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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083879
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】農作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/02 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
A01C11/02 330A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197951
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【弁理士】
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 愼右
(72)【発明者】
【氏名】大塚 庄志
【テーマコード(参考)】
2B062
【Fターム(参考)】
2B062AA02
2B062AA04
2B062AB01
2B062BA07
2B062BA22
(57)【要約】
【課題】簡潔な構成で駆動速度の制限と固定を行うことを目的とする。
【解決手段】農作業車両は、走行体と作業機との少なくとも一方の駆動速度を調節する操作に用いられる変速ペダル37(操作具の一例)と、変速ペダル37の可動範囲内において変速ペダル37に接触することで変速ペダル37の操作量を制限する制限部材70と、変速ペダル37と制限部材70とを係合させることで変速ペダル37を所定の操作量に固定する係合手段80と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と作業機との少なくとも一方の駆動速度を調節する操作に用いられる操作具と、
前記操作具の可動範囲内において前記操作具に接触することで前記操作具の操作量を制限する制限部材と、
前記操作具と前記制限部材とを係合させることで前記操作具を所定の操作量に固定する係合手段と、を備えることを特徴とする農作業車両。
【請求項2】
前記所定の操作量は、前記制限部材で制限される操作量以下であることを特徴とする請求項1に記載の農作業車両。
【請求項3】
前記操作具と前記制限部材とを支持する支持体を備え、
前記制限部材は、前記可動範囲内において前記操作具に接触することで前記操作具の操作量を制限する制限位置と、前記操作具に接触しない退避位置と、に移動可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の農作業車両。
【請求項4】
一端部が前記支持体に連結され、他端部が前記制限部材に連結された引張ばねを備え、
前記制限部材は、第1軸を中心として前記制限位置と前記退避位置との間で揺動可能であり、前記第1軸の軸方向から見て前記引張ばねの中心線が前記第1軸に重なった場合に前記引張ばねが最も伸びた中立位置に位置し、
前記制限位置と前記退避位置とは、前記中立位置を挟んで互いに逆方向に位置し、
前記引張ばねは、前記制限部材を前記制限位置側と前記退避位置側とのいずれかに付勢することを特徴とする請求項3に記載の農作業車両。
【請求項5】
前記操作具は、前記第1軸に平行な第2軸を中心として揺動可能であり、且つ、操作量を減少させる方向に付勢されており、
前記操作具と前記制限部材とが前記係合手段によって係合された場合に、前記制限部材は、前記引張ばねによって前記制限位置側に付勢されており、
前記操作具と前記制限部材とが前記係合手段によって係合された状態から前記操作具が前記制限位置側に操作された場合に、前記係合手段による係合が解除されることを特徴とする請求項4に記載の農作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作業車両の走行速度を制限する技術が検討されている。例えば、特許文献1では、車体フレームに設けられるとともに、踏み込みによる回動量に応じて走行速度を変更可能とする変速ペダルと、車体フレームから突設されるとともに、その上面に変速ペダルと当接する第一受け部を有するペダル受けを備え、第一受け部よりも変速ペダル側に突出して変速ペダルと当接可能な当接位置、及び、第一受け部よりも車体フレーム側に傾倒して変速ペダルと当接不能な非当接位置に配置できるように、ペダル受けにその一端が可動自在に支持されるとともに、当接位置において変速ペダルと当接する第二受け部を有する回動部材と、回動部材が非当接位置から当接位置に回動されるときに、回動部材の支点を越えるように、回動部材及びペダル受けに接続される弾性部材と、を備える農作業車が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/147109号
【特許文献2】特開2012-95574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源が発生した駆動力は、農作業車両の走行のほかに、作業機の駆動にも用いられる。例えば、田植機の植付装置の場合、田植機を走行させながら、走行速度に応じた植付速度で植付装置が駆動される。
【0005】
ところが、田植機を走行させずに植付装置を駆動する場合がある。例えば、植付装置を洗浄する場合、変速機を中立にして車輪への駆動力を断ち、通常の植付速度よりも低速で植付装置を駆動しながら水をかけて洗浄する。特許文献1に記載された構成において通常の植付速度よりも低速な状態を維持するには、第二受け部に当接する位置まで変速ペダルを踏みこんだ状態を保つ必要があるため、一人で植付装置の洗浄を行うことは困難である。これに対して、特許文献2では、エンジンの回転数を調整するアクチュエータを備え、ダイヤルを用いて設定された最高速度に応じてアクチュエータの駆動量を調整する構成が提案されているが、この構成では、コストが増大するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮し、簡潔な構成で駆動速度の制限と固定を行うことのできる農作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る農作業車両は、走行体と作業機との少なくとも一方の駆動速度を調節する操作に用いられる操作具と、前記操作具の可動範囲内において前記操作具に接触することで前記操作具の操作量を制限する制限部材と、前記操作具と前記制限部材とを係合させることで前記操作具を所定の操作量に固定する係合手段と、を備える。
【0008】
前記所定の操作量は、前記制限部材で制限される操作量以下であってもよい。
【0009】
前記農作業車両は、前記操作具と前記制限部材とを支持する支持体を備え、前記制限部材は、前記可動範囲内において前記操作具に接触することで前記操作具の操作量を制限する制限位置と、前記操作具に接触しない退避位置と、に移動可能であってもよい。
【0010】
前記農作業車両は、一端部が前記支持体に連結され、他端部が前記制限部材に連結された引張ばねを備え、前記制限部材は、第1軸を中心として前記制限位置と前記退避位置との間で揺動可能であり、前記第1軸の軸方向から見て前記引張ばねの中心線が前記第1軸に重なった場合に前記引張ばねが最も伸びた中立位置に位置し、前記制限位置と前記退避位置とは、前記中立位置を挟んで互いに逆方向に位置し、前記引張ばねは、前記制限部材を前記制限位置側と前記退避位置側とのいずれかに付勢してもよい。
【0011】
前記操作具は、前記第1軸に平行な第2軸を中心として揺動可能であり、且つ、操作量を減少させる方向に付勢されており、前記操作具と前記制限部材とが前記係合手段によって係合された場合に、前記制限部材は、前記引張ばねによって前記制限位置側に付勢されており、前記操作具と前記制限部材とが前記係合手段によって係合された状態から前記操作具が前記制限位置側に操作された場合に、前記係合手段による係合が解除されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡潔な構成で駆動速度の制限と固定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る農作業車両を示す左側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る農作業車両を示す平面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る農作業車両の動力伝達機構を示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る変速機構とブレーキ機構とを示す平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る変速ペダルを示す斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る変速ペダルを示す右側面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る変速ペダルを示す右側面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る制限部材が退避位置に位置する様子を示す左側面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る制限部材が中立位置に位置する様子を示す左側面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る制限部材が係合位置に位置する様子を示す左側面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る制限部材が制限位置に位置する様子を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係る農作業車両1について説明する。
【0015】
最初に、農作業車両1の全体の構成について説明する。図1は、農作業車両1を示す左側面図である。図2は、農作業車両1を示す平面図である。図3は、農作業車両1の動力伝達機構20を示す平面図である。各図において、U、Lo、L、R、Fr、Rrは、それぞれ上、下、左、右、前、後を示す。
【0016】
農作業車両1(図1乃至3参照)は、走行体2と、走行体2の後方に設けられた作業機3とを備える。例えば、作業機3は、水稲の苗の植付作業を行う植付装置であり、農作業車両1は、走行体2によって走行しながら作業機3によって苗の植付作業を行う田植機である。なお、作業機3は、野菜や穀物の移植、播種、耕うん等を行う装置であってもよい。
【0017】
走行体2は、車体フレーム10と、車体フレーム10の前部の左右方向中央に設けられた駆動源11及びトランスミッション12と、車体フレーム10の前部に設けられた左右一対の前輪13と、車体フレーム10の後部に設けられた左右一対の後輪14と、を備える。
【0018】
駆動源11は、前輪13と後輪14を駆動する駆動力を発生させる。駆動源11は、例えば、軽油を燃料とする内燃機関であり、ボンネット21で覆われている。トランスミッション12(図3参照)は、駆動源11の後方に設けられ、駆動源11が発生した駆動力を変速する。トランスミッション12の左右には、フロントアクスル19が設けられている。前輪13は、フロントアクスル19に設けられた前車軸19Sに取り付けられ、トランスミッション12から伝達される駆動力によって駆動される。
【0019】
リアアクスル24は、トランスミッション12の後方に設けられ、前後方向を長手方向とするジョイント材23でトランスミッション12と結合されている。後輪駆動軸25は、ジョイント材23に沿って設けられ、トランスミッション12からリアアクスル24へ駆動力を伝達する。後輪14は、リアアクスル24に設けられた後車軸24Sに取り付けられ、後輪駆動軸25を介して伝達される駆動力によって駆動される。なお、後輪14に代えてクローラ(図示省略)が設けられていてもよい。
【0020】
運転席15は、ジョイント材23の上方に設けられている。運転席15の周囲には、操向ハンドル16、変速レバー(図示省略)、変速ペダル37(操作具の一例)、ブレーキペダル38等を備えている。前輪13は、操向ハンドル16の操作に連動して走行体2の操向を行う。ステップ17(図2参照)は、作業者の足場となる平面状の部材であり、運転席15の周囲とボンネット21の左右に設けられている。予備苗台18は、ボンネット21の左右に設けられ、作業機3に補充される苗マットが載置される。
【0021】
株間変速装置27(図3参照)は、リアアクスル24の上方の左右方向中央よりも右寄りの位置に設けられている。株間変速装置27は、トランスミッション12から駆動軸35Aを介して入力された駆動力を変速し、駆動軸35Bを介して作業機3に出力する。
【0022】
作業機3は、苗マットが載置される苗載台30と、メインフレーム31と、を備える。メインフレーム31は、左右方向を長手方向とする棒状の部材であり、左右方向の中央にセンターケース33を備える。メインフレーム31の後方の左右方向の複数箇所(この例では、4箇所)には、植付伝動ケース34が概ね等間隔に設けられている。植付伝動ケース34には、左右一対の移植機構32が設けられている。
【0023】
センターケース33の入力軸33Aには、自在継手を介して駆動軸35Bが連結されている。センターケース33は、ベベルギアを含むギア列(図示省略)を備えている。センターケース33の出力軸33Bは、メインフレーム31に沿って設けられ、各植付伝動ケース34に接続されている。駆動力は、駆動軸35B、センターケース33、植付伝動ケース34を介して移植機構32に伝達される。作業機3は、苗載台30を左右方向に移動させるように横送り駆動する横送り駆動部(図示省略)を備えている。苗載台30が左右に往復するのと並行して移植機構32が苗載台30から苗を取り出して圃場に植え付ける。
【0024】
作業機3には、昇降装置22が設けられている。昇降装置22は、柱状フレーム10Pと、平行な上下一対のリンク部材22Lと、油圧シリンダ22Cと、を備える。車体フレーム10は、リアアクスル24から上方に設けられた柱状フレーム10Pによって支持されている。柱状フレーム10Pと苗載台30とは、一対のリンク部材22Lで連結されている。柱状フレーム10Pと苗載台30と一対のリンク部材22Lとの節点は、平行四辺形の4つの頂点を形成する。油圧シリンダ22Cは、ジョイント材23と下側のリンク部材22Lとに連結されている。油圧シリンダ22Cの伸縮により、柱状フレーム10P側の節点を支点として一対のリンク部材22Lが揺動することで、苗載台30が昇降する。
【0025】
図4は、変速機構4とブレーキ機構5とを示す平面図である。図5は、変速ペダル37を示す斜視図である。図6、7は、変速ペダル37を示す右側面図である。変速機構4とブレーキ機構5は、支持体40に支持されている。支持体40は、主に前後方向又は左右方向を長手方向とする管状の部材を組み合わせて形成されている。変速ペダル37(操作具の一例)とブレーキペダル38は、運転席15の右前方に設けられている。ブレーキペダル38は、変速ペダル37の左方に設けられている。
【0026】
[変速機構]
変速機構4(図4参照)は、HST41(Hydraulic Static Transmission)と、遊星歯車機構(図示省略)と、有段変速機(図示省略)と、変速ペダル37と、を備える。HST41、遊星歯車機構、有段変速機は、支持体40の下方に設けられている。HST41は、油圧ポンプ41Pと油圧モータ41Mを備える。駆動源11が発生した駆動力は、油圧ポンプ41Pと、遊星歯車機構に設けられたプラネタリキャリアと、に伝達される。油圧ポンプ41Pから油圧モータ41Mに作動油が吐出されることで、油圧モータ41Mが駆動される。油圧ポンプ41Pの斜板(図示省略)の角度を変えることで作動油の吐出量が調整される。斜板の角度は、変速ペダル37を用いてトラニオン軸41Tを回転させることで調整される。油圧モータ41Mは、遊星歯車機構に設けられたサンギアを駆動する。
【0027】
変速ペダル37が踏まれていない状態(最上げ状態)においては、斜板が最も傾いた状態となり、油圧モータ41Mが最も高速で回転する。この場合、プラネタリギアとサンギアが回転を打ち消し合うことでリングギアが停止する。最上げ状態を基準とする変速ペダル37の踏み込み量(操作具の操作量の一例)が増加するにつれて、斜板の傾斜角が減少して油圧モータ41M及びサンギアの回転数が減少するため、リングギアの回転数が増加する。
【0028】
有段変速機は、入力軸と、出力軸と、入力軸から出力軸へ駆動力を伝達するギア列と、を備える。リングギアの回転は入力軸に伝達され、変速レバーの操作に応じてギア列のギア比が変更されることで駆動力が変速される。
【0029】
変速ペダル37(図4乃至7参照)は、支持体40に設けられた変速ペダル支持部材37Sに取り付けられている。変速ペダル37の後端部は、左右方向を軸方向とする第2軸372を介して変速ペダル支持部材37Sにヒンジ結合され、変速ペダル37は、第2軸372を中心として揺動可能である。変速ペダル37は、前側が後側よりも高くなるように傾斜した所定の可動範囲内で操作される。
【0030】
変速ペダル37の前方には、前後方向を長手方向とするアーム42(図6、7参照)が設けられている。アーム42の前端部は、左右方向を軸方向とするアーム軸42Sを介して支持体40に支持され、アーム42は、アーム軸42Sを中心として揺動可能である。支持体40のアーム軸42Sよりも前方の箇所に、右方に突出したボス40Bが設けられている。また、アーム42の後端部に、右方に突出したボス42Bが設けられている。2つのボス40B、42Bには、引張ばね42Tが連結されている。引張ばね42Tは、引張コイルばねである。
【0031】
変速ペダル37の下面の中央よりも前側には、下方に突出した突出部37Tが設けられている。突出部37Tとアーム42の後端部とに、変速ロッド43が揺動可能に連結されている。
【0032】
変速ペダル37が最上げ状態にある場合(図6参照)、右方から見て引張ばね42Tの中心線42Cがアーム軸42Sに重なっているため、引張ばね42Tは最も伸びた状態であり、引張力Pは最大値Pmaxである。変速ペダル37が踏み込まれるにつれて(図7参照)、引張ばね42Tが縮むため、引張力Pは減少する。踏力Nは、変速ペダル37の上面に垂直な方向に作用する。踏力Nの方向と変速ロッド43の長手方向とのなす角度をθとすると、踏力Nの変速ロッド43の長手方向の分力Ncosθがアーム42の後端部に作用する。その結果、アーム42の後端部には、引張力Pと分力Ncosθとの合力が作用する。換言すれば、引張ばね42Tは、変速ペダル37の踏み込みをアシストする機能を有する。
【0033】
アーム42の前側の下部には、前後方向を長手方向とする変速ロッド44(図4、6、7参照)の前端部が揺動可能に連結されている。変速ペダル37の後方には、L字形のピボット45(図4参照)が設けられている。ピボット45は、上下方向を軸方向とする軸45Sを介して、支持体40に設けられたブラケット40Aに支持され、軸45Sを中心として揺動可能である。変速ロッド44の後端部は、ピボット45の一端部に揺動可能に連結されている。ピボット45の他端部には、左右方向を長手方向とする変速ロッド46の右端部が揺動可能に連結されている。
【0034】
トラニオン軸41T(図4参照)は、上下方向を軸方向として設けられている。トラニオン軸41Tには、操作アーム41Aが設けられている。操作アーム41Aは、トラニオン軸41Tの後方に突出した突出部41Bと、トラニオン軸41Tの右方に突出した突出部41Cと、を備える。突出部41Bには、変速ロッド44の左端部が揺動可能に連結されている。
【0035】
突出部41Cには、戻しばね47の一端部が連結されている。戻しばね47の他端部は、突出部41Cの左後方の支持体40に連結されている。戻しばね47は、引張コイルばねであり、操作アーム41Aを図4において時計回り方向に付勢する。操作アーム41Aが時計回り方向に揺動すると、変速ロッド46が左方に引かれるため、ピボット45が時計回り方向に揺動し、変速ロッド44が後方に引かれる。そのため、アーム42が図7において時計回り方向に揺動し(図6参照)、変速ロッド43を介して変速ペダル37が押し上げられる(図6参照)。つまり、戻しばね47は、変速ペダル37を踏みこみ量が減少する方向(上方)に付勢する。
【0036】
変速ペダル37が踏み込まれると、変速ロッド43を介してアーム42が図6において反時計回り方向に揺動するため(図7参照)、変速ロッド44が前方に引かれる。すると、ピボット45が図4において反時計回り方向に揺動して変速ロッド46が右方に引かれるため、操作アーム41Aが図4において反時計回り方向に揺動し、トラニオン軸41Tが反時計回り方向に操作される。変速ペダル37の踏力を弱めると、戻しばね47によって操作アーム41Aが時計回り方向に揺動するため、前述のとおり変速ペダル37が押し上げられる。
【0037】
[ブレーキ機構]
有段変速機の出力軸には、ブレーキ(図示省略)が設けられている。ブレーキは、上下方向を軸方向とするブレーキ軸51(図4参照)を備え、ブレーキペダル38を用いてブレーキ軸51を回転させることで作動する。
【0038】
ブレーキペダル38は、左右方向を軸方向とするブレーキペダル軸38Sを介して支持体40に結合され、ブレーキペダル軸38Sを中心として揺動可能である。ブレーキペダル38は、ブレーキペダル軸38Sに巻き付けられた捩りコイルばね38Tによって、踏み込み量が減少する方向に付勢されている。ブレーキペダル38には、ブレーキペダル軸38Sの上方の箇所に、前後方向を長手方向とするブレーキロッド52が揺動可能に連結されている。
【0039】
ブレーキ軸51は、図4において時計回り方向に付勢されている。ブレーキ軸51には、ブレーキアーム53が設けられている。ブレーキアーム53の先端部は、ブレーキ軸51から右方に突出している。ブレーキロッド52には、接触部52Cが設けられている。接触部52Cは、ブレーキアーム53の先端部の後方に配置されている。ブレーキ軸51には、ブレーキロッド52を前後方向にスライド可能に支持するブレーキロッド支持部材54が設けられている。ブレーキロッド支持部材54には、右方に突出した板ばね55が設けられている。板ばね55は、前後方向に撓むことが可能である。
【0040】
ブレーキペダル38が踏み込まれると、ブレーキロッド52が前方に引かれるため、接触部52Cがブレーキアーム53を図4において反時計回り方向に揺動させてブレーキ軸51を反時計回り方向に回転させ、ブレーキが作動する。
【0041】
作動油の温度が上昇した場合、変速ペダル37を踏んでいなくてもHST41内部の油圧が上昇して前輪13、後輪14、作業機3に駆動力が伝達されるおそれがある。この現象を防ぐために、変速ペダル37を踏んでいない場合に、有段変速機の出力軸の駆動力を打ち消すようにブレーキ軸51を微小に回転させる構成が設けられている。
【0042】
具体的には、操作アーム41Aの右方には、ピボット56が設けられている。ピボット56は、上下方向を軸方向とする軸56Sを介して支持体40に支持され、軸56Sを中心として揺動可能である。ピボット56の左端部は、操作アーム41Aの突出部41Cに揺動可能に連結されている。
【0043】
ピボット56の右後方、且つ、ブレーキ軸51よりも左方には、アーム57が設けられている。アーム57は、上下方向を軸方向とする軸57Sを介して支持体40に支持され、軸57Sを中心として揺動可能である。アーム57の左端部とピボット56の右端部とに、ロッド58が揺動可能に連結されている。アーム57の右端部には、押圧部材59が設けられている。押圧部材59は、板ばね55の左端部の前方に配置されている。
【0044】
戻しばね47によって操作アーム41Aが図4において時計回り方向に揺動すると、ピボット56が反時計回り方向に揺動するため、ロッド58が前方に引かれてアーム57が時計回り方向に揺動する。そのため、押圧部材59が板ばね55を後方に押圧し、ブレーキ軸51が反時計回り方向に揺動するため、ブレーキが作動する。
【0045】
次に、制限部材70と係合手段80について説明する(図5乃至11参照)。図8は、制限部材70が退避位置に位置する様子を示す左側面図である。図9は、制限部材70が中立位置に位置する様子を示す左側面図である。図10は、制限部材70が係合位置に位置する様子を示す左側面図である。図11は、制限部材70が制限位置に位置する様子を示す左側面図である。
【0046】
本実施形態に係る農作業車両1は、走行体2と作業機3との少なくとも一方の駆動速度を調節する操作に用いられる変速ペダル37(操作具の一例)と、変速ペダル37の可動範囲内において変速ペダル37に接触することで変速ペダル37の操作量を制限する制限部材70と、変速ペダル37と制限部材70とを係合させることで変速ペダル37を所定の操作量に固定する係合手段80と、を備える。具体的には、以下のとおりである。なお、変速ペダル37については、前述のとおりであるから、以下では、主に制限部材70と係合手段80について説明する。
【0047】
[制限部材]
ペダル受け部材71は、変速ペダル支持部材37Sの前方に配置され、支持体40の上面に取り付けられている。ペダル受け部材71の上端部には、踏み込まれた変速ペダル37の下面に接触する第1接触部711が設けられている。第1接触部711に変速ペダル37の下面が接触した場合、変速ペダル37はそれ以上の踏み込みが不可能である。つまり、第1接触部711に変速ペダル37の下面が接触した場合の踏み込み量が、変速ペダル37の最大踏み込み量である。
【0048】
制限部材70は、細長い板状の部材である。制限部材70は、長手方向の一端部である基部70Aと、長手方向の他端部である先端部70Cと、基部70Aと先端部700Cとをつなぐ中間部70Bと、を備える。図9に示されるとおり、左方から見て、中間部70Bは基部70Aに対して反時計回り方向に屈曲しており、先端部70Cは中間部70Bに対して反時計回り方向に屈曲している。また、基部70Aと先端部70Cとのなす角度は、ほぼ90°である。基部70Aは、ペダル受け部材71の後部に第1軸701を介してヒンジ結合されている。第1軸701は、支持体40の上面よりも若干高い位置に設けられている。
【0049】
制限部材70は、第1軸701を中心として、退避位置(図8参照)と制限位置(図11参照)との間で揺動可能である。退避位置においては、基部70Aと中間部70Bとの接続点付近が支持体40の上面に接触する。ペダル受け部材71には、第1接触部711の後方の第1接触部711よりも低い位置に第2接触部712が設けられている。制限位置においては、先端部70Cが第2接触部712に接触する。ペダル受け部材71の第1軸701よりも前方斜め下方の箇所に、左方に突出したボス71Bが設けられている。また、中間部70Bに、左方に突出したボス70BBが設けられている。2つのボス71B、70BBには、引張ばね70Tが連結されている。引張ばね70Tは、引張コイルばねである。
【0050】
中立位置(図9参照)において、制限部材70は、第1軸701の軸方向から見て引張ばね70Tの中心線70TCが第1軸701に重なり、引張ばね70Tが最も伸びた状態となる。制限位置(図11参照)と退避位置(図8参照)とは、中立位置を挟んで互いに逆方向に位置している。引張ばね70Tは、制限部材70を制限位置側と退避位置側とのいずれかに付勢する。例えば、中立位置において、制限部材70を退避位置側に揺動させる外力が作用した場合、引張ばね70Tによって制限部材70が退避位置に引き込まれる。一方、中立位置において、制限部材70を制限位置側に揺動させる外力が作用した場合、引張ばね70Tによって制限部材70が制限位置に引き込まれる。
【0051】
制限部材70の先端部70Cには、左方から見て時計回り方向に突出した突出部材72が設けられている。先端部70Cには、厚み方向に貫通した孔(図示省略)が設けられている。突出部材72は、孔に挿入される支柱部72Aと、支柱部72Aの先端部に左右方向を長手方向として設けられた第3接触部723と、を備える。第3接触部723は、変速ペダル37の左右方向の幅と同等の長さを有し、且つ、支柱部72Aの左右両側に同等の長さを有している。この構成により、変速ペダル37と第3接触部723との接触箇所の左右方向の幅が支柱部72Aの左右で同等になるため、変速ペダル37の左右への倒れ込みが抑制される。制限位置において、変速ペダル37の下面が第3接触部723に接触することで、変速ペダル37の踏み込み量が、最大踏み込み量未満に制限される。
【0052】
支柱部72Aには、ねじ溝が設けられている。変速ペダル37側とペダル受け部材71側とからナットで締め付けることで、支柱部72Aが先端部70Cに固定される。支柱部72Aに対して軸方向におけるナットの位置をずらすことで、突出部材72の突出量が調整されるため、制限部材70による踏み込み量の制限量が調整される。
【0053】
[係合手段]
変速ペダル37の突出部37Tには、下方に突出したフック37Fが設けられている。制限位置と退避位置との間の係合位置(図10参照)においてフック37Fを第3接触部723に係合させると、戻しばね47による変速ペダル37を戻す力と、引張ばね70Tによる変速ペダル37を下方に付勢する力とが釣り合って、変速ペダル37の踏み込み量が固定される。フック37Fと第3接触部723は、係合手段80の一例である。
【0054】
次に、上記構成の動作について説明する。変速ペダル37の踏み込み量を制限する必要がない場合には、運転者は、退避位置(図8参照)に制限部材70を移動させる。制限部材70の移動は、手や爪先で行う。この場合、変速ペダル37の踏み込みは、変速ペダル37の下面がペダル受け部材71の第1接触部711に接触するまでの範囲内で可能である。
【0055】
通常よりも低速で植付を行う場合など、変速ペダル37の踏み込み量を制限する必要がある場合には、運転者は、制限位置(図11参照)に制限部材70を移動させる。この場合、制限部材70の先端部がペダル受け部材71の第2接触部712に接触する。変速ペダル37の踏み込みは、変速ペダル37の下面が突出部材72の第3接触部723に接触するまでの範囲内で可能である。
【0056】
作業機3のメンテナンスなど、変速ペダル37の踏み込み量を制限した状態で固定する必要がある場合には、運転者は、図10に示されるように、制限位置よりも制限部材70を起こした状態で、変速ペダル37のフック37Fを突出部材72の第3接触部723に係合させる。
【0057】
踏み込み量の固定を解除する場合には、変速ペダル37を軽く踏み込む。すると、フック37Fと第3接触部723との係合が緩む。引張ばね70Tが制限部材70を制限位置側に付勢しているため、第3接触部723がフック37Fから外れて、図8に示されるように、引張ばね70Tが制限部材70を制限位置側に引き込む。
【0058】
以上説明した本実施形態に係る農作業車両1によれば、走行体2と作業機3との少なくとも一方の駆動速度を調節する操作に用いられる変速ペダル37(操作具の一例)と、変速ペダル37の可動範囲内において変速ペダル37に接触することで変速ペダル37の操作量を制限する制限部材70と、変速ペダル37と制限部材70とを係合させることで変速ペダル37を所定の操作量に固定する係合手段80と、を備える。この構成によれば、簡潔な構成で駆動速度の制限と固定を行うことができる。
【0059】
また、本実施形態に係る農作業車両1によれば、所定の操作量は、制限部材70で制限される操作量以下である。この構成によれば、安全性を高めることができる。
【0060】
また、本実施形態に係る農作業車両1によれば、変速ペダル37と制限部材70とを支持する支持体40を備え、制限部材70は、可動範囲内において変速ペダル37に接触することで変速ペダル37の操作量を制限する制限位置と、変速ペダル37に接触しない退避位置と、に移動可能である。この構成によれば、制限部材70を接触位置と非接触位置とに迅速に切り替えることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る農作業車両1によれば、一端部が支持体40に連結され、他端部が制限部材70に連結された引張ばね70Tを備え、制限部材70は、第1軸701を中心として制限位置と退避位置との間で揺動可能であり、第1軸701の軸方向から見て引張ばね70Tの中心線が第1軸701に重なった場合に引張ばね70Tが最も伸びた中立位置に位置し、制限位置と退避位置とは、中立位置を挟んで互いに逆方向に位置し、引張ばね70Tは、制限部材70を制限位置側と退避位置側とのいずれかに付勢する。この構成によれば、簡潔な構成で制限部材70を制限位置と退避位置とに留めることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る農作業車両1によれば、変速ペダル37は、第1軸701に平行な第2軸372を中心として揺動可能であり、且つ、操作量を減少させる方向に付勢されており、変速ペダル37と制限部材70とが係合手段80によって係合された場合に、制限部材70は、引張ばね70Tによって制限位置側に付勢されており、変速ペダル37と制限部材70とが係合手段80によって係合された状態から変速ペダル37が制限位置側に操作された場合に、係合手段80による係合が解除される。この構成によれば、変速ペダル37の操作によって操作量の固定を解除することができる。また、制限部材70が制限位置に移動するから、駆動速度を制限することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 農作業車両
2 走行体
3 作業機
37 変速ペダル(操作具)
372 第2軸
40 支持体
70 制限部材
701 第1軸
70T 引張ばね
80 係合手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11