(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083833
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】車両用ホイール及びダイナミックダンパー
(51)【国際特許分類】
B60B 21/02 20060101AFI20240617BHJP
B60B 21/12 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B60B21/02 Z
B60B21/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197881
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 佑基
(57)【要約】
【課題】ホイールの車両前後軸周りの振動に対する低減効果を向上する。
【解決手段】実施形態に係る車両用ホイール10,10A~Dは、筒状のホイールリム18と、該ホイールリム18の周方向に沿って配される円環状のマス部材22と、ホイールリム18とマス部材22との間に介在する円環状のゴム部材24と、を備える。車両用ホイールの軸方向Xに切断した断面において、ホイールリム18とゴム部材24との界面26が半径方向外側Roに膨らむ第1の円弧A1を持ち、ゴム部材24とマス部材22との界面28が半径方向外側Roに膨らむ第2の円弧A2を持つ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のホイールリムと、前記ホイールリムの周方向に沿って配される円環状のマス部材と、前記ホイールリムと前記マス部材との間に介在する円環状のゴム部材と、を備える車両用ホイールであって、
前記車両用ホイールの軸方向に切断した断面において、前記ホイールリムと前記ゴム部材との界面が半径方向外側に膨らむ第1の円弧を持ち、前記ゴム部材と前記マス部材との界面が半径方向外側に膨らむ第2の円弧を持つ、車両用ホイール。
【請求項2】
前記第1の円弧と前記第2の円弧が同心円状に設けられた、請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項3】
前記ホイールリムの内周面に前記ゴム部材の外周面が嵌まり込む嵌合凹みが設けられ、前記ゴム部材が前記ホイールリムの前記嵌合凹みに圧入により取り付けられた、請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項4】
前記マス部材が前記ゴム部材の内側に圧入により取り付けられた、請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項5】
前記ホイールリムと前記ゴム部材との界面に前記第1の円弧に対して半径方向外側に突出する第1の突起が設けられ、前記ゴム部材と前記マス部材との界面に前記第2の円弧に対して半径方向外側に突出する第2の突起が設けられた、請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項6】
前記ホイールリムと前記ゴム部材との界面に前記第1の円弧に対して半径方向内側に陥没する第1の凹みが設けられ、前記ゴム部材と前記マス部材との界面に前記第2の円弧に対して半径方向内側に陥没する第2の凹みが設けられた、請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の車両用ホイールの前記ホイールリムに取り付けられるダイナミックダンパーであって、前記マス部材と前記ゴム部材とを備えるダイナミックダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両用ホイール、及び該車両用ホイールのホイールリムに取り付けられるダイナミックダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両における振動を低減するために、車両用ホイールにダイナミックダンパーを設けることがある。例えば、特許文献1には、筒状のホイールリムにその周方向に沿って円環状のマス部材を設け、弾性部材を介して該マス部材をホイールリムに取り付けることが開示されている。具体的に、特許文献1では、ホイールリムの内周面にゴム部材が加硫接着され、該ゴム部材の内周面にマス部材が加硫接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構造において、ホイールリムとゴム部材との界面、及びゴム部材とマス部材との界面は、ホイールリムを軸方向に切断した断面において、ともに直線状である。しかしながら、このような断面直線状の界面であると、ホイールの車両前後軸周りの振動に対して当該振動を低減するマス部材の回転方向の動きが生じにくい。そのため、ホイールの車両前後軸周りの振動に対する低減効果に劣る。
【0005】
本発明の実施形態は、ホイールの車両前後軸周りの振動に対する低減効果を向上することができる車両用ホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 筒状のホイールリムと、前記ホイールリムの周方向に沿って配される円環状のマス部材と、前記ホイールリムと前記マス部材との間に介在する円環状のゴム部材と、を備える車両用ホイールであって、前記車両用ホイールの軸方向に切断した断面において、前記ホイールリムと前記ゴム部材との界面が半径方向外側に膨らむ第1の円弧を持ち、前記ゴム部材と前記マス部材との界面が半径方向外側に膨らむ第2の円弧を持つ、車両用ホイール。
[2] 前記第1の円弧と前記第2の円弧が同心円状に設けられた、[1]に記載の車両用ホイール。
[3] 前記ホイールリムの内周面に前記ゴム部材の外周面が嵌まり込む嵌合凹みが設けられ、前記ゴム部材が前記ホイールリムの前記嵌合凹みに圧入により取り付けられた、[1]又は[2]に記載の車両用ホイール。
[4] 前記マス部材が前記ゴム部材の内側に圧入により取り付けられた、[1]~[3]のいずれか1項に記載の車両用ホイール。
[5] 前記ホイールリムと前記ゴム部材との界面に前記第1の円弧に対して半径方向外側に突出する第1の突起が設けられ、前記ゴム部材と前記マス部材との界面に前記第2の円弧に対して半径方向外側に突出する第2の突起が設けられた、[1]~[4]のいずれか1項に記載の車両用ホイール。
[6] 前記ホイールリムと前記ゴム部材との界面に前記第1の円弧に対して半径方向内側に陥没する第1の凹みが設けられ、前記ゴム部材と前記マス部材との界面に前記第2の円弧に対して半径方向内側に陥没する第2の凹みが設けられた、[1]~[4]のいずれか1項に記載の車両用ホイール。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の車両用ホイールの前記ホイールリムに取り付けられるダイナミックダンパーであって、前記マス部材と前記ゴム部材とを備えるダイナミックダンパー。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、ホイールリムを軸方向に切断した断面において、ホイールリムとゴム部材との界面及びゴム部材とマス部材との界面を、円弧を持たせて形成したので、ホイールの車両前後軸周りの振動に対して、その動きを打ち消すようにマス部材が回転方向に動きやすくなる。そのため、当該車両前後軸周りの振動に対する低減効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る車両用ホイールの半断面図
【
図3】第1実施形態の変更例を示す車両用ホイールの要部拡大断面図
【
図4】第1実施形態の他の変更例を示す車両用ホイールの要部拡大断面図
【
図5】第1実施形態の車両用ホイールにおいてダイナミックダンパーをホイールリムに圧入する工程を示す図であり、(A)は圧入直前の断面図、(B)は圧入途中の断面図
【
図6】第2実施形態に係る車両用ホイールの要部拡大断面図
【
図7】第3実施形態に係る車両用ホイールの要部拡大断面図
【
図8】第4実施形態に係る車両用ホイールの要部拡大断面図
【
図9】第5実施形態に係る車両用ホイールの要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、第1実施形態に係る車両用ホイール10を示す断面図であり、車両用ホイール10(以下、単にホイール10という。)の軸方向Xに切断した断面図である。ホイール10の軸方向Xとは、ホイール10の回転軸Xaに平行な方向をいう。
【0011】
ホイール10は、ホイール本体12と、ホイール本体12に取り付けられたダイナミックダンパー14とを備える。
【0012】
ホイール本体12は、円盤状のディスク16と、タイヤTを支承するホイールリム18(以下、単にリム18という。)を含む。ディスク16とリム18は、例えばアルミニウム等の金属により一体に成形することができる。
【0013】
リム18は、ディスク16の外周に一体に設けられており、円筒状をなす。リム18は、その軸方向Xの両端に、タイヤTの両ビード部B1,B2を両側で支承するリムフランジ20A,20Bを備える。
【0014】
ダイナミックダンパー14は、リム18の周方向に沿って配される円環状のマス部材22と、リム18とマス部材22との間に介在するゴム部材24と、を備える。ダイナミックダンパー14は、リム18の内周面18Aに取り付けられており、詳細には円筒状をなすリム18の車両内側部分における内周面18Aに取り付けられている。ここで、リム18の車両内側部分とは、軸方向Xにおけるリム18の中心Cよりも車両内側の部分をいう。
【0015】
マス部材22は、ゴム部材24を介してリム18に取り付けられており、リム18の内周面18Aの全周にわたって設けられている。マス部材22は、この例では金属製であるが、所望の剛性及び質量を有していれば、あらゆる材料により形成することができる。
【0016】
ゴム部材24は、マス部材22をリム18に対して相対運動可能に支持する弾性部材である。ゴム部材24は、リム18の内周面18Aとマス部材22の外周面とに挟まれて、リム18の内周面18Aの全周にわたって延びる円環状をなす。
【0017】
図2に示すように、ホイール10の軸方向Xに切断した断面において、リム18とゴム部材24との界面26は、外周側、即ち半径方向外側Roに膨らむ円弧(第1の円弧)A1を持って形成されている。また、該断面において、ゴム部材24とマス部材22との界面28は、外周側、即ち半径方向外側Roに膨らむ円弧(第2の円弧)A2を持って形成されている。この例では、リム18とゴム部材24との界面26及びゴム部材24とマス部材22との界面28は、上記断面において、それぞれ単一の円弧形状に形成されている。
【0018】
ここで、リム18とゴム部材24との界面26は、リム18の内周面18Aとゴム部材24との外周面24Aとが接する面をいう。ゴム部材24とマス部材22との界面28は、ゴム部材24の内周面24Bとマス部材22の外周面22Aとが接する面をいう。
【0019】
半径方向外側Roとは、ホイール10の回転軸Xaに垂直な方向を半径方向として、当該半径方向において回転軸Xaから離れる方向をいう。半径方向内側Riとは、上記半径方向において回転軸Xaに近づく方向をいう。
【0020】
本実施形態では、上記のようにゴム部材24の両側の界面(即ち、半径方向に対向する界面)26,28が、ともに半径方向外側に膨らむ円弧状に形成されている。これにより、ホイール10の車両前後軸周りZの回転振動に対して、その動きを打ち消すようにマス部材22が回転方向Z1に動きやすくなる。そのため、車両上下方向Y及び車両左右方向Wだけでなく、車両前後軸周りZの回転振動についても振動低減効果を発揮することができる。
【0021】
第1の円弧A1と第2の円弧A2の中心点は、上記断面において、回転軸Xaに垂直な方向に延びる同一直線上にあることが好ましく、より好ましくはマス部材22を左右方向に二等分する同一直線上にあることである。第1の円弧A1と第2の円弧A2は、同一の半径を持つ同一形状の円弧としてもよい。
【0022】
好ましい実施形態として、この例では、
図2に示されるように、界面26の第1の円弧A1と界面28の第2の円弧A2とは同心円状に設けられている。すなわち、これら2つの界面26,28は半径方向外側に膨らむ同心円状の円弧A1,A2を持つ。従って、第1の円弧A1と第2の円弧A2は、それらの円の中心が点30において一致しており、つまり、点30が第1の円弧A1及び第2の円弧A2の中心点である(以下、中心点30という。)。このように2つの界面26,28の円弧の中心点30を合わすことにより、ホイール10の車両前後軸周りZの回転振動に対して、その動きを打ち消すようにマス部材22が回転方向Z1によりスムーズに動きやすくなる。そのため、車両前後軸周りZの回転振動に対する振動低減効果を高めることができる。
【0023】
なお、これらの界面26,28は、ホイール10の全周にわたって同じ断面形状に形成されている。
図2において、点線は第1の円弧A1及び第2の円弧A2の半径を示している(
図3,4,6~9において同様)。
【0024】
ここで、車両左右方向Wは、ホイール10の軸方向Xと同じである。車両前後軸周りZとは、
図1に示すように、車両前後方向の軸Zaを中心に回転する方向をいう。車両前後方向の軸Zaとは、ホイール10の中心(ホイール10の回転軸Xaにおける車両左右方向Wの中心)を車両前後方向に貫く軸をいう。
【0025】
ホイール10の車両前後軸周りZの回転振動は、例えば、路面の凹凸により車輪及びサスペンションが加振されることにより生じるホイール10の回転振動である。
【0026】
リム18とゴム部材24との界面26が上記のように断面円弧形状であるため、ゴム部材24の外周面24Aと接するリム18の内周面18Aには嵌合凹み32が設けられている。この嵌合凹み32が半径方向外側Roに凹んだ上記第1の円弧A1に形成されている。また、ゴム部材24とマス部材22との界面28が上記のように断面円弧形状であるため、ゴム部材24の内周面24Bと接するマス部材22の外周面22Aは、半径方向外側Roに膨らむ上記第2の円弧A2に形成されている。そして、嵌合凹み32の表面とマス部材22の外周面22Aが、同心円状の円弧形状に形成されている。
【0027】
ここで、上記3方向の振動を低減できる原理について説明する。一般にダイナミックダンパーで振動を低減するには、当該振動に対してその動きを打ち消すようにマスが動く必要がある。そのためには、その振動方向における、低減したい振動の周波数とダイナミックダンパーの固有振動数とを合わせる必要がある。ダイナミックダンパーの固有振動数は一般的に下記式で表される。
【数1】
(式中、Fは固有振動数、mはマスの質量、kは弾性体のばね定数を表す。)
【0028】
ここで、ばね定数kは弾性体の振動する方向の厚さによってある程度調整することが可能である。また、弾性体の動きが阻害されると見かけ上のばね定数が大きくなる。
【0029】
上記ホイール10の車両上下方向Yの振動については、ダイナミックダンパー14の弾性体であるゴム部材24の上下方向の厚さy1を調整することにより、そのばね定数を変更することができる。その際、この例では、界面26の第1の円弧A1と界面28の第2の円弧A2が同心円状に設けられているため、ゴム部材24の上下方向の厚さy1は車両左右方向Wにおいて略一定である。そのため、ダイナミックダンパー14の車両上下方向Yにおける固有振動数Fを、低減したい周波数に合わせることができ、車両上下方向Yの振動を低減することができる。ここで、ゴム部材24の上下方向は、ホイール10の半径方向と同じである。
【0030】
ホイール10の車両左右方向Wの振動については、ゴム部材24の左右方向の厚さw1を調整することでばね定数を変更することができる。そのため、ダイナミックダンパー14の車両左右方向Wにおける固有振動数Fを、低減したい周波数に合わせることができ、車両左右方向Wの振動を低減することができる。ここで、ゴム部材24の左右方向は、ホイール10の車両左右方向W(即ち、軸方向X)と同じである。
【0031】
一例において、ロードノイズ等を想定して、250Hzの車両上下方向Yの振動と、150Hzの車両左右方向Wの振動とを低減する場合、ゴム部材24の上下方向の厚さy1と左右方向の厚さw1との比は、1:2.8程度であることが好ましい。
【0032】
ホイール10の車両前後軸周りZの回転振動について、当該振動を低減するためにはマス部材22がその動きを打ち消すように動く必要がある。上記のように本実施形態であると、2つの界面26,28をともに円弧状、好ましくは同心円状の円弧に形成したことにより、マス部材22が回転方向Z1に動きやすい。すなわち、ゴム部材24がスムーズに変形し、マス部材22が回転方向Z1に効率よく動く。そのため、当該車両前後軸周りZの回転振動に対する低減効果を向上することができる。
【0033】
該車両前後軸周りZの回転振動の周波数とダイナミックダンパー14の回転方向Z1における固有振動数とを合わせるためには、回転方向Z1におけるばね定数を変化させればよい。その際、本実施形態によれば、例えば、2つの界面26,28の円弧A1,A2の中心点30を半径方向内側Riに移動させて円弧A1,A2の半径を大きくすると、マス部材22は回転方向Z1に動きやすくなる。そのため、当該回転に対する見かけ上のばね定数が小さくなり、当該回転に対するダイナミックダンパー14の固有振動数Fが低減する。
【0034】
一方、2つの界面26,28の円弧A1,A2の中心点30を半径方向外側Roに移動させて円弧A1,A2の半径を小さくすると、マス部材22は回転方向Z1に動きにくくなる。そのため、当該回転に対する見かけ上のばね定数が大きくなり、当該回転に対するダイナミックダンパー14の固有振動数Fが大きくなる。
【0035】
このように2つの界面26,28の円弧A1,A2の中心点30を移動させて円弧A1,A2の半径を調整することにより、ダイナミックダンパー14の回転方向Z1における固有振動数Fを調整することができる。そのため、該固有振動数Fをホイール10の車両前後軸周りZの回転振動における低減したい周波数に合わせることができ、当該回転振動を低減することができる。
【0036】
一実施形態において、ゴム部材24とマス部材22との界面28を構成する第2の円弧A2の半径は、マス部材22の左右方向の厚さの半分以上であることが好ましい。
図3は、この最小値の場合の断面図である。
図3において、界面28の第2の円弧A2の半径は、マス部材22の左右方向の厚さを2aとして、その半分のaに設定されている。
【0037】
一実施形態において、ゴム部材24とマス部材22との界面28を構成する第2の円弧A2の半径は、円環状をなすマス部材22の半径以下であることが好ましい。そのため、界面28を構成する第2の円弧A2の半径は、マス部材22の左右方向の厚さの半分とマス部材22の半径との範囲内であることが好ましい。
図4は、この最大値の場合の断面図である。
図4において、界面28の第2の円弧A2の半径は、マス部材22の半径bと同じ寸法に設定されている。そのため、界面28を構成する第2の円弧A2の中心は、ホイール10の回転軸Xaに位置する。ここで、マス部材22の半径bは、マス部材22の外周面22Aを構成する円弧において回転軸Xaから最も遠ざかる部位の当該回転軸Xaからの距離である(
図1参照)。
【0038】
上記のように、ダイナミックダンパー14であると、ゴム部材24の上下方向の厚さy1及び左右方向の厚さw1を調整することにより、車両上下方向Y及び車両左右方向Wにおける固有振動数Fを調整して、車両上下方向Y及び車両左右方向Wのどちらに対しても振動低減効果を発揮することができる。また、2つの界面26,28の円弧A1,A2の中心点30の位置によりダイナミックダンパー14の回転方向Z1における固有振動数Fを調整して、ホイール10の車両前後軸周りZの回転振動に対する振動低減効果を発揮することができる。
【0039】
ダイナミックダンパー14であると、また、
図2において矢印Vで示すマス部材22の斜め方向におけるゴム部材24の厚さとマス部材22の上下方向におけるゴム部材24の厚さが均一となる。そのため、例えば車両のコーナリング時におけるタイヤTの傾きが発生した場合でも車両の上下方向に対する振動に対して振動低減効果を発揮することができる。また、非コーナリング時において路面の凹凸により上下方向の振動に加えて微小な左右方向の振動が加わり、結果として斜め方向の振動が発生した場合でも、上下方向の振動と同様に振動低減効果を発揮することができる。
【0040】
上記ホイール10においては、ゴム部材24がリム18に加硫接着で固定され、マス部材22がゴム部材24に加硫接着で固定されてもよい。しかしながら、その場合、ホイール10の全体を加硫装置で覆う必要があり、加硫装置が大掛かりになり、生産性が低下する。そこで、好ましい実施形態として、ゴム部材24はリム18の嵌合凹み32に圧入により取り付けられることが好ましい。また、マス部材22がゴム部材24の内側に圧入により取り付けられることが好ましい。
【0041】
上記のように、ゴム部材24の外周面24Aが嵌まり込む嵌合凹み32は半径方向外側Roに凹んだ第1の円弧A1に形成されている。また、マス部材22の外周面22Aは半径方向外側Roに膨らむ第2の円弧A2に形成されている。そして、これら第1の円弧A1と第2の円弧A2が同心円状に配されるように形成されている。
【0042】
一方、ゴム部材24の外周面24A及び内周面24Bの形状については、必ずしもこれらが嵌合する嵌合凹み32の表面及びマス部材22の外周面22Aと完全に一致した形状であることを要しない。好ましくは、
図5(A)に示すように、ゴム部材24の外周面24Aは半径方向外側Roに膨らむ断面円弧状に形成され、ゴム部材24の内周面24Bは半径方向外側Roに凹んだ断面円弧状に形成される。この場合、リム18に組付けたときに予圧縮された状態となるように、ゴム部材24の外周面24Aは嵌合凹み32の表面よりも半径方向外側Roに僅かに張り出し、ゴム部材24の内周面24Bはマス部材22の外周面22Aよりも半径方向内側Riに僅かに張り出して形成されることが好ましい。
【0043】
ダイナミックダンパー14をリム18に取り付ける場合、
図5(A)に示すように、予め、マス部材22をゴム部材24の内側に圧入してダイナミックダンパー14を形成しておく。そして、リム18の車両内側端から、治具50を用いてダイナミックダンパー14をリム18内に押し込んで圧入する。すると、
図5(B)に示すように、ゴム部材24が変形しながら圧入されていき、ゴム部材24が嵌合凹み32に嵌まり込むことにより圧入が完了する。
【0044】
上記実施形態であると、リム18とゴム部材24との界面26及びゴム部材24とマス部材22との界面28がともに断面円弧状であるため、マス部材22をゴム部材24の内側に、またゴム部材24をリム18の内側に圧入しやすく、かつ圧入後は抜けにくい。
【0045】
リム18の車両内側端には、
図5(A)に示されるように、嵌合凹み32側から車両内側端に向かって逆テーパ状に広がる傾斜面34が設けられている。これにより、ダイナミックダンパー14の圧入作業性を更に向上することができる。
【0046】
なお、嵌合凹み32の深さは特に限定されず、上記第1の円弧A1の半径、マス部材22の質量、ゴム部材24の弾性率等を考慮し、FEM解析や実験等を用いてダイナミックダンパー14の抜け力を算出することにより、決定することができる。
【0047】
図6は、第2実施形態に係る車両用ホイール10Aの要部拡大断面図である。第2実施形態では、上記界面26,28に突起を設けた点で第1実施形態とは異なる。すなわち、第2実施形態では、リム18とゴム部材24との界面26に、第1の円弧A1に対して半径方向外側Roに突出する突起(第1の突起)36が設けられ、ゴム部材24とマス部材22との界面28に、第2の円弧A2に対して半径方向外側Roに突出する突起(第2の突起)38が設けられている。
【0048】
界面26の第1の突起36は、ゴム部材24の外周面24Aにおいて、その左右方向(軸方向)の中央に設けられており、
図6に示すホイール10Aの軸方向Xに切断した断面において、湾曲状に突出形成されている。リム18の嵌合凹み32には、その左右方向(軸方向)の中央に、該第1の突起36が嵌まり込む凹所37が設けられている。
【0049】
界面28の第2の突起38は、マス部材22の外周面22Aにおいて、その左右方向(軸方向)の中央に設けられており、
図6に示す断面において湾曲状に突出形成されている。ゴム部材24の内周面24Bには、その左右方向(軸方向)の中央に、該第2の突起38が嵌まり込む凹所39が設けられている。
【0050】
界面26の第1の突起36と界面28の第2の突起38は、同じ断面形状を有し、ホイール10Aの半径方向において互いに重なり合う位置に設けられている。
【0051】
これら第1及び第2の突起36,38は、ダイナミックダンパー14の全周にわたって延びる凸条として設けてもよく、周方向における複数箇所に独立させて設けてもよい。
【0052】
このように界面26,28に第1及び第2の突起36,38を設けたことにより、圧入により取り付けられたダイナミックダンパー14をより抜けにくくすることができる。
【0053】
この場合、上記軸方向Xに切断した断面において、界面26,28は、その全体が同心円状の円弧に形成されているとはいえないが、その一部(即ち、突起36,38を設けた部分)を除いて同心円状の円弧を持っている。ゴム部材24の上下方向の厚さy1は第1実施形態と同様に略一定であることから、マス部材22の動きに影響を与えにくい。そのため、第1実施形態と同様に、第1及び第2の円弧A1,A2を持つことによる効果が奏される。第2実施形態について、その他の構成及び効果については第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0054】
図7は、第3実施形態に係る車両用ホイール10Bの要部拡大断面図である。第3実施形態では、上記界面26,28に凹みを設けた点で第1実施形態とは異なる。すなわち、第3実施形態では、リム18とゴム部材24との界面26に、第1の円弧A1に対して半径方向内側Riに陥没する凹み(第1の凹み)40が設けられ、ゴム部材24とマス部材22との界面28に、第2の円弧A2に対して半径方向内側Riに陥没する凹み(第2の凹み)42が設けられている。
【0055】
界面26の第1の凹み40は、ゴム部材24の外周面24Aにおいて、その左右方向(軸方向)の中央に設けられており、
図7に示すホイール10Bの軸方向Xに切断した断面において、湾曲状に陥没形成されている。リム18の嵌合凹み32には、その左右方向(軸方向)の中央に、該第1の凹み40に嵌まり込む湾曲状の隆起部41が設けられている。
【0056】
界面28の第2の凹み42は、マス部材22の外周面22Aにおいて、その左右方向(軸方向)の中央に設けられており、
図7に示す断面において湾曲状に陥没形成されている。ゴム部材24の内周面24Bには、その左右方向(軸方向)の中央に、該第2の凹み42に嵌まり込む湾曲状の隆起部43が設けられている。
【0057】
界面26の第1の凹み40と界面28の第2の凹み42は、同じ断面形状を有し、ホイール10Bの半径方向において互いに重なり合う位置に設けられている。
【0058】
これら第1及び第2の凹み40,42は、ダイナミックダンパー14の全周にわたって延びる凹溝として設けてもよく、周方向における複数箇所に独立させて設けてもよい。
【0059】
このように界面26,28に第1及び第2の凹み40,42を設けたことにより、圧入により取り付けられたダイナミックダンパー14をより抜けにくくすることができる。
【0060】
この場合、上記軸方向Xに切断した断面において、界面26,28は、その全体が同心円状の円弧に形成されているとはいえないが、その一部(即ち、凹み40,42を設けた部分)を除いて同心円状の円弧を持っている。ゴム部材24の上下方向の厚さy1は第1実施形態と同様に略一定であることから、マス部材22の動きに影響を与えにくい。そのため、第1実施形態と同様に、第1及び第2の円弧A1,A2を持つことによる効果が奏される。第3実施形態について、その他の構成及び効果については第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0061】
なお、第2及び第3実施形態のような突起36,38や凹み40,42を設ける場合、それらを除いた第1及び第2の円弧A1,A2を持つ部分の割合が、上記軸方向Xに切断した断面における界面26,28の長さの60%以上であることが好ましい。
【0062】
図8は、第4実施形態に係る車両用ホイール10Cの要部拡大断面図である。第4実施形態では、リム18の嵌合凹み32が設けられた位置に肉盛り44を設けた点で第1実施形態とは異なる。
【0063】
詳細には、
図8に示されるように、リム18の外周面18Bには、内周面18Aに設けた嵌合凹み32に対応する位置に、半径方向外側Roに張り出す肉盛り44が設けられている。このように必要箇所を肉盛りすることにより、ホイール10C全体の質量増加を抑えながら、嵌合凹み32を設けることによる剛性低下を抑えることができる。第4実施形態について、その他の構成及び効果については第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0064】
図9は、第5実施形態に係る車両用ホイール10Dの要部拡大断面図である。第5実施形態では、リム18の嵌合凹み32が設けられた部分が、嵌合凹み32の形状に合わせて湾曲部46として形成された点で第1実施形態とは異なる。
【0065】
詳細には、
図9に示されるように、リム18は、嵌合凹み32が設けられた部分において、リム18の外周面18Bが嵌合凹み32と同様の湾曲状にて半径方向外側Roに張り出し形成されている。これにより、嵌合凹み32が設けられた部分においてリム18の厚さを略一定とすることができ、ホイール10D全体の質量増加を抑えながら、嵌合凹み32を設けることによる剛性低下を抑えることができる。第5実施形態について、その他の構成及び効果については第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0066】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
10,10A,10B,10C,10D…車両用ホイール、14…ダイナミックダンパー、18…ホイールリム(リム)、22…マス部材、24…ゴム部材、26…ホイールリムとゴム部材との界面、28…ゴム部材とマス部材との界面、32…嵌合凹み、36…第1の突起、38…第2の突起、40…第1の凹み、42…第2の凹み、A1…第1の円弧、A2…第2の円弧