(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083840
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】インバータ制御装置および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20240617BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240617BHJP
【FI】
H02P21/24
H02M7/48 E
H02M7/48 L
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197892
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】茂田 智秋
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD08
5H505DD11
5H505EE41
5H505EE49
5H505FF01
5H505GG04
5H505GG06
5H505GG08
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ22
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505JJ28
5H505KK06
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM12
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770FA01
5H770HA02Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】 回転中の同期機の回転位相角および回転角速度を高精度に推定可能なインバータ制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による装置は、電流指令を生成する電流指令生成部101と、インバータ主回路INVと同期機Mとの間に流れる電流値を検出する電流検出部110と、電流指令に応じた電圧指令を算出する電流制御部102と、電圧指令に基づきインバータ主回路INVの駆動信号を生成する変調部104と、同期機Mの回転位相角の推定値を用いて、電圧指令値および電流検出値を座標変換する座標変換部103、105と、座標変換に用いる回転位相角の推定値をゼロとしたときに、磁気突極性により発生する脈動成分を用いて、同期機Mの回転位相角及び回転角速度の初期値を演算する初期値演算部107と、初期値演算部107で演算された初期値を用いて、同期機Mの回転位相角及び回転角速度の推定値を演算する演算部106と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令を生成する電流指令生成部と、
インバータ主回路と同期機との間に流れる電流値を検出する電流検出部と、
前記電流指令に応じた電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令の値に基づき前記インバータ主回路の駆動信号を生成する変調部と、
前記同期機の回転位相角の推定値を用いて、前記電圧指令の値および検出された前記電流値を座標変換する座標変換部と、
前記座標変換に用いる前記同期機の回転位相角の前記推定値を変化しない値としたときに、前記同期機の磁気突極性によって発生する前記同期機の出力電流の脈動成分に基づいて、前記同期機の回転位相角及び回転角速度の初期値を演算する初期値演算部と、
前記初期値演算部で演算された前記初期値を用いて、前記同期機の回転位相角及び回転角速度の前記推定値を演算する角度/速度演算部と、を備えたことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
前記電流制御部は、前記電圧指令を算出するPI制御部と、前記回転位相角及び回転角速度の前記初期値を演算する期間において、前記PI制御部で用いられるゲインを、前記出力電流の直流成分を電流指令値と一致させ、前記脈動成分が抑制されない値に設定するゲイン変更部と、を備える、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン変更部は、前記初期値の演算完了後に前記ゲインの値を大きくする、請求項2記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記初期値演算部において前記初期値を演算する期間における前記電流指令は、前記同期機の磁気突極性が最小となる軸方向に電流を通流するように設定されることを特徴とする、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記電流指令の値は、前記同期機の回転子ブリッジを飽和させる値であることを特徴とする、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
インバータ主回路と、
電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記インバータ主回路と同期機との間に流れる電流値を検出する電流検出部と、
前記電流指令に応じた電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令の値に基づき前記インバータ主回路の駆動信号を生成する変調部と、
前記同期機の回転位相角の推定値を用いて、前記電圧指令の値および検出された前記電流値を座標変換する座標変換部と、
前記座標変換に用いる前記同期機の回転位相角の前記推定値を変化しない値としたときに、前記同期機の磁気突極性により発生する前記同期機の出力電流の脈動成分に基づいて、前記同期機の回転位相角及び回転角速度の初期値を演算する初期値演算部と、
前記初期値演算部で演算された前記初期値を用いて、前記同期機の回転位相角及び回転角速度の前記推定値を演算する角度/速度演算部と、を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ制御装置および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石同期モータ(PMSM)やシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)等の同期モータを駆動するインバータの制御装置において、モータの回転子の位置(回転角)センサや回転速度センサを用いないセンサレス制御を行う技術が提案されている。
【0003】
例えばセンサレス制御を行うインバータ制御装置により、フリーラン状態からインバータを再起動する際には、インバータの出力位相や周波数をモータの回転子の位置や回転角速度に同期させる必要がある。このため、インバータの再起動時に、モータの磁気突極性を利用して回転子の回転位相角と回転角速度とを推定する方法や、交流電動機の残留電圧を用いて回転位相角と回転角速度とを推定する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、インバータが停止状態から再起動する際、前者の方法では高周波重畳の周波数と基本波周波数が近づくことから高速回転時に高周波電流検出精度が悪くなり速度推定精度が劣化する場合があった。また、後者の方法では速度が高いほど推定精度がよくなるが、磁石が極少ないもしくは存在しないモータでは残留磁束や無負荷磁束が発生しないため角度や速度を推定することが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば前者の方法を採用した制御装置において、直流電圧を印加した際に発生する基本波電流と脈動電流とを分離するためにフィルタと、そのフィルタ遅れを補正するためのマップを用いることが提案されている。しかしながら、フィルタやマップを用いることによりシステムが複雑化してしまう。
【0007】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、回転中の同期機の回転位相角および回転角速度を高精度に推定可能なインバータ制御装置および電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によるインバータ制御装置は、電流指令を生成する電流指令生成部と、インバータ主回路と同期機との間に流れる電流値を検出する電流検出部と、前記電流指令に応じた電圧指令を算出する電流制御部と、前記電圧指令の値に基づき前記インバータ主回路の駆動信号を生成する変調部と、前記同期機の回転位相角の推定値を用いて、前記電圧指令の値および検出された前記電流値を座標変換する座標変換部と、前記座標変換に用いる前記同期機の回転位相角の前記推定値を変化しない値としたときに、前記同期機の磁気突極性によって発生する前記同期機の出力電流の脈動成分に基づいて、前記同期機の回転位相角及び回転角速度の初期値を演算する初期値演算部と、前記初期値演算部で演算された前記初期値を用いて、前記同期機の回転位相角及び回転角速度の前記推定値を演算する角度/速度演算部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態のインバータ制御装置および電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す同期機の一構成例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における、d軸、q軸、および、推定回転座標系(dc軸、qc軸)の定義を説明するための図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態のインバータ制御装置において各種動作モードを制御するフラグの一例を概略的に示した図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流指令生成部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態のインバータ制御装置の高周波電圧重畳部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態のインバータ制御装置の角度/速度初期値演算部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態のインバータ制御装置の回転角度/速度演算部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流制御部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態のインバータ制御装置により電流をPI制御する場合の伝達関数の一例について説明するための図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流制御部において、電流制御ゲインを変更するタイミングの一例を概略的に示す図である。
【
図12】
図12は、第1実施形態のインバータ制御装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図13は、第1実施形態のインバータ制御装置の効果の一例について説明するための図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態のインバータ制御装置の角度/速度初期値演算部の他の構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態のインバータ制御装置および電力変換装置について、図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態のインバータ制御装置および電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
第1実施形態の電力変換装置は、インバータ主回路INVと、インバータ制御装置100とを備える。
【0011】
インバータ主回路INVは、直流電力を三相交流電力に変換して同期機Mへ出力する。インバータ主回路INVは、各相において上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子とを備えている。
【0012】
インバータ主回路INVには、インバータ制御装置100から上アームと下アームとのスイッチング素子の制御信号(ゲート指令)が供給される。なお、インバータ主回路INVは、スイッチング素子のオン/オフを切り替えることにより、交流電力と直流電力とを相互に変換することができる。
【0013】
同期機Mは、例えば、永久磁石同期モータ(PMSM)やシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)などの磁気突極性を備えたモータである。本実施形態では、同期機MとしてSynRMを用いた例について説明する。
【0014】
図2は、
図1に示す同期機の一構成例を説明するための図である。
ここでは、同期機Mの一例としてSynRMの構成を示している。
同期機Mは回転子20と固定子10とを備え、各励磁相に流れる三相交流電流によって磁界が発生し、回転子との磁気的相互作用によりトルクを発生する。なお、ここでは、同期機Mの一部のみを示しており、同期機Mの固定子10および回転子20は、例えば
図2に示す構成を複数組み合わせたものとなる。
【0015】
回転子20は、エアギャップ21と、外周ブリッジBR1と、センターブリッジBR2と、を有している。
センターブリッジBR2は、回転子20の外周と中心とを結ぶライン上に配置されている。なお、センターブリッジBR2が配列したラインがd軸となる。外周ブリッジBR1は、回転子20の外周とエアギャップ21との間に位置している。
図2に示す同期機Mの部分には、回転子20の外周部と中心部との間に延びた6つのエアギャップ21が設けられている。エアギャップ21は、d軸に対して線対称に、センターブリッジBR2と外周ブリッジBR1との間に延びている。
【0016】
図3は、第1実施形態における、d軸、q軸、および、推定回転座標系(dc軸、qc軸)の定義を説明するための図である。
本実施形態では、d軸は磁気突極性が小さくなる軸であり、q軸は磁気突極性が大きくなる軸である。dc軸は推定座標系におけるd軸であり、qc軸は推定座標系におけるq軸である。
【0017】
d軸は、αβ固定座標系のα軸(U相)から回転位相角θだけ回転したベクトル軸であり、q軸は、電気角でd軸と直交するベクトル軸である。これに対し、dcqc推定回転座標系は回転子20の推定位置におけるd軸とq軸とに対応する。すなわち、dc軸は、α軸から回転位相角推定値θestだけ回転したベクトル軸であり、qc軸は、電気角でdc軸と直交するベクトル軸である。換言すると、d軸から推定誤差Δθだけ回転したベクトル軸がdc軸であり、q軸から推定誤差Δθだけ回転したベクトル軸がqc軸である。
【0018】
例えば、回転角速度推定方法としてd軸方向に高周波電圧を重畳する方式では、q軸高周波電流がゼロ、つまり高調波に対するインダクタンスが最小となる軸についてPLL(Phase Locked Loop)制御することで、同期機Mの回転角速度および回転位相角の推定値を演算することができる。
【0019】
インバータ制御装置100は、例えばCPUやMPUなどのプロセッサを少なくとも1つと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を備えた演算装置を含む。インバータ制御装置100は、以下に説明する種々の機能をソフトウエアにより、若しくは、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより実現することが可能である。
【0020】
インバータ制御装置100は、上位制御装置(図示せず)からトルク指令T*とオンオフ指令Gstとを受信する。上位制御装置は、同期機Mおよびインバータ主回路INVを搭載した機器において、複数の構成が協調して動作するように制御する。上位制御装置は例えば操作パネルなどユーザインタフェースを備え、ユーザインタフェースの操作に基づくトルク指令T*とオンオフ指令Gstとをインバータ制御装置100へ出力してもよい。
【0021】
インバータ制御装置100は、電流指令生成部101と、電流制御部102と、座標(dq/3Φ)変換部103と、変調部104と、座標(3Φ/dq)変換部105と、回転角度/速度演算部106と、角度/速度初期値演算部107と、フラグ生成部108と、高周波電圧重畳部109と、電流検出器(電流検出部)110U、110V、110Wと、加算器A1とを備えている。
【0022】
フラグ生成部108は、同期機Mを駆動するための各種モードを切り替えるためのフラグを生成する。フラグ生成部108は、第1フラグFlg1、第2フラグFlg2、第3フラグFlg3および初期化フラグFlg_initを生成して出力する。
【0023】
図4は、第1実施形態のインバータ制御装置において各種動作モードを制御するフラグの一例を概略的に示した図である。
第1フラグFlg1は、初期値推定期間において「1」であり、通常制御期間において「0」である。第2フラグFlg2は、初期値推定期間において「0」であり、通常制御期間において「1」である。初期化フラグFlg_initは、初期値推定期間において計算した回転角速度及び回転位相角を初期化する(初期値を設定する)タイミングを示す。本実施形態では、初期化フラグFlg_initは、初期値推定期間の終了時から所定の期間(1サンプル周期)経過するまでの間において「1」であり、他の期間(初期値推定期間および通常制御期間)において「0」である。
【0024】
また、第3フラグFlg3は、通常制御における低速/高速センサレス制御切り替えを制御するためのフラグである。本実施形態では、第3フラグFlg3は、通常制御期間の高速センサレス制御を行う期間において「1」であり、他の期間(通常制御期間のうちの低速センサレス制御を行う期間および初期値推定期間)において「0」である。
【0025】
なお、第1遅延フラグFlg1_oldは、第1フラグFlg1を1サンプル周期分遅延させたフラグである。第2遅延フラグFlg_oldは、第2フラグFlg2を1サンプル周期分遅延させたフラグである。
【0026】
電流検出器110U、110V、110Wは、同期機Mへ流れる三相交流電流iu、iv、iwのそれぞれの値を検出する。電流検出器110U、110V、110Wの電流検出値は、座標(3Φ/dq)変換部105に入力され、dq軸回転座標系の電流検出値Idc、Iqcに変換される。
電流指令生成部101は、上位制御装置から供給されたトルク指令T*に基づいて、d軸電流指令Idrefおよびq軸電流指令Iqrefを生成して出力する。
【0027】
図5は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流指令生成部の一構成例を概略的に示す図である。
電流指令生成部101は、指令生成部11と、リミット部12と、時間遅れ部13と、切り換え部14、15と、論理積演算部16-18と、を備えている。
【0028】
指令生成部11は、例えば、マップや近似式、理論式などを用いて銅損最小となるd軸電流指令値Idref1とq軸電流指令値Iqref1とを算出して出力する。
リミット部12は、d軸電流指令値Idref1の絶対値を下限値dlim以上として第2d軸電流指令Idref2の絶対値を算出し、第2d軸電流指令Idref2の符号がd軸電流指令値Idref1の符号と同じになるように第2d軸電流指令Idref2を算出して出力する。
リミット部12は、例えば、絶対値算出部と、下限リミット部と、符号判定部と、乗算部と(いずれも図示せず)を備えている。
【0029】
絶対値算出部は、指令生成部11からd軸電流指令Idref1を受信し、d軸電流指令Idref1の絶対値を算出して出力する。
下限リミット部は、絶対値算出部からd軸電流指令Idref1の絶対値を受信し、d軸電流指令Idref1の絶対値が下限値idlim以上のときに、d軸電流指令Idref1の絶対値と等しい第2d軸電流指令idref2の絶対値を出力する。下限リミット部LIMは、d軸電流指令Idref1の絶対値が下限値idlim未満のときに、下限値dlimと等しい第2d軸電流指令Idref2の絶対値を出力する。
【0030】
符号判定部は、指令生成部11からd軸電流指令Idref1を受信し、d軸電流指令Idref1がゼロより大きいか、ゼロ以下であるかを判断する。符号判定部は、d軸電流指令Idref1がゼロより大きいときに「+1」を出力し、d軸電流指令Idref1がゼロ以下のときに「-1」を出力する。
【0031】
乗算部は、下限リミット部から出力された第2d軸電流指令Idref2の絶対値と符号判定部の出力値とを乗算して出力する。
上記のように、d軸電流の振幅の下限をリミットすることにより、d軸方向(又は-d軸方向)の所定の閾値以上の基本波電流を同期機Mに通電することが可能となる。
【0032】
時間遅れ部13は、オンオフ指令Gstを所定時間遅らせて出力する。なお、オンオフ指令Gstは、トルク指令を指令生成部11へ供給する経路の電気的接続を切替える論理積演算部16と、リミット部12から切り換え部14へ第2d軸電流指令Idref2を出力する経路の電気的接続を切替える論理積演算部18との制御指令である。また、オンオフ指令Gstは、時間遅れ部13を介して、指令生成部11からq軸電流指令Iqref1を出力する経路の電気的接続を切替える論理積演算部17に供給される。
【0033】
切り換え部14、15は、初期推定期間と通常制御期間とで電流指令値を切り替える。
切り換え部14は、第1入力端子と、第2入力端子と、第1出力端子とを備えている。第1入力端子には、リミット部12から出力された第2d軸電流指令Idref2が論理積演算部18を介して入力される。第2入力端子には、d軸電流指令初期値Idref_initが入力される。切り換え部14は、第1フラグFlg1の値が「0」のときに、第1入力端子と第1出力端子とが電気的に接続され、第1フラグFlg1の値が「1」のときに第2入力端子と第1出力端子とが電気的に接続される。切り換え部14の出力端子に入力された値は、d軸電流指令Idrefとして出力される。
【0034】
切り換え部15は、第3入力端子と、第4入力端子と、第2出力端子とを備えている。第3入力端子には、論理積演算部17から出力された第2q軸電流指令iqref2が入力される。第4入力端子の入力値はゼロである。切り換え部15は、第1フラグFlg1の値が「0」のときに、第3入力端子と出力端子とが電気的に接続され、第1フラグFlg1の値が「1」のときに第4入力端子と出力端子とが電気的に接続される。切り換え部15の出力端子に入力された値は、q軸電流指令Iqrefとして出力される。
【0035】
電流制御部102は例えばPI(比例積分)制御器を備え、座標変換部105から供給されたdc軸電流値Idcおよびqc軸電流値Iqcと、d軸電流指令Idrefおよびq軸電流指令Iqrefとを比較し、dc軸電流値Idcとd軸電流指令Idrefがゼロとなり、qc軸電流値Iqcとq軸電流指令iqrefとの差がゼロとなるように、電圧指令Vd_ACR、Vq_ACRを算出して出力する。
【0036】
図6は、第1実施形態のインバータ制御装置の高周波電圧重畳部の一構成例を概略的に示す図である。
高周波電圧重畳部109は、三角波キャリア(キャリア指令)に応じた任意周波数の高周波電圧をdc軸もしくはqc軸もしくはその両方について生成し、加算器A1、回転角度/速度演算部106、および、回転角度/速度演算部106へ出力する。本実施形態では、高周波電圧重畳部109は、dc軸の高周波電圧V
dchを出力する。
【0037】
高周波電圧重畳部109は、通常制御期間において、同期機Mが低速センサレス制御されているとき(遅延後の第2フラグFlg_oldが「1」であって第3フラグFlg3が「0」のとき)に動作し、高周波電圧Vdchを出力する。
【0038】
高周波電圧重畳部109は、遅延部91と、同期パルス生成部92と、高周波電圧同期部(論理積演算部)93と、を備えている。
同期パルス生成部92は、キャリア指令に同期した同期パルスを生成して高周波電圧同期部93へ出力する。
【0039】
高周波電圧同期部93は、内部で生成された所定の大きさの直流電圧指令値である電圧Vhを、同期パルスと掛け合わせて出力する。すなわち、高周波電圧重畳部109から出力される高周波電圧Vdchは、所定の振幅Vhを有し、キャリア指令の周期と同期した高周波電圧周期(1/fdch)を有する高周波電圧指令Vdchである。
【0040】
高周波電圧重畳部109から出力された高周波電圧指令値Vdchは加算器A1にて、d軸電圧指令Vd_ACRに加算され、加算器A1の出力値がd軸電圧指令値Vdrefとしてdq/3Φ変換部103に供給される。
【0041】
座標(dq/3Φ)変換部103は、同期機Mの回転子の回転角速度に同期したdq回転座標系の値を、三相固定座標系の値にベクトル変換して、変換後の値を出力する。本実施形態では、座標(dq/3Φ)変換部103は、dq回転座標系の電圧指令値Vdref、Vqrefを三相固定座標系の三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換して出力する。
【0042】
変調部104は、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を、インバータ主回路INVのゲート指令へと変換する。本実施形態では、変調部104は、三角波キャリアと電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*とを比較するPWM変調によりゲート指令(駆動信号)を生成し、インバータ主回路INVへ出力する。
【0043】
3Φ/dq変換部105は、回転角度/速度演算部106から出力された回転位相角推定値θestを用いて、三相固定座標系の値を、同期機Mの回転子の回転角速度に同期したdq回転座標系の値にベクトル変換して、変換後の値を出力する。本実施形態では、3Φ/dq変換部105は、三相固定座標系の電流検出値を、dq回転座標系の電流検出値Idc、Iqcに変換して出力する。
【0044】
角度/速度初期値演算部107は、遅延後の第1フラグFlg1_oldの値が「1」のときに動作し、三相交流電流iu、iv、iwの値とd軸電流指令値Idrefとを用いて、後述する脈動電流を三相/dq変換及びPLLし、回転角度初期値θest_initおよび回転角速度初期値ωest_initを演算する。
【0045】
ここで、角度/速度初期値演算部107で回転角度初期値θest_initおよび回転角速度初期値ωest_initを演算する際に利用する脈動電流について説明する。
対象モータである磁石がない、もしくは少ない同期機Mの電圧方程式は(1)式で表される。
【数1】
R:電機子抵抗、ω:モータ角速度、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、vd:d軸電圧、vq:q軸電圧、id:d軸電流、iq:q軸電流
【0046】
また(1)式を、ある角度θを有する座標軸へ座標変換すると(2)式となる。
【数2】
【0047】
ここで、L
dc、L
qc、L
dqc、L
0、L
1はそれぞれ下記であり、pは微分演算子(d/dt)である。
【数3】
【0048】
上記(2)式を電流について解くと(6)式となる。
【数4】
【0049】
さらに、(3)-(5)式により(6)式を回転角度の形に戻すと(7)式となる。
【数5】
電圧推定値V
dc、V
qcがインバータからの電圧指令値と等しいと想定し、モータ電圧の平均値(直流成分)を制御できている場合、上記(7)式を下記(8)式とすることができる。
【数6】
【0050】
さらに、d軸にのみ電流を通電すると仮定すると、上記(8)式を(9)式とすることができる。
【数7】
【0051】
さらに上記(9)式を整理すると(10)式となる。
【数8】
(10)式によれば、d軸に2θの周波数の正弦波成分の電流が生じ、q軸に2θの周波数の余弦波成分の電流が生じていることがわかる。なお、d軸およびq軸に生じる上記脈動電流は、電流制御におけるゲインを増加することにより抑制される。
【0052】
本実施形態では、角度/速度初期値演算部107は、上記原理により発生する脈動電流を利用して、回転角度初期値θest_initと回転角速度初期値ωest_initとを演算する。
【0053】
図7は、第1実施形態のインバータ制御装置の角度/速度初期値演算部の一構成例を概略的に示す図である。
角度/速度初期値演算部107は、遅延部71と、座標変換部72と、正規化部73と、除算部74、77、7A5と、減算部75、7A1と、PI制御部76と、積分部78、79と、ホールド部70と、加算部7A2、7A3と、乗算部7A4とを備えている。
【0054】
遅延部71は、第1フラグFlg1を所定の期間(1サンプル周期)遅延させた値(Flg_old)を出力する。
乗算部7A4は、d軸電流指令値IdrefにゲインGを掛けた積(G×Idref)を算出して、加算部7A1と除算部7A5とに出力する。
除算部7A5は、乗算部7A4から出力された値を2で除した商((G×Idref)/2)を、加算部7A2、7A3へ出力する。
【0055】
減算部7A1は、U相電流iuの値から乗算部7A4の出力値を引いた差(iu-G×Idref)を出力する。
加算部7A2は、V相電流ivの値と除算部7A5の出力値とを足した和(iv+(G×Idref)/2)を出力する。
加算部7A3は、W相電流iwの値と除算部7A5の出力値とを足した和(iw+(G×Idref)/2)を出力する。
【0056】
ここで、-d軸を目標に、角度をゼロとして電流制御を行う場合、U相にはd軸電流指令値Idrefをsqrt(2/3)倍した電流が流れる。また、このとき、V、W相にはU相電流iuを1/2して符号反転した電流が流れる。本実施形態ではこれを利用して、V軸電流ivとW軸電流iwとの各々にd軸電流指令値Idrefをゲインの1/2倍した値((G×Idref)/2)を加算することで、ハイパスフィルタや複雑なマップなどを利用することなく、容易に脈動電流を算出することができる。
【0057】
座標変換部72は、減算部7A1の出力値、加算部7A2、7A3の出力値および回転位相角θest2を受信し、回転位相角θest2を用いて、三相固定座標系の電流値をdq軸回転座標系の電流値d2、q2に変換して出力する。
【0058】
正規化部73は、座標変換部72から電流値d2、q2を受信し、q軸電流値q2を正規化する値Aを演算して出力する。正規化部73は、例えば、q軸電流値q2の振幅を正規化するための値Aを算出する。
【数9】
【0059】
除算部74は、q軸電流値q2を、正規化部73から出力された値Aで割って、正規化した値を減算部75へ出力する。q軸電流値q2を正規化することにより、q軸電流値q2の振幅が正規化され(振幅が1以下となり)、後段のPI制御部76への入力値が過大になることを回避できる。
【0060】
なお、上記(10)式によれば、d軸電流にsin成分が含まれ、q軸電流にcos成分が含まれている。このことから、角度/速度初期値演算部107は、例えば、d軸電流を分子、q軸電流を分母として逆正接(atan)を演算してもよい。この場合、dq軸で脈動電流の振幅がほぼ同一であることから、振幅の正規化の必要がなくなるため、後段のPI制御のゲイン設計が簡潔となる。
【0061】
減算部75は、除算部74から出力された値(正規化後のq軸電流値q2)をゼロから引いた差を演算し、PI制御部76へ出力する。
PI制御部76は、減算部75から入力された値がゼロに追従するように回転角速度ωest2を演算して、除算部77と積分部78とに演算結果を出力する。ここで、PI制御部76には、正規化後のq軸電流値q2とゼロとの差が入力されることから、PI制御部76は、q軸電流値q2がゼロとなるような回転角速度ωest2を演算している。これは、本実施形態のインバータ制御装置では、初期値演算期間においてd軸に電流を通電させているためである。
【0062】
なお、本実施形態のインバータ制御装置では、通常制御期間において、d軸にオフセット電流を通電する方法を採用しているが、q軸に通電する方法を採用しても構わない。このオフセット電流は回転子ブリッジを磁気飽和させること、高速回転時に無負荷電圧を発生させて位置を推定すること、などを目的として通電される。初期値演算期間にd軸方向に電流を通電している場合、通常制御への移行がスムーズであり、q軸よりもd軸の方が比較的磁気飽和を起こしやすく、磁気突極性を顕著にできるメリットがある。
【0063】
除算部77は、PI制御部76から出力された回転角速度ωest2を2で割った値ωest1を、積分部79およびホールド部70へ出力する。回転角速度ωest2は周波数が2θ(同期機Mの基本波周波数の2倍)の脈動電流から得られた回転角速度であるため、除算部77により、回転角速度ωest2を2で割った回転角速度ωest1を算出している。
【0064】
積分部79は、除算部77から出力された回転角速度ωest1を積分して、回転位相角θest1を算出してホールド部70へ出力する。
ホールド部70は、初期化フラグFlg_initが「0」から「1」となったときに、回転角速度ωest1と回転位相角θest1とを保持し、保持されている値を回転角度初期値θest_initおよび回転角速度初期値ωest_initとして出力する。
積分部78は、PI制御部76から入力された回転角速度ωest2を積分し、回転位相角θest2を演算し、座標変換部72へ出力する。
【0065】
図8は、第1実施形態のインバータ制御装置の回転角度/速度演算部の一構成例を概略的に示す図である。
回転角度/速度演算部106は、第3フラグFlg3に応じて位置誤差推定方法を切り替え、初期化フラグFlg_initに応じて積分値を初期化(イニシャライズ)する。また、回転角度/速度演算部106は、回転角度/速度の初期値を演算している期間において、回転角度及び速度の値をゼロとする。
【0066】
回転角度/速度演算部106は、バンドパスフィルタ61と、FFT解析部62と、第1位置誤差演算部63と、第2位置誤差演算部65と、PLL部64、66と、積分部67と、遅延部68と、切り換え部SW1、SW2、SW3と、を備えている。
【0067】
バンドパスフィルタ61は、3Φ/dq変換部105からqc軸の応答電流値(出力電流)Idc、Iqcを受信し、高周波電圧指令Vdhの周波数(重畳高周波電圧周波数)fhと等しい周波数を含む帯域の高周波電流Idc´、Iqc´成分を抽出して出力する。
【0068】
FFT解析部62は、例えば高周波電流Idc´、Iqc´成分のFFT(高速フーリエ変換)解析を行い、高周波電流振幅Ihを検出する。FFT解析部62は、高周波電流Idc´、Iqc´成分と高周波電圧指令Vdchとを取得し、高周波電圧の1/4周期毎のタイミングで高周波電流Idc´、Iqc´成分の値をサンプリングし、サンプリングした値の差から高周波電流振幅Ihを検出する。FFT解析部62は、検出した高周波電流振幅Ihを第1位置誤差演算部63へ出力する。
【0069】
第1位置誤差演算部63は、例えば下記の回転角度依存の特性を利用して回転位相角誤差Δθを演算する。
回転角度を、回転位相角誤差Δθを有する座標軸への変換とし、低速状態を仮定して回転角速度ωを含む成分と抵抗電圧降下とを無視する。この場合、上記(7)式は(11)式となる。
【数10】
【0070】
さらに、高周波電圧を、推定されたd軸であるdc軸のみに印加するならば、(11)式は(12)式に書き改められる。
【数11】
【0071】
(12)式によると、qc軸の高調波電流は、回転位相角誤差Δθに依存して変化することが分かる。(12)式のqc軸電流をdc軸で除して、高周波電流の振幅をi
dch、i
qchとすると、回転位相角誤差Δθは(13)式となる。
【数12】
【0072】
第1位置誤差演算部63は、上記dc、qc軸の高調波電流の回転位相角依存の特性を利用して、回転位相角誤差Δθの推定値Δθestを演算し、PLL部64へ演算結果Δθestを出力する。
【0073】
PLL部64は、第1位置誤差演算部63から入力された回転位相角誤差の推定値Δθestがゼロに収束するようにPLL制御を行い、回転角速度推定値ωestを算出して切り換え部SW1へ出力する。
【0074】
なお、PLL部64は、初期化フラグFlg_initが「0」から「1」となったときに、角度/速度初期値演算部107から供給された回転角速度初期値ωest_initをPLL制御の初期値として設定する。
【0075】
第2位置誤差演算部65は、例えば、電流制御部の出力とフィードフォワード電圧との関係を用いた方式を適用して回転位相角誤差Δθを演算する。
回転位相角に誤差を生じる場合の電圧方程式は上述の(2)式で表すことができ、この時のフィードフォワード電圧指令を(14)式とする。
【0076】
【数13】
ここで、R
_set:抵抗設定値、L
d_set:d軸インダクタンス設定値、L
q_set:q軸インダクタンス設定値、ωest:角速度推定値である。
【0077】
この時、これらの差分(誤差分)が電流制御器の出力となり、モータ角速度ωと推定値ωestとがほぼ一致し、抵抗による電圧降下が無視できる場合、(15)式となる。
【数14】
【0078】
上記(15)式のd軸成分に着目すると(16)式となる
【数15】
(16)式において、回転位相角誤差Δθの推定値Δθestを(17)式で表すことができる。
【数16】
【0079】
実際の計算ではΔθestを積分してωestを計算するため、本式におけるωestは1サンプル周期前の値を用いれば良い。
第2位置誤差演算部65は、上記(17)式より回転位相角誤差Δθestを算出し、PLL部66へ出力する。
PLL部66は、第2位置誤差演算部65から入力された回転位相角誤差の推定値Δθestがゼロに収束するようにPLL制御を行い、回転角速度推定値ωestを算出して切り換え部SW1へ出力する。
【0080】
なお、PLL部66は、初期化フラグFlg_initが「0」から「1」となったときに、角度/速度初期値演算部107から供給された回転角速度初期値ωest_initをPLL制御の初期値として設定する。
【0081】
例えばモータモデルの電圧(ある電流を流すのに必要な電圧)とフィードフォワード電圧指令とが一致する場合、PI制御器は電圧を出力する必要がなくなる。センサレス制御は、この状態を目指すべき動作点と考え、PI制御の電圧値がゼロになるようにPLL制御を構築します。すなわち、PLL制御で回転角速度推定値ωestを変化させると、その積分値である回転位相角推定値θestも変化し、回転位相角誤差Δθ(=回転位相角θの真値-回転位相角推定値θest)が小さくなることを利用して、上記動作点を実現するようPLL制御が構築される。
【0082】
切り換え部SW1は、第5入力端子と、第6入力端子と、第3出力端子と、を備えている。第5入力端子には、PLL部64の出力値ωestが入力される。第6入力端子には、PLL部66の出力値ωestが入力される。第3出力端子は、第3フラグFlg3の値が「0」のときに第5入力端子と電気的に接続され、第3フラグFlg3の値が「1」のときに第6入力端子と電気的に接続される。第3出力端子は、回転角速度推定値ωestを積分部67、第2位置誤差演算部65、および、切り換え部SW3へ出力する。
【0083】
本実施形態のインバータ制御装置では、フラグ生成部108が、初期速度推定の結果(ωest)と、低速/高速センサレス制御切り替え周波数の閾値(ωsh)とを比較し、第3フラグFlg3の値を切り替えることで、上記の低速センサレス制御と高速センサレス制御とを使い分けることができる。
【0084】
積分部67は、切り換え部SW1から入力された回転角速度推定値ωestを積分して、回転位相角推定値θestを算出し、切り換え部SW2へ出力する。
なお、積分部67は、初期化フラグFlg_initが「0」から「1」となったときに、角度/速度初期値演算部107から供給された回転位相角初期値θest_initを積分演算の初期値として設定する。
【0085】
切り換え部SW2は、第7入力端子と、第8入力端子と、第4出力端子と、を備えている。第7入力端子には、積分部67の出力値θestが入力される。第8入力端子の入力値はゼロである。第4出力端子は、遅延後の第2フラグFlg_oldの値が「0」のときに第8入力端子と電気的に接続され、遅延後の第2フラグFlg_oldの値が「1」のときに第7入力端子と電気的に接続される。第4出力端子の出力値θestは、回転角度/速度演算部106の出力値として、座標変換部103、105に供給される。
【0086】
切り換え部SW3は、第9入力端子と、第10入力端子と、第5出力端子と、を備えている。第9入力端子には、切り換え部SW1から回転角速度推定値ωestが入力される。第10入力端子の入力値はゼロである。第5出力端子は、延後の第2フラグFlg_oldの値が「0」のときに第10入力端子と電気的に接続され、遅延後の第2フラグFlg_oldの値が「1」のときに第9入力端子と電気的に接続される。第5出力端子の出力値ωestは、回転角度/速度演算部106の出力値として、電流制御部102およびフラグ生成部108に供給される。
【0087】
上記のように、本実施形態のインバータ制御装置および電力変換装置では、角度/速度初期値演算部107で回転角度初期値θest_initおよび回転角速度初期値ωest_initを演算する際に脈動電流を利用している。この脈動電流は、電流制御部102でのPI制御に用いる電流制御ゲイン(PI制御ゲイン)を大きくするとゼロに近づくため、初期値演算期間における電流制御ゲインが適切に設定されなければ、回転角度初期値θest_initおよび回転角速度初期値ωest_initを演算することができなくなる。
そこで、本実施形態では、初期値演算期間と通常制御期間とで電流制御部102において異なる電流制御ゲインの値を用いている。
【0088】
図9は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流制御部の一構成例を概略的に示す図である。
なお、d軸電圧指令V
d_ACRを算出する構成とq軸電圧指令V
q_ACRを算出する構成とは同様であるので、ここでは同一の図を用いて双方について説明する。
【0089】
電流制御部102は、減算部21と、ゲイン変更部22と、PI制御部23と、加算部24と、を備えている。PI制御部23は、比例ゲイン乗算部231と、積分ゲイン乗算部232と、積分部233と、加算部234とを備えている。
減算部21は、d軸電流指令Idrefからdc軸電流値Idcを引いた差、および、q軸電流指令Iqrefからqc軸電流値Iqcを引いた差を出力する。
【0090】
ゲイン変更部22は、第1フラグflg1の値に応じて出力値を変更する。例えば、ゲイン変更部22は、第1フラグflg1の値が「1」のとき(初期値演算期間)に、電流制御カットオフ周波数ωACR1を出力し、第1フラグflg2の値が「0」のとき(通常制御期間)に、電流制御カットオフ周波数ωACR2(>ωACR1)を出力する。
【0091】
比例ゲイン乗算部231は、減算部21から出力された値に比例ゲインKpを乗じた積を出力する。比例ゲインKpは、ゲイン変更部22から出力された値に応じて設定される。
積分ゲイン乗算部232は、減算部21から出力された値に積分ゲインKiを乗じた積を出力する。積分ゲインKiは、ゲイン変更部22から出力された値に応じて設定される。
積分部233は、積分ゲイン乗算部232から出力された値を積分して出力する。
加算部234は、比例ゲイン乗算部231の出力値と積分部233の出力値とを加算した和を演算して出力する。
【0092】
以下に、電流制御部102にて用いられる比例ゲインKpと積分ゲインKiとについて説明する。
推定誤差Δθが小さく速度推定ωestがモータ角速度ωとほぼ一致し、d軸電流指令値Idrefおよびq軸電流指令値Iqrefが、実際値id、iqと一致し、さらにパラメータ設定値Ld_set、Lq_setが真値と合致する場合、(1)式から(14)式を引き算すると、制御対象モータMの電圧方程式を簡素なモデルに置き換えることができる。
【0093】
【0094】
ここで、微分演算子pをラプラス演算子に置き換えてまとめると、下記となる。
【数18】
(19)式によると、電流は電圧入力にモータパラメータ(モータ抵抗)RとインダクタンスLの一次遅れ系とが掛け合わされた形となることがわかる。
【0095】
図10は、第1実施形態のインバータ制御装置により電流をPI制御する場合の伝達関数の一例について説明するための図である。
例えば、V
d′、V
q′をPI制御の出力電圧VdPI、VqPIと考え、
図11のように電流をPI制御する場合、その閉ループ伝達関数は下記となる。
【数19】
ここで、i:出力電流 i
ref:電流指令 R:モータ抵抗 L:インダクタンス
τ:モータ時定数(L/R) K
p、K
i:PI制御ゲイン
【0096】
このとき、Kp/Ki=τとなるようなゲインを設定すると、下記(21)式のように、閉ループ伝達関数を任意時定数の一次遅れ系で調整することが可能となる。
【数20】
τ
ACR:電流制御時定数 ω
ACR:電流制御カットオフ周波数
【0097】
このとき、K
p,K
iは係数を比較して下記のように決定される。
【数21】
上記(22B)式と(23C)式とを用いたK
p,K
iの演算において、インダクタンスLは、制御する電流に合わせてd軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLqを用いればよい。また、電流制御カットオフ周波数ω
ACRには、ゲイン変更部22から入力された電流制御カットオフ周波数ω
ACR1、ω
ACR2が用いられる。
【0098】
図11は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流制御部において、電流制御ゲインを変更するタイミングの一例を概略的に示す図である。
本実施形態のインバータ制御装置では、上述のように、初期推定期間中(第1フラグflg1の値が「1」の期間)は電流制御ゲインを下げる設定を行うが、その場合、通常制御期間に移行した後に電流を精度よく制御できない可能性がある。この場合、例えば
図12に示すように、初期推定(初期値の演算)が完了した後(例えば第1フラグflg1の値が「1」から「0」となってから1サンプル周期後)に、ゲイン変更部22の出力値を電流制御カットオフ周波数ω
ACR1から電流制御カットオフ周波数ω
ACR2へ増加させ、電流制御ゲインを上げてもよい。
【0099】
また、電流制御のカットオフ周波数は、低速センサレス制御と高速センサレス制御との切り替え周波数の閾値ωshを基準に設定してもよい。初期値演算に用いられる電流脈動は基本波の2倍で発生することから、例えばカットオフ周波数ωACR1=ωsh/2と設定すれば、閾値ωsh以下では速度が低いと判断でき、低速センサレス制御モードを選択できる。
【0100】
閾値ωshの値がユーザにより可変である場合、定格回転数を基準に電流制御カットオフ周波数ωACR1を決めてもよい。制御対象が一般的なモータである場合、例えば閾値ωshが定格周波数の20%程度とされることが多く、定格周波数と閾値ωshとの関係に基づいて電流制御カットオフ周波数ωACR1を決めてもよい。
【0101】
次に、第1実施形態のインバータ制御装置100の動作について説明する。
図12は、第1実施形態のインバータ制御装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
インバータ制御装置100は、上位制御装置より再起動指令を受信すると、電流制御を開始する(ステップS1)。
【0102】
すなわち、フラグ生成部108は、第1フラグFlg1の値を「1」、第2フラグFlg2を「0」、第3フラグFlg3の値を「0」、初期化フラグFlg_initの値を「0」とする。
【0103】
角度/速度初期値演算部107は、第1フラグFlg1の値が「1」となると(ステップS2)、回転位相角の初期値θestと回転角速度の初期値ωestとの演算を行う(ステップS3)。
【0104】
フラグ生成部108は、第1フラグFlg1の値を「1」として所定期間経過後に、第1フラグFlg1の値を「0」とし、第2フラグFlg2の値を「1」とし、初期化フラグFlg_initの値を「1」とする。更に1サンプル周期経過後に、フラグ生成部108は、初期化フラグFlg_initの値を「0」とする。
【0105】
本実施形態のインバータ制御装置100では、例えば第1フラグFlg1の値を「1」から第1フラグFlg1の値を「0」となったときに、電流制御部102における電流制御ゲインの値が大きくなるように切り替えられる。
【0106】
第2フラグFlg2の値が「0」から「1」になったときに(ステップS4)、初期化フラグFlg_initの値が「0」から「1」となり、角度/速度初期値演算部107は、回転位相角の初期値θest_initと回転角速度の初期値ωest_initとを保存し、回転位相角の初期値θest_initと回転角速度の初期値ωest_initとを回転角度/速度演算部106へ出力する(ステップS5)。
【0107】
初期化フラグFlg_initの値が「0」から「1」となると、回転角度/速度演算部106は、角度/速度初期値演算部107から供給された回転位相角の初期値θest_initと回転角速度の初期値ωest_initと、PLL部64、66および積分部67の初期値として初期化を行う(ステップS6)。
【0108】
続いて、インバータ制御装置100は、初期値演算期間から通常制御期間へと移行する。フラグ生成部108は、初期化フラグFlg_initの値を「0」とし、同期機Mの回転角速度の推定値ωestに応じて第3フラグFlg3を切り替える。フラグ生成部108は、同期機Mの回転角速度推定値ωestが所定の閾値よりも高いときに第3フラグFlg3の値を「1」とし、同期機Mの回転角速度推定値ωestが所定の閾値よりも低いときに第3フラグFlg3の値を「0」とする。
【0109】
回転角度/速度演算部106は、第3フラグFlg3の値が「1」のときに(ステップS7)、第2位置誤差演算部65から出力された位相角誤差Δθを用いて演算された回転位相角の推定値θestと回転角速度推定値ωestを出力する(ステップS8)。
【0110】
回転角度/速度演算部106は、第3フラグFlg3の値が「0」のときに(ステップS7)、第1位置誤差演算部63から出力された位相角誤差Δθを用いて演算された回転位相角の推定値θestと回転角速度推定値ωestを出力する(ステップS9)。
【0111】
回転角度/速度演算部106は、通常制御期間において、上記ステップS7の判断に応じて、ステップS8とステップS9とを切り替えてインバータ主回路INVの制御を行う。
【0112】
図13は、第1実施形態のインバータ制御装置の効果の一例について説明するための図である。
ここでは、q軸電流指令をゼロとし、d軸電流指令をI
dref(直流電流)としてインバータINVを再起動する際の、dq軸電圧指令値V
dc、V
qcと、相電流(インバータ主回路INVの出力電流)iu、iv、iwと、補正後の相電流iu_2、iv_2、iw_2と、角速度の実際値ωactと、角速度の推定値ωestと、角度の実際値θactと、角度の推定値θestとの時間変化を示している。補正後の相電流iu_2、iv_2、iw_2は、相電流iu、iv、iwの直流成分を除いた脈動成分のみの波形である。
【0113】
この例では、電流制御における制御ゲインは、初期値演算期間において通常制御期間よりも小さい値に設定されており、電流の直流成分を制御しつつ、相電流iu、iv、iwの脈動が抑制されないように設定されている。なお、通常制御期間では低速センサレス制御と高速センサレス制御とを切り替えるが、その切り替え周波数に相当するモータ回転数より高い電流脈動をカットしきらないように、電流制御ゲインが設定される。
【0114】
フラグFlg1が「1」となったタイミングで、補正後の相電流iu_2、iv_2、iw_2(脈動電流)を利用して、角速度の推定値ωestと位相角の推定値θestとの演算が開始され、角速度の推定値ωestと位相角の推定値θestとがそれぞれ実際値ωact、θactに追従するように演算される。
【0115】
角速度の推定値ωestと位相角の推定値θestとの演算が開始されてから所定時間経過すると、角速度の推定値ωestと位相角の推定値θestとは実際値ωact、θactに収束する。その後、初期化フラグFlg_initが「1」となるタイミングにおける角速度の推定値ωestと位相角の推定値θestを、回転角速度初期値ωest_initと回転位相角初期値θest_initとして初期化が行われる。
【0116】
上記のように本実施形態のインバータ制御装置および電力変換装置によれば、磁気突極性に起因した相電流の脈動成分を抽出することにより、同期機Mの回転位相角及び回転角速度の初期値を精度よく推定することができる。
すなわち、本実施形態によれば、回転中の同期機の回転位相角を高精度に推定可能なインバータ制御装置および電力変換装置を提供することができる。
【0117】
図14は、第1実施形態のインバータ制御装置の角度/速度初期値演算部の他の構成例を概略的に示す図である。
本実施形態のインバータ制御装置100において、角度/速度初期値演算部107は
図7に示す構成に限定されるものではない。例えば、
図14に示すように、積分部79の後段に乗算部7Mを備える構成であっても構わない。この構成によれば、
図7の積分部78を省略することが可能となる。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0119】
なお、本実施形態に係るプログラムは、電子機器に記憶された状態で譲渡されてよいし、電子機器に記憶されていない状態で譲渡されてもよい。後者の場合は、プログラムは、ネットワークを介して譲渡されてよいし、記憶媒体に記憶された状態で譲渡されてもよい。記憶媒体は、非一時的な有形の媒体である。記憶媒体は、コンピュータ可読媒体である。記憶媒体は、CD-ROM、メモリカード等のプログラムを記憶可能かつコンピュータで読取可能な媒体であればよく、その形態は問わない。
【符号の説明】
【0120】
M…同期機、10…固定子、20…回転子、INV…インバータ主回路、100…インバータ制御装置、101…電流指令生成部、102…電流制御部、103、105…座標変換部、104…変調部、106…回転角度/速度演算部、107…角度/速度初期値演算部、108…フラグ生成部、109…高周波電圧重畳部、110U、110V、110W…電流検出器、70…ホールド部、71…遅延部、72…座標変換部、73…正規化部、74、77…除算部、75…減算部、76…PI制御部、78、79…積分部、111d、111q…抵抗器。