(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083805
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】波長変換部材、その製造方法、および発光装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240617BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20240617BHJP
【FI】
G02B5/20
C09D11/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197835
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誉史
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠浩
【テーマコード(参考)】
2H148
4J039
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA07
2H148AA09
2H148AA18
4J039AA02
4J039BA19
4J039BA22
4J039BA30
4J039BA31
4J039BA32
4J039BA39
4J039BE01
4J039CA02
4J039EA23
4J039EA28
4J039GA04
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】高エネルギー化に伴う放熱性の向上と波長変換効率に優れる波長変換部材、その製造方法、および発光装置を提供する。
【解決手段】波長変換部材100であって、透光性を有する基材10と、前記基材10の一方の主面12に設けられ、少なくとも第1の蛍光体粒子22と、前記第1の蛍光体粒子22同士および前記基材10と前記第1の蛍光体粒子22とを結合する透光性セラミックス24と、により形成された単層の蛍光体層20と、を備え、前記蛍光体層20における前記第1の蛍光体粒子22の平均粒子径D1は5μm以上30μm以下であり、前記蛍光体層20は、前記主面12に垂直な前記蛍光体層20の平均膜厚の前記基材10側の1/3の基材側領域26における前記第1の蛍光体粒子22の平均粒子径D2が前記平均粒子径D1より大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換部材であって、
透光性を有する基材と、
前記基材の一方の主面に設けられ、少なくとも第1の蛍光体粒子と、前記第1の蛍光体粒子同士および前記基材と前記第1の蛍光体粒子とを結合する透光性セラミックスと、により形成された単層の蛍光体層と、を備え、
前記蛍光体層における前記第1の蛍光体粒子の平均粒子径D1は5μm以上30μm以下であり、
前記蛍光体層は、前記主面に垂直な前記蛍光体層の平均膜厚の前記基材側の1/3の基材側領域における前記第1の蛍光体粒子の平均粒子径D2が前記平均粒子径D1より大きいことを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記蛍光体層の前記主面に対向する面に設けられ、少なくとも第2の蛍光体粒子と、前記第2の蛍光体粒子同士および前記蛍光体層と前記第2の蛍光体粒子とを結合する第2の透光性セラミックスと、により形成された単層の第2の蛍光体層と、をさらに備え、
前記第2の蛍光体層における前記第2の蛍光体粒子の平均粒子径D3は5μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記第2の蛍光体層は、前記主面に垂直な前記第2の蛍光体層の平均膜厚の前記蛍光体層側の1/3の蛍光体層側領域における前記第2の蛍光体粒子の平均粒子径D4が前記平均粒子径D3より大きいことを特徴とする請求項2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
発光装置であって、
特定範囲の波長の光を発する発光素子と、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
波長変換部材の製造方法であって、
透光性を有する基材を準備する工程と、
第1の蛍光体粒子と無機バインダとを混合した蛍光体インキの25℃における粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満に調整する工程と、
前記基材の表面に、前記蛍光体インキを塗布する工程と、
塗布した前記蛍光体インキを500℃以下の温度で熱処理することで蛍光体層を形成する工程と、を含むことを特徴とする波長変換部材の製造方法。
【請求項6】
波長変換部材の製造方法であって、
透光性を有する基材を準備する工程と、
第1の蛍光体粒子と無機バインダとを混合した第1の蛍光体インキの25℃における粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満に調整する工程と、
前記基材の表面に、前記第1の蛍光体インキを塗布する工程と、
前記第1の蛍光体インキを乾燥する工程と、
第2の蛍光体粒子と第2の無機バインダとを混合した第2の蛍光体インキの25℃における粘度を10dPa・s以上75dPa・s以下に調整する工程と、
前記第1の蛍光体インキを塗布した層の表面に、前記第2の蛍光体インキを塗布する工程と、
塗布した前記第1の蛍光体インキおよび前記第2の蛍光体インキを500℃以下の温度で熱処理することで蛍光体層および第2の蛍光体層を形成する工程と、を含むことを特徴とする波長変換部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材、その製造方法、および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子であるLED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)等の光源から照射された光を、蛍光体層により光源の波長とは異なる波長の変換光として放出する波長変換部材を用いた発光装置が知られている。近年では、エネルギー効率が高く、小型化、高出力化に対応しやすいLDを光源として用いたアプリケーションが増えている。
【0003】
このような波長変換部材としては、エポキシやシリコーンなどに代表される樹脂に蛍光体を分散させた構造が多く用いられているが、光源の高出力化に伴い樹脂の焼け焦げや変色が発生し、特性の低下、寿命が早まってしまう。このような課題に対し、樹脂に代えて無機バインダを使用し、無機材料のみからなる波長変換部材が考案され、高エネルギーの光源とした場合であっても耐熱性の課題が解決されてきた。
【0004】
特許文献1には、基板の上に、LEDよりなる複数の発光素子が搭載されており、発光素子の上には、発光素子との間に空間を挟んで波長変換部材が配置され、波長変換部材は、粒子状の蛍光体材料と、バインダとを含み、バインダは、加水分解あるいは酸化により酸化物となる酸化物前駆体、ケイ酸化合物、シリカ、及び、アモルファスシリカからなる群のうちの少なくとも1種を含むバインダ原料を、常温で反応させるか、又は、500℃以下の温度で熱処理することにより得られたものである発光装置が記載されている。
【0005】
特許文献2には、基板上に励起光を発する発光素子と、蛍光体によって前記励起光を可視光に変換する波長変換器とを備え、前記可視光を出力光とする発光装置であって、前記蛍光体が、バンドギャップエネルギーが1.6eV以下の半導体からなることを特徴とする発光装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-038960号公報
【特許文献2】特開2005-285800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の波長変換部材は、蛍光体層を構成するバインダとして無機バインダを使用することにより、光源の高出力化に対応しやすくなった。しかしながら、作製される蛍光体層の構造や状態は、基材の表面に印刷される蛍光体インキの製造条件により異なると考えられ、輝度や色調、基材との密着性といった発光特性に影響する虞があるが、特許文献1には蛍光体インキの製造条件について記載がされていない。
【0008】
また、特許文献2に記載の波長変換層は、発光素子に密着しており、発光素子の高出力化に伴う放熱性が問題となるおそれがある。また、使用される蛍光体粒子はナノ粒子であり、大粒径の蛍光体粒子を使用した波長変換部材において発光特性を向上することは考慮されていない。また、各波長変換層ごとの粒子径についての記載はあるが、単層部分の構造については言及がない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、放熱性の向上と波長変換効率に優れる波長変換部材、その製造方法、および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の波長変換部材は、以下の手段を講じた。すなわち、本発明の適用例の波長変換部材は、波長変換部材であって、透光性を有する基材と、前記基材の一方の主面に設けられ、少なくとも第1の蛍光体粒子と、前記第1の蛍光体粒子同士および前記基材と前記第1の蛍光体粒子とを結合する透光性セラミックスと、により形成された単層の蛍光体層と、を備え、前記蛍光体層における前記第1の蛍光体粒子の平均粒子径D1は5μm以上30μm以下であり、前記蛍光体層は、前記主面に垂直な前記蛍光体層の平均膜厚の前記基材側の1/3の基材側領域における前記第1の蛍光体粒子の平均粒子径D2が前記平均粒子径D1より大きいことを特徴とする。
【0011】
このように、単層の蛍光体層内で基材側領域の平均粒子径D2を大きくすることで、平均粒子径D1以上の粒子径を有する第1の蛍光体粒子が基材側に多く分布している状態とすることができ、発光効率を良くすることができる。また、蛍光体層の放熱性を良くすることができる。
【0012】
(2)また、上記(1)の適用例の波長変換部材において、前記蛍光体層の前記主面に対向する面に設けられ、少なくとも第2の蛍光体粒子と、前記第2の蛍光体粒子同士および前記蛍光体層と前記第2の蛍光体粒子とを結合する第2の透光性セラミックスと、により形成された単層の第2の蛍光体層と、をさらに備え、前記第2の蛍光体層における前記第2の蛍光体粒子の平均粒子径D3は5μm以上30μm以下であることを特徴とする。
【0013】
蛍光体層の厚さは薄いほうが熱抵抗は小さいので、光源光の照射時における蛍光体層の蓄熱に起因する発光強度の低下(温度消光)を抑制することができる。しかし、(1)の適用例の波長変換部材における蛍光体層は意図的に蛍光体粒子の分布を異ならせており、蛍光体層の厚さを薄くした場合には、光源光に対する波長変換が十分に行われず局所的な色ムラの発生する虞がある。そこで、このように、蛍光体層の上に第2の蛍光体層を積層することで、蛍光体層の外周滲みやピンホールが抑制され、色ムラの発生を抑制することができる。また、第2の蛍光体層が通常の蛍光体粒子の分布を有する蛍光体層である場合、第2の蛍光体層中の空隙の分布も均一になり、局所的な色ムラの発生をより抑制することができる。
【0014】
(3)また、上記(2)の適用例の波長変換部材において、前記第2の蛍光体層は、前記主面に垂直な前記第2の蛍光体層の平均膜厚の前記蛍光体層側の1/3の蛍光体層側領域における前記第2の蛍光体粒子の平均粒子径D4が前記平均粒子径D3より大きいことを特徴とする。
【0015】
このように、第2の蛍光体層が蛍光体層と同様の特徴を有することにより、蛍光体層の
外周滲みやピンホールが抑制できると共に、(1)の適用例の蛍光体層と同一の蛍光体インキを使用することができるため、製造工程として簡略化することができる。
【0016】
(4)また、本発明の適用例の発光装置は、発光装置であって、特定範囲の波長の光を発する発光素子と、上記(1)から(3)のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の波長変換部材は、高エネルギー化に伴う放熱性の向上と、波長変換効率に優れるので、これを用いた発光装置は、LDをはじめとする発光素子の高出力に対応できる発光装置として使用することができる。
【0018】
(5)また、本発明の適用例の波長変換部材の製造方法は、波長変換部材の製造方法であって、透光性を有する基材を準備する工程と、第1の蛍光体粒子と無機バインダとを混合した蛍光体インキの25℃における粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満に調整する工程と、前記基材の表面に、前記蛍光体インキを塗布する工程と、塗布した前記蛍光体インキを500℃以下の温度で熱処理することで蛍光体層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
蛍光体インキの粘度を上記の範囲に調整して基材に塗布することで、蛍光体インキの流動により、比較的大きい第1の蛍光体粒子が基材側に偏る。その後、熱処理を行うことで、蛍光体層全体の平均粒子径D1以上の粒子径を有する第1の蛍光体粒子が基材側に多く分布している状態とすることができ、単層の蛍光体層内で基材側領域の平均粒子径D2を大きくすることができる。その結果、波長変換部材の発光効率を良くすることができ、蛍光体層の放熱性を良くすることができる。
【0020】
(6)また、本発明の適用例の波長変換部材の製造方法は、波長変換部材の製造方法であって、透光性を有する基材を準備する工程と、第1の蛍光体粒子と無機バインダとを混合した第1の蛍光体インキの25℃における粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満に調整する工程と、前記基材の表面に、前記第1の蛍光体インキを塗布する工程と、前記第1の蛍光体インキを乾燥する工程と、第2の蛍光体粒子と第2の無機バインダとを混合した第2の蛍光体インキの25℃における粘度を10dPa・s以上75dPa・s以下に調整する工程と、前記第1の蛍光体インキを塗布した層の表面に、前記第2の蛍光体インキを塗布する工程と、塗布した前記第1の蛍光体インキおよび前記第2の蛍光体インキを500℃以下の温度で熱処理することで蛍光体層および第2の蛍光体層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
これにより、単層の蛍光体層内で基材側領域の平均粒子径D2を大きくした蛍光体層上に単層の第2の蛍光体層が積層された波長変換部材を製造することができる。その結果、蛍光体層の外周滲みやピンホールが抑制され、色ムラの発生を抑制することができる波長変換部材とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の波長変換部材および発光装置は、発光効率を良くすることができ、蛍光体層の放熱性を良くすることができる。また、本発明の波長変換部材の製造方法は、発光効率および蛍光体層の放熱性に優れた波長変換部材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る波長変換部材の断面構造の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図1の波長変換部材の基材側領域を示す模式的な断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る波長変換部材の断面構造の変形例を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図3の波長変換部材の基材側領域および蛍光体層側領域を示す模式的な断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る発光装置の一例の一部を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る波長変換部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態に係る波長変換部材の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【
図8】実施例および比較例の波長変換部材の製造条件および各評価試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0025】
[波長変換部材の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る波長変換部材100の断面構造の一例を示す模式的な断面図である。本発明の実施形態に係る波長変換部材100は、基材10上に蛍光体層20が形成されている。波長変換部材100は、光源から照射された入射光を透過させつつ、入射光により励起して波長の異なる光を発生させる。例えば、青色光の入射光を透過させつつ、蛍光体層20で変換された緑と赤や黄色の変換光を放射させて、変換光と入射光を合わせて、または、変換光のみを利用し、様々な色の光に変換できる。
【0026】
基材10の形状は、発光装置200に適用可能な形状であればよく、円形状、矩形状、楕円形状、多角形状など様々な形状であってよい。また、例えば、円形状の基材10に円環状の蛍光体層20が形成されていてもよい。
【0027】
基材10は、透光性を有する。基材10の材料は適宜選択される。本発明の波長変換部材100は、発光素子からの入射光または変換光を透過させる用途で使用するため、サファイアやガラス等の透光性を有する無機材料を用いることができる。高い熱伝導率を有するサファイアを用いることが特に好ましく、蛍光体層20の蓄熱を抑えることで温度上昇による蛍光体の特性低下を抑制できる。
【0028】
蛍光体層20は、基材10の主面12上に膜として設けられ、少なくとも第1の蛍光体粒子22および透光性セラミックス24により単層で形成されている。透光性セラミックス24は、第1の蛍光体粒子22同士を結合するとともに第1の蛍光体粒子22と基材10とを結合している。これにより、高エネルギー密度の光の照射に対して、放熱材として機能する基材10と接合しているため効率よく放熱でき、蛍光体の温度消光を抑制できる。蛍光体層20は、空隙40を含んでいてもよい。なお、単層の蛍光体層とは、蛍光体層の厚さ方向に沿った断面において、その層内に他の蛍光体層との境界が存在しない範囲の蛍光体層をいう。
【0029】
蛍光体層20の平均膜厚は、15μm以上300μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。蛍光体層20の平均膜厚が15μmより薄い場合、蛍光体層20内の様々な光路において蛍光体粒子の存在する確率が低下する部分が生じ、均一な照射光を得ることが困難となる。一方で、300μmより厚くすると、蛍光体層20の蓄熱による温度消光の虞があり、特に高出力な用途で問題となる場合がある。蛍光体層20の平均膜厚は、蛍光体層20を形成する蛍光体粒子の平均粒子径の1.5倍より大きいことが好ましい。
【0030】
蛍光体層20の平均膜厚は、SEM画像の画像解析(例えば、1000倍)によって確認することができる。基材10の主面12に垂直な方向における断面のSEM画像において、等間隔に10本の垂線を引き、蛍光体層20のトップ面から主面12までの距離を測定し、10本の線の長さの平均値を蛍光体層20の平均膜厚とする。
【0031】
蛍光体層20を形成する第1の蛍光体粒子22は、特定の波長の変換光を発生させる1種類の蛍光体粒子を示す。蛍光体層20には、第1の蛍光体粒子22以外の別の種類の蛍光体粒子が含まれていてもよい。
【0032】
蛍光体層20における第1の蛍光体粒子22の平均粒子径D1は5μm以上30μm以下である。第1の蛍光体粒子22の平均粒子径D1が5μm以上である場合、変換光の発光強度が大きくなり、ひいては波長変換部材100の発光強度が大きくなる。また、30μm以下である場合、蛍光体層20の厚さの調整が容易となり、第1の蛍光体粒子22の脱粒のリスクを低減できる。また、個々の第1の蛍光体粒子22の温度を低く維持でき、温度消光を抑制できる。
【0033】
蛍光体層20は、主面12に垂直な蛍光体層20の平均膜厚の基材10側の1/3の基材側領域26における第1の蛍光体粒子22の平均粒子径D2が平均粒子径D1より大きい。これにより、第1の蛍光体粒子22の発光効率を良くすることができ、蛍光体層20の放熱性を良くすることができる。平均粒子径D2が平均粒子径D1より大きいとは、平均粒子径D2が平均粒子径D1の1.1倍以上であることをいう。平均粒子径は、SEM画像の画像解析によって確認することができる。本明細書において平均粒子径とは、基材10の主面12に垂直な方向における断面のSEM画像(例えば、1000倍)において2値化などの画像解析を行い、画像から蛍光体粒子と認められる粒子の断面積を算出し、その累積分布から求めた断面積の平均値に対する円相当径とする。なお、SEM画像の平面方向の端に跨っている粒子は、平均粒子径を求める際の対象とはしない。また、測定は全体的な平均粒子径となるように、無作為に複数個所の画像(例えば3枚以上)で確認することが好ましい。
【0034】
図2は、
図1の波長変換部材100の基材側領域26を示す模式的な断面図である。
図2に示されるように、蛍光体層20の表面(蛍光体層20の基材の主面に対向する面28)に凹凸がある場合、基材側領域26は以下のように定める。まず、断面において蛍光体層20の平均膜厚を求め、平均膜厚を定める主面12に平行な直線を引く。次に、主面12から平均膜厚の1/3の厚さの位置に主面12に平行な直線を引く。そして、当該直線から主面12までの領域を基材側領域26とする。なお、基材側領域26の平均粒子径D2は、基材側領域26に断面の少なくとも一部が含まれる個々の第1の蛍光体粒子22の断面積を算出し、断面積の1/2以上が基材側領域26に含まれている粒子(以下「1/2以上粒子」)を、基材側領域26に存在する第1の蛍光体粒子22として平均粒子径D2を求める蛍光体粒子の対象とする。また、平均粒子径D2を求める際に、1/2以上粒子の断面積については、「1/2以上粒子」の全体の断面積を用いる。すなわち、平均膜厚の1/3の位置の直線から基材側領域26とは反対側にはみ出ている部分の断面積も含める。そして、基材側領域26に存在すると判断された第1の蛍光体粒子22の累積分布から求めた断面積の平均値に対する円相当径を平均粒子径D2とする。なお、平均粒子径D2を求める際も、SEM画像の平面方向の端に跨っている粒子は、平均粒子径を求める際の対象とはしない。また、測定は全体的な平均粒子径となるように、無作為に複数個所の画像(例えば3枚以上)で確認することが好ましい。
【0035】
なお、蛍光体層20に第1の蛍光体粒子22以外の別の種類の蛍光体粒子が含まれている場合、当該蛍光体粒子の蛍光体層20全体における平均粒子径と基材側領域26における平均粒子径は、基材側領域26における平均粒子径が大きくてもよいし、そのような関係が無くてもよい。これは、一部の蛍光体粒子でも上記の偏りがある場合、その蛍光体粒子については、発光効率が良く、放熱性が高くなるためである。このような構成は、第1の蛍光体粒子22と別の種類の蛍光体粒子の平均粒子径や粒度分布を異ならせることで実現できる。
【0036】
具体的には、例えば、蛍光体層20に第1の蛍光体粒子22としてYAG系蛍光体粒子が、その他の蛍光体粒子としてLAG系蛍光体粒子が含まれているとする。このとき、YAG系蛍光体粒子の基材側領域26の平均粒子径D2が、YAG系蛍光体粒子の全体の平均粒子径D1より大きいとの条件が満たされる場合、LAG系蛍光体粒子の基材側領域26の平均粒子径D2’はLAG系蛍光体粒子の全体の平均粒子径D1’より大きくても大きくなくてもよい。
【0037】
第1の蛍光体粒子22は、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(YAG系蛍光体)およびルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(LAG系蛍光体)を用いることができる。その他、第1の蛍光体粒子22は、発光させる色の設計に応じて以下のような材料から選択できる。例えば、BaMgAl10O17:Eu、ZnS:Ag,Cl、BaAl2S4:EuあるいはCaMgSi2O6:Euなどの青色系蛍光体、Zn2SiO4:Mn、(Y,Gd)BO3:Tb、ZnS:Cu,Al、(M1)2SiO4:Eu、(M1)(M2)2S:Eu、(M3)3Al5O12:Ce、SiAlON:Eu、CaSiAlON:Eu、(M1)Si2O2N:Euあるいは(Ba,Sr,Mg)2SiO4:Eu,Mnなどの黄色または緑色系蛍光体、(M1)3SiO5:Euあるいは(M1)S:Euなどの黄色、橙色または赤色系蛍光体、(Y,Gd)BO3:Eu,Y2O2S:Eu、(M1)2Si5N8:Eu、(M1)AlSiN3:EuあるいはYPVO4:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。なお、上記化学式において、M1は、Ba,Ca,SrおよびMgからなる群のうちの少なくとも1つが含まれ、M2は、GaおよびAlのうちの少なくとも1つが含まれ、M3は、Y,Gd,LuおよびTeからなる群のうち少なくとも1つが含まれる。なお、上記の第1の蛍光体粒子22は一例であり、波長変換部材100に用いられる第1の蛍光体粒子22が必ずしも上記に限られるわけではない。
【0038】
透光性セラミックス24は、無機バインダが加水分解または酸化されて形成されたものであり、透光性を有する無機材料により構成されている。透光性セラミックス24は、例えば、シリカ(SiO2)、リン酸アルミニウムから構成される。また、透光性セラミックス24は透光性を有するので、光源光(入射光)や変換光を透過させることができる。透光性セラミックス24は無機材料からなるので、耐熱性が向上し、LDなどの高エネルギー光を照射する用途であっても変質が起こりにくい。無機バインダとしては、例えば、エチルシリケート、リン酸アルミニウム水溶液等を用いることができる。
【0039】
透光性を有する物質とは、0.5mmの対象物質に対して、可視光の波長領域(λ=380~780nm)で光を垂直に入射したとき、反対側から抜けた光の放射束が入射光の80%を超える特性を有する物質をいう。
【0040】
蛍光体層20は、表面にメッシュ跡が無いことが好ましい。蛍光体層20にメッシュ跡があると、局所的な膜厚変化によるクラックやピンホールが発生する場合がある。なお、メッシュ跡とは、スクリーン印刷の際、高粘度の蛍光体インキを使用した場合に、メッシュの格子状の模様が蛍光体層20の表面に残ることである。本発明の蛍光体層20は、低粘度の蛍光体インキを使用しているため、メッシュ跡をほとんど生じない。メッシュ跡は、蛍光体層20に光をあてることで確認できる。
【0041】
図3は、本発明の実施形態に係る波長変換部材100の断面構造の変形例を示す模式的な断面図である。
図3に示されるように、本発明の実施形態に係る波長変換部材100は、蛍光体層20の基材の主面に対向する面28に設けられ、少なくとも第2の蛍光体粒子32と、第2の蛍光体粒子32同士および蛍光体層20と第2の蛍光体粒子32とを結合する第2の透光性セラミックス34と、により形成された単層の第2の蛍光体層30と、をさらに備えることが好ましい。これにより、蛍光体層20の外周滲みやピンホールが抑制され、色ムラの発生を抑制することができる。第2の蛍光体層の表面38に、さらに別の蛍光体層が積層されてもよい。
【0042】
蛍光体層20(第1の蛍光体層)および第2の蛍光体層30を合わせた全体の平均膜厚は、15μm以上300μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0043】
第1の蛍光体層20および第2の蛍光体層30を合わせた全体の平均膜厚、および第2の蛍光体層30の平均膜厚は、SEM画像の画像解析によって確認することができる。基材10の主面12に垂直な方向における断面のSEM画像(例えば、1000倍)において、等間隔に10本の垂線を引き、第2の蛍光体層30のトップ面から主面12までの距離を測定し、10本の線の長さの平均値を第1の蛍光体層20および第2の蛍光体層30を合わせた全体の平均膜厚とする。また、同一の10本の垂線に対して、第2の蛍光体層30のトップ面から第1の蛍光体層20と第2の蛍光体層30の境界面(第1の蛍光体層20の基材の主面に対向する面28)までの距離を測定し、10本の線の長さの平均値を第2の蛍光体層30の平均膜厚とする。
【0044】
第2の蛍光体層30を形成する第2の蛍光体粒子32は、特定の波長の変換光を発生させる1種類の蛍光体粒子を示す。第2の蛍光体層30には、第2の蛍光体粒子32以外の別の種類の蛍光体粒子が含まれていてもよい。
【0045】
第2の蛍光体層30における第2の蛍光体粒子32の平均粒子径D3は5μm以上30μm以下であることが好ましい。第2の蛍光体粒子32の平均粒子径D3が5μm以上である場合、変換光の発光強度が大きくなり、ひいては波長変換部材100の発光強度が大きくなる。また、30μm以下である場合、第2の蛍光体層30の厚さの調整が容易となり、第2の蛍光体粒子32の脱粒のリスクを低減できる。また、個々の第2の蛍光体粒子32の温度を低く維持でき、温度消光を抑制できる。第2の蛍光体粒子32の平均粒子径D3は、第1の蛍光体粒子22の平均粒子径D1と同一でもよいし、異なっていてもよい。平均粒子径D3は、基材10の主面12に垂直な方向における断面のSEM画像(例えば、1000倍)において2値化などの画像解析を行い、画像から第2の蛍光体層30内の第2の蛍光体粒子32と認められる粒子の断面積を算出し、その累積分布から求めた断面積の平均値に対する円相当径を平均粒子径D3とする。なお、平均粒子径D3を求める際も、SEM画像の平面方向の端に跨っている粒子は、平均粒子径を求める際の対象とはしない。また、測定は全体的な平均粒子径となるように、無作為に複数個所の画像(例えば3枚以上)で確認することが好ましい。
【0046】
第2の蛍光体層30は、主面12に垂直な第2の蛍光体層30の平均膜厚の蛍光体層20側の1/3の蛍光体層側領域36における第2の蛍光体粒子32の平均粒子径D4が平均粒子径D3より大きいことが好ましい。平均粒子径D4が平均粒子径D3より大きいとは、平均粒子径D4が平均粒子径D3の1.1倍以上であることをいう。
【0047】
図4は、
図3の波長変換部材100の基材側領域26、および蛍光体層側領域36を示す模式的な断面図である。
図4に示されるように、第1の蛍光体層20の表面(第1の蛍光体層20の基材の主面に対向する面28)、または第2の蛍光体層の表面38に凹凸がある場合、蛍光体層側領域36は以下のように定める。まず、断面において第1の蛍光体層20の平均膜厚を求め、平均膜厚を定める主面12に平行な直線を引く。次に、断面において第2の蛍光体層30の平均膜厚を求め、第1の蛍光体層20の平均膜厚を定める直線を基準として、第2の蛍光体層30の平均膜厚を定める主面12に平行な直線を引く。次に、第1の蛍光体層20の平均膜厚を定める直線から第2の蛍光体層30の平均膜厚の1/3の厚さの位置に主面12に平行な直線を引く。そして、当該直線から第1の蛍光体層20の基材の主面に対向する面28までの領域を蛍光体層側領域36とする。なお、蛍光体層側領域36の平均粒子径D4は、蛍光体層側領域36に断面の少なくとも一部が含まれる個々の第2の蛍光体粒子32の断面積を算出し、断面積の1/2以上が蛍光体層側領域36に含まれている粒子(以下「1/2以上粒子」)を、蛍光体層側領域36に存在する第2の蛍光体粒子32として平均粒子径D4を求める蛍光体粒子の対象とする。また、平均粒子径D4を求める際に、1/2以上粒子の断面積については、「1/2以上粒子」の全体の断面積を用いる。すなわち、平均膜厚の1/3の位置の直線から蛍光体層側領域36とは反対側にはみ出ている部分の断面積も含める。そして、蛍光体層側領域36に存在すると判断された第2の蛍光体粒子32の累積分布から求めた断面積の平均値に対する円相当径を平均粒子径D4とする。なお、平均粒子径D4を求める際も、SEM画像の平面方向の端に跨っている粒子は、平均粒子径を求める際の対象とはしない。また、測定は全体的な平均粒子径となるように、無作為に複数個所の画像(例えば3枚以上)で確認することが好ましい。
【0048】
第2の蛍光体層30は、主面12に垂直な断面において、第2の蛍光体粒子32の平均粒子径D3がランダムであってもよい。第2の蛍光体粒子32の平均粒子径D3がランダムであるとは、主面12に垂直な第2の蛍光体層30の厚さの蛍光体層20側の1/3の蛍光体層側領域36における平均粒子径D4が平均粒子径D3の1.1倍未満であることをいう。このとき、平均粒子径D4は、平均粒子径D3の0.9倍以上であることが好ましい。これにより、第2の蛍光体層30中の空隙40の分布が均一になり、局所的な色ムラの発生をより抑制することができる。
【0049】
第2の蛍光体粒子32は、上記の第1の蛍光体粒子22の例で示した種々の蛍光体粒子を用いることができる。また、上記の第1の蛍光体粒子22は一例であるため、波長変換部材100に用いられる第2の蛍光体粒子32も、必ずしも上記に限られるわけではない。第2の蛍光体層30に第1の蛍光体層20の変換光にバラツキが生じた場合の補助的な波長変換の役割を与える場合、第2の蛍光体粒子32の種類は、第1の蛍光体粒子22と同一であることが好ましい。なお、このような役割を考慮しない場合、第2の蛍光体粒子32の種類は、第1の蛍光体粒子22と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0050】
第2の透光性セラミックス34は、無機バインダが加水分解または酸化されて形成されたものであり、透光性を有する無機材料により構成されている。第2の透光性セラミックス34は、例えば、シリカ(SiO2)、リン酸アルミニウムから構成される。無機バインダとしては、例えば、エチルシリケート、リン酸アルミニウム水溶液等を用いることができる。第2の透光性セラミックス34は、透光性セラミックス24と同一種類の材料で形成されることが好ましいが、異なる種類の材料で形成されてもよい。
【0051】
第2の蛍光体層30は、表面にメッシュ跡が無いことが好ましい。第2の蛍光体層30にメッシュ跡があると、局所的な膜厚変化によるクラックやピンホールが発生する場合がある。第2の蛍光体層30を高粘度の蛍光体インキを使用して形成する場合、メッシュ跡が生じないように、蛍光体インキ塗布後から乾燥や熱処理までの時間を調整するなど注意する必要がある。メッシュ跡は、第2の蛍光体層30に光をあてることで確認できる。
【0052】
[発光装置の構成]
図5は、本発明の実施形態に係る発光装置の一例の一部を示す概念図である。発光装置200は、光源(発光素子)150と波長変換部材100を備える。光源150は、特定範囲の波長の光源光を発生させる発光素子であり、例えば、LEDや、LDなどを用いることができる。波長変換部材100はハイパワーでも効率よく波長変換させることができるので、光源150はLDであることが好ましい。光源150は、波長変換部材100の基材10側に配置されてもよい。これにより、発光装置200の構成が簡易になる。また、光源光がミラー等を介して波長変換部材100に照射されてもよい。これにより、発光装置200の光源150の配置の自由度が増大する。
【0053】
本発明の波長変換部材100は、高エネルギー化に伴う放熱性の向上と波長変換効率に優れるので、LDをはじめとする発光素子の高出力に対応できる発光装置200として使用することができる。このような発光装置200としては、レーザ照明、ヘッドライト、プロジェクタなどに適用することができる。
【0054】
[波長変換部材の製造方法]
波長変換部材の製造方法の一例を説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る波長変換部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。最初に、原料を加工し、所定の形状に形成された基材を準備する(ステップS1)。
【0055】
基材の準備とは別に、第1の蛍光体粒子と無機バインダとを混合して蛍光体インキ(蛍光体ペースト)を作製する(ステップS2)。蛍光体インキの作製は、まず、所定の平均粒子径を有する第1の蛍光体粒子を準備する。第1の蛍光体粒子は、波長変換部材の設計に応じて、様々な種類のものを用いることができる。第1の蛍光体粒子以外の別の種類の蛍光体粒子を1種類または2種類以上使用してもよい。
【0056】
次に、準備した第1の蛍光体粒子を秤量し、溶剤に分散させ、無機バインダと混合し、印刷用の蛍光体インキを作製する。このとき、蛍光体インキの粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満にするため、溶剤や無機バインダの添加比率を46~60%に調整する。混合にはボールミルやプロペラ撹拌などを用いることができる。混合時間は、80分~160分間に調整する。混合時、温度変化による粘度のばらつきを抑えるため、室温は20℃~25℃、液温は25℃~40℃に調整する。溶剤は、α-テルピネオール、ブタノール、イソホロン、グリセリン等の高沸点溶剤を用いることができる。
【0057】
蛍光体インキの粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満に調整することで、蛍光体インキの流動により、比較的大きいまたは重い第1の蛍光体粒子が基材側に偏る。その後、乾燥や熱処理を行うことで、蛍光体層を構成する第1の蛍光体粒子のうち平均粒子径以上の粒子径を有する第1の蛍光体粒子を基材側に多く存在させることができる。これにより、発光効率を良くすることができ、蛍光体層の放熱性を良くすることができる。
【0058】
蛍光体インキの粘度が35dPa・s未満であると、蛍光体インクの流動により蛍光体層の端部(外周部)において滲みが起こりやすい。また、蛍光体層の厚さの確保も難しくなる場合がある。滲みが発生すると、蛍光体粒子の分布の悪化、膜厚が局所的に薄くなることによる発光特性の低下が起こる虞がある。そのため、粘度が35dPa・s未満の蛍光体インキは、所定の厚さになるまで複数回塗布することが好ましい。これにより、蛍光体層の端部における滲みを抑制し、蛍光体層の厚さを確保することができる。
【0059】
蛍光体インキの粘度が10dPa・s未満である場合、蛍光体インキの流動性が高くなりすぎ、蛍光体層の形成自体が難しくなる場合がある。また、蛍光体インキの粘度が35dPa・s以上である場合、第1の蛍光体粒子を偏らせるために必要な時間が増大し、生産効率が悪化したり、第1の蛍光体粒子の偏りが生じなかったりする。そのため、蛍光体インキの粘度は、10dPa・s以上35dPa・s未満に調整する。
【0060】
蛍光体インキには、蛍光体層の硬度を向上させ、発光性(光の散乱性)等を調整する目的で無機微粒子を添加してもよい。また、無機微粒子は、蛍光体インキの粘度の調整を目的として添加することもできる。
【0061】
次に、基材準備工程(ステップS1)において準備された基材の表面に蛍光体インキを塗布してインキ層(ペースト層)を形成する(ステップS3)。蛍光体インキの塗布は、スクリーン印刷法、スプレー法、ディスペンサーによる描画法、インクジェット法を用いることができる。スクリーン印刷法を用いると、厚さの均一なインキ層を安定的に形成できるので好ましい。また、インキ層の厚さは、焼成後に所定の平均膜厚になるように調整する。インキ層は、基材の形状に沿って形成されることが好ましい。
【0062】
そして、塗布した蛍光体インキを、150℃以上の温度で熱処理することで蛍光体層を形成する(ステップS4)。熱処理温度は、150℃以上500℃以下であることが好ましく、特に300℃以上400℃以下であることが好ましい。熱処理時間は、20分以上の保持時間を設けることが好ましく、0.5時間以上2.0時間以下であることが好ましい。また、昇温速度は、2℃/min以上であることが好ましく、2℃/min以上10℃/min以下であることがより好ましい。また、熱処理前に乾燥工程を設けてもよい。乾燥温度は100℃以上200℃以下(蛍光体層の熱処理温度未満)が好ましく、乾燥時間は20分以上60分以下であることがより好ましい。
【0063】
このように、蛍光体インキの粘度を所定の範囲に調整して基材に印刷および熱処理をすることで、単層の蛍光体層内で蛍光体粒子の平均粒径の偏りを生じさせることができ、放熱性や発光特性に優れた波長変換部材を製造することができる。
【0064】
図7は、本発明の実施形態に係る波長変換部材の製造方法の変形例を示すフローチャートである。原料を加工し、基材準備工程(ステップT1)から第1の蛍光体インキ塗布工程(ステップT3)までは上記と同様であるので省略する。第1の蛍光体インキは、上記の蛍光体インキである。
【0065】
次に、第1の蛍光体インキを乾燥する(ステップT4)。これにより、単層の第1の蛍光体層の上に第2の蛍光体層を積層することができ、蛍光体層の外周滲みやピンホールが抑制され、色ムラの発生を抑制することができる。また、各蛍光体層に異なる特性を持たせることもできる。乾燥温度は100℃以上200℃以下(後の蛍光体層の熱処理温度未満)が好ましく、乾燥時間は20分以上60分以下であることがより好ましい。
【0066】
次に、第2の蛍光体粒子と第2の無機バインダとを混合して第2の蛍光体インキ(第2の蛍光体ペースト)を作製する(ステップT5)。第2の蛍光体インキの作製は、まず、所定の平均粒子径を有する第2の蛍光体粒子を準備する。第2の蛍光体粒子は、波長変換部材の設計に応じて、様々な種類のものを用いることができる。第2の蛍光体粒子の平均粒子径や種類は、第1の蛍光体粒子と同一でもよいし、異なっていてもよい。第2の無機バインダは、第1の無機バインダと同一の種類であることが好ましいが、異なる種類であってもよい。第2の蛍光体粒子以外の別の種類の蛍光体粒子を1種類または2種類以上使用してもよい。
【0067】
次に、準備した第2の蛍光体粒子を秤量し、溶剤に分散させ、第2の無機バインダと混合し、印刷用の蛍光体インキを作製する。このとき、第2の蛍光体インキの粘度を10dPa・s以上35dPa・s未満にする場合は、溶剤や第2の無機バインダの添加比率を46~60%に調整する。また、第2の蛍光体インキの粘度を35dPa・s以上75dPa・s以下にする場合は、溶剤や第2の無機バインダの添加比率を15~45%に調整する。混合にはボールミルやプロペラ撹拌などを用いることができる。混合時間は、80分~160分間に調整する。混合時、温度変化による粘度のばらつきを抑えるため、室温は20℃~25℃、液温は25℃~40℃に調整する。溶剤は、α-テルピネオール、ブタノール、イソホロン、グリセリン等の高沸点溶剤を用いることができる。
【0068】
第2の蛍光体インキには、第2の蛍光体層の硬度を向上させ、発光性(光の散乱性)等を調整する目的で無機微粒子を添加してもよい。また、無機微粒子は、第2の蛍光体インキの粘度の調整を目的として添加することもできる。
【0069】
次に、乾燥工程(ステップT4)において作製された乾燥した第1の蛍光体インキの表面(主面と対向する面)に第2の蛍光体インキを塗布して第2のインキ層(第2のペースト層)を形成する(ステップT6)。第2の蛍光体インキの塗布も、スクリーン印刷法、スプレー法、ディスペンサーによる描画法、インクジェット法を用いることができる。スクリーン印刷法を用いると、厚さの均一な第2のインキ層を安定的に形成できるので好ましい。また、第2のインキ層の厚さは、焼成後に所定の平均膜厚になるように調整する。第2のインキ層は、第1のインキ層の形状に沿って形成されることが好ましい。
【0070】
なお、第2の蛍光体インキの粘度が75.0dPsを超えると、塗布方法がスクリーン印刷であった場合、メッシュ跡が蛍光体層にそのまま痕として残り、蛍光体層の割れ・剥離の原因となる虞がある。また蛍光体インキの流動性が悪いため空隙(ピンホール)が発生する虞が増大し、均一な発光特性が得られず色ムラ発生の原因となる。
【0071】
そして、塗布した第1の蛍光体インキおよび第2の蛍光体インキを、150℃以上の温度で熱処理することで第1の蛍光体層および第2の蛍光体層を形成する(ステップS7)。熱処理温度は、150℃以上500℃以下であることが好ましく、特に300℃以上400℃以下であることが好ましい。熱処理時間は、20分以上の保持時間を設けることが好ましく、0.5時間以上2.0時間以下であることが好ましい。また、昇温速度は、2℃/min以上であることが好ましく、2℃/min以上10℃/min以下であることがより好ましい。また、熱処理前に第2の蛍光体インキを乾燥させる工程を設けてもよい。乾燥温度は100℃以上200℃以下(蛍光体層の熱処理温度未満)が好ましく、乾燥時間は20分以上60分以下であることがより好ましい。
【0072】
このように、第1の蛍光体インキの粘度を所定の範囲に調整して基材に印刷し、乾燥させ、さらに第2の蛍光体インキを第1のインキ層上に印刷し、熱処理をすることで、蛍光体粒子の平均粒径の偏りを生じさせた単層の第1の蛍光体層上にさらに第2の蛍光体層を積層することができ、放熱性や発光特性に優れた波長変換部材を製造することができる。
【0073】
[実施例および比較例]
(波長変換部材の作製)
(実施例1-1)
基材として直径φ50mm、厚さt0.5mmの円板状のサファイア製の基材を準備した。また、平均粒子径15μmの黄色蛍光体(YAG系蛍光体)、無機バインダとしてエチルシリケート、溶媒としてα-テルピネオールをそれぞれ秤量し、液温を25℃~40℃に管理しながら、それぞれプロペラ撹拌で120分間混合することで第1の蛍光体インキを作製した。このとき、作製した第1の蛍光体インキの粘度を粘度計(ビスコテスターVT-04F)を用いて測定し、第1の蛍光体インキの粘度が10dPa・sになるように無機バインダの添加量を決定し、添加した。
【0074】
得られた第1の蛍光体インキを熱処理後の蛍光体層の平均膜厚が50μmとなるようにスクリーン印刷により基材上に塗布した。塗布後の基材を100℃で30分乾燥した後、電気炉を用いて非酸化性雰囲気で150℃/hで350℃まで昇温し、20分間熱処理することにより、実施例1-1の波長変換部材を作製した。
【0075】
(実施例1-2)
第1の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が20dPa・sになるように添加した点を除き、実施例1-1と同様の条件で実施例1-2の波長変換部材を作製した。
【0076】
(実施例1-3)
第1の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が30dPa・sになるように添加した点を除き、実施例1-1と同様の条件で実施例1-3の波長変換部材を作製した。
【0077】
(実施例2-1)
実施例1-1と同様の条件で粘度10dPa・sの第1の蛍光体インキおよび第2の蛍光体インキを作製した。第1の蛍光体インキを熱処理後の第1の蛍光体層の平均膜厚が50μmとなるようにスクリーン印刷により基材上に塗布した。塗布後の基材を100℃で30分乾燥して蛍光体層前駆体を形成した。その後、さらに第2の蛍光体インキを用いて、熱処理後の第2の蛍光体層の平均膜厚が50μm(合計の蛍光体層の平均膜厚が100μm)となるようにスクリーン印刷により蛍光体層前駆体上に塗布した。そして、塗布後の基材を100℃で30分乾燥することで第2の蛍光体層前駆体を形成した。これらの蛍光体層前駆体を電気炉を用いて非酸化性雰囲気で150℃/hで350℃まで昇温し、20分間熱処理することにより、実施例2-1の波長変換部材を作製した。
【0078】
(実施例2-2)
第1の蛍光体インキおよび第2の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、それぞれの粘度が20dPa・sになるように添加した点を除き、実施例2-1と同様の条件で実施例2-2の波長変換部材を作製した。
【0079】
(実施例2-3)
第1の蛍光体インキおよび第2の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、それぞれの粘度が30dPa・sになるように添加した点を除き、実施例2-1と同様の条件で実施例2-3の波長変換部材を作製した。
【0080】
(実施例3-1)
第2の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が50dPa・sになるように添加した点を除き、実施例2-1と同様の条件で実施例3-1の波長変換部材を作製した。
【0081】
(実施例3-2)
第1の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が20dPa・sになるように添加した点、および第2の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が60dPa・sになるように添加した点を除き、実施例2-1と同様の条件で実施例3-2の波長変換部材を作製した。
【0082】
(実施例3-3)
第1の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が30dPa・sになるように添加した点、および第2の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が70dPa・sになるように添加した点を除き、実施例2-1と同様の条件で実施例3-3の波長変換部材を作製した。
【0083】
(比較例1)
第1の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が60dPa・sになるように添加した点を除き、実施例1-1と同様の条件で比較例1の波長変換部材を作製した。
【0084】
(比較例2)
第1の蛍光体インキの無機バインダの添加量を、粘度が60dPa・sになるように添加した点、および第1の蛍光体インキを熱処理後の蛍光体層の平均膜厚が100μmとなるようにスクリーン印刷により基材上に塗布した点を除き、実施例1-1と同様の条件で比較例2の波長変換部材を作製した。
【0085】
(評価方法)
(発光強度試験)
それぞれの波長変換部材について、波長450nmの青色LD光をレーザ出力1.0Wのレーザ光を照射し発光強度を確認した。このとき、実施例1-2の発光強度を100としたときの相対値とした。
【0086】
(発光均一性試験)
それぞれの波長変換部材について、波長450nmの青色LD光をレーザ出力1.0Wのレーザ光を、基材側から周方向に等間隔で8点および中心点を加えた9点に照射し、放射光の照度(lx)を照度計で確認した。その平均値と各測定点の偏差を算出し、その偏差の最大値(または最小値)/平均値で発光強度の均一性(発光のバラツキ)を確認した。この値が小さいほど、発光のバラツキが小さいといえる。
【0087】
(表面温度測定)
それぞれの波長変換部材について、波長450nmの青色LD光をレーザ出力1.0Wのレーザ光を、基材側から波長変換部材に10分間照射した。蛍光体層の表面温度を赤外線サーモグラフィカメラを用いて測定する。測定は10分間照射直後の蛍光体層の表面温度を最高温度として、レーザ光の照射を停止して1分後の蛍光体層の表面温度を確認した。
【0088】
(SEMによる断面観察)
各試料の断面SEM画像を1000倍の倍率で撮影し、その視野における各蛍光体層の蛍光体粒子と認められる粒子の断面積を算出し、その累積分布から平均粒子径D1またはD3を求めた。また、各蛍光体層の平均膜厚に対する厚さ1/3部分(基材側領域または蛍光体層側領域)の平均粒子径D2またはD4を求めた。そして、それらの関係について確認した。
【0089】
図8は、実施例および比較例の波長変換部材の製造条件および各評価試験の結果を示す表である。
図8の蛍光体層および第2の蛍光体層の粘度(dPa・s)は、蛍光体層または第2の蛍光体層を形成するための蛍光体インキの25℃での粘度を示している。また、平均膜厚(μm)は、製造後のSEMによる断面観察において求めた蛍光体層の平均膜厚または第2の蛍光体層の平均膜厚を示している。また、平均粒径D1(μm)または平均粒径D3(μm)は、製造後のSEMによる断面観察において求めた蛍光体層の第1の蛍光体粒子の平均粒子径D1または第2の蛍光体層の第2の蛍光体粒子の平均粒子径D3を示している。以下では、実施例○-1から○-3をまとめて実施例○(○は、1~3)とも記載する。
【0090】
基材の表面に形成される蛍光体層の蛍光体粒子の平均粒子径に偏りを生じさせ、その上に第2の蛍光体層を形成した実施例2および実施例3では、発光強度は98.0以上であり、発光強度に優れていると評価できる。これは、発光効率に優れる大きな粒子径の蛍光体粒子が光源照射側である基材側に多く分布していたからであると推定される。また、蛍光体層の平均膜厚が薄い実施例1が最も発光強度に優れる結果となった。一方で、蛍光体層中の蛍光体粒子の分布が比較的均一である比較例1および比較例2の発光強度は、実施例1から実施例3を若干下回る結果であった。
【0091】
波長変換光の照射面側に蛍光体粒子の分布に均一性がある蛍光体層が形成された実施例3、比較例1および2が、最も照度のバラツキが小さかった。次いで実施例2が照度のバラツキが小さかった。これは、蛍光体層の一部において存在するピンホールや滲みが積層によって緩和されたものと推定される。
【0092】
レーザ光照射直後、いずれの試験例においても蛍光体層の温度は120℃程度であった。その後、レーザ光の照射を停止して1分後の蛍光体層の温度は、実施例1が最も低く、比較例2が最も高い結果であった。これは、実施例1と比較して比較例2の蛍光体層は、基材側に小粒径の蛍光体が多く分布しており、粒子間でバインダを多く介在するため基材までの熱伝導性が良くなかったものと思われる。一方で実施例1の蛍光体層は大粒径の蛍光体が多く分布しているため、バインダを介することが少なく、かつ蛍光体自体の熱伝導が良いことから放熱性が良かったものと思われる。なお、ほぼ同一の平均膜厚で比較した実施例1と比較例1でも同様の関係であることが確認された。
【0093】
実施例1から実施例3の波長変換部材によれば、D2/D1の値が1.1以上であり、基材側に比較的大粒径の蛍光体粒子が存在していたことが確認された。これにより放熱性に加えて、発光効率の向上効果も期待される。実施例2は、D4/D3の値も1.1以上であった。また、実施例3は、D4/D3の値は0.9以上であった。
【0094】
以上の結果から、本発明の波長変換部材は、発光強度および放熱性に優れることがわかった。これにより、発光素子の高出力化に対して特性低下を抑制することが可能となる。また、積層構造とすることで、発光強度のバラツキを低減することができる。
【0095】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0096】
10 基材
12 主面
20 蛍光体層
22 第1の蛍光体粒子
24 透光性セラミックス
26 基材側領域
28 基材の主面に対向する面
30 第2の蛍光体層
32 第2の蛍光体粒子
34 第2の透光性セラミックス
36 蛍光体層側領域
38 第2の蛍光体層の表面
40 空隙
100 波長変換部材
150 光源
200 発光装置