのみ記述したが、その他イオンキャパシタやイオン液体を使用した難燃安全型電池等の電気化学素子にも適応可能である。また本実施例では記載していないが、遷移金属層状酸化物正極以外のポリアニオン化合物系や硫黄化合物系、さらにはプルシアン系のシアン化合水和化合物の正極を用いた場合についても、その効果は実施例1と同様に優位性のあるものであった。
本発明のナトリウムイオン二次電池またはナトリウムイオンキャパシタ等の電気化学素子は、-40℃~100℃という広い温度範囲において、30ItA以上の放電が可能であることから、アイドリングストップシステム用の鉛電池代替の電池として好適に用いることができる。また、本発明のナトリウムイオン電池は、同様の構成を有するリチウムイオン電池の能力よりも優れ、さらには50ItA以上の急速回生充電が可能で、鉛電池やリチウムイオン電池を凌ぐ性能を有する。したがって、本発明によれば、アイドリングストップシステムの電源のみならず、HEV,PHEV,EV用の電装部品用電源としても低温下で作動し、かつ電池容量、容積や重量を増やすことなく、回生能力で電力走行距離を伸ばして燃費向上に有効な能力を持った車載等の産業用電池への展開が可能となった。また、本発明のナトリウムイオン電池は産業インフラ用のスタンバイユース電池としての寿命特性もリチウムイオン電池に比してその寿命性能は優れており、その分野での鉛電池同等の寿命を有する上に、軽量かつ設置面積の低減にも有意で、鉛公害の問題もなく、かつ産業用電池の大型電池用としての資源上の問題もないことも有意である。さらには、本発明のナトリウムイオン電池やナトリウムイオンキャパシタは、従来のリチウムイオン電池に比して容量は小さいが、その分軽量で、同等の充放電が可能で、サイクル充放電に適して長寿命であるために、その他農薬散布や輸送手段等の産業用ドローン等サイクルユース用途の駆動電源としても優位であることが示された。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。