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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083835
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ラックギア
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/06 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
B60N2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197883
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】598106326
【氏名又は名称】トヨタ紡織精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 貴行
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 宏昭
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BA02
3B087BB02
3B087BC30
(57)【要約】
【課題】ピニオンギアがラックギアから離れた状態から係合状態に円滑に移ることができるラックギアを提供する。
【解決手段】本明細書が開示するラックギアは、ラックギアの歯列の端に位置する歯の大きさが、端列の中央に位置する歯の大きさよりも小さい。ラックギアの歯列の端に位置する歯を端歯と称し、歯列の中央に位置する歯を通常歯と称する。ラックギアの端歯を小さくすることで、離れたところからラックギアの端に到達したピニオンギアは端歯に係合し易くなる。端歯の隣に位置する次歯の大きさが、端歯よりも大きく通常歯よりも小さいとよい。端歯、次歯、通常歯と徐々に大きくすることで、ピニオンギアは端歯から通常歯へと移動しながらラックギアに円滑に係合していくことができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックギアであって、
前記ラックギアの歯列の端に位置する端歯の大きさが、前記端列の中央に位置する通常歯の大きさよりも小さい、
ラックギア。
【請求項2】
前記端歯の隣に位置する次歯の大きさが、前記端歯よりも大きく前記通常歯よりも小さい、請求項1に記載のラックギア。
【請求項3】
前記端歯の高さが、前記通常歯の高さよりも低く、前記ラックギアにピニオンギアが係合したときの前記通常歯の歯谷の底と前記ピニオンギアの歯の先端との間の距離よりも長い、請求項1に記載のラックギア。
【請求項4】
前記端歯の隣に位置する次歯の高さが、前記端歯の高さよりも高く、前記通常歯の高さよりも低い、請求項3に記載のラックギア。
【請求項5】
前記ラックギアの長手方向における前記端歯の先端幅が前記通常歯の先端幅よりも狭い、請求項1に記載のラックギア。
【請求項6】
前記端歯の隣に位置する次歯の先端幅が前記端歯の先端幅よりも広く、前記通常歯の先端幅よりも狭い、請求項5に記載のラックギア。
【請求項7】
前記端歯の前記ラックギアの端側の側面の傾き角度が、前記通常歯の側面の傾き角度よりも小さい、請求項1に記載のラックギア。
【請求項8】
前記端歯の隣に位置する次歯の前記端側の側面の傾き角度が、前記端歯の側面の傾き角度よりも大きく、前記通常歯の側面の傾き角度よりも小さい、請求項7に記載のラックギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術はラックギアに関する。
【背景技術】
【0002】
ラックギアとピニオンギアで構成されるラックアンドピニオンは様々な装置に利用される。例えば、特許文献1には、自動車のシートをスライドさせるシートスライド装置にラックアンドピニオンを適用した例が開示されている。シートスライド装置は、車体に取り付けられるロアレールと、シートに固定されるアッパレールを備える。アッパレールはロアレールにスライド可能に係合している。ロアレールがラックギアを備え、アッパレールはピニオンギアと、ピニオンギアを回転させるモータを備える。ラックギアはロアレールの底面に固定される。ピニオンギアはラックギアに係合する。モータがピニオンギアを駆動することで、ピニオンギアを含むアッパレールがラックギアに沿って移動する。すなわちシートがロアレールの長手方向に沿って移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-193007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、シートの可動範囲の一部では電動でシートをスライドさせることができ、可動範囲の残部ではシートをユーザが自由に移動できるようにしたい場合がある。そのような要求に対しては、ロアレールの全長の一部の区間にラックギアを配置する。アッパレールのピニオンギアがラックギアと係合する区間(係合区間)と、ピニオンギアがラックギアから離れている区間(自由区間)ができる。係合区間では、モータがピニオンギアを駆動するとアッパレール(シート)がロアレールに対して移動する。係合区間では、人力ではシートを動かすことはできない。自由区間ではピニオンギアがラックギアと係合していないので、アッパレール(すなわちシート)は人力で自由に動かせる。しかしそのような場合、自由区間から係合区間へ移るとき、自由になっているピニオンギアがラックギアの端の歯にうまく係合できないおそれがある。本明細書は、ピニオンギアがラックギアから離れた状態から係合状態に円滑に移ることができるラックギアを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するラックギアは、ラックギアの歯列の端に位置する歯の大きさが、端列の中央に位置する歯の大きさよりも小さい。説明の便宜上、ラックギアの歯列の端に位置する歯を端歯と称し、歯列の中央に位置する歯を通常歯と称する。また、端歯の隣に位置する歯を次歯と称する。ラックギアの端歯を小さくすることで、端歯とピニオンギアとの間の隙間が、通常歯とピニオンギアとの間の隙間よりも大きくなる。それゆえ、ピニオンギアがラックギアから離れた状態から係合状態に円滑に移ることができる。
【0006】
端歯の隣に位置する次歯の大きさが、端歯よりも大きく通常歯よりも小さいとよい。端歯、次歯、通常歯と徐々に大きくすることで、ピニオンギアは端歯から通常歯へと移動しながらラックギアに円滑に係合していくことができる。
【0007】
端歯が通常歯よりも小さいことの一つの態様は次の通りである。端歯の高さが、通常歯の高さよりも低く、ラックギアにピニオンギアが係合したときの通常歯の歯谷の底とピニオンギアの歯の先端との間の距離よりも長い。後者の条件は、端歯とピニオンギアが係合するために必要な条件である。端歯の隣に位置する次歯の高さが、端歯の高さよりも高く、通常歯の高さよりも低いとよい。
【0008】
端歯が通常歯よりも小さいことの別の態様は次の通りである。ラックギアの長手方向における端歯の先端幅が通常歯の先端幅よりも狭い。端歯の隣に位置する次歯の先端幅が端歯の先端幅よりも広く、通常歯の先端幅よりも狭いとなおよい。
【0009】
端歯が通常歯よりも小さいことのさらに別の態様は次の通りである。端歯のラックギアの端側の側面の傾き角度が、通常歯の側面の傾き角度よりも小さい。端歯の隣に位置する次歯の端側(ラックギアの端側)の側面の傾き角度が、端歯の側面の傾き角度よりも大きく、通常歯の側面の傾き角度よりも小さい。ここで、「歯の側面の傾き角度」は、ラックギアの長手方向に対する側面の傾き角度を指す。いずれの態様でも、端歯とピニオンギアの係合時の両者の間の隙間が、通常歯との係合時の隙間よりも大きくなる。ラックギアの端歯に到達したピニオンギアがラックギアと円滑に係合する。
【0010】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例のラックギアと、ラックギアに係合する前のピニオンギアの側面図である。
図2】ラックギアの端歯とピニオンギアの拡大側面図である。
図3】第1変形例のラックギアの側面図である。
図4】第2変形例のラックギアの側面図である。
図5】第3変形例のラックギアの側面図である。
図6】第4変形例のラックギアの側面図である。
図7】第5変形例のラックギアの側面図である。
図8】実施例のリニアアクチュエータ(シートスライド装置)を含むシートの側面図である。
図9】シートスライド装置の正面図である。
図10】シートスライド装置の側面図である。
図11】ラックギアと2個のピニオンギアの係合関係を示す図である(1)。
図12】ラックギアと2個のピニオンギアの係合関係を示す図である(2)。
図13】ラックギアと2個のピニオンギアの係合関係を示す図である(3)。
図14】ラックギアと2個のピニオンギアの係合関係を示す図である(4)。
図15】シートスライド装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して実施例のラックギアを説明する。図1に、実施例のラックギア112と、ラックギア112に係合する前のピニオンギア121の側面図を示す。
【0013】
ラックギア112は床板111に固定されている。図中の座標系のX方向がラックギア112の長手方向に相当する。「ラックギア112の長手方向(X方向)」を以下では単純に長手方向と称する。図中の座標系のY方向は、ラックギア112の短手方向に相当する。「ラックギア112の短手方向」を以下では単純に短手方向と称する。図中の座標系の+Z方向が上方を示す。以降の図でも座標系の各軸の意味は同じである。
【0014】
説明の都合上、ラックギア112の歯列の端に位置する歯を端歯115と称する。端歯115の隣に位置する歯を次歯116と称する。端歯115と次歯116以外の歯を通常歯117と称する。ラックギア112の歯列の中央に位置する歯も通常歯117である。図1では一つの通常歯だけに符号117を付し、他の通常歯には符号を省略した。図1の例では、端歯115以外の歯は皆、通常歯117と同じ形状を有している。次歯116も通常歯117と同じ形状を有している。端歯115のみが通常歯117よりも小さい。
【0015】
ラックギア112に係合するピニオンギア121は、ピニオンユニット120に取り付けられている。ピニオンユニット120の本体129にローラ128が備えられている。図1では、本体129とローラ128は仮想線で描いてある。ローラ128は、床板111に接しており、ピニオンユニット120は、床板111に対して長手方向に移動することができる。すなわち、ピニオンユニット120は、長手方向には移動可能であるが他の方向には移動することができないように床に拘束されている。そのようなピニオンユニット120にピニオンギア121は取り付けられている。ピニオンユニット120(ピニオンギア121)は、長手方向にてラックギア112から離れた位置で移動することもできるし、ラックギア112と係合しつつ移動することもできる。
【0016】
ピニオンギア121がラックギア112から離れているとき、ピニオンユニット120(ピニオンギア121)は自由区間に位置すると表現する。ピニオンギア121がラックギア112に係合しているとき、ピニオンユニット120(ピニオンギア121)は係合区間に位置すると表現する。
【0017】
ピニオンユニット120はモータ124を備えており、ピニオンギア121はモータ124によって駆動される。図1ではモータ124も仮想線で描いてある。
【0018】
図1は、ピニオンユニット120(ピニオンギア121)が自由区間に位置している状態を示している。ユーザが手でピニオンユニット120を動かすことができ、ピニオンユニット120をラックギア112に近づけていくと、ピニオンギア121がラックギア112の端歯115に達する。仮に端歯115が通常歯117と同じ形状(同じ大きさ)であると、回転しているピニオンギア121は端歯115に係合し難い。例えば、ピニオンギア121の歯が端歯115に乗り上げ、ピニオンギア121を含むピニオンユニット120が床板111から浮いてしまうおそれがある。
【0019】
しかし実施例のラックギア112の端歯115は通常歯117よりも小さいので、ラックギア112に到達したピニオンギア121は端歯115に係合し易い。
【0020】
図2-7を使って端歯115の具体的な形状の例を説明する。図2の端歯を符号115aで表す。なお、先に述べたように、次歯116は通常歯117と同じ形状である。図2-7では、床板111、ピニオンユニット120の本体129とローラ128の図示は省略した。仮想線で示したピニオンギア121aは、右からラックギア112に近づき、ラックギア112に係合する直前のピニオンギアを示している。
【0021】
図2の態様では、ラックギア112の側面視において端歯115aの大きさが通常歯117よりも小さい。図2の態様では、次歯116は通常歯117と同じ大きさを有している。すなわち、端歯115a以外の全ての歯は、通常歯117である。
【0022】
端歯115aの高さH1は、通常歯117の高さH2よりも低い。端歯115aの高さH1は、ラックギア112に係合したピニオンギア121の歯先とラックギア112の歯谷の底との間の距離H3よりも高い。端歯115aを小さく(低く)することで、ピニオンギア121と端歯115aとの間には、ピニオンギア121と通常歯117との間よりも大きな隙間が生じる。それゆえ、自由区間から移動してきてラックギア112の端に達したピニオンギア121が端歯115aと係合しやすくなる。「高さH1>距離H3」は、ピニオンギア121が端歯115aと係合するのに必要な条件である。
【0023】
図3にラックギアの第1変形例(ラックギア112a)を示す。図3の態様では、ラックギア112aの側面視において端歯115aの大きさが通常歯117よりも小さく、次歯116aの大きさが端歯115aよりも大きく通常歯117よりも小さい。端歯115aの高さH1は、通常歯117の高さH2よりも低い。端歯115aの高さH1は、ラックギア112に係合したピニオンギア121の歯先とラックギア112の歯谷の底との間の距離H3よりも高い。次歯116aの高さH4は、端歯115aの高さH1よりも高く、通常歯117の高さH2よりも低い。ラックギア112aの中心から端に向かって歯の高さを徐々に低くすることで、ラックギア112aの端に到達したピニオンギア121がラックギア112aに係合しやすくなる。
【0024】
図4にラックギアの第2変形例(ラックギア112b)を示す。仮想線で示したピニオンギア121aは、端歯115bに係合する直前のピニオンギアを示している。図4の態様では、長手方向における端歯115bの先端幅W1が通常歯117の先端幅W2よりも狭い(すなわち先端幅W1<先端幅W2)。図4では理解を助けるために、端歯115bに重ねて通常歯の大きさを仮想線で示してある。図4の態様では、次歯116は通常歯117と同じ形である。
【0025】
図4の態様でも、ピニオンギア121と端歯115bの間には通常(通常歯117と係合したときのピニオンギア121と通常歯117との間の隙間)よりも大きな隙間ができる。端歯115bの先端幅W1を狭くすることによっても、ラックギア112bに到達したピニオンギア121が端歯115bに係合しやすくなる。
【0026】
図5の態様では、長手方向において端歯115bの先端幅W1が通常歯117の先端幅W2よりも狭い(すなわち先端幅W1<先端幅W2)。さらに、次歯116bの先端幅W3が先端幅W1よりも広く、先端幅W2よりも狭い(W1<W3<W2)。ラックギア112bの中心から端に向かって歯の先端幅を徐々に狭くしていくことによって、ラックギア112bに到達したピニオンギア121がラックギア112bにより一層円滑に係合することができる。
【0027】
図6の態様では、側面視において端歯115cのラックギア端側の側面の角度A1が通常歯117の側面の角度A2よりも小さい(すなわち角度A1<角度A2)。「側面の角度A1(A2)」とは、ラックギア112cの長手方向に対する側面の角度を意味する。
【0028】
図6の態様では、次歯116は通常歯117と同じ形である。端歯115cの側面の角度A1を角度A2よりも小さくすることで、ピニオンギア121と端歯115cの間には通常(通常歯117と係合したときのピニオンギア121と通常歯117との間の隙間)よりも大きな隙間ができる。端歯115cの側面の角度Aを小さくすることでも、ラックギア112cに到達したピニオンギア121が端歯115cに係合しやすくなる。
【0029】
図7の態様では、側面視において端歯115cのラックギア端側の側面の角度A1が通常歯117の側面の角度A2よりも小さい。次歯116cのラックギア端側の側面の角度A3が角度A1よりも大きく、角度A2よりも小さい(角度A2>角度A3>角度A1)。ラックギア112cの中心から端に向かって歯の側面の角度を徐々に小さくしていくことで、ラックギア112cの端に到達したピニオンギア121がラックギア112cにより一層円滑に係合することができる。
【0030】
端歯の高さを通常歯の高さよりも低く、かつ、端歯の先端幅を通常歯の先端幅より狭くしてもよい。端歯の高さを通常歯の高さよりも低く、かつ、端歯の側面の角度を通常歯の側面の角度より小さくしてもよい。端歯の先端幅を通常歯の先端幅より狭く、かつ、端歯の側面の角度を通常歯の側面の角度より小さくしてもよい。端歯の高さを通常歯の高さよりも低く、かつ、端歯の側面の角度を通常歯の側面の角度より小さく、かつ、端歯の先端幅を通常歯の先端幅より狭くしてもよい。
【0031】
実施例と変形例のラックギアは、端歯を小さくすることによって、長手方向に沿ってラックギアに接近してくるピニオンギアがラックギアに円滑に係合することができるようになる。
【0032】
本明細書が開示する技術は、ラックギアと、ラックギアに係合するピニオンギアを含むラックアンドピニオンシステムとして具現化されてもよい。ピニオンギアは、ピニオンユニットに備えられており、ピニオンユニットは、ラックギアの長手方向に移動可能であるが、長手方向に交差する面内では拘束されている。ピニオンユニットは、長手方向に沿ってラックギアに接近し、ピニオンギアはラックギアに係合することができる。ピニオンギアがラックギアの端歯に到達したとき、端歯は通常歯よりも小さいので、端歯とピニオンギアの間には大きな隙間ができる。具体的には、このときの隙間は、通常歯に係合したピニオンギアと通常歯との間の隙間よりも大きい。それゆえ、ピニオンギアは端歯と円滑に係合することができる。このラックアンドピニオンシステムは、長手方向に沿ってラックギアに近づいてくるピニオンギア(ピニオンユニット)が円滑にラックギアに係合することを助ける。端歯の具体的な形状の例は、図2-7に示した。
【0033】
次に、本明細書が開示する技術が採用されたラックギアがリニアアクチュエータに適用された実施例について説明する。
【0034】
実施例のリニアアクチュエータは、フロアパネルとシートの間に配置されるシートスライド装置2である。図8に、自動車のフロアパネル90に取り付けられたシートスライド装置2の側面図を示す。シートスライド装置2は、ロアレール10とアッパレール20で構成される。ロアレール10は長尺である。アッパレール20は、ロアレール10に対してその長手方向に移動可能(スライド可能)に取り付けられている。詳しくは後述するが、アッパレール20はモータによってロアレール10に沿って移動することができる。ユーザが不図示のスイッチを入れるとモータが回転し、アッパレール20(シート)がロアレール10に沿って動く。ロアレール10がリニアアクチュエータのレールに相当し、アッパレール20がリニアアクチュエータのピニオンユニットに相当する。
【0035】
ロアレール10は車体のフロアパネル90に固定される。アッパレール20は、シート91の下部に取り付けられる。アッパレール20は、不図示のフレームを介してシート91の下部に取り付けられる。1個のシート91に対して一対のシートスライド装置2が取り付けられる。一対のアッパレール20のそれぞれは、シート91の下部の左右に夫々取り付けられる。一対のロアレール10のそれぞれは、一対のアッパレール20のそれぞれに対応するようにフロアパネル90に固定される。
【0036】
図中の座標系のX方向がロアレール10とアッパレール20の長手方向に相当する。レールの長手方向(X方向)を以下ではレール長手方向と称する。図中の座標系のY方向がレールの短手方向に相当する。レールの短手方向を以下ではレール短手方向と称する。図中の座標系の+Z方向が上方を示す。
【0037】
図9に、シートスライド装置2の正面図を示す。図9は、レール長手方向に沿って見たシートスライド装置2の図である。図10に、シートスライド装置2の側面図を示す。図10は、図9のX-X線に沿って見たシートスライド装置2の側面図である。
【0038】
ロアレール10をレール長手方向に垂直な平面でカットした断面形状は溝形であり、ロアレール10は、底板11と、底板11のレール短手方向の両端から上に延びている一対の側板19を有する。また、ロアレール10は、レール長手方向に沿って延びているラックギア12を有している。ラックギア12は、底板11に固定されている。なお、図2、3では、ラックギア12のギア歯は図示を省略してある。
【0039】
フロアパネル90には溝が形成されており、ロアレール10はフロアパネル90の溝の中に配置される。ロアレール10は、ボルト93によってフロアパネル90に固定されている。ボルト93のヘッドは、レール長手方向にてラックギア12の歯列の途中に配置されている。ラックギア12には上方が開口している切欠13が設けられており、ボルト93のヘッドは切欠13に配置されている。ボルト93により、ラックギア12と底板11とフロアパネル90が共締めされる。
【0040】
アッパレール20は複数のローラ28を備えている。ローラ28は、アッパレール20の本体29の四隅に備えられている。ローラ28はロアレール10の底板11に当接する。4個のローラ28によって、アッパレール20はロアレール10に沿って円滑に動くことができる。ロアレール10の側板19の上部は逆U字に湾曲しており、ローラ28は、底板11と、側板19の上部湾曲部の間の空間に収まっている。図10では、アッパレール20の本体29とローラ28は仮想線で描いてある。
【0041】
アッパレール20には、2個のピニオンギア(第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22)と、1個のアイドルギア23と、モータ24が備えられている。なお、図9、10では、第1ピニオンギア21、第2ピニオンギア22、アイドルギア23は簡略化して描いてあり、ギア歯の図示は省略している。第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22はラックギア12に係合しており、アイドルギア23は第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22の両方に係合している。モータ24は不図示の減速機を介してアイドルギア23を駆動する。モータ24がアイドルギア23を駆動すると、アイドルギア23に連動して第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22が同期回転する。モータ24が第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22を駆動すると、アッパレール20がラックギア12(すなわちロアレール10)に沿って移動する。すなわち、アッパレール20は電動で動く。
【0042】
図11-14を参照してギアの係合関係を説明する。図11-14では、アッパレール20の本体29とローラ28の図示は省略した。ロアレール10の側板19の図示も省略した。図11-14では、係合するギアの間に隙間が存在するが、この隙間は、図を見やすくするために便宜上設けたものである。当然ながら、係合するギア間のバックラッシは小さい方がよい。
【0043】
先に述べたように、ラックギア12には上方が開口した切欠13が設けられている。切欠13の範囲にはラックギア12の歯が無い。切欠13の範囲(すなわち歯の無い範囲)を以下では無歯区間14と称する。無歯区間14は、ラックギア12の歯列の途中に設けられている。無歯区間14にボルト93のヘッドが配置されている。ボルト93は、切欠13の底と、ロアレール10の底板11と、フロアパネル90を貫通し、それらを固定する。
【0044】
幅が狭い底板11にボルト93のヘッドを配置する空間を確保するために無歯区間14が設けられている。無歯区間14はレール長手方向に沿って距離L1の長さを有している。距離L1は、ラックギア12の歯ピッチ2個分以上である。図11-14では、距離L1と歯ピッチの関係が理解できるように、無歯区間14にも仮想線でギア歯を描いてある。図11の記号Ptが歯ピッチを示している。本実施例では、無歯区間14の距離L1は、歯ピッチPtの2倍よりも長く、歯ピッチPtの3倍よりも短い。
【0045】
アッパレール20には、2個のピニオンギア(第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22)が取り付けられている。2個のピニオンギアは、レール長手方向に並んでいる。2個のピニオンギアは、レール長手方向に沿って中心間距離L2を隔てて配置されている。2個のピニオンギア(第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22)は、同じ形状である。2個のピニオンギア(第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22)は、同じ直径を有し、同数のギア歯を有する。先に述べたように、アイドルギア23が第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22の両方に係合しており、モータ24がアイドルギア23を介して第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22を駆動する。同形状の第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22は1個のアイドルギア23を介して同期回転するので、それらはラックギア12に係合しつつ円滑に回転する。
【0046】
図11-14では、アッパレール20が図の太矢印線Aが示す方向(左方向)に移動すると仮定する。ただし、図示の都合上、図11から図14の順に、ロアレール10を左から右へ移動させている。図11から図14の順に、無歯区間14が左から右へ移動している。
【0047】
図11では無歯区間14はアッパレール20の進行方向前方に位置している。無歯区間14の距離L1はラックギア12の歯ピッチPt2個分以上である。それゆえ、第1ピニオンギア21が無歯区間14に達すると、第1ピニオンギア21はラックギア12から外れて空転する(図12)。しかし、第2ピニオンギア22がラックギア12との係合を保持しているので、アッパレール20は移動し続けることができる。
【0048】
アッパレール20がさらに移動すると、第1ピニオンギア21が再びラックギア12と係合する(図13)。無歯区間14の両側に位置する2個の端歯15a、15bの間隔L3は歯ピッチPtの整数倍である。本実施例では、間隔L3は歯ピッチPtの3倍である(図11参照)。端歯15a、15bの間隔L3は、一方の端歯15aの中心から、他方の端歯15bの中心までの距離を指す。それゆえ、空転しながら無歯区間14を通過し終えた第1ピニオンギア21は、円滑にラックギア12に再係合できる。図13にて太矢印線Bが示す箇所が、端歯15aと第1ピニオンギア21の再係合箇所を示している。第1ピニオンギア21は無歯区間14を通過している間に空転するが、ラックギア12と再係合する際、端歯15aの山に第1ピニオンギア21の谷が合う。
【0049】
さらにアッパレール20が左方向に進むと、今度は第2ピニオンギア22が無歯区間14を通過する(図14)。このとき、第2ピニオンギア22は空転するが、第1ピニオンギア21がラックギア12との係合を保持しているので、アッパレール20は進むことができる。第1ピニオンギア21の場合と同様に、第2ピニオンギア22も円滑にラックギア12に再係合することができる。
【0050】
このように、実施例のシートスライド装置2は、ラックギア12に無歯区間14を設けることで、ラックギア12の歯列の途中にボルト93を配置することができる。2個のピニオンギア(第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22)を有するアッパレール20は、無歯区間14を超えて円滑に移動することができる。なお、無歯区間14の距離L1は、2個のピニオンギア(第1ピニオンギア21と第2ピニオンギア22)の中心間距離L2よりも短い。無歯区間14が中心間距離L2よりも長いと、両方のピニオンギアが無歯区間に入ってしまうからである。好ましくは、端歯15a、15bの間隔L3が、中心間距離L2よりも短いとよい。無歯区間14には、ボルト以外の部品が配置されてもよい。
【0051】
(変形例)図15を参照して変形例のシートスライド装置2aを説明する。シートスライド装置2aのアッパレール20は実施例のシートスライド装置2のアッパレール20と同じである。図15でもアッパレール20の本体とローラは図示を省略した。変形例のシートスライド装置2aは、2個のラックギア12a、12bを備えている。2個のラックギア12は、レール長手方向に沿って距離L1を隔てて配置されている。2個のラックギア12a、12bの間の距離L1のスペースが無歯区間14に相当する。無歯区間14にボルト93のヘッドが位置している。距離L1は、ラックギアの歯ピッチ2個分以上であり、2個のピニオンギアの中心間距離L2よりも短い。また、無歯区間14の両側の端歯15a、15bの間隔L3は、ラックギア12a、12bの歯ピッチの整数倍である。間隔L3は、中心間距離L2よりも短い。
【0052】
シートスライド装置2aもモータ24によって電動で動く。シートスライド装置2aも、アッパレール20は無歯区間14を超えて円滑に移動することができる。
【0053】
アッパレール20(ピニオンユニット)は、ピニオンギア21、22を駆動するモータ24を備える。本明細書は、ラックギアに係合していないピニオンギアがラックギアに近づき、係合する際に円滑に係合するラックギアを提供する。ユーザが手で動かすピニオンユニットも想定されるので、ピニオンユニットはモータを備えなくてもよい。モータを備えずとも、連動する2個のピニオンギアを有するピニオンユニットは、ピニオンギアが回転しながらラックギアの端歯に係合する。図15の例のように、第2ピニオンギア22がラックギア12bに係合しつつピニオンユニットが左側へ移動する場合を想定する。第1ピニオンギア21は、ラックギア12bの上を移動する第2ピニオンギア22と連動するので、無歯区間においても回転する。第1ピニオンギア21は回転しつつラックギア12aに到達する。そのような場合、小さい端歯15aが有効に機能し、回転する第1ピニオンギア21に端歯15aが円滑に係合することができる。
【0054】
シートスライド装置2、2aのラックギア12、12a、12bは、図2-7に示した端歯(および次歯)を備えていてもよい。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0056】
2、2a:シートスライド装置 10:ロアレール 11:底板 12、12a、12b、112、112a-112c:ラックギア 13:切欠 14:無歯区間 15a、15b、115、115a-115c:端歯 19:側板 20:アッパレール 21、22、121、121a:ピニオンギア 23:アイドルギア 24、124:モータ 28、128:ローラ 29、129:本体 90:フロアパネル 91:シート 93:ボルト 111:床板 116、116a-116c:次歯 117:通常歯 120:ピニオンユニット
図1
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図15