(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083827
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 11/00 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
C12C11/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197873
(22)【出願日】2022-12-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128CP21
4B128CP31
4B128CP38
4B128CP39
(57)【要約】
【課題】麦芽を原料とした高原麦汁エキスで醸造したにもかかわらず、麦由来のオフフレーバーが抑えられた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、を有し、原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用し、真正エキス濃度から最終真正エキス濃度を差し引いた値であるエキス差が、0.1以上になるように調整することを特徴とする、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、
前記発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用し、
外観エキス濃度から最終エキス濃度を差し引いた値であるエキス差が、0.1以上になるように調整することを特徴とする、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50質量%以上である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、90質量%以上である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
前記発酵工程において、加圧発酵を行う、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
前記発酵工程における発酵液温度が、8~12℃である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
飲料のアルコール濃度が5.8容量%以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
ホップを原料として用いる、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項8】
原麦汁エキス濃度が12°P以上であり、
真正エキス濃度から最終真正エキス濃度を差し引いた値であるエキス差が、0.1以上であり、
遮光容器に充填された状態で37℃、1週間保存後のトランス-2-ノネナール濃度が0.10ppb以下である、発酵ビールテイスト飲料。
【請求項9】
アルコール濃度が5.8容量%以上である、請求項8に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項10】
発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50質量%以上である、請求項8に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原麦汁エキスが高濃度であるにもかかわらず、麦由来のオフフレーバーが少ない発酵ビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは古くから世界中で愛飲されている、代表的な酒類である。また、ビールに続く新たなアルコール飲料として、発泡酒等の麦芽以外にも様々な副原料を使用したビールテイスト飲料の開発が盛んである。特に、近年では、アルコール濃度が6~10容量%(v/v%)と比較的高アルコールのビールテイスト飲料、いわゆるストロング系ビールテイスト飲料が注目されている。発酵ビールテイスト飲料においては、発酵度を高めて発酵工程で産生されるアルコール量を増量させることにより、高アルコール化させることができる。
【0003】
発酵度を高めて製造される発酵ビールテイスト飲料の香味を改善する方法が各種報告されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、外観最終発酵度が89%以上又は90%以上である穀物由来成分を含有する発酵ビールテイスト飲料において、アミノ態窒素(A-N)を特定の濃度範囲にすることにより、コクとキレのバランスを改善できることが開示されている。特許文献3には、麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、外観発酵度が105%以上である発酵ビールテイスト飲料において、ピログルタミン酸濃度を特定の範囲内に調整することにより、良質な味わいの複雑さと爽快感を改善できることが開示されている。特許文献4及び特許文献5には、外観発酵度が105.0%以上と高い発酵ビールテイスト飲料では、旨味が低下し水っぽい味となり、良質な苦味が低下するが、原麦汁エキス濃度を8.00質量%以上とし、さらに、総ポリフェノール濃度又はアルコール濃度を特定の範囲内に調整することにより、水っぽい味になることなく、良質な苦味を感じられる発酵ビールテイスト飲料が製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-209071号公報
【特許文献2】特開2019-000084号公報
【特許文献3】特開2020-195318号公報
【特許文献4】特許第7052131号公報
【特許文献5】特許第7052132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルコール濃度が比較的高い発酵ビールテイスト飲料を通常の醸造法で製造しようとする場合には、原麦汁エキスを高くして製造する必要がある。しかし、原麦汁エキスを高くするために麦芽の使用比率を高めると、製造される発酵ビールテイスト飲料に麦由来のオフフレーバーが付与されてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、麦芽を原料とした高原麦汁エキスで醸造したにもかかわらず、麦由来のオフフレーバーが抑えられた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽を原料とする原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料において、いわゆるエキス差(外観エキス濃度と最終エキス濃度の差分)を特定の範囲内に調整することにより、麦由来のオフフレーバーを抑えられることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、下記の通りである。
[1] 発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、
前記発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用し、
真正エキス濃度から最終真正エキス濃度を差し引いた値であるエキス差が、0.1以上になるように調整することを特徴とする、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[2] 前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50質量%以上である、前記[1]の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[3] 前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、90質量%以上である、前記[1]又は[2]の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[4] 前記発酵工程において、加圧発酵を行う、前記[1]~[3]のいずれかの発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[5] 前記発酵工程における発酵液温度が、8~12℃である、前記[1]~[4]のいずれかの発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[6] 飲料のアルコール濃度が5.8容量%以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する、前記[1]~[5]のいずれかの発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[7] ホップを原料として用いる、前記[1]~[6]のいずれかの発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
[8] 原麦汁エキス濃度が12°P以上であり、
真正エキス濃度から最終真正エキス濃度を差し引いた値であるエキス差が、0.1以上であり、
遮光容器に充填された状態で37℃、1週間保存後のトランス-2-ノネナール濃度が0.10ppb以下である、発酵ビールテイスト飲料。
[9] アルコール濃度が5.8容量%以上である、前記[8]の発酵ビールテイスト飲料。
[10] 発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50質量%以上である、前記[8]又は[9]の発酵ビールテイスト飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、麦芽を原料とし、かつ原麦汁エキスが高いにもかかわらず、麦由来のオフフレーバーが抑えられた発酵ビールテイスト飲料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、「X~Y(XとYはX<Yを満たす実数)」は、「X以上Y以下」の数値範囲を意味する。
本発明及び本願明細書において、「ppb」は「質量ppb」を意味する。
【0011】
本発明及び本願明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビールらしさを有する飲料である。本発明及び本願明細書においては、「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、ビールテイスト飲料とは、アルコールの含有の有無や含有量、麦芽の使用の有無、ホップの使用の有無、発酵の有無等に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティー(飽きずに何杯も飲み続けられる性質)を有する発泡性飲料を意味する。
【0012】
本発明及び本願明細書において、発酵ビールテイスト飲料とは、発酵工程を経て製造されるビールテイスト飲料である。発酵方法は特に限定されるものではなく、単発酵であってもよく、単行複発酵であってもよく、並行複発酵であってもよいが、伝統的なビールの製造と同様に、麦芽等の原料に含まれるでんぷんを1~3糖に分解する糖化工程と、酵母により糖からアルコールを生成する発酵工程を、別個に経て製造される単行複発酵であることが好ましい。
【0013】
発酵ビールテイスト飲料には、アルコール飲料とアルコールを含有していないノンアルコール飲料の両方が含まれる。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料としては、具体的には、ビールや、発泡酒、低アルコールビールテイスト飲料、ノンアルコールビール等のうち、発酵工程を経て製造される飲料が挙げられる。その他、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類も含まれる。
【0014】
なお、アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒等を用いることができる
【0015】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用し、外観エキス濃度(E)から最終エキス濃度(EEND)を差し引いた値であるエキス差(ΔE=E-EEND)が、0.1以上になるように調整することを特徴とする。原麦汁エキスを高くするために麦芽の使用量を多くして醸造した場合、製造される発酵ビールテイスト飲料に麦由来のオフフレーバーが付与されてしまう。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法では、エキス差(ΔE)を0.1以上になるように調整することによって、麦由来のオフフレーバーを低減させることができる。
【0016】
麦由来のオフフレーバーとしては、カードボード臭や老化臭が挙げられる。カードボード臭の原因香気成分はトランス-2-ノネナール(E2N)であり、これは主に、原料として用いた麦芽等の麦類に由来する。老化臭は多数の香気成分による複合臭であるが、原因香気成分の多くが麦芽に由来する。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法では、カードボード臭や老化臭の原因香気成分の生成量を抑制することができ、これにより麦由来のオフフレーバーが低減された発酵ビールテイスト飲料が製造できる。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法では、麦由来のオフフレーバーの低減と共に、麦由来の渋味も低減させることができる。
【0017】
E2Nは、酸化劣化により増大する成分であるため、発酵ビールテイスト飲料のE2N濃度は、保存安定性の指標ともなる。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法により製造される発酵ビールテイスト飲料は、E2N濃度が低く抑えられているため、保存安定性も良好である。
【0018】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法により製造される発酵ビールテイスト飲料のE2N濃度は、特に限定されるものではない。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法により製造される発酵ビールテイスト飲料としては、遮光容器に充填された状態で37℃、1週間保存後のE2N濃度が、0.13ppb以下であることが好ましく、0.12ppb以下であることがより好ましく、0.10ppb以下であることがさらに好ましく、0.04ppb以下であることがよりさらに好ましい。当該発酵ビールテイスト飲料の遮光容器に充填された状態で37℃、1週間保存後のE2N濃度は、0.01ppb以上であってもよく、0ppb(検出限界値未満)であることも好ましい。当該遮光容器としては、褐色ガラス瓶、金属缶等を用いることができる。
【0019】
発酵ビールテイスト飲料のE2N濃度は、測定対象の発酵ビールテイスト飲料を37℃で1週間保存して酸化劣化させた後に、ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)装置を使用して測定することができる。
【0020】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、を有し、発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用し、原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法である。原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料は、酵母を接種させる発酵原料液の原麦汁エキス濃度を、仕込水に対する原材料(麦芽など)の割合を増加させることによって12°P以上に調整することにより製造できる。
【0021】
発酵ビールテイスト飲料の原麦汁エキス濃度は、日本醸造協会が発行している分析法で規定されている方法(「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.5 エキス関係測定法」)に従って測定することができる。具体的には、発酵ビールテイスト飲料のアルコール濃度と真正エキス濃度から測定することができる。
【0022】
発酵ビールテイスト飲料のアルコール濃度は、「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.3.6 アルコライザー法」に規定されている方法に従って測定することができる。
発酵ビールテイスト飲料の真正エキス濃度は、「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.4.3アルコライザー法」に規定されている方法に従って測定することができる。
【0023】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法では、エキス差(ΔE)を0.1以上になるように調整する。エキス差は、使用する酵母の種類、発酵温度、発酵時間、発酵時の圧力環境等の発酵条件を適宜調整することにより、所望の範囲内に調整することができる。例えば、加圧条件下で発酵させることにより、常圧条件下で発酵させるよりも、得られた発酵ビールテイスト飲料のエキス差を大きくすることができる。加圧発酵は、例えば、発酵タンクの吐出口に設けられた背圧弁を調整して発酵タンク内の圧力を高めることにより実施できる。例えば、発酵を8~12℃で行う場合には、発酵タンクの空寸内の圧力が0.7~1.1kgf/cm2の範囲内にして加圧発酵させることにより、エキス差を大きくすることができる。
【0024】
発酵ビールテイスト飲料の外観エキス濃度(E)は、「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.1.4アルコライザー法」に規定されている方法に従って比重を測定し、外観エキスに換算する。
発酵ビールテイスト飲料の最終エキス濃度(EEND)は、「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.11最終発酵度」に規定されている方法に従って測定することができる。なお、最終エキスEENDの測定には、ビール醸造に汎用されている下面発酵酵母であるSaccharomyces pastorianus Weihenstephan 34/70(Hefebank Weihenstephan GmbH)を使用した。
【0025】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法において製造される発酵ビールテイスト飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコールを含有していないノンアルコール飲料であってもよい。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法において製造される発酵ビールテイスト飲料としては、アルコール飲料、例えばアルコール濃度が0.5容量%以上のアルコール飲料であることが好ましい。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法においては、製造される発酵ビールテイスト飲料のアルコール濃度を、5.8容量%以上に調整することが好ましく、6.0容量%以上に調整することがより好ましく、6.0~10.0容量%に調整することがさらに好ましく、6.0~8.0容量%に調整することがよりさらに好ましい。
【0026】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、エキス差(ΔE)を0.1以上になるように調整する以外は、一般的な発酵ビールテイスト飲料と同様にして製造できる。一般的な発酵ビールテイスト飲料は、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0027】
本発明においては、発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用する。発酵原料として用いる麦芽は、大麦麦芽であってもよく、小麦麦芽であってもよく、両者を併用してもよい。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法においては、発酵原料として麦芽のみを使用していてもよく、麦芽と麦芽以外の原料を併用するもの、すなわち、麦芽使用比率(発酵原料全体に占める麦芽の使用量の割合)が100質量%未満であってもよい。中でも、エキス差調整による麦由来オフフレーバー低減効果がより充分に発揮できることから、麦芽使用比率が50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
用いられる麦芽以外の穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。麦芽以外の発酵原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、麦芽以外の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。糖質原料としては、例えば、液糖、ショ糖等の糖類が挙げられる。
【0029】
麦芽をはじめとする各穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽破砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。
【0030】
仕込工程(発酵原料液調製工程)として、発酵原料から発酵原料液を調製する。具体的には、まず、発酵原料と原料水とを含む混合物を調製して加温し、発酵原料の澱粉質を糖化させる。当該混合物には、発酵原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、酵母エキス、タンパク質分解物、水溶性食物繊維、甘味料、苦味料、果汁、着色料、香草、香料等が挙げられる。
【0031】
原料としてホップ又はホップ加工品を用いることにより、イソα酸を含む発酵ビールテイスト飲料を製造できる。ホップには、イソα酸の前駆物質であるα酸が含まれている。原料として用いるホップとしては、生ホップであってもよく、乾燥ホップであってもよく、ホップペレットであってもよい。また、原料として用いるホップ加工品としては、ホップから苦味成分を抽出したホップエキスであってもよい。また、イソ化ホップエキス、テトラハイドロイソフムロン、ヘキサハイドロイソフムロン等のホップ中の苦味成分をイソ化した成分を含むホップ加工品であってもよい。
【0032】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。本発明において用いられる水溶性食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、大豆食物繊維、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
甘味料としては、砂糖であってもよく、比較的甘味度の低いものであってもよく、高甘味度甘味料であってもよい。比較的甘味度の低い甘味料としては、具体的には、多糖類、甘味系アミノ酸が挙げられる。多糖類とは、3以上の単糖が重合した糖質を意味する。多糖類は、主にその大きさによって、でんぷん、デキストリン、及びオリゴ糖に大別される。オリゴ糖は、3~10個程度の単糖が重合した糖質であり、デキストリンは、でんぷんを加水分解して得られる糖質であって、オリゴ糖よりも大きなものを指す。甘味系アミノ酸としては、アラニンやグリシンが挙げられ、アラニンが好ましい。高甘味度甘味料としては、アセスルファムカリウム、ネオテーム、アスパルテーム、スクラロース、ステビア、酵素処理ステビア等が挙げられる。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
苦味料としては、製品である発酵ビールテイスト飲料において、ビールと同質若しくは近似する苦味を呈するものであれば特に限定されるものではなく、ホップ中に含まれている苦味成分であってもよく、ホップには含まれていない苦味成分であってもよい。当該苦味料としては、具体的には、マグネシウム塩、カルシウム塩、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、クワシン、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、キニーネ、モモルデシン、クエルシトリン、テオブロミン、カフェイン等の苦味付与成分、及びゴーヤ、センブリ茶、苦丁茶、ニガヨモギ抽出物、ゲンチアナ抽出物、キナ抽出物等の苦味付与素材が代表的に挙げられる。これらの苦味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
タンパク質分解物としては、例えば、大豆タンパク分解物等が挙げられる。
着色料としては、例えば、カラメル色素等が挙げられる。
香料としては、例えば、ビールフレーバー、ビール香料、ホップ香料等が挙げられる。
【0036】
仕込工程においては、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することが好ましい。これらの酵素により、発酵原料中の非資化性糖を、資化性糖への分解反応が促進され、麦芽使用比率が高い発酵原料を用いた場合でも、非資化性糖の含有量が低く抑えられた発酵原料液を調製することができる。
【0037】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビールテイスト飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。糖化処理の時間を調節することにより、糖化効率を制御し、最終的に得られる発酵ビールテイスト飲料の糖質含有量を所望の範囲内に調整することもできる。
【0038】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液に替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0039】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0040】
仕込工程後、発酵工程前に、調製された煮汁から、沈殿により生じたタンパク質等の粕を除去することが好ましい。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0041】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0042】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビールテイスト飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。また、所望のアルコール濃度とするために、濾過前又は濾過後に適量の加水を行って希釈してもよい。得られた発酵ビールテイスト飲料は、通常、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。
【0043】
その他、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばアルコール含有蒸留液と混和することにより、酒税法におけるリキュール類に相当する発酵ビールテイスト飲料を製造することもできる。アルコール含有蒸留液の添加は、アルコール濃度の調整のための加水前であってもよく、加水後であってもよい。添加するアルコール含有蒸留液は、より好ましい麦感を有する発酵ビールテイスト飲料を製造し得ることから、麦スピリッツが好ましい。
【0044】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法により、原麦汁エキス濃度が12°P以上であり、真正エキス濃度から最終真正エキス濃度を差し引いた値であるエキス差が0.1以上である、発酵ビールテイスト飲料が製造できる。当該発酵ビールテイスト飲料は、エキス差が0.1未満である発酵ビールテイスト飲料よりも、麦由来のオフフレーバーが少ない。当該発酵ビールテイスト飲料は、例えば、遮光容器に充填された状態で37℃、1週間保存後のE2N濃度が0.10ppb以下である。当該発酵ビールテイスト飲料としては、発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50質量%以上であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。また、原麦汁エキス濃度が12°P以上であるため、当該発酵ビールテイスト飲料のアルコール濃度は比較的高くすることが容易であり、好ましくは5.8容量%以上、より好ましくは5.8~10.0容量%である。
【実施例0045】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0046】
<E2N濃度の測定>
発酵ビールテイスト飲料のE2N濃度は、以下のようにして測定した。
まず、サンプル(発酵ビールテイスト飲料)を37℃で1週間保存して、酸化劣化させた。
次いで、酸化劣化させたサンプル10mLに内部標準化合物を添加した後、PFBHA(0-(2,3,4,6-ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩)により誘導体化した。誘導体化処理済みサンプルからSep-Pak C18 Lightを用いて固相抽出したE2Nを、GC/MS装置を使用して定量した。
固相抽出には、多数サンプルを自動的に処理できる自動固相抽出装置(MORITEX社製、EXMULTI)を用いた。まず、蒸留水25mLを用いて流量10mL/分でカラムを洗浄した後、誘導体化処理済みサンプル10mLを流量5mL/分で注入しカラムに吸着させた。次いで、25mLの蒸留水を用いて流量7mL/分でカラム内に残存した水溶性の不要物質を除去した後、5分間窒素を注入してカラム内の水を蒸発させた。その後、1mLのヘキサンを用いて、流量1mL/分でカラムに吸着している物質(誘導体化されたE2N)を溶出した。
【0047】
<官能評価>
以降の実験において、飲料のカードボード臭及び老化臭の官能評価は、6名の専門パネルによる5段階評価により行った。具体的には、各専門パネルが、評価対象の飲料について、カードボード臭及び老化臭を5段階評価(評点1:感じられない、評点2:感じられるが、弱い、評点3:感じられる、評点4:強く感じられる、評点5:非常に強く感じられる)で評価した。全パネルの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。
【0048】
[実施例1]
様々な条件で製造した発酵ビールテイスト飲料について、エキス差と麦由来オフフレーバーの関係を調べた。
【0049】
(試験区1)
仕込槽に、大麦麦芽36kg、温水108Lを混合し、50℃付近でタンパク分解を実施した。このとき、麦芽の品質に応じて、「グルクザイム」(天野エンザイム社製)等のグルコアミラーゼ剤を適宜使用した。また、仕込釜に、コーンスターチ4kgと麦芽の一部と温水12Lを混合し、70℃~100℃で液化させ、その後水と共に仕込槽に入れた。仕込槽の温度を60℃から76℃に調整し、糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移してホップ0.2kgを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、180Lとした。冷麦汁のエキス濃度を、13°Pに調整した。ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて6℃まで冷却し、麦汁にビール酵母Aを加え、10日間、9℃前後で発酵させた。なお、発酵タンクは、空寸部がゲージ圧約1.0kgf/cm2になるように、背圧調整した。主発酵終了後、タンクを移し替えて10日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させて、麦汁発酵液を得た。発酵後の液は濾過にて清澄化し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0050】
(試験区2)
主発酵を、発酵タンクの空寸部のゲージ圧を0.8kgf/cm2になるように背圧調整して、10日間、10.5℃前後で行った以外は、試験区1と同様にして、試験区2の発酵ビールテイスト飲料を製造し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0051】
(試験区3)
タンパク分解を、仕込槽に大麦麦芽40kg、温水120Lを混合して行ったこと、主発酵を、発酵タンクの空寸部のゲージ圧を1.0kgf/cm2になるように背圧調整して、10日間、9℃前後で行った以外は、試験区1と同様にして、試験区3の発酵ビールテイスト飲料を製造し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0052】
(試験区4)
主発酵を、発酵タンクの空寸部のゲージ圧を0.8kgf/cm2になるように背圧調整して、10日間、10.5℃前後で行った以外は、試験区3と同様にして、試験区4の発酵ビールテイスト飲料を製造し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0053】
(試験区5)
主発酵を、ビール酵母Sを用いて、加圧発酵せず、10日間、12℃前後で行った以外は、試験区1と同様にして、試験区5の発酵ビールテイスト飲料を製造し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0054】
(試験区6)
主発酵を、加圧発酵せず、10日間、12℃前後で行った以外は、試験区1と同様にして、試験区6の発酵ビールテイスト飲料を製造し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0055】
(試験区7)
主発酵を、加圧発酵せず、10日間、12℃前後で行った以外は、試験区3と同様にして、試験区7の発酵ビールテイスト飲料を製造し、遮光容器(褐色ガラス瓶)に充填した。
【0056】
試験区1~7の発酵ビールテイスト飲料について、37℃で1週間保存した後、アルコール(エタノール)濃度(容量%)、原麦汁エキス濃度(°P)、エキス差、原料麦芽使用比率(質量%)、及びE2N濃度(ppb)を測定した。測定結果を表1~2に示す。
【0057】
37℃で1週間保存後の試験区1~試験区7の発酵ビールテイスト飲料に対して、カードボード臭及び老化臭の官能評価を行った。評価結果を表1~2に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
表1と表2の結果から、酵母の種類、発酵温度、発酵時間、加圧の有無等の条件を調整することで、エキス差を調整することができることが確認された。また、表1の試験区1、試験区2、試験区5及び試験区6の発酵ビールテイスト飲料を比較すると、エキス差が大きいほど、E2N濃度が小さくなり、老化臭やカードボード臭も抑えられていた。表2の試験区3、試験区4、試験区7の発酵ビールテイスト飲料の比較からも、エキス差が大きいほど、E2N濃度が小さくなり、老化臭やカードボード臭も抑えられることがわかった。これらの結果から、発酵条件を適宜調整してエキス差を0.1以上とすることにより、カードボード臭や劣化臭が抑制されており、遮光容器に充填された状態で37℃、1週間保存後のE2N濃度が充分に小さく、保存安定性も良好な発酵ビールテイスト飲料を製造できることがわかった。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽を原料とする原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料において、いわゆるエキス差(外観エキス濃度と外観最終エキス濃度の差分)を特定の範囲内に調整することにより、麦由来のオフフレーバーを抑えられることを見出し、本発明を完成させた。
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、原麦汁エキス濃度が12°P以上の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、発酵原料の少なくとも一部として麦芽を使用し、外観エキス濃度(E)から外観最終エキス濃度(EEND)を差し引いた値であるエキス差(ΔE=E-EEND)が、0.1以上になるように調整することを特徴とする。原麦汁エキスを高くするために麦芽の使用量を多くして醸造した場合、製造される発酵ビールテイスト飲料に麦由来のオフフレーバーが付与されてしまう。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法では、エキス差(ΔE)を0.1以上になるように調整することによって、麦由来のオフフレーバーを低減させることができる。
発酵ビールテイスト飲料の外観エキス濃度(E)は、「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.1.4アルコライザー法」に規定されている方法に従って比重を測定し、外観エキスに換算する。
発酵ビールテイスト飲料の外観最終エキス濃度(EEND)は、「BCOJビール分析法(2013改訂版)(ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集)」の「8.11最終発酵度」に規定されている方法に従って測定することができる。なお、外観最終エキスEENDの測定には、ビール醸造に汎用されている下面発酵酵母であるSaccharomyces pastorianus Weihenstephan 34/70(Hefebank Weihenstephan GmbH)を使用した。