(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083853
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/34 20210101AFI20240617BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240617BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240617BHJP
B22F 10/66 20210101ALI20240617BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20240617BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20240617BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240617BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240617BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20240617BHJP
【FI】
B22F10/34
B22F1/05
B22F10/64
B22F10/66
B22F10/14
B22F3/15 Z
B22F3/24 102Z
B33Y10/00
B29C64/165
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197912
(22)【出願日】2022-12-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】302066375
【氏名又は名称】株式会社パシフィックソーワ
(71)【出願人】
【識別番号】507102333
【氏名又は名称】ASKケミカルズジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518087915
【氏名又は名称】株式会社ExOne
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友
(72)【発明者】
【氏名】猿田 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 俊紀
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WK01
4F213WK03
4F213WL02
4F213WL22
4K018AA07
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA17
4K018CA44
4K018EA11
4K018FA23
4K018FA24
(57)【要約】
【課題】高密度化、結晶粒の肥大化抑制、かつエネルギーコストの低減が図られつつ、従来よりも大型の焼結部品を適確に製造することができる焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】バインダジェット法により焼結用の第1の粉末を含む粉末成形体20を成形する工程と、粉末成形体20の表面に、第1の粉末よりも平均粒径が小さい焼結用の第2の粉末を含む被覆層21を形成する工程と、表層に被覆層21を有する粉末成形体20を加熱することにより、第2の粉末による被覆層21を焼結する第1次焼結を行って第1次焼結体SB1を得る工程と、第1次焼結体SB1を、第1次焼結の際の温度よりも低い温度でHIP処理することにより、第1の粉末を焼結する第2次焼結を行って第2次焼結体SB2を得る工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダジェット法により焼結用の第1の粉末を含む粉末成形体を成形する工程と、
前記粉末成形体の表面に、前記第1の粉末よりも平均粒径が小さい焼結用の第2の粉末を含む被覆層を形成する工程と、
表層に前記被覆層を有する前記粉末成形体を加熱することにより、前記第2の粉末による前記被覆層を焼結する第1次焼結を行って第1次焼結体を得る工程と、
前記第1次焼結体を、前記第1次焼結の際の温度よりも低い温度でHIP処理することにより、前記第1の粉末を焼結する第2次焼結を行って第2次焼結体を得る工程と、を備えることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の粉末の平均粒径は3~50μmであり、
前記第2の粉末の平均粒径は1~15μmであることを特徴とする請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の粉末と前記第2の粉末とが、同じ種類の粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の粉末は、合金鋼、炭素鋼鋳鉄、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉のうちの少なくとも1種であり、
前記第2の粉末は、第1の粉末と同種もしくは異種の粉末からなり、合金鋼、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉、セラミック粉末のうちの少なくとも1種である、請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記被覆層の厚さは、50~800μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記被覆層を、前記第2の粉末を含むスラリーを前記粉末成形体の表面に塗布することにより形成することを特徴とする請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーは、溶媒中に前記第2の粉末と樹脂溶液とが混合されていることを特徴とする請求項6に記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記スラリー中の前記第2の粉末の含有量は30~80wt%であり、前記スラリー中の前記樹脂溶液の含有量は1~10wt%であることを特徴とする請求項7に記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーの溶媒として、水、アルコール、エステル、グリコール、グリコールエーテル、エーテル、ケトン、芳香族溶剤、ナフテン系溶剤、脂肪族炭化水素、アミンを単独もしくは混合物として用い、樹脂溶液の樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸アルキル、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、セルロース樹脂、ポリエーテル、ポリオールを単独または混合物として用いることを特徴とする請求項6に記載の焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記スラリーを前記粉末成形体の表面に塗布する工程を、前記スラリー中に前記粉末成形体を浸漬することにより行うことを特徴とする請求項6に記載の焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記スラリー中に前記粉末成形体を浸漬する工程を、複数回にわたり行うことを特徴とする請求項10に記載の焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記第1次焼結の際の加熱温度は、1000~1250℃であり、
前記第2次焼結の際の加熱温度は、前記第1次焼結の際の加熱温度よりも低温であって900~1100℃であることを特徴とする請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末等による粉末成形体を焼結して三次元物体を得る焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パウダーベッド上へ積層造形用原料粉末(金属粉や合金粉、あるいはセラミック粉)を積層する工程と、積層した一層の原料粉末を所定形状に結合する工程とを交互に繰り返し、最終的に三次元物体を得る積層造形法が知られている。この積層造形法としては、レーザビームや電子ビームを原料粉末に照射して直接焼結する工程を繰り返し、焼結部分を結合させて目的の三次元物体を得る選択焼結法がある(Powder Bed Fusion法、すなわちPBF法)。一方、積層する原料粉末にバインダを印刷して原料粉末とバインダとが結合した粉末成形体を成形し、その粉末成形体を焼結して三次元物体を得るバインダジェット法がある。このバインダジェット法は、装置、原料および工程コストが安価、かつ効率的に実施可能であることから、近年、特に開発および実用化が進んでいる(特許文献1、2等参照)。
【0003】
バインダジェット法で得られた粉末成形体、すなわち複数の粉末層の積層体を焼結する際には、高温状態で金属粉末の固体拡散および粉末の結合が生じることにより、粉末成形体が高密度に焼結される。通常、バインダジェット法による粉末成形体の密度は、相対密度で50%前後(4g/cm3)程度であるが、焼結により相対密度は97%以上に高密度化する。この程度の焼結密度が確保されていないと、工業的な機械強度を得にくい。しかし、例えば1kg以上30kg未満程度の重量を有する比較的大型の部品を高密度に焼結する場合、100g以下といった小型部品を対象にしているMIM(金属射出成形法)などに比べて高温長時間の焼結条件が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-120475号公報
【特許文献2】特開2014-522331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼結の際には、焼結対象の粉末成形体の体積が大きくなる程、高密度化に必要な焼結エネルギーは多大になる、その結果、焼結体の結晶粒は肥大化する。肥大化した結晶粒を有する焼結体は、ポールペッチの法則にもみられるように、衝撃値、強度、伸び、絞り、降伏点など主要な機械的特性のほとんどが低下する。したがってバインダジェット法を用いた大型部品の焼結体には、焼結組織の微細化が求められる。
【0006】
大型部品の焼結に投入されるエネルギーコストは、昨今の持続化可能な技術傾向に反する。一方、バインダジェット法による大型部品の製造の需要は高まっており、その場合には、少ないエネルギーコストで高密度化が図られる製造技術が求められる。
【0007】
従来の粉末冶金法では、100g程度の重量を有する部品が最大と言われてきた。しかし、バインダジェット法では30kg程度の重量を有する大型部品の粉末成形体の製造も可能になってきている。しかし、その後の焼結では、焼結対象である粉末成形体の体積が従来よりも大きいため、焼結に伴う収縮挙動も大きくなり、例えばセッター(敷板)に設置している面とフリーな面では収縮量に大きな差が生じる。そこで、収縮量をなるべく均等にするために、例えば、焼結対象のワークとセラミックス製のセッターとの間に焼結粉末材料と同質の緩衝材を介在させ、ワーク底部の収縮量を吸収しながらワークの上部と下部との収縮量の差を低減する対策を採っている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高密度化、結晶粒の肥大化抑制、かつエネルギーコストの低減が図られるとともに、高温焼結により引き起こされる積層体の焼結時の、収縮を伴う変形を低減させることにより、従来よりも大型の焼結部品を適確に製造することができる焼結体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、粉末ハイスの製造方法の1つとして、金属製の缶にハイス粉末を詰め、脱気後封印し、HIP処理をして粉末ハイスインゴットを製造する技術(キャニング処理)はよく知られている。この場合、HIPによる高密度化は、1150℃×100MPa×3時間程度で見掛け密度4~5g/cm3)の粉末が8g/cm3程度の真密度に近い状態になる。このHIP処理のポイントは、粉末の外部を密閉状態にして高圧ガスが粉末粒子間に浸透せず、全て加圧に利用される点にある。そのためには、厳重な密閉度が要求される。この技術では、予め用意した金属製の缶の形状に形状的な制約を受けるため、粉末造形技術の特徴である複雑異形状の金属積層体にキャニング処理を施してHIP処理を行うことは、技術的にも非常に困難で工業的見地からは不可能である。
【0010】
本発明では、第1段階で平均粒径が100μm以下(好ましくは30μm以下)程度の原料粉末を作製し、この原料粉末を、平均粒径が例えば15μm以下の粉末(好ましくは5μm以下)(第2の粉末)と、5μm超の粉末(第1の粉末)とに分級する。第1の粉末の平均粒径は、3~50μmであればよいが、6~15μmが好ましく、6~10μmがより好ましい。第2の粉末の平均粒径は、1~15μmであればよいが、2~6μmが好ましく、3~5μmがより好ましい。
【0011】
原料粉末としては、金属粉末や合金粉末が挙げられる。原料粉末は、焼結体からなる目的の製品に応じたものとなるが、例えば製品が金型であれば、SKD61に代表される熱間金型用の合金鋼の合金粉末が挙げられる。また、製品が鋳鋼品であればSCC材に代表される高張力炭素鋼鋳鉄などが挙げられる。この他には、ステンレス、インコネル等の、上記MIMで一般的に使用実績のある金属粉末や合金粉末、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉等の中の少なくとも1種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
平均粒径が1~15μmの第2の粉末は、樹脂溶液を混合してスラリー化する。一方、平均粒径が3~50μmの第1の粉末を用いて、前述のバインダジェット法により粉末成形体を作製する。ここで、第2の粉末は、第1の粉末よりも平均粒径が小さいものとする。第2の粉末よりも平均粒径が大きい第1の粉末を用いてバインダジェット法により成形した粉末成形体を、乾燥後、その表面に上記スラリーを塗布して被覆層を形成し、乾燥させる。スラリーの塗布厚さとしては、50~800μmが好ましい。
【0013】
金属粉末の場合、粉末の粒径が小さくなるほど焼結温度が低下することを利用して、乾燥後の粉末成形体を1000~1250℃程度の範囲で加熱して焼結する。焼結温度は、積層体の粉末が再結晶して肥大化しない温度以下とされる。このときの焼結時間は、30分~3時間程度とする。その結果、スラリーとして表面に塗布された平均粒径が10μm以下の第2の粉末による層は、この温度域で焼結されて高密度化し、高密度層に形成される。この高密度層の密度は、相対密度で94%程度と高密度である。一方、高密度層よりも内側の第1の粉末(平均粒径3~50μm程度)は、粒径が大きいため焼結は進行しないか、あるいは進行しにくく、見掛け密度は4~5g/cm3の状態にある。このように表層に第2の粉末による高密度層(焼結層)が外殻として構成され、この高密度層の内側の第1の粉末による成形部分は焼結されないか、または焼結の途中状態の第1次焼結体を得る。
【0014】
次に、第2段階で、上記高密度層で表層が密閉(キャニングされた状態)された第1次焼結体を、1150℃×100MPa×3時間程度でHIP処理し、第2次焼結体を得る。第2段階のHIP処理による焼結は、通常の金属焼結の温度よりも低温であり、かつ、高密度層の内側部分は高密度層から高圧を受けるため圧縮凝固が効果的に生じる。このため、第2次焼結体の内部は再結晶が最小限度に留まり、100%に近い高密度化を実現する。本発明は、この第2次焼結体を、目的の焼結体として得る。
【0015】
本発明では、焼結体としての重量が例えば30kg程度と比較的大型であっても、HIP処理による高密度化は常にほぼ一定である。また、比較的低温域でのHIP処理による圧縮凝固のため、通常の高温焼結のように、複数の部位で収縮量が異なることから生じる歪みや変形等の発生が抑制される。また、上記キャニング処理では困難であった異形形状の焼結体を、キャニング処理と同等の品質を有するものとすることが可能となった。
【0016】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、以下の方法を主たる特徴とする。
平均粒径3~50μm程度の第1の粉末をバインダジェット法により積層造形し、この粉末成形体の表面に、平均粒径1~15μm程度であって第1の粉末よりも平均粒径が小さい微細粉末を含むスラリーを塗布して、50μm~800μm程度の厚さを有するスラリー層(被覆層)を被覆する。スラリー層の形成は、例えば粉末成形体をスラリー中に浸漬する浸漬法(ディッピング)により、好適に実施することができる。
【0017】
次いで、この粉末成形体を、1000℃~1250℃程度の範囲で加熱し、焼結して、第1次焼結体を得る。第1次焼結体の表層には、スラリー層が完全に焼結された高密度層が形成される。第1段階の焼結では、表層の高密度層よりも内側の第1の粉末(平均粒径3~50μm程度)は、粒径が大きいことを利用して、焼結を進行させないか、あるいは進行をしにくいものとする。第1次焼結体は、表層に焼結層である高密度層が被覆されて外殻を構成するため、そのままの状態で、後で行うHIP処理が可能となる。
【0018】
本発明において、スラリー層に含まれる第2の粉末としては、上記のようにバインダジェット法により粉末成形体を成形するための第1の粉末と同じものであってよく、異なっていてもよい。同じ場合、第2の粉末としては、焼結体の製品に応じたものとなるが、例えば製品が金型であれば、SKD61に代表される熱間金型用の合金鋼の合金粉末が挙げられる。スラリー層に含まれる第2の粉末としては、この他に、ステンレス、インコネル等の、上記MIMで使用実績のある金属粉末や合金粉末の少なくとも1種であってよい。また、例えば、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉等の、微細(平均粒径5μm以下)で焼結温度が1200℃以下であり、入手が容易な市販の金属粉末、合金粉末等の少なくとも1種であってもよいが、これらに限定されない。また、第1の粉末および第2の粉末は、セラミック粉末であってもよい。被覆層は最終過程で切削加工除去されるため、異材の使用も可能になる。
【0019】
上記スラリー層の原料であるスラリーとしては、例えば、上記金属粉末等である第2の粉末と、樹脂溶液とを混合したスラリーが用いられる。溶媒としては、水、アルコール、エステル、グリコール、グリコールエーテル、エーテル、ケトン、芳香族溶剤、ナフテン系溶剤、脂肪族炭化水素、アミンが、単独もしくは混合物として用いられる。樹脂溶液の樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸アルキル、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、セルロース樹脂、ポリエーテル、ポリオールなどが好適に用いられる。なお、溶媒および樹脂はこれらに限定されず、適宜に選択されてよい。
【0020】
スラリー中の金属粉末の含有量は、例えば30~80wt%であればよい。
【0021】
スラリー中の樹脂溶液の含有量は、例えば1~10wt%であればよい。
【0022】
以上により、本発明は以下の特徴を有する。
【0023】
(1)本発明は、バインダジェット法により焼結用の第1の粉末を含む粉末成形体を成形する工程と、前記粉末成形体の表面に、前記第1の粉末よりも平均粒径が小さい焼結用の第2の粉末を含む被覆層を形成する工程と、表層に前記被覆層を有する前記粉末成形体を加熱することにより、前記第2の粉末による前記被覆層を焼結する第1次焼結を行って第1次焼結体を得る工程と、前記第1次焼結体を、前記第1次焼結の際の温度よりも低い温度でHIP処理することにより、前記第1の粉末を焼結する第2次焼結を行って第2次焼結体を得る工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
(2)前記第1の粉末の平均粒径は3~50μmであり、前記第2の粉末の平均粒径は1~15μmであることを特徴とする。第1の粉末の平均粒径が3μmを下回ると、第1次焼結の際に第1の粉末の焼結が進行しやすくなる。一方、第1の粉末の平均粒径が50μmを上回ると、第2次焼結で焼結が進行しにくくなり、緻密化による強度向上が得にくくなる。したがって、第1の粉末の平均粒径は、3~50μmであればよい。この範囲では、6~15μmが好ましく、6~10μmがより好ましい。第2の粉末の平均粒径が1μmを下回ると、第1の粉末による粉末成形体の中に第2の粉末が浸透して十分な被覆層が形成されにくくなる。一方、第2の粉末の平均粒径が15μmを上回ると、第1次焼結で焼結が進行しにくくなり、第2の粉末による外殻を形成しにくくなる。したがって、第2の粉末の平均粒径は、1~15μmであればよい。この範囲では、2~6μmが好ましく、3~5μmがより好ましい。
【0025】
(3)前記第1の粉末と前記第2の粉末とが、同じ種類の粉末であることを特徴とする。
【0026】
(4)前記第1の粉末は、合金鋼、炭素鋼鋳鉄、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉のうちの少なくとも1種であり、前記第2の粉末は、第1の粉末と同種もしくは異種の粉末からなり、合金鋼、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉、セラミック粉末のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0027】
(5)前記被覆層の厚さは、50~800μmであることを特徴とする。被覆層の厚さが50μmを下回ると、第1の粉末による内側の成形部分を被覆層で封孔し気密的に密封する作用が得にくくなる。また、HIP処理による第2次焼結の際に被覆層がHIP処理の圧力で変形したり破壊されたりするおそれがある。一方、被覆層の厚さが800μmを上回ると、焼結体完成後に行う表面研磨の加工代が大きくなりやすく、生産性が低下する可能性がある。したがって被覆層の厚さは、50~800μmが好ましい。この範囲では、500~700μmがより好ましい。
【0028】
(6)前記被覆層を、前記第2の粉末を含むスラリーを前記粉末成形体の表面に塗布することにより形成することを特徴とする。
【0029】
(7)前記スラリーは、溶媒中に前記第2の粉末と樹脂とが混合された溶液であることを特徴とする。
【0030】
(8)前記スラリー中の前記第2の粉末の含有量は30~80wt%であり、前記スラリー中の前記樹脂の含有量は1~10wt%であることを特徴とする。スラリー中の第2の粉末の含有量が30wt%を下回ると、十分な濃度および粘度を有するスラリーを得にくく、被覆層が形成されにくくなる。一方、第2の粉末の含有量が80wt%を上回ると、スラリーの濃度および粘度が高くなりすぎ、被覆層が形成されにくくなる。したがってスラリー中の第2の粉末の含有量は、30~80wt%が好ましい。この範囲では、60~75wt%がより好ましい。スラリー中の樹脂の含有量は、スラリーの粘度を保持する観点、および後の工程での脱脂の効率を考慮して、1~10wt%であることが好ましい。
【0031】
(9)前記スラリーの溶媒として、水、アルコール、エステル、グリコール、グリコールエーテル、エーテル、ケトン、芳香族溶剤、ナフテン系溶剤、脂肪族炭化水素、アミンを単独もしくは混合物として用い、樹脂溶液の樹脂として、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸アルキル、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、セルロース樹脂、ポリエーテル、ポリオールを単独または混合物として用いることを特徴とする。
【0032】
(10)前記スラリーを前記粉末成形体の表面に塗布する工程を、前記スラリー中に前記粉末成形体を浸漬することにより行うことを特徴とする。
【0033】
(11)前記スラリー中に前記粉末成形体を浸漬する工程を、複数回にわたり行うことを特徴とする。
【0034】
(12)前記第1次焼結の際の加熱温度は、1000~1250℃であり、前記第2次焼結の際の加熱温度は、前記第1次焼結の際の加熱温度よりも低温であって900~1100℃であることを特徴とする。第1次焼結の際の加熱温度が1000℃を下回ると、被覆層が焼結しにくくなり、適切な第1次焼結体を得にくい。一方、第1次焼結の際の加熱温度が1250℃を上回ると、第1の粉末による粉末成形体の焼結が進行しやすくなって被覆層とともに焼結してしまうおそれがある。また、エネルギーコストの高騰を招来するおそれがある。したがって、第1次焼結の際の加熱温度は、1000~1250℃が好ましく、1100~1200℃であればより好ましい。第2次焼結の際の加熱温度が900℃を下回ると、第1の粉末による粉末成形体が焼結しにくくなり、適切な第2次焼結体を得にくい。一方、第2次焼結の際の加熱温度が1100℃を上回ると、粉末の肥大化による結晶粒の肥大化が生じる可能性がある。また、エネルギーコストの高騰を招来するおそれがある。したがって第2次焼結の際の加熱温度は、第1次焼結の際の加熱温度よりも低温であって900~1100℃が好ましく、950~1000℃であればより好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高密度化、結晶粒の肥大化抑制、高温焼結による積層焼結体の変形防止、かつエネルギーコストの低減が図られつつ、従来よりも大型の焼結部品を適確に製造することができる焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係るバインダジェット法で粉末成形体を製造する工程を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示すホッパーによる原料粉末の積層の状況を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る製造方法の工程を模式的に示す図である。
【
図4】スラリーの塗布工程に用いる浸漬装置の概略図である。
【
図5】第1次焼結体の一部断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施形態に係る焼結体の製造方法は、バインダジェット法により焼結用の第1の粉末を含む粉末成形体を成形する工程と、粉末成形体の表面に、第1の粉末よりも平均粒径が小さい焼結用の第2の粉末を含む被覆層を形成する工程と、表層に被覆層を有する粉末成形体を加熱することにより、第2の粉末による被覆層を焼結する第1次焼結を行って第1次焼結体を得る工程と、第1次焼結体を、第1次焼結の際の温度よりも低い温度でHIP処理することにより、第1の粉末を焼結する第2次焼結を行って、高温焼結による結晶粒の肥大化が抑制された第2次焼結体を得る工程と、を備える。
【0038】
はじめに、バインダジェット法を用いて焼結体を得る方法の概要を説明する。
図1は、バインダジェット法で三次元物体を積層造形し、造形した目的形状の粉末成形体を焼結して焼結体を得る工程を模式的に示している。
【0039】
図1に示す焼結体の製造方法は、はじめに、
図1(A)に示すように、所定の面積を有する水平にセットされたパウダーベッド11上に、ホッパー12から、焼結用の金属粉末(複数種類の金属からなる合金粉末を含む)からなる原料粉末Pを自然落下させつつ供給して敷き詰め、所定厚さの一層の原料粉末層PLを形成する。原料粉末層PLは、
図2に示すように、ホッパー12と連動して移動するローラ13により、平坦、かつ均一な厚さになるよう均される。一層の原料粉末層PLの厚さは例えば40~50μm程度とされるが、概ね100μm以下の範囲で適宜に設定される。
【0040】
次に、
図1(B)に示すように、積層した原料粉末層PLに、インクジェットディスペンサ14から液状のバインダB(例えば、BA005:ExOneUS社製等)を選択的に噴出させる。バインダBの噴出を受けた部分の原料粉末PはバインダBによって結合し硬化する。インクジェットディスペンサ14は、目的とする三次元の焼結体の形状に応じた三次元データに基づきコンピュータ制御されて、原料粉末層PL上を駆動させられる。
【0041】
次に、選択的にバインダBで結合させられた最初の原料粉末層PLの上に、再びホッパー12から原料粉末Pを供給するとともにローラ13で平坦化し、二層目の原料粉末層PLを積層する。次いで、二層目の原料粉末層PLに、インクジェットディスペンサ14からバインダBを選択的に噴出させ、原料粉末をバインダによって結合させる。このように、選択的にバインダBによる結合部分が形成された原料粉末層PL上に原料粉末Pを積層して次の原料粉末層PLを形成し、次いでその原料粉末層PLにバインダBを選択的に噴出させるという工程を多数回繰り返して、多層の原料粉末層PLの内部に、バインダBと原料粉末Pとの結合体である粉末成形体Gを造形する(
図1(C)に示す)。一体の三次元粉末成形体を造形するため、上下に隣接して重畳する原料粉末層PLは少なくとも部分的にバインダBの供給部分が重畳して互いに結合し、これにより上下に連続する粉末成形体Gが造形される。
【0042】
次に、
図1(D)に示すように、粉末成形体Gを原料粉末層PLの内部から取り出す。粉末成形体Gを原料粉末層PLの内部から取り出すには、粉末成形体Gを囲んでおりバインダが印刷されておらず結合されていない積層された原料粉末Pを、例えば吸入ノズルを用いて吸入するなどの方法で除去することができる。バインダBで結合されていない原料粉末Pの除去方法はこれに限られず適宜方法が選択される。次いで、取り出した粉末成形体Gを所定の焼結条件で焼結し、焼結体を得る。
【0043】
以上が実施形態に係るバインダジェット法を用いた三次元形状の焼結体の製造方法の概要である。続いて、実施形態の詳細を説明する。
【0044】
図3(A)~(D)は、実施形態に係る焼結体の製造方法の工程を模式的に示している。実施形態に係る焼結体の製造方法は、はじめに
図3(A)に示すように、上述のバインダジェット法により、焼結用の第1の粉末を含む粉末成形体20を成形する。ここで、第1の粉末は、
図1および
図2に示す原料粉末Pに相当する。実施形態の製造方法では、第1段階で、平均粒径が50μm以下程度の原料粉末を準備し、この原料粉末を、平均粒径が5μm以下の粉末と、5μm超の粉末とに分級する。以下、平均粒径が5μm以下の粉末を第2の粉末といい、平均粒径が5μm超、かつ50μm以下の粉末を第1の粉末という。実施形態では、第1の粉末と第2の粉末とは、平均粒径が異なるものの、同じ種類の粉末である。なお、本実施形態では、第1の粉末の平均粒径は3~50μmであればよく、第2の粉末の平均粒径は、1~15μmであればよい。
【0045】
第1の粉末と第2の粉末とに分級される原料粉末としては、焼結体からなる目的の製品に応じたものとなるが、例えば製品が金型であれば、SKD61に代表される熱間金型用の合金鋼の合金粉末が挙げられる。この他には、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉等の1種、または複数種の混合粉末が挙げられるが、これらに限定されない。なお、第1の粉末と第2の粉末とは、別々に作製してもよく、異なる種類の金属粉末であってもよい。
【0046】
次に、
図3(B)に示すように、粉末成形体20の表面に、第2の粉末を含む被覆層21を形成する。被覆層21は、粉末成形体20の表面全面をほぼ一定厚さで覆う。被覆層21の厚さは、例えば50~800μmであると好ましい。この範囲の中では、被覆層G2の厚さは500~700μmがより好ましい。
【0047】
被覆層21の形成方法は任意であるが、第2の粉末を含むスラリーを粉末成形体20の表面に塗布することにより形成する方法が好ましい。
【0048】
スラリーを塗布して粉末成形体20の表面に被覆層21を形成する場合、スラリー中の第2の粉末の含有量は30~80wt%が好ましく、この範囲では、60~75wt%がより好ましい。また、スラリー中の樹脂の含有量は、1~10wt%が好ましい。
【0049】
粉末成形体20の表面にスラリーを塗布する方法としては、スラリー中に粉末成形体20を浸漬する方法(ディッピング)が好ましい。これにより、粉末成形体20が異形形状や複雑形状であっても、その表面全面に被覆層21を均一な厚さで形成しやすい。浸漬方法は、大気圧中においてスラリー中に粉末成形体20を浸漬する方法や、減圧下においてスラリー中に粉末成形体20を浸漬する方法のほか、刷毛塗り、スプレー塗布などが採用される。
【0050】
図4は、減圧下でスラリー中に粉末成形体20を浸漬して被覆層21を形成し得る浸漬装置50を模式的に示している。この浸漬装置50によれば、気密的に密封可能で、内部を負圧にできるタンク51内に、容積の半分程度にスラリーSが貯留される。スラリーSは、モータ52で回転駆動される羽根車53で適宜撹拌される。また、タンク51内は排気減圧管54の先端に備えられた真空ポンプ55で減圧され、タンク51内の圧力が圧力計56で確認される。
【0051】
はじめに、メッシュ素材で形成された籠57の中に収容した粉末成形体20を、籠57ごとタンク51内の上部のスラリーSがない空間に配置する。次いで、タンク51内を真空ポンプ55により減圧し、スラリーSを脱気するとともにタンク51内を負圧とする。次いで、粉末成形体20を籠57ごとスラリーS中に浸漬し、所定時間を経過した後、籠57をスラリーSから引き上げ、粉末成形体20をタンク51内から取り出す。減圧下でスラリーSを塗布することにより、スラリーSが多孔質の粉末成形体20中に浸透させて粉末成形体20の緻密化を図ることができる。
【0052】
粉末成形体20をスラリーS中に所定時間浸漬する工程は、1回でもよく、複数回にわたり行ってもよい。例えば、1回目の浸漬の後に、ある程度時間を経過させて粉末成形体20の表面に塗布されたスラリーSを乾燥させ、この後、再び粉末成形体20をスラリーSに浸漬させることを繰り返す。浸漬の回数は限定されず、例えば2~3回、あるいはそれ以上であってもよい。浸漬の回数は、形状や積層体の大きさに応じて適宜決定する。浸漬を複数回行うことにより、最初に塗布されたスラリーSによって粉末成形体20の内部にその後に塗布されるスラリーSが浸透することが抑制され、被覆層21が形成されやすい。浸漬の回数により、被覆層21の厚さを調整することができ、目的の厚さに被覆層21を形成することができる。
【0053】
例えば、1回目の浸漬で厚さ約100μmのスラリーSが塗布され、このスラリーSが乾燥後、2回目の浸漬を行うと、1回目に塗布されたスラリーSによる被覆層21に含有される樹脂により、2回目に塗布されるスラリーSが被覆層21の内側の第1の粉末の部分に浸透することが抑制される。すなわち、1回目に塗布されて乾燥したスラリーSにより、2回目に塗布されるスラリーSが内部に浸透することが遮断される。これにより、2回目に塗布されるスラリーSの厚さが確保される。これが繰り返されることにより、例えば3回目の浸漬により、厚さ450μm程度の確固たる被覆層21が的確に形成される。粉末成形体20の表面に塗布されたスラリーSが乾燥して、最終的な被覆層21が形成される。
【0054】
なお、スラリーの塗布は、水管構造を持つ金型材において内面の面粗度の改善に役立つ。通常、焼結後の水管内の面粗度は100μm程度以上になる場合がある。このような水管内の面粗度は、焼結後、水管内に砥粒を含んだスラリーを循環させて水管内の凹凸を平滑にする作業が必要となるが、スラリーの塗布で、面粗度は例えば100μm程度から20μm程度に改善される。
【0055】
次に、
図3(C)に示すように、表層に被覆層21を有する粉末成形体20を加熱する第1次焼結を行う。第1次焼結は、粉末成形体20を1000℃~1200℃程度、加熱時間を1時間~3時間程度として加熱する。第1次焼結では、第2の粉末による被覆層21が焼結される。また、第1次焼結では、被覆層21よりも内側の第1の粉末による成形部分は焼結されない温度で粉末成形体20が加熱される。これにより第1次焼結体SB1を得る。
【0056】
第1次焼結により、第2の粉末による被覆層21が焼結され、被覆層21は高密度層(焼結層)21Aとなる。すなわち、第1次焼結体SB1は、第2の粉末による高密度層21Aを表層に有する。第1次焼結の際、被覆層21の内側の第1の粉末による成形部分、すなわち内側成形部分10Bは、焼結されないか、または焼結の途中状態である。高密度層21Aの密度は、相対密度で94%程度と高密度である。一般に、粉末冶金では相対密度が94%を超えると内部空孔が閉空孔となり、HIP処理が可能になる。一方、内側成形部分10Bは、焼結されないか、または焼結の途中状態である。第1次焼結体SB1は、表層の高密度層21Aが外殻を構成し、高密度層21Aよりも外側の外部と内側成形部分10Bとが、高密度層21Aにより気密的に隔絶される。すなわち、多孔質の内側成形部分10Bの表面は、高密度層21Aによって封孔された状態となる。
図5は、被覆層21が焼結された第1次焼結体SB1の一部断面を示す顕微鏡写真である。
【0057】
次に、
図3に示すように、第1次焼結体SB1を、比較的低温の温度でHIP処理する第2次焼結を行う。第2次焼結時のHIP処理は、例えば、1150℃×100MPa×3時間程度で行われ、これにより第2次焼結体SB2を得る。本実施形態では、この第2次焼結体SB2を、目的の焼結体として得る。なお、第2次焼結におけるHIP処理は上記条件に限定はされず、例えば、焼結温度が900~1100℃程度、加圧圧力が80~120MPa程度で、適宜時間をかけて行われる。
【0058】
第2次焼結の際の加熱温度(焼結温度)は、通常のHIP処理の1300℃~1400℃程度よりも低温である。したがって、エネルギーコストの低減が図られるとともに、熱変形が生じにくい。HIP処理による焼結は、高密度層21Aとともに第1の粉末による内側成形部分10Bも焼結される。内側成形部分10Bは、高密度層21Aから均等に圧力を受けながら圧縮凝固することにより、通常の焼結温度よりも低温で焼結可能である。これにより、第2次焼結体SB2においては、粉末の再結晶は最小限度に留まり、結晶粒の肥大化が抑制され、100%に近い高密度化を実現する。
【0059】
この第2次焼結時においては、外殻となっている表層の高密度層21Aによって内側成形部分10Bの表面が封孔されているので、HIP処理による高圧力は、積層体の内部に浸透することなく積層体全体に外圧として加圧され内側成形部分10Bに作用する。このため、内側成形部分10Bが外圧と同じ圧力で圧縮される。そして、高密度層21Aは表面全面を被覆しているため、高密度層21Aを介してHIP処理時の高圧力が内側成形部分10Bの全域に均等に作用する。これにより、第2次焼結体SB2は高密度化するとともに、どこの部位でも収縮量が均等になりやすい。その結果、複数の部位で収縮量が異なることから生じる歪みや変形等の発生が抑制される。上述のように減圧下でスラリーSを塗布することにより、一層の高密度化が可能となる。また、従来のように粉末成形体20を載置するセラミックス製のセッターと粉末成形体20との間に緩衝材を介在させることなくHIP処理を行うことが可能となる。また、従来のキャニング処理では困難であった異形形状の焼結体を、キャニング処理と同等の品質を有するものに製造することが可能となる。
【0060】
以上の実施形態に係る焼結体の製造方法によれば、以下の効果が奏される。
【0061】
(1)実施形態に係る焼結体の製造方法は、バインダジェット法により焼結用の第1の粉末を含む粉末成形体20を成形する工程と、粉末成形体20の表面に、第1の粉末よりも平均粒径が小さい焼結用の第2の粉末を含む被覆層21を形成する工程と、表層に被覆層21を有する粉末成形体20を加熱することにより、第2の粉末による被覆層21を焼結する第1次焼結を行って第1次焼結体SB1を得る工程と、第1次焼結体SB1を、第1次焼結の際の温度よりも低い温度でHIP処理することにより、第1の粉末を焼結する第2次焼結を行って第2次焼結体SB2を得る工程と、を備える。
【0062】
これにより、高密度化、結晶粒の肥大化抑制、かつエネルギーコストの低減が図られつつ、従来よりも大型の焼結部品を適確に製造することができる焼結体の製造方法を提供することができる。再結晶化による肥大化を生じさせることなく、粉末成形体を、相対密度がほぼ100%に近い高密度化することができる。
【0063】
(2)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、第1の粉末の平均粒径は3~50μmであり、第2の粉末の平均粒径は1~15μmであることが好ましい。
これにより、上記効果をより一層適確に得ることができる。
【0064】
(3)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、第1の粉末と第2の粉末とが、同じ種類の粉末であることが好ましい。
これにより、第2次焼結の際に第1次焼結で形成される高密度層21Aと、この高密度層21Aの内側の第1の粉末による内側成形部分10Bとが一体的に焼結しやすく、強固な焼結体を得やすい。
【0065】
(4)第1の粉末は、合金鋼、炭素鋼鋳鉄、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉のうちの少なくとも1種であり、第2の粉末は、第1の粉末と同種もしくは異種の粉末からなり、合金鋼、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉、セラミック粉末のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
(5)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、被覆層21の厚さは、50~800μmであることが好ましい。
これにより、第2の粉末による適切な被覆層21を形成することができる。
【0067】
(6)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、被覆層21を、第2の粉末を含むスラリーSを粉末成形体20の表面に塗布することにより形成することが好ましい。
これにより、第2の粉末による被覆層21を容易に、かつ適切な状態に形成することができる。
【0068】
(7)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、スラリーSは、溶媒中に第2の粉末と樹脂とが混合された溶液であることが好ましい。
これにより、第2の粉末による被覆層21を容易に、かつ適切な状態に形成することができる。
【0069】
(8)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、スラリーS中の第2の粉末の含有量は30~80wt%であり、スラリーS中の樹脂の含有量は1~10wt%であることが好ましい。
これにより、第2の粉末による被覆層21を容易に、かつ適切な状態に形成することができる。
【0070】
(9)スラリーSの溶媒として、水、アルコール、エステル、グリコール、グリコールエーテル、エーテル、ケトン、芳香族溶剤、ナフテン系溶剤、脂肪族炭化水素、アミンを単独もしくは混合物として用い、樹脂溶液の樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸アルキル、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、セルロース樹脂、ポリエーテル、ポリオールを単独または混合物として用いることが好ましい。
【0071】
(10)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、スラリーSを粉末成形体20の表面に塗布する工程を、スラリーS中に粉末成形体20を浸漬することにより行うことが好ましい。
これにより、第2の粉末による被覆層21を容易に、かつ適切な状態に形成することができる。
【0072】
(11)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、スラリーS中に粉末成形体20を浸漬する工程を、複数回にわたり行うことが好ましい。
これにより、第2の粉末による被覆層21を容易に、かつ適切な厚さに形成することができる。
【0073】
(12)実施形態に係る焼結体の製造方法においては、第1次焼結の際の加熱温度は、1000~1250℃であり、第2次焼結の際の加熱温度は、第1次焼結の際の加熱温度よりも低温であって900~1100℃であることが好ましい。
これにより、第1次焼結体SB1の被覆層21を適切に形成することができるとともに、第2次焼結体SB2を、高密度化、結晶粒の肥大化抑制、かつエネルギーコストの低減が図られながら製造することができる。
【符号の説明】
【0074】
20 粉末成形体
21 被覆層
S スラリー
SB1 第1次焼結体
SB2 第2次焼結体
【手続補正書】
【提出日】2023-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項4
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項4】
前記第1の粉末は、合金鋼、炭素鋼鋳鉄、ステンレス、インコネル、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉のうちの少なくとも1種であり、
前記第2の粉末は、第1の粉末と同種もしくは異種の粉末からなり、合金鋼、ステンレス、インコネル(登録商標)、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉、セラミック粉末のうちの少なくとも1種である、請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
原料粉末としては、金属粉末や合金粉末が挙げられる。原料粉末は、焼結体からなる目的の製品に応じたものとなるが、例えば製品が金型であれば、SKD61に代表される熱間金型用の合金鋼の合金粉末が挙げられる。また、製品が鋳鋼品であればSCC材に代表される高張力炭素鋼鋳鉄などが挙げられる。この他には、ステンレス、インコネル(登録商標、以下同じ)等の、上記MIMで一般的に使用実績のある金属粉末や合金粉末、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉等の中の少なくとも1種が挙げられるが、これらに限定されない。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項4
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項4】
前記第1の粉末は、合金鋼、炭素鋼鋳鉄、ステンレス、インコネル(登録商標)、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉のうちの少なくとも1種であり、
前記第2の粉末は、第1の粉末と同種もしくは異種の粉末からなり、合金鋼、ステンレス、インコネル(登録商標)、カルボニル鉄粉、カルボニルニッケル粉、セラミック粉末のうちの少なくとも1種である、請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。